説明

膜分離方法

【課題】膜分離装置の給水に、スルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤を添加して膜分離処理する方法において、該酸化剤による殺菌効果を有効に作用させて、膜劣化を防止した上で膜の閉塞をより一層確実に防止して、薬品洗浄頻度を低減し、長期に亘り安定した膜分離処理を継続する。
【解決手段】定期的に又は不定期的に、通常の酸化剤添加量の2〜10倍量の酸化剤を添加する。通常時の酸化剤添加量よりも多い酸化剤添加量とするという簡便な操作で、微生物の増殖を防止すると共に、膜の閉塞物質を剥離除去し、透過水量を初期状態に維持することが可能となる。このように、高濃度添加を行っても、スルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤の酸化能力は次亜塩素酸ナトリウムやクロラミンなどと比較して著しく低いため、短期間であれば、機器、配管や透過膜には影響を及ぼすことはなく、膜劣化の問題が生じることはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離装置の給水に、スルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤を添加して膜分離処理する方法において、該酸化剤による殺菌効果を有効に作用させて、長期に亘り安定運転を継続する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶や半導体などを製造する電子産業分野においては、製造時に大量の超純水ないし純水を使用する。また、近年では、水資源を有効に利用するために、使用済純水や排水を回収して再生、再利用する排水処理装置の導入が進んでいる。
【0003】
このような純水製造装置、排水回収装置などの水処理装置においては、圧力濾過装置、重力濾過装置、凝集沈澱処理装置、加圧浮上濾過装置、浸漬膜装置、膜式前処理装置などの前処理装置、さらに微小な微粒子や高分子成分を除去する精密濾過(MF)膜分離装置や限外濾過(UF)膜分離装置、電解質や中低分子の有機成分の除去が可能な逆浸透(RO)膜分離装置、電解質などのイオン性物質を除去するイオン交換樹脂装置や電気再生式連続純水装置、炭酸ガスなどの溶存ガスを除去する真空脱気塔や膜脱気装置、有機成分を酸化除去する紫外線酸化装置、微生物を死滅させる紫外線殺菌装置、有機成分を除去する生物処理装置や活性炭充填塔など、様々な装置、ユニットを組み合わせて目的の水質を得る。
【0004】
図1(a)は、このような装置を組み合わせてなる水処理装置の一例を示す系統図であり、工水、市水等の原水は、重力濾過器1、濾過水槽2、熱交換器3、保安フィルター4を経てRO膜分離装置5で膜分離処理され、透過水は膜脱気装置6、イオン交換樹脂装置7、及びMF膜又はUF膜分離装置8で更に処理されて純水が製造され、製造された純水はユースポイントに送給されるか、或いはサブシステムに送給されて更に処理されて超純水となる。
【0005】
このような水処理装置においては、原水中に含まれる微生物が、装置配管内や膜面で増殖してスライムを形成し、水槽内の微生物繁殖による臭気発生、膜の透過水量低下といった障害を引き起こすことがある。微生物による汚染を防止するためには、原水に殺菌剤を常時又は間欠的に添加し、被処理水又は装置内を殺菌しながら処理する方法が一般的である。
【0006】
通常、重力濾過処理、凝集沈殿処理などの前処理装置においては、次亜塩素酸ナトリウムなどの遊離塩素系酸化剤で微生物の殺菌を行うが、ポリアミド系RO膜は遊離塩素に対する耐性が低いため、RO膜の前段で重亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を注入して遊離塩素を還元除去し、その後、クロラミンやクロロスルファミン酸ナトリウムといった結合塩素系酸化剤や、イソチアゾロン系化合物などの微生物増殖を抑制する化合物を含有するスライムコントロール剤を添加して、RO膜での微生物増殖を抑制する方法などが採られている(特許文献1〜3)。特に、特許文献3に記載されるスルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤は、従来よりも酸化力が低いにもかかわらず、高い殺菌効果を得ることができる。これは、スルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤には、殺菌効果と併せて、付着したスライムないし微生物やそれらが排出する代謝物を剥離除去する効果があるためと考えられている。
【0007】
この特許文献3に記載されるスルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤は、水中で安定な結合塩素剤であるクロロスルファミン酸塩を形成し、この結合塩素剤により、安定した遊離塩素濃度を維持することにより、透過膜の劣化を引き起こすことなく、良好な剥離効果を発揮する。即ち、このようなクロロスルファミン酸塩が形成される結果、原水水質の変動や事故により膜分離装置の給水のpHが変動した場合においても、給水中の遊離塩素濃度は大きく変動しないため、安定した微生物の殺菌・増殖抑制効果を得ることができ、また、遊離塩素濃度が瞬間的にも増加するようなことがないため、耐塩素性の低いポリアミド系高分子等を素材とする透過膜を用いる場合においても、透過膜の酸化劣化を回避することができ、効率良く膜分離を行うことが可能となる。
【0008】
この特許文献3では、水中の塩素系酸化剤濃度が0.1〜1000mg/L、好ましくは1〜200mg/Lとなるように、この酸化剤を添加することが好ましいと記載され、実施例では、残留塩素濃度が50mg−Cl/L、又は100mg−Cl/Lとなるように定量注入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平1−104310号公報
【特許文献2】特開平1−135506号公報
【特許文献3】特開2006−263510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に記載されるスルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤であれば、透過膜の酸化劣化を防止した上で安定した微生物の殺菌・増殖抑制効果を得、膜の閉塞を防止して、長期に亘り安定した膜分離処理を行うことができるが、この酸化剤を使用していても、MF膜、RO膜などの透過膜がスライムや代謝物等で閉塞し、トラブルになるケースが散見される。膜がスライムや代謝物等で閉塞した場合には、装置の運転を停止し、酸又はアルカリによる薬品洗浄を行うが、薬品洗浄を行うためには、一時的に洗浄対象の装置系列を停止し、洗浄装置に接続する必要がある。この洗浄作業には、多くの場合、1〜3日程度を要し、その間は採水量が減少し、他の系列の装置の負荷が高くなる結果、他の系列の閉塞が早くなるといった課題があった。
【0011】
このため、スルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤を用いる場合においても、膜劣化を防止した上で膜の閉塞をより一層確実に防止して、薬品洗浄頻度を低減し、長期に亘り安定した膜分離処理を継続する技術の開発が望まれる。
【0012】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、膜分離装置の給水に、スルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤を添加して膜分離処理する方法において、該酸化剤による殺菌効果を有効に作用させて、膜劣化を防止した上で膜の閉塞をより一層確実に防止して、薬品洗浄頻度を低減し、長期に亘り安定した膜分離処理を継続する膜分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、給水にスルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤を添加して膜分離処理する運転中に、MF膜、RO膜などの透過膜にスライムや代謝物等が付着、堆積しても、この酸化剤を通常時の2〜10倍量の濃度となるように添加して短期間内で系内洗浄を行うことにより、微生物の増殖を防止し、かつ、透過膜の閉塞物質を剥離除去することができ、透過水量を初期状態に維持することができる一方で、スルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤の酸化能力は次亜塩素酸ナトリウムやクロラミンなどと比較して著しく低いため、短期間であれば高濃度で添加しても、機器、配管や透過膜には悪影響を及ぼさないことを知見し、本発明に到達した。
【0014】
即ち、本発明(請求項1)の膜分離方法は、膜分離装置の給水に、スルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤を添加して膜分離処理する方法において、定期的に又は不定期的に、通常の該酸化剤添加量の2〜10倍量の該酸化剤を添加することを特徴とする。
【0015】
請求項2の膜分離方法は、請求項1において、定期的に又は不定期的に、下記式[2]で算出される酸化剤添加量の増加率Zが1.0より大きく、2.0未満となるように、前記酸化剤を添加することを特徴とする。
【0016】
【数1】

【0017】
([2]式中、Mo、T、Mx、Txは次の通りである。
Mo:通常の酸化剤添加量で添加しているときの給水の酸化剤濃度
T:通水時間
Mx:通常の酸化剤添加量の2〜10倍量の酸化剤を添加しているときの給水の酸化 剤濃度
Tx:給水の酸化剤濃度Mxで通水する時間)
【0018】
請求項3の膜分離方法は、請求項1又は2において、前記酸化剤を、前記給水のスルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤の濃度が0.1〜1000mg/Lの範囲となるように添加することを特徴とする。
【0019】
請求項4の膜分離方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記膜分離装置が逆浸透膜分離装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、給水にスルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤を添加して膜分離処理する運転期間中に、定期的に又は不定期的に、所定の短期間、通常時の酸化剤添加量よりも多い酸化剤添加量とするという簡便な操作で、微生物の増殖を防止すると共に、膜の閉塞物質を剥離除去し、透過水量を初期状態に維持することが可能となる。このように、高濃度添加を行っても、スルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤の酸化能力は次亜塩素酸ナトリウムやクロラミンなどと比較して著しく低いため、短期間であれば、機器、配管や透過膜には悪影響を及ぼすことはなく、膜劣化の問題が生じることはない。
従って、スルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤による殺菌効果を有効に作用させて、膜劣化を防止した上で膜の閉塞をより一層確実に防止して、薬品洗浄頻度を低減し、長期に亘り安定した膜分離処理を継続することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】膜分離装置を備える水処理装置の構成例を示す系統図であり、(a)図は従来例を示し、(b)図は実施例の採用例を示す。
【図2】実施例1及び比較例1,2におけるRO膜の除去率と透過水量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の膜分離方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
まず、本発明で用いるスルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤について説明する。(以下、この酸化剤を「クロロスルファミン酸塩系酸化剤」と称す場合がある。)
【0024】
本発明で用いるクロロスルファミン酸塩系酸化剤とは、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物、或いは塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる結合塩素剤を含むものである。
【0025】
膜分離装置の給水に、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物を添加することにより、水中に安定な結合塩素剤であるクロロスルファミン酸塩が形成され、この結合塩素剤により、安定した遊離塩素濃度を維持することにより、透過膜の劣化を引き起こすことなく、スライム防止処理を行うことが可能となる。即ち、スルファミン酸化合物を用いることで、クロラミン(モノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン、クロラミン−T等)と比較して、pHに対して安定化した酸化剤とすることができる。また、結合塩素が主成分であるため、膜劣化を最小限に抑えることができる。
【0026】
本発明で用いる塩素系酸化剤に特に制限はなく、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸又はその塩、亜塩素酸又はその塩、塩素酸又はその塩、過塩素酸又はその塩、塩素化イソシアヌル酸又はその塩などを挙げることができる。これらのうち、塩形のものの具体例としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムなどの次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウムなどの次亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウムなどの亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸バリウムなどの亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ニッケルなどの他の亜塩素酸金属塩、塩素酸アンモニウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウムなどの塩素酸アルカリ金属塩、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウムなどの塩素酸アルカリ土類金属塩などを挙げることができる。これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらの中で、次亜塩素酸塩は取り扱いが容易であり、好適に用いることができる。
【0027】
一方、本発明で用いるスルファミン酸化合物としては、下記一般式[1]で表される化合物又はその塩が挙げられる。
【0028】
【化1】

(ただし、一般式[1]において、R及びRは、各々独立に、水素又は炭素数1〜8の炭化水素基である。)
【0029】
このようなスルファミン酸化合物としては、例えば、RとRがともに水素であるスルファミン酸のほかに、N−メチルスルファミン酸、N,N−ジメチルスルファミン酸、N−フェニルスルファミン酸などを挙げることができる。本発明に用いるスルファミン酸化合物のうち、前記化合物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩、マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩などの他の金属塩、アンモニウム塩及びグアニジン塩などを挙げることができ、具体的には、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸カルシウム、スルファミン酸ストロンチウム、スルファミン酸バリウム、スルファミン酸鉄、スルファミン酸亜鉛などを挙げることができる。スルファミン酸及びこれらのスルファミン酸塩は、1種を単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0030】
次亜塩素酸塩等の塩素系酸化剤とスルファミン酸塩等のスルファミン酸化合物を混合すると、これらが結合して、クロロスルファミン酸塩を形成して安定化し、クロラミンのようなpHによる解離性の差、それによる遊離塩素濃度の変動を生じることなく、水中で安定した遊離塩素濃度を保つことが可能となる。
【0031】
本発明において、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との使用割合には特に制限はないが、塩素系酸化剤の有効塩素1モルあたりスルファミン酸化合物を0.5〜5.0モルとすることが好ましく、0.5〜2.0モルとすることがより好ましい。
【0032】
クロロスルファミン酸塩系酸化剤は、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む水溶液として好適に用いられるが、何らこの混合水溶液の形態に限らず、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とは別々に提供されるものであっても良い。
【0033】
また、クロロスルファミン酸塩系酸化剤は、その効果を損なうことのない範囲において、塩素系酸化剤及びスルファミン酸化合物以外の他の成分を含有していても良い。この他の成分としては、アルカリ剤、アゾール類、アニオン性ポリマー、ホスホン酸類等が挙げられる。
【0034】
アルカリ剤は、クロロスルファミン酸塩系酸化剤中の塩素系酸化剤を安定化させるために用いられ、通常、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が用いられる。
【0035】
アゾール類は、ヘテロ原子を2個以上含む5員環を有する芳香族化合物である。本発明で用いるアゾール類としては、例えば、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、テトラゾールなどの単環式アゾール系化合物、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾール、メルカプトベンゾイミダゾール、メルカプトメチルベンゾイミダゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、インダゾール、プリン、イミダゾチアゾール、ピラゾロオキサゾールなどの縮合多環式アゾール系化合物などや、さらにアゾール系化合物の中で塩を形成する化合物にあってはそれらの塩などを挙げることができる。これらのアゾール系化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0036】
アニオン性ポリマーとしては、重量平均分子量が500〜50,000のものが好ましく、1,000〜30,000のものがより好ましく、1,500〜20,000のものがさらに好ましい。
【0037】
このアニオン性ポリマーを構成するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及びこれらの不飽和カルボン酸の塩、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩やマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、さらには無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸の無水物などを挙げることができる。これらのモノマーは単独で重合することができ、また2種以上を共重合することもでき、あるいは、該モノマー1種以上とその他の共重合可能なモノマー1種以上とを共重合させることもできる。他の共重合可能なモノマーとしては、例えば、不飽和アルコール、不飽和カルボン酸エステル、アルケン、スルホン酸基を有するモノマーなどを挙げることができる。不飽和アルコールとしては、例えば、アリルアルコール、メタリルアルコールなどを挙げることができる。不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどを挙げることができる。アルケンとしては、例えば、イソブチレン、n−ブチレン、ジイソブチレン、ペンテンなどを挙げることができる。スルホン酸基を有するモノマーとしては、例えば、ビニルスルホン酸、2−ヒドロキシ−3−アリロキシ−1−プロパンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、スチレンスルホン酸などを挙げることができる。
【0038】
本発明に使用し得るアニオン性ポリマーの例としては、ポリマレイン酸、ポリアクリル酸、アクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合物、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との共重合物、アクリル酸とイソプレンスルホン酸との共重合物、アクリル酸とメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとの共重合物、アクリル酸とメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとイソプロピレンスルホン酸の共重合物、マレイン酸とペンテンとの共重合物、前記アニオン性ポリマーのアルカリ金属塩及び前記アニオン性ポリマーのアルカリ土類金属塩などを挙げることができる。
【0039】
また、ホスホン酸類としては、例えば、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラメチレンホスホン酸又は前記ホスホン酸の塩などを挙げることができる。本発明において、ホスホン酸類は遊離の酸として用いても、塩として用いても良い。ホスホン酸の塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩などを挙げることができる。ホスホン酸の塩は、酸の特性成分である水素が完全に置換された正塩であってもよく、酸成分の水素の一部が残っている酸性塩であってもよい。これらのホスホン酸及びその塩は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0040】
これらの他の成分を含む場合、クロロスルファミン酸塩系酸化剤の剤型に特に制限はなく、例えば、塩素系酸化剤及びスルファミン酸化合物と、アゾール類、アニオン性ポリマー、ホスホン酸類のいずれか1種以上とからなる1液型薬剤であっても良く、各成分を2液に分けた2液型薬剤とすることもできる。2液型薬剤としては、例えば、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物を含有するA液と、その他の成分B液からなる2液型薬剤なとを挙げることができる。
【0041】
1液型薬剤とする場合は、塩素系酸化剤の安定性を保つために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリを添加して、pH12以上に調整することが好ましく、pH13以上、例えばpH13〜14に調整することがより好ましい。2液型薬剤とする場合は、同様に塩素系酸化剤を含有する剤をpH12以上に調整することが好ましく、pH13以上、例えばpH13〜14に調整することがより好ましい。
【0042】
本発明で用いるクロロスルファミン酸塩系酸化剤は例えば、次のような配合とすることが好ましい。
(A) 有効塩素濃度1〜8重量%、好ましくは3〜6重量%の塩素系酸化剤と、1.5〜9重量%、好ましくは4.5〜8重量%のスルファミン酸化合物を含む、pH≧12の水溶液
(B) 上記(A)に、更に0.05〜3.0重量%のアゾール類、1.5〜3.0重量%のアニオン性ポリマー、0.5〜4.0重量%のホスホン酸類の1種又は2種以上を含む、pH≧12の水溶液
なお、上記(A),(B)において、pHはアルカリ剤の添加により調整される。
【0043】
本発明の膜分離方法は、膜分離装置の給水に、このようなクロロスルファミン酸塩系酸化剤を添加することにより、スライム障害を防止するものであるが、本発明では、通常時のクロロスルファミン酸塩系酸化剤添加量に対して、定期的に又は不定期的に、通常の添加量の2〜10倍量の添加量とすることを特徴とする。以下において、通常時の添加量を「通常添加量」と称し、通常添加量の2〜10倍量の添加量とすることを「高濃度添加」、このときの添加量を「高濃度添加量」と称し、この高濃度添加量とする期間を「高濃度期間」と称す。
【0044】
本発明で用いるクロロスルファミン酸塩系酸化剤は、次亜塩素酸ナトリウムやクロラミンと比較して酸化力が弱いため、次亜塩素酸ナトリウム、クロラミンと同様の濃度で添加しても十分な殺菌効果を発揮しない。一方、クロロスルファミン酸塩系酸化剤はヒドラジンと同様付着物を剥離する効果もあると考えられ、膜分離装置を安定運転するための濃度は次亜塩素酸ナトリウムやクロラミンと比較して低くても問題がない。
【0045】
殺菌、剥離効果を得るためには、クロロスルファミン酸塩系酸化剤は、全通水期間において、膜分離装置の給水中のクロロスルファミン酸塩系酸化剤濃度(有効成分量として)として、0.1〜1000mg/L、特に1〜200mg/Lとなるように添加することが好ましい。クロロスルファミン酸塩系酸化剤の添加量が多過ぎると膜劣化のリスクが高まるとともに、薬品コストがかかりすぎ、現実的でない。逆に、クロロスルファミン酸塩系酸化剤添加量が少な過ぎると、十分な殺菌、剥離効果を得ることができない。
【0046】
特に、通常添加量は、給水中のクロロスルファミン酸塩系酸化剤濃度として1〜100mg/Lであることが好ましく、高濃度添加量はこの2〜10倍量で、給水中のクロロスルファミン酸塩系酸化剤濃度として2〜1000mg/Lであることが好ましい。
【0047】
本発明においては、通水期間中に、系内の微生物量が増殖したり、膜の透過水量が低下してきた場合に、或いは一定の期間毎に定期的に、通常添加量の2〜10倍量の添加量でクロロスルファミン酸塩系酸化剤を高濃度添加して系内を洗浄することにより、系内の微生物や汚染物質を減少させると共に、膜の閉塞物質を剥離除去して、膜の透過水量を回復させる。前述の如く、本発明で用いるクロロスルファミン酸塩系酸化剤は膜の酸化劣化のリスクが非常に小さいため、短時間であれば、高濃度添加でも通水が可能である。また、クロロスルファミン酸塩系酸化剤を添加することによる洗浄効果は、系内での微生物及び汚染物質量とクロロスルファミン酸塩系酸化剤添加量とのバランスによって決まるため、一時的に系内の微生物及び汚染物質量に対応する量を上回るクロロスルファミン酸塩系酸化剤を添加することで、系内に蓄積した微生物及び汚染物質を除去することができ、膜の透過水量を回復させることができる。ただし、高濃度添加量が通常添加量に対して2倍未満では、通常添加条件と大差がなく、殺菌、剥離効果は十分ではない。高濃度添加量が通常添加量に対して10倍を超えると膜劣化のリスクが高まるため、好ましくない。
【0048】
また、高濃度添加期間が短か過ぎると高濃度添加量とすることによる上記殺菌、剥離効果を十分に得ることができず、長過ぎると膜劣化のリスクが高まる。従って、高濃度添加期間は、高濃度添加量及び通常添加量と通水期間との関係において、好適範囲が存在し、好ましくは、下記式[2]で算出される酸化剤添加量の増加率Zが1.0より大きく、2.0未満となるように、より好ましくはZが1.1〜1.5となるようにクロロスルファミン酸塩系酸化剤の添加制御を行うことが望ましい。
【0049】
【数2】

【0050】
[2]式中、Mo、T、Mx、Txは次の通りである。
Mo:通常添加量で添加しているときの給水の酸化剤濃度
T:通水時間
Mx:高濃度添加量で添加しているときの給水の酸化剤濃度
Tx:高濃度添加期間(給水の酸化剤濃度Mxで通水する時間)
【0051】
上記[2]式は、高濃度添加の有無に対するクロロスルファミン酸塩系酸化剤使用量を比で表したものであり、高濃度添加を行わない場合は、Zは1.0となる。高濃度添加時のクロロスルファミン酸塩系酸化剤使用量(Mx×Tx)が通常添加時のクロロスルファミン酸塩系酸化剤使用量(Mo×T)の2.0以上であると、高濃度添加で使用するクロロスルファミン酸塩系酸化剤量が通常添加時のクロロスルファミン酸塩系酸化剤量よりも多いことを意味する。この場合、過剰濃度での高濃度添加、あるいは頻繁に高濃度添加を行っていることになる。前述のように、高濃度添加時の添加量が少な過ぎたり、高濃度期間が短か過ぎたりすると、高濃度添加を採用することによる殺菌、剥離効果を十分に得ることができないが、過度にクロロスルファミン酸塩系酸化剤を添加することは膜劣化のリスクが高まるとともに、薬品コストが増大するため、好ましくない。
【0052】
このようにクロロスルファミン酸塩系酸化剤添加量を通常添加量よりも所定の期間内だけ一時的に高濃度添加とする本発明の方法は、膜分離処理を継続しながら、膜分離装置の給水に添加するクロロスルファミン酸塩系酸化剤量を一時的に増量することにより容易に実施することができる。
このクロロスルファミン酸塩系酸化剤添加量を増量した高濃度期間であっても、膜分離装置の透過水の水質が大きく低下することはなく、膜分離装置の透過水は通常添加時と同様に処理水として採水することができる。ただし、高濃度期間の膜分離装置の透過水は処理水として採水せずに、膜分離装置の入口側或いは更にその上流側に返送しても良い。
【0053】
クロロスルファミン酸塩系酸化剤の添加箇所としては、膜分離装置の入口側であれば良く、特に制限はない。また、膜分離装置の前段に保安フィルター等が設けられている場合には、この保安フィルターの入口側で添加することが保安フィルター内での微生物増殖を抑制でき、好ましい。
【0054】
本発明が適用される膜分離装置の透過膜としては、逆浸透膜(RO膜)、ナノ濾過膜(NF膜)、限外濾過膜(UF膜)、精密濾過膜(MF膜)等の透過膜が挙げられ、その型式には特に制限はなく、スパイラル型、中空糸型、管型、平膜型など任意の構造のものが使用できる。
【0055】
透過膜の材質としても任意のものが使用できるが、本発明は耐塩素性の低い芳香族ポリアミド、ポリ尿素、ポリピペラジンアミドなどの窒素含有基を有する高分子膜に対して特に有効である。透過膜の構造も任意のものが使用でき、均一な高分子膜からなる透過膜でも良いが、支持膜上に超薄膜を形成した複合膜に対しても効果的であり、特に超薄膜として窒素含有基を有する高分子膜を形成した複合膜に対して有効である。
【実施例】
【0056】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0057】
[実施例1]
図1(b)に示す水処理装置において、本発明に従って処理を行った。図1(b)において、図1(a)と同一機能を奏する部材には同一符号を付してある。
この水処理装置は、工水を原水として重力濾過器1で濾過した後、濾過水槽2で生物処理水の回収水と共に、熱交換器3、保安フィルター4を経てRO膜分離装置5でRO膜分離処理し、透過水を膜脱気装置6、イオン交換樹脂装置7、MF膜分離装置8で処理した後、更にサブシステム10で高度処理して超純水としてユースポイントに供給する。処理水量は10m/hrである。
【0058】
RO膜分離装置5のRO膜としては、日東電工(株)製「ES20」(芳香族ポリアミド超低圧RO膜)を使用した。
【0059】
工水には、遊離塩素系酸化剤(NaClO)を1.5mg/L添加し、濾過水槽2の出口水には還元剤(NaHSO)を3.0mg/L添加して残留塩素を還元除去した。
また、保安フィルター4の前段において、RO膜分離装置5の給水に、次亜塩素酸ナトリウム2重量%(有効塩素濃度として)、スルファミン酸8重量%、及び水酸化ナトリウム1重量%を含むpH13の水溶液からなるクロロスルファミン酸塩系酸化剤を、給水中のクロロスルファミン酸塩系酸化剤濃度が50mg/L(通常添加量)になるように添加して処理を行った。また、この通常添加量に対して、30日に一度、給水中のクロロスルファミン酸塩系酸化剤濃度が200mg/L(高濃度添加量)となるように24時間クロロスルファミン酸塩系酸化剤の高濃度添加を行った。このとき、前記[2]式で算出される酸化剤添加量の増加率Zの値は1.13であった。
【0060】
[比較例1]
実施例1において、クロロスルファミン酸塩系酸化剤の高濃度添加を行わず、常時クロロスルファミン酸塩系酸化剤の通常添加量(50mg/L)で通水処理したこと以外は同様にして処理を行った。
【0061】
実施例1と比較例1の条件で6ヶ月間通水を行った場合の、RO膜の除去率と透過水量の経時変化を図2(a),(b)に示す。
【0062】
なお、RO膜の除去率とは、下記式で算出される値である。
【0063】
【数3】

【0064】
この結果から明らかなように、通常添加量で常時クロロスルファミン酸塩系酸化剤を定量添加した比較例1では初期透過水量を維持することができなかったが、定期的に高濃度添加を行った実施例1では、除去率、透過水量ともに初期状態を維持することができた。
【符号の説明】
【0065】
1 重力濾過器
2 濾過水槽
3 熱交換器
4 保安フィルター
5 RO膜分離装置
6 膜脱気装置
7 イオン交換樹脂装置
8 MF膜(又はUF膜)分離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜分離装置の給水に、スルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤を添加して膜分離処理する方法において、定期的に又は不定期的に、通常の該酸化剤添加量の2〜10倍量の該酸化剤を添加することを特徴とする膜分離方法。
【請求項2】
請求項1において、定期的に又は負定期的に、下記式[2]で算出される酸化剤添加量の増加率Zが1.0より大きく、2.0未満となるように、前記酸化剤を添加することを特徴とする膜分離方法。
【数1】

([2]式中、Mo、T、Mx、Txは次の通りである。
Mo:通常の酸化剤添加量で添加しているときの給水の酸化剤濃度
T:通水時間
Mx:通常の酸化剤添加量の2〜10倍量の酸化剤を添加しているときの給水の酸化 剤濃度
Tx:給水の酸化剤濃度Mxで通水する時間)
【請求項3】
請求項1又は2において、前記酸化剤を、前記給水のスルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤の濃度が0.1〜1000mg/Lの範囲となるように添加することを特徴とする膜分離方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記膜分離装置が逆浸透膜分離装置であることを特徴とする膜分離方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−201312(P2010−201312A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48187(P2009−48187)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】