説明

膜の調製方法

多孔質支持体層と識別層を含む複合膜の調製方法であって、(a)多孔質支持体層を提供する段階;(b)該支持体層の細孔中に不活性液体を組み入れる段階;(c)該支持体層に硬化性組成物を施用する段階;および(d)該組成物を硬化し、これにより多孔質支持体上に識別層を形成する段階、を含む前記方法。本方法は、ガス分離用複合膜の調製にとりわけ有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合膜ならびにそれらの調製および使用方法、とりわけ、ガスを分離するための前記膜ならびにそれらの調製および使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスを分離するために膜を使用することは当分野で公知である。膜は、水素、ヘリウム、酸素、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気、硫化水素、アンモニアおよび/または軽質炭化水素などのさまざまなガスの回収または単離に用いられてきた。
【0003】
公知の分離方法は、膜を通る2種以上のガスの相対透過率の差に基づいている。典型的には、ガスの混合物を、少なくとも1種のガスが他のガスより速く透過する膜の一側面に接触させる。このようにしてガス流は2つの流れに分離され、その一方は、選択的に透過するガス(1以上)に富む。
【0004】
ガス流束の観点からは、非常に薄い膜が好ましい。しかしながら、薄膜はより厚い膜に比べ弱く、引き裂き、破裂および機械的損傷のリスクがより高い。
ガス流束率(flux rate)を損なうことなく膜の機械的強度を改善するために、多孔質支持体層とガス識別膜層を含む複合膜を用いることは珍しくない。多孔質支持体層ではガスは識別されないが、代わりに機械的強度がもたらされる。他方、ガス識別膜層は、1種以上のガスが他のガスより容易に通過するのを選択的に可能にして、ある程度のガスの分離および濃縮をもたらす役割を果たす。このように、支持されていない厚い膜を用いた場合に比べ高い流束率を達成することができ、それと同時に、膜の機械的強度および耐久性は向上する。
【0005】
これまでに公知の複合膜は、その全体的効率に影響を及ぼすさまざまな欠陥を示す可能性があるので、完全に満足しうるものではない。
複合膜を作成するためのアプローチの一つは、微孔質支持体上にUV硬化性組成物をコーティングした後硬化することである。しかしながら、このようにして調製した膜では、流速率が低いという問題がしばしば生じる。いずれかの特定の理論に結びつけようとするものではないが、低い流束率の考えうる原因の一つは、UV硬化性組成物が“吸い上げ作用を示し(wick up)”て微孔質支持体の細孔を満たし、これにより、流束が不十分で、識別層の有効厚さが不適切である膜をもたらす傾向がある、という点である可能性がある。
【0006】
米国特許公報US4976897号では、微孔質支持体を、コーティングおよび硬化による細孔の充満を防ぐのに十分な高さの粘度を有するUV硬化性樹脂でコーティングすることにより、望ましくない“吸い上げ作用(wicking)”と細孔の充満の問題を克服することが試みられた。該樹脂は、少なくとも35000cPの粘度を有しており、続いてUV光を用いて硬化された。しかしながら、用いられた組成物は粘度が非常に高かったので、取り扱いが難しく、高速コーティング機での使用には適さなかった。
【0007】
米国特許公報US5580650号では、識別層および多孔質支持体を別個に形成した後、あとで一緒に‘接着’した。この技術はいくぶん複雑であり、膜の大量生産にはあまり向いていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許公報US4976897号
【特許文献2】米国特許公報US5580650号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
今回、われわれは、良好な流束率を有し、複合膜の大量生産に用いることができる、複合膜の生産方法を考案した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に従って、多孔質支持体層と識別層を含む複合膜の調製方法であって、
(a)多孔質支持体層を提供する段階;
(b)該支持体層の細孔中に不活性液体を組み入れる段階;
(c)該支持体層に硬化性組成物を施用する段階;および
(d)該組成物を硬化し、これにより多孔質支持体上に識別層を形成する段階、
を含む、前記方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
多孔質支持体層の主要目的は、流束率を実質的に低下させることなく識別層に機械的強度をもたらすことである。したがって、多孔質支持体層は、典型的には、識別層と比較して細孔が開いている。
【0012】
多孔質支持体層は、例えば、微孔質有機もしくは無機膜、または織布もしくは不織布であることができる。多孔質支持体層は、あらゆる適した材料から構築することができる。そのような材料の例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアクリレート、酢酸セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、およびポリ(4−メチル1−ペンテン)が挙げられる。
【0013】
例えば、市販の多孔質シート材料を支持体層として用いてもよい。あるいは、微孔質材料の調製に関し当分野で一般に公知の技術を用いて、多孔質支持体層を調製してもよい。一態様において、硬化性成分を硬化することにより多孔質で識別力のない支持体層を調製た後、形成した多孔質支持体にさらなる硬化性成分を施用し、該成分を硬化し、これにより、すでに硬化している多孔質支持体層上に識別層を形成することができる。
【0014】
不活性液体は、多孔質支持体を溶解しないか段階(d)で重合しない、あらゆる液体であることができる。典型的には、不活性液体は、実質的に、水、有機溶媒、2種以上の有機溶媒で構成される混合物、または水と1種以上の有機溶媒との混合物からなる。不活性液体は組成物と混和しないことが好ましい。これは、これにより、硬化前に支持体の細孔中へ組成物が浸透する可能性が低下するためである。不活性液体は、あらゆる手段、例えば、不活性液体での多孔質支持体層のソーキングにより、多孔質支持体中に組み入れることができる。段階(c)を実施する前に、あらゆる過剰な不活性液体をそのまま排出させることが好ましい。
【0015】
不活性液体は、支持体層の細孔中に、不活性液体を支持体層上に例えば噴霧コーティング、スライドコーティングまたはカーテンコーティングによりコーティングすることにより、組み入れることもできる。不活性液体の一部またはすべてを、硬化性組成物を支持体層に施用する前に細孔中にそのまま浸透させることができる。硬化性組成物を支持体層に施用する前に一部の不活性液体しか細孔中に浸透していない場合、硬化性組成物と支持体層との直接的接触は、不活性液体が該層中に吸着するのに要する時間および/または硬化性組成物が不活性液体層を通って下降して支持体層と接触するのに要する時間に起因するわずかな遅延の影響を受ける可能性がある。この時間遅延は特別問題ではないが、多孔質層と直接接触していないと、得られる識別層と多孔質層との間に付着が生じないか付着が少ししか生じないため、通常は硬化性材料が多孔質層と直接接触するまで硬化段階(d)を実施しない。段階(c)の開始と段階(d)の開始の間に少なくとも1秒間の時間間隔があることが好ましい。
【0016】
適したコーティング法の例としては、噴霧コーティング、浸漬コーティング、エアナイフコーティング、ニップロールコーティング、フォワードロールコーティング、リバースロールコーティング、ロッドバーコーティング、キスコーティング、カーテンコーティング、押し出しコーティング、スライドコーティングおよびスロットダイコーティングが挙げられる。さまざまなコーティング法の有用な基礎的情報は、“LIQUID FILM COATING”(Chapman & Hall,1997)の例えば399〜536頁に見いだすことができる。スライドコーターの外形の例は、同文献427頁の図11b.1に示されている。所望の場合、2以上の層を、同文献399〜536頁に記載されている方法か、米国特許第2761791号または英国特許第837095号に記載されている方法により、同時にコーティングすることができる。
【0017】
多孔質支持体の細孔は、不活性液体で完全に満たされているか、例えば少なくとも80体積%、より好ましくは少なくとも90体積%の程度まで実質的に満たされていることが好ましい。これにより、細孔が一部しか不活性液体で満たされなかった場合と比較して、より平滑な識別層を形成することができ、識別層は、細孔への滲出により過度に厚くなることはない。所望の場合、識別層を粗くする気泡を回避するために、飽和した多孔質支持体層を脱気してもよい。
【0018】
硬化性組成物は、任意の適した方法、例えば、カーテンコーティング、押し出しコーティング、エアナイフコーティング、スライドコーティング、スロットダイコーティング、ニップロールコーティング、フォワードロールコーティング、リバースロールコーティング、浸漬コーティング、キスコーティング、ロッドバーコーティングまたは噴霧コーティングにより、多孔質支持体に施用することができる。所望の場合、1以上のさらなる硬化性組成物(1以上)層を、硬化性組成物を担っている多孔質層に、最初に多孔質層に施用した硬化性組成物の硬化を介在させるか介在させずに、施用することができる。多層のコーティングは、例えば上記の適したコーティング法のいずれかまたはその2種以上の組合わせを用いて、同時または連続して行うことができる。
【0019】
不活性液体および硬化性組成物は、多層コーティング法、例えば、同時多層コーティング法または連続的多層コーティング法により、支持体層上にコーティングすることができると好都合である。これらの方法では、プロセスの段階(b)および(c)をこの順序で実施するために、当然の成り行きとして不活性液体を硬化性組成物より先に支持体層に施用する。
【0020】
好ましい同時多層法では、不活性液体の層と硬化性組成物の層を、不活性液体層を下側層にし、したがって硬化性組成物より先に支持体に接触させて、同時に支持体層に施用する。不活性液体は支持体層中に吸収されるので、支持体層の細孔は少なくとも部分的に満たされ、これにより、硬化性層が硬化段階(d)に先立ち支持体の内側深くに浸透するのが妨げられる。
【0021】
好ましい連続的多層法では、不活性液体の層と硬化性組成物の層を、硬化性組成物に先立ち不活性液体層を施用して、連続的に支持体層に施用する。同時多層法と同様に、不活性液体は支持体層中に少なくとも部分的に吸収され、これにより、後で施用される硬化性層が硬化段階(d)に先立ち支持体の内側深くに浸透するのが妨げられる。
【0022】
同時および連続的多層コーティング法では、所望により、多層を有し、および/または異方性を示す識別層を得るために、1より多くの硬化性組成物層を施用してもよい。
段階(b)および(c)を同時に実施するのに用いることができる好ましい同時多層コーティング法としては、カーテンコーティング、押し出しコーティング、スロットダイコーティングおよびスライドビードコーティング、特にスライドビードコーティングが挙げられる。好ましい連続的多層コーティング法は、浸漬コーティング(例えば段階(b)に)およびスライドビードコーティング(例えば段階(c)に)を含む。
【0023】
高速コーティング機で使用するのに十分な流動性を有する組成物をもたらすためには、硬化性組成物の粘度は、35℃で測定して4000mPas未満であることが好ましく、より好ましくは35℃で測定して1〜1000mPasである。硬化性組成物の粘度は1〜500mPa.sであることが、もっとも好ましい。スライドビードコーティングのようなコーティング法では、コーティング材料が硬化性組成物であるか不活性液体であるかに関わらず、好ましい粘度は1〜100mPa.sである。これは、非常に高い粘度(好ましくは50000〜500000cP)が必須である米国特許公報US4976897号で用いられている方法と対比することができる。望ましい粘度は、硬化性組成物中の溶媒(例えば水)の量を制御することにより達成することが好ましい。
【0024】
上記多層コーティング法では、下側の不活性液体層を多孔質支持体に施用することができ、不活性液体は支持体の細孔を満たすことが好ましい。下側層の上面上に(不活性液体がまだ多孔質層によりすべて吸収されていない場合)、硬化性組成物(1以上)の上側層を1以上施用する。
【0025】
支持体の多孔性パラメーターによっては、不活性液体と硬化性組成物(1以上)を支持体に施用するために選んだ方法およびそれを用いるプロセス条件は、硬化性組成物の粘度を上昇させるために硬化性組成物中に粘度向上剤を包含することが好ましい可能性がある。例えば、水溶性ポリマーをバインダーとして、および/または高分子量架橋性化合物を、用いることができる。粘度向上剤は、欠陥を引き起こして膜の品質を低下させる可能性がある識別層の構造の攪乱を防ぐのに役立つ。粘度向上剤の例としては、以下が挙げられる:遊離酸または塩の形にあるポリ(メタ)アクリル酸;ポリアルキレンオキシド、例えば、ポリ(エチレンオキシド)およびポリ(プロピレンオキシド);ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン;ポリアルキル(メタ)アクリレート;ポリスチレン;ポリオレフィン;ポリエステル;ポリエーテル;ポリアミド、および前述のもののコポリマー。粘度向上剤の好ましい分子量(MW)は、10kD〜20000kD、好ましくは100kD〜10000kD、例えば、約1000kDまたは約8000kDである。粘度向上剤の好ましい濃度は、組成物中の他の成分の全重量に対し、0.01重量%〜10重量%、より好ましくは0.02重量%〜5重量%、特に0.03重量%〜2重量%である。
【0026】
他の態様において、硬化性組成物は粘度向上剤を含まない(例えば、バインダーおよび高分子量架橋性化合物を含まない)。この態様では、不活性液体と硬化性組成物の両方の粘度は低く、さまざまな液体を支持体に施用したときに確実に乱流が生じないかほとんど生じないように段階を行うように、プロセスを実施することが好ましい。
【0027】
適したコーティング技術を用いて、少なくとも15m/min、例えば、20m/minを超えるかさらに高速、例えば、60m/min、120m/min、最高400m/minのコーティング速度に達することができる。好ましい態様では、硬化性組成物および/または不活性液体を上記コーティング速度で支持体層に施用する。
【0028】
硬化性組成物を多孔質支持体の表面に施用する前に、例えば支持体の湿潤性および付着力を改善するために、この支持体をコロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理などに付してもよい。
【0029】
本発明は固定された多孔質支持体を用いてバッチ式で実行することができるが、本発明の利益を十分に得るためには、移動する多孔質支持体を用いて連続式でこれを実行することが遙かに好ましく、例えば、多孔質支持体層は、連続的に巻き戻されるロールの形にあることができ、または、多孔質支持体層は、連続的に動かされるベルト上に載っていることができる。そのような技術を用いると、硬化性組成物を連続式で多孔質支持体に施用することができ、または、それを大規模なバッチ式で施用することができ、例えば、組成物を多孔質支持体の上流末端上に連続的に施用し、照射源を組成物施用ステーションの下流に置き、複合膜除去ステーション−適する場合は−を照射源のさらに下流にし、複合膜を連続シートの形で取り出すことができ、そして複合膜収集ステーション。複合膜からの不活性液体の除去は、装置から膜を取り出す前または後のいずれかに、例えば蒸発により達成することができる。所望の場合、不活性液体は貯蔵中の複合膜中に残存していてもよい。
【0030】
したがって、好ましい方法では、硬化性組成物施用ステーションと、照射源と、複合膜収集ステーションと、多孔質支持体層を硬化性組成物施用ステーションから照射源および複合膜収集ステーションに移動させる手段とを含む製造ユニットにより、硬化性組成物を多孔質支持体層に連続的に施用する。プロセス段階が(a)、(b)、(c)、(d)の順序になるように、硬化性組成物施用ステーションを照射源に対し上流の位置に置き、照射源を複合膜収集ステーションに対し上流の位置に置く。
【0031】
不活性液体を多孔質支持体層の細孔中に組み入れる段階(b)は、硬化性組成物を施用する段階(c)と同時または別個に実施することができる。段階(b)を段階(c)と別個に実施する場合、硬化性組成物施用ステーションに対し上流の位置に置かれた不活性液体施用ステーションが存在していてもよい。
【0032】
多孔質支持体はシートの形に限定されず、中空繊維のような管状の形にある多孔質支持体も用いることができる。
多孔質支持体層は、識別層に平滑表面をもたらすことに矛盾しない可能な限り大きな細孔を持つことが好ましい。多孔質支持体層は、識別層の平均細孔サイズより少なくとも約50%大きい、好ましくは識別層の平均細孔サイズより少なくとも約100%大きい、より好ましくは識別層の平均細孔サイズより少なくとも約200%大きい、平均細孔サイズを有することが好ましい。
【0033】
多孔質支持体層の細孔は、一般に0.0005〜10μm、好ましくは0.001〜1μmの平均サイズを有する。多孔質支持体の細孔径分布はかなり狭いことができるが、このことは十分な性能に必須ではない。米国特許公報US5702503号に記載されているような非対称構造物を用いることもできる。ガス分離膜としての用途に関し、多孔質支持体の好ましい多孔率は、5〜150×10−5(STP)/m.s.kPa、より好ましくは5〜100、もっとも好ましくは7〜70×10−5(STP)/m.s.kPaのCO透過度(permeance)で表すことができる。
【0034】
多孔質支持体層は、所望の構造的強度を維持する限り、できるだけ薄くあるべきである。
識別層は、所望の分離特性をもたらすサイズを有する細孔を持つ。ガスおよび/または蒸気を分離する場合、識別層は実質的に非孔質であることが好ましく、または、非常に小さな寸法、典型的には10nm未満、より好ましくは5nm未満、特に2nm未満の平均細孔サイズの細孔を有する。識別層は、非常に低い液体浸透性を有することが好ましい。一態様において、複合膜は、20℃において6×10−8/m.s.kPa未満、より好ましくは3×10−8/m.s.kPa未満の純水浸透性を有する。
【0035】
識別層は、最終的な当該技術分野で実用的に使用するには十分な厚さである一方、複合膜を横断する良好な流束率を確保するためにできるだけ薄いことが好ましい。識別層の乾燥厚さは、典型的には0.02〜10μm、好ましくは0.02〜4μm、特に0.05〜2μmである。
【0036】
複合膜の全体的乾燥厚さは、典型的には20〜500μm、好ましくは30〜300μmである。
組成物は、任意の適した手段により硬化することができる。好ましくは、組成物は放射線硬化性組成物であり、段階(d)において硬化は照射によりもたらされる。この態様において、照射は、組成物を重合させるのに必要な放射線の波長および強度を提供するあらゆる照射源によることができる。例えば、電子ビーム、紫外線、可視光線または赤外線を用いて組成物を硬化することができ、適した放射線を組成物に適合するように選択する。UV硬化では、水銀アーク灯がとりわけ効果的であるが、発光ダイオードを用いることもできる。
【0037】
組成物の硬化は、組成物を多孔質支持体に施用して好ましくは7秒以内、より好ましくは5秒以内、もっとも好ましくは3秒以内に開始する。
好ましくは、組成物は放射線硬化性組成物であり、組成物を30秒未満、より好ましくは10秒未満、例えば5秒以内にわたり照射することにより硬化を達成する。
【0038】
速いコーティング速度において望ましい線量に到達させるためには、硬化性組成物が1より多くのランプに暴露されるように、1より多くのUVランプが必要である可能性がある。2以上のランプを用いる場合、すべてのランプが同等の線量をもたらすことができ、または各ランプが個々の設定を有することができる。例えば、第1のランプは、第2もしくは後続するランプより高い線量をもたらすことができ、または第1のランプの暴露強度はより低くてもよい。
【0039】
本明細書では、架橋性基を1個有する化合物をしばしば単官能性化合物とよび、架橋性基を2個有する化合物をしばしば二官能性化合物とよび、架橋性基を3個以上有する化合物をしばしば多官能性化合物とよぶ。
【0040】
硬化性組成物は、以下を含むことが好ましい:
(i)合計で0〜80部の単官能性化合物;
(ii)合計で1〜99部の二官能性化合物;
(iii)合計で0〜50部の多官能性化合物;
(iv)2〜99部の不活性液体;
ここにおいて、すべての部は重量に基づく。
【0041】
単官能性化合物、すなわち成分(i)は、架橋性基を1個しか有さないので架橋することができない。しかしながら、硬化性組成物中に存在する他の成分と反応することができる。単官能性化合物は得られる識別層に望ましい程度の柔軟性をもたらすことができるので、少なくともいくつかの単官能性化合物の存在は望ましいことが多い。二官能性および多官能性化合物のみを含有する硬化性組成物は時折いくぶん剛性を示す可能性があり、場合によっては、このことが、得られる複合膜を通るガス流束の速度に悪影響を及ぼす可能性がある。しかしながら、単官能性化合物が多すぎると、構造が非常に緩く選択性の低い識別層が生じる可能性がある。また、大量の単官能性化合物を用いると硬化段階(d)の効率が低下する可能性があり、硬化段階(d)を完了するのにかかる時間が増大し、段階(d)に不利な条件が必要になる可能性がある。これらの因子を念頭に置くと、成分(i)の部数は、好ましくは0〜40、より好ましくは0〜20重量部である。
【0042】
二官能性化合物、すなわち成分(ii)は、硬化性組成物の通常は主要な、または場合によっては唯一の重合性成分である。一般に、二官能性成分は識別層に強度をもたらす。それは、特定のガスに対し親和性または不親和性(aversion)を有する化学基(例えばオキシエチレン基)の存在により、識別層がガスを区別するのを補助することもできる。成分(ii)の部数は、好ましくは1〜60、より好ましくは2〜40、特に2〜20重量部である。
【0043】
多官能性化合物(iii)も、識別層に強度をもたらすことができる。3個以上の架橋性基の存在はまた、得られる識別層中に三次元ポリマー網状構造が形成するのを促進する。しかしながら、多官能性化合物が多すぎると剛性構造が生じる可能性があり、識別層が柔軟でなくなる可能性がある。これらの因子を念頭に置くと、成分(iii)の部数は、好ましくは0〜30、より好ましくは0〜10、特に0〜5重量部である。
【0044】
不活性液体(iv)が存在する場合、その働きは、硬化性組成物を多孔質支持体に施用するのに用いる特定の方法に適した粘度を硬化性組成物にもたらすことである。高速で施用する方法では、通常粘度の低い不活性液体が選ばれる。粘度は、成分(iv)として用いられる不活性液体と同一または異なっていることができる段階(b)で用いられる不活性液体の粘度を考慮して、選ぶこともできる。成分(iv)の部数は、好ましくは50〜99、より好ましくは60〜99、特に70〜99、さらに特に75〜99重量部である。
【0045】
典型的には、成分(iv)として(および/または段階(b)で)用いられる不活性液体は、水および所望により1以上の有機溶媒、特に水混和性有機溶媒(1以上)を含む。成分(iv)に用いられる水と有機溶媒の重量比は、硬化性組成物中の成分のタイプおよび相対量にある程度依存し、好ましくは1:1〜40:1、より好ましくは2:1〜30:1、特に3:1〜20:1である。段階(b)で用いられる不活性液体は、有機溶媒を含まないことが好ましい。
【0046】
水混和性有機溶媒の例としては、以下を挙げることができる:C1−6−アルカノール、好ましくは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、シクロペンタノールおよびシクロヘキサノール;線状アミド、好ましくは、ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミド;ケトンおよびケトン−アルコール、好ましくは、アセトン、メチルエーテルケトン、シクロヘキサノンおよびジアセトンアルコール;水混和性エーテル、好ましくはテトラヒドロフランおよびジオキサン;ジオール、好ましくは2〜12個の炭素原子を有するジオール、例えば、ペンタン−1,5−ジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコールおよびチオジグリコールならびにオリゴ−およびポリ−アルキレングリコール、好ましくは、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール;トリオール、好ましくは、グリセロールおよび1,2,6−ヘキサントリオール;ジオールのモノ−C1−4−アルキルエーテル、好ましくは2〜12個の炭素原子を有するジオールのモノ−C1−4−アルキルエーテル、特に、2−メトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)−エタノール、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エタノール、2−[2−(2−エトキシエトキシ)−エトキシ]−エタノールおよびエチレングリコールモノアリルエーテル;環状アミド、好ましくは、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、カプロラクタムおよび1,3−ジメチルイミダゾリドン;環状エステル、好ましくはカプロラクトン;スルホキシド、好ましくは、ジメチルスルホキシドおよびスルホラン。液体媒体は、水と1以上、特に1〜8種の水溶性有機溶媒を含むことが好ましい。
【0047】
成分(iv)は、他の成分、例えば、界面活性剤、表面張力調整剤、粘度向上剤、殺生剤または他の構成成分を含有することができる。
これは組成物中の他の成分の存在を無視するものではないが(成分(i)、(ii)、(iii)および(iv)の相対的比率を確定するにすぎないため)、(i)+(ii)+(iii)+(iv)の部数は合計100になることが好ましい。(i)+(ii)+(iii)+(iv)の部数が合計100になる場合、(ii)の部数は1〜98、好ましくは2〜60、より好ましくは2〜40、特に2〜20重量部である。
【0048】
上記因子を考慮に入れると、硬化性組成物は以下を含むことが好ましい:
(i)合計0〜20部の単官能性化合物;
(ii)合計1〜20部(好ましくは2〜20部)の二官能性化合物;
(iii)合計0〜5部の多官能性化合物;
(iv)75〜99部の不活性液体;
(v)0.01〜5部の光開始剤;
ここにおいて、すべての部は重量に基づく。
【0049】
(i)+(ii)+(iii)+(iv)+(v)の部数が合計100になることが好ましい。
適した架橋性基の例としては、エチレン不飽和基、例えば、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基、ビニルアミド基、アリルエーテル基、アリルエステル基、アリルアミン基、アリルアミド基、スチリル基、マレイン基、フマル基、グルタコン基、イタコン基、シトラコン基、メサコン基、チグリン基、アンゲリカ基、セネシオ基およびエポキシ基、オキセタン基が挙げられる。
【0050】
好ましい架橋性基は(メタ)アクリル(CH=CR−C(O)−)基、特に(メタ)アクリレート(CH=CR−C(O)O−)基[式中、RはHまたはCHである]である。
【0051】
架橋性基中の好ましいエチレン不飽和基は置換されていない。置換エチレン不飽和基は、立体障害に起因して非置換エチレン不飽和基より反応性が低く、その結果、段階(d)における硬化がより緩慢になる。高速での生産方法では、迅速な硬化が望ましい。
【0052】
硬化性組成物中の架橋性基の大部分が置換エチレン不飽和基である場合、硬化段階(d)で高エネルギー放射線源、例えば、電子ビーム照射またはプラズマ処理を用いることが好ましい。
【0053】
硬化性組成物は、置換エチレン不飽和化合物より多くの割合の非置換エチレン不飽和化合物を含む(または、まさに置換エチレン不飽和化合物を含まない)ことが好ましい。これは、このことがガス流束の改善をもたらすことができるためである。
【0054】
好ましい架橋性基はアクリレート基である。これは、アクリレート基の重合速度が、特に重合をもたらすのに紫外線を用いる場合、速いためである。アクリレート基を有する多くの化合物は、商業的供給源から容易に入手することもできる。
【0055】
識別層の網状構造は、架橋性化合物の識別点(identify)およびそれらの官能性、例えば、それらが1分子あたりに含有する架橋性基の数により、かなりの程度まで決定される。
得られる識別層が、単官能性化合物の包含に完全に(または部分的にさえ)依存することなく、望ましい程度の柔軟性を確実に有するようにするためのアプローチの一つは、成分(b)(二官能性化合物(1以上))内に大きな二官能性化合物および/または官能性(すなわち架橋性)基が離れている二官能性化合物を包含させることである。したがって、例えば、成分(b)中の硬化性化合物として、高分子量二官能性化合物、例えば、線状であってもよい大きな分子の反対側の末端に2個の架橋性基が位置している二官能性化合物を用いることができる。このようにして、単官能性化合物を包含させることを必要とすることなく識別層において所望の柔軟性が達成されるが、所望の場合は単官能性化合物がさらに包含されていてもよい。
【0056】
所望の程度の柔軟性を識別層にもたらすのに適した高分子量二官能性化合物は、典型的には少なくとも500Da、より好ましくは少なくとも1000Da、特に少なくとも1200Da、さらに特に少なくとも1500Daの分子量を有する。20、40、または実に60kDa以上もの大きな分子量を用いてもよい。高分子量二官能性化合物の分子量は、100kDa未満であることが好ましい。
【0057】
硬化性組成物は、2種以上の反応性基を含むポリマー、例えば、(メタ)アクリル化ポリエステル、(メタ)アクリル化ポリアミド、(メタ)アクリル化ポリウレタン、(メタ)アクリル化ポリアクリレート、エポキシ化ポリエステル、エポキシ化ポリウレタン、エポキシ化ポリアクリレートなどを含むこともできる。そのようなポリマーは、10000kDa未満の分子量を有することが好ましい。
【0058】
極性ガスおよび蒸気(例えば、CO、HS、HO、SOなど)を分離するためには、硬化性組成物は、以下でより詳細に記載するように、高いオキシエチレン含量を有することが好ましい。
【0059】
高いオキシエチレン含量を達成するために、オキシエチレン基に富む、例えば、少なくとも10個のオキシエチレン基、より好ましくは少なくとも15個、特に少なくとも25個または実に35個のオキシエチレン基を含む、単官能性、二官能性および/または多官能性化合物(特に二官能性化合物)を、硬化性組成物中に用いることができる。
【0060】
硬化性組成物に用いられる架橋性化合物中のオキシエチレン基の最大数に具体的な制限はないが、複合膜が用いられる条件下でのポリオキシエチレン鎖の結晶化はできるだけ回避するべきである。これは、結晶化した形では、複合膜を通るガス流束率が大幅に低下しうるためである。
【0061】
高温での使用(例えば、煙道ガスまたは水蒸気の分離)では、室温以下で結晶化するマトリックスを有する識別層を、流束に悪影響を及ぼすことなく用いることができる。これは、膜の操作温度が、識別層中のポリオキシエチレン鎖の結晶化温度より高いためである。
【0062】
大量のオキシエチレン基を含有する架橋性化合物に由来する識別層における望ましくない結晶化の可能性は、オキシエチレン基を含まない1以上の架橋性化合物を硬化性組成物中に包含させることにより低下させることができる。
【0063】
オキシエチレン基を含まない架橋性化合物が硬化性組成物中に存在すると、当然ながら識別層中のオキシエチレン含量は低下し、該含量が少なすぎる場合、これは、極性および非極性ガスを分離する識別層の能力に悪影響を及ぼす可能性がある。目的が極性および非極性ガスを分離することでなければ問題ないが、極性/非極性ガス分離が目標である場合、膜の柔軟性に対する要求と、極性および非極性ガス間の高い程度の選択性に対する要求とを、うまく両立させる必要がある。
【0064】
オキシエチレン基は、硬化性組成物中の不揮発性成分(通常は成分(i)、(ii)および(iii))の全重量の好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%、特に少なくとも70重量%を構成するが、成分(iv)もオキシエチレン基に富む化合物を含むことができる。好ましい上限は、不揮発性成分の全重量の96重量%である。
【0065】
オキシエチレン基を含まない架橋性化合物が硬化性組成物中に存在することは、空気分離および炭化水素分離などの分野でとりわけ有用であることができ、例えば、ジビニルポリジメチルシロキサンのような架橋性シリコーンポリマーは、硬化性組成物のための成分として有用であることを証明することができる。
【0066】
識別層中のオキシエチレン基の含量の好ましい上限は95重量%である。
架橋性化合物または単官能性化合物中に存在することができるオキシエチレン基は、中断されていない鎖または中断されている鎖を含んでいてもよい。オキシエチレン基の好ましい中断されていない鎖は、式−(CHCHO)−[式中、nは5〜500である]のものである。オキシエチレン基の好ましい中断されている鎖は、式−(CHCHO)n−q−R−(OCHCH−であり、ここにおいて、qは1〜n−1であり、nは5〜500であり、Rは−CH−、−(CH−[式中、x>2(例えばxは3〜6である)である]、−CH(CH)−、−C(CH−、−CH−C(CH−CH−、−C−、−C−C(CH−C−(ビスフェノールA)または−(C=O)−である。
【0067】
硬化性組成物中のオキシエチレン基の重量%は、実施例に例示するように算出する。
適した単官能性化合物の例としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、およびこれらの組合わせが挙げられる。
【0068】
単官能性化合物の他の例は、以下の構造のものである[式中、wは1〜100であり、R11は、Hか、C−C10のアルキル基か、芳香族基か、アルコキシ基か、エステル基であり、R12はHまたはメチル基である]。
【0069】
【化1】

【0070】
適した二官能性化合物の例としては、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジビニルエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジアリルエーテル、ビスフェノールAエトキシレートジアクリレート、ネオペンチルグリコールエトキシレートジアクリレート、プロパンジオールエトキシレートジアクリレート、ブタンジオールエトキシレートジアクリレート、ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、ポリ(エチレングリコール−コ−プロピレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(プロピレングリコール)−ブロック−ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、および、ポリエチレングリコールと他の構成単位、例えば、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリイミド、ポリスルホンとのコポリマーのジアクリレート、ならびにこれらの組合わせが挙げられる。
【0071】
適した多官能性化合物の例としては、グリセロールエトキシレートトリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、ペンタエリトリトールエトキシレートテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンエトキシレートテトラアクリレート、ジペンタエリトリトールエトキシレートヘキサアクリレート、およびこれらの組合わせが挙げられる。
【0072】
原理上、光開始剤が存在する場合はその吸収スペクトルと適合する限り、または光開始剤を必要とすることなく組成物を直接重合(硬化)するのに十分なエネルギーが提供される限り、あらゆる適切な波長の(電磁)放射線、例えば、紫外線、可視光線または赤外線などを、段階(d)に用いることができる。電子線も使用できる。本明細書にわたり、「硬化」と「重合」との用語は交換可能なものとして使用される。
【0073】
赤外線による硬化は熱硬化としても知られる。したがって、段階(d)で赤外線を用いる場合、硬化性組成物はさらに、硬化性組成物中の硬化性成分100部あたり0.01〜5部の1以上の熱反応性フリーラジカル開始剤を含むことが好ましく、ここにおいて、すべての部は重量に基づく。
【0074】
熱反応性フリーラジカル開始剤の例としては、有機過酸化物、例えば、過酸化エチルおよび/または過酸化ベンジル;メチルヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド、ベンゾインなどのアシロイン;ある種のアゾ化合物、例えば、α,α’−アゾビスイソブチロニトリルおよび/またはγ,γ’−アゾビス(γ−シアノ吉草酸);過硫酸塩;過酢酸エステル、例えば、過酢酸メチルおよび/または過酢酸tert−ブチル;過シュウ酸エステル(peroxalate)、例えば、過シュウ酸ジメチルおよび/または過シュウ酸ジ(tert−ブチル);ジメチルチウラムジスルフィドなどのジスルフィド、およびメチルエチルケトンペルオキシドなどのケトンペルオキシドが挙げられる。約30℃〜約150℃の範囲の温度が赤外線硬化で一般に採用される。約40℃〜約110℃の範囲の温度が、より多く用いられる。
【0075】
段階(d)では紫外線を用いることが好ましい。適した波長は、組成物中に包含されるあらゆる光開始剤の吸収波長と波長が適合するという条件で、例えばUV−A(400〜>320nm)、UV−B(320〜>280nm)、UV−C(280〜200nm)である。
【0076】
適した紫外線源は、水銀アーク灯、炭素アーク灯、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、旋回流プラズマアーク灯、金属ハロゲン化物灯、キセノン灯、タングステン灯、ハロゲン灯、レーザーおよび紫外線発光ダイオードである。中圧または高圧水銀蒸気タイプの紫外線発光ランプがとりわけ好ましい。これに加えて、ランプの発光スペクトルを改変するために、金属ハロゲン化物などの添加剤が存在していてもよい。大抵の場合、200〜450nmに発光極大を有するランプがとりわけ適している。
【0077】
照射源のエネルギー出力は、好ましくは20〜1000W/cm、好ましくは40〜500W/cmであるが、所望の暴露線量を実現することができるならばこれより高いまたは低くてもよい。暴露強度は、識別層の最終構造に影響を及ぼす硬化の程度を制御するために用いることができるパラメーターの一つである。暴露線量は、High Energy UV Radiometer(EIT−Instrument MarketsからのUV Power PuckTM)により、該装置で示されたUV−B範囲で測定して、好ましくは少なくとも40mJ/cm、より好ましくは40〜600mJ/cm、もっとも好ましくは70〜220mJ/cmである。暴露時間は自由に選ぶことができるが、短いことが好ましく、典型的には2秒未満である。
【0078】
光開始剤は硬化性組成物中に包含されていることができ、通常、段階(d)で紫外線または可視光線を用いる場合は必須である。適した光開始剤は当分野で公知のもの、例えば、ラジカル型、カチオン型またはアニオン型の光開始剤である。
【0079】
ラジカル型Iの光開始剤の例は、国際公開WO2007/018425号、14頁23行〜15頁26行に記載されているとおりであり、これを本明細書中で参考として援用する。
【0080】
ラジカル型IIの光開始剤の例は、国際公開WO2007/018425号、15頁27行〜16頁27行に記載されているとおりであり、これを本明細書中で参考として援用する。
【0081】
アクリレート、ジアクリレート、トリアクリレート、および多官能性アクリレートには、タイプIの光開始剤が好ましい。特に、アルファ−ヒドロキシアルキルフェノン、例えば、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−tert−ブチル−)フェニルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−[4’−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンおよびオリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−{4−(1−メチルビニル)フェニル}プロパノン]、ならびに、アルファ−アミノアルキルフェノン、アルファ−スルホニルアルキルフェノン、ならびに、アシルホスフィンオキシド、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキシド、エチル−2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィネートおよびビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシドが好ましい。
【0082】
光開始剤と成分(i)+(ii)+(iii)の比率は、重量に基づき、好ましくは0.001〜0.2対1、より好ましくは0.01〜0.1対1である。用いる光開始剤の量を最小限に抑えることが好ましい、言い換えれば、硬化段階(または複数の硬化段階)の後にすべての光開始剤が反応してしまっていることが好ましい。単一タイプの光開始剤を用いることができるが、いくつかの異なるタイプの組合わせを用いることもできる。
【0083】
化合物がエポキシ、オキセタンまたは他の開環性複素環式基またはビニルエーテル基を有する場合、カチオン性光開始剤が非常に適している。好ましいカチオン性光開始剤は、ヘキサフルオロアルシネートイオン、六フッ化アンチモン(V)−イオン、六フッ化リン−イオンおよびテトラフルオロホウ酸塩イオンのような非求核性アニオンの有機塩である。市販されている例としては、UVI−6974、UVI−6970、UVI−6990(Union Carbide Corp.により製造されている)、CD−1010、CD−1011、CD−1012(Sartomer Corp.により製造されている)、Adekaoptomer SP−150、SP−151、SP−170、SP−171(Asahi Denka Kogyo Co.,Ltd.により製造されている)、IrgacureTM 250 IrgacureTM 261(Ciba Specialty Chemicals Corp.)、CI−2481、CI−2624、CI−2639、CI−2064(Nippon Soda Co.,Ltd.)、DTS−102、DTS−103、NAT−103、NDS−103、TPS−103、MDS−103、MPI−103およびBBI−103(Midori Chemical Co.,Ltd.)が挙げられる。上記カチオン性光開始剤は、個別または2種以上の組合わせのいずれかで用いることができる。もっとも好ましいカチオン性光開始剤はトリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、例えばUVI−6974(Union Carbideから)である。
【0084】
段階(d)で紫外線を用いる場合、UV光源は、いくつかの波長において発光を有するものを選択することができる。UV光源と光開始剤(1以上)の組合わせは、十分な放射線が識別層(1以上)の内部深くまで透過して光開始剤を活性化するように最適化することができる。典型例は、Fusion UV Systemsにより供給されている出力600ワット/インチ(240W/cm)を有するH−電球であり、これは、約220nm、255nm、300nm、310nm、365nm、405nm、435nm、550nmおよび580nmに発光極大を有する。あるいは、異なる発光スペクトルを有するV−電球およびD−電球である。UV光源および光開始剤は、与えられるUV光の波長が光開始剤(1以上)の吸収に対応するように選択することが好ましい。光源と光開始剤の選択により最適な組合わせをもたらすことができる。多数のタイプの光開始剤を施用すると、より厚い層を同じ強度の照射で効率的に硬化することが可能になる。
【0085】
光開始剤が硬化性組成物に包含されていない場合、硬化性組成物は、当分野で公知の電子ビーム暴露により有利に硬化することができる。出力は50〜300keVであることが好ましい。硬化は、プラズマまたはコロナ暴露により達成することもできる。
【0086】
硬化速度は、アミン相乗剤を組成物に包含させることにより上昇させることができる。アミン相乗剤は、反応性を向上させ、酸素阻害を妨害することが知られている。適したアミン相乗剤は、例えば、遊離アルキルアミン、例えば、トリエチルアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン;芳香族アミン、例えば、2−エチルヘキシル−4−ジメチルアミノベンゾエート、エチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、ならびに、ポリアリルアミンおよびその誘導体のようなポリマーアミンである。エチレン不飽和アミン(例えば(メタ)アクリル化アミン)のような硬化性アミン相乗剤が好ましい。これは、これらが、硬化により識別層中に組み入れられる能力を有するので、使用により生じる臭気がより少ないためである。アミン相乗剤の量は、組成物中の重合性化合物の重量に基づき、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.3〜3重量%である。
【0087】
所望の場合、湿潤剤として、または表面張力を調整するために、界面活性剤または界面活性剤の組合わせを成分(iv)に包含させてもよい。放射線硬化性界面活性剤を含む市販の界面活性剤を利用することができる。該組成物での使用に適した界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、およびそれらの組合わせが挙げられる。
【0088】
好ましい界面活性剤は、国際公開WO2007/018425号、20頁15行〜22頁6行に記載されているとおりであり、これを本明細書中で参考として援用する。フッ素系界面活性剤、特にZonyl(登録商標)FSN(E.I.Du Pontにより生産されている)が、とりわけ好ましい。
【0089】
ガス透過度は、識別層の膨潤性による影響および可塑化による影響を受ける。可塑化により、化合物は膜に浸透して可塑剤として機能する。湿潤環境では、水(蒸気)が膨潤を引き起こす可能性があるが、ガス流中の不純物、例えば炭化水素化合物、アルコールなども、一因となりうる。過度の膨潤/可塑化は非極性ガスに対する極性ガスの選択性を低下させる可能性があり、膜に損傷を与える可能性がある。膨潤度は、架橋性化合物のタイプおよび比率、架橋の程度(暴露線量、光開始剤のタイプおよび量)、および他の構成成分(例えば、連鎖移動剤、相乗剤)により、制御することができる。
【0090】
一態様では、少なくとも2つの組成物を多孔質支持体上にコーティングする(同時または連続して)。したがって、段階(c)を、1回より多く、各段階(c)の間に段階(d)を実施するか実施しないかのいずれかで、実施することができる。結果として、少なくとも1つの最上層と、最上層より多孔質支持体に近い少なくとも1つの最下層とを含む、複合膜が形成する。この態様では、最上層と最下層が、あらゆる介在層と一緒になって識別層を構成し、多孔質支持体が複合膜に強度をもたらす。
【0091】
該組成物は、1個以上の官能性チオール基を有する重合性化合物を含有していてもよい。これらの化合物は、酸素阻害に対する感受性がより低いことが知られ、また使用すると比較的均一なポリマー鎖長および架橋密度がもたらされる連鎖移動剤として、働くことができる。チオール化合物の例としては、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸アルキル、メルカプト−プロピルスルホネート、エチルジチオカルボナト−S−スルホプロピルエステル、ジメルカプトプロパンスルホネート、メルカプトベンゾイミダゾールスルホネートが挙げられる。好ましいチオール化合物は、メルカプトエタノール、メルカプトエチルエーテル、メルカプトベンゾイミダゾール、エチルジチオアセテート、ブタンチオール、およびエチレンジオキシジエタンチオールである。最適な量は、組成物に用いられている構成成分、連鎖移動剤のタイプ(反応性)および照射線量に大きく依存する。したがって、最適な濃度は、個別方式で日常的に決定する。連鎖移動剤のレベルが高いと、付着性の問題が生じうることが見いだされた。多層識別層を作成する場合、連鎖移動剤は、表面構造への影響がもっとも大きいと予想される最上層に存在することが好ましい。レベルが非常に高い場合、架橋反応が過度に妨害されて、完全に重合しておらず、まだ湿っている識別層が生じる可能性がある。連鎖移動剤は、0.001〜1.0mmol/重合性成分1gの量で存在することが好ましい。ほとんどの化合物で、好ましい範囲は0.005〜0.1mmol/重合性成分1gである。識別層が1より多くの層からなる場合、上記範囲は、連鎖移動剤を含む層または複数層に当てはまる。
【0092】
組成物に包含されていてもよい他の添加剤は、達成すべき目的に応じて、可塑剤、例えば、(ポリ)アルキレングリコール、グリセロールエーテル、およびTg−値が低いポリマー格子など、ならびに、1以上の従来の添加剤、例えば、酸、pH調整剤、防腐剤、粘度調整剤、安定剤、分散剤、抑制剤、消泡剤、有機/無機塩、アニオン性、カチオン性、非イオン性および/または両性界面活性剤などである。
【0093】
上記添加剤(光開始剤、アミン相乗剤、界面活性剤、連鎖移動剤、可塑剤、従来の添加剤)は、当業者に公知のものから選択することができ、組成物およびその望ましい性質に基づき好ましくは0〜20重量%の範囲で組成物中に包含されることができる。上記成分のいずれかを、単独または互いに組み合わせて用いることができる。それらは、水中で可溶化した後に加えるか、分散させるか、ポリマー分散させるか、乳化させることができ、または、油滴に転化することができる。
【0094】
本発明の方法は、所望の場合、さらなる段階、例えば、識別層の洗浄および/または乾燥、ならびに多孔質層からの不活性溶媒の例えば蒸発による除去を、含有することができる。
【0095】
段階(d)において高い強度のUV光を用いる場合、かなりの量の熱が生じる可能性がある。したがって、過熱を防ぐために、冷却用空気をランプおよび/または多孔質支持体/複合膜に施用することができる。それでもなお、著しい線量のIR光がUVビームと一緒に照射される。一態様では、段階(d)を、IR反射性石英プレートに通してフィルタリングしたUV光を用いる照射により実施する。
【0096】
本発明の他の観点は、標的ガスを含有する供給ガスを標的ガスに富むガス流と標的ガスが減少したガス流とに分離するためのガス分離モジュールを提供する。該モジュールは、ハウジングと、本発明に従った複合膜を含む1以上のカートリッジを含む。
【0097】
本発明のさらに他の観点は、本発明に従った複合膜を含むガス分離カートリッジを提供する。
複合膜(ガス分離要素とよぶこともできる)は、好ましくは管状の形にあり、より好ましくはシート状の形にある。管状の形の膜は、場合によっては中空繊維タイプであると言われる。シート状の形にある膜は、例えば、螺旋状に巻かれた(spiral-wound)カートリッジ、プレート・アンド・フレーム(plate-and-frame)カートリッジ、およびエンベロープ(envelope)カートリッジでの使用に適している。
【0098】
好ましいガス分離モジュールは、螺旋状に巻かれたカートリッジの形にある本発明に従った複合膜を含む。そのような螺旋状に巻かれたカートリッジは、スペーサーおよび外側不透過性支持体層を含むことが好ましく、該スペーサーは、複合膜の各側面および膜と不透過性支持体層の間に位置決めされ、これにより、膜の一方の側面上に供給流路、膜のもう一方の側面上に透過流路が定義される。ここにおいて、膜、スペーサーおよび外側不透過性層は、コアの周囲に螺旋状に巻き付いている。
【0099】
スペーサーは、典型的には、必ずしもではないが、ガス流路における乱流を促進するのに有用なプラスチック製のメッシュまたはネットから作成される。螺旋状に巻かれたカートリッジの製造では、スペーサーの選択に注意する。過度に密なメッシュは、供給または透過流路に沿って圧力低下を引き起こす可能性があり、これは、カートリッジが使用中の場合は分離性能に悪影響を及ぼす。同様に、密なスペーサーは、複合膜の表面に隣接して濃度分極を生じさせる、流れのない境界層の形成を促進する可能性がある。同様の問題点は、プレート・アンド・フレーム・カートリッジの製造にも影響を及ぼす。
【0100】
メッシュスペーサーが組み込まれている螺旋状に巻かれたカートリッジにおいて、スペーサーは、複合膜を支持し供給および透過流路を開いたままにするのに十分な強度を有し、流路に沿った圧力低下および濃度分極の問題を制限するのに十分開いていることが好ましい。
【0101】
螺旋状に巻かれたカートリッジの製造に関するさらなる詳細は、米国特許公報US3417870号、US4746430号およびUS5096584号に見いだすことができる。
【0102】
透過側面上で掃引ガスを用いてガス分離を実施するのにカートリッジを用いる場合、該カートリッジはまた、掃引ガスをカートリッジ内に通すことができる複合膜の透過側面への入口を包含することが好ましい。
【0103】
中空繊維カートリッジは通常スペーサーを必要としない。これは、複合膜が、注封化合物により間隔の開いた関係で保持されうるためである。
ここで中空繊維タイプのガス分離カートリッジに関し、ガス分離カートリッジは、以下を含むことが好ましい:
(a)複合膜の壁および1以上のガス出口を含む管状ガス分離要素;
(b)ガス分離要素を収容するハウジング、該ハウジングは外壁および1以上のガス出口を含む;
(c)要素の壁とハウジングの外壁の間のボイド;
(d)供給ガスを管状ガス分離要素またはボイドのいずれかに導入するための1以上の入口;
ここにおいて:
(i)複合膜は本発明の第1の観点で定義したとおりであり;そして
(ii)カートリッジは、標的ガスが管状ガス分離要素の内側とボイドの間を移動する実質的に唯一の経路が、複合膜の壁を通り抜けることであるように、構築する。
【0104】
この好ましい中空繊維型ガス分離カートリッジでは、標的ガスを含有する供給ガスを、管状ガス分離要素またはハウジングボイドのいずれかの中に導入することができる。
したがって、第1の態様では、標的ガスを含有する供給ガスを、1以上の入口に通して管状ガス分離要素の近端に導入する。その後、供給ガスはチューブ内を縦方向に通過し、標的ガスは供給ガス中の他のガスより容易に選択的複合膜を通って透過する。その後、標的ガスが減少したガス流を、管状ガス分離要素の遠端にある出口に通してカートリッジから出すことができる。その後、標的ガスに富むガス流を、ハウジングの遠端にある出口に通してカートリッジから出すことができる。
【0105】
第2の態様では、標的ガスを含有する供給ガスを、1以上の入口に通してハウジングの近端に導入する。その後、供給ガスはハウジング内を縦方向に通過し、標的ガスは供給ガス中の他のガスより容易に選択的複合膜を通って透過する。その後、標的ガスが減少したガス流を、ハウジングの遠端にある出口に通してカートリッジから出すことができる。その後、標的ガスに富むガス流を、管状ガス分離要素の遠端にある出口に通してカートリッジから出すことができる。
【0106】
管状ガス分離要素の内側とボイドの間を移動する(流れの方向に関わらず)標的ガスの好ましくは少なくとも95%、より好ましくはすべてが、複合膜の壁を通って上記のようになる。
【0107】
したがって、好ましいカートリッジの形状としては、プレート・アンド・フレームタイプ、螺旋状に巻かれたタイプ、中空繊維タイプ、管状タイプおよびエンベロープタイプが挙げられる。カートリッジの形状に関するさらなる情報は、S.P.NunesおよびK.−V.Peinemannにより編集された“Membrane Technology in the Chemical Indusry”の76〜78頁および101〜103頁、ならびにR.Bakerにより編集された“Membrane Technology and Applications”(第2版)の139〜155頁に見いだすことができる。
【0108】
本明細書では、ガス、特に極性および非極性ガスを分離するための本発明の複合膜の有用性を強調しているが、他の目的、例えば、スチール生産業における鉄鉱石の直接還元用の還元ガスの提供、有機溶媒の脱水(例えばエタノール脱水)、パーベーパレーション、および蒸気分離にも該複合膜を用いることができることは、理解されるであろう。
【0109】
本発明の複合膜は、他の膜または所望の場合は他のガス分離技術、例えば、溶媒吸収(例えば、Selexol、Rectisol、Sulfinol、Benfield)、アミン吸収(例えば、DEA、MDEA)、物理的吸着、例えば、圧力スイング吸着、極低温技術などと併せて、用いることができる。該複合膜は、標的ガスを含有する供給ガスを、標的ガスに富むガス流と標的ガスが減少したガス流に分離するのにとりわけ適している。例えば、極性および非極性ガスを含む供給ガスを、極性ガスに富むガス流と極性ガスが減少したガス流に分離することができる。多くの場合、膜は、非極性ガス、例えば、アルカン、H、Nおよび水蒸気に比べ、極性ガス、例えば、CO、HS、NH、SOおよび窒素酸化物、特にNOに対し、高い透過性を有する。
【0110】
標的ガスは、例えば、複合膜の利用者にとって価値があり、利用者が収集したいと考えるガスであることができる。あるいは、標的ガスは、望ましくないガス、例えば、環境を保護するために利用者がガス流から分離したいと考える汚染物質または‘温室ガス’であることができる。
【0111】
複合膜は、極性ガス(CO、HS)を除去することによる天然ガス(主にメタンを含む混合物)の精製;合成ガスの精製;および、水素および煙道ガスからのCOの除去に、とりわけ有用である。煙道ガスは、典型的には、暖炉、オーブン、炉、ボイラー、燃焼機関および発電所から生じる。煙道ガスの組成は何を燃やしているかに依存するが、通常、それらは、空気に由来する窒素を主として(典型的には3分の2より多い)含有するほか、燃焼に由来する二酸化炭素(CO)、ならびに水蒸気および酸素を含有する。煙道ガスは、少ない百分率の汚染物質、例えば、粒状物質、一酸化炭素、窒素酸化物および硫黄酸化物も含有する。最近になって、COの分離および捕獲は、環境問題(地球温暖化)に関連して関心を集めている。
【0112】
本発明の複合膜は、以下のものの分離にとりわけ有用である:COおよびNを含む供給ガスの、供給ガスよりCOに富むガス流と供給ガスよりCOが少ないガス流への分離;COおよびCHを含む供給ガスの、供給ガスよりCOに富むガス流と供給ガスよりCOが少ないガス流への分離;COおよびHを含む供給ガスの、供給ガスよりCOに富むガス流と供給ガスよりCOが少ないガス流への分離、HSおよびCHを含む供給ガスの、供給ガスよりHSに富むガス流と供給ガスよりHSが少ないガス流への分離;ならびに、HSおよびHを含む供給ガスの、供給ガスよりHSに富むガス流と供給ガスよりHSが少ないガス流への分離。
【0113】
複合膜は、CO/CH選択率(αCO/CH)>10を有することが好ましい。選択率は、膜を、体積で50:50のCOとCHの混合物に2000kPaの供給圧力で暴露することを含む方法により、決定することが好ましい。
【0114】
複合膜は、CO/N選択率(αCO/N)>35を有することが好ましい。選択率は、膜を、2000kPaの供給圧力でCOおよびNに別個に暴露することを含む方法により、決定することが好ましい。
【0115】
ここで、本発明を以下の限定的ではない実施例により例示する。実施例において、部および百分率はすべて、特記しない限り重量に基づく(“Comp”は比較を意味する)。
【実施例】
【0116】
ガス透過率および選択率の評価
以下の実施例において、複合膜のガス透過率および選択率を以下のように決定した:
(A)ガス透過率
得られた膜を通るCOおよびNの流束を、測定直径が4.2cmであるガス透過セルを用いて、80℃および2000kPa(20bar)のガス供給圧力で測定した。COおよびNの透過率P(それぞれPCO2およびPN2)を以下の方程式に基づき算出した。
【0117】
P=F×L×10−12/(60×A×p)(単位:m(STP).m/m.s.kPa)
式中、FはCOまたはNのガス流量(SCCM)であり、Lは膜の厚さ(マイクロメートル)であり、Aは膜の面積=0.001385mであり、pは供給ガスの圧力(kPa)であり、“×”は乗じるを表す。STPは標準温度と標準圧力であり、これは0℃および1atmであり、したがって1m(STP)はSTP条件で1mである。SCCMは“標準cc/min”であり、これはSTP条件下での流量(cc/min)である(cm(STP)/min= ×10−6(STP)/min)。
(B)選択率
以下の方程式に基づき、選択率(αCO2/N2)を、上記で算出したPCO2およびPN2から算出した:
αCO2/N2=PCO2/PN2
実施例1〜7および比較例1〜5
(a)多孔質支持体層
これらの実施例に用いる多孔質支持体層を、以下のように略す:
GMT−L−6は、ドイツのGMT Membrantechnik GmbHからの限外濾過ポリアクリロニトリル膜であった。
【0118】
GR70PPは、Alfa Lavalからの限外濾過ポリスルホン膜であった。
OMEGAは、Pallからの限外濾過(300kD)ポリエーテルスルホン膜であった。
(b)硬化性組成物
硬化性組成物は、以下の表1に示す以下の組成を有していた:
【0119】
【表1】

【0120】
量はすべて重量%で表している。
各硬化性組成物に用いられている成分を、表2において以下のように略す:
PEG600DAは、Aldrichからのポリ(エチレングリコール)600ジアクリレートであった。
【0121】
CD9038は、Sartomerからのエトキシ化(30)ビスフェノールAジアクリレートであった。
CD553は、Sartomerからのメトキシポリ(エチレングリコール)モノアクリレートであった。
【0122】
Aquacalk TWBは、Sumitomo Seikaからの化学的に架橋されたポリ(オキシアルキレン)であった。
Additol HDMAPは、Cytec Surface Specialtiesからの光開始剤であった。
【0123】
ZonylTM FSN−100は、E.I.du Pont de Nemours & Co.,Inc.からの界面活性剤であった。
(c)不活性液体の組み入れおよび硬化性組成物の施用
いくつかの異なる方法を用いて、不活性液体を多孔質層に組み入れ、硬化性組成物を施用した。これらを以下に記載する:
同時多層法(“多層(Multi)、S”)
この方法では、不活性液体および硬化性組成物を、製造ユニットを用いて多孔質層に連続して施用した。ユニットは、2つのスロットを用いるスライドビードコーターを含む硬化性組成物施用ステーション、照射源、および複合膜収集ステーションを含んでいた。多孔質支持体を、施用ステーションから照射源、その後、乾燥ステーションを経由して複合膜収集ステーションまで、30m/minの速度で移動させた。
【0124】
不活性液体を多孔質層に下側層(下側スロット)として施用し、硬化性組成物を上側層(上側スロット)として施用した。各実施例でのコーティング量を以下に挙げる。コーティングした支持体層を、Fusion UV SystemsからのUV硬化装置Light−HammerTM LH6の下に通し、取り付けたUVランプ(D−電球)の100%強度を適用した。その後、ラインをさらに、温度が40℃で相対湿度が8%である乾燥帯域に進ませ、得られた複合膜を収集した。
連続的多層法(“多層、C”):
この方法は、不活性液体をスライドビードコーターにより多孔質層に施用したのではなく、代わりに、硬化性組成物の施用前に、不活性液体で満たされた浴に多孔質層を通し、表面上の過剰な液滴をエアナイフにより除去することにより不活性液体を多孔質層に施用した点を除き、同時多層法に関し上記したとおりに実施した。
(d)複合膜の評価
識別層の形成の確認は、表面および横断面のSEM顕微鏡法により行った。識別層の良好な形成は、(i)最初の多孔質で開いている表面の消失(すなわち、閉じている表面が観察された);および(ii)横断面の検査により観察される追加的層の形成により、証明された。識別層を形成する試みがうまくいかなかった場合、多孔質層に由来する大きな細孔が依然として見えており、横断面の検査により追加的層を見いだすことは(ほとんど)できなかった。
【0125】
CO分離を、COおよびNガス流の透過度を測定することにより評価した。複合膜のCOガス流束(QCO2)およびガス流束(QN2)を別個に測定した。試料を、面積が13.8cmであるMillipore膜セル中に取り付けた。室温および2000kPaの供給圧力でCOガスおよびNガスを複合膜材料の一方の側面に施用し、膜のもう一方の側面を通って透過するガスの流速(JCO2またはJN2)を、デジタル式流量計を用いて測定した。
【0126】
COおよびNの透過度(それぞれQCO2およびQN2)を、以下の式に基づき算出した:
CO2=JCO2/(A.p)
N2=JN2/(A.p)
式中、JCO2およびJN2はそれぞれ、膜を通るCOおよびNのm(STP)/m.s.kPaでの流量であり、Aはmでの膜の面積であり、pはkPaでの供給圧力である。
【0127】
選択率αを、以下の式に基づき、各ガスの透過度の比として算出した:
αCO/N=QCO2/QN2
許容しうるCO選択率は、αCO/N>35であると考えた。
実施例1
組成物Aを硬化性組成物として用い、水を不活性液体として用いた。GMTからのポリアクリロニトリル膜GMT−L−6を多孔質支持体として用いた。複合膜を、多層、S法により形成した。水(不活性液体)を厚さ50ミクロンの下側層(下側スロット)として施用し、硬化性組成物Aを厚さ20ミクロンの上側層(高位スロット)として施用した。不活性液体と硬化性組成物の温度はともに35℃であった。コーティングした膜を、取り付けたD−電球で100%強度でのFusion UV SystemsからのUV硬化装置Light Hammer LH6の下に通し、その後、ラインをさらに、温度が40℃で相対湿度が8%である乾燥帯域に進ませた。コーティング/プロセスライン速度は30m/minであった。
【0128】
得られた複合膜は、良好なCO選択率を有していた(αCO/N=63)。
SEM分析により、厚さ0.4ミクロンの識別層が多孔質支持体上に形成したことを確認した。
比較例1
水を下側層として施用しなかった点を除き、実施例1を繰り返した。該方法の生産物は、αCO/N=20という許容し得ないCO選択率を有していることが見いだされた。実施例1とは対照的に、SEM分析は明らかに特定可能な識別層を示さなかった。
実施例2
組成物Aの代わりに組成物Bを用いた点を除き、実施例1を繰り返した。下側層(不活性液体としての水)を厚さ100ミクロン、上側層(硬化性組成物)を厚さ15ミクロンで施用した。
【0129】
得られた複合膜は、良好なCO選択率を有していた(αCO/N=49)。SEM分析により、多孔質層の上面上に厚さ0.65ミクロンの明らかに特定可能な識別層を確認した。
比較例2
組成物Aの代わりに組成物Bを用いた点を除き、比較例1を繰り返した。
【0130】
該方法の生産物は、αCO/N=5という許容し得ないCO選択率を有していることが見いだされた。実施例2とは対照的に、SEM分析は明らかに特定可能な識別層を示さなかった。
実施例3
組成物Bの代わりに組成物Cを用いた点を除き、実施例2を繰り返した。
【0131】
得られた複合膜は、良好なCO選択率を有していた(αCO/N=62)。SEM分析により、多孔質層の上面上に厚さ0.925ミクロンの明らかに特定可能な識別層を確認した。
比較例3
組成物Bの代わりに組成物Cを用いた点を除き、比較例2を繰り返した。
【0132】
該方法の生産物は、αCO/N=15という許容し得ないCO選択率を有していることが見いだされた。
実施例3とは対照的に、SEM分析は明らかに特定可能な識別層を示さなかった。
実施例4
実施例4は、多層、C連続法により調製した。この方法では、不活性液体としての水で満たされた浴に膜を通し、表面上の過剰な液滴をエアナイフにより除去した。その後、飽和した膜を、スライドビードコーターにより厚さ15ミクロンの硬化性組成物Cでコーティングした。これに続く硬化および乾燥段階は、上記実施例1に記載したとおりであった。
【0133】
得られた複合膜は、良好なCO選択率をもたらした(αCO/N=67)。
SEM分析により、厚さ1.2ミクロンの識別層が多孔質支持体上に形成したことを確認した。
実施例5
ポリアクリロニトリル膜の代わりにPall OMEGA膜を多孔質支持体として用いた点を除き、実施例3を繰り返した。
【0134】
得られた複合膜は、良好なCO選択率をもたらした(αCO/N=41)。
SEM分析により、厚さ0.2ミクロンの識別層が多孔質支持体上に形成したことを確認した。
比較例4
ポリアクリロニトリル膜の代わりにPall OMEGA膜を多孔質支持体として用いた点を除き、比較例3を繰り返した。
【0135】
該方法の生産物は、許容し得ないCO選択率を有していることが見いだされた(αCO/N=4)。
実施例5とは対照的に、SEM分析は明らかに特定可能な識別層を示さなかった。
実施例6
ポリアクリロニトリル膜の代わりにAlfa−Laval膜GP70PPを支持体として用いた点を除き、実施例3を繰り返した。得られた複合膜は、良好なCO選択率をもたらした(αCO/N=71)。
【0136】
SEM分析により、厚さ0.9ミクロンの識別層が多孔質支持体上に形成したことを確認した。
実施例7
組成物Bの代わりに組成物Dを用いた点を除き、実施例2を繰り返した。
【0137】
得られた複合膜は、良好なCO選択率をもたらした(αCO/N=44)。
SEM分析により、厚さ1.2ミクロンの識別層が多孔質支持体上に形成したことを確認した。
比較例5
組成物Bの代わりに組成物Dを用いた点を除き、比較例2を繰り返した。
【0138】
該方法の生産物は、許容し得ないCO選択率(αCO/N=5)を有していることが見いだされた。
SEM分析は明らかに特定可能な識別層を示さなかった。
【0139】
【表2】

【0140】
AQTWBはAquacalk TWBを意味する。“単一”は、硬化性組成物の施用前に不活性液体を多孔質層に施用しなかったことを意味する。
実施例の列の“C”は、“比較”を意味する。
“表面特性”は、SEMにより検査したときの表面の外観を指す。“開いている”は、多孔質層の大きな細孔が依然として見えたことを意味し、“S開いている”は、幾ばくかの細孔が見えたことを意味し、“閉じている”は、大きな細孔がもはや見えなかったことを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体層と識別層を含む複合膜の調製方法であって、
(a)多孔質支持体層を提供する段階;
(b)該支持体層の細孔中に不活性液体を組み入れる段階;
(c)該支持体層に硬化性組成物を施用する段階;および
(d)該組成物を硬化し、これにより多孔質支持体上に識別層を形成する段階、
を含む、前記方法。
【請求項2】
不活性液体と硬化性組成物を多層コーティング法により支持体層上にコーティングする、請求項1に記載の方法であって、不活性液体の層と硬化性組成物の層を、不活性液体層を下側層にし、したがって硬化性組成物より先に支持体に接触させて、同時に支持体層に施用する、前記方法。
【請求項3】
段階(b)および(c)を、カーテンコーティング、押し出しコーティング、スロットダイコーティングまたはスライドビードコーティングにより同時に実施する、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
硬化性組成物および/または不活性液体を少なくとも15m/minのコーティング速度で支持体層に施用する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
組成物の硬化を、硬化性組成物を多孔質支持体に施用して7秒以内に開始する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
硬化性組成物の粘度が、35℃で測定して1〜1000mPa.sである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
支持体層の細孔の少なくとも80体積%が不活性液体で満たされており、これにより識別層が平滑である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
組成物が放射線硬化性組成物である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
組成物に30秒未満にわたり照射することにより硬化を達成する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
オキシエチレン基が、硬化性組成物中の不揮発性成分の全重量の少なくとも50重量%を構成する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
多孔質支持体が、5〜150×10−5(STP)/m.s.kPaのCO透過度を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
硬化性組成物施用ステーションと、照射源と、複合膜収集ステーションと、多孔質支持体層を硬化性組成物施用ステーションから照射源および複合膜収集ステーションに移動させる手段とを含む製造ユニットにより、硬化性組成物を多孔質層に連続的に施用する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法により得られる複合膜。
【請求項14】
請求項13に記載の膜を含むガス分離カートリッジ。
【請求項15】
ガスまたは蒸気の分離、濃縮または精製のための請求項13に記載の膜または請求項14に記載のカートリッジの使用。

【公表番号】特表2011−518661(P2011−518661A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503498(P2011−503498)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050335
【国際公開番号】WO2009/125217
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(509077761)フジフィルム・マニュファクチュアリング・ヨーロッパ・ベスローテン・フエンノートシャップ (25)
【Fターム(参考)】