説明

膜ろ過装置、運転方法及び損傷検出装置

【課題】ろ過膜の洗浄と損傷検出とを効率的に行うことが可能な膜ろ過装置、運転方法及び損傷検出装置を提供する。
【解決手段】膜ろ過装置であって、内部を一次側領域と二次側領域とに区分するろ過膜を有し、前記一次側領域より供給された原水を前記ろ過膜により膜ろ過して前記二次側領域から処理水として排出する膜モジュールと、前記膜モジュールから排出された処理水を貯水する処理水タンクと、前記膜モジュールの二次側領域に配管で接続され、前記膜モジュールの洗浄時に、前記処理水タンクに貯水された処理水を、前記配管を介して前記膜モジュールの二次側領域へ供給する処理水供給手段と、前記処理水の供給に用いられた配管内に加圧空気を供給する加圧空気供給手段と、前記加圧空気供給手段により供給された加圧空気の、前記膜モジュールの二次側領域から一次側領域への漏出量に基づき、前記ろ過膜の損傷を検出する損傷検出手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、膜ろ過装置、運転方法及び損傷検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水処理の分野では、ろ過膜を用いて水中の懸濁物質を膜ろ過する膜ろ過装置が広く用いられている。係る膜ろ過装置では、水中から懸濁物質を分離する膜ろ過工程を所定時間行った後、逆洗等の物理洗浄工程を行うことで、ろ過膜に付着した懸濁物質等のファウリング原因物質を除去している。この物理洗浄工程の実施により、ろ過性能を或る程度回復することが可能であるが、膜ろ過の時間とともに除去し難いファウリングが進行していくという問題がある。従来、この問題に対し、薬液を用いてろ過膜を洗浄する技術や、温水を用いてろ過膜を逆洗する技術が提案されている。
【0003】
また、上記のように、ろ過膜はろ過と物理洗浄を繰返して運用されるが、使用する年月とともに劣化し、損傷する危険性がある。そのため、従来、加圧気体を用いてろ過膜の損傷状態を検出する技術が提案されており、洗浄後等の工程において、水の流れを止めたタイミングで損傷検出を実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−274021号公報
【特許文献2】特開2007−130587号公報
【特許文献3】特開2007−130532号公報
【特許文献4】特開2003−210949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ろ過膜の洗浄に薬液を用いる従来技術では、環境負荷が高くなるとともに、薬液によりろ過膜が劣化しやすい等の問題がある。また、薬液に要するランニングコストが増加し、薬液に耐性のある材質の設備とするため設備費が高額となる。一方、ろ過膜の洗浄に温水を用いる従来技術では、環境負荷も少なく、ろ過膜の劣化への影響も少ないが、洗浄のための水量に応じ加熱のためのエネルギーが増加することから、さらなる効率化が望まれている。
【0006】
また、ろ過膜の損傷検出は、上記したように膜ろ過工程及び物理洗浄工程とは異なるタイミングで且つ水の流れを止めた上で行われるため、損傷検出のための検出時間が処理効率に直接関わってくる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施の形態の膜ろ過装置は、膜モジュールと、処理水タンクと、処理水供給手段と、加圧空気供給手段と、損傷検出手段とを備える。膜モジュールは、内部を一次側領域と二次側領域とに区分するろ過膜を有し、一次側領域より供給された原水を前記ろ過膜により膜ろ過して二次側領域から処理水として排出する。処理水タンクは、膜モジュールから排出された処理水を貯水する。処理水供給手段は、膜モジュールの二次側領域に配管で接続され、膜モジュールの洗浄時に、処理水タンクに貯水された処理水を、配管を介して膜モジュールの二次側領域へ供給する。加圧空気供給手段は、処理水の供給に用いられた配管内に加圧空気を供給する。損傷検出手段は、加圧空気供給手段により供給された加圧空気の、膜モジュールの二次側領域から一次側領域への漏出量に基づき、ろ過膜の損傷を検出する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、実施形態に係る膜ろ過装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【図2】図2は、膜ろ過装置100の運転方法の手順を示すフローチャートである。
【図3】図3は、膜ろ過装置の膜ろ過工程を説明するための図である。
【図4】図4は、膜ろ過装置の逆洗工程を説明するための図である。
【図5】図5は、膜差圧の変化例を示す図である。
【図6】図6は、膜ろ過装置の併用逆洗工程(第1工程)を説明するための図である。
【図7】図7は、膜ろ過装置の併用逆洗工程(第2工程)を説明するための図である。
【図8】図8は、膜差圧の変化例を示す図である。
【図9】図9は、損傷検出処理例を示すグラフである。
【図10】図10は、膜ろ過装置の他の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る膜ろ過装置、運転方法及び損傷検出装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る膜ろ過装置の構成を模式的に示すブロック図である。同図に示すように、膜ろ過装置100は、原水タンク11と、原水ポンプ12と、膜モジュール13と、処理水タンク14と、流量計15と、逆洗ポンプ16と、温水洗浄ポンプ17と、温水ユニット18と、空気圧縮機19と、気体圧力計20と、気体流量計21とを備えている。
【0011】
原水タンク11は、図示しない供給源から供給された原水を貯水する。原水ポンプ12は、原水タンク11に貯水された原水を膜モジュール13へ供給する供給ポンプである。原水ポンプ12は、ろ過入口弁V1を介して、膜モジュール13の一次側領域に接続配管されている。
【0012】
膜モジュール13は、内部を一次側領域と二次側領域とに区分けするろ過膜(図示せず)を有し、一次側領域より供給された原水をろ過膜により膜ろ過し、二次側領域から処理水として排出する。膜モジュール13の二次側領域には、ろ過出口弁V2が設置されており、当該ろ過出口弁V2と膜モジュール13の二次側領域とを接続する配管により、共用ラインL1が形成されている。膜モジュール13の二次側領域から排出された処理水は、共用ラインL1を流れ、ろ過出口弁V2を介して処理水タンク14に到達する。
【0013】
また、膜モジュール13の一次側領域には、膜モジュール13内の保持液を、膜ろ過装置100の外部に排出するための排水弁V3が設けられている。また、膜モジュール13の一次側領域には、加圧空気を導入するためのエアスクラビング弁V7が設けられている。
【0014】
なお、膜モジュール13で用いるろ過膜は、精密ろ過膜、限外ろ過膜のような除濁用であり、モジュールタイプの加圧式でもよいし、吸引により膜分離する浸漬型でもよい。本実施形態では、加圧式の外圧型精密ろ過膜を用いた例について説明する。また、膜モジュール13内において、ろ過膜は、その一端を固定しない自由端で保持、又は、両端を固定し中間に十分な余裕を持たせた状態で保持されており、加圧空気の供給により揺動可能な状態にあるものとする。
【0015】
処理水タンク14は、膜モジュール13から共用ラインL1を介して排出された処理水を貯水する。流量計15は、共用ラインL1上に設けられており、当該共用ラインL1を流れる水の流量を測定する。なお、流量計15が測定する流量に基づき、後述する各工程の実施タイミングが、膜ろ過装置100で自動制御されるようにすることもできる。
【0016】
逆洗ポンプ16は、逆洗弁V4を介して共用ラインL1に配管接続されており、当該共用ラインL1を通じて、処理水タンク14に貯水された処理水の一部を逆洗水として膜モジュール13の二次側領域に供給する。
【0017】
温水洗浄ポンプ17は、処理水タンク14に貯水された処理水の一部を、温水ユニット18に供給する。温水ユニット18は、温水洗浄ポンプ17によって導かれた処理水を所定の温度に加熱する加熱装置である。また、温水ユニット18は、温水洗浄弁V5を介して共用ラインL1に配管接続されており、当該共用ラインL1を通じて、所定の温度に加熱した温水を膜モジュール13の二次側領域に供給する。
【0018】
温水ユニット18は、例えば、温水洗浄ポンプ17によって導かれた処理水を一時貯水する温水タンクや、温水タンクに貯水された処理水を所定温度に加熱する加熱器等により構成され、所定温度に加熱した処理水を温水として保持する。また、膜ろ過装置100は、温水タンクを用いずに、温水洗浄ポンプ17と温水洗浄弁V5とを接続する配管を加熱する構成としてもよい。なお、図1では、逆洗弁V4から共用ラインL1に至る配管系と、温水洗浄弁V5から共用ラインL1に至る配管系とを共用する構成としているが、これに限らず、膜ろ過装置100に、共用ラインL1に至る配管系を個別に設ける構成としてもよい。
【0019】
空気圧縮機19は、エアコンプレッサであって、加圧した空気を、減圧弁V6を介して膜モジュール13に供給する。ここで、減圧弁V6の出力側は、エアスクラビング弁V7を介して、膜モジュール13の一次側領域に接続配管されている。空気圧縮機19から供給された加圧空気は、エアスクラビング弁V7を介して膜モジュール13の一次側領域に導入される。また、減圧弁V6の出力側は、損傷検出弁V8を介して共用ラインL1に配管接続されており、当該共用ラインL1を通じて、空気圧縮機19から供給された加圧空気が、膜モジュール13の二次側領域に導入されるよう構成されている。
【0020】
減圧弁V6の出力側と損傷検出弁V8との間の配管系には、気体圧力計20及び気体流量計21が設けられている。気体圧力計20は、空気圧縮機19から膜モジュール13の二次側領域に供給される加圧空気の圧力を測定する。また、気体流量計21は、空気圧縮機19から膜モジュール13の二次側領域に供給される加圧空気の流量を測定する。
【0021】
なお、膜ろ過装置100は、図1に示した構成に限らないものとする。例えば、膜ろ過装置100の外部から原水が供給される場合には、上記膜ろ過装置100の構成から原水タンク11や原水ポンプ12を取り除いた構成としてもよい。また、膜ろ過装置100の外部から加圧空気が供給される場合には、上記膜ろ過装置100の構成から空気圧縮機19や減圧弁V6を取り除いた構成としてもよい。また、共用ラインL1に流れる水の流量を測定しないような場合には、上記膜ろ過装置100の構成から流量計15を取り除いた構成としてもよい。
【0022】
次に、膜ろ過装置100の運転方法の一例について説明する。図2は、膜ろ過装置100の運転方法の手順を示すフローチャートである。同図に示すように、膜ろ過装置100の運転方法は、原水を膜ろ過する「膜ろ過工程」と、処理水により膜モジュール13の逆洗を行う「逆洗工程」と、温水と加圧空気とを併用し膜モジュール13の逆洗を行う「併用逆洗工程」と、ろ過膜の損傷検出を行う「損傷検出工程」とを含む。
【0023】
ここで、膜ろ過工程と逆洗工程とは交互に繰り返し実施される。膜ろ過工程から逆洗工程への移行は、通常、所定時間毎に行なわれるが、流量計15で測定される処理水の流量に基づき自動で行われるようにすることもできる。所定回数を実施後(又は所定時間の経過後)、併用逆洗工程が実施される。併用逆洗工程は第1工程と第2工程とを含み、この第2工程の実施と一体的に損傷検出工程が実施される。以下、図2に示した各工程について説明する。
【0024】
<膜ろ過工程>
まず、図3を参照して、膜ろ過装置100の膜ろ過工程について説明する。ここで、図3は、膜ろ過装置100の膜ろ過工程を説明するための図であり、開状態の弁を白塗、閉状態の弁を黒塗で表している(以下、図4、図6及び図7も同様)。
【0025】
膜ろ過工程では、図3に示すように、ろ過入口弁V1及びろ過出口弁V2を開とし、原水ポンプ12を動作させることで、原水タンク11内の原水を膜モジュール13の一次側領域に導入する。この時、他の弁は全て閉じた状態となっている。膜モジュール13に導入された原水は、ろ過膜により膜ろ過された後、処理水として処理水タンク14へ排出される。
【0026】
膜ろ過工程の時間経過に伴い、ろ過膜の一次側領域面(以下、一次側表面という)に懸濁物質等のファウリング原因物質が付着し始めると、膜差圧が上昇しろ過能力が徐々に低下していく。そこで、所定のタイミングで逆洗工程を実施し、処理水による逆洗により膜モジュール13を洗浄する。
【0027】
<逆洗工程>
図4は、膜ろ過装置100の逆洗工程を説明するための図である。まず、原水ポンプ12の動作を停止し、ろ過入口弁V1及びろ過出口弁V2を閉じる。次いで、排水弁V3及び逆洗弁V4を開き、逆洗ポンプ16を動作させることで、処理水タンク14に貯水された処理水を、逆洗水として膜モジュール13の二次側領域から導入する。次いで、エアスクラビング弁V7を開とし、空気圧縮機19を運転状態とすることで、膜モジュール13の一次側領域から供給した加圧空気によりろ過膜を物理的に揺動させる、エアスクラビングを開始する。この逆洗水の導入より、ろ過膜の一次側表面に付着したファウリング原因物質が剥離され、排水弁V3を介して膜ろ過装置100の外部に排出される。また、加圧空気の供給により、ろ過膜を揺動させることで、当該ろ過膜からファウリング原因物質をより剥離しやすくすることができる。なお、本実施形態では、処理水の供給を開始した後、エアスクラビングを開始することとしたが、これに限らず、エアスクラビングを開始した後に処理水の供給を開始する形態としてもよいし、処理水の供給とエアスクラビングとを同時に開始する形態としてもよい。これにより、ろ過膜に付着したファウリング原因物質を或る程度除去することができる。
【0028】
ところで、ろ過膜表面の細孔構造等にろ過膜上のファウリング原因物質が捕捉されると、このファウリング原因物質を上記逆洗工程で容易に除去できないことが分かっている。例えば、膜ろ過工程の後に逆洗工程を実施することで、膜ろ過工程で上昇した膜差圧を或る程度低下(回復)させることが可能であるが、残留したファウリング原因物質が徐々に蓄積していくため、膜差圧の回復率も徐々に減少していく。
【0029】
ここで、図5は、膜ろ過工程と逆洗工程とを交互に実施した場合における膜差圧の変化例を示す図である。同図では、ろ過膜の膜差圧(kPa)を縦軸に、経過時間(繰り返し回数)を横軸に示している。なお、1回目〜3回目の各膜ろ過工程では、膜ろ過する単位時間あたりの水量を同一条件としている。
【0030】
図5に示すように、膜ろ過工程では経過時間に伴い、ろ過膜の一次側表面にファウリング原因物質が付着するため、膜差圧が徐々に上昇していく。そこで、逆洗工程を実施すると、ファウリング原因物質の除去により膜差圧が減少(回復)する。このとき、回復した膜差圧の値と、基準となる膜差圧P0との差ΔP(ΔP1〜ΔP3)が小さいほど、回復率が高いことになる。
【0031】
しかしながら、逆洗工程で残留したファウリング原因物質が蓄積していくため、逆洗工程を繰り返し実施したとしてもΔP1〜ΔP3の値は徐々に増加し、膜ろ過に必要な膜差圧も増加する。そこで、本実施形態の膜ろ過装置100では、ΔPが所定の閾値を超えた時、或いは所定時間経過後等、所定のタイミングで併用逆洗工程を実施することで、ろ過膜に捕捉されたファウリング原因物質の除去を行う。以下、併用逆洗工程について説明する。
【0032】
<併用逆洗工程>
併用逆洗工程は、ろ過膜の一次側表面に付着したファウリング原因物質の剥離を行う「第1工程」と、剥離したファウリング原因物質を除去する「第2工程」とを有する。なお、第1工程の実行に先駆けて、所定のタイミングで温水洗浄ポンプ17が一時的に運転状態とされることで、処理水タンク14の処理水が温水ユニット18に導入されているものとする。また、温水ユニット18では、導入された処理水を所定の温度まで加熱し、温水として保温しているものとする。ここで、温水の温度は、ろ過膜の耐温以下であれば特に問わず、例えば40〜60℃の範囲としてもよく、高温であるほど好ましい。
【0033】
まず、図6を用いて、併用逆洗工程の第1工程について説明する。ここで、図6は、併用逆洗工程の第1工程を説明するための図である。第1工程では、まず、排水弁V3及び温水洗浄弁V5を開(その他の弁は閉)とし、温水洗浄ポンプ17を運転状態(原水ポンプ12及び逆洗ポンプ16は停止状態)とすることで、所定温度に加熱した温水を、温水ユニット18から膜モジュール13の二次側領域に供給する。次いで、エアスクラビング弁V7を開とし、空気圧縮機19を運転状態とすることで、膜モジュール13の一次側領域から供給した加圧空気によりろ過膜を物理的に揺動させる、エアスクラビングを開始する。
【0034】
このように、第1工程では、温水によりろ過膜を暖めることで、ろ過膜に付着や捕捉されたファウリング原因物質を剥離しやすくする。また、加圧空気の供給により、ろ過膜を揺動させることで、当該ろ過膜からファウリング原因物質をより剥離しやすくすることができる。なお、本実施形態では、温水の供給を開始した後、エアスクラビングを開始することとしたが、これに限らず、エアスクラビングを開始した後に温水の供給を開始する形態としてもよいし、温水の供給とエアスクラビングとを同時に開始する形態としてもよい。また、温水ユニット18が膜モジュール13の二次側領域に供給する温水の流量は、膜ろ過工程時に膜モジュール13が排出した処理水の流量(膜ろ過流量)よりも少ないものとするが、多くても洗浄の機能を阻害することはない。
【0035】
次に、図7を用いて、併用逆洗工程の第2工程について説明する。ここで、図7は、併用逆洗工程の第2工程を説明するための図である。第2工程では、まず、エアスクラビング弁V7を閉とすることで、ろ過膜の揺動を停止する。次いで、温水洗浄弁V5を閉とし、温水洗浄ポンプ17を停止状態とすることで、膜モジュール13への温水供給を停止する。このとき、共用ラインL1では、ろ過出口弁V2、逆洗弁V4、温水洗浄弁V5及び損傷検出弁V8が閉となり、膜モジュール13の二次側領域との間で閉ざされるため、第1工程で供給されていた温水が残留した状態となる。
【0036】
そして、損傷検出弁V8を開とすることで、空気圧縮機19から供給される加圧空気により、共用ラインL1内に残留した温水を、膜モジュール13の二次側領域へ一気に圧送する。この圧送により、ろ過膜の一次側表面のファウリング原因物質が剥離し、排水弁V3を介して膜ろ過装置100の外部に排出される。
【0037】
ここで、第2工程時に供給する加圧空気の圧力は、膜ろ過工程での膜差圧以上の圧力であることが好ましく、ろ過膜の耐圧以下である必要がある。具体的には、耐圧300kPaの膜では、250kPa程度が好ましい。また、加圧空気により膜モジュール13の二次側領域へ圧送する温水の分量は、上記した圧力の下、圧送に5〜10秒程度を要する分量が好ましく、この条件を満たす長さ/径で共用ラインL1が構成されることが好ましい。なお、加圧空気の供給は、続く損傷検出工程での損傷検出に用いるため、共用ラインL1内の温水を圧送した後も、所定時間継続させるものとする。
【0038】
このように、併用逆洗工程では、第1工程において、ファウリング原因物質が剥離し易い状態とし、第2工程において、加圧空気により押し出された温水の水勢を用いて、ファウリング原因物質の除去を行うため、上述した逆洗工程よりも効果的にファウリング原因物質をろ過膜から除去することができる。これにより、例えば、図4に示した3回目の逆洗工程の後、4回目の膜ろ過工程を実施し、併用逆洗工程を実施したとすると、図8に示すように、膜差圧P0と同等の値まで膜差圧を回復させることが可能となる。
【0039】
また、第2工程での加圧空気の供給により、共用ラインL1内に残留した温水を用いてファウリング原因物質を除去することができるため、温水ユニット18から供給される温水のみでファウリング原因物質の除去(逆洗)を行った場合と比較し、使用する温水の水量を減少させることができる。また、これにより、温水化に必要なエネルギーを低減することができる。
【0040】
<損傷検出工程>
続く、損傷検出工程では、上記第2工程で空気圧縮機19から膜モジュール13の二次側領域に加圧空気が供給されている間に、気体圧力計20と気体流量計21とによって膜モジュール13に供給された空気の圧力(空気圧)と流量(空気流量)とを測定する。空気圧と空気流量の変化が安定した時、ろ過膜が損傷していれば、この損傷した部分を通って二次側領域から一次側領域に空気が漏出する。
【0041】
ここで、図9は、膜ろ過装置100の損傷検出処理例を示すグラフである。同図では、空気流量(1/min)を縦軸に、空気圧(kPa)を横軸に示している。同図において、一点鎖線で示すグラフは、損傷が生じたろ過膜での空気圧−空気流量特性を示しており、損傷した部分を通って二次側領域から一次側領域に空気が漏出するため、加圧空気の空気圧に応じて、空気流量が流れる。また、実線で示すグラフは、損傷が生じていないろ過膜での空気圧−空気流量特性を示しており、二次側領域から一次側領域へ漏出する空気は、損傷が生じたろ過膜の特性と比べて極めて少量となる。このため、膜モジュール13に供給した加圧空気の空気圧と空気流量との関係から、膜モジュール13の二次側領域から一次側領域へ漏出した空気量の程度に基づき、膜モジュール13(ろ過膜)に損傷が生じているか否かを判定することができる。
【0042】
なお、本実施形態では、膜モジュール13の二次側領域から一次側領域へ漏出した空気量を、加圧空気の空気圧−空気流量特性から特定する構成としたが、これに限らず、膜モジュール13の一次側領域に漏出した気泡を検知する等の他の方法を用いて、漏出した空気量を特定する形態としてもよい。
【0043】
損傷検出工程において、膜モジュール13の損傷が検出されない場合には、損傷検出弁V8を閉とするとともに、空気圧縮機19を停止状態とし、膜モジュール13の一次側領域の水を、排水弁V3を介して外部に排出した後、上記膜ろ過工程に再び戻る。なお、損傷検出工程において、膜モジュール13の損傷が検出された場合には、当該膜モジュール13を新たな膜モジュール13へと交換し、上記膜ろ過工程に再び戻るものとする。
【0044】
膜ろ過装置100では、図2に示した膜ろ過工程、逆洗工程及び併用逆洗工程(損傷検出工程)が、所定の順序やタイミングで実施されるよう自動制御されている。例えば、膜ろ過工程22分→逆洗工程40秒を繰り返し実施し、1日に一回、逆洗工程の代わりに、併用逆洗工程の第1工程を2分実施した後、第2工程(損傷検出工程)を実施し、ろ過膜の損傷が検出されない場合、膜ろ過工程22分→逆洗工程40秒の繰り返しに戻るローテーションとしてもよい。また、併用逆洗工程(損傷検出工程)の実施頻度は、原水の水質や運転方法に応じて適宜設定可能であるとするが、例えば、浄水処理においては1日に1回程度の頻度で効果を発揮できる。
【0045】
以上のように、本実施形態によれば、上記した併用逆洗工程の実施により、ろ過膜の一次側に付着したファウリング原因物質の除去を、効率的に行うことができる。また、第1工程時に供給する温水流量を膜ろ過流量より小さくし、第2工程時は配管内に残留した温水を空気圧で押し出し洗浄効果を発揮することで、使用する温水量を低減できるため、温水化に係るエネルギー効率を向上させることができる。また、加圧空気による膜モジュール13の洗浄時(第2工程時)に、ろ過膜の損傷検出を合わせて実施することで、膜モジュール13の洗浄及び損傷検出を同時に行うことができるため、膜ろ過工程以外の時間を短縮でき、膜ろ過装置100の処理効率を向上させることができる。
【0046】
また、ろ過膜の洗浄に温水(処理水)を用いるため、薬液を用いて洗浄する場合と比較し、ランニングコストや設備費を低減することができる。また、ろ過膜の洗浄に温水(処理水)を用いるため、環境負荷を低減することができ、ろ過膜の劣化への影響も低減することができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、追加等を行うことができる。また、上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0048】
例えば、上記実施形態では、処理水を所定温度まで加熱した温水を用いて、ろ過膜の一次側表面に捕捉されたファウリング原因物質を剥離する形態としたが、これに限らず、加熱していない処理水を用いて上記併用逆洗工程を実施する形態としてもよい。この場合、図1に示した温水ユニット18において、温水洗浄ポンプ17からの処理水を膜モジュール13の二次側領域にそのまま供給することで、加熱していない処理水を用いて上記併用逆洗工程を実施することができる。また、他の構成例の膜ろ過装置100aとして、図10に示すように、図1に示した膜ろ過装置100の構成から、温水洗浄ポンプ17、温水ユニット18及び温水洗浄弁V5を取り除いた構成としてもよい。この構成例の膜ろ過装置100aにおいては、逆洗ポンプ16が供給する処理水を用いて上記第1工程を実施することで、続く第2工程では共用ラインL1に残留した処理水を膜モジュール13の二次側領域に圧送することができる。
【0049】
なお、併用逆洗工程で処理水を用いる場合、温水を用いた場合と比較し、ファウリング原因物質が剥離しにくいため、併用逆洗工程での第1工程の実施時間を温水使用時よりも長くすることが好ましい。また、この場合においても、膜モジュール13の二次側領域に供給する処理水の流量は、膜ろ過工程時に膜モジュール13が排出した処理水の流量(膜ろ過流量)よりも少ないものとするが、多くても洗浄の機能を阻害することはない。
【0050】
また、上記実施形態では、膜モジュール13のエアスクラビング及び共用ラインL1に残留した温水の圧送に係る加圧空気の供給を、同一の空気圧縮機19を用いて実現する形態としたが、これに限らず、用途毎に空気圧縮機19を設ける構成としてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、併用逆洗工程(第1工程)において、加圧空気の供給によりろ過膜を揺動するエアスクラビングを実施する構成としたが、これに限らず、エアスクラビングを行わない形態としてもよい。
【符号の説明】
【0052】
100、100a 膜ろ過装置
11 原水タンク
12 原水ポンプ
13 膜モジュール
14 処理水タンク
15 流量計
16 逆洗ポンプ
17 温水洗浄ポンプ
18 温水ユニット
19 空気圧縮機
20 気体圧力計
21 気体流量計
V1 ろ過入口弁
V2 ろ過出口弁
V3 排水弁
V4 逆洗弁
V5 温水洗浄弁
V6 減圧弁
V7 エアスクラビング弁
V8 損傷検出弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜ろ過装置であって、
内部を一次側領域と二次側領域とに区分するろ過膜を有し、前記一次側領域より供給された原水を前記ろ過膜により膜ろ過して前記二次側領域から処理水として排出する膜モジュールと、
前記膜モジュールから排出された処理水を貯水する処理水タンクと、
前記膜モジュールの二次側領域に配管で接続され、前記膜モジュールの洗浄時に、前記処理水タンクに貯水された処理水を、前記配管を介して前記膜モジュールの二次側領域へ供給する処理水供給手段と、
前記処理水の供給に用いられた配管内に加圧空気を供給する加圧空気供給手段と、
前記加圧空気供給手段により供給された加圧空気の、前記膜モジュールの二次側領域から一次側領域への漏出量に基づき、前記ろ過膜の損傷を検出する損傷検出手段と、
を備えたことを特徴とする膜ろ過装置。
【請求項2】
前記加圧空気供給手段は、前記処理水供給手段による処理水の供給停止後、当該処理水の供給に用いられた配管内に加圧空気を供給することを特徴とする請求項1に記載の膜ろ過装置。
【請求項3】
前記加圧空気供給手段は、前記加圧空気の供給により、前記配管内に残留した処理水を前記膜モジュールの二次側領域へ圧送することを特徴とする請求項1又は2に記載の膜ろ過装置。
【請求項4】
前記処理水を所定温度に加熱する加熱手段を更に備え、
前記処理水供給手段は、前記加熱手段により加熱された前記処理水を、前記膜モジュールの二次側領域へ供給することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の膜ろ過装置。
【請求項5】
前記処理水供給手段による処理水の供給時に、前記膜モジュールの一次側領域から加圧空気を供給し、前記ろ過膜を揺動する揺動手段を更に備えたことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の膜ろ過装置。
【請求項6】
前記加圧空気供給手段及び前記揺動手段は、同一の空気圧縮機から供給される加圧空気を用いることを特徴とする請求項5に記載の膜ろ過装置。
【請求項7】
前記加圧空気供給手段が供給した加圧空気の圧力を測定する圧力測定手段と、
前記加圧空気供給手段が供給した加圧空気の流量を測定する流量測定手段と、
を備え、
前記損傷検出手段は、前記圧力測定手段により測定された前記圧力及び前記流量測定手段により測定された前記流量に基づいて、前記ろ過膜の損傷を検出することを特徴とする請求項1に記載の膜ろ過装置。
【請求項8】
前記加圧空気供給手段は、前記膜ろ過時における膜差圧以上で、且つ前記ろ過膜の耐圧以下の圧力で、前記加圧空気を供給することを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の膜ろ過装置。
【請求項9】
前記処理水供給手段は、前記膜モジュールの二次側領域に供給する処理水の流量を、前記膜ろ過時に排出された処理水の流量未満とすることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の膜ろ過装置。
【請求項10】
内部を一次側領域と二次側領域とに区分するろ過膜を有し、前記一次側領域より供給された原水を前記ろ過膜により膜ろ過して前記二次側領域から処理水として排出する膜モジュールと、前記膜モジュールから排出された処理水を貯水する処理水タンクとを備えた膜ろ過装置の運転方法であって、
前記膜モジュールの洗浄時に、前記処理水タンクに貯水された処理水を、前記膜モジュールの二次側領域に接続された配管を介して当該二次側領域へ供給する処理水供給工程と、
前記処理水の供給に用いられた配管内に加圧空気を供給する加圧空気供給工程と、
前記加圧空気供給工程で供給された加圧空気の、前記膜モジュールの二次側領域から一次側領域への漏出量に基づき、前記ろ過膜の損傷を検出する損傷検出工程と、
を含む膜ろ過装置の運転方法。
【請求項11】
内部を一次側領域と二次側領域とに区分するろ過膜を有し、前記一次側領域より供給された原水を前記ろ過膜により膜ろ過して前記二次側領域から処理水として排出する膜モジュールの損傷検出装置であって、
前記膜モジュールの逆洗後に、この逆洗に用いられた配管内に加圧空気を供給し、当該配管内に残留した前記逆洗時の処理水を、前記膜モジュールの二次側領域へ圧送する加圧空気供給手段と、
前記加圧空気供給手段により供給された加圧空気の、前記膜モジュールの二次側領域から一次側領域への漏出量に基づき、前記ろ過膜の損傷を検出する損傷検出手段と、
を備えたことを特徴とする損傷検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−63367(P2013−63367A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202135(P2011−202135)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】