説明

膜処理システム

【課題】原水に溶存するフミン質の監視と除去により分離膜の負担を軽減する。
【解決手段】膜処理システム1は膜処理装置10に供給される原水に凝集剤を注入する凝集剤注入装置13を備える。凝集剤注入装置13は前記原水のフミン質濃度に基づき凝集剤を前記原水に注入する。凝集剤注入装置13は膜処理装置10から排出されるろ過水のフミン質濃度に基づき前記凝集剤を前記原水に注入するようにしてもよい。前記フミン濃度の指標としては紫外線吸光度または色度が例示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は上水道向けの膜モジュールを利用した水処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料や無機材料からなる分離膜を利用した上水道向けの膜処理システムは多くの浄水場で採用されている。膜処理の本来の目的は水中の懸濁物質(例えば砂、シルト、藻類、菌、原虫等)を除去することにあるので、多くの浄水場では前記懸濁物質の検出する計測装置によって浄水工程の監視が行なわれている。
【0003】
一方、溶解性マンガンやフミン質のような自然水の溶存物質は物理化学的形態によっては分離膜を閉塞させる可能性がある。分離膜が閉塞すると、洗浄により閉塞原因物質を除去する必要があり、水の回収率の低下、工数の上昇によりコストが増加し、経済的でない。溶解性物質を含んだ原水を膜処理システムで処理するには膜処理に至るまでに前処理プロセスで処理対象物質を除去するのが一般的である(例えば特許文献1及び非特許文献1)。
【0004】
また、膜処理では膜の機能性を維持するために洗浄を行なう必要があり、1日数回の逆流洗浄と年数回の薬品洗浄とが行なわれている。逆流洗浄では低濃度の次亜塩素を含んだ酸化剤が添加されることがある(例えば特許文献2及び特許文献3)。洗浄周期はタイマーで管理されており、頻繁な逆流洗浄工程が存在しても膜処理システムは自動運転が可能とされている。
【特許文献1】特開平06−031272
【非特許文献1】「環境技術・装置大辞典」編集委員会編,「環境技術・装置大辞典I」,2003年2月17日,pp.726
【特許文献2】特開平10−296060
【特許文献3】特開2003−251370
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フミン質は分離膜を閉塞する原因物質であるが、一般的に原水中のフミン質は直接監視されていない。そのため、分離膜のファウリング抑制とは関係のない運転をしている可能性がある。また、分離膜の洗浄排水はフミン質が直接監視されていないので、洗浄効果を確認できない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の膜処理システムは、膜処理装置に供給される原水に凝集剤を注入する凝集剤注入装置を備え、この凝集剤注入装置は前記原水のフミン質濃度に基づき凝集剤を前記原水に注入する。
【0007】
請求項2の膜処理システムは、請求項1の膜処理システムにおいて、前記凝集剤注入装置は前記膜処理装置から排出されるろ過水のフミン質濃度に基づき前記凝集剤を前記原水に注入する。
【0008】
請求項3の膜処理システムは、請求項1または2の膜処理システムにおいて、膜処理装置に洗浄水を供給する洗浄水供給装置を備え、この洗浄水供給装置は前記膜処理装置から排出される洗浄排水のフミン質濃度に基づき前記洗浄水の供給の継続とその停止を行なう。
【0009】
請求項4の膜処理システムは、請求項3の膜処理システムにおいて、前記膜処理装置に供給される洗浄水に次亜水を注入する次亜水注入装置を備え、この次亜水注入装置は前記膜処理装置から排出される洗浄排水の残留塩素濃度に基づき前記次亜水を前記洗浄水に注入する。
【0010】
請求項5の膜処理システムは、請求項4の膜処理システムにおいて、前記次亜水注入装置は前記膜処理装置に供給される洗浄水の圧力と前記膜処理装置から排出される洗浄排水の圧力との差圧に基づき次亜水を洗浄水に注入する。
【0011】
請求項6の膜処理システムは、請求項1の膜処理システムにおいて、前記フミン濃度の指標は紫外線吸光度または色度である。
【発明の効果】
【0012】
以上の発明によれば分離膜の負荷になるフミン質が監視されると共にフミン物質が除去された状態で原水が分離膜に供されるので分離膜の洗浄までの寿命が延びる。
【0013】
特に、請求項3〜5の発明によれば分離膜に詰まった原水のフミン質が除去されるので分離膜の洗浄不足が解消される。また、分離膜の洗浄排水のフミン質濃度が監視されるので分離膜の洗浄効果を確認できる。さらに、請求項4及び請求項5の発明によれば分離膜の洗浄に供される次亜水の注入量が最適化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は発明の第一の実施形態に係る膜処理システム1の概要図である。
【0015】
膜処理システム1は膜処理装置10を有する。膜処理装置10は上向流式の膜分離装置である。膜処理装置10の分離膜としては例えば孔径0.1μm程度のMF膜が挙げられる。膜処理装置10には原水を供給する供給管11が接続されている。供給管11には凝集剤注入装置13から供給された凝集剤を前記原水に注入するための注入管14が接続されている。
【0016】
また、供給管11には前記凝集剤が注入された後の原水の溶存物質であるフミン質の濃度の指標である紫外線吸光度を測定する手段としてUV計15が設置されている。UV計15は膜処理装置10と注入管14との間に配置されている。UV計15は紫外線吸光度の計測値を制御部16に供給する。
【0017】
制御部16は予め設定された原水の紫外線吸光度の設定値と前記供給された紫外線吸光度の計側値とに基づき前記凝集剤の注入を制御する。例えば前記計測値>前記設定値である場合、凝集剤の流量値は前回の流量値+αに設定される。すなわち、制御部16は前記計測値が前記設定値よりも高い場合に前記凝集剤の注入量が増大するような凝集剤の流量の指示を凝集剤注入装置13に送信する。
【0018】
原水の溶存物質である例えばフミン質はUV計(測定波長253.7nm)15での吸光度の計測値と相関関係があるため、原水の紫外線吸光度の計側値を制御すれば、膜処理装置10に流入する前記溶存物質を制御することができる。凝集剤としては例えばPACを用いれば、UVによる吸光度成分を40〜60%、80%除去することができる。以上のようにフミン質に例示されるような原水中の溶存物質が前記凝集剤によって除去される。原水が膜処理装置10に供されると膜ろ過水として排出管12から排出される。原水は膜処理装置1の分離膜の負荷になる前記溶存物質が除去された状態で膜処理装置1に供されるので前記分離膜の薬品洗浄までの寿命が延びる。尚、溶存物質の濃度の指標は紫外線吸光度の代わりに色度としてもほぼ同様の結果となる。
【0019】
図2は発明の第二の実施形態に係る膜処理システム2の概要図である。
【0020】
膜処理システム2は膜処理システム1の膜処理装置10から排出された膜ろ過水の溶存物質濃度の指標である紫外線吸光度をUV計21で測定している。UV計21は膜処理装置10の排出管12に設置されている。UV計21は紫外線吸光度の計側値を制御部16に供給する。
【0021】
制御部16は予め設定された膜ろ過水の紫外線吸光度の設定値と前記供給された紫外線吸光度の計側値とに基づき前記凝集剤の注入を制御する。例えば前記計測値>前記設定値である場合、凝集剤の流量値は前回の流量値+αに設定される。すなわち、制御部16は前記計測値が前記設定値よりも高い場合に前記凝集剤の注入量が増大するような凝集剤の流量の指示を凝集剤注入装置13に送信する。
【0022】
膜ろ過水の溶存物質である例えばフミン質はUV計(測定波長253.7nm)21での吸光度の計測値と相関関係があるため、膜ろ過水の紫外線吸光度の計側値を制御すれば、膜処理装置10に流入する前記溶存物質を制御することができる。凝集剤は膜処理システム1のように例えばPACを用いれば、UVによる吸光度成分を40〜60%、80%除去することができる。以上のようにフミン質に例示されるような原水中の溶存物質が前記凝集剤によって除去される。
【0023】
膜処理システム1では膜処理装置10に供給される原水の紫外線吸光度の計側値を制御したが、膜処理装置10の分離膜に例えば分画分子量が10000程度のUF膜を適用すれば前記溶存物質は前記分離膜によって除去されるので、膜ろ過水の溶存物質の濃度が監視されることで凝集剤の注入量を減少できる。
【0024】
原水は膜処理装置10に供されると膜ろ過水として排出管12から排出される。最終的に原水は膜処理装置10の分離膜の負荷になる前記溶存物質が除去された状態で膜処理装置10に供されるので前記分離膜の薬品洗浄までの寿命が延びる。尚、溶存物質の濃度の指標は紫外線吸光度の代わりに色度としてもほぼ同様の結果となる。
【0025】
図3は発明の第三の実施形態に係る膜処理システム3の概要図である。
【0026】
膜処理システム3の膜処理装置10は洗浄水供給管32と洗浄排水管33とを備える。洗浄水供給管32には洗浄水供給装置31から洗浄水が供される。洗浄排水管33からは洗浄水供給装置31の分離膜の洗浄に供された洗浄水が排出される。尚、膜処理装置10の分離膜としては例えばMF膜やUF膜が適用されている。
【0027】
また、洗浄排水管33には前記分離膜の洗浄排水の溶存物質であるフミン質の濃度の指標として紫外線吸光度を測定する手段としてUV計34が設置されている。UV計34は紫外線吸光度の計測値を制御部16に供給する。
【0028】
制御部16は予め設定された洗浄排水の紫外線吸光度の設定値と前記供給された紫外線吸光度の計側値とに基づき洗浄の継続及び終了を判断する。例えば、前記計測値>前記設定値である場合に洗浄を継続させる。すなわち、制御部16はUV計測値が前記設定値よりも高い場合に洗浄を継続させる指示を洗浄水供給装置31に送信する。そして、前記計測値≦前記設定値となった場合に洗浄を停止させる指示を洗浄水供給装置31に送信する。
【0029】
洗浄排水の溶存物質である例えばフミン質はUV計(測定波長253.7nm)34での吸光度の計測値と相関関係があるため、洗浄排水の紫外線吸光度の計側値を制御すれば、膜処理装置10の分離膜から押し出すことができる前記溶存物質を制御することができる。
【0030】
そして、最終的には前記分離膜に閉塞された前記溶存物質が除去されるので、前記分離膜の洗浄不足を解消できる。尚、溶存物質の濃度の指標は紫外線吸光度の代わりに色度としてもほぼ同様の結果となる。
【0031】
図4は発明の第四の実施形態に係る膜処理システム4の概要図である。
【0032】
膜処理システム4は膜処理装置10の洗浄排水の残留塩素濃度に基づき膜処理装置10に供給される洗浄水への次亜水の注入を行なう。膜処理システム3では洗浄水量が多くなる可能性があるので、膜処理システム4は洗浄水に次亜水を注入している。次亜水の注入を制御する因子として膜処理装置10の洗浄排水の残留塩素濃度が利用されている。
【0033】
膜処理システム4では次亜水注入装置41から供された次亜水を洗浄水に注入する次亜水供給管42が洗浄水供給管32に接続されている。前記次亜水としては次亜塩素酸水や次亜塩素酸ナトリウム水溶液が例示される。一方、洗浄排水管33には前記分離膜の洗浄排水の残留塩素濃度を測定する残留塩素計43が設置されている。残留塩素計43は残留塩素濃度の計測値を制御部44に供給する。制御部44は前記供給された残留塩素濃度の計側値と予め設定された残留塩素濃度の設定値とに基づき前記次亜水の注入を制御する。例えば残留塩素濃度計測値>残留塩素濃度設定値である場合、次亜水の流量値は前回の流量値+αに設定される。すなわち、制御部16は残留塩素濃度計測値が残留塩素濃度設定値よりも高い場合に前記次亜水の注入量が増大するような次亜水の流量の指示を次亜水注入装置41に送信する。
【0034】
また、膜処理システム4でも制御部16は予め設定された膜ろ過水の紫外線吸光度の設定値と前記供給された紫外線吸光度の計側値とに基づき前記凝集剤の注入を制御する。例えば、前記計測値>前記設定値である場合に洗浄を継続させる。そして、前記計測値≦前記設定値となった場合に洗浄を停止させる指示を洗浄水供給装置31に送信する。
【0035】
洗浄排水の溶存物質である例えばフミン質はUV計(測定波長253.7nm)34での吸光度の計測値と相関関係があるため、洗浄排水の紫外線吸光度の計側値を制御すれば、膜処理装置10の分離膜から押し出すことができる前記溶存物質を制御することができる。また、原水からのフミン質の負荷により分離膜の汚れ具合も変化するので、次亜水の注入量を制御することで、洗浄水に注入する次亜水の量を最適化できる。
【0036】
以上のように膜処理システム4によれば最終的には前記分離膜に閉塞された前記溶存物質が除去されて、前記分離膜の洗浄不足が解消される。尚、溶存物質の濃度の指標は紫外線吸光度の代わりに色度としてもほぼ同様の結果となる。
【0037】
図5は発明の第五の実施形態に係る膜処理システム5の概要図である。
【0038】
膜処理システム5は膜処理システム4の洗浄排水管33に洗浄排水の圧力を測定する圧力計51を設けると共に洗浄水の圧力を測定する圧力計52を洗浄水供給管32に設けている。圧力計51,52によって測定された圧力値は制御部44に供給される。
【0039】
制御部44は前記供給された圧力値と予め設定された膜処理装置10の膜差圧の設定値とに基づき次亜水の注入を制御する。すなわち、圧力計51から供給された圧力値と圧力計52から供給された圧力値との差である膜差圧が洗浄効果判定の因子となる。制御部44は前記計測された膜差圧と予め設定された膜差圧とに基づき次亜水の注入量の増加及び減少を判断する。例えば、膜差圧計測値>膜差圧設定値である場合、次亜水の流量値は前回の流量値+αに設定される。このようにして制御部44は膜差圧計測値が膜差圧設定値よりも高い場合に前記次亜水の注入量が増加するように次亜水の流量の指示を次亜水注入装置41に送信する。但し、経年的な汚れにより膜差圧が低下しない場合があるのでタイマーによって次亜水の添加を停止するようにしてもよい。
【0040】
また、膜処理システム5でも制御部16は予め設定された膜ろ過水の紫外線吸光度の設定値と前記供給された紫外線吸光度の計側値とに基づき前記凝集剤の注入を制御する。例えば、前記計測値>前記設定値である場合に洗浄を継続させる。そして、前記計測値≦前記設定値となった場合に洗浄を停止させる指示を洗浄水供給装置31に送信する。
【0041】
洗浄排水の溶存物質である例えばフミン質はUV計(測定波長253.7nm)34での吸光度の計測値と相関関係があるため、洗浄排水の紫外線吸光度の計測値を制御すれば、膜処理装置10の分離膜から押し出すことができる前記溶存物質を制御することができる。また、原水からのフミン質の負荷により分離膜の汚れ具合も変化するので、次亜水の注入量を制御することで、洗浄水に注入する次亜水の量を最適化できる。溶存物質の濃度の指標は紫外線吸光度の代わりに色度としてもほぼ同様の結果となる。
【0042】
以上のように膜処理システム5によれば最終的には前記分離膜に閉塞された前記溶存物質が除去されて、前記分離膜の洗浄不足が解消される。尚、溶存物質の濃度の指標は紫外線吸光度の代わりに色度としてもほぼ同様の結果となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】発明の第一の実施形態に係る膜処理システムの概要図。
【図2】発明の第二の実施形態に係る膜処理システムの概要図。
【図3】発明の第三の実施形態に係る膜処理システムの概要図。
【図4】発明の第四の実施形態に係る膜処理システムの概要図。
【図5】発明の第五の実施形態に係る膜処理システムの概要図。
【符号の説明】
【0044】
1,2,3,4,5…膜処理システム
10…膜処理装置、11…供給管、12…排出管
13…凝集剤注入装置、14…注入菅
15,16,21、34…UV計
16,44…制御部
31…洗浄水供給装置、32…洗浄水供給管、33…洗浄排水管
41…次亜水注入装置、42…次亜水供給管、43…残留塩素計
51,52…圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜処理装置に供給される原水に凝集剤を注入する凝集剤注入装置を備え、
この凝集剤注入装置は前記原水のフミン質濃度に基づき凝集剤を前記原水に注入すること
を特徴とする膜処理システム。
【請求項2】
前記凝集剤注入装置は前記膜処理装置から排出されるろ過水のフミン質濃度に基づき前記凝集剤を前記原水に注入すること
を特徴とする請求項に1記載の膜処理システム。
【請求項3】
膜処理装置に洗浄水を供給する洗浄水供給装置を備え、
この洗浄水供給装置は前記膜処理装置から排出される洗浄排水のフミン質濃度に基づき前記洗浄水の供給の継続とその停止を行なうこと
を特徴とする請求項1または2に記載の膜処理システム。
【請求項4】
前記膜処理装置に供給される洗浄水に次亜水を注入する次亜水注入装置を備え、
この次亜水注入装置は前記膜処理装置から排出される洗浄排水の残留塩素濃度に基づき前記次亜水を前記洗浄水に注入すること
を特徴とする請求項3に記載の膜処理システム。
【請求項5】
前記次亜水注入装置は前記膜処理装置に供給される洗浄水の圧力と前記膜処理装置から排出される洗浄排水の圧力との差圧に基づき次亜水を洗浄水に注入すること
を特徴とする請求項4に記載の膜処理システム。
【請求項6】
前記フミン濃度の指標は紫外線吸光度または色度であることを特徴とする請求項1に記載の膜処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−126223(P2008−126223A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318066(P2006−318066)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】