説明

腹足類生物の捕集装置

【課題】腹足類生物の習性を外部から制御することで腹足類生物の動きに捕らわれず、腹足類生物を探し回るという手作業や重労働からの負担を抑えた高効率な腹足類生物の捕集装置を提供する。
【解決手段】腹足類生物の捕集装置は、媒体物質を介して配設される一対の対向する電極と、前記電極間に直流電圧を出力する直流電源と、前記直流電源から出力される直流電圧の電圧値を制御して電極間に印加する電圧制御部とを備え、前記電極のうち低位側の電極近傍に前記媒体物質中の腹足類生物を誘引させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物に被害を与える貝類を捕集・駆除する捕集装置に関し、特に、電気的な刺激に対する腹足類生物の習性を利用して効率的に捕集・駆除する腹足類生物の捕集装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ジャンボタニシなど水田作物に被害を与える貝類(腹足類生物)を捕獲する際には、通常、餌を用いておびき寄せて罠で捕獲したり、広い範囲を手作業で捕獲したりすることが行われている。しかし、このような捕獲方法は、基本的に手作業が大部分を占めることから、捕獲効率が低いということや、重労働を要するという問題点がある。
【0003】
従来の腹足類生物の捕集装置に関しては、タニシをその場で捕獲出来る携行式の捕獲器に関するものがあり、例えば、タニシや餌等をすくい取る為の採取部、タニシより大きな物の篩分け除去用のセパレート部、篩下へ落下のタニシと泥砂混合物を引続き篩分けして残ったタニシのみを保持する篩と保持の両機能を持った保持部、そのタニシ排出用の取出し部、すくう時や篩分け時の飛び出しやこぼれ防止用の側面囲い部と転出防止部、持運びや作業の容易化の為の柄と握部等を、枠に付設し形成されるジャンボタニシの捕獲器がある(特許文献1参照)。また、容器の側面に入り口を設け、中に野菜の残り物を置きジャンボタニシの食性を利用し、誘引捕獲、駆除する誘引捕獲器がある(特許文献2参照)。
【0004】
また、根部が水面下に位置する植物を食する貝類に、電気的刺激を与えて植物の食害を防止する方法であって、水面下に配置される一対の電極部材間に、電界強度が0.5V/cm以上の電圧を、0.1秒以上の印加時間でもって、断続的に印加し、ジャンボタニシの食性動作を起こさせないようにする方法もある(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−099057号公報
【特許文献2】実用新案出願2005−6704号公報
【特許文献3】特開2001−85187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来技術を腹足類生物の捕集装置に適用する場合には、携行式を特徴とするものであっても、腹足類生物の食性動作を利用もしくは抑制するものであっても、腹足類生物の生態的行動に追従する捕集装置であり、その結果として、腹足類生物の動きや習性を把握することや、腹足類生物を探し回るという重労働が必要とされる。
【0007】
すなわち、携行式の捕集装置では、所在がまばらな腹足類生物を駆逐することから、腹足類生物が集まっているエリアを探し出す必要があるという課題がある。また同様に、容器の側面に入り口を設ける誘引捕獲器も、捕獲の効率を高めるためには、所在がまばらな腹足類生物が集まっているエリアを探し出す必要があるという課題がある。
【0008】
腹足類生物の食性動作を抑制するために電気的刺激を与える場合には、電気的刺激を与えた後にも腹足類生物は生息し続けるために、その効果を持続させるためには電気的刺激を与え続けなければならず、結果としてランニングコストが高くなるという課題がある。
【0009】
本発明は、前記課題を解消するためになされたもので、腹足類生物の習性を外部から制御することで腹足類生物の動きに捕らわれず、腹足類生物を探し回るという手作業や重労働からの負担を抑えた高効率な腹足類生物の捕集装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る腹足類生物の捕集装置は、誘電体もしくは導電体からなる媒体物質を介して配設される一対の対向する電極と、前記電極間に直流電圧を出力する直流電源と、前記直流電源から出力される直流電圧の電圧値を制御して電極間に印加する電圧制御部とを備え、前記電極のうち低位側の電極近傍に前記媒体物質中の腹足類生物を誘引させるものである。このように、一対の対向する電極間に直流電圧がかかることで、腹足類生物が、電位の低い方向に集まるという習性に従って、低位側の電極近傍に誘引されることとなり、腹足類生物を効率的に捕集することができる。
【0011】
また、本発明に係る腹足類生物の捕集装置は、必要に応じて、前記一対の対向する電極の高位側が低位側よりも面積が小さく、当該電極間の媒体物質が大気であるものである。このように、前記一対の対向する電極の高位側(プラス極側)が低位側(マイナス極側)よりも面積が小さいことから、電極間の電気力線が、大気中で高位側に向かってその密度が高くなるように放射状に生じることとなり、当該電極間に生じた電気力線の高低差により、陸上に生息する腹足類生物を低位側の電極近傍に誘引して効率的に捕集することができる。
【0012】
また、本発明に係る腹足類生物の捕集装置は、必要に応じて、前記電圧制御部が、前記媒体物質の電気伝導度が30mS/m以上の場合に、前記電極間の電界強度が1V/m以上60V/m以下となるように直流電圧を制御し、前記媒体物質の電気伝導度が30mS/m未満の場合に、前記電極間の電界強度が60V/m以上となるように直流電圧を制御するものである。このように、前記電圧制御部が、前記媒体物質の電気伝導度が30mS/m以上の場合に、前記電極間の電界強度が1V/m以上60V/m以下となるように直流電圧を制御し、前記媒体物質の電気伝導度が30mS/m未満の場合に、前記電極間の電界強度が60V/m以上となるように直流電圧を制御することから、腹足類生物にとって移動が可能な電界強度の範囲内で電界が掛けられることとなり、腹足類生物が低位側の電極近傍へ移動することを阻害することなく効率的に誘引することができる。
【0013】
また、本発明に係る腹足類生物の捕集装置は、必要に応じて、前記電圧制御部が、直流電源から出力される直流電圧を間欠的に印加するように制御するものである。このように、対向する電極間に直流電圧が間欠的に印加されることから、直流電圧を連続的に印加する場合と比べて、電極表面に電解質が経時的に蓄積し続けて付着してしまうことを抑制することとなり、消費電力が抑えられることのみならず、経時的に劣化が原因で電界が掛かり難くなることを抑制することができる。
【0014】
また、本発明に係る腹足類生物の捕集装置は、必要に応じて、前記電極間の通電方向を一定時間毎に反転させる切換制御部を備えるものである。このように、定期的に電極間の電荷の移動方向が反転して電極表面の荷電状態が反転することで、電極表面に主に帯電によって付着している付着物が一掃されることとなり、経時的な電極の劣化が抑制され、長期間に渡って経時的劣化を抑えて安定的に使用することが可能となる。
【0015】
また、本発明に係る腹足類生物の捕集装置は、必要に応じて、前記電極のうち低位側の電極近傍に、超音波発生用の振動子を含む網を備えるものである。このように、低位側の電極近傍に、超音波発生用の振動子を含む網を備えることから、腹足類生物が誘引されて群がっている低位側の電極近傍で高エネルギーの超音波を発生させることとなり、腹足類生物に超音波が効率よく照射され、腹足類生物を効率的に駆除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る腹足類生物の捕集装置の概略構成図を示す。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る腹足類生物の捕集装置の直流電圧の矩形波の形状例を示す。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る腹足類生物の捕集装置の概略構成図を示す。
【図4】本発明の第3及び第4の実施形態に係る腹足類生物の捕集装置の概略構成図を示す。
【図5】ジャンボタニシを対象に実施した捕集装置の実験結果を示す。
【図6】ジャンボタニシを対象に実施した捕集装置の走電性試験の結果を示す。
【図7】印加電圧とジャンボタニシの移動結果、及び超音波照射からの経過日数とジャンボタニシの殺貝率の結果を示す。
【図8】異なる波長で超音波照射した場合における、各波長ごとの経過時間とジャンボタニシの殺貝率の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る腹足類生物の捕集装置を、図1及び図2に基づいて説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る腹足類生物の捕集装置の概略構成図であり、図2は図1に記載された捕集装置の直流電圧の矩形波の形状例を示す。
【0018】
図1において本実施形態に係る腹足類生物の捕集装置は、誘電体もしくは導電体からなる媒体物質を介して配設される一対の対向する電極1と、この電極1間に直流電圧を出力する直流電源2と、この直流電源2から出力される直流電圧の電圧値を制御して電極間に印加する電圧制御部2aと、この媒体物質の電気伝導度を検出するセンサー3を備える構成である。
【0019】
本捕集装置の対象となる腹足類生物としては、ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)、カワニナ、ナメクジ、ウスカワマイマイ、カタツムリなどの害虫が挙げられるが、特に、水棲腹足類であるジャンボタニシを対象とすることが好ましい。ジャンボタニシは、水田内で生息して水稲の幼苗を好んで食す習性があり、水稲の収穫に多大な害を与えているため、その効果的な駆除が望まれている。
【0020】
上記の媒体物質としては、誘電体もしくは導電体からなるものであれば特に制限されない。導電体としては、例えば、水(純水)や、イオン性物質(電解質)を水などの極性溶媒に溶解させた電気伝導性を有する水溶液(自然に存在する汚濁物が混入した溶液、例えば、水田、濁流、及び植物由来の廃棄物が混入した溶液等も含まれる)が挙げられる。電気伝導性を有する対象の水溶液としては、水族館や家庭などの水槽中の水溶液もあるが、特に、海,河川,湖沼,水田や灌漑用水路などの腹足類生物の生息する水溶液が好適に挙げられる。誘電体としては、空気(大気)が挙げられ、特に、ナメクジやカタツムリなど陸上に生息する腹足類生物を対象とすることができる。
【0021】
前記電極1としては、一般に使用されている電極材料を広く使用することができるが、短期間の使用に限定するのであれば,腐食し水中に溶解する鉄やアルミニウムなどを適用することで回収の手間を省くことができる。長期間に渡って使用する場合には,プラチナや炭素などのように腐食しない電極材料が好ましい。電界勾配が出来ればどのような形の電極でも問題ないが,メッシュや細線など表面積の小さいものを使用することで消費電力の浪費を防ぐことができる。
【0022】
直流電源2は,1V/mからの電界を使用することが好適であるため,太陽光発電でまかなうことも可能である。また、印加する電圧としては、例えば電極間隔1.2mとした場合には、腹足類生物が低い電圧に向かって動き出す範囲として3〜10Vであることが好ましく、特に腹足類生物が低い電圧に向かって最も活発に動き出す観点から、5Vであることが好ましい。
【0023】
前記電圧制御部2aは、前記直流電源2が出力する直流電圧を間欠的となるように制御することができる。その矩形波は、図2に示すように、規則的かつ瞬間的に変化する。この変化は、同図(a)及び(b)に示すように、接地電位に対して正もしくは負のいずれでもよく、接地電位に対して正もしくは負の範囲内とすることができるが、同図(c)に示すように、接地電位に対して正もしくは負の範囲を交互にまたがることもできる。また、陰極側を接地することで陽極から接地電極側へ電界を発生しても,陽極側を接地することで接地電極から陰極側へ電界を発生しても,陽極もしくは陰極を接地することなく陽極から陰極側へ電界を発生してもよい。
【0024】
このように、対向する電極1間に直流電圧が間欠的に印加されることから、直流電圧を連続的に印加する場合と比べて、電極表面に電解質が経時的に蓄積し続けて付着してしまうことを抑制することとなり、消費電力が抑えられることのみならず、経時的に劣化が原因で電界が掛かり難くなることを抑制することができる。
【0025】
前記センサー3は、前記媒体物質の電気伝導度を検出するものであり、従来から使用されている非接触型電気伝導度検出器を使用することができ、取付け方式は、従来からある形式であるねじ込み形、フランジ形、流通形など特に制限はされない。このセンサー3が電気伝導度を検出することによって、前記電圧制御部2aが、この電気伝導度に基づいて、腹足類生物にとって移動が可能な電界強度の範囲内で直流電圧を印加するように制御できることとなり、腹足類生物が低位側の電極近傍へ移動することを阻害することなく効率的に誘引することができる。
【0026】
以下、前記構成に基づく本実施形態の具体的な捕集動作について説明する。
本実形態は、まず前記対向する電極1を前記媒体物質(水田など)に浸漬させる。前記センサー3がこの媒体物質の電気伝導度を検出する。電圧制御部2aが、この電気伝導度に基づいて、この前記電極1間に前記直流電源2から出力される直流電圧を制御する。電圧制御部2aの制御は、様々なタイミングや方法で電圧の大きさを制御することができるが、例えば、前記媒体物質の電気伝導度が30mS/m以上の場合には直流電圧の印加による電界強度が1V/m以上60V/m以下とし、前記媒体物質の電気伝導度が30mS/m未満の場合には直流電圧の印加による電界強度が60V/m以上とすることができる。特に、電界強度が60V/m以上の電圧を印加する場合には、腹足類生物は殻の中に閉じこもり不活性化する習性があるため,摂食,交尾,産卵,歩行,呼吸行動等の生理活動を抑制することができる。
【0027】
このように、本実施形態では、一対の対向する電極1間に直流電流が流れることで、腹足類生物が、電位の低い方向に集まるという習性に従って、低位側の電極1近傍に誘引されることとなり、腹足類生物を効率的に捕集することができる。なお、前記電圧制御部2aは、前記直流電源2が出力する直流電圧を間欠的となるように制御したが、この形態に制限されるものではなく、例えば、直流電圧を連続的となるように制御すること等も可能である。
【0028】
(本発明の第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態に係る腹足類生物の捕集装置を、図3に基づいて説明する。図3は、本発明の第2の実施形態に係る腹足類生物の捕集装置の概略構成図を示す。
【0029】
図3において本実施形態に係る腹足類生物の捕集装置は、上述の第1の実施形態に係る腹足類生物の捕集装置を構成する前記電極1、前記直流電源2及び前記電圧制御部2aに加えて、前記電極1間の通電方向を一定時間毎に反転させる切換制御部4を備える構成である。前記構成に基づく本実施形態の具体的な捕集動作の特徴は、この切換制御部4が、前記電極1間の通電方向を一定時間毎に反転させるものである。
【0030】
この切換制御部4によって、定期的に電極間の電荷の移動方向が反転して電極表面の荷電状態が反転することで、電極表面に主に帯電によって付着している付着物が一掃されることとなり、経時的な電極の劣化が抑制され、長期間に渡って経時的劣化を抑えて安定的に使用することが可能となる。
【0031】
(本発明の第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態に係る腹足類生物の捕集装置を、図4(a)に基づいて説明する。図4(a)は、本発明の第3の実施形態に係る腹足類生物の捕集装置の概略構成図を示す。
【0032】
図4(a)において本実施形態に係る腹足類生物の捕集装置は、上述の第1の実施形態に係る腹足類生物の捕集装置を構成する前記電極1、前記直流電源2、及び前記電圧制御部2aに加えて、低位側の前記電極1近傍に、超音波発生用の振動子を含む網5を備える構成である。さらに、同図に示すように、この網5に直流電流を流すための網用直流電源部6と、この直流電流を間欠的に流すように制御する網用電圧制御部6aとを備えることもできる。前記構成に基づく本実施形態の具体的な捕集動作の特徴は、前記電極1から直流電圧が印加されることによって、腹足類生物が電位の低い方向に移動し、低位側の前記電極1近傍における腹足類生物の個体密度が高くなったところで,網用直流電源部6から高電圧(例えば30V/m以上)の直流電圧を間欠的に印加することによって、腹足類生物を落下させ、網5に捕集することができる。さらに、この網5には,超音波発生用の振動子が組み込まれていることから,腹足類生物を確実に殺傷することができる。超音波発生用の振動子としては、例えば、特殊ボルト締めランジバン振動で、処理槽内寸法が140mm×240mm×100mmのものを使用することができる。超音波発生用の振動子として用いる超音波発信器としては、例えば、100Wの出力で、発振周波数が28kHz、45kHzまたは100kHzのものを使用することができるが、このうち超音波で生成されるキャビテーションによって好適な衝撃波が得られるという観点から、発振周波数は28kHzまたは45kHzのものが好ましい(後述の実施例参照)。
【0033】
従来からの腹足類生物を殺傷する装置では、腹足類生物を殺傷後、腐敗した腹足類生物の死骸による局部的な水質汚染が問題となっており、さらに防衛本能として死骸から生じた体液に反応して殺傷装置に寄りつかなくなって捕集率が低下するという問題がある。腹足類生物に対して超音波を照射するとき,完全に殺傷させるのではなく致命傷を与える程度の超音波をインターバルで照射することが好ましく、この場合には、腹足類生物が装置外に抜け出た後に絶命させることとなり、死骸を処理する必要はなく、局所的な水質悪化も解決することができる。
【0034】
なお、腹足類生物を殺傷する強度の超音波の照射は水生植物の成長に影響を与えることはないことから、水生植物に付着した腹足類生物のみを殺傷することを目的として使用することもできる。例えば,観賞用の生物を飼育する水槽において、水生生物に付着して水槽に侵入するモノアラガイのような貝類に対して、捕集した後,タイマーを設けた超音波発生器を用いて、定期的に発生させた超音波によって殺傷することもできる。さらに、この殺傷された貝類を、観賞用生物の餌として水槽内で循環的に利用することもできる。
【0035】
(本発明の第4の実施形態)
上記の実施形態では、電位の高低差を利用して、腹足類生物の動作を制御するものであったが、電場の強弱(電気力線の密度の高低差)を利用して、腹足類生物の動作を制御することもできる。
以下、本発明の第4の実施形態に係る腹足類生物の捕集装置を、図4(b)に基づいて説明する。図4(b)は、本発明の第4の実施形態に係る腹足類生物の捕集装置の概略構成図を示す。本実施形態では、電場の強弱(電気力線の密度の高低差)を利用して、腹足類生物の動作を制御するものである。
【0036】
図4(b)において本実施形態に係る腹足類生物の捕集装置は、上述の第3の実施形態に係る腹足類生物の捕集装置を構成する前記電極1において、対向する電極が互いに異なる面積を有する構成である。このような構成とすることによって電気力線が放射状に生じることとなり、同図(b)に示すように、プラス極側近傍の地点Aでは電気力線(電極1間の点線で示される)の密度は、マイナス極側近傍の地点Bより高くなる。このように電気力線の密度に高低差が生じることによって、上記の実施形態と同様に、腹足類生物の動作を制御することができる。
【0037】
(本発明のその他の実施形態)
なお、上記の実施形態では、前記媒体物質を導電体としたが、前記媒体物質を誘電体とすることも可能である。特に前記第4の実施形態に係る捕集装置における媒体物質を誘電体、例えば、大気を使用する場合には、陸上に生息するナメクジ、カタツムリなどの害虫を好適に対象とすることができる。ナメクジやカタツムリは、植物体の柔らかい部分、花弁、新芽、及び若い葉を食害するという習性があり、キャベツやナス等の野菜の収穫に多大な害を与えているという問題がある。本捕集装置によって、それらの害虫を効果的に駆除することができる。
【0038】
本発明の特徴を更に具体的に示すため以下実施例を記すが、本発明はこの実施例によって制限されるものではない。
【0039】
(実施例)
以下に腹足類生物の一種であるジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)を対象に行った捕集装置の実験結果を示す。図5(a)に示すように、プラスチック製の網で仕切られたI字型の領域を−エリア,0エリア,+エリアの3区画に分割した。供試されたジャンボタニシは他個体との相互作用を除去するために1頭ずつI字型の領域の中心部に配置し,実験時間は30分間に設定し1分毎にジャンボタニシの位置情報を得点(+1点,0点,−1点)として収集した。ジャンボタニシの行動に電気刺激が影響を与えない場合は得点の平均は0付近を示すが,電気刺激がジャンボタニシの行動に影響を与える場合には平均得点の偏りとして現れる。試験で使用した水の電気伝導は11 mS/m,水温は22〜24 ?C,水深は2.5 cmとし、30分間の試験終了毎に交換した。以上の過程を30回反復して行った。
【0040】
I字型に仕切られた領域の両端に平行平板型の炭素板電極を配置し,活性炭と中空糸フィルターから構成される整水器(TK742、松下電工株式会社)を通過させた水道水(以下,浄水という)を図5(a)に示す実験用水槽に殻高10 mm〜39 mmのジャンボタニシをそれぞれ無作為に1頭づつ供試した。電極間に発生させる電界強度は、供試した全てのジャンボタニシが電気ショックにより閉じこもり行動を示さないように±3V(電界10.0V/m),±6V(電界20.0V/m),±9V(電界30V/m)とした。また,電界方向は実験ごとに無作為に変化させた。図5(b)および(c)にジャンボタニシの位置情報を30回の反復に渡って平均したスコアを示す。図5(b)はプラス電圧を印加した場合の結果であるが、その分布は電界の低いアース電極側に有意に偏っていた。図5(c)は、マイナス電圧を印加した場合の結果であるが、その分布は電界の低いマイナス電極側に有意に偏っていた。すなわち、ジャンボタニシは電位の高い方向から低い方向に移動しており,電界の方向により歩行の向きを制御することができたことがわかった。
【0041】
このとき印加する電圧は接地電位に対して正もしくは負のいずれでもよく,陰極側を接地することで陽極から接地電極側へ電界を発生しても,陽極側を接地することで接地電極から陰極側へ電界を発生しても,陽極もしくは陰極を接地することなく陽極から陰極側へ電界を発生してもよい。ただし,電界強度は、電気伝導度30mS/m以上の条件において,電界1V/m以上60V/m以下とし、電気伝導度30mS/m未満の場合は,60V/m以上に電界強度を上げた。この電界強度の条件下では、ジャンボタニシが動きを停止することなく歩行し続けられる範囲であることがわかった。
【0042】
また、図6に、ジャンボタニシを対象に実施した捕集装置の走電性試験の結果を示す。この結果から、60分経過後には、ジャンボタニシは、低位側の電極であるマイナス極に誘引されて付着したまま動かなくなっていることがわかった。
【0043】
上述の図5(a)で示される−エリア,0エリア,+エリアの3区画に対して、電極間隔を1.2mとした場合に印加電圧を変化させた実験結果を図7(a)に示す。同図(a)から、低位側の電極近傍(−エリア)にジャンボタニシが、印加電圧の増加に依存して増加傾向を示しており、3V〜10Vまでの範囲が好ましく、特に5Vの場合が最も効果的に捕集されることがわかった。
【0044】
ジャンボタニシが電位の低い方向に移動し、低電位側の電極近傍の個体密度が高くなったところで、30V/m以上の電圧を間欠的に印加して個体を落下させて捕集した。捕集用の網には,超音波発生用の振動子が組み込まれており、ジャンボタニシを超音波により殺傷した。
【0045】
図7(b)及び(c)に超音波照射からの経過日数とジャンボタニシの殺貝率の結果を示す。同図(b)はサイズの大きな貝を対象とした結果であり、同図(c)はサイズの小さな貝を対象とした結果である。特に、サイズの小さな貝は、同図(c)に示すように、経過日数に関係なく殺傷され、超音波照射により破砕されて、装置内に死骸が残存しないことが分かった。
【0046】
図8に、異なる波長(28kHz、45kHz、100kHz)で超音波照射した場合における、各波長ごとの経過時間とジャンボタニシの殺貝率の結果を示す。図8(a)にジャンボタニシに対して超音波照射した場合の照射時間(秒)と殺貝率の結果を示す。この結果から、発振周波数は、28kHzまたは45kHzであることが好ましく、より好ましくは28kHzであることがわかった。この理由としては、これらの波長において、超音波で生成されるキャビテーションによって好適な衝撃波が得られたためと推察される。
【0047】
図8(b)にジャンボタニシと同様の環境に生息するカワニナをジャンボタニシと共存させた場合の殺貝率の結果を示す。同図(b)より,両貝とも観察日数の経過に従い殺貝率が上昇する傾向を示したものの、カワニナはジャンボタニシと比べて殺貝されにくく,28kHz,45kHz,100kHzの順に殺貝効果が低下し、特に100kHzでは殺貝された個体はなかった。このように、ジャンボタニシと比べてカワニナは超音波暴露の影響を受け難いことから、超音波の波長を制御することによって、害虫であるジャンボタニシを選択的に殺貝することができる。このような結果から,本装置は、ジャンボタニシの捕集に際して、死骸となったジャンボタニシを処理する必要もなく,さらに死骸による局所的な水質悪化も解決することができることがわかった。
【符号の説明】
【0048】
1 電極
2 直流電源
2a 電圧制御部
3 センサー
4 切換制御部
5 網
6 網用直流電源部
6a 網用電圧制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体もしくは導電体からなる媒体物質を介して配設される一対の対向する電極と、
前記電極間に直流電圧を出力する直流電源と、
前記直流電源から出力される直流電圧の電圧値を制御して電極間に印加する電圧制御部とを備え、
前記電極のうち低位側の電極近傍に前記媒体物質中の腹足類生物を誘引させることを特徴とする腹足類生物の捕集装置。
【請求項2】
請求項1に記載の腹足類生物の捕集装置において、
前記一対の対向する電極の高位側が低位側よりも面積が小さく、
当該電極間の媒体物質が大気であることを特徴とする腹足類生物の捕集装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の腹足類生物の捕集装置において、
前記電圧制御部が、前記媒体物質の電気伝導度が30mS/m以上の場合に、前記電極間の電界強度が1V/m以上60V/m以下となるように直流電圧を制御し、
前記媒体物質の電気伝導度が30mS/m未満の場合に、前記電極間の電界強度が60V/m以上となるように直流電圧を制御することを特徴とする腹足類生物の捕集装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の腹足類生物の捕集装置において、
前記電圧制御部が、直流電源から出力される直流電圧を間欠的に印加するように制御するを備えることを特徴とする腹足類生物の捕集装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の腹足類生物の捕集装置において、
前記電極間の通電方向を一定時間毎に反転させる切換制御部を備えることを 特徴とする腹足類生物の捕集装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の腹足類生物の捕集装置において、
前記電極のうち低位側の電極近傍に、超音波発生用の振動子を含む網を備えることを特徴とする腹足類生物の捕集装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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