説明

膜分離方法

【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野 本発明は、限外ろ過膜や精密ろ過膜により対象液の固液分離を行なう膜分離方法に関するものである。
従来の技術 従来より、この種の膜分離方法をし尿等の有機性廃水の処理に利用することが提案されている。例えば、有機性廃水の原水を活性汚泥処理し、この活性汚泥混合液を前段の限界ろ過膜で濃縮液と膜透過液とに固液分離し、次に、この膜透過液に無機系凝集剤を添加して凝集フロックを形成し、この凝集フロック混合液を後段の限界ろ過膜で固液分離して、清浄な膜透過液を得るという方法である。この場合、前段の限外ろ過膜と後段の限外ろ過膜とは、処理施設の維持管理上の必要から、同一のものが使用されているケースが多い。
発明が解決しようとする課題 しかし、上記従来の方法においては、前段の限外ろ過膜が固液分離すべき活性汚泥混合液の性状と、後段の限外ろ過膜が固液分離すべき凝集フロック混合液の性状とは著しく異なっている。このように性状の異なる対象液に同一の限外ろ過膜を使用することは、最適な運転操作を不可能にし、結果的には、ろ過膜の洗浄薬品・交換等の維持管理費の増大を来たすという問題があった。
本発明は、上記従来の方法を改良して、このような問題を解決することを目的とする。
課題を解決するための手段 上記目的を達成するために、本発明の膜分離方法は、ろ過膜により、活性汚泥や凝集汚泥のような固形物を含んだ対象液を多段階に固液分離するに際し、原液に比して小さいCST値を有する前段のろ過膜を透過した対象液に対して、前段のろ過膜より純水フラックスの高いろ過膜を後段のろ過膜として使用するとともに、対象液にかける操作圧力をろ過膜面上にケーキ層が形成されない低い圧力として固液分離する構成としたものである。
作用 一般に、膜分離方法において最適な運転操作を可能にするためには、対象液の性状に適したろ過膜の種類・素材・分画分子量(限外ろ過膜の場合)・微小孔径(精密ろ過膜の場合)・運転方法等を選定しなければならない。対象液の性状としてはSS濃度・荷電量・粘度等があるが、対象液のろ過性を示すものとしてCST(capilary suctional time)がある。このCSTは、対象とする汚泥中の遊離水がろ過膜の一定の長さの間を浸透するに要する時間(秒)であって、CSTが少ないほどろ過性が良いとされている。CSTは、対象液のSS濃度とある程度相関関係にあるが、SS濃度が高い対象液でも凝集剤等により調質すると小さくなる。CSTが小さくてろ過性の良い対象液をろ過膜で固液分離すると、フラックス(flux)は対象液にかけた操作圧力に比例する。しかし、操作圧力を高くしてフラックスを大きくすると、ろ過膜面上に対象液中の固体粒子が堆積して次第にケーキ層を形成し、そのケーキ抵抗のためにフラックスが徐々に低下する。また、ケーキ層は、操作圧力に比例して緊密になるため、ろ過膜面の洗浄を困難にする。
そこで、本発明は、上記のような膜分離方法における一般的現象にかんがみ、対象液のろ過性を示すCSTに応じてろ過膜を選定し、最適の運転操作をしようとするものである。すなわち、上記本発明の構成においては、CSTが10秒以下、好ましくは5秒以下のようなろ過性の良い対象液に対しては、非常に純水フラックスの高いろ過膜を選定し、操作圧力をできるだけ低くし、かつ濃縮液の流量をフラックスの5倍以上にして固液分離することにより、大きいフラックスを確保するとともに、ろ過膜面上にケーキ層が形成しないようにしてフラックスの低下を防止し、最適の運転操作を可能にしているのである。なお、ここに「純水フラックス」とは、純水が初期状態のろ過膜を透過する場合のフラックスをいう。
実 施 例 以下、本発明の一実施例を第1図に基づいて説明する。
本実施例は、し尿処理に利用される場合で、第1図に示すように、まず、し尿の原水1を深層反応槽2内で活性汚泥処理し、その活性汚泥混合液3を圧送ポンプ4により操作圧力P1をかけて前段のろ過膜5に送り、ろ過膜5で濃縮液6と膜透過液7とに固液分離し、濃縮液6を深層反応槽2に返送して循環させるとともに、膜透過液7を凝集混和槽8に導く。次に、凝集混和槽8内で、膜透過液7に塩化第2鉄等の無機系凝集剤9を添加して膜透過液7中の色度・CODとともに凝集フロックを形成し、苛性ソーダ等のpH調整剤10を添加してpH値を4〜5に調整する。次に、この凝集フロック混合液11を圧送ポンプ12により操作圧力P2をかけて後段のろ過膜13に送り、ろ過膜13で濃縮液14と膜透過液15とに固液分離し、濃縮液14を凝集混和槽8に返送して循環させるとともに、膜透過液15を外部に取り出し、必要ならばさらに高度処理するのである。上記処理過程において発生する凝集フロック混合液11は、活性汚泥混合液3よりもSS濃度およびCSTのいずれもが著しく小さい。したがって、後段のろ過膜13は、前段のろ過膜5よりも純水フラックスの大きいものを選定し、操作圧力P2は操作圧力P1よりも低くし、かつ、濃縮液6,14の循環量は対応する膜透過液7,15のフラックスの5倍以上にして固液分離する。純水フラックスの大きいろ過膜の選定に際しては、限界ろ過膜の場合は、同一の分画分子量であればポリオレフィン系素材のろ過膜よりもポリスルホン系素材のろ過膜の方が大きく、また、分画分子量が小さい(20000程度)ろ過膜よりも大きい(100000程度)ろ過膜の方が大きいことに留意すべきである。なお、ろ過膜は、必ずしも限外ろ過膜に限定するものではなく、純水フラックスが大きければ精密ろ過膜(微細孔径が0.02〜0.2μ程度)でもよい。
次に、上記し尿処理において、前後両ろ過膜5,13に純水フラックスが大小2種類の限外ろ過膜を使用して比較した場合の結果について説明する。






ここに、回収量とは、単位ろ過面積当りのろ過膜洗浄の1インターバルの間に得られた量をいう。
上記処理結果から明らかなように、前段ろ過膜5においては、消化処理水3のろ過性が良くないので、ろ過膜の種類によっては膜透過液7のフラックスおよび回収量にほとんど差は見られない。しかし、後段ろ過膜13においては、凝集フロック混合液11のろ過性がきわめてよいので、ろ過膜の種類による差が歴然と現われている。すなわち、純水フラックスの小さいろ過膜Aを使用すると、ろ過膜Bと同じフラックス(=2.4m3/m2・日)を得るために高い操作圧力P2(=2.7kg/cm2)を必要とするので、ろ過膜面上にケーキ層が形成され、膜透過液15の回収量が5〜7m3/回と低下している。これに対し、純水フラックスの大きいろ過膜Bを使用し、低い操作圧力P2(=0.3kg/cm2)で固液分離すると、ろ過膜面上にケーキ層が形成されないので、膜透過液15の回収量を大きい値20〜30m3/回に維持している。
発明の効果 本発明は、以上説明したように、ろ過膜により対象液を固液分離するとき、対象液のろ過性の良否に応じてろ過膜を選定するものとし、ろ過性の良い対象液に対しては純水フラックスの高いろ過膜を使用し、対象液にかける操作圧力を低くして固液分離する構成としたので、ろ過膜面上にケーキ層が形成されるのを防止し、膜透過液の回収量を長期間にわたり大きい値に維持することができる。したがって、対象液の性状に応じた最適な運転操作が可能である。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の一実施例を説明するための回路図である。
3……活性汚泥混合液、5……ろ過膜(前段)、11……凝集フロック混合液、13……ろ過膜(後段)、P1,P2……操作圧力。

【特許請求の範囲】
【請求項1】ろ過膜により、活性汚泥や凝集汚泥のような固形物を含んだ対象液を多段階に固液分離するに際し、原液に比して小さいCST値を有する前段のろ過膜を透過した対象液に対して、前段のろ過膜より純水フラックスの高いろ過膜を後段のろ過膜として使用するとともに、対象液にかける操作圧力をろ過膜面上にケーキ層が形成されない低い圧力として固液分離することを特徴とする膜分離方法。

【第1図】
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【特許番号】第2755397号
【登録日】平成10年(1998)3月6日
【発行日】平成10年(1998)5月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−249272
【出願日】昭和63年(1988)10月3日
【公開番号】特開平2−95418
【公開日】平成2年(1990)4月6日
【審査請求日】平成7年(1995)1月23日
【前置審査】 前置審査
【出願人】(999999999)株式会社クボタ
【参考文献】
【文献】特開 昭61−222503(JP,A)