説明

膜分離装置及び分離膜の劣化予測方法

【課題】分離膜の状態を測定することのできる膜分離装置、及び測定した分離膜の状態から分離膜の劣化を予測する方法を提供する。
【解決手段】供給される被処理水を濾過する中空糸膜からなる膜モジュールを備える膜分離装置であって、多数の中空糸膜からなる本体膜モジュール(2)と、単数または複数の中空糸膜からなる小型膜モジュール(M1〜Mn)とを備え、本体膜モジュールを運転しながら、本体膜モジュールとは運転条件を変えて小型膜モジュールを運転し、小型膜モジュールの膜性能及び膜特性の少なくともいずれか一方を測定して本体膜モジュールの劣化を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離装置及び分離膜の劣化予測方法に係り、詳しくは分離膜を使用して膜分離処理を行う膜分離装置及び膜分離装置に使用される分離膜の劣化を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、限外濾過膜(以下、UF膜という)や精密濾過膜(以下、MF膜という)等の分離膜を備える膜分離装置は、原水に含まれる懸濁物質を固液分離する処理に使用されている。
【0003】
ところで、半導体や液晶等の製造で使用される超純水の製造システムは、一般に前処理システム、一次純水システム、サブシステムから構成されてユースポイントへ超純水が供給されるが、このようなシステムにおいて上述した膜分離装置は、サブシステムにおけるユースポイントに供給される前の最終的に微粒子を除去する工程で使用される。
【0004】
このような膜分離装置を長期間使用していると、分離膜の劣化に伴い分離膜の膜性能が低下し、さらには分離膜が破断して膜分離装置からの透過水に原水が流入してしまうおそれがある。原水が透過水に流入してしまうと、生成される超純水の水質を低下させ、超純水を使用する半導体や液晶等の製品の歩留まりを悪化させてしまうという問題があった。しかしながら、上述した工程での使用では、分離膜へ供給される被処理水に濁質が殆ど含まれないため、膜性能の低下を把握することが困難であった。このため、分離膜の劣化状態を把握するために、膜分離装置の運転を停止して分離膜を取り出し、分離膜の特性を測定する必要があったため、膜分離装置の運転を続けながら測定することが求められていた。
【0005】
このようなことから、分離膜の主モジュールの他に副モジュールを設け、副モジュールの膜性能の経時変化を調べて主モジュールの補修や運転条件を調整することや(特許文献1参照)、ミニ膜モジュールを用いて膜洗浄を行い、透水性能の回復等から膜モジュールの洗浄条件を決定する(特許文献2参照)ことが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−286445号公報
【特許文献2】特開2003−340245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術では、分離膜の副モジュールやミニ膜モジュールを使用して現状の膜性能を把握することはできるものの、分離膜の劣化に伴うその先に発生しうる障害について予測することができない。万が一、分離膜の破断等の障害が発生してしまうと、生成される透過水の水質に大きな影響が及ぶため、障害を予測することは重要である。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、分離膜の状態を測定することのできる膜分離装置、及び測定した分離膜の状態から分離膜の劣化を予測する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するべく、請求項1の膜分離装置は、供給される被処理水を濾過する中空糸膜からなる膜モジュールを備える膜分離装置であって、多数の中空糸膜からなる本体膜モジュールと、単数または複数の中空糸膜からなる小型膜モジュールとを備え、前記本体膜モジュールを運転しながら、前記本体膜モジュールとは運転条件を変えて前記小型膜モジュールを運転し、前記小型膜モジュールの膜性能及び膜特性の少なくともいずれか一方を測定して前記本体膜モジュールの劣化を予測することを特徴とする。
【0010】
請求項2の膜分離装置では、請求項1において、前記運転条件は、小型膜モジュールの単位面積当たりに供給される被処理水の供給量、及び前記小型膜モジュールに供給される被処理水に注入される薬剤のいずれかから選択されることを特徴とする。
【0011】
請求項3の膜分離装置では、請求項1または2において、前記小型膜モジュールは、複数台設けられることを特徴とする。
【0012】
請求項4の分離膜の劣化予測方法は、供給される被処理水を濾過する多数の中空糸膜からなる本体膜モジュールと、単数または複数の中空糸膜からなる小型膜モジュールとを備える分離膜の劣化予測方法であって、前記本体膜モジュールを運転しながら、前記本体膜モジュールとは運転条件を変えて前記小型膜モジュールを運転し、前記小型膜モジュールの膜性能及び膜特性の少なくともいずれか一方を測定し、得られた測定結果から前記本体膜モジュールの劣化を予測することを特徴とする。
【0013】
請求項5の分離膜の劣化予測方法では、請求項4において、前記運転条件は、小型膜モジュールの単位面積当たりに供給される被処理水の供給量、及び前記小型膜モジュールに供給される被処理水に注入される薬剤のいずれかから選択されることを特徴とする。
【0014】
請求項6の分離膜の劣化予測方法では、請求項4または5において、前記膜特性は、前記中空糸膜の強度及び伸度の少なくともいずれか一方であることを特徴とする。
【0015】
請求項7の分離膜の劣化予測方法では、請求項4乃至6のいずれかにおいて、さらに、前記本体膜モジュールの劣化の予測に基づいて、前記本体膜モジュールを交換することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の膜分離装置によれは、本体膜モジュールとは運転条件を変えて小型膜モジュールを運転し、小型膜モジュールの膜性能及び膜特性の少なくともいずれか一方を測定して本体膜モジュールの劣化を予測するので、本体膜モジュールを安定して運転させながら本体膜モジュールに生じている変化を予測することができる。
【0017】
請求項2の膜分離装置によれば、小型膜モジュールの単位面積当たりに供給される被処理水の供給量、及び小型膜モジュールに供給される被処理水に注入される薬剤のいずれかから運転条件が選択されるので、小型膜モジュールの単位面積当たりにかかる負荷や使用する薬剤を変えることができ、負荷や薬剤の諸条件を変えたときに本体膜モジュールに発生しうる変化を小型膜モジュールから予め把握することができるので、容易に本体膜モジュールの劣化を予測することができる。
【0018】
請求項3の膜分離装置によれば、小型膜モジュールは複数台設けられるので、同一の運転条件で複数台の小型膜モジュールを運転して各小型膜モジュールの膜性能や膜特性を経時変化として測定することもできるし、各小型膜モジュールをそれぞれ異なる運転条件で運転して、それぞれの運転条件における小型膜モジュールの膜性能や膜特性を測定するようにすることができる。
【0019】
請求項4の分離膜の劣化予測方法によれば、本体膜モジュールとは運転条件を変えて小型膜モジュールを運転して膜性能や膜特性を測定するので、本体膜モジュールを安定して運転させながら、本体膜モジュールに生じている変化を小型膜モジュールから予測することができる。
【0020】
請求項5の分離膜の劣化予測方法によれば、小型膜モジュールの単位面積当たりに供給される被処理水の供給量、及び小型膜モジュールに供給される被処理水に注入される薬剤のいずれかから運転条件が選択されるので、小型膜モジュールの単位面積当たりにかかる負荷や使用する薬剤を変えることができ、負荷の増減や薬剤の注入といった条件を変えたときに本体膜モジュールに生じ得る変化を小型膜モジュールの測定結果から予め把握することができるので、本体膜モジュールの劣化を容易に予測することができる。
【0021】
請求項6の分離膜の劣化予測方法によれば、膜特性は中空糸膜の強度及び伸度の少なくともいずれか一方であるので、運転条件における小型膜モジュールを構成する中空糸膜の強度及び伸度のいずれかを測定することで中空糸膜の劣化度合いを把握することができ、本体膜モジュールの劣化度合いを予測することができる。
【0022】
請求項7の分離膜の劣化予測方法によれば、小型膜モジュールから予測された本体膜モジュールの劣化に基づいて本体膜モジュールを交換するので、本体膜モジュールが劣化して膜性能が低下したり、中空糸膜が破断したりして、本体膜モジュールを通水する透過水の水質が低下することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る膜分離装置の概略系統図である。
【図2】(A)は1本の中空糸膜を備える小型膜モジュールの概略図、(B)は(A)と同様の流通方式である複数本の中空糸膜を備える小型膜モジュールの概略図、(C)は(A)と異なる流通方式である1本の中空糸膜を備える小型膜モジュールの概略図、(D)は(C)と同様の流通方式である複数本の中空糸膜を備える小型膜モジュールの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の膜分離装置1を示す系統図である。図1に示すように、膜分離装置1には、本体膜モジュール2と、本体膜モジュール2よりも小さいn台(n≧1)の小型膜モジュールM1〜Mnとが備えられている。小型膜モジュールM1〜Mnは、本体膜モジュール2と並列にそれぞれ配置されており、本体膜モジュール2に供給される被処理水の一部がバルブV0を介して、さらに小型膜モジュールM1へはバルブV1、小型膜モジュールM2へはバルブV2、小型膜モジュールM1〜MnへはバルブVnを介してそれぞれ導入される。
【0025】
本体膜モジュール2及び小型膜モジュールM1〜Mnとは、UF中空糸膜またはMF中空糸膜から構成されており、導入される被処理水に含まれる微粒子を濾過する。本体膜モジュール2は、多数の中空糸膜を束ねて構成されているのに対し、小型膜モジュールM1〜Mnは、単数または複数の中空糸膜から構成されている。詳しくは、図2(A)及び(C)に示すように、小型膜モジュールM1〜Mnは、1本の中空糸膜4から構成されてもよいし、図2(B)及び(D)に示すように、複数本の中空糸膜4から構成されてもよい。
【0026】
図2に示すように、小型膜モジュールM1〜Mnの流通方式は外圧型のクロスフロー方式であり、被処理水は導入口6から小型膜モジュールMn内へ導入され、中空糸膜4を通水して濾過された透過水が排出口8から排出され、排出口10からは濃縮水が排出される。なお、流通方式は外圧型やクロスフロー方式に限られず、内圧型、デッドエンド方式等であってもよい。また、図2の(C)及び(D)に示すように、被処理水の導入口6と濃縮水の排出口10とを膜モジュールの一端に近接して設けることで、デッドエンド方式に類似した流通方式とすることができ、後述するゲル形成測定試験を加速して実施することが可能となる。
【0027】
このような小型膜モジュールM1〜Mnは、本体膜モジュール2の給水ポンプのON、OFFや運転条件の変化による物理的衝撃や、使用する膜洗浄剤等の化学作用による中空糸膜の伸度や強度等(膜特性)の劣化、被処理水に含まれるゲル成分が滞留することによる透過性能(膜性能)の低下等を測定するために使用される。本体膜モジュール2を構成する中空糸膜の劣化に関する測定目的に応じ、小型膜モジュールM1〜Mnを全て同一の目的で使用してもよいし、小型膜モジュールM1〜Mnを測定目的に応じて個々に、または複数個にグループ分けをして、添加剤を添加してもよいし、中空糸膜を洗浄する洗浄剤を添加して劣化を測定するようにしてもよい。
【0028】
例えば、図1に示すように、小型膜モジュールM1では、被処理水に含まれるゲル成分が中空糸膜に付着するゲル形成状態及び透過水に含まれる全有機炭素濃度の測定、小型膜モジュールM2では、小型膜モジュールM2に導入される被処理水にトレーサー(薬剤)を注入して、中空糸膜の現状の分画分子量の測定を行い、小型膜モジュールM3では透過流束の測定を行い、小型膜モジュールM4では中空糸膜の伸度、強度等の物理特性の測定を行い、小型膜モジュールMnを使用して、小型膜モジュールMnに導入される被処理水に膜洗浄剤(薬剤)を注入し、中空糸膜の物理特性を測定するようにしてもよい。
【0029】
トレーサーとして使用するものとして、例えば、気泡、ポリスチレン粒子、デキストラン、ポリエチレングリコール、チトクロームC等が挙げられる。
【0030】
中空糸膜の膜洗浄剤として、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、酵素等が挙げられるが、本実施形態では、膜洗浄剤として過酸化水素を使用するものとする。
【0031】
(中空糸膜の劣化予測)
このように構成された膜分離装置1を使用して、本体膜モジュール2の劣化を予測する方法について以下に説明する。以下に説明する方法は、本体膜モジュール2を運転させながら小型膜モジュールM1〜Mnをそれぞれの測定目的に応じて運転させて測定を行う。なお、以降、測定に使用する小型膜モジュールを小型膜モジュールMiとして説明するが、これは複数ある小型膜モジュールM1〜Mnのうち、i番目の小型膜モジュールMiを使用することを表している。また、小型膜モジュールMiに使用する中空糸膜4は、図2(A)及び(C)に示したように1本だけでもよいし、図2(B)及び(D)に示したように複数本から構成されていてもよい。さらに、使用する中空糸膜4はUF中空糸膜でもよいし、MF中空糸膜でもよい。
【0032】
本体膜モジュール2の劣化を予測する方法として、まず物理特性変化の計測について説明する。物理特性の変化を測定するために、小型膜モジュールMiの単位面積当たりに供給される被処理水の供給量を、本体膜モジュール2の単位面積当たりに供給される被処理水の供給量よりも多くする。このように、小型膜モジュールMiの単位面積当たりの供給量を多くすることによって、小型膜モジュールMiを通水する透過水量が増えるので、小型膜モジュールMiの中空糸膜4にかかる負荷を増大させた場合の中空糸膜4の破断に至る経過を測定することで、中空糸膜4の破断を予測することができる。詳しくは、小型膜モジュールMiの中空糸膜4の強度や伸度を経時変化と共に測定することによって、中空糸膜4の破断を予測することができる。
【0033】
また、小型膜モジュールMiを過酸化水素(薬剤)で膜洗浄すると、中空糸膜4の物理特性、即ち強度や伸度の低下が促進されてしまう。このため、小型膜モジュールMiへ供給される被処理水に、本体膜モジュール2に注入するよりも先に、過酸化水素を注入して膜洗浄を行い、中空糸膜4の強度及び伸度を測定し、この工程を複数回行うことによって、膜洗浄に伴う中空糸膜4の物理特性の変化を測定し、測定結果に基づいて中空糸膜4の劣化を予測することができる。
【0034】
次に、小型膜モジュールMiに形成されるゲル成分の測定について説明する。被処理水が小型膜モジュールMiに通水されると、中空糸膜4にゲル成分が付着することによって透過流束に影響を与えることから、透過流束を測定することによってゲルの形成状態を予測することができる。
【0035】
詳しくは、中空糸膜4にゲル成分が付着すると、付着したゲル成分が中空糸膜4を通水する水の抵抗となり透過流束が低下するので、経時変化に伴うゲルの形成状態を予測することができる。この場合に、小型膜モジュールMiの単位面積当たりに供給される被処理水の供給量を、本体膜モジュール2の単位面積当たりに供給される被処理水の供給量よりも少なくすると、中空糸膜4の膜面における剪断力が低下し、中空糸膜4へのゲル成分の付着が促進されるために透過流束が低下するので、透過流束を測定することで経時変化に伴うゲルの形成状態を予測することができる。なお、小型膜モジュールMiにゲル成分を付着しやすくするため、小型膜モジュールMiに流れが不均一になる部分を設けたり、または、図2(C)、(D)に示すように小型膜モジュールMiに被処理水の導入口6と濃縮水の排出口10とをそれぞれを近接して設けることで、デッドエンド方式に類似した流通方式として透過流束を測定するようにしてもよい。
【0036】
また、中空糸膜4にゲル成分が所定量以上付着することによって、中空糸膜4の濾過性能(膜性能)が低下してゲル成分が小型膜モジュールMiを通水する透過水に漏出し、透過水の水質を著しく低下させることがある。従って、透過水に含まれる水溶性の有機物濃度を測定することで、小型膜モジュールMiの劣化を予測するようにしてもよい。透過水に含まれる有機物濃度は、例えばTOC計で測定してもよく、測定された有機物濃度が既定値を超える場合には中空糸膜4に所定量以上のゲル成分が付着していると予測することができる。
【0037】
また、小型膜モジュールMiに供給される被処理水にトレーサーを注入し、中空糸膜4の分画分子量を測定して、現状の中空糸膜4の膜性能から劣化の度合いを予測するようにしてもよい。詳しくは、小型膜モジュールMiに供給される被処理水に注入されたトレーサーの濃度と、小型膜モジュールMiで生成される透過水中に含まれるトレーサーの濃度を比較して、トレーサーの濃度が低減した割合から中空糸膜4の分画分子量を求め、現状の膜性能を把握することができると共に、膜性能の度合いを予測することができる。例えば、中空糸膜の破断や細孔の拡大が発生している場合は、透過水中に含まれるトレーサー濃度が増大し、ゲル成分の付着が発生している場合にはトレーサー濃度が減少する傾向がある。
【0038】
このように、膜分離装置1において、本体膜モジュール2を運転させながら小型膜モジュールM1〜Mnにも通水し、それぞれの測定目的に応じて小型膜モジュールM1〜Mnに膜洗浄剤やトレーサー等を注入したり、被処理水の供給量を増減させたりして中空糸4の物理特性、透過流束、透過水に含まれる有機物濃度等の経時変化を測定するので、種々の測定結果に基づいて本体膜モジュール2を構成する中空糸膜4の劣化を予測することができる。また、本体膜モジュール2の運転を止めて中空糸膜4の状態を確認する必要がないため、膜分離装置1を安定して運転させることができる。
【0039】
さらに、様々な測定目的に応じて小型膜モジュールM1〜Mnの運転条件を変えて測定することで、被処理水の供給量を本体膜モジュール2に供給される被処理水よりも増加させることによる中空糸膜4の物理特性、過酸化水素を注入することによる中空糸膜4の物理特性の経時変化、被処理水の供給量を本体膜モジュール2に供給される被処理水よりも減少させ、被処理水に含まれるゲル成分が中空糸膜4に付着することによる透過流束の経時変化及び透過水に含まれる有機物濃度の経時変化、トレーサーを注入することによる中空糸膜4の分画分子量の経時変化等、中空糸膜4の各特性の経時変化を測定することができるので、中空糸膜4の経時変化に伴う各特性の劣化度合いを把握することができ、この劣化度合いに基づいて本体膜モジュール2の劣化を容易に予測することができる。
【0040】
そして、小型膜モジュールM1〜Mnでの測定結果から予測される本体膜モジュール2の劣化予測に基づいて、本体膜モジュール2を構成する中空糸膜4が破断する前に本体膜モジュール2を交換することができる。
【0041】
なお、上記実施形態で説明した膜分離装置1は、水処理装置であればいずれの工程に備えられるものであってもよいが、特に、超純水製造システムのサブシステムにおける非再生型イオン交換装置で処理された後の工程で用いられるのが好ましい。
【0042】
また、上記実施形態では、膜分離装置1に含まれる小型膜モジュールM1〜Mnが複数台配置される構成としたが、小型膜モジュールは1台でもよい。
【実施例】
【0043】
以下に示す実施例に従って、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
本体膜モジュールとしてOLT−6036V(栗田工業(株)製)を使用し、図2(A)に示した中空糸膜1本を備える小型膜モジュールを用意し、図1に示すように本体膜モジュール及び小型膜モジュールを配置して設けた。本体膜モジュール及び小型膜モジュールに使用した中空糸膜は、同一材質のポリスルホンよりなるUF膜である。本体膜モジュール及び小型膜モジュールに供給される被処理水として超純水を使用し、0.1MPaで通水した。水温は25℃±3℃であった。
【0045】
小型膜モジュールに対して過酸化水素を注入する劣化加速試験を行った。劣化加速試験では、小型膜モジュールを濃度1%の過酸化水素に24時間浸漬させ、その後24時間超純水を通水するという工程を12回実施した。そして、6回目以降、2回毎に小型膜モジュールから中空糸膜を取り出し、強度及び伸度を測定した。10回目の工程を実施した後、小型膜モジュールに供給する超純水の供給量及び小型膜モジュールの透過水量を、本体膜モジュールの1.5倍に増加させた。12回目の試験の実施後、10回目と同様に供給水量及び透過水量を増加させた。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、過酸化水素で膜洗浄を行うと、回数を重ねる毎に中空糸膜の強度及び伸度が低下していることが判る。また、10回目の試験の後に供給水量及び透過水量を増加させて負荷を上げた際には中空糸膜の破断は発生しなかったものの、12回目の試験の後に同様に負荷を上げた際には、中空糸膜の破断が発生した。これにより、中空糸膜の物理特性は、強度が0.46kg以下、伸度が33%以下になると破断が発生すると予測することができる。従って、上述した強度及び伸度を閾値として使用することができる。
【0048】
この予測を検証するために、上記本体膜モジュールを3年4ヶ月間使用し、その期間中に濃度1%の過酸化水素を使用して10回膜洗浄を行った。この本体膜モジュールを構成する中空糸膜の1本を取り出して、強度及び伸度を測定した。その結果、強度は0.47kg、伸度は36%であり、破断する可能性が低いことを確認することができた。さらに1回の過酸化水素による膜洗浄が可能であると予測し、過酸化水素による膜洗浄を行い、その後4ヶ月間運転した後に本体膜モジュールの交換を行った。11回膜洗浄を行った本体膜モジュールの中空糸膜を取り出し、強度及び伸度を測定すると、強度は0.46kg、伸度は34%であり、破断する閾値に近い値となっていた。
【0049】
<実施例2>
本体膜モジュールとしてKU−1510HUT−H(栗田工業(株)製)、及び図2(D)に示した複数本の中空糸膜からなる小型膜モジュールを使用して、実施例1と同様に本体膜モジュールと小型膜モジュールとを構成した。本体膜モジュール及び小型膜モジュールに使用した中空糸膜は、同一材質のポリスルホンよりなるUF膜である。使用した被処理水、通水する圧力、及び水温の各条件は実施例1と同様である。
【0050】
小型膜モジュールに対して、ゲル形成測定試験を行った。小型膜モジュールの供給水量及び透過水量を本体膜モジュールの供給水量及び透過水量の1.2倍にして、本体膜モジュール及び小型膜モジュールの透過流束をそれぞれ測定した。その結果、1年間の運転で、小型膜モジュールの透過流束は初期の透過流束の80%に低下し、本体膜モジュールの透過流束は初期透過流束の90%に低下することが測定された。その後、さらに1年間運転したところ、小型膜モジュールの透過流束は初期透過流束の60%に低下し、本体膜モジュールは初期透過流束の80%に低下していた。本運転条件では、小型膜モジュールは本体膜モジュールの2倍の速さで透過流束が低下しており、この結果より、さらに2年後に本体膜モジュールの膜透過流束が初期透過流束に対して60%に低下することが予測された。
【0051】
以上より、中空糸膜の破断が発生しにくいと予測される強度は0.46kg以上、好ましくは0.475kg以上である。また、中空糸膜の破断が発生しにくいと考えられる伸度は36%以上、好ましくは40%以上である。また、中空糸膜の強度及び伸度は時間経過と共に低下し、過酸化水素で膜洗浄を行うと、強度及び伸度の低下が加速されることが判った。
【0052】
さらに、小型膜モジュールの負荷(給水量及び透過水量)を本体膜モジュールより大きくすることで、透過流束の低下の度合いを予測することが可能であることが判る。なお、本実施例では透過流束が低下する場合を示したが、小型膜モジュールの透過流束が本体膜モジュールの透過流束よりも異常に高くなる場合もあり、この場合においても中空糸膜に何らかの不具合が発生していると予測できる。
【符号の説明】
【0053】
1 膜分離装置
2 本体膜モジュール
4 中空糸膜
M1〜Mn 小型膜モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給される被処理水を濾過する中空糸膜からなる膜モジュールを備える膜分離装置であって、
多数の中空糸膜からなる本体膜モジュールと、
単数または複数の中空糸膜からなる小型膜モジュールとを備え、
前記本体膜モジュールを運転しながら、前記本体膜モジュールとは運転条件を変えて前記小型膜モジュールを運転し、前記小型膜モジュールの膜性能及び膜特性の少なくともいずれか一方を測定して前記本体膜モジュールの劣化を予測することを特徴とする膜分離装置。
【請求項2】
前記運転条件は、小型膜モジュールの単位面積当たりに供給される被処理水の供給量、及び前記小型膜モジュールに供給される被処理水に注入される薬剤のいずれかから選択されることを特徴とする請求項1に記載の膜分離装置。
【請求項3】
前記小型膜モジュールは、複数台設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の膜分離装置。
【請求項4】
供給される被処理水を濾過する多数の中空糸膜からなる本体膜モジュールと、単数または複数の中空糸膜からなる小型膜モジュールとを備える分離膜の劣化予測方法であって、
前記本体膜モジュールを運転しながら、前記本体膜モジュールとは運転条件を変えて前記小型膜モジュールを運転し、前記小型膜モジュールの膜性能及び膜特性の少なくともいずれか一方を測定し、得られた測定結果から前記本体膜モジュールの劣化を予測することを特徴とする分離膜の劣化予測方法。
【請求項5】
前記運転条件は、小型膜モジュールの単位面積当たりに供給される被処理水の供給量、及び前記小型膜モジュールに供給される被処理水に注入される薬剤のいずれかから選択されることを特徴とする請求項4に記載の分離膜の劣化予測方法。
【請求項6】
前記膜特性は、前記中空糸膜の強度及び伸度の少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求4または5に記載の分離膜の劣化予測方法。
【請求項7】
さらに、前記本体膜モジュールの劣化の予測に基づいて、前記本体膜モジュールを交換することを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の分離膜の劣化予測方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−213674(P2012−213674A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79006(P2011−79006)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】