説明

膀胱癌の治療のための組成物及び治療法

膀胱癌の治療のための組成物及び方法は、膀胱内投薬形態の抗腫瘍薬及び浸透促進剤を含む。抗腫瘍薬はバルルビシンであって良い。医薬組成物は、膀胱内投薬形態の抗腫瘍薬錯化リポソームを含む。密着結合開口剤を、抗腫瘍薬の効果的な送達のために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2007年11月30日に提出された米国仮特許出願No.60/991,596の優先権を主張するものであり、その全内容は、ありとあらゆる目的のために参照することにより、本明細書の一部を構成する。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、一般に、癌治療の分野に関する。とりわけ治療は、例えば、膀胱、結腸、口腔及び胃などの患者の中空体構造内に発現した癌に施される。
【背景技術】
【0003】
以下の記述は、読者の理解を助けるために提供される。提供情報又は引用文献の何れも、本発明に対し先行する技術であるとは認めるものではない。
【0004】
膀胱の腫瘍は、前癌性の病変として一般に生じ、浸潤性癌へと変貌し得る。一部は、転移成長していくだろう。最も一般的な膀胱腫瘍は、上皮起源の移行上皮癌である。表面性膀胱悪性腫瘍の患者は、良好な予後を有するが、下部筋肉組織への深い浸潤は、5年生存率を約50%まで減じる。
【0005】
外科手術は、主要な治療法である。手術の範囲は、疾患の病期により決まる。早期疾患は、一般に、膀胱内化学療法及び経尿道的切除により治療する。局所浸潤性疾患は、通常、根治的膀胱切除術及び尿路変更術によってのみ対応可能である。膀胱壁と同じ部位又は他の部位での、癌の発現及び再発の重症度を減じるために、外科手術は、化学療法薬又は免疫療法薬の補助的膀胱内注入と組み合わせることが多い。外科手術に適さない膀胱癌患者のためには、一般に、決定的(根治的)放射線療法が用いられる。表面的、低悪性度の疾患には、化学療法を膀胱内に(膀胱内に直接に)施して、腫瘍部位に薬物を集結させ、切除後の任意の残存腫瘍塊を除去する。進行性の膀胱癌に対応するため、全身的化学療法も使用することができる。
【0006】
膀胱癌に使用されるそのような化学療法薬の1つは、Valstar(登録商標)である。Valstar(登録商標)は、膀胱内に滴注させて膀胱癌を治療する、エタノール中のバルルビシンの製剤である。経尿道的膀胱切除の代わりに又はその後に、これを使用して、癌細胞を標的にすることもできる。しかしながら、そのような製剤は、一部の患者には刺激性であり、完全な効能が得られる前に、製剤が膀胱から排泄されることが知られている。従って、バルルビシン投与のための賦形剤は、刺激を減じかつ治療効果を増すことが必要とされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
1態様で、膀胱癌の治療のための組成物及び方法は、膀胱内投薬形態の抗腫瘍薬(a neoplastic agent)を含む。別の態様で、膀胱内投薬形態で有効量の抗腫瘍薬及びジメチルスルホキシドを含む医薬組成物が提供される。一部の実施形態では、バルルビシンの有効量は、約5mg/mL〜約100mg/mL、約10mg/mL〜約90mg/mL、約15mg/mL〜約80mg/mL、約20mg/mL〜約70mg/mL、約25mg/mL〜約70mg/mL、約30mg/mL〜約60mg/mL、約35mg/mL〜約50mg/mL又は約35mg/mL〜約45mg/mLである。一部の実施形態では、医薬組成物は、エタノール、イソプロパノール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、デシルメチルスルホキシド、2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、カプリン酸、リノール酸、尿素、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びこれらの任意のもの2つ以上の混合物から選択される化学的浸透促進剤の1種以上を更に含む。他の実施形態では、有効量のバルルビシン及びジメチルスルホキシドが、膀胱癌を治療するのに十分である。
【0008】
一部の実施形態では、医薬組成物は、結合開口剤(junction opener)を含む。一部の実施形態では、結合開口剤は、トリメチル−キトサン、モノ−N−カルボキシメチルキトサン、N−ジエチルメチルキトサン、カプリン酸ナトリウム、シトカラシンB、IL−1、ポリカルボフィル、カルボポール934P、N−スルフェート−N,O−カルボキシメチルキトサン、Zounla occludens毒素、1−パルミトイル−2−グルタロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン又はこれらの任意のもの2つ以上の混合物であってよい。結合開口剤は、約1〜約15重量%/剤形容積で、製剤中に存在してよい。
【0009】
一部の実施形態では、医薬組成物は、ポリエトキシル化ヒマシ油を含む。他の実施形態によれば、ポリエトキシル化ヒマシ油は、Cremophorであってよい。一部の実施形態では、Cremophor及びジメチルスルホキシドが等量で備わっている。一部の実施形態では、医薬組成物は、結合開口剤を含む。結合開口剤は、トリメチル−キトサン、モノ−N−カルボキシメチルキトサン、N−ジエチルメチルキトサン、カプリン酸ナトリウム、シトカラシンB、IL−1、ポリカルボフィル、カルボポール934P、N−スルフェート−N,O−カルボキシメチルキトサン、Zounla occludens毒素、1−パルミトイル−2−グルタロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン又はこれらの任意のもの2つ以上の混合物であってよい。
【0010】
一部の実施形態では、医薬組成物は、ムチン分解化合物を含む。一部の実施形態では、ムチン分解化合物は、トリプシン、ヒアルロニダーゼ、硫酸プロタミン及びノルエピネフリンからなる群から選択される。
【0011】
一部の実施形態では、医薬組成物は、生体接着剤又は粘膜接着剤を含む。一部の実施形態では、粘膜接着剤はポリアクリル酸である。一部の実施形態では、医薬組成物は、更に、イオン性又は非イオン性界面活性剤、ポリビニルピロリドン、アルギネート、ポリアクリル酸又はこれらの任意のもの2つ以上の混合物を含む。典型的なイオン性及び非イオン性界面活性剤には、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル又はこれらの任意のもの2つ以上の混合物がある。典型的なポリアクリル酸には、Carbomer934P、Carbomer940、Carbomer941、Carbomer974P、Carbomer980、Carbomer1342、ポリカルボフィル、ポリカルボフィルカルシウム又はこれらの任意のもの2つ以上の混合物がある。
【0012】
別の態様では、膀胱内投薬形態で、有効量のバルルビシン及び2−ヒドロキシ−プロピル−β−シクロデキストランを含む医薬組成物が、提供される。一部の実施形態では、2−ヒドロキシ−プロピル−β−シクロデキストラン量は、約1〜約5約重量%/剤形容積である。一部の実施形態では、医薬組成物は、密着結合開口剤(tight junction opener)も含む。一部の実施形態では、結合開口剤は、トリメチル−キトサン、モノ−N−カルボキシメチルキトサン、N−ジエチルメチルキトサン、カプリン酸ナトリウム、シトカラシンB、IL−1、ポリカルボフィル、カルボポール934P、N−スルフェート−N,O−カルボキシメチルキトサン、Zounla occludens毒素、1−パルミトイル−2−グルタロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン又はこれらの任意のもの2つ以上の混合物である。一部の実施形態では、医薬組成物は、生体接着剤又は粘膜接着剤も含む。一部の実施形態では、粘膜接着剤はポリアクリル酸である。
【0013】
別の態様では、有効量のリポソーム封入バルルビシンを含むリポソーム剤形を含む医薬組成物が、提供され、リポソームは、ホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンからなる群から選択されるリポソーム形成物質少なくとも1つを含む。一部の実施形態では、リポソーム形成物質は、ホスファチジルコリン約4〜約8重量%を含む。他の実施形態では、医薬組成物は、コレステロール約0.5〜約2重量%を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、1つ以上のスフィンゴリピド約1〜約6重量%を含み、スフィンゴリピドは、D−グルコシル−β1−1’セラミド(C8);D−グルコシル−β1−1’セラミド(C12);D−グルコシル−β1,1’N−パルミトイル−D−エリトロ−スフィノシン;D−ガラクトシル−β1−1’セラミド(C8);D−ガラクトシル−β1−1’セラミド(C12);D−ガラクトシル−β1−1’−N−ネルボニル−D−エリトロ−スフィンゴシン;又はD−ガラクトース−β1−1’セラミド(C8);及びD−ガラクトース−β1−1’セラミド(C12)である。一部の実施形態では、リポソーム形成物質は、ホスファチジルエタノールアミン約2〜約8重量%を含む。他の実施形態では、医薬組成物は、ホスファチジルイノシトール約1〜約5重量%を含む。他の実施形態では、医薬組成物は、オレイン酸約0.5〜約1重量%を含む。他の実施形態では、医薬組成物は、コレステロール約0.5〜約2重量%を含む。他の実施形態では、医薬組成物は、コハク酸ジグリセリド約3〜約4重量%を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、油を含む。そのような油として、紅花、トリアセチン及び綿実油を挙げることができるが、これらに限定はされない。一部の実施形態では、医薬組成物は、浸透促進剤を含む。他の実施形態では、浸透促進剤は、オレイン酸、カプリン酸、リノール酸、尿素、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム又はこれらの任意のもの2つ以上の混合物である。
【0014】
別の態様では、エマルジョン封入バルルビシンを有効量含む医薬組成物が提供され、エマルジョンは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及び油から選択されるエマルジョン形成物質少なくとも1つを含む。一部の実施形態では、油は、紅花、トリアセチン及び綿実油からなる群から選択される。他の実施形態では、医薬組成物は、更に、浸透促進剤を含む。一部の実施形態では、浸透促進剤は、ジメチルスルホキシド、オレイン酸、カプリン酸、リノール酸、尿素、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム又はこれらの任意のもの2つ以上の混合物である。
【0015】
別の態様では、有効量のバルルビシン及びジメチルスルホキシドを含む組成物を投与するステップを含む、膀胱癌の治療法が提供される。一部の実施形態では、経尿道的膀胱切除の後に、この組成物が膀胱内に投与される。
【0016】
別の態様では、リポソーム封入バルルビシンを有効量含むリポソーム剤形を投与するステップを含む、膀胱癌の治療法が提供され、リポソームは、ホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンから選択されるリポソーム形成物質少なくとも1つを含む。
【0017】
別の態様では、エマルジョン封入バルルビシンを有効量含むエマルジョン剤形を投与するステップを含む、膀胱癌の治療法が提供され、エマルジョンは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及び油から選択されるエマルジョン形成物質少なくとも1つを含む。一部の実施形態では、油は、紅花、トリアセチン及び綿実油からなる群から選択される。他の実施形態では、剤形は、更に、浸透促進剤を含む。一部の実施形態では、浸透促進剤は、ジメチルスルホキシド、オレイン酸、カプリン酸、リノール酸、尿素、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム又はこれらの任意のもの2つ以上の混合物である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】陰性対照生理食塩水製剤、陽性対照Valster製剤、及び1実施形態によるバルルビシン/DMSO製剤の平均炎症スコアを比較するグラフである。
【図2】Valster製剤、バルルビシン/DMSO製剤、及び一部の実施形態によるバルルビシン/リポソーム製剤の平均炎症スコアを比較するグラフである。
【図3】幾つかの実施形態による製剤4、9、11及び12の平均炎症スコアを比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の組成物と方法を記述する前に、記述される特定のプロセス、組成物又は手法に限定されることはなく、これらを変更できることが理解されるべきである。また、記述に使用される専門用語は、特定のバージョン又は実施形態のみを記述する目的のためのものであり、限定する意図はないと理解されるべきである。他に記載がなければ、本明細書中に使用される全ての技術及び科学用語は、当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中で参照される全ての出版物、特許出願、交付済み特許及び他の文書は、出版物、特許出願、交付済み特許又は他の文書それぞれが全体として参照することにより、組み込まれると詳細かつ個々に示されたかのように、参照することにより本明細書の一部を構成する。参照することにより組み込まれたテキスト中に含まれる定義は、本開示中の定義に矛盾する範囲まで排除される。本明細書中の何物も、先行発明に基づいて、本発明がそのような開示に先行する資格がないことを認めると、解釈すべきでない。
【0020】
本明細書中に記載の化合物は、不斉中心を有し、従ってエナンチオマーとして存在し得る。化合物が、不斉中心を2つ以上有する場合、これらは、更に、ジアステレオマーとして存在し得る。化合物は、実質的に純粋に分割されたエナンチオマー、それらのラセミ混合物、並びにジアステレオマーの混合物のような可能な立体異性体を全て含む。化学式は、特定の位置での、限定的な立体化学無しで示される。化合物は、そのような化学式の立体異性体全て及びその薬学的許容性塩(pharmaceutically acceptable salt)を含む。エナンチオマーのジアステレオ異性体対は、例えば好適な溶剤からの分別晶出により分離でき、そのようにして得られたエナンチオマー対は慣用手段により、例えば、分割剤として光学活性酸又は塩基を使用するか又はキラルHPLCカラムで、個々の立体異性体に分離することができる。更に、一般式の化合物の任意のエナンチオマー又はジアステレオマーは、光学的に純粋な出発物質又は公知の立体配置の試薬を使用して立体特異的に合成することにより得ることができる。
【0021】
以下の記述中に、多数の用語が広範囲に利用される。種々の実施形態の理解を助けるため、定義が本明細書中に提供される。以下に定義される用語は、全体として明細書を参照することにより、さらに完全に定義される。単位、プレフィックス及び記号は、一般に認容されるSI形式で表示されてよい。
【0022】
本明細書中で使用されるように、用語「約」は、その使用されている数の数値の±10%を意味する。
【0023】
本明細書中で使用されるように、用語「投与」又は「投与する」は、治療薬に関連して使用する場合、標的組織内又は上に直接に治療薬を投与するか又は患者に治療薬を投与し、それにより、標的とされる組織に治療的に良い影響を及ぼすことを意味する。このように、本明細書で使用されるように、抗腫瘍薬と関連して使用する場合、用語「投与する」は、標的組織内又は上に抗腫瘍薬を提供するか、又は例えば膀胱内投与により、被験者に抗腫瘍薬を提供することを含むが、これらに限定はされない。
【0024】
本明細書中で使用されるように、用語「放出制御」は、薬物又は他の活性剤、例えば抗腫瘍薬、の所定の治療上有効量を連続して長期にわたり放出させるようにデザインされた製剤又はデバイスを示す。その結果、所望の治療効果を達成するのに必要な治療の数が減じられる。そのようなものとして、放出制御製剤は、癌の治療又は癌の再発防止に関して、所望の効果を達成するのに必要な治療の数を減じよう。放出制御製剤は、好ましくは、送達環境に設置の実質的直後に活性剤の放出を開始し、次いで活性剤の好ましくは0次又はほぼ0次の放出を一貫して継続し、被験者内に、所望の薬物動態プロファイルを達成する。放出制御は、治療に有益な活性剤のレベルが、約1日〜約1週間、1週間〜約1月、又は約1月〜約2月という長期にわたり保持されるような速度で、剤形から活性剤が所定のように一貫して放出されることを含む。
【0025】
用語「阻害する」は、化合物を投与して、症状の発現を防止する、症状を緩和する、又は疾患、病状もしくは不全を除去することを含む。
【0026】
用語「患者」及び「被験者」は、ヒトを含む全ての動物を意味する。患者又は被験者の例には、ヒト、畜牛、犬、猫、山羊、羊及び豚がある。
【0027】
用語「薬学的に許容される」は、担体、希釈剤又は賦形剤が、製剤の他の成分と適合し、かつそのレシピエントに対し有害であるべきでないことを意味する。
【0028】
本明細書に使用される用語「薬学的許容性塩、エステル、アミド、及びプロドラッグ」は、信頼できる医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等を伴わずに患者の組織と接触させて使用するのに適しており、妥当な損益比に見合い、かつ使用目的に対して効果的である化合物のカルボン酸塩、アミノ酸付加塩、エステル、アミド及びプロドラッグのことを示し、並びに可能であればこれらの化合物の両性イオンの形態のものも示す。
【0029】
用語「プロドラッグ」は、例えば血中での加水分解により、インビボで速やかに転換され、前記の式の親化合物を生じる化合物を示す。徹底的な論議が、T. Higuchi及びV. Stella,“Pro−drugs as Novel Delivery Systems”,the A.C.S.Symposium SeriesのVol.14並びに Edward B.Roche編、Bioreversible Carriers in Drug Design,American Pharmaceutical Association and Pergamon Press,1987に提供されており、これら両方は参照することにより本明細書の一部を構成する。
【0030】
更に、化合物は、薬学的許容性溶剤、例えば水、エタノール等、で溶媒和された形と同様に、非溶媒和形でも存在し得る。一般に、溶媒和形は、非溶媒和形と等価と考えられている。
【0031】
用語「塩」は、化合物の相対的に無毒の無機及び有機酸付加塩を示す。これらの塩は、化合物の最終単離及び精製の間に現場で調製できるか、又は好適な有機又は無機の酸と、遊離塩基形の精製化合物とを別々に反応させ、このようにして形成された塩を単離することにより、現場で調製することができる。代表的な塩には、酢酸塩、水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、トシラート、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、ナフチル酸塩(naphthylate)、メシラート、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩及びラウリルスルホン酸塩等がある。これらは、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ及びアルカリ土類金属に基づくカチオン並びに非毒性のアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン等を含んで良い。(例えば、参照することにより本明細書の一部を構成する、S.M.Berge等、“Pharmaceutical Salts”,J.Pharm.Sci.,1977,66:1−19参照)。
【0032】
本明細書中で使用されるように、用語「治療薬」は、患者の望ましくない病状又は疾患を治療する、戦う、改善する、予防する又は好転させるのに使用される薬剤を意味する。一つには、実施形態の目的は、膀胱癌の治療であり又は治療薬を投与されていない被験者と比べて膀胱癌の再発を減じることである。
【0033】
組成物の「治療上有効な量」又は「有効量」とは、所望の効果、即ち膀胱癌の減少もしくは予防の効果、又は膀胱癌再発の減少もしくは予防の効果、を得るために計算された所定の量である。予定される活動には、必要に応じて、内科治療及び/又は予防的治療の両方がある。治療及び/又は予防効果を得るために投与される化合物の特定の用量は、勿論のこと、例えば、投与化合物、投与経路、及び治療される病状を含む症例を取り巻く特定の状況により決定されよう。しかしながら、投与される有効量は、治療すべき病状、投与すべき化合物の選択、及び選択された投与経路を含む関連状況を踏まえて、医師により決定され、従って、前記投薬量範囲には、決して、範囲を限定する意図はないことが理解されよう。化合物の治療上有効量は、一般に、生理学的に耐容できる賦形剤組成物で投与される場合に、効果的な全身性濃度又は組織中の局所濃度が得られるのに十分であるような量である。
【0034】
本明細書に使用される用語「治療する」、「治療された」又は「治療している」は、治療的処置、及び予防又は防止対策の両方を示し、その目的は、望ましくない生理的状態、不全又は疾患を予防又は抑制する(軽減する)ことであるか又は有益もしくは所望の臨床結果を得ることである。有益又は所望の臨床結果には、限定はされないが、症状の緩和;病状、不全又は疾患の範囲の縮小;病状、不全又は疾患の状態の安定(即ち悪化しない);病状、不全又は疾患の発症の遅延又は進行の抑制;病状、不全又は疾患状態の改善;及び病状、不全又は疾患の検知又は未検知の、エンハンスメント又は改善という(部分的又は全体的)緩解がある。治療には、過剰レベルの副作用無しで、臨床的に重大な応答を引き出すことが含まれる。治療は、治療を受けない場合に予期される生存と比べて生存を延長させることも含む。
【0035】
組成物及び方法
抗癌剤としての活性を有する医薬組成物及び膀胱癌患者の治療法が提供される。1態様では、医薬組成物は、抗腫瘍薬(NA)及び浸透促進剤を含む。1実施形態では、組成物は、有効量のバルルビシン及び浸透促進剤ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む。他の実施形態では、組成物は、有効量のバルルビシン、浸透促進剤DMSO及び添加剤を含む。
【0036】
膀胱壁に抗腫瘍薬を効果的に送達するのを阻む一連の障害を克服する方法も提供される。詳細には、効果的な送達への障害は、(a)膀胱壁を取り巻くムチン層、(b)抗腫瘍薬が壁と接触を保つことのできる短い時間間隔、及び(c)膀胱壁を抜ける抗腫瘍薬の透過である。本組成物及び方法が、下部筋肉組織に侵攻したかもしれない癌細胞を適切に治療する。
【0037】
種々の実施形態において、抗腫瘍薬又は化学療法剤は、抗増殖剤マイトマイシンC、バルルビシン及びドキソルビシン、タキソール並びにBCGである。好ましい実施形態では、抗腫瘍薬は、バルルビシンである。バルルビシン(N−トリフルオロアセチルアドリアマイシン−14−バレラート、Valster(登録商標))は、膀胱癌の治療に使用される化学療法薬である。バルルビシンは、アンスラサイクリン系ドキソルビシンの半合成類似体であり、点滴により膀胱内に直接投与される。
【0038】
1実施形態では、医薬組成物は、抗腫瘍薬及び許容性の化学的皮膚浸透促進剤を含む。化学的浸透促進剤は、細胞間脂質二重層(親油性通路)並びに細胞内環境(親水性通路)の規則構造を崩壊させる。アルコール(エタノール、イソプロパノール)、アミン及びアミド(ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(デシルメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド(DMSO))、ピロリドン(2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン)、脂肪酸(カプリン酸、リノール酸)、尿素及び不飽和環状尿素、界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム)等を含む、多数の化学的促進剤群がある(Percutaneous Permeation Enhancers,CRC Press,1995参照)。
【0039】
特定の実施形態では、化学的浸透促進剤は、バルルビシンと適合する。特定の実施形態では、DMSOが、許容性の化学的皮膚浸透促進剤である。DMSOは、(a)膀胱内への注入に使用することが認められており(Rimso50,PDR,58th Edition,2004,p.1215)、(b)現在用いられている製剤中のエタノールが迅速に気化するのに付随する不快感を減じ得るので、好ましい皮膚浸透促進剤である。更に、DMSOは、体循環に到達する量に影響を及ぼさずに、かなりのバルルビシンを下部筋肉組織に輸送できる。膀胱組織の親水性のために、バルルビシンは、接触すると沈殿しよう。従って、バルルビシンとDMSOを含む製剤は、下部筋組織に侵攻した癌細胞を殺すことが期待される。
【0040】
上に記載のように、組成物は、バルルビシンとDMSOの他に添加剤を含有してもよい。一部の実施形態では、そのような添加剤は、イオン性及び非イオン性の界面活性剤両方、例えばポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル;ポリビニルピロリドン;アルギナート;及びポリアクリル酸である。
【0041】
ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体には、ポリオキシエチレングリセロールトリリシノリエート又はポリオキシル35ヒマシ油(Cremophor(登録商標)EL,BASF Corp.)、ポリオキシエチレングリセロールオキシステアレート(Cremophor(登録商標)RH40(ポリエチレングリコール40水素化ヒマシ油)及びCremophor(登録商標)RH60(ポリエチレングリコール60水素化ヒマシ油),BASF Corp.)があるが、これらに限定はされない。エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマーには、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー又はポリオキシエチレンポリプロピレングリコール、例えばPoloxamer(登録商標)124、Poloxamer(登録商標)188、Poloxamer(登録商標)237、Poloxamer(登録商標)388、Poloxamer(登録商標)407(BASF Wyandotte Corp.)等があるが、これらに限定はされない。ソルビタン脂肪酸エステルには、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンのモノ脂肪酸エステル、例えばポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(Tween(登録商標)80,aka Polysorbate(登録商標)80)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート(Tween(登録商標)60)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート(Tween(登録商標)40)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween(登録商標)20)等があるが、これらに限定はされない。ポリアクリル酸は、あるいはまた、Carbomer934P、940、941、974P、980、1342、ポリカルボフィル、及びカルシウムポリカルボフィル(BF Goodrich)として知られることもある。
【0042】
DMSOは、膀胱壁への薬剤の浸透を促進するために使用されてきたが、本出願前には、DMSO投与は、細胞死又は細胞の固定を生じ、DMSOを介し投与される任意の化学療法処置の有効性を減じ得ると信じられていたほどの技術水準である。例えばBorzelleca等は、サリチル酸ナトリウムのラビット膀胱への投与のためにDMSOを使用することを記載している(Investigative Urology 6(1),43−52(1968))。しかしながら、Borzellecaは、膀胱上皮が、DMSO5%水溶液に対してすら感受性があり、DMSO20%水溶液で上皮細胞を損失するような激しい反応があることを示した。100%DMSOで、細胞は、正常に見えながら、細胞に組織固定剤が施されたかのように固定される(同上)。従って、その時点で、DMSOが、所望された効果と反対の効果を生じるであろうと予期された(同上)。
【0043】
1実施形態では、医薬組成物は、抗腫瘍薬と、膀胱壁を覆うムチン層を分解する酵素又は化合物とを含む。膀胱壁を覆うムチン層は、膀胱癌患者内で増加する硫酸コンドロイチン、グリコサミノグリカン及びヒアルロン酸から構成される。どの特定のメカニズムにも限定されることは望まないが、ムチン層が除去されると、化学療法薬は膀胱壁の内腔層に到達でき、疾患の治療が更に効果的になることが予測される。酵素も他の化合物もムチン層を分解できる。例として、トリプシン、並びに動物起源及び組換えのヒアルロニダーゼ酵素がある。硫酸プロタミン及びノルエピネフリンは、同様に使用できる他の化合物である。
【0044】
1実施形態で、医薬組成物は、抗腫瘍薬及び生体接着剤又は粘膜接着剤を含み、これらの接着剤は、膀胱壁に製剤の少なくとも単分子の層を、長期間形成するだろう。生体接着剤は、剤形の滞留時間を長くし並びに種々の吸収膜、例えば膀胱壁の粘膜組織、との密接な接触を改良するために使用される。生体接着性ポリマーは、放出制御のためのプラットフォームとして作用するほかに、自体、薬物放出の速度及び量に対して幾分かコントロールでき、従って、そのようなシステムの治療利点に貢献する(Bioadhesive Drug Delivery Systems,CRC Press,p.66(1990))。代表的天然ポリマーには、タンパク質、例えばゼイン、変性ゼイン、カゼイン、ゼラチン、グルテン、血清アルブミン及びコラーゲン、多糖類、例えばセルロース、デキストラン及びポリヒアルロニン酸がある。代表的合成ポリマーには、ポリホスファゼン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアルキレン、ポリアクリルアミド、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンテレフタレート、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ハロゲン化ポリビニル、ポリビニルピロリドン、ポリグリコリド、ポリシロキサン、ポリウレタン、及びこれらのコポリマーがある。好適なポリアクリレートの例には、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(イソデシルメタクリレート)、ポリ(ラウリルメタクリレート)、ポリ(フェニルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、ポリ(イソブチルアクリレート)及びポリ(オクタデシルアクリレート)がある。
【0045】
前記ポリマーは、生分解性、非生分解性、及び生体接着性ポリマーと個々に特徴づけることができ、これらは、更に詳細に以下で検討される。代表的な合成分解性ポリマーには、ポリヒドロキシ酸、例えばポリラクチド、ポリグリコリド及びこれらのコポリマー、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチック酸(butic acid))、ポリ(バレリアン酸)、ポリ(ラクチド−コ−カプロラクトン)、ポリアンヒドリド、ポリオルトエステル並びにこれらのブレンド及びコポリマーがある。代表的な天然生分解性ポリマーには、多糖類、例えばアルギナート、デキストラン、セルロース、コラーゲン及びそれらの化学誘導体(置換、例えばアルキル、アルキレンのような化学基の付加、ヒドロキシル化、酸化及び当業者により通常行われる他の修飾)並びにタンパク質、例えばアルブミン、ゼイン、並びにこれらのコポリマー及びブレンドがあり、単独であるか又は合成ポリマーと組み合わせられる。一般に、これらの物質は、酵素加水分解又は生体内での水への暴露によって、表面又はバルク侵食(bulk erosion)で分解する。生分解性でないポリマーの例には、エチレン酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルフェノール並びにこれらのコポリマー及び混合物がある。親水性ポリマー及びヒドロゲルには、生体接着性を有する傾向がある。カルボン酸基を含む親水性ポリマー(例えばポリ(アクリル酸))は、最良の生体接着性を示す傾向がある。最高濃度のカルボン酸基を有するポリマーは、軟組織への生体接着が所望される場合に好まれる。種々のセルロース誘導体、例えばアルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース及びメチルセルロースも、生体接着性を有する。これらの生体接着性物質の一部は、水溶性であるが、他はヒドロゲルである。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、セルロースアセテートトリメリテート(CAT)、セルロースアセテートフタレート(CAP)、ヒドロキシプロピルセルロースアセテートフタレート(HPCAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートフタレート(HPMCAP)、及びメチルセルロースアセテートフタレート(MCAP)等のポリマーは、これらと錯形成する薬物の生体利用性を強化するために利用できる。その滑らかな表面が浸食されるにつれ、そのカルボン酸基が外面に曝される、迅速な生体浸食性(bioerodable)のポリマー、例えばポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリアンヒドリド、及びポリオルトエステルも、抗腫瘍薬の送達のための生体接着剤として使用することができる。
【0046】
1実施形態では、医薬組成物は、抗腫瘍薬と、抗腫瘍薬を下部筋肉組織に浸透させるための密着結合開口化合物1つ以上とを含む。密着結合開口化合物は、細胞間隙薬物輸送を調整し、上皮組織への一時的、迅速及び可逆的な密着結合透過性を可能にする。これらの変性剤の1例は、1−パルミトイル−2−グルタロイル−sy−グリセロ−3−ホスホコリン(Nastech Pharmaceutical)である。他の例には、N−ジエチルメチルキトサン(International Journal of Pharmaceutics293:83,2005);カプリン酸ナトリウム及びシトカラシンB(Digestive Diseases and Sciences43:1547,1998);IL−1(J.Immunology178:4641,2007);ポリカルボフィル、カルボポール934P、カルボマー及びトリメチルキトサン(Biomaterials23(1):153,2002及びPharm.Res18(11):1638,2001);モノ−カルボキシル化キトサン(Adv.Drug Delivery Reviews52(2):117,2001);N−スルフェート−N,O−カルボキシメチルキトサン(US特許No.7265097);並びにZounla occludens毒素及びフラグメント(Adv.Drug Delivery Reviews58:15,2006)がある。従って、一部の実施形態では、前記の3つの障害に影響する他の賦形剤及び化学的促進剤と併せて密着結合変性剤も含まれる。
【0047】
1実施形態では、医薬組成物は、抗腫瘍薬を安定化させ、可溶性にして、膀胱壁へのその浸透を可能にするリポソームで錯化された抗腫瘍薬を含む。リポソームは、薬物輸送系としてデザインされたリン脂質小胞であり、部位特異的薬理作用又は薬物の放出制御をもたらし、そうして、好ましくない副作用を減少させながら、効能を増強する。理論により限定されることは望まないが、リポソームは、(a)抗腫瘍薬を封入し、放出を制御するであろうし、(b)放出されるまで、生物環境から抗腫瘍薬を保護するであろうし、(c)放出されるまで、抗腫瘍薬の毒性を減じる手段を提供するし、(d)使用脂質に応じて、特定細胞を標的にする能力があるので、抗腫瘍薬送達に適切な賦形剤である。
【0048】
リポソームは、例えば、リン脂質、コレステロール、スフィンゴリピド及び脂肪酸トリグリセリド等の多数の両親媒性脂質及び脂質混合物から調製できる。例えば、好適なリポソーム製剤は、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルイノシトールと、コレステロール、オレイン酸又はジグリセリドスクシネートとの組合せを含む。他のリポソーム製剤は、ホスファチジルコリン及びコレステロールと、以下のスフィンゴリピド:D−グルコシル−β1−1’セラミド(C8);D−グルコシル−β1−1’セラミド(C12);D−グルコシル−β1,1’N−パルミトイル−D−エリトロ−スフィノシン;D−ガラクトシル−β1−1’セラミド(C8);D−ガラクトシル−β1−1’セラミド(C12);D−ガラクトシル−β1−1’−N−ネルボニル−D−エリトロ−スフィンゴシン;又はD−ガラクトース−β1−1’セラミド(C8);D−ガラクトース−β1−1’セラミド(C12)の何れかとの組合せを含む。
【0049】
水和の際に、リン脂質混合物は、単層又は多層の二重層構造を組織するであろう。しかしながら、ホスファチジルエタノールアミンを、オレイン酸又はジグリセリドスクシネートのどちらかと共に含有するこれらの混合物は、中性pHでそのような構造を組織するであろう。酸性pHでこれらの構造は、膜融合を可能にする非二重層構造を形成するであろう(Progress in Lipid Research39(2000)409−460)。スフィンゴリピドからなる層状組織は、炭水化物の外皮を含み、この外皮は、膀胱のムチン層又はグリコサミノグリカンと強く相互作用し、かつ結合することが期待される。これらのリポソームのムチン層への結合は、目的とされたバルルビシンの徐放を可能にしよう。ホスファチジルエタノールアミンと、ホスファチジルイノシトールと、オレイン酸又はジグリセリドスクシネートとからなるこれらのリン脂質が、ホスファチジルイノシトールのペンタヒドロキシシクロヘキシル部分により、ムチン層と結合するが、バルルビシンの放出は、膀胱のpHが減じるにつれ、一層迅速になることが期待されよう。
【0050】
疾患又は病状の治療は、本明細書中で実施されるように、抗腫瘍薬処方物を投与することにより、被験者内に果たすことができる。組成物の投与は、例えば、レシピエントの生理的状態及び当業者に公知の他の要因に依存して、連続的又は断続的であってよい。製剤の投与は、本質的には、予め選択された期間にわたり連続的であるか、又は一連の間隔をおいた投与であってよい。
【0051】
一部の実施形態では、医薬組成物は、癌治療のための治療薬1種以上と組合せて使用することができる。1実施形態では、医薬組成物は、Bacille Calmette−Guerin(BCG)を使用する免疫療法と併用される。BCGは、腫瘍壊死をもたらす局所タイプ1(Th1)DTH様免疫応答を活性化させる。
【0052】
1実施形態では、抗腫瘍薬処方物は、直接に被験者に投与され、所望の応答を得る。投与量は、限定はしないが、選択された組成物、特定の疾患、被験者の体重、体調及び年齢、並びに予防又は治療を成し遂げるべきかどうかを含む種々の要因に依存して変化しよう。そのような要因は、動物モデル又は当技術で公知の他のテストシステムを使用して、臨床医により容易に決定され得る。
【0053】
通常は、治療又は予防効果を達成するのに十分な組成物の有効量は、膀胱内投与につき約1mgから約1000mgまでの範囲である。好ましくは、投薬量範囲は、膀胱内投与につき約50mgから約500mgまでである。
【0054】
本明細書中に記載の抗腫瘍薬処方物の有効量(例えば用量)は、被験者に実質的に有毒とならずに、治療効果をあげるものである。本明細書中に記載の抗腫瘍薬処方物の毒性は、細胞培養又は実験動物での標準薬学的手順(pharmaceutical procedure)により、例えば、LD50(集団の50%致死量)又はLD100(集団の100%致死量)を決定することにより決定できる。毒性と治療効果の間の用量比が治療指数である。これらの細胞培養アッセイ及び動物研究から得られたデータは、ヒトに使用するのに毒性で無い投薬量範囲を定める場合に使用できる。正確な処方、投与経路及び投薬量は、被験者の病状を考慮して、各医師が選択することができる。例えばFingl et al.,In:The Pharmacological Basis of Therapeutics,Ch.1(1975)参照。
【0055】
投与のために医薬組成物を調製する場合、これらは、好ましくは、医薬製剤又は単位剤形を形成する薬学的に許容できる担体、希釈剤又は賦形剤と組み合わせる。そのような製剤中の活性成分合計は、製剤の0.1〜99重量%である。投与用活性成分は、粉末又は顆粒として、溶液、懸濁液又はエマルジョンとして存在してよい。
【0056】
抗腫瘍薬含有医薬処方物は、十分公知の、容易に入手できる成分を使用して、当技術で公知の手順により調製することができる。抗腫瘍薬は、例えば筋肉内、皮下又は静脈内経路により非経口投与するのに適切な溶液として処方することができる。抗腫瘍薬の医薬処方物は、水性もしくは無水溶液、又は分散液の形、あるいはエマルジョンもしくは懸濁液の形をとってもよい。
【0057】
活性成分は、油状又は水性賦形剤中の懸濁液、溶液又は乳液のような形態をとってよく、かつ懸濁化剤、安定剤及び/又は分散剤などの処方剤(formulatory agent)を含有してもよい。あるいは、活性成分は、使用前に好適な賦形剤、例えば無菌の発熱物質不含水、で構成されるための粉末形態であってもよく、これは、無菌固体の無菌単離により、又は溶液からの凍結乾燥により得られる。
【0058】
医薬製剤は、随意的成分として、薬学的許容性担体、希釈剤、可溶化剤又は乳化剤、及び当技術で公知のタイプの塩を含んでもよい。医薬製剤に有用である担体及び/又は希釈剤の特定の非限定例には、水及び生理学的に許容される緩衝生理食塩液、例えばリン酸緩衝生理食塩液pH7.0〜8.0がある。
【0059】
非経口溶液に好適な担体には、水、好適な油、生理食塩水、水性デキストロース(グルコース)、関連糖溶液、及び/又はグリコール、例えばプロピレングリコール又はポリエチレングリコール、がある。非経口投与用溶液は、活性成分と、好適な安定剤と、必要ならば緩衝物質とを含有する。抗酸化剤、例えば重硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム又はアスコルビン酸、は、単独又は併用で、好適な安定剤である。クエン酸及びその塩並びにエチレンジアミンテトラ酢酸ナトリウム(EDTA)も使用される。更に、非経口溶液は、保存剤、例えば塩化ベンザルコニウム、メチル−又はプロピル−パラベン及びクロロブタノールを含有してもよい。好適な医薬担体が、この分野の標準的参照テキストである、Remington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。
【0060】
更に、標準的製薬法を使用して、作用持続時間を制御できる。これらは、当技術で良く知られており、放出制御製剤を含み、かつ適切な高分子、例えばポリマー、ポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニル、ピロリドン、エチレンビニルアセテート、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース又は硫酸プロタミン、を含んで良い。高分子濃度並びに装入方法を、放出を制御するために調整することができる。更に、薬剤は、ポリマー材料、例えばポリエステル、ポリアミノ酸、ヒドロゲル、ポリ(乳酸)又はエチレンビニルアセテートコポリマーなど、の粒子中に装入できる。装入される他に、これらの薬剤は、マイクロカプセル中に化合物を封入するのに使用することもできる。
【0061】
従って、医薬組成物は、種々の経路により、哺乳類体内の種々の部位に送達され、特定の効果を達成することができる。1つ以上の経路が、投与のために使用できるが、特定の経路が、他の経路よりも、より即時で、より効果的な反応を提供し得ることが、当業者に認識されよう。局所又は全身的送達が、製剤を体腔内に適用又は注入、エアロゾルの吸入又は通気を含む投与により達成でき、又は、筋肉内、静脈内、腹膜、皮下、皮内、を含む非経口導入、並びに局所性投与により達成できる。好ましい実施形態では、製剤は、被験者の膀胱内に供給され、即ち、膀胱内へ注入される。
【0062】
そのような担体又は希釈剤の例には、限定的ではないが、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液及び5%ヒト血清アルブミンがある。前記のように、リポソーム及び非水性賦形剤、例えば固定油、も、使用することができる。そのような媒体及び化合物の医薬活性物質のための使用は、当技術で公知である。任意の慣用の媒体又は化合物は、抗腫瘍薬と不適合である範囲を除き、組成物中でのその使用が考慮される。補足の活性化合物も組成物に装入することができる。
【0063】
このように一般的に記載される本実施形態は、以下の実施例を参照して、更に容易に理解されよう。以下の実施例は、説明のために提供され、本発明技術を限定する意図は全くない。
【実施例】
【0064】
実施例
以下の表により、種々の実施形態を更に詳しく説明する。本表が、本発明を限定すると解釈すべきではない。本表は、バルルビシン製剤を列挙したものである。
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
例1
本例では、上下の表に特定される種々の製剤をラットの膀胱に注入した。次いでラットは所定の間隔で犠牲にし、血液と膀胱を採取した。血液は、バルルビシンの全身への浸透について分析した。5つのパラメータで各膀胱のスコアをつけることにより、炎症について膀胱を分析した。5つのパラメータは、静脈性鬱血、浮腫、上皮損傷、出血と細胞浸潤であり、10段階評価でスコアをつけ、その間の数値は、測定パラメータの様々な度合いを表示する。浮腫に関して、0は、浮腫がないことに相当し、他方10は、膀胱全体を含む大規模な巣状の浮腫に相当する。静脈性鬱血に関して、0は、静脈性鬱血がないことに相当し、他方10は、目に見える、著しく拡張された全ての静脈血管に相当する。細胞浸潤に関して、0は、細胞浸潤がないことに相当し、他方10は、感染(好中球の存在)を示唆する非常に重度の細胞浸潤に相当する。上皮損傷に関して、0は、上皮損傷がないことに相当し、他方10は、上皮の大領域の著しい損失に相当する。出血に関して、0は、出血がないことに相当し、他方10は、全ての深く広範囲に及ぶ出血に相当する。次いで、この5個の各スコアを合計して、各動物について合計炎症スコアを提供する。次いで、何か特定の製剤について使用された動物数を加えて、その製剤についての平均炎症スコアを決定した。より低い炎症スコアは、膀胱への刺激のより低い量に関連すると信じることができる。
【0067】
【表3】

【0068】
図1〜3は、表3に提示された結果をグラフで示す。図1は、記載製剤の注入の結果として、ラット(動物)の膀胱の炎症をグラフにより示す。単純な生理食塩液は、ほぼ10の平均炎症スコアを生じる。生理食塩水で1:1に希釈された標準Valstar(登録商標)製剤は、ほぼ40という、著しく高い炎症スコアを生じる。生理食塩水により1:1に希釈された製剤1の注入は、生理食塩水注入の値とほぼ等しい炎症スコアを生じる。そのようなわけで、製剤1は、現在の標準市販バルルビシン製剤よりも膀胱への刺激は著しく少ない。図2は、生理食塩水で1:2.75に希釈されたValstar(登録商標)の注入の結果としてのラット(動物)の膀胱の炎症を、製剤1(1:2.75希釈)及び8(非希釈)と比べて、グラフで示す。製剤1は、標準Valstar(登録商標)よりも著しく低い(ρ=0.007)刺激を有したが、製剤8は、標準製剤よりも低いが、炎症に関しては、標準Valstar(登録商標)製剤と統計的に著しく異ならなかった。図3は、製剤4、9、11及び12の比較を示す。絶対値は、サンプルごとに変化するように見えるが、その差は、統計的に重要には見えない。図2と3において、膀胱内へ注入された溶液の全てで、バルルビシン濃度はほぼ同じであった。例えば、Valstar(登録商標)及び製剤1(1:2.75)並びに非希釈製剤4、8、9、11及び12の全ては、ほぼ11mg/mLの理論的バルルビシン濃度を有した。
【0069】
本開示は、本出願中に記載される特定の実施形態により限定されるべきではない。その精神及び範囲から逸脱せずに、多数の修正及び変異をなし得ることは、当業者に明らかであろう。本明細書中に列挙された方法及び装置に加えて、本開示の範囲内で機能的に等価の方法及び装置が、前記記述から当業者には明白であろう。そのような修正及び変異は、特許請求の範囲内にあることが意図される。本開示は、特許請求の範囲及びそれが権利化されるところの等価物の全範囲によってのみ限定されるべきである。本開示は、特定の方法、試薬、化合物組成物又は生体系に限定されず、当然変化させ得ることと理解すべきである。本明細書中に使用される専門用語は、特定の実施形態のみを記述することを目的とし、限定する意図はないことも理解すべきである。
【0070】
更に、本開示の特徴又は態様がマーカッシュグループにより記載される場合、それによって、この開示が、マーカッシュグループの任意の各要素又は要素のサブグループによっても記載されていることは、当業者であれば認識されよう。
【0071】
当業者に理解されるように、任意の及び全ての目的のために、特に明細書の規定という点では、本明細書に開示の全ての範囲は、任意の及び全ての可能なサブ範囲及びそのサブ範囲の組合せも包含する。任意の記載された範囲は、十分に記述され、かつ同範囲は少なくとも等しく2等分、3等分、4等分、5等分、10等分等に分割され得ると、容易に認識できる。非限定例として、本明細書で検討される各範囲は、容易に、下部3分の1、中央3分の1及び上部3分の1等に分割され得る。又、当業者に理解されるように、例えば、「まで」、「少なくとも」、「より大」、「より小」等の全ての言語は、挙げられた数字を含み、かつ上記のサブ範囲に続いて分割され得る範囲を示す。最後に、当業者に理解されるように、範囲は、それぞれ個々の要素を含む。従って、例えば、細胞1〜3個を有する群は、細胞1、2又は3個を有する群を示す。同様に、細胞1〜5個を有する群は、細胞1、2、3、4又は5個を有する群を示す等々。
【0072】
種々の態様及び実施形態が本明細書中に開示されてきたが、他の態様及び実施形態は、当業者には明らかであろう。本明細書中に開示された種々の態様及び実施形態は、説明を目的とし、限定する意図はなく、以下の特許請求の範囲によりその真の範囲及び精神が示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膀胱内投薬形態で、有効量のバルルビシン及びジメチルスルホキシドを含む医薬組成物。
【請求項2】
バルルビシンの有効量が、約5mg/mL〜約100mg/mL、約10mg/mL〜約90mg/mL、約15mg/mL〜約80mg/mL、約20mg/mL〜約70mg/mL、約25mg/mL〜約70mg/mL、約30mg/mL〜約60mg/mL、約35mg/mL〜約50mg/mL又は約35mg/mL〜約45mg/mLである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
エタノール、イソプロパノール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、デシルメチルスルホキシド、2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、カプリン酸、リノール酸、尿素、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びこれらの任意のもの2つ以上の混合物からなる群から選択される化学的浸透促進剤1種以上を更に含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
有効量のバルルビシン及びジメチルスルホキシドが、膀胱癌を治療するのに十分である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
結合開口剤を含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記結合開口剤が、トリメチル−キトサン、モノ−N−カルボキシメチルキトサン、N−ジエチルメチルキトサン、カプリン酸ナトリウム、シトカラシンB、IL−1、ポリカルボフィル、カルボポール934P、N−スルフェート−N,O−カルボキシメチルキトサン、Zounla occludens毒素、1−パルミトイル−2−グルタロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン及びこれらの任意のもの2つ以上の混合物からなる群から選択される請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記結合開口剤の量が、約1〜約15重量%/剤形容積である請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
ポリエトキシル化ヒマシ油を含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記ポリエトキシル化ヒマシ油が、Cremophorである請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記Cremophor及びジメチルスルホキシドが等量で備わる請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
ムチン分解化合物を更に含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記ムチン分解化合物が、トリプシン、ヒアルロニダーゼ、硫酸プロタミン及びノルエピネフリンからなる群から選択される請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
更に、生体接着剤又は粘膜接着剤を含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記粘膜接着剤がポリアクリル酸である請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
更に、イオン性又は非イオン性界面活性剤、ポリビニルピロリドン、アルギネート、ポリアクリル酸又はこれらの任意のもの2つ以上の混合物を含む請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記イオン性及び非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル又はこれらの任意のもの2つ以上の混合物である請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記ポリアクリル酸は、Carbomer934P、Carbomer940、Carbomer941、Carbomer974P、Carbomer980、Carbomer1342、ポリカルボフィル、ポリカルボフィルカルシウム又はこれらの任意のもの2つ以上の混合物である請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
膀胱内投薬形態で、有効量のバルルビシン及び2−ヒドロキシ−プロピル−β−シクロデキストランを含む医薬組成物。
【請求項19】
有効量のリポソーム封入バルルビシンを含むリポソーム剤形を含む医薬組成物であって、リポソームは、ホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンからなる群から選択されるリポソーム形成物質少なくとも1つを含む医薬組成物。
【請求項20】
請求項1に記載の医薬組成物を投与するステップを含む膀胱癌の治療法。
【請求項21】
請求項18に記載の医薬組成物を投与するステップを含む膀胱癌の治療法。
【請求項22】
請求項19に記載の医薬組成物を投与するステップを含む膀胱癌の治療法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−505370(P2011−505370A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536170(P2010−536170)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【国際出願番号】PCT/US2008/084870
【国際公開番号】WO2009/073517
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(509297680)エンド ファーマスーティカルズ ソリューションズ インコーポレイテッド. (9)
【氏名又は名称原語表記】ENDO PHARMACEUTICALS SOLUTIONS INC.
【Fターム(参考)】