説明

膜保持構造物、電極、これらを用いた電解水の製造装置及びその製造方法

【課題】 陽極で発生する塩素ガスによる陰イオン交換膜の劣化防止することが可能な膜保持構造物、電極、これらを用いた電解水の製造装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 前記陽極室と前記中間室とを隔てる陰イオン交換膜を備えた第1の膜保持構造物と、前記第1の膜保持構造物に重ねて配置される陽極と、前記陰極室と前記中間室とを隔てる陽イオン交換膜を備えた第2の膜保持構造物と、前記第2の膜保持構造物に対して間隔を空けて配置される陰極とから構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜保持構造物、電極、これらを用いた電解水を製造する製造装置及び製造方法に関するものであり、特に、塩素ガスによる陰イオン交換膜の損傷を防止することができる膜保持構造物、電極、これらを用いた電解水の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な電解水の製造装置は、殺菌効果を示す酸性の電解水を得ることを目的として用いられており、主に医療分野や農業分野等に利用されている。酸性の電解水は、次亜塩素酸を成分としたものであり、例えば、三室型電解槽で製造される。
この三室型電解槽は、陽極室と陰極室及び中間室とから構成されており、陽極室と陰極室には原水を通水させ、中間室には電解質水溶液(例えば、食塩水)を充填させる。そして、陽極と陰極に直流電圧を負荷させると、中間室に存在する塩化物イオンが電気泳動により陽極室に移動し、陽極での電解反応により次亜塩素酸を含む酸性の電解水が製造される。
【0003】
ところが、このような電解水の製造装置では、陽極と陰イオン交換膜との距離が近傍に設置されているために、陽極で発生する塩素ガスによって陰イオン交換膜を劣化させてしまい、効率的な酸性の電解水の製造を困難にさせてしまう。
【0004】
そこで、特許文献1に開示されている電極では、陽極と不織布と陰イオン交換膜との順に積層したものを使用することで、陽極で発生する塩素ガスから保護膜となる不織布によって陰イオン交換の劣化を防止するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4091062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、特許文献1に開示されている電極は、塩素ガスによる陰イオン交換膜の劣化を防止するために、陽極と陰イオン交換膜との間に保護膜として不織布を配置している。ところが、不織布は30〜50μmの厚さであり、スリットが形成されている。つまり、陽極と陰イオン交換膜との距離は不織布の厚さ分しかない。そのため、陽極で発生する塩素ガスは、スリットを通過して陰イオン交換膜に接触してしまい、劣化を防止することが困難となる。
【0007】
本発明は係る問題に鑑みてなされたものであり、陽極で発生する塩素ガスによる陰イオン交換膜の劣化防止することが可能な膜保持構造物、電極、これらを用いた電解水の製造装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を解決するために、本発明の膜保持構造物は、電解水の製造装置に利用するイオン交換膜を保持する膜保持構造物であって、前記イオン交換膜の一方の面に設けられ該イオン交換膜を保持する第1の保持部材と、前記イオン交換膜の他方の面に設けられ該イオン交換膜を保持する第2の保持部材とからなり、前記第1の保持部材と前記第2の保持部材によって前記イオン交換膜を密着挟持して保持することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の膜保持構造物は、電解水の製造装置に利用するイオン交換膜を保持する膜保持構造物であって、前記イオン交換膜の一方の面に該イオン交換膜を保持する保持部材を設けたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の膜保持構造物は、前記第1の保持部材は板状の部材であって、表面に複数の孔が設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の膜保持構造物は、前記第2の保持部材は板状の部材であって、一方の面に複数の凸条が設けられ、隣り合う該凸条の間に複数の孔が設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の電極は、電解水の製造装置に利用する電極であって、複数の平板電極が間隔を空けて整列して構成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の電極は、前記電極は、複数の平板電極から構成されており、前記複数の平板電極は間隔を空け、横に並列に配列させ、該複数の平板電極の両端が固定されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の電極は、前記電極は、複数の平板電極から構成されており、前記複数の平板電極は間隔を空け、縦に並列に配列させ、該平板電極はそれぞれの一部で連結一体化されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の電解水の製造装置は、請求項1から4のいずれかに記載の膜保持構造物と、請求項5から7のいずれかに記載の電極と、を用いたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の電解水の製造装置は、前記陽極室と前記陰極室とを連通させる連通路を有することを特徴とする。
【0017】
さらに、本発明の電解水の製造方法は、請求項1から4のいずれかに記載の膜保持構造物と、請求項5から7のいずれかに記載の電極とを用いた陽極室と陰極室並びに中間室から構成される三室型電解槽で構成される電解水の製造装置を利用した電解水の製造方法であって、前記陽極室及び前記陰極室に電解原水を通過させ、前記陽極室及び前記陰極室で電解原水を電気分解すると共に、前記中間室から電解イオン物質を前記陽極室及び前記陰極室に供給し、前記陽極室及び前記陰極室で電解水を生成し、生成された前記電解水を前記陽極室又は前記陰極室で混合させ、pH調整された電解水を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、陰イオン交換膜の一方の面に固定部材を密着させて設けることで陽極表面で発生する塩素ガスが陰イオン交換膜側に移動することができず、陰イオン交換膜の劣化を防止することができる膜保持構造物と、複数の平板電極を並列状に並べることで、限られたスペースの中で表面積を飛躍的に増やすことができ、電解効率を向上させる電極とを用いた電解水の製造装置は、陰イオン交換膜の劣化を防止することで長時間の運転を可能とし、高品質な電解水を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施形態に係る電解水の製造装置の構成を示した図である。
【図2】第1の隔壁の構成を示した斜視図である。
【図3】第1の隔壁の構成を示した分解斜視図である。
【図4】固定枠の構成を示した図である。
【図5】スペーサの構成を示した図である。
【図6】第2の隔壁の構成を示した斜視図である。
【図7】第2の隔壁の構成を示した分解斜視図である。
【図8】電極の構成を示した図である。
【図9】電極の構成を示した図である。
【図10】第2の実施形態の電解水の製造装置の構成を示した図である。
【図11】第3の実施形態の電解水の製造装置の構成を示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
本実施の形態では、本発明に係る電解水の製造装置が次亜塩素酸の製造の場合に適用した例について示す。
なお、本発明の本実施形態では陽極室、中間室、陰極室とからなる三室型の電解装置について説明するが、本発明は陽極室、陰極室とからなる二室型の電解装置についても適用することは可能である。
【0022】
<第1の実施形態>
図1は、電解水の製造装置(以下、「電解装置」という)の模式図である。
図1に示すように、電解装置100は、中央に配設された中間室400と、中間室400の一方の片側に陽極室200が配設され、他方の片側に陰極室300が配設されている。中間室400と陽極室200とは陰イオン交換膜21を備える第1の隔壁20で隔てられており、中間室400と陰極室300とは陽イオン交換膜31を備える第2の隔壁30で隔てられている。そして、陽極室200には陽極201が設けられ、陰極室300には陰極301が設けられている。
【0023】
陽極201は、第1の隔壁20に対して重ねて配置されており、陰極301は、第2の隔壁30に対して間隔を空けて配置されている。また、陰極301は、全体を通水性のシート状部材301aで覆われている。
【0024】
第1の隔壁20は、固定板22と、陰イオン交換膜21と、スペーサ23とを順に積層した構成であり、第2の隔壁30は、陽イオン交換膜31の陰極301の反対側にスペーサ32を積層した構成である。また、スペーサ23とスペーサ32とは、中間室400内に隙間なく設置されている。第1の隔壁20は陽極201とは、電解装置100を組み立てる際に陽極室200内に設けられている凸部200aの押圧によって陽極室200内に設置されている。同様に、第2の隔壁30と陰極301は、陰極室300内の凸部300aの押圧によって設置されている。
【0025】
陽極201は直流電源600のプラス側に接続され、陰極301には直流電源600のマイナス側に接続されている。直流電源600は、その電圧や電流を任意に設定できる構成になっている。例えば、電圧は5〜20ボルト程度の範囲で任意に選択でき、電流についても3〜26アンペアの範囲で適宜選択して設定することができるものを挙げることができる。
【0026】
陽極201と陰極301との大きさや形状を非対称、すなわち、電極表面積の大きさを異ならせてもよい。これにより、陽極201の電解量と陰極301の電解量とを変えることができる。また、陽極電極の電極体積と陰極電極の電極体積とを異ならせることで、混合された電解生成水の酸性度を適宜調整することができる。つまり、陽極201の電極体積は陰極の電極体積より大きいことで、酸性電解生成水の発生量がアルカリ性電解生成水の発生量より多くなるため、酸性度を高めることができる。一方で、陰極301の電極体積を陽極201の電極体積より大きくすることで、アルカリ性電解生成水の発生量が酸性電解生成水の発生量より多くなるため、アルカリ性の度合いを高めることができる。
【0027】
電解装置100は、陽極室200に電解原水を給水するための第1の給水口202と、陰極室300に電解原水を給水するための第2の給水口302とが設けられている。第1の給水口202及び第2の給水口302に繋がる流路は、1つの流路が分岐されて構成されている。その流路の分岐したところには、陽極室200及び陰極室300への分配する水量を調整するための分配割合調整バルブ700が設けられている。分配割合調整バルブ700は、電解装置100に電解原水を供給する量を調整する供給量調整機能をもたせてもよい。
【0028】
また、電解装置100は、陽極室200の液体を吐出させるための第1の吐出口203と、陰極室300の液体を吐出させるための第2の吐出口303とが設けられている。さらに、電解装置100は、第1の吐出口203から吐出される液体の量を調整する第1の吐出バルブ204と、第2の吐出口303から吐出される液体の量を調整する第2の吐出バルブ304とを有する。
【0029】
図1に示すように、第1の吐出口203及び第2の吐出口303は、陽極室200及び陰極室300のそれぞれの下部に設け、第1の給水口202及び第2の給水口302を陽極室200及び陰極室300のそれぞれの上部に設けている。これにより、各給水口から給水された液体(電解原水)が電極表面に発生する塩素ガス(Cl)の上昇に逆らって上から下へ向かって流れ、効率良く気液接触させることができる。従って、陽極201で発生する気体(電解質水溶液が塩化ナトリウムや塩化カリウムの場合は塩素)からなる気泡と水との気液接触時間が長くなり、次亜塩素酸への反応を確実に行うことができる。
【0030】
陽極室200は、縦長であるとよい。具体的には、陽極201と直交する方向の陽極室200の幅よりも陽極室200の高さの方が大きいとよい。その陽極室の幅に対する陽極室の高さの比(高さ/幅)は、例えば、1.5以上、好ましくは1.5〜5.0とすることができる。このような縦長であることにより、陽極室200で発生した上昇する塩素ガス(Cl)が水と接触する時間を長くすることができ、塩素と水との反応を確実に行うことができる。また、陰極301も同様とするとよい。
【0031】
中間室400には、供給タンク401からパイプ402を介して供給される電解質水溶液が充填されており、電解質水溶液に含まれる電解イオン物質を陽極室200及び陰極室300に供給する。この電解質水溶液は、例えば、塩化物塩水溶液(塩化ナトリウム水溶液や塩化カリウム水溶液)である。中間室400を通過した水溶液を供給タンク401に戻して電解室水溶液として再利用して循環させてもよいし、消費した分だけの電解質水溶液を中間室400に補充してもよい。なお、電解質水溶液の濃度は、例えば、電解質の飽和濃度とすることができる。
【0032】
また、中間室400の上部及び下部には、陽極室200と陰極室300で生成される電解水が双方向に移動することができる連通孔500が設けられている。
【0033】
次に、図2及び図3を参照して、第1の隔壁20の構成について説明する。
図2は、第1の隔壁20の構成を示した斜視図であり、図3は、第1の隔壁20の分解した状態を示した斜視図であり、図4は、固定板の構成を示した図であり、図5(a)は、スペーサの表面を示した正面図であり、図5(b)は、スペーサの裏面を示した正面図である。
【0034】
図2及び図3に示すように、第1の隔壁20は、固定板22と陰イオン交換膜21とスペーサ23との順で積層された状態で構成されており、固定板22の陰イオン交換膜21が積層された反対側に陽極201が重ねて配置されている。陰イオン交換膜21は、それ自身では形状を保持することができないため、固定板22とスペーサ23とで挟むことで形状を保持している。
【0035】
図4に示すように、固定板22は、厚みのある樹脂製の板状の部材であって、板状表面には複数の孔22aが設けられている。孔22aの形状は任意であるが、円形が好ましく、孔の直径は1〜3mmが好ましい。また、固定板22の厚みは1〜5mmが好ましい。
【0036】
図5(a)に示すように、スペーサ23は厚みのある樹脂製の板状の部材であって、板状表面には複数の孔23aが設けられている。そして、図5(b)に示すように、スペーサ23の裏面には、スペーサ23本体の斜め方向に対して凸条23bが複数設けられている。そして、隣り合う凸条23bの間には、表面に設けられている孔23aと連通した孔が設けられている。
なお、凸条23bは、スペーサ23の高さ方向や網目状に設けてもよい。
スペーサ23の厚さは、1〜5mmが好ましく、孔23aの形状は任意であるが、円形が好ましく、孔の直径は1〜3mmが好ましい。
【0037】
次に、図6及び図7を参照して第2の隔壁30の構成について説明する。
図示するように、第2の隔壁30は、スペーサ32に陽イオン交換膜31を積層することで構成されており、陽イオン交換膜31のスペーサ32が積層された反対側には、所定の間隔を空けてシート状部材301aで覆われた陰極301が配置されている。シート状部材301aは、通水性を有するものであればよく、例えば、布や不織布といったものが挙げられる。陽イオン交換膜31は、上記した陰イオン交換膜21と同様に、それ自身では形状を保持することができないため、スペーサ32に陽イオン交換膜31を積層した状態で陰極室300と中間室400との間に配設することでその形状を保持される。
【0038】
次に、第1の隔壁20及び第2の隔壁30の作用について説明する。
まず、第1の隔壁20は、陽極室200と中間室400との間に配設される。この時、固定板22が陽極室200側、スペーサ23が中間室400側となって配設され、第2の隔壁30は、陽イオン交換膜31が陰極300側、スペーサ32が中間室400側となって配設される。このようにそれぞれの隔壁が配設されることで、スペーサ23とスペーサ32とが中間室400内に隙間なく嵌め込まれる。
【0039】
電解反応が行われると、中間室400から電解イオン物質である塩化物イオンが陽極室200へ移動する。塩化物イオンはスペーサ23に設けられている孔23a、陰イオン交換膜21、固定板22に設けられている孔22aを介して陽極室200へ移動し、陽極201表面で電子の移動によって塩素ガスが発生する。この塩素ガスは、陰イオン交換膜を損傷させる原因となるものであるが、本実施形態では、陰イオン交換膜21の前面に固定板22を重ねて配設することで、塩素ガスによる陰イオン交換膜21の損傷を防止することができる。
【0040】
固定板22は、上記したように1〜5mmの厚さがあることで陽極201と陰イオン交換膜21とで距離があり、まず、陽極201表面で発生する熱を遮断することができる。また、固定板22に設けられている孔22aは、固定板22が陰イオン交換膜21と重ねて配置されていることから孔22aの陰イオン交換膜21側は塞がれた状態であって、孔22a内部に満たされている原水は移動することができないこと、かつ、塩化物イオンが中間室400から移動してくるため、陽極201表面で発生する塩素ガスは、固定板22の1〜5mmの厚さ分の孔22aを通過することができない。
よって、陽極201表面で発生する塩素ガスによる陰イオン交換膜21の損傷を防止することができる。
【0041】
一方、第2の隔壁30は、スペーサ32を中間室400側、陽イオン交換膜31を陰極室300側になるように配設される。このとき、中間室400に対して、第1の隔壁20のスペーサ23の裏面(凸条23bが設けられている面)と、第2の隔壁30のスペーサ33の裏面(凸条33bが設けられている面)が対向する。中間室400において、互いのスペーサ23,33が密着するようにしてもよい。中間室400の上部から供給される電解質水溶液は、スペーサ23,33の間を通過する際に凸条23b,32bに沿って流れるため、中間室400内部をくまなく、そしてゆっくり流れるため、陽極室200及び陰極室300に対して高濃度な電解イオン物質を供給することができる。
【0042】
また、中間室400内でペーサ23とスペーサ31とが隙間なく重ね合わされるため、陽極室200と陰極室300とに電解原水が供給される際の水圧により、陽極201や陰極301が変形せず、安定した電気分解を行うことができる。
【0043】
次に、図8及び図9を参照して、陽極201及び陰極301に採用する電極の構成について説明する。
図5(a)は、平板電極を横置き状態にした電極の構成を示した図であり、図5(b)は、平板電極を縦置き状態にした電極の構成を示した図である。
なお、図5に示す電極は、陽極201及び陰極301の両方に採用するものであり、ここでは、陽極201についてのみ説明する。
【0044】
図5(a)に示す電極201は、両端に設けられた縦長の平板電極201aの間に、複数の横長の平板電極201bを、縦長の平板電極201aの高さ方向に対して整列させて連結一体化させた電極である。それぞれの横長の平板電極201bは平行に整列させてもよいし、傾きを持たせて整列させてもよい。なお、平板電極201bを陽極室200に対して上向き方向に傾きを持たせた場合には、陽極201表面で発生する塩素ガスが平板電極201bの上向き方向に沿って移動するため、より固定板22側に塩素ガスが移動することを防止できる。
【0045】
図5(b)に示す電極201は、縦長の平板電極201aを短冊状に並列させた電極であり、各平板電極201aの上部で連結一体化をなしている。
なお、図5(a)及び図5(b)に示す平板電極201a,201bは、網状や多孔質体で形成してもよい。
【0046】
上記した電極体201は、従来の平板電極を一枚平面状に使用する場合に比較して、数倍から数十倍の電解面積を獲得することができる。
例えば、従来の一枚の平板電極の規格寸法は、縦150mm、横100mmであり、表面積は電極の表裏を合わせると、
150×100×2=30000mm
となる。
そこで、例えば図5(a)に示した陽極201と比較すると、平板電極201aの寸法は、縦20mm、横100mmであり、表面積は電極の表裏を合わせると、
20×100×2=4000mm
となる。
また、平板電極201aの厚さが0.3mmであり、各平板電極301aの間隔を2mmとすると、1枚当たり2.3mmの幅であり、縦150mmに対して並列に配列すると、
150mm/2.3mm≒65
であり、65枚の平板電極201aを並べることができる。
よって、1枚の平板電極201aの表面積が4000mmであって、これを65枚配列させると、
4000mm×65枚=260000mm
となり、従来の1枚の平板電極(30000mm)と比較すると、
260000mm/30000mm≒8
であり、従来の1枚の平板電極に比べて8倍の表面積を得ることができる。
また、平板電極201aに変えて、例えば、多孔質体の電極を用いた場合には、これ以上の表面積を得ることができ、電解面積を飛躍的に向上させることができる。
【0047】
また、本発明の出願人は、平板電極の外形線付近で電解反応が顕著に行われることを見出したことから、平板電極の表面に凹凸を形成することで水との接触機会を増やすことができる。
【0048】
このような電極を用いることは、陽極室及び陰極室の限られた容積の中で飛躍的な電極面積を得ることができ、電解効率を向上させることができる。また、陽極室及び陰極室を流れる原水に対して抵抗を生じるため、原水に対して十分な電位を与えることもできる。
【0049】
<電解水の製造装置の動作について>
次に、電解装置100の動作について説明する。
まず、分配割合調整バルブ700の調整によって液体(原水)を陽極室200及び陰極300に供給する。水量は、例えば0.5〜1.5l/分とする。この原水の供給に併せて陽極201と陰極301との間で電位を印加し電気分解を行う。ここで、電気分解時の電圧は、例えば、5〜10Vとし、電流を3〜10Aとする。
【0050】
陽極201と陰極301との間に電位を印加すると、中間室400の陽イオン(電解質が塩化ナトリウムの場合にはナトリウムイオン)が陽イオン交換膜31を備える第2の隔壁30を通過して陰極室300に移動する。一方で、中間室400の陰イオン(電解質が塩化ナトリウムの場合には塩化物イオン)が陰イオン交換膜21を備える第1の隔壁20を通過して陽極室200に移動する。
【0051】
陽極室200では、陽極201にて塩化物イオンが次式(1)の反応を起こし、塩素が発生する。
2Cl→Cl+2e・・・(1)
この塩素は、さらに、次式(2)に示すように、水を反応して次亜塩素酸が生成される。
Cl+HO→HClO+HCl・・・(2)
【0052】
一方で、陰極室300では、陰極301にて次式(3)の反応が起こる。
O+2e→1/2H+OH・・・(3)
この電気分解において、中間室400の上下に設けられている連通孔500から陽極室200及び陰極室300で生成される電解水が双方向に移動させることが可能であることから、例えば、陽極室200で生成された酸性の電解水を陰極室300に移動させることで陰極301にスケールが付着することを防止することができる。
【0053】
また、この電気分解において第1の吐出バルブ204と第2の吐出バルブ304とを調整し、陽極室200及び陰極室300からの吐出される電解水の量を制御することができる。
【0054】
第1の吐出口203から吐出された電解生成水と、第2の吐出口303から吐出された電解水とを混合することで、弱アルカリ性、中性または弱酸性の次亜塩素酸を含む電解生成水が生成される。
【0055】
なお、第1の吐出バルブ204または第2の吐出バルブ304の一方を完全に閉め、第1の吐出口203または第2の吐出口303のいずれかのみから吐出してもよい。この場合には、陽極室200または陰極室300の内部で混合水が生成されることになる。
【0056】
一般的に陰極室200の陰極301には、中間室400から供給された陽イオンがスケールとして付着する。しかし、第1の実施形態の電解装置100によれば、陽極室200で生成された酸性の電解水を陰極室300に誘導混合させることで、陰極301にスケールが付着しない。このように陰極301にスケールがつかないことで、陰極301に付着したスケールを除去する工程が不要または減らすことができるため、連続運転が可能になる。
【0057】
また、陰極301をシート体90で覆うことで、電解される水を陰極301の付近に滞留することとなる。このため、陰極301の付近に滞留する水に対するチャージ量が増すことになる。水に対するチャージ量が増した分だけ、陽イオンに基づくスケールが付着することがさらに減ることになる。その結果、連続運転をよりし易くなると共に、陰極301を逆洗浄が不要になるか又は頻度を減らすことができるため、産業的な用途においてより有利な電解装置を実現することができる。併せて、陰極301にスケールが成長してイオン交換膜54を破損するのを防ぐことができるため、イオン交換膜を保護する役割も果たすことができる。なお、陽極201も陰極301と同様にシート体で覆ってもよい。
【0058】
また、第2の吐出バルブ304のみを開き、陰極室300の第2の吐出口303のみから電解水を吐出することで、陽極室200で生成された酸性の電解水が陰極室300側に流れ、高濃度の次亜塩素酸を含有したアルカリ性の電解水を生成することが可能になる。さらに、一層陰極301にはスケールの付着は起こらなくなる。
【0059】
また、第1の実施形態に係る電解装置100では、陽極室200で生成された電解水と陰極室300で生成された電解水とを混合することで、弱アルカリ性、中性または弱酸性を示す混合水を生成することができる。さらに、従来では、陽極室200または陰極室300の一方で生成された電解水を使用し、他方の電解水は廃棄していたが、双方の電解生成水を使用することができるため、水資源を有効に使用することができる。
【0060】
陽極室200側への分配量が低いと、陽極室200で生成した電解水と陰極室300で生成した電解水とを混合した場合には、次亜塩素酸の濃度が大きく低下すると思われる。しかし、第1の実施の形態に係る電解装置100により得られた電解水は、次亜塩素酸の濃度(有効塩素濃度)が大きく低下しない。したがって、本実施の形態によれば、得られる電解生成水が高濃度の次亜塩素酸を含有するため、殺菌力が低下しない。
【0061】
なお、次亜塩素酸は陽極側で生成された酸性の電解水中に含まれるものであることが一般的に知られているが、pH値が微酸性、中性もしくは微アルカリ性に調整された次亜塩素酸水を製造しようとする場合は、工業的に製造された次亜塩素酸ナトリウム(ソーダ)に塩酸を加えてpH値を調整するか、または前記文献1により生成された塩化ナトリウムを含む酸性電解生成水とアルカリ性電解生成水とを適当量混合して製造することが考えられるが、いずれの場合も有効塩素濃度をあまり変化させずにpH値を単独に調整することは行われていない。
【0062】
そこで、第1の実施の形態では、陽極室200に供給される水の量と陰極室300に供給される水の量との大小関係、および、第1の吐出バルブ204と第2の吐出バルブ304との開閉量(絞り量)の大小関係を組み合わせることで、表1に示すように弱酸性から弱アルカリ性の範囲で様々なpH調整が可能となる。
【0063】
【表1】

【0064】
なお、第1の吐出バルブ204と第2の吐出バルブ304とを同じ程度開放することで、陽極室200で生成された電解水と陰極室300で生成された電解水との混合比率は下がることになるため、混合比率は特に第1および第2の吐出バルブ204,304で調整することができる。
【0065】
従来は、どちらか一方を使用している時は一方を廃棄していたが、この製法により大切な水資源を無駄に捨てないで済むようになった。
【0066】
中性付近電解生成水の生成により排水基準などの適合も未処理で実現するため、環境汚染など環境に負荷を与えないという利点がある。
【0067】
電解次亜塩素酸は有機物と接触する事で簡単に中和する特長も持ち合わせている。
【0068】
陽極室と陰極室とが連通していない状態で電解を行った場合に、陰極室から吐出される電解水は、沈殿物(炭酸カルシウム)を含んでしまう。しかし、第1の実施形態に係る電解装置100は、陽極室200と陰極室300とが連通した状態で電解を行うことで、陰極室300から吐出された電解水は陽極室200から陰極室300に流入した電解水も含むため、その沈殿物が生じない。これにより、たとえば次の効果が奏される。
【0069】
陰極室300から吐出された電解水をタンクに貯めて、必要に応じて使用する場合が考えられる。この場合に、電解水に沈殿物が含まれていると、タンクの内壁に沈殿物が付着し、頻繁に洗浄をする必要がある。また、取水口に沈殿物が貯まり通水ができなくなり、故障の要因となる場合がある。しかし、沈殿物が含まない電解生成水であると、タンクの内壁に沈殿物が付着せず洗浄回数を減らすことができ、取水口に沈殿物が貯まらないため通水を確実に確保することができる。
【0070】
<第2の実施形態>
図10は、第2の実施形態に係る電解水の製造装置の構成を示した図である。
図示するように、第2の実施形態に係る電解装置100では、陽極室200と陰極室300とを連通孔500で連通させる代わりに、別途連通路501を設けて連通させてもよい。連通路501の設置によって陽極室200と陰極室300との間を行き来する水の量を把握し易いという利点がある。そして、この連通路501に開閉量調整バルブ502を設けることで陽極室200と陰極室300との間を行き来する水の量を容易に調整することができる。
【0071】
<第3の実施形態>
図11は、第3の実施形態に係る電解水の製造装置の構成を示した図である。
図示するように、第3の実施形態に係る電解装置100は、陽極室200に対して電解原水を供給するか否かを決める第1の開閉バルブ202aを設けている。通常の電解装置であれば、陽極室及び陰極室の双方に電解原水を供給しなければ電解することはできない。しかし、第3の実施形態の電解装置10によれば、陽極室200と陰極室300とは、連通孔500によって連通しているため、この第1の開閉バルブ202aを閉じても、陽極室200には、陰極室300を通じて電解原水が供給されることになり、通常の電解装置ではできない手法の電解が可能となる。これにより、第1の開閉バルブ202aを閉じ、陽極室200側のみから電解水を吐出した場合には、強い酸性を有する電解水を生成することができる。
【0072】
また、同様に、陰極300に対して電解原水を供給するか否かを決める第2の開閉バルブ302aを設けてもよい。第2の開閉バルブ302aを閉じても、第1の開閉バルブ202aが空いていれば、陰極室300には、陽極室200を通じて電解原水が供給されることにより、通常の電解装置ではできない手法での電解が可能となる。例えば、第2の開閉バルブ302aを閉じ、陰極室300側のみから電解水を吐出した場合には、強いアルカリ性を有する電解水を生成することができる。
【符号の説明】
【0073】
20 第1の膜保持構造物
21 陰イオン交換膜
22 固定板
22a、23a、32a 孔
23b、32b 凸条
23、32 スペーサ
30 第2の膜構造物
31 陽イオン交換膜
100 電解装置
200 陽極室
200a、300a 凸部
201 陽極
202 給水口
202a 第1の開閉バルブ
203 吐出口
204 第1の吐出バルブ
300 陰極室
301 陰極
302 給水口
302a 第2の開閉バルブ
303 吐出口
304 第2の吐出バルブ
400 中間室
401 供給タンク
402 パイプ
500 連通孔
501 連通路
502 開閉量調整御バルブ
600 電源
700 分配割合調整バルブ







【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解水の製造装置に利用するイオン交換膜を保持する膜保持構造物であって、
前記イオン交換膜の一方の面に設けられ該イオン交換膜を保持する第1の保持部材と、
前記イオン交換膜の他方の面に設けられ該イオン交換膜を保持する第2の保持部材とからなり、
前記第1の保持部材と前記第2の保持部材によって前記イオン交換膜を密着挟持して保持することを特徴とする膜保持構造物。
【請求項2】
電解水の製造装置に利用するイオン交換膜を保持する膜保持構造物であって、
前記イオン交換膜の一方の面に該イオン交換膜を保持する保持部材を設けたことを特徴とする膜保持構造物。
【請求項3】
前記第1の保持部材は板状の部材であって、表面に複数の孔が設けられていることを特徴とする請求項1記載の膜保持構造物。
【請求項4】
前記第2の保持部材は板状の部材であって、一方の面に複数の凸条が設けられ、隣り合う該凸条の間に複数の孔が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の膜保持構造物。
【請求項5】
電解水の製造装置に利用する電極であって、
複数の平板電極が間隔を空けて整列して構成されていることを特徴とする電極。
【請求項6】
前記電極は、複数の平板電極から構成されており、
前記複数の平板電極は間隔を空け、横に並列に配列させ、該複数の平板電極の両端が固定されていることを特徴とする請求項5記載の電極。
【請求項7】
前記電極は、複数の平板電極から構成されており、
前記複数の平板電極は間隔を空け、縦に並列に配列させ、該平板電極はそれぞれの一部で連結一体化されていることを特徴とする請求項5記載の電極。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の膜保持構造物と、
請求項5から7のいずれかに記載の電極と、
を用いたことを特徴とする電解水の製造装置。
【請求項9】
前記陽極室と前記陰極室とを連通させる連通路を有することを特徴とする請求項8記載の電解水の製造装置。
【請求項10】
請求項1から4のいずれかに記載の膜保持構造物と、請求項5から7のいずれかに記載の電極とを用いた陽極室と陰極室並びに中間室から構成される三室型電解槽で構成される電解水の製造装置を利用した電解水の製造方法であって、
前記陽極室及び前記陰極室に電解原水を通過させ、
前記陽極室及び前記陰極室で電解原水を電気分解すると共に、前記中間室から電解イオン物質を前記陽極室及び前記陰極室に供給し、
前記陽極室及び前記陰極室で電解水を生成し、
生成された前記電解水を前記陽極室又は前記陰極室で混合させ、pH調整された電解水を得ることを特徴とする電解水の製造方法。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−110809(P2012−110809A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260462(P2010−260462)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(500111806)
【Fターム(参考)】