説明

膜分離装置

【課題】 長期間安定した濾過を可能とする膜分離装置の提供。
【解決手段】 多数本の中空糸膜からなる中空糸膜束の、両端部が接着固定され、上端部に中空糸膜の開口部を有し、下端部に気体導入用のスカート構造部と気体を中空糸膜外表面に導入する気体導入孔を有し、かつ垂直方向に設置される膜モジュールと、該スカート構造部の下部に噴出部を有する散気装置とから構成される膜分離装置であって、該散気装置が、集水管と平行に設置されかつ給気手段に連通する散気装置用主パイプ、主パイプに対して鉛直方向に分岐された散気装置用分枝パイプ、さらに、分岐パイプの末端部に取り付けられた噴出口を2つ以上有する噴出部から構成されることを特徴とする膜分離装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、浄水処理、下水処理、産業排水処理等における固液分離は、凝集沈殿槽、重力沈殿槽等を用いて行われていた。しかしながら、近年では、膜技術の発達により、上述した各種の槽に比べてコンパクトな槽を用い、この中に膜モジュールを浸漬させて、被処理水を固液分離する方法が採用されるに至っている。即ち、槽内に供給された懸濁物質を含む被処理水中に上述した膜モジュールを設置し、この膜モジュールにおいて加圧、吸引もしくは水頭差により濾過を行い、膜モジュールによって濾過された濾過水が槽の外部に引き出される。このような方法によれば、槽内の液相中の懸濁物質は、膜モジュールの供給側に固形分として残り、膜モジュールの透過側において、除濁、除菌された清浄な濾過水が得られる。
【0003】
このような膜分離装置においては、濾過を長期間安定させるため、効果的な物理洗浄が必要である。すなわち、濾過膜の二次側から一次側へ膜濾過水を逆流させる逆洗や散気装置により気体を噴出させ、気体の上昇により生じる水流によって膜面を洗浄する空洗などの物理洗浄により膜面に堆積した懸濁物質を剥離させ、かつ、剥離した懸濁物質を系外へ排出する必要がある。ここで、空洗による物理洗浄方法は、散気装置から噴出した気体を膜モジュール全体へ均一に供給しなければ効果的な洗浄効果を得ることができない。すなわち、散気装置により噴出した気体が膜モジュールに対して片流れを起こした場合、気体が流れない箇所においては十分な膜面洗浄流を得られないため、膜面に堆積した懸濁物質が剥離されず濾過能力が急激に低下していく。
【0004】
このような問題に鑑み、膜モジュール全体へ均一に気体を供給し、効果的な膜面洗浄流を発生させるために、散気装置の主パイプに多数の噴出口を取り付けた膜分離装置用散気装置(特許文献1)が開示されている。又、散気装置の主パイプから分岐パイプを複数本有した浸漬型膜分離装置用の散気装置(特許文献2)や、膜モジュールが設置された槽全体へ均一に気体を供給するために、槽断面積に対して気体吐出口の個数を規定した散気装置(特許文献3)、さらには、設置した膜モジュールに対して傾斜をつけて散気装置を配置した膜分離装置(特許文献4)が開発されている。
しかしながら、前述した膜分離装置では、気体を膜モジュール全体へ均一に供給することができず、気体が流れない箇所において十分な膜面洗浄流を得られないため、膜面に堆積した懸濁物質が剥離されず濾過能力が急激に低下してしまう問題を解決することはできない。
【特許文献1】特開平11−28463号公報
【特許文献2】特開2001−276875号公報
【特許文献3】国際公開第99/29630号パンフレット
【特許文献4】特許第03453173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、長期間安定した濾過を可能とする膜分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、散気装置用主パイプに対して鉛直方向に延びた分岐パイプの末端部に取り付けた噴出部に噴出口を2つ以上にすることで、気体を確実に膜モジュールへ供給し、かつ、気体の片流れを防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)多数本の中空糸膜からなる中空糸膜束の、両端部が接着固定され、上端部に中空糸膜の開口部を有し、下端部に気体導入用のスカート構造部と気体を中空糸膜外表面に導入する気体導入孔を有し、かつ垂直方向に設置される膜モジュールと、該スカート構造部の下部に噴出部を有する散気装置とから構成される膜分離装置であって、該散気装置が、集水管と平行に設置されかつ給気手段に連通する散気装置用主パイプ、主パイプに対して鉛直方向に分岐された散気装置用分枝パイプ、さらに、分岐パイプの末端部に取り付けられた噴出口を2つ以上有する噴出部から構成されることを特徴とする膜分離装置。
【0008】
(2)噴出部が分岐パイプを中心として対称となるよう配置された噴出口を有し、かつ、噴出口が噴出流により回転可能な状態で分岐パイプに取り付けられていることを特徴とする(1)に記載の膜分離装置。
(3)噴出部が側面に複数個のスリットを有するキャップにより形成されており、前記キャップを分岐パイプの末端部に取り付けてあることを特徴とする(1)または(2)に記載の膜分離装置。
(4)噴出部が膜モジュールの中心に対して直下にあることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の膜分離装置。
(5)噴出部と膜モジュール下端面との距離が5〜200mmであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の膜分離装置、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の膜分離装置を用いることにより、気体が片流れを起こさず均一に膜モジュールへ供給されるので、効果的な物理洗浄を行うことが出来、よって、長期間の安定運転が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に関して、好ましい実施形態を中心に、詳細に説明する。
図1は、圧縮空気などの給気手段と連通した散気装置用主パイプが、複数本の膜モジュールが配置された集水管と水平方向に設置され、かつ、前記主パイプに対して鉛直方向に分岐された散気装置用分枝パイプで構成され、さらに、分岐パイプの末端部に取り付けた噴出部の形状がT字型(噴出口を2つ有する)である本発明の膜分離装置の一例を示す概略図である。1は圧縮空気などの給気手段、2は散気装置用主パイプ、3は散気装置用分岐パイプ、4はT型噴出部、5は膜モジュール気体導入孔、6は膜モジュール、7は集水管を示している。
【0011】
図1に示した膜分離装置を用いることにより、気体を確実に膜モジュールへ供給し、かつ、気体の片流れを防止できる。ここで、図1に示した噴出部の形状は本発明の一例であり、噴出部の噴出口が2つ以上あればどんな形状でも良いが、例えば、噴出口が分岐パイプを中心として対称となるよう配置され、かつ、噴出口からの噴出流により回転可能な状態で分岐パイプに取り付けてある場合や、側面が複数個のスリットを有するキャップにより形成されており、前記キャップを分岐パイプの末端部に取り付けてある場合等は、気体が片流れを起こさず均一に膜モジュールへ供給され、効果的な物理洗浄が可能となり好ましい。
【0012】
また、散気装置用主パイプ及び散気装置用分岐パイプの配置箇所は一例にすぎずこれに限定されるものではない。また、噴出部は膜モジュールの中心に対して直下に配置されることが好ましく、噴出部と膜モジュール下端面との距離は5〜200mmが好ましい。
ここで、本発明に用いる膜モジュールとしては、中空糸膜の上下端部が接着固定され、どちらか一方の端部の中空糸膜が開口されたものであり、接着固定される端部の断面形状としては、円形の他、三角形、四角形、六角形、楕円形等であってもよい。また、膜モジュールに用いる中空糸膜としては、ナノ濾過膜、限外濾過膜、あるいは精密濾過膜等のいずれでもよい。さらに、接着固定された端部のどちらか一方には、気体導入用の複数の気体導入孔を有するものが好ましい。
【実施例】
【0013】
本発明を実施例に基づいて説明する。
[実施例1]
散気装置用主パイプに対して鉛直方向に分岐された散気装置用分枝パイプで構成され、さらに、前記分岐パイプの末端部に取り付けた噴出部の形状がT字型である散気装置2を取り付けた膜分離装置を用いて、濾過、逆洗、空洗、物理洗浄排水の排出からなる運転工程にて、河川水の濾過をおこなった。空洗流量は4Nm/hr/膜モジュールである。使用した膜モジュールは、直径165mm、長さ2mであり、ポリフッ化ビニリデン製の公称孔径0.1μmの中空糸型精密濾過膜を膜面積50mに束ねたものを用いた。膜濾過流束2.4m3/m2/日(膜面積1m2で1日あたり2.4m3の濾過水が得られる流束)で安定した濾過運転が可能であった。これは、T字型の噴出部を分岐パイプの先端に取り付け、前記噴出部を膜モジュールの真下に配置し、かつ、噴出部と膜モジュール下端面との距離を80mm確保したことにより、気体が片流れを起こさず均一に膜モジュールへ供給され、効果的な物理洗浄がおこなわれたためである。
【0014】
[比較例1]
噴出部の噴出口が1つの散気装置1を取り付けた膜分離装置を用いて、濾過、逆洗、空洗、物理洗浄排水の排出からなる運転工程にて、河川水の濾過をおこなった。空洗流量は4Nm/hr/膜モジュールである。使用した膜モジュールは実施例1に記載したものを使用した。膜濾過流束2.4m3/m2/日で濾過圧力が上昇を続けた。これは、噴出部を膜モジュールの真下に配置し、かつ、噴出部と膜モジュール下端面との距離を80mm確保したにも関わらず、分岐パイプに取り付けた噴出口が1つしか無かったために、気体が片流れを起こし、均一に膜モジュールへ供給されず、効果的な物理洗浄がおこなわれなかったためである。図2は、散気装置2(T型噴出部あり)との膜濾過試験結果の比較を示すグラフである。
【0015】
[実施例2]
散気装置用主パイプに対して鉛直方向に分岐された散気装置用分枝パイプで構成され、さらに、前記分岐パイプの末端部に取り付けた噴出口が分岐パイプを中心として対称となるよう配置され、かつ、噴出口からの噴出流により回転可能である散気装置(図3)を取り付けた膜分離装置を用いて、濾過、逆洗、空洗、物理洗浄排水の排出からなる運転工程にて、河川水の濾過をおこなった。空洗流量は4Nm/hr/膜モジュールである。使用した膜モジュールは、直径165mm、長さ2mであり、ポリフッ化ビニリデン製の公称孔径0.1μmの中空糸型精密濾過膜を膜面積50mに束ねたものを用いた。膜濾過流束2.4m3/m2/日で安定した濾過運転が可能であった。これは、噴出口からの噴出流により回転可能な噴出部を分岐パイプの先端に取り付け、前記噴出部を膜モジュールの真下に配置し、かつ、噴出部と膜モジュール下端面との距離を80mm確保したことにより、気体が片流れを起こさず均一に膜モジュールへ供給され、効果的な物理洗浄がおこなわれたためである。
【0016】
[実施例3]
散気装置用主パイプに対して鉛直方向に分岐された散気装置用分枝パイプで構成され、さらに、前記分岐パイプの末端部に取り付けた噴出口が側面に複数個のスリットを有する盲キャップにより形成された散気装置(図4)を取り付けた膜分離装置を用いて、濾過、逆洗、空洗、物理洗浄排水の排出からなる運転工程にて、河川水の濾過をおこなった。空洗流量は4Nm/hr/膜モジュールである。使用した膜モジュールは、直径165mm、長さ2mであり、ポリフッ化ビニリデン製の公称孔径0.1μmの中空糸型精密濾過膜を膜面積50mに束ねたものを用いた。膜濾過流束2.4m3/m2/日で安定した濾過運転が可能であった。これは、側面に複数個のスリットを有する噴出部を分岐パイプの先端に取り付け、前記噴出部を膜モジュールの真下に配置し、かつ、噴出部と膜モジュール下端面との距離を80mm確保したことにより、気体が片流れを起こさず均一に膜モジュールへ供給され、効果的な物理洗浄がおこなわれたためである。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、膜分離装置に関する分野で好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の膜分離装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の膜分離装置を利用した膜濾過試験結果の一例を示すグラフである。
【図3】本発明の膜分離装置用散気装置の噴出部の一例を示す斜視概略図である。
【図4】本発明の膜分離装置用散気装置の噴出部の別例を示す立面概略図である。
【符号の説明】
【0019】
1 給気手段
2 散気装置用主パイプ
3 散気装置用分岐パイプ
4 T型噴出部
5 膜モジュール気体導入孔
6 膜モジュール
7 集水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本の中空糸膜からなる中空糸膜束の、両端部が接着固定され、上端部に中空糸膜の開口部を有し、下端部に気体導入用のスカート構造部と気体を中空糸膜外表面に導入する気体導入孔を有し、かつ垂直方向に設置される膜モジュールと、該スカート構造部の下部に噴出部を有する散気装置とから構成される膜分離装置であって、該散気装置が、集水管と平行に設置されかつ給気手段に連通する散気装置用主パイプ、主パイプに対して鉛直方向に分岐された散気装置用分枝パイプ、さらに、分岐パイプの末端部に取り付けられた噴出口を2つ以上有する噴出部から構成されることを特徴とする膜分離装置。
【請求項2】
噴出部が、分岐パイプを中心として対称となるよう配置された噴出口を有し、かつ、噴出口が噴出流により回転可能な状態で分岐パイプに取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の膜分離装置。
【請求項3】
噴出部が側面に複数個のスリットを有するキャップにより形成されており、前記キャップが分岐パイプの末端部に取り付けてあることを特徴とする請求項1または2に記載の膜分離装置。
【請求項4】
噴出部が膜モジュールの中心に対して直下にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の膜分離装置。
【請求項5】
噴出部と膜モジュール下端面との距離が5〜200mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の膜分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−82001(P2006−82001A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268835(P2004−268835)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】