説明

膜式水門構造物及び膜式水門

【課題】従来の鋼製で水密性能を有する水門設備に比べて構造が簡単で、重量を軽減できる防波堤を提供する。
【解決手段】この防波堤は、構材の鋼管11,12,13,21,31,22,23をスリット状に配置した構造体からなる函体であり、半潜水状態で波の砕波・減衰と防塵を行うものである。函体の四角状の断面内には、鋼管間に配置される膜材50を備えるとともに、両外側には鋼製の砕波スクリーン60を備える。外洋側から港内へ進入する波は、函体の外洋側に配置されたスクリーン60で一次砕波される。そこを通過した波は、函体中間部に一定間隔で配置された帯状の繊維シート50a、50を通過する際に二次砕波され、更に港内側に配置されたスクリーン60にて三次砕波される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波の砕波や減衰並びに流木止めなどの目的をもつ水門(防波堤)であって、特に、膜材を備える函体により波の砕波や減衰並びに防塵を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
高潮や津波などに対応する為の大型水門が数多く設置されている。既設大型水門のほとんどは鋼製の水門扉を用いている。
【0003】
これに対して、下記特許文献1に記載されているように、膜構造体を用いた膜式水門が提案されている。
【0004】
また、防波堤その他関連技術を開示するとして、下記特許文献特許文献2乃至特許文献6がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4553979号公報「膜式水門」
【特許文献2】特開平5−222711号公報「浮体式緩衝装置、他」運輸省第三港湾建設局長、株式会社日本港湾コンサルタント、東レ株式会社
【特許文献3】特開平7−216844号公報「水中骨組構造物、他」新日本製鐵株式会社、株式会社日本港湾コンサルタント
【特許文献4】特開2000−282434号公報「津波防波堤」日立造船株式会社
【特許文献5】特開2006−249914号公報「津波防波堤」(個人)
【特許文献6】特開2010−281128号公報「可動式防波堤、他」株式会社大林組、他
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、膜材を用いた新規な水門(防波堤)であって、主に、波の砕波と減衰並びに流木などの防塵を目的とする水門(防波堤)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る膜式水門構造物は、水面の位置又は水面よりも上の位置にある上部水平支持部材と水中に位置する下部水平支持部材からなる第1支持部材対と、
前記第1支持部材対の前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材の間隔を保持する第1鉛直保持部材と、
水面の位置又は水面よりも上の位置にある上部水平支持部材と水中に位置する下部水平支持部材からなり、前記第1支持部材対に対して(平面図において)所定間隔を空けて互いに略並行に設けられる第3支持部材対と、
前記第1支持部材対と前記第3支持部材対の間隔を保持する第1水平保持部材と、
水面の位置又は水面よりも上の位置にある上部水平支持部材と水中に位置する下部水平支持部材からなり、前記第3支持部材対に対して(平面図において)所定間隔を空けて互いに略並行に設けられる第2支持部材対と、
前記第2支持部材対の前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材の間隔を保持する第2鉛直保持部材と、
前記第2支持部材対と前記第3支持部材対の間隔を保持する第2水平保持部材と、を備え、
前記第3支持部材対の前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材の間に、互いに所定間隔を空けて設けられた複数の帯状の繊維シートからなる波減衰用膜と、
前記第1支持部材対又は/及び前記第2支持部材対の前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材間に、互いに所定間隔を空けて設けられた複数の棒状の部材からなる砕波スクリーンとを備え、
前記第1支持部材対乃至前記第3支持部材対は、いずれも流水や船舶の水路を横切るように配置されるものである。
【0008】
この発明に係る膜式水門構造物は、水面の位置又は水面よりも上の位置にある上部水平支持部材と水中に位置する下部水平支持部材からなる第1支持部材対と、
前記第1支持部材対の前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材の間隔を保持する第1鉛直保持部材と、
水面の位置又は水面よりも上の位置にある上部水平支持部材と水中に位置する下部水平支持部材からなり、前記第1支持部材対に対して(平面図において)所定間隔を空けて互いに略並行に設けられる第2支持部材対と、
前記第2支持部材対の前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材の間隔を保持する第2鉛直保持部材と、
前記第1支持部材対と前記第2支持部材対の間隔を保持する水平保持部材とを備え、
前記第1支持部材対と前記第2支持部材対により挟まれる領域を内側とし、
前記第1支持部材対の前記内側又は/及び前記第2支持部材対の前記内側の位置に、前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材の間に、互いに所定間隔を空けて設けられた複数の帯状の繊維シートからなる波減衰用膜と、
前記第1支持部材対又は/及び前記第2支持部材対の前記波減衰用膜の設けられていない側に、前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材間に、互いに所定間隔を空けて設けられた複数の棒状の部材からなる砕波スクリーンとを備え、
前記第1支持部材対及び前記第2支持部材対は、いずれも流水や船舶の水路を横切るように配置されるものである。
【0009】
前記第1支持部材対又は/及び前記第2支持部材対の前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材の間に中間水平支持部材又は中間鉛直支持部材を備えるようにしてもよい。
【0010】
前記波減衰用膜は、前記複数の帯状の繊維シートが格子状に配置されたものであってもよい。前記複数の帯状の繊維シートを格子状に配置するために、横方向の定着材を備えてもよい。すなわち、横方向の定着材に前記複数の帯状の繊維シートを取り付けることで格子状に配置してもよい。また、繊維シートを織る過程で格子状とするようにもできる。
【0011】
前記波減衰用膜は、前記複数の帯状の繊維シートが、(平面図において)千鳥状、復列状又は単列状のいずれかに配置されたものであってもよい。
【0012】
少なくとも、前記第1支持部材対と前記第1鉛直保持部材、及び、前記第2支持部材対と前記第2鉛直保持部材は互いに通気可能に接合され、これらの内部が空気溜まりとなることで浮力を確保できるように構成され、
前記第1鉛直保持部材と前記第2鉛直保持部材の下端は解放され、
前記内部に空気が注入され、あるいは前記内部から空気が排出される際に、前記下端は注排水口として機能するようにしてもよい。
これにより、函体への送気や函体からの排気だけで喫水深を調整でき、また、函体から排気することで海底へ着床し、各々の位置で進行する波を減衰できるようになる。
【0013】
この発明に係る膜式水門は、上記膜式水門構造物を複数連接してなる浮上式防波堤であって、前記膜式水門構造物同士は分離可能に結合され、さらに、予備としての少なくともひとつの前記膜式水門構造物を備えるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(a)は、本発明の実施の形態に係る防波堤の設置状態における平面図、同図(b)は同正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る防波堤の端部の拡大平面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る防波堤の側断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る他の防波堤の端部の拡大平面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る他の防波堤の側断面図である。
【図6】図6(a)は、本発明の実施の形態に係る他の防波堤の設置状態における平面図、同図(b)は同正面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る他の防波堤の端部の拡大平面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る他の防波堤の側断面図である。
【図9】図9(a)は、本発明の実施の形態に係る他の防波堤の設置状態における平面図、同図(b)は同正面図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る他の防波堤の端部の拡大平面図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る他の防波堤の側断面図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る防波堤の収納方式の説明図である。
【図13】本発明の実施の形態に係る防波堤の他の収納方式の説明図である。
【図14】本発明の実施の形態に係る防波堤の他の収納方式の説明図である。
【図15】本発明の実施の形態に係る防波堤の他の収納方式の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1乃至図3は、発明の実施の形態に係る膜式水門構造物(浮上式防波堤)の構造を示す図である。以下に説明する膜式水門及びその構造物は防波堤にも適用することができるので、便宜上、以下の説明では膜式防波堤及び膜式防波堤構造物という用語を用いる。
当該膜式防波堤構造物(浮上式防波堤)は、鋼管を組み合わせてなる格子状の構造体に、2列に設けられた砕波スクリーンと、これらの間に2列(千鳥配置)に設けられた波減衰用膜とを設けたものである。砕波スクリーンは、中間に位置する水平支持部材対に設けられている。
【0016】
図1(a)は、本発明の実施の形態に係る膜式防波堤構造物(以下「防波堤」)の設置状態における平面図を示し、同図(b)は同正面図を示す。
【0017】
図2は、防波堤端部の拡大平面図を示す。図3は、図2の右端から左側を見た側断面図を示す。
【0018】
1−1乃至1−3は、それぞれ、膜式防波堤構造物のひとつのユニットである。各ユニットは、曳航するときの抵抗の軽減を目的とする水切り用として防波堤の端に位置する支持注の端面が半球状の部材で塞がれている点を除き、同じものである。なお、図1において、ユニット1−2については砕波スクリーン60の表示を省略し、波減衰用膜50を見ることができるようにしている。
【0019】
ユニット1−1乃至1−3が相互に連結されることでひとつの防波堤を構成している。各ユニット同士は、交換、メンテナンスが容易に行えるようにピンやボルトナットで取り付けられている。
【0020】
各ユニットの長さは32800mmである。図1では3つのユニットを示しているが、ユニットの数をさらに増やすことができる。例えば、5つのユニットを連結することで防波堤の全長は164000mmとなる(支間長は161600mmとなる)。なお、航路幅は例えば157000mmである。これらの数値(及び以下で例示する数値)は、あくまで、発明の実施の形態に係る構造物のイメージ把握を容易にするための例示である。数値例は設計条件により異なることは言うまでもない(以下の数値についても同じ)。
【0021】
各ユニットの高さは6500mmである。図1の例では、海底との間に3500mmの隙間が生じている。
【0022】
11Uは水面の位置又は水面よりも上の位置にある上部水平支持部材(支持梁)である。11Lは水中に位置する下部水平支持部材である。11Mは、上部水平支持部材11Uと下部水平支持部材11Lの中間に設けられた中間水平支持部材である。これらの長さは32800mmである。
なお、図中、鉛直面に中間支持部材の配置が表記されているが、場合によっては水平面に中間支持部材を配置するようにもできる(他の図においても同じ)。
【0023】
上部水平支持部材11Uと下部水平支持部材11Lは、第1支持部材対11を構成する。
【0024】
12は、第1支持部材対11の上部水平支持部材11Uと下部水平支持部材11L並びに中間水平支持部材11Mの間隔を保持する第1鉛直保持部材である。
【0025】
21Uは水面の位置又は水面よりも上の位置にある上部水平支持部材である。21Lは水中に位置する下部水平支持部材である。21Mは、上部水平支持部材21Uと下部水平支持部材21Lの中間に設けられた中間水平支持部材である。これらの長さは32800mmである。
【0026】
上部水平支持部材21Uと下部水平支持部材21Lは、第2支持部材対21を構成する。
【0027】
22は、第2支持部材対21の上部水平支持部材21Uと下部水平支持部材21L並びに中間水平支持部材21Mの間隔を保持する第2鉛直保持部材である。
【0028】
31Uは水面の位置又は水面よりも上の位置にある上部水平支持部材である。31Lは水中に位置する下部水平支持部材である。これらの長さは32800mmである。
【0029】
上部水平支持部材31Uと下部水平支持部材31Lは、第3支持部材対31を構成する。
【0030】
13U、13Lは、第1支持部材対11と第3支持部材対31の(平面図における)間隔を保持する第1水平保持部材である。第1水平保持部材13Uは水面の位置又は水面よりも上の位置にあり、第1水平保持部材13Lは水中に位置する。
【0031】
23U、23Lは、第2支持部材対21と第3支持部材対31の(平面図における)間隔を保持する第2水平保持部材である。第2水平保持部材23Uは水面の位置又は水面よりも上の位置にあり、第2水平保持部材23Lは水中に位置する。
【0032】
50は、第3支持部材対31の上部水平支持部材31Uと下部水平支持部材31Lの間に互いに所定間隔を空けて設けられた複数の帯状の繊維シート50aからなる波減衰用膜である。
【0033】
繊維シート50aは、第3支持部材対31の両側(図3において水平支持部材の左右それぞれ)に設けられている。この配置は、図2に示されるように(平面図において)千鳥状となっている。これらの図面から明らかなように、波減衰用膜50自体は水密性を持たず、波の砕波・減衰を目的とするものである。
【0034】
繊維シート50aの両端は、それぞれ上部水平支持部材31Uと下部水平支持部材31Lに、交換、メンテナンスが容易に行えるようにピンやボルトナットで取り付けられている。繊維シート50aは、例えば幅50cmのアラミド繊維やカーボン繊維からなるシートである。
【0035】
60は、第1支持部材対11及び第2支持部材対21の上部水平支持部材と下部水平支持部材間に互いに所定間隔を空けて設けられた複数の棒状の部材60aからなる砕波スクリーン60である。図面では第1支持部材対11と第2支持部材対21の両方に砕波スクリーン60が設けられているが、どちらか一方にのみ設けるようにもできる。砕波スクリーン60は、波の砕波・減衰と防塵とともに、波減衰用膜50の保護も兼ねている。
【0036】
第1支持部材対11乃至第3支持部材対31は、いずれも流水や船舶の水路を横切るように配置されている。
【0037】
70は、公知の防舷材である。80は、歩廊の手摺りである。
【0038】
第1支持部材対11と第2支持部材対21の間隔は10000mmであり、上部水平支持部材11U、21Uと下部水平支持部材11L、21Lの間隔は5200mmである。各水平支持部材は中空の鋼管であり、その直径は1300mmである。
【0039】
繊維シート50aの取付間隔は1500mmである。棒状の部材60aの取付間隔は500mm、その直径は約200mmである。
【0040】
図4及び図5は、発明の実施の形態に係る防波堤の他の構造を示す図である。図4及び図5では、図1乃至図3と同様に、鋼管を組み合わせてなる格子状の構造体に、2列に設けられた砕波スクリーンと、これらの間に2列(千鳥配置)に設けられた波減衰用膜とを設けたものであるが、砕波スクリーンは、両端に位置する第1支持部材対11と第2支持部材対21それぞれに設けられている。
【0041】
図4は、防波堤端部の拡大平面図を示す。図5は、図4の右端から左側を見た側断面図を示す。
【0042】
図4及び図5において、図2及び図3と同一又は相当部分については同一符号を付し、その説明は省略する。
【0043】
図4及び図5では、図2及び図3と比べて波減衰用膜50の位置が異なっている。すなわち、第1支持部材対11と第2支持部材対21により挟まれる領域を内側として、第1支持部材対11の内側及び第2支持部材対21の内側に、それぞれ上部水平支持部材11U、21Uと下部水平支持部材11L、21Lの間に複数の帯状の繊維シート50aを設けることにより波減衰用膜50を配している。砕波スクリーン60の位置は変わらない。なお、波減衰用膜50は、第1支持部材対11の内側又は第2支持部材対21の内側いずれか一方に設けるようにしてもよい。
【0044】
図6乃至図8は、発明の実施の形態に係る防波堤の他の構造を示す図である。この実施例において、波減衰用膜50は、両端に位置する第1支持部材対11と第2支持部材対21それぞれに設けられている。
【0045】
図6(a)は、この発明の実施の形態に係る防波堤の設置状態における平面図を示し、同図(b)は同正面図を示す。
【0046】
図7は、防波堤端部の拡大平面図を示す。図8は、図7の右端から左側を見た側断面図を示す。
【0047】
図6乃至図8において、図1乃至図3と同一又は相当部分については同一符号を付し、その説明は省略する。
【0048】
81は曳航用転向シーブである。82は曳航用ロープである。83は角落としゲート用戸溝である。
【0049】
図7及び図8を、図4及び図5と比較すると理解できるように、この発明の実施の形態は第3支持部材対31と、中間水平支持部材11M、22Mを備えない点で相違する。
【0050】
図9乃至図11は、発明の実施の形態に係る防波堤の他の構造を示す図である。この実施例において、繊維シート50aは、第3支持部材対31に一列に設けられている。
【0051】
図9(a)は、この発明の実施の形態に係る防波堤の設置状態における平面図を示し、同図(b)は同正面図を示す。
【0052】
図10は、防波堤端部の拡大平面図を示す。図11は、図10の右端から左側を見た側断面図を示す。
【0053】
図9乃至図11において、図1乃至図3と同一又は相当部分については同一符号を付し、その説明は省略する。
【0054】
この発明の実施の形態では、繊維シート50aの両端は、それぞれ上部水平支持部材31Uの下側と下部水平支持部材31Lの上側に取り付けられている。
【0055】
発明の実施の形態に係る防波堤は、波の砕波・減衰と流木止めを目的とするものである。この防波堤は、船舶が出入りする港湾の出入り口を閉塞する設備であり、通常は格納部に収納されて航路を解放しておき、異常な波が予想される場合に格納部から引き出して航路を閉鎖するものである。設置目的は、港湾への進入波を減衰し湾内の静隠度の向上を計り陸揚げ作業を効率化し、船舶の揺れ減少させるとともに、浮遊物の湾内進入を防止し船舶の損傷を防止することである。
【0056】
発明の実施の形態に係る防波堤は、従来の鋼製で水密性能を有する水門設備ではなく、構材の鋼管11,12,13,21,22,23,31をスリット状に配置した構造体と、鋼管間に配置される膜材50a,50とからなる函体であり、半潜水状態で波の砕波・減衰と防塵を行うものである。
【0057】
発明の実施の形態に係る防波堤は、半潜水の状態で航行し、格納(航路解放)と閉鎖(航路閉鎖)を行う。航行は船外機による自力航行や船舶での曳航、またはロープによる牽引などで行う。また、格納・閉塞の各位置では係留用ウインチや係留柱と繋留索で位置保持を行う。
【0058】
断面図から理解できるように、この構造体は、強度を確保する鋼管11,12,13,21,31,22,23を径間方向の各面に適切な間隔で配置し各々を連結したものである。径間方向の断面形状を例えば四角形とし中間部に空域を設け、この空域に繊維膜50a,50を設置する。
【0059】
鉛直方向の鋼管12,22の下部は解放し、この鋼管に接続される横方向の鋼管11,13,21,31,23を通気可能に接合して水面に浮かべた時、管体(鋼管群)の内部が空気溜まりとなり浮力を確保できるようにしている。鋼管12,22の下部の解放部は管内空気量を調整するときの注排水口として機能する。気密を保持するために、穴無しフランジを使用している。
【0060】
管内の空気量で喫水深を調整し、半潜水状態を保つことができる。調整のために、管体には送排気管と仕切弁を設ける(図示せず)。管体への送気は外部のコンプレッサーより行い、排気は半潜水状態で作用する水圧を利用し弁解放で行う。
上記調整のために以下のようにしている。
(1)各ユニット単独へ気体の送気を行うためのバルブを設ける。
(2)ユニット同士を通気用のフレキシブル管で接合し1箇所の送気口から各ユニットに送気できるようにしている。この場合、空気漏れでの沈下を防ぐためホース接続管にはバルブを配置する。
【0061】
波は少なくとも2ヶ所以上の隙間を通過する様にし、この過程で砕波・減衰を行なう。すなわち、函体の外洋側と港内側の垂直面に鋼管製のスクリーン60を取り付け砕波・減衰を行うとともに、函体の中間空域部には繊維性膜50aを取り付け砕波・減衰を行う。
【0062】
函体は、複数のユニット1−1、・・・を分解可能なように接合したブロック構造物(ユニット)である。ブロック化により製作・運搬・メンテナンスが容易になる。
【0063】
予備ユニットを製作しておいてもよい。一体構造物であれば損傷部の修復期間は使用出来ないが、予備ユニットがあれば短期間で組み換えて復旧することができる。
【0064】
波の減衰方法について説明する。
例えば、外洋側から港内へ進入する波は、函体の外洋側に配置されたスクリーン60、60aで一次砕波される。そこを通過した波は、波減衰用膜50(函体中間部に一定間隔で配置された帯状の繊維シート50a)を通過する際に二次砕波され、更に港内側に配置されたスクリーン60、60aにて三次砕波される。砕波されて進行した波は、構造物の下流域に生じる渦と打ち消し合い、消波・減衰が進み、この後に港内に進入することになる。
【0065】
膜50、50aの形状と配置で減衰の効果が変化する。例えば次のようにする。
(1)所定幅の膜を縫合や治具連結で広域面状とし、格子状膜とし開口部のほぼ全域に設置する。
(2)帯状の膜を一定間隔で縦長および横長方向に設置する。設置形態は千鳥状、復列状、単列状である。
膜は伸縮性を有するため外力を受け、伸びて撓む過程において衝撃力の吸収が期待できる。
【0066】
膜50,50aの取り付け方法は、例えば次のようにする。
(ア)初期張力を付加し作用荷重で撓むようにする。たわみ量が少なく膜に作用する張力が大きくなるが形状が安定する。
(イ)支間以上の膜長で当初から緩みを付加し所定のたわみ量(ザグ比)を確保、荷重が作用したら更に撓むようにする。ザグ比を確保できることで膜に作用する張力を低減できる。
膜50aは、交換、メンテナンスが容易に行えるようにピンやボルトナットで取り付けられている。
【0067】
図12乃至図15は、発明の実施の形態に係る防波堤の収納方式の説明図である。
【0068】
ドッグ式格納で出入り口を角落としゲートで締め切り充水・排水可能とする方法がある(図12、図14参照)。
【0069】
この方法には、次のようなメリットがある。
・格納部の水を排水すれば大気中での保管(ドライな状態の保管)となるため、装置の点検、部品交換が容易になる。
・ドライな状態の保管すれば海洋生物の付着を防止できる。
・格納部に併設した一定のスペースを設け予備ユニットを配置すれば損傷したユニットとの組換えが可能となる。
・組み換え時に格納部に充水すれば函体が半潜水状態となり使用する重機が小型化できる。
【0070】
反面、次のようなデメリットも生じる。
・ドライ状態からの航路閉鎖は、充水→同一水面(函体浮上)→角落しゲート撤去→曳航(航行)→閉塞→係留、となり充水と角落とし撤去に時間が必要で航路閉鎖までの時間が長くなる。
・ドッグヘの充排水設備が必要になる。もっとも、充排水設備を無くすることもできる。
【0071】
港湾の防波堤に併設したり近隣の格納庫にて半潜水状態で係留する方法がある(図13、図15参照)。組立て・分解、または予備ユニットとの組換えは大型重機の使用かドッグへ曳航し行う。予備ユニットを準備する時は本体と共に水中格納か陸上保管となる。各ユニットは、交換、メンテナンスが容易に行えるようにピンやボルトナットで取り付けられている。
【0072】
この方法には、次のようなメリットがある。
・防波堤に沿って設置できるため最小限のスペースで済む。
・即移動できるため航路閉鎖時間が短い。
【0073】
反面、次のようなデメリットも生じる。
・半潜水状態での係留であるため点検・メンテナンスは潜水夫による水中作業となる。
・海洋生物の付着が進むため定期的な排除が必要になる。
【0074】
航路の閉鎖と解放は以下の方法による。
・陸上設置のウインチで航行を行う。
ウインチドラムに巻き付けたロープの一端を、シーブを介し函体に固定する。他端をウインチドラムから直接函体に固定する。ドラムの回転でロープの巻き取りと送り出しを同時に行い函体を移動させる。進行方向の調整を行うために函体へ操舵用船外機を設置しても良い。
・函体に取り付けた船外機により自力航行を行う。
・船舶を利用し曳航する。
・航路部の移動に船舶を使用し曳航、格納方法によっては船舶が使用できない区間も生じるため、船外機で定位置まで航行する。
【0075】
なお、格納する際に、半潜水の状態ではなく函体内空気を抜き海底へ着床させておき使用時に函体へ送気し浮上させる方法もある。この場合、函体が砕波・減衰に必要な高さを確保し海底へ着床させた時に海面から函体上面までの水深が航行船舶の喫水以上となることが条件となる。この条件が満たされれば格納部の確保や閉鎖解放時の曳航などを必要とせず、海底を格納ヶ所として利用でき函体への送気で浮上させて航路を閉鎖し防波堤として機能させることができる。航路を解放する場合は函体から排気し沈降着床させる。
【0076】
発明の実施の形態に係る防波堤によれば、膜を用いて砕波を行っているので、従来の鋼製で水密性能を有する水門設備に比べて構造を簡単にできるとともに、重量を大幅に軽減できる。これによりコストダウンを実現することができる。
【0077】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0078】
1−1〜1−3 浮上式防波堤構造物(各ユニット)
11U 上部水平支持部材(支持梁)
11L 下部水平支持部材(支持梁)
11M 中間水平支持部材
11 第1支持部材対
12 第1鉛直保持部材
12U 水平保持部材
12L 水平保持部材
13U 第1水平保持部材
13L 第1水平保持部材
21U 上部水平支持部材(支持梁)
21L 下部水平支持部材(支持梁)
21M 中間水平支持部材
21 第2支持部材対
22 第2鉛直保持部材
23U 第2水平保持部材
23L 第2水平保持部材
31U 上部水平支持部材(支持梁)
31L 下部水平支持部材(支持梁)
31 第3支持部材対
50 波減衰用膜
50a 帯状の繊維シート
60 砕波スクリーン
60a 棒状の部材
70 防舷材
80 歩廊の手摺り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面の位置又は水面よりも上の位置にある上部水平支持部材と水中に位置する下部水平支持部材からなる第1支持部材対と、
前記第1支持部材対の前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材の間隔を保持する第1鉛直保持部材と、
水面の位置又は水面よりも上の位置にある上部水平支持部材と水中に位置する下部水平支持部材からなり、前記第1支持部材対に対して所定間隔を空けて互いに略並行に設けられる第3支持部材対と、
前記第1支持部材対と前記第3支持部材対の間隔を保持する第1水平保持部材と、
水面の位置又は水面よりも上の位置にある上部水平支持部材と水中に位置する下部水平支持部材からなり、前記第3支持部材対に対して所定間隔を空けて互いに略並行に設けられる第2支持部材対と、
前記第2支持部材対の前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材の間隔を保持する第2鉛直保持部材と、
前記第2支持部材対と前記第3支持部材対の間隔を保持する第2水平保持部材と、を備え、
前記第3支持部材対の前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材の間に、互いに所定間隔を空けて設けられた複数の帯状の繊維シートからなる波減衰用膜と、
前記第1支持部材対又は/及び前記第2支持部材対の前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材間に、互いに所定間隔を空けて設けられた複数の棒状の部材からなる砕波スクリーンとを備え、
前記第1支持部材対乃至前記第3支持部材対は、いずれも流水や船舶の水路を横切るように配置されることを特徴とする膜式水門構造物。
【請求項2】
水面の位置又は水面よりも上の位置にある上部水平支持部材と水中に位置する下部水平支持部材からなる第1支持部材対と、
前記第1支持部材対の前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材の間隔を保持する第1鉛直保持部材と、
水面の位置又は水面よりも上の位置にある上部水平支持部材と水中に位置する下部水平支持部材からなり、前記第1支持部材対に対して所定間隔を空けて互いに略並行に設けられる第2支持部材対と、
前記第2支持部材対の前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材の間隔を保持する第2鉛直保持部材と、
前記第1支持部材対と前記第2支持部材対の間隔を保持する水平保持部材とを備え、
前記第1支持部材対と前記第2支持部材対により挟まれる領域を内側とし、
前記第1支持部材対の前記内側又は/及び前記第2支持部材対の前記内側の位置に、前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材の間に、互いに所定間隔を空けて設けられた複数の帯状の繊維シートからなる波減衰用膜と、
前記第1支持部材対又は/及び前記第2支持部材対の前記波減衰用膜の設けられていない側に、前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材間に、互いに所定間隔を空けて設けられた複数の棒状の部材からなる砕波スクリーンとを備え、
前記第1支持部材対及び前記第2支持部材対は、いずれも流水や船舶の水路を横切るように配置されることを特徴とする膜式水門構造物。
【請求項3】
前記第1支持部材対又は/及び前記第2支持部材対の前記上部水平支持部材と前記下部水平支持部材の間に中間水平支持部材又は中間鉛直支持部材を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の膜式水門構造物。
【請求項4】
前記波減衰用膜は、前記複数の帯状の繊維シートが格子状に配置されたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3いずれかに記載の膜式水門構造物。
【請求項5】
前記波減衰用膜は、前記複数の帯状の繊維シートが、千鳥状、復列状又は単列状のいずれかに配置されたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3いずれかに記載の膜式水門構造物。
【請求項6】
少なくとも、前記第1支持部材対と前記第1鉛直保持部材、及び、前記第2支持部材対と前記第2鉛直保持部材は互いに通気可能に接合され、これらの内部が空気溜まりとなることで浮力を確保できるように構成され、
前記第1鉛直保持部材と前記第2鉛直保持部材の下端は解放され、
前記内部に空気が注入され、あるいは前記内部から空気が排出される際に、前記下端は注排水口として機能することを特徴とする請求項1乃至請求項5いずれかに記載の膜式水門構造物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6いずれかに記載の膜式水門構造物を複数連接してなる浮上式防波堤であって、前記膜式水門構造物同士は分離可能に結合され、さらに、予備としての少なくともひとつの前記膜式水門構造物を備えることを特徴とする膜式水門。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−28901(P2013−28901A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163768(P2011−163768)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(592000886)八千代エンジニヤリング株式会社 (16)
【Fターム(参考)】