膜−触媒層接合体の製造方法及びその製造装置
【課題】高分子電解質膜にシワやピンホールが発生することをより一層抑えることができる膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】一方の面に基材が形成された高分子電解質膜を準備し、高分子電解質膜の形状が保持される領域である形状保持領域内において又は形状保持領域内に搬送される直前に、高分子電解質膜から基材を剥離し基材が剥離されて露出した高分子電解質膜の一方の面に触媒インクを塗布する。
【解決手段】一方の面に基材が形成された高分子電解質膜を準備し、高分子電解質膜の形状が保持される領域である形状保持領域内において又は形状保持領域内に搬送される直前に、高分子電解質膜から基材を剥離し基材が剥離されて露出した高分子電解質膜の一方の面に触媒インクを塗布する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、携帯型電子機器、自動車などの移動体、分散発電システム及び家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動電源として使用される燃料電池が備える膜−触媒層接合体の製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(例えば、高分子電解質形燃料電池)は、水素を含有する燃料ガスと空気など酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱と水とを同時に発生させる装置である。
【0003】
燃料電池は、一般的には複数のセルを積層し、それらをボルトやバンドなどの締結部材で加圧締結することにより構成されている。1つのセルは、膜電極接合体(以下、MEA:Membrane-Electrode-Assemblyという)を一対の板状の導電性のセパレータで挟んで構成されている。
【0004】
MEAは、高分子電解質膜と、当該高分子電解質膜の両面に配置された一対の電極層によって構成されている。一対の電極層の一方はアノード電極であり、他方はカソード電極である。一対の電極層はそれぞれ、金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする触媒層と、当該触媒層の上に配置される多孔質で導電性を有するガス拡散層とで構成されている。ここでは、高分子電解質膜と触媒層との接合体を膜−触媒層接合体(CCM:Catalyst-coated membrane)という。前記アノード電極に燃料ガスが接触すると共に前記カソード電極に酸化剤ガスが接触することにより、電気化学反応が発生し、電力と熱と水とが発生する。
【0005】
燃料電池の性能を向上させるには、膜電極接合体の製造方法の最適化を図ることが有効であると考えられている。特に、高分子電解質膜上に触媒層を形成する工程は、燃料電池の性能や耐久性に大きな影響を与えると考えられている。
【0006】
高分子電解質膜上に触媒層を形成する方法としては、例えば、高分子電解質膜上に触媒含有インクを直接印刷又は塗布する方法が知られている。この方法は、高分子電解質膜と触媒層との界面抵抗を極めて低くすることができることから、理想的な膜−触媒層接合体の製造方法として注目されている。
【0007】
しかしながら、前記方法に用いる触媒含有インクには多量の溶媒が通常含まれているので、当該溶媒が高分子電解質膜に浸透して、高分子電解質膜が膨張し、高分子電解質膜にシワやピンホールが発生するという課題がある。シワやピンホールが発生した場合、高分子電解質膜の寸法が変化して後工程での取扱いが難しくなる。また、シワやピンホールが発生した高分子電解質膜を用いて製造した燃料電池は、当該シワやピンホールが発生した部分に電圧が集中して高分子電解質膜が破損するなどの問題が発生しやすく、耐久性が低い。
【0008】
高分子電解質膜にシワやピンホールが発生することを抑える従来の膜−触媒層接合体の製造方法及びその製造装置として、例えば、図8及び図9A〜図9Gに示すような製造方法及び製造装置がある(例えば、特許文献1:特開2002−289207号公報、特許文献2:特開2011−165460号公報参照)。以下、従来の膜−触媒層接合体の製造方法及びその製造装置について、図8及び図9A〜図9Gを用いて説明する。
【0009】
まず、図9Aに示すように、高分子電解質膜101の一方の面(以下、第1面という)に第1形状保持フィルム102が貼り付けられ、高分子電解質膜101の他方の面(以下、第2面という)に第2形状保持フィルム103が貼り付けられた高分子フィルム110aを準備する。
【0010】
次いで、図9Aに示す高分子フィルム110aを、第2形状保持フィルム103を内側にして供給ロール111に巻回し、図8に示すように、バックアップロール112に掛け回されて巻取りロール118に巻き取られるように高分子フィルム110aをセットする。
【0011】
次いで、巻取りロール118のモータ(図示せず)を駆動して、高分子フィルム110aを供給ロール111から巻取りロール118に向けて連続的に送る送り動作を行う。
【0012】
次いで、前記送り動作により剥離ロール112上に位置した高分子フィルム110aから、剥離ロール112によって第1形状保持フィルム102を剥離して、図9Bに示す高分子フィルム110bを作成する。
【0013】
次いで、前記送り動作によりバックアップロール113上に位置した高分子フィルム110bに、第1触媒インクを供給ポンプ114bからダイ114aを通じて吐出する。これにより、高分子電解質膜101の第1面に第1触媒インクが塗布される。
【0014】
次いで、前記送り動作により乾燥装置115内に送られた第1触媒インク塗布済みの高分子フィルム110bを乾燥装置115により加熱する。これにより、第1触媒インクが乾燥されて第1触媒層104aが形成され、図9Cに示す高分子フィルム110cが作成される。
【0015】
次いで、前記送り動作により形状保持フィルム供給装置116の下方に送られた図9Cに示す高分子フィルム110cの第2面上に、形状保持フィルム供給装置116により第3形状保持フィルム105を供給する。
【0016】
次いで、貼付装置117の貼付ロール117a,117bにより、高分子フィルム110cと第3形状保持フィルム105とを貼り付ける。これにより、図9Dに示す高分子フィルム110dが作成される。
【0017】
次いで、前記送り動作が継続して行われることにより、図9Dに示す高分子フィルム110dが巻取りロール118に巻き取られる。
【0018】
次いで、図9Dに示す高分子フィルム110dを、第3形状保持フィルム105を内側にして供給ロール111に巻回し、図8に示すように、バックアップロール113に掛け回されて巻取りロール118に巻き取られるように高分子フィルム110dをセットする。
【0019】
次いで、巻取りロール118のモータ(図示せず)を駆動して、高分子フィルム110dを供給ロール111から巻取りロール118に向けて連続的に送る送り動作を行う。
【0020】
次いで、前記送り動作により剥離ロール112上に送られた高分子フィルム110dから、剥離ロール112によって第2形状保持フィルム103を剥離して、図9Eに示す高分子フィルム110eを作成する。
【0021】
次いで、前記送り動作によりバックアップロール113上に位置した高分子フィルム110eに、第2触媒インクを供給ポンプ114bからダイ114aを通じて吐出する。これにより、高分子電解質膜101の第2面に第2触媒インクが塗布される。
【0022】
次いで、前記送り動作により乾燥装置115内に送られた第2触媒インク塗布済みの高分子フィルム110eを乾燥装置115により加熱する。これにより、第2触媒インクが乾燥されて第2触媒層104bが形成され、図9Fに示す高分子フィルム110fが作成される。
【0023】
次いで、前記送り動作により形状保持フィルム供給装置116の下方に送られた図9Fに示す高分子フィルム110fの第2面上に、形状保持フィルム供給装置116により第4形状保持フィルム106を供給する。
【0024】
次いで、貼付装置117の貼付ロール117a,117bにより、高分子フィルム110fと第4形状保持フィルム106とを貼り付ける。これにより、図9Gに示す高分子フィルム110gが作成される。
【0025】
次いで、前記送り動作が継続して行われることにより、図9Gに示す高分子フィルム110gが巻取りロール118に巻き取られる。
【0026】
前記従来の製造方法及び製造装置によれば、第2形状保持フィルム103により高分子電解質膜101の形状を保持した状態で第1触媒含有インクを塗布するようにしているので、高分子電解質膜101にシワやピンホールが発生することを抑えることができる。また、第3形状保持フィルム105により高分子電解質膜101の形状を保持した状態で第2触媒含有インクを塗布するようにしているので、高分子電解質膜101にシワやピンホールが発生することを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開2002−289207号公報
【特許文献2】特開2011−165460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
しかしながら、前記従来の製造方法及び製造装置によっても、高分子電解質膜のシワやピンホールを十分に抑えることができず、高分子電解質膜に所望の許容レベルを超えるシワやピンホールが発生することがあった。
【0029】
従って、本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、高分子電解質膜にシワやピンホールが発生することをより一層抑えることができる膜−触媒層接合体の製造方法及びその製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明によれば、一方の面に基材が形成された高分子電解質膜を準備し、
前記高分子電解質膜の形状が保持される領域である形状保持領域内において、又は前記高分子電解質膜が前記形状保持領域内に搬送される直前に、前記高分子電解質膜から基材を剥離し、
前記基材が剥離されて露出した前記高分子電解質膜の一方の面に触媒インクを塗布する、
ことを含む、膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0031】
本発明によれば、一方の面に基材が形成された高分子電解質膜を搬送方向に搬送する搬送装置と、
前記高分子電解質膜が掛け回されるバックアップロールと、
前記バックアップロールの近傍に配置され、前記高分子電解質膜から前記基材を剥離する剥離ロールと、
前記剥離装置よりも前記搬送方向の下流側で前記バックアップロールと対向するように配置され、前記基材が剥離されて露出した前記高分子電解質膜の一方の面に触媒インクを塗布する触媒塗布装置と、
を備える、膜−触媒層接合体の製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0032】
本発明にかかる膜−触媒層接合体の製造方法及びその製造装置によれば、高分子電解質膜にシワやピンホールが発生することをより一層抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置の概略構成を示す説明図である。
【図2A】高分子電解質膜の第1面に第1形状保持フィルムを貼り付け、高分子電解質膜の第2面に第2形状保持フィルムを貼り付けた構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図2B】図2Aに示す状態から、第1形状保持フィルムを剥離した構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図2C】図2Bに示す状態からさらに、高分子電解質膜の第1面に第1触媒層を形成した構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図2D】図2Cに示す状態からさらに、第1触媒層を形成した高分子電解質膜の第1面に第3形状保持フィルムを貼り付けた構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図2E】図2Dに示す状態から、第2形状保持フィルムを剥離した構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図2F】図2Eに示す状態からさらに、高分子電解質膜の第2面に第2触媒層を形成した構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図2G】図2Fに示す状態からさらに、第2触媒層を形成した高分子電解質膜の第2面に第4形状保持フィルムを貼り付けた構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図3】図1に示す膜−触媒層接合体の製造装置の一部拡大図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置の概略構成を示す説明図である。
【図5】図4に示す膜−触媒層接合体の製造装置の一部拡大図である。
【図6】本発明の第3実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置の概略構成を示す説明図である。
【図7】図6の膜−触媒層接合体の製造装置の変形例を示す説明図である。
【図8】従来の膜−触媒層接合体の製造装置の概略構成を示す説明図である。
【図9A】高分子電解質膜の第1面に第1形状保持フィルムを貼り付け、高分子電解質膜の第2面に第2形状保持フィルムを貼り付けた構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図9B】図9Aに示す状態から、第1形状保持フィルムを剥離した構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図9C】図9Bに示す状態からさらに、高分子電解質膜の第1面に第1触媒層を形成した構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図9D】図9Cに示す状態からさらに、第1触媒層を形成した高分子電解質膜の第1面に第3形状保持フィルムを貼り付けた構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図9E】図9Dに示す状態から、第2形状保持フィルムを剥離した構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図9F】図9Eに示す状態からさらに、高分子電解質膜の第2面に第2触媒層を形成した構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図9G】図9Fに示す状態からさらに、第2触媒層を形成した高分子電解質膜の第2面に第4形状保持フィルムを貼り付けた構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の発明者らは、前記従来の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、以下のことを見出した。
【0035】
従来の膜−触媒層接合体の製造装置において、剥離ロール112とバックアップロール113との間に位置する高分子電解質膜101は、図9Bに示すように、第1形状保持フィルム102が剥離されて第1面が露出した状態にあるか、もしくは、図9Eに示すように、第2形状保持フィルム103が剥離されて第2面が露出した状態にある。
【0036】
図9Bに示すように、高分子電解質膜101の第1面が露出した状態にあるとき、高分子電解質膜101は、第2形状保持フィルム103により形状を保持された状態にある。しかしながら、高分子電解質膜101は、第2形状保持フィルム103との接着が十分ではない部分を有する場合がある。当該部分については、高分子電解質膜101は第2形状保持フィルム103によって形状を保持されないので、シワやピンホールが発生しやすくなる。
【0037】
また、図9Eに示すように、高分子電解質膜101の第2面が露出した状態にあるとき、高分子電解質膜101は、第3形状保持フィルム105により形状を保持された状態にある。しかしながら、第1触媒層104aと第3形状保持フィルム105とは、それらに用いる材料の性質上、接着することが困難である。このため、第1触媒層104aと重なる部分については、高分子電解質膜101は第3形状保持フィルム105によって形状を保持されないので、シワやピンホールが発生しやすくなる。
【0038】
また、従来の膜−触媒層接合体の製造装置においては、剥離ロール112とバックアップロール113との間には、一般に計測ゾーンやフィルムの接続ゾーンなどを通常配置するため、剥離ロール112とバックアップロール113とは、通常2〜3m程度離して配置されている。このため、高分子電解質膜101の露出面が空気中の水分に触れる時間が長く(例えば、2〜3分)なっている。
【0039】
本発明の発明者らは、高分子電解質膜101の一部が第2又は第3形状保持フィルム103,105に形状を保持されていない状態で空気中の水分に触れる時間が長いことが、高分子電解質膜101のシワやピンホールの主な原因であることを見出した。これらの知見に基づき、本発明の発明者らは、本発明に想到した。
【0040】
本発明の第1態様によれば、一方の面に基材が形成された高分子電解質膜を準備し、
前記高分子電解質膜の形状が保持される領域である形状保持領域内において、又は前記高分子電解質膜が前記形状保持領域内に搬送される直前に、前記高分子電解質膜から基材を剥離し、
前記基材が剥離されて露出した前記高分子電解質膜の一方の面に触媒インクを塗布する、
ことを含む、膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0041】
本発明の第2態様によれば、前記形状保持領域とは、前記高分子電解質膜の厚み方向に力が加わる領域である、第1態様に記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0042】
本発明の第3態様によれば、前記形状保持領域とは、バックアップロールに前記高分子電解質膜が掛け回される領域である、第1態様に記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0043】
本発明の第4態様によれば、一方の面に基材が形成された高分子電解質膜を搬送方向に搬送する搬送装置と、
前記高分子電解質膜が掛け回されるバックアップロールと、
前記バックアップロールの近傍に配置され、前記高分子電解質膜から前記基材を剥離する剥離ロールと、
前記剥離ロールよりも前記搬送方向の下流側で前記バックアップロールと対向するように配置され、前記基材が剥離されて露出した前記高分子電解質膜の一方の面に触媒インクを塗布する触媒インク塗布装置と、
を備える、膜−触媒層接合体の製造装置を提供する。
【0044】
本発明の第5態様によれば、前記高分子電解質膜を前記バックアップロールに向けて押圧するニップロールをさらに備える、第4態様に記載の膜−触媒層接合体の製造装置を提供する。
【0045】
本発明の第6態様によれば、前記剥離ロールは、前記ニップロールよりも前記搬送方向の下流側に設けられている、第5態様に記載の膜−触媒層接合体の製造装置を提供する。
【0046】
本発明の第7態様によれば、前記剥離ロールは、前記ニップロールに対して前記搬送方向の上流側で隣接するように設けられている、第5態様に記載の膜−触媒層接合体の製造装置を提供する。
【0047】
本発明の第8態様によれば、前記剥離装置は、前記高分子電解質膜から前記第1基材を剥離するとともに、前記高分子電解質膜を前記バックアップロールに向けて押圧する単一のロール部材を備える、第4態様に記載の膜−触媒層接合体の製造装置を提供する。
【0048】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0049】
《第1実施形態》
図1は、本発明の第1実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置の概略構成を示す説明図である。本第1実施形態にかかる膜−触媒層接合体は、例えば、自動車などの移動体、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動源として使用される燃料電池に用いられるものである。
【0050】
図1において、本第1実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置は、供給ロール11と、ニップロール12aと、剥離ロール12bと、バックアップロール13と、触媒インク塗布装置14と、乾燥装置15と、形状保持フィルム供給装置16と、貼付装置17と、巻取りロール18とを備えている。
【0051】
供給ロール11には、高分子フィルム10が巻回されている。本第1実施形態において、高分子フィルム10とは、図2A〜図2Gのいずれかに示す構造を有する高分子フィルム10a〜10gをいう。図2Cに示すように高分子電解質膜1の一方の面(以下、第1面という)に触媒層4aを形成する場合、供給ロール11には、図2Aに示す構造を有する高分子フィルム10aが巻回される。すなわち、供給ロール11には、高分子電解質膜1の第1面に第1形状保持フィルム2を貼り付け、高分子電解質膜1の他方の面(以下、第2面という)に第2形状保持フィルム3を貼り付けた構造を有する高分子フィルム10aが巻回される。また、図2Fに示すように高分子電解質膜1の第2面に触媒層4bを形成する場合、供給ロール11には、図2Dに示す構造を有する高分子フィルム10dが巻回される。すなわち、供給ロール11には、高分子電解質膜1の第1面に触媒層4aを覆うように第3形状保持フィルム5を貼り付け、高分子電解質膜1の第2面に第2形状保持フィルム3を貼り付けた構造を有する高分子フィルム10dが巻回される。
【0052】
高分子電解質膜1は、好ましくは、水素イオン伝導性を有する高分子膜である。高分子電解質膜1としては、特に限定されるものではないが、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)など)を使用することができる。高分子電解質膜1は、通常、非常に薄く且つ少しの湿気でも変形し易い部材である。このため、本第1実施形態においては、取扱い性の向上と高分子電解質膜のシワやピンホールの更なる抑制のため、高分子電解質膜1の第1面に第1形状保持フィルム2又は第3形状保持フィルム5を貼り付け、高分子電解質膜1の第2面に第2形状保持フィルム3又は第4形状保持フィルム6を貼り付けるようにしている。
【0053】
第1〜第4形状保持フィルム2,3,5,及び6としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、フッ素樹脂などを用いることができる。第1〜第4形状保持フィルム2,3,5,及び6は、ラミネート加工時に熱変形しない耐熱性を有するフィルムであればよい。
【0054】
供給ロール11から引き出された高分子フィルム10は、バックアップロール13に掛け回され、巻取りロール18に巻き取られる。巻取りロール18は、図示しないモータを備え、当該モータの駆動力により連続的に回転することで、高分子フィルム10を連続的に巻き取る。本第1実施形態においては、後述するように高分子フィルム10が供給ロール11から引き出されて巻取りロール18に巻き取られるまでの間に、高分子電解質膜1の第1面に触媒層4aが形成され、高分子電解質膜1の第2面に触媒層4bが形成されるようにしているので、膜−触媒層接合体の大量生産が可能である。なお、本第1実施形態においては、供給ロール11と巻取りロール18により、高分子電解質膜1を搬送方向Xに搬送する搬送装置の一例が構成されている。
【0055】
ニップロール12aは、高分子フィルム10をバックアップロール13に押圧可能に設けられている。ニップロール12aが、図2Aに示す高分子フィルム10aをバックアップロール13に押圧することにより、高分子電解質膜1と第2形状保持フィルム3とが密着され、第2形状保持フィルム3による高分子電解質膜1の形状保持力が強化される。また、ニップロール12aが、図2Dに示す高分子フィルム10dをバックアップロール13に押圧することにより、第1触媒層4a(又は高分子電解質膜1)と第3形状保持フィルム5とが密着され、第3形状保持フィルム5による高分子電解質膜1の形状保持力が強化される。
【0056】
剥離ロール12bは、バックアップロール13の近傍で且つニップロール12aよりも搬送方向Xの下流側に設けられている。また、剥離ロール12bは、バックアップロール13に沿って搬送される高分子フィルム10aから第1形状保持フィルム2を剥離可能に設けられるとともに、バックアップロール13に沿って搬送される高分子フィルム10dから第2形状保持フィルム3を剥離可能に設けられている。剥離ロール12bにより剥離された第1及び第2形状保持フィルム2,3は、形状保持フィルム巻取ロール19に巻き取られる。
【0057】
バックアップロール13は、例えば、直径が300mmに設定された円柱形の部材である。高分子フィルム10がバックアップロール13に掛け回されたとき、高分子フィルム10には、図3に矢印で示すように、高分子フィルム10の厚み方向に垂直抗力が働く。この垂直抗力により、高分子電解質膜1と第2形状保持フィルム3とが密着され、第2形状保持フィルム3により高分子電解質膜1の形状が保持される。また、前記垂直抗力により、第1触媒層4aと第3形状保持フィルム5とが密着され、第3形状保持フィルム5により高分子電解質膜1の形状が保持される。
【0058】
触媒インク供給装置14は、剥離装置12よりも搬送方向Xの下流側でバックアップロール13と対向するように配置されたダイ14aを備えている。ダイ14aには、供給ポンプ14bが接続されている。ダイ14aは、供給ポンプ14bから供給された触媒層形成用の触媒インクを、高分子フィルム10のバックアップロール13と接触する部分に向けて吐出(塗布)可能に構成されている。
【0059】
触媒インクは、白金系金属触媒を担持したカーボン微粒子を溶媒で混合したインクである。金属触媒としては、例えば、プラチナ、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムなどを用いることができる。カーボン粉末としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック及びアセチレンブラックなどを用いることができる。溶媒としては、水、エタノール、n-プロパノール及びn−ブタノールなどのアルコール系、並びに、エーテル系、エステル系及びフッ素系などの有機溶剤を用いることができる。白金系金属触媒インクの溶媒を乾燥することで、金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする第1及び第2触媒層4a,4bを形成することができる。
【0060】
乾燥装置15は、バックアップロール13よりも搬送方向Xの下流側において、高分子フィルム10を包囲するように配置されている。乾燥装置15は、ダイ14aから高分子電解質膜1に向けて吐出された第1及び第2触媒インクを乾燥させる装置である。第1及び第2触媒インクを乾燥することにより、第1及び第2触媒層4a,4bが形成される。乾燥装置15としては、例えば、対流式熱風乾燥装置を用いることができる。
【0061】
形状保持フィルム供給装置16は、乾燥装置15よりも搬送方向Xの下流側に配置されている。形状保持フィルム供給装置16は、乾燥装置15により作成された図2Cに示す高分子フィルム10cの第1面に第3形状保持フィルム5を供給する装置である。また、形状保持フィルム供給装置16は、乾燥装置15により作成された図2Fに示す高分子フィルム10fの第2面に第4形状保持フィルム6を供給する装置である。
【0062】
貼付装置17は、形状保持フィルム供給装置16よりも搬送方向Xの下流側に配置されている。貼付装置17は、一組の貼付ロール17a,17bを備えている。貼付ロール17a,17bは、例えば、直径が200mmの円柱形の部材である。貼付ロール17a,17bは、それらの間に高分子フィルム10が供給されたとき、互いに接近して高分子フィルム10に所定の圧力及び熱を加えることができるように構成されている。
【0063】
次に、本実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法について説明する。
【0064】
まず、図2Aに示すように高分子電解質膜1の第1面に第1形状保持フィルム(基材)2が貼り付けられ、高分子電解質膜1の第2面に第2形状保持フィルム3が貼り付けられた高分子フィルム10aを準備する(準備工程)。
【0065】
次いで、図2Aに示す高分子フィルム10aを、第2形状保持フィルム3を内側にして供給ロール11に巻回し、図1に示すように、バックアップロール13に掛け回されて巻取りロール18に巻き取られるように高分子フィルム10aをセットする。
【0066】
次いで、巻取りロール18のモータ(図示せず)を駆動して、高分子フィルム10aを供給ロール11から巻取りロール18に向けて連続的に送る送り動作を行う。
【0067】
次いで、前記送り動作によりニップロール12aとバックアップロール13との間に搬送された高分子フィルム10aをニップロール12aで押圧することにより、高分子電解質膜1と第2形状保持フィルム3とを密着させる(密着工程)。なお、高分子電解質膜1と第2形状保持フィルム3とが密着した状態は、前述した垂直抗力により、高分子フィルム10がバックアップロール13上を搬送される間、維持される。高分子電解質膜1と第2形状保持フィルム3とが密着することにより、第2形状保持フィルム3が高分子電解質膜1の全体の形状を保持し、高分子電解質膜1にシワやピンホールが発生しにくくなる。
【0068】
次いで、前記送り動作により剥離ロール12b上に位置した高分子フィルム10aから、剥離ロール12bによって第1形状保持フィルム2を剥離して、図2Bに示す高分子フィルム10bを作成する。剥離ロール12bにより剥離された第1形状保持フィルム2は、形状保持フィルム巻取ロール19に巻き取られる。
【0069】
次いで、前記送り動作によりバックアップロール13上に位置した高分子フィルム10bに、第1触媒インクを供給ポンプ14bからダイ14aを通じて吐出する。これにより、高分子電解質膜1の第1面に第1触媒インクが塗布される。
【0070】
次いで、前記送り動作により乾燥装置15内に送られた第1触媒インク塗布済みの高分子フィルム10bを乾燥装置15により加熱する。これにより、第1触媒インクが乾燥されて第1触媒層4aが形成され、図2Cに示す高分子フィルム10cが作成される(触媒層形成工程)。
【0071】
次いで、前記送り動作により形状保持フィルム供給装置16の下方に送られた図2Cに示す高分子フィルム10cの第1面上に、形状保持フィルム供給装置16により第3形状保持フィルム5を供給する。
【0072】
次いで、貼付ロール17a,17bにより、高分子フィルム10cと第3形状保持フィルム5とを貼り付ける。これにより、図2Dに示す高分子フィルム10dが作成される。
【0073】
次いで、前記送り動作が継続して行われることにより、図2Dに示す高分子フィルム110dが巻取りロール18に巻き取られる。
【0074】
次いで、図2Dに示す高分子フィルム10dを、第3形状保持フィルム(第2基材)5を内側にして供給ロール11に巻回し、図1に示すように、バックアップロール13に掛け回されて巻取りロール18に巻き取られるように高分子フィルム10dをセットする。
【0075】
次いで、巻取りロール18のモータ(図示せず)を駆動して、高分子フィルム10dを供給ロール11から巻取りロール18に向けて連続的に送る送り動作を行う。
【0076】
次いで、前記送り動作によりニップロール12aとバックアップロール13との間に搬送された高分子フィルム10dをニップロール12aで押圧することにより、高分子電解質膜1と第3形状保持フィルム5とを密着させる(密着工程)。なお、高分子電解質膜1と第3形状保持フィルム5とが密着した状態は、前述した垂直抗力により、高分子フィルム10がバックアップロール13上を搬送される間、維持される。高分子電解質膜1と第3形状保持フィルム5とが密着することにより、第3形状保持フィルム5が高分子電解質膜1の全体の形状を保持し、高分子電解質膜1にシワやピンホールが発生しにくくなる。
【0077】
次いで、前記送り動作により剥離ロール12b上に位置した高分子フィルム10dから、剥離ロール12bによって第2形状保持フィルム(基材)3を剥離して、図2Eに示す高分子フィルム10eを作成する。
【0078】
次いで、前記送り動作によりバックアップロール13上に位置した高分子フィルム10eに、第2触媒インクを供給ポンプ14bからダイ14aを通じて吐出する。これにより、高分子電解質膜1の第2面に第2触媒インクが塗布される。
【0079】
次いで、前記送り動作により乾燥装置15内に送られた第2触媒インク塗布済みの高分子フィルム10eを乾燥装置15により加熱する。これにより、第2触媒インクが乾燥されて第2触媒層4bが形成され、図2Fに示す高分子フィルム10fが作成される(触媒層形成工程)。
【0080】
次いで、前記送り動作により形状保持フィルム供給装置16の下方に送られた図2Fに示す高分子フィルム10fの第2面上に、形状保持フィルム供給装置16により第4形状保持フィルム6を供給する。
【0081】
次いで、貼付ロール17a,17bにより、高分子フィルム10fと第4形状保持フィルム6とを貼り付ける。これにより、図2Gに示す高分子フィルム10gが作成される。
【0082】
次いで、前記送り動作が継続して行われることにより、図2Gに示す高分子フィルム110gが巻取りロール18に巻き取られる。これにより、本第1実施形態にかかる膜−触媒層接合体が製造される。
【0083】
本第1実施形態によれば、高分子電解質膜1と第2形状保持フィルム3とを密着させた状態で、第1形状保持フィルム2を剥離し、第1触媒層4aを形成するようにしているので、高分子電解質膜1にシワやピンホールが発生することを抑えることができる。また、本第1実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法によれば、高分子電解質膜1と第3形状保持フィルム5とを密着させた状態で、第2形状保持フィルム3を剥離し、第2触媒層4bを形成するようにしているので、高分子電解質膜1にシワやピンホールが発生することを抑えることができる。
【0084】
また、本第1実施形態によれば、バックアップロール13の近傍に剥離ロール12bを配置しているので、バックアップロール13にロール・ツー・ロールのテンションの張った状態で、高分子電解質膜1の露出面を固定でき、さらに、高分子電解質膜1の露出面が空気中の水分に触れる時間を短くすることができる。従って、高分子電解質膜1にシワやピンホールが発生することをより一層抑えることができる。
【0085】
なお、本発明は前記第1実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、前記では、高分子電解質膜1と第2又は第3形状保持フィルム3、5とを密着させるために、ニップロール12aにより高分子フィルム10a,10dをバックアップロール13に対して押圧するようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、バックアップロール13に吸引機能を持たせ、高分子フィルム10a,10dをバックアップロール13の中心に向けて吸引することにより、高分子電解質膜1と第2又は第3形状保持フィルム3、5とを密着させるようにしてもよい。この場合、例えば、高分子フィルム10a,10dを押圧する機能を有するニップロール12aに代えて、高分子フィルム10a,10dに接触するだけの機能を有するタッチロールを用いることができる。
【0086】
なお、バックアップロール13の吸引機能により、高分子フィルム10a,10dをバックアップロール13に吸引させる場合、第2及び第3形状保持フィルム3,5は、通気性を有する部材である必要がある。従来、形状保持フィルムは、空気を透過しない部材であることが一般的である。第2又は第3形状保持フィルムとして空気を透過しない部材を用いた場合には、例えば、高分子フィルム10a,10dがバックアップロール13に到達する前に、第2又は第3形状保持フィルム3,5を剥離し、紙などの通気性を有する部材(第2基材)に貼り替えるようにすればよい。
【0087】
また、ニップロール12aを設けなくても、高分子フィルム10をバックアップロール13に掛け回すことにより、高分子電解質膜1の厚み方向に前記垂直抗力を加えることができるので、高分子電解質膜1と第2又は第3形状保持フィルム3,5とを密着させ、高分子電解質膜1の形状を保持することができる。
【0088】
また、高分子電解質膜1には、必ずしも第2又は第3形状保持フィルム3,5を設ける必要はなく、高分子電解質膜1とバックロール13とが直接接触するようにしてもよい。この場合でも、高分子電解質膜1をバックアップロール13に掛け回すことにより、高分子電解質膜1の厚み方向に前記垂直抗力を加えることができるので、高分子電解質膜1とバックアップロール13とを密着させ、高分子電解質膜1の形状を保持することができる。
【0089】
なお、本明細書では、高分子電解質膜1の形状が保持される領域を形状保持領域という。本第1実施形態において、形状保持領域は、高分子フィルム10とバックアップロール13とが接して、高分子電解質膜1の厚み方向に力が加わる領域である。
【0090】
《第2実施形態》
図4は、本発明の第2実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置の概略構成を示す説明図である。本第2実施形態の製造装置が、前記第1実施形態の製造装置と異なる点は、ニップロール12aと剥離ロール12bに代えて、それらの両方の機能を有する単一のロール部材である剥離圧着ロール12cを備えていることである。言い換えれば、本第2実施形態の製造装置では、剥離工程と圧着工程とを重複して(同時に)行うようにしている。
【0091】
本第2実施形態によれば、剥離圧着ロール12cがニップロール12aと剥離ロール12bの両方の機能を有するので、前記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、部品点数を少なくすることができ、装置の低コスト化及び小型化を実現することができる。
【0092】
なお、図5に示すように、高分子フィルム10を押圧する力は矢印A1方向に働く一方で、第1又は第2形状保持フィルム2,3を剥離する力は、矢印A1方向に対して反対方向である矢印B1方向に働く。このため、本第2実施形態のように高分子フィルム10の押圧と第1又は第2形状保持フィルム2,3の剥離の両方を剥離圧着ロール12cにより行う場合には、高分子フィルム10を押圧する力が前記第1実施形態に比べて弱くなる点に留意すべきである。
【0093】
《第3実施形態》
図6は、本発明の第3実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置の概略構成を示す説明図である。本第3実施形態の製造装置が、前記第2実施形態の製造装置と異なる点は、剥離ロール12bを、ニップロール12aに対して搬送方向Xの下流側に設けるのではなく、ニップロール12aに対して搬送方向Xの上流側で隣接するように設けている点である。
【0094】
ニップロール12aが図2Bに示す高分子フィルム10bをバックアップロール12に押圧したとき、高分子フィルム10bはバックアップロール12に向けて凸状に撓む。この高分子フィルム10bの撓みにより、ニップロール12aに対して搬送方向Xの上流側においても、高分子電解質膜1のニップロール12aの近傍部分は、第2形状保持フィルム3に形状を保持され、シワやピンホールが生じにくい状態にある。
【0095】
同様に、ニップロール12aが図2Fに示す高分子フィルム10fをバックアップロール12に押圧したとき、高分子フィルム10fはバックアップロール12に向けて凸状に撓む。この高分子フィルム10fの撓みにより、ニップロール12aに対して搬送方向Xの上流側においても、高分子電解質膜1のニップロール12aの近傍部分は、第3形状保持フィルム5に形状を保持され、シワやピンホールが生じにくい状態にある。
【0096】
また、剥離ロール12bをニップロール12aに対して搬送方向Xの上流側で隣接するように設けた場合には、剥離ロール12bはバックアップロール12の近傍に位置することになるので、高分子電解質膜1の露出面が空気中の水分に触れる時間が短くなる。
【0097】
従って、本第3実施形態によれば、剥離ロール12bをニップロール12aに対して搬送方向Xの上流側で隣接するように設けている(言い換えれば、剥離工程と圧着工程とを重複して行うようにしている)ので、前記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0098】
なお、前記第3実施形態では、剥離ロール12bをニップロール12aに対して搬送方向Xの上流側で隣接するように設けたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図7に示すように、ニップロール12aの押圧により、第2及び第3形状保持フィルム3,5により高分子電解質膜1の形状を保持することができる範囲内で、剥離ロール12bをニップロール12aから搬送方向Xの上流側に離して配置してもよい。前記範囲とは、ニップロール12aが高分子フィルム10を押圧する部分からの長さが高分子電解質膜1の幅(例えば、200mm〜300mm)以下となる範囲である。この場合でも、高分子電解質膜1の露出面が空気中の水分に触れる時間を従来よりも短くして、高分子電解質膜1にシワやピンホールが発生することを抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明にかかる膜−触媒層接合体の製造方法及び装置は、高分子電解質膜にシワやピンホールが発生することをより一層抑えることができるので、例えば、自動車などの移動体、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動源として使用される燃料電池が備える膜−触媒層接合体の製造方法及びその製造装置として有用である。
【符号の説明】
【0100】
1 高分子電解質膜
2 第1形状保持フィルム(基材)
3 第2形状保持フィルム(基材)
4a 第1触媒層
4b 第2触媒層
5 第3形状保持フィルム
6 第4形状保持フィルム
10 高分子フィルム
11 供給ロール
12a ニップロール
12b 剥離ロール
12c 剥離圧着ロール
13 バックアップロール
14 触媒インク供給装置
15 乾燥装置
16 形状保持フィルム供給装置
17 貼付装置
17a,17b 貼付ロール
18 巻取りロール
P 供給ポンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、携帯型電子機器、自動車などの移動体、分散発電システム及び家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動電源として使用される燃料電池が備える膜−触媒層接合体の製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(例えば、高分子電解質形燃料電池)は、水素を含有する燃料ガスと空気など酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱と水とを同時に発生させる装置である。
【0003】
燃料電池は、一般的には複数のセルを積層し、それらをボルトやバンドなどの締結部材で加圧締結することにより構成されている。1つのセルは、膜電極接合体(以下、MEA:Membrane-Electrode-Assemblyという)を一対の板状の導電性のセパレータで挟んで構成されている。
【0004】
MEAは、高分子電解質膜と、当該高分子電解質膜の両面に配置された一対の電極層によって構成されている。一対の電極層の一方はアノード電極であり、他方はカソード電極である。一対の電極層はそれぞれ、金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする触媒層と、当該触媒層の上に配置される多孔質で導電性を有するガス拡散層とで構成されている。ここでは、高分子電解質膜と触媒層との接合体を膜−触媒層接合体(CCM:Catalyst-coated membrane)という。前記アノード電極に燃料ガスが接触すると共に前記カソード電極に酸化剤ガスが接触することにより、電気化学反応が発生し、電力と熱と水とが発生する。
【0005】
燃料電池の性能を向上させるには、膜電極接合体の製造方法の最適化を図ることが有効であると考えられている。特に、高分子電解質膜上に触媒層を形成する工程は、燃料電池の性能や耐久性に大きな影響を与えると考えられている。
【0006】
高分子電解質膜上に触媒層を形成する方法としては、例えば、高分子電解質膜上に触媒含有インクを直接印刷又は塗布する方法が知られている。この方法は、高分子電解質膜と触媒層との界面抵抗を極めて低くすることができることから、理想的な膜−触媒層接合体の製造方法として注目されている。
【0007】
しかしながら、前記方法に用いる触媒含有インクには多量の溶媒が通常含まれているので、当該溶媒が高分子電解質膜に浸透して、高分子電解質膜が膨張し、高分子電解質膜にシワやピンホールが発生するという課題がある。シワやピンホールが発生した場合、高分子電解質膜の寸法が変化して後工程での取扱いが難しくなる。また、シワやピンホールが発生した高分子電解質膜を用いて製造した燃料電池は、当該シワやピンホールが発生した部分に電圧が集中して高分子電解質膜が破損するなどの問題が発生しやすく、耐久性が低い。
【0008】
高分子電解質膜にシワやピンホールが発生することを抑える従来の膜−触媒層接合体の製造方法及びその製造装置として、例えば、図8及び図9A〜図9Gに示すような製造方法及び製造装置がある(例えば、特許文献1:特開2002−289207号公報、特許文献2:特開2011−165460号公報参照)。以下、従来の膜−触媒層接合体の製造方法及びその製造装置について、図8及び図9A〜図9Gを用いて説明する。
【0009】
まず、図9Aに示すように、高分子電解質膜101の一方の面(以下、第1面という)に第1形状保持フィルム102が貼り付けられ、高分子電解質膜101の他方の面(以下、第2面という)に第2形状保持フィルム103が貼り付けられた高分子フィルム110aを準備する。
【0010】
次いで、図9Aに示す高分子フィルム110aを、第2形状保持フィルム103を内側にして供給ロール111に巻回し、図8に示すように、バックアップロール112に掛け回されて巻取りロール118に巻き取られるように高分子フィルム110aをセットする。
【0011】
次いで、巻取りロール118のモータ(図示せず)を駆動して、高分子フィルム110aを供給ロール111から巻取りロール118に向けて連続的に送る送り動作を行う。
【0012】
次いで、前記送り動作により剥離ロール112上に位置した高分子フィルム110aから、剥離ロール112によって第1形状保持フィルム102を剥離して、図9Bに示す高分子フィルム110bを作成する。
【0013】
次いで、前記送り動作によりバックアップロール113上に位置した高分子フィルム110bに、第1触媒インクを供給ポンプ114bからダイ114aを通じて吐出する。これにより、高分子電解質膜101の第1面に第1触媒インクが塗布される。
【0014】
次いで、前記送り動作により乾燥装置115内に送られた第1触媒インク塗布済みの高分子フィルム110bを乾燥装置115により加熱する。これにより、第1触媒インクが乾燥されて第1触媒層104aが形成され、図9Cに示す高分子フィルム110cが作成される。
【0015】
次いで、前記送り動作により形状保持フィルム供給装置116の下方に送られた図9Cに示す高分子フィルム110cの第2面上に、形状保持フィルム供給装置116により第3形状保持フィルム105を供給する。
【0016】
次いで、貼付装置117の貼付ロール117a,117bにより、高分子フィルム110cと第3形状保持フィルム105とを貼り付ける。これにより、図9Dに示す高分子フィルム110dが作成される。
【0017】
次いで、前記送り動作が継続して行われることにより、図9Dに示す高分子フィルム110dが巻取りロール118に巻き取られる。
【0018】
次いで、図9Dに示す高分子フィルム110dを、第3形状保持フィルム105を内側にして供給ロール111に巻回し、図8に示すように、バックアップロール113に掛け回されて巻取りロール118に巻き取られるように高分子フィルム110dをセットする。
【0019】
次いで、巻取りロール118のモータ(図示せず)を駆動して、高分子フィルム110dを供給ロール111から巻取りロール118に向けて連続的に送る送り動作を行う。
【0020】
次いで、前記送り動作により剥離ロール112上に送られた高分子フィルム110dから、剥離ロール112によって第2形状保持フィルム103を剥離して、図9Eに示す高分子フィルム110eを作成する。
【0021】
次いで、前記送り動作によりバックアップロール113上に位置した高分子フィルム110eに、第2触媒インクを供給ポンプ114bからダイ114aを通じて吐出する。これにより、高分子電解質膜101の第2面に第2触媒インクが塗布される。
【0022】
次いで、前記送り動作により乾燥装置115内に送られた第2触媒インク塗布済みの高分子フィルム110eを乾燥装置115により加熱する。これにより、第2触媒インクが乾燥されて第2触媒層104bが形成され、図9Fに示す高分子フィルム110fが作成される。
【0023】
次いで、前記送り動作により形状保持フィルム供給装置116の下方に送られた図9Fに示す高分子フィルム110fの第2面上に、形状保持フィルム供給装置116により第4形状保持フィルム106を供給する。
【0024】
次いで、貼付装置117の貼付ロール117a,117bにより、高分子フィルム110fと第4形状保持フィルム106とを貼り付ける。これにより、図9Gに示す高分子フィルム110gが作成される。
【0025】
次いで、前記送り動作が継続して行われることにより、図9Gに示す高分子フィルム110gが巻取りロール118に巻き取られる。
【0026】
前記従来の製造方法及び製造装置によれば、第2形状保持フィルム103により高分子電解質膜101の形状を保持した状態で第1触媒含有インクを塗布するようにしているので、高分子電解質膜101にシワやピンホールが発生することを抑えることができる。また、第3形状保持フィルム105により高分子電解質膜101の形状を保持した状態で第2触媒含有インクを塗布するようにしているので、高分子電解質膜101にシワやピンホールが発生することを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開2002−289207号公報
【特許文献2】特開2011−165460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
しかしながら、前記従来の製造方法及び製造装置によっても、高分子電解質膜のシワやピンホールを十分に抑えることができず、高分子電解質膜に所望の許容レベルを超えるシワやピンホールが発生することがあった。
【0029】
従って、本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、高分子電解質膜にシワやピンホールが発生することをより一層抑えることができる膜−触媒層接合体の製造方法及びその製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明によれば、一方の面に基材が形成された高分子電解質膜を準備し、
前記高分子電解質膜の形状が保持される領域である形状保持領域内において、又は前記高分子電解質膜が前記形状保持領域内に搬送される直前に、前記高分子電解質膜から基材を剥離し、
前記基材が剥離されて露出した前記高分子電解質膜の一方の面に触媒インクを塗布する、
ことを含む、膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0031】
本発明によれば、一方の面に基材が形成された高分子電解質膜を搬送方向に搬送する搬送装置と、
前記高分子電解質膜が掛け回されるバックアップロールと、
前記バックアップロールの近傍に配置され、前記高分子電解質膜から前記基材を剥離する剥離ロールと、
前記剥離装置よりも前記搬送方向の下流側で前記バックアップロールと対向するように配置され、前記基材が剥離されて露出した前記高分子電解質膜の一方の面に触媒インクを塗布する触媒塗布装置と、
を備える、膜−触媒層接合体の製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0032】
本発明にかかる膜−触媒層接合体の製造方法及びその製造装置によれば、高分子電解質膜にシワやピンホールが発生することをより一層抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置の概略構成を示す説明図である。
【図2A】高分子電解質膜の第1面に第1形状保持フィルムを貼り付け、高分子電解質膜の第2面に第2形状保持フィルムを貼り付けた構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図2B】図2Aに示す状態から、第1形状保持フィルムを剥離した構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図2C】図2Bに示す状態からさらに、高分子電解質膜の第1面に第1触媒層を形成した構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図2D】図2Cに示す状態からさらに、第1触媒層を形成した高分子電解質膜の第1面に第3形状保持フィルムを貼り付けた構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図2E】図2Dに示す状態から、第2形状保持フィルムを剥離した構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図2F】図2Eに示す状態からさらに、高分子電解質膜の第2面に第2触媒層を形成した構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図2G】図2Fに示す状態からさらに、第2触媒層を形成した高分子電解質膜の第2面に第4形状保持フィルムを貼り付けた構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図3】図1に示す膜−触媒層接合体の製造装置の一部拡大図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置の概略構成を示す説明図である。
【図5】図4に示す膜−触媒層接合体の製造装置の一部拡大図である。
【図6】本発明の第3実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置の概略構成を示す説明図である。
【図7】図6の膜−触媒層接合体の製造装置の変形例を示す説明図である。
【図8】従来の膜−触媒層接合体の製造装置の概略構成を示す説明図である。
【図9A】高分子電解質膜の第1面に第1形状保持フィルムを貼り付け、高分子電解質膜の第2面に第2形状保持フィルムを貼り付けた構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図9B】図9Aに示す状態から、第1形状保持フィルムを剥離した構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図9C】図9Bに示す状態からさらに、高分子電解質膜の第1面に第1触媒層を形成した構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図9D】図9Cに示す状態からさらに、第1触媒層を形成した高分子電解質膜の第1面に第3形状保持フィルムを貼り付けた構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図9E】図9Dに示す状態から、第2形状保持フィルムを剥離した構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図9F】図9Eに示す状態からさらに、高分子電解質膜の第2面に第2触媒層を形成した構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【図9G】図9Fに示す状態からさらに、第2触媒層を形成した高分子電解質膜の第2面に第4形状保持フィルムを貼り付けた構造を有する高分子フィルムを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の発明者らは、前記従来の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、以下のことを見出した。
【0035】
従来の膜−触媒層接合体の製造装置において、剥離ロール112とバックアップロール113との間に位置する高分子電解質膜101は、図9Bに示すように、第1形状保持フィルム102が剥離されて第1面が露出した状態にあるか、もしくは、図9Eに示すように、第2形状保持フィルム103が剥離されて第2面が露出した状態にある。
【0036】
図9Bに示すように、高分子電解質膜101の第1面が露出した状態にあるとき、高分子電解質膜101は、第2形状保持フィルム103により形状を保持された状態にある。しかしながら、高分子電解質膜101は、第2形状保持フィルム103との接着が十分ではない部分を有する場合がある。当該部分については、高分子電解質膜101は第2形状保持フィルム103によって形状を保持されないので、シワやピンホールが発生しやすくなる。
【0037】
また、図9Eに示すように、高分子電解質膜101の第2面が露出した状態にあるとき、高分子電解質膜101は、第3形状保持フィルム105により形状を保持された状態にある。しかしながら、第1触媒層104aと第3形状保持フィルム105とは、それらに用いる材料の性質上、接着することが困難である。このため、第1触媒層104aと重なる部分については、高分子電解質膜101は第3形状保持フィルム105によって形状を保持されないので、シワやピンホールが発生しやすくなる。
【0038】
また、従来の膜−触媒層接合体の製造装置においては、剥離ロール112とバックアップロール113との間には、一般に計測ゾーンやフィルムの接続ゾーンなどを通常配置するため、剥離ロール112とバックアップロール113とは、通常2〜3m程度離して配置されている。このため、高分子電解質膜101の露出面が空気中の水分に触れる時間が長く(例えば、2〜3分)なっている。
【0039】
本発明の発明者らは、高分子電解質膜101の一部が第2又は第3形状保持フィルム103,105に形状を保持されていない状態で空気中の水分に触れる時間が長いことが、高分子電解質膜101のシワやピンホールの主な原因であることを見出した。これらの知見に基づき、本発明の発明者らは、本発明に想到した。
【0040】
本発明の第1態様によれば、一方の面に基材が形成された高分子電解質膜を準備し、
前記高分子電解質膜の形状が保持される領域である形状保持領域内において、又は前記高分子電解質膜が前記形状保持領域内に搬送される直前に、前記高分子電解質膜から基材を剥離し、
前記基材が剥離されて露出した前記高分子電解質膜の一方の面に触媒インクを塗布する、
ことを含む、膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0041】
本発明の第2態様によれば、前記形状保持領域とは、前記高分子電解質膜の厚み方向に力が加わる領域である、第1態様に記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0042】
本発明の第3態様によれば、前記形状保持領域とは、バックアップロールに前記高分子電解質膜が掛け回される領域である、第1態様に記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0043】
本発明の第4態様によれば、一方の面に基材が形成された高分子電解質膜を搬送方向に搬送する搬送装置と、
前記高分子電解質膜が掛け回されるバックアップロールと、
前記バックアップロールの近傍に配置され、前記高分子電解質膜から前記基材を剥離する剥離ロールと、
前記剥離ロールよりも前記搬送方向の下流側で前記バックアップロールと対向するように配置され、前記基材が剥離されて露出した前記高分子電解質膜の一方の面に触媒インクを塗布する触媒インク塗布装置と、
を備える、膜−触媒層接合体の製造装置を提供する。
【0044】
本発明の第5態様によれば、前記高分子電解質膜を前記バックアップロールに向けて押圧するニップロールをさらに備える、第4態様に記載の膜−触媒層接合体の製造装置を提供する。
【0045】
本発明の第6態様によれば、前記剥離ロールは、前記ニップロールよりも前記搬送方向の下流側に設けられている、第5態様に記載の膜−触媒層接合体の製造装置を提供する。
【0046】
本発明の第7態様によれば、前記剥離ロールは、前記ニップロールに対して前記搬送方向の上流側で隣接するように設けられている、第5態様に記載の膜−触媒層接合体の製造装置を提供する。
【0047】
本発明の第8態様によれば、前記剥離装置は、前記高分子電解質膜から前記第1基材を剥離するとともに、前記高分子電解質膜を前記バックアップロールに向けて押圧する単一のロール部材を備える、第4態様に記載の膜−触媒層接合体の製造装置を提供する。
【0048】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0049】
《第1実施形態》
図1は、本発明の第1実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置の概略構成を示す説明図である。本第1実施形態にかかる膜−触媒層接合体は、例えば、自動車などの移動体、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動源として使用される燃料電池に用いられるものである。
【0050】
図1において、本第1実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置は、供給ロール11と、ニップロール12aと、剥離ロール12bと、バックアップロール13と、触媒インク塗布装置14と、乾燥装置15と、形状保持フィルム供給装置16と、貼付装置17と、巻取りロール18とを備えている。
【0051】
供給ロール11には、高分子フィルム10が巻回されている。本第1実施形態において、高分子フィルム10とは、図2A〜図2Gのいずれかに示す構造を有する高分子フィルム10a〜10gをいう。図2Cに示すように高分子電解質膜1の一方の面(以下、第1面という)に触媒層4aを形成する場合、供給ロール11には、図2Aに示す構造を有する高分子フィルム10aが巻回される。すなわち、供給ロール11には、高分子電解質膜1の第1面に第1形状保持フィルム2を貼り付け、高分子電解質膜1の他方の面(以下、第2面という)に第2形状保持フィルム3を貼り付けた構造を有する高分子フィルム10aが巻回される。また、図2Fに示すように高分子電解質膜1の第2面に触媒層4bを形成する場合、供給ロール11には、図2Dに示す構造を有する高分子フィルム10dが巻回される。すなわち、供給ロール11には、高分子電解質膜1の第1面に触媒層4aを覆うように第3形状保持フィルム5を貼り付け、高分子電解質膜1の第2面に第2形状保持フィルム3を貼り付けた構造を有する高分子フィルム10dが巻回される。
【0052】
高分子電解質膜1は、好ましくは、水素イオン伝導性を有する高分子膜である。高分子電解質膜1としては、特に限定されるものではないが、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)など)を使用することができる。高分子電解質膜1は、通常、非常に薄く且つ少しの湿気でも変形し易い部材である。このため、本第1実施形態においては、取扱い性の向上と高分子電解質膜のシワやピンホールの更なる抑制のため、高分子電解質膜1の第1面に第1形状保持フィルム2又は第3形状保持フィルム5を貼り付け、高分子電解質膜1の第2面に第2形状保持フィルム3又は第4形状保持フィルム6を貼り付けるようにしている。
【0053】
第1〜第4形状保持フィルム2,3,5,及び6としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、フッ素樹脂などを用いることができる。第1〜第4形状保持フィルム2,3,5,及び6は、ラミネート加工時に熱変形しない耐熱性を有するフィルムであればよい。
【0054】
供給ロール11から引き出された高分子フィルム10は、バックアップロール13に掛け回され、巻取りロール18に巻き取られる。巻取りロール18は、図示しないモータを備え、当該モータの駆動力により連続的に回転することで、高分子フィルム10を連続的に巻き取る。本第1実施形態においては、後述するように高分子フィルム10が供給ロール11から引き出されて巻取りロール18に巻き取られるまでの間に、高分子電解質膜1の第1面に触媒層4aが形成され、高分子電解質膜1の第2面に触媒層4bが形成されるようにしているので、膜−触媒層接合体の大量生産が可能である。なお、本第1実施形態においては、供給ロール11と巻取りロール18により、高分子電解質膜1を搬送方向Xに搬送する搬送装置の一例が構成されている。
【0055】
ニップロール12aは、高分子フィルム10をバックアップロール13に押圧可能に設けられている。ニップロール12aが、図2Aに示す高分子フィルム10aをバックアップロール13に押圧することにより、高分子電解質膜1と第2形状保持フィルム3とが密着され、第2形状保持フィルム3による高分子電解質膜1の形状保持力が強化される。また、ニップロール12aが、図2Dに示す高分子フィルム10dをバックアップロール13に押圧することにより、第1触媒層4a(又は高分子電解質膜1)と第3形状保持フィルム5とが密着され、第3形状保持フィルム5による高分子電解質膜1の形状保持力が強化される。
【0056】
剥離ロール12bは、バックアップロール13の近傍で且つニップロール12aよりも搬送方向Xの下流側に設けられている。また、剥離ロール12bは、バックアップロール13に沿って搬送される高分子フィルム10aから第1形状保持フィルム2を剥離可能に設けられるとともに、バックアップロール13に沿って搬送される高分子フィルム10dから第2形状保持フィルム3を剥離可能に設けられている。剥離ロール12bにより剥離された第1及び第2形状保持フィルム2,3は、形状保持フィルム巻取ロール19に巻き取られる。
【0057】
バックアップロール13は、例えば、直径が300mmに設定された円柱形の部材である。高分子フィルム10がバックアップロール13に掛け回されたとき、高分子フィルム10には、図3に矢印で示すように、高分子フィルム10の厚み方向に垂直抗力が働く。この垂直抗力により、高分子電解質膜1と第2形状保持フィルム3とが密着され、第2形状保持フィルム3により高分子電解質膜1の形状が保持される。また、前記垂直抗力により、第1触媒層4aと第3形状保持フィルム5とが密着され、第3形状保持フィルム5により高分子電解質膜1の形状が保持される。
【0058】
触媒インク供給装置14は、剥離装置12よりも搬送方向Xの下流側でバックアップロール13と対向するように配置されたダイ14aを備えている。ダイ14aには、供給ポンプ14bが接続されている。ダイ14aは、供給ポンプ14bから供給された触媒層形成用の触媒インクを、高分子フィルム10のバックアップロール13と接触する部分に向けて吐出(塗布)可能に構成されている。
【0059】
触媒インクは、白金系金属触媒を担持したカーボン微粒子を溶媒で混合したインクである。金属触媒としては、例えば、プラチナ、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムなどを用いることができる。カーボン粉末としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック及びアセチレンブラックなどを用いることができる。溶媒としては、水、エタノール、n-プロパノール及びn−ブタノールなどのアルコール系、並びに、エーテル系、エステル系及びフッ素系などの有機溶剤を用いることができる。白金系金属触媒インクの溶媒を乾燥することで、金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする第1及び第2触媒層4a,4bを形成することができる。
【0060】
乾燥装置15は、バックアップロール13よりも搬送方向Xの下流側において、高分子フィルム10を包囲するように配置されている。乾燥装置15は、ダイ14aから高分子電解質膜1に向けて吐出された第1及び第2触媒インクを乾燥させる装置である。第1及び第2触媒インクを乾燥することにより、第1及び第2触媒層4a,4bが形成される。乾燥装置15としては、例えば、対流式熱風乾燥装置を用いることができる。
【0061】
形状保持フィルム供給装置16は、乾燥装置15よりも搬送方向Xの下流側に配置されている。形状保持フィルム供給装置16は、乾燥装置15により作成された図2Cに示す高分子フィルム10cの第1面に第3形状保持フィルム5を供給する装置である。また、形状保持フィルム供給装置16は、乾燥装置15により作成された図2Fに示す高分子フィルム10fの第2面に第4形状保持フィルム6を供給する装置である。
【0062】
貼付装置17は、形状保持フィルム供給装置16よりも搬送方向Xの下流側に配置されている。貼付装置17は、一組の貼付ロール17a,17bを備えている。貼付ロール17a,17bは、例えば、直径が200mmの円柱形の部材である。貼付ロール17a,17bは、それらの間に高分子フィルム10が供給されたとき、互いに接近して高分子フィルム10に所定の圧力及び熱を加えることができるように構成されている。
【0063】
次に、本実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法について説明する。
【0064】
まず、図2Aに示すように高分子電解質膜1の第1面に第1形状保持フィルム(基材)2が貼り付けられ、高分子電解質膜1の第2面に第2形状保持フィルム3が貼り付けられた高分子フィルム10aを準備する(準備工程)。
【0065】
次いで、図2Aに示す高分子フィルム10aを、第2形状保持フィルム3を内側にして供給ロール11に巻回し、図1に示すように、バックアップロール13に掛け回されて巻取りロール18に巻き取られるように高分子フィルム10aをセットする。
【0066】
次いで、巻取りロール18のモータ(図示せず)を駆動して、高分子フィルム10aを供給ロール11から巻取りロール18に向けて連続的に送る送り動作を行う。
【0067】
次いで、前記送り動作によりニップロール12aとバックアップロール13との間に搬送された高分子フィルム10aをニップロール12aで押圧することにより、高分子電解質膜1と第2形状保持フィルム3とを密着させる(密着工程)。なお、高分子電解質膜1と第2形状保持フィルム3とが密着した状態は、前述した垂直抗力により、高分子フィルム10がバックアップロール13上を搬送される間、維持される。高分子電解質膜1と第2形状保持フィルム3とが密着することにより、第2形状保持フィルム3が高分子電解質膜1の全体の形状を保持し、高分子電解質膜1にシワやピンホールが発生しにくくなる。
【0068】
次いで、前記送り動作により剥離ロール12b上に位置した高分子フィルム10aから、剥離ロール12bによって第1形状保持フィルム2を剥離して、図2Bに示す高分子フィルム10bを作成する。剥離ロール12bにより剥離された第1形状保持フィルム2は、形状保持フィルム巻取ロール19に巻き取られる。
【0069】
次いで、前記送り動作によりバックアップロール13上に位置した高分子フィルム10bに、第1触媒インクを供給ポンプ14bからダイ14aを通じて吐出する。これにより、高分子電解質膜1の第1面に第1触媒インクが塗布される。
【0070】
次いで、前記送り動作により乾燥装置15内に送られた第1触媒インク塗布済みの高分子フィルム10bを乾燥装置15により加熱する。これにより、第1触媒インクが乾燥されて第1触媒層4aが形成され、図2Cに示す高分子フィルム10cが作成される(触媒層形成工程)。
【0071】
次いで、前記送り動作により形状保持フィルム供給装置16の下方に送られた図2Cに示す高分子フィルム10cの第1面上に、形状保持フィルム供給装置16により第3形状保持フィルム5を供給する。
【0072】
次いで、貼付ロール17a,17bにより、高分子フィルム10cと第3形状保持フィルム5とを貼り付ける。これにより、図2Dに示す高分子フィルム10dが作成される。
【0073】
次いで、前記送り動作が継続して行われることにより、図2Dに示す高分子フィルム110dが巻取りロール18に巻き取られる。
【0074】
次いで、図2Dに示す高分子フィルム10dを、第3形状保持フィルム(第2基材)5を内側にして供給ロール11に巻回し、図1に示すように、バックアップロール13に掛け回されて巻取りロール18に巻き取られるように高分子フィルム10dをセットする。
【0075】
次いで、巻取りロール18のモータ(図示せず)を駆動して、高分子フィルム10dを供給ロール11から巻取りロール18に向けて連続的に送る送り動作を行う。
【0076】
次いで、前記送り動作によりニップロール12aとバックアップロール13との間に搬送された高分子フィルム10dをニップロール12aで押圧することにより、高分子電解質膜1と第3形状保持フィルム5とを密着させる(密着工程)。なお、高分子電解質膜1と第3形状保持フィルム5とが密着した状態は、前述した垂直抗力により、高分子フィルム10がバックアップロール13上を搬送される間、維持される。高分子電解質膜1と第3形状保持フィルム5とが密着することにより、第3形状保持フィルム5が高分子電解質膜1の全体の形状を保持し、高分子電解質膜1にシワやピンホールが発生しにくくなる。
【0077】
次いで、前記送り動作により剥離ロール12b上に位置した高分子フィルム10dから、剥離ロール12bによって第2形状保持フィルム(基材)3を剥離して、図2Eに示す高分子フィルム10eを作成する。
【0078】
次いで、前記送り動作によりバックアップロール13上に位置した高分子フィルム10eに、第2触媒インクを供給ポンプ14bからダイ14aを通じて吐出する。これにより、高分子電解質膜1の第2面に第2触媒インクが塗布される。
【0079】
次いで、前記送り動作により乾燥装置15内に送られた第2触媒インク塗布済みの高分子フィルム10eを乾燥装置15により加熱する。これにより、第2触媒インクが乾燥されて第2触媒層4bが形成され、図2Fに示す高分子フィルム10fが作成される(触媒層形成工程)。
【0080】
次いで、前記送り動作により形状保持フィルム供給装置16の下方に送られた図2Fに示す高分子フィルム10fの第2面上に、形状保持フィルム供給装置16により第4形状保持フィルム6を供給する。
【0081】
次いで、貼付ロール17a,17bにより、高分子フィルム10fと第4形状保持フィルム6とを貼り付ける。これにより、図2Gに示す高分子フィルム10gが作成される。
【0082】
次いで、前記送り動作が継続して行われることにより、図2Gに示す高分子フィルム110gが巻取りロール18に巻き取られる。これにより、本第1実施形態にかかる膜−触媒層接合体が製造される。
【0083】
本第1実施形態によれば、高分子電解質膜1と第2形状保持フィルム3とを密着させた状態で、第1形状保持フィルム2を剥離し、第1触媒層4aを形成するようにしているので、高分子電解質膜1にシワやピンホールが発生することを抑えることができる。また、本第1実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法によれば、高分子電解質膜1と第3形状保持フィルム5とを密着させた状態で、第2形状保持フィルム3を剥離し、第2触媒層4bを形成するようにしているので、高分子電解質膜1にシワやピンホールが発生することを抑えることができる。
【0084】
また、本第1実施形態によれば、バックアップロール13の近傍に剥離ロール12bを配置しているので、バックアップロール13にロール・ツー・ロールのテンションの張った状態で、高分子電解質膜1の露出面を固定でき、さらに、高分子電解質膜1の露出面が空気中の水分に触れる時間を短くすることができる。従って、高分子電解質膜1にシワやピンホールが発生することをより一層抑えることができる。
【0085】
なお、本発明は前記第1実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、前記では、高分子電解質膜1と第2又は第3形状保持フィルム3、5とを密着させるために、ニップロール12aにより高分子フィルム10a,10dをバックアップロール13に対して押圧するようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、バックアップロール13に吸引機能を持たせ、高分子フィルム10a,10dをバックアップロール13の中心に向けて吸引することにより、高分子電解質膜1と第2又は第3形状保持フィルム3、5とを密着させるようにしてもよい。この場合、例えば、高分子フィルム10a,10dを押圧する機能を有するニップロール12aに代えて、高分子フィルム10a,10dに接触するだけの機能を有するタッチロールを用いることができる。
【0086】
なお、バックアップロール13の吸引機能により、高分子フィルム10a,10dをバックアップロール13に吸引させる場合、第2及び第3形状保持フィルム3,5は、通気性を有する部材である必要がある。従来、形状保持フィルムは、空気を透過しない部材であることが一般的である。第2又は第3形状保持フィルムとして空気を透過しない部材を用いた場合には、例えば、高分子フィルム10a,10dがバックアップロール13に到達する前に、第2又は第3形状保持フィルム3,5を剥離し、紙などの通気性を有する部材(第2基材)に貼り替えるようにすればよい。
【0087】
また、ニップロール12aを設けなくても、高分子フィルム10をバックアップロール13に掛け回すことにより、高分子電解質膜1の厚み方向に前記垂直抗力を加えることができるので、高分子電解質膜1と第2又は第3形状保持フィルム3,5とを密着させ、高分子電解質膜1の形状を保持することができる。
【0088】
また、高分子電解質膜1には、必ずしも第2又は第3形状保持フィルム3,5を設ける必要はなく、高分子電解質膜1とバックロール13とが直接接触するようにしてもよい。この場合でも、高分子電解質膜1をバックアップロール13に掛け回すことにより、高分子電解質膜1の厚み方向に前記垂直抗力を加えることができるので、高分子電解質膜1とバックアップロール13とを密着させ、高分子電解質膜1の形状を保持することができる。
【0089】
なお、本明細書では、高分子電解質膜1の形状が保持される領域を形状保持領域という。本第1実施形態において、形状保持領域は、高分子フィルム10とバックアップロール13とが接して、高分子電解質膜1の厚み方向に力が加わる領域である。
【0090】
《第2実施形態》
図4は、本発明の第2実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置の概略構成を示す説明図である。本第2実施形態の製造装置が、前記第1実施形態の製造装置と異なる点は、ニップロール12aと剥離ロール12bに代えて、それらの両方の機能を有する単一のロール部材である剥離圧着ロール12cを備えていることである。言い換えれば、本第2実施形態の製造装置では、剥離工程と圧着工程とを重複して(同時に)行うようにしている。
【0091】
本第2実施形態によれば、剥離圧着ロール12cがニップロール12aと剥離ロール12bの両方の機能を有するので、前記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、部品点数を少なくすることができ、装置の低コスト化及び小型化を実現することができる。
【0092】
なお、図5に示すように、高分子フィルム10を押圧する力は矢印A1方向に働く一方で、第1又は第2形状保持フィルム2,3を剥離する力は、矢印A1方向に対して反対方向である矢印B1方向に働く。このため、本第2実施形態のように高分子フィルム10の押圧と第1又は第2形状保持フィルム2,3の剥離の両方を剥離圧着ロール12cにより行う場合には、高分子フィルム10を押圧する力が前記第1実施形態に比べて弱くなる点に留意すべきである。
【0093】
《第3実施形態》
図6は、本発明の第3実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造装置の概略構成を示す説明図である。本第3実施形態の製造装置が、前記第2実施形態の製造装置と異なる点は、剥離ロール12bを、ニップロール12aに対して搬送方向Xの下流側に設けるのではなく、ニップロール12aに対して搬送方向Xの上流側で隣接するように設けている点である。
【0094】
ニップロール12aが図2Bに示す高分子フィルム10bをバックアップロール12に押圧したとき、高分子フィルム10bはバックアップロール12に向けて凸状に撓む。この高分子フィルム10bの撓みにより、ニップロール12aに対して搬送方向Xの上流側においても、高分子電解質膜1のニップロール12aの近傍部分は、第2形状保持フィルム3に形状を保持され、シワやピンホールが生じにくい状態にある。
【0095】
同様に、ニップロール12aが図2Fに示す高分子フィルム10fをバックアップロール12に押圧したとき、高分子フィルム10fはバックアップロール12に向けて凸状に撓む。この高分子フィルム10fの撓みにより、ニップロール12aに対して搬送方向Xの上流側においても、高分子電解質膜1のニップロール12aの近傍部分は、第3形状保持フィルム5に形状を保持され、シワやピンホールが生じにくい状態にある。
【0096】
また、剥離ロール12bをニップロール12aに対して搬送方向Xの上流側で隣接するように設けた場合には、剥離ロール12bはバックアップロール12の近傍に位置することになるので、高分子電解質膜1の露出面が空気中の水分に触れる時間が短くなる。
【0097】
従って、本第3実施形態によれば、剥離ロール12bをニップロール12aに対して搬送方向Xの上流側で隣接するように設けている(言い換えれば、剥離工程と圧着工程とを重複して行うようにしている)ので、前記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0098】
なお、前記第3実施形態では、剥離ロール12bをニップロール12aに対して搬送方向Xの上流側で隣接するように設けたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図7に示すように、ニップロール12aの押圧により、第2及び第3形状保持フィルム3,5により高分子電解質膜1の形状を保持することができる範囲内で、剥離ロール12bをニップロール12aから搬送方向Xの上流側に離して配置してもよい。前記範囲とは、ニップロール12aが高分子フィルム10を押圧する部分からの長さが高分子電解質膜1の幅(例えば、200mm〜300mm)以下となる範囲である。この場合でも、高分子電解質膜1の露出面が空気中の水分に触れる時間を従来よりも短くして、高分子電解質膜1にシワやピンホールが発生することを抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明にかかる膜−触媒層接合体の製造方法及び装置は、高分子電解質膜にシワやピンホールが発生することをより一層抑えることができるので、例えば、自動車などの移動体、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動源として使用される燃料電池が備える膜−触媒層接合体の製造方法及びその製造装置として有用である。
【符号の説明】
【0100】
1 高分子電解質膜
2 第1形状保持フィルム(基材)
3 第2形状保持フィルム(基材)
4a 第1触媒層
4b 第2触媒層
5 第3形状保持フィルム
6 第4形状保持フィルム
10 高分子フィルム
11 供給ロール
12a ニップロール
12b 剥離ロール
12c 剥離圧着ロール
13 バックアップロール
14 触媒インク供給装置
15 乾燥装置
16 形状保持フィルム供給装置
17 貼付装置
17a,17b 貼付ロール
18 巻取りロール
P 供給ポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に基材が形成された高分子電解質膜を準備する準備し、
前記高分子電解質膜の形状が保持される領域である形状保持領域内において、又は前記高分子電解質膜が前記形状保持領域内に搬送される直前に、前記高分子電解質膜から基材を剥離し、
前記基材が剥離されて露出した前記高分子電解質膜の一方の面に触媒インクを塗布する、
ことを含む、膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項2】
前記形状保持領域とは、前記高分子電解質膜の厚み方向に力が加わる領域である、請求項1に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項3】
前記形状保持領域とは、バックアップロールに前記高分子電解質膜が掛け回される領域である、請求項1に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項4】
一方の面に基材が形成された高分子電解質膜を搬送方向に搬送する搬送装置と、
前記高分子電解質膜が掛け回されるバックアップロールと、
前記バックアップロールの近傍に配置され、前記高分子電解質膜から前記基材を剥離する剥離ロールと、
前記剥離ロールよりも前記搬送方向の下流側で前記バックアップロールと対向するように配置され、前記基材が剥離されて露出した前記高分子電解質膜の一方の面に触媒インクを塗布する触媒塗布装置と、
を備える、膜−触媒層接合体の製造装置。
【請求項5】
前記高分子電解質膜を前記バックアップロールに向けて押圧するニップロールをさらに備える、請求項4に記載の膜−触媒層接合体の製造装置。
【請求項6】
前記剥離ロールは、前記ニップロールよりも前記搬送方向の下流側に設けられている、請求項5に記載の膜−触媒層接合体の製造装置。
【請求項7】
前記剥離ロールは、前記ニップロールに対して前記搬送方向の上流側で隣接するように設けられている、請求項5に記載の膜−触媒層接合体の製造装置。
【請求項8】
前記剥離装置は、前記高分子電解質膜から前記基材を剥離するとともに、前記高分子電解質膜を前記バックアップロールに向けて押圧する単一のロール部材を備える、請求項4に記載の膜−触媒層接合体の製造装置。
【請求項1】
一方の面に基材が形成された高分子電解質膜を準備する準備し、
前記高分子電解質膜の形状が保持される領域である形状保持領域内において、又は前記高分子電解質膜が前記形状保持領域内に搬送される直前に、前記高分子電解質膜から基材を剥離し、
前記基材が剥離されて露出した前記高分子電解質膜の一方の面に触媒インクを塗布する、
ことを含む、膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項2】
前記形状保持領域とは、前記高分子電解質膜の厚み方向に力が加わる領域である、請求項1に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項3】
前記形状保持領域とは、バックアップロールに前記高分子電解質膜が掛け回される領域である、請求項1に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項4】
一方の面に基材が形成された高分子電解質膜を搬送方向に搬送する搬送装置と、
前記高分子電解質膜が掛け回されるバックアップロールと、
前記バックアップロールの近傍に配置され、前記高分子電解質膜から前記基材を剥離する剥離ロールと、
前記剥離ロールよりも前記搬送方向の下流側で前記バックアップロールと対向するように配置され、前記基材が剥離されて露出した前記高分子電解質膜の一方の面に触媒インクを塗布する触媒塗布装置と、
を備える、膜−触媒層接合体の製造装置。
【請求項5】
前記高分子電解質膜を前記バックアップロールに向けて押圧するニップロールをさらに備える、請求項4に記載の膜−触媒層接合体の製造装置。
【請求項6】
前記剥離ロールは、前記ニップロールよりも前記搬送方向の下流側に設けられている、請求項5に記載の膜−触媒層接合体の製造装置。
【請求項7】
前記剥離ロールは、前記ニップロールに対して前記搬送方向の上流側で隣接するように設けられている、請求項5に記載の膜−触媒層接合体の製造装置。
【請求項8】
前記剥離装置は、前記高分子電解質膜から前記基材を剥離するとともに、前記高分子電解質膜を前記バックアップロールに向けて押圧する単一のロール部材を備える、請求項4に記載の膜−触媒層接合体の製造装置。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図9G】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図9G】
【公開番号】特開2013−98125(P2013−98125A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242418(P2011−242418)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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