説明

膜乳化法により形成される単分散エマルションおよびその製造方法並びにその方法を用いたポリマー微粒子およびコンポジット粒子の製造方法

【課題】サブミクロンからナノメーターサイズのサイズ均一性に優れた液滴が分散したエマルションの製造方法を提供する。
【解決手段】液滴の形成には多孔質膜を介して、分散相を連続相中に押し出すことによりサイズがそろった液滴が形成可能な方法である膜乳化法を用いる。この際、膜乳化法の乳化膜として細孔径がサブミクロンからナノメーターの範囲で制御可能な多孔質体を適用することで微細な液滴が作製される。乳化膜を介して押し出す溶液にモノマーを適用し液滴を形成した後、得られた液滴を重合固化することでサイズがそろった微細なポリマー粒子を得ることも可能である。さらには、モノマー溶液中に予めナノ粒子を顕濁させておけば、微細な金属や金属酸化物などが分散した単分散コンポジット粒子を作製することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜乳化法により微細な液滴が均一に分散した単分散エマルションを製造する方法およびその方法により製造される単分散エマルション、並びにその方法を用いたポリマー微粒子およびさらに微細な粒子を含むコンポジット粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメータースケールで液滴のサイズ(直径)が制御された単分散エマルションを効率的に作製する技術は、医薬品、化粧品、食品等様々な分野において重要な課題とされている。とりわけ、平均直径が100nm以下の均一なサイズのエマルション作製技術の確立は、医薬、化粧品をはじめとするバイオ医療分野において焦眉の課題とされている。単分散エマルションの応用分野の一つとして現在大きな期待が寄せられている制癌剤の癌組織へのドラッグデリバリーシステム(DDS)を例にとれば、薬剤の運搬を担うドラッグキャリヤのサイズを100nm以下とすることにより、薬剤の癌組織への選択的な集積が可能となり、効果的な薬物療法が実現できるものと期待されている。
【0003】
通常、エマルションの作製には、攪拌や高圧ホモジナイザーなど機械的な液滴せん断力を利用した乳化方法が用いられるが、これらの手法では単分散性に優れた液滴形成を行うことは困難である。従来の乳化技術では形成困難な単分散エマルションを得るための手段として、近年、膜乳化法が提案されている(例えば、非特許文献1)。この手法によれば、細孔径の均一な多孔質構造材料を介して、分散相を連続相中に押し出すことで、サイズの揃った液滴を作製することが可能となる。加えて、多孔質膜の細孔径を変化させることで液滴サイズの制御も可能であることが示されている。しかしながら、ナノメーターサイズの均一な細孔を有する乳化膜の入手が困難なことから、特に粒径(直径)100nm以下の単分散エマルションの作製は未だ実現されていない。
【0004】
Alを酸性浴中で陽極酸化することにより形成されるナノホールアレー構造材料である陽極酸化ポーラスアルミナは、細孔サイズ(細孔径)を5nm〜500nmの範囲で制御することが可能であり、また、機械強度に優れた高アスペクト比のホールアレー構造の形成が可能であることから、ナノメータースケールでサイズが制御された単分散エマルションの作製を実現するための膜乳化法の乳化膜として有望な材料であるといえる。これまでに、高規則性ポーラスアルミナを、膜乳化法の乳化膜として適用することにより、3μmから1μm程度の単分散エマルションが作製可能であることが報告されている(例えば、非特許文献2)。しかしながら、サブミクロン以下のサイズの液滴形成に関しては未だ報告がない。
【非特許文献1】T. Nakashima, M. Shimizu, and M. Kukizaki, Key Eng. Matter. 1991, 61, 513.
【非特許文献2】柳下ほか、第58回コロイドおよび界面化学討論会講演要旨集、2B06(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、既存の乳化技術では単分散エマルションの作製を行うことは困難である。また、膜乳化法を用いれば、単分散エマルションの形成は可能であるが、ナノメーターサイズの均一なサイズの細孔を有する乳化膜の入手が困難であることから、サブミクロンスケール、特に100nm以下のサイズを有する単分散エマルションの形成を行うことは困難である。また、高規則性ポーラスアルミナを膜乳化法の乳化膜として適用する場合には、1μm以下の単分散エマルションの作製については未だ報告がない。
【0006】
そこで本発明の課題は、上記のような現状に鑑み、液滴のサイズが1μm以下でサイズにばらつきの少ない均一な単分散エマルションを製造する方法、とくにサブミクロンから数十ナノメータースケールの均一なサイズの細孔を有するポールラスアルミナを用いて、連続相中に微細な液滴が分散した単分散エマルションを効率よく形成する方法、およびその方法により製造される単分散エマルションを提供することにある。
【0007】
加えて、ポーラスアルミナの構造を制御することにより、隣接する細孔から形成された液滴同士の合一を抑制し、安定な膜乳化を実現するための手法を提供する。
【0008】
さらには、分散相としてモノマーまたは、モノマーを含む溶液を用いることにより、単分散なポリマー微粒子の形成を行うための方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る単分散エマルションの製造方法は、膜乳化法によって平均直径が10nmから1μmの液滴を形成し(特に、後述の如く、陽極酸化ポーラスアルミナを用いた膜乳化法によりサイズが10nmから1μmの液滴を形成し)、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を30%以下とすることを特徴とする方法からなる。
【0010】
すなわち、本発明では、陽極酸化ポーラスアルミナ膜などの微細で均一なサイズの細孔を有する乳化膜を介して、分散相を界面活性剤を溶解した連続相中に押し出すことにより、単分散エマルションの作製を行うことができる。
【0011】
この本発明に係る単分散エマルションの製造方法においては、さらに、膜乳化法によって平均直径が10nmから1μmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を20%以下とすることが好ましく、さらには、膜乳化法によって平均直径が10nmから1μmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を10%以下とすることが好ましい。また、膜乳化法によって平均直径が10nmから500nmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を30%以下とすることが好ましく、さらに、膜乳化法によって平均直径が10nmから500nmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を20%以下とすることが好ましく、さらには、膜乳化法によって平均直径が10nmから500nmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を10%以下とすることが好ましい。さらにまた、膜乳化法によって平均直径が10nmから100nmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を30%以下とすることが好ましく、さらに、膜乳化法によって平均直径が10nmから100nmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を20%以下とすることが好ましく、さらには、膜乳化法によって平均直径が10nmから100nmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を10%以下とすることが好ましい。
【0012】
また、本発明では、とくに、乳化膜を介して油を水相中に押し出すことにより、直径の揃った油滴が水相中に分散したO/Wエマルション(Oil/Waterエマルション)を作製することができる。サイズ均一性に優れた液滴の作製を行うためには、乳化膜を介して押し出す油相の粘度を1〜100mPa・sの範囲に調節することが望ましい。さらには、界面活性剤を溶解するなどして、水相と油相の界面エネルギー(分散相と連続相の界面張力の値)を0.1〜1.5 mN/mの範囲に調節することが望ましい。
【0013】
本発明では、前述のような液滴を形成するために、細孔径が10nmから1μmである多孔質体を膜乳化法の乳化膜として用いることができる。乳化膜は細孔サイズの均一性は高い方がサイズがそろった液滴を形成するために望ましく、そのためには、特に、陽極酸化ポーラスアルミナを乳化膜として用いることが望ましい。乳化膜として用いるポーラスアルミナの細孔サイズの均一性は高い方がサイズがそろった液滴を形成するために望ましく、細孔径のばらつきを示す相対標準偏差の値は、例えば20%以下、さらには10%以下であることが好ましい。細孔サイズ均一性に優れたポーラスアルミナを乳化膜として用いれば、その細孔径を変化させることで、直径が1μm以下の微細な液滴の作製を行うことが可能であり、得られた液滴サイズのばらつきを示す相対標準偏差の値は30%以下、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下に抑えることができる。
【0014】
また、膜乳化法では、隣接する細孔から形成された液滴同士が合一すると、得られる液滴のサイズ均一性が低下することから、乳化膜として用いるポーラスアルミナは、最表面で細孔が締める面積(開口率)を5〜60%の範囲に制御することが望ましい。開口率が60%を越えるポーラスアルミナを用いて膜乳化を行うと、サイズが不均一な液滴が形成されることになる。また、より微細な液滴を作製するためには、より微細な細孔径を有するポーラスアルミナを用いる必要がある。一般に、より微細な細孔を有するポーラスアルミナを得るためには、より低電圧で陽極酸化を行うことでポーラスアルミナを得ることができる。しかしながら、低電圧で陽極酸化を行うと、細孔径の微細化とともに、細孔周期も微細化されるため、結果として細孔間隔が狭くなる。細孔間隔が狭いポーラスアルミナを用いた場合、隣接する細孔から形成された液滴同士の合一が問題となることから、微細な液滴の作製においては、ポーラスアルミナを作成する際の陽極酸化電圧を途中で変化させることで得られる、貫通孔密度(貫通孔の間隔)を制御したポーラスアルミナや、ポーラスアルミナの細孔内壁に物質のコーティングを行うことで(例えば、細孔内壁に物質を析出させることで)、細孔間隔は一定のまま細孔サイズのみを微細化したポーラスアルミナを乳化膜として用いる手法が有効である。
【0015】
本発明に係る単分散エマルションは、上記のような特定の膜乳化法によって製造されたものである。
【0016】
また、本発明では、例えばポーラスアルミナからなる乳化膜を介して押し出す油相として、モノマーやモノマーを含む溶液を用いて液滴を形成したのち、得られた液滴を後処理により固化(例えば、重合固化)することで、サイズがそろったポリマー微粒子を形成することも可能である。このとき用いるモノマーに、光硬化性のモノマーを用いれば、光を照射することで液滴を重合固化することが可能となるため、熱重合など他の重合法に比べ、液滴のサイズ均一性を保ったまま所望のポリマー微粒子を得やすくなる。
【0017】
さらに、本発明では、用いるモノマーやモノマーを含む溶液中に、金属や金属酸化物のナノ粒子を混合しておき、つまり、例えば、この油相中に陽極酸化ポーラスアルミナの細孔径より小さい粒子を分散させておき、この粒子分散液を用いて形成された液滴を重合固化することにより、モノマーまたはモノマーを含む油相とポーラスアルミナの細孔径より小さい粒子とのコンポジット粒子を製造することが可能になり、様々な物質を複合したコンポジット微粒子を得ることが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明によれば、膜乳化法により、液滴の平均直径が1μm以下で均一に分散した単分散エマルションを効率よく確実に得ることができるようになる。また、この単分散エマルション形成方法により、サイズがそろったポリマー微粒子、さらには微粒子中にさらに微細なナノ粒子を含むコンポジット粒子を製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明に係る単分散エマルションの作製形態ついて、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明において、陽極酸化ポーラスアルミナ1を用いた単分散エマルションの製造方法を示したものである。ポーラスアルミナ1を乳化膜として、分散相としての油相2をポーラスアルミナ1の細孔3を通して連続相としての水相4中に押し出すことにより、サイズの揃った液滴5(油滴)が連続相中に分散したエマルション6(O/Wエマルション)を得ることが可能である。
【0020】
図2には、ポーラスアルミナからなる乳化膜11を用いた膜乳化によるポリマー微粒子の形成工程を示す。膜乳化ステップで、乳化に用いる油相からなる分散相12に、モノマーもしくは、モノマーを含む溶液を用い、それを乳化膜11の細孔13を通して連続相14中に押し出すことで液滴15の形成を行い、その後重合固化ステップで、得られた液滴15を重合固化することで、サイズの揃ったポリマー微粒子16を作成することが可能である。光硬化性のモノマーを使用する場合には、紫外線17を照射することにより重合固化可能である。
【0021】
図3には、ポーラスアルミナ21を用いた膜乳化プロセスによるコンポジット粒子22の形成工程を示す。ポーラスアルミナ21を用いた膜乳化において、分散相23として、金属や金属酸化物のナノ粒子24が分散したモノマー溶液を用い、乳化膜21の細孔25を通して連続相26中に押し出すことで液滴27の形成を行い、液滴形成を行った後に、得られた液滴27を重合固化することで、サイズが揃ったコンポジット粒子22(つまり、モノマーから重合されたポリマー中にナノ粒子24を含むコンポジット粒子)を簡便に作製することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により更に本発明を詳細に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されるものではない。
【0023】
実施例1〔単分散O/Wエマルションの形成〕
純度99.99%のアルミニウム板表面に、500 nm周期で突起が規則的に配列した構造を持つSiC製モールドを押し付け、表面に微細な凹凸パターンを形成した。テクスチャリング処理を施したアルミニウム板を、0.1 Mの濃度に調整したリン酸水溶液中で、浴温0℃において直流200Vの条件下で90分間陽極酸化を行った。その後、地金部分をヨウ素飽和メタノール溶液中で溶解除去し、陽極酸化ポーラスアルミナの細孔底部をアルゴンイオンミリング装置を用いて除去することによりスルーホールメンブレンを得た。得られたスルーホールメンブレンを、10wt%リン酸水溶液中に0、45、90分間それぞれ浸漬し、孔径拡大処理を施し、細孔径を130nm、220nm、320nmに調節した。作製したポーラスアルミナスルーホールメンブレンをシリンジの先端にエポキシ樹脂を用いて貼り付け膜乳化用の乳化膜とした。
【0024】
トリオレインを乳化膜を介して、水溶液中に押し出した(0.3wt%ドデシル硫酸ナトリウム含有)。押し出し圧力は、5kPaとし、20分間乳化を行い、得られたエマルション溶液を、動的光散乱型粒度分布測定装置(DLS)を用いて液滴サイズの評価を行った。図4に、細孔径の異なる3種類のポーラスアルミナを用いた膜乳化で形成されたトリオレインの液滴サイズ分布を示す。ポーラスアルミナの細孔径が微細化するのにしたがい、得られる液滴サイズ(液滴の平均直径)が微細化している様子が観察された。ポーラスアルミナの細孔径と、得られる液滴の平均粒子径(平均直径)をプロットした結果、ポーラスアルミナの細孔径を微細化させることにより、得られる液滴サイズも微細化していることがわかり、両者の間には直線的な相関があることがわかった。
【0025】
実施例2〔単分散O/Wエマルションの形成と液滴の重合による単分散ポリマー微粒子の作製〕
実施例1と同様の方法で作製した乳化膜に、光硬化性樹脂とオレイン酸を1:1の割合で混合した溶液を分散相として、連続相に0.3wt%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液を用いて膜乳化を行った。油相を水相中に押し出す際には、窒素ガスを用いて油を10kPaの圧力で加圧した。得られた液滴に、紫外光を照射し重合固化することでポリマー粒子を得た。図5に示した粒度分布は、得られた液滴を動的光散乱型の粒度分布測定装置(DLS)で液滴サイズを評価した結果と、液滴に紫外光を照射することで重合固化した後のポリマー粒子のサイズ分布を電子顕微鏡観察(SEM像)から見積もった結果を比較したものである。液滴、ポリマー粒子のともに、分布幅が狭くサイズ均一性にすぐれていることがわかる。また、両者の平均サイズは、ほぼ同程度であり、本手法では、液滴サイズと対応したポリマー粒子が形成できることがわかった。図6は、本実施例で得られたポリマー粒子31の電子顕微鏡観察結果を示している。サイズのそろった球形のポリマー粒子が形成されている様子が観察できる。
【0026】
実施例3〔サイズが制御された単分散ポリマー微粒子の作製〕
実施例2に示した方法でポリマー粒子の作製を行う際に、乳化膜として用いるポーラスアルミナ膜の孔径拡大処理時間を変化させることにより、細孔径を130nm、220nm、320nmに制御したポーラスアルミナ膜を用いた。図7は、得られたポリマー粒子の電子顕微鏡観察から、ポリマー粒子のサイズ分布を測定した結果である。細孔径が微細化するのに従い得られる微粒子のサイズも微細化している様子がわかる。また、どの場合においても、粒子のサイズのばらつきを示す相対標準偏差の値が10%程度であり、サイズ均一性に優れているものであることがわかった。
【0027】
実施例4〔直径100nm以下の単分散ポリマー微粒子の作製〕
純度99.99%のアルミニウム板表面に、200 nm周期で突起が規則的に配列した構造を持つSiC製モールドを押し付け、表面に微細な凹凸パターンを形成した。テクスチャリング処理を施したアルミニウム板を、0.05 Mの濃度に調整したシュウ酸酸水溶液中で、浴温0℃において直流80Vの条件下で90分間陽極酸化を行った。その後、地金部分をヨウ素飽和メタノール溶液中で溶解除去し、ポーラスアルミナの細孔底部をアルゴンイオンミリング装置を用いて除去することによりスルーホールメンブレンを得た。得られたスルーホールメンブレンを、10wt%リン酸水溶液中に30分間浸漬し、孔径拡大処理をほどこし、細孔径の調節を行った。作製したポーラスアルミナスルーホールメンブレンをシリンジの先端にエポキシ樹脂を用いて貼り付け膜乳化用の乳化膜とした。
【0028】
得られた乳化膜を用いて実施例2と同様にしてポリマー微粒子の作製を行った。図8には、本実施例で作製されたポリマー微粒子の電子顕微鏡観察結果を示す。平均粒子径90nm、相対標準偏差10.2%のポリマー微粒子41を得ることが可能であった。
【0029】
実施例5〔サイズ均一性を向上させたポリマー微粒子の作製〕
実施例2と同様にしてポリマー粒子の作製を行う際に、モノマー溶液にトルエンを添加し、溶液の物性を制御することにより、サイズ均一性を向上させることが可能である。図9には、モノマー溶液(モノマーとオレイン酸の比率が1:1)200μlにトルエンを10μl、20μl、30μlと添加した際の連続相溶液(0.3wt%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液)との界面張力の測定を行った結果を示す。トルエンの添加量が増加するのに伴い、界面エネルギーが減少している様子が観察できる。図10には、それぞれの溶液の粘度測定を行った結果を示す。トルエンの添加量が増加するのに伴い、モノマー溶液の粘度が低下している様子が確認できる。このように、トルエンを加えることで分散相に用いるモノマー溶液の物性制御が可能であることがわかる。図11は、トルエンを添加して物性を変化させたモノマー溶液を用いた膜乳化プロセスにより得られたポリマー微粒子の粒度分布測定結果を示す。トルエン添加量の増加に伴い、どの条件の場合においても粒度分布のピーク位置は同程度であったが、トルエン添加量の増加とともに、粒子の相対標準偏差が減少し、サイズ均一性が向上している様子が観察できる。このことから、膜乳化の分散相には、低粘度であるほど、得られる液滴のサイズ均一性は向上し、また、水相との界面張力が小さいほど液滴サイズ均一性が向上することがわかる。
【0030】
実施例6〔貫通細孔密度を制御したポーラスアルミナによる膜乳化〕
純度99.99%のアルミニウム板表面に、100 nm周期で突起が規則的に配列した構造を持つSiC製モールドを押し付け、表面に微細な凹凸パターンを形成した。テクスチャリング処理を施したアルミニウム板を、0.3Mの濃度に調整したシュウ酸水溶液中で、浴温17℃において直流40Vの条件下で120分間陽極酸化を行った。その後、試料を電解浴を0.1Mの濃度に調整したリン酸水溶液に換え、浴温0℃において直流195Vの条件下で3時間陽極酸化を行った。その後、地金部分をヨウ素飽和メタノール溶液中で溶解除去し、ポーラスアルミナの細孔底部をアルゴンイオンミリング装置を用いて除去することによりスルーホールメンブレンを得た。得られたスルーホールメンブレンを、5wt%リン酸水溶液中に30分間浸漬し、孔径拡大処理を施し、細孔径の調節を行った。作製したポーラスアルミナスルーホールメンブレンをシリンジの先端にエポキシ樹脂を用いて貼り付け膜乳化用の乳化膜とした。作製した貫通孔密度を制御したポーラスアルミナを乳化膜として、トリオレインを、0.3wt%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液中に押し出すことによりO/Wエマルションの形成を行った。作製したポーラスアルミナを用いて、分散相にトリオレイン、連続相に0.3wt%ドデシル硫酸ナトリウムを用いて膜乳化を行った結果、単分散なO/Wエマルションの形成を行うことが可能であった。
【0031】
実施例7〔細孔径を微細化したポーラスアルミナによる膜乳化〕
純度99.99%のアルミニウム板表面に、500 nm周期で突起が規則的に配列した構造を持つSiC製モールドを押し付け、表面に微細な凹凸パターンを形成した。テクスチャリング処理を施したアルミニウム板を、0.1 Mの濃度に調整したリン酸水溶液中で、浴温0℃において直流200Vの条件下で90分間陽極酸化を行った。その後、70mol%の四塩化ケイ素を含む四塩化炭素溶液に試料を一分間浸漬し、四塩化炭素とクロロホルムを用いて試料を洗浄したのちエタノールに浸漬することで加水分解反応に伴う細孔内壁へのシリカの析出を行った。この操作を8回繰り返すことで、細孔径を130nmから80nmに微細化した。その後、地金部分をヨウ素飽和メタノール溶液中で溶解除去し、ポーラスアルミナの細孔底部をアルゴンイオンミリング装置を用いて除去することによりスルーホールメンブレンを得た。得られたスルーホールメンブレンを、シリンジの先端にエポキシ樹脂を用いて貼り付け膜乳化用の乳化膜とした。得られたポーラスアルミナを用いて膜乳化を行った結果、安定な乳化を行うことが可能であった。
【0032】
実施例8〔膜乳化プロセスによる単分散コンポジット粒子の形成〕
実施例2と同様にしてポリマー粒子の作製を行う際に、モノマー溶液に酸化鉄ナノ粒子が分散したトルエン溶液を添加し、これを分散相として膜乳化を行い液滴を形成した。得られた液滴に光照射を行い、モノマーを重合固化することでポリマー粒子の中に酸化鉄ナノ粒子が分散したコンポジット微粒子を得た。コンポジット微粒子を透過型電子顕微鏡像で観察した結果、微粒子内部に分散した酸化鉄ナノ粒子が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、微細で均一な単分散エマルションの作製が求められるあらゆる分野に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る単分散エマルションの製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係るポリマー微粒子の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明に係るコンポシット粒子の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図4】実施例1で得られたトリオレイン粒子の粒度分布図である。
【図5】実施例2で得られたポリマー微粒子の粒度分布図である。
【図6】実施例2で得られたポリマー微粒子を電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図7】実施例3で得られたポリマー微粒子の粒度分布図である。
【図8】実施例4で得られたポリマー微粒子を電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図9】実施例5における界面張力の測定結果を示すグラフである。
【図10】実施例5における溶液の粘度の測定結果を示すグラフである。
【図11】実施例5で得られたポリマー微粒子の粒度分布図である。
【符号の説明】
【0035】
1 乳化膜としての陽極酸化ポーラスアルミナ
2 分散相としての油相
3 細孔
4 連続相としての水相
5 液滴
6 エマルション
11 乳化膜
12 分散相
13 細孔
14 連続相
15 液滴
16 ポリマー微粒子
17 紫外線
21 ポーラスアルミナ
22 コンポジット粒子
23 分散相
24 ナノ粒子
25 細孔
26 連続相
27 液滴
31、41 ポリマー微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜乳化法によって平均直径が10nmから1μmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を30%以下とすることを特徴とする、単分散エマルションの製造方法。
【請求項2】
膜乳化法によって平均直径が10nmから1μmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を20%以下とすることを特徴とする、請求項1に記載の単分散エマルションの製造方法。
【請求項3】
膜乳化法によって平均直径が10nmから1μmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を10%以下とすることを特徴とする、請求項1または2に記載の単分散エマルションの製造方法。
【請求項4】
膜乳化法によって平均直径が10nmから500nmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を30%以下とすることを特徴とする、請求項1に記載の単分散エマルションの製造方法。
【請求項5】
膜乳化法によって平均直径が10nmから500nmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を20%以下とすることを特徴とする、請求項1、2、4のいずれかに記載の単分散エマルションの製造方法。
【請求項6】
膜乳化法によって平均直径が10nmから500nmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を10%以下とすることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の単分散エマルションの製造方法。
【請求項7】
膜乳化法によって平均直径が10nmから100nmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を30%以下とすることを特徴とする、請求項1または4に記載の単分散エマルションの製造方法。
【請求項8】
膜乳化法によって平均直径が10nmから100nmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を20%以下とすることを特徴とする、請求項1、2、4、5、7のいずれかに記載の単分散エマルションの製造方法。
【請求項9】
膜乳化法によって平均直径が10nmから100nmの液滴を形成し、液滴の直径のばらつきを示す相対標準偏差の値を10%以下とすることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の単分散エマルションの製造方法。
【請求項10】
乳化膜を介して油を水相中に押し出すことにより、直径の揃った油滴が水相中に分散したO/Wエマルションを作製することを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の単分散エマルションの製造方法。
【請求項11】
膜乳化に用いる分散相の粘度が1から100mPa・sの範囲であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の単分散エマルションの製造方法。
【請求項12】
膜乳化に用いる分散相と連続相の界面張力の値が0.1〜1.5 mN/mの範囲であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載のエマルションの製造方法。
【請求項13】
細孔径が10nmから1μmである多孔質体を膜乳化法の乳化膜として用いることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載のエマルションの製造方法。
【請求項14】
陽極酸化ポーラスアルミナを乳化膜として用いることを特徴とする、請求項13に記載の単分散エマルションンの製造方法。
【請求項15】
乳化膜として用いるポーラスアルミナの細孔径のばらつきを示す相対標準偏差の値が20%以下であることを特徴とする、請求項14に記載の単分散エマルションおよびその製造方法。
【請求項16】
乳化膜として用いるポーラスアルミナの細孔径のばらつきを示す相対標準偏差の値が10%以下であることを特徴とする、請求項15に記載の単分散エマルションおよびその製造方法。
【請求項17】
乳化膜として用いるポーラスアルミナの最表面の開口率が5%〜60%であることを特徴とする、請求項14〜16のいずれかに記載の単分散エマルションの製造方法。
【請求項18】
陽極酸化電圧を途中で変化させることにより貫通孔の間隔制御を行ったポーラスアルミナを乳化膜として用いることを特徴とする、請求項14〜17のいずれかに記載の単分散エマルションの製造方法。
【請求項19】
ポーラスアルミナの細孔内壁に物質のコーティングを行い、細孔径を微細化した乳化膜を用いることを特徴とする、請求項14〜18のいずれかに記載の単分散エマルションの製造方法。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれかに記載の方法で製造された単分散エマルション。
【請求項21】
請求項1〜19のいずれかに記載の方法で、モノマーまたはモノマーを含む油相からなる液滴を形成し、これを後処理により固化することでポリマー微粒子を製造することを特徴とする、ポリマー微粒子の製造方法。
【請求項22】
光硬化性のモノマーを用いることを特徴とする、請求項21に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項23】
請求項21または22に記載のポリマー微粒子の製造方法を用い、膜乳化を行うモノマーまたはモノマーを含む油相中に陽極酸化ポーラスアルミナの細孔径より小さい粒子を分散させ、この粒子分散液を用いて形成された液滴を重合固化することにより、モノマーまたはモノマーを含む油相とポーラスアルミナの細孔径より小さい粒子とのコンポジット粒子を製造することを特徴とする、コンポジット粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−178698(P2009−178698A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22667(P2008−22667)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年9月3日 社団法人 日本化学会 コロイドおよび界面化学部会発行の「第60回 コロイドおよび界面化学討論会 講演要旨集」に発表
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】