説明

膜−触媒層接合体の製造方法及び膜電極接合体の製造方法

【課題】高分子電解質膜全体のシワやたわみをより一層抑えることができる膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】燃料電池用の膜−触媒層接合体の製造方法であって、一方の面に第1基材が形成された高分子電解質膜の他方の面に第1触媒層を形成する工程と、第1触媒層上に又は第2基材の第1触媒層と対向する位置に接着層を形成する工程と、第2基材が接着層により第1触媒層と接着されるように高分子電解質膜の他方の面に第2基材を形成する工程と、第2基材を形成した高分子電解質膜から第1基材を剥離する工程と、第1基材を剥離して露出させた高分子電解質膜上に第2触媒層を形成する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車などの移動体、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動源として使用される燃料電池に関し、特に当該燃料電池が備える膜−触媒層接合体の製造方法及び膜電極接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池(例えば、高分子電解質型燃料電池)は、水素を含有する燃料ガスと空気など酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱とを同時に発生させる装置である。
【0003】
燃料電池は、一般的には複数のセルを積層し、それらをボルトなどの締結部材で加圧締結することにより構成されている。1つのセルは、膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode-Assembly)を一対の板状の導電性のセパレータで挟んで構成されている。
【0004】
膜電極接合体は、高分子電解質膜と、当該高分子電解質膜の両面に配置された一対の電極層によって構成されている。一対の電極層の一方はアノード電極であり、他方はカソード電極である。一対の電極層は、金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする触媒層と、当該触媒層の上に配置される多孔質で導電性を有するガス拡散層とで構成されている。ここでは、高分子電解質膜と触媒層との接合体を膜−触媒層接合体(CCM:Catalyst-Coated-Membrane)という。前記アノード電極に燃料ガスが接触するとともに前記カソード電極に酸化剤ガスが接触することにより、電気化学反応が発生し、電力と熱とが発生する。
【0005】
燃料電池の性能を向上させるには、膜電極接合体の製造方法の最適化を図ることが有効であると考えられている。特に、高分子電解質膜上に触媒層を形成する工程は、燃料電池の性能や耐久性に大きな影響を与えると考えられている。
【0006】
高分子電解質膜上に触媒層を形成する方法としては、例えば、高分子電解質膜に触媒含有インクを直接印刷又は塗布する方法が知られている。この方法は、高分子電解質膜と触媒層との界面抵抗を極めて低くすることができることから、理想的な膜−触媒層接合体の製造方法として注目されている。
【0007】
しかしながら、前記方法に用いる触媒含有インクには多量の溶媒が通常含まれているので、当該溶媒が高分子電解質膜に浸透して、高分子電解質膜が膨張し、高分子電解質膜にシワやたわみが発生するという課題がある。シワやたわみが発生した場合、高分子電解質膜の寸法が変化して後工程での取扱いが難しくなる。また、シワやたわみが発生した高分子電解質膜を用いて製造した燃料電池は、当該シワやたわみが発生した部分に電圧が集中して高分子電解質膜が破損するなどの問題が発生しやすく、耐久性が低い。
【0008】
この高分子電解質膜のシワやたわみを抑える方法として、例えば、高分子電解質膜に基材を貼り付けた状態で触媒含有インクを塗布する方法がある(例えば、特許文献1:特表2006−507623号公報参照)。当該方法について、図9A〜図9Fを用いて以下に説明する。
【0009】
まず、図9Aに示すように、高分子電解質膜101の一方の面に第1基材102aを形成する。次いで、図9Bに示すように、高分子電解質膜101の他方の面に、第1触媒含有インクを塗布した後、乾燥して第1触媒層103aを形成する。次いで、図9Cに示すように、第1触媒層103a上に第2基材102bを形成する。次いで、図9Dに示すように、高分子電解質膜101の一方の面に形成された第1基材102aを剥離する。次いで、図9Eに示すように、高分子電解質膜101の一方の面に、第2触媒含有インクを塗布した後、乾燥して第2触媒層103bを形成する。
【0010】
前記方法によれば、高分子電解質膜101の一方の面に第1基材102aを予め形成し、高分子電解質膜101を固定した状態で第1触媒含有インクを塗布するようにしているので、高分子電解質膜101のシワやたわみを抑えることができる。また、高分子電解質膜101の他方の面に第2基材102bを予め形成し、高分子電解質膜101を固定した状態で第2触媒含有インクを塗布するようにしているので、高分子電解質膜101のシワやたわみを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2006−507623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前記方法では、第1触媒層103aの形成時においては高分子電解質膜101全体のシワやたわみを抑えることができるものの、第2触媒層103bの形成時においては高分子電解質膜101全体のシワやたわみを抑えることができない。これは、以下の理由によると考えられる。
【0013】
すなわち、第1触媒層103aの形成時において、第1基材102aは、高分子電解質膜101の一方の面全体に直接形成されている。このため、第1基材102aが高分子電解質膜101全体のシワやたわみを抑えることができる。これに対して、第2触媒層103bの形成時において、第2基材102bは、高分子電解質膜101の他方の面の一部にのみ直接形成され、高分子電解質膜101の他方の面の他部に対しては第1触媒層103aを介して間接的に形成されている。第1触媒層103aは、凹凸を有する多孔質な層であることから、第2基材102bと第1触媒層103aとは接着しない。このため、高分子電解質膜101の第1触媒層103aと接触する部分は、第2基材102bによって固定されないため、シワやたわみが発生する。従って、前記方法は、高分子電解質膜全体のシワやたわみを抑えるという観点では未だ改善の余地がある。
【0014】
従って、本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、高分子電解質膜全体のシワやたわみをより一層抑えることができる膜−触媒層接合体の製造方法及び膜電極接合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、燃料電池用の膜−触媒層接合体の製造方法であって、
一方の面に第1基材が形成された高分子電解質膜の他方の面に、第1触媒層を形成する工程と、
前記第1触媒層上に、又は第2基材の前記第1触媒層と対向する位置に、接着層を形成する工程と、
前記第2基材が前記接着層により前記第1触媒層と接着されるように、前記高分子電解質膜の他方の面に、前記第2基材を形成する工程と、
前記第2基材を形成した前記高分子電解質膜から前記第1基材を剥離する工程と、
前記第1基材を剥離して露出させた前記高分子電解質膜上に第2触媒層を形成する工程と、
を含む、膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる膜−触媒層接合体の製造方法によれば、高分子電解質膜全体のシワやたわみをより一層抑えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】本発明の実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図1B】図1Aに続く工程を示す断面図である。
【図1C】図1Bに続く工程を示す断面図である。
【図1D】図1Cに続く工程を示す断面図である。
【図1E】図1Dに続く工程を示す断面図である。
【図1F】図1Eに続く工程を示す断面図である。
【図2】図1Cに示す工程の変形例を示す断面図である。
【図3A】本発明の実施形態にかかる膜電極接合体の製造方法を模式的に示す断面図である。
【図3B】図3Aに続く工程を示す断面図である。
【図3C】図3Bに続く工程を示す断面図である。
【図4A】図3Bに示す工程の変形例を示す断面図である。
【図4B】図3Cに示す工程の変形例を示す断面図である。
【図5A】図3Aに示す工程の変形例を示す断面図である。
【図5B】図3Bに示す工程の変形例を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態にかかる膜電極接合体を備える燃料電池の基本構成を模式的に示す断面図であり、ガス流路がセパレータに設けられた例を示す図である。
【図7】図6の燃料電池を複数個連結した燃料電池スタックの基本構成を示す分解斜視図である。
【図8】本発明の実施形態にかかる膜電極接合体を備える燃料電池の基本構成を模式的に示す断面図であり、ガス流路がガス拡散層に設けられた例を示す図である。
【図9A】従来の膜−触媒層接合体の製造方法を模式的に示す断図面である。
【図9B】図9Aに続く工程を示す断面図である。
【図9C】図9Bに続く工程を示す断面図である。
【図9D】図9Cに続く工程を示す断面図である。
【図9E】図9Dに続く工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明の第1態様によれば、燃料電池用の膜−触媒層接合体の製造方法であって、
一方の面に第1基材が形成された高分子電解質膜の他方の面に、第1触媒層を形成する工程と、
前記第1触媒層上に、又は第2基材の前記第1触媒層と対向する位置に、接着層を形成する工程と、
前記第2基材が前記接着層により前記第1触媒層と接着されるように、前記高分子電解質膜の他方の面に、前記第2基材を形成する工程と、
前記第2基材を形成した前記高分子電解質膜から前記第1基材を剥離する工程と、
前記第1基材を剥離して露出させた前記高分子電解質膜上に第2触媒層を形成する工程と、
を含む、膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0019】
本発明の第2態様によれば、前記接着層は、前記高分子電解質膜に対して親和性のある材料を含む、第1態様に記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0020】
本発明の第3態様によれば、前記接着層は、イオン交換樹脂を含む、第1又は2態様に記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0021】
本発明の第4態様によれば、前記接着層は、カーボンを含む、第3態様に記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0022】
本発明の第5態様によれば、前記接着層は、触媒を含む、第4態様に記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0023】
本発明の第6態様によれば、前記接着層は、フッ素系撥水材を含む、第1〜5態様のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0024】
本発明の第7態様によれば、前記接着層は、ドット状に形成される、第1〜6態様のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0025】
本発明の第8態様によれば、前記接着層と前記第1触媒層とは、熱及び圧力の少なくとも一方を加えながら接合する、第1〜7態様のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法を提供する。
【0026】
本発明の第9態様によれば、第1〜8態様のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法により膜−触媒層接合体を製造する工程と、
前記第2触媒層上に第1ガス拡散層を形成する工程と、
前記高分子電解質膜の他方の面から前記第2基材を剥離する工程と、
前記第2基材を剥離して露出させた前記接着層上に第2ガス拡散層を形成する工程と、
を含む、膜電極接合体の製造方法を提供する。
【0027】
本発明の第10態様によれば、第1〜8態様のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法により膜−触媒層接合体を製造する工程と、
前記第2触媒層上に第1ガス拡散層を形成する工程と、
前記高分子電解質膜の他方の面から前記第2基材及び前記接着層を剥離する工程と、
前記第2基材及び接着層を剥離して露出させた前記第1触媒層上に第2ガス拡散層を形成する工程と、
を含む、膜電極接合体の製造方法を提供する。
【0028】
本発明の第11態様によれば、前記第1及び第2ガス拡散層の少なくとも一方は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されている、第9又は10態様に記載の膜電極接合体の製造方法を提供する。
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の全ての図において、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0030】
《実施形態》
本発明の実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法について説明する。図1A〜図1Fは、本実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法を模式的に示す断面図である。
【0031】
まず、図1Aに示すように、高分子電解質膜1の一方の面に、第1基材2aを形成する(第1基材形成工程)。
【0032】
次いで、図1Bに示すように、高分子電解質膜1の他方の面に第1触媒含有インクを塗布した後、乾燥して第1触媒層3aを形成する(第1触媒層形成工程)。
【0033】
次いで、図1Cに示すように、第2基材2bの第1触媒層3aと対向する位置に接着層4を形成する(接着層形成工程)。
【0034】
次いで、図1Dに示すように、第2基材2bが接着層4により第1触媒層3aと接着されるように、高分子電解質膜1の他方の面に、第2基材2bを形成する(第2基材形成工程)。
【0035】
次いで、図1Eに示すように、第2基材2bを形成した高分子電解質膜1から第1基材2aを剥離する(第1基材剥離工程)。
【0036】
次いで、図1Fに示すように、第1基材2aを剥離して露出させた高分子電解質膜1上に第2触媒層3bを形成する(第2触媒層形成工程)。
【0037】
以上の各工程を行うことにより、本実施形態にかかる膜−触媒層接合体を製造することができる。
【0038】
本実施形態にかかる膜−触媒層接合体の製造方法によれば、接着層4を第2基材2bに形成し、当該接着層4により第2基材2bと第1触媒層3aとを接着するようにしているので、実質的に第2基板2bにより高分子電解質膜1全体を固定(寸法変化を抑制)することができる。これにより、第1触媒層3aの形成時のみならず、第2触媒層3bの形成時においても、高分子電解質膜1全体のシワやたわみを抑えることができる。従って、前述した従来の方法よりも高分子電解質膜1全体(特に、第1触媒層形成面)のシワやたわみをより一層抑えることができる。
【0039】
なお、前記では、図1Cを用いて説明したように、接着層4を第2基材2bに形成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図2に示すように、接着層4を第1触媒層3aに形成してもよい。この場合でも、接着層4により第2基材2bと第1触媒層3aとを接着することができ、その結果、高分子電解質膜1全体のシワやたわみをより一層抑えることができる。
【0040】
次に、本発明の実施形態にかかる膜電極接合体の製造方法について説明する。図3A〜図3Cは、本実施形態にかかる膜電極接合体の製造方法を模式的に示す断面図である。
【0041】
まず、図1A〜図1Fを用いて説明したように、第2基材2b付きの膜−触媒層接合体を製造する。
【0042】
次いで、図3Aに示すように、第2触媒層3b上に第1ガス拡散層5aを形成する(第1ガス拡散層形成工程)。これにより、第2触媒層3bと第1ガス拡散層5aとでアノード電極又はカソード電極のいずれか一方の電極層が形成される。
【0043】
次いで、図3Bに示すように、高分子電解質膜1の他方の面から第2基材2bを剥離する(第2基材剥離工程)。
【0044】
次いで、図3Cに示すように、第2基材2bを剥離して露出させた接着層4上に第2ガス拡散層5bを形成する(第2ガス拡散層形成工程)。これにより、第1触媒層3aと接着層4と第2ガス拡散層5bとでアノード電極又はカソード電極のいずれか他方の電極層が形成される。
【0045】
以上の各工程を行うことにより、本実施形態にかかる膜電極接合体を製造することができる。
【0046】
なお、前記では、図3Bを用いて説明したように、高分子電解質膜1の他方の面から第2基材2bのみを剥離するようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図4Aに示すように、高分子電解質膜1の他方の面から第2基材2bとともに接着層4も剥離するようにしてもよい。この場合、図4Bに示すように、接着層4を有しない膜電極接合体を製造することができる。第1触媒層3aと第2ガス拡散層5bとの間に接着層4のような他の層が存在する場合には、通常、導電性が低下するが、図4Bに示す構成では接着層4が存在しないので、導電性の低下を抑えることができる。一方、図3Bに示すように、第1触媒層3a上の接着層4を剥離しなかった場合には、接着層4により第1触媒層3aと第2ガス拡散層5bとの接着力を向上させることができる。
【0047】
また、前記では、第1ガス拡散層形成工程後に第2基材2bを剥離するようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図5A及び図5Bに示すように、第2基材2bを剥離した後、第1及び第2ガス拡散層形成工程を行うようにしてもよい。
【0048】
次に、膜電極接合体を構成する各部材の形状、材料等について説明する。
【0049】
高分子電解質膜1は、好ましくは、水素イオン伝導性を有する高分子膜である。高分子電解質膜1としては、特に限定されるものではないが、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸からなるフッ素系高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、ジャパンゴアテックス(株)製のGSII(商品名)など)や各種炭化水素系電解質膜を使用することができる。高分子電解質膜1の材料は、水素イオンを選択的に移動させるものであればよい。また、高分子電解質膜1は、機械的強度や寸法安定性を確保する為に、芯材等で補強されてもよい。
【0050】
また、高分子電解質膜1の膜厚は、特に限定されるものではないが、例えば20〜50μmである。なお、20〜50μmの膜厚の高分子電解質膜は、基材に接合された状態で市販されているものがある。この基材が接合された状態の高分子電解質膜を用いる場合には、図1Aを用いて説明した第1基材形成工程を省略することができる。
【0051】
また、高分子電解質膜1のイオン交換容量は、特に限定されるものではないが、例えば、0.5〜2.0ミリ等量/g膜乾燥重量である。なお、イオン伝導性を高めて電池特性を向上させるためには、高分子電解質膜のイオン交換容量は、1.1ミリ等量/g膜乾燥重量以上であることが好ましい。但し、高分子電解質膜のイオン交換容量が高くなると、含水率が向上して乾湿寸法の変化量が大きくなり、シワやたわみが発生しやすくなる点に留意すべきである。
【0052】
また、高分子電解質膜1は、図3Cに示すように、触媒層3a,3b、ガス拡散層5a,5bよりもサイズが大きく、周縁部がそれらからはみ出すように設けられている。なお、触媒層3a,3bは、ガス拡散層5a,5bと同じサイズもしくは大きいサイズでも良い。
【0053】
触媒層3a,3bは、例えば、高分子電解質膜1の表面に触媒含有インクを塗工又は印刷した後、乾燥することにより形成することができる。触媒含有インクの塗工方法としては、例えば、スプレー塗工、ダイ塗工、ドクターブレード塗工、ロールコーター塗工、キャストコータ、カーテンコータ、静電塗工などの塗布法を適用することができる。また、触媒含有インクの印刷方法としては、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、凸版印刷、平版印刷などの印刷法を適用することができる。
【0054】
前記触媒含有インクは、例えば、触媒の他に高分子電解質膜1と同じ成分の高分子電解質を溶剤に分散又は溶解させ、必要に応じて界面活性剤や撥水材などの添加剤の少量配合することにより調製することができる。当該触媒含有インクを乾燥することにより形成される触媒層3a,3bには、触媒と高分子電解質とが含まれる。
【0055】
前記触媒は、電極反応を円滑に行わせるためのものであり、貴金属触媒をカーボン微粒子の表面に担持したものである。通常、アノード側の触媒にはPt(白金)又はPtRu(白金−ルテニウム)などの合金触媒が表面に担持されたカーボン微粒子が用いられる。また、カソード側の触媒にはPt又はPtCoなどの合金触媒が表面に担持されたカーボン微粒子が用いられる。
【0056】
前記高分子電解質は、触媒微粒子間及び高分子電解質膜1と触媒微粒子との間に介在して、電極反応をより円滑に行わせるために添加するものである。なお、所定の溶剤に高分子電解質を予め分散又は溶解させた液体が既に市販されている。
【0057】
触媒含有インクの溶剤としては、比較的低沸点又は低分子量の溶剤、例えば、水(望ましくは、イオン交換水又は純水)、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノールなどの第1級〜第3級アルコール、それらの誘導体、及びエーテル系、エステル系、フッ素系などの有機溶剤よりなる群から選ばれた少なくとも一種を使用することができる。当該溶剤は、高分子電解質の析出や分散状態の低下がないように十分な溶解度が必要である。また、短時間で効率よく触媒層を形成するためには、適切な沸点及び蒸気圧を有する溶剤を選定する必要がある。溶剤の沸点が低くかつ蒸気圧が高い場合には、速く乾燥し過ぎて触媒含有インクの連続的な印刷や塗布が困難となる。また、溶剤の沸点が高くかつ蒸気圧が低い場合には、塗膜の乾燥に長時間を要する。
【0058】
また、前記カーボン微粒子に付着した貴金属(又は合金)の量は、特に限定されるものではないが、通常0.1〜0.6mg/cm程度に管理する必要がある。前記印刷法又は塗布法を用いれば、このカーボン微粒子に対する貴金属(又は合金)の付着量の管理を容易に行うことができる。また、触媒含有インク中の触媒の粒子径、触媒の添加量、溶剤組成などの最適化、及び触媒含有インクの粘度の調整などを行うことにより、さらに高精度な前記付着量の制御と管理ができる。
【0059】
基材2a,2bは、高分子電解質膜1の形状を保持するための形状保持フィルムである。基材2a,2bとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、フッ素樹脂、ゴム状弾性体など、ラミネート加工時に熱変形しない耐熱性を有するフィルムであれば、特に限定することなく用いることができる。
【0060】
基材2a,2bの膜厚は、特に限定されるものではないが、例えば50〜500μmである。基材2a,2bの膜厚が50μmより薄い場合、機械的強度が低くなるため、高分子電解質膜1の形状を保持する能力が不足する。一方、基材2a,2bの膜厚が500μmより厚い場合、ロール・ツー・ロール方式の製造装置を採用した場合に基材の巻き取りが困難になる。なお、これらの観点から、基材2a,2bの膜厚は、100〜300μmであることが好ましい。
【0061】
なお、基材2a,2bと高分子電解質膜1との接着性や剥離性が十分でない場合は、基材2a,2bの表面に、コロナ処理やプラズマ処理等の表面処理を施しても良い。また、基材2a,2bには、必要に応じて印刷又は塗布部位の位置精度を高めるための位置決め用又はロール搬送用のガイド穴を設けても良い。また、基材2a,2bとして、熱的、化学的な安定性が比較的優れたものを使用することが好ましい。これにより、膜−触媒層接合体の製造時に基材2a,2bが損傷することを抑えることができるので、基材2a,2bを再利用することが可能になる。また、基材2aと基材2bとは、同じ材料で構成されても、別の材料で構成されてもよい。
【0062】
ガス拡散層5a,5bは、例えば、炭素繊維を基材として用いずに構成したいわゆる基材レスガス拡散層で構成されている。基材レスガス拡散層の一例としては、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材から構成されたガス拡散層が挙げられる。ここで、「導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材」とは、炭素繊維を基材とすることなく、導電性粒子と高分子樹脂のみで支持される構造(いわゆる自己支持体構造)を持つ多孔質部材を意味する。導電性粒子と高分子樹脂とで多孔質部材を製造する場合、例えば、界面活性剤と分散溶媒とを用いる。この場合、製造工程中に、焼成により界面活性剤と分散溶媒とを除去するが、十分に除去できずにそれらが多孔質部材中に残留することが有り得る。従って、「導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材」とは、炭素繊維を基材として使用しない自己支持体構造である限り、そのようにして残留した界面活性剤と分散溶媒が多孔質部材に含まれてもよいことを意味する。また、炭素繊維を基材として基材として使用しない自己支持体構造であれば、他の材料(例えば、短繊維の炭素繊維など)が多孔質部材に含まれてもよいことも意味する。
【0063】
ガス拡散層5a,5bは、高分子樹脂と導電性粒子とを含む混合物を混練して、押出し、圧延してから、焼成することにより製造することができる。具体的には、導電性粒子であるカーボンと分散溶媒、界面活性剤を攪拌・混錬機に投入後、混錬して粉砕・造粒して、カーボンを分散溶媒中に分散させる。次いで、高分子樹脂であるフッ素樹脂をさらに攪拌・混錬機に投下して、攪拌及び混錬して、カーボンとフッ素樹脂を分散する。得られた混錬物を圧延してシートを形成し、焼成して分散溶媒、界面活性剤を除去する。これにより、シート状のガス拡散層5a,5bを製造することができる。
【0064】
ガス拡散層5a,5bを構成する導電性粒子の材料としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、活性炭などのカーボン材料が挙げられる。前記カーボンブラックとしては、アセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、バルカンなどが挙げられ、これらの材料を単独で使用してもよく、また、複数の材料を組み合わせて使用してもよい。また、カーボン材料の原料形態としては、粉末状、繊維状、粒状等のいずれの形状であってもよい。
【0065】
ガス拡散層5a,5bを構成する高分子樹脂の材料としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等が挙げられる。これらの中でも、高分子樹脂の材料としてPTFEが使用されることが、耐熱性、撥水性、耐薬品性の観点から好ましい。PTFEの原料形態としては、ディスパージョン、粉末状などがあげられる。それらの中でも、PTFEの原料形態としてディスパージョンが採用されることが、作業性の観点から好ましい。なお、ガス拡散層5a,5bを構成する高分子樹脂は、導電性粒子同士を結着するバインダーとしての機能を有する。また、前記高分子樹脂は、撥水性を有するため、燃料電池の内部にて水を系内に閉じ込める機能(保水性)も有する。
【0066】
また、ガス拡散層5a,5bには、上述したように、導電性粒子及び高分子樹脂以外に、該カソードガス拡散層の製造時に使用する界面活性剤及び分散溶媒などが微量含まれていてもよい。分散溶媒としては、例えば、水、メタノール及びエタノール等のアルコール類、エチレングリコール等のグリコール類が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのノニオン系、アルキルアミンオキシドなどの両性イオン系が挙げられる。製造時に使用する分散溶媒の量及び界面活性剤の量は、導電性粒子の種類、高分子樹脂の種類、それらの配合比率などに応じて適宜設定すればよい。なお、一般的には、分散溶媒の量、界面活性剤の量が多いほど、高分子樹脂と導電性粒子が均一分散しやすい傾向がある一方で、流動性が高くなり、ガス拡散層のシート化が難しくなる傾向がある。なお、界面活性剤は、導電性粒子の材料、分散溶媒の種類により適宜選択することができる。また、界面活性剤を使用しなくてもよい。
【0067】
なお、ガス拡散層5a,5bは、カソード電極側及びアノード電極側において同じ構造のガス拡散層を用いても、異なる構造のガス拡散層を用いてもよい。例えば、カソード電極側及びアノード電極側のいずれか一方に炭素繊維を基材としたガス拡散層を用い、いずれか他方に前記基材レスガス拡散層を用いてもよい。
【0068】
接着層4は、第1触媒層3aと第2基材2bとを接着するための層である。接着層4には、高分子電解質膜1に対して親和性のある材料、例えば、イオン交換樹脂(イオノマーともいう)が含まれることが好ましい。これにより、第1触媒層3aと第2基材2bとの接着性を高めることができる。また、接着層4がイオン交換樹脂を含むことにより、高分子電解質膜1及び第1触媒層3aの保湿性を向上させることができる。
【0069】
なお、接着層4は、イオン交換樹脂のみで構成されてもよい。しかしながら、この場合、接着層4の導電性及びガス拡散性が低いため、電極層全体としての導電性及びガス拡散性が低くなる。このため、接着層4には、イオン交換樹脂に加えて、カーボン粉末が含まれることが好ましい。これにより、導電性及びガス拡散性の低下を抑えることができる。
【0070】
前記カーボン粉末の材料としては、導電性を有する細孔の発達したカーボン材料が用いられることが好ましい。このような材料としては、例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、カーボンチューブなどが挙げられる。前記カーボンブラックとしては、例えば、チャネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどが挙げられる。なお、活性炭は、種々の炭素原子を含む材料を炭化処理及び賦活処理することによって得ることができる。
【0071】
また、接着層4は、膜状に形成されることに限定されるものではなく、ドット状に形成されてもよい。この場合、接着層4が形成されていない部分は、導電性及びガス拡散性が低下しないので、電極層全体としての導電性及びガス拡散性の低下を抑えることができる。
【0072】
また、接着層4には、触媒が含まれることが好ましい。これにより、第1触媒層3aの触媒の量が不足している場合に、接着層4の触媒により当該不足分を補うことが可能になる。すなわち、接着層4は、第1触媒層3aの一部として機能することができる。
【0073】
また、第2ガス拡散層5bが、例えば基材レスガス拡散層で構成される場合には、基材レスガス拡散層の多孔度が低いために、燃料電池の発電時に生成される水の排水を十分に行うことができない場合がある。このため、接着層4には、フッ素系撥水材が含まれることが好ましい。これにより、燃料電池の発電時に生成される水の排水性を向上させることができる。前記フッ素系撥水材としては、一般的にガス拡散層に用いられているようなPTFEやFEPなどが用いられることが好ましい。
【0074】
また、接着層4と第1触媒層3aとは、熱及び圧力の少なくとも一方を加えながら接合されることが好ましい。これにより、接着層4が軟化して、接着層4の一部が多孔質体である第1触媒層3aの隙間に入り込むことによって、アンカー効果を得ることができ、第1触媒層3aと第2基材2bとの接着性をより一層高めることができる。
【0075】
次に、本実施形態にかかる膜電極接合体を備える燃料電池(単電池)について説明する。図6は、本実施形態にかかる膜電極接合体を備える燃料電池10の基本構成を模式的に示す断面図である。
【0076】
図6に示すように、燃料電池10は、膜電極接合体を一対のセパレータ30,40で挟持するように構成されている。膜電極接合体の外周部には、ハンドリング性を向上させるため又は高分子電解質膜1とセパレータ30,40との間をシールするために、樹脂製の枠体(ガスケットともいう)20が設けられている。一対のセパレータ30,40は、好ましくは、カーボンを含む材質や金属を含む材質で構成される。一方のセパレータ(アノードセパレータ)30の第2ガス拡散層5bと接触する主面(以下、電極面ともいう)には、燃料ガス用のガス流路31が設けられている。また、他方のセパレータ(カソードセパレータ)40の第1ガス拡散層5aと接触する主面(以下、電極面ともいう)には、酸化剤ガス用のガス流路41が設けられている。一方のセパレータ30のガス流路31に燃料ガスを供給し、他方のセパレータ40のガス流路41に酸化剤ガスを供給することで、電気化学反応が起こり、電力と熱とが発生する。なお、図6では、接着層4がアノード側に配置されるものとして図示したが、接着層4はカソード側に配置されてもよい。
【0077】
なお、燃料電池10を電源として使うときには、図6に示す燃料電池(単電池)10を必要とする個数だけ直列に連結して、いわゆる燃料電池スタックとして使用することができる。この場合、ガス流路31,41に反応ガス(燃料ガス又は酸化剤ガス)を供給するためには、使用するセパレータ30,40の枚数に対応する数に反応ガスを分岐し、それらの分岐先をガス流路31,41につなぐマニホールドが必要となる。
【0078】
図7は、燃料電池10を複数個連結した燃料電池スタック11の基本構成を示す分解斜視図である。図7に示すように、枠体20及び一対のセパレータ30,40には、それぞれ、燃料ガスが供給される一対の貫通孔である燃料ガスマニホールド孔22,32,42が設けられている。また、枠体20及び一対のセパレータ30,40には、それぞれ、酸化剤ガスが流通する一対の貫通孔である酸化剤ガスマニホールド孔23,33,43が設けられている。枠体20及び一対のセパレータ30,40が、燃料電池(単電池)10として連結された状態では、燃料ガスマニホールド孔22,32,42が連結され、燃料ガスマニホールドが形成される。同様に、枠体20及び一対のセパレータ30,40が、燃料電池(単電池)10として連結された状態では、酸化剤ガスマニホールド孔23,33,43が連結され、酸化剤ガスマニホールドが形成される。
【0079】
また、枠体20及び一対のセパレータ30,40には、冷却媒体(例えば、純水やエチレングリコール)が流通するそれぞれ二対の貫通孔である冷却媒体マニホールド孔24,34,44が設けられている。枠体20及び一対のセパレータ30,40が、燃料電池(単電池)10として連結された状態では、冷却媒体マニホールド孔24,34,44が連結され、二対の冷却媒体マニホールドが形成される。
【0080】
また、枠体20及び一対のセパレータ30,40には、それぞれの角部の近傍に4つのボルト孔50が設けられている。各ボルト孔50に締結ボルトが挿通され、当該締結ボルトにナットが結合することによって複数の燃料電池10が締結される。
【0081】
ガス流路31は、一対の燃料ガスマニホールド32,32間を結ぶように設けられている。ガス流路41は、一対の酸化剤ガスマニホールド43,43間を結ぶように設けられている。なお、図7では、ガス流路31,41をサーペンタイン型の流路として示したが、その他の形態(例えば直線型)の流路であってもよい。
【0082】
また、セパレータ30の電極面とは反対側の主面及びセパレータ40の電極面とは反対側の主面には、図示していないが、それぞれ冷却媒体流路が形成されている。冷却媒体流路は、二対の冷却媒体マニホールド孔34,44間を結ぶように形成されている。すなわち、冷却媒体がそれぞれ供給側の冷却媒体マニホールドから冷却媒体流路に分岐して、それぞれ排出側の冷却媒体マニホールドに流通するように構成されている。これにより、冷却媒体の伝熱能力を利用して、燃料電池10を電気化学反応に適した所定の温度に保つようにしている。
【0083】
なお、前記では、セパレータ30,40に燃料ガス、酸化剤ガス、及び冷却水の各マニホールド孔を設け、積層した際に燃料ガス、酸化剤ガス、及び冷却水の各供給マニホールドが形成されるように構成した、いわゆる内部マニホールド方式の燃料電池を例示して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、燃料電池スタック11の側面に燃料ガス、酸化剤ガス、及び冷却水の各供給マニホールドを設けた、いわゆる外部マニホールド方式の燃料電池であってもよい。この場合でも、同様の効果を得ることができる。また、セパレータ30,40を多孔状の導電材にて形成し、冷却媒体流路を流れる冷却水の圧力が、ガス流路31,41を流れる反応ガスの圧力よりも高くなるようにして、冷却水の一部を電極面側にセパレータ30,40を透過させて、高分子電解質膜1を湿らせる、いわゆる内部加湿型の燃料電池であってもよい。
【0084】
また、前記では、セパレータ30,40にガス流路31,41を設けるようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図8に示すように、一方のガス拡散層14にガス流路31を設け、他方のガス拡散層14にガス流路41を設けるようにしてもよい。また、セパレータ30と一方のガス拡散層14の両方にガス流路31を形成するようにしてもよい。また、セパレータ40と他方のガス拡散層14の両方にガス流路41を形成するようにしてもよい。
【0085】
次に、本実施形態にかかる膜電極接合体の製造方法により製造された膜電極接合体の高分子電解質膜全体のシワやたわみの抑制効果を検証するために行った実験の結果、及び当該膜電極接合体を備える燃料電池(単電池)の電圧を測定した結果について説明する。
【0086】
ここでは、比較例として、接着層形成工程を含まない従来の膜電極接合体の製造方法を利用して製造した燃料電池(単電池)を用意した。また、実施例1及び2として、接着層形成工程を含む本実施形態の膜電極接合体の製造方法を利用して製造した燃料電池(単電池)を用意した。実施例2にかかる燃料電池は、接着層がカーボンを含む点で、実施例1にかかる燃料電池と異なる。より具体的には、比較例にかかる燃料電池、実施例1にかかる燃料電池、及び実施例2にかかる燃料電池を以下のようにして製造し、それらの燃料電池の電圧値の測定を行った。
【0087】
[比較例]
まず、電極触媒である白金粒子をカーボン粉末上に担持させてなる触媒担持カーボン(田中貴金属工業(株)製のTEC10E50E、50質量%がPt)と、水素イオン伝導性を有する高分子電解質溶液(ソルベイソレクシス(株)製のAQUIVION(登録商標)、D79−20BS)とを、エタノールと水との混合分散媒(質量比1:1)に分散させてカソード触媒層形成用インクを調製した。なお、高分子電解質は、塗布形成後の触媒層中の高分子電解質の質量が、触媒担持カーボンの質量の0.5倍となるように添加した。
【0088】
次いで、他方の面に基材フィルムが貼り付けられた高分子電解質膜(ジャパンゴアテックス(株)製のGSII(商品名)、200mm×200mm)の一方の面に、前記カソード触媒層形成用インクをダイコータを用いて塗布し、白金担持量が0.3mg/cm2となるように単層構造を有するカソード触媒層を形成した。なお、前記触媒層形成用インクの塗布時においては、開口部が140mm×140mmとなるように打ち抜かれた額縁状の基材(PET)をマスクとして利用し、塗布面積を規定した。
【0089】
次いで、電極触媒である白金ルテニウム合金(白金:ルテニウム=1:1.5モル比(物質量比))粒子をカーボン粉末上に担持させてなる触媒担持カーボン(田中貴金属工業(株)製のTEC61E54、50質量%がPt−Ru合金)と、水素イオン伝導性を有する高分子電解質溶液(旭硝子(株)製のFlemion)とを、エタノールと水との混合分散媒(質量比1:1)に分散させてアノード触媒層形成用インクを調製した。なお、高分子電解質は、塗布形成後の触媒層中の高分子電解質の質量が、触媒担持カーボンの質量の0.4倍となるように添加した。
【0090】
次いで、カソード触媒層が形成された高分子電解質膜の一方の面全体を覆うようにして、基材フィルム(PET)を100℃にてラミネート処理を施した。
【0091】
次いで、高分子電解質膜の他方の面から基材フィルムを剥離した後、予め作製したアノード触媒層形成用インクを、高分子電解質膜の他方の面にダイコータを用いて塗布し、単層構造を有しかつ白金担持量が0.2mg/cm2であるアノード触媒層を形成した。マスクの形状及び使用方法は、前記カソード触媒層の作製と同様とした。なお、このアノード触媒層形成時において、高分子電解質膜のシワの状態を目視にて確認した。その結果を下記表1に示す。
【0092】
次いで、高分子電解質膜の一方の面から基材フィルムを剥がした後、ホットプレス機を用いて熱処理(160℃、5分)を施すことにより、高分子電解質膜の両面に触媒層が設けられた膜−触媒層接合体を得た。
【0093】
次いで、一対のガス拡散層を用意した。当該一対のガス拡散層は、それぞれ、以下のようにして製造した。
【0094】
まず、寸法が16cm×20cmで厚みが270μmのカーボンクロス(三菱化学(株)製のSK−1)を、フッ素樹脂含有の水性ディスパージョン(ダイキン工業(株)製のND−1)に含浸した後、乾燥することで前記カーボンクロスに撥水性を付与した(撥水処理)。
【0095】
次いで、撥水処理後のカーボンクロスの一方の面(全面)に撥水カーボン層を形成した。導電性カーボン粉末(電気化学工業(株)製のデンカブラック(商品名))と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粉末を分散させた水溶液(ダイキン工業(株)製のD−1)とを混合し、撥水カーボン層形成用インクを調製した。
【0096】
次いで、前記撥水カーボン層形成用インクを、ドクターブレード法によって、前記撥水処理後のカーボンクロスの一方の面に塗布し、撥水カーボン層を形成した。このとき、撥水カーボン層の一部は、前記カーボンクロスの中に埋めこまれていた。
【0097】
次いで、撥水処理及び撥水カーボン層形成後のカーボンクロスを、PTFEの融点以上の温度である350℃で30分間焼成した。
【0098】
次いで、前記カーボンクロスの中央部分を抜き型にて切断し、寸法が142.5mm×142.5mmのガス拡散層を得た。
【0099】
前記膜−触媒層接合体の製造後、一方のガス拡散層の撥水カーボン層の中央部分がカソード触媒層に接するとともに、他方のガス拡散層の撥水カーボン層の中央部分がカソード触媒層に接するように、前記膜−触媒層接合体の両面に前記一対のガス拡散層を配置した。
【0100】
次いで、ホットプレス機を用いて一対のガス拡散層を前記膜−触媒層接合体に熱圧着(102℃、30分、10kgf/cm2)し、膜電極接合体を得た。
【0101】
次いで、前記膜電極接合体を、燃料ガス供給用のガス流路を有するセパレータと、酸化剤ガス供給用のガス流路を有するセパレータとで挟持するとともに、両セパレータ間でかつ膜電極接合体の外周部にフッ素ゴム製の枠体(ガスケット)を配置した。これにより、有効電極(アノード又はカソード)面積が196cm2である燃料電池(単電池)を得た。
【0102】
前記のようにして得た燃料電池の電圧測定を行った。この電圧測定により測定された電圧値を下記表1に示す。なお、電圧測定時の電池温度は90℃とした。また、カソードガスとして65℃露点の空気を用い、アノードガスとして65℃露点の混合ガス(H:75%、CO:25%)を用いた。また、カソードガス利用率は55%とし、アノードガス利用率は75%とした。また、前記電圧測定は、燃料電池を起動してから4時間後に行った。
【0103】
(実施例1)
まず、水素イオン伝導性を有する高分子電解質溶液(ソルベイソレクシス(株)製のAQUIVION(登録商標)、D79−20BS)を、基材(PET)の一方の面にスプレー塗工法により塗布し、乾燥後の高分子電解質の重量が0.4mg/cmとなるように接着層を形成した。なお、高分子電解質溶液の塗布時においては、開口部が140mm×140mmとなるように打ち抜かれた額縁状の基材(PET)をマスクとして利用し、塗布面積を規定した。
【0104】
次いで、前記のようにして製造した接着層付き基材フィルム(PET)を、カソード触媒層が形成された高分子電解質膜の一方の面全体を覆うように配置し、100℃にてラミネート処理を施した。
【0105】
前記以外の製造工程については、前記比較例と同様の製造工程を行い、実施例1にかかる燃料電池を製造した。その後、前記比較例と同様の測定条件で、実施例1にかかる燃料電池の電圧測定を行った。この電圧測定により測定された電圧値を下記表1に示す。
【0106】
(実施例2)
まず、導電性カーボン粉末(電気化学工業(株)製のデンカブラック(商品名))と、水素イオン伝導性を有する高分子電解質溶液(ソルベイソレクシス(株)製のAQUIVION、D79−20BS)とを、エタノールと水との混合分散媒(質量比1:1)に分散させて接着層形成用インクを調製した。なお、高分子電解質は、塗布形成後の接着層中の高分子電解質の質量が、カーボンの質量の0.5倍となるように添加した。
【0107】
次いで、前記接着層形成用インクを、基材(PET)の一方の面にスプレー塗工法により塗布し、乾燥後の高分子電解質重量が0.4mg/cm2となるように接着層を形成した。なお、接着層形成用インクの塗布時においては、開口部が140mm×140mmとなるように打ち抜かれた額縁状の基材(PET)をマスクとして利用し、塗布面積を規定した。
【0108】
前記以外の製造工程については、前記比較例と同様の製造工程を行い、実施例2にかかる燃料電池を製造した。その後、前記比較例と同様の測定条件で、実施例1にかかる燃料電池の電圧測定を行った。この電圧測定により測定された電圧値を下記表1に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
前記表1から分かるように、比較例1にかかる燃料電池においては、高分子電解質膜に生じたシワやたるみの大きさが「大きい」という結果であった。これに対し、実施例1及び2にかかる燃料電池においては、高分子電解質膜に生じたシワやたるみの大きさが「小さい」という結果であった。なお、シワやたるみが「大きい」とは、商品としては成立しないレベルのシワやたるみが発生していることを意味する。また、シワやたるみが「小さい」とは、商品として成立するレベルのごく僅かなシワやたるみしか発生していないことを意味する。
【0111】
また、前記表1から分かるように、比較例1にかかる燃料電池の電圧値が745mVであるのに対し、実施例1にかかる燃料電池の電圧値は734mVであった。この結果から、接着層を形成したとしても、電圧値の低下は僅かであることが分かる。また、前記表1から分かるように、実施例2にかかる燃料電池の電圧値は743mVであった。この結果から、接着層にカーボンを含有させることで、電圧値の低下を極僅かなレベルに抑えられることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明にかかる膜−触媒層接合体の製造方法は、高分子電解質膜全体のシワやたわみをより一層抑えることができるので、例えば、自動車などの移動体、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動源として使用される燃料電池が備える膜−触媒層接合体の製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0113】
1 高分子電解質膜
2a 第1基材
2b 第2基材
3a 第1触媒層
3b 第2触媒層
4 接着層
5a 第1ガス拡散層
5b 第2ガス拡散層
10 燃料電池
11 燃料電池スタック
20 枠体
30,40 セパレータ
31,41 ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用の膜−触媒層接合体の製造方法であって、
一方の面に第1基材が形成された高分子電解質膜の他方の面に、第1触媒層を形成する工程と、
前記第1触媒層上に、又は第2基材の前記第1触媒層と対向する位置に、接着層を形成する工程と、
前記第2基材が前記接着層により前記第1触媒層と接着されるように、前記高分子電解質膜の他方の面に、前記第2基材を形成する工程と、
前記第2基材を形成した前記高分子電解質膜から前記第1基材を剥離する工程と、
前記第1基材を剥離して露出させた前記高分子電解質膜上に第2触媒層を形成する工程と、
を含む、膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項2】
前記接着層は、前記高分子電解質膜に対して親和性のある材料を含む、請求項1に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項3】
前記接着層は、イオン交換樹脂を含む、請求項1又は2に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項4】
前記接着層は、カーボンを含む、請求項3に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項5】
前記接着層は、触媒を含む、請求項4に記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項6】
前記接着層は、フッ素系撥水材を含む、請求項1〜5のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項7】
前記接着層は、ドット状に形成される、請求項1〜6のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項8】
前記接着層と前記第1触媒層とは、熱及び圧力の少なくとも一方を加えながら接合する、請求項1〜7のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法により膜−触媒層接合体を製造する工程と、
前記第2触媒層上に第1ガス拡散層を形成する工程と、
前記高分子電解質膜の他方の面から前記第2基材を剥離する工程と、
前記第2基材を剥離して露出させた前記接着層上に第2ガス拡散層を形成する工程と、
を含む、膜電極接合体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の膜−触媒層接合体の製造方法により膜−触媒層接合体を製造する工程と、
前記第2触媒層上に第1ガス拡散層を形成する工程と、
前記高分子電解質膜の他方の面から前記第2基材及び前記接着層を剥離する工程と、
前記第2基材及び接着層を剥離して露出させた前記第1触媒層上に第2ガス拡散層を形成する工程と、
を含む、膜電極接合体の製造方法。
【請求項11】
前記第1及び第2ガス拡散層の少なくとも一方は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材で構成されている、請求項9又は10に記載の膜電極接合体の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【公開番号】特開2013−84426(P2013−84426A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223166(P2011−223166)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】