説明

膀胱ガン診断用組成物及び方法

【課題】膀胱ガンの診断のための組成物および方法を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体又は19以上の連続した塩基を含むその断片、或いは、それらに相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチドを用いて膀胱ガンを診断するための組成物、キット、DNAチップ、並びに方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膀胱ガンの判定又は検出に有用な診断(判定又は検出)用組成物、該組成物を利用した膀胱ガン検出又は判定方法、及び該組成物を利用した膀胱ガン診断又は検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
膀胱は骨盤内にある臓器で、腎臓でつくられた尿が腎盂、尿管を経由して運ばれた後に、一時的に貯留する一種の袋の役割を持つ。膀胱がたまった尿で伸展されると、それを尿意として感じ、筋肉が収縮することによって排尿して、膀胱より尿を出しきるといった働きがある。膀胱の表面は移行上皮でおおわれ伸縮性に富むが、膀胱ガンは、この移行上皮がガン化することによって引きおこされ、組織学的には移行上皮ガンが全体の90%を占めることが知られている。
【0003】
日本人の2008年のガンによる死亡率は10万人中547.7人であり、死亡原因の中で膀胱ガンが占める割合は年々増加している。膀胱ガンをはじめとする尿路上皮ガンは、前立腺ガンについで頻度の高い泌尿器科腫瘍であり、日本における患者数は高齢者を中心に2002 年に約16,000 人であり、その罹患率は男性が女性の約4倍を示す。膀胱ガンの発症には、喫煙が大きく関与していることが知られており他にも職業性曝露(ばくろ)による、ナフチルアミン、ベンジジン、アミノビフェニルも確立したリスク要因とされている。膀胱ガンは大きく上皮内ガン、表在性膀胱ガン、浸潤性膀胱ガンの3種類のタイプに分類される。上皮内ガンは表在性ガン、浸潤性ガンに合併することや、上皮内ガン単独で発生することが知られ、膀胱粘膜内にばら撒かれたようにガン細胞が存在し、確定検査である内視鏡検査を実施した場合においても見落としがあることが知られている。表在性膀胱ガンは、膀胱内の表面すなわち表層粘膜やその下の粘膜下層までにガンの浸潤がとどまっている状態のガンであり、他臓器への転移を起こすことは少ないが、膀胱内で何度も再発する傾向がある事が知られている。浸潤性膀胱ガンは、膀胱の筋肉や膀胱外にまで根を張るように発育し、また、転移も生じやすいガンである。
【0004】
膀胱ガンの治療は進行度(日本泌尿器科学会、日本病理学会編 膀胱癌取り扱い規約 金原出版 2008)や転移、全身状態を考慮して決定され、膀胱ガンの標準的な治療法は(日本泌尿器科学会/編 膀胱癌診療ガイドライン 2009年版 医学図書出版)に示されている。現在最も一般的な療法は、外科療法(経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)、膀胱全摘除術)と放射線療法、抗ガン剤による化学療法、BCGの膀胱内注入療法とされている。
【0005】
また、現在膀胱ガンを検出する最も信頼できる方法は、生検病変の組織学を伴う膀胱鏡検査である。非侵襲性の方法の中では、剥離したガン細胞を顕微鏡的に検出する尿細胞診が現在の好ましい方法である。尿細胞診は、特異度は約94%、感度は35%と報告されている(非特許文献1)。
【0006】
膀胱ガンは再発率が高く、2年以内に再発することが多い。治療後の再発率は50〜80%と高くそのうち10〜25%は進行性の筋層への浸潤ガンとして発見されることから、再発を早期に発見し、早期に治療して患者の生存期間を延長させることが重要になってくる。
【0007】
現在では、非侵襲的な膀胱ガンの臨床検査用マーカーとして、いくつかの尿タンパク質マーカーが利用可能である。これらのマーカー検査は尿細胞診よりも高い感度を有する。たとえば、特異的な核マトリックスタンパク質NuMAを検出するNMP22検査では、感度は47−100%、特異度は55−98%である(非特許文献1)。また、特異的な基底膜断片複合体を検出するBTAtrak検査は、感度は60−83%、特異度は60−79%である(非特許文献1)。
【0008】
さらに遺伝子発現を指標としたマーカーとしては特許文献1に示されるmiR−96、非特許文献2に示されるmiR−126やmiR−182、非特許文献3に示されるmiR−129、非特許文献4に示されるmiR−21、非特許文献5に示されるmiR−143、非特許文献6に示されるmiR−133aなどが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−100687号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Bas W.G.van Rhijinら、2005年、European Urology 47、p736−748
【非特許文献2】Hanke Mら、2009年、Urologic Oncology
【非特許文献3】Dyrskjot Lら、2009年、Cancer Res 69(11)p4851−p4860
【非特許文献4】Catto JWら、2009年、69巻(21)、p8472−8481
【非特許文献5】Tianxin Linら 2009年、The Journal of Urology 181 p1372−p1380
【非特許文献6】Ichimi Tら、2009年、Int J Cancer 125(2)p345−p352
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、現在広く用いられている膀胱ガン診断法のうち、尿細胞診は感度が35%と低く、さらに検体試料の質に依存し観察者間で高い変動性を持つことから普遍的な検査という観点で課題を残す。また膀胱内視鏡検査の感度は90%と高いものの、視認によるものであるため上皮内ガンの見落としをする可能性があり、さらに患者に対して痛みなどの苦痛を伴い、侵襲性が高いため代替の精度が高い非侵襲的検査が求められている。また、上述の既存タンパク質、遺伝子発現の指標は特異度及び/又は感度に乏しく、検査の機会によって測定結果に大きな変動があるなどの欠点を持つ。
【0012】
したがって非膀胱ガン患者を膀胱ガン患者と誤判別することによる無駄な追加検査の実施や、膀胱ガン患者を見落とすことによる治療機会の逸失がおこる可能性があり、膀胱ガン患者を膀胱ガン患者と、非膀胱ガン患者を非膀胱ガン患者と正しく判別できる、すなわちaccuracyの高い膀胱ガンマーカーが切望されている。
【0013】
本発明は、膀胱ガンの診断及び治療に有用な疾患診断用組成物、該組成物を用いた膀胱ガンの判定(又は検出)方法、及び該組成物を利用した膀胱ガンの判定(又は検出又は診断)キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
マーカー探索の方法としては、膀胱ガン細胞のうち、手術時に患者由来の膀胱ガン細胞と患者由来の非ガン細胞における遺伝子発現やタンパク質発現、又は細胞の代謝産物などの量を何らかの手段によって比較する方法や膀胱ガン患者と非ガン患者の体液中に含まれる遺伝子、タンパク質、代謝産物などの量を測定する方法が挙げられる。
【0015】
DNAアレイを用いた発現遺伝子量解析は、近年、このようなマーカー探索の手法として特に汎用されている。DNAアレイには数百から数万種の遺伝子に対応した塩基配列を利用したプローブが固定されている。被検試料をDNAアレイに添加することによって試料中の遺伝子がプローブと結合し、この結合量を何らかの手段によって測定することにより、被検試料中の遺伝子量を知ることができる。DNAアレイ上に固定化するプローブに対応した遺伝子の選択は自由であり、また手術時又は内視鏡検査時に膀胱ガン患者由来の膀胱ガン細胞と非ガン細胞を用いて、試料中の発現遺伝子量を比較することによって膀胱ガンマーカーとなりうる遺伝子群を推定することが可能である。
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、膀胱ガン患者の尿中の遺伝子発現と非膀胱ガン患者の尿中の遺伝子発現をDNAチップによって解析し、膀胱ガンの検出マーカーに使用可能な遺伝子を見出し、さらにそれらの遺伝子の発現量が、非膀胱ガン患者由来の検体に比較して膀胱ガン患者由来の検体において減少、低減もしくは増加、増大していることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
1.発明の概要
本発明は、以下の特徴を有する。
本発明は、第一の態様において、下記の(a)〜(e)に示すポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、またはその断片からなる群から選択される1または2以上のポリヌクレオチドを含む、膀胱ガン診断用組成物を提供する。
(a)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてu(ウラシル)がt(チミジン)である塩基配列、からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、または19以上の連続した塩基を含むその断片
(b)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド
(c)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、または19以上の連続した塩基を含むその断片
(d)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド
(e)前記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、または19以上の連続した塩基を含むその断片
【0018】
その実施形態において、上記組成物は、下記の(f)〜(j)に示すポリヌクレオチド、その変異体またはその断片からなる群から選択される1または2以上のポリヌクレオチドをさらに含む。
(f)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、または19以上の連続した塩基を含むその断片
(g)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド
(h)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、または19以上の連続した塩基を含むその断片
(i)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列に相補的な塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド
(j)前記(f)〜(i)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、または19以上の連続した塩基を含むその断片
【0019】
本発明は、第2の態様において、上記のいずれかに記載の(a)〜(e)に示すポリヌクレオチド、その変異体および/またはその断片の1または2以上を含む、膀胱ガン診断用キットを提供する。
その実施形態において、上記キットは、上記のいずれかに記載の(f)〜(j)に示すポリヌクレオチド、その変異体および/またはその断片の1または2以上をさらに含む。
【0020】
また別の実施形態において、上記ポリヌクレオチドが、配列番号1〜27のいずれかで表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、からなるポリヌクレオチド、その相補的配列からなるポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、またはそれらの19以上の連続した塩基を含む断片である、上記のキットを提供する。
【0021】
さらに別の実施形態において、上記ポリヌクレオチドが、別個に又は任意に組み合わせて異なる容器に包装されている、上記のキットを提供する。
【0022】
本発明は、第3の態様において、上記のいずれかに記載の(a)〜(e)に示すポリヌクレオチド、その変異体および/又はその断片の1または2以上を含む、膀胱ガン診断用DNAチップを提供する。
【0023】
その実施形態において、上記DNAチップは、上記の(f)〜(j)のいずれかに示すポリヌクレオチド、その変異体及び/又はその断片の1または2以上をさらに含む。
【0024】
本発明は、第4の態様において、上記のいずれかに記載の組成物、上記のいずれかに記載のキット、上記のいずれかに記載のDNAチップ、又はそれらの組み合わせを用いて、被験者由来の生体試料における標的核酸の発現レベルを測定し、それによって、被験者由来の検体試料中に膀胱ガン由来の標的核酸が存在しているかどうかをin vitroで判定することを含む、膀胱ガンの検出方法を提供する。
その実施形態において、本発明は、DNAチップを用いる上記の方法を提供する。
【0025】
本発明は、第5の態様において、上記のいずれかの組成物、上記のいずれかのキット、上記のいずれかのDNAチップ、又はそれらの組み合わせを用いて、膀胱ガン患者由来の検体試料であるまたは非膀胱ガン患者由来の検体試料であることが既知の複数の生体試料中の標的核酸の発現量をin vitroで測定する第1の工程、前記第1の工程で得られた該標的核酸の発現量の測定値を教師とした判別式(サポートベクターマシーン)を作成する第2の工程、被験者由来の検体試料中の該標的核酸の発現量を第1の工程と同様にin vitroで測定する第3の工程、前記第2の工程で得られた判別式に第3の工程で得られた該標的核酸の発現量の測定値を代入し、該判別式から得られた結果に基づいて、被験者由来の検体試料中に膀胱ガン由来の遺伝子が存在していることを判定する第4の工程を含む、膀胱ガンの検査方法を提供する。
【0026】
本発明は、第6の態様において、上記のいずれかの組成物、上記のいずれかのキット、又は上記のいずれかのDNAチップの、被験者由来の検体試料中に膀胱ガン由来の遺伝子が存在していること、または膀胱ガン由来の遺伝子が存在していないことをin vitroで判定するための使用を提供する。
【0027】
2.定義
本明細書中で使用する用語は、以下の定義を有する。
ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、DNA、RNAなどの略号による表示は、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)及び当技術分野における慣用に従うものとする。
【0028】
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNA及びDNAのいずれも包含する核酸に対して用いられる。なお、上記DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAのいずれもが含まれる。また上記RNAには、total RNA、mRNA、rRNA、miRNA、siRNA、snoRNA、snRNA、non−coding RNA及び合成RNAのいずれもが含まれる。また、本明細書では、ポリヌクレオチドは核酸と互換的に使用される。
【0029】
本明細書において「遺伝子」とは、RNA、および2本鎖DNAのみならず、それを構成する正鎖(又はセンス鎖)又は相補鎖(又はアンチセンス鎖)などの各1本鎖DNAを包含することを意図して用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。
【0030】
従って、本明細書において「遺伝子」は、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNA、cDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)、該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、及びこれらの断片、およびヒトゲノムのいずれも含む。また該「遺伝子」は特定の塩基配列(又は配列番号)で示される「遺伝子」だけではなく、これらによってコードされるRNAと生物学的機能が同等であるRNA、例えば同族体(すなわち、ホモログ)、遺伝子多型などの変異体、及び誘導体をコードする「核酸」が包含される。かかる同族体、変異体又は誘導体をコードする「核酸」としては、具体的には、後に記載したストリンジェントな条件下で、上記の配列番号1〜28で示されるいずれかの塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「核酸」を挙げることができる。なお、「遺伝子」は、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン又はイントロンを含むことができる。また、「遺伝子」は細胞に含まれていてもよく、細胞外に放出されて単独で存在していてもよく、またエキソソームと呼ばれる脂質二重膜に包まれた小胞に内包された状態にあってもよい。
【0031】
エキソソームとは、細胞から分泌される小さな小胞である。エキソソームは、多胞エンドソームに由来し、細胞膜と融合することによって内部の小胞を細胞外環境に放出するが、その際に小胞中にRNA、DNA等の「遺伝子」を含むことがある。エキソソームは血液、血清、血漿、尿、リンパ液等の体液に含まれることが知られている。
【0032】
本明細書において「転写産物」とは、遺伝子のDNA配列を鋳型にして合成されたRNAのことをいう。RNAポリメラーゼが遺伝子の上流にあるプロモーターと呼ばれる部位に結合し、DNAの塩基配列に相補的になるように3'末端にリボヌクレオチドを結合させていく形でRNAが合成される。このRNAには遺伝子そのもののみならず、発現制御領域、コード領域、エキソン又はイントロンをはじめとする転写開始点からポリA配列の末端にいたるまでの全配列が含まれる。
【0033】
また、本明細書において「マイクロRNA(miRNA)」は、特に言及しない限り、ヘアピン様構造のRNA前駆体として転写され、RNase III切断活性を有するdsRNA切断酵素により切断され、RISCと称するタンパク質複合体に取り込まれ、mRNAの翻訳抑制に関与する15〜25塩基、好ましくは19〜24塩基、の非コーディングRNAを意図して用いられる。また本明細書で使用する「miRNA」は、特定の塩基配列(又は配列番号)で示される「miRNA」だけではなく、該「miRNA」の前駆体(pre−miRNA、pri−miRNA)を含有し、これらによってコードされるmiRNAと生物学的機能が同等であるmiRNA、例えば同族体(すなわち、ホモログ)、遺伝子多型などの変異体、及び誘導体をコードする「miRNA」も包含する。かかる前駆体、同族体、変異体又は誘導体をコードする「miRNA」としては、具体的には、miRBase release13(http://www.mirbase.org/)により同定することができ、後に記載したストリンジェントな条件下で、上記の配列番号1〜27で示されるいずれかの特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「miRNA」を挙げることができる。
【0034】
本明細書において「プローブ」とは、遺伝子の発現によって生じたRNA又はそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に検出するために使用されるポリヌクレオチド及び/又はそれに相補的なポリヌクレオチドを包含する。
【0035】
本明細書において「プライマー」とは、遺伝子の発現によって生じたRNA又はそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に認識し、増幅する、連続するポリヌクレオチド及び/又はそれに相補的なポリヌクレオチドを包含する。
【0036】
ここで相補的なポリヌクレオチド(相補鎖、逆鎖)とは、配列番号によって定義される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、からなるポリヌクレオチドの全長配列、又はその部分配列、(ここでは便宜上、これを正鎖と呼ぶ)に対してA:T(U)、G:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味する。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズできる程度の相補関係を有するものであってもよい。
【0037】
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、プローブが他の配列に対するよりも、検出可能により大きな程度(例えばバックグラウンド測定値の平均+バックグラウンド測定値の標準誤差x2以上の測定値)で、その標的配列に対してハイブリダイズする条件をいう。ストリンジェントな条件は配列依存性であり、ハイブリダイゼーションが行われる環境によって異なる。ハイブリダイゼーション及び/又は洗浄条件のストリンジェンシーを制御することにより、プローブに対して100%相補的である標的配列が同定され得る。
【0038】
本明細書において「変異体」とは、核酸の場合、多型性、突然変異などに起因した天然の変異体、あるいは配列番号1〜27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、又はその部分配列において1、2もしくは3又はそれ以上、好ましくは1もしくは2個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を含む変異体、あるいは配列番号1〜27のmiRNAの前駆体RNAの塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、又はその部分配列において1又は2以上、好ましくは1又は数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を含む変異体、あるいは該塩基配列の各々又はその部分配列と約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上の%同一性を示す変異体、あるいは該塩基配列又はその部分配列を含むポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドと上記定義のストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸を意味する。
【0039】
本明細書において「数個」とは、約20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3又は2個の整数を意味する。
本明細書において、変異体は、部位特異的突然変異誘発法、PCR法を利用した突然変
異導入法などの周知の技術を用いて作製可能である。
【0040】
本明細書において「%同一性」は、上記のBLASTやFASTAによるタンパク質又は遺伝子の検索システムを用いて、ギャップを導入して、又はギャップを導入しないで、決定することができる(Karlin,S.ら、1993年、Proceedings of the National Academic Sciences U.S.A.、第90巻、p.5873-5877;Altschul,S.F.ら、1990年、Journal of Molecular Biology、第215巻、p.403−410;Pearson,W.R.ら、1988年、Proceedings of the National Academic Sciences U.S.A.、第85巻、p.2444-2448)。
【0041】
本明細書において「誘導体」とは、核酸の場合、蛍光団などによるラベル化誘導体、修飾ヌクレオチド(例えばハロゲン、メチルなどのアルキル、メトキシなどのアルコキシ、チオ、カルボキシメチルなどの基を含むヌクレオチド及び塩基の再構成、二重結合の飽和、脱アミノ化、酸素分子の硫黄分子への置換などを受けたヌクレオチドなど)を含む誘導体、PNA(peptide nucleic acid; Nielsen, P.E. et al., 1991, Science 254:1497)、LNA(locked nucleic acid; Obika, S. et al., 1998, Tetrahedron Lett. 39:5401)などを意味する。
【0042】
本明細書において「診断(又は検出又は判定)用組成物」とは、膀胱ガンの罹患の有無、罹患の程度もしくは改善の有無や改善の程度を診断するために、また膀胱ガンの予防、改善又は治療に有用な候補物質をスクリーニングするために、直接又は間接的に利用されるものをいう。これには膀胱ガンの罹患に関連して生体内、特に膀胱組織において発現が変動する遺伝子を特異的に認識し、また結合することのできるヌクレオチド、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドが包含される。これらのヌクレオチド、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドは、上記性質に基づいて生体内、組織や細胞内などで発現した上記遺伝子を検出するためのプローブとして、また生体内で発現した上記遺伝子を増幅するためのプライマーとして有効に利用することができる。
【0043】
本明細書において検出・診断対象となる「検体試料」とは、膀胱ガンの発生にともない本発明の遺伝子が発現変化する生体組織およびそれら生体組織由来の物質、生体組織と接触する物質を指し、具体的には膀胱組織、膀胱上皮細胞、尿、皮膚、血液、唾液、汗、組織浸出液などの体液、その他、便、毛髪などを指す。
【0044】
本明細書において「尿細胞診」とは、尿中の剥離細胞を採取し、染色して異型度を評価する膀胱ガン診断の方法を意味する。具体的には、自然尿、導尿あるいは膀胱洗浄液を用いて遠沈法(遠心管で1500回転、10分)にて集細胞を行い、パパニコロー(Papanicolaou)染色にて永久標本を作成し、悪性度を5段階に分けてクラス1、2を陰性、クラス3を疑陽性、クラス4、5を陽性と評価する方法である。尿細胞診は手軽で、市中の一般病院でも簡単に実施できるため汎用されているが、感度が低く、さらに膀胱ガンの確定診断を行うためには膀胱鏡による検査が必要になる。
【0045】
本明細書において「膀胱鏡検査」とは、膀胱鏡内視鏡を用いて膀胱内の腫瘍の数、大きさ、発生部位や腫瘍の形態(表面的性状、腫瘍基部の性状)を評価して膀胱ガンの確定診断を行う方法を意味する。膀胱鏡検査は検査時に痛みを伴うなど患者への侵襲性が高く、また検査機器が高価で専門医による判定も必要なため、市中の一般病院では選択されにくい検査法である。
【0046】
本明細書で使用される「AUROC値」とは、受信者動作特性曲線(ROC曲線)下の面積を意味し、患者を陽性群と陰性群に分けるための予測、判定、検出又は診断の方法の精度を測る指標となる。これらの曲線では、評価対象となる方法が示す結果に関して、陽性患者において陽性の結果がでる確率(感度)と、陰性患者において陰性の結果がでる確率(特異性)の逆数がプロットされる。
【0047】
本明細書において、「Leave−one−out crossvalidation法(以下、LOOCV法)」とは、データセットから1つの検体を除いて対象群と被対象群を検定、判別式を作成し、除いた1つの検体で判別式を評価する、これをデータセットすべての検体に対して繰り返した評価の平均を全体の精度とする方法を意味する。
【0048】
本明細書において、「Accuracy」は「膀胱ガン患者を膀胱ガンと正しく予測した回数」と「非膀胱ガン患者を正しく非膀胱ガン患者と予測した回数」の和に対する全症例数の除数を意味する。
【0049】
本明細書で使用される「miR−491−5p遺伝子」又は「miR−491−5p」という用語は、配列番号1に記載のhsa−miR−491−5p遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0002807)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−491−5p遺伝子は、Bentwichら、Nat Genet.、2005年、37巻、p766−770に記載される方法によって得ることができる。
【0050】
本明細書で使用される「miR−92а−2*遺伝子」又は「miR−92а−2*」という用語は、配列番号2に記載のhsa−miR−92а−2*遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0004508)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−92а−2*遺伝子は、Mourelatosら、Genes Dev.、2002年、16巻、p720−728に記載される方法によって得ることができる。
【0051】
本明細書で使用される「miR−658遺伝子」又は「miR−658」という用語は、配列番号3に記載のhsa−miR−658遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT000336)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−658遺伝子は、Cummins JMら、2006年、Proc Natl Acad Sci USA、103巻、p3687−3692に記載される方法によって得ることができる。
【0052】
本明細書で使用される「miR−887遺伝子」又は「miR−887」という用語は、配列番号4に記載のhsa−miR−887遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0004951)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−887遺伝子は、Berezikov Eら、Genome Res.、2006年、16巻、p1289−1298に記載される方法によって得ることができる。
【0053】
本明細書で使用される「miR−671−5p遺伝子」又は「miR−671−5p」という用語は、配列番号5に記載のhsa−miR−671−5p遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0003880)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−671−5p遺伝子は、Berezikov Eら、Genome Res.、2006年、16巻、p1289−1298に記載される方法によって得ることができる。
【0054】
本明細書で使用される「miR−370遺伝子」又は「miR−370」という用語は、配列番号6に記載のhsa−miR−370遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0000722)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−370遺伝子は、Suh MRら、Dev Biol.、2004年、270巻、p488−498に記載される方法によって得ることができる。
【0055】
本明細書で使用される「miR−542−5p遺伝子」又は「miR−542−5p」という用語は、配列番号7に記載のhsa−miR−542−5p遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0003340)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−542−5p遺伝子は、Sewer Aら、BMC Bioinformatics.、2005年、6巻、p267に記載される方法によって得ることができる。
【0056】
本明細書で使用される「miR−150*遺伝子」又は「miR−150*」という用語は、配列番号8に記載のhsa−miR−150*遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0004610)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−150*遺伝子は、Lagos−Quintana Mら、Curr Biol.、2002年、12巻、p735−739に記載される方法によって得ることができる。
【0057】
本明細書で使用される「miR−125а−3p遺伝子」又は「miR−125а−3p」という用語は、配列番号9に記載のhsa−miR−125а−3p遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0004602)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−125а−3p遺伝子は、Lagos−Quintana Mら、Curr Biol.、2002年、12巻、p735−739に記載される方法によって得ることができる。
【0058】
本明細書で使用される「miR−765遺伝子」又は「miR−765」という用語は、配列番号10に記載のhsa−miR−765遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0003945)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−765遺伝子は、Berezikov Eら、Genome Res.、2006年、16巻、p1289−1298に記載される方法によって得ることができる。
【0059】
本明細書で使用される「miR−139−3p遺伝子」又は「miR−139−3p」という用語は、配列番号11に記載のhsa−miR−139−3p遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0004552)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−139−3p遺伝子は、Lagos−Quintana Mら、Curr Biol.、2002年、12巻、p735−739に記載される方法によって得ることができる。
【0060】
本明細書で使用される「miR−125b−1*遺伝子」又は「miR−125b−1*」という用語は、配列番号12に記載のhsa−miR−125b−1*遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0004592)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−125b−1*遺伝子は、Lagos−Quintana Mら、Curr Biol.、2002年、12巻、p735−739に記載される方法によって得ることができる。
【0061】
本明細書で使用される「miR−1207−5p遺伝子」又は「miR−1207−5p」という用語は、配列番号13に記載のhsa−miR−1207−5p遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0005871)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−1207−5p遺伝子は、Huppi Kら、Mol Cancer Res.、2008年、6巻、p212−221に記載される方法によって得ることができる。
【0062】
本明細書で使用される「miR−1296遺伝子」又は「miR−1296」という用語は、配列番号14に記載のhsa−miR−1296遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0005794)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−1296遺伝子は、Berezikov Eら、Genome Res.、2006年、16巻、p1289−1298に記載される方法によって得ることができる。
【0063】
本明細書で使用される「miR−874遺伝子」又は「miR−874」という用語は、配列番号15に記載のhsa−miR−874遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0004911)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−874遺伝子は、Landgraf Pら、Cell.、2007年、129巻、p1401−1414に記載される方法によって得ることができる。
【0064】
本明細書で使用される「miR−92b*遺伝子」又は「miR−92b*」という用語は、配列番号17に記載のhsa−miR−92b*遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0004792)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−92b*遺伝子は、Cummins JMら、Proc Natl Acad Sci USA.、2006年、103巻、p3687−3692に記載される方法によって得ることができる。
【0065】
本明細書で使用される「miR−575遺伝子」又は「miR−575」という用語は、配列番号16に記載のhsa−miR−575遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0003240)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−575遺伝子は、Cummins JMら、Proc Natl Acad Sci USA.、2006年、103巻、p3687−3692に記載される方法によって得ることができる。
【0066】
本明細書で使用される「miR−663遺伝子」又は「miR−663」という用語は、配列番号18に記載のhsa−miR−663遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0003326)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−663遺伝子は、Cummins JMら、Proc Natl Acad Sci USA.、2006年、103巻、p3687−3692に記載される方法によって得ることができる。
【0067】
本明細書で使用される「miR−1909遺伝子」又は「miR−1909」という用語は、配列番号19に記載のhsa−miR−1909遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0007883)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−1909遺伝子は、Bar Mら 、2008年、Stem Cells、26巻、p2496−2505に記載される方法によって得ることができる。
【0068】
本明細書で使用される「miR−1202遺伝子」又は「miR−1202」という用語は、配列番号20に記載のhsa−miR−1202遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0005865)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−1202遺伝子は、Marton Sら、Leukemia.、2008年、22巻、p330−338に記載される方法によって得ることができる。
【0069】
本明細書で使用される「miR−1290遺伝子」又は「miR−1290」という用語は、配列番号21に記載のhsa−miR−1290遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0005880)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−1290遺伝子は、Morin RDら、Genome Res.、2008年、18巻、p610−621に記載される方法によって得ることができる。
【0070】
本明細書で使用される「miR−184遺伝子」又は「miR−184」という用語は、配列番号22に記載のhsa−miR−184遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0000454)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−184遺伝子は、Lagos−Quintana Mら、RNA.、2003年、9巻、p175−179に記載される方法によって得ることができる。
【0071】
本明細書で使用される「miR−135a*遺伝子」又は「miR−135a*」という用語は、配列番号23に記載のhsa−miR−135a*遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0004595)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−135a*遺伝子は、Lagos−Quintana Mら、Curr Biol.、2002年、12巻、p735−739に記載される方法によって得ることができる。
【0072】
本明細書で使用される「miR−1914*遺伝子」又は「miR−1914*」という用語は、配列番号24に記載のhsa−miR−1914*遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0007890)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−1914*遺伝子は、Bar Mら、Stem Cells.、2008年、26巻、p2496−2505に記載される方法によって得ることができる。
【0073】
本明細書で使用される「miR−1236遺伝子」又は「miR−1236」という用語は、配列番号25に記載のhsa−miR−1236遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0005591)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−1236遺伝子は、Berezikov Eら、Mol Cell.、2007年、28巻、p328−336に記載される方法によって得ることができる。
【0074】
本明細書で使用される「miR−1469遺伝子」又は「miR−1469」という用語は、配列番号26に記載のhsa−miR−1469遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0007347)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−1469遺伝子は、Kawaji Hら、BMC Genomics.、2008年、9巻、p157に記載される方法によって得ることができる。
【0075】
本明細書で使用される「miR−149*遺伝子」又は「miR−149*」という用語は、配列番号27に記載のhsa−miR−149*遺伝子(miRbase Accession No.MIMAT0004609)やその他生物種ホモログなどが包含される。hsa−miR−149*遺伝子は、Lagos−Quintana Mら、Curr Biol.、2002年、12巻、p735−739に記載される方法によって得ることができる。
【発明の効果】
【0076】
本発明は、膀胱ガンの診断及び治療に有用な疾患診断用組成物及び該組成物を用いた膀胱ガンの判定(又は検出)方法を提供するものであり、これによって、膀胱ガンに対して特異的かつ高予測率の、及び迅速でかつ簡便な、判定方法を提供するという格別の作用効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】表1に記載の遺伝子を決定するための解析の流れを示す。
【図2】表1に記載の遺伝子に対応する配列番号1〜27のポリヌクレオチドを組み合わせて用いた場合の膀胱ガンの判別確率を示す。縦軸は膀胱ガンの判別に対するAUROC値、横軸は表1に記載の遺伝子に対応する配列番号1〜27において、78症例の膀胱ガン患者/健常者に対してLOOCV法によるSVM法を用いた場合の膀胱ガンの検出に必要な遺伝子の合計数をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0078】
以下に本発明をさらに具体的に説明する
1.膀胱ガンの標的核酸
本発明の上記定義の膀胱ガン診断用組成物及びキットを使用して膀胱ガン又は膀胱ガン細胞の存在及び/又は不存在を判定するための膀胱ガンマーカーとしての標的核酸には、例えば、配列番号1〜27で表される塩基配列を含むヒト遺伝子(すなわち、それぞれ、miR−491−5p、miR−92a−2*、miR−658、miR−887、miR−671−5p、miR−370、miR−542−5p、miR−150*、miR−125a−3p、miR−765、miR−139−3p、miR−125b−1*、miR−1207−5p、miR−1296、miR−874、miR−92b*、miR−575、miR−663、miR−1909、miR−1202、miR−1290、miR−184、miR−135a*、miR−1914*、miR−1236、miR−1469、miR−149*)、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体が含まれる。ここで、遺伝子、同族体、転写産物、変異体及び誘導体は、上記定義のとおりである。好ましい標的核酸は、配列番号1〜27で表される塩基配列を含むヒト遺伝子、それらの転写産物、より好ましくは該転写産物、すなわちmiRNA、その前駆体RNAであるpriRNAおよびpreRNAである。
【0079】
本発明において膀胱ガンの標的となる上記遺伝子はいずれも、健常な被験者と比べて膀胱ガンに罹患した被験者において発現レベルが増加/低下しているものである(後述の実施例の表1参照)。
【0080】
第1の標的核酸は、miR−491−5p遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−491−5p遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0081】
第2の標的核酸は、miR−92a−2*遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−92a−2*遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0082】
第3の標的核酸は、miR−658遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−658遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0083】
第4の標的核酸は、miR−887遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−887遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0084】
第5の標的核酸は、miR−671−5p遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−671−5p遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0085】
第6の標的核酸は、miR−370遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−370遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0086】
第7の標的核酸は、miR−542−5p遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−542−5p遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0087】
第8の標的核酸は、miR−150*遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−150*遺伝子は膀胱ガンのマーカーとなることが知られている(特開2009−100687号公報)。
【0088】
第9の標的核酸は、miR−125a−3p遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。miR−125a−3p遺伝子は膀胱ガンのマーカーとなることが知られている(WO/2008/004377)。
【0089】
第10の標的核酸は、miR−765遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−765遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0090】
第11の標的核酸は、miR−139−3p遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−139−3p遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0091】
第12の標的核酸は、miR−125b−1*遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。miR−125b−1*遺伝子は膀胱ガンのマーカーとなることが知られている(特開2009−100687号公報)。
【0092】
第13の標的核酸は、miR−1207−5p遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−1207−5p遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0093】
第14の標的核酸は、miR−1296遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−1296遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0094】
第15の標的核酸は、miR−874遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−874遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0095】
第16の標的核酸は、miR−92b*遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−92b*遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0096】
第17の標的核酸は、miR−575遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−575遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0097】
第18の標的核酸は、miR−663遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−663遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0098】
第19の標的核酸は、miR−1909遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−1909遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0099】
第20の標的核酸は、miR−1202遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−1202遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0100】
第21の標的核酸は、miR−1290遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−1290遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0101】
第22の標的核酸は、miR−184遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−184遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0102】
第23の標的核酸は、miR−135a*遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−135a*遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0103】
第24の標的核酸は、miR−1914*遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−1914*遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0104】
第25の標的核酸は、miR−1236遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−1236遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0105】
第26の標的核酸は、miR−1469遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−1469遺伝子又はその転写産物の発現の増加が膀胱ガンのマーカーになりうるという報告は知られていない。
【0106】
第27の標的核酸は、miR−149*遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでにmiR−149*遺伝子は膀胱ガンのマーカーとなることが知られている(WO/2008/104984)。
【0107】
2.膀胱ガン診断用組成物
本発明において、膀胱ガンを判定するための、あるいは膀胱ガンを診断するために使用可能な核酸組成物は、膀胱ガンの標的核酸としての、ヒト由来の、miR−491−5p、miR−92a−2*、miR−658、miR−887、miR−671−5p、miR−370、miR−542−5p、miR−150*、miR−125a−3p、miR−765、miR−139−3p、miR−125b−1*、miR−1207−5p、miR−1296、miR−874、miR−92b*、miR−575、miR−663、miR−1909、miR−1202、miR−1290、miR−184、miR−135a*、miR−1914*、miR−1236、miR−1469、miR−149*、それらの同族体、それらの転写産物あるいはそれらの変異体又は誘導体の存在、発現レベル又は存在量を定性的及び/又は定量的に測定することを可能にする。
【0108】
上記の標的核酸は、健常な被験者と比べて膀胱ガンに罹患した被験者においてその発現レベルが増加又は低下(「増加/低下」)する。それゆえ、本発明の組成物は、膀胱ガン組織と正常膀胱組織について標的核酸の発現レベルを測定し、それらを比較するために有効に使用することができる。
【0109】
本発明で使用可能な組成物は、膀胱ガンに罹患した患者の生体組織において配列番号1〜27で表される塩基配列、あるいは該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド群及びその相補的ポリヌクレオチド群、該塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でそれぞれハイブリダイズするポリヌクレオチド群及びその相補的ポリヌクレオチド群、ならびにそれらのポリヌクレオチド群の塩基配列において15以上、好ましくは19以上、より好ましくは21以上の連続した塩基を含むポリヌクレオチド群から選ばれた1又は複数のポリヌクレオチドの組み合わせを含む。これらのポリヌクレオチドは、標的核酸である上記膀胱ガンマーカーを検出するためのプローブおよびプライマーとして使用できる。
【0110】
具体的には、本発明の組成物は、以下の1又は複数のポリヌクレオチド又はその断片を含むことができる。
(1)配列番号1〜27で表される塩基配列、あるいは該塩基配列においてuがtである塩基配列、からなるポリヌクレオチド群、それらの変異体、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(2)配列番号1〜27で表される塩基配列、あるいは該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド群。
(3)配列番号1〜27で表される塩基配列、あるいは該塩基配列においてuがtである塩基配列、に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド群、それらの変異体、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(4)配列番号1〜27で表される塩基配列、あるいは該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド群。
(5)配列番号1〜27で表される塩基配列においてuがtである塩基配列の各々と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド群、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(6) 配列番号1〜27で表される塩基配列においてuがtである塩基配列の各々からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド群、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
【0111】
(7)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、あるいは該塩基配列においてuがtである塩基配列、からなるポリヌクレオチド群、それらの変異体、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(8)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、あるいは該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド群。
(9)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、あるいは該塩基配列においてuがtである塩基配列、に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド群、それらの変異体、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(10)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、あるいは該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド群。
【0112】
(11)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列においてuがtである塩基配列の各々と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド群、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(12) 配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列においてuがtである塩基配列の各々からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド群、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(13)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、あるいは該塩基配列においてuがtである塩基配列、からなるポリヌクレオチド群、それらの変異体、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(14)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、あるいは該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド群。
(15)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、あるいは該塩基配列においてuがtである塩基配列、に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド群、それらの変異体、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(16)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、あるいは該塩基配列においてuがtである塩基配列、に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド群。
【0113】
(17)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列においてuがtである塩基配列の各々と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド群、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(18) 配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列においてuがtである塩基配列の各々からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド群、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
【0114】
上記(1)〜(18)のポリヌクレオチドの断片は、各ポリヌクレオチドの塩基配列において、例えば、連続する15〜配列の全塩基数、15〜20塩基、15〜23塩基などの範囲の塩基数を含むことができるが、これらに限定されないものとする。
【0115】
本発明で使用される上記ポリヌクレオチド類又はその断片類はいずれもDNAでもよいしRNAでもよい。
【0116】
本発明の組成物としてのポリヌクレオチドは、DNA組換え技術、PCR法、DNA/RNA自動合成機による方法などの一般的な技術を用いて作製することができる。
【0117】
DNA組換え技術及びPCR法は、例えばAusubelら, Current Protocols in Molecular Biology, John Willey & Sons, US (1993); Sambrookら, Molecular Cloning A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, US (1989)などに記載される技術を使用することができる。
【0118】
ヒト由来の、miR−491−5p、miR−92a−2*、miR−658、miR−887、miR−671−5p、miR−370、miR−542−5p、miR−150*、miR−125a−3p、miR−765、miR−139−3p、miR−125b−1*、miR−1207−5p、miR−1296、miR−874、miR−92b*、miR−575、miR−663、miR−1909、miR−1202、miR−1290、miR−184、miR−135a*、miR−1914*、miR−1236、miR−1469、及びmiR−149*は公知であり、前述のようにその取得方法も知られている。このため、これらの遺伝子をクローニングすることによって、本発明の組成物としてのポリヌクレオチドを作製することができる。
【0119】
本発明の組成物を構成するポリヌクレオチドは、DNA自動合成装置を用いて化学的に合成することができる。この合成には一般にホスホアミダイト法が使用され、この方法によって約100塩基までの一本鎖DNAを自動合成することができる。DNA自動合成装置は、例えばPolygen社、ABI社、Applied BioSystems社などから市販されている。
【0120】
あるいは、本発明のポリヌクレオチドは、cDNAクローニング法によって作製することもできる。cDNAクローニング技術は、例えばmicroRNA Cloning Kit Wakoなどを利用できる。
【0121】
3.膀胱ガン診断用キット
本発明はまた、本発明の組成物に含まれるものと同じポリヌクレオチド、その変異体及び/又はその断片の1つ又は複数を含む膀胱ガン診断(検出)用キットを提供する。
【0122】
本発明のキットは、好ましくは、上記2に記載したポリヌクレオチド類から選択される1又は複数のポリヌクレオチド又はその断片を含む。
【0123】
本発明のキットは、配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド、その相補的配列を含むポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、又はそれらのポリヌクレオチドの断片を1以上含むことができる。
【0124】
本発明のキットは、さらに配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド、その相補的配列を含むポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、又はそれらのポリヌクレオチドの断片を1以上含むことができる。
【0125】
本発明のキットに含むことができるポリヌクレオチド断片は、例えば下記の(1)〜(2)からなる群より選択される1以上、好ましくは2以上のDNAである:
(1)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列においてuがtである塩基配列又はその相補的配列において、19以上の連続した塩基を含むDNA。
(2)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列においてuがtである塩基配列又はその相補的配列において、及び配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列においてuがtである塩基配列又はその相補的配列において、それぞれ19以上の連続した塩基を含むDNA。
【0126】
好ましい実施形態では、前記ポリヌクレオチドが、配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、からなるポリヌクレオチド、その相補的配列からなるポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、又はそれらの19以上、好ましくは21以上の連続した塩基を含む断片である。
【0127】
別の好ましい実施形態では、本発明のキットは、上記のポリヌクレオチドに加えて、配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、からなるポリヌクレオチド、その相補的配列からなるポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、又はそれらの19以上の連続した塩基を含む断片をさらに含むことができる。
【0128】
好ましい実施形態では、前記断片は、19以上、好ましくは21以上の連続した塩基を含むポリヌクレオチドであることができる。
【0129】
上記の組み合わせの例は、配列番号1〜27に示した塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、又はその相補的配列を含むポリヌクレオド、それらのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドについて、後述の表1に示す遺伝子の優先順位(第1番目から第27番目まで)の高い方から順番に遺伝子を組み合わせることである。
【0130】
本発明において、ポリヌクレオチドの断片のサイズは、各ポリヌクレオチドの塩基配列において、例えば、連続する19〜配列の全塩基数、21〜24塩基などの範囲の塩基数である。
【0131】
本発明のキットを構成する上記の組み合わせは、あくまでも例示であり、他の種々の可能な組み合わせのすべてが本発明に包含されるものとする。
【0132】
本発明のキットには、上で説明した本発明におけるポリヌクレオチド、その変異体又はその断片に加えて、膀胱ガン診断を可能とする既知の又は将来見出されるポリヌクレオチドも包含させることができる。
【0133】
本発明のキットに含まれるポリヌクレオチド、その変異体又はその断片は、個別に又は任意に組み合わせて異なる容器に包装される。
【0134】
4.DNAチップ
本発明はさらに、本発明の組成物及び/又はキットに含まれるものと同じポリヌクレオチド(或いは、上記の3.1節の組成物及び/又は4節のキットに記載されたポリヌクレオチド)、変異体、断片及びそれらの組み合わせを含む膀胱ガン診断用DNAチップを提供する。
【0135】
DNAチップの基板としては、DNAを固相化できるものであれば特に制限はなく、スライドガラス、シリコン製チップ、ポリマー製チップ及びナイロンメンブレンなどを例示することができる。またこれらの基板にはポリLリジンコートやアミノ基、カルボキシル基などの官能基導入などの表面処理がされていてもよい。
【0136】
また固相化法については一般に用いられる方法であれば特に制限はなく、スポッター又はアレイヤーと呼ばれる高密度分注機を用いてDNAをスポットする方法や、ノズルより微少な液滴を圧電素子などにより噴射する装置(インクジェット)を用いてDNAを基板に吹き付ける方法、又は基板上で順次ヌクレオチド合成を行う方法を例示することができる。高密度分注機を用いる場合には、例えば多数のウェルを持つプレートのおのおののウェルに異なった遺伝子溶液を入れておき、この溶液をピン(針)で取り上げて基板上に順番にスポットすることによる。インクジェット法では、ノズルより遺伝子を噴射し,基板上に高速度で遺伝子を整列配置することによる。基板上でのDNA合成は、基板上に結合した塩基を光又は熱によって脱離する官能基で保護し、マスクを用いることにより特定部位の塩基だけに光又は熱を当て、官能基を脱離させる。その後、塩基を反応液に加えて、基板上の塩基とカップリングさせる工程を繰り返すことによって行われる。
【0137】
固相化されるポリヌクレオチドは、上記で説明した本発明の全てのポリヌクレオチドである。
【0138】
例えば、そのようなポリヌクレオチドは、以下の1又は複数のポリヌクレオチド又はその断片を含むことができる。
(1)配列番号1〜27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、からなるポリヌクレオチド群、それらの変異体、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(2)配列番号1〜27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド群。
(3)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、からなるポリヌクレオチド群、それらの変異体、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(4)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド群、それらの変異体、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(5)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド群、それらの変異体、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(6)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド群。
【0139】
(7)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列においてuがtである塩基配列の各々と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド群、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(8)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列においてuがtである塩基配列の各々からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド群、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(9)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、からなるポリヌクレオチド群、それらの変異体、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(10)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド群、それらの変異体、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(11)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド群、それらの変異体、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
【0140】
(12)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド群。
(13)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列においてuがtである塩基配列の各々と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド群、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(14) 配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列においてuがtである塩基配列の各々からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド群、又は19以上の連続した塩基を含むそれらの断片。
(15) 配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、又はその相補的配列の各々において、19以上の連続した塩基を含むポリヌクレオチド。
(16) 配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、又はその相補的配列の各々において、21以上の連続した塩基を含むポリヌクレオチド。
【0141】
(17) 配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、又はその相補的配列の各々において、19以上の連続した塩基を含むポリヌクレオチド。
(18) 配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、又はその相補的配列の各々において、21以上の連続した塩基を含むポリヌクレオチド。
【0142】
好ましい実施形態によれば、本発明のDNAチップは、配列番号1〜27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、又はその相補的配列を含むポリヌクレオチドの2以上から全部を含むことができる。
【0143】
本発明において、固相化されるポリヌクレオチドは、ゲノムDNA、cDNA、RNA、合成DNA、合成RNAのいずれでもよいし、あるいは1本鎖でもよいし又は2本鎖でもよい。
【0144】
標的遺伝子、RNA又はcDNAの発現レベルを検出、測定することができるDNAチップの例としては、東レ株式会社の3D−Gene(登録商標) Human miRNA Oligo chip、Agilent社のHuman miRNA Microarray Kit(V2)、EXIQON社のmiRCURY LNA(登録商標) microRNA ARRAYなどを挙げることができる。
【0145】
DNAチップの作製について、例えば予め調製したプローブを固相表面に固定化する方法を使用することができる。予め調製したポリヌクレオチドプローブを固相表面に固定化する方法では、官能基を導入したポリヌクレオチドを合成し、表面処理した固相担体表面にオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドを点着し、共有結合させる(例えば、J.B.Lamtureら、Nucleic.Acids.Research、1994年、第22巻、p.2121−2125、Z.Guoら、Nucleic.Acids.Research、1994年、第22巻、p.5456−5465)。ポリヌクレオチドは、一般的には、表面処理した固相担体にスペーサ-やクロスリンカーを介して共有結合される。ガラス表面にポリアクリルアミドゲルの微小片を整列させ、そこに合成ポリヌクレオチドを共有結合させる方法も知られている(G.Yershovら、Proceedings of the National Academic Sciences U.S.A.、1996年、第94巻、p.4913)。また、シリカマイクロアレイ上に微小電極のアレイを作製し、電極上にはストレプトアビジンを含むアガロースの浸透層を設けて反応部位とし、この部位をプラスに荷電させることでビオチン化ポリヌクレオチドを固定し、部位の荷電を制御することで、高速で厳密なハイブリダイゼーションを可能にする方法も知られている(R.G.Sosnowskiら、Proceedings of the National Academic Sciences U.S.A.、1997年、第94巻、p.1119―1123)。
【0146】
DNAチップ解析を利用する場合は、本発明の上記診断用組成物をDNAプローブ(一
本鎖又は二本鎖)として基板に貼り付けたDNAチップを用いる。遺伝子群を基板に固相
化したものには、一般にDNAチップ及びDNAアレイという名称があり、DNAチップ
にはDNAマクロアレイとDNAマイクロアレイが包含されるが、本明細書ではDNAチ
ップといった場合、該DNAアレイを含むものとする。
【0147】
5.膀胱ガンの検出法
本発明は、本発明の組成物、キット、DNAチップ、又はそれらの組み合わせを用いて、検体試料中に膀胱ガン由来の遺伝子が含まれるかどうかをin vitroで判定する方法であって、膀胱ガン患者および非膀胱ガン患者から採取した尿等の検体試料を用いて、試料中の発現遺伝子量を比較して、該検体試料中の標的核酸の発現量が増加/低下している場合、該検体試料中に膀胱ガン由来の遺伝子が存在すると判定することを含み、ここで、該標的核酸が該組成物、キット又はDNAチップに含まれるポリヌクレオチド、その変異体又はその断片によって検出可能なものである、方法を提供する。
【0148】
本明細書で使用する「判定」という用語は、検査、測定、評価、又は、判定支援という用語で置換しうる。
【0149】
本発明はまた、本発明の組成物、組成物の遺伝子発現量を測定することによって構成されるキット又はDNAチップの、膀胱ガンをin vitroで判定するための使用を提供する。
【0150】
本発明の上記方法にて、尿等の検体試料から膀胱ガン由来の遺伝子の検出、判定または診断を行うことにより、非侵襲的に感度および特異度の高い、ガンの早期診断が可能になるだけでなく、早期の治療および予後の改善をもたらし、さらに、疾病憎悪のモニターや外科的、放射線療法的、および化学療法的な治療の有効性のモニターを可能にする方法を提供する。
【0151】
本発明の尿等の検体試料から膀胱ガン由来の遺伝子を抽出する方法としては、尿等の検体試料に、緩衝・RNA保護効果をもたらす試薬として酢酸ナトリウム、2−メルカプトエタノールおよびエタチンメイトなどを加えた上に、グアニジンチオシアン酸塩とN−ラウロイルサルコシンナトリウムを加えてタンパク質を変性し、RNA分解酵素を抑制することでRNAの分解を防ぐとともに尿中の細胞を溶解し、その後、常法に従いtotalRNAを調製してもよいし、Trizol(life technologies社)やIsogen(ニッポンジーン社)などの酸性フェノールを含むRNA抽出用試薬を加えて調製してもよい。さらに、ZR Urine RNA Isolation Kit(登録商標)(Zymo Research社)などを利用できるが、この方法に限定されない。
本発明はまた、本発明の組成物、キット又はDNAチップの、被験者由来の検体試料中の膀胱ガン由来の遺伝子のin vivo検出のための使用を提供する。
【0152】
本発明の上記方法において、組成物、キット又はDNAチップは、上で説明したような、本発明のポリヌクレオチド、その変異体又はその断片を単一であるいはあらゆる可能な組み合わせで含むものが使用される。
【0153】
本発明の膀胱ガンの検出、判定又は(遺伝子)診断において、本発明の組成物、キット又はDNAチップに含まれるポリヌクレオチド、その変異体又はその断片は、プライマーとして又はプローブとして用いることができる。プライマーとして用いる場合には、Life Technologies社のTaqMan(登録商標) MicroRNA Assaysなどを利用できるが、この方法に限定されない。
【0154】
本発明の組成物又はキットに含まれるポリヌクレオチド、その変異体又はその断片は、ノーザンブロット法、サザンブロット法、RT−PCR法、in situ ハイブリダイゼーション法、サザンハイブリダイゼーション法などの、特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法において、定法に従ってプライマー又はプローブとして利用することができる。測定対象試料としては、使用する検出方法の種類に応じて、被験者の膀胱のガン病変部、及び正常組織部の一部又は全部をバイオプシーなどで採取するか、もしくは手術によって摘出した生体組織から回収するか、または被験者の尿等の生体組織を採取する。さらにそこから常法に従って調製したtotal RNAを用いてもよいし、さらに該RNAをもとにして調製される、cDNAを含む各種のポリヌクレオチドを用いてもよい。
【0155】
あるいは、生体組織における本発明の遺伝子、RNA、cDNAなどの核酸の発現量は、DNAチップ(DNAマクロアレイを含む)を用いて検出あるいは定量することができる。この場合、本発明の組成物又はキットはDNAアレイのプローブとして使用することができる。かかるDNAアレイを生体組織から採取したRNAをもとに調製される標識DNA又はRNAとハイブリダイズさせ、該ハイブリダイズによって形成された上記プローブと標識DNA又はRNAとの複合体を、該標識DNA又はRNAの標識を指標として検出することにより、生体組織中での本発明膀胱ガン関連遺伝子の発現の有無又は発現レベル(発現量)を評価することができる。本発明の方法では、DNAチップを好ましく使用できるが、これは、ひとつの生体試料について同時に複数遺伝子の発現の有無又は発現レベルの評価が可能である。
【0156】
本発明の組成物、キット又はDNAチップは、膀胱ガンの診断、判定又は検出(罹患の有無や罹患の程度の診断)のために有用である。具体的には、該組成物、キット又はDNAチップを使用した膀胱ガンの診断は、手術時又は内視鏡検査時に採取した膀胱ガン組織の膀胱ガン患者由来の膀胱ガン細胞と非膀胱ガン細胞、及び/または膀胱ガン患者と非膀胱ガン患者由来の尿を用いて、試料中の発現遺伝子量を比較、又は手術時又は内視鏡検査時に採取した膀胱ガン組織の膀胱ガン患者由来の膀胱ガン細胞と非膀胱ガン細胞、及び/または膀胱ガン患者と非膀胱ガン患者由来の尿と同等の生体組織との比較を行い、該診断用組成物で検出される遺伝子の発現レベルの違いを判定することによって行うことができる。この場合、遺伝子発現レベルの違いには、発現の有無だけではなく、膀胱ガン患者由来の生体組織と非膀胱ガン患者由来の生体組織の両者ともに発現がある場合でも、両者間の発現量を比較した時の差がある場合が含まれる。例えばmiR−1909遺伝子は膀胱ガンで発現誘導/減少を示すので、被験者の生体組織では発現/減少しており、該発現量と正常組織の発現量と比べて差があれば、試料中に膀胱ガン由来の遺伝子が含まれないこと/又は膀胱ガン由来の遺伝子が含まれることを判定できる。
【0157】
本発明の組成物、キット又はDNAチップを利用した検体試料中に膀胱ガン由来の遺伝子が含まれないこと/又は膀胱ガン由来の遺伝子が含まれることの検出方法は、被験者の生体組織の一部又は全部をバイオプシーなどで採取するか、手術によって摘出した生体組織から回収するか、被験者の尿を採取して、そこに含まれる遺伝子を、本発明のポリヌクレオチド群から選ばれた単数又は複数のポリヌクレオチド、その変異体又はその断片を用いて検出し、その遺伝子発現量を測定することにより、膀胱ガンの有無又はその程度を診断することを含む。また本発明の膀胱ガンの検出方法は、例えば膀胱ガン患者において、該疾患の改善のために治療薬を投与した場合における該疾患の改善の有無又はその程度を検出、判定又は診断することもできる。
【0158】
本発明の方法は、例えば以下の(a)、(b)及び(c)の工程:
(a)被験者由来の検体試料を、本発明の組成物、キット又はDNAチップのポリヌクレオチドと接触させる工程、
(b)生体試料中の標的核酸の発現レベルを、上記ポリヌクレオチドをプローブとして用いて測定する工程、
(c)(b)の結果をもとに、該検体試料中の膀胱ガン(細胞)の存在又は不存在を判定する工程、
を含むことができる。
【0159】
本発明方法で用いられる検体試料としては、被験者の生体組織、例えば膀胱組織及びその周辺組織、膀胱ガンが疑われる組織、尿など、から調製される試料を挙げることができる。具体的には該組織から調製されるRNA含有試料、或いはそれからさらに調製されるポリヌクレオチドを含む試料は、被験者の生体組織の一部又は全部をバイオプシーなどで採取するか、手術によって摘出した生体組織から回収するか、もしくは尿を採取し、そこから常法に従って調製することができる。
【0160】
ここで被験者とは、哺乳動物、例えば非限定的にヒト、サル、マウス、ラットなどを指し、好ましくはヒトである。
【0161】
本発明の方法は、測定対象として用いる生体試料の種類に応じて工程を変更することができる。
【0162】
測定対象物としてRNAを利用する場合、膀胱ガン(細胞)の検出は、例えば下記の工程(a)、(b)及び(c):
(a)被験者の生体試料から調製されたRNA又はそれから転写された相補的ポリヌクレオチド(cDNA)を、本発明の組成物、キット又はDNAチップのポリヌクレオチドと結合させる工程、
(b) 該ポリヌクレオチドに結合した生体試料由来のRNA又は該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドを、上記ポリヌクレオチドをプローブとして用いて測定する工程、
(c) 上記(b)の測定結果に基づいて、膀胱ガン(由来の遺伝子)の存在又は不存在を判定する工程、
を含むことができる。
【0163】
本発明によって膀胱ガン(由来の遺伝子)を検出、判定又は診断するために、例えば種々のハイブリダイゼーション法を使用することができる。かようなハイブリダイゼーション法には、例えばノーザンブロット法、サザンブロット法、RT−PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション法、サザンハイブリダイゼーション法などを使用することができる。
【0164】
ノーザンブロット法を利用する場合は、本発明の診断用組成物をプローブとして用いることによって、RNA中の各遺伝子発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、本発明の診断用組成物(相補鎖)を放射性同位元素(32P、33P、35Sなど)や蛍光物質などで標識し、それを常法にしたがってナイロンメンブレンなどにトランスファーした被検者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせたのち、形成された診断用組成物(DNA)とRNAとの二重鎖を診断用組成物の標識物(放射性同位元素又は蛍光物質)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS-1800II、富士写真フィルム株式会社、などを例示できる)又は蛍光検出器(STORM860、GEヘルスケア社、などを例示できる)で検出、測定する方法を例示することができる。
【0165】
定量RT―PCR法を利用する場合には、本発明の上記診断用組成物をプライマーとして用いることによって、RNA中の遺伝子発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、被検者の生体組織由来のRNAから常法にしたがってcDNAを調製して、これを鋳型として標的の各遺伝子の領域が増幅できるように、本発明の診断用組成物から調製した1対のプライマー(上記cDNAに結合する正鎖と逆鎖からなる)をcDNAとハイブリダイズさせて常法によりPCR法を行い、得られた二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、二本鎖DNAの検出法としては、上記PCRをあらかじめ放射性同位元素や蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行う方法、PCR産物をアガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドなどで二本鎖DNAを染色して検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法にしたがってナイロンメンブレンなどにトランスファーさせて標識した診断用組成物をプローブとしてこれとハイブリダイズさせて検出する方法をとることができる。
【0166】
DNAアレイ解析を利用する場合は、本発明の上記診断用組成物をDNAプローブ(一本鎖又は二本鎖)として基板に貼り付けたDNAチップを用いる。遺伝子群を基板に固相化したものには、一般にDNAチップ及びDNAアレイという名称があり、DNAアレイにはDNAマクロアレイとDNAマイクロアレイが包含されるが、本明細書ではDNAチップといった場合、該DNAアレイを含むものとする。
【0167】
ハイブリダイゼーション条件は、限定されないが、例えば30℃〜60℃で、SSCと界面活性剤を含む溶液中で1〜24時間の条件とする。ここで、1×SSCは、150mM塩化ナトリウム及び15mMクエン酸ナトリウムを含む水溶液(pH7.2)であり、界面活性剤はSDS、Triton、もしくはTweenなどを含む。ハイブリダイゼーション条件としては、より好ましくは3〜4×SSC、0.1〜0.5% SDSを含む。ハイブリダイゼーション後の洗浄条件としては、例えば、30℃の0.5×SSCと0.1%SDSを含む溶液、及び30℃の0.2×SSCと0.1%SDSを含む溶液、及び30℃の0.05×SSC溶液による連続した洗浄などの条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが望ましい。具体的にはこのような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに該鎖と少なくとも80%好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%の相同性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
【0168】
本発明の組成物又はキットのポリヌクレオチド断片をプライマーとしてPCRを実施する際のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例としては、例えば10mMTris−HCL(pH8.3)、50mMKCL、1〜2mM MgClなどの組成のPCRバッファーを用い、当該プライマーの配列から計算されたTm+5〜10℃において15秒から1分程度処理することなどが挙げられる。かかるTmの計算方法としてTm=2×(アデニン残基数+チミン残基数)+4×(グアニン残基数+シトシン残基数)などが挙げられる。
【0169】
これらのハイブリダイゼーションにおける「ストリンジェントな条件」の他の例については、例えばSambrook, J. & Russel, D. 著、Molecular Cloning, A LABORATORY MANUAL、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001年1月15日発行、の 第1巻7.42〜7.45、第2巻8.9〜8.17などに記載されており、本発明において利用できる。
【0170】
また、定量RT−PCR法を用いる場合には、TaqMan(商標) MicroRNA Assays、Life Technologies社:LNA(商標)−based MicroRNA PCR、Exiqon社:Ncode(商標) miRNA qRT−PCT キット、Invitrogen社などの、miRNAを定量的に測定するために特別に工夫された市販の測定用キットを用いてもよい。
【0171】
本発明はまた、本発明の組成物、キット、DNAチップ、又はそれらの組み合わせを用いて、被験者由来の検体試料中の標的核酸又は遺伝子の発現量を測定し、該遺伝子発現量を用いて教師サンプルとしたサポートベクターマシーンモデルを判別式として、検体試料が膀胱ガン由来の遺伝子を含むこと及び/又は含まないことを判定する方法を提供する。
【0172】
すなわち、本発明はさらに、本発明の組成物、キット、DNAチップ、又はそれらの組み合わせを用いて、検体試料が膀胱ガン由来の遺伝子を含むこと/又は膀胱ガン由来の遺伝子を含まないことを判定することが既知の複数の生体試料中の標的核酸の発現量をin vitroで測定する第1の工程、前記第1の工程で得られた該標的核酸の発現量の測定値を教師サンプルとしたサポートベクターマシーンモデルによる判別式を作成する第2の工程、被験者由来の検体試料中の該標的核酸の発現量を第1の工程と同様にin vitroで測定する第3の工程、前記第2の工程で得られた判別式に第3の工程で得られた該標的核酸の発現量の測定値を代入し、該判別式から得られた結果に基づいて、検体試料が膀胱ガン由来の遺伝子を含むこと/又は膀胱ガン由来の遺伝子を含まないことを判定する第4の工程を含む、ここで、該標的核酸が該組成物、キット又はDNAチップに含まれるポリヌクレオチド、その変異体又はその断片によって検出可能なものである、前記方法を提供する。
【0173】
あるいは、本発明の方法は、例えば下記の工程(a)、(b)及び(c):
(a)膀胱ガン患者由来の膀胱ガン由来遺伝子を含む組織及び/又は非膀胱ガン患者由来の膀胱ガン由来遺伝子を含まない組織であることが既知の生体試料中の標的遺伝子の発現量を、本発明による診断(検出)用組成物、キット又はDNAチップを用いて測定する工程、
(b)(a)で測定された発現量の測定値を、下記の数1〜数5の式に代入して、サポートベクターマシーンモデルと呼ばれる判別式を作成する工程、
(c)被験者由来の検体試料中の該標的遺伝子の発現量を、本発明による診断(検出)用組成物、キット又はDNAチップを用いて測定し、(b)で作成した判別式にそれらを代入して、得られた結果に基づいて検体試料が膀胱ガン由来遺伝子を含むこと及び/又は含まないことを判定する工程、
を含むことができる。
【0174】
サポートベクターマシン法(以下、SVM法)は、1995年にAT&TのV.Vapnikが1995年に考案した判別分析法(The Nature of Statistical Leaning Theory、Springer、1995年)である。分類すべき群分け情報が既知のデータセットの特定のデータ項目を説明変数、分類すべき群分けを目的変数として、該データセットを既知の群分けに正しく分類するための超平面と呼ばれる境界面を決定し、該境界面を用いてデータを分類する判別式を決定する。そして該判別式は、新たに与えられるデータセットの測定値を説明変数として該判別式に代入することにより、群分けを予測することができる。また、このときの予測結果は分類すべき群でも良く、分類すべき群に分類されうる確率でも良く、超平面からの距離でも良い(例えば、麻生英樹ら著、統計科学のフロンテイア6「パターン認識と学習の統計学 新しい概念と手法」、岩波書店(2004年))。
【0175】
本発明のSVM法による判別式の説明変数は、上記2節に記載したポリヌクレオチド類から選択されるポリヌクレオチド又はその断片を測定することによって得られる値を含み、具体的には本発明の膀胱ガンを検出するための説明変数は、例えば下記の(1)〜(2)からなる群より選択される遺伝子発現量である:
(1)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列においてuがtである塩基配列又はその相補的配列において、19以上の連続した塩基を含むDNAのいずれかによって測定される膀胱ガンが疑われる患者由来の検体における遺伝子発現量。
(2)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列においてuがtである塩基配列又はその相補的配列において、19以上の連続した塩基を含むDNAに加えて、配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列においてuがtである塩基配列又はその相補的配列において、それぞれ19以上の連続した塩基をさらに含むDNAのいずれかによって測定される膀胱ガンが疑われる患者由来の検体における遺伝子発現量。
【0176】
本発明の方法で使用可能な判別式の算出例を以下に示す。
まず、膀胱ガン細胞を含むこと/又は含まないことを群分け情報とし、膀胱ガン由来遺伝子を含む生体試料群を示すことを「+1」、膀胱ガン由来遺伝子を含まない生体試料群を示すことを「−1」と設定する。そして、膀胱ガン細胞を含むこと/又は含まないことが既知の膀胱ガン患者由来の生体試料と非膀胱ガン患者由来の生体試料の遺伝子発現量からなるデータセット(以下、教師データ)を取得し、該2群の間で遺伝子発現量に明確な差が見られる遺伝子を説明変数、該群分けを目的変数としたSVM法による判別式を決定することができ(数1)、該判別式は数2で定義される制約条件、及び数3〜5で定義される重み係数(w)とバイアス定数(b)を持つ。
このときの数1〜数5は、以下の式からなる。
【0177】
【数1】

(ここで、xは患者由来の生体試料から得られた網羅的遺伝子発現量からなるデータを示し、xiは該データから選択した特定の遺伝子の発現量を示す。)

【0178】
【数2】

(ここで、Tは内積、yはデータの分類、ζはスラック変数を示す。)
【0179】
【数3】

(数3は数2にLagurangeの未定定数法を用いることで帰着するLagurange定数αを用いた最適化問題を示す。)
【0180】
【数4】

(ここで、Cは実験により決定される制約条件パラメータを示す。)
【0181】
【数5】

【0182】
そして、膀胱ガン細胞を含むかどうか未知の生体試料については、該生体試料における、該判別式で使用する遺伝子の発現量を測定し、それらを該判別式のxiに代入することによって、該2群のいずれに所属するかを予測することができる。
【0183】
以上に示すように、生体試料が膀胱ガン細胞を含む、含まない、のいずれの群に属するかを判定する判定式の作成には、膀胱ガン細胞を含むか、含まない、の2群のいずれに所属するかが既知の患者群由来の生体試料における網羅的発現遺伝子量データセット(これを教師データセットという)から作成した判別式が必要であり、該判別式の予測精度を上げるためには、教師データセット中の2群間に明確な差がある遺伝子を判別式に用いることが必要である。
【0184】
また、判別式の説明変数に用いる遺伝子の決定は、次のように行うことが好ましい。まず、教師データセットである、膀胱ガン細胞を含むことが既知の膀胱ガン患者由来の生体試料の網羅的遺伝子発現量と膀胱ガン細胞を含まないことが既知の膀胱ガン患者由来の生体試料の網羅的遺伝子発現量をデータセットとし、パラメトリック解析であるt−検定のp値、ノンパラメトリック解析であるMann−WhitneyのU検定のp値、又はRankProduct法の順位などを利用して、該2群間における各遺伝子の発現量の差の大きさを求める。
【0185】
次に、ここで求めた遺伝子発現量の差が大きい任意の数の遺伝子を用いた判別式を作成し、この判別式に対し、別の独立の患者の生体試料由来の遺伝子発現量を説明変数に代入して、この独立の患者についての判別結果を算出する。最大の予測精度を得る判別式を構築するためには、この判別式の作成と予測精度の算出を、遺伝子を遺伝子発現量の差の大きい順に一つずつ増やしながら繰り返して評価する。
【0186】
また、該判別式に用いる遺伝子の決定と予測精度の算出には、LOOCV法を用いることが好ましい(図1)。すなわち、まず教師データセットから1つのデータをテストデータとして抜き出し、残りを学習データセットとする。そして、学習データセットを用いて判別式を作成し、該判別式を用いてテストデータが所属する群を予測する。そして、教師データセットから重複せずにテストデータを分けることができる複数の組合せに対して、より好ましくは重複せずにテストデータを分けることができる全ての組合せに対して判別式の予測値を算出し、算出した予測値とテストデータが所属する真の群を用いてAUROC値を算出し、これを予測精度とする。
【0187】
本発明は、膀胱ガンの診断及び治療に有用な疾患診断用組成物、該組成物を用いた膀胱ガンの判定(又は検出)方法、及び該組成物を利用した膀胱ガンの判定(又は検出又は診断)キットを提供することを目的とする。特に、本発明の方法において、例えば、非膀胱ガン患者尿由来の発現遺伝子と比較して膀胱ガン患者尿由来の発現遺伝子量が高い遺伝子から診断用遺伝子の選定を行うことにより、既存の尿からの膀胱ガン診断法を超える精度を示す診断用遺伝子セットおよび診断用アルゴリズムを構築できる。
【0188】
本発明の方法において、例えば、上に記載したような配列番号1〜7、配列番号10〜11、および配列番号13〜26に基づく1以上、好ましくは2以上の上記ポリヌクレオチド、並びに/或いは、上に記載したような配列番号8〜9、12及び27に基づくポリヌクレオチド、の遺伝子発現量を測定する。そして、これらの遺伝子の任意の22種類の遺伝子の組み合わせを用いて、かつ上記の遺伝子がすべて膀胱ガン患者由来の検体試料と非膀胱ガン患者由来の検体試料の間で異なり、膀胱ガン患者由来の検体試料において発現が増加/減少していることを指標にすることにより、検体試料が膀胱ガン由来遺伝子を含むこと/又は膀胱ガン由来遺伝子を含まないことをAUROC値として0.944の精度で見分けることができる(図2)。
【0189】
(実施例)
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明する。しかし、本発明の範囲は、この実施例によって制限されないものとする。
【実施例】
【0190】
1.実験者の臨床病理学的所見
インフォームドコンセントを得た87例の膀胱ガン患者および27例の非膀胱ガン患者の合計114例の被験者から尿を得た。得られた尿は、ただちに溶解緩衝液(5.64mol/L グアニジンチオシアン酸塩(ナカライテスク社)、0.5% N−ラウロイルサルコシンナトリウム(ナカライテスク社)、50mmol/L 酢酸ナトリウム(pH6.5)(シグマアルドリッチジャパン社)、1mmol/L 2−メルカプトエタノール(ナカライテスク社)、1.5mol/L HEPES(pH8.0)(プロメガ社)でpHを7.0に調整)を加えて、−80℃以下で保存した。
【0191】
2.totalRNAの抽出
試料として上の「1」で得た、溶解緩衝液を加えた114症例の被験者の尿に対し、溶解緩衝液を加えた被験者の尿量の0.75倍量のTrizol reagent(life technologies社)と溶解緩衝液を加えた被験者の尿量の0.375倍量のクロロホルム(和光純薬株式会社)を加えて攪拌し、分離してくる水層を回収した。回収した核酸を含む水溶液に対し、液量の0.5倍量のエタノール(和光純薬株式会社)を加えて攪拌し、エタノールを加えた核酸を含む水溶液をPureLink(登録商標) RNA Micro kit(life technologies社)を用いて精製し、total RNAを得た。
【0192】
3.遺伝子発現量の測定
オリゴDNAマイクロアレイとしては東レ株式会社の3D‐Gene(登録商標) Human miRNA Oligo chipを用いて遺伝子の絞込みを行った。東レ株式会社の3D−Gene(登録商標) Human miRNA Oligo chipは、同社の定める手順に基づいて操作した。ハイブリダイゼーションを行ったDNAチップをDNAアレイスキャナー(ScanArrayLite、パーキンエルマージャパン)を用いてスキャンし、画像を取得してGenePix Pro5.0(MolecularDevice)にて蛍光強度を数値化した。統計学的処理はSpeed T.著「Statistical analysis of gene expression microarray data」Chapman & Hall/CRC,及びCauston H.C.ら著「A beginner’s guide Microarray gene expression data analysis」Blackwell publishingを参考にし、ハイブリダイズ後の画像解析から得られたデータの対数値を用いて解析した。その結果、膀胱ガン患者の検体試料における発現量が、非膀胱ガン患者の検体試料よりも減少、低減もしくは増加、増大しているmiRNA遺伝子を見出すことができた。これらの遺伝子を検体試料が膀胱ガン由来遺伝子を含むこと又は膀胱ガン由来遺伝子を含まないことを判定する膀胱ガン検出用遺伝子として利用することができると考えられる。
【0193】
4.予測スコアリングシステム
60症例の膀胱ガン患者から得た検体試料および18症例の非膀胱ガン患者から得た検体試料の合計78症例を教師データセットとして、“Matlab version 2011a”を用いて判別式を作成した。また遺伝子は図1に流れを示すようなLOOCV法を用いて選定した。すなわち、教師データセットの75%以上の症例でmiRNAの遺伝子発現量がDNAアレイスキャナーによる蛍光強度測定値(ただしバックグランドノイズ蛍光を減算した値とする)として6以上の各遺伝子で、77症例の学習データセットと1症例のテストデータに分け、膀胱ガン患者群から得た検体試料を用いて測定した遺伝子発現量と非膀胱ガン患者群から得た検体試料を用いて測定した遺伝子発現量の間で、Mann−Whitney検定のp値を算出する。次に、ここで求めたMann−Whitney検定のp値の小さい順で膀胱ガンで発現が高い遺伝子1個ずつを組み入れてサポートベクターマシーンモデルを構築し、その都度、テストデータの検体試料が膀胱ガン由来遺伝子を含むこと/又は膀胱ガン由来遺伝子を含まないことを判定する。この検体試料が膀胱ガン由来遺伝子を含むかどうかの判定を教師データセットから分けることができる78通りの学習データセットとテストデータの組合せに対して行い、AUROCを算出した。この判別用遺伝子群への遺伝子の組み入れは、Mann−Whitney検定のp値が小さい順に繰り返した。
【0194】
5.判別結果1
上記予測スコアリングシステムを用いて、プローブとして配列番号1〜27のポリヌクレオチドから22種を組合せて測定した遺伝子発現を検討した。それぞれの遺伝子数のときの予測精度(AUROC値)を求めた。
【0195】
その結果、膀胱ガンの判別精度は、2遺伝子のときにAUROC値が0.743、3遺伝子のときにAUROC値が0.762、4遺伝子のときにAUROC値が0.827、5遺伝子のときにAUROC値が0.852、6遺伝子のときにAUROC値が0.827、7遺伝子のときにAUROC値が0.821、8遺伝子のときにAUROC値が0.828、9遺伝子のときにAUROC値が0.823、10遺伝子のときにAUROC値が0.812、11遺伝子のときにAUROC値が0.820、12遺伝子のときにAUROC値が0.792、13遺伝子のときにAUROC値が0.786、14遺伝子のときにAUROC値が0.801、15遺伝子のときにAUROC値が0.795、16遺伝子のときにAUROC値が0.800、17遺伝子のときにAUROC値が0.796、18遺伝子のときにAUROC値が0.769、19遺伝子のときにAUROC値が0.763、20遺伝子のときにAUROC値が0.833、21遺伝子のときにAUROC値が0.904、22遺伝子のときにAUROC値が0.944となり(図2)、22遺伝子を用いたときに予測精度は最大化した。そして、この22遺伝子を用いた場合に78通りの組合せで少なくとも1回以上選択された遺伝子は配列番号1〜27の遺伝子となり、22種類の各遺伝子が78通りの組合せで選択された回数は表1のとおりとなった。
【0196】
【表1】

【0197】
表2にSVM法を用いた膀胱ガンの判別に用いられる遺伝子22種の、LOOCV法による選抜結果を示す。表中の数字は、各学習データセットにおいて、予測用遺伝子を選択した際に、当該遺伝子が何番目に選択されたかの優先順位を示す。例えば、78通りの各学習データセットにおいて、膀胱ガン判別への関与が高い2個の遺伝子の組み合わせは、学習データセット番号1〜4、6〜9、11、13、15〜17、19、21〜34、36〜40、42、43、46、47、49、51〜53、55、57〜62、64、66、68〜78では配列番号1及び2の組み合わせ、学習データセット番号5、10、12、18、20、35、41、44、45、48、54、56、63、67では配列番号1及び3の組み合わせ、学習データセット番号14では配列番号1及び4の組み合わせ、学習データセット番号50、65では配列番号1及び5の組み合わせとなる。すなわち、各学習データセットにおいて2個の遺伝子を選択する場合(図2のグラフにおいて、遺伝子数が2の場合)に用いる予測用遺伝子は、配列番号1、2、3、4及び5の5個の遺伝子となる。
【0198】
また、例えば、予測精度(AUROC値)が最大の0.944となる78症例から77症例を選び出す78通りの各学習データセットにおいて、膀胱ガンの判別への関与が高い22個の遺伝子の組み合わせは、配列番号1〜22、配列番号1〜21及び23、配列番号1〜21及び24、配列番号1〜21及び25、配列番号1〜21及び26、配列番号1〜21および27の6通りの組み合わせとなる。すなわち、各学習データセットにおいて22個の遺伝子を選択する場合(図2のグラフにおいて、遺伝子数が22の場合)に用いる予測用遺伝子は、配列番号1〜27の27個の遺伝子となる。
【0199】
各学習データセットにおいて選択する遺伝子数(図2のグラフにおける遺伝子数)が1個〜22個の場合に、それぞれ用いる予測用遺伝子(配列番号)、またその遺伝子を用いるときの予測精度(AUROC値)は、表2に示すとおりとなる。表3(I)〜(III)には、図1に記載の手順で選び出されるSVM法を用いた膀胱ガンの判別に用いられる22種の遺伝子の、LOOCV法による選択結果を示す。表3(I)〜(III)の行方向は、77症例の教師データセットと1つのテストデータからなる78種類の学習データセットを示す。列方向は、各学習データセットにおいて選ばれた予測用遺伝子の配列番号を示す。表中の数字は、各学習データセットにおいて予測用遺伝子を選択した際に、当該遺伝子が何番目に選択されたかの優先順位を示す。
【0200】
【表2】

【0201】
【表3】

【0202】
【表4】

【0203】
【表5】

【0204】
6.判別結果2
配列番号1〜27のポリヌクレオチドから22種を組み合わせて作成したSVMモデルによる判別式の精度を確認するために、同じくインフォームドコンセントを得た27症例の膀胱ガン患者および9症例の非膀胱ガン患者から、上記と同じ方法で尿の入手、total RNAの抽出、および遺伝子発現量の測定を行い、データを得た。これらのデータを上記のSVMモデルによる判別式を用いて予測し、判別予測精度を評価したところ、AUROCは0.881となり、インフォームドコンセントを得た27症例の膀胱ガン患者の24症例を正しく膀胱ガンと予測した。また36例全体に対するaccuracyは86%であった。一方、尿細胞診による膀胱ガン患者のaccuracyは69%であった。
さらに、この膀胱ガン患者の24症例のうち15症例が初期の表層ガン(TisおよびTa)であり、このうち14症例を正しく膀胱ガンと予測することができた。
【産業上の利用可能性】
【0205】
本発明により、特異性、感受性に優れた膀胱ガン診断用組成物を提供することができるため、少なくとも内視鏡検査前に膀胱ガン患者から採取した尿に含まれる膀胱ガン由来遺伝子を判別するために非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)〜(e)に示すポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、またはその断片からなる群から選択される1または2以上のポリヌクレオチドを含む、膀胱ガン診断用組成物。
(a)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、または19以上の連続した塩基を含むその断片
(b)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド
(c)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、または19以上の連続した塩基を含むその断片
(d)配列番号1〜7、配列番号10〜11及び配列番号13〜26で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド
(e)前記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、または19以上の連続した塩基を含むその断片
【請求項2】
下記の(f)〜(j)に示すポリヌクレオチド、その変異体またはその断片からなる群から選択される1または2以上のポリヌクレオチドをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
(f)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、または19以上の連続した塩基を含むその断片
(g)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド
(h)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、または19以上の連続した塩基を含むその断片
(i)配列番号8〜9、12及び27で表される塩基配列に相補的な塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、を含むポリヌクレオチド
(j)前記(f)〜(i)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、または19以上の連続した塩基を含むその断片
【請求項3】
請求項1に記載の(a)〜(e)に示すポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、および/またはその断片の1または2以上を含む、膀胱ガン診断用キット。
【請求項4】
請求項2に記載の(f)〜(j)に示すポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、および/またはその断片の1または2以上をさらに含む、請求項3に記載のキット。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドが、配列番号1〜27のいずれかで表される塩基配列、もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列、からなるポリヌクレオチド、その相補的配列からなるポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、またはそれらの19以上の連続した塩基を含む断片である、請求項3または4に記載のキット。
【請求項6】
前記ポリヌクレオチドが、別個にまたは任意に組み合わせて異なる容器に包装されている、請求項3〜5のいずれか1項に記載のキット。
【請求項7】
請求項1に記載の(a)〜(e)に示すポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、および/またはその断片の1または2以上を含む、膀胱ガン診断用DNAチップ。
【請求項8】
請求項2に記載の(f)〜(j)に示すポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、および/またはその断片の1または2以上をさらに含む、請求項7に記載のDNAチップ。
【請求項9】
請求項1または2に記載の組成物、請求項3〜6のいずれか1項に記載のキット、請求項7または8に記載のDNAチップ、またはそれらの組み合わせを用いて、被験者由来の生体試料における標的核酸の発現レベルを測定し、それによって、被験者由来の検体試料中に膀胱ガン由来の遺伝子が存在していること、または膀胱ガン由来の遺伝子が存在していないことをin vitroで判定することを含む、膀胱ガンの検出方法。
【請求項10】
DNAチップを用いる請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1または2に記載の組成物、請求項3〜6のいずれか1項に記載のキット、請求項7または8に記載のDNAチップ、またはそれらの組み合わせを用いて、膀胱ガン患者由来の検体試料であることまたは非膀胱ガン患者由来の検体であることが既知の複数の生体試料中の標的核酸の発現量をin vitroで測定する第1の工程、前記第1の工程で得られた該標的核酸の発現量の測定値を教師とした判別式(サポートベクターマシーン)を作成する第2の工程、被験者由来の検体試料中の該標的核酸の発現量を第1の工程と同様にin vitroで測定する第3の工程、前記第2の工程で得られた判別式に第3の工程で得られた該標的核酸の発現量の測定値を代入し、該判別式から得られた結果に基づいて、被験者由来の検体試料中に膀胱ガン由来の標的核酸が存在していること、または膀胱ガン由来の標的核酸が存在していないことを判定する第4の工程を含む、膀胱ガンの検出方法。
【請求項12】
請求項1または2に記載の組成物、請求項3〜6のいずれか1項に記載のキット、または請求項7または8に記載のDNAチップの、被験者由来の検体試料中に膀胱ガン由来の遺伝子が存在していること、または膀胱ガン由来の遺伝子が存在していないことをin vitroで判定するための使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−67(P2013−67A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135516(P2011−135516)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】