説明

膜の検査方法

【課題】濾過開始後における濾過膜の膜孔の製造時からの変化を高精度に検出可能な膜の検査方法を提供する。
【解決手段】限外濾過膜または精密濾過膜の公称分画分子量の前後に亘る既知の分子量サイズを有する非電荷性溶質を準備し、この水溶液を膜に通して濾過し、濾過前の水溶液中の非電荷性溶質の分子量分布と濾過後の水溶液中の非電荷性溶質の分子量分布とを比較することにより、膜を通過可能な非電荷性溶質の最大分子量サイズを決定して、膜孔のサイズ分布に換算する膜の検査方法において、前記非電荷性溶質の準備段階は、分画分子量の異なる非電荷性溶質それぞれのクロマトグラムにおいて、保持時間に関し隣り合う非電荷性溶質について、ピーク値の前後の傾斜曲線部が互いに重なり合うように連続的な分子量サイズ分布とする段階を有し、換算した膜孔のサイズ分布と膜の公称分画分子量とに基づいて、膜の損傷あるいは劣化を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、膜の検査方法に関し、より詳細には、濾過開始後における濾過膜の膜孔の製造時からの変化を高精度に検出可能な膜の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、たとえば、特許文献1に開示されているように、マイクロ濾過膜、限外濾過膜およびナノ濾過膜を対象に、非電荷性溶質であるポリエチレングリコール(以下、PEGと略称する)を利用した膜孔サイズ分布を測定する方法が知られている。
【0003】
この方法は、測定すべき膜孔を有する膜の公称分画分子量の前後に亘る既知の分子量サイズを有するPEGを複数準備し、このPEGを含有する水溶液を膜に通して濾過する段階と、濾過前の水溶液中のPEGの分子量サイズ分布と、濾過直後の水溶液のPEGの分子量サイズ分布とを比較することにより、膜を通過可能なPEGの最大分子量サイズを決定し、最大分子量サイズに基づいて膜孔のサイズ分布に換算する段階とを有する。
この方法によれば、製造時の各種膜の膜孔サイズ分布を経済的、かつ連続的に測定することが可能である。
【0004】
しかしながら、濾過開始後、膜が損傷したり、あるいは膜の経時的な変化に起因して、製造時の膜孔が拡径化し、本来の濾過機能を発揮することができない状況が生じる。たとえば、河川水や湖沼水などの表流水および地下水などの環境水を原水として、このような濾過膜を膜濾過する水処理方法に使用する場合に、このような状況を放置しておくと、原水の漏洩が進み、膜透過水中に微粒子(クリプトスポリジウムなどの原虫も含む)が混入する可能性があることから、このような膜孔の拡径化をいち早く検出することにより、対処することが重要となる。
【特許文献1】特許第3339679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この点、製造時の膜孔ではなく、濾過開始後の拡径化した膜孔に対して上述の測定方法をそのまま適法しようとすると、以下のような技術的問題が存する。
第1に、製造時の膜孔であれば、膜の膜孔サイズ、すなわち公称分画分子量がわかっているので、それを利用して、その前後に亘る既知の分子量サイズを有するPEGを複数種類準備すれば足りる。しかしながら、膜の損傷に起因して濾過開始後に拡径した膜孔については、製造時の公称分画分子量の前後に亘る既知の分子量サイズ分布を有するPEGを準備するだけでは、対応不十分である。すなわち、拡径した膜孔サイズの前後に亘る既知の分子量サイズ分布を有するPEGを準備する必要があるところ、このような拡径の程度を予め予測するのは困難である。
【0006】
このように、単に製造時の公称分画分子量の前後に亘る既知の分子量サイズを有する複数のPEGをそのまま利用して、濾過開始後の拡径した膜孔を対象に膜孔サイズを測定しようとしても、高精度に測定することは困難である。
特に、このような膜の損傷は、たとえば中空糸濾過膜の場合、例えば、複数本を結束した膜エレメントの中の(特定)1本または1ヵ所が突発的に損傷するような場合には膜孔の存在を精度良く検出することは困難である。
【0007】
第2に、膜孔のファウリング低減処置に起因して、膜自体が経時的に劣化して、膜孔サイズが徐々に拡径化する場合に、ファウリングにより膜孔が縮径化した段階で事前に検出することが困難である。
より詳細には、長時間の濾過運転により生じる膜孔のファウリングを低減するために、従来、物理洗浄あるいは薬品洗浄が濾過運転の通常ルーチンとして定期的に行われてきた。物理洗浄には、膜濾過水を逆流させる逆流洗浄(逆洗)、膜の一次側での水流によるフラッシング、空気により膜を振動させるエアースクラビングなどの物理的な作用を利用する方法があり、一方、薬品洗浄は、物理洗浄を実施していても次第に進行するファウリングを低減することを目的に、物理洗浄では除去しきれない物質を薬品によって分解または溶解させて除去する洗浄方法で、膜の濾過能力をほぼ初期状態まで回復することができる。
しかしながら、一方で、このような膜孔のファウリング低減処置である物理洗浄あるいは薬品洗浄に起因して、膜自体が徐々に劣化して、膜孔サイズが徐々に大きくなることは避けられない。
【0008】
そこで、上述の方法をそのまま適用することにより、ファウリングに起因する膜孔の縮径化そのものを検出しようとした場合、縮径した膜孔サイズの前後に亘る既知の分子量サイズ分布を有するPEGを準備する必要があるところ、このような縮径の程度を予め予測するのは困難である。
特に、このような膜のファウリングは、上述の突発的な膜の損傷とは異なり、経時的に生じるものであることから、数個の膜孔ではなく、膜面全体に対して生じることが多い。
【0009】
第3に、第1の膜の損傷に伴う膜の拡径化と、第2のファウリングに伴う膜の縮径化とが、同時に発生することもあり、このような状況において、上述の方法をそのまま適用しても、拡径化した膜孔の存在および縮径化した膜孔の存在いずれも精度良く検出することは困難である。
【0010】
そこで、上記技術的問題に鑑み、本発明の目的は、濾過開始後における濾過膜の膜孔の製造時からの変化(拡径化および縮径化)を高精度に検出可能な膜の検査方法を提供することにある。
上記技術的問題に鑑み、本発明の目的は、濾過開始後における濾過膜の膜孔の損傷を高精度に検出可能な膜の検査方法を提供することにある。
上記技術的問題に鑑み、本発明の目的は、濾過開始後における濾過膜の膜孔のファウリングに起因する膜孔の劣化を事前に検出可能な膜の検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る膜の検査方法は、
検査すべき膜孔を有する限外濾過膜または精密濾過膜の公称分画分子量の前後に亘る既知の分子量サイズを有する非電荷性溶質を複数準備し、この非電荷性溶質を含有する水溶液を膜に通して濾過する段階と、
濾過前の水溶液中の非電荷性溶質の分子量分布と、濾過後の水溶液中の非電荷性溶質の分子量分布とを比較することにより、膜を通過可能な非電荷性溶質の最大分子量サイズを決定し、この最大分子量サイズに基づいて膜孔のサイズ分布に換算する段階とを有する膜の検査方法において、
前記非電荷性溶質の準備段階は、分画分子量の異なる非電荷性溶質それぞれのクロマトグラムにおいて、保持時間に関し隣り合う非電荷性溶質について、ピーク値の前後の傾斜曲線部が互いに重なり合うように連続的な分子量サイズ分布とする段階を有し、
換算した膜孔のサイズ分布と膜の公称分画分子量とに基づいて、膜の損傷、経時劣化、あるいは膜ファウリングによる膜孔の閉塞を判定する段階を有する、構成としている。

【0012】
以上の構成を有する膜の検査方法によれば、検査すべき膜孔を有する限外濾過膜または精密濾過膜の公称分画分子量の前後に亘る既知の分子量サイズを有する非電荷性溶質を準備し、この非電荷性溶質を含有する水溶液を膜に通して濾過する段階において、前記非電荷性溶質の準備段階が、分画分子量の異なる非電荷性溶質それぞれのクロマトグラムにおいて、保持時間に関し隣り合う非電荷性溶質について、ピーク値の前後の傾斜曲線部が互いに重なり合うように連続的な分子量サイズ分布とする段階を有することにより、たとえ濾過膜の膜孔の製造時からの変化、すなわち膜の膜孔サイズ、あるいは公称分画分子量からの変化が予測困難な場合でも、濾過前の水溶液中の非電荷性溶質の分子量分布と、濾過後の水溶液中の非電荷性溶質の分子量分布とを比較することにより、膜を通過可能な非電荷性溶質の最大分子量サイズを決定し、この最大分子量サイズに基づいて膜孔のサイズ分布に換算し、換算した膜孔のサイズ分布と膜の公称分画分子量とに基づいて、膜の損傷あるいは劣化を判定する段階を有することにより、この最大分子量サイズを検査対象である膜孔のサイズになるべく近づけることが可能であり、それにより濾過開始後における濾過膜の膜孔の製造時からの変化(拡径化および縮径化)を高精度に検出可能である。特に、膜の損傷の際には、細孔自体が拡径化したり、大きな異物により穴が開いたりする場合、一方膜の経時変化の際には、ファウリングにより細孔自体が閉塞したり、縮径化する場合を事前に検出したり、あるいはこのようなファウリング対応として物理洗浄と薬品洗浄の繰り返しにより、膜自体が経時劣化して、細孔自体が拡径化したり、あるいは小さいピンホールが開いたりする場合等、種々の膜の細孔の拡径化あるいは縮径化の変化に対して、それを高精度に検出することが可能となる。

【0013】
また、前記非電荷性溶質の準備段階は、検査すべき膜孔を有する限外濾過膜または精密濾過膜の公称分画分子量より大きい範囲で、連続的な分子量サイズ分布を準備し、
前記判定段階は、換算した膜孔のサイズ分布と膜の公称分画分子量とに基づいて、膜の損傷あるいは経時劣化を判定する段階を有するのでもよい。

さらに、前記非電荷性溶質の準備段階は、検査すべき膜孔を有する限外濾過膜または精密濾過膜の公称分画分子量より小さい範囲で、連続的な分子量サイズ分布を準備し、
前記判定段階は、換算した膜孔のサイズ分布と膜の公称分画分子量とに基づいて、膜の経時劣化あるいは膜ファウリングによる膜孔の閉塞を判定する段階を有するのでもよい。

さらにまた、前記限外濾過膜または精密濾過膜は、環境水を原水として濾過する水処理に使用され、前記濾過段階において、前記限外濾過膜または精密濾過膜の膜濾過流束の運転条件の範囲内において、流束を変化させて濾過を行う段階を有し、
前記非電荷性溶質は、ポリエチレングリコールであり、
前記連続的な分子量サイズ分布は、200ないし3,500,000の範囲であるのでもよい。

加えて、前記限外濾過膜または精密濾過膜は、中空糸濾過膜でもよい。

【0014】
さらに、ポリエチレングリコールを添加した原水を前記限外濾過膜または精密濾過膜により濾過しながら、膜の検査を行うのでもよい。
上記課題を解決するために、本発明に係る膜の検査方法は、
検査すべき膜孔を有するセラミックス製濾過膜の公称分画分子量の前後に亘る既知の分子量サイズを有する非電荷性溶質を複数準備し、この非電荷性溶質を含有する水溶液を膜に通して濾過する段階と、
濾過前の水溶液中の非電荷性溶質の分子量分布と、濾過後の水溶液中の非電荷性溶質の分子量分布とを比較することにより、膜を通過可能な非電荷性溶質の最大分子量サイズを決定し、この最大分子量サイズに基づいて膜孔のサイズ分布に換算する段階とを有する膜の検査方法において、
前記非電荷性溶質の準備段階は、分画分子量の異なる非電荷性溶質それぞれのクロマトグラムにおいて、保持時間に関し隣り合う非電荷性溶質について、ピーク値の前後の傾斜曲線部が互いに重なり合うように連続的な分子量サイズ分布とする段階を有し、
換算した膜孔のサイズ分布と膜の公称分画分子量とに基づいて、膜の損傷、経時劣化、あるいは膜ファウリングによる膜孔の閉塞を判定する段階を有する、構成としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明による膜の検査方法によれば、検査すべき膜孔を有する限外濾過膜または精密濾過膜の公称分画分子量の前後に亘る既知の分子量サイズを有する非電荷性溶質を準備し、この非電荷性溶質を含有する水溶液を膜に通して濾過する段階において、前記非電荷性溶質の準備段階が、分画分子量の異なる非電荷性溶質それぞれのクロマトグラムにおいて、保持時間に関し隣り合う非電荷性溶質について、ピーク値の前後の傾斜曲線部が互いに重なり合うように連続的な分子量サイズ分布とする段階を有し、濾過前の水溶液中の非電荷性溶質の分子量分布と、濾過後の水溶液中の非電荷性溶質の分子量分布とを比較することにより、膜を通過可能な非電荷性溶質の最大分子量サイズを決定し、この最大分子量サイズに基づいて膜孔のサイズ分布に換算し、換算した膜孔のサイズ分布と膜の公称分画分子量とに基づいて、膜の損傷あるいは劣化を判定する段階を有することにより、この最大分子量サイズを検査対象である細孔のサイズになるべく近づけることが可能であり、それにより濾過開始後における濾過膜の膜孔の製造時からの変化(拡径化および縮径化)を高精度に検出可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、原水を中空糸膜により濾過する浄水処理に対して、本発明の膜の検査方法を適用する場合を例に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。
概略的には、原水を膜濾過する浄水処理に使用する膜に対して、本発明に係る膜の検査方法を適用し、膜供給水中にあらかじめ分画分子量が既知で連続した分子量分布を有するPEGを添加して膜濾過し、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、以下GPCと省略する)を用いて、膜供給水中のPEGの各分画分子量の阻止率と、膜透過水中に溶出するPEGの各分画分子量の阻止率とを比較することにより、膜の破損や劣化の解析を行った。
【0017】
まず、原水を中空糸膜により濾過する膜濾過装置の構成について説明する。
図1に本発明における実施の形態に係る膜濾過装置の構成図を示す。図1において、2が原水タンク、3が原水ポンプ、4が原水バルブ、5が膜モジュール、6が膜出口バルブ、7が逆洗タンク入り口バルブ、10が逆洗タンク、11が逆洗ポンプ、12が逆洗バルブ、13が逆洗排水用バルブである。
【0018】
(1)通常濾過運転
濾過運転は、膜入り口バルブ4、膜出口バルブ4、逆洗タンク入り口バルブ7を開状態とし、原水ポンプ1を起動して、原水1を貯蔵した原水タンク2を膜入り口バルブ4を経由して膜モジュール5に導入し、膜モジュール5に導入した原水1は、膜出口6、逆洗タンク7を経由して逆洗タンク10に入り、逆洗タンク10に所定量の透過水を貯蔵した後に膜濾過水8として供給される。膜モジュール5は、内圧中空糸膜であり、中空糸(ストロー)の中に内側から原水を入れ、透過水を外側へ排出する周知のタイプであり、膜濾過流束、濾過時間は原水水質により決定するが、たとえば、1.5m/d〜5m/d程度の範囲で膜濾過流束を変更し、30〜120分程度の時間、連続で濾過運転を行う。
【0019】
この膜濾過水の水質は水質計9により常時監視する。水質計9は高感度濁度計などである。濾過運転中に、膜損傷など膜に異常が発生した場合には、水質計9の測定値が上昇する。あらかじめ設定した設定値を超えた場合には、膜損傷と判断し、緊急停止などの措置を講じる必要がある。
【0020】
このような濾過運転中に、原水中の濁質などは中空糸内側に堆積する。堆積物が多くなると膜の細孔が閉塞され、透過水が得にくくなる。堆積が進行すると中空糸自身が閉塞する。堆積により濾過に有効な膜面積が減少し、膜差圧(膜の内側と外側の圧力差)が大きくなり、濾過するための動力が大きくなる技術的問題が生じる。この工程では膜ファウリングが生じ、膜の細孔は閉塞され細孔の数が少なくなるか、あるいは部分的に中空糸内面の細孔が閉塞され、細孔径は縮径化する。 従来、このような濾過運転時の正常、異常の確認は膜差圧で評価していた。
【0021】
(2)逆洗
原水中の濁質などの中空糸内側の堆積物を除去するために、30〜120分の濾過運転後に透過水を中空糸の外側から内側に逆流させ、堆積物を剥離、除去する。逆洗時間は、たとえば60〜120秒程度である。堆積物が完全に剥離しない場合には、膜に付着しやすい物質が存在すると残留が生じる。この場合、逆流させている水は、流れやすいところに集中的に流れる性質から、堆積物が剥離した部分へ流れ、残留物はそのまま残る。この残留が生じた状態で、濾過工程に戻ると、有効膜面積が減少しているため、膜差圧は上昇する。また、正常な状態の膜と同じ量の濾過水を得ようとした場合には動力の負荷が大きくなるという技術的問題が生じる。
【0022】
(3)薬品添加逆洗
通常は、濾過運転と逆洗の工程を繰り返すが、連続運転を行うと、逆洗では堆積物の剥離しない部分が生じる。そこで、薬品を添加した逆洗を行う。薬品添加逆洗の間隔は、たとえば1回/日〜1回/週間程度の間隔で、運転状況により決定する。逆洗工程の後、逆洗と同じ方向、すなわち中空糸の外側から内側、に透過水を流し、そこに薬品を添加する。たとえば流入させる水のpHが2〜2.5になるように硫酸を添加した水を入れ、30分から60分浸漬し、膜が硫酸溶液に浸漬した状態で停止する。所定時間経過後に透過水を入れることにより排水・リンスを行う。次いで、次亜塩素酸ナトリウムを100mg/L程度の濃度になるように添加し、浸漬洗浄し、所定時間経過後に透過水を入れることにより、排水・リンスを行う。
【0023】
(4)薬品洗浄
(1)〜(3)の工程を半年から1年繰返すと、膜には洗浄しきれない部分が生じてくるのでその場合には装置から膜自体を切り離して薬品を強化した洗浄を行う。薬品添加逆洗とともにこのような洗浄は、薬品を使用するので、膜が劣化して、膜寿命を短くする一因となる。
【0024】
(5)膜の検査
上述のような濾過運転中に、連続監視としては、たとえば、従来から微粒子カウンターが使用されるが、膜が数本破断したような場合には原水中の濁質が透過水中に混入する割合が多いので損傷の判断が可能である。ただし濾過、逆洗による圧力変化や、薬品添加逆洗などによる膜の部分劣化によりピンホールのようなごく小さな孔があいたりした場合には漏出する濁質量は少ないので、他の中空糸からの透過水に希釈され判別が困難になる。清澄な原水の場合には、もともと濁質量が少ないので、特に困難になる。
そこで、本発明の膜の検査方法により、以下の試験条件、試験方法により試験を行った。
【0025】
図2は、本発明の実施形態におけるPEG標準のGPCクロマトグラフの図である。図3は、本発明の実施形態におけるPEG混合標準のGPCクロマトグラフの図である。図4は、本発明の実施形態におけるPEG標準の校正曲線図である。図5は、本発明の実施形態における6か月連続運転後の膜2によるPEGの透過性を示す図である。図6は、本発明の実施形態における6か月連続運転後の膜1によるPEGの透過性を示す図である。図7は、本発明の実施形態における新品の膜によるPEGの透過性を示す図である。図8は、流束をパラメ―タとして、本発明の実施形態における新品、6か月連続運転後の膜1および2による90%阻止粒径を示す図である。
【0026】
(I)試験条件
(I−1) 濾過運転条件
濾過運転条件を表1に示す。膜はポリエーテルスルホンとピリビニルピロリドンで構成された内圧中空糸膜モジュールである。
【表1】

【0027】
(I−2) GPC測定装置
濾過原液、ろ液の分子量測定にはGPCを用いた。GPCは島津製作所製HPLC LC-10Aを用い、検出器には屈折率検出器を用いた。分析の詳細条件を表2に示す。
【表2】

【0028】
(I―3)PEG標準試料
GPCの分子量標準、濾過特性評価用の濾過原液には、非電荷性溶質であるポリエチレングリコール(PEG)を使用した。使用したPEGを表3に示す。
膜の損傷あるいは経時劣化に伴う膜の細孔の拡径化および縮径化いずれの変化も検査できるように、表1の公称の分画分子量の前後に亘る分子量サイズを有するPEG13種類を用意した。
GPCの分子量標準は、表3のPEGを0.01wt%になるように、各試薬を単体で調製することにより、50mM
NaNO3溶液に溶解した。PEG500,000、2,000,000、3,500,000は分散性が非常に悪いので、秤量した試料をNaNO3とともにメスフラスコに入れ、7〜8分目まで超純水を加え、一晩放置する。PEGが分散した後に、メスアップし、標準試料とする。
これをGPCで測定し、ピーク強度をもとめ、それぞれのピーク強度がなるべく同じになるように、それぞれのGPCの添加割合を調製混合した。溶解溶媒は50mM NaNO3を使用した。
【0029】
PEG混合標準試料のGPCクロマトグラムを図2に示す。混合標準のクロマトグラムは高分子量成分のピークが高くなることが確認された。これは分子量500,000以上の成分の分離が悪かったため、それぞれのピーク高さが合成されたものと推定される。濾過阻止特性の濾過原液のGPCパターンは各ピークが完全に分離するパターンではなく、できるだけ連続した形状になることが望ましいが、今回は入手可能な標準試料の関係から、保持時間であるR.T.21, 25, 27分付近に谷が見られるが、濾過阻止特性を評価する領域のほぼすべてをカバーできるパターンとなった。
換言すれば、非電荷性溶質であるPEGの準備段階が、分画分子量の異なる非電荷性溶質それぞれのクロマトグラムにおいて、保持時間に関し隣り合う非電荷性溶質について、ピーク値の前後の傾斜曲線部が互いに重なり合うように連続的な分子量サイズ分布とした。
【0030】
このように分子量分布の異なるPEG 13種類を表3に示す添加割合で添加したPEG標準試料を図1に示す膜濾過装置の原水タンク2中に添加する。
【表3】

【0031】
(II)試験方法
新品の膜、および6ヶ月の連続運転を行った膜1および2の計3つの膜を試験対象として、それぞれの膜を図1の膜濾過装置の膜モジュール5に接続して試験を行った。濾過運転は0.5〜3.5m/dの範囲で変化させ、流束の変化によるPEGの透過性の確認を行った。
(II−1)PEGの分子サイズ、阻止率の算出
化学工学論文集, 第19巻,6号1105-1112 (1993)によれば、GPC用の標準物質などの拡散係数Dを、超遠心機で測定し、以下のStokes式によりStokes半径Rsを計算している。
Rs = KT / (6πηD)
ここに、K = 1.381×10-23(Boltzmann係数)
T = 298(絶対温度)
η = 0.0089(溶媒粘度、溶媒はpH7.0の0.05Mリン酸バッファー)
今回は、超遠心機による測定ができなかったため、鎖状高分子の分子量Mwと拡散係数Dとの相関式として提案されている以下の式を用いて、PEG標準試料それぞれについて、拡散係数Dを計算し、その値を使ってStokes半径Rsを計算した。計算結果を表4 に示す。
D = 8.76×10−9(Mw)−0.48
【表4】



原液と膜透過液のクロマトグラムの横軸を適当な溶離溶液間隔で分割すると、各分割の面積(原液Ab、膜透過液Ap)はその溶離容積に溶出した溶質の濃度(原液Cb、膜透過液Cp)に比例するので阻止率Rabsは以下の式で計算できる。
Rabs = 1 − Cp / Cb = 1-Ap / Ab
なお、阻止率Rabsの計算では、溶離容積間隔を限りなく小さくすれば、溶質の濃度(原液Cb、膜透過液Cp)はピークの強度(高さ)に近似できるので、阻止率計算にはピーク強度をそのまま使用可能であることを確認している。
【0032】
以上のように、PEGの分子量からStokes半径を算出し、分子サイズに換算するとともに、ピーク強度を用いて阻止率を算出することにより、濾過前の水溶液中のPEGの分子量分布と、濾過後の水溶液中のPEGの分子量分布とを比較することにより、膜を通過可能な非電荷性溶質の最大分子量サイズを決定し、この最大分子量サイズに基づいて膜孔のサイズ分布に換算し、換算した膜孔のサイズ分布と膜の公称分画分子量とに基づいて、膜の損傷あるいは劣化を判定することが可能となる。
【0033】
(III)試験結果
原水タンク2よりPEG混合液を流入し、原水タンク2中のPEG混合液と、逆洗タンク10中の膜透過水をサンプリングしてGPC測定を実施した。
(III−1)PEG標準の分析
PEG標準のGPCクロマトグラムを図3に示し、GPC校正曲線を図4に示す。50mM NaNO3を移動相としたときのクロマトグラムは、低分子量領域のピークはシャープで分離が良好であり、分子量500,000以上で分離が悪くなる傾向が見られた。図4に示すように、校正曲線について、保持時間と分子量の関係がほぼ直線関係になることが確認された。
(III−2)膜の検査結果
図5ないし図7それぞれにおいて、経験則により設定したPEG標準による90%阻止ラインと、それぞれの流束における曲線との交点を求めることにより、90%阻止可能な膜孔の粒径を判定した。
図6および図8に示すように、6ヶ月の連続運転を実施した膜1は8〜9nm付近からPEGの阻止が開始されている。PEGを90%阻止可能な粒径を見ると、流束0.5m/dのときで約9nm、流束の増加とともに阻止可能な粒径は若干大きくなり、2.0m/d以上で約20nmであった。
これに対して、同一の内圧中空糸膜モジュールの新品については、図7および図8に示すように、8〜9nm付近からPEGの阻止が開始されている。PEGを90%阻止可能な粒径は、流束0.5m/dで約9nm、2.0m/d以上で13〜14nmであった。
一方、図5および図8に示すように、6ヶ月の連続運転を実施した膜2は、PEGを90%阻止可能な粒径を見ると、流束0.5m/dのときで約8nm、流束の増加とともに阻止可能な粒径は若干大きくなるが、同一の内圧中空糸膜モジュールの新品と比べ、90%阻止可能な粒径は小さかった。
【0034】
以上の結果から、6ヶ月の連続運転を実施した膜1には破断は見られなかったが、わずかに膜材質に劣化が起きていると思われ、新品と比べ、流束の増加により、膜を通過する粒子の粒子径が大きくなっていることがわかる。一方、膜2には、膜を通過する粒子の粒子径が小さくなっていることがわかる。
このように、本発明の膜の検査方法において、膜の細孔の拡径化あるいは縮径化を検出することにより、膜の損傷あるいは劣化を判定することが可能となる。
特に、検査対象の膜が中空糸膜である場合、中空糸膜は正常であれば、水は通過するが空気は通らない。よって、膜の一次側(原水側)に一定の圧力で空気を送ると、膜の一次側にあった水は膜を透過し、原水側は空気のみになる。この性質を利用することにより、所定の圧力になるように空気を送った後に圧力印可を止めても正常な膜であれば圧力は保持するはずであるが、膜が損傷していれば圧力が降下するので損傷の判断が可能である。しかしながら、この方法の場合、膜濾過装置を停止させて膜の一次側または二次側の少なくとも片側の水を一旦排水する必要があるという技術的問題を有する。本発明の膜の検査方法によれば、このような従来の圧力保持方法による中空糸膜の検査に関する技術的問題を解消することが可能となる。
【0035】
さらに、本発明の膜の検査方法によれば、たとえば、中空糸膜モジュールから検査対象とする中空糸膜を数本取り出して、濾過装置とは別に別途検査を行う必要はなく、濾過装置に装着された中空糸膜モジュール全体を対象に、原水にPEGを添加することにより、通常の濾過運転をしながら、膜の検査を併行して行うことが可能である。

【0036】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、当業者であれば、本発明から逸脱しない範囲で種々の修正、変更が可能である。たとえば、本実施の形態では、膜の細孔が拡径化する場合のみならず、縮径化する場合をも検出するために、細孔の公称分子量に亘って前後する分子量分布を有するPEG標準試料を準備したが、それに限定されることなく、たとえば膜の細孔が拡径化する場合のみを検査対象とするのであれば、細孔の公称分子量より大きな分子量分布を有するPEG標準試料を準備すればよく、一方膜の細孔が縮径化する場合のみを検査対象とするのであれば、細孔の公称分子量より小さな分子量分布を有するPEG標準試料を準備すればよい。また、本実施の形態では、中空糸膜を用いて原水を濾過する浄水処理に対して、本発明の膜の検査方法を適用する場合を説明したが、それに限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態における膜濾過装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態におけるPEG標準のGPCクロマトグラフの図である。
【図3】本発明の実施形態におけるPEG混合標準のGPCクロマトグラフの図である。
【図4】本発明の実施形態におけるPEG標準の校正曲線図である。
【図5】本発明の実施形態における6か月連続運転後の膜2によるPEGの透過性を示す図である。
【図6】本発明の実施形態における6か月連続運転後の膜1によるPEGの透過性を示す図である。
【図7】本発明の実施形態における新品の膜によるPEGの透過性を示す図である。
【図8】流束をパラメ―タとして、本発明の実施形態における新品、6か月連続運転後の膜1および2による90%阻止粒径を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1:原水、2:原水タンク、3:濾過運転ポンプ、4:膜入口バルブ、5:膜、6:膜出口バルブ、7:逆洗タンク入口バルブ、8:処理水、9:水質計、10:逆洗タンク、11:逆洗ポンプ、12:逆洗バルブ、13:逆洗排水バルブ、14:逆洗排水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査すべき膜孔を有する限外濾過膜または精密濾過膜の公称分画分子量の前後に亘る既知の分子量サイズを有する非電荷性溶質を準備し、この非電荷性溶質を含有する水溶液を膜に通して濾過する段階と、
濾過前の水溶液中の非電荷性溶質の分子量分布と、濾過後の水溶液中の非電荷性溶質の分子量分布とを比較することにより、膜を通過可能な非電荷性溶質の最大分子量サイズを決定し、この最大分子量サイズに基づいて膜孔のサイズ分布に換算する段階とを有する膜の検査方法において、
前記非電荷性溶質の準備段階は、分画分子量の異なる非電荷性溶質それぞれのクロマトグラムにおいて、保持時間に関し隣り合う非電荷性溶質について、ピーク値の前後の傾斜曲線部が互いに重なり合うように連続的な分子量サイズ分布とする段階を有し、
換算した膜孔のサイズ分布と膜の公称分画分子量とに基づいて、膜の損傷、経時劣化、あるいは膜ファウリングによる膜孔の閉塞を判定する段階を有する、
ことを特徴とする膜の検査方法。
【請求項2】
前記非電荷性溶質の準備段階は、検査すべき膜孔を有する限外濾過膜または精密濾過膜の公称分画分子量より大きい範囲で、連続的な分子量サイズ分布を準備し、
前記判定段階は、換算した膜孔のサイズ分布と膜の公称分画分子量とに基づいて、膜の損傷、あるいは経時劣化を判定する段階を有する、
請求項1に記載の膜の検査方法。
【請求項3】
前記非電荷性溶質の準備段階は、検査すべき膜孔を有する限外濾過膜または精密濾過膜の公称分画分子量より小さい範囲で、連続的な分子量サイズ分布を準備し、
前記判定段階は、換算した膜孔のサイズ分布と膜の公称分画分子量とに基づいて、膜の経時劣化あるいは膜ファウリングによる膜孔の閉塞を判定する段階を有する、
請求項1に記載の膜の検査方法。
【請求項4】
前記限外濾過膜または精密濾過膜は、環境水を原水として濾過する水処理に使用され、前記濾過段階において、前記限外濾過膜または精密濾過膜の膜濾過流束の運転条件の範囲内において、流束を変化させて濾過を行う段階を有し、
前記非電荷性溶質は、ポリエチレングリコールであり、
前記連続的な分子量サイズ分布は、200ないし3,500,000の範囲である、請求項1に記載の膜の検査方法。
【請求項5】
前記限外濾過膜または精密濾過膜は、中空糸濾過膜である、請求項4に記載の膜の検査方法。
【請求項6】
ポリエチレングリコールを添加した原水を前記限外濾過膜または精密濾過膜により濾過しながら、膜の検査を行う請求項4または5に記載の膜の検査方法。
【請求項7】
検査すべき膜孔を有するセラミックス製濾過膜の公称分画分子量の前後に亘る既知の分子量サイズを有する非電荷性溶質を準備し、この非電荷性溶質を含有する水溶液を膜に通して濾過する段階と、
濾過前の水溶液中の非電荷性溶質の分子量分布と、濾過後の水溶液中の非電荷性溶質の分子量分布とを比較することにより、膜を通過可能な非電荷性溶質の最大分子量サイズを決定し、この最大分子量サイズに基づいて膜孔のサイズ分布に換算する段階とを有する膜の検査方法において、
前記非電荷性溶質の準備段階は、分画分子量の異なる非電荷性溶質それぞれのクロマトグラムにおいて、保持時間に関し隣り合う非電荷性溶質について、ピーク値の前後の傾斜曲線部が互いに重なり合うように連続的な分子量サイズ分布とする段階を有し、
換算した膜孔のサイズ分布と膜の公称分画分子量とに基づいて、膜の損傷、経時劣化、あるいは膜ファウリングによる膜孔の閉塞を判定する段階を有する、
ことを特徴とする膜の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−17647(P2010−17647A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179804(P2008−179804)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】