説明

腸球菌由来のポリペプチド、及びワクチン接種のためのその使用

配列番号1の少なくとも6個のアミノ酸の連続する配列を有するポリペプチドを含有する、細菌感染症を治療又は予防する薬剤が開示される。上記ポリペプチドを、腸球菌感染症に対するワクチンの調製のために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸球菌由来のポリペプチド、及びワクチン接種のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腸球菌(Enterococci:エンテロコッカス)は最も一般的な3種類の院内病原体の中に含まれており、その多数の抗生物質に対する耐性により、特に集中治療患者及び免疫不全患者において、相当な罹患率及び死亡率を引き起こす。ここ10年で複数の新たな抗生物質が導入されたが、これらの新たな薬物に対する耐性が生じ、急速に拡散している。耐性株により引き起こされる心内膜炎等の生命を脅かす全身性疾患は、時として治療不可能な場合がある。したがって、病院及び養護施設における多剤耐性クローンの発生に対抗するための代替的な治療及び予防の戦略が、世界中で切に必要とされている。種々の腸球菌の細胞表面構造をより十分に理解することが、新たな治療上の、及び予防上のアプローチを標的とするのに役立つであろう。
【0003】
全てのグラム陽性細菌(また、エンテロコッカス属に属するもの)が、細胞壁中に複数の特定の炭水化物及びタンパク質を含有することが知られている。本発明の過程において、細胞外壁の主要成分(すなわちペプチドグリカン)の動的平衡において役割を果たし得る1種類のタンパク質が同定された。このファミリーに属するタンパク質は、成長及び細胞分裂時に、細菌のペプチドグリカンを分解する細胞壁ペプチダーゼとして作用することができる。驚くべきことに、細菌細胞の外表面上に位置し得るポリペプチドをワクチンの製造のために使用することができることが見出された。これは上記ポリペプチドの部分に指向性を有する防御抗体が同定されたためである。
【0004】
液性免疫応答は、血漿細胞により分泌される抗体分子により媒介される。B細胞抗原受容体と結合する抗原はB細胞にシグナルを伝達し、同時に内部移行し、結合した(armed)ヘルパーT細胞を活性化するペプチドへとプロセシングされる。結合した抗原由来の、及びヘルパーT細胞由来のシグナルは、B細胞が、増殖し、特異的な抗体を分泌する血漿細胞に分化するように誘導する。これらの抗体は、3つの主な様式で感染症から宿主を防御する。第1に、上記抗体は、病原体と結合することにより該病原体の毒性効果又は感染性を阻害することができる。かかる抗体は中和抗体と称される。第2に、病原体を被覆することにより、上記抗体は、複数の(arrays of)抗体のFc部分を認識するアクセサリー細胞が病原体を摂取及び殺傷することを可能とすることができる。このプロセスはオプソニン化と称される。第3に、抗体は、補体系の活性化を誘起することができる。補体タンパク質は、オプソニン化を強く増強することができ、又は或る特定の細菌細胞を直接殺傷することができる。
【0005】
ワクチンの製造のためには、抗原が、病原微生物の病原活性を阻害する抗体を誘発することが重要である。したがって、ワクチンにより誘発される防御抗体は中和、オプソニン化及び補体活性化の効果を有し、特定の抗原により誘導される抗体は該防御活性のうち2つ又はさらには3つを有する場合もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、ポリペプチド又はその一部分であって、上記ポリペプチド又は上記ポリペプチドの一部分に対する防御抗体、好ましくはIgG抗体を産生するのに使用することができる、ポリペプチド又はその一部分を提供することが、本発明の目的の1つである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって本発明は、以下のアミノ酸配列を有するポリペプチドを提供する:
MKKSLISAVMVCSMTLTAVASPIAAAADDFDSQIQQQDQKIADLKNQQADAQSQIDALESQVSEINTQAQDLLAKQDTLRQESAQLVKDIADLQERIEKREDTIQKQAREAQVSNTSSNYIDAVLNADSLADAIGRVQAMTTMVKANNDLMEQQKQDKKAVEDKKAENDAKLKELAENQAALESQKGDLLSKQADLNVLKTSLAAEQATAEDKKADLNRQKAEAEAEQARIREQQRLAEQARQQAAQEKAEKEAREQAEAEAQATQASSTAQSSATEESSATQSSMTEESSSATQSSATEESTTPESSTEESTAPESSATEESTTAPESSATEESTTVPESSATEESTTVPESSTTEESTTPAPTTPSTDQSVDTGNGTGSSTPAPTPTPTPEQPKPVTPAPAPSGSVNGAAIVAEAYKYIGTPYVWGGKDPSGFDCSGFTRYVYMQVTGRDIGGWTVPQESAGTKISVSQAKAGDLLFWGSQGGTYHVAIALGGGQYIHAPQPGESVKVGSVQWFAPDFAVSM(配列番号1)
【0008】
Fang Teng et al.は(Fang Teng et al. AnEnterococcus faecium Secreted Antigen, SagA, Exhibits Broad-Spectrum Binding toExtracellular Matrix Proteins and Appears Essential for E. faecium Growth,Infection and Immunity, September 2003, p. 5033-5041, Vol. 71, No. 9において)、成長に必須であるようであり、ECMタンパク質への広域スペクトルの結合を示し、オリゴマーを形成し、感染時に抗原性を有する、エンテロコッカス・フェシウム(E. faecium)の細胞外の分泌性SagAタンパク質を開示している。さらに、組換えSagAに対して産生される抗体が記載されている。該タンパク質は分泌性抗原として記載されているが、宿主におけるオプソニン抗体及び/又は防御抗体の形成に関してはもちろん、in vivoでのSagAの実際の抗原性に関する開示も存在しない。この刊行物には、細胞壁ヒドロラーゼ活性を有し、病原性に関与することも示されているリステリア・モノサイトゲネス(L. monocytogenes)のP60(52%の類似性)を含む、「様々なタンパク質中に見出されるものと類似性を有する」SagAのC末端ドメインしか記載されていない。したがってこの刊行物は、SagAの機能的特徴付けに限定されている。
【0009】
さらに、表面露出型タンパク質の存在が、宿主におけるオプソニン抗体及び/又は防御抗体の形成を自動的にもたらす訳ではない。実際に本発明者らの知る限りでは、今までのところエンテロコッカス・フェカリス(E. faecalis)においては、2種類のタンパク質抗原のみが防御抗体の標的として確認されている:Burnie及びその同僚により記載されたABCトランスポーター(Burnie etal. Identification of ABC transporters in vancomycin-resistant Enterococcusfaecium as potential targets for antibody therapy. FEMS Immunol Med Microbiol(2002) vol. 33 (3) pp. 179-89)、並びに最近になってコラーゲンアドヘシンACE(Singhet al. Importance of the collagen adhesin ace in pathogenesis and protectionagainst Enterococcus faecalis experimental endocarditis. PLoS Pathog (2010)vol. 6(1) pp. e1000716)。2種類の他の表面タンパク質、すなわち腸球菌の凝集物質(McCormicket al. Antibodies to a surface-exposed, N-terminal domain of aggregationsubstance are not protective in the rabbit model of Enterococcus faecalisinfective endocarditis. Infect Immun (2001) vol. 69 (5) pp. 3305-14)、及び腸球菌の表面タンパク質Esp(Sava et al.、投稿中)が、防御性でないことが示されている。病原性に関与するものとして、複数の他のタンパク質抗原に関する研究が文献中で報告されているが、受動免疫又は能動免疫の防御効果は実証されていない。したがって現在まで、エンテロコッカス・フェシウムにおいてはワクチン標的(タンパク質性又は炭水化物の)は同定されていない。したがって本発明は、配列番号1のポリペプチドを使用してかかるワクチン標的を提供することができるという驚くべき発見に基づくものである。
【0010】
当業者は、ワクチンの製造のために必ずしもポリペプチド全体を使用しなければならない訳ではないことを知っている。ポリペプチドのさらに短い断片を使用することができる。かかる断片は、通常配列番号1のうち少なくとも6個の連続する(contiguous)アミノ酸からなるエピトープを含む。しかしながら、好ましくは、上記ポリペプチドは、配列番号1の少なくとも10個、より好ましくは少なくとも15個、より好ましくは少なくとも20個の連続するアミノ酸を有する。
【0011】
特に好ましい1つの実施の形態では、ポリペプチドは、配列番号1の少なくとも30個、より好ましくは少なくとも50個、特に好ましくは少なくとも100個の連続するアミノ酸を有する。
【0012】
当業者は、好適なコンピュータプログラムによりポリペプチドの領域の疎水性及び親水性を決定することができることを認識している。したがって、ワクチンの調製のためにはポリペプチドの一部分が、フォールディングしたポリペプチドの外側の領域上に位置するのが好ましいため、好ましい断片は主に親水性を有する。
【0013】
さらに、より長いポリペプチド部分を使用する場合、直線状エピトープが断片内に存在するだけでなく、ポリタンパク質(polyprotein)の3次元フォールディングの過程において生じる立体構造エピトープも存在する可能性がより高い。
【0014】
好ましい1つの実施の形態では、配列番号1のポリペプチド又はその断片を、抗原が免疫担体(immunocarrier)と共有結合した複合体として使用する。かかる免疫担体は、抗原に対する免疫応答の誘導に関するT細胞とB細胞との間の相互作用を改善するポリペプチド、又はタンパク質、又は炭水化物を含有する分子(例えば、莢膜多糖類又は糖複合体等)であり得る。これは、免疫系の活性が低減した患者における使用を意図したワクチンにとって好ましい場合がある。腸球菌の感染は多くの場合病院及び養護施設における問題であるため、かかる複合体は、かかる患者にとって特に好ましい。本発明による好適な免疫担体は、破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)毒素A、又はその誘導体を含む。
【0015】
炭水化物(Carbodydrate)を含有する分子、例えば莢膜多糖類又はタイコ酸も、上で言及したポリペプチド又はその断片に対する複合体形成パートナーとして働く場合がある。特に好ましい1つの実施の形態では、免疫応答を刺激する免疫担体のかかる断片を治療対象の患者において使用するが、非改変形態で使用した場合にかかるタンパク質が誘発し得る望ましくない副作用はもたらされない。
【0016】
抗原と免疫担体との共有結合を、直接的な化学結合により、又はスペーサーを介してもたらすことができる。共有結合的に連結した分子を生成するために、両方の末端上に2つの反応性基を有する短い分子を抗原及び免疫担体と反応させることもある。
【0017】
代替的には、ワクチンとして使用する分子(抗原及び免疫担体)を、好適な遺伝子断片を共に連結し、適当なベクター中に挿入する組換えにより生成することができる。ベクターを好適な宿主細胞に導入し、該宿主細胞(例えば大腸菌、桿菌、酵母又は昆虫細胞)により、上で規定したようなポリペプチド又はその断片が免疫担体と共に1つの分子として産生される。
【0018】
単独の又は免疫担体と結合したポリペプチド又はその断片を、細菌感染症を治療又は予防するために使用することができる。したがって本発明の別の態様は、本明細書で記載されるような薬剤に基づいて細菌感染症、特に腸球菌、より好ましくはエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)の細菌感染症を治療又は予防する方法である。好ましくは上記薬剤は、好ましくは薬学的に許容可能なアジュバントも含むワクチンである。アジュバントは、防御性IgGサブタイプ抗体を促進する。代表的なアジュバントとしては、完全フロイントアジュバント(CFA)、不完全フロイントアジュバント(IFA)、アラム(alum)、及びヒトでの使用に好適な他のアジュバント(例えばウイルス様粒子)が挙げられる。デキストラン硫酸等の高分子が細菌細胞表面抗原に対するIgG抗体の強力な刺激因子であることも示されている。
【0019】
活性なワクチンを、好ましくは感染が起こる前に患者に対して投与する。したがって、かかるワクチン接種を、リスクを有する患者(例えば高齢者、実質臓器又は骨髄の移植前の患者)に対して、該患者の免疫応答を刺激し、病院又は養護施設における感染を回避するために定期的に適用することができる。
【0020】
しかしながら特定の状況下では、エンテロコッカス属に属する細菌を不活性化する防御抗体を誘発するために、感染症の初期段階でワクチンを適用することができる可能性もある。好ましい1つの実施の形態では、本発明のワクチンは、種々のエンテロコッカス・フェシウムに対する、及びまた可能性としてエンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)株に対する防御をもたらすが、これはこれらの種の間には広範な配列相同性が存在するためである。
【0021】
配列番号1のタンパク質により誘導される抗体又はその好適な断片は、防御性であり、食作用を容易にする。かかる防御抗体、特にオプソニン抗体が好ましいため、オプソニン特性を有する抗体を誘発する配列番号1のポリペプチドのこれらの部分を使用することが望ましい。
【0022】
ワクチンとして使用される薬剤の薬学的配合物は当業者に既知であり、各文献に記載されている。通常、免疫担体と結合している場合がある抗原の溶液を、緩衝液等の生理学的に許容可能な溶液に溶解する。免疫学的に活性な化合物の望ましくない沈殿を回避するために、溶液を安定化しなければならない。好ましくはワクチンを、注射、好ましくは筋肉内注射に適した溶液の形態で製造する。抗原が免疫系と十分に接触し、特異的な抗体の形成が誘発されるならば、薬学的配合物の他の形態、例えば硬膏剤又は噴霧剤も許容可能である。
【0023】
一方、免疫系が激しく損なわれているため、活性なワクチンにより患者を治療することが不可能なこともある。これらの状況においては、上で規定したような配列番号1のポリペプチド又はその断片を使用して、腸球菌と結合する、又はこれをオプソニン化するポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を産生することができる。当業者は、どのようにすればかかる抗体を調製することができるかを十分に認識している。
【0024】
ポリクローナル抗体産生のための接種材料は通常、生理食塩水等の生理学的に耐容性を有する希釈剤中に抗原又は抗原−免疫担体複合体を分散させて、水性組成物を形成させることにより調製する。免疫賦活量の接種材料を好ましくはアジュバントと共に哺乳動物に対して投与し、その後、抗原が防御性抗腸球菌抗体を誘導するのに十分な期間、接種された哺乳動物を維持する。好適な期間(2週間〜4ヶ月)の後、追加免疫用の用量の抗原−免疫担体を適用することができ、抗原力価をモニタリングする。好適な時点で、中和抗体又はオプソニン抗体の力価がそのピークである時に、抗体を収集する。かかる抗体は、一般的に使用される様々な動物(例えばマウス、ヤギ、霊長類、ロバ、ウサギ又はウマ)、及びヒト(献血血液から抗体が単離される)由来の抗体調製物を含み得る。
【0025】
哺乳動物中で誘導された抗体を、回収し、単離し、既知の技法により、例えばアルコール分画及びカラムクロマトグラフィにより、又は好ましくは免疫親和性クロマトグラフィ(抗原がクロマトグラフィカラムと結合している)により所望の程度まで精製する。抗血清を特異的な抗体が保持されているカラムに通し、血清の他の成分を全て洗い流す。その後、精製された抗体を好適なグラジエントにより溶出させる。さらなる精製が必要となる場合がある。
【0026】
代替的に、モノクローナル抗体を、当業者に既知の技法により調製することができる。好適なモノクローナル抗体が得られる場合、結合領域を同定することができ、抗体分子全体、及び該抗体の誘導体、例えば抗体断片又は小断片を提供することができる。モノクローナル抗体を産生する一般的な技法は、教科書に十分に記載されている。ライブラリ又は遺伝子操作により作製した動物からハイブリドーマを作製した後、又はモノクローナル抗体を選択した後、このモノクローナル抗体が配列番号1のポリペプチドのどの部分と結合するかを決定しなければならない。その後、この抗体がオプソニン抗体及び/又は防御抗体であるかどうかを、好ましくはin vivoで調べなければならない。
【0027】
抗体という用語は、組換え抗体、例えば組換えヒト抗体及び組換えヒト化抗体、並びに(組換え)抗体断片、例えばscFv断片をさらに含む。
【0028】
ここで本発明を、以下の実施例において添付の図面及び配列リストを参照してさらに記載するが、本発明はこれらに限定されない。本発明のために、本明細書に引用された全ての参考文献は、その全体が参照により援用される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】エンテロコッカス・フェシウムE155株に対してウサギにおいて産生されたポリクローナル抗血清のオプソニン殺傷(opsonic killing)を示す図である。種々の血清希釈物を試験し、高い希釈率でも、産生された抗体のオプソニン活性を相当程度観察することができた。
【図2】相同株由来のタンパク質と反応させたエンテロコッカス・フェシウムE155株に対する抗体のウエスタンブロットを示す図である。レーン1は分子量マーカーである。レーン2にはエンテロコッカス・フェシウムE155細胞の溶解物を適用した。レーン3にはエンテロコッカス・フェシウムE155培養物の上清を適用した。
【図3】組換えにより発現させ精製した配列番号1を有するポリペプチドによるウエスタンブロットを示す図である。精製したポリペプチドは、元はエンテロコッカス・フェシウムE155株に由来するものである。適当なプライマーを使用して、遺伝子をPCRにより増幅させ、グラム陰性細菌に対する発現ベクター中にクローニングした。宿主細胞により産生されたタンパク質を、Hisタグを用いてNiカラムにより精製した。精製したタンパク質を、ウサギにおけるポリクローナル抗体の産生のために使用した。抗体を、図3に示したようにウエスタンブロットに使用し、オプソニン活性に関して試験した。特異性又はオプソニン抗体が、精製したタンパク質による吸収により確認された。
【図4】精製した配列番号1を有するポリペプチドを用いて、並びにそれとの比較として熱失活させた細菌に対して産生された血清(αE155)及び正常ウサギ血清(NSA)を用いて行ったELISA試験の結果を示す図である。
【図5】配列番号1を有するポリペプチドにより得られたオプソニン作用の(opsonophagocytic)阻害の結果を示す図である。
【図6】配列番号1を有するポリペプチドに対する抗体の防御の有効性を、エンテロコッカス・フェシウムE155によるマウスの菌血症で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
配列番号1は、エンテロコッカス・フェシウムE155株由来の本発明によるポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
【実施例】
【0031】
実施例1:
エンテロコッカス・フェシウム中におけるオプソニン抗体の標的を同定する試みにおいて、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の院内発生と関連するクローン複合体(clonal complex)17(CC17)(Top, J. et al.,(2008). Emergence of CC17 Enterococcus faecium: from commensal tohospital-adapted pathogen. FEMS Immunol Med Microbiol 52:2997-308)に属する熱殺傷したエンテロコッカス・フェシウムE155株(Leavis, H.L. et al. (2007). Insertion sequence-drivendiversification creates a globally dispersed emerging multiresistant subspeciesof E.faecium. PLoS Pathog 3:e7)により、ウサギを免疫した。細菌を65℃で1時間熱殺傷し、1用量当たり1.4×1012cfuの最終濃度のものを、1週間に3回、計3週間静脈内注射した。得られた血清は、相同株に対してオプソニン性を有していた(血清希釈率1:100で殺傷率77.8%)。結果を図1に示す。
【0032】
実施例2:
ウエスタンブロット分析により、細胞抽出物中に存在し、培養上清中においてさらにより明白である約54kDaの明確なタンパク質バンドが示された(結果を図2に示す)。
【0033】
実施例3:
試験した5種類全てのエンテロコッカス・フェシウム株が、ウサギ免疫血清により検出されたものと同じサイズのタンパク質バンドを発現した(データは示していない)。クマシーブルー染色したゲルバンドのナノLC−ES−MS/MS分析により、NCBI及びMASCOTデータベースと比較される配列データが得られた。相同性の最高値(スコア1253)が、エンテロコッカス・フェシウムDO(アクセッション番号Gi│69245436)由来の55kDaのタンパク質であるNLP/P60(Anantharaman, V. et al. (2003). Evolutionary history, structuralfeatures and biochemical diversity of the NIpC/P60 superfamily of enzymes.Genome Biol 4:R11)により得られた。
【0034】
引き続き、エンテロコッカス・フェシウムE155由来の遺伝子をPCRにより増幅させ、hisタグ発現ベクター(Champion pET Directional TOPO Expression Kit、Invitrogen)中にクローニングした。発現されたタンパク質を変性条件下でニッケルカラムで精製し、精製したタンパク質が、エンテロコッカス・フェシウムE155の全細胞に対して産生されたウサギ血清との反応性を有することが示された(結果を図3に示す)。
【0035】
実施例4:
ウサギを、精製したタンパク質により免疫した(不完全フロイント(Freud's)アジュバントと混合して皮下に(SC)2回(10μg)、及び2週間空けて第3週目にアジュバントを用いず静脈内に3回(5μg))。最後の注射の2週間後、力価をELISAにより(図4を参照されたい)、及びオプソニン作用アッセイにより(図5を参照されたい)調べた。
【0036】
実施例5:
特異性を確認するためにオプソニン作用阻害アッセイを行い、100μgの精製したタンパク質が殺傷をほぼ100%阻害することができるが、より低い量では用量依存的に殺傷が阻害されることを示した(図5を参照されたい)。オプソニン作用アッセイを他で記載された(Theilacker, C. et al. Opsonic antibodies to Enterococcus faecalisstrain 12030 are directed against lipoteichoic acid. Infect Immun (2006) 74:5703-12)ように行った。簡潔に述べると、乳児ウサギ血清(希釈率1:15)、ヒトPMN、及び適当な血清希釈物を、対数期まで成長した細菌と混合した(細菌対PMNの比率1:1)。混合物をローターラック上で37℃でインキュベートした。90分後に白血球を溶解し、適当な希釈物をトリプシン大豆寒天プレート上にプレーティングした。プレートを終夜インキュベートし、翌日コロニーを計数した。
【0037】
要約すると、これらのデータにより、エンテロコッカス・フェシウム由来の配列番号1を有するポリペプチドが、バンコマイシン耐性を有するエンテロコッカス・フェシウムの臨床分離株に対するオプソニン抗体を誘導するワクチン候補であることが確認される。
【0038】
実施例6:
配列番号1を有するポリペプチドに対する抗体の防御の有効性を、マウス菌血症モデルにおいて示した(図6)。雌性のbalb/cマウス(1群当たりマウス8匹)に、200μlの正常ウサギ血清(NRS)、又は配列番号1を有するポリペプチドに対して産生された血清(IRS)を投与した。24時間後に動物にエンテロコッカス・フェシウムE155(1.18×1010cfu/マウス)を負荷し、接種の2時間後に2回目の用量200μlのウサギ血清(NRS又はIRS)を投与した。感染の8時間後にマウスを屠殺し、血液中のコロニー数を決定した。これらの結果により、マウスにIRSを投与した場合に、血液でのコロニー数の統計的に有意な低減が示される。
【0039】
エンテロコッカス・フェシウムは、培養培地中に分泌され、熱殺傷されたエンテロコッカス・フェシウムで免疫されたウサギにおいて特異的な抗体を誘導するおよそ54kDの細胞表面に結合したタンパク質を有する。該タンパク質をナノLC−ES−MS/MS分析により同定し、PCRにより増幅させ、グラム陰性発現ベクター中にクローニングした。精製した組換えタンパク質を使用してウサギを免疫し、得られた抗血清が該タンパク質と特異的に結合することをELISAにより示した。ウサギ血清は1:10の血清希釈率で相同株を殺傷し(>50%)、精製した抗原により殺傷活性を完全に吸収することができた。血清の2回の適用(接種の24時間前及び2時間後)により、マウスの血液中のコロニー数が統計的に低減され、この抗原がバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)による菌血症に対する有望なワクチン標的であることが確認された。
【符号の説明】
【0040】
図1
Opsonickilling of rabbit serum against E. faecium E155 エンテロコッカス・フェシウムE155に対するウサギ血清のオプソニン殺傷
% killing 殺傷率(%)
serumdillution 血清希釈率
図2
Western blotwith E155 serum against the homologue strain 相同株に対するE155血清によるウエスタンブロット
Molecularweight marker 分子量マーカー
E. faeciumE155 cells エンテロコッカス・フェシウムE155細胞
E. faeciumE155 supernatant エンテロコッカス・フェシウムE155上清
図3
Western blotwith purified polypeptide having SEQ ID NO:1 精製した配列番号1を有するポリペプチドによるウエスタンブロット
lane 1:molecular weight marker レーン1:分子量マーカー
lane 2: partiallypurified protein レーン2:部分的に精製したタンパク質
lane 3:purified polypeptide レーン3:精製したポリペプチド
図4
ELISA withpurified polypeptide having SEQ ID NO:1 精製した配列番号1を有するポリペプチドによるELISA
Sera 血清
Alpha E155 αE155
Alpha SEQ IDNO:1 α配列番号1
Serum titer 血清力価
rabbit serumbefore immunization 免疫前のウサギの血清
serum raisedagainst heat-killed bacteria 熱殺傷した細菌に対して産生された血清
serum raisedagainst recombinant protein 組換えタンパク質に対して産生された血清
図5
Opsonophagocyticinhibition with polypeptide having SEQ ID NO:1 配列番号1を有するポリペプチドによるオプソニン作用の阻害
% killing 殺傷率(%)
inhib 阻害因子
図6
MouseBacteremia with E. faecium E155 エンテロコッカス・フェシウムE155によるマウスの菌血症
unpairedt-test 独立t-検定

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の少なくとも6個のアミノ酸の連続する配列を有するポリペプチドを含有することを特徴とする、細菌感染症を治療又は予防する薬剤。
【請求項2】
ポリペプチドが免疫担体、又はタンパク質、炭水化物及び/若しくは糖複合体と共有結合した、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
細菌感染症が腸球菌により引き起こされることを特徴とする、請求項1又は2に記載の薬剤。
【請求項4】
薬学的に許容可能なアジュバントを含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項5】
ワクチンであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項6】
腸球菌、又はエンテロコッカス・フェシウム若しくはエンテロコッカス・フェカリスの菌株により引き起こされる感染症に対するワクチンであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項7】
細菌感染症を治療又は予防する薬剤の調製のための、配列番号1の少なくとも6個のアミノ酸の連続する配列を有するポリペプチドの使用。
【請求項8】
ポリペプチドが免疫担体と共有結合した、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
感染症がエンテロコッカス・フェシウム又はエンテロコッカス・フェカリスにより引き起こされる、請求項7又は8に記載の使用。
【請求項10】
抗体の調製のための、配列番号1の少なくとも6個のアミノ酸の連続する配列を有するポリペプチドの使用。
【請求項11】
ポリペプチドが免疫担体と共有結合した、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
配列番号1の少なくとも6個のアミノ酸の連続する配列を有するポリペプチド、又は免疫担体と共有結合的に連結した前記ポリペプチドと特異的に反応するポリクローナル抗体。
【請求項13】
配列番号1の少なくとも6個のアミノ酸の連続する配列を有するポリペプチド、又は免疫担体と共有結合的に連結した前記ポリペプチドと特異的に反応するモノクローナル抗体。
【請求項14】
オプソニン抗体であることを特徴とする、請求項12又は13に記載の抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−526059(P2012−526059A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508931(P2012−508931)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002557
【国際公開番号】WO2010/127784
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(511268085)ウニベルシタットスクリニクム フライベルク (2)
【Fターム(参考)】