説明

膜−電極接合体、これを用いる電解セル、オゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法及び廃水・廃液処理方法

【課題】陽極で得られた電解反応生成物又は分解物を高効率で製造することができるとともに、流路圧力損失を抑え、且つ、製造能力を落とすことなく装置を小型化することのできる、膜−電極接合体、これを用いる電解セル、オゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法及び廃水・廃液処理方法を提供する。
【解決手段】陽イオン交換膜から成る固体高分子電解質隔膜3とその両面にそれぞれ密着させた陽極1と陰極2とより成り、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の全面に亘り、これらを貫通する直径0.1mm以上の複数の貫通孔11を設けた膜−電極接合体8、これを用いる電解セル、オゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法及び廃水・廃液処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜−電極接合体、これを用いる電解セル、オゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法及び廃水・廃液処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解反応を利用した化学物質の製造は、塩素・苛性ソーダ製造などで工業的に実施され近代産業の基盤の一部を担っている。また、有害物質の分解除去を目的として、廃水処理にも用いられる。それらのプロセスに用いられる反応槽は、一般に、陽極及び陰極あるいは陽極・陰極、あるいは、それらに加えその間に挟まれた固体高分子電解質隔膜が筐体中に納められた構造をとり、電解槽あるいは電解セルと呼称される。多くの電解セルでは、陽極側と陰極側に存在する溶液あるいはガスが物理的に互いに分離された構造を採る。ところが、一部の電解プロセスに於いては、陽極液と陰極液が互いに混じり合うことを必要とするか、あるいは、混じり合うことが許容されるため、使用される電解セルもそれに応じた構造を用いることになる。
【0003】
本発明は、後者の陽極液と陰極液が混合するプロセスであって、且つ、原料液の電離度が低く陽極と陰極の間に固体高分子電解質隔膜が挟み込まれた構造の膜−電極接合体、これを用いる電解セルに係わるものである。
また、本発明は、膜−電極接合体、これを用いる電解セルを用いたオゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法及び廃水・廃液処理方法に関するものであり、有機電解合成、ダイオキシンを含む有機塩素化合物の分解、災害時および開発途上国における河川水の飲料水化等、オゾン水製造以外の用途の同様な課題についての解決も展望することができる。
【0004】
オゾン水は、殺菌効果や有機物分解作用に優れ、医学及び食品衛生分野、あるいは半導体製造装置などにおいて、近年広範に用いられている。その製造方法は、純酸素あるいは酸素含有ガス中における放電による気相製造法と水の電解による電気化学的製造法に大別される。
気相製造法はエネルギー効率が高いが、高電圧や純酸素を必要とし、比較的大容量の製造装置に用いられる。気相製造法では、オゾン水が最終製品の場合、気液反応槽で水と接触させオゾン水を得る。
一方、電解製造法は、数十ボルト以下の低電圧電源と電解セルにより水を原料として直接オゾン水を製造する方法であり、高純度のオゾン水が比較的容易に得られ、かつ製造装置は基本的に電解セルと電源のみの単純構成であるため、小、中容量製造に適する。
【0005】
電離度の低い純水を用いたオゾン水製造電解では、水の電離度が低いため、単に陽極と陰極を水中に設置しただけでは電解反応が進行しない。そのため水素イオンの移動経路として陰極/陽極間に固体高分子電解質隔膜が挿入され、電解セルは、陽極及び陰極そしてそれらに挟まれた固体高分子電解質隔膜を機能要素として構成される。オゾンの生成は以下の反応式による。
オゾン生成反応(陽極):3H2O=O3+6H++6e-
0=+1.51V
酸素発生反応(陽極):2H2O=O2+4H++4e-
0=+1.23V
水素発生反応(陰極):2H++2e-=H2
上記オゾン発生反応は下段の酸素発生反応との競合反応であり、発生電位の低い酸素が優先的に生成するためその電流効率は低い。加えて、酸素発生を抑える目的から酸化鉛あるいは導電性ダイヤモンド電極など過電圧の高い陽極を用い高ポテンシャル下で電解を行うため、操業時に高い電解電圧を必要とする。その結果、電流効率と電圧効率の積であるオゾン水電解の電力効率は低くその改善が望まれる。
一般に、従来のオゾン水製造電解では、陽極側と陰極側は、固体高分子電解質隔膜により物理的に隔離され、陽極液と陰極液は互いに隔てられ、混合することなく電解が行われる。電解セル内には、たとえば、特許文献1などで例示されるように、陽極と陰極が並列に置かれ、それらと平行に電解液が通過する構造をとる。このような構造は、特許文献2及び3においても同様である。このように、従来、原料水は、一般に陰極及び陽極の電極面に平行に流れ、電極の一端から入り、他端から排出される。
【0006】
そのため、電解反応の進行に伴い液組成が変化し、十分な流速が確保できない場合、入側と出側で反応条件が異なることがある。この構造上の不都合は、特に一般の上水道水、井戸水、雨水などの非精製水を原料とするオゾン水製造における水酸化物の堆積問題で顕著である。すなわち、このような非精製水を用いたオゾン水製造においては、電解の進行に伴い、陰極液のpHが上がり、原料水中に存在する微量のアルカリ土類金属の水酸化物が反応の進む出口側で陰極面に著しく堆積し、電解の継続が困難になる。そのため、特許文献4に詳細に示されているように、一定時間毎に操業を停止し、酸洗浄などにより堆積物を取り除く必要がある。このことは、上記、特許文献3で示されるような一般的な構造の電解セルのみならず、特許文献5で提案されているような特殊構造の電解セルにあっても同様に問題となる。
【0007】
また、堆積低減の目的で、特許文献6または7では、陰極室を分離し陰極室液として酸を用いる方式が提案されているが、構成が複雑となり、また、操業上、安全管理が負担となる。一方、特許文献8では、電解特性劣化時に電解セルの陽・陰極を逆転させ、逆電流を通じて性能回復を図る方法が提案されている。この場合、そのような逆電流を流す際、陰極は一時的に陽極として作用し、構成金属成分が溶出する。この溶出金属のイオンは、固体高分子電解質膜に浸透し、そのイオン輸送能力を著しく劣化させるため、陰極にはバルブ金属を用い、さらにその表面に高価な貴金属コーティングなどを施して金属成分の溶出を防止する必要がある。また、一時的に陰極となる陽極の劣化も懸念される。
一方、電解セルの構造設計上の問題点として、従来の電解セルでは、原料水導入口が電解セル端部に設けられ、電極面を平行に流れた原料水は、特許文献9に示すように、電解セルの他端に設けられた排出口から排出される。このような構造は、設置場所を確保できる据え付け型装置では問題とされないが、家庭用上水道への取り付けなど、既存の配管の途中に後付で簡易的に取り付けることを想定した電解セルでは小型化設計の支障となる。
【0008】
また、従来、特許文献10においては、陽極と陰極との間に陽イオン交換膜が狭持されてなる触媒電極に水を供給するオゾン生成装置において、陽イオン交換膜の原料水供給路に臨む部分に、陽極電極と陰極電極とが互いに連通する連通穴が設けられ、原料水供給路から流れた水道水等の水が、陽極電極及び陰極電極のうち一方の電極に供給されるとともに、連通穴を介して他方の電極に供給されることが開示されている(当該文献の公報第3頁第22行〜32行)。
然るに、特許文献10においては、陽極室と陰極室を連通させる連通穴が設けられているが、陽極電極、陰極電極、イオン交換膜それ自体には、貫通孔は、設けられておらず、原料水は、陽極電極、陰極電極、イオン交換膜の同一部位を流れることはなく、電解効率がきわめて低いという欠点を有している。
【0009】
また、従来、特許文献11においては、空気中の水分が電気分解されてオゾンが発生する電解式オゾン発生素子において、陽極と、固体高分子電解質隔膜と、陰極を貫通する直径5mmの貫通孔を中央にあけることが開示されている(当該文献の公報第4頁右欄第11〜13行、第7頁右欄第7〜14行及び第10図参照)。
然るに、特許文献11においては、空気を供給してその中の水分からオゾンを発生させる気相反応に関するものであり、貫通孔は、原料である空気が流通するためのものであり、液体を流通させるためのものではなく、液体を流通させる場合と貫通孔を設ける目的を異にしている。尚、この文献10の図10においては、陽極に複数の穴を設けることが記載されているが、陽極の穴に対応する全ての部分の固体高分子電解質隔膜と、陰極に、貫通する穴が設けられておらず、貫通孔26は、中央の一つのみであり、これを液相反応に利用した場合、電解液のスムーズな流れを維持することはできず、効率的な電解を行うことができない。
【0010】
本発明は、オゾン水製造分野以外の分野としては、以下の分野にも適用される。
1.廃水・廃液処理
1)アンモニア化合物の電解
生活廃水、畜産廃液、養殖場廃水、および一部の工業廃水などに含まれるアンモニア化合物の分解手段として、これら廃水、廃液の電気分解が有効であることが、明らかにされている。たとえば、住友電工技術論文集、「ダイヤモンド電極を用いたアンモニア性窒素廃液の電気化学的処理の基礎研究」があり、この中では、電解を効率的におこなう目的で、塩化ナトリウムと硫酸ナトリウムなどの支持電解質が添加されているが、固体高分子電解質隔膜を陽陰極間に挟み込んだ本発明による膜−電極接合体を用いることにより、第三成分であるそれらの電解質を添加することなく処理をおこなうことが可能となる。なお、本発明による膜−電極接合体の構造上のその他の特長は、このような用途に於いても実用セル設計上有益である。
【0011】
2)有機物含有水の処理
有機物含有廃水の電解処理装置に関連して複数の特許が出願されているが、いずれも、本発明と異なった構造の電解セルを用いたものである。たとえば、特許文献12では、スタックセルの提案がなされている。この提案になるセルは、液が電極面に平行に流れることを前提としているため、反応均一性および流体力学的効率が低い。また、この提案のセルでは、固体高分子電解質隔膜を用いないため、導電性の低い廃水の処理に難点がある。
また、特許文献13では、メッシュ状の電極を用い、陽極・陰極間を処理液が通過する構造を提案しているが、最終的にセルの側面から流出するため、マクロの流路は同様に電極と平行となる。固体高分子電解質隔膜を持たない欠点は、上記と同様である。
さらに、特許文献14では、芳香族化合物、PCB、ダイオキシンなどの溶存難分解性物質の電解による除去方法が提案されている。ここでは、ニッケルフェライト電極が用いられ、高い分解効率を得るためには出来る限り高い電解密度で電解することが推奨されている。本発明による膜−電極接合体を用い陽極をたとえば導電性ダイヤモンドとすることにより、高い電流密度が実現できる。また、固体電解質を用いているため、導電性の低い被処理水に於いても高い電流密度による操業が可能となる。また、特許文献15においても同様にダイオキシンなどの有機塩素化合物の電解による分解除去方法が提案されているが、固体高分子電解質隔膜を用いた本発明による膜−電極接合体を用いることで、そこで加えられる電解質水溶液が不要となり、コストならびに環境負荷を低減できる。
【0012】
2.災害時・途上国向け飲料水製造装置
災害時あるいは発展途上国においては、河川水の飲用水化ニーズが高い。そのため、安全な水の確保を可能とする技術が開発され、特許出願もなされている。特許文献16は、被処理水に食塩を添加し電解により生成される次亜塩素酸ソーダによる殺菌効果により病原菌を殺菌するものであるが、光触媒による殺菌とのハイブリッドという煩雑さに加え、次亜塩素酸ソーダが比較的長時間残留すること、また、含有有機物、特にダイオキシンを初めとする極めて有害な有機塩素化合物の分解効果は、期待しがたいという問題がある。(注記:水道水のように処理後、飲用前に一定時間の経過が担保される状況では次亜塩素酸の残留は問題とならないが、このようなオンサイト型の一般用途向けでは、処理後直ちに飲用されるケースを想定する必要がある。)また、特許文献17に代表される次亜塩素酸化合物を殺菌剤として注入して用いる方法は、上記と同様な問題があり、また一部の溶存有機物が塩素化されることによる有害物質の生成も危惧される。膜−電極接合体によるセルを用いた場合、殺菌は主に生成されるオゾンによるものである。オゾンは、生成後、急速に分解し飲用時にはその濃度が十分に低下する。
【0013】
3.電解合成
特定の化学物質製造プロセスとして、しばしば、電解合成法が用いられる。その際、原料溶液の電離度が低く伝導性に乏しい場合、支持電解質として酸あるいは塩類が添加される。たとえば、特許文献18では、ヒドロキシピバルアルデヒドとアルコ−ルから電解反応によりヒドロキシピバリン酸エステルを電解合成するにあたり、中性ハロゲン酸塩を支持電解質として用いることを提案している。それにより、電解効率は高められるとするが、支持電解質の製品中残留が懸念される。また、プロセスが複雑となり、コスト的にも不利である。本提案の膜−電極接合体によるセルを用いた場合、陽極および陰極に接して固体電解質が設けられているため支持電解質の添加を必要としない。なお、本発明による膜−電極接合体の構造上のその他の特長は、有機物の電解合成用途に於いても有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−269686号公報
【特許文献2】特開2005−336607号公報
【特許文献3】特開平9−157900号公報
【特許文献4】特開平10−130876号公報
【特許文献5】特開2004−060010号公報
【特許文献6】特開2002−173789号公報
【特許文献7】特開2005−177671号公報
【特許文献8】特開2008−150665号公報
【特許文献9】特開2004−285374号公報
【特許文献10】特開2008−279341号公報
【特許文献11】特開平11−131276号公報
【特許文献12】特開2006−281013号公報
【特許文献13】特表2002−531704号公報
【特許文献14】特開2003−126860号公報
【特許文献15】特開2004−305290号公報
【特許文献16】特開2010−064045号公報
【特許文献17】特開2009−262079号公報
【特許文献18】特開平6−73584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、上記の従来方法の欠点を解消し、電解セルの流入口より流入した原料水は、その流れの方向を変えることなく、直ちに電解反応サイトである両電極面に到達し、短時間で電解セル外に排出され、秒オーダーで分解し、時間と共に急速に濃度の低下するオゾンを含有する水、いわゆるオゾン水を高効率で製造でき、流路圧力損失を抑え、且つその製造能力を落とすことなく装置を小型化することができ、さらに簡便な方法によって高効率かつ低コストで生産できるとともに高機能性をも獲得した膜−電極接合体、これを用いる電解セル、オゾン水製造装置、オゾン水製造方法、殺菌方法及び廃水・廃液処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明における第1の課題解決手段は、上記目的を達成する為、陽イオン交換膜から成る固体高分子電解質隔膜とその両面にそれぞれ密着させた陽極と陰極とより成り、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の全面に亘り、これらを貫通する直径0.1mm以上の複数の貫通孔を設けることにより、膜−電極接合体を構成したことにある。
【0017】
本発明における第2の課題解決手段は、膜−電極接合体の前記陽極の陽極触媒として、導電性ダイヤモンド、二酸化鉛、貴金属及び貴金属酸化物を用いたことにある。
【0018】
本発明における第3の課題解決手段は、前記膜−電極接合体の陽極及び陰極に通電部材を設けることにより電解セルを構成したことにある。
【0019】
本発明における第4の課題解決手段は、前記膜−電極接合体を複数段重ねてスタック構造とし前記陽極及び陰極に通電部材を設けることにより電解セルを構成したことにある。
【0020】
本発明における第5の課題解決手段は、前記電解セルを構成する前記陽極及び前記陰極の一方に、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に原料水を供給する手段を設けるとともに、前記陽極及び前記陰極の他方に、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に、前記電解セルにより生成したオゾン水を流出する手段を設けることによりオゾン水製造装置を構成したことにある。
【0021】
本発明における第6の課題解決手段は、前記電解セルを構成する前記陽極に、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に原料水を供給する手段を設けるとともに、前記陰極にこれと直角方向又は斜め方向に対流誘導筒を設け、前記電解セルを処理水タンク内に投げ入れ、前記陰極及び陽極より発生する、水素、酸素及びオゾンガスに伴う自然対流により、前記電解セルを稼働するようオゾン水製造装置を構成したことにある。
【0022】
本発明における第7の課題解決手段は、オゾン水製造装置として、前記電解セルを用い、前記電解セルを上水道蛇口あるいはそれに類する非精製水の排出口に取り付けたことにある。
【0023】
本発明における第8の課題解決手段は、前記電解セルを用い、前記陽極及び前記陰極のいずれか一方より、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に、前記原料水を通過させてオゾン水を製造するオゾン水製造方法を構成したことにある。
【0024】
本発明における第9の課題解決手段は、前記電解セルを用い、前記原料水として微量のアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含む水を用い、該原料水の水流を陽極側から陰極方向に供給し、かつ、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に該原料水を通過させ、陰極及び隔膜に水酸化析出物が堆積することを抑制し、オゾン水を製造するオゾン水製造方法を構成したことにある。
【0025】
本発明における第10の課題解決手段は、前記オゾン水製造方法によって製造したオゾン水を用いて被処理水を殺菌することにある。
【0026】
本発明における第11の課題解決手段は、前記オゾン水製造方法によって製造したオゾン水を用いて廃水・廃液を処理することにある。
【0027】
本発明における第12の課題解決手段は、前記電解セルを用い、前記原料水として殺菌用の被処理水を用い、前記陽極及び前記陰極のいずれか一方より、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に、前記被処理水を通過させて前記被処理水を殺菌することにある。
【0028】
本発明における第13の課題解決手段は、前記電解セルを用い、前記原料水として廃水・廃液を用い、前記陽極及び前記陰極のいずれか一方より、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に、前記廃水・廃液を通過させて前記廃水・廃液を処理することにある。
【0029】
本発明において、オゾン水とは、純水又は水道水等、殺菌用被処理液、廃水・廃液等を本発明による電解セルを用いて電解することによって得られたオゾンガスを主として含有する電解生成物であるが、オゾンガスのほかOHラジカルやスパーオキサイドアニオン等の酸素ラジカル、過酸化水素及びその他の酸化性物質をも含有するオゾン含有水を意味するものである。このオゾン水の作用としては、低pH(酸性)ではオゾンガス自体が酸化の主体となり、高pH(アルカリ性)ではオゾンガスが分解し、そのとき生成するOHラジカルによる酸化が主体となり、総酸化等量が同じ場合でも酸化作用はさらに強力となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明による膜−電極接合体、これを用いる電解セルによれば、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の全面に亘り、これらを貫通する直径0.1mm以上の複数の貫通孔を設けることにより、膜−電極接合体を構成しているので、従来セルと比較し、経時電圧上昇が少なく、極めて長寿命となり、メンテナンスの低減、コスト削減効果を達成することができるとともに、電解電圧が低いため、消費電力を削減することができる。
本発明によるオゾン水製造方法及びオゾン水製造装置によれば、
1)原料水を陽極側から供給した場合、電解セルの陽極側で生成したオゾン水は、陽極及び固体高分子電解質隔膜に設けられた複数の貫通孔を通って、速やかに陰極側に達し、陰極においてOHラジカルが生成するので、強力な酸化作用を発揮することができる。尚、原料水を陰極側から供給した場合、電解セルの陽極側で生成したオゾン水は、そのまま系外に排出されるので、高濃度のオゾン水を製造することができる。
2)本発明による電解セルの陽極の孔より流入した原料水は、その流れの方向を変えることなく、直ちに電解反応サイトである陽極面に到達し、電解反応生成物又は分解物を得た後に、短時間で固体高分子電解質隔膜及び陰極の孔を通過して、電解セル外に排出されるため、陰極において固体高分子電解質隔膜中を泳動してきたH+イオンの還元、すなわち水素発生反応が優先して起きる陰極材を用いれば、陽極で得られた電解反応生成物又は分解物を高効率で製造することができる。特に、オゾン水中のオゾンは秒オーダーで分解し、時間と共に急速に濃度が低下するので、いわゆるこのオゾン水の製造に効果的である。
3)陽極を通過したオゾン水は、直ちに陰極側に流れ込み、その後円滑にかつ速やかに電解セル外に排出され、そのため、陰極液は生成直後の高濃度オゾンガスを含みかつ電位が比較的高く保たれるため、主に微量のアルカリ土類金属のイオンを含む水を原料とするオゾン水製造方法で問題とされる水酸化物の堆積を抑制することができる。
4)流体配管の中間の長手方向にごく短い幅で配置することができるため流路圧力損失が抑えられ、且つ装置の小型化が可能となるとともに、また、陽極、陰極及び固体高分子電解質隔膜から成るユニット(膜−電極接合体)は、必要に応じ複数を重ねて電解セルを構成し、装置能力を容易に増大させることが可能であり、製造能力を落とさずに装置のさらなる小型化が実現できる。そのため、一般上水道への後付による設置を前提とするような、小型装置の商品化設計が容易となる。
5)水の入った容器に脱着の容易な可搬式電解セルを投入して電解を行う、いわゆる投げ込み型装置によるオゾン水製造電解にも適する。水の循環は、装置に組み合わせたポンプによってもよいが、入り口と出口をオープンとし原料水の流れ方向が重力方向に平行となる様に電解セルを設置しさらに装置の出口側に対流促進誘導筒を設けた構造として、電解によるオゾンガス並びにオゾンガスとともに生成される酸素ガス及び水素ガスの上昇に伴う自然対流を利用することで、投げ込み型装置の構造が簡素化され実用上有益である。
6)更に、本発明によるオゾン水製造方法及びオゾン水製造装置は、既存の技術と組み合わせるとさらに多くの用途へ実用化の範囲を広げることができる。たとえば、オゾンは水中で容易に分解するため、オゾン濃度が時間と共に急速に低下するオゾン水の実用寿命を延長するために提案されたナノバブルオゾン水(特開2005−246293)の製造装置は、本発明によるオゾン水製造装置の一部にたとえば超音波発生装置を組み込むことにより実現が可能である。この際、陰極あるいは陽極を超音波伝達板として利用すれば、装置サイズをあまり大きくせずに機能を追加できる。
7)また、同様に安定したオゾン水を得る方法として、原料水中あるいは生成オゾン水中に炭酸ガスを溶解させる方法(特開2003−117570他)が提案されているが、本発明によるオゾン水製造方法及びオゾン水製造装置と組み合わせることが容易に可能となる。
更に、本発明方法による殺菌方法によれば、高効率にオゾン水を得ることができ、また被処理液が膜−電極接合体の貫通孔を通過する際に、菌に大きなダメージを及ぼす強酸性となっている陽極反応面及び固体高分子電解質隔膜と必ず接触する構造となっていることに加え、陽極液中のオゾン水が陰極に接することにより生成し強力な酸化作用を持つOHラジカルの作用により高効率に被処理液を殺菌することができる。また、本発明による電解セルは高電力効率でありかつ小型化に適した構造のため、発展途上国あるいは被災地における可搬型の小型飲料水殺菌装置の実現に好適である。
加えて、本発明による廃水・廃液処理方法によれば、オゾン水による通常の酸化作用に加え陽極液中のオゾン水が陰極に接することにより生成し強力な酸化作用を持つOHラジカルの作用により被処理液が効率的に、且つ均一に処理され、また本発明による膜−電極接合体は容易に複数段スタックすることが可能なため、高効率の処理装置が実現できる。また、被処理液を電解セルに直接通過させると、電解液と被処理液とが反応サイトである電極と固体電解質の境界面をほぼ同一条件で通過する構造となり、更に高効率の処理を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に使用する電解セルの一実施態様を示す図。
【図2−1】本発明によるオゾン製造装置の一実施態様を示す断面図。
【図2−2】本発明によるオゾン製造装置の一実施態様を示す概念図。
【図3】本発明に使用する電解式オゾン発生装置の他の実施態様を示す図。
【図4】本発明に使用する電解式オゾン発生装置の更に他の実施態様を示す図。
【図5】本発明に使用する電解式オゾン発生装置の更に他の実施態様を示す図。
【図6】実施例22と比較例3における電解時間と電解電圧との関係を示す図。
【図7】実施例23と参考例1における電解時間と電解電圧との関係を示す図。
【図8】比較例に使用した電解セルを示す図。
【図9】比較例に使用したオゾン製造装置を示す断面図。
【図10】実施例26と比較例5の脱色効果の差異を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の態様を図1に基づいて説明する。
図1は、本発明によるオゾン水製造方法及びオゾン水製造装置に使用する電解セルの一態様を示す図面であり、電解セル8は、陽イオン交換膜から成る固体高分子電解質隔膜3の一方の側面に、オゾン発生用の陽極触媒を所定の形状と物性を持つ構造体に担持させて成る陽極1が密着され、その前面に通電部材4が設けられている。陽イオン交換膜から成る固体高分子電解質隔膜3の他方の側面に水素発生用の陰極触媒を所定の形状と物性を持つ構造体に担持させて成る陰極2が密着され、その前面に通電部材5が設けられている。陽極1、陰極2及び固体高分子電解質隔膜3の全面に亘り、これらを貫通する直径0.1mm以上の複数の貫通孔11が設けられている。6及び7は、通電部材4及び5にそれぞれ接続された通電コードである。貫通孔11は、2個以上としその数は多い方がオゾン発生部位である陽極/固体高分子電解質隔膜界面の露出面積が増大し、好ましい。ただし、本発明の効果を十分に発揮させるためには、貫通孔11は、小さすぎると水の流路抵抗が増大するため、直径0.1mm以上とし、しかも、その数は可能な限り多数として水の円滑な流れを確保することが望ましい。貫通孔11の直径は、1〜5mmが好ましい。8’は、陽イオン交換膜から成る固体高分子電解質隔膜3の一方の表面にオゾン発生用の陽極触媒を所定の形状と物性を持つ構造体に担持させて成る陽極1を密着させ他方の表面に水素発生用の陰極触媒を所定の形状と物性を持つ構造体に担持させて成る陰極2を密着させて構成された膜−電極接合体である。
複数の貫通孔11は、陽極1、陰極2及び固体高分子電解質隔膜3の全面に亘り形成することが必要であり、この貫通孔11を介して、原料液及び電解生成物は、陽極側から陰極側へ、又は陰極側から陽極側に移行する。原料液及び電解生成物の陽極側から陰極側又は陰極側から陽極側への移行をスムーズに行うためには、陽極1、陰極2及び固体高分子電解質隔膜3の貫通孔11は、同一部位に設けることが好ましいが、原料液及び電解生成物の移行に妨げとならなければ、その位置は、相互にずれていてもよい。例えば、陽極1、陰極2としてメッシュ状のものを用い、固体高分子電解質隔膜3には、陽極1、陰極2としてメッシュの開口部の一部と連通できるよう貫通孔を設けてもよい。
【0033】
図2−1及び図2−2は、本発明によるオゾン水製造方法及びオゾン水製造装置の一態様を示す図面であり、電解セル8には、通常電解用直流電源が接続されている。9は、陽極1の前面に設けられた陽極室、10は、陰極2の前面に設けられた陰極室、12は、電解セル8の陽極室9に原料水を供給するパイプ、13は、電解セル8の陰極室10より電解により生成するオゾン水を流出するパイプ、14は、電解セル8の陽極室9に原料水を供給する流入口、15は、電解セル8の陰極室10よりオゾン水を流出する流出口である。
【0034】
図2−1及び図2−2においては、前記電解セル8を構成する前記陽極1、前記固体高分子電解質隔膜3及び前記陰極2の、これらを貫通する直径0.1mm以上の複数の貫通孔11が2個以上設けられ、かつ、前記陽極室9に前記陽極1、前記固体高分子電解質隔膜3及び前記陰極2の表面に対して、これと直角方向又は斜め方向に原料水の流入口14、原料水供給用のパイプ12が接続され、前記陰極室10にこれと直角方向又は斜め方向にオゾン水の流出口15、オゾン水流出用のパイプ13が接続される。
電解セル8としては、陽極室9、陰極室10、原料水の流入口14、オゾン水の流出口15は設けることなく、通電部材4、5を直接、原料水供給用のパイプ12、オゾン水流出用のパイプ13に接続してもよい。
また、前記電解セル8は、原料水の流れ方向に対して、直角方向ではなく、斜め方向に設けることもでき、斜め方向に設けた場合、電解面積が広くなり、電流効率、オゾンの生成量を更に増加することができる。
【0035】
図3は、本発明の他の実施態様を示すものであって、小容量の電解装置を想定して陽極1の固体高分子電解質隔膜3と接する電解面の外周部をドーナッツ状に加工したイオン交換能のないフッ素樹脂フィルムより成る面積制限リング16により覆うことにより、有効電極面を中心部の直径を制限したものである。このようにすると、特に低電流かつ水量の比較的多い領域で高い電流効率が得られた。
【0036】
原料水としては、純水、水道水又は少量の塩素又は次亜塩素酸塩を含有する水を使用することができる。原料水は、通常、陽極側より流入し、陰極側より電解により生成するオゾン水を流出させることが好ましい。しかるに、原料水として、純水を使用する場合、上記に加えて、原料水としての純水を陰極側より流入し、陽極側より電解により生成するオゾン水を流出させることもできる。
【0037】
前記電解セル8は、膜−電極接合体8’を複数段重ねてスタック構造とした電解セルを用いることができる。即ち、陽極/固体高分子電解質隔膜/陰極を単位とする要素体を2段重ねとし、上記と同様に電解セルを構成すると、オゾン濃度及び電流効率を向上することができる。膜−電極接合体8’を2段とすることで必要な電解電圧は2倍強となるが、得られるオゾン水中のオゾン濃度を57〜67%高めることが出来る。なお、膜−電極接合体8’は薄い構造体のためそれらを複数重ねてもほぼ同一形状の電解セルを用いることができる。
【0038】
前記原料水として微量のアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含む水、例えば水道水を用いる場合には、原料水の水流を陽極側から陰極方向に流すよう、前記陽極室9に前記陽極1、前記固体高分子電解質隔膜3及び前記陰極2の表面に対して、これと直角方向又は斜め方向に原料水の流入口14、原料水供給用のパイプ12を接続し、前記陰極室10にこれと直角方向又は斜め方向に電解により生成するオゾン水の流出口15、オゾン水流出用のパイプ13を接続し、原料水を陽極側より陰極側に通過させることが必要である。これにより陰極2及び固体高分子電解質隔膜3に水酸化析出物が堆積することを抑制することができる。
【0039】
図4は、本発明の更に他の実施態様を示すものであって、前記電解セル8に通電コード6、7を接続するとともに、電解により生成するオゾン水の流出口15に直角方向又は斜め方向に対流誘導筒17を設け、前記電解セル8を処理タンク18内に投げ入れたものである。本装置によると、陰極2及び陽極1より発生する、水素、酸素及びオゾンガスに伴う自然対流により、前記電解セルを稼働することができるようになり、電動ポンプ等の動力機構を設ける必要が無くなり、装置を小型化することができる。
また、通電コード6、7を設ける代わりに、電解セル8に電池を組み込めば、更に、可搬性を向上させることができる。
【0040】
図5は、本発明の更に他の実施態様を示すものであって、前記電解セル8を上水道蛇口19あるいはそれに類する非精製水の排出口に取り付けたものである。本発明による電解セル8は、前記陽極室9及び前記陰極室10のいずれか一方より、前記陽極1、前記固体高分子電解質隔膜3及び前記陰極2の表面に対して、直角方向又は斜め方向に原料水を通過させてオゾン水を製造するので、本発明で用いる電解セル8は、流体配管の中間の長手方向にごく短い幅で配置することができるため流路圧力損失が抑えられ、且つ装置の小型化が可能である。
【0041】
電解セル8に使用する陽極1の陽極触媒としては、導電性ダイヤモンド電極が好ましい。貴金属及び貴金属酸化物電極に比較して、オゾン発生効率が高く、また二酸化鉛電極のような環境に及ぼす負荷がなく、停止時に放置しても活性が維持されるため、汎用性に優れているからである。
ダイヤモンドは、ドーピングにより電気伝導性の制御も可能であることから、電極材料として有望とされている。ダイヤモンド電極は非常に広い電位窓を持ち、酸素発生反応に対する活性化過電圧が大きく、陽極反応では酸素以外にオゾンの生成が報告されている(特開平11−269686号公報)。陽極基材としては処理水中で安定な不働態化被膜を形成するタンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム及びシリコン等の金属及びそれらの合金を用いれば、ダイヤモンド触媒は必ずしも陽極を完全に覆わなくともよく、前記基材の一部が露出していても大きな支障はない。代表的な熱フィラメントCVD法について以下に説明する。炭素源となるメタンCH4など炭化水素ガス、或いはアルコールなどの有機物を用い、CVDチャンバー内に水素ガスと共に送り込み、還元雰囲気に保ちながら、フィラメントを熱し、炭素ラジカルが生成する温度1800〜2400℃にする。このときダイヤモンドが析出する温度(750〜950℃)領域に電極基材を設置する。水素に対する炭化水素ガス濃度は0.1〜10vol%、圧力は20hPa〜1013hPa(1気圧)である。
【0042】
ダイヤモンドが良好な導電性を得るために、原子価の異なる元素を微量添加することは不可欠である。ホウ素BやリンPの好ましい含有率は1〜100000ppmであり、更に好ましくは100〜10000ppmである。原料化合物にはトリメチルボロン(CH33Bを用いるが、毒性の少ない酸化ホウ素B23、五酸化二燐P25などの利用も好ましい。電極基材の形状としては、板のみならず、粒子、繊維、棒及び本発明で用いたような穴明き板などが可能である。
【0043】
電解セル8に使用する陰極2の陰極反応は主に水素発生であり、水素に対して脆化しない電極触媒が好ましく、白金族金属、ニッケル、ステンレス、チタン、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、シリコン、金、銀、カーボン、ダイヤモンド、各種金属炭化物などが好ましい。陰極2の陰極基材としてはステンレスの他、ジルコニウム、カーボン、ニッケル、チタン、モリブデン、タングステン、シリコン及びそれらの炭化物などに限定される。本発明の装置では、いずれもオゾン等の酸化性物質の溶解した水と接触する配置となるため、酸化耐性に優れたものが好ましく、またステンレスやニッケル等電極基材は、そのまま電極触媒として使用することができる。
【0044】
電解セル8に使用する固体高分子電解質隔膜3としては、従来から知られている陽イオン交換膜が広く使用できるが、特にスルホン酸基を有し、化学安定性に優れるパーフルオロスルホン酸型陽イオン交換膜が好適である。
【0045】
また、陽極触媒として、導電性ダイヤモンド、無定型カーボン、グラファイト、二酸化鉛、貴金属および貴金属酸化物を反応触媒活性等の観点から適宜選択して、電極を入れ替えるだけで、有機電解合成、ダイオキシンを含む有機塩素化合物の分解、廃液処理、開発途上国における河川水の飲料水化、オゾン水製造等の用途に対応させることができる。
【0046】
更に、本発明による殺菌方法においては、原料水として、純水又は水道水等を用いて、本発明による電解セルによりオゾン水を製造した後、製造されたオゾン水を用いて、被処理液を殺菌する。
【0047】
また、本発明による他の殺菌方法としては、原料水として、純水又は水道水等の代わりに、直接、菌を含有する被処理液を電解液として、本発明による電解セルに供給し、該被処理液を直接電解し、被処理液が膜−電極接合体の貫通孔を通過する際に、強酸性となっている陽極反応面及び固体高分子電解質隔膜に接触させると同時に、オゾン水を製造し、製造されたオゾン水により被処理液を殺菌してもよい。
【0048】
更に、本発明による廃水・廃液処理法においては、原料水として、純水又は水道水等を用いて、本発明による電解セルによりオゾン水を製造した後、製造されたオゾン水を用いて、廃水・廃液を処理する。
【0049】
また、本発明による他の廃水・廃液処理法としては、原料水として、純水又は水道水等の代わりに、直接、被処理液である廃水・廃液を電解液として、本発明による電解セルに供給し、該廃水・廃液を直接電解し、含有化合物をより低分子量の化合物に分解すると同時に、オゾン水を製造し、製造されたオゾン水により廃水・廃液を処理してもよい。
【実施例】
【0050】
次に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
<実施例1から8>
図1に示す電解セル8、図2−1、図2−2に示すオゾン水製造装置を次のようにして製作した。
直径25mm厚さ3mmのニオブ板に直径3mmの孔を図1の配置で31個設けた基材にボロンドープダイヤモンド(BDD)を約9.6g/m2単位面積重量でコーティングした陽極とSUS304の板材を陽極と同一形状に加工し両面をエミリー紙で1000番まで研磨した陰極を用い、陽極/陰極間には、市販のパーフルオロスルホン酸型陽イオン交換膜(商品名:ナフィオン350、デュポン(株)の登録商標)を直径25mmに切り出し電極と同様に直径3mmの孔を計31個空けた固体高分子電解質隔膜を挟み装置の基本要素とした。この構成から成る要素体を樹脂製の筐体に組み入れ電解セルとし、陽極及び陰極の両側に設けた純チタン製通電部材を通じ通電した。両電極と固体高分子電解質隔膜間の密着度合いは電解装置のオゾン生成特性に影響を与えるため、電解セルの一端に切られたM30のねじを5Nmのトルクで締め込むことで一定の圧力を確保した。このように構成した電解セルは、小型で且つ内部の被電解水の流路が直線的であり圧力損失が抑えられると同時に、既存配管への取り付けも容易である。
原料水としては20℃に保った純水(イオン交換水)を用い上記電解セルに一定流量を陽極側から導入した。また、直流定電流装置を用いて装置に一定電流を通電し、電圧計により電極間電圧(セル電圧)をモニターした。設定した原料水の流量及び電流値は表1中に示す。電解により生成したオゾン水中のオゾン濃度は、電解開始後5分以上経過して条件が安定した時点で電解セル出口水を一定量採取し、日本オゾン協会の暫定規格「オゾン濃度測定方法(平成6年3月刊)」に準拠し、硫酸酸性、ヨウ素・チオ硫酸ナトリウム滴定法により測定した。電解試験は、本電解装置の特性を正しく評価する目的で、電流値を1.67Aから3.88A、流水量を毎分170mlから毎分320mlまでの間でそれぞれ数水準を設定し実施した。また、水を供給する方向を反転し陰極側から導入する試験も実施した。その結果を表1に示す。
生成されるオゾン水中のオゾン濃度は、オゾン水としての殺菌作用や洗浄作用の効果を左右するパラメーターであり、その用途により異なる一定範囲内の濃度で有ることが求められるが、そのような用途要求濃度より生成オゾン水中の濃度が高い場合には、流水量を増やすなどにより容易に調整が可能であるため、一般に装置能力としての生成オゾン濃度は高い方が好ましいとされる。
【0052】
表1から次のような結果が明らかになった。
1)得られたオゾン濃度は、2.9ppmから6.2ppmであった。
2)得られたオゾン濃度は、実施例1と実施例2の比較、あるいは実施例3、4及び5の比較から、同一水量下では、電流値に伴い増大することがわかった。
3)得られたオゾン濃度は、実施例1と実施例3の比較、あるいは実施例2と実施例5の比較から、水の流量の増大と共に低下することがわかった。
4)水の流入方向については、実施例7の陰極から導入する場合と比較し、実施例1の陽極から導入した場合の方が、そのほかの条件が同じであるにもかかわらず,若干高いオゾン濃度が得られることがわかった。
5)オゾン生成は前述のように酸素発生との競合反応のため一般に酸素とオゾンの発生比率を表す電流効率の高低が、電解装置の性能比較のためのパラメーターとなる。今回設定した実施例1〜8の電解条件下では、その値は、5.4%から8.8%の範囲にあり、オゾン濃度比較と同様に電流効率を他の条件の等しい実施例間で比較すると、その実測値は電流の増大と共に低下する傾向にあり、また水の流量の増大と共に明確に上昇することがわかった。
【0053】

【0054】
<実施例9から16>
実施例1から8までと同一の電極と固体高分子電解質隔膜及び電解セルを用い、小容量の電解装置を想定して陽極の固体高分子電解質隔膜と接する電解面の外周部を図3に示すように、ドーナッツ状に加工したイオン交換能のないフッ素樹脂フィルムから成る面積制限リング16により覆うことにより、実施例1から8では直径25mm、面積4.91cm2であった有効電極面を中心部の直径13mmに制限し1.33cm2とした。純水を用いた電解試験の結果を表2に示す。表2中には原料水の流量及び電流値などを記載したが、記載のないそのほかの条件は、実施例1から8までと同一である。本実施例9〜16においては、オゾン濃度は、条件により1.4ppmから8.5ppm、電流効率は5.4%から14.4%であった。特に低電流かつ水量の比較的少ない領域、実施例9、10、12、13で設定した条件下では、10%を超える高い電流効率が得られた。ただし、電流密度が0.38A/cm2と高く、かつ水流量が毎分170mlと比較的多い領域では、(実施例16に示すように、)電流効率が5.4%にとどまり、電極面積を制限したことによる電解セルの能力の限界が窺われる。
【0055】

【0056】
<実施例17から20>
実施例1記載の陽極/固体高分子電解質隔膜/陰極を単位とする膜−電極接合体8’を2段重ねとし、実施例1と同様に電解セルに組み込み、オゾン製造試験を実施した。オゾン濃度測定結果を表3に示す。電流値の増加と共にオゾン濃度が増加するのは実施例1から8と同様であるが、同一電流値かつ同一水流量で試験した1段セルと2段重ねのセルをそれぞれ実施例1と実施例17あるいは実施例6と実施例19で対比して比較すると、膜−電極接合体8’を2段とすることで49〜57%高いオゾン濃度が得られた。なお、膜−電極接合体8’は薄い構造体のためそれらを複数段重ねてもほぼ同一形状のセルをそのまま用いることができる。
【0057】

【0058】
<実施例21>
実施例1から8に記載のSUS304製陰極と固体高分子電解質隔膜間に直径5マイクロメートルの長繊維カーボンファイバー約20mgをランダムに挿入しカーボン陰極とした。そのほかの構成要素及び試験条件は、実施例1と同一である。結果を表4に示す。陰極材料以外が同一条件である実施例1と比較すると得られるオゾン濃度は、3.7ppmに対し2.9ppmと若干低い。これは、おそらく陰極として用いたカーボンのオゾン還元触媒能がステンレスと比較し高いためと推定される。そのため、本方式によるオゾン水製造法では、オゾン分解活性能の低い材料を陰極として用いることが好ましい。ただし、殺菌あるいは廃水処理において、被処理液を電解セルに直接供給して処理を行う場合には、陰極においてオゾンが分解される過程で生成するOHラジカルの強力な酸化作用により殺菌あるいは被処理物質の分解反応が促進されるため、オゾン分解活性能の高い材料を陰極触媒として選択することも有益である。
【0059】

【0060】
<比較例1及び2>
比較例1及び2として、図8に示す膜−電極結合体20’、図9に示すオゾン水製造装置を次のようにして製作した。即ち、実施例1から8に記載と同様に貫通孔を設けた陽極21及び陰極22の間に、孔加工を行っていない市販のパーフルオロスルホン酸型陽イオン交換膜(商品名:ナフィオン350、デュポン(株)の登録商標)より成る固体高分子電解質隔膜23を挟み込み、樹脂製M2ねじ24で固定して膜−電極接合体20’を構成し、これに通電部材25を接続し、電解セル20とし、長手方向に拡大した電解セル20の内部に原料水が電極面に平行に流れるように配置したオゾン水製造装置を用い実施例と同様に純水を原料水としたオゾン水生成試験を実施した。その結果を表5に示す。
【0061】

【0062】
実施例6を電解セル配置以外の条件が等しい比較例1と比較すると、オゾン濃度は、4.1ppmに対し3.2ppm、電流効率は、7.8%に対し6.6%といずれも実施例の方が顕著に高い。
【0063】
次に、実施例1から8及び実施例17から20に共通に関わる電力効率に関する検討結果を記載する。
電解によるオゾン水製造装置の性能は、一般に、生成したオゾン水中のオゾン濃度あるいは電流効率により評価されるが、環境負荷の低減あるいはバッテリー駆動の可搬式装置設計の観点からは、電流効率ではなく、消費される電力効率により比較することが有意義であろう。その目的で、実施例1から8及び実施例17から20の中から、条件が等しく比較可能な数例(実施例1、8、17、19)を比較例1及び2と共に表6に抽出した。オゾン生成の電力効率は、実電流効率に実測電解電圧とオゾン生成の理論電解電圧の比を乗じて算出される。実施例1と比較例1で本提案による装置と従来装置の比較を行うと、電力効率は、それぞれ1.06%と0.66%であり本発明装置による電解の効率の高さは顕著である。ただし、実施例17の2段スタックセルの効率は0.73%と実施例1の1段セルの値1.06%より低い。これは、電解電圧が2倍強必要であることによる。同様に、水流量及び電流値がいずれも高い領域の効率は、実施例8及び実施例19において、それぞれ、0.70%及び0.64%であり、比較例2の0.48%より明確に高い。なお、6.1ppmと高いオゾン濃度が得られている実施例19の2段スタックセルであるが、電力効率の点では、1段スタックセルにやや劣ることは、実施例17と同様である。
【0064】


【0065】
次に、原料水として純水の代わりに水道水を用いた場合の実施例及び比較例を実施例22〜24、参考例1及び2、比較例3及び4として示す。実施例22〜24、参考例1及び2、比較例3及び4は、表7及び図6、図7に示した。電解中のオゾン濃度は実施例1から8記載の方法により測定した。ただし、本実施例では、原料水中に微量に含まれる塩素イオンから生成される次亜塩素酸などオゾン以外の酸化性物質も生じるが、実施例1から8記載のヨウ素法ではオゾンにそれらを加えた酸化性物質の総酸化等量が求められる。
【0066】

【0067】
<実施例22>
実施例1から8記載の電解セルを用い一般上水道水を原料として200時間の連続電解試験を行い、主にCaなど水道中に微量に含まれるアルカリ土類金属イオンが水酸化物として堆積する程度を調べた。原料水の流量は、毎分170mlとし電解電流は0.5Aとした。なお、一般上水道水中の金属イオン濃度は必ずしも一定ではなく変動することがあるためその影響を除外する目的で、本実施例22は、従来セル構造を用いた比較例3と同時に実施して効果検証の妥当性を確保した。その結果を図6に示した。
【0068】
<実施例23>
実施例23においては、実施例1から8記載の電解セルを用い、一般上水道水を原料水として実施例22と同一条件で連続電解試験を実施した。本実施例23は、水流方向を逆とした同一構造の電解セルによる参考例1と同時に電解試験を実施した。その結果を図7に示した。
尚、実施例22と実施例23とでは、使用した水道水が異なるため、水道水中に微量に含まれるCaなどのアルカリ土類金属イオンの含有量が異なっており、その結果、図6及び図7に示す通り、得られた電解電圧に若干の相違はあったが、全体的にはほぼ同一の電解電圧であった。
【0069】
<実施例24>
実施例1から8記載の電解セルを用い、実施例23と同様に一般上水道水を原料として連続電解試験を行なったが、本例では、電解電流2.0A、電解時間は5時間とし、水の流路を陽極側から導入し陰極側へ排出する場合と、その逆の場合とで大電流電解における初期の堆積物の状態を確認比較することを目的とした。その他の条件は実施例23と同一である。
【0070】
<比較例3>
比較例1及び2に記載の電解機能ユニットを用い同様に電解セルに配置し、一般上水道水を原料として流量は毎分170mlとし電解電流は0.5Aに設定して、連続電解試験を行った。本比較例3は、実施例22と同一原料水を用い、同時に実施した。電解時には陽極/陰極間の電圧を電解電圧としてモニターし、5分間隔で自動記録した。
【0071】
図6は、実施例22と比較例3における陽極/陰極間の電圧を電解電圧としてモニターし、5分間隔で自動記録した結果を示したものであり、実施例22は、比較例3と比較して、電解電圧の値が低く、しかも、その上昇が格段に緩やかである。
一般に実用水電解では電解電圧がある一定値に達した時点を目安に酸洗等により堆積物を除去し機能を復活させるためのメンテナンス作業が行われるが、たとえば、仮に15Vをそのための設定閾電圧と考えた場合、その電圧に至るまでの時間が実施例22では比較例3の約4倍長い。すなわち、本実施例22によれば、酸洗等による堆積物除去メンテナンスが必要とされるまでの無保全稼働時間を従来の4倍前後まで延長できる。本実施例22では、200時間後に比較例の電解電圧が電源の電圧限界電圧である30Vを超えたため比較例と共に試験を終了した。その後、電解セルを分解して実施例22及び比較例3の電解セル中の水酸化物堆積状態を比較したところ、表7に示す通り、実施例22の堆積量が比較例3と比べ顕著に少ないことが確認できた。以上から、本提案方式による電解方式によれば、不純物を含む原料水を用いたオゾン水製造装置のメンテナンスを大幅に低減することができることが判明した。
【0072】
<参考例1>
実施例1から8記載の電解セルを用い、一般上水道水を陰極側から陽極側に毎分170mlの流量で流し、実施例23と同時に電解電流0.5Aで200時間の連続電解試験を行った。試験時には電解電圧を5分ごとにモニターし自動記録した。試験後には、主にCaなど水道中に微量に含まれるアルカリ土類金属イオンが水酸化物として堆積する程度を調べた。
参考例1は、実施例23と水流方向を逆とした同一構造の電解セルによる電解試験を同時に行ったものであり、参考例1及び実施例23の電解時における陽極/陰極間の電圧を電解電圧としてモニターし、5分間隔で自動記録した。その推移を図7に示す。電解電圧は水酸化物の堆積に伴い徐々に増加するが、実施例23よりも参考例1の方が高い値で推移した。酸洗等による復活メンテナンス作業が必要とされる目安を仮に15Vと考えると、それに達するまでの時間は、実施例23の方が参考例1より約1.5倍長い。すなわち、その水酸化物堆積抑制効果の顕著な実施例1から8記載の電解セルを用いる場合であっても、水の流入方向を陽極側から陰極側とすることでその効果をさらに高めることができる。実施例23では、200時間後には電解電圧が20V前後に達したため参考例1と共に試験を終了した。その後、電解セルを分解して内部の水酸化物堆積状態を参考例1と比較した。その結果、表7に示す通り、実施例23の堆積量が参考例1と比べ明らかに少ないことが確認できた。以上から、本発明方式による電解方式によれば、不純物を含む水を用いたオゾン水製造装置のメンテナンスを低減することができる。
【0073】
<参考例2>
実施例1から8記載の電解セルを用いて一般上水道水を原料として、実施例24と同時に5時間の電解試験を行った。原料水の流量は、毎分170mlとし電解電流は2.0Aに設定した。原料水は陰極側から入り陽極側に排出される。電解後に電解セルを分解し水酸化物の堆積程度を調べた。
参考例2は、水の流路を陽極側から導入し陰極側へ排出する実施例24の場合の逆の場合を示したものであり、大電流電解における初期の堆積物の状態を確認比較することを目的とした。
その他の条件は実施例24と同一である。なお、原料水中の金属イオン濃度変動の影響を除外する目的で、参考例2の試験は実施例24と同時に実施した。
試験後、電解セルを分解して水酸化物の堆積状態を調べた。その結果、原料水を陽極側から陰極側へ排出した場合、その逆と比較し明らかに水酸化物の堆積が軽度であることが確認できた。その結果を表7に示した。電解中のオゾン濃度は実施例1から8記載の方法により測定した。ただし、実施例24及び参考例2では、原料水中に微量に含まれる塩素イオンから生成される次亜塩素酸などオゾン以外の酸化性物質も生じるが、実施例1から8記載のヨウ素法ではオゾンにそれらを加えた酸化性物質の総酸化等量が求められる。表7中には、測定された総酸化物等量をオゾン量換算で表記した。測定の結果、実施例24ではオゾン換算濃度6.6ppmが得られ、参考例2の6.3ppmを若干上回った。
【0074】
<比較例4>
一般の水道水は微量のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、塩素イオン及び炭酸イオンなどを含むため若干の導電性を示す。そのため、固体高分子電解質隔膜を陽極/陰極間に設置せずに実施例1から8記載の貫通孔を設けた陽極と陰極を至近距離に設置することで、本発明と同様な効果が得られる可能性を検証した。比較例4では、実施例1から8記載の貫通孔を設けた固体高分子電解質隔膜に換えて、直径25mmに加工した厚さ0.75mm、メッシュサイズLW6.6mm、SW4.4mmのポリエチレンメッシュをセパレーターとして陽/陰極間に設置し、水道水電解試験に供した。原料の水道水は、実施例24と同様に両極に開けられた貫通孔を通じて陽極側から陰極側に流出する。ただし、固体高分子電解質隔膜を用いない本例では、実施例22と同程度の電流を通電することは、電解電圧が電源の電圧能力の上限である30Vに達するため不可能であった。そのため、電解電流は初期の電解電圧が実施例22と同程度となる0.1Aとした。
本明細書記載の他の水道水電解と同様、電解電圧は時間と共に上昇し約140時間で20Vに達した。その後、電解を継続したが、電源の電圧能力の上限である30Vに達した330時間を経過した時点で最終的に電解を中止した。
試験後の電解セルを分解して調べたところ、電流値は5分の1と少ないにもかかわらず、参考例1と同程度の水酸化物の堆積が確認された。すなわち、本例より固体高分子電解質隔膜を用いないオゾン水製造は、非効率であることが明らかである。
【0075】
<実施例25>
実施例3及び実施例17によって得られたオゾン水を市販のスプレー装置により噴霧し、以下の殺菌試験を行った。
[殺菌試験]
被験菌として大腸菌(E.coli IFO3972)又はセレウス菌(Bacillus cereus IFO13494)を用い、定法により処理を行い、得られた菌を試験に供した。大腸菌は、前培養した菌を1白金耳量かきとり、SCD培地(日本製薬(株)製)に接種し、37℃で24時間振トウ培養したものを遠心分離し、107cells/mlに調整したものを試験に用いた。また、セレウス菌は、SCD寒天培地(日本製薬(株)製)に前培養した菌を1白金耳量かきとり、1mlの滅菌水に懸濁し、65℃、30分間の熱処理後、2回遠心分離洗浄を行ったものを試験に用いた。この試験用芽胞菌液を107cells/mlに調整した。
それぞれの菌を0.1ml採取し、それぞれ50mm×50mmのステンレス板(SUS304)の上に塗布した。市販のスプレー装置を使用し、実施例13及び17で得られたオゾン水を直ちに噴霧し、セレウス菌の場合は5分間、大腸菌の場合は1分間接触させた後、滅菌した綿棒で表面をふきとった。該綿棒を、チオ硫酸ナトリウム3.3%水溶液を添加したSCDLP培地(日本製薬(株)製)に浸漬し、付着物を十分に分散させた。37℃で48時間培養後、菌の生育の有無を確認し、以下の基準で評価した。
○:完全に滅菌されている(菌の生育が全く見られなかった)
×:滅菌が不完全である(菌の生育が見られた)。
その結果、本実施例によれば、表8に示す通り、完全に滅菌され、菌の育成が全く見られなかった。


【0076】
<実施例26>
固体高分子電解質隔膜をナフィオン117(商品名、デュポン(株)の登録商標)としたこと以外は、実施例1に記載の膜−電極接合体及び電解セルを用いた。
原料水としては、純水(イオン交換水)に赤色の染色原料であるアマランスを被処理物質として100ppm添加した溶液を用いた。本実施例で用いたダイヤモンド陽極は、環境ホルモンや農薬等の多数の化合物が分解できるため被処理物質はこれに限定されるものではない。
原料水500mlを上部開放の三角フラスコに入れて20℃に保ち、上記電解セルに毎分70mlで陽極側から導入し、陰極側から排出させ、さらに三角フラスコに還流させた。また、直流定電流装置を用いて電解セルに2.0Aを通電した。
電解開始後、初期及び0.5時間、1.0時間、1.5時間経過時において、上記三角フラスコ中から液を5mlずつ採取し、300〜700nmの波長範囲で紫外可視分光光度計(型番UV−2500PC、(株)島津製作所製)による測定を行った。アマランスの0.5時間経過時における吸収スペクトルを図10に示した。吸光度が小さいほどアマランス濃度も小さい。
波長521nm付近の吸収スペクトルを用い、初期の原料液の吸光度から検量線を作成して、0.5時間経過時のアマランス濃度を定量したところ、その濃度は4.7ppmであった。
アマランス濃度は時間が経過するごとに低下して、1.5時間経過時にはほとんど脱色され、その濃度は0.3ppmであった。分解生成物を分析したところ、アマランスの分解生成物であるCO3-、シュウ酸等の低分子量化合物が生成していることが確認された。
【0077】
<比較例5>
比較例1(膜の孔なし、原料水流は陽極及び陰極と平行)に記載の膜−電極接合体及び電解セルを用いたこと以外は、実施例26に記載の原料水、電解方法及び測定方法を用いて実験を行った。アマランスの0.5時間経過時における吸収スペクトルを図10に示した。吸光度が小さいほどアマランス濃度も小さい。
0.5時間経過時のアマランス濃度を定量したところ、その濃度は10.9ppmであった。
アマランス濃度は時間が経過するごとに低下して、1.5時間経過時にはほとんど脱色され、その濃度は0.3ppmであった。分解生成物を分析したところ、アマランスの分解生成物であるCO3-、シュウ酸等の低分子量化合物が生成していることが確認された。
図10から、実施例26のアマランス濃度の減少の速度が比較例5よりはるかに大きいことは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、流体配管の中間の長手方向にごく短い幅で配置することができるため流路圧力損失が抑えられ、且つ装置の小型化が可能となるとともに、また、陽極、陰極及び固体高分子電解質隔膜から成るユニットは、必要に応じ複数を重ねて電解セルを構成し、装置能力を容易に増大させることが可能であり、製造能力を落とさずに装置のさらなる小型化が実現できる。そのため、一般上水道への後付による設置を前提とするような、小型装置の商品化設計が容易となるとともに、更に、水の入った容器に脱着の容易な可搬式電解セルを投入して電解を行う、いわゆる投げ込み型装置によるオゾン水製造電解にも適する。しかも、水の循環は、装置に組み合わせたポンプによってもよいが、入り口と出口をオープンとし原料水の流れ方向が重力方向に平行となる様に電解セルを設置しさらに装置の出口側に対流促進誘導筒を設けた構造として、電解によりオゾンガス以外に生成される酸素ガス及び水素ガスの上昇に伴う自然対流を利用することで、投げ込み型装置の構造が簡素化され実用上有益である。更に、本発明によるオゾン水製造方法及びオゾン水製造装置は、既存の技術と組み合わせると多くの用途に実用化することができる。たとえば、オゾンは水中で容易に分解するため、オゾン濃度が時間と共に急速に低下するオゾン水の実用寿命を延長するために提案されたナノバブルオゾン水の製造装置は、本発明によるオゾン水製造装置の一部にたとえば超音波発生装置を組み込むことにより実現が可能である。この際、陰極あるいは陽極を超音波伝達板として利用すれば、装置サイズをあまり大きくせずに機能を追加できる。また、同様に安定したオゾン水を得る方法として、原料水中あるいは生成オゾン水中に炭酸ガスを溶解させる方法が提案されているが、本発明によるオゾン水製造方法及びオゾン水製造装置と組み合わせることが容易に可能となる。
【0079】
また、本発明は、有機電解合成、ダイオキシンを含む有機塩素化合物の分解、廃液処理、開発途上国における河川水の飲料水化、オゾン水製造等の用途に対応させることができる。
【符号の説明】
【0080】
1:陽極
2:陰極
3:固体高分子電解質隔膜
4、5:通電部材
6、7:通電コード
8:電解セル
8’:膜−電極接合体
9:陽極室
10:陰極室
11:貫通孔
12:原料水の流入パイプ
13:オゾン水の流出パイプ
14:流入口
15:流出口
16:面積制限リング
17:対流誘導筒
18:処理槽
19:水道蛇口
20:電解セル
20’:膜−電極接合体
21:陽極
22:陰極
23:固体高分子電解質隔膜
24:ねじ
25:通電部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換膜から成る固体高分子電解質隔膜とその両面にそれぞれ密着させた陽極と陰極とより成り、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の全面に亘り、これらを貫通する直径0.1mm以上の複数の貫通孔を設けたことを特徴とする膜−電極接合体。
【請求項2】
前記陽極の陽極触媒として、導電性ダイヤモンド、二酸化鉛、貴金属及び貴金属酸化物を用いたことを特徴とする請求項1に記載の膜−電極接合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の膜−電極接合体の陽極及び陰極に通電部材を設けたことを特徴とする電解セル。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の膜−電極接合体を複数段重ねてスタック構造とし前記陽極及び陰極に通電部材を設けたことを特徴とする電解セル。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の電解セルを構成する前記陽極及び前記陰極の一方に、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に原料水を供給する手段を設けるとともに、前記陽極及び前記陰極の他方に、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に、前記電解セルにより生成したオゾン水を流出する手段を設けたことを特徴とするオゾン水製造装置。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の電解セルを構成する前記陽極に、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に原料水を供給する手段を設けるとともに、前記陰極にこれと直角方向又は斜め方向に対流誘導筒を設け、前記電解セルを処理水タンク内に投げ入れ、前記陰極及び陽極より発生する、水素、酸素及びオゾンガスに伴う自然対流により、前記電解セルを稼働することを特徴とするオゾン水製造装置。
【請求項7】
請求項3又は4に記載の電解セルを用い、前記電解セルを上水道蛇口あるいはそれに類する非精製水の排出口に取り付けたことを特徴とするオゾン水製造装置。
【請求項8】
請求項3又は4に記載の電解セルを用い、前記陽極及び前記陰極のいずれか一方より、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に、原料水を通過させてオゾン水を製造することを特徴とするオゾン水製造方法。
【請求項9】
請求項3又は4に記載の電解セルを用い、前記原料水として微量のアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含む水を用い、前記原料水の水流を陽極側から陰極方向に供給し、かつ、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に前記原料水を通過させ、陰極及び隔膜に水酸化析出物が堆積することを抑制し、オゾン水を製造することを特徴とするオゾン水製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のオゾン水製造方法によって製造したオゾン水を用いて被処理水を殺菌することを特徴とする殺菌方法。
【請求項11】
請求項8又は9に記載のオゾン水製造方法によって製造したオゾン水を用いて廃水・廃液を処理することを特徴とする廃水・廃液処理方法。
【請求項12】
請求項3又は4に記載の電解セルを用い、前記原料水として殺菌用の被処理水を用い、前記陽極及び前記陰極のいずれか一方より、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に、前記被処理水を通過させて前記被処理水を殺菌することを特徴とする殺菌方法。
【請求項13】
請求項3又は4に記載の電解セルを用い、前記原料水として廃水・廃液を用い、前記陽極及び前記陰極のいずれか一方より、前記陽極、前記固体高分子電解質隔膜及び前記陰極の表面に対して直角方向又は斜め方向に、前記廃水・廃液を通過させて前記廃水・廃液を処理することを特徴とする廃水・廃液処理方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−246799(P2011−246799A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197148(P2010−197148)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(510122980)アクアエコス株式会社 (2)
【出願人】(390014579)ペルメレック電極株式会社 (62)
【Fターム(参考)】