説明

膜処理装置

【課題】安価かつ確実に膜破断の発生を検知する手段を備えた膜処理装置を提供する。
【解決手段】中空糸膜モジュール1の処理水出口ノズル12aは処理水配管41を介して膜破断検知部50に接続されている。中空糸膜4に破断が有る場合、コンプレッサCからの加圧気体は該破断部を通過して処理水室12に流出し、さらに処理水配管41を介して膜破断検知部50の電極51、エルボ70間を通過する。処理水中に気泡が存在する場合には、この気泡が電極51、エルボ70間を通過する際に、電極51、エルボ70間の電流又は電圧が変化する。この変化パターンから膜破断を検知する。エルボ70に縦引き部72が設けられ、この縦引き部72の下流側に電極51が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水を濾過する膜を備えた中空糸膜分離装置などの膜処理装置に係り、特に膜破断を検知する手段を備えた膜処理装置に関する。詳しくは、本発明は、膜処理装置における膜破断検知を気泡の検知により行うようにした膜処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
膜処理装置における膜の破断を検知する技術として、空気逆洗工程において破断箇所から漏れる気泡を目視、超音波センサ、粒子計、濁度計、光電センサによって検知する技術が提案されている。
【0003】
例えば、特開2001−269551号公報には、浄水処理装置における中空糸膜の破断を超音波流速計を用いて検知する方法が開示されている。当該公報の膜破断検知方法においては、処理水室を処理水で満たし、循環水室に加圧気体を吹き込む。中空糸膜が破断している場合には、加圧気体がこの破断部から中空糸膜内を通って処理水室に移動し、さらに処理水室に接続された処理水管から流出する。この処理水管内を通過する気体を該処理水管に設けた超音波流速計を用いて検出することによって、中空糸膜の破断を検知する。
【0004】
また特開2000−126563号公報には、ハウジング内が中空糸膜によって原水室と処理水室とに区画され、該ハウジングの該処理水室と接続された処理水排出管に空気溜まりが設けられた中空糸膜濾過装置において、原水室内に加圧空気を供給し、該加圧空気が中空糸膜の破断箇所から処理水室及び処理水排出管を通って空気溜まりに溜まり、該空気溜まりに溜まった空気を目視や水位計等で検知することによって中空糸膜の破断を確認する方法が開示されている。
【0005】
さらに、特開2003−144866号公報には、中空糸膜モジュール内が中空糸膜によって上部側の原水室と下部側の処理水室に区画され、該原水室の上部に中空糸膜破断検知用透明管を備えた気泡抜管が接続された中空糸膜モジュール式濾過装置において、空気逆洗時に処理水室内に圧入された空気が処理水室から中空糸膜の破断箇所及び原水室を通って気泡抜管に備えられた中空糸膜破断検知用透明管を通過し、該透明管内を通過する空気を目視又は光電センサで検知することにより、膜破断と判定する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−269551号公報
【特許文献2】特開2000−126563号公報
【特許文献3】特開2003−144866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
破断した膜を通過し、流路内を流れる液中に混入した気泡をセンサによって検知する場合、該センサが流路の内面付近に配置されていると、管状流路の中央付近を気泡が流れても検知されないことがある。
【0007】
本発明は、流路内を液と共に流れる気泡を確実に検知して膜破断を検知することができる膜処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の膜処理装置は、被処理液を濾過する膜と、該膜で隔てられた一方の側に気体又は気液混合液を流通させる手段と、該膜の破断検知のために該膜で隔てられた他方の側における気泡を検知する気泡検知器とを有する膜処理装置において、該膜を透過した液が流れる流路が設けられ、前記流路内に臨む下向き部位に設けられ、かつ前記流路は前記流路内上部に前記気泡が集まるようにされていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の膜処理装置は、被処理液を濾過する膜と、該膜で隔てられた一方の側に気体又は気液混合液を流通させる手段と、該膜の破断検知のために該膜で隔てられた他方の側における気泡を検知する気泡検知器とを有する膜処理装置において、該膜を透過した液が流れる横引き流路が設けられており、前記気泡検知器は、該横引き流路の、前記気泡が流路内上部に集められる部位より下流側の、流路内に臨む下向き部位に設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の膜処理装置は、被処理液を濾過する膜と、該膜で隔てられた一方の側に気体又は気液混合液を流通させる手段と、該膜の破断検知のために該膜で隔てられた他方の側における気泡を検知する気泡検知器とを有する膜処理装置において、該膜を透過した液が流れる横引き流路が設けられ、該横引き流路の途中に、液が上向きに流れる縦引き部が設けられており、前記気泡検知器は、該縦引き部よりも下流側における該横引き流路内に臨む下向き部位に設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の膜処理装置は、請求項3において、該縦引き部よりも上流側の横引き部から該縦引き部にかけての流路内に臨む上向き部位は、液の流れ方向に沿って湾曲していることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5の膜処理装置は、被処理液を濾過する膜と、該膜で隔てられた一方の側に気体又は気液混合液を流通させる手段と、該膜の破断検知のために該膜で隔てられた他方の側における気泡を検知する気泡検知器とを有する膜処理装置において、該膜を透過した液が上向きに流れる縦引き流路が設けられ、該縦引き流路の途中に、液が横向きに流れる横引き部が設けられており、前記気泡検知器は該横引き部の末端側における、流路内に臨む下向き部位に設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6の膜処理装置は、請求項5において、前記横引き部は、該横引き部よりも上流側の上流側縦引き部の上端に連なり、そこから側方に延出した第1横引き部と、該第1横引き部の延出方向末端に連なり、そこから該第1横引き部の延出方向と反対方向に延出した第2横引き部と、該第2横引き部の延出方向末端に連なり、前記第1横引き部の延出方向と平行方向に延出した第3横引き部とを備えてなり、該第3横引き部の末端が、該横引き部よりも下流側の下流側縦引き部に連なっており、該第2の横引き部の末端側における、流路内に臨む下向き部位に前記気泡検知器が設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項7の膜処理装置は、請求項6において、該上流側縦引き部と下流側縦引き部とは同軸状に配置されており、第1横引き部の長さと第3横引き部の長さとが略等しいことを特徴とするものである。
【0015】
請求項8の膜処理装置は、請求項5において、前記横引き部は、該横引き部よりも上流側の上流側縦引き部の上端に連なり、そこから側方に延出し、この横引き部の末端に、該横引き部よりも下流側の下流側縦引き部の下端が連なっていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項9の膜処理装置は、請求項5において、前記横引き部は、該横引き部よりも上流側の上流側縦引き部の上端に連なり、そこから側方に延出した第1横引き部と、該第1横引き部の延出方向末端に連なり、そこから該第1横引き部の延出方向と反対方向に延出した第2横引き部と、を備えてなり、該第2横引き部の末端が、該横引き部よりも下流側の下流側縦引き部に連なっており、該第2の横引き部の末端側における、流路内に臨む下向き部位に前記気泡検知器が設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
請求項10の膜処理装置は、請求項2,5ないし9のいずれか1項において、該横引き流路の長さは0.6m以上であることを特徴とするものである。
【0018】
請求項11の膜処理装置は、請求項1ないし10のいずれか1項において、前記気泡検知器は、該流路内の液に接するように配置された1対の電極であり、該膜処理装置は、膜破断検知手段として、該電極に定電圧を印加する電源と、該電極間を流れる電流を測定する測定部と、測定した電流値の変化のパターンから膜破断を判定する判定部とを有することを特徴とするものである。
【0019】
請求項12の膜処理装置は、請求項1ないし10のいずれか1項において、前記気泡検知器は、該流路内の液に接するように配置された1対の電極であり、該膜処理装置は、膜破断検知手段として、該電極間に定電流を通電する電源と、該電極間に発生する電圧を測定する測定部と、測定した電圧値の変化のパターンから膜破断を判定する判定部とを有することを特徴とするものである。
【0020】
請求項13の膜処理装置は、請求項1ないし10のいずれか1項において、前記気泡検知器は、該流路内の液に接するように配置された1対の電極であり、該膜処理装置は、膜破断検知手段として、該電極間における被処理液の導電率を測定する手段と、測定した導電率の変化のパターンから膜破断を判定する判定部とを有することを特徴とするものである。
【0021】
請求項14の膜処理装置は、請求項11ないし13のいずれか1項において、前記1対の電極のうちの一方は流路部材であり、他方は該流路部材と絶縁部材を介して隔てられている針状電極であることを特徴とするものである。
【0022】
なお、横引き流路、横引き部の傾斜角度は、水平方向に限定されず、気泡が流路内上部に捕集されれば若干傾斜していても良い。また、縦引き流路、縦引き部の傾斜角度は鉛直方向に限定されない。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の膜処理装置において、破断した膜を通過した気泡が液と共に流路内を流れる場合、該流路を気泡が流路内上部に集まるような構造にすることによって気泡が浮上して流路内上部に集まってくるので、この流路内面の上部に気泡検知器を設けておくことにより気泡を確実に検知することができる。
【0024】
請求項2の膜処理装置において、破断した膜を通過した気泡が液と共に横引き流路内を流れる場合、気泡は浮上して次第に流路内面の上部に集まってくるので、気泡が流路内上部に集まっている部位より下流側における流路内面の上部に気泡検知器を設けておくことにより気泡を確実に検知することができる。
【0025】
請求項3の膜処理装置において、破断した膜を通過した気泡が液と共に横引き流路内を流れる場合、この横引き流路の途中に縦引き部を設けると、上流側横引き部から該縦引き部にかけて液が流れる際に遠心力が作用し、気泡が流路内の上部に集められるようになる。このため、この縦引き部よりも下流側における横引き流路内面の上部に気泡検知器を設けておくことにより気泡を確実に検知することができる。
【0026】
請求項4の通り、該上流側横引き流路から該縦引き部にかけての流路内に臨む上向き部位を液の流れ方向に沿って湾曲させると、液の流れがスムーズとなり、遠心力による気泡分離が促進される。
【0027】
請求項5の膜処理装置においては、破断した膜を通過した気泡は、縦引き流路内を液と共に上向きに流れる。この縦引き流路の途中に横引き部を設けているので、気泡及び液がこの横引き部を流れる間に気泡は浮上して横引き部の上側に集まる。従って、横引き部の末端側の流路内に臨む下向き部位に気泡検知器を設けておくことにより、気泡を効率よく検知することができる。
【0028】
請求項6の膜処理装置にあっては、縦引き部に対し左右両方向に第2横引き部が張り出すように第2横引き部を配設することができる。このため、横引き部の左右の重量バランスをとることができ、横引き部の支承構造が簡易となる。
【0029】
特に、請求項7のように、上流側及び下流側の縦引きが同軸状に設置されているときには、第1横引き部の長さと第2横引き部の長さとを略等しくすることにより、横引き部の左右の重量バランスがとれ、横引き部の支承構造が簡易となる。
【0030】
ただし、請求項8又は9のように、横引き部が1本又は2本のみ設けられてもよい。
【0031】
請求項10のように、この横引き部の長さを0.6m以上とすることにより、気泡が十分に浮上する。
【0032】
請求項11ないし13の膜処理装置にあっては、膜が破断している場合、気泡が膜を隔てた一方の側から破断部を通って他方の側に流入し、該他方の側の液に気泡が混入する。そして、この気泡が電気抵抗の検知部を通過することにより液の電気抵抗が変化する。従って、この電気抵抗の変化から、膜破断を検知することができる。
【0033】
この請求項11〜13の膜処理装置では、前記流路に1対の電極を配置しておき、膜破断が生じたときには気泡が該電極間を流れるように構成してある。この電極間に気泡が流入してくると、電極間に液のみが流れている場合と比較して、電極間の電気抵抗が変化する。従って、この電気抵抗の変化に基づいて膜破断の発生を検知することができる。
【0034】
液の電気抵抗の変化の検知は簡易な装置で行うことができるため、設備費が安価なものとなる。
【0035】
この液の抵抗の変化を検知するには、該1対の電極間に定電圧を印加しておき、電極間の電流値を検知してもよい(請求項11)。
【0036】
また、電極間に定電流を通電しておき、電極間の電圧の変化を検知してもよい(請求項12)。さらに、電極間の導電率の変化を検知し、この導電率の変化を液の電気抵抗の変化の指標値としてもよい(請求項13)。
【0037】
この電流値、電圧値又は導電率の変化から膜の破断を判定するには、破断した膜を有する膜処理装置に気体又は気液混合液を流通させて前記電圧、電流又は導電率の変化パターンを検出し、この変化パターンを記憶手段に記憶させておき、膜破断が未確認の膜処理装置に気体又は気液混合液を流通させて前記電圧、電流又は導電率のパターンを検出し、このパターンを前記記憶手段に記憶された変化パターンと対比するのが簡便である。
【0038】
なお、請求項14のように流路部材を電極として利用することにより、膜破断検知手段を小スペースにて設置することができる。また、電極を針状とすることにより、気泡が電極に接触した際の電流又は電圧変動が顕著となるので、膜破断検知が鋭敏なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。
【0040】
第1図は本発明の実施の形態に係る膜処理装置の模式図、第2図は第1図の膜破断検知装置のブロック図である。なお、第1図では図面を明瞭とするために中空糸膜を4本としているが、実際には中空糸膜は多数本配置されている。
【0041】
内圧式中空糸膜モジュール1のケーシング2内に、複数本の中空糸膜4が束ねられて配置されている。この中空糸膜4の束の下端及び上端はそれぞれ合成樹脂等よりなる封止材6,8によって結束されている。この封止材6,8は、例えば円盤状とされ、その外周面若しくは外周縁部がケーシング2の内面に水密的に接している。下側の封止材6の下側に原水室10が形成され、上側の封止材8の上側に循環水室14が形成され、両封止材6,8の間に処理水室12が形成されている。
【0042】
中空糸膜4の上端側は封止材8を貫通しており、その上端の開口4aは循環水室14に臨んでいる。同様に、中空糸膜4の下端側は封止材6を貫通しており、その下端の開口4bは原水室10に臨んでいる。
【0043】
ケーシング2の原水室10側には、原水入口ノズル10a及び気体入口ノズル10bが設けられている。原水入口ノズル10aは、原水配管21、原水弁V及び原水ポンプPを介して原水槽20に接続されている。原水配管21の原水ノズル10aと原水弁Vとの間の箇所から、排水弁Vを備えた排水配管24が分岐している。気体入口ノズル10bはバルブVを備えた気体配管27を介してコンプレッサCと接続されている。
【0044】
ケーシング2の循環水室14側には循環水出口ノズル14aが設けられている。この循環水出口ノズル14aは、循環水弁Vを備えた循環水配管31を介して原水槽20と接続されている。この循環水配管31の循環水出口ノズル14aと循環水弁Vとの間の箇所から、ベント弁Vを備えたベント配管33が分岐している。
【0045】
ケーシング2の処理水室12側の上部には処理水出口ノズル12aが設けられている。この処理水出口ノズル12aは処理水配管41を介して膜破断検知部50に接続されており、この膜破断検知部50は処理水配管42を介して処理水槽40に接続されている。なお、第1図は内圧式の場合を示しているが、本発明はこれに限らず外圧式でも実施できる。
【0046】
第2図の通り、膜破断検知部50にあっては、配管41,42間に、クランク状に曲成された流路部材としての金属製のエルボ70が設けられている。このエルボ70は、配管41が一直線状に連なる上流側横引き部71と、下端が上流側横引き部71に連なり、上端が下流側横引き部73に連なる縦引き部72とを有する。上流側横引き部71から縦引き部72にかけての流路内面のうち上向き面74は、流れ方向に沿って略円弧状に湾曲している。下流側横引き部73に臨む流路内面のうち下向き部分(天井部分)76に、電気絶縁材料77を介して針状電極51が設けられている。この針状電極51は流路内面から若干突出している。
【0047】
配管41及び横引き部71内を流れる液に気泡が含まれていると、この気泡は比重差に基づいて次第に浮上してくる。この液が湾曲した上向き面74に沿って流れると、遠心力が作用し、低比重の気泡は該上向き面74から離反する力を受け、浮上が促進される。このため、縦引き部72を通過した液中の気泡は、その多くが縦引き部72の上側の内面75及び下流側横引き部73の天井部分76に沿って流れるようになり、気泡が電極51直近を流れるようになる。
【0048】
電極51付近を流れる気泡の検知機構について、次に第3,4図を参照して説明する。
【0049】
第3図の通り、膜破断検知を行うために、電極51とエルボ70とに電圧を印加する電源52と、電極51とエルボ70との間の電流、電圧又は導電率を計測する計測部53と、電流、電圧又は導電率の経時変化を記憶する記憶部55と、電流、電圧又は導電率の経時変化のパターンから気泡の発生を判定する判定部56とが設けられている。
【0050】
なお、処理水のpHの影響を受けないように、電極51、エルボ70の材料は白金やステンレスであることが好ましい。
【0051】
第4図には、定電圧源として乾電池を用い、電極51、エルボ70間に流れる電流の変化をトランジスタで増幅して検知するように構成した定電圧方式の膜破断検知回路図が示されている。
【0052】
エルボ70がNPN型トランジスタTのベースと接続され、電極として用いられている。トランジスタTのコレクタが抵抗R,Rを介して電極51と接続されている。トランジスタTのエミッタが乾電池68の陰極と接続されている。乾電池68の陽極が上記抵抗RとRとの間の箇所と接続されている。抵抗Rの電圧降下を測定するように電圧計Vが設けられている。エルボ70と電極51との間に乾電池68から定電圧が印加されている。エルボ70内を水のみが流通するときは、エルボ70と電極51との間の電流値は一定であるが、エルボ70内を気泡が通過するとこの電流値が低下する。この電流変化がトランジスタTで増幅され、トランジスタTのコレクタ電流が変化し、電圧計Vで検出される抵抗Rの両端間の電圧が変化する。この電圧計Vの検出電圧の変化より、エルボ70内の気泡通過が検知される。特に、この第3,4図の検知機構では気泡が針状電極51に接することにより、電極51を流れる電流値が大幅に変化するので、気泡を敏感に検知することができる。
【0053】
次に、膜破断検知方式を定電圧方式とした場合の作動内容を説明する。電源52が電極51、エルボ70間に一定の電圧を印加する。この印加電圧により、電極51、エルボ70間に処理水の電気抵抗に応じた電流が流れる。水中に気泡が存在する場合には、この気泡が電極51、エルボ70間を通過する際に、電極51、エルボ70間の電流が変化する。
【0054】
この電極51、エルボ70間の電流値を計測部53が計測する。
【0055】
次いで、記憶部55に記憶された電流値の変化パターンと、計測部53で計測した電流値の経時変化パターンとが判定器56で対比され、膜破断の有無が判定される。
【0056】
膜破断検知を定電流方式とした場合には、電源52が電極51、エルボ70間に定電流が流れるように電圧を印加する。水中に気泡が存在する場合には、この気泡が電極51、エルボ70間を通過する際に、電極51、エルボ70間の電圧が変化する。この電極51、エルボ70間の電圧値を計測部53が計測する。次いで、記憶部55に記憶された電圧値の変化パターンと、計測部53で計測した電圧値の経時変化パターンとが判定器56で対比され、膜破断の有無が判定される。
【0057】
膜破断検知を導電率検知方式とした場合には、電源52が電極51、エルボ70間に所定の電圧を印加し、電極51、エルボ70間に電流を通電させる。水中に気泡が存在する場合には、この気泡が電極51、エルボ70間を通過する際に、電極51、エルボ70間の導電率が変化する。この変化を計測部53が計測し、次いで、記憶部55に記憶された導電率の変化パターンと、計測された導電率の経時変化パターンとが判定器56で対比され、膜破断の有無が判定される。
【0058】
このように構成された膜処理装置の通常運転時及び洗浄運転時の水又は気体の流れは次の通りである。
【0059】
[通常運転時]
通常運転時には、弁V,Vを開とし、その他の弁(V,V,V)を閉とし、原水ポンプPを作動する。原水槽20内の原水は、原水配管21、原水ポンプP、弁Vを通り、原水入口ノズル10aから原水室10内に流入する。原水室10内の原水は、中空糸膜4の下端の開口4bから中空糸膜4内に流入し、この原水の一部は中空糸膜4を透過して処理水室12内に流入し、残りは中空糸膜4の上端の開口4aから循環水室14内に流入する。
処理水室12内の処理水は処理水出口ノズル12aから流出し、処理水配管41、膜破断検知装置50及び配管42を介して処理水槽40に送水される。
循環水室14内の循環水は循環水出口ノズル14aから流出し、循環水配管31、弁Vを介して原水槽20に送水される。
【0060】
[気水混合水による洗浄]
膜処理装置を気水混合水で洗浄するときには、上記通常運転の状態において、弁Vを開とし、コンプレッサCを作動する。これにより、コンプレッサCからの加圧気体が、原水ポンプPによって供給された原水と共に中空糸膜4の内部を通過し、中空糸膜4を洗浄する。
中空糸膜4の内部を通過した気体と原水の混合物は循環水室14に流入し、さらに排水管33を介して系外に排出される。
【0061】
[気体による洗浄]
気体による洗浄を行うには、上記水及び気体の混合洗浄運転において、原水ポンプPを停止し、弁Vを閉とした状態とする。これにより、中空糸膜4の内部や原水室10内等に残留している原水と加圧気体との混合水によって中空糸膜4が洗浄される。
【0062】
[膜破断の検知]
膜破断を検知するには、検知作動に先立って、まず膜破断が確認されている膜モジュールを第1図の通りに組み込み、上記通常運転を行って膜モジュール内に水を満たした後、上記「気水混合水による洗浄」を行う。
この膜破断が存在する膜モジュールにおいて気水混合水による洗浄を行うと、コンプレッサCからの加圧気体の一部は、中空糸膜4の破断部を通過して気泡となって処理水室12に流出し、この気泡が処理水配管41を介して膜破断検知装置50を通過する。
この気泡が膜破断検知装置50を通過する際に電極51、エルボ70間の導電率が変化する。即ち、電極51、エルボ70間に気泡が入り込んでくると、電極51、エルボ70間の電気抵抗が増大する。従って、電極51、エルボ70間に定電圧電源から定電圧を印加しているときには、この電極51、エルボ70間の電流値が低下し、気泡が電極51、エルボ70間を通り過ぎると、電極51、エルボ70間の電流値は元に戻る。
【0063】
この気泡通過に伴う電流の変化を電圧変化に変換した波形図の一例が第5図(b)に示されている。記憶部55では、この電圧の変化パターンを記憶する。例えば、第5図(b)の如き電圧の変化を2値化処理してパルス波形に変換し、パルスの周波数及び周期の平均値を記憶しておく。
【0064】
実際の水処理装置に組み込まれた膜モジュールの膜破断検知を行うには、この膜モジュールについて気水混合水による洗浄を行い、電極51、エルボ70間の電流変化に伴う電圧変化を測定する。膜破断が無ければ、通常は電圧は第5図(a)の如く一定となるので、判定部56により膜破断なしと判定される。
【0065】
変化パターンが検知される場合、判定部では、この検知された変化パターンを記憶されている変化パターンと対比し、膜破断であるか否かを判定する。例えば、電圧変化を2値化して得られたパルスパターンの周期及び周波数が記憶された平均値に基づいて定められる所定範囲内にあれば膜破断ありと判定し、該所定範囲外のものであれば膜破断なしと判定する。
【0066】
なお、このように変化パターンを対比して膜破断の判定を行うため、原水水質の変動などの外乱に伴う電圧変化があっても膜破断とは判定されず、判定の精度がきわめて高いものとなる。
【0067】
この説明では、定電圧電源により電極51、エルボ70間に電流を通電して変化を測定しているが、定電流電源により定電流を電極51、エルボ70間に通電し、気泡通過に伴う印加電圧変化を測定し、その変化パターンから膜破断を判定してもよい。
【0068】
また、電極51、エルボ70間の導電率を測定し、この導電率の変化パターンに基づいて膜破断を判定してもよい。
【0069】
膜破断検知工程の終了後、膜破断が有る場合は膜モジュール1内の中空糸膜4を交換し、次いで前記通常運転を再開する。
【0070】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記実施の形態では、洗浄運転と膜破断検知運転とを別としたが、洗浄運転中に膜破断検知装置50をONとして、膜破断の有無を検知するようにしてもよい。
【0071】
上記実施の形態では、コンプレッサCを原水室10と接続し、中空糸膜4の内部に気体を導入するようにしたが、コンプレッサCを処理水室12と接続し、中空糸膜4の外側に気体を導入して気体逆洗するようにしてもよい。この場合、膜破断検知装置50を、例えば循環水配管31に設けることにより、膜破断を検知することができる。
【0072】
上記実施の形態では膜モジュール1は内圧式中空糸モジュールであるが、外圧式中空糸モジュールであってもよい。この場合も、コンプレッサを原水側に設け、膜破断検知装置を処理水側に設けてもよく、逆にコンプレッサを処理水側に設け、膜破断検知装置を原水側に設けてもよい。
【0073】
上記実施の形態では、膜モジュール1は1基であったが、2基以上あってもよい。膜モジュールが複数基ある場合、コンプレッサC及び膜破断検知装置50は各モジュール毎に1つずつ設けられていてもよく、共用されていてもよい。コンプレッサC及び膜破断検知装置50を共用した場合における各膜モジュールの膜破断検知手順は、例えば以下の通りである。
【0074】
コンプレッサCからの加圧気体を第1の膜モジュールのみに導入し、膜破断検知装置によって膜破断の有無を検知する。第1の膜モジュールの膜破断検知が終了した後、第1の膜モジュールへの加圧気体の導入を停止し、次いで第2の膜モジュールのみに加圧気体を導入し、膜破断検知装置によって膜破断の有無を検知する。同様に、第3の膜モジュールから最後の膜モジュールの膜破断検知を順次行う。
【0075】
膜破断の発生を検知すると、例えば管理室内の警告ランプが点滅し、どの膜モジュールに膜破断が発生したかを保守管理担当者に通知する。通知を受けた保守管理担当者は膜破断が発生している膜モジュールの運転を停止し、膜モジュールを新しいものに交換し、通常運転を再開する。膜破断した膜モジュールは修理し、再利用する。
【0076】
上記実施の形態では膜として中空糸膜を用いたが、これに限定されるものではなく、例えばスパイラル膜等であってもよい。
【0077】
第6図(a)は本発明の別の実施の形態に係る膜処理装置に用いられる流路部材86の縦断面図、第6図(b)は同(a)のB−B線断面図である。
【0078】
この流路部材86は、上向きに延在した第1縦引き流路80と、該第1縦引き流路80の上端に連なり、横方向に延出した第1横引き流路81と、該第1横引き流路81の延出方向末端に連なり、第1横引き流路81の上側をその延出方向と反対方向に延出した第2横引き流路82と、該第2横引き流路82の延出方向末端に連なり、その上側を第2横引き流路82の延出方向と反対方向に延出した第3横引き流路83と、該第3横引き流路83の延出方向末端に連なり、上向きに延在した第2縦引き流路84とを有する。縦引き流路80の下端と縦引き流路84の上端とにはそれぞれフランジ85が設けられている。
【0079】
水は第1縦引き流路80から該流路部材86内に流入し、流路81,82,83,84の順に流れる。
【0080】
横引き流路81,82,83のうちで第2横引き流路82は最も長く、ここを流れる間に水中の気泡は浮上し、該第2横引き流路82の天井面に集まってくる。そのため、この第2横引き流路82の末端側の下向き部分(天井部分)Sに電極51(図示略)を設けることにより、気泡を確実に検知することができる。
【0081】
第6図では横引き流路が3段に設けられているが、第7図のように横引き流路91が1段のみ設けられてもよく、第8図のように横引き流路92,93が2段に設けられてもよい。なお、横引き流路91及び横引き流路93の末端側の上面部分Sに電極51(図示略)が設けられる。
なお、横引き流路の長さは、気泡が配管内壁上部に十分捕集されるだけの長さが必要である。逆洗時の濾過水側の流速は0.1〜0.3m/秒であり、気泡が比重差によって上部に捕集されるまでの時間は約2秒なので、必要な横引き流路の長さ(横引き流路の開始部分から電極51の設置箇所までの道のり長さ。)は0.2〜0.6mになる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施の形態に係る膜処理装置の模式図である。
【図2】図1の膜破断検知部の断面図である。
【図3】図1の膜処理装置に組み込まれた膜破断検知装置のブロック図である。
【図4】実施例で用いられる膜破断検知装置の回路図である。
【図5】(a)は中空糸膜が切断されていない場合における電圧の経時変化を示す図であり、(b)は中空糸膜が1本切断されている場合における電圧の経時変化を示す図である。
【図6】(a)は本発明の別の実施の形態に係る膜処理装置に用いられる流路部材86の縦断面図、(b)は同(a)のB−B線断面図である。
【図7】別の横引き流路の説明図である。
【図8】さらに別の横引き流路の説明図である。
【符号の説明】
【0083】
1 内圧式中空糸膜モジュール
2 ケーシング
4 中空糸膜
6,8 封止材
10 原水室
12 処理水室
14 循環水室
20 原水槽
40 処理水層
50 膜破断検知部
51 電極
70 エルボ
71 第1横引き流路
72 縦引き流路
73 第2横引き流路
80 第1縦引き流路
81 第1横引き流路
82 第2横引き流路
83 第3横引き流路
84 第2縦引き流路
86 流路部材
90 膜処理装置
91,92,93 横引き流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液を濾過する膜と、
該膜で隔てられた一方の側に気体又は気液混合液を流通させる手段と、
該膜の破断検知のために該膜で隔てられた他方の側における気泡を検知する気泡検知器とを有する膜処理装置において、
該膜を透過した液が流れる流路が設けられ、該流路内に臨む下向き部位に該気泡検知器が設けられ、かつ前記流路は前記流路内上部に前記気泡が集まるようにされていることを特徴とする膜処理装置。
【請求項2】
被処理液を濾過する膜と、
該膜で隔てられた一方の側に気体又は気液混合液を流通させる手段と、
該膜の破断検知のために該膜で隔てられた他方の側における気泡を検知する気泡検知器とを有する膜処理装置において、
該膜を透過した液が流れる横引き流路が設けられており、
前記気泡検知器は、該横引き流路の、前記気泡が流路内上部に集められる部位より下流側の、流路内に臨む下向き部位に設けられていることを特徴とする膜処理装置。
【請求項3】
被処理液を濾過する膜と、
該膜で隔てられた一方の側に気体又は気液混合液を流通させる手段と、
該膜の破断検知のために該膜で隔てられた他方の側における気泡を検知する気泡検知器とを有する膜処理装置において、
該膜を透過した液が流れる横引き流路が設けられ、
該横引き流路の途中に、液が上向きに流れる縦引き部が設けられており、
前記気泡検知器は、該縦引き部よりも下流側における該横引き流路内に臨む下向き部位に設けられていることを特徴とする膜処理装置。
【請求項4】
請求項3において、該縦引き部よりも上流側の横引き部から該縦引き部にかけての流路内に臨む上向き部位は、液の流れ方向に沿って湾曲していることを特徴とする膜処理装置。
【請求項5】
被処理液を濾過する膜と、
該膜で隔てられた一方の側に気体又は気液混合液を流通させる手段と、
該膜の破断検知のために該膜で隔てられた他方の側における気泡を検知する気泡検知器とを有する膜処理装置において、
該膜を透過した液が上向きに流れる縦引き流路が設けられ、
該縦引き流路の途中に、液が横向きに流れる横引き部が設けられており、
前記気泡検知器は該横引き部の末端側における、流路内に臨む下向き部位に設けられていることを特徴とする膜処理装置。
【請求項6】
請求項5において、前記横引き部は、
該横引き部よりも上流側の上流側縦引き部の上端に連なり、そこから側方に延出した第1横引き部と、
該第1横引き部の延出方向末端に連なり、そこから該第1横引き部の延出方向と反対方向に延出した第2横引き部と、
該第2横引き部の延出方向末端に連なり、前記第1横引き部の延出方向と平行方向に延出した第3横引き部と
を備えてなり、
該第3横引き部の末端が、該横引き部よりも下流側の下流側縦引き部に連なっており、
該第2の横引き部の末端側における、流路内に臨む下向き部位に前記気泡検知器が設けられていることを特徴とする膜処理装置。
【請求項7】
請求項6において、該上流側縦引き部と下流側縦引き部とは同軸状に配置されており、
第1横引き部の長さと第3横引き部の長さとが略等しいことを特徴とする膜処理装置。
【請求項8】
請求項5において、前記横引き部は、該横引き部よりも上流側の上流側縦引き部の上端に連なり、そこから側方に延出し、
この横引き部の末端に、該横引き部よりも下流側の下流側縦引き部の下端が連なっていることを特徴とする膜処理装置。
【請求項9】
請求項5において、前記横引き部は、
該横引き部よりも上流側の上流側縦引き部の上端に連なり、そこから側方に延出した第1横引き部と、
該第1横引き部の延出方向末端に連なり、そこから該第1横引き部の延出方向と反対方向に延出した第2横引き部と、
を備えてなり、
該第2横引き部の末端が、該横引き部よりも下流側の下流側縦引き部に連なっており、
該第2の横引き部の末端側における、流路内に臨む下向き部位に前記気泡検知器が設けられていることを特徴とする膜処理装置。
【請求項10】
請求項2,5ないし9のいずれか1項において、該横引き流路又は該気泡検知器が設けられている横引き部の長さは0.6m以上であることを特徴とする膜処理装置。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項において、前記気泡検知器は、該流路内の液に接するように配置された1対の電極であり、
該膜処理装置は、膜破断検知手段として、該電極に定電圧を印加する電源と、該電極間を流れる電流を測定する測定部と、測定した電流値の変化のパターンから膜破断を判定する判定部とを有することを特徴とする膜処理装置。
【請求項12】
請求項1ないし10のいずれか1項において、前記気泡検知器は、該流路内の液に接するように配置された1対の電極であり、
該膜処理装置は、膜破断検知手段として、該電極間に定電流を通電する電源と、該電極間に発生する電圧を測定する測定部と、測定した電圧値の変化のパターンから膜破断を判定する判定部とを有することを特徴とする膜処理装置。
【請求項13】
請求項1ないし10のいずれか1項において、前記気泡検知器は、該流路内の液に接するように配置された1対の電極であり、
該膜処理装置は、膜破断検知手段として、該電極間における被処理液の導電率を測定する手段と、測定した導電率の変化のパターンから膜破断を判定する判定部とを有することを特徴とする膜処理装置。
【請求項14】
請求項11ないし13のいずれか1項において、前記1対の電極のうちの一方は流路部材であり、他方は該流路部材と絶縁部材を介して隔てられている針状電極であることを特徴とする膜処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−110464(P2006−110464A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300345(P2004−300345)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】