説明

膜を用いて海水中の塩分を脱塩もしくは濃縮する装置に供給する前処理装置

【課題】薬品を用いることがなく、ランニングコストを含む造水コストを低減できるろ過装置の前処理装置。
【解決手段】海水中の塩分を膜ろ過により除去し、又は濃縮させる装置16に供給する海水の前処理を行う装置10であって、粒子状ろ材で構成され、海水を通水することで海水中の微粒子を除去するとともに、BOD成分を除去する生物膜17を備えることを特徴とする海水の前処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水中の塩分を膜ろ過により除去し、又は濃縮させる装置における前処理装置及び前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な水不足から海水を淡水化する市場が急拡大しており、海水淡水化システムの建設が進められている。海水淡水化システムにおいては、膜を用いて海水中の塩分を除去して淡水を生成するろ過装置が使用されており、このろ過技術は、大規模海水淡水化において主要技術となっている。海水淡水化に用いるろ過装置としては、逆浸透膜、NF膜、電気透析膜等が知られている。
ここで、このようなろ過装置を使用する淡水化処理においては、前処理として懸濁物の除去や微生物の除去などの前処理が行われる。この前処理が不完全であると、ろ過装置の透水性能が低下する現象、所謂ファウリング現象が問題となる。
【0003】
次に、主なファウリング現象について説明する。
ファウリング現象の一つ目は、海水中の微粒子やコロイドが、膜面や海水流路へ付着する現象である。海水中の微粒子やコロイドが膜面に沈着付着すると、水の透過や排除した塩の拡散の障害となり、膜性能が低下する。
【0004】
海水中の微粒子やコロイドを除去するための具体的な処理法としては、凝集剤を利用するろ材ろ過や、MF,UF等の膜ろ過や、これらの方法に、DAF(Dissolved Air Floatation、溶解空気浮遊法)等の補助手段をつけたものがあり、現在、汚染の激しい水では、DAF+膜ろ過が主流となっている。
【0005】
ファウリング現象の二つ目は、海水中の微生物(藻類や貝類を含む)の繁殖や付着、いわゆる、バイオファウリングである。
バイオファウリング対策としては、塩素(Cl)または類似の化合物の添加による殺菌が主流である。ただし、ほとんどの膜が塩素により化学変化を起こすので、膜処理の前に還元剤を入れて分解する必要がある。しかし、分解不完全で膜が損傷することがある。また、海水中の有機物と反応して、トリハロメタンやブロム酸化合物等の発がん性物質を生成することがある。
【0006】
ファウリング現象の三つ目は、海水中に含まれる塩類の濃縮に伴う析出(スケーリング発生)によるものである。
この現象は、海水中の無機イオン、特にカルシュームイオンの濃度に依存するため、pH調節のための酸や、スケーリング防止剤(スケーリングの抑制)の注入が必要となる。
【0007】
ろ過装置の前処理装置及び前処理方法として、海水中の懸濁物除去用の砂ろ過器と、砂ろ過器を通過した海水中の微生物を殺菌するための紫外線殺菌装置とを具備するものがある(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載された海水淡水化装置は、海水中の有機物の低減用の生物活性炭塔と、この塔を通過した海水中の微生物を殺菌するための紫外線殺菌装置とを具備している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−25018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1は、砂ろ過器を使用して懸濁物質と有機物とを除去し、バイオファウリングを防止することを目的としており、紫外線及び活性炭塔を使用して有機物を除去する。このため、特許文献1は、設備が複雑になって経済的に不利である。また、特許文献1において、バイオファウリングの原因は、微生物を栄養源とするBOD成分の除去が必要であるが、活性炭は低分子量の有機物の除去性能が低い。
従って、特許文献1は、経済的に不利であるとともに、低分子量の有機物を除去し難い。
このように、近年の技術では、イオン交換膜の前処理として無薬注による不完全な生物膜ろ過が行われており、膜の汚染やそれによる膜の損傷を防止できていない。
【0010】
ところで、特許文献1と同様に、砂ろ過器を使用したろ過装置の前処理装置及び前処理方法が提案されている。
図2に示すように、このようなろ過装置の前処理方法を実行する前処理装置100は、取水した海水に、滅菌剤として塩素(Cl)を添加するとともに、塩化第二鉄(FeCl)の凝集剤を添加した後、pH調整用の硫酸(HSO)を添加する。
次に、膜処理用給水の前処理方法を実行する前処理装置100は、砂ろ過器101により汚濁物質を除去する。ここで、濁質の捕捉に伴って活性炭塔の差圧が上昇してくるので、逆洗ポンプ102を駆動して逆洗を随時行う。
【0011】
続いて、ろ過装置の前処理方法を実行する前処理装置100は、膜の酸化劣化の防止のために重亜硫酸ソーダ(SBS)の還元剤を添加し、高圧ポンプ103により海水淡水化逆浸透膜(SWRO)104においてろ過する。
そして、ろ過装置の前処理方法を実行する前処理装置100は、真水と濃縮海水とに分離することにより真水を得る。
しかし、このような従来のろ過装置の前処理方法を実行する前処理装置100は、凝集剤等の薬品を添加しているために、処理全体としてのランニングコストが増大する。
【0012】
本発明は、前述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、薬品を用いることがないので、ランニングコストを含む造水コストを低減できるろ過装置の前処理装置及び前処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明のろ過装置の前処理装置は、海水中の塩分を膜ろ過により除去し、又は濃縮させるに当たって、海水の前処理を行う装置の前処理装置であって、粒子状ろ材で構成され、海水を通水することで海水中の微粒子を除去するろ過器本体と、前記ろ過器本体のろ材の表面上に形成され、BOD成分を除去する生物膜とを備えることを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、薬品を用いることがないので、ランニングコストを含む造水コストを低減できるという効果を奏する。
【0015】
上記前処理装置において、停止中に、通水により酸素を供給する酸素供給手段を備えることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、長期間停止後の海水の嫌気性を抑制でき、再起動時に水質が悪化することを防止することができる。
【0017】
本発明の前処理方法は、海水中の塩分を膜ろ過により除去し、又は濃縮させるに当たって、海水の前処理を行う装置の前処理方法であって、粒子状ろ材で構成されたろ過器本体の前記ろ材の表面に生物膜を形成する工程と、前記ろ過器本体に海水を通水することで海水中の微粒子を除去するとともに、前記生物膜によりBOD成分を除去する工程とを有することを特徴とする。
【0018】
上記前処理方法において、停止中に、通水により酸素を供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るろ過装置の前処理装置及び前処理方法によれば、薬品を用いることがないので、ランニングコストを含む造水コストを低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る一実施形態のろ過装置の前処理装置及び前処理方法のフロー図である。
【図2】従来のろ過装置の前処理装置及び前処理方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る一実施形態のろ過装置の前処理装置及び前処理方法について図面を参照して説明する。
図1に示すように、本発明に係る一実施形態のろ過装置の前処理方法を実行する前処理装置10は、一次砂ろ過器11と、第一逆洗ポンプ12と、二次砂ろ過器13と、第二逆洗ポンプ14と、高圧ポンプ15と、電気透析膜16と、から主として構成される。
【0022】
一次砂ろ過器11は、生物膜17が砂表面に形成されたろ過器であり、不図示の取水ポンプにより取水した海水が送給される。
二次砂ろ過器13は、一次砂ろ過器11と同様に、生物膜17が砂表面に形成されたろ過器であり、一次砂ろ過器11の下流側に配置されることにより、一次ろ過器11がろ過したろ過水を再ろ過する。
【0023】
また、前処理装置10は、一次砂ろ過器11の上流に酸素を供給する酸素供給装置18を備えている。酸素供給装置18は、一次砂ろ過器11及び二次砂ろ過器13に酸素を供給する装置であり、前処理装置10の停止中においても砂ろ過器に酸素を供給することができる。
これにより、一次砂ろ過器11及び二次砂ろ過器13は、好気性微生物が増殖してろ材表面の生物膜17が成長し、この生物膜17によって海水中の有機物質を分解除去し、同時に懸濁物質もろ過機能によって除去できる。
生物膜17が砂表面において成長する一次砂ろ過器11及び二次砂ろ過器13は、海水中の有害成分であるSDI(Silt Density Index、汚れ指数)成分(微粒子やコロイド粒子)とバイオファウリングの原因となるBOD成分を、砂表面に生存する生物膜17で適切に除去することができる。
【0024】
除去に必要な砂表面上の生物膜17の生成と保存法としては、以下の手段をとる。
手段の一つ目は、生物膜17が不足した場合に、その原因を調査し、不足する栄養剤、リン、窒素などを一次砂ろ過器11および二次砂ろ過器13の入口に注入して生物膜を補給することである。
手段の二つ目は、第一逆洗ポンプ12及び第二逆洗ポンプ14による逆流洗浄(逆洗)に伴い生物膜17の剥離を管理することにより、膜量を適切に維持することである。
手段の三つ目は、生物膜17が過剰になった場合、逆流洗浄を利用して削除することである。
手段の四つ目は、生物膜17の量や状態を監視するための手段を設けることである。
監視する手段としては、SDIの測定、逆洗排水の濁度測定、装置入口出口の酸素消費量(BOD)の連続測定である。
【0025】
電気透析膜(ED)16は、高圧ポンプ15により圧送されてきたろ過水の脱塩処理を行う。
このとき、電気透析膜16は、陽イオンのみを透過できる陽イオン交換膜と陰イオンのみを透過できる陰イオン交換膜を交互に配列している。
電気透析膜16は、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜の両端より直流電流を流すことにより、水中に溶存しているイオンが移動し、脱塩及び濃縮を行ない、ミネラル脱塩水及びED濃縮水を生成する。
電気透析膜16により得られたミネラル脱塩水は、かん水タンクに貯蔵され、ED濃縮水は、他の工程に送られる。
【0026】
次に、ろ過装置の前処理方法について説明する。
取水ポンプにより取水した海水が一次砂ろ過器11に送給され、一次砂ろ過器11により汚濁物質を除去する。一次砂ろ過器11を通過した海水は、一次ろ過水となって二次砂ろ過器13に送給する。
このとき、一次砂ろ過器11の砂表面において成長する生物膜17により、海水中の有害成分であるSDI成分(微粒子やコロイド粒子)とバイオファウリングの原因となるBOD成分を適切に除去する。
そして、濁質の捕捉に伴って活性炭塔の差圧が上昇してくるので、第一逆洗ポンプ12を駆動して逆洗を随時行う。
【0027】
二次砂ろ過器13に送給された一次ろ過水は、二次砂ろ過器13により汚濁物質を除去する。
このとき、二次砂ろ過器13の砂表面において成長する生物膜17により、一次ろ過水中の有害成分であるSDI成分(微粒子やコロイド粒子)とバイオファウリングの原因となるBOD成分を適切に除去する。
そして、濁質の捕捉に伴って活性炭塔の差圧が上昇してくるので、第二逆洗ポンプ14を駆動して逆洗を随時行う。
二次砂ろ過器13を通過した海水は、二次ろ過水となって高圧ポンプ15に送給する。
高圧ポンプ15は、二次ろ過水を電気透析膜16に送給する。
電気透析膜16は、高圧ポンプ15により圧送されてきた二次ろ過水の脱塩処理を行い、真水と濃縮海水とに分離することにより真水を得る。
一次砂ろ過器11及び二次砂ろ過器13には、酸素供給装置18により、停止中においても酸素を供給される。これにより、前処理装置10の停止中においても海水は嫌気性となることがない。
【0028】
以上、説明したように、一実施形態のろ過装置の前処理方法によれば、一次砂ろ過器11及び二次砂ろ過器13のろ材表面上に成長する生物膜17の除去性能を利用して、海水中の微粒子や溶存するBOD成分を除去する際に薬品を用いない。
従って、ろ過装置の前処理方法によれば、ランニングコストを含む造水コストを低減できる。
【0029】
また、ろ過装置の前処理方法によれば、一次砂ろ過器11及び二次砂ろ過器13の停止中に、通水により酸素を供給するために、海水の嫌気性を抑制でき、長期間停止後の再起動時に水質が悪化することを防止することができる。
【0030】
そして、一実施形態のろ過装置の前処理装置10によれば、海水中の塩分を脱塩または濃縮する際に、一次砂ろ過器11及び二次砂ろ過器13のろ材表面上に成長する生物膜17の除去性能を利用して、海水中の微粒子や溶存するBOD成分を除去する。
従って、ろ過装置の前処理装置10によれば、海水中の微粒子や溶存するBOD成分を除去する際に薬品を用いないので、ランニングコストを含む造水コストを低減できる。
【0031】
さらに、ろ過装置の前処理装置10によれば、一次砂ろ過器11及び二次砂ろ過器13の停止中に、通水により酸素を供給するために、海水の嫌気性を抑制できる。
【0032】
なお、本発明のろ過装置の前処理装置及び前処理方法は、前述した一実施形態に限定するものでなく、適宜な変形や改良等が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上述べたように、本発明のろ過装置の前処理装置及び前処理方法によれば、薬品を用いることがないので、ランニングコストを含む造水コストを低減できる。
以上の結果として、世界的な水不足に対して有効な手段を提供でき、本発明の産業上の利用可能性は大といえる。
【符号の説明】
【0034】
10 ろ過装置の前処理装置
11 一次砂ろ過器(ろ過器本体)
13 二次砂ろ過器(ろ過器本体)
16 電気透析膜(ろ過装置)
18 酸素供給装置
17 生物膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水中の塩分を膜ろ過により除去し、又は濃縮させる装置に供給する海水の前処理を行う装置であって、
粒子状ろ材で構成され、海水を通水することで海水中の微粒子を除去するとともに、BOD成分を除去する生物膜を備えることを特徴とする海水の前処理装置。
【請求項2】
海水中の塩分を膜ろ過により除去し、又は濃縮させるろ過装置でろ過するに当たって、海水の前処理を行う方法であって、
粒子状ろ材で構成されたろ過器本体の前記ろ材の表面に生物膜を形成する工程と、
前記ろ過器本体に海水を通水することで海水中の微粒子を除去するとともに、前記生物膜によりBOD成分を除去することを特徴とする海水の前処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−111559(P2013−111559A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262507(P2011−262507)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本海水学会誌第65巻3号 日本海水学会60周年記念2011年度第62年講演要旨集
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(592148971)ナイカイ塩業株式会社 (1)
【出願人】(501272373)有限会社アクアシステムズ (2)
【Fターム(参考)】