説明

膜、膜の製造方法、及び光電変換素子

【課題】昇華精製に適さない有機材料を、純度を低下させることなく、長時間安定して連続蒸着させる方法を提供すること。
【解決手段】昇華精製による精製ができない有機材料を蒸着製膜して得られる膜であって、該有機材料と該有機材料の蒸着温度Tより低い沸点又は昇華点Tを有する化合物(A)とを含有する蒸着用材料を用い、前記蒸着用材料を、第1加熱により、前記化合物(A)の沸点又は昇華点Tより高く、かつ前記有機材料の蒸着温度Tより低い温度Tまで昇温後、該温度Tに維持し、該第1加熱の後に、第2加熱により、前記有機材料の蒸着温度T以上、前記有機材料の分解温度以下の温度まで昇温後、該温度に維持して前記有機材料の蒸着製膜を行うことにより得られる膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜、膜の製造方法、及び光電変換素子に関する。より詳細には、昇華精製に適さない有機材料を用いて蒸着製膜を行う場合に、高純度の膜を製造する方法、該製造方法により得られる膜(特に好ましくは光電変換膜)、該光電変換膜を有する光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子、撮像素子、光センサ、太陽電池などにおいて、有機材料からなる有機光電変換膜が用いられており、光電変換効率の向上や暗電流の低減などについて検討がなされている。例えば、特許文献1には特定の構造の有機材料とフラーレン類からなるバルクヘテロ膜を有機光電変換膜とした素子が記載されている。
【0003】
通常、有機材料には合成過程などに由来する未反応物、中間生成物、溶媒などの不純物が含まれており、光電変換素子用材料、有機電界発光素子用材料などの有機エレクトロニクス用材料としてそのまま使用した場合には、前記不純物が素子性能に悪影響を与えることが知られている。
そこで、有機材料に含まれる不純物を除去する方法として、例えばカラムクロマトグラフィー、再結晶、再沈精製、昇華精製などの精製方法が用いられてきた。特に昇華精製は、無溶媒で精製を行うため、溶媒に含まれる不純物の混入や材料中への溶媒残留(素子作製で行う真空蒸着中の真空度低下の原因となる)が抑制できるため、高純度の有機エレクトロニクス用材料を得るための精製方法として広く用いられている。
そして、精製された有機材料を用いて、例えば光電変換膜などの有機膜を形成させる場合、均一膜形成が容易であり、塗布法などに比べて不純物混入の可能性を小さくできるため、蒸着法による膜形成が好ましく用いられる。
【0004】
しかしながら、優れた性能(例えば、感度、暗電流、応答性などの光電特性)を示す有機材料であっても、熱に弱く、昇華精製処理が適用できない有機材料も存在する。従来、このような有機材料をそのまま蒸着させる場合、蒸着温度の制御は、材料が突沸したり、材料の蒸発温度をオーバーシュートしたりしない程度で一定の傾きで昇温させ、所望の蒸発温度で、真空度と蒸着レートが安定するのを待ってから蒸着成膜をしていた。このような方法で蒸着させると、得られる膜の純度が著しく低下(これにより素子性能も低下)したり、蒸着開始からしばらくすると成膜室内の真空度が悪化したりする。
すなわち、熱に弱く、昇華精製処理が適用できない有機材料については、長時間の連続蒸着はできず生産性に劣り、かつ得られる膜の純度及び性能が低くなる。
【0005】
ここで、昇華精製と蒸着の違いについて説明する。一般的に、昇華精製は、高純度の材料を取り出すために、昇華管の中に大気の流れ(ガスフロー)を作る必要があり、真空度は10−2Pa程度と低真空となる。一方、蒸着は、チャンバー内に大気を入れる必要は無く、真空状態とするので、10−5Pa程度と高真空となる。同じ昇華点をもつ材料を加熱して揮発させる際、真空度が低い(圧力が高い)方がより高い温度で加熱する必要があるため、上記の真空度の関係からすると、(昇華精製温度)>(蒸着温度)となる。
また、揮発させる有機化合物の分解温度が、昇華精製温度より高い場合は問題が生じにくいが、(昇華精製温度)>(材料分解温度)>(蒸着温度)の関係となったとき、蒸着はできるが、昇華精製はできない。
【0006】
なお、例えば特許文献2〜5には、目的の化合物よりも低い沸点又は昇華点を有する化合物を含む材料の昇華精製や蒸着についての記載があるが、前記課題について検討されているものはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−103457号公報
【特許文献2】特開2008−294003号公報
【特許文献3】特開2006−161074号公報
【特許文献4】特開2006−283086号公報
【特許文献5】特開2002−114743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記事情に鑑み、昇華精製に適さない有機材料を高い純度で含有する膜及び該膜の製造方法、該膜を含む光電変換素子を提供することを目的とする。
また、本発明は、昇華精製に適さない有機材料を、純度を低下させることなく、長時間安定して連続蒸着させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、昇華精製に適さない有機材料と該有機材料よりも沸点又は昇華点の低い化合物(A)とを含む蒸着材料を用い、特定温度で2段階加熱を行なうことで、前記有機材料について高純度の状態で蒸着成膜を実施することができ、材料分解が生じずに長時間の安定蒸着が可能になることを見出した。
即ち、上記課題の具体的達成手段は以下のとおりである。
【0010】
[1]
昇華精製による精製ができない有機材料を蒸着製膜して得られる膜であって、
該有機材料と該有機材料の蒸着温度Tより低い沸点又は昇華点Tを有する化合物(A)とを含有する蒸着用材料を用い、
前記蒸着用材料を、第1加熱により、前記化合物(A)の沸点又は昇華点Tより高く、かつ前記有機材料の蒸着温度Tより低い温度Tまで昇温後、該温度Tに維持し、
該第1加熱の後に、第2加熱により、前記有機材料の蒸着温度T以上、前記有機材料の分解温度以下の温度まで昇温後、該温度に維持して前記有機材料の蒸着製膜を行うことにより得られる膜。
ここで、化合物(A)の沸点又は昇華点Tは、1.0×10−1Paにおける化合物(A)の沸点又は昇華点である。
有機材料の蒸着温度Tは、有機材料の蒸着速度が0.5Å/秒に到達する温度を指す。
有機材料の分解温度は、示差熱熱重量測定において、有機材料を一定温度で60分間加熱したとき1%以上の重量減少が生じる場合の温度を指す。
[2]
前記化合物(A)が蒸発又は昇華した後に、前記第2加熱を開始する、[1]に記載の膜。
[3]
製膜室の真空度の値により、前記化合物(A)が蒸発又は昇華したことを確認して前記第2加熱を開始する、[2]に記載の膜。
[4]
前記有機材料が光電変換膜の形成に用いられる有機材料である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の膜。
[5]
前記有機材料が下記一般式(I)で表されるドナー‐アクセプター型色素化合物である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の膜。
一般式(I)
【0011】
【化1】

【0012】
(Dはヘテロ原子を有する原子群を表す。Aはカルボニル基又はシアノ基を有する基を表す。L及びLはそれぞれ独立に、無置換メチン基、又は置換メチン基を表す。nは0以上の整数を表す。)
[6]
前記有機材料が下記一般式(II)で表される化合物である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の膜。
一般式(II)
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Zは、少なくとも2つの炭素原子を含む環であって、5員環、6員環、又は、5員環及び6員環の少なくともいずれかを含む縮合環を表す。L、L、及びLはそれぞれ独立に、無置換メチン基、又は置換メチン基を表す。Dはヘテロ原子を有する原子群を表す。nは0以上の整数を表す。)
[7]
前記化合物(A)が、1.0×10−1Paでの沸点が120℃以上の有機溶媒である[1]〜[6]のいずれか1項に記載の膜。
[8]
前記化合物(A)が、ジメチルアセトアミド、1−エチル−2−ピロリドン、又はN,N−ジメチルホルムアミドである[1]〜[7]のいずれか1項に記載の膜。
[9]
前記有機材料の蒸着温度Tと前記化合物(A)の沸点又は昇華点Tとの差が、50〜160℃である、[1]〜[8]のいずれか1項に記載の膜。
[10]
前記TとTの差が、30〜100℃である、[1]〜[9]のいずれか1項に記載の膜。
[11]
前記TとTの差が、10〜60℃である、[1]〜[10]のいずれか1項に記載の膜。
[12]
透明導電性膜、光電変換膜、及び導電性膜をこの順で有する光電変換素子であって、前記光電変換膜は、[1]〜[11]のいずれか1項に記載の膜である、光電変換素子。
[13]
昇華精製による精製ができない有機材料を蒸着製膜して得られる膜の製造方法であって、
該有機材料と該有機材料の蒸着温度Tより低い沸点又は昇華点Tを有する化合物(A)とを含有する蒸着用材料を用い、
前記蒸着用材料を、第1加熱により、前記化合物(A)の沸点又は昇華点Tより高く、かつ前記有機材料の蒸着温度Tより低い温度Tまで昇温後、該温度Tに維持し、
該第1加熱の後に、第2加熱により、前記有機材料の蒸着温度T以上、前記有機材料の分解温度以下の温度まで昇温後、該温度に維持して前記有機材料の蒸着製膜を行う、膜の製造方法。
ここで、化合物(A)の沸点又は昇華点Tは、1.0×10−1Paにおける化合物(A)の沸点又は昇華点である。
有機材料の蒸着温度Tは、有機材料の蒸着速度が0.5Å/秒に到達する温度を指す。
有機材料の分解温度は、示差熱熱重量測定において、有機材料を一定温度で60分間加熱したとき1%以上の重量減少が生じる場合の温度を指す。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、昇華精製に適さない有機材料を高い純度で含有する膜及び該膜の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、昇華精製に適さない有機材料を、純度を低下させることなく、長時間安定して連続蒸着させる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1(a)及び図1(b)は、それぞれ本発明に係る光電変換素子の一構成例を示す断面模式図である。
【図2】本発明に係る撮像素子の1画素分の断面模式図である。
【図3】本発明の膜の製造方法を説明するための概念図である。
【図4】実施例1の蒸着プロセスにおける温度と圧力の関係を示した模式図である。
【図5】比較例1(従来法)の蒸着プロセスにおける温度と圧力の関係を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」はその前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0018】
[膜の製造方法(有機材料の蒸着方法)]
本発明は、昇華精製による精製ができない有機材料を蒸着製膜して得られる膜であって、
該有機材料と該有機材料の蒸着温度Tより低い沸点又は昇華点Tを有する化合物(A)とを含有する蒸着用材料を用い、
前記蒸着用材料を、第1加熱により、前記化合物(A)の沸点又は昇華点Tより高く、かつ前記有機材料の蒸着温度Tより低い温度Tまで昇温後、該温度Tに維持し、
該第1加熱の後に、第2加熱により、前記有機材料の蒸着温度T以上、前記有機材料の分解温度以下の温度まで昇温後、該温度に維持して前記有機材料の蒸着製膜を行うことにより得られる膜に関する。
また、本発明は、昇華精製による精製ができない有機材料を蒸着製膜して得られる膜の製造方法であって、
該有機材料と該有機材料の蒸着温度Tより低い沸点又は昇華点Tを有する化合物(A)とを含有する蒸着用材料を用い、
前記蒸着用材料を、第1加熱により、前記化合物(A)の沸点又は昇華点Tより高く、かつ前記有機材料の蒸着温度Tより低い温度Tまで昇温後、該温度Tに維持し、
該第1加熱の後に、第2加熱により、前記有機材料の蒸着温度T以上、前記有機材料の分解温度以下の温度まで昇温後、該温度に維持して前記有機材料の蒸着製膜を行う、膜の製造方法にも関する。
ここで、化合物(A)の沸点又は昇華点Tは、1.0×10−1Paにおける化合物(A)の沸点又は昇華点である。
有機材料の蒸着温度Tは、有機材料の蒸着速度が0.5Å/秒に到達する温度を指す。
有機材料の分解温度は、示差熱熱重量測定において、有機材料を一定温度で60分間加熱したとき1%以上の重量減少が生じる場合の温度を指す。
以下、本発明にかかる膜を製造する方法(本発明にかかる有機材料の蒸着方法)について説明する。
【0019】
昇華精製に適さない有機材料について前述のように蒸着性を悪化させている要因は、熱による材料分解にあると考えられる。この材料分解のメカニズムとしては、有機材料中に一定量の不純物が残留している状態で、該有機材料の蒸発温度まで昇温して蒸着した場合、不純物が含まれていることにより有機材料が低融点化し、熱による分解が促進されるものであると推測している。また、このように有機材料中に一定量の不純物が残留している状態で蒸着させた後に、るつぼ内に残った残渣の有機材料の純度を調べたところ、有機材料は融解しており、純度が低いことが分かった。更に、このように蒸着した場合に真空度が悪化する原因は、有機材料の分解によるものであることが、HPLCのスペクトルから判明した。
【0020】
本発明者らの検討により、昇華精製による精製ができない有機材料を含む蒸着材料に、前記有機材料の蒸着温度Tよりも低い沸点又は昇華点Tを有する化合物(A)を添加し、該化合物(A)が蒸発又は昇華しきったことを確認してから、有機材料の蒸着成膜を開始することで、高純度の状態で蒸着成膜を実施することができ、材料分解が生じずに長時間の安定蒸着が可能になった。これは、前記有機材料に含まれる不純物の沸点又は昇華点が、前記有機材料の蒸着温度Tよりも低いものであるため、前記化合物(A)が蒸発又は昇華しきった時点において、該不純物も大部分が蒸発又は昇華しており、目的とする有機材料の蒸着開始時点では蒸着材料には不純物がほとんど含まれておらず、高い純度にて該有機材料の成膜プロセスを実施できるため、不純物による有機材料の低融点化、及び熱による分解が起こりにくくなったものであると推測される。
また、本発明の蒸着方法で得られた光電変換膜は、高純度であるため、従来よりも高性能の光電変換素子を得ることできる。
【0021】
本発明では、前記化合物(A)の沸点又は昇華点Tより高く、かつ前記有機材料の蒸着温度Tより低い温度Tに昇温し、その後該温度Tに維持する第1加熱と、該第1加熱の後に、前記有機材料の蒸着温度T以上、前記有機材料の分解温度以下の温度まで昇温後、該温度に維持する第2加熱とを行い、該第2加熱において前記有機材料の蒸着を行うことが好ましい。これにより、第1加熱において、有機材料に元々含まれている不純物と化合物(A)とが除去され、第2加熱では高純度の有機材料にて蒸着を行うことができる。
【0022】
蒸着材料中の不純物の濃度をより低くするという観点から、前記化合物(A)が蒸発又は昇華した後に前記第1加熱を終了し、前記第2加熱を開始することが好ましい。より好ましくは前記化合物(A)が全て蒸発又は昇華した後に前記第1加熱を終了し、前記第2加熱を開始することである。
【0023】
更に、製膜室の真空度の値により、前記化合物(A)が蒸発又は昇華したことを確認することが好ましい。真空度を指標とすることで、化合物(A)が全て蒸発又は昇華したかが分かりやすく、本発明にかかる蒸着方法を実行しやすい。前記化合物(A)が蒸発又は昇華しはじめると真空度は悪化する方向に進み、化合物(A)が蒸発又は昇華がある程度進むと真空度は良化してくる。真空度が初期と同じか、少し良化した時点で、化合物(A)が全て蒸発又は昇華したものと判断することができる。
【0024】
次に、本発明にかかる蒸着方法の好ましい実施態様の一例を図を用いて、より具体的に説明するが、本発明は以下の具体例に限定されて解釈されるべきものではない。
【0025】
図3は、本発明にかかる蒸着方法と従来の蒸着方法との蒸着時の温度プロファイル(上図)と真空度プロファイル(下図)の一例を示した図である。
温度プロファイル(上図)と真空度プロファイル(下図)において、横軸の時間は対応している。
【0026】
図3において、実線で示された従来の蒸着方法では、蒸着材料は有機材料のみを含有しており、該有機材料の蒸着温度Tまで一気に昇温される。真空度は時間とともに悪化する。これは不純物による有機材料の低融点化が起こり、有機材料が分解しているものと考えられる。
【0027】
これに対し、図3において、破線で示された本発明にかかる蒸着方法では、有機材料と、該有機材料の蒸着温度Tより低い沸点又は昇華点Tを有する化合物(A)とを含有する蒸着用材料を用いる。そして以下のような挙動を示す。
1.化合物(A)の沸点又は昇華点Tと有機材料の蒸着温度Tとの間の温度Tまで、一気に上昇させて一定温度に保つ。
2.化合物(A)の沸点又は昇華点Tに到達したくらいから、真空度が悪化する方向に変化を生じる。
3.温度Tで加熱を続けていると、真空度が再び良くなる方向に変化し始める。
4.真空度が、昇温前の初期状態(P0)と同等又は初期状態より良くなったところで、有機材料の蒸着温度Tまで昇温させる。
5.そこで再び真空度の微小変化が生じる。これはT〜Tの範囲に沸点又は昇華点を有する不純物が蒸発又は昇華しているものと考えられる。
6.真空度の変化がT→Tの昇温前の真空度と同等又は良くなったこと、更に有機材料の蒸着レートが安定したことを確認して、成膜プロセスを開始する。
【0028】
前記有機材料の蒸着温度Tと前記化合物(A)の沸点又は昇華点Tとの差は、前記有機材料と前記化合物(A)を分離して飛ばすことから一定以上の差があることが好ましいことと、差が大きすぎると、温度差範囲の中で不純物の分布にムラが生じることで低融点化現象が発生してしまうことがあるという観点から、50〜160℃であることが好ましく、70〜120℃であることがより好ましい。
不純物による有機材料の低融点化を起こさない程度であり、化合物(A)の沸点を十分上回っているという観点から、前記TとTの差が、30〜100℃であることが好ましく、50〜80℃であることがより好ましい。
では十分飛ばし切れない有機材料の分子中にトラップされた不純物も存在することから、TとTは近い温度であることが好ましいが、近すぎるとT以上の高い温度でしか飛ばない不純物が影響して低融点化現象を発生させることがあるため、ある程度の温度間隔を有することが好ましく、前記TとTの差が、10〜60℃であることが好ましく、20〜40℃であることがより好ましい。
また、後述するように、化合物(A)の沸点又は昇華点Tは120〜200℃が好ましく、160〜180℃がより好ましい。
【0029】
本発明にかかる蒸着方法において、初期の真空度は、特に限定されないが、10−5Pa〜10−4Paが好ましく、4.0×10−5Pa〜1.2×10−4Paがより好ましい。
昇温速度は特に限定されないが、5〜30℃/分が好ましく、10〜25℃/分がより好ましい。
【0030】
[有機材料]
本発明にかかる有機材料について説明する。
本発明にかかる有機材料は、昇華精製による精製ができないものである。
本発明にかかる有機材料は、光電変換膜の形成に用いられるもの(光電変換材料)が好ましい。
有機材料の蒸着温度は7×10−5Paの圧力下で、200〜290℃であることが好ましく、有機材料の分解温度以下であることが好ましい。
ここで、有機材料の蒸着温度とは、有機材料の蒸着速度が0.5Å/秒に到達する温度を指す。有機材料の蒸着温度を測定する際の製膜室の圧力としては、1.0×10−4Pa以下が好ましい。
【0031】
有機材料の分解温度は210〜300℃程度であることが好ましい。
ここで、有機材料の分解温度とは、示差熱熱重量測定において、有機材料を一定温度で60分間加熱したとき1%以上の重量減少が生じる場合の温度を指す。示差熱熱重量測定においては圧力が1.0×10−1Pa以下で測定することが好ましい。
【0032】
前記有機材料は、下記一般式(I)で表されるドナー‐アクセプター型色素化合物であることが好ましい。
一般式(I)
【0033】
【化3】

【0034】
(Dはヘテロ原子を有する原子群を表す。Aはカルボニル基又はシアノ基を有する基を表す。L及びLはそれぞれ独立に、無置換メチン基、又は置換メチン基を表す。nは0以上の整数を表す。)
【0035】
一般式(I)で表されるドナー‐アクセプター型色素化合物は、溶融したときに、ドナー部Dがアクセプター部Aへ求核攻撃をするため、分解しやすい化合物で、融点と材料分解温度が近い化合物である。
【0036】
前記Dはヘテロ原子を有する原子群を表す。該ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などが挙げられる。
【0037】
本発明における有機材料は、下記一般式(II)で表される化合物であることが好ましい。一般式(II)で表される化合物は、光電変換素子においてp型有機半導体としても用いられる。
一般式(II)
【0038】
【化4】

【0039】
(式中、Zは、少なくとも2つの炭素原子を含む環であって、5員環、6員環、又は、5員環及び6員環の少なくともいずれかを含む縮合環を表す。L、L、及びLはそれぞれ独立に、無置換メチン基、又は置換メチン基を表す。Dはヘテロ原子を有する原子群を表す。nは0以上の整数を表す。)
【0040】
は、少なくとも2つの炭素原子を含む環であって、5員環、6員環、又は、5員環及び6員環の少なくともいずれかを含む縮合環を表す。5員環、6員環、又は、5員環及び6員環の少なくともいずれかを含む縮合環としては、通常メロシアニン色素で酸性核として用いられるものが好ましく、その具体例としては例えば以下のものが挙げられる。
【0041】
(a)1,3−ジカルボニル核:例えば1,3−インダンジオン核、1,3−シクロヘキサンジオン、5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサンジオン、1,3−ジオキサン−4,6−ジオン等。
(b)ピラゾリノン核:例えば1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン、1−(2−ベンゾチアゾイル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン等。
(c)イソオキサゾリノン核:例えば3−フェニル−2−イソオキサゾリン−5−オン、3−メチル−2−イソオキサゾリン−5−オン等。
(d)オキシインドール核:例えば1−アルキル−2,3−ジヒドロ−2−オキシインドール等。
(e)2,4,6−トリケトヘキサヒドロピリミジン核:例えばバルビツル酸又は2−チオバルビツール酸及びその誘導体等。誘導体としては例えば1−メチル、1−エチル等の1−アルキル体、1,3−ジメチル、1,3−ジエチル、1,3−ジブチル等の1,3−ジアルキル体、1,3−ジフェニル、1,3−ジ(p−クロロフェニル)、1,3−ジ(p−エトキシカルボニルフェニル)等の1,3−ジアリール体、1−エチル−3−フェニル等の1−アルキル−1−アリール体、1,3−ジ(2―ピリジル)等の1,3位ジヘテロ環置換体等が挙げられる。
(f)2−チオ−2,4−チアゾリジンジオン核:例えばローダニン及びその誘導体等。誘導体としては例えば3−メチルローダニン、3−エチルローダニン、3−アリルローダニン等の3−アルキルローダニン、3−フェニルローダニン等の3−アリールローダニン、3−(2−ピリジル)ローダニン等の3位ヘテロ環置換ローダニン等が挙げられる。
【0042】
(g)2−チオ−2,4−オキサゾリジンジオン(2−チオ−2,4−(3H,5H)−オキサゾールジオン核:例えば3−エチル−2−チオ−2,4−オキサゾリジンジオン等。
(h)チアナフテノン核:例えば3(2H)−チアナフテノン−1,1−ジオキサイド等。
(i)2−チオ−2,5−チアゾリジンジオン核:例えば3−エチル−2−チオ−2,5−チアゾリジンジオン等。
(j)2,4−チアゾリジンジオン核:例えば2,4−チアゾリジンジオン、3−エチル−2,4−チアゾリジンジオン、3−フェニル−2,4−チアゾリジンジオン等。
(k)チアゾリン−4−オン核:例えば4−チアゾリノン、2−エチル−4−チアゾリノン等。
(l)2,4−イミダゾリジンジオン(ヒダントイン)核:例えば2,4−イミダゾリジンジオン、3−エチル−2,4−イミダゾリジンジオン等。
(m)2−チオ−2,4−イミダゾリジンジオン(2−チオヒダントイン)核:例えば2−チオ−2,4−イミダゾリジンジオン、3−エチル−2−チオ−2,4−イミダゾリジンジオン等。
(n)イミダゾリン−5−オン核:例えば2−プロピルメルカプト−2−イミダゾリン−5−オン等。
(o)3,5−ピラゾリジンジオン核:例えば1,2−ジフェニル−3,5−ピラゾリジンジオン、1,2−ジメチル−3,5−ピラゾリジンジオン等。
(p)ベンゾチオフェン−3−オン核:例えばベンゾチオフェン−3−オン、オキソベンゾチオフェンー3−オン、ジオキソベンゾチオフェンー3−オン等。
(q)インダノン核:例えば1−インダノン、3−フェニル−1−インダノン、3−メチル−1−インダノン、3,3−ジフェニル−1−インダノン、3,3−ジメチル−1−インダノン等。
【0043】
で表される環として好ましくは、1,3−ジカルボニル核、ピラゾリノン核、2,4,6−トリケトヘキサヒドロピリミジン核(チオケトン体も含み、例えばバルビツール酸核、2−チオバルビツール酸核)、2−チオ−2,4−チアゾリジンジオン核、2−チオ−2,4−オキサゾリジンジオン核、2−チオ−2,5−チアゾリジンジオン核、2,4−チアゾリジンジオン核、2,4−イミダゾリジンジオン核、2−チオ−2,4−イミダゾリジンジオン核、2−イミダゾリン−5−オン核、3,5−ピラゾリジンジオン核、ベンゾチオフェンー3−オン核、インダノン核であり、より好ましくは1,3−ジカルボニル核、2,4,6−トリケトヘキサヒドロピリミジン核(チオケトン体も含み、例えばバルビツル酸核、2−チオバルビツール酸核)、3,5−ピラゾリジンジオン核、ベンゾチオフェンー3−オン核、インダノン核であり、更に好ましくは1,3−ジカルボニル核、2,4,6−トリケトヘキサヒドロピリミジン核(チオケトン体も含み、例えばバルビツル酸核、2−チオバルビツール酸核)であり、特に好ましくは1,3−インダンジオン核、バルビツル酸核、2−チオバルビツール酸核及びそれらの誘導体である。
【0044】
で表される環として好ましいものは下記の式で表される。
【0045】
【化5】

【0046】
は、少なくとも3つの炭素原子を含む環であって、5員環、6員環、又は、5員環及び6員環の少なくともいずれかを含む縮合環を表す。Zとしては上記Zにより形成される環中から選ぶことができ、好ましくは1,3−ジカルボニル核、2,4,6−トリケトヘキサヒドロピリミジン核(チオケトン体も含む)であり、特に好ましくは1,3−インダンジオン核、バルビツール酸核、2−チオバルビツール酸核及びそれらの誘導体である。
【0047】
一般式(II)で表される化合物は、Dで表される構造がドナー部とZで表される構造がアクセプター部として働き、両者がL等を介して連結させることにより、光電変換材料として有用であることが見出された。
また、C60などのn型半導体材料(アクセプター性)と併用した際に、アクセプター部同士の相互作用を制御することにより、C60と共蒸着膜とした際、高い正孔輸送性を発現させる事ができることが見出された。
ここで、アクセプター部の構造、及び立体障害となる置換基の導入により相互作用の制御を行うことが可能である。バルビツール酸核、2−チオバルビツール酸核において、2つのN位の水素を好ましくは2つとも、置換基により置換する事で好ましく分子間相互作用を制御することが可能であり、置換基としては後述の置換基Wがあげられるが、より好ましくはアルキル基であり、更に好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基である。
で表される環が1,3−インダンジオン核の場合、下記一般式(IV)で示される基又は下記一般式(V)で示される基である場合が好ましい。
一般式(IV)
【0048】
【化6】

【0049】
41〜R44はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。
一般式(V)
【0050】
【化7】

【0051】
41、R44、R45〜R48はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。
【0052】
前記一般式(IV)で示される基の場合、R41〜R44は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。置換基としては例えば置換基Wとして挙げたものが適用できる。また、R41〜R44はそれぞれ隣接するものが、結合して環(形成する環としては、後述の環Rが挙げられる。)を形成することができ、R42とR43が結合して環(例えば、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環)を形成する場合が好ましい。R41〜R44としては全てが水素原子である場合が好ましい。
前記一般式(IV)で示される基が前記一般式(V)で示される基である場合が好ましい。
前記一般式(V)で示される基の場合、R41、R44、R45〜R48はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。置換基としては例えば置換基Wとして挙げたものが適用できる。R41、R44、R45〜R48としては全てが水素原子である場合が好ましい。
【0053】
で表される環が2,4,6−トリケトヘキサヒドロピリミジン核(チオケトン体も含む)の場合、下記一般式(VI)で示される基である場合が好ましい。
一般式(VI)
【0054】
【化8】

【0055】
81、R82はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。R83は、酸素原子、硫黄原子又は置換基を表す。
【0056】
前記一般式(VI)で示される基の場合、R81、R82はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。置換基としては例えば置換基Wとして挙げたものが適用できる。R81、R82としてはそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はヘテロ環基(2−ピリジル等)が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、t−ブチル)を表す場合がより好ましい。
83は、酸素原子、硫黄原子又は置換基を表すが、R83としては酸素原子、又は硫黄原子を表す場合が好ましい。前記置換基としては結合部が窒素原子であるものと炭素原子であるものが好ましく、窒素原子の場合はアルキル基(炭素数1〜12)若しくはアリール基(炭素数6〜12)が好ましく、具体的にはメチルアミノ基、エチルアミノ基、ブチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、フェニルアミノ基、又はナフチルアミノ基が挙げられる。炭素原子の場合は更に少なくとも一つの電子吸引性基が置換していれば良く、電子吸引性基としてはカルボニル基、シアノ基、スルホキシド基、スルホニル基、又はホスホリル基が挙げられ、更に置換基を有している場合が良い。この置換基としては前記Wが挙げられる。R83としては、結合部の炭素原子を含む5員環又は6員環を形成するものが好ましく、具体的には下記構造のものが挙げられる。
【0057】
【化9】

【0058】
【化10】

【0059】
上記の基中のPhはフェニル基を表す。
【0060】
一般式(II)において、L、L、Lは、それぞれ独立に、無置換メチン基、又は置換メチン基を表す。置換メチン基同士が結合して環(例、6員環例えばベンゼン環)を形成してもよい。置換メチン基の置換基は置換基Wが挙げられるが、L、L、Lは全てが無置換メチン基である場合が好ましい。
【0061】
一般式(II)において、nは0以上の整数を表し、好ましくは0以上3以下の整数を表し、より好ましくは0である。nを増大させた場合、吸収波長域が長波長にする事ができるか、熱による分解温度が低くなる。可視域に適切な吸収を有し、かつ蒸着成膜時の熱分解を抑制する点でn=0が好ましい。
【0062】
一般式(II)において、Dはヘテロ原子を有する原子群を表す。
前記Dは−NR(R)を含む基であることが好ましく、更に、前記Dが−NR(R)が置換したアリール基(好ましくは、置換基を有してもよい、フェニル基又はナフチル基)を表す場合が好ましい。
、Rはそれぞれ独立に、水素原子、又は置換基を表し、R、Rで表される置換基は置換基Wが挙げられるが、好ましくは、置換基を有してもよい、脂肪族炭化水素基(好ましくは置換基を有してもよいアルキル基、アルケニル基)、アリール基(好ましくは置換基を有してもよいフェニル基)、又はヘテロ環基である。前記ヘテロ環としては、フラン、チオフェン、ピロール、オキサジアゾール等の5員環が好ましい。
【0063】
、Rが脂肪族炭化水素基、アリール基、ヘテロ環基の場合の置換基として好ましくは、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルホニル基、シリル基、芳香族ヘテロ環基であり、より好ましくはアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、芳香族ヘテロ環基であり、更に好ましくはアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、芳香族ヘテロ環基である。具体例は置換基Wで挙げたものが適用できる。
【0064】
、Rとして好ましくはアルキル基、アリール基、又は芳香族へテロ環基である。R、Rとして特に好ましくはアルキル基、Lと連結して環を形成するアルキレン基、又はアリール基であり、より好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、Lと連結して5ないし6員環を形成するアルキレン基、又は置換若しくは無置換のフェニル基であり、更に好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、又は置換若しくは無置換のフェニル基である。
【0065】
、Rが置換基(好ましくはアルキル基、アルケニル基、又はこれらの基を置換基として有する基)である場合、これらの基は、−NR(R)が置換したアリール基の芳香環(好ましくはベンゼン環)骨格の水素原子、又は置換基と結合して環(好ましくは6員環)を形成してもよい。この場合、後記の一般式(VIII)、(IX)又は(X)で表される場合が好ましい。
、Rが互いに置換基同士が結合して環(形成する環としては、後述の環Rが挙げられる。好ましくは5員又は6員環、より好ましくは6員環)を形成してもよく、また、R、RはそれぞれがL(L、L、Lのいずれかを表す)中の置換基と結合して環(好ましくは5員又は6員環、より好ましくは6員環)を形成してもよい。
はパラ位にアミノ基が置換したアリール基(好ましくはフェニル基)である場合が好ましい。この場合、下記一般式(IID)で示されることが好ましい。該アミノ基は置換されていてもよい。該アミノ基の置換基としては、置換基Wが挙げられるが、脂肪族炭化水素基(好ましくは置換基を有してもよいアルキル基)、アリール基(好ましくは置換基を有してもよいフェニル基)、又はヘテロ環基が好ましい。前記アミノ基はアリール基が2つ置換した、いわゆるジアリール基置換のアミノ基が好ましく、この場合、下記一般式(III)で示されることが好ましい。更に該アミノ基の置換基(好ましくは置換基を有してもよい、アルキル基、アルケニル基)はアリール基の芳香環(好ましくはベンゼン環)骨格の水素原子、又は置換基と結合して環(形成する環としては、後述の環Rが挙げられる。好ましくは6員環)を形成してもよい。
【0066】
一般式(IID)
【0067】
【化11】

【0068】
式中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。またRとR、RとR、RとR、RとR、RとRがそれぞれ互いに結合して環を形成してもよい。
【0069】
一般式(III)
【0070】
【化12】

【0071】
式中、R811〜R814、R820〜R824、R830〜R834はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。またR811〜R814、R820〜R824、R830〜R834の少なくとも2つが互いに結合して環を形成してもよい。
【0072】
前記Dが下記の一般式(VII)で示される場合も好ましい。
【0073】
一般式(VII)
【0074】
【化13】

【0075】
式中、R91〜R98はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。mは0以上の整数を表す。Rx、Ryは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、mが2以上の場合、各6員環に結合するRx、Ryは異なる置換基であっても良い。また、R91とR92、R92とRxと、RxとR94、R94とR97、R93とRy、RyとR95、R95とR96、R97とR98はそれぞれ互いに独立して環を形成しても良い。また、L(nが0のときはL)との結合部は、R91、R92、R93の位置でも良く、その場合、一般式(VII)中のLとの結合部として表記されている部位に、それぞれR91、R92、R93に相当する置換基又は水素原子が結合し、隣接するR同士は結合して環を形成しても良い。ここで、「隣接するR同士は結合して環を形成しても良い。」とは、例えば、R91がL(nが0のときはL)との結合部になる場合、一般式(VII)の結合部にはR90が結合しているとするとR90とR93とが結合し環を形成してもよく、また、R92がL(nが0のときはL)との結合部になる場合、一般式(VII)の結合部にはR90が結合しているとするとR90とR91、R90とR93とがそれぞれ結合し環を形成してもよく、また、R93がL(nが0のときはL)との結合部になる場合、一般式(VII)の結合部にはR90が結合しているとするとR90とR91、R91とR92とがそれぞれ結合し環を形成してもよいことを言う。
上記の環はベンゼン環である場合が好ましい。
91〜R98、Rx、Ryの置換基は置換基Wが挙げられる。
91〜R96はいずれも水素原子である場合が好ましく、Rx、Ryはいずれも水素原子である場合が好ましい。R91〜R96は水素原子であり、かつRx、Ryも水素原子である場合が好ましい。
前記R97及びR98は、それぞれ独立に、置換基されてよいフェニル基を表す場合が好ましく、該置換基としては置換基Wが挙げられるが、好ましくは無置換フェニル基である。
mは0以上の整数を表すが、0又は1が好ましい。
【0076】
前記Dが一般式(VIII)、(IX)又は(X)で表される基である場合も好ましい。
【0077】
一般式(VIII)
【0078】
【化14】

【0079】
式中、R51〜R54はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。該置換基として置換基Wが挙げられる。R52とR53、R51とR52はそれぞれ連結して環を形成してもよい。
【0080】
一般式(IX)
【0081】
【化15】

【0082】
式中、R61〜R64はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。該置換基として置換基Wが挙げられる。R62とR63、R61とR62はそれぞれ連結して環を形成してもよい。
【0083】
一般式(X)
【0084】
【化16】

【0085】
式中、R71〜R73はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。該置換基として置換基Wが挙げられる。R72とR73はそれぞれ連結して環を形成してもよい。
【0086】
前記Dは前記一般式(IID)又は(III)で示される基がより好ましく用いられる。
【0087】
一般式(IID)中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。またRとR、RとR、RとR、RとR、RとRがそれぞれ互いに結合して環を形成してもよい。形成する環としては、後述の環Rが挙げられる。
〜Rにおける置換基は置換基Wが挙げられるが、好ましくはR〜Rが水素原子、又はRとR若しくはRとRが5員環を形成する場合であり、より好ましくはR〜Rのいずれもが水素原子である場合である。
、Rにおける置換基は置換基Wが挙げられるが、置換基の中でも、置換若しくは無置換のアリール基が好ましく、置換アリール基の置換基としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチレン基、フェナントリル基、アントリル基)が好ましい。R、Rは好ましくはフェニル基、アルキル置換フェニル基、フェニル置換フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基又はフルオレニル基(好ましくは9,9’−ジメチル−2−フルオレニル基)である。
一般式(III)中、R11〜R14、R20〜R24、R30〜R34はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。またR11〜R14、R20〜R24、R30〜R34がそれぞれ互いに結合して環を形成してもよい。形成する環としては、後述の環Rが挙げられる。その環形成の例としては、R11とR12、R13とR14が結合してベンゼン環を、R20〜R24の隣接する2つ(R24とR23、R23とR20、R20とR21、R21とR22)が結合してベンゼン環を、R30〜R34の隣接する2つ(R34とR33、R33とR30、R30とR31、R31とR32)が結合してベンゼン環を、R22とR34が結合してN原子と共に5員環を形成する場合が挙げられる。
11〜R14、R20〜R24、R30〜R34で表される置換基は置換基Wが挙げられるが、好ましくはアルキル基(例えば、メチル基、エチル基)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基)であり、これらの基は更に置換基W(好ましくはアリール基)が置換していてもよい。中でも、R20、R30が置換基である場合が好ましく、かつ、その他のR11〜R14、R21〜R24、R31〜R34は水素原子である場合がより好ましい。
【0088】
一般式(II)で表される化合物は、下記一般式(pI)で表される化合物であることが好ましい。
【0089】
一般式(pI)
【0090】
【化17】

【0091】
式中、Zは、少なくとも2つの炭素原子を含む環であって、5員環、6員環、又は、5員環及び6員環の少なくともいずれかを含む縮合環を表す。L、L、Lは、それぞれ独立に無置換メチン基又は置換メチン基を表す。nは0以上の整数を表す。Rp、Rp、Rp、Rp、Rp、Rpは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。RpとRp、RpとRp、RpとRp、RpとRp、それぞれ互いに結合して環を形成してもよい。Rp21、Rp22は、それぞれ独立に、置換アリール基、無置換アリール基、置換ヘテロアリール基、又は無置換ヘテロアリール基を表す。
【0092】
光電変換材料として上記のようにドナー部(−NRp21Rp22の部位)/アクセプター部(L〜Lを介してナフチレン基に結合している部位)の連結部をナフチレン基とした化合物をフラーレン類とともに使用することで、優れた耐熱性と高速応答性を有する光電変換素子が得られる。これは、ドナー部/アクセプター部の連結部をナフチレン基とすることで、フラーレン類との相互作用が向上し、応答速度が改善したものと考えられる。また、上記化合物は十分な感度を有する。
【0093】
一般式(pI)において、Z、L、L、L、nは、一般式(II)におけるZ、L、L、L、nと同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0094】
Rp〜Rpは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Rp〜Rpが置換基を表す場合、Rp〜Rpが表す置換基としては後述の置換基Wが挙げられるが、特にハロゲン原子、アルキル基、アリール基、複素環基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニル基、シアノ基ヘテロ環チオ基が好ましい。
Rp〜Rpは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、複素環基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニル基、シアノ基又はヘテロ環チオ基であることが好ましく、水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基がより好ましく、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数4〜16の複素環基がより好ましく、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜14のアリール基がさらに好ましく、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基がさらに好ましく、水素原子が特に好ましい。アルキル基の場合分岐があってもよい。また、Rp〜Rpが置換基である場合、更なる置換基を有していてもよい。更なる置換基としては後述の置換基Wが挙げられる。該更なる置換基が複数ある場合には、該複数の置換基同士が連結して環を形成してもよい。形成される環としては後述の環Rが挙げられる。
Rp〜Rpの好ましい具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0095】
RpとRp、RpとRp、RpとRp、RpとRp、それぞれ互いに結合して環を形成してもよい。形成される環としては、後述の環Rが挙げられる。好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピリジン環、ピリミジン環等である。
【0096】
Rp21、Rp22は、それぞれ独立に置換アリール基、無置換アリール基、置換ヘテロアリール基、又は無置換ヘテロアリール基を表す。
Rp21、Rp22の両方が無置換フェニル基ではないことが好ましい。
Rp21、Rp22が表すアリール基としては、炭素数6〜30のアリール基が好ましく、炭素数6〜20のアリール基がより好ましい。アリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、ターフェニル基、アントリル基、フルオレニル基が挙げられる。
Rp21、Rp22における置換アリール基の置換基としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、t−ブチル基)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基)、ヘテロアリール基(例えば、チエニル基、フラニル基、ピリジル基、カルバゾリル基)が好ましい。
【0097】
Rp21、Rp22が表すアリール基又は置換アリール基は、好ましくは、フェニル基、置換フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオレニル基、置換フルオレニル基(好ましくは9,9’−ジアルキル−2−フルオレニル基)である。
【0098】
Rp21、Rp22がヘテロアリール基である場合、ヘテロアリール基としては、5員、6員又は7員の環又はその縮合環からなるヘテロアリール基が好ましい。ヘテロアリール基に含まれるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子挙げられる。ヘテロアリール基を構成する環の具体例としては、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピロリン環、ピロリジン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、イミダゾリン環、イミダゾリジン環、ピラゾール環、ピラゾリン環、ピラゾリジン環、トリアゾール環、フラザン環、テトラゾール環、ピラン環、チイン環、ピリジン環、ピペリジン環、オキサジン環、モルホリン環、チアジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペラジン環、トリアジン環等が挙げられる。
縮合環としては、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドール環、インドリン環、イソインドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、フタラジン環、キナゾリン環、キノキサリン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環、キサンテン環、アクリジン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、フェナジン環、フェノキサジン環、チアントレン環、チエノチオフェン環、インドリジン環、キノリジン環、キヌクリジン環、ナフチリジン環、プリン環、プテリジン環等が挙げられる。
【0099】
Rp21、Rp22における置換ヘテロアリール基の置換基としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、t−ブチル基)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基)、ヘテロアリール基(例えば、チエニル基、フラニル基、ピリジル基、カルバゾリル基)が好ましい。
Rp21、Rp22が表すヘテロアリール基又は置換ヘテロアリール基を構成する環としては、好ましくは、チオフェン環、置換チオフェン環、フラン環、置換フラン環、チエノチオフェン環、置換チエノチオフェン環、カルバゾリル基である。
【0100】
Rp21、Rp22は、それぞれ独立に、好ましくはフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ビフェニル基、アントラセニル基、フェナントレニル基であり、フェニル基、ナフチル基、又はフルオレニル基がより好ましい。Rp21、Rp22が置換基を有する場合の置換基として好ましくは、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はヘテロアリール基であり、より好ましくはメチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、トリフルオロメチル基、フェニル基、又はカルバゾリル基である。
【0101】
が上記一般式(VI)で示される基又は上記一般式(VII)で示される基である場合、前記一般式(pI)で表される化合物は、それぞれ下記一般式(pII)で表される化合物又は下記一般式(pIII)で表される化合物となる。
一般式(pI)で表される化合物が、下記一般式(pII)で表される化合物、又は下記一般式(pIII)で表される化合物であることが好ましい。
【0102】
一般式(pII)
【0103】
【化18】

【0104】
式中、L、L、L、n、Rp、Rp、Rp、Rp、Rp、Rp、Rp21、Rp22は、一般式(pI)と同義であり、好ましい範囲も同様である。Rp41、Rp42、Rp43、Rp44は一般式(IV)におけるR41、R42、R43、R44と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0105】
一般式(pIII)
【0106】
【化19】

【0107】
式中、L、L、L、n、Rp、Rp、Rp、Rp、Rp、Rp、Rp21、Rp22は、一般式(pI)と同義であり、好ましい範囲も同様である。Rp51、Rp52、Rp53、Rp54、Rp55、Rp56は一般式(V)におけるR41、R44、R45、R46、R47、R48と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0108】
一般式(pI)で表される化合物は、下記一般式(pIV)で表される化合物であることが好ましい。
【0109】
一般式(pIV)
【0110】
【化20】

【0111】
式中、Z、L、L、L、n、Rp、Rp、Rp、Rp、Rp、Rpは、一般式(pI)と同義であり、好ましい範囲も同様である。
Rp〜Rp11、Rp12〜Rp16は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。ただし、Rp〜Rp11、Rp12〜Rp16のすべてが水素原子である場合を除く。また、Rp〜Rp11、Rp12〜Rp16のうち隣接するものが互いに結合して環を形成してもよい。更に、RpとRp、RpとRp16はそれぞれ連結してもよい。
【0112】
一般式(pIV)において、Rp〜Rp11、Rp12〜Rp16、はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。但し、Rp〜Rp11、Rp12〜Rp16のすべてが水素原子となることはない。なお、RpとRp又はRpとRp16が連結する場合は、これ以外のRp〜Rp11、Rp12〜Rp15がすべて水素原子となっていてもよい。
Rp〜Rp11、Rp12〜Rp16が置換基を表す場合、Rp〜Rp11、Rp12〜Rp16が表す置換基としては後述の置換基Wが挙げられるが、特にハロゲン原子、アルキル基、アリール基、複素環基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニル基、シアノ基、ヘテロ環チオ基が好ましい。
Rp〜Rp11、Rp12〜Rp16は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、複素環基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニル基、シアノ基又はヘテロ環チオ基であることが好ましく、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、複素環基がより好ましく、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、5員、6員若しくは7員環又はその縮合環からなる複素環基がより好ましく、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキルオキシ基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のアリールオキシ基、5員若しくは6員環又はその縮合環からなる複素環基がさらに好ましい。
アルキル基の場合、直鎖状でも分岐状でもよい。複素環基に含まれるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。
アルキル基、アルケニル基、アリール基等の具体例としては後述の置換基Wのアルキル基、アルケニル基、アリール基で例示する基が挙げられる。
【0113】
また、Rp〜Rp11、Rp12〜Rp16のうち隣接するものが互いに結合して環を形成してもよい。形成される環としては後述の環Rが挙げられる。形成される環として好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピリジン環、ピリミジン環等である。
更に、RpとRp、RpとRp16はそれぞれ連結してもよい。RpとRp又はRpとRp16が連結する場合、ナフチレン基とフェニル基とを含む4環以上の縮合環となる。RpとRp又はRpとRp16との連結は、単結合でもよい。
【0114】
一般式(I)又は(II)で表される化合物は、特開2000−297068号公報に記載の合成方法に準じて製造することができる。
以下に、一般式(I)又は(II)で示される化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0115】
【化21】

【0116】
[化合物(A)]
本発明では、前記有機材料と、該有機材料の蒸着温度Tより低い沸点又は昇華点Tを有する化合物(A)とを含有する蒸着用材料を用いる。本発明において、蒸着材料中に化合物(A)を添加する意図としては、蒸着材料の加熱中で、化合物(A)を添加しない場合に比べて真空度の変化が分かりやすく、有機材料に含まれている不純物が飛ばしきられたかどうかを判断しやすいためである。
ここで、化合物(A)の沸点又は昇華点Tとは、1.0×10−1Paにおける化合物(A)の沸点又は昇華点である。
【0117】
化合物(A)は、不純物もしくは不純物の基となり得るため、前記有機材料の蒸着前に蒸発又は昇華する必要がある。
化合物(A)としては、分子量が50〜200であることが好ましく、60〜130であることがより好ましい。
化合物(A)は、前記有機材料が溶解しやすい有機溶剤であることが好ましい。有機材料が溶解しやすいと、該有機材料の分子中にトラップされている溶剤などの不純物が化合物(A)とともに蒸発しやすい。化合物(A)は1.0×10−1Paでの沸点が120℃以上の有機溶媒であることが好ましく、沸点が120〜200℃の有機溶媒であることがより好ましく、沸点が160〜180℃の有機溶媒であることが更に好ましい。
化合物(A)としては、ジメチルアセトアミド(DMAc、1.0×10−1Paでの沸点:160℃)、1−エチル−2−ピロリドン(NEP、1.0×10−1Paでの沸点:180℃)、又はN,N−ジメチルホルムアミド(DMF、1.0×10−1Paでの沸点:130℃)が特に好ましい。
【0118】
本発明における蒸着材料において、有機材料と化合物(A)とは、不純物をより低減させるために、化合物(A)が均一に分布するように混ぜておくことが好ましい。化合物(A)は有機材料に対して0.01〜3.0質量%含有されることが好ましく、0.1〜2.0質量%含有されることがより好ましい。
【0119】
[光電変換素子]
本発明に係る光電変換素子は、本発明の蒸着方法により形成された光電変換膜を含む。本発明の蒸着方法により形成された光電変換膜は、高純度の有機材料を含むため、感度が高く、また暗電流が低い光電変換素子が得られる。
光電変換素子の好ましい態様は、透明導電性膜、光電変換膜、及び導電性膜をこの順に有し、光電変換膜としては、光電変換層及び電子ブロッキング層を含むことが好ましい。更に、導電性膜、電子ブロッキング層、光電変換層、及び透明導電性膜がこの順に積層された態様がより好ましい態様である。
【0120】
図1に、本発明の実施形態に係る光電変換素子の構成例を示す。
図1(a)に示す光電変換素子10aは、下部電極として機能する導電性膜(以下、下部電極とする)11上に、下部電極11上に形成された光電変換膜(電子ブロッキング層16Aと、電子ブロッキング層16A上に形成された光電変換層12)と、上部電極として機能する透明導電性膜(以下、上部電極とする)15がこの順に積層された構成である。
図1(b)に別の光電変換素子の構成例を示す。図1(b)に示す光電変換素子10bは、下部電極11上に、光電変換膜(電子ブロッキング層16Aと、光電変換層12と、正孔ブロッキング層16B)と、上部電極15がこの順に積層された構成である。なお、図1(a)、図1(b)中の電子ブロッキング層、光電変換層、正孔ブロッキング層の積層順は、用途、特性に応じて逆にしても構わない。
これらのような構成では、透明導電性膜を介して光電変換膜に光が入射されることが好ましい。
また、これらの光電変換素子を使用する場合には電場を印加することができる。この場合、導電性膜と透明導電性膜が一対の電極とし、この一対の電極間に例えば、1×10―4V/cm以上1×10V/cm以下の電場を印加することができる。電子ブロッキング層に接触する電極を陰極とし、もう一方の電極を陽極とするのが好ましい。
本実施形態に係る光電変換素子を構成する要素について説明する。
【0121】
(電極)
電極(上部電極(透明導電性膜)15と下部電極(導電性膜)11)は、導電性材料から構成される。導電性材料としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、又はこれらの混合物などを用いることができる。
上部電極15から光が入射されるため、上部電極15は検知したい光に対し十分透明である事が必要である。具体的には、アンチモンやフッ素等をドープした酸化錫(ATO、FTO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物、金、銀、クロム、ニッケル等の金属薄膜、さらにこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機導電性材料、及びこれらとITOとの積層物などが挙げられる。この中で好ましいのは、高導電性、透明性等の点から、透明導電性金属酸化物である。透明導電性膜は光電変換膜上に直接形成されることが好ましい。上部電極15は光電変換層12上に成膜するため、光電変換層12の特性を劣化させることのない方法で成膜されることが好ましい。
【0122】
下部電極11は、用途に応じて、透明性を持たせる場合と、逆に透明を持たせず光を反射させるような材料を用いる場合等がある。具体的には、アンチモンやフッ素等をドープした酸化錫(ATO、FTO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物、金、銀、クロム、ニッケル、チタン、タングステン、アルミ等の金属及びこれらの金属の酸化物や窒化物などの導電性化合物(一例として窒化チタン(TiN)を挙げる)、さらにこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機導電性材料、及びこれらとITO又は窒化チタンとの積層物などが挙げられる。
【0123】
電極を形成する方法は特に限定されず、電極材料との適正を考慮して適宜選択することができる。具体的には、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式等により形成することができる。
電極の材料がITOの場合、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、化学反応法(ゾルーゲル法など)、酸化インジウムスズの分散物の塗布などの方法で形成することができる。さらに、ITOを用いて作製された膜に、UV−オゾン処理、プラズマ処理などを施すことができる。電極の材料がTiNの場合、反応性スパッタリング法をはじめとする各種の方法が用いられ、さらにUV−オゾン処理、プラズマ処理などを施すことができる。
薄膜化に伴う、リーク電流の抑制、薄膜の抵抗値の増大、透過率の増加を考慮すると、上部電極15の膜厚は、5〜100nmであることが好ましく、さらに好ましくは5〜20nmである事が望ましい。
【0124】
(光電変換層)
本発明において、光電変換層(図1中の12)を構成する有機材料は、p型有機半導体及びn型有機半導体の少なくとも一方を含んでいることが好ましく、p型有機半導体及びn型有機半導体の両方を含むことがより好ましい。また、本発明の効果は、光電変換層に電子親和力(Ea)が4.0eV以上の材料を含む場合に特に大きな効果が発現する。電子親和力(Ea)が4.0eV以上の材料としては、後述のn型有機半導体が挙げられる。
【0125】
〔p型有機半導体〕
p型有機半導体(化合物)は、ドナー性有機半導体(化合物)であり、主に正孔輸送性有機化合物に代表され、電子を供与しやすい性質がある有機化合物をいう。更に詳しくは2つの有機材料を接触させて用いたときにイオン化ポテンシャルの小さい方の有機化合物をいう。したがって、ドナー性有機化合物は、電子供与性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。例えば、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物、ピラゾリン化合物、スチリルアミン化合物、ヒドラゾン化合物、トリフェニルメタン化合物、カルバゾール化合物、ポリシラン化合物、チオフェン化合物、フタロシアニン化合物、シアニン化合物、メロシアニン化合物、オキソノール化合物、ポリアミン化合物、インドール化合物、ピロール化合物、ピラゾール化合物、ポリアリーレン化合物、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体等を用いることができる。なお、これに限らず、上記したように、n型(アクセプター性)化合物として用いた有機化合物よりもイオン化ポテンシャルの小さい有機化合物であればドナー性有機半導体として用いてよい。上記の中でも、好ましいのはトリアリールアミン化合物である。
p型有機半導体としては前記一般式(I)又は(II)で表される化合物が好ましい。
【0126】
〔n型有機半導体〕
n型有機半導体(化合物)は、アクセプター性有機半導体(化合物)であり、主に電子輸送性有機化合物に代表され、電子を受容しやすい性質がある有機化合物をいう。更に詳しくは2つの有機化合物を接触させて用いたときに電子親和力の大きい方の有機化合物をいう。
したがって、アクセプター性有機化合物は、電子受容性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。例えば、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン、アントラセン、フラーレン、フェナントレン、テトラセン、ピレン、ペリレン、フルオランテン、又はこれらの誘導体)、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する5ないし7員のヘテロ環化合物(例えばピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、イソキノリン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、テトラゾール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、トリアゾロピリダジン、トリアゾロピリミジン、テトラザインデン、オキサジアゾール、イミダゾピリジン、ピラリジン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、ジベンズアゼピン、トリベンズアゼピン等)、ポリアリーレン化合物、フルオレン化合物、シクロペンタジエン化合物、シリル化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体などが挙げられる。なお、これに限らず、上記したように、ドナー性有機化合物として用いた有機化合物よりも電子親和力の大きな有機化合物であればアクセプター性有機半導体として用いてよい。
【0127】
n型有機半導体としては、フラーレン又はフラーレン誘導体を用いることが好ましい。
【0128】
フラーレンとは、フラーレンC60、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC80、フラーレンC82、フラーレンC84、フラーレンC90、フラーレンC96、フラーレンC240、フラーレンC540、ミックスドフラーレン、フラーレンナノチューブを表し、フラーレン誘導体とはこれらに置換基が付加された化合物のことを表す。置換基としては、アルキル基、アリール基、又は複素環基が好ましい。
【0129】
光電変換層は、蒸着により形成することができる。蒸着は、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)のいずれでもよいが、真空蒸着等の物理蒸着が好ましい。真空蒸着により成膜する場合、真空度、蒸着温度等の製造条件は常法に従って設定することができる。
光電変換層の厚みは、10nm以上1000nm以下が好ましく、更に好ましくは50nm以上800nm以下、特に好ましくは100nm以上500nm以下である。10nm以上とすることにより、好適な暗電流抑制効果が得られ、1000nm以下とすることにより、好適な光電変換効率が得られる。
本発明の光電変換素子の製造方法においては、光電変換層及び電子ブロッキング層を、それぞれ真空加熱蒸着(真空蒸着)により製膜する工程を含むことも好ましい。
【0130】
(電子ブロッキング層)
電子ブロッキング層には、電子供与性有機材料を用いることができる。具体的には、低分子材料では、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)や4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等の芳香族ジアミン化合物、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、4,4’,4”トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、ポルフィン、テトラフェニルポルフィン銅、フタロシアニン、銅フタロシアニン、チタニウムフタロシアニンオキサイド等のポリフィリン化合物、トリアゾール誘導体、オキサジザゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アニールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体などを用いることができ、高分子材料では、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン、ジアセチレン等の重合体や、その誘導体を用いることができる。電子供与性化合物でなくとも、十分なホール輸送性を有する化合物であれば用いることは可能である。
具体的には特開2008−72090号公報の[0083]〜[0089]に記載の化合物が好ましい。
【0131】
[光センサ]
光電変換素子は光電池と光センサに大別できるが、本発明の光電変換素子は光センサに適している。光センサとしては、上記光電変換素子単独で用いたものでもよいし、前記光電変換素子を直線状に配したラインセンサや、平面上に配した2次元センサの形態とすることができる。本発明の光電変換素子は、ラインセンサでは、スキャナー等の様に光学系及び駆動部を用いて光画像情報を電気信号に変換し、2次元センサでは、撮像モジュールのように光画像情報を光学系でセンサ上に結像させ電気信号に変換することで撮像素子として機能する。
光電池は発電装置であるため、光エネルギーを電気エネルギーに変換する効率が重要な性能となるが、暗所での電流である暗電流は機能上は問題にならない。更にカラーフィルタ設置当の後段の加熱工程が必要ない。光センサは明暗信号を高い精度で電気信号に変換することが重要な性能となるため、光量を電流に変換する効率も重要な性能であるが、暗所で信号を出力するとノイズとなるため、低い暗電流が要求される。更に後段の工程に対する耐性も重要である。
【0132】
[撮像素子]
次に、本発明の光電変換素子を含む撮像素子の構成例を説明する。なお、以下に説明する構成例において、すでに説明した部材などと同等な構成・作用を有する部材等については、図中に同一符号又は相当符号を付すことにより、説明を簡略化或いは省略する。
撮像素子とは画像の光情報を電気信号に変換する素子であり、複数の光電変換素子が同一平面状でマトリクス上に配置されており、各々の光電変換素子(画素)において光信号を電気信号に変換し、その電気信号を画素ごとに逐次撮像素子外に出力できるものをいう。そのために、画素ひとつあたり、一つの光電変換素子、一つ以上のトランジスタから構成される。
図2は、本発明の一実施形態を説明するための撮像素子の概略構成を示す断面模式図である。この撮像素子は、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等の撮像装置、電子内視鏡、携帯電話機等の撮像モジュール等に搭載して用いられる。

この撮像素子は、図1に示したような構成の複数の光電変換素子と、各光電変換素子の光電変換膜で発生した電荷に応じた信号を読み出す読み出し回路が形成された回路基板とを有し、該回路基板上方の同一面上に、複数の光電変換素子が1次元状又は二次元状に配列された構成となっている。
【0133】
図2に示す撮像素子100は、基板101と、絶縁層102と、接続電極103と、画素電極(下部電極)104と、接続部105と、接続部106と、光電変換膜107と、対向電極(上部電極)108と、緩衝層109と、封止層110と、カラーフィルタ(CF)111と、隔壁112と、遮光層113と、保護層114と、対向電極電圧供給部115と、読出し回路116とを備える。
【0134】
画素電極104は、図1に示した光電変換素子10aの電極11と同じ機能を有する。対向電極108は、図1に示した光電変換素子10aの電極15と同じ機能を有する。光電変換膜107は、図1に示した光電変換素子10aの電極11及び電極15間に設けられる層と同じ構成である。
【0135】
基板101は、ガラス基板又はSi等の半導体基板である。基板101上には絶縁層102が形成されている。絶縁層102の表面には複数の画素電極104と複数の接続電極103が形成されている。
【0136】
光電変換膜107は、複数の画素電極104の上にこれらを覆って設けられた全ての光電変換素子で共通の層である。
【0137】
対向電極108は、光電変換膜107上に設けられた、全ての光電変換素子で共通の1つの電極である。対向電極108は、光電変換膜107よりも外側に配置された接続電極103の上にまで形成されており、接続電極103と電気的に接続されている。
【0138】
接続部106は、絶縁層102に埋設されており、接続電極103と対向電極電圧供給部115とを電気的に接続するためのプラグ等である。対向電極電圧供給部115は、基板101に形成され、接続部106及び接続電極103を介して対向電極108に所定の電圧を印加する。対向電極108に印加すべき電圧が撮像素子の電源電圧よりも高い場合は、チャージポンプ等の昇圧回路によって電源電圧を昇圧して上記所定の電圧を供給する。
【0139】
読出し回路116は、複数の画素電極104の各々に対応して基板101に設けられており、対応する画素電極104で捕集された電荷に応じた信号を読出すものである。読出し回路116は、例えばCCD、CMOS回路、又はTFT回路等で構成されており、絶縁層102内に配置された図示しない遮光層によって遮光されている。読み出し回路116は、それに対応する画素電極104と接続部105を介して電気的に接続されている。
【0140】
緩衝層109は、対向電極108上に、対向電極108を覆って形成されている。封止層110は、緩衝層109上に、緩衝層109を覆って形成されている。カラーフィルタ111は、封止層110上の各画素電極104と対向する位置に形成されている。隔壁112は、カラーフィルタ111同士の間に設けられており、カラーフィルタ111の光透過効率を向上させるためのものである。
【0141】
遮光層113は、封止層110上のカラーフィルタ111及び隔壁112を設けた領域以外に形成されており、有効画素領域以外に形成された光電変換膜107に光が入射する事を防止する。保護層114は、カラーフィルタ111、隔壁112、及び遮光層113上に形成されており、撮像素子100全体を保護する。
【0142】
このように構成された撮像素子100では、光が入射すると、この光が光電変換膜107に入射し、ここで電荷が発生する。発生した電荷のうちの正孔は、画素電極104で捕集され、その量に応じた電圧信号が読み出し回路116によって撮像素子100外部に出力される。
【0143】
撮像素子100の製造方法は、次の通りである。
【0144】
対向電極電圧供給部115と読み出し回路116が形成された回路基板上に、接続部105,106、複数の接続電極103、複数の画素電極104、及び絶縁層102を形成する。複数の画素電極104は、絶縁層102の表面に例えば正方格子状に配置する。
【0145】
次に、複数の画素電極104上に、光電変換膜107を例えば真空加熱蒸着法によって形成する。次に、光電変換膜107上に例えばスパッタ法により対向電極108を真空下で形成する。次に、対向電極108上に緩衝層109、封止層110を順次、例えば真空加熱蒸着法によって形成する。次に、カラーフィルタ111、隔壁112、遮光層113を形成後、保護層114を形成して、撮像素子100を完成する。
【0146】
撮像素子100の製造方法においても、光電変換膜107に含まれる光電変換層の形成工程と封止層110の形成工程との間に、作製途中の撮像素子100を非真空下に置く工程を追加しても、複数の光電変換素子の性能劣化を防ぐことができる。この工程を追加することで、撮像素子100の性能劣化を防ぎながら、製造コストを抑えることができる。
【0147】
以下では、上述した撮像素子100の構成要素の封止層110の詳細について説明する。
[封止層]
封止層110としては次の条件が求められる。
第一に、素子の各製造工程において溶液、プラズマなどに含まれる有機の光電変換材料を劣化させる因子の浸入を阻止して光電変換層を保護することが挙げられる。
第二に、素子の製造後に、水分子などの有機の光電変換材料を劣化させる因子の浸入を阻止して、長期間の保存/使用にわたって、光電変換膜107の劣化を防止する。
第三に、封止層110を形成する際は既に形成された光電変換層を劣化させない。
第四に、入射光は封止層110を通じて光電変換膜107に到達するので、光電変換膜107で検知する波長の光に対して封止層110は透明でなくてはならない。
【0148】
封止層110は、単一材料からなる薄膜で構成することもできるが、多層構成にして各層に別々の機能を付与することで、封止層110全体の応力緩和、製造工程中の発塵等によるクラック、ピンホールなどの欠陥発生の抑制、材料開発の最適化が容易になることなどの効果が期待できる。例えば、封止層110は、水分子などの劣化因子の浸透を阻止する本来の目的を果たす層の上に、その層で達成することが難しい機能を持たせた「封止補助層」を積層した2層構成を形成することができる。3層以上の構成も可能だが、製造コストを勘案するとなるべく層数は少ない方が好ましい。
【0149】
[置換基W]
置換基Wについて記載する。
置換基Wとしてはハロゲン原子、アルキル基(シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、トリシクロアルキル基を含む)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、複素環基(ヘテロ環基といっても良い)、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む)、アンモニオ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基、アルキル及びアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール及びヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、ホスホノ基、シリル基、ヒドラジノ基、ウレイド基、ボロン酸基(−B(OH))、ホスファト基(−OPO(OH))、スルファト基(−OSOH)、その他の公知の置換基が挙げられる。
【0150】
更に詳しくは、Wは、下記の(1)〜(48)などを表す。
(1)ハロゲン原子
例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子
(2)アルキル基
直鎖、分岐、環状の置換若しくは無置換のアルキル基を表す。それらは、(2−a)〜(2−e)なども包含するものである。
(2−a)アルキル基
好ましくは炭素数1から30のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル、エイコシル、2−クロロエチル、2−シアノエチル、2−エチルヘキシル)
【0151】
(2−b)シクロアルキル基
好ましくは、炭素数3から30の置換又は無置換のシクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル、シクロペンチル、4−n−ドデシルシクロヘキシル)
(2−c)ビシクロアルキル基
好ましくは、炭素数5から30の置換若しくは無置換のビシクロアルキル基(例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル)
【0152】
(2−d)トリシクロアルキル基
好ましくは、炭素数7から30の置換若しくは無置換のトリシクロアルキル基(例えば、1−アダマンチル)
【0153】
(2−e)更に環構造が多い多環シクロアルキル基
なお、以下に説明する置換基の中のアルキル基(例えばアルキルチオ基のアルキル基)はこのような概念のアルキル基を表すが、更にアルケニル基、アルキニル基も含むこととする。
【0154】
(3)アルケニル基
直鎖、分岐、環状の置換若しくは無置換のアルケニル基を表す。それらは、(3−a)〜(3−c)を包含するものである。
【0155】
(3−a)アルケニル基
好ましくは炭素数2から30の置換又は無置換のアルケニル基(例えば、ビニル、アリル、プレニル、ゲラニル、オレイル)
【0156】
(3−b)シクロアルケニル基
好ましくは、炭素数3から30の置換若しくは無置換のシクロアルケニル基(例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル)
【0157】
(3−c)ビシクロアルケニル基
置換又は無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5から30の置換若しくは無置換のビシクロアルケニル基(例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−1−イル、ビシクロ[2,2,2]オクト−2−エン−4−イル)
【0158】
(4)アルキニル基
好ましくは、炭素数2から30の置換若しくは無置換のアルキニル基(例えば、エチニル、プロパルギル、トリメチルシリルエチニル基)
【0159】
(5)アリール基
好ましくは、炭素数6から30の置換若しくは無置換のアリール基(例えばフェニル、p−トリル、ナフチル、m−クロロフェニル、o−ヘキサデカノイルアミノフェニル、フェロセニル)
【0160】
(6)複素環基
好ましくは、5又は6員の置換若しくは無置換の、芳香族若しくは非芳香族の複素環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、更に好ましくは、炭素数2から50の5若しくは6員の芳香族の複素環基である。(例えば、2−フリル、2−チエニル、2−ピリミジニル、2−ベンゾチアゾリル、2−カルバゾリル、3−カルバゾリル、9−カルバゾリル。なお、1−メチル−2−ピリジニオ、1−メチル−2−キノリニオのようなカチオン性の複素環基でも良い。)
【0161】
(7)シアノ基
【0162】
(8)ヒドロキシ基
【0163】
(9)ニトロ基
【0164】
(10)カルボキシ基
【0165】
(11)アルコキシ基
好ましくは、炭素数1から30の置換若しくは無置換のアルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、t−ブトキシ、n−オクチルオキシ、2−メトキシエトキシ)
【0166】
(12)アリールオキシ基
好ましくは、炭素数6から30の置換若しくは無置換のアリールオキシ基(例えば、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ)
【0167】
(13)シリルオキシ基
好ましくは、炭素数3から20のシリルオキシ基(例えば、トリメチルシリルオキシ、t−ブチルジメチルシリルオキシ)
【0168】
(14)ヘテロ環オキシ基
好ましくは、炭素数2から30の置換若しくは無置換のヘテロ環オキシ基(例えば、1−フェニルテトラゾールー5−オキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ)
【0169】
(15)アシルオキシ基
好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2から30の置換若しくは無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6から30の置換若しくは無置換のアリールカルボニルオキシ基(例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、ピバロイルオキシ、ステアロイルオキシ、ベンゾイルオキシ、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ)
【0170】
(16)カルバモイルオキシ基
好ましくは、炭素数1から30の置換若しくは無置換のカルバモイルオキシ基(例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ、モルホリノカルボニルオキシ、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ、N−n−オクチルカルバモイルオキシ)
【0171】
(17)アルコキシカルボニルオキシ基
好ましくは、炭素数2から30の置換若しくは無置換アルコキシカルボニルオキシ基(例えばメトキシカルボニルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、t−ブトキシカルボニルオキシ、n−オクチルカルボニルオキシ)
【0172】
(18)アリールオキシカルボニルオキシ基
好ましくは、炭素数7から30の置換若しくは無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基(例えば、フェノキシカルボニルオキシ、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ)
【0173】
(19)アミノ基
好ましくは、アミノ基、炭素数1から30の置換若しくは無置換のアルキルアミノ基、炭素数6から30の置換若しくは無置換のアニリノ基(例えば、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ、N−メチル−アニリノ、ジフェニルアミノ)
【0174】
(20)アンモニオ基
好ましくは、アンモニオ基、炭素数1から30の置換若しくは無置換のアルキル、アリール、複素環が置換したアンモニオ基(例えば、トリメチルアンモニオ、トリエチルアンモニオ、ジフェニルメチルアンモニオ)
【0175】
(21)アシルアミノ基
好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1から30の置換若しくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6から30の置換若しくは無置換のアリールカルボニルアミノ基(例えば、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ピバロイルアミノ、ラウロイルアミノ、ベンゾイルアミノ、3,4,5−トリ−n−オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ)
【0176】
(22)アミノカルボニルアミノ基
好ましくは、炭素数1から30の置換若しくは無置換のアミノカルボニルアミノ(例えば、カルバモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ、モルホリノカルボニルアミノ)
【0177】
(23)アルコキシカルボニルアミノ基
好ましくは、炭素数2から30の置換若しくは無置換アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、t−ブトキシカルボニルアミノ、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ、N−メチルーメトキシカルボニルアミノ)
【0178】
(24)アリールオキシカルボニルアミノ基
好ましくは、炭素数7から30の置換若しくは無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基(例えば、フェノキシカルボニルアミノ、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ)
【0179】
(25)スルファモイルアミノ基
好ましくは、炭素数0から30の置換若しくは無置換のスルファモイルアミノ基(例えば、スルファモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ)
【0180】
(26)アルキル若しくはアリールスルホニルアミノ基
好ましくは、炭素数1から30の置換若しくは無置換のアルキルスルホニルアミノ、炭素数6から30の置換若しくは無置換のアリールスルホニルアミノ(例えば、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ、p−メチルフェニルスルホニルアミノ)
【0181】
(27)メルカプト基
【0182】
(28)アルキルチオ基
好ましくは、炭素数1から30の置換若しくは無置換のアルキルチオ基(例えばメチルチオ、エチルチオ、n−ヘキサデシルチオ)
【0183】
(29)アリールチオ基
好ましくは、炭素数6から30の置換若しくは無置換のアリールチオ(例えば、フェニルチオ、p−クロロフェニルチオ、m−メトキシフェニルチオ)
【0184】
(30)ヘテロ環チオ基
好ましくは、炭素数2から30の置換又は無置換のヘテロ環チオ基(例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ)
【0185】
(31)スルファモイル基
好ましくは、炭素数0から30の置換若しくは無置換のスルファモイル基(例えば、N−エチルスルファモイル、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル、N−アセチルスルファモイル、N−ベンゾイルスルファモイル、N−(N’−フェニルカルバモイル)スルファモイル)
【0186】
(32)スルホ基
【0187】
(33)アルキル若しくはアリールスルフィニル基
好ましくは、炭素数1から30の置換又は無置換のアルキルスルフィニル基、6から30の置換又は無置換のアリールスルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、フェニルスルフィニル、p−メチルフェニルスルフィニル)
【0188】
(34)アルキル若しくはアリールスルホニル基
好ましくは、炭素数1から30の置換若しくは無置換のアルキルスルホニル基、6から30の置換若しくは無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、フェニルスルホニル、p−メチルフェニルスルホニル)
【0189】
(35)アシル基
好ましくは、ホルミル基、炭素数2から30の置換若しくは無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7から30の置換若しくは無置換のアリールカルボニル基、炭素数4から30の置換若しくは無置換の炭素原子でカルボニル基と結合しているヘテロ環カルボニル基(例えば、アセチル、ピバロイル、2−クロロアセチル、ステアロイル、ベンゾイル、p−n−オクチルオキシフェニルカルボニル、2―ピリジルカルボニル、2―フリルカルボニル)
【0190】
(36)アリールオキシカルボニル基
好ましくは、炭素数7から30の置換若しくは無置換のアリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル、o−クロロフェノキシカルボニル、m−ニトロフェノキシカルボニル、p−t−ブチルフェノキシカルボニル)
【0191】
(37)アルコキシカルボニル基
好ましくは、炭素数2から30の置換若しくは無置換アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、n−オクタデシルオキシカルボニル)
【0192】
(38)カルバモイル基
好ましくは、炭素数1から30の置換若しくは無置換のカルバモイル(例えば、カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル、N−(メチルスルホニル)カルバモイル)
【0193】
(39)アリール及びヘテロ環アゾ基
好ましくは、炭素数6から30の置換若しくは無置換のアリールアゾ基、炭素数3から30の置換若しくは無置換のヘテロ環アゾ基(例えば、フェニルアゾ、p−クロロフェニルアゾ、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ)
【0194】
(40)イミド基
好ましくは、N−スクシンイミド、N−フタルイミド
【0195】
(41)ホスフィノ基
好ましくは、炭素数2から30の置換若しくは無置換のホスフィノ基(例えば、ジメチルホスフィノ、ジフェニルホスフィノ、メチルフェノキシホスフィノ)
【0196】
(42)ホスフィニル基
好ましくは、炭素数2から30の置換若しくは無置換のホスフィニル基(例えば、ホスフィニル、ジオクチルオキシホスフィニル、ジエトキシホスフィニル)
【0197】
(43)ホスフィニルオキシ基
好ましくは、炭素数2から30の置換若しくは無置換のホスフィニルオキシ基(例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ)
【0198】
(44)ホスフィニルアミノ基
好ましくは、炭素数2から30の置換若しくは無置換のホスフィニルアミノ基(例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ、ジメチルアミノホスフィニルアミノ)
【0199】
(45)ホスフォ基
【0200】
(46)シリル基
好ましくは、炭素数3から30の置換若しくは無置換のシリル基(例えば、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、t−ブチルジメチルシリル、フェニルジメチルシリル)
(47)ヒドラジノ基
好ましくは炭素数0から30の置換若しくは無置換のヒドラジノ基(例えば、トリメチルヒドラジノ)
(48)ウレイド基
好ましくは炭素数0から30の置換若しくは無置換のウレイド基(例えばN,N−ジメチルウレイド)
【0201】
上記の置換基Wの中で、水素原子を有するものは、これを取り去り更に上記の基で置換されていても良い。そのような置換基の例としては、−CONHSO−基(スルホニルカルバモイル基、カルボニルスルファモイル基)、−CONHCO−基(カルボニルカルバモイル基)、−SONHSO−基(スルフォニルスルファモイル基)が挙げられる。より具体的には、アルキルカルボニルアミノスルホニル基(例えば、アセチルアミノスルホニル)、アリールカルボニルアミノスルホニル基(例えば、ベンゾイルアミノスルホニル基)、アルキルスルホニルアミノカルボニル基(例えば、メチルスルホニルアミノカルボニル)、アリールスルホニルアミノカルボニル基(例えば、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル)が挙げられる。
【0202】
[環R]
環Rとしては、芳香族、又は非芳香族の炭化水素環、又は複素環や、これらが更に組み合わされて形成された多環縮合環が挙げられる。例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、トリフェニレン環、ナフタセン環、ビフェニル環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、インドリジン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、イソベンゾフラン環、キノリジン環、キノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キノキサゾリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、フェナントリジン環、アクリジン環、フェナントロリン環、チアントレン環、クロメン環、キサンテン環、フェノキサチイン環、フェノチアジン環、及びフェナジン環が挙げられる。
【実施例】
【0203】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0204】
〔有機材料の合成〕
以下に示す化合物1及び3を公知の方法(特開2000−297068号公報)に準じて合成した。
化合物1及び3について示差熱熱重量同時測定により分解温度を測定したところ、化合物1の分解温度は261℃、化合物3の分解温度は290℃であった。
【0205】
【化22】

【0206】
〔蒸着材料の作成〕
前記化合物3(有機材料)と、ジメチルアセトアミド(化合物(A))を同質量比で混ぜ合わせた材料を、1.0×10−1Pa・200℃の雰囲気下で、数時間真空加熱乾燥をすることで、前記化合物3(有機材料)98質量部と、ジメチルアセトアミド(化合物(A))2質量部となる蒸着材料1を作成した。
前記化合物1(有機材料)と、ジメチルアセトアミド(化合物(A))を同質量比で混ぜ合わせた材料を、1.0×10−1Pa・200℃の雰囲気下で、数時間真空加熱乾燥をすることで、前記化合物1(有機材料)99質量部と、ジメチルアセトアミド(化合物(A))1質量部となる蒸着材料1を作成した。
ジメチルアセトアミドの1.0×10−1Paにおける沸点は160℃である。
【0207】
(実施例1)
〔蒸着材料の加熱、及び有機材料の蒸着製膜〕
蒸着材料1をアルバック社製の真空蒸着装置に入れ、圧力を7.8×10−5Paとした。
真空度をモニタリングしながら、ジメチルアセトアミドの1.0×10−1Paにおける沸点(T)160℃より高い240℃(T)まで昇温速度約10℃/分で昇温し、一定時間温度を保った(第1加熱)。図4に実施例1における温度と圧力のプロファイルを示す。150℃を超えたくらいから真空度が一旦低下し、230〜240℃まで加熱すると真空度が良化し、開始時よりも真空度が高くなった。第1加熱の時間は約30分であった。
真空度が、開始時よりも高くなったところで、有機材料である化合物3の蒸着温度(T)である270℃まで昇温させた(第2加熱)。この時、若干の真空度の悪化(微小変化)が見られた。
前記真空度の若干の悪化から、真空度が再び良化し、240℃から270℃への昇温前の真空度と同等又は良くなったことと、有機材料である化合物3の蒸着速度が0.5Å/秒になったことを確認して、蒸着成膜プロセスを開始した。
蒸着成膜プロセスは、2時間連続で行い、100nm厚の膜を製膜した。
蒸着成膜プロセス終了後、加熱を止め、室温まで冷却した後のるつぼ内の材料(残渣)の状態を調べたところ、さらさらの粉状であり、化合物3の融解は見られなかった。
【0208】
〔純度の測定〕
加熱前の蒸着材料、蒸着成膜開始から40分後の膜、蒸着成膜開始から100分後の膜、蒸着が終了した後のるつぼ残渣について、化合物3の純度をHPLC:高速液体クロマトグラフィーにより測定した。
【0209】
(実施例2)
実施例1において、蒸着材料1のかわりに蒸着材料2(化合物1とジメチルアセトアミドを含有する)を用いた以外は同様にして蒸着材料の加熱、及び有機材料の蒸着製膜を行い、同様に純度を評価した。
蒸着材料2をアルバック社製の真空蒸着装置に入れ、圧力を7.8×10−5Paとした。
真空度をモニタリングしながら、210℃(T)まで昇温速度約10℃/分で昇温し、一定時間温度を保った(第1加熱)。実施例1と同様の温度と圧力の変化が観測された。150℃を超えたくらいから真空度が一旦低下し、200℃まで加熱すると真空度が良化しはじめ、開始時よりも真空度が高くなった。第1加熱の時間は約30分であった。
真空度が、開始時よりも良くなったところで、有機材料である化合物1の蒸着温度(T)である225℃まで昇温させた(第2加熱)。この時、若干の真空度の悪化(微小変化)が見られた。
前記真空度の若干の悪化から、真空度が再び良化し、210℃から225℃への昇温前の真空度と同等又は良くなったことと、有機材料である化合物1の蒸着速度が0.5Å/秒になったことを確認して、蒸着成膜プロセスを開始した。
蒸着成膜プロセスは、2時間連続で行い、100nm厚の膜を製膜した。
蒸着成膜プロセス終了後、加熱を止め、室温まで冷却した後のるつぼ内の材料(残渣)の状態を調べたところ、さらさらの粉状であり、化合物1の融解は見られなかった。
【0210】
(比較例1)
蒸着材料1を用いて従来の方法により蒸着製膜した。すなわち、化合物3の蒸着温度である270℃まで一気に加熱することにより蒸着製膜を行い、同様に純度を評価した。蒸着成膜プロセス終了後、加熱を止め、室温まで冷却した後のるつぼ内の材料(残渣)の状態を調べたところ、化合物3が融解していた。比較例1の温度と圧力のプロファイルを図5に示す。
【0211】
(比較例2)
比較例1において、蒸着材料1のかわりに蒸着材料2(化合物1とジメチルアセトアミドを含有する)を用いた以外は同様にして蒸着材料の加熱、及び有機材料の蒸着製膜を行い、同様に純度を評価した。
【0212】
【表1】

【0213】
表から明らかなように、本発明にかかる蒸着方法により得られる膜は、従来法による膜に対して有機材料の純度が高い。また、本発明にかかる蒸着方法では、昇華精製ができない有機材料であっても、分解させずに、高い純度で長時間連続して蒸着製膜することができる。
【符号の説明】
【0214】
10a、10b 光電変換素子
11 下部電極(導電性薄膜)
12 光電変換層(光電変換膜)
15 上部電極(透明導電性薄膜)
16A 電子ブロッキング層
16B 正孔ブロッキング層
100 撮像素子
101 基板
102 絶縁層
103 接続電極
104 画素電極(下部電極)
105 接続部
106 接続部
107 光電変換膜
108 対向電極(上部電極)
109 緩衝層
110 封止層
111 カラーフィルタ(CF)
112 隔壁
113 遮光層
114 保護層
115 対向電極電圧供給部
116 読出し回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華精製による精製ができない有機材料を蒸着製膜して得られる膜であって、
該有機材料と該有機材料の蒸着温度Tより低い沸点又は昇華点Tを有する化合物(A)とを含有する蒸着用材料を用い、
前記蒸着用材料を、第1加熱により、前記化合物(A)の沸点又は昇華点Tより高く、かつ前記有機材料の蒸着温度Tより低い温度Tまで昇温後、該温度Tに維持し、
該第1加熱の後に、第2加熱により、前記有機材料の蒸着温度T以上、前記有機材料の分解温度以下の温度まで昇温後、該温度に維持して前記有機材料の蒸着製膜を行うことにより得られる膜。
ここで、化合物(A)の沸点又は昇華点Tは、1.0×10−1Paにおける化合物(A)の沸点又は昇華点である。
有機材料の蒸着温度Tは、有機材料の蒸着速度が0.5Å/秒に到達する温度を指す。
有機材料の分解温度は、示差熱熱重量測定において、有機材料を一定温度で60分間加熱したとき1%以上の重量減少が生じる場合の温度を指す。
【請求項2】
前記化合物(A)が蒸発又は昇華した後に、前記第2加熱を開始する、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
製膜室の真空度の値により、前記化合物(A)が蒸発又は昇華したことを確認して前記第2加熱を開始する、請求項2に記載の膜。
【請求項4】
前記有機材料が光電変換膜の形成に用いられる有機材料である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の膜。
【請求項5】
前記有機材料が下記一般式(I)で表されるドナー‐アクセプター型色素化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の膜。
一般式(I)
【化1】

(Dはヘテロ原子を有する原子群を表す。Aはカルボニル基又はシアノ基を有する基を表す。L及びLはそれぞれ独立に、無置換メチン基、又は置換メチン基を表す。nは0以上の整数を表す。)
【請求項6】
前記有機材料が下記一般式(II)で表される化合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の膜。
一般式(II)
【化2】

(式中、Zは、少なくとも2つの炭素原子を含む環であって、5員環、6員環、又は、5員環及び6員環の少なくともいずれかを含む縮合環を表す。L、L、及びLはそれぞれ独立に、無置換メチン基、又は置換メチン基を表す。Dはヘテロ原子を有する原子群を表す。nは0以上の整数を表す。)
【請求項7】
前記化合物(A)が、1.0×10−1Paでの沸点が120℃以上の有機溶媒である請求項1〜6のいずれか1項に記載の膜。
【請求項8】
前記化合物(A)が、ジメチルアセトアミド、1−エチル−2−ピロリドン、又はN,N−ジメチルホルムアミドである請求項1〜7のいずれか1項に記載の膜。
【請求項9】
前記有機材料の蒸着温度Tと前記化合物(A)の沸点又は昇華点Tとの差が、50〜160℃である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の膜。
【請求項10】
前記TとTの差が、30〜100℃である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の膜。
【請求項11】
前記TとTの差が、10〜60℃である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の膜。
【請求項12】
透明導電性膜、光電変換膜、及び導電性膜をこの順で有する光電変換素子であって、前記光電変換膜は、請求項1〜11のいずれか1項に記載の膜である、光電変換素子。
【請求項13】
昇華精製による精製ができない有機材料を蒸着製膜して得られる膜の製造方法であって、
該有機材料と該有機材料の蒸着温度Tより低い沸点又は昇華点Tを有する化合物(A)とを含有する蒸着用材料を用い、
前記蒸着用材料を、第1加熱により、前記化合物(A)の沸点又は昇華点Tより高く、かつ前記有機材料の蒸着温度Tより低い温度Tまで昇温後、該温度Tに維持し、
該第1加熱の後に、第2加熱により、前記有機材料の蒸着温度T以上、前記有機材料の分解温度以下の温度まで昇温後、該温度に維持して前記有機材料の蒸着製膜を行う、膜の製造方法。
ここで、化合物(A)の沸点又は昇華点Tは、1.0×10−1Paにおける化合物(A)の沸点又は昇華点である。
有機材料の蒸着温度Tは、有機材料の蒸着速度が0.5Å/秒に到達する温度を指す。
有機材料の分解温度は、示差熱熱重量測定において、有機材料を一定温度で60分間加熱したとき1%以上の重量減少が生じる場合の温度を指す。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−243873(P2012−243873A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110745(P2011−110745)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】