説明

膜屋根構造およびその敷設方法

【課題】構造が簡単で、クレーンなどの大掛かりな機械を使用せずに容易に敷設でき、膜材にかかる負担も少なくて膜材の材質には特に強度の大きいものを必要とせず、使用可能な膜材の種類範囲を広くでき、また、状況に応じて架け下ろしや敷設したままの状態で屋根勾配を自由に変更できて安全性も向上する膜屋根構造およびその膜屋根の敷設方法を得る。
【解決手段】長さ方向の中央に中央の懸垂ケーブル材3を取り付けるとともに、周縁に端部の懸垂ケーブル材4を取り付けた膜材2と、対向位置に立設され前記中央の懸垂ケーブル材3を支持する支柱1と、端部の懸垂ケーブル材4を牽引固定する基礎5とで構成され、中央の懸垂ケーブル材3位置を中心にしてその両側に膜材2を下方に傾斜させて吊り下げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広いエリアの雨水の浸入を抑えるため、ローコストで屋根を架ける膜屋根構造およびその敷設方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、広いエリアの雨水浸入を抑えるために設置する屋根は、用途にかかわらず一定の耐火性能を有する常設の建築物として、通常の屋根と同様の条件で建設されている。例えば、廃棄物最終処分場の屋根においても、雨水の浸入を抑える目的のみに設置するにもかかわらず、倉庫などに利用されるような通常の折板屋根を用いている。
【0003】
前記従来技術は当業者間で一般的に実施されているものであり、文献公知発明にかかるものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のような折板屋根では、山間の複雑な敷地には設置しにくく、また、柱を多く立てる必要があること、通常の建物の構造条件で設置する屋根としての屋根としてのコストがかかるなどの制約がある。
【0005】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消するものとして、基礎を少なくして、従来、屋根が架けにくかった複雑な敷地形状の場所にも屋根を架けることができるように、単純な架構とする。
【0006】
屋根材には反物形状の膜材を無駄なく使用し、止め付けディテールを簡単にし、さらに、膜材にかかる応力の負担を少なくして膜材の材質には特に強度の大きいものを必要とせず使用可能な膜材の種類範囲を広くして、コスト低減を図る。
【0007】
そして、状況に応じて、敷設したままの状態で屋根勾配を自由に変更できて安全性も向上させ、屋根の架け下ろしを簡単にすることで仮設建築としての扱いを可能にし、法的制約を抑え、この面からのコスト低減も図ることができ、さらに、先行施工を容易にし屋根を使用しての全天候施工(雨に影響されない施工)を可能とする膜屋根構造およびその膜屋根の敷設方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、膜屋根構造として、長さ方向の中央に中央の懸垂ケーブル材を取り付けるとともに、周縁に端部の懸垂ケーブル材を取り付けた膜材と、対向位置に立設され前記中央の懸垂ケーブル材を支持する支柱と、端部の懸垂ケーブル材を牽引固定する基礎とで構成され、中央の懸垂ケーブル材位置を中心にしてその両側に膜材を下方に傾斜させて吊り下げることを要旨とするものである。
【0009】
請求項1記載の本発明によれば、膜材は中央の懸垂ケーブルで支柱から吊り下げられて、周縁の端部の懸垂ケーブルで基礎に張設されるだけの構造であるから、取り付けが簡単で、膜材にかかる力も少なく膜材の材質には大きな引張強度が要求されない。また、支柱からの吊り下ろし点を変更するだけで、敷設状態のままで屋根の架け下ろしができ、屋根をおろしたり屋根勾配を変えたり、周囲の状況に柔軟に対処できる。
【0010】
請求項2記載の発明は、前記膜材は、反物を反幅で幅方向に縦糸ケーブル材でつなげ、所定の膜材幅に形成することを要旨とするものである。
【0011】
請求項2記載の本発明によれば、膜材は反物を立体裁断するようなことなくそのまま反幅方向につなげるだけで形成されるから、製作が容易で膜材を無駄なく使用できる。また、膜ケーブル間の距離が一定で、前記のように屋根膜には大きな力がかからないため、膜を支えるケーブル間の距離をより大きくとれて、結果として単位面積当たりに使用するケーブルを少なくできる。
【0012】
請求項3記載の発明は、膜材は、中央の懸垂ケーブル材位置に風抜き用の孔を形成することを要旨とするものである。
【0013】
請求項3記載の本発明によれば、風抜き用の孔を設けることで、下からの風の吹き上げに対して対処でき、膜材が煽られて飛ばされるような事態を回避できる。また、この孔は、一般部分の膜材の取付方法によって簡単に形成することができる。孔からの雨水の浸入を防ぐことは、膜材の中央部の懸垂ケーブルへの取付方法を工夫することで可能である。
【0014】
請求項4記載の本発明は、膜屋根の敷設方法として、幅方向の中央に中央の懸垂ケーブル材を取り付け、周縁に端部の懸垂ケーブル材を取り付けた膜材の、前記中央の懸垂ケーブル材を対向位置に立設した支柱で吊り下げ、端部の懸垂ケーブル材を基礎で牽引固定して、前記中央の懸垂ケーブル材および端部の懸垂ケーブル材から膜材を吊り下げることを要旨とするものである。
【0015】
請求項4記載の本発明によれば、中央の懸垂ケーブル材を支柱にそって吊り上げ、端部の懸垂ケーブル材を牽引して基礎に固定するだけの動作で膜材を簡単に張設できる。また、基礎数が少なく端部の懸垂ケーブル材を固定するだけでよいから、スポット的なものにでき、設置場所も自由に選択できるから、例えば不正形で高低差のあるような足場の悪い土地でも容易に施工できる。
【0016】
さらに、屋根材の架け下ろしが簡単であるから、例えば一年以内の利用に限定される仮設建築として使用することが可能であり、補修メンテナンスも容易であり、耐久性の優れていない膜材の利用も可能になる。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように本発明の膜屋根構造および膜屋根の敷設方法は、構造が簡単で、支柱にそって中央の懸垂ケーブル材を吊り上げるだけの動作で、クレーンなどの大掛かりな機械を使用せずに容易に敷設でき、膜材は中央の懸垂ケーブル材から吊り下げられる状態で敷設されるから、膜材にかかる応力の負担も少なくて膜材の材質には特に強度の大きいものを必要とせず、使用可能な膜材の種類範囲を広くでき、また、中央の懸垂ケーブル材を支柱にそって上下動させることで、状況に応じて架け下ろしや敷設したままの状態で屋根膜の勾配を自由に変更できて安全性も向上するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面について本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は本発明の膜屋根構造の実施形態を示す斜視図で、本発明の膜屋根構造は、支柱1と、中央の懸垂ケーブル材3および端部の懸垂ケーブル材4を取り付けた膜材2と、前記端部の懸垂ケーブル材4が牽引固定される基礎5とで構成される。
【0019】
支柱1は、例えば鉄骨を使用して屋根幅間隔で対向させて1本ずつを自立させて立設する。この支柱1には、図2に示すように中央の懸垂ケーブル材3を昇降させるための昇降手段9を設ける。該昇降手段9は、例えば電動ウィンチを利用するもので、支柱1に縦方向に形成したスリット9aに電動ウィンチで昇降するスライド部材9bを取り付け、このスライド部材9bに中央の懸垂ケーブル材3の一端を結合した。
【0020】
膜材2は図4に示すような反物6を使用し、これを図3に示すように反物の反幅で幅方向に縦糸ケーブル材7で複数枚を横方向に並列させた配置でつなげて所定の膜材幅に形成した。この縦糸ケーブル材7は補強ケーブルとしての機能を備えるもので、図3(b)に示すように、つなげる反物の端縁同士を重ね合わせ、この重合部の内部に縦糸ケーブル材7を挿通するようにした。
【0021】
これにより、特別の連結金具などを使用せずに、反物6が幅方向につながれて所定幅の膜材2が得られる。そして、つなぎ部分には縦糸ケーブル材7が介在するから、膜材2全体の強度がアップする。また、反物6は、所望の膜材2の長さで切断したものを幅方向につなげるだけのものであるから、立体切断せずにすみ、材料を無駄なく使用し、容易に製作できる。
【0022】
かかる膜材2の長さ方向の中央位置に、支柱1に一端が取り付けられる中央の懸垂ケーブル材3を取り付ける。この場合、膜材2は、屋根膜の長さ方向の半分の長さに反物6を切断し、屋根膜の長さ方向の中央位置では接合しないままの状態としておき、この部分に中央の懸垂ケーブル材3を配置して、横方向に並列された配置の多数枚の反物6の反幅の端部のみを中央の懸垂ケーブル材3に取り付ける。
【0023】
これにより、横方向に並列して配置されつなげられた反物6は、長さ方向(縦方向)の中央では、懸垂ケーブル材3にのみ結合され、反物6同士は端部ではつながれないから、屋根の棟部分に膜の特別な取付方法を必要とせず、この部分に隙間が形成される。よって、この隙間を風抜き用の孔8とする。
【0024】
膜材2の長さ方向および幅方向の周縁には端部の懸垂ケーブル材4を取り付ける。
【0025】
基礎5は、支柱1の立設位置を中心にして四方にスポット的に設置されるもので、膜屋根の敷設場所が例えば不正形で高低差のあるような足場の悪い敷地でも設置可能なものとする。
【0026】
かかる膜材2を所定場所に敷設するには、図5に示すように敷設場所に支柱1を2本、屋根幅に対向させて立設し、支柱1,1間に位置させて地上に膜材2を敷く。この場合、膜材2には中央の懸垂ケーブル材3と端部の懸垂ケーブル材4とを予め取り付けておく。
【0027】
また、基礎5を設け、これに端部の懸垂ケーブル材4の端を固定しておく。
【0028】
この状態で支柱1に設けてある昇降手段9を動作させて中央の懸垂ケーブル材3の端部を支柱1にそって引き上げれば、これに伴い、図6に示すように膜材2の長さ方向の中央が引き上げられる。引き上げ高さは、得ようとする屋根勾配に対応させて決定する。
【0029】
所定の屋根勾配が得られる高さまで中央の懸垂ケーブル材3を引き上げたならば、端部の懸垂ケーブル材4を牽引して張力バランスを調整して基礎5に固定する。
【0030】
この状態で、膜材2は中央の懸垂ケーブル材3から吊り下ろされた状態となっており、膜材2に自らの膜を張る以外の張力はかかっていない。よって、膜材2は材質として大きな強度の要求されるものを使用せずにすむ。
【0031】
また、図3にも示すように膜材2は、反物6を幅方向につなげたものであるから、敷設状態で幅方向に多少のたるみが生じる。このたるみは屋根の勾配方向に形成されるから、樋として機能し、雨水や雪が流れやすく、降雨時や降雪時に屋根膜にかかる応力の負担を軽減できる。
【0032】
そして、降雪時には図7に示すように中央の懸垂ケーブル材3の高さ位置や基礎5の設置位置を変更して膜材2の勾配を大きくし、積雪しにくくする。
【0033】
また、通常の吹き上げによる下方からの風圧は風抜き用の孔8から逃がすことができるが、台風などの強風時には、膜材2の勾配を小さくし地面に近い位置に下ろして風圧を受けにくくする。そして、必要に応じて膜材2の上に押さえケーブル10を張設して膜材2が風で飛ばされることを防止する。
【0034】
図9、図10のように引きおろしケーブル材11を設置して全体的な屋根面の面外方向の変形を小さくすることができる。
【0035】
このように本発明の屋根膜は、支柱1にそって中央の懸垂ケーブル材3を昇降させるだけで、膜材2を簡単に架け下ろしできるので、例えば一年以内の利用に限定されている仮設建物として使用することも可能であり、補修メンテナンスも容易に行えるから、膜材2には材質として耐久性に優れていないものでも使用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の膜屋根構造の実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明の膜屋根構造の実施形態を示す要部の支柱の一部斜視図である。
【図3】本発明の膜屋根構造の実施形態を示す要部の膜材の斜視図である。
【図4】本発明の膜屋根構造の実施形態を示す要部の膜材を作製するための反物の斜視図である。
【図5】本発明の膜屋根の敷設方法の実施形態を示す膜材を吊り上げる前の斜視図である。
【図6】本発明の膜屋根の敷設方法の実施形態を示す膜材を吊り上げた状態の斜視図である。
【図7】本発明の膜屋根の敷設方法の実施形態を示す降雪時の斜視図である。
【図8】本発明の膜屋根の敷設方法の実施形態を示す台風時の斜視図である。
【図9】本発明の膜屋根の敷設方法の実施形態を示す引きおろしケーブル材を設置した場合の斜視図である。
【図10】本発明の膜屋根の敷設方法の実施形態を示す引きおろしケーブル材を設置した場合の他の例の斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
1 支柱 2 膜材
3 中央の懸垂ケーブル材 4 端部の懸垂ケーブル材
5 基礎 6 反物
7 縦糸ケーブル材 8 風抜き用の孔
9 昇降手段 9a スリット
9b スライド部材 10 押さえケーブル材
11 引きおろしケーブル材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向の中央に中央の懸垂ケーブル材を取り付けるとともに、周縁に端部の懸垂ケーブル材を取り付けた膜材と、対向位置に立設され前記中央の懸垂ケーブル材を支持する支柱と、端部の懸垂ケーブル材を牽引固定する基礎とで構成され、中央の懸垂ケーブル材位置を中心にしてその両側に膜材を下方に傾斜させて吊り下げることを特徴とした膜屋根構造。
【請求項2】
前記膜材は、反物を反幅で幅方向に縦糸ケーブル材でつなげ、所定の膜材幅に形成することを特徴とする請求項1記載の膜屋根構造。
【請求項3】
膜材は、中央の懸垂ケーブル材位置に風抜き用の孔を形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の膜屋根構造。
【請求項4】
幅方向の中央に中央の懸垂ケーブル材を取り付け、周縁に端部の懸垂ケーブル材を取り付けた膜材の、前記中央の懸垂ケーブル材を対向位置に立設した支柱で吊り下げ、端部の懸垂ケーブル材を基礎で牽引固定して、前記中央の懸垂ケーブル材および端部の懸垂ケーブル材から膜材を吊り下げることを特徴とした膜屋根の敷設方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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