説明

膜分離装置及び膜ろ過方法

【課題】
安定膜ろ過運転に対し著しい障害となる、有効膜面積を減少させる膜汚染の発生感知及び膜汚染度合いの把握を行い、上記膜汚染に対応して洗浄の強度や頻度を調整し、長期間安定運転可能で経済的な膜分離装置および膜ろ過方法を提供する。
【解決手段】
中空糸形状の精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を備えた膜モジュールと、ろ過時の通液方向とは逆方向に洗浄液を通液して膜モジュール内の前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を逆洗する逆洗手段を含む洗浄手段とを含む膜分離装置を運転するにあたり、前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜の逆洗時およびろ過時の透過係数比(Z)に応じて洗浄手段による洗浄の度合いを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸形状の精密ろ過膜や限外ろ過膜を備えた膜モジュールを用いて水を分離ろ過処理する装置およびそれを用いた膜ろ過方法に関するものである。さらに詳しくは、膜間差圧の上昇を抑制することが可能となる膜分離装置及び膜ろ過方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
膜分離法は、省エネルギー、省スペース、省力化および製品の品質向上等の特徴を有するため、様々な分野での使用が拡大している。例えば、精密ろ過膜や限外ろ過膜を河川水や地下水や下水処理水から工業用水や水道水を製造する浄水プロセスへの適用があげられる。
【0003】
さらに中空糸膜モジュールは、単位体積あたりの膜面積が大きく確保可能であることから、多数の流体処理分野、たとえば、限外ろ過膜による酵素の濃縮・脱塩、注射用水の製造、電着塗料の回収、超純水のファイナルフィルトレーション、下廃水処理、河川水・湖沼水・伏流水の除濁、精密ろ過膜による薬品精製、除菌、除濁等に適用されている。
【0004】
しかし、精密ろ過膜(MF膜)または限外ろ過膜(UF膜)を用いて原水を膜ろ過すると、原水中に含まれる濁質や有機物等の除去対象物が膜面に蓄積し、膜の閉塞現象が起こるため、膜のろ過抵抗が上昇し、やがてろ過を行うことができなくなる。そこで膜ろ過性能を維持するため、定期的に膜ろ過を停止し、物理洗浄を行う必要がある。
【0005】
物理洗浄には、膜モジュールの供給水側に空気を吹き込んで膜を水中で振動させることにより、膜面に付着した汚染物質を除去する空気洗浄(空洗)や、膜モジュールのろ過方向とは逆方向、つまりろ過水側から供給水側に、膜ろ過水などの水(逆洗水)を圧力で押し込み、膜などに付着した汚染物質を排除する逆圧水洗浄(逆洗)、空洗や逆洗によって剥がれた濁質を多く含む膜モジュール内の水の全量をモジュール系外に排出する排水、一定量の原水を膜モジュールに供給することによって膜モジュール内の濁質を系外に押し出すフラッシング等があり、通常、空洗や逆洗等を順次もしくは同時に組み合わせて実施し、膜ろ過によって上昇した膜ろ過抵抗を回復させ、長期間の安定した膜ろ過運転を可能にする。前記原水を膜ろ過する工程をろ過工程と呼び、空洗や逆洗、ならびに濁質の排出等全ての洗浄操作を一連の工程として1つにまとめたものを洗浄工程と呼ぶ。また、ろ過工程と洗浄工程を1回ずつ行うことを1サイクルと呼び、通常のMF膜及びUF膜モジュールの運転では、このサイクルを繰り返し自動的に行うことが一般的である。
【0006】
通常、上述のような物理洗浄は、一定時間ろ過した後に一定の強度で行われる。しかしながら、原水の水質変動や膜の運転状況に応じて、物理洗浄の頻度や強度を変更することは、膜の安定運転性や経済性の観点から非常に好ましく、例えば特許文献1では、原水の濁度に基づき、洗浄頻度を制御する膜ろ過方法が開示されている。また特許文献2では、膜ろ過差圧の上昇速度に応じて物理洗浄の頻度を変更する膜ろ過方法が開示されている。
【0007】
しかし、本発明者の鋭い研究によって、中空糸膜モジュールにおける膜汚染には以下の3パターンあることが明らかとなった。1つ目は、膜ろ過の継続に伴い原水中の無機物・有機物などの除去対象物質が膜細孔内に付着し、細孔径が実質的に小さくなることによって抵抗が上昇し、ろ過性能が低下する膜汚染である。2つ目は、同除去対象物質が膜面に付着/堆積し、付着物質の堆積層抵抗によって、ろ過性能が低下する膜汚染である。3つ目は、原水中に混入された異物または厚くなった膜面付着物質の堆積層がバインダーのような役割をし、隣接する中空糸膜同士が接着され流路閉塞によって、実際にろ過で使用できる膜面積(有効膜面積)が減少し、ろ過性能が低下する膜汚染である。
【0008】
これらの膜汚染の内、3つ目の膜汚染は有効膜面積が減少するので、残存する膜に汚れ物質負荷が集中する。そのため一旦発生し放置すると、膜汚染の進行が加速し、膜ろ過の安定運転に障害を与える傾向が著しく、放置後に物理洗浄を強化しても膜汚染物質を完全に取り除くことは極めて困難である。そのため、3つ目の膜汚染が発生したら、直ちに物理洗浄の強度や頻度を増やし対応することが好ましい。
しかし、上記のような従来技術では、原水濁度及び膜ろ過差圧の上昇速度を因子として物理洗浄の強度・頻度の調整を行っているため、3つ目の膜汚染の発生感知及び3つ目の膜汚染度合いの把握を行うことは難しい。そのため、有効膜面積を減少させる膜汚染パターンで適切な対応がなされない可能性があり、膜ろ過の安定運転に著しい障害を与える恐れがある。
【特許文献1】特開平5−317660号公報
【特許文献2】特開平11−169851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、安定膜ろ過運転に対し著しい障害となる、有効膜面積を減少させる膜汚染の発生感知及び膜汚染度合い把握が可能な評価因子に基づいて、洗浄の強度や頻度を調整し、長期間安定運転可能で経済的な膜分離装置および膜ろ過方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、以下の構成からなる。
(1)中空糸形状の精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を備えた膜モジュールと、ろ過時の通液方向とは逆方向に洗浄液を通液して膜モジュール内の前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を逆洗する逆洗手段を含む洗浄手段と、前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜のろ過時および逆洗時の透過係数比(Z)に応じて、前記洗浄手段による洗浄度合いを制御する制御手段とを有することを特徴とする膜分離装置。
(2)中空糸形状の精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を備えた膜モジュールと、ろ過時の通液方向とは逆方向に洗浄液を通液して膜モジュール内の前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を逆洗する逆洗手段を含む洗浄手段と、前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜のろ過時の膜透過係数(X)と逆洗時の膜透過係数(Y)とを算出する手段と、該算出手段によって算出した逆洗時の膜透過係数(Y)とろ過時の膜透過係数(X)との比である透過係数比(Z)に応じて、前記洗浄手段による洗浄度合いを制御する制御手段とを有することを特徴とする膜分離装置。
(3)前記制御手段は、逆洗終了直前の膜透過係数を逆洗時の膜透過係数(Y)とするとともに該逆洗直後に実施されるろ過の開始時の膜透過係数をろ過時の膜透過係数(X)として透過係数比(Z)を算出し、該透過係数比(Z)に応じて洗浄度合いを制御するものである、上記(2)に記載の膜分離装置。
(4)前記制御手段が、透過係数比(Z)に応じて逆洗流量または逆洗時間を制御するものである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の膜分離装置。
(5)前記洗浄手段が洗浄液に薬品を供給するための薬品供給手段を有し、前記制御手段が透過係数比(Z)に応じて洗浄液の薬品濃度を制御する、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の膜分離装置。
(6)前記洗浄手段が前記膜モジュールの供給液側に気体を供給するための気体供給手段を有し、前記制御手段が透過係数比(Z)に応じて気体流量または気体供給時間を制御する、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の膜分離装置。
(7)中空糸形状の精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を備えた膜モジュールで供給液をろ過するろ過工程と、該膜モジュールのろ過時の通液方向とは逆方向に洗浄液を通液して膜モジュール内の前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を逆洗する逆洗工程を含む洗浄工程とを繰り返す膜ろ過方法であって、前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜の逆洗時およびろ過時の透過係数比(Z)に応じて洗浄工程による洗浄の度合いを制御することを特徴とする膜ろ過方法。
(8)中空糸形状の精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を備えた膜モジュールで供給液をろ過するろ過工程と、該膜モジュールのろ過時の通液方向とは逆方向に洗浄液を通液して膜モジュール内の前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を逆洗する逆洗工程を含む洗浄工程とを繰り返す膜ろ過方法であって、前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜の逆洗時の膜透過係数(Y)とろ過時の膜透過係数(X)との比である透過係数比(Z)に応じて洗浄工程による洗浄の度合いを制御することを特徴とする膜ろ過方法。
(9)1回の逆洗工程の終了直前の膜透過係数を逆洗時の膜透過係数(Y)とするとともに該逆洗工程直後に実施されるろ過工程における開始時の膜透過係数をろ過時の膜透過係数(X)として透過係数比(Z)を算出し、該透過係数比(Z)に応じて洗浄工程による洗浄度合いを制御する、上記(8)に記載の膜ろ過方法。
(10)透過係数比(Z)に応じて逆洗流量または逆洗時間を制御する、上記(7)〜(9)のいずれかに記載の膜ろ過方法。
(11)透過係数比(Z)に応じて洗浄液の薬品濃度を制御する、上記(7)〜(10)のいずれかに記載の膜ろ過方法。
(12)膜モジュールの供給液側に気体を供給して前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜の洗浄を行う工程を有するとともに、前記透過係数比(Z)に応じて該工程の気体流量及び/又は気体供給時間を制御する、上記(7)〜(11)のいずれかに記載の膜ろ過方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、実質的に逆洗時の膜透過係数(Y)とろ過時の膜透過係数(X)との比である透過係数比(Z)に応じて洗浄度合いを制御することになるので、有効膜面積を減少させる膜汚染に対して適切な対応が可能であり、長期間安定運転可能で経済的な膜分離装置および膜ろ過方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の膜分離装置は、中空糸形状の精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を備えた膜モジュールと、ろ過時の通液方向とは逆方向に洗浄液を通液して膜モジュール内の前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を逆洗する逆洗手段を含む洗浄手段と、前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜のろ過時および逆洗時の透過係数比(Z)に応じて、前記洗浄手段による洗浄度合いを制御する制御手段とを有する。以下、本発明について、最良の実施形態の膜分離装置を模式的に示す図面を参照しながら説明する。ただし、本発明の範囲がこれらに限られるものではない。
【0013】
図1は本発明にかかる膜分離装置の一実施様態を示す概略構成図である。図1に示す膜分離装置においては、原水を貯留する原水槽1と、分離膜を備えた膜モジュール4と、膜モジュール4の透過水を貯留する処理水槽2とがこの順序で設けられているとともに、原水槽1と膜モジュール4の原水側とが原水流入配管22で、また、膜モジュール4の透過水側と処理水槽2とが透過水流出配管24とで接続されている。
【0014】
原水流入配管22には、原水を膜モジュール4に供給する際の駆動源となる原水供給ポンプ5と、膜モジュール4の逆洗を行う際に当該配管を閉鎖するための原水バルブ18と、原水側の圧力を検知する原水側圧力計11とがこの順序で設けられている。一方、透過水流出配管24には、透過側の圧力を検知する透過水側圧力計12と、透過水の流量を検知する透過水流量計9と、膜モジュール4の逆洗を行う際に当該配管を閉鎖するための透過水バルブ14とが設けられるとともに、その透過水バルブ14よりも上流側に、処理水と連通する逆洗水流入配管25が接続されている。また透過側の圧力を検知する透過水側圧力計12も透過水バルブ14よりも上流側に設置されている。
【0015】
逆洗水流入配管25には、逆洗水を送液するための駆動源となる逆洗ポンプ6と、膜モジュール4の逆洗を行う際に当該配管を開放するための逆洗水バルブ15と、逆洗水の流量を検知する逆洗水流量計10とが設けられている。また、逆洗水流入配管25には、他端が薬剤貯蔵槽3に接続されている薬剤流入配管26が接続されており、薬剤流入配管26には、逆洗水に薬剤を注入する際の駆動源となる薬剤注入ポンプ7が設けられている。
【0016】
さらに、膜モジュール4の原水側には、逆洗時に逆洗排水を排出するための逆洗排水配管23が接続されており、逆洗排水配管23には、逆洗時に当該配管を開放するための逆洗排水バルブ17が設けられている。また、膜モジュール4の原水側に気体を供給して分離膜の洗浄(以後、空気洗浄と称する)を行うため、空気供給ポンプ8を備えた空気流入配管27が膜モジュール4の原水側下方に接続されている。この空気流入配管27には、空気洗浄時に当該配管を開放するための空気バルブ19も設けられている。さらに、膜モジュール4の下方には、膜モジュール4内の水を排水するための排水配管13が接続されており、排水配管13には、排水時に当該配管を開放するための排水バルブ16が設けられている。
【0017】
また、図1に示す膜分離装置には、原水側圧力計11、透過水流量計9、透過水側圧力計12、逆洗水流量計10によって検出された値に基づいて、ろ過時の膜透過係数(X)と逆洗時の膜透過係数(Y)とを算出する演算部20と、演算部20で算出された逆洗時の膜透過係数(Y)とろ過時の膜透過係数(X)との比である透過係数比(Z)に基づいて洗浄手段による膜モジュール4の洗浄度合いを制御する制御部21とが設けられている。
上記のような構成の膜分離装置において、膜モジュール4に収容される分離膜としては、中空糸形状を有する精密ろ過膜や限外ろ過膜(以後、単に中空糸膜と称する)を使用することができる。中空糸膜の素材としては、特に限定されるものではなく、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフォン、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、酢酸セルロースやセラミック等の無機素材を例示できる。中でも膜強度の点からはポリフッ化ビニリデンがり好ましい。中空糸膜の細孔径についても特に限定されず、0.001μm〜1μm の範囲内で便宜選択することができる。また、中空糸膜の外径についても特に限定されないが、中空糸膜の揺動性が高く、洗浄性に優れるため、250μm〜2000μmの範囲内であることが好ましい。
膜モジュール4としては、多数本の上記中空糸膜からなる中空糸膜束を耐圧性の筒状ケース内に装填し、膜束の両端を筒状ケースに接着固定するとともに、片端または両端の接着固定部を切断して中空糸膜の内部を開口した構造を有し、加圧した原水をモジュール内に導入し、中空糸膜面によってろ過を行うタイプの加圧型膜モジュールなどを例示できる。
【0018】
膜モジュール4は、縦置き、つまり図1に示すように両端の接着固定部を略鉛直方向に配置しても、横置き、つまり両端の接着固定部を略水平方向に配置しても構わない。しかしながら、後述するエアスクラビングの際の必要エア量が少なくなるという点で縦置きが好ましい。
中空糸膜束の両側端部を接着固定する際の接着剤については、特に限定されず、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂などを用いることができる。
【0019】
次に、上述した装置に基づいて本発明の膜ろ過方法について説明する。
本発明の膜ろ過方法においては、中空糸形状の精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を備えた膜モジュールで供給液をろ過するろ過工程と、該膜モジュールのろ過時の通液方向とは逆方向に洗浄液を通液して膜モジュール内の前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を逆洗する逆洗工程を含む洗浄工程とを繰り返すが、図1に示す膜分離装置において、ろ過工程時には、原水供給ポンプ5によって原水が膜モジュール4に供給され、分離膜によって濁質が除去された透過水が処理水槽2へ送られる。なお、ここでは、膜モジュール4に流入した原水の全てを膜ろ過する全量ろ過方式で運転する場合について説明するが、膜モジュールに流入させた原水の一部を再び原水槽に戻すクロスフローろ過方式で運転しても構わない。
一方、洗浄工程では、逆洗が行われ、必要に応じて空気洗浄、排水、フラッシング等などの工程が設けられる。その選択・組み合わせは特に限定されない。なお、排水は、排水バルブ16を開き、物理洗浄後などに膜モジュール4内に滞留している水を系外に排出することをいい、フラッシングとは、透過水バルブ14を閉、逆洗排水バルブ17を開にした状態で、原水ポンプを作動させ、モジュール内に原水を過剰に供給して膜モジュール内の汚れを系外に吐き出すことをいう。また、逆洗を含まない洗浄工程が間欠的に実施されてもよい。
逆洗工程においては、膜モジュール4に対してろ過方向とは逆方向に逆洗水を供給して該膜モジュール4内の分離膜を逆洗する。具体的には、透過水バルブ14を閉鎖するとともに逆洗水バルブ15を開き、処理水槽2に貯留されていた膜モジュール4の透過水の一部を、逆洗ポンプ6によって逆洗水流入配管25、透過水流出配管24を介して膜モジュール4に供給し、分離膜を透過水側から原水側へと通過させることで、分離膜の洗浄を行う。分離膜を通過した逆洗排水は、逆洗排水配管23、逆洗排水バルブ17を介して系外に排出される。なお、本発明において逆洗に用いる逆洗水は、使用する膜モジュールから得られる膜ろ過水と同等かそれ以上に清澄な水であれば特に限定されない。
また、逆洗・空気洗浄時の逆洗水・空気に、次亜塩素酸ナトリウムのような酸化剤、水酸化ナトリウムのようなアルカリ、硫酸などの酸及び重亜硫酸ソーダのような還元剤などから選ばれる薬品を添加・注入しても良い。
【0020】
以上のようにして行われる膜ろ過において、本発明では、逆洗時の膜透過係数(Y)とろ過時の膜透過係数(X)との比である透過係数比(Z)に応じて膜モジュールの洗浄度合いを制御する。具体的に図1に示す装置においては、ろ過工程時に、原水流入配管22に設けられている原水側圧力計11及び透過水流出配管24に設けられている透過水側圧力計12で、それぞれの圧力を検出するとともに、透過水流出配管24に設けられている透過水流量計9で透過水の流量を検出し、逆洗工程時には、原水側圧力計11及び透過水側圧力計12でそれぞれの圧力を検出するとともに、逆洗水流入配管25に設けられている逆洗水流量計10で逆洗水の流量を検出する。それら検出値は演算部20に入力され、ろ過時の膜透過係数(X)、逆洗時の膜透過係数(Y)が算出、貯蔵される。
【0021】
ろ過時の膜透過係数(X)は、ろ過差圧(A)、ろ過流量(B)、および公称膜面積(C)を用いて以下の式1によって求められる。
【0022】
【数1】

【0023】
ここで、ろ過差圧(A)は、ろ過工程時の膜モジュール供給水側圧力と透過水側圧力との差である。すなわち原水側圧力計11での検出値(P1)から、透過水側圧力計12での検出値(P2)を引いた値、つまり(P1)−(P2)で求められる。またろ過流量(B)の値はろ過水流量計9での検出値がそのまま使用される。
【0024】
一方、逆洗時の膜透過係数(Y)は、逆洗差圧(D)、逆洗流量(E)と公称膜面積(C)を用いて以下の式2によって求められる。
【0025】
【数2】

【0026】
ここで、逆洗差圧(D)は、逆洗時の膜モジュールの透過水側圧力と供給水側圧力との差である。すなわち透過水側圧力計12での検出値P2から、原水側圧力計11での検出値P1を引いた値、(P2)−(P1)で求められる。また逆洗流量(E)は、逆洗水流量計10での検出値がそのまま使用される。公称膜面積(C)は、ろ過時の膜透過係数(X)を求めた際の公称膜面積(C)と同値となる。
【0027】
続いて、算出された逆洗時の膜透過係数(Y)とろ過時の膜透過係数(X)とを用い、透過係数比(Z)が以下の式に基づいて算出される。
【0028】
【数3】

【0029】
そして、制御部21は、この透過係数比(Z)に応じて洗浄手段による洗浄の度合いを制御する。
【0030】
さて、前記式1及び式2で示したように、膜透過係数は単位膜面積・圧力当たりの透過流量を表す。従って、膜が汚れるほどある透過流量を出すために要する圧力が高くなるため、膜透過係数は低くなる。
【0031】
また、同一の膜に対して原水側からろ過水側へと水を流した場合(ろ過工程)と、ろ過水側から原水側へと水を流した場合(逆洗工程)とでは、本来は膜汚れが同一であるため、水質差を無視できれば、ろ過時の膜透過係数(X)と逆洗時の膜透過係数(Y)は同値になる。すなわち透過係数比(Z)は1となる。
【0032】
しかしながら、上述したように、膜ろ過を続けることによって膜には付着物質が堆積し、その堆積層がバインダーのような役割をして隣接する中空糸膜同士が接着され流路閉塞を生じることがある。その場合、実際にろ過で使用できる膜面積(有効膜面積)が減少する。したがって、上述するように同一の膜に対して原水側からろ過水側へと水を流した場合(ろ過工程)と、ろ過水側から原水側へと水を流した場合(逆洗工程)とを比較した場合、ろ過時の膜透過係数(X)と逆洗時の膜透過係数(Y)とが異なってくる。すなわち、逆洗時には公称膜面積(C)のすべてが有効に使用されているとしても、ろ過時には公称膜面積(C)の半分しか実際の有効膜面積として使用されていないということもあり、その場合、透過係数比(Z)は1ではなく、2の値を示す。
【0033】
してみれば、透過係数比(Z)は、中空糸膜モジュールにおける3パターンの膜汚染のうち、隣接する中空糸膜同士が接着されることに起因する流路閉塞、有効膜面積減少、その後のろ過性能の加速度的低下など「有効膜面積の減少を伴う膜汚染」の発生感知及び汚染度合いの把握が可能な評価因子ということがいえる。
【0034】
したがって、本発明においては、ろ過時と逆洗時の透過係数比(Z)に基づいて膜モジュールの洗浄度合いを制御する。ろ過時と逆洗時の透過係数比(Z)に基づくので、有効膜面積を減少させる膜汚染に対して適切な対応を迅速にとることが可能であり、それに基づいて洗浄度合いを制御することで長期間安定して運転することが可能となる。その結果、経済性を高めることができる。
【0035】
なお、ろ過工程における処理水(原水)と逆洗工程における処理水(逆洗水)とでは、通常処理水質が異なり、膜透過係数も処理水の水質の影響を受けるが、その水質差による影響は、中空糸膜同士の接着による流路閉塞に比べれば微々たるものである。したがって、本発明においては、実質的に無視できる。
【0036】
また、一般的に膜ろ過原水には濁質(膜面除去物質)が含まれるため、ろ過工程と逆洗工程を繰り返す膜ろ過運転における膜透過係数は図2のように経時変化する。すなわち、ろ過工程でろ過を継続すると、原水中に含まれる汚れ物質が徐々に膜面へ蓄積され、ろ過工程中の透過係数は徐々に低下する。そして一定時間のろ過を継続した後、逆洗工程に進み、今度はろ過方向とは逆方向から洗浄水(たとえばろ過水の一部)を通水させることにより、膜に蓄積された汚れ物質が膜から剥がれ、その透過係数は徐々に回復・上昇する。したがって、より正確な透過係数比(Z)を算出するには、膜汚れが実質的に同一な状態でろ過時の膜透過係数(X)と逆洗時の膜透過係数(Y)を算出することが好ましい。そのため、本発明においては、逆洗時の膜透過係数(Y)として、逆洗終了直前の最も膜透過係数が高い値を用い、ろ過時の膜透過係数(X)として、逆洗時の膜透過係数(Y)を測定した直後に実施されるろ過工程における、ろ過開始時の最も膜透過係数が高い値を用いるのが好ましい。
【0037】
さらに、逆洗水には上述したように膜ろ過水と同等もしくはそれ以上に清澄な水であればどんな水を用いても構わないが、膜透過係数は水温や水質によって変化するため、より正確な透過係数比(Z)を算出するには、膜ろ過水の一部を逆洗水として利用するのが好ましい。また膜ろ過原水の水質変動、温度変化を考慮すると、逆洗工程直前のろ過工程で得られたろ過水の一部を逆洗水として用いるのがより好ましい。
【0038】
以上のようにして、制御部21は、ろ過時の膜透過係数(X)と逆洗時の膜透過係数(Y)とから算出される透過係数比(Z)に基づいて、逆洗、空気洗浄、排水、フラッシング等の頻度、強度、薬品濃度、時間等を制御する。
【0039】
上述したとおり、透過係数比(Z)が1より大きくなるということは、ろ過工程時の有効膜面積が減少していることを表す。そのため、そのままの条件でろ過を継続すると残存する膜に汚れ物質負荷が集中し、膜汚染の進行を加速させ、膜ろ過運転性に障害を与える傾向が著しい。よって透過係数比(Z)は運転期間中、1を継続することが好ましく、1を継続することが困難な場合には、より1に近づけるよう制御することが好ましい。
【0040】
透過係数比(Z)に応じて、空洗や逆洗等の洗浄の頻度、強度など洗浄度合いを制御し、有効膜面積を減少させる膜汚染に対して適切な対応をすることにより、長期間の安定運転が可能となる。
【0041】
なお、図1に示す膜分離装置のうち、演算部21や制御部22が無い場合、ろ過時の膜透過係数(X)や逆洗時の膜透過係数(Y)を自動的に算出し、制御する手段が無い装置の場合には、手計算等により透過係数比(Z)を算出し、その値に応じて、逆洗、空気洗浄、排水、フラッシング等の頻度、強度、薬品濃度、時間等を制御することにより、有効膜面積を減少させる膜汚染に対して適切な対応が可能となり、長期間の安定運転を行うことができる。
【0042】
また、上記説明では、透過係数比(Z)は、一旦ろ過工程における膜透過係数(X)及び逆洗工程における膜透過係数(Y)を算出し、それらを用いて算出しているが、透過係数比(Z)は下記式でも算出可能である。つまり公称膜面積(C)を入力しなくても、逆洗流量(E)、逆洗差圧(D)、ろ過差圧(A)、ろ過流量(B)から直接、透過係数比(Z)を算出しても構わない。
【0043】
【数4】

【0044】
さらに、逆洗水と原水にてその水温が異なる際には、水温による水の粘度変化を補正することによって、更に正確な透過係数比(Z)の算出が可能となる。
【0045】
そして、図1に示す装置は、加圧型膜モジュールを用いた態様であるが、中空糸膜束の両側端部を接着剤で接着固定した後、片端または両端接着固定部を切断して中空糸膜の内部を開口させたモジュールを、大気開放された原水槽中に浸漬させ、透過水側を吸引してろ過する吸引ろ過方式を採用するタイプの浸漬型膜モジュールであっても構わない。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
外径1.5mm、内径0.9mm、長さ約2000mmのポリフッ化ビニリデン製中空糸膜1500本からなる中空糸MF膜束を、上端を中空糸膜端面が開口した状態で、下端を中空糸膜端面が閉塞された状態でウレタン系接着剤にて筒状ケースに接着固定し、膜面積12mの中空糸膜モジュールを作製した。
【0047】
上記中空糸膜モジュール1本を図1に示す膜分離装置に装着し、濁度2〜50の範囲内の湖沼水を原水とし、膜ろ過流束3.0m/dでのろ過30分、流束6.0m/dでの逆洗30秒、エア流量50NL/Minでの空洗60秒の繰り返し試験を2ヶ月間行った。
【0048】
また本試験では、透過係数比(Z)の値に応じて、逆洗水に添加する薬品(NaOCl)濃度を3〜20mg/Lの間で変化させ、透過係数比(Z)の値をより1に近い状態で運転継続できるよう制御した。
【0049】
その結果を図3に実線で示す。図から明らかなように、本実施例では透過係数に応じて薬品濃度を変化させ、有効膜面積を減少させる膜汚染に対して適切な対応を行えたことにより、試験期間中ほとんど膜間差圧の上昇は観察されなかった。
【0050】
(比較例1)
透過係数比(Z)の値による制御を行わず、逆洗水に添加する薬品(NaOCl)濃度を10mg/Lに固定した以外は実施例1と同様にした。
【0051】
その結果を図3に破線で示す。図から明らかなように、試験開始直後は膜間差圧が安定的に推移していたが、時間が経過するにつれて透過係数比が1より大きくなり、膜間差圧は上昇し、60日後には運転開始時と比べ2倍近くになった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の、中空糸膜モジュールを用いた膜分離装置及び膜ろ過方法は、上水処理に限らず、下水処理や産業排水処理などにも応用することができ、その応用範囲はこれらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態を示す膜分離装置の概略構成図である。
【図2】一般的な膜ろ過運転における膜透過係数の経時変化を模式的に示したものである。
【図3】実施例、比較例における透過係数比(Z)および膜間差圧の経日変化である。
【符号の説明】
【0054】
1 原水槽
2 処理水槽
3 薬剤貯蔵槽
4 膜モジュール
5 原水供給ポンプ
6 逆洗ポンプ
7 薬剤注入ポンプ
8 空気供給ポンプ
9 透過水流量計
10 逆洗水流量計
11 原水側圧力計
12 透過水側圧力計
13 排水配管
14 透過水バルブ
15 逆洗水バルブ
16 排水バルブ
17 逆洗排水バルブ
18 原水バルブ
19 空気バルブ
20 演算部
21 制御部
22 原水配管
23 逆洗排水配管
24 透過水配管
25 逆洗水配管
26 薬品注入配管
27 空気流入配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸形状の精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を備えた膜モジュールと、ろ過時の通液方向とは逆方向に洗浄液を通液して膜モジュール内の前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を逆洗する逆洗手段を含む洗浄手段と、前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜のろ過時および逆洗時の透過係数比(Z)に応じて、前記洗浄手段による洗浄度合いを制御する制御手段とを有することを特徴とする膜分離装置。
【請求項2】
中空糸形状の精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を備えた膜モジュールと、ろ過時の通液方向とは逆方向に洗浄液を通液して膜モジュール内の前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を逆洗する逆洗手段を含む洗浄手段と、前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜のろ過時の膜透過係数(X)と逆洗時の膜透過係数(Y)とを算出する手段と、該算出手段によって算出した逆洗時の膜透過係数(Y)とろ過時の膜透過係数(X)との比である透過係数比(Z)に応じて、前記洗浄手段による洗浄度合いを制御する制御手段とを有することを特徴とする膜分離装置。
【請求項3】
前記制御手段は、逆洗終了直前の膜透過係数を逆洗時の膜透過係数(Y)とするとともに該逆洗直後に実施されるろ過の開始時の膜透過係数をろ過時の膜透過係数(X)として透過係数比(Z)を算出し、該透過係数比(Z)に応じて洗浄度合いを制御するものである、請求項2に記載の膜分離装置。
【請求項4】
前記制御手段が、透過係数比(Z)に応じて逆洗流量または逆洗時間を制御するものである、請求項1〜3のいずれかに記載の膜分離装置。
【請求項5】
前記洗浄手段が洗浄液に薬品を供給するための薬品供給手段を有し、前記制御手段が透過係数比(Z)に応じて洗浄液の薬品濃度を制御する、請求項1〜4のいずれかに記載の膜分離装置。
【請求項6】
前記洗浄手段が前記膜モジュールの供給液側に気体を供給するための気体供給手段を有し、前記制御手段が透過係数比(Z)に応じて気体流量または気体供給時間を制御する、請求項1〜5のいずれかに記載の膜分離装置。
【請求項7】
中空糸形状の精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を備えた膜モジュールで供給液をろ過するろ過工程と、該膜モジュールのろ過時の通液方向とは逆方向に洗浄液を通液して膜モジュール内の前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を逆洗する逆洗工程を含む洗浄工程とを繰り返す膜ろ過方法であって、前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜の逆洗時およびろ過時の透過係数比(Z)に応じて洗浄工程による洗浄の度合いを制御することを特徴とする膜ろ過方法。
【請求項8】
中空糸形状の精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を備えた膜モジュールで供給液をろ過するろ過工程と、該膜モジュールのろ過時の通液方向とは逆方向に洗浄液を通液して膜モジュール内の前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜を逆洗する逆洗工程を含む洗浄工程とを繰り返す膜ろ過方法であって、前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜の逆洗時の膜透過係数(Y)とろ過時の膜透過係数(X)との比である透過係数比(Z)に応じて洗浄工程による洗浄の度合いを制御することを特徴とする膜ろ過方法。
【請求項9】
1回の逆洗工程の終了直前の膜透過係数を逆洗時の膜透過係数(Y)とするとともに該逆洗工程直後に実施されるろ過工程における開始時の膜透過係数をろ過時の膜透過係数(X)として透過係数比(Z)を算出し、該透過係数比(Z)に応じて洗浄工程による洗浄度合いを制御する、請求項8に記載の膜ろ過方法。
【請求項10】
透過係数比(Z)に応じて逆洗流量または逆洗時間を制御する、請求項7〜9のいずれかに記載の膜ろ過方法。
【請求項11】
透過係数比(Z)に応じて洗浄液の薬品濃度を制御する、請求項7〜10のいずれかに記載の膜ろ過方法。
【請求項12】
膜モジュールの供給液側に気体を供給して前記精密ろ過膜及び/又は限外ろ過膜の洗浄を行う工程を有するとともに、前記透過係数比(Z)に応じて該工程の気体流量及び/又は気体供給時間を制御する、請求項7〜11のいずれかに記載の膜ろ過方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−296500(P2007−296500A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128903(P2006−128903)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】