説明

膀胱癌を検出するための尿マーカー

【課題】癌マーカー、特に膀胱癌マーカー、に基づいた、癌の早期発見および診断を支援するための方法、組成物、キット、および装置を提供する。
【解決手段】尿中のUBTMファミリーメンバーのUBTMのmRNAまたはUBTMタンパク質の蓄積を検出する工程を含む、膀胱癌を検出するための方法、組成物、キット、装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本出願は、ニュージーランド仮特許出願第534,289号、2004年7月23日出願、名称「膀胱癌を検出するためのマーカー」、出願人:Pacific Edge Biotechnology Ltd.、ニュージーランド仮特許出願第539,219号、2005年4月4日出願、名称「膀胱癌を検出するためのマーカー」、出願人:Pacific Edge Biotechnology Ltd.、および米国仮特許出願第60/692,619号、2005年6月20日出願、名称「膀胱癌を検出するための尿マーカー」、発明者:Parry John Guilford, Natalie Jane Kerr and Robert Pollock、に対して優先権を主張する。上記出願の各々は、参照により本明細書に完全に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、癌の検出に関する。具体的には、本発明は、膀胱癌を検出するためのマーカーの使用に関する。より具体的には、本発明は、膀胱癌を検出するための尿マーカーの使用に関する。さらにより具体的には、本発明は、尿中のオリゴヌクレオチド、タンパク質、および/または抗体マーカーの、膀胱癌の検出、分類、および病期診断のための使用に関する。
【0003】
背景技術

癌患者の生存期間は、癌を初期に治療すると非常に増大する。膀胱癌の場合には、早期疾患と診断された患者は、5年生存率が、増悪した疾患と診断された患者がおよそ15〜30%であるのに比較して、>90%である。したがって、膀胱癌の早期診断に結びつく進歩は、患者の予後の改善をもたらすことができる。尿試料を用いて膀胱癌を検出するための確立された方法は、細胞診である。しかし、細胞診は、浸潤性膀胱癌の検出については感度がわずか約75%であり、また表在性膀胱癌の検出では感度がわずか約25%であることが知られている(Lotan and Roehrborn, Urology 61,109-118 (2003))。
【0004】
膀胱癌は、大きく浸潤性および表在性の2つのクラスに分類される。浸潤性タイプは下層の組織層に侵入し、一方表在性タイプは、主としてポリープ状の増殖として膀胱腔の中へ進展する傾向がある。
【0005】
尿中の癌に対する特異的マーカーの識別は、癌の早期診断に役立つ手法を提供することができ、それが早期の治療および改善された予後をもたらす。特異的癌マーカーはまた、疾病増悪をモニターするための手段を提供し、外科的、放射線療法的、および化学療法的な治療の有効性のモニターを可能にする。しかし、多くの主要な癌について、利用可能なマーカーは、感度および特異性が不十分である。
【0006】
現在、膀胱癌を検出する最も信頼できる方法は、生検病変の組織学を伴う膀胱鏡検査である。しかし、この技術は、時間がかかり、侵襲性であり、またその感度はおよそ90%しかなく、これは、これらの方法を用いると癌の約10パーセントが検出されないことを意味する。非侵襲性の方法の中では、剥離した悪性細胞を顕微鏡的に検出する尿細胞診が、現在の好ましい方法である。細胞診は約95%の特異性を有するが、早期の病変に対しては低い感度(9〜25%)しかなく、試料の質に極端に依存し、観察者間で高い変動性を持つ。
【0007】
近年、膀胱からの生検材料中の遺伝学的マーカーを検出する試みが為されてきた。最も一般的に使用される方法はマイクロアレイ分析であり、この方法では、推定上の遺伝学的マーカーの一部に相補的なオリゴヌクレオチドを含むアレイを、患者試料から得られたmRNAまたはcDNA試料に触れさせる。これらの方法を用いて、いくつかの最近の報告は、膀胱癌に対する多くの推定上のマーカーを同定した。しかし、アレイ技術は、比較的非定量的で、高度に変動する。
【0008】
膀胱癌の存在を示す血液または尿のマーカーの検出は、この疾病の検出を改善する1つの有力な方法である。膀胱癌に対する血液マーカー開発はまだ殆ど進展していないが、いくつかの尿タンパク質マーカーが利用可能である。これらのマーカーの検査は、細胞診よりよい感度を与えるが、これらのマーカーの上昇したレベルは、炎症、尿石症および良性前立腺肥大を含む非悪性疾患の患者中でも一般に観察されるため、特異性が最高ではない傾向がある。例えば、特異的な核マトリックスタンパク質を検出するNMP22は、47〜87%の感度および58〜91%の特異性を有する。NMP22の高い変動性は、膀胱癌の迅速で容易な検出には、それが理想的ではないことを意味する。
【0009】
他の尿検査には、尿試料の細胞沈殿物からのテロメラーゼ酵素hTERTなどの、遺伝子転写物のRT−PCR増幅が挙げられる。RT−PCR検査は、高感度である可能性があるが、既存のRT−PCRマーカーの特異性は不明確なままである。
【0010】
癌の早期発見および診断用のさらなる手法が必要性である。本発明は、癌マーカー、特に膀胱癌マーカー、に基づいた、癌の早期発見および診断を支援するためのさらなる方法、組成物、キット、および装置を提供する。
【0011】
発明の開示
マイクロアレイ分析および定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)の組合せを用いて、我々は、膀胱癌に選択的な特異的遺伝マーカーを同定することができた。ある実施態様では、我々は、膀胱腫瘍の病期を判別するために用いることができるマーカーを発見し、また他の実施態様では、我々は、腫瘍の型を区別することができるマーカーを同定した。他の実施態様では、我々は予想外に、2マーカー以上の組合せにより、膀胱癌の非常に信頼性の高い敏感な検出が可能になることを見出した。よりさらなる実施態様では、我々は、膀胱癌細胞中で高度に発現され、血球中では発現されないマーカーを同定した。したがって、多くの実施態様において、膀胱癌に対する検査は、先行技術による検査より予想外に良好である。
【0012】
ある実施態様では、マイクロアレイ分析を、非悪性の膀胱組織中と比較して、膀胱腫瘍組織中で高度に発現される遺伝子を同定するために用いる。これらの遺伝子、およびそれらの遺伝子によってコードされるタンパク質を、本明細書では膀胱腫瘍マーカー(BTM)と名付ける。用語BTMは、マーカーが膀胱腫瘍にのみに特異的であることは要求しないことを理解するべきである。むしろ、BTMの発現は、悪性腫瘍を含む他の型の腫瘍中で増大する可能性がある。BTMは、血球中で高度には発現されないマーカーを含むこともまた、理解するべきである。尿から試料を採取することにより、一般に先行技術の生検試料中に存在する他の型の細胞の発現は存在しない。用語BTMは、膀胱癌の検出に役立つ個々のマーカーの組合せも含む。
【0013】
他の実施態様では、免疫組織化学および定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を含む、試料中のマーカーの存在を同定するための方法が、提供される。qPCR法は、マイクロアレイ法において一般的なアーティファクトが少ない。そのようなアーティファクトには、アレイ・ドットに置かれるリガンドオリゴヌクレオチドの数の差、アレイ・スポット上にハイブリダイズされたオリゴヌクレオチドへの色素の不均一な予測できない結合、アレイ・スポットからの非特異的物質の不均一な洗浄、その他の問題が含まれる。
【0014】
本明細書に開示する遺伝子のあるものは、細胞によって分泌されるか、細胞から剥がされるか、または細胞死の際に細胞から放出されるタンパク質をコードする。これらのmRNA転写物およびそれらのタンパク質は、膀胱癌の診断のためのマーカーとしての、または既存の疾病の増悪をモニターするためのマーカーとしての、追加の用途を有する。これらのマーカーは、単独でまたは互いに組合せて用いることができる。さらに、他の遺伝子、RNA転写物、およびコードされたタンパク質は、細胞内に残るかまたは細胞に結合し、単独でまたは互いに共同して、尿マーカーとして使用されることができる。
【0015】
表在性と浸潤性の膀胱癌を治療するための戦略は、異なってもよい。浸潤性膀胱癌は、表在型膀胱癌よりも、外科的切除をより早急に必要とし、また可能な代替治療法がより少ない。対照的に、表在性膀胱癌は、膀胱内化学療法または膀胱内BCG免疫療法のいずれかで効率よく治療することができる。
【0016】
現在のところ、しかし、膀胱鏡検査を行なわないで、容易に、かつ確実に表在性および浸潤性膀胱癌のクラスを識別する方法は存在しない。尿検査のような非侵襲性の方法を用いて、これらのクラスを識別することができれば、臨床医は、高価で、不便で、しばしば患者に受け入れ難い膀胱鏡検査に依存せずに、適切な治療戦略を選択することが可能になるであろう。
【0017】
我々は思いがけなく、ある尿マーカーが、特に、血液中には高濃度に見出されなかったマーカーが、組合せてまたは単独で用いた時に、極めて信頼性が高く、敏感で特異的な膀胱癌の診断を提供することができることを見出した。
【0018】
本発明を、その具体的な実施態様および以下の図面を参照して、記述する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、qPCR分析で用いられる試料の数および起源をあらわす表である。
【図2】図2は、本発明の膀胱癌のqPCR分析のための、マーカー、およびマーカーのオリゴヌクレオチドプローブの表を示す。
【図3−1】図3は、浸潤性膀胱癌の試料にマイクロアレイ法を用いて同定したBTMの表を示す。
【図3−2】図3は、浸潤性膀胱癌の試料にマイクロアレイ法を用いて同定したBTMの表を示す。
【図3−3】図3は、浸潤性膀胱癌の試料にマイクロアレイ法を用いて同定したBTMの表を示す。
【図3−4】図3は、浸潤性膀胱癌の試料にマイクロアレイ法を用いて同定したBTMの表を示す。
【図3−5】図3は、浸潤性膀胱癌の試料にマイクロアレイ法を用いて同定したBTMの表を示す。
【図4−1】図4は、表在性膀胱癌の試料にマイクロアレイ法を用いて同定したBTMの表を示す。
【図4−2】図4は、表在性膀胱癌の試料にマイクロアレイ法を用いて同定したBTMの表を示す。
【図4−3】図4は、表在性膀胱癌の試料にマイクロアレイ法を用いて同定したBTMの表を示す。
【図5−1】図5は、特異的BTMについて定量的PCR分析を用いて行なわれた研究で得られた結果の表を示す。
【図5−2】図5は、特異的BTMについて定量的PCR分析を用いて行なわれた研究で得られた結果の表を示す。
【図6a】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6a:SPAG5、浸潤性。
【図6b】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6b:SPAG5、表在性。
【図6c】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6c:TOP2a、浸潤性。
【図6d】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6d:TOP2a、表在性。
【図6e】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6e:CDC2、浸潤性。
【図6f】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6f:CDC2、表在性。
【図6g】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6g:ENG、浸潤性。
【図6h】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6h:ENG、表在性。
【図6i】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6i:IGFBP5、表在性。
【図6j】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6j:NOV、表在性。
【図6k】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6k:NRP1、浸潤性。
【図6l】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6l:NRP1、表在性。
【図6m】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6m:SEMA3F、表在性。
【図6n】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6n:EGFL6、浸潤性。
【図6o】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6o:EGFL6、表在性。
【図6p】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6p:MGP、浸潤性。
【図6q】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6q:SEM2、浸潤性。
【図6r】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6r:SEM2、表在性。
【図6s】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6s:CHGA、浸潤性。
【図6t】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6t:CHGA、表在性。
【図6u】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6u:BIRC5、浸潤性。
【図6v】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6v:BIRC5、表在性。
【図6w】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6w:UBE2C、浸潤性。
【図6x】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6x:UBE2C、表在性。
【図6y】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6y:HoxA13、浸潤性。
【図6aa】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6aa:MDK、浸潤性。
【図6ab】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6ab:MDK、表在性。
【図6ac】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6ac:Thy1、浸潤性。
【図6ad】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6ad:Thyl、表在性。
【図6ae】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6ae:SMC4L1、浸潤性。
【図6af】図6a〜6afは、浸潤性および表在性膀胱腫瘍の様々な腫瘍マーカーに関する定量的PCR研究から得られた、相対頻度対log倍率変化データを示すヒストグラムである。図6af:SMC4L1、表在性。
【図7】図7は、尿試料を用いて、特異的BTMについての定量的PCR分析を用いて行なわれた研究で得られた結果の表を示す。
【図8】図8は、患者および健全な対照の尿中の膀胱癌マーカーの相対的な蓄積を示す箱ひげ図を示す。12のBTMの各々の対でデータを示し;各対の上の箱が、健康な対照患者からの尿試料を表わし、下の箱が、膀胱癌の患者からの尿試料を表わす。箱は第25、第50、および第75百分位を定める。すべてのデータは、健康な対照の中央値に対するlog倍率変化である。ドットは外れ値を表わす。
【図9】図9は、膀胱癌組織からのRNAと比較した、全血から抽出された全RNAの定量的PCR分析の棒グラフを示す。
【図10】図10は、膀胱癌患者の尿中のマーカー転写物の過剰蓄積の中央値を示す。患者と健全な対照の間の、および患者と非悪性の対照の間の、log差異を別々に示す。
【図11】図11は、健康および非悪性の対照と比較した、癌患者の尿中でのマーカー転写物の過剰な出現を示す箱ひげ図を表示する。箱は、第25、第50、および第75百分位を定める。すべてのデータは、健康な対照の中央値に対する相対値である。点で充たした箱は、健康な被験者からの試料に対応する。暗影で充たした箱は、非悪性の泌尿器疾患を有する患者からの試料に対応し、また切刻模様で充たした箱は膀胱癌の患者からの試料に対応する:a.H0XA13;b.IGFBP5;c.MDK;d.MGP;e.NRPl;f.SEMA3F;g.SMC4L1;h.TOP2A;i.UBE2C。ドットは、外れ値を表わす。
【図12a】図12a〜12bは、浸潤性および表在性型の腫瘍について、正常発現の中央値の第95百分位数より高い発現を有するマーカーの数を示すヒストグラムをそれぞれ表す。結果は、12のマーカーについてのqPCRデータに基づき、各腫瘍試料に対して別々に示されている。
【図12b】図12a〜12bは、浸潤性および表在性型の腫瘍について、正常発現の中央値の第95百分位数より高い発現を有するマーカーの数を示すヒストグラムをそれぞれ表す。結果は、12のマーカーについてのqPCRデータに基づき、各腫瘍試料に対して別々に示されている。
【図13a】図13a〜13bは、腫瘍組織と非悪性組織を正確に区別する能力に対する複数のマーカーの効果を示す表を示す。表はqPCRデータから導かれる正規分布から構成した。図13aは、浸潤性膀胱癌組織と非悪性組織とを、95%の特異性で正確に区別する能力に対する複数のマーカーの効果を表す。
【図13b】図13a〜13bは、腫瘍組織と非悪性組織を正確に区別する能力に対する複数のマーカーの効果を示す表を示す。表はqPCRデータから導かれる正規分布から構成した。図13bは、表在性膀胱癌組織と非悪性組織とを、95%の特異性で正確に区別する能力に対する複数のマーカーの効果を表す。
【図14a−1】図14a〜14bは、qPCRデータの正規分布から計算された、浸潤性移行上皮癌(TCC)に対する、95%特異性でのマーカーの組合せの感度を示す表を示す。図14a:浸潤性移行上皮癌(TCC)。
【図14a−2】図14a〜14bは、qPCRデータの正規分布から計算された、浸潤性移行上皮癌(TCC)に対する、95%特異性でのマーカーの組合せの感度を示す表を示す。図14a:浸潤性移行上皮癌(TCC)。
【図14a−3】図14a〜14bは、qPCRデータの正規分布から計算された、浸潤性移行上皮癌(TCC)に対する、95%特異性でのマーカーの組合せの感度を示す表を示す。図14a:浸潤性移行上皮癌(TCC)。
【図14a−4】図14a〜14bは、qPCRデータの正規分布から計算された、浸潤性移行上皮癌(TCC)に対する、95%特異性でのマーカーの組合せの感度を示す表を示す。図14a:浸潤性移行上皮癌(TCC)。
【図14a−5】図14a〜14bは、qPCRデータの正規分布から計算された、浸潤性移行上皮癌(TCC)に対する、95%特異性でのマーカーの組合せの感度を示す表を示す。図14a:浸潤性移行上皮癌(TCC)。
【図14a−6】図14a〜14bは、qPCRデータの正規分布から計算された、浸潤性移行上皮癌(TCC)に対する、95%特異性でのマーカーの組合せの感度を示す表を示す。図14a:浸潤性移行上皮癌(TCC)。
【図14a−7】図14a〜14bは、qPCRデータの正規分布から計算された、浸潤性移行上皮癌(TCC)に対する、95%特異性でのマーカーの組合せの感度を示す表を示す。図14a:浸潤性移行上皮癌(TCC)。
【図14a−8】図14a〜14bは、qPCRデータの正規分布から計算された、浸潤性移行上皮癌(TCC)に対する、95%特異性でのマーカーの組合せの感度を示す表を示す。図14a:浸潤性移行上皮癌(TCC)。
【図14b−1】図14a〜14bは、qPCRデータの正規分布から計算された、浸潤性移行上皮癌(TCC)に対する、95%特異性でのマーカーの組合せの感度を示す表を示す。図14b:表在性TCC。
【図14b−2】図14a〜14bは、qPCRデータの正規分布から計算された、浸潤性移行上皮癌(TCC)に対する、95%特異性でのマーカーの組合せの感度を示す表を示す。図14b:表在性TCC。
【図14b−3】図14a〜14bは、qPCRデータの正規分布から計算された、浸潤性移行上皮癌(TCC)に対する、95%特異性でのマーカーの組合せの感度を示す表を示す。図14b:表在性TCC。
【図14b−4】図14a〜14bは、qPCRデータの正規分布から計算された、浸潤性移行上皮癌(TCC)に対する、95%特異性でのマーカーの組合せの感度を示す表を示す。図14b:表在性TCC。
【図14b−5】図14a〜14bは、qPCRデータの正規分布から計算された、浸潤性移行上皮癌(TCC)に対する、95%特異性でのマーカーの組合せの感度を示す表を示す。図14b:表在性TCC。
【図15】図15は、膀胱癌(TCC)患者から得られた尿試料と非悪性の泌尿器疾患を有する患者から得られた尿試料とを正確に区別する能力に対する複数のマーカーの効果を示す表を示す。表を、尿のqPCR分析から得られたデータの正規分布から作成した。
【図16−1】図16は、尿のqPCRデータの正規分布から計算された、TCC検出のための尿中のマーカーの組合せの、95%特異性における感度を示す表である。
【図16−2】図16は、尿のqPCRデータの正規分布から計算された、TCC検出のための尿中のマーカーの組合せの、95%特異性における感度を示す表である。
【図16−3】図16は、尿のqPCRデータの正規分布から計算された、TCC検出のための尿中のマーカーの組合せの、95%特異性における感度を示す表である。
【図17】図17は、表在性および浸潤性膀胱癌の患者の尿から抽出されたRNA中のBTMの比率を示す箱ひげ図を示す。箱は、第25、第50および第75百分位を定める。灰色影を付した箱は、表在性膀胱癌の患者からの試料を表し、また、線影を付した箱は、浸潤性膀胱癌の患者からの試料を表わす:a.TOP2A/HOXA13の組合せ;b.TOP2A/IGFBP5の組合せ;およびc.TOP2A/SEMA3Fの組合せ。ドットは外れ値を表わす。
【図18】図18は、種々の病期の膀胱癌の患者の尿中のBTMの比率を示す箱ひげ図を示す。箱は、第25、第50、および第75百分位を定める。点で充たした箱は表在性膀胱癌患者からの試料に対応し、灰暗影の箱は病期1の浸潤性腫瘍患者からの試料に対応し、また線影の箱は病期2〜3の腫瘍患者からの試料に対応する:a.TOP2A/HOXA13の組合せ;b.TOP2A/IGFBP5の組合せ;およびc.TOP2A/SEMA3Fの組合せ、である。ドットは外れ値を表わす。
【図19】図19は、表在性および浸潤性膀胱腫瘍から抽出されたRNA中のBTMの比率を示す箱ひげ図を表す。箱は、第25、第50、および第75百分位を定める。灰暗影の箱は表在性膀胱腫瘍患者からの試料を表し、また線影の箱は浸潤性膀胱腫瘍患者からの試料を表す:a.TOP2A/HOXA13の組合せ;b.TOP2A/IGFBP5の組合せ;およびc.TOP2A/SEMA3Fの組合せ、である。ドットは外れ値を表わす。
【図20】図20は、膀胱癌検出に適用するための1マーカーの組合せを示す箱ひげ図を表す。図は、健康および非悪性の対照と比較した癌患者の尿中の4つのマーカーの群の過剰な出現を示す。箱は、第25、第50、および第75百分位を定める。すべてのデータは、健全な対照の中央値に対する相対値である。点で充たしたボックスは健康な被験者からの試料に対応する。灰暗影で充たしたボックスは非悪性泌尿器疾患を有する患者からの試料に対応し、また切刻模様で充たした箱は膀胱癌の患者からの試料に対応する:a.H0XA13;b.MGP;c.SEMA3F;およびd.TOP2A、である。ドットは外れ値を表わす。
【図21】図21は、膀胱癌の組織学的な型を決定するためのマーカーの組合せを示す箱ひげ図を表す。図は、表在性および浸潤性膀胱癌の患者の尿から抽出されたRNA中のBTMの比率を示す。箱は、第25、第50、および第75百分位を定める。灰暗影の箱は表在性膀胱癌患者からの試料を表し、また線影の箱は浸潤性膀胱癌患者からの試料を表す:a.TOP2A/SEMA3Fの組合せ;b.TOP2A/HOXA13の組合せ、である。ドットは外れ値を表わす。
【0020】
発明の詳細な説明
定義
本発明の実施態様について詳細に記述する前に、本明細書に用いられる用語のいくつかの定義を与えることは有用であろう。
【0021】
用語「マーカー」とは、生物学的現象の存在に、定量的にまたは定性的に関連している分子の意味である。「マーカー」の例には、現象の背後に存在する機構に直接関係するか間接的に関係するかによらず、遺伝子、遺伝子断片、RNA、RNA断片、タンパク質、タンパク質断片、関連する代謝産物、副産物または他の識別する分子が含まれる。
【0022】
用語「感度」とは、疾病を有する個人中の、検査に陽性反応を示す個人の割合を意味する。したがって、増大した感度とは、より少ない偽陰性の検査結果を意味する。
【0023】
用語「特異性」とは、疾病を有さない個人中の、検査に陰性反応を示す個人の割合を意味する。したがって、増大した特異性とは、より少ない偽陽性の検査結果を意味する。
【0024】
用語「BTM」即ち「膀胱腫瘍マーカー」、または「BTMファミリーメンバー」とは、膀胱癌に関連するマーカーを意味する。用語BTMには、さらに個々のマーカーの組合せが含まれ、その組合せは、膀胱癌を検出する感度および特異性を改善する。本出願のいくつかの項では、用語BTMは便宜上UBTM(本明細書に定義された)を含んでいてもよい。BTMの非限定的な例が、本明細書の図3および4に挙げられている。
【0025】
BTMを、膀胱癌を有する疑いのある患者の組織試料からRNAを抽出し、そのRNAを、多数のオリゴヌクレオチドがその上に存在するマイクロアレイに加えて試料RNAをアレイ上のオリゴヌクレオチドにハイブリダイズさせ、次に、各アレイ・スポットに結合した測定対象のRNAのレベルを定量することにより、同定することができる。あるマーカーの存在量が、マイクロアレイ法を用いて正常、非悪性の組織で見出される存在量の少なくとも約1.2倍である閾値より上の場合は、そのマーカーをBTMであると考える。あるいは閾値は、正常値の約2倍、正常値より約3倍、正常値より4倍、または約5倍より上にできる。「正常」によって、我々は正常な集団の第90百分位数を越えるものを意味する。他の場合には、正常とは、第95百分位数の(すなわち平均から標準偏差(SD)の約2倍の)、および他の場合には第97.5百分位数(すなわちSDの約3倍の)、または第99百分位数よりも大きな存在レベルを意味することができる。
【0026】
よりさらなる場合において、腫瘍組織中には存在するが、血液中には実質的な程度存在しないBTMを選択することができる。「実質的な程度」とは、腫瘍組織中の量が、血液で見られる量よりも、qPCRによって測定すると少なくとも約5サイクルだけ多いことであると我々は定める。
【0027】
用語「UBTM」即ち「尿の膀胱腫瘍マーカー」または「UBTMファミリーメンバー」とは、尿中に見出される膀胱癌に関連するBTMマーカーを意味する、しかしTOP2A、MDK、またはBIRC5は含まれない。用語UBTMは、さらに2マーカーの組合せ、および3マーカーの組合せを含み、その組合せは、尿試料中で膀胱癌を検出する感度および選択性を改善する。UBTMの非限定的な例が、本明細書の図14aおよび14bに挙げられている。
【0028】
他の場合においては、UBTMを尿中で、マイクロアレイ法を用いて、またはqPCR法により、順方向プライマー、逆方向プライマーおよび評価するマーカーに基づいて選択されるプローブを用いて、同定することができる。尿中の膀胱癌の検出閾値は、膀胱癌を有する正常な被験者の尿中のマーカーレベルより、約1サイクル(2倍)、2サイクル(4倍)、3サイクル(8倍)、4サイクル(16倍)、5サイクル(32倍)、またはそれ以上大きくてよい。
【0029】
用語「qPCR」とは、定量的ポリメラーゼ連鎖反応を意味する。
【0030】
用語「発現」は、遺伝子または遺伝子の一部からのmRNAの産生を含み、RNAまたは遺伝子または遺伝子の部分によってコードされるタンパク質の産生を含み、また発現に関連した検知可能な物質の出現を含む。例えば、抗体などの結合リガンドの、遺伝子または他のオリゴヌクレオチド、タンパク質またはタンパク質断片への結合、および結合するリガンドの視覚化が、用語「発現」の範囲に含まれる。したがって、ウェスタンブロットなどの免疫ブロット上のスポットの増大した濃度が、根底に存在する生物分子の「発現」という用語に含まれる。
【0031】
用語「発現速度」とは、転写物またはタンパク質の量の時間による変化を意味する。
【0032】
用語「発現過剰」は、定められた時間当たりの、1個の細胞または細胞型中のマーカーの発現速度が、別の細胞または細胞型より高い場合に用いられる。
【0033】
用語「蓄積」とは、正常な平均値と比較した、試料中のマーカーの増大した量を意味する。「増大した量」とは、マイクロアレイ法を用いて測定した時に、マーカーの量が、正常範囲の、第90、第95、第97.5、第99、またはそれより大きな百分位数より、少なくとも約1.2倍、2倍、3倍、4倍、または5倍高い、という意味に用いる。qPCRを用いて測定した時、「増大した量」とは、正常範囲の第90、第95、第97.5、または第99百分位数より、少なくとも約1サイクル(2倍)、2サイクル(4倍)、3サイクル(8倍)、4サイクル(16倍)、5サイクル(32倍)、またはそれ以上高いマーカー量の意味である。
【0034】
蓄積は、細胞中の(細胞当たりベースでの)マーカーの増大した量を含むか、または試料中の特定のマーカーを有する細胞の増大した数を意味することができる。したがって蓄積は、膀胱癌の特徴を有しない条件と比較した、尿中の(体積当たりベースでの)マーカーの増大した全量を意味することができる。蓄積はまた、与えられた細胞型中のBTMの発現速度の増加、および/または正常な発現速度でBTMを発現する細胞の数の増加を反映することができる。さらに、蓄積は、細胞膜の完全性の喪失または細胞死および破壊により存在する、フリーmRNAを反映することもできる。
【0035】
発明を実施するための最良の形態
膀胱を含む腫瘍の検出および評価のためのマーカーを提供する。多数の遺伝子およびタンパク質が、膀胱腫瘍に関連していることが発見された。膀胱腫瘍を有する患者からおよび正常な尿路上皮の非悪性試料から採取した試料のマイクロアレイ分析により、多くの膀胱腫瘍において、ある遺伝子の過剰発現または遺伝子産物の尿中の蓄積の特異的パターンが、疾病に関連しているという驚くべき発見がもたらされた。最も驚くべきことに、膀胱癌の患者からの尿試料中には高いレベルで存在するが、健康な個人、および特に、血尿症を示す個人を含む非悪性泌尿器疾患を有する個人では低レベルで存在するマーカーが、単離されたのである。マーカー、例えば遺伝子産物(例えば、mRNAなどのオリゴヌクレオチド)ならびにオリゴヌクレオチドから翻訳されたタンパク質およびペプチドの検出は、したがって腫瘍、特に膀胱腫瘍の存在を示唆する。
【0036】
特定のマーカーまたはマーカーの組のレベルは、存在するマーカーの量と比較した生成された尿の量に依存する可能性があるのは当然である。したがって、減少した尿生産(例えば低下した尿量)によって特徴づけられる条件では、マーカー濃度が増大するであろうが、それは膀胱癌を反映しないであろう。したがって、いくつかの実施態様では、マーカー量を所定の時間あたりの全尿生産量によって補正することができる。あるいは、マーカー濃度を尿試料中の全細胞数によって補正することができ、他の実施態様では、尿中に存在する全タンパク質によって補正することもできる。他方では、増加した尿生産量が腫瘍マーカーを薄め、そのために、膀胱癌の存在を隠蔽する傾向がある。そのような条件は、増加した水分摂取量、減少した食塩摂取量、利尿薬の使用の増大、または抗利尿ホルモンの産生または活性の抑制に関連している可能性がある。
【0037】
いくつかの実施態様では、公知技術を用いて腎機能を測定することができる。これらには、例としてクレアチニンクリアランスの測定が含まれる。しかし、腎機能の測定に適切な多くの方法があることが知られている。異常な腎機能が見出される条件では、適切な補正を用いて、測定されたマーカーの蓄積を調整することができる。それにより膀胱癌をより正確に診断することができる。
【0038】
癌マーカーは試料中で、任意の適当な技術を用いて検出することができ、その技術はオリゴヌクレオチドプローブ、qPCR、または癌マーカーに対して作成された抗体を含むことができるが、それらに限られない。
【0039】
検査する試料は、腫瘍の疑いのある組織の試料に制限されないことは当然であろう。マーカーは、血清中へ分泌されるか、細胞膜から脱落するか、あるいは尿中に失われる細胞に結合している可能性がある。したがって、試料は任意の身体試料を含むことができ、血液、血清、腹膜洗液、脳脊髄液、尿、および糞便試料を含む。
【0040】
1つの癌マーカーを試料中で検出することは、その被験者中の腫瘍の存在を示すことになろう。しかし、複数の癌マーカーの発現の存在および量を分析することによって、診断の感度が増大し、一方で偽陽性および/または偽陰性の結果の頻度が減少するのは当然であろう。したがって本発明による複数のマーカーを、癌の早期の発見および診断を増大させるために用いることができる。
【0041】
癌検出の一般的手法
次の手法は、BTMまたはUBTMファミリーメンバーを用いて、膀胱癌を含む癌を検出するために使用することができる方法である。しかしそれらに限定されない。
【0042】
マーカーに対して選択的な核酸プローブを用いるハイブリダイゼーション法
これらの方法は、核酸プローブを支持体へ結合させる工程、および適切な条件下で検査試料に由来するRNAまたはcDNAとハイブリダイズさせる工程を含む(Sambrook, J., E Fritsch, E. and T Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3rd. ColdSpring HarborLaboratory Press: Cold Spring Harbor(2001))。これらの方法を、腫瘍組織または液体試料に由来するBTMまたはUBTMに適切に適用することができる。RNAまたはcDNA調製物を、検出および定量化を可能にするために、通常は蛍光性または放射性分子でラベルする。いくつかの応用では、信号強度を増強するために、ハイブリダイズさせるDNAに、分岐した蛍光ラベル構造を有するタグを付することができる(Nolte, F.S., Branched DNA signal amplification for direct quantitation of nucleic acid sequences in clinical specimens. Adv. Clin. Chem. 33, 201-35 (1998))。ハイブリダイズしていないラベルを、0.1×SSC、0.5%SDSなどの薄い塩溶液中での十分な洗浄により除いた後、ゲル像の蛍光検出またはデンシトメトリーによって、ハイブリダイゼーションの量を定量化する。支持体は、ナイロンまたはニトロセルロース膜などの固体であり、あるいは液体懸濁液中でハイブリダイズするミクロスフェアまたはビーズから成ることができる。洗浄および精製が可能なように、ビーズは磁性体であってよく(Haukanes, B-I and Kvam, C, Application of magnetic beads in bioassays. Bio/Technology 11, 60-63 (1993))、または、フローサイトメトリーが可能なように蛍光ラベルしてもよい (例えば: Spiro, A., Lowe, M. and Brown, D., A Bead-Based Method for Multiplexed Identification and Quantitation of DNA Sequences Using Flow Cytometry. Appl. Env. Micro. 66, 4258- 4265 (2000) 参照)。
【0043】
ハイブリダイゼーション技術のある変形が、蛍光ビーズ支持体を分岐DNA信号増幅と組み合わせる、QuantiGene Plex(登録商標)分析(Genospectra, Fremont)である。ハイブリダイゼーション技術のさらに別の変形が、Quantikine(登録商標)mRNA分析(R&D Systems, Minneapolis)である。実施方法はメーカーの指示書に記載された通りである。簡潔に述べれば、分析は、ジゴキシゲニンに結合したオリゴヌクレオチド・ハイブリダイゼーションプローブを用いる。ハイブリダイゼーションを、比色定量分析で、アルカリフォスファターゼに連結された抗ジゴキシゲニン抗体を用いて検出する。
【0044】
追加の方法は当技術分野において周知であり、本明細書にさらに記載する必要はない。
【0045】
定量的PCR(qPCR)
定量的PCR(qPCR)を、腫瘍試料に、血清、血漿、および尿の試料に、BTM特異的なプライマーおよびプローブを用いて実施することができる。制御された反応において、PCR反応で形成された生成物の量(Sambrook, J., E Fritsch, E. and T Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3rd. Cold Spring Harbor Laboratory Press: Cold Spring Harbor (2001))は、開始時点の鋳型の量と相関関係にある。PCR生成物の定量化を、PCR反応を、それが対数期にある時に、試薬が律速になる前に止めることにより、行なうことができる。その後、PCR生成物をアガロースまたはポリアクリルアミドゲル中で電気泳動し、エチジウムブロマイドまたはそれに匹敵するDNA染色で染色し、染色強度をデンシトメトリーにより測定する。あるいはPCR反応の進行を、リアルタイムで生成物蓄積を測定するApplied BiosystemsのPrism7000またはRochのLightCyclerのようなPCR機器を用いて、測定することができる。リアルタイムPCRは、合成されたPCR生成物中へ取込まれたSybr GreenなどのDNA陥入性色素の蛍光、または消光剤分子から切断された時にレポーター分子によって放出される蛍光、のどちらかを測定する;レポーター分子および消光剤分子は、オリゴヌクレオチドプローブに組み入れられ、オリゴヌクレオチドプローブは、プライマーオリゴヌクレオチドからDNA鎖が伸長した後に、標的DNA分子にハイブリダイズする。オリゴヌクレオチドプローブは、次のPCRサイクルで、Taqポリメラーゼの酵素作用により追い出され、分解されて、消光剤分子からレポーター分子を放出する。
【0046】
いくつかの実施態様では、順方向プライマー、逆方向プライマー、およびプローブのセットが、配列番号1、配列番号14、および配列番号27をそれぞれ含む。あるいは、セットは、配列番号2、配列番号15、および配列番号28をそれぞれ含む。他の実施態様では、セットは、配列番号3、配列番号16、および配列番号29をそれぞれ、配列番号4、配列番号17、および配列番号30をそれぞれ、配列番号5、配列番号18、および配列番号31をそれぞれ、配列番号6、配列番号19、および配列番号32をそれぞれ、配列番号7、配列番号20、および配列番号33をそれぞれ、配列番号8、配列番号21、および配列番号34をそれぞれ、配列番号9、配列番号22、および配列番号35をそれぞれ、配列番号10、配列番号23、および配列番号36をそれぞれ、配列番号11、配列番号24、および配列番号37をそれぞれ、配列番号12、配列番号25、および配列番号38をそれぞれ;ならびに配列番号13、配列番号26、および配列番号39をそれぞれ、含む。
【0047】
酵素結合免疫分析(ELISA)
簡潔に述べれば、サンドイッチELIZA分析では、BTM/UBTMに対するポリクローナルまたはモノクローナル抗体を、固体支持体(Crowther, J.R. The ELISA guidebook. Humana Press: New Jersey (2000); Harlow, E. and Lane, D., Using antibodies: a laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press: Cold Spring Harbor (1999))、または懸濁液のビーズに結合する。他の方法は当技術分野において公知であり、本明細書でさらに記述する必要はない。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマから導出することができ、またはファージ抗体ライブラリー(Hust M. and Dubel S., Phage display vectors for the in vitro generation of human antibody fragments. Methods MoI Biol. 295:71- 96 (2005))から選択することができる。非特異的結合部位を、非標的タンパク質調製物および界面活性剤でブロックする。その後、捕獲抗体を、BTM/UBTM抗原を含む尿または組織調製物とインキュベーションする。その混合物を洗浄した後、抗体/抗原複合体を、標的とするBTM/UBTMを検出する第2の抗体とインキュベーションする。第2の抗体を、通常は蛍光性分子に、または、酵素反応でまたはレポーターに結合した第3の抗体(Crowther,Id.)で検出することができる他のレポーター分子に、結合させる。あるいは、直接ELISAでは、BTM/UBTMを含む調製物を支持体またはビーズに結合させ、標的とする抗原を、抗体−レポーター共役体で直接検出できる(Crowther, 前出)。
【0048】
モノクローナル抗体およびポリクローナル抗血清を生成する方法は当技術分野において周知であり、本明細書にさらに記述する必要はない。
【0049】
免疫組織化学
腫瘍マーカーの同定および位置確認を、抗マーカー抗体を用いて、膀胱腫瘍、リンパ節、または遠隔転移について行なうことができる。そのような方法を、例えば結腸直腸、膵臓、卵巣、メラノーマ、肝臓、食道、胃、子宮内膜、および脳、を検出するために用いることができる。
【0050】
一般に、免疫組織化学を用いて、BTMを組織中で検出することができる(Harlow, E. and Lane, D., Using antibodies: a laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press: Cold Spring Harbor (1999))。簡潔に述べれば、パラフィン包埋された、または冷凍OCT包埋された組織試料を切断して4〜8μmの切片とし、スライドガラスに載せ、固定して透過性化して、次にBTMに対する一次モロクローナル抗体またはポリクローナル抗体とインキュベーションする。一次抗体は、直接抗原検出のために検出分子またはレポーターに結合させることができ、またはその代わりに一次抗体それ自身をレポーターまたは検出分子に結合した二次抗体によって検出することができる。洗浄および任意のレポーター分子の活性化に続いて、BTMの存在を顕微鏡的に視覚化することができる。
【0051】
この方法を、腫瘍除去手術前および後に採取した膀胱癌患者からの血清または血漿中のマーカーファミリーメンバーの免疫的検出;結腸直腸、膵臓、卵巣、メラノーマ、肝臓、食道、胃、子宮内膜、および脳を含み、これらに限定されない他の癌患者中のマーカーファミリーメンバーの免疫的検出;ならびに膀胱癌患者からの尿および糞便中のマーカーファミリーメンバーの免疫的検出、にも用いることができる。
【0052】
BTMおよびUBTMを、組織または尿中でイムノブロッティングまたは免疫沈降などの他の標準の免疫的検出技術を用いて検出することができる。(Harlow, E. and Lane, D., Using antibodies: a laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory Press: Cold Spring Harbor (1999))。イムノブロッティングでは、BTM/UBTMを含む組織または体液からのタンパク質調製物を、変性条件または非変性条件下でポリアクリルアミドゲル中を電気泳動させる。タンパク質をその後、ナイロンのような膜支持体に移す。BTM/UBTMを、次に免疫組織化学用に記述したように、モロクローナルまたはポリクローナル抗体と直接または間接的に反応させる。あるいはある調製物では、タンパク質をあらかじめ電気泳動分離しないで、直接膜上にスポットすることができる。信号を、デンシトメトリーによって定量化することができる。
【0053】
免疫沈降では、BTMまたはUBTMを含む可溶性調製物を、BTM/UBTMに対するモロクローナルまたはポリクローナル抗体とインキュベーションする。その反応物を次に、プロテインAまたはプロテインGを共有結合で付着させたアガロースまたはポリアクリルアミドで作られた不活性のビーズとインキュベーションする。プロテインAまたはGのビーズは、抗体と特異的に相互作用して、ビーズに結合された抗体−BTM/UBTM抗原の固定された複合体を形成する。洗浄に続いて、結合したBTM/UBTMを、イムノブロッティングまたはELISAによって検出し、定量化することができる。
【0054】
コンピューターを用いたアレイまたはqPCRデータの解析
一次データを集め、倍率変化解析を、膀胱腫瘍遺伝子発現のレベルを同じ遺伝子の非腫瘍組織中の発現と比較することにより、行なう。発現が増加していると結論付けるための閾値を提供する(例えば1.5倍増加、2倍増加、および他の実施態様では、3倍増加、4倍増加または5倍増加)。本発明の範囲から外れずに、増加した発現が生じたと結論付けるための他の閾値を選択することができることは当然である。腫瘍遺伝子発現のさらなる解析には、増大した発現を示す遺伝子を、腫瘍の診断を提供するために、既知の膀胱腫瘍の発現プロフィールと照合する工程が含まれる。
【0055】
TCC治療の進行をモニターするためのBTMおよびUBTMの使用
TCCの迅速な診断および早期検出に加えて、組織、血清、または尿のいずれかで検出されるBTMおよびUBTMマーカーを、患者の治療に対する応答をモニターするために用いることができる。これらの応用では、全身的、膀胱内または血管内化学療法、放射線療法、または免疫療法の開始に続いて、時々尿および/または血清試料を採取すればよい。マーカー蓄積の低下は腫瘍サイズの減少を示すことができ、それは有効な治療を示唆する。低下率を、各患者または治療に対する最適の治療用量を予測するために用いることができる。
【0056】
評価するマーカーは、既知のヒト遺伝子から選択する。評価する遺伝子を図3および4に示す。図3および4に含まれるのは、遺伝子名、HUGO識別名、MWGオリゴ番号、NCBI mRNA参照配列番号およびタンパク質参照番号である。全長の配列は、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/で、見つけることができる。
【0057】
膀胱癌を診断し評価するのに役立つとして同定されたマーカーを、図2および本出願に添付する配列一覧表に表示する。
【0058】
本発明の諸局面
したがって、ある局面では、本発明には、尿中のUBTMファミリーメンバーの蓄積を検出する工程を含む、膀胱癌を検出するための方法が含まれる。
【0059】
他の局面では、UBTMファミリーメンバーは、実質的な程度には血液に関連していない。
【0060】
追加の局面では、UBTMは、図3または4に示される群より選択される。
【0061】
さらにある局面では、検出する工程を、BTMまたはUBTMのmRNAの蓄積を検出することにより行なう。
【0062】
いくつかの局面では、検出する工程を、マイクロアレイを用いて行なう。
【0063】
他の局面では、検出する工程を、定量的ポリメラーゼ連鎖反応またはハイブリダイゼーション法を用いて行なう。
【0064】
さらなる局面では、検出する工程を、UBTMタンパク質の蓄積を検出することにより行なう。
【0065】
よりさらなる局面では、検出する工程を、UBTMペプチドの蓄積を検出することにより行なう。
【0066】
これらの局面のいくつかでは、検出する工程を、ポリクローナルまたはモロクローナルのいずれかであるUBTM抗体を用いて、行なう。
【0067】
追加の局面では、方法には、前記試料中の2つ以上のUBTMファミリーメンバーの蓄積の検出が含まれる。
【0068】
これらの追加の局面のあるものでは、方法は、TOP2A、MDK、またはBIRC5を検出する工程を含む。
【0069】
よりさらなる局面には、TOP2A−HOXA13、TOP2A−IGFBP5、およびTOP2A−SEMA3Fから成る群より選択される1以上のマーカー対を検出する工程、が含まれる。
【0070】
本発明の他の局面では、膀胱癌を検出する方法は、膀胱癌を有する疑いのある患者からの生体試料中の、図14aまたは14bより選択されるBTMファミリーメンバーの2つ以上よりなる組合せの蓄積を検出する工程を含む。
【0071】
これらの局面のいくつかでは、生体サンプルが、血液、血清、血漿、組織、尿、糞便、脳脊髄液、および腹膜洗液から成る群より選択される。
【0072】
よりさらなる局面には、BTMまたはUBTMに特異的な抗体、およびそれらの産生のための方法(ポリクローナルまたはモノクローナル抗体のどちらか)、が含まれる。
【0073】
これらの局面のあるものでは、モノクローナル抗体を、図3または4に示される群より選択されるBTMまたはUBTMに対して指向させることができる。
【0074】
これらの局面の他のものでは、方法はさらに、別のBTMまたはUBTMに対して指向された別の抗体を含む。
【0075】
本発明の追加の局面は、BTMまたはUBTMの組合せ(その組合せは図14aまたは14bより選択される)の捕獲試薬をその上に有する基質;および前記基質に関連した検出器(その検出器は、前記捕獲試薬に結合した前記BTMまたはUBTMの組合せを検出することができる)、を含むBTMを検出するための装置、を含む。
【0076】
これらの局面のあるものでは、捕獲試薬はオリゴヌクレオチドを含む。
【0077】
追加の局面では、捕獲試薬は抗体を含む。
【0078】
いくつかの局面では、BTMまたはUBTMが、図3または4に指定された群より選択される。
【0079】
本発明には、さらに癌検出のためのキットも含まれ、キットは、基質;その上のBTMまたはUBTMの少なくとも2つよりなる組合せ(その組合せは図14aまたは14bより選択される)の捕獲試薬;および使用のための指示書、を含む。
【0080】
いくつかのキットには、BTMまたはUBTMに特異的なオリゴヌクレオチドまたはBTM特異的な抗体である、捕獲試薬が含まれる。
【0081】
いくつかのキットでは、BTMまたはUBTMは、図3または4に示される群より選択される。
【0082】
あるキットでは、マーカーが、IGFBP5、MGP、SEMA3FおよびHOXA13から成る群より選択される。
【0083】
追加の局面には、膀胱癌の存在を検出するための方法であって、尿試料中の、BIRC2、CDC2、HOXAl3、IGFBP5、MDK、MGP、NOV、NRPl、SEMA3F、SPAG5、TOP2Aから成る群より選択される、1つ以上のマーカーの存在を決定する工程を含む方法、が含まれる。ここで前記マーカーは、血液中には実質的に存在しない。
【0084】
本発明の他の局面には、前記患者の尿中の、HOXA13、IGFBP5、MDK、MGP、NRPl、SEMA3F、SMC4L1、TOP2A、およびUBE2Cから成る群からより選択される1つ以上のマーカーの蓄積を決定する工程;および前記試料中の前記マーカーの比率を決定する工程(その比率は膀胱癌の存在に関連している)を含む、非悪性膀胱疾患から悪性膀胱疾患を区別するための方法が含まれる。
【0085】
これらの局面のあるものでは、方法が、尿中の、少なくとも1つの第2のBTMの蓄積を測定する工程を含む。
【0086】
これらの実施態様のあるものでは、第1のマーカーはTOP2Aであり、また第2のマーカーは、HOXA13、IGFBP5、およびSEMA3Fから成る群より選択される。
【0087】
追加の局面では、本発明には、マーカーの蓄積比率を、表在性膀胱癌、浸潤性病期1膀胱癌、または浸潤性病期2〜3膀胱癌を示すものとして関連させる工程が含まれる。
【0088】
よりさらなる局面では、本発明には、患者からの第1の試料中の、図3または4から選ばれる1つ以上のマーカーの存在量を、治療期間後の患者からの第2の試料中の図3または4から選ばれる1つ以上のマーカーの存在量と、比較する工程を含む、膀胱癌の治療効能を決定するための方法、が含まれる。
【0089】
本明細書に記述するように、腫瘍の検出を、1つ以上の腫瘍マーカーの発現を測定することによって行なうことができる。複数のBTMまたはUBTMのいずれかの増大した発現と診断された膀胱癌の存在との関連性が非常に高いことが、思いがけなく発見された。検出された最小の有意な関連性は、約0.018のp値を有していた。関連性の多くは、10-10より小さいp値で有意であった。そのような高い有意性があるため、2以上のBTMまたはUBTMの増大した発現または蓄積を検出することは、必要でないかもしれない。しかしながら、本発明のBTMの冗長度によって、増大した信頼性で膀胱癌を検出することが可能になる。
【0090】
本明細書で提供される方法には、さらに高感度の分析が含まれる。qPCRは極めて敏感であり、試料中の非常に小さいコピー数(例えば1〜100)の遺伝子産物を検出するために用いることができる。そのような感度のため、膀胱癌に関連したイベントの極めて早期の発見が可能となる。
【0091】
方法
腫瘍の収集
膀胱腫瘍試料および非悪性尿路上皮試料を、日本の京都大学病院、および他の共同研究の日本の病院で切除された外科的試験片から収集した。
【0092】
尿の収集
非悪性の対照および膀胱癌患者からの尿試料を、日本の京都大学病院から得た(図1)。健康な対照試料を、白人および日本人のボランティアから得た。
【0093】
RNA抽出
腫瘍組織をTriReagent:水(3:1)混合液中でホモジナイズし、次にクロロホルムで抽出した。全RNAを次に、水相から、RNeasy(商標)法(Qiagen)を用いて精製した。RNAをまた、16の癌細胞系統から抽出し、参照RNAとして役立てるためにプールした。
【0094】
RNAを、尿試料を等容量の溶解緩衝液(5.64Mグアニジン−HCl、0.5%サルコシル、50mM酢酸ナトリウム(pH6.5)、および1mMβ−メルカプトエタノール;1.5M Hepes pH8でpHを7.0に調節)と混合することにより、尿から抽出した。全RNAを、その後、TrizolおよびRNeasy(商標)法を用いて抽出した。RNA調製物を、cDNA合成に先立って、Qiagen QIAquick(商標)PCR精製キットを用いてさらに精製した。
【0095】
RNAを、3人の健康なボランティアの血液から、3.6%デキストラン中の沈降を用いて全血から濃縮した細胞に対してTrizol/RNeasy(商標)抽出を行なうことにより、抽出した。
【0096】
マイクロアレイ・スライド調製物
エポキシ樹脂コーティングされたスライドグラス(MWG Biotech)に、〜30,000の50量体オリゴヌクレオチド(MWG Biotech)を、Gene Machinesのマイクロアレイ作製ロボットを用い、メーカーのプロトコルに従って、プリントした。
【0097】
RNAラベリングおよびハイブリダイゼーション
cDNAを、5μgの全RNAから、Superscript II(商標)逆転写酵素(Invitrogen)を用いて、5−(3−アミノアリル)−2’デオキシウリジン−5’三リン酸を含む反応で、転写した。その後、反応物をMicroconカラムで脱イオン化し、次いでCy3またはCy5と、炭酸水素緩衝液中1時間室温でインキュベーションした。取込まれなかった色素を、Qiaquickカラム(Qiagen)を用いて除去し、試料をSpeedVac中で15μlに濃縮した。Cy3およびCy5ラベルされたcDNAを、次に、Ambion ULTRAhyb(商標)緩衝液と混合し、100℃2分間で変性させ、ハイブリダイゼーション室中42℃16時間で、マイクロアレイ・スライドにハイブリダイズさせた。スライドを、その後洗浄し、Axon 4000A(商標)スキャナー中で2回、2つの出力設定で走査した。
【0098】
癌マーカー遺伝子のマイクロアレイ分析
53の膀胱腫瘍および20の非悪性(「正常な」)膀胱組織試料からのRNAをCy5でラベルし、Cy3ラベルされた参照RNAとのハイブリダイゼーションを、2重または3重に行った。次に規格化の後、29,718の各遺伝子中の発現の変化を、倍率変化および統計的確率により推定した。
【0099】
規格化手続き
Genepix(商標)ソフトウェアにより検出された蛍光強度の中央値を、局所的なバックグラウンド強度を差し引くことにより補正した。ゼロより低いバックグラウンド補正強度を有するスポットを除外した。規格化を容易にするために、強度比および全スポット強度を対数変換した。対数化した強度比を、LOCFIT(商標)パッケージに含まれている局所回帰を用いて、色素および空間の偏りを補正した。対数化した強度比を、全スポット強度および局所化について同時に回帰推定した。局所回帰の残差が、補正された対数化倍率変化を与えた。品質制御のために、各規格化マイクロアレイの比を、スポット強度および局所化に関してプロットした。続いて、何らかの残存アーティファクトの有無についてプロットを目視検査した。さらに、ピンチップバイアス検出のためにANOVAモデルを適用した。規格化のすべての結果およびパラメーターを、統計解析のためPostgresデータベースに入れた。
【0100】
統計解析
測定された倍率変化の、アレイ間の比較を改良するために、log(比率)を、1アレイ当たり同一の全標準偏差を持つように拡大・縮小した。この標準化により、平均組織内クラス変動が減少した。結果の目視検査を容易にするために、log(比率)をさらに、各オリゴヌクレオチドがゼロの中央値を持つように移動させた。雑音耐性を改善するために、倍率変化に基づく順位和検定を次に用いた。この検定は次の2工程から成る:i)アレイ内の倍率変化順位(Rfc)の計算、およびii)腫瘍組織の中央値(Rfc)からの正常組織の中央値(Rfc)の減算。両方の中央値順位の差が、倍率変化順位の評点を定義する。標準化データについて3つの追加の統計的検定を行なった:それは1)Studentの2標本t−検定、2)Wilcoxon検定、および3)マイクロアレイの統計解析(SAM)である。統計的方法(倍率変化順位、t−検定、Wilcoxon検定、およびSAM)の各々によって決定された、300個の最も有意に上方調節された遺伝子に、各検査について順位評点が与えられた。ある遺伝子が1つのリストに現われ、他の1つ以上には現われなかった場合、その評点に加重因子500を加えた。次に、すべての順位評点を加え合わせて、1つの合計順位評点とした。
【0101】
マーカーの組合せの統計解析
腫瘍と非悪性試料を区別するために、2マーカーまたは3マーカーの組合せを用いることの価値を決定するために、腫瘍および非悪性試料からのqPCRデータを次の解析に付した。非悪性および腫瘍試料についての正規分布を、標本平均および標準偏差を用いて、生成した。次に、腫瘍発現データから得られた値が、非悪性の分布中で定義された閾値(例えば50%、70%、75%、80%、90%、95%、または99%以上)を越える確率(すなわち感度)を決定した。マーカーの組合せについては、少なくとも1つのマーカーが閾値を越える確率を決定した。
【0102】
尿試料ならびに腫瘍試料中の解析するマーカーの組合せの価値を示すために、正規分布解析を、図1のシリーズ2に記載されたTCC患者および非悪性対照からの尿試料を用いて得られたqPCRデータについて行なった。TCC患者のqPCRデータから得られた値が、非悪性試料分布中において定義された閾値(例えば50%、70%、75%、80%、90%、95%、または99%より大きい)を越える確率を決定した。
【0103】
尿中の膀胱癌マーカーを検出するための方法
いくつかの実施態様では、尿試料についてBTMの分析を望ましく実施することができる。一般に、これらの液体中のオリゴヌクレオチド、タンパク質、およびペプチドを分析するための方法は、当技術分野において公知である。しかし、説明のために述べると、BTMの尿中レベルを、サンドイッチ型酵素結合免疫吸着分析(ELISA)を用いて、定量することができる。血漿または血清分析のために、5μlに小分けした、適切に希釈した試料または連続的に希釈した標準BTM、および75μlのペルオキシダーゼ結合抗ヒトBTM抗体を、マイクロタイタープレートのウエルに加える。30℃30分のインキュベーション期間後、リン酸緩衝食塩水(PBS)中の0.05%Tween20でウエルを洗浄し、結合していない抗体を除去する。次に、BTMと抗BTM抗体の結合複合体を、H22を含むo−フェニレンジアミンと15分間30℃でインキュベーションする。その反応を1M H2SO4を加えることにより止めて、マイクロタイタープレート読取機により、492nmの吸光度を測定する。抗BTM抗体はモノクローナル抗体またはポリクローナル抗血清でよいことは当然である。
【0104】
多くのタンパク質は、(1)細胞によって分泌され、(2)細胞膜から剥がされ、(3)細胞が死んで細胞から失われ、または(4)脱ぎ捨て去られた細胞内に含まれている、ものであるから、BTMもまた尿中で検出されるのは当然である。さらに、試料中のBTMの発現または試料中のBTMの蓄積のいずれかを測定することにより、膀胱癌の診断を決定することができる。先行技術の診断方法には、膀胱鏡観察、細胞診、およびこれらの手続きの間に抽出された細胞の検査が含まれる。そのような方法は、尿中の、または尿路上皮の剥取試料中の、または他の場合には、膀胱壁の生検試料中の、腫瘍細胞の同定に依存していた。これらの方法には、試料採取誤差、観察者間の同定誤差、その他を含むいくつかの型の誤差がある。
【0105】
定量的リアルタイムPCR
リアルタイムまたは定量的PCR(qPCR)を、PCR鋳型のコピー回数の絶対的または相対的な定量化に用いる。Taqman(商標)プローブおよびプライマーセットを、Primer Express V 2.0(商標)(Applied Biosystems)を用いて設計した。可能な場合には、その結果得られるアンプリコンに、可能性のあるすべてのスプライシング変異体が含まれ、MWG-Biotech由来のマイクロアレイオリゴヌクレオチドによってカバーされる領域へアンプリコン優位が与えられていた。プライマーおよびプローブの配列を図2に示す。あるいは、標的遺伝子が、所望のアンプリコンをカバーするAssay−on−Demand(商標)expression assay(Applied Biosystems)によって表示されていた場合は、これらを用いた。研究組織内で設計された分析では、プライマー濃度を、SYBRグリーンラベルプロトコルおよび参照RNAから作られたcDNAを用いて滴定した。増幅を、ABI Prism(商標)7000配列検出システムで、標準のサイクル条件下で行った。単一回増幅の生成物を解離曲線中で観察したときは、最適なプライマー濃度および5’FAM〜3’TAMRAリン酸Taqman(商標)プローブ(Proligo)を最終濃度250nMで用いて、625倍にわたる濃度範囲で標準曲線を生成した。0.98を超える回帰係数で標準曲線を与える分析を、次の分析で用いた。
【0106】
分析を、2つの96ウエルプレート上で、各RNA試料を単一のcDNAにより代理させて行なうことができる。各プレートは、2重の、625倍の濃度範囲にわたる参照cDNA標準曲線を含んでいた。分析は、ΔCT(標的遺伝子CT−平均の参照cDNAのCT)の計算から成っていた。ΔCTは、負のlog倍率変化に正比例する。次に、非悪性log倍率変化の中央値に相対的なlog倍率変化を計算した(log倍率変化−正常log倍率変化の中央値)。倍率変化を次に、頻度クラスへクラスター化して、グラフにするか、箱ひげ図で図示することができる。
【0107】
膀胱悪性腫瘍のための血清および尿マーカーの選択
推定血清マーカーを、(i)コードされたタンパク質が細胞から分泌されるか、または細胞膜から剥ぎ取られる可能性、(分泌の可能性はTargetP(商標)(Emanuelsson et al; J. MoI. Biol. 300, 1005-1006 (2000) による分析に基づいていた)および(ii)その合計順位評点、に基づいて、アレイデータから選択することができる。しかしながら、腫瘍試料中の過剰発現の程度の変化は、腫瘍の異質性だけでなく、腫瘍試料への、平滑筋、結合組織、粘膜下細胞(U.S Patent 6,335,170 参照)、間質細胞、および非悪性上皮を含む「正常」組織の混入の程度の変動も反映する。多くの状況で、「正常」の混入は5から70%までの範囲であり、中央値はおよそ25%であった。
【0108】
我々はしたがって、正常な膀胱細胞が多く混入していない尿試料中のBTMの分析により、これらの「偽陽性」結果を減少させることができた。さらに、qPCR法を用いることにより、我々は、先行技術によるマイクロアレイ法の使用に比較して、尿試料中のmRNAレベルをより正確に決定することができた。その結果我々は、他の膀胱細胞型の大きな混入を回避することができ、それにより臨床試料のマイクロアレイ分析技術における、より扱いにくい問題の1つを回避した。
【0109】
尿中のマーカーの蓄積を測定し、腫瘍中の発現率に依存しないことにより、我々は予想外に、膀胱癌の検出ならびにその病期および/またはその型の決定に役立つ、多くのBTMを発見した。さらに、患者が膀胱癌の可能性について内科医を受診する最初の徴候の1つが、尿中の血液の存在であるため、我々は血液中で高度には発現されないBTMが診断に大きな価値がありえると判断した。これらのマーカーには、IGFBP5、MGP、SEMA3F、およびHOXA13が含まれる(図9参照)。
【0110】
蓄積を測定することは、「過剰発現」を定義することよりも利点がある。上に指摘したように、増大した蓄積は、分子生物学的な意味での、真の過剰発現または増大した発現速度(即ち細胞当たり単位時間当たりのヘテロ核RNA(hnRNA)分子、mRNA分子またはタンパク質の増大した数)を反映している可能性がある。しかし、蓄積はまた、たとえ発現速度が増大しなくても、尿中などの与えられた体積中のマーカーの量の増大を意味することができる。例えば、一つの腫瘍細胞が正常な量のマーカーを生成しても、試料中にそのような細胞の数の増大が観察されることにより、癌の存在が明らになることが可能である。さらに、蓄積は、試料中のフリーの、または可溶のRNAを反映する可能性がある。ある場合には、マーカーを産生した腫瘍細胞が死滅し、細胞の内容が周囲の組織へ放出される可能性がある。細胞の内容が尿に達する場合には、そこでフリーのマーカーRNAを検出することができる。これらの現象は、特に、通常は選択性および特異性を伴って診断するのが困難であった、表在性膀胱癌を診断するのに役立つ可能性がある。尿中にマーカーの蓄積が測定されることが、表在性膀胱癌の最初の徴候の1つでありうる。したがって、本発明の方法および装置を用いると、初期の膀胱癌を検出することができる可能性がある。
【0111】
我々はまた、蓄積を測定する際に、試料体積の変化を補正するよう注意する必要があることを指摘しておく。例えば、尿では、単位体積当たりのマーカー量は被験者の腎機能に依存する可能性がある。したがって、尿生産が減少した状態では、尿中の細胞(腫瘍細胞を含む)は濃縮され、それによって、人為的に高い蓄積の測定値(単位体積当たりの)が得られる。そのようなアーティファクトは、尿生産(例えば単位時間当たりの尿生産量)、尿クリアランス(例えばクレアチニンまたはBUNを測定する)の独立した測定を行なうことにより減少させることができる。反対に、利尿中などの、尿生産量が増大している状況では、マーカーを含む細胞が薄められて、人為的に低い蓄積の測定値が生成される可能性がある。しかし、試料中のマーカーの真の蓄積または質量と関連しない、マーカー蓄積の変動を生成する可能性がある利尿薬の使用、水分摂取量および他の因子は、制御することができる。これらの状況では、マーカー量を、尿生産速度に対して補正することができる。
【0112】
このようにして、尿中のBTMを測定することにより、我々は、先行技術の方法と比較して偽陽性結果の発生を減少させることができ、これらの方法が先行技術方法より優れていることを示すことができた。
【0113】
尿マーカーを、分泌または膜からの剥落の基準を適用しなかった以外は、上記のアレイデータから選択した。したがって、有用な血清マーカーであると予測されなかった細胞内および膜結合型マーカーが、尿マーカーとして含まれる。
【0114】
実施例
本明細書に記述する実施例は、本発明の実施態様を説明する目的のためであって、本発明の範囲を制限することを意図しない。他の実施態様、方法、および分析の型は、分子診断技術における当業者の範囲内であり、本明細書で詳細に記述する必要はない。本明細書の教示に基づく技術の範囲内の他の実施態様は、本発明の一部であると考える。
【0115】
実施例1
膀胱の表在性および浸潤性悪性腫瘍のためのマーカーの同定
浸潤性および表在性膀胱癌の遺伝子発現パターンからのマイクロアレイデータの階層的クラスター化が、多数の有意な差異を示した。その結果、これらの癌型を、次の解析において別々に処理した。しかし、両方の癌型において、高い割合の遺伝子が過剰発現される。図3は、浸潤性膀胱悪性腫瘍のマーカーに対するマイクロアレイ研究の結果を示す表である。199の浸潤性マーカーのうちの31が、上述の血清マーカー(図中「S」で表示する)の基準を満たす。図4は、表在性膀胱悪性腫瘍のマイクロアレイ研究の結果を示す表である。170の表在性マーカーのうちの34が、上記の血清マーカーの基準を満たす。図3および4には、遺伝子のHUGO記号(「記号」)、MWG Biotechオリゴヌクレオチド番号、NCBImRNA参照配列番号、タンパク質参照配列番号、腫瘍遺伝子発現と非悪性遺伝子発現との間の倍率変化平均値、個々の腫瘍試料中の発現と非悪性試料中の発現の中央値との間の倍率変化最大値、元の未調整のStudentのt-検定結果、2試料Wilcoxon検定結果、および合計の順位評点、が含まれる。
【0116】
浸潤性膀胱癌マーカー分析における、199の遺伝子に対する倍率変化平均値(腫瘍:非悪性組織)は、1.3〜5.3の範囲であり、また倍率変化最大値は、2.1〜60.9の範囲であった。表在性膀胱癌分析については、170のマーカーが、1.1.3〜3.0の範囲の平均過剰発現、および1.9〜144の範囲の最大過剰発現であった。示したマーカーの各々については、癌マーカーとしてのそれらの特異性の統計的有意性が極めて高いことが分かった。Studentのt-検定値は、わずかの例外を除いて、すべて10-3未満であった。このことは、これらのマーカーを用いる診断が極めて高度に膀胱癌に関連していることを示す。マイクロアレイ研究によって生成された倍率変化は、qPCRなどのより正確な技術を用いて観察された実際の発現変化を過小評価する傾向があることに注意するべきである。しかし、他に記した理由で、マイクロアレイ分析には1つ以上の重大なアーティファクトがある可能性がある。したがって、我々は、膀胱癌の存在および病期をより正確に検出するための、qPCRに基づく方法を開発した。
【0117】
実施例2
qPCR分析
より敏感でより正確な遺伝子発現の定量化が、qPCRを用いて、図3および4に示される遺伝子の部分集合について得られた。マイクロアレイ分析(図3および4)によって同定された18の遺伝子に対して、30に及ぶ浸潤性膀胱腫瘍、25の表在性膀胱腫瘍、および正常な尿路上皮の18の試料、からのメッセンジャーRNAを分析し、結果を図5に示した。浸潤性および表在性の型の膀胱癌に対するデータを、マーカーSPAG5、TOP2a、CDC2、ENG、NRPl、EGFL6、SEM2、CHGA、UBE2C、HOXA13、MDK、THYl、BIRC5、およびSMC4L1について示す。表在性の型単独では、マーカーSEMA3F、IGFBP5およびNOVのみが、正常な尿路上皮と比較して過剰発現され、浸潤性の型単独ではMGPのみが過剰発現され;これらのマーカーは、過剰発現されなかった腫瘍試料中では、正常な尿路上皮と同様の発現を維持した。図5には、遺伝子名、遺伝子別名、遺伝子記号、腫瘍(T)と非悪性(N)組織間の倍率変化中央値、個々の腫瘍試料の発現と非悪性組織発現中央値の間の倍率変化最大値、および非悪性試料中の発現レベルの第95百分位数より大きな発現レベルを有する腫瘍試料の%、が含まれる。
【0118】
図5中のマーカーの、倍率変化(非悪性組織発現の中央値と比較した腫瘍組織発現)中央値は、CHGA以外は、浸潤性膀胱腫瘍については2〜128倍、また表在性膀胱腫瘍については2〜39倍の範囲であった。浸潤性腫瘍に対する倍率変化最大値は、24〜2526倍、また表在性の腫瘍に対しては6〜619倍の範囲であった。CHGAの発現パターンは、一部の腫瘍中で非常に高い発現をしていた(図6s〜6t)ために目立ったが、それ以外では検出できない発現であった。発現は、15/25の表在性腫瘍で、15/29の浸潤性腫瘍で、および9/10の正常な試料で検出できなかった。正常な試料中の発現が低いと、腫瘍中の過剰発現レベルの、正常と比較した比率としての正確な定量化が不可能であるが、BTM mRNAの蓄積を測定し定量できる場合は、膀胱癌診断の基礎として用いることができる。浸潤性腫瘍については、遺伝子SPAG5、TOP2A、およびCDC2の発現レベルは、腫瘍中で症例の>90%について、「正常」範囲の第95百分位数より大きかった。BIRC5を例外として、調べた図5の残りの遺伝子は、試料の>45%で、浸潤性≧腫瘍中で正常の第95百分位数より大きな発現をしていた。表在性腫瘍では、遺伝子SPAG5、TOP2A、CDC2、ENG、およびNRPlの発現レベルが、腫瘍中で症例の≧80%について、非悪性の範囲の第95百分位数より大きかった。CHGA、UBE2C、およびBIRC5を例外として、表在性腫瘍で調べた図5の残りの遺伝子は、試料の>40%で、正常の第95百分位数より大きな発現をしていた。
【0119】
図6a〜6afは、正常組織(明るいバー)および表在性または浸潤性腫瘍組織(暗いバー)の両方について、一連の18の遺伝子の各々の発現の観察頻度(垂直軸)と、その遺伝子に対する発現のlog倍率変化(水平軸)を比較するヒストグラムを表す。我々は驚くべきことに、これらの18の遺伝子の各々について、頻度分布の本質的な区別が、正常と腫瘍組織の間に存在することを発見した。例えば、図6cは、浸潤性腫瘍におけるTOP2aの発現についての結果を表す。2つの腫瘍試料のみが、正常範囲中に発現レベルを有することが観察された。
【0120】
患者および対照の尿中の、18のBTM:SPAG5、TOP2A、CDC2、ENG、IGFBP5、NOV、NRP1、SEMA3F、EGFL6、MGP、SEM2、CHGA、UBE2C、HOXA13、MDK、THY1、BIRC5、およびSMC4L1、の蓄積(図1:試料シリズ1)が、等しい体積の尿から抽出された全RNAのqPCRを用いて、測定された。EGFL6を例外として、BTMのうちの17が、患者の尿中で、対照尿試料と比較して大きな蓄積を示した(図7)。17のBTMに対する倍率差の中央値は、2倍〜265倍の範囲であった。単一の患者試料と対照の中央値レベルとの間の最大差異は、26倍〜>10,000倍の範囲であった。
【0121】
図8は、箱ひげ図として描かれ、対照試料の発現中央値に対して標準化された、13のBTMについてのBTM転写物蓄積の差を示す。図8は、MDK、SEMA3F、およびTOP2Aが、癌患者と対照からの尿中に重複箇所を持たないことを示す。さらに、IGFBP5、HOXA13、MGP、NRP1、SMC4L1、SPAG4、およびUBE2Cの転写物の高レベルの蓄積は、ほとんど常に膀胱癌に関連している。図8に描かれたBTMの残り:BIRC5、NOV、およびCDC2については、膀胱癌の患者の尿中のそれらの発現が、正常な対照試料と比較して、少なくとも約3倍増大する。
【0122】
膀胱癌の存在の検査を引き起こす主な臨床症状は、血尿症(すなわち尿の中の巨視的微視的なレベルの血液の存在)である。血液を通常は、視覚的に、または尿「計量棒」を用いるヘモグロビンの化学的検出によって検出する。巨視的および微視的血尿症の症例のおよそ15%および4%のみが、それぞれ、膀胱癌に関連しているにすぎない。その結果として、膀胱癌検査が高い特異性を持つためには、全血中のマーカー発現のレベルが低いか、ある場合には検出できないことが重要である。したがって、高い特異性を有するマーカーの識別を促進するために、図8の13のマーカーのうちの12の発現を、血液RNA中でqPCRを用いて測定した。qPCRを、血液および膀胱腫瘍組織から抽出された5μgの全RNAに対して、図2に記述したプライマーおよびプローブを用いて実施した。図9に、各マーカーに対するバックグラウンドを越えるサイクル数を示す。マーカーMGP、IGFBP5、SEMA3F、およびHoxA13については、血液中で転写物を検出することができなかったが、マーカーSMC4L1およびUBE2cが特に血液中で発現された。我々は、PCRサイクル数を示すデータは、本質的にlogプロットであって、サイクル数が1だけ増加することは信号が2倍になることを示すことを指摘しておく。したがって、腫瘍組織と血液中のマーカーの存在の差を評価する際に、2サイクルの差は、4倍の発現の差を示す。同様に、5サイクルの差(例えばTOP2Aについて)は、2の、即ち32倍の発現の差を表す。TOP2AおよびMDKなどの他のマーカーは、検知できる血液発現をしているが、血液発現と膀胱腫瘍発現の間の大きな差によって、相当良いマーカーに留まっている。
【0123】
全血と膀胱腫瘍中のマーカー発現の間の差異をさらに調査し、かつ膀胱癌尿マーカーの選択を改良するために、9つのマーカーを選択し、さらなる20人の患者、13人の正常な対照および26人の非悪性の対照からの尿RNAを用いてさらに詳しい分析を行った(図1:試料シリーズ2)。非悪性の対照には、細胞診によって潜血または白血球のいずれかがそれらの尿中で検出された20の試料が含まれていた。すべての9つのマーカーが、対照と癌患者試料の間で差異を示し、癌患者試料の健康な試料および非悪性の試料と比較したlog過剰出現の中央値は、それぞれ5.4〜10.4および4.0〜10.1の範囲であった(図10)。このデータを図示する箱ひげ図を図11に示す。
【0124】
血液qPCRデータによって予測されるように、マーカーUBE2CおよびSMC4L1は非悪性の対照の尿中で、健康な対照の尿試料と比較して蓄積の著しい増大を示した。NRP1も、非悪性試料からの尿試料中で、健康な対照尿試料と比較して有意に上昇し、癌患者の試料と非悪性患者の試料間で相当な重複を示し、TOP2AおよびMDKも増加を示したが、TCC細胞中のそれらの非常に高い発現のために、非悪性患者の尿試料中と癌患者試料中のRNAの蓄積間で、大きな差異を維持していた。対照的に、HOXA13、IGFBP5、SEMA3F、およびMGPは、健康な対照試料に比較して、非悪性尿試料中では小さな増加を示したのみであった。
【0125】
全体として、6つのマーカー(SEMA3F、HOXA13、MDK、IGFBP5、MGP、およびTOP2A)が、癌患者試料と非悪性の対照との間の最小の重複を示した。残りの3つのマーカー(NRP1、UBE2C、SMC4L1)は、非悪性対照の部分集合中で有意な上昇を示し、癌患者試料と重複した。非悪性対照の尿中のRNAマーカーの健康な対照と比較して増大した蓄積は、非悪性疾病を有する患者の尿中に存在する造血または内皮起源の細胞中でのこれらのマーカーの発現と合致する。したがって、尿試料を用いて膀胱癌を診断するための個々のマーカーの使用は、血液中でのマーカー発現を考慮しない先行技術方法と比較して、増大した感度および特異性を示す。この結果は、先行技術に基づいては、完全に予想外であった。
【0126】
データは、高い感度および特異性を示す尿マーカーを膀胱癌に用いる有効性を、腫瘍遺伝子発現データのマイクロアレイ分析のみを用いては、正確に予言することはできないという驚くべき発見を示している。造血起源および/または内皮起源の細胞中における推定マーカーの発現を考慮に入れることが必要である。これを:(i)血液RNAのqPCR分析、(ii)発現データベース分析(例えば血液および血管/内皮細胞RNAのESTライブラリー)、および/または(iii)未分画の尿から抽出されたRNAのqPCR分析、によって達成することができる。
【0127】
感度および特異性
本明細書で分析し、開示した2つのシリーズの試料に基づいて、膀胱癌の検出のための感度は、95%を超える。非悪性疾病を有する患者からの試料を含んでいたシリーズ2での特異性もまた、95%を超える。
【0128】
実施例3
膀胱癌の検出における複数マーカーの使用
図12a〜12bは、個々の腫瘍試料において、正常な試料と比較して有意に増大した発現(「過剰発現」)を示す遺伝子の数のヒストグラムを表す。ヒストグラムは、図5に示した最初の12のマーカーから得られたqPCRデータに基づいていた。PCR分析での30の浸潤性腫瘍のうちの27(90%)が、少なくとも4つの遺伝子を、第95百分位数を超える過剰発現させた(図12a)。分析での25の表在性腫瘍のうち23(92%)が、少なくとも4つの遺伝子を、第95百分位数を越える過剰発現させた(図12b)。これらの発見は、正常組織に比べて複数の遺伝子が過剰発現される状況下では、癌検出の信頼性が非常に高くなることができ、それにより癌の診断がより確かになることを示す。しかし、ある場合には、単一のマーカー遺伝子発現の上昇によって十分に癌の診断ができる。
【0129】
マーカーの組合せを用いる、腫瘍と非腫瘍試料の良好な判別の信頼性が、さらに図13に表した統計解析によって図示される。この解析は、腫瘍試料および非悪性試料からのqPCR遺伝子発現データの正規分布を比較した。qPCRデータは図5に要約した。その解析は、腫瘍試料と非悪性試料とを区別するために用いるマーカー数を増加させることの、検査の感度(95%の固定された特異性での)に対する効果を示す。18のマーカーのほとんどは、この分析中で単独で用いた時は、90、95または99%以上の感度を持たないが、2マーカーまたは3マーカーの組合せにより、多数の2または3マーカーの組合せにおいて、高感度に到達することが可能となった(図14aおよび14b)。
【0130】
図14aおよび14bは、浸潤性および表在性の移行上皮癌(TCC)を検出するための特異的なマーカーおよびマーカーの組合せの、特異性を95%に固定した場合の、感度を示す。>90%の感度を有する組合せだけを示した。図14aに示した15のマーカーのうち、TOP2A、SPAG5、およびCDC2については、単独で、約95%の感度で浸潤性膀胱癌を検出することができる。示された他のマーカーは、単独で用いたときは、より劣った感度を示す。
【0131】
しかし、上記マーカーの2つを組合せると、浸潤性膀胱癌の検出感度が劇的に改善される(図13aおよび図14a)。95%以上の感度を、2マーカーの105の組合せのうちの13を用いて見出すことができる。実際、2マーカーを用いることにより、マーカーの105の組合せのうちの42で90%の最小感度となる。
【0132】
表在性膀胱癌については(図13bおよび図14b)、90%を超える感度は、どのマーカーでも単独では見出されなかった。しかしこの閾値には、136の2マーカーの組合せのうち11が到達した。>95%の感度には、3マーカーの組合せの22が到達した。
【0133】
マーカーの組合せの使用はまた、尿試料を用いる膀胱癌の検出感度を劇的に改善することができる。図15および16は、尿のqPCRデータを用いた、個々のマーカーおよびマーカーの組合せの検出感度を示す。
【0134】
図16に見られるように、IGFBP5だけが>95%の感度を有していたが、2マーカーの組合せの8つ、および3マーカーの組合せの37がこの閾値に到達した。
【0135】
実施例4
表在性および浸潤性膀胱癌の患者における異なる転写物蓄積
図5から、SEMA3F、HOXA13、TOP2A、およびSPAG5を含むいくつかのBTMが、浸潤性膀胱癌と表在性膀胱癌との間で異なる発現を示すことがわかる。この観察を拡張するために、浸潤性および表在性膀胱癌の患者からの尿中のこれらの転写物の蓄積を比較した。
【0136】
図1に記載された患者由来の等しい体積の尿からRNAを抽出し、BTMの蓄積をqPCRによって測定した。次に特異的なBTMの組合せの蓄積を、比率として表した。BTMの組合せは、浸潤性膀胱腫瘍中で表在性膀胱腫瘍より高い過剰発現を有する1つのBTM、および表在性腫瘍中で浸潤性腫瘍より高い過剰発現を有する1つのBTMより成っていた。
【0137】
図17は、20人の表在性および14人の浸潤性TCC患者からの尿試料について分析した3組のマーカー組合せを示す。示した3組の組合せは:(i)TOP2AおよびHOXA13、(ii)TOP2AおよびIGFBP5、および(iii)TOP2AおよびSEMA3F、である。これらのマーカーの組合せが、表在性と浸潤性TCC患者の尿試料を区別することができることが分かる。表在性と浸潤性の型のTCC間の発現の差を示す図5中の他のマーカーも、尿試料分析に基づいてTCCの型を決定することができる。
【0138】
さらに、図18は、TOP2Aを含む2マーカーの組合せの使用により、浸潤性膀胱癌を病期1〜2と病期3の腫瘍に区別することができることを示す。
【0139】
これらの観察は、尿中のいくつかのBTM転写物蓄積の測定により、膀胱癌の浸潤性および表在性の型の区別が可能になることを示す。その上に、膀胱癌患者からの尿試料の、qPCRによって測定されたBTMの比率は、腫瘍RNAについて行なわれた同じ分析よりも、浸潤性と表在性の型の間のより確実な区別を可能にする。これを図19に図示する。それは、およそ23の表在性および28の浸潤性膀胱腫瘍RNA調製物からのqPCRデータを用いて:(i)TOP2AおよびHOXA13、(ii)TOP2AおよびIGFBP5、ならびに(iii)TOP2AおよびSEMA3F、についての箱ひげ図を示す;これらのBTMの比率によって、なお表在性および浸潤性の型の膀胱癌間の区別が可能であるが、表在性および浸潤性の比率に、大きなオーバーラップがある。この発見は、腫瘍RNA調製物への、筋肉および繊維芽細胞などの、悪性細胞とは同じBTM比率でない細胞型の混入を反映している可能性がある。あるいは、それは尿へ捨て去られる悪性細胞中における、腫瘍の本体に残る細胞よりも強いBTM発現の差異を反映している可能性もある。その観察の理由にかかわらず、尿中のBTMの蓄積を検出する工程は、従来の組織試料のマイクロアレイ分析よりも本質的な長所を有すると、我々は結論する。
【0140】
実施例5
膀胱腫瘍マーカーに対する抗体
追加の局面で、本発明には、BTMに対する抗体の作製が含まれる。本明細書に記載した方法を利用して、新規なBTMを、マイクロアレイおよび/またはqPCR方法を用いて同定することができる。一旦推定マーカーを同定した場合は、それを、免疫反応を誘起するのに十分な量だけ生成することができる。ある場合には、全長のBTMを用いることができ、また他の場合では、BTMのペプチド断片が免疫原として十分である可能性もある。免疫原を適当な宿主(例えばマウス、ウサギなど)に注入することができ、またもし望ましい場合は、フロインド完全アジュバント、フロイント不完全アジュバントなどのアジュバントを、免疫応答を増加させるために注入することができる。抗体を作成する工程は、免疫学の技術分野においては日常業務であり、本明細書にさらに記述する必要はないのは当然である。その結果、同定されたBTMまたはUBTMに対する抗体を、本明細書に記述した方法を用いて生成することができる。
【0141】
よりさらなる実施態様では、抗体を、本明細書で同定された腫瘍マーカーのタンパク質またはタンパク質コアに対して、あるいはBTMに特有のオリゴヌクレオチド配列に対して作成することができる。あるタンパク質では、糖鎖形成が行われうるが、糖鎖形成のパターンの変異によっては、ある状況では、通常の糖鎖形成パターンを欠くBTMの型の誤った検出が行われる場合がある。したがって、本発明のある局面では、BTM免疫原は、糖鎖除去されたBTM、または糖鎖除去されたBTM断片を含むことができる。糖鎖除去を、公知技術の1以上のグリコシダーゼを用いて実施することができる。あるいはBTM cDNAを、E. coliその他を含む原核細胞系統などの糖鎖形成を欠く細胞系統中で発現させることができる。
【0142】
BTMをコードするオリゴヌクレオチドをその中に持つベクターを作成することができる。そのようなベクターの多くは、公知技術の標準ベクターに基づくことができる。ベクターを様々な細胞系統にトランスフェクションし、BTMを生産する細胞系統を生成し、それらを用いて、BTM検出用の特異的な抗体または他の試薬を開発し、あるいはBTMまたはUBTMに対する発展した分析を標準化するために、所望量のBTMを生産することができる。
【0143】
実施例6
キット
本発明の発見に基づいて、いくつかの型の検査キットを構想し、生産することができる。第1に、検出分子(または「捕獲試薬」)を前もって搭載した検出装置を有するキットを作成することができる。BTM mRNA検出のための実施態様では、そのような装置は、基質(例えばガラス、シリコン、石英、金属など)、を含むことができ、その上に、検出するべきmRNAとハイブリダイズする捕獲試薬としてのオリゴヌクレオチドが、結合している。いくつかの実施態様では、mRNA(cy3、cy5、放射性ラベル、または他のラベルでラベルされた)を、基質上のオリゴヌクレオチドにハイブリダイズさせることによって、直接mRNAを検出することができる。他の実施態様では、最初に所望のmRNAに相補的なDNA(cDNA)を作成することにより、mRNAの検出を遂行することができる。その後、ラベルされたcDNAを基質上のオリゴヌクレオチドにハイブリダイズさせて、検出することができる。
【0144】
採用する検出方法にかかわらず、検査するBTMの発現を、発現の標準尺度と比較することが望ましい。例えば、RNA発現を、全細胞内DNAに対して、構成的に発現されるRNA(例えばリボゾームRNA)の発現に対して、または他の比較的一定のマーカーに対して、標準化することができる。尿などの体液中でBTMを測定する実施態様では、標準は、本明細書に示すように、悪性疾患のない被験者から得られた等しい体積の尿でよい。
【0145】
抗体もキット中で、捕獲試薬として用いることができる。いくつかの実施態様では、基質(例えばマルチウエルプレート)は、それに付着させた特異的なBTMまたはUBTM捕獲試薬を有することができる。いくつかの実施態様では、キットにはブロッキング試薬を含めることができる。ブロッキング試薬を用いて、非特異的な結合を減少させることができる。例えば、サケ精子DNAなどの、BTMオリゴヌクレオチドを含まない任意の便利な供給源からの過剰のDNAを用いて、非特異的なオリゴヌクレオチド結合を減少させることができる。非特異的な抗体結合を、血清アルブミンなどの過剰のブロッキングタンパク質を用いて減少させることができる。オリゴヌクレオチドおよびタンパク質を検出するための多数の方法が当技術分野において知られており、BTMが関連している分子を特異的に検出することができる任意の戦略を用いることができ、本発明の範囲内で考慮することができるのは当然である。
【0146】
抗体検出に依存する実施態様では、BTMタンパク質またはペプチドを、細胞当たりを基礎にして、または全細胞、組織、または液体タンパク質、液体の体積、組織の質量(重量)を基礎にして、表現することができる。さらに血清中のBTMを、アルブミンのような比較的豊富な量の血清蛋白質に基づいて表現することができる。
【0147】
基質に加えて、検査キットは、捕獲試薬(プローブなど)、洗浄溶液(例えば、SSC、他の塩類、緩衝液、洗剤その他)、ならびに検出部分(例えば、cy3、cy5、放射性ラベルその他)を含むことができる。キットはまた、使用のための指示書および包装を含むことができる。
【0148】
実施例7
膀胱癌検出のために用いられるBTMの複数の組合せI
一連の実施態様の中で、BTMである、HOXA13、MGP、SEMA3F、およびTOP2Aを検査するための試薬を単独でまたは組合せて、膀胱癌を検出するための、未分画の尿または尿細胞沈殿物の検査用キットに組み入れることができる。癌患者および対照中のこれらのBTMの蓄積の範囲を、図20に示す。尿試料を、疾病増悪の、または治療応答のモニタリングを必要とする、膀胱癌であると診断された患者、巨視的または微視的血尿症を含む泌尿器症状を有する個人、あるいは無症候の個人から集めた。未分画の尿中のBTMを測定するキットで検査される患者または個人から、約2mlの尿を検査のために採取すればよい。尿沈殿物の検査のためには>20mlの尿を集めればよい。
【0149】
適当なキットには:(i)使用および結果の解釈のための指示書、(ii)未分画の尿または尿沈殿物からのRNAの安定化および精製用の試薬、(iii)dNTPおよび逆転写酵素を含むcDNA合成用試薬、および(iv)BTM cDNAの定量用試薬、が含まれる。ある形式では、これらの試薬が定量的PCRのために用いられ、また特異的なエクソン全域におよぶオリゴヌクレオチドプライマー、検出用のプローブでラベルされた第3のオリゴヌクレオチド、Taqポリメラーゼ、および他の緩衝液、塩類、およびPCRに必要なdNTPを含むことになろう。キットはまた転写物の検出のための他の方法、例えば、BTM RNAのラベルされたプローブとの直接のハイブリダイゼーション、または分岐DNA技術;(v)精度管理の尺度として役立つ、β−アクチンなどの、高度に転写される遺伝子からの転写物の検出のためのオリゴヌクレオチドおよびプローブ;および(vi)内部較正基準、ならびに健康なおよび非悪性の対照中でのBTM転写物蓄積の上限の参照として働く、BTM標的配列の定量化試料;を用いることができる。上限を、対照範囲の第95または第99百分位数として定義することができるが、他の範囲を適用することもできる。特に、表在性膀胱癌の診断のためには、便利な閾値は、約50%より上であり、他の場合には約60%、70%、または80%より上である。
【0150】
このようにして、本発明の方法を用いて、先行技術の方法と比較して増加した感度および特異性で、膀胱癌、ならびに病期および型を検出することができる。
【0151】
いくつかの実施態様では、腎機能を、従来の方法(例えばクレアチニン測定)を用いて測定することができる。これらの実施態様のうちのいくつかでは、腎機能の大きさ(例えば尿試料中の尿量、細胞量、細胞数、または全細胞タンパク質)によって、マーカー蓄積を補正することができる。
【0152】
qPCRを含む検査については、前もって定めた上限を超過した検査試料は、もし検査試料中のBTMの蓄積が上限より1PCRサイクルを越えて高い場合は、陽性であるとして採点することになろう。他の検出方法については、正常の上限(例えば第90、第95、または第97.5百分位数)よりも2倍を越えて高い結果を陽性であるとして採点することになろう。
【0153】
実施例8
膀胱癌の検出に用いられるBTMの複数の組合せII
別の一連の実施態様では、マーカーの組合せ:TOP2A/SEMA3FおよびTOP2A/HOXA13のどちらかまたは両方の、尿中での蓄積を用いることにより、任意の型の尿検査または血液検査を用いて膀胱癌と診断された患者に存在する膀胱癌の組織型を、確実に予測することができる。したがって、膀胱鏡検査および組織学的検査は、膀胱癌の型を診断するためには必要ではない可能性がある。
【0154】
これらの比率の検査のために用いられるキットは、実施例7に記述した構成成分の(i)〜(iv)を含む。標準qPCRの実施によるBTM蓄積の定量化に続いて、TOP2A/SEMA3FおよびTOP2A/HOXA13の比率を計算した。表在性および浸潤性膀胱癌の患者の尿中のこれらの比率の範囲を、図21に示す。qPCR検査を用いて、TOP2AとSEMA3Fとの差異が5サイクルより小さく、SEMA3Fが最も豊富な転写物である場合には、浸潤性膀胱癌が予測され、また5サイクルを越える差異は、表在性膀胱癌を予測することができる。TOP2AとHOXA13については、差異が8サイクル未満で、HOXA13が最も豊富な転写物である場合に、浸潤性膀胱癌を予測することができ、また8サイクルを越える差異は表在性膀胱癌を予測することができる。
【0155】
実施例9
BTMを用いる膀胱癌の増悪の評価
膀胱腫瘍の増悪を評価するために、膀胱癌を有する患者から時間とともに、膀胱壁の生検によって組織試料を得るか、または尿試料を集める。BTM、UBTM、またはそれらの組合せの蓄積の評価を、異なる時に採取した試料について行う。BTMまたはUBTMの、個々のまたは組合せの増大した蓄積は、膀胱癌の増悪を示唆する。
【0156】
実施例10
BTMを用いる膀胱癌の治療の評価
膀胱腫瘍に対する治療の効能を評価するために、治療を開始する前に組織および/または尿の試料を得る。1つ以上のBTMまたはUBTMのベースラインレベルを決定し、また様々なBTMおよびUBTMの互いに対する比率も決定する。治療を開始し、治療は、その疾病の型および病期に適切な、手術、放射線治療、または化学療法を含む任意の公知技術の治療を含むことができる。治療過程の間に、組織および/または尿の試料を集め、BTMおよび/またはUBTMの存在および量について解析する。様々なBTMおよびUBTMの比率を決定し、結果を:(1)治療前の患者のベースラインレベル、または(2)膀胱癌を有しない個人の集団から得られた正常値、と比較する。
【0157】
参照による組み入れ
本出願で引用されているすべての出版物および特許は、参照により完全に本明細書に組み入れられる。本出願はヌクレオチドおよび/またはタンパク質配列を含む。コンピューター判読可能な様式の配列リスト、および配列リストを含むディスケットは、本出願に含まれており、参照により完全に本明細書に組み入れられる。
【産業上の利用可能性】
【0158】
BTMおよびUBTMのファミリーメンバーを検出する方法には、マイクロアレイおよび/またはリアルタイムPCR法を用いる核酸、タンパク質、およびペプチドの検出が含まれる。本発明の組成物および方法は、疾病の診断に、治療の効能評価に、およびBTMファミリーメンバーまたはUBTMファミリーメンバーの発現の測定に適する試薬および検査キットの生産のために、役立つ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿中のUBTMファミリーメンバーの蓄積を検出する工程を含む、膀胱癌を検出するための方法。
【請求項2】
前記UBTMファミリーメンバーが、実質的な程度には血液に関連していない、請求項1記載の方法。
【請求項3】
UBTMが、図3または図4に示される群より選択される、請求項1〜2のいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
前記検出する工程を、BTMまたはUBTMのmRNAの蓄積の検出により行なう、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記検出する工程を、マイクロアレイを用いて行なう、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記検出する工程を、定量的ポリメラーゼ連鎖反応またはハイブリダイゼーション法を用いて行なう、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記検出する工程を、UBTMタンパク質の蓄積の検出により行なう、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記検出する工程を、UBTMペプチドの蓄積の検出により行なう、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記検出する工程を、UBTM抗体を用いて行なう、請求項7〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記抗体がポリクローナルである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記抗体がモロクローナルである、請求項9記載の方法。
【請求項12】
方法が、前記試料中の2以上のUBTMファミリーメンバーの蓄積の検出を含む、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
TOP2A、MDK、またはBIRC5を検出する工程をさらに含む、請求項1〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
TOP2A−HOXA13、TOP2A−IGFBP5、およびTOP2A−SEMA3Fから成る群より選択される1以上のマーカー対を検出する工程をさらに含む、請求項1〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
膀胱癌を検出するための方法であって:
膀胱癌を有する疑いのある患者からの生体試料中の、図14aまたは14bから選択される2以上のBTMファミリーメンバーの組合せの蓄積を検出する工程、
を含む方法。
【請求項16】
生体試料が組織または尿から得られる、請求項15記載の方法。
【請求項17】
BTMまたはUBTMに特異的な抗体。
【請求項18】
前記抗体がポリクローナルである、請求項17記載の抗体。
【請求項19】
前記抗体がモロクローナルである、請求項17記載の抗体。
【請求項20】
BTMまたはUBTMが、図3または図4に示される群より選択される、請求項17〜19のいずれか1項記載の抗体。
【請求項21】
請求項17記載の抗体および別のBTMまたはUBTMに向けられたもう一つの抗体、を含む抗体の混合物。
【請求項22】
図14aまたは14bより選択されるBTMまたはUBTMの組合せの捕獲試薬をその上に有する基質;および
前記基質に関連する検出器、
を含み、前記検出器は、前記捕獲試薬に結合した前記BTMまたはUBTMの組合せを検出することができる、BTMを検出するための装置。
【請求項23】
前記捕獲試薬の少なくとも1つがオリゴヌクレオチドを含む、請求項22記載の装置。
【請求項24】
前記捕獲試薬の少なくとも1つが抗体を含む、請求項22記載の装置。
【請求項25】
前記BTMまたはUBTMが、図3または4に指定された群より選択される、請求項22記載の装置。
【請求項26】
基質;
その基質上の、図14aまたは14bから選択されるBTMまたはUBTMの少なくとも2つよりなる組合せの捕獲試薬;および
使用のための指示書、
を含む、癌を検出するためのキット。
【請求項27】
前記捕獲試薬の少なくとも1つがBTMまたはUBTMに特異的なオリゴヌクレオチドである、請求項26記載のキット。
【請求項28】
前記捕獲試薬の少なくとも1つがBTMに特異的な抗体である、請求項26記載のキット。
【請求項29】
前記BTMまたはUBTMが、図3または図4に示される群より選択される、請求項26記載のキット。
【請求項30】
膀胱癌の存在を検出するための方法であって:
BIRC2、CDC2、HOXA13、IGFBP5、MDK、MGP、NOV、NRPl、SEMA3F、SPAG5、TOP2A、から成る群より選択される1つ以上のマーカーの、尿試料中の存在を測定する工程を含み、前記マーカーは血液中に実質的に存在しない、方法。
【請求項31】
前記マーカーが、IGFBP5、MGP、SEMA3F、およびHOXA13から成る群より選択される、請求項30記載の方法。
【請求項32】
悪性膀胱疾患を非悪性膀胱疾患から区別するための方法であって:
HOXA13、IGFBP5、MDK、MGP、NRPl、SEMA3F、SMC4L1、TOP2A、およびUBE2Cから成る群より選択される1つ以上のマーカーの、前記患者の尿中における蓄積を測定する工程;および
前記試料中の前記マーカーの比率を決定する工程であって、その比率は膀胱癌の存在に関連している
を含む方法。
【請求項33】
少なくとも第2のBTMの尿中における蓄積を測定する工程をさらに含む、請求項30記載の方法、
【請求項34】
前記第1のマーカーがTOP2Aであり、前記第2のマーカーが、HOXA13、IGFBP5、およびSEMA3Fから成る群より選択される、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記マーカーの蓄積の比率を、表在性膀胱癌、浸潤性病期1膀胱癌、または浸潤性病期2〜3膀胱癌を示すものとして相関させる工程をさらに含む、請求項33記載の方法。
【請求項36】
膀胱癌の治療効果を決定するための方法であって:
患者からの第1の試料中の、図3または4から選ばれる1つ以上のマーカーの存在量を、治療期間後の患者からの第2の試料中の、図3または4から選ばれる前記1つ以上のマーカーの存在量と比較する工程を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図3−5】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図6d】
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【図6e】
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【図6f】
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【図6g】
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【図6h】
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【図6i】
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【図6j】
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【図6k】
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【図6l】
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【図6m】
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【図6n】
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【図6o】
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【図6p】
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【図6q】
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【図6r】
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【図6s】
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【図6t】
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【図6u】
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【図6v】
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【図6w】
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【図6x】
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【図6y】
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【図6aa】
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【図6ab】
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【図6ac】
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【図6ad】
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【図6ae】
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【図6af】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12a】
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【図12b】
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【図13a】
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【図13b】
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【図14a−1】
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【図14a−2】
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【図14a−3】
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【図14a−4】
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【図14a−5】
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【図14a−6】
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【図14a−7】
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【図14a−8】
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【図14b−1】
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【図14b−2】
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【図14b−3】
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【図14b−4】
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【図14b−5】
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【図15】
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【図16−1】
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【図16−2】
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【図16−3】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−185173(P2012−185173A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−118853(P2012−118853)
【出願日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【分割の表示】特願2007−522807(P2007−522807)の分割
【原出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(504350120)パシフィック エッジ バイオテクノロジー リミティド (9)
【Fターム(参考)】