説明

膜厚測定装置

【課題】作業者に負担をかけることなく、比較的安価な構成で透明で且つ膜厚が薄い紙材料からなる印刷物の膜厚測定を正確に行うことができる膜厚測定装置を提供する。
【解決手段】膜厚測定装置1は、大略、光源2、受光サンサ3及び受光センサ3と電気的に接続された演算処理部4を備えてなり、紙材料からなる基材6上に形成された塗布膜8の表面に所定波長の光を出射し、該塗布膜8から反射した反射光の光量、すなわち電圧を測定し、塗布膜8の厚みに対応する電圧と塗布材の膜厚とが関連付けられた検量線に基づき膜厚を演算する。光源2として波長が570nm〜592nmにピークを有する光を用いると共に、塗布膜8に入射する入射光と該入射光の入射点における塗布膜8に垂直な仮想垂線14とでなす角度を0度〜10度としたので、透明で且つ膜厚が0.5μm〜2.0μm以下の印刷物を測定した場合でも、正確な膜厚の値を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙材料からなる基材の表面に塗布された透明な塗布膜の厚み(膜厚と同義)を測定する膜厚測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紙材料からなる印刷物のうち、特に光沢や艶消し、耐候性、耐水性、耐油性、耐擦傷性等が要求されるものがある。この種の印刷物の一例として、食品、薬品、化粧品等のパッケージに使用される化粧箱、紙器、ラベル、カタログ、ショッピングバッグ、書籍の表紙、ポスター等が知られている。
【0003】
これらの印刷物は、多くの場合、印刷機本体やコーター(以下、「コーター」と総称する。)で印刷面にニスや紫外線吸収剤入りの透明の塗料を塗布して表面皮膜を形成させ、光沢、耐候性、耐水性、耐油性、耐擦傷性等の機能を付与している。
【0004】
また、印刷物への表面皮膜の形成は、物性によって表面平滑性がそれぞれ異なる紙に対し、該表面平滑性を改善させることも目的としている。このような印刷物に塗布される透明な塗布材の膜厚は、印刷物の用途目的、印刷物の材質や大きさ等によっても異なるが、具体的には、0.5μm〜2.0μm以下の膜厚がある。印刷現場では、印刷物に塗布された塗布膜の厚みを測定し、得られた膜厚をコーターにフィードバックして該コーターからの塗布材の供給量を制御し、印刷物に塗布される塗布材の膜厚が所定の範囲内となるよう管理している。
【0005】
従来、このような印刷物の膜厚測定は、選択的に試験体を抜き取り、作業者が膜厚を目視で測定していた。しかし、人的に膜厚測定を行う場合、作業者に負担がかかるという問題に加え、例えば紙材料の種類や照明の状態によって見え方が異なる等、測定結果にばらつきが生じて安定した測定が困難であるという問題を有する。
【0006】
そこで、近年、非破壊・非接触で且つ定量的に塗布材の膜厚を測定する方法又は装置が提案されている。それらの一例として、特許文献1には、光源からの光が薄膜上で反射した反射光を光電変換素子によって少なくとも2色の電気信号に変換後、その電気信号を膜厚に換算することにより薄膜の膜厚を測定する膜厚測定装置が開示されている。
【0007】
特許文献2には、紫外線吸収剤を混入した透明な塗膜が形成された標準試験体の表面に照射した紫外線の反射率と、塗膜の膜厚とから膜厚の検量線図を予め作成し、標準試験体と同一組成の透明な塗料を基材表面に塗布して製造した被試験体の表面に紫外線を照射し、該紫外線の反射率から検量線図を基にして被試験体の膜厚を算出する膜厚測定方法が開示されている。この方法によれば、15μm〜45μmの膜厚範囲を測定できる。
【0008】
特許文献3には、白色導電材、又は、導電材及び白色微粉末を表面層中に含有する帯電器の当該表面層の膜厚を測定する方法であって、表面層に光を照射し、その反射濃度から膜厚を算出する膜厚測定方法が開示されている。
【0009】
特許文献4には、ライン照明器により、基材上に成膜された透明導電膜又は透明光学膜にライン照明光を照射し、透明導電膜又は透明光学膜で反射されたライン反射光をカメラで検出し、検出した反射光の色評価値を計測し、色評価値と膜厚とが関連付けられている膜厚特性を用いて、計測した色評価値に対応する膜厚を求める膜厚計測方法及び装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−311020号公報
【特許文献2】特開2003−004419号公報
【特許文献3】特開2006−091559号公報
【特許文献4】特開2008−205188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示されている膜厚測定装置は、結晶による光の散乱がない非結晶性の含フッ素重合体からなる膜厚の測定に適しているが、表面の乱反射が大きく且つ膜厚の均一性も低い上述の印刷物の膜厚測定に適用できないという問題がある。
【0012】
特許文献2に開示されている膜厚測定方法は、測定可能膜厚範囲が15μm〜45μmであるため、膜厚が0.5μm〜2.0μm以下である上述の印刷物の膜厚測定には適さないという問題がある。
【0013】
特許文献3に開示されている膜厚測定方法は、表面層中に白色導電材、又は、導電材及び白色微粉末を含有させて反射濃度の測定を行うので、表面層が透明の場合と比較して高い反射濃度(1.15D〜1.3D)が得られる結果、2μm〜8μmの膜厚範囲を測定できる。反射濃度の測定は市販の反射濃度計が用いられている。
【0014】
しかし、特許文献3の方法では、表面層中に白色導電材又は白色微粉末を基材に含有させる工程を必要とし、コストが非常にかかるものとなっている。更に、上述の印刷物に形成されている透明な塗料の膜厚は0.5μm〜2.0μm以下が一般的であり、この膜厚範囲に対応する反射濃度は0.1D前後である。この値は市販の反射濃度計の測定可能範囲の下限値であり、測定値の信頼性が低い。このため、特許文献3に開示の技術では、上述の印刷物の膜厚を測定するのが困難であるという問題を有する。
【0015】
ところで、反射濃度計は、試料に対し、0度若しくは45度の角度方向から照明光を照射し、45度若しくは0度の角度方向に反射する光量を受光して反射濃度換算を行うことがJIS B 9623:2002等に定められており、特許文献3はこの規格に則っている。この場合、受光側には拡散反射光を含む乱反射光のみが反射光として入射する。しかしながら、このような乱反射光のみを受光する反射濃度計では、光源の照射光量が一定であれば、反射光の光量が少なくなる傾向がある。このため、白色導電材又は白色微粉末を表面層に含有させた基材や表面層が厚い基材等の乱反射光の光量が少ない測定対象には適用可能であるが、膜厚が2.0μm以下の透明な薄膜の表面層が形成され、且つ表面状態が物性によって大きく変動する紙材料を測定対象とする場合には、乱反射成分が非常に多く、表面層の厚さを測定することが困難である。
【0016】
すなわち、市販の反射濃度計を用いて透明で且つ膜厚が0.5μm〜2.0μm以下の印刷物を測定した場合、乱反射成分が非常に多く、市販の反射濃度計では正確な膜厚の値を得ることが困難である。
【0017】
特許文献4に開示されている膜厚計測方法及び装置は、色評価値(色味)として、例えばCIE−L*a*b*表示系におけるL*a*b*の値を用いている。このL*a*b*とは、JIS Z 8729において規定されるL*a*b*(エルスター・エイスター・ビースター)表示系であり、L*は明度(輝度)、a*は赤−緑領域の測色値、b*は黄−緑領域の測色値を示す。しかしながら、CIE−L*a*b*表示系におけるL*a*b*の値を計測するには、分光測色計、画像処理を行うコンピュータ等の高額な機器の導入が必要であるという問題があった。
【0018】
したがって、本発明は、このような問題点を解決することを課題としてなされたものであり、その目的とするところは、作業者に負担をかけることなく、比較的安価な構成で透明で且つ膜厚が薄い紙材料からなる印刷物の膜厚測定を正確に行うことができる膜厚測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の膜厚測定装置は、紙材料からなる基材に塗布された塗布膜の厚みを測定する膜厚測定装置である。この膜厚測定装置は、塗布膜に向けて所定の波長の光を所定の角度をもって出射する投光手段と、塗布膜から所定の角度で反射される前記光を受光する受光手段と、投光手段から出射され、前記塗布膜で反射した光以外の光が前記受光手段に入射することを遮断する遮光手段と、反射光の光量を電圧に変化する変換手段と、変換手段により得られた電圧と前記塗布材の膜厚との予め定められた関係に基づき、前記電圧から膜厚を演算する演算手段が備えられている。
【0020】
前記予め定められた関係としては、塗布膜の厚みに対応する前記電圧と前記塗布材の膜厚とが関連付けられた検量線を用いることができる。
【0021】
前記塗布膜の材質としては、紫外線吸収剤入りの透明の塗料のほか、透明な導電性インキ、ニス、メジウムインクのいずれか或いは、それらの複数を含んでなるものが考えられる。
【0022】
さらに前記所定波長の光としては、波長が570nm〜592nmにピークを有する光を用いることができる。
【0023】
場合により、波長が532nmのレーザ光を用いることができる。
【0024】
必要に応じて前記光は、波長が650nmのレーザ光を用いることができる。
【0025】
前記塗布膜に入射する入射光は、該入射光と該入射光の入射点における塗布膜に垂直な仮想垂線とでなす角度が0度〜10度の入射光とすることができる。
【0026】
塗布膜上の投光手段による光照射点から垂直方向に伸びる仮想垂線に対する前記投光手段の出射角度を0度とすることもできる。
【0027】
本発明に係る膜厚測定装置が適用される塗布膜の厚みの範囲は、0.5μm以上2.0μm以下である。
【0028】
本発明に係る膜厚測定装置は、塗工印刷用紙、非塗工印刷用紙、微塗工印刷用紙、特殊印刷用紙、情報用紙、合成紙、包装用紙、紙器用板紙のほか、紙にアルミホイルを張り合わせたアルミホイル紙、アルミ蒸着紙を含む紙に適用可能である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、作業者に負担をかけることなく、透明で且つ膜厚が薄い紙材料からなる印刷物の膜厚測定を正確に行うことができる膜厚測定装置を提供できる。このような膜厚測定装置は、反射濃度計や分光測色計、及び画像処理を行うコンピュータ等の高価な機器を必要としないので、膜厚測定装置本体を比較的安価に構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施の形態に係る膜厚測定装置の概略構成を示す図である。
【図2】3種類の塗工印刷用紙について、透明ニスインキ供給量とCIE−L*a*b*表示系におけるL*a*b*の値との関係を説明する図である。
【図3】受光センサの等価回路を示す図である。
【図4】各印刷物(基材)について、黄色LED光源又は赤色レーザ光源から光を照射したときの反射光の光量に基づく電圧をそれぞれ測定し、測定された電圧と当該塗布材の平均膜厚とが関連付けられた第1の検量線データを示す図である。
【図5】3種類の塗工印刷用紙について、黄色LED光を照射したときの反射光の光量に応じた電圧をそれぞれ測定し、測定された電圧と塗布装置から供給される塗布材の供給量とが関連付けられた第2の検量線データを示す図である。
【図6】アルミホイル紙について、赤色レーザ光を照射したときの反射光の光量に応じた電圧をそれぞれ測定し、測定された電圧と塗布装置から供給される塗布材の供給量とが関連付けられた第2の検量線データを示す図である。
【図7】本発明に係る膜厚測定装置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態に係る膜厚測定装置について、添付図面に従って説明する。以下の実施の形態では、主として紙材料からなる印刷物(基材)に塗布される透明な塗布膜の厚みを測定する例を説明する。
【0032】
なお、以下の説明では、方向や位置を表す用語(例えば、「下方」や「下端部」等)を便宜上用いるが、これらは発明の理解を容易にするためであり、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。また、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0033】
なお、本発明の「紙材料からなる基材」の概念は、塗工印刷用紙(例えばコート紙、マットコート紙、コートボール紙)、非塗工印刷用紙(例えば上質紙)、微塗工印刷用紙、特殊印刷用紙(例えば色上質紙)、情報用紙(例えばコピー用紙、インクジェット用紙)や、包装用紙(例えばショッピングバッグ、袋用紙)、合成紙、紙器用板紙(例えば絵葉書、カード類、紙器、化粧箱)、その他、紙にアルミホイルを張り合わせたアルミホイル紙、アルミ蒸着紙を含む。
【0034】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る膜厚測定装置1(以下、単に「測定装置1」と称する。)は、大略、光源2(投光手段)、受光サンサ3(受光手段)及び受光センサ3と電気的に接続された演算処理部4(演算手段)を備えてなり、紙からなる基材6(印刷物)上に形成された透明薄膜8(以下、「塗布膜8」と称する。)の表面に所定波長の光を出射し、該塗布膜8から反射した反射光の光量、すなわち電圧を測定し、塗布膜8の厚みに対応する電圧と塗布材の膜厚とが関連付けられた検量線に基づき膜厚を演算するものである。本実施の形態では、演算された膜厚に基づいてコーターから供給される塗布材の供給量を管理する例を説明する。
【0035】
図示するように、光源2と受光センサ3は内筒10(遮光手段の一部)の中に組み込まれている。光源2と受光センサ3は遮光壁11(遮光手段の一部)により隔絶されている。図において、内筒10の下端部であって光源2と対向する位置には、集光レンズ12aが設けられている。同様に、内筒10の下端部であって受光センサ3と対向する位置には、集光レンズ12bが設けられている。
【0036】
さらに、内筒10は、外筒16の内部空間に適切な形式で固定されている。外筒16も遮光手段の一部を構成する。つまり、内筒10、遮光壁11及び外筒16は、塗布膜8で反射した光以外の光が受光センサ3に入射することを防止している。外筒16の下端部にはアパーチャー160が取り付けられている。アパーチャー160の基材6表面に対向する位置には孔161が形成されており、この孔161を通して光源2からの光が基材6表面に形成された塗布膜8に照射され、塗布膜8からの反射光の光量が測定される。反射光の光量を測定する範囲は孔161の口径で決定される。安定した測定を行うためには、基材6の表面の位置にかかわらず、均一な反射光の光量が得られるようにする(以下、「均一性」と称する。)ことが望ましい。紙材料は自然の産物で構成されているため、比較的に均一性が低い。このような均一性は、孔161の口径とも関連しており、基材6の表面の均一性が低くなるほど口径の大きいアパーチャー160で測定する必要がある。本実施の形態では、アパーチャー160の孔161の口径は例えば、5mm〜10mm程度が好ましい。
【0037】
このように、測定装置1は、光源2から出射された光は集光レンズ12aで集光され、該光が基材6上の光照射点13から垂直方向に伸びる仮想垂線14に対し角度θで入射する一方、上記角度θと同じ角度で反射し、該反射光が集光レンズ12bを介して受光センサ3に入射する光のみを検出するように構成されている。すなわち、測定装置1では、従来の反射濃度計とは異なり、光照射点13における正反射光と拡散反射光を含む光を検出する。この角度θについては後述する。
【0038】
なお、図1において、測定部165で反射した反射光の光量は下記[数1]により算出される。
【0039】
【数1】

上式から、測定部165における反射光の光量Liは、光源光の種類、基材である紙の表面状態、光源光の強度及び光源2からの距離が一定であれば角度θが限りなくゼロに近いほど大きくなるということが理解できる。更に、測定装置1では、入射角θと反射角θが等しく、測定部165での正反射光を含む光量を測定するので、反射光の光量Liを大きくできる。
【0040】
上述の理由から、本実施の形態の測定装置1においては、測定部165に入射する入射光と該入射光の光照射点13から垂直方向に伸びる仮想垂線14とでなす角度は、0度〜10度であることが好ましい。更に、光源2や受光センサ3の大きさ等の制約を考慮した場合、上記角度は5度〜10度がより好ましい。この構成によれば、測定部165から反射した正反射光の大部分が受光センサ3に入射する。そして、外筒16及び遮光壁11が塗布膜8で反射した光以外の光が受光センサ3に入射することを防止する。その結果、透明で且つ膜厚が0.5μm〜2.0μm以下の紙材料からなる印刷物のように、表面層による影響の少ない測定対象を測定した場合でも、正確な膜厚の値を得ることができる。なお、上記角度が0度の場合の測定装置1については後述する。
【0041】
次に、本実施の形態の管理装置1の各部の構成について説明する。発明者らは、コート紙、コートボール紙及びマットコート紙の3種類の塗工印刷用紙について、用紙の表面に塗布する塗布膜の膜厚を、「W:塗布なし(膜厚ゼロ)」、「VL:極薄」、「L:薄」、「S:標準」、「D:濃」、「VD:極濃」の5段階に変化させ、それらに所定波長の光を照射したときの膜厚と反射光の色評価値との相関関係を得るための実験を行った。塗布材としては透明ニスインキを使用した。色評価値のパラメータとしては、CIE−L*a*b*表示系におけるL*a*b*の値を用いた。その実験結果を図2に示す。
【0042】
図示するように、第1点目として、いずれの塗工印刷用紙においても膜厚が厚くなるに従ってほぼ同じ傾きでb*側(黄−緑領域の測色値のほぼ黄色側)に反射スペクトルが変化することを知見した。第2点目として、実験に用いたコート紙、コートボール紙及びマットコート紙の平滑性(表面粗さ)は、粗さの大きいものから順に、マットコート紙>コートボール紙>コート紙という関係にある。通常、光の反射状態は基材の平滑性に応じて正反射と拡散反射の混ざり具合が変化するが、本実験により、発明者らは基材の平滑性にかかわらず色評価値がb*側(黄−緑色相のほぼ黄色側)に反射スペクトルが変化することを知見した。すなわち、発明者らは、光源として黄色光を用いると、用紙の表面粗さの変化に対して、反射光のb*値が大きく変化することを見出したのである。
【0043】
上述の知見により、表面粗さの異なる上記3種類の塗工印刷用紙上に形成された塗布膜の膜厚測定には、例えば、波長が570nm〜592nmにピークを有する光(純黄色)を照射する光源が好適であることが判った。そこで、本実施の形態では、光源2として黄色LEDからなる固体発光素子が用いることとした。
【0044】
黄色LEDのように純黄色の光を照射する光源を用いると共に、入射角θと反射角θを同一とし、且つθを0度〜10度のように狭角に設定し、光源として白色光を用いた濃度計のように、光源側又は受光側に青色光をよく通すブルーフィルタ(RGB光のうちR+G=Yを吸収)を設けて黄色系の検出能力を向上させる機構や、イエローダイクロイックミラー等の機構を用いることなく、精度よく黄色光を検出して膜厚を測定できる。このことは、受光センサ3の受光感度が向上することを意味する。
【0045】
なお、図2の実験では、表面粗さの異なる3種類の塗工印刷用紙の表面に透明ニスインキを塗布し、塗布面に波長が570nm〜592nmにピークを有する光(純黄色)を照射し、塗布面から反射する黄色光を検出して膜厚を測定した例を説明したが、この透明ニスインキとは、UVニス、油性ニス、水性ニスを含むものである。本発明に適用できる他の塗布材としては、上記ニス以外に例えば、透明な導電性インキ、メジウムインク又はそれらを複数含んでなる透明の塗布材のほか、紫外線吸収剤入りの透明の塗料であっても、塗布面から反射する黄色光を検出して膜厚を好適に測定できることはいうまでもない。
【0046】
なお、紙にアルミホイルを張り合わせたアルミホイル紙や、アルミ蒸着紙等の表面に透明な塗布材が形成されていると、基材自体が銀色であるため純黄色を照射する光源では膜厚の検出は困難である。この場合、光源2を黄色LEDに代えて、例えば、波長が532nmの緑色レーザ光又は650nmの赤色レーザ光からなる可視光半導体レーザ素子を用いると良好に膜厚を検出できることが発明者らの実験で確認されている。
【0047】
次に、受光センサ3について説明する。受光センサ3は、公知のNPNフォトトランジスタ(以下、「フォトトランジスタ30」と称する。)で構成されている。
【0048】
図3に示すように、フォトトランジスタ30のコレクタとベースの間にはフォトダイオード32が並列接続されている。また、フォトトランジスタ30のエミッタ側と抵抗34との間には、例えばオペアンプ等の増幅器36(変換手段)、ディジタルボルトメータ38、及び演算処理装置4が直列接続されている。なお、演算処理装置4については後述する。
【0049】
このように構成された受光センサ3において、直列接続された黄色LED20、抵抗21からなる光源2からフォトトランジスタ30の受光面(図示せず)に光が照射されると、フォトトランジスタ30のベース層にベース電流Iが注入され、該フォトトランジスタ30が動作してコレクタ電流Iが流れる。
【0050】
光源2から光が出射され、測定部165で反射した反射光の強度がフォトダイオード32で電流値として検出されると、該電流が増幅器36で増幅・電圧変換された後、ディジタルボルトメータ38にて電圧測定が行われ、測定された反射光の光量に基づく電圧データが演算処理部4に取り込まれる。
【0051】
演算処理装置4は、受光センサ3から取り込まれた反射光の光量に対応する電圧データと塗布材の膜厚との予め定められた関係に基づき、該電圧データから膜厚を演算するものである。予め定められた関係としては、塗布膜の厚みに対応する電圧データと塗布材の膜厚とが関連付けられた検量線を用いることができる。本実施の形態の演算処理装置4は、膜厚の演算に用いた電圧データを基に、図示しないコーターから供給される管理すべき塗布材の供給量を演算するよう構成されている。具体的に、演算処理装置4は、例えばパーソナルコンピュータで構成されている。ここに、受光センサ3で生成された電圧データと塗布膜8の厚さとの関係には所定の関係が知られているから、当該電圧データに基づいて塗布材の供給量を演算、制御するということは、測定された膜厚に基づいて塗布材の供給量を演算、制御するということと同義である。
【0052】
演算処理装置4には、図4(a),図4(b)に示すように、互いに異なる既知の塗布材の膜厚を有する複数のサンプル(各種印刷用紙[基材6])について、所定波長の光を照射したときの反射光の光量に基づく電圧をそれぞれ測定し、測定された電圧と当該塗布材の平均膜厚とが関連付けられた第1の検量線データが予め設定されている。
【0053】
第1の検量線データの縦軸に示す「平均膜厚」は、各サンプルの表面を例えば、レーザ顕微鏡で走査し、実際の膜厚の平均値を測定して得たものである。これに代えて、各サンプルを切断し、各サンプルの表面に形成されている膜厚を電子顕微鏡で所定回数測定して平均膜厚を得てもよい。
【0054】
図4(a)は、表面に透明の塗布材が形成されたマットコート紙について、黄色LEDの光を照射したときの第1の検量線データである。図4(b)は、表面に透明の塗布材が形成されたアルミホイル紙について、赤色レーザ光を照射したときの第1の検量線データである。
【0055】
さらに、図5、図6に示すように、演算処理装置4には、互いに異なる既知の塗布材の膜厚を有する複数のサンプル(各種印刷用紙[基材6])について、所定波長の光を照射したときの反射光の光量に対応する電圧をそれぞれ測定し、測定された電圧と図示しないコーターから供給される塗布材の供給量とが関連付けられた第2の検量線データが予め設定されている。図において、第2の検量線の縦軸は電圧、横軸はコーターから供給される塗布材の供給量を示す。横軸に示す1〜5の数値は供給量が「少ない」、「標準」、「多い」という指標値である。
【0056】
図5は、表面に透明の塗布材が形成された3種類の塗工印刷用紙(コート紙、コートボール紙及びマットコート紙)について、黄色LEDの光を照射したときの第2の検量線データである。図6は、表面に透明の塗布材が形成されたアルミホイル紙について、赤色レーザ光を照射したときの第2の検量線データである。
【0057】
実際の膜厚の測定においては、第1の検量線データと、受光センサ3から取り込まれた反射光の光量に基づく電圧データ(以下、「実測データ」と称する。)とを比較・参照することにより、測定対象の基材6上に形成された塗布膜の平均膜厚が例えば2.25μm(実測データが250mV時)であると演算される。次に、第2の検量線データと上記実測データとを比較・参照する。例えば、図5に示すマットコート紙の場合、実測データ250mVに対応する塗布材(透明ニスインキ)の供給量は、指標値が3から4の間であると演算される。つまり、塗布材の供給量は標準よりもやや多いことが理解できる。該演算結果は別途設けられた図示しないディスプレィ等の表示手段に表示させてもよい。なお、上述の処理は演算処理装置4内に組み込まれたプログラムにより実行されるようにしてある。
【0058】
ここでは、マットコート紙に黄色LED光を照射し、コーターから供給される管理すべき塗布材の供給量を演算する例を説明したが、図4(b)、図6に示したアルミホイル紙(この場合、光源は赤色レーザ光)についても同様に演算できる。
【0059】
演算処理装置4内で膜厚が演算され、該膜厚に基づく塗布材の供給量に係る演算結果は、コーターにフィードバックし、該コーターの供給機構によって塗布材の供給量を管理してもよいし、例えば、演算処理装置4とコーターとを電気的に接続し、上記演算結果を電気的にフィードバックさせて該コーターの供給機構を制御して塗布材の供給量を管理することも可能である。
【0060】
本実施の形態では、塗工印刷用紙やアルミホイル紙等、特定の基材6に関する第1、第2の検量線データを例示しているが、これに限らず、例えば上質紙等の非塗工印刷用紙、ショッピングバッグ、袋用紙等の包装用紙、絵葉書、カード類、紙器、化粧箱の紙器用板紙等に関する第1、第2の検量線データがさらに設定されていてもよい。このように、複数の基材6に関する第1、第2の検量線データが演算処理装置4内に設定されている場合、実際に膜厚の測定を実施する時にいずれの種類の基材6について測定を実施するかを選択する選択手段を演算処理装置4内に備えることが好ましい。
【0061】
本実施の形態では、第1、第2の検量線データを演算処理装置4内に予め設定した形態を例示しているが、別途設けられた記録媒体(例えば、作業手順書等の紙媒体や、作業現場に設置された看板等の記録媒体。)に記録しておき、膜厚測定の度にコーターから供給される管理すべき塗布材の供給量を演算してもよい。
【0062】
次に、上述の構成からなる測定装置1の動作について、図1、図3〜図5を参照して説明する。本動作説明では、表面に透明の塗布材(透明ニスインキ)が形成されたマットコート紙の膜厚測定、及び塗布材の供給量の管理について説明する。先ず、測定装置1の図示しない電源をオンして測定装置1を起動する。そして、演算処理装置4に備えられている図示しない選択手段を操作し、測定対象となる基材6の種類について「マットコート紙」を選択する。次いで、外筒16の先端のアパーチャー160をマットコート紙の塗布材が形成されていない面に当接し、塗布材が形成されていない面における反射光の光量に基づく電圧データを取得し、得られた「膜厚ゼロ」の電圧データを例えば100mVに調整する(ゼロ点調整)。
【0063】
次に、図1に示すように、アパーチャー160をマットコート紙の塗布材が形成されている面に当てると、光源2から波長が570nm〜592nmにピークを有する光が集光レンズ12aを介して出射される。該光は、光照射点13から垂直方向に伸びる仮想垂線14に対して5度の角度をもってマットコート紙上の塗布膜8の表面に入射する。塗布膜8の表面(測定部165)で反射した反射光は、入射光の入射角度と同じ5度で反射し、該反射光が集光レンズ12bを介して受光センサ3に入射する。この場合、受光センサ8に入射する光は黄色光であるので、受光センサ3の受光感度が向上する。これに加えて、塗布膜8の表面から反射した正反射光の大部分と拡散反射光の一部が受光センサ3に入射する。正反射光の光量は大きいので、塗布膜8が透明で且つ薄い場合にも、塗布膜8の膜厚の変動を正確に測定できる。そして、外筒16及び遮光壁11が塗布膜8で反射した光以外の光が受光センサ3に入射することを防止する。
【0064】
図3に示すように、光源2からフォトトランジスタ30の受光面(図示せず)に光が照射されると、フォトトランジスタ30のベース層にベース電流Iが注入され、該フォトトランジスタ30が動作してコレクタ電流Iが流れる。光源2から光が出射され、測定部165で反射した反射光の強度がフォトダイオード32で電流値として検出されると、該電流が増幅器36で増幅・電圧変換された後、ディジタルボルトメータ38にて電圧測定が行われ、その電圧値が例えば250mVであると計測される。その後、測定された反射光の光量に基づく電圧データは演算処理部4に取り込まれる。
【0065】
電圧データ、つまり実測データ250mVが受光センサ3から演算処理装置4内に取り込まれると、該演算処理装置4内で図4(a)に示す第1の検量線データと、実測データとが比較参照される。この時、測定対象の基材6上に形成された塗布膜の平均膜厚は例えば2.25μmであると演算される。続いて、演算処理装置4内において図5に示す第2の検量線データと上記実測データ250mVがとが比較・参照される。この時、実測データ250mVに対応する塗布材の供給量は、指標値が3から4の間、つまり、標準よりも供給量がやや多いと演算され、該演算結果が別途設けられた図示しないディスプレィ等の表示手段に表示される。
【0066】
演算処理装置4内で膜厚が演算され、該膜厚に基づく塗布材の供給量に係る演算結果は、コーターにフィードバックされ、該コーターの供給機構によって塗布材の供給量が管理される。この形態に代えて、例えば、演算処理装置4とコーターとを電気的に接続し、上記判定結果を電気的にフィードバックさせて該コーターの供給機構を制御して塗布材の供給量を管理することもできる。
【0067】
このように、本発明の実施の形態に係る測定装置1によれば、光の入射角θと光の反射角θを同一とし、且つ角度θが0度〜10度のように狭角に設定されていること、また、光源として検出感度の高い、波長が570nm〜592nmにピークを有する光(純黄色)を用いていることにより、極めて高い反射光の受光強度が得られる。その結果、透明で且つ膜厚が0.5μm〜2.0μm以下の印刷物を測定した場合でも、正確な膜厚の値を得ることができる。また、膜厚の検出が困難であるアルミホイル紙や、アルミ蒸着紙に対しても波長が532nmの緑色レーザ光又は650nmの赤色レーザ光からなる可視光半導体レーザ素子を用いることにより、正確な膜厚の値を得ることができる。また、本実施の形態の測定装置1は、印刷現場において透明で且つ膜厚が薄い印刷物の膜厚測定を正確に行うことができるので、作業者に負担がかからず、且つ膜厚の測定結果にばらつきが生じないので、印刷物の製造効率が向上する。
【0068】
更に、この測定装置1は実施の形態のように、コーターから供給される塗布材の供給量を管理する管理装置としても用いることができる。管理装置として用いる場合、各種印刷用紙(基材6)への塗布膜8の塗布工程において塗布材の供給量を各種印刷用紙毎に適切に管理できる。このため、塗布材の供給量過大による塗布材のロス、或いは供給量過少による基材6への塗布不足を防止できる。
【0069】
上述の実施の形態では、測定部165に入射する入射光と該入射光の光照射点13から垂直方向に伸びる仮想垂線14とでなす角度が0度〜10度である測定装置1を説明したが、本発明に係る膜厚測定装置はこの形態に限定されない。上記角度が0度の場合の測定装置1について図7を参照して説明する。なお、図7においては内筒10、外筒16アパーチャー160は省略している。
【0070】
この測定装置1は、光源2と基材6との間であって光源2と対向する位置にハーフミラー18を介在させている。ハーフミラー18の作用により、ハーフミラー18を透過した光源2からの光が基材6によって垂直方向に反射され、該反射光がハーフミラー18で直角に反射されて受光センサ3に入射する構成としてある。この構成によれば、測定部165から反射した正反射光のほぼ全て及び拡散反射光の一部が受光センサ3に入射するので、反射光の受光強度が上述の実施の形態の測定装置1と比べて更に高くなる。
【0071】
ここで、ハーフミラー18は、所定の波長域の光を任意の反射率と透過率に分けてその光量を調整するミラーであり、その代表例として、金属ミラータイプのハーフミラーや誘電体ミラータイプのハーフミラーが用いられる。金属ミラータイプのハーフミラーは、光の損失は大きくなるが入射角や偏光の変化による透過率及び反射率の変化が殆どないという特徴を有する。一方、誘電体ミラータイプのハーフミラーは、光の損失が殆どないが入射角や偏光の変化により透過率及び反射率が大きく変わるという特徴を有する。なお、その他の構成については上述した測定装置1と同一の構成であるので説明を省略する。
【符号の説明】
【0072】
1 膜厚測定装置
2 光源
3 受光センサ
4 演算処理装置
6 基材
8塗布膜
10 内筒
11 遮光壁
12a,12b 集光レンズ
13 照射点
14 仮想垂線
30 フォトトランジスタ
32 フォトダイオード
36 増幅器
38 ディジタルボルトメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙材料からなる基材に塗布された塗布膜の厚みを測定する膜厚測定装置であって、
前記塗布膜に向けて所定の波長の光を所定の角度をもって出射する投光手段と、
前記塗布膜から所定の角度で反射される前記光を受光する受光手段と、
前記投光手段から出射され、前記塗布膜で反射した光以外の光が前記受光手段に入射することを遮断する遮光手段と、
前記反射光の光量を電圧に変化する変換手段と、
前記変換手段により得られた電圧と前記塗布材の膜厚との予め定められた関係に基づき、前記電圧から膜厚を演算する演算手段が備えられていることを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項2】
前記予め定められた関係が、前記塗布膜に対応する前記電圧と前記塗布材の膜厚とが関連付けられた検量線である請求項1に記載の膜厚測定装置。
【請求項3】
前記塗布膜の材質が紫外線吸収剤入りの透明の塗料のほか、透明な導電性インキ、ニス、メジウムインクのいずれか或いは、それらの複数を含んでなる請求項1又は請求項2に記載の膜厚測定装置。
【請求項4】
前記光は、波長が570nm〜592nmにピークを有する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の膜厚測定装置。
【請求項5】
前記光は、波長が532nmのレーザ光である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の膜厚測定装置。
【請求項6】
前記光は、波長が650nmのレーザ光である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の膜厚測定装置。
【請求項7】
前記塗布膜に入射する入射光と該入射光の入射点における塗布膜に垂直な仮想垂線とでなす角度が0度〜10度である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の膜厚測定装置。
【請求項8】
前記塗布膜上の投光手段による光照射点から垂直方向に伸びる仮想垂線に対する前記投光手段の出射角度が0度である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の膜厚測定装置。
【請求項9】
前記塗布膜の厚みが0.5μm以上2.0μm以下である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の膜厚測定装置。
【請求項10】
前記紙材料は、塗工印刷用紙、非塗工印刷用紙、微塗工印刷用紙、特殊印刷用紙、情報用紙、包装用紙、合成紙、紙器用板紙のほか、紙にアルミホイルを張り合わせたアルミホイル紙、アルミ蒸着紙を含むものである請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の膜厚測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−96948(P2013−96948A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242425(P2011−242425)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(506146161)株式会社サンヨー・シーワィピー (2)
【Fターム(参考)】