説明

膜ろ過運転制御システム

【課題】膜ろ過装置の運転において、原水供給量を監視する流量計が故障した場合にも、運転モードに対応に適応した流量を維持する膜ろ過運転制御システム。
【解決手段】 正常時の自動制御回路と異常時の固定運転回路からなり、自動制御回路によって、膜ろ過モジュールまたは複数の膜ろ過モジュールからなるユニットを複数並設した膜ろ過装置2に対して供給ポンプ21によって供給される原水aの供給量の制御方法として、正常な運転時には原水供給量の計測値が膜ろ過装置運転モード毎に定められる流量目標値SVを維持するよう、供給ポンプ21運転のための操作量MVを調節して一定の原水供給量に制御する。異常時に作動する固定運転回路によって、予め膜ろ過装置運転モード毎に定められる所定値の設定操作量MVによって供給ポンプ21を運転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜ろ過装置の運転制御方法およびそれに用いる制御装置などの膜ろ過運転制御システムに関する。特に、原水供給量の制御システムの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、原水をポンプにより複数の分離膜モジュールに送給し、膜分離して処理水を得る水処理装置において、膜間差圧が上限値に達したときに、原水流量を低い設定値に低下させる流量制御手段を設けて、薬剤洗浄のタイミングを逸しないようにする技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、原水をポンプにより複数の膜モジュールに送水、循環し、膜分離して処理水を得る水処理装置において、濁度測定手段により破損した膜モジュールを検出し、膜透過水が異常に濁らないようバルブ操作する操作方法が開示されている。
【特許文献1】特開平11−123380号公報:〔解決手段〕
【特許文献2】特開2003−334551号公報:〔解決手段〕
【0004】
このように、膜ろ過装置において何らかの異常が生じた場合の対策についていくつかの提案がなされている。ところで、上記のように原水をポンプで膜ろ過装置に供給してろ過処理する場合、その原水供給量は重要な要素であるので、原水供給量を常時、監視するために電磁式流量計などを流路に配設し、流量一定制御をするのが通常である。
【0005】
ところが、この種の流量計は、落雷などの電気的衝撃で故障する場合があり、また原水中の固形分が堆積して流量出力が得られなくなるなどの不具合があり、このような場合には流量一定制御ができないため、膜ろ過装置全体の運転の停止やポンプが過負荷にならないろ過効率を低くした状態での運転もやむを得なくなることがあった。特に、無人運転が行われている小規模のろ過処理施設では、運転再開までに長時間を要するという問題もあるにもかかわらず、このような流量計のトラブルへの適切な対応策は見当らなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、膜ろ過装置の運転において、原水供給量を監視する流量計が故障した場合にも、正常時と同じように運転モードに対応に適応した流量を維持することを可能とする膜ろ過運転制御方法および膜ろ過運転制御設備など制御システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(第1発明)上記の問題は、膜ろ過モジュールまたは複数の膜ろ過モジュールからなるユニットを複数並設した膜ろ過装置に対して供給ポンプによって供給される原水の供給量の制御方法において、原水供給量の計測値が膜ろ過装置運転モード毎に定められる流量目標値SVを維持するよう、供給ポンプ運転のための操作量MVを調節して原水供給量を制御するとともに、原水供給量の計測値が得られない異常時には、予め膜ろ過装置運転モード毎に定められる設定操作量MVによって供給ポンプを運転するようにしたことを特徴とする本発明の第1発明である膜ろ過装置運転制御方法によって、解決することができる。
また、この第1発明は、流量が一定に制御されているときの操作量MVに基づいて、前記膜ろ過装置運転モード毎に定められる設定操作量MVを更新する形態に好ましく具体化される。
【0008】
本発明の膜ろ過装置は、例えば、m1、m2、m3、m4のような複数の膜モジュール(図2A参照)を対象にして、あるいは複数の膜モジュールから構成されるユニットU1、U2、U3を複数、並列したもの(図2B参照)を対象として、原水aをポンプ11によって供給し、ろ過水bを得るろ過装置であり、原水供給量は供給流路に設けられた流量計12によって測定される。
【0009】
本発明では、膜ろ過装置運転モード(以下、単に運転モードともいう)とは、装置内のモジュール単位あるいはユニット単位について、原水供給と関連の深い運転状態、例えば、ろ過運転または停止、逆洗または停止などの運転状態を表すもので、後記の実施形態における事例では、ろ過運転全停止、ろ過運転台数、逆洗工程など(図1を参照)に区分している。
【0010】
なお、流量目標値SVとは、運転モード毎に最も好ましい値として設定される流量であり、単位時間当たりの流量絶対値(例えば、リットル/分)、またはフル運転時の最大流量絶対値を100としたパーセントで表示(図1の場合を参照のこと)される。
操作量MVとは、制御対象機器の運転を制御するための制御要素の操作量を意味し、例えば、電気機器の制御電圧、油圧機器の制御油圧、調節弁の開度、機器のON/OFF比率、インバータ機器の出力周波数などをいう。設定操作量MVとは、運転モード毎に最も好ましい値として設定される操作量であり、操作量絶対値または対象機器の定格値を100としたパーセントで表示(図1の場合を参照のこと)される。
【0011】
(第2発明)さらに、上記の問題は、請求項1に記載の膜ろ過装置運転制御方法を行うためにインバータ制御器により制御される原水供給ポンプと、原水供給量を計測する流量計を備えた膜ろ過装置における膜ろ過装置運転制御装置であって、前記膜ろ過装置から伝達される運転モード信号により、運転モード毎に定められる流量目標値SVと設定操作量MVとを設定、選択および出力できるSV/MV設定・選択・出力装置と、このSV/MV設定・選択・出力装置からの流量目標値SVの出力信号と流量計からの流量信号とを演算して前記インバータ制御器に制御信号を送出するPID調節装置を具備して、PID調節装置からの前記制御信号の回路には、流量制御モード切替器が介挿され、前記流量計からの流量信号が得られない異常時には、前記SV/MV設定・選択・出力装置から設定操作量MVの出力信号を前記インバータ制御器へ送出するよう切替え可能に設定されていることを特徴とする本発明の膜ろ過装置運転制御装置によっても解決できる。
【0012】
この第2発明は、前記SV/MV設定・選択・出力装置から設定操作量MVの出力信号を前記インバータ制御器へ送出する切替えを自動的に行うようにした形態に具体化される。さらに、PID調節装置からの制御信号を前記SV/MV設定・選択・出力装置に伝達する回路を設けるとともに、流量が一定に制御されている場合に、前記SV/MV設定・選択・出力装置の所定の設定操作量MVを再設定するため、当該回路に学習モードスイッチを介挿した形態に具体化される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の膜ろ過装置運転制御システムは、このように構成されているので、次の通り優れた効果がある。よって本発明は、従来の問題点を解消した制御システムとして、実用的価値はきわめて大なるものがある。
1)運転モードのそれぞれに適応した流量に自動制御された原水供給流量によってろ過運転を行なうことができるので、膜の圧損抵抗が変化しても適切な流量は維持でき、膜やポンプの過負荷などを防止できる。
【0014】
2)原水供給量を監視する流量計が故障した場合にも、運転モードに対応に適応した流量によって運転を継続できるから、故障回復までの間にろ過効率が過度に低下しない、あるいはポンプの過負荷が生じない利点が得られる。
3)学習モードスイッチを利用する場合には、設定操作量MVを更新できるので、流量計が故障した場合の運転をより適切なものにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の膜ろ過装置運転制御システムに係る実施形態について説明するが、本発明の運転制御装置を示すブロック図(図1)に基づいて、運転制御装置の構成と運転制御方法のプロセスを説明する。
【0016】
本発明の膜ろ過装置運転制御装置は、インバータ制御器21aにより制御される原水供給ポンプ21と、原水供給量を計測する流量計22を備えた膜ろ過装置2を対象とする。この膜ろ過装置2は、図2に例示した複数の膜モジュールからなる装置、あるいは複数の膜モジュールから構成されるユニットを複数、並列した装置を含む。
【0017】
そして、本発明の特徴は、この制御装置の中心的な機器として、SV/MV設定・選択・出力装置3が設けられている点にある。このSV/MV設定・選択・出力装置3は、運転モード部31、設定操作量MV部32、流量目標値SV部33の各セクションからなり、先ず、運転モード部31は、膜ろ過装置2の運転モードを必要に応じて準備し、特定の運転モードを選択したときに、設定操作量MV部32、流量目標値SV部33のそれぞれのデータを出力するよう構成されている。そして、膜ろ過装置2の現時点の運転モードは、付属する運転モード信号器23から伝達され、この運転モード部31に入力される。
【0018】
また、設定操作量MV部32および流量目標値SV部33は、前記運転モード毎に定められる流量目標値SVと設定操作量MVとの各値を設定しておくセクションであり、図1の事例では、流量目標値SVは、フル運転時の流量を100%として定めてあり、設定操作量MVは、原水供給ポンプ21の定格運転時のインバータ制御周波数を100%として定めてある。
そして、選択された各値は、制御信号として出力されるよう構成されており、また、この流量目標値SVと設定操作量MVは、運転モード毎に再設定して変更可能とされているのである。
【0019】
そして、本発明の制御装置の特徴は、このSV/MV設定・選択・出力装置3を中心にして、次の正常時の自動制御回路と異常時の固定運転回路からなる点にある。
(自動制御回路)
正常時の自動制御回路としては、前記SV/MV設定・選択・出力装置3の流量目標値SV部33から出力される、その運転時点の運転モードに最適値に設定された流量目標値SVの出力信号Sと、流量計22からの流量信号PがPID調節装置4に伝達される2回路と、このPID調節装置4において、流量信号Pが流量目標値SVに一致するように前記インバータ制御器21aを制御するために演算された制御信号M1を前記インバータ制御器21aに伝達する回路とから構成されている。
【0020】
すなわち、流量信号Pが流量目標値SV未満(または超過)であれば、供給ポンプ21の供給量を増加(または減少)させるよう作動するよう演算された制御信号M1を前記インバータ制御器21aに伝達するのである。なお、この場合、制御信号M1はインバータ制御器21aに対応した操作量MVとして伝達されるものとする。
【0021】
かくして、本発明の自動制御回路によれば、膜ろ過モジュールまたは複数の膜ろ過モジュールからなるユニットを複数並設した膜ろ過装置2に対して供給ポンプ21によって供給される原水aの供給量の制御方法として、原水供給量の計測値が膜ろ過装置運転モード毎に定められる流量目標値SVを維持するよう、供給ポンプ21運転のための操作量MVを調節して一定の原水供給量に制御するという本発明の運転制御方法を実施することができるのである。
なお、以上の説明では、流量の制御方法としてポンプのインバータ制御の場合を事例に説明したが、本発明の運転制御方法はこの事例に限定されるものではなく、調節弁によるものや、膜ろ過差圧一定制御による方法も含むのである。
【0022】
(固定運転回路)
この固定運転回路は、前記流量計22からの流量信号Pが得られない異常時に選択する運転回路であって、前記PID調節装置4からの制御信号M1を遮断して、前記SV/MV設定・選択・出力装置3の設定操作量MV部32から所定の設定操作量MVの出力信号M2を前記インバータ制御器21aへ伝達するよう切替え可能な流量制御モード切替器51が設けられている。
【0023】
かくして、流量計22から原水供給量の計測値が得られない異常時には、予め膜ろ過装置運転モード毎に定められる所定値の設定操作量MVによって供給ポンプ21を運転するという本発明の制御方法が実施される。この固定運転では、前記自動運転の場合にような精密な制御はできないものの、各運転モードに対応するよう設定した出力設定は可能なので、ある程度の期間は無人で定格運転ないしそれ以下の設備の状況に応じた負荷運転を行うことができ、故障回復までの間にろ過効率が過度に低下することもなく、ポンプが過負荷状態になることもない利点が得られる。
【0024】
さらに、本発明では、前記流量制御モード切替器51は、流量計22の異常を検知して固定運転側に自動的にオンオフ切り替え可能なものとするのが好ましい。このように、自動的に切り替えされるように構成しておけば、流量計が異常となった場合に無人運転でも運転を継続することができる。なお、流量計22の異常の検知方法としては、公知の機器の自己診断回路によるものの外に、自動制御回路による運転時のSV(流量目標値SVの出力信号S)とPV(流量信号P)との偏差が予め異常識別値として定めた設定値以上かどうかによって検知するようにしてもよい。
【0025】
(第2実施形態)
前記設定操作量MVは、運転開始時に、運転モード毎に最も好ましい値として、マニュアルで設定される経験的に知得された操作量であり、実際の場合との誤差、運転中の目詰まりなどによる設定値のずれなどはある程度避けられない面がある。このような不具合を解消するようにしたのが次の第2実施形態の回路である。
【0026】
この回路は、前記PID調節装置4の出力である制御信号M1を前記SV/MV設定・選択・出力装置3の設定操作量MV部32に伝達する回路を設けるとともに、前記の自動制御回路が作動して原水供給流量が一定に制御されている場合に、前記設定操作量MV部32の所定の設定操作量MVを再設定するため、制御信号M1を伝達する学習モードスイッチ53を介挿した、設定操作量MVの更新回路である。
【0027】
かくして、ある運転モード時の流量が一定に制御されているような安定した状況において、前記学習モードスイッチ53をオンにして、そのときのインバータ制御器21aへの制御信号M1に基づいて、前記設定操作量MV部32の同一運転モードの設定操作量MVを再設定できるようにしたので、試運転での設定忘れや当初の設定操作量MV値が最適でなくなった場合に、それほど装置に習熟していない担当者でも容易に適切な値に更新することができる利点が得られる。
【0028】
さらに、本発明では、インバータ制御器21aの直前の制御回路、図1では、流量制御モード切替器51とインバータ制御器21aとの間の制御回路に、PID調節装置から伝達される制御信号M1を遮断して、一定の操作量MVの信号を出力するMV設定器6からの信号M3を伝達するよう切替え可能な自動・手動モード切替え器52を設けた回路を付加して、運転モードに無関係に一定値の信号M3をインバータ制御器21aに伝達するように構成しておけば、インバータ制御器21aに機能チェックおよびその調整に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の膜ろ過装置運転制御装置および同じく方法を説明するための装置の要部ブロック図。
【図2】膜ろ過装置の概要を示すフロー図(A)(B)。
【符号の説明】
【0030】
2:膜ろ過装置、21:原水供給ポンプ、21a:インバータ制御器、22:流量計、23:運転モード信号器
3:SV/MV設定・選択・出力装置、31:運転モード部、32:設定操作量MV部、33:流量目標値SV部
4:PID調節装置
51:流量制御モード切替器、52:自動・手動モード切替え器、53:学習モードスイッチ
6:MV設定器、
a:原水、b:ろ過水
S:流量目標値SVの出力信号
M1:PID調節装置からの制御信号
M2:設定操作量MV部からの出力信号
M3:MV設定器からの信号
P:流量信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜ろ過モジュールまたは複数の膜ろ過モジュールからなるユニットを複数並設した膜ろ過装置に対して供給ポンプによって供給される原水の供給量の制御方法において、原水供給量の計測値が膜ろ過装置運転モード毎に定められる流量目標値SVを維持するよう、供給ポンプ運転のための操作量MVを調節して原水供給量を制御するとともに、原水供給量の計測値が得られない異常時には、予め膜ろ過装置運転モード毎に定められる設定操作量MVによって供給ポンプを運転するようにしたことを特徴とする膜ろ過装置運転制御方法。
【請求項2】
流量が一定に制御されているときの操作量MVに基づいて、前記膜ろ過装置運転モード毎に定められる設定操作量MVを更新する請求項1に記載の膜ろ過装置運転制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の膜ろ過装置運転制御方法を行うためにインバータ制御器により制御される原水供給ポンプと、原水供給量を計測する流量計を備えた膜ろ過装置における膜ろ過装置運転制御装置であって、前記膜ろ過装置から伝達される運転モード信号により、運転モード毎に定められる流量目標値SVと設定操作量MVとを設定、選択および出力できるSV/MV設定・選択・出力装置と、このSV/MV設定・選択・出力装置からの流量目標値SVの出力信号と流量計からの流量信号とを演算して前記インバータ制御器に制御信号を送出するPID調節装置を具備して、PID調節装置からの前記制御信号の回路には、流量制御モード切替器が介挿され、前記流量計からの流量信号が得られない異常時には、前記SV/MV設定・選択・出力装置から設定操作量MVの出力信号を前記インバータ制御器へ送出するよう切替え可能に設定されていることを特徴とする膜ろ過装置運転制御装置。
【請求項4】
前記SV/MV設定・選択・出力装置から設定操作量MVの出力信号を前記インバータ制御器へ送出する切替えを自動的に行うようにした請求項3に記載の膜ろ過装置運転制御装置。
【請求項5】
PID調節装置からの制御信号を前記SV/MV設定・選択・出力装置に伝達する回路を設けるとともに、流量が一定に制御されている場合に、前記SV/MV設定・選択・出力装置の所定の設定操作量MVを再設定するため、当該回路に学習モードスイッチを介挿した請求項3または4に記載の膜ろ過装置運転制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−136807(P2006−136807A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−328413(P2004−328413)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】