説明

膜形成方法

【課題】ワーク表面に供給する材料の塗布量を細かく制御する必要がなく、ワークの所定の領域以外に簡単に膜を形成することができる膜形成方法を提供すること。
【解決手段】マルチレンズアレイ10の表面にプライマー層20を積層し、マルチレンズアレイ10の外周部に対してFDTSを用いて撥水処理を行い撥水層30を形成する。次に、マルチレンズアレイ10の表面に樹脂材料を塗布し、プレスガラスを用いて樹脂材料を適正な圧力で押圧した状態で紫外線照射を行い、樹脂材料を硬化させる。次に、撥水層30の表面に形成されたはみ出し部を除去してレンズ層40を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの表面に膜を形成する膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークの表面には、スプレー法、スピンコート法、ディッピング法などの方法を用いて膜を形成している。スピンコート法の場合、ワーク表面に樹脂を供給し、ワークを回転させてその遠心力によりワーク全面に樹脂を押し広げて膜を形成する。この場合、供給する樹脂量が少ないとワークの外周まで膜を形成することができない。一方、供給する樹脂量が多いとワークからはみ出した状態で膜が形成される。このように樹脂がはみ出した状態で成膜後の後工程を行うと、装置に接触するなどしてはみ出した樹脂が欠けて発塵し、パーティクルが発生することがある。
そこで、ワークの表面に供給された樹脂に対して転写基板または型を押し当てることにより形状転写を行って樹脂膜を形成する方法では、ワークの表面積よりも大きい表面積を持つ転写基板または型を用いて成形し、転写基板を取り除いた後にワークの領域のみを切り出すことで、樹脂がワークからはみ出さないようにしている。
【0003】
しかしながら、ワークの外周端縁にまで樹脂膜を形成すると、製造工程においてワークを移動させる等の作業時にワークの外周部を把持すると、樹脂膜が欠けてパーティクルが発生してしまう。したがって、ワークの外周部よりも若干内側に樹脂膜を形成することが一般的である。
例えば、スピンコート法でワークに膜を形成した後、ワークの外周近傍の樹脂に希HF液を接触させてエッチングし、さらに希HF液を接触させた部分にリンス液を流して希HF液を洗浄する方法が提案されている(特許文献1参照)。
また、マイクロレンズの形成において、ワーク表面に濡れ性の違いによるパターンを形成し、特定の濡れ性を有する部位に材料を付着させてレンズを形成する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−17817号公報
【特許文献2】特開2000−2802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、希HF液とリンス液とを位置精度よく塗布する必要があるため、装置および工程が煩雑となってしまう。
また、特許文献2に記載の方法では、特定の濡れ性を有する部位にのみ材料を塗布するため、正確な塗布量が要求される。すなわち、樹脂の塗布量を制御する必要がある。樹脂は粘度の変化により吐出圧力および吐出時間を管理しなければならないため、樹脂の塗布量の制御には限界がある。特に、有機溶剤などを溶媒として用いている樹脂類は、溶媒の揮発、樹脂の種類および条件等により吐出量が変動するため、正確な塗布量を安定して供給することは困難である。
【0006】
本発明の目的は、ワーク表面に供給する材料の塗布量を細かく制御する必要がなく、ワークの所定の領域以外に簡単に膜を形成することができる膜形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の膜形成方法は、ワークの表面の所定のパターンの膜を形成する膜形成方法であって、前記ワークの表面に前記膜を形成しない非膜形成領域に撥水処理を施して撥水層を形成する撥水処理工程と、前記撥水層が形成されたワークの表面に成膜材料を塗布する塗布工程と、押圧部材を用いて前記成膜材料を押圧する押圧工程と、前記撥水層の表面に形成された前記成膜材料を除去する除去工程と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
この発明では、成膜材料を塗布する前に、ワークの表面に膜を形成しない非膜形成領域に撥水層を形成するので、撥水層の上に塗布された成膜材料を容易に除去することができる。したがって、ワークの表面に非膜形成領域以外の領域である膜形成領域のみに膜を容易に形成することができる。
また、膜形成領域のみに塗布するための適量となるように、成膜材料の塗布量を細かく制御する必要がないため、より簡単に膜を形成することができる。
【0009】
本発明の膜形成方法において、前記非膜形成領域は、前記ワークの外周端縁から所定距離内側までの領域であることが好ましい。
この発明では、ワークの外周に沿った領域に膜が形成されないので、膜形成後の後処理工程において、ワークの外周付近を把持しやすく、後処理工程を効率よく進めることができる。また、ワークの外周が装置等に接触することで膜が欠けるということもないので、パーティクルの発生を防止することができる。
【0010】
本発明の膜形成方法において、前記撥水層は、シラン系有機化合物を含むことが好ましい。
この発明によれば、シラン系有機化合物は撥水撥油性に優れているため、優れた撥水性を発揮することができる。
【0011】
本発明の膜形成方法において、前記成膜材料は、樹脂と溶媒とを含み、前記樹脂は、紫外線硬化性樹脂であることが好ましい。
成膜材料は、樹脂と溶媒とを混合させることで適度な粘性を付与したものである。
紫外線硬化性樹脂は、紫外線を照射することにより常温で樹脂を硬化することができるので、取り扱いが容易である。
この発明によれば、紫外線硬化性樹脂を含む成膜材料で膜を形成するので、高温で処理する必要がないため、ワークの劣化を防止することができる。
【0012】
本発明の膜形成方法において、前記除去工程は、前記撥水層の表面に形成された成膜材料を、前記成膜材料に含有される溶媒からなる除去溶液に浸漬することが好ましい。
この発明では、膜を除去するための除去溶液として、ワーク表面に塗布した成膜材料に含まれる溶媒を用いた。すなわち、このような除去溶液は成膜材料との親和性も高いため、撥水層の表面に形成された成膜材料を除去溶液に浸漬させることで容易に撥水層の表面から剥離することができる。
また、成膜材料に使用する溶媒と同じものを除去溶液として使用するので、他の溶液を準備する必要がなく、効率よくかつ経済的に膜を形成することができる。
【0013】
本発明の膜形成方法において、前記撥水処理工程の前に、前記ワークの表面にプライマー層を形成するプライマー層形成工程を有することが好ましい。
この発明では、ワークと膜との間にプライマー層を形成するため、ワークと膜との密着性を向上させることができる。したがって、膜形成後に、撥水層が形成されている領域の膜を剥離する際、撥水層が形成されている領域と形成されていない領域との境界で膜が分離しやすいため、撥水層が形成されている領域の膜を容易に剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態にかかるマルチレンズアレイにレンズ層が形成された状態を示す図であり、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【図2】前記実施形態においてマルチレンズアレイにレンズ層が形成される工程を示す図である。
【図3】前記実施形態においてマルチレンズアレイにレンズ層が形成される工程を示す図である。
【図4】前記実施形態においてマルチレンズアレイにレンズ層が形成される工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ただし、本発明はこの実施形態によって何等限定されるものではない。
本実施形態では、ワークとして表面に微小な凹型のレンズが複数形成されたマルチレンズアレイを例示し、マルチレンズアレイの表面に樹脂膜が形成される。
【0016】
(1.マルチレンズ基板の構成)
図1(A)および(B)に示すように、マルチレンズ基板1は、マルチレンズアレイ10とプライマー層20と撥水層30とレンズ層40とを備えている。
マルチレンズアレイ10は、径200mmの円板状の基板である。マルチレンズアレイ10の一方の面にはレンズ径が10μmの微小な凹型のレンズが多数配列されており、図1(B)にはこれらのレンズの集合として一つの凹部11が示されている。
【0017】
プライマー層20は、マルチレンズアレイ10の表面全体に形成され、レンズ層40との密着性を向上させる。例えば、シランカップリング剤を用いた表面処理、界面活性剤を用いた表面処理等により形成される。上述した中でも、特に、シランカップリング剤を用いた表面処理が好ましい。これにより、より効果的に密着性向上処理を施すことができる。
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルジメチルクロロシラン(ODS)等が挙げられる。これらの中でも、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用いるのが好ましい。これにより、より効果的にマルチレンズアレイ10とレンズ層40との密着性を向上させることができる。
【0018】
撥水層30は、マルチレンズアレイ10の外周部近傍、すなわちマルチレンズアレイ10の径198mmから外周の領域に形成される。撥水層30の表面はレンズ層40が形成されない領域となる。
また、撥水層30の厚みは撥水機能を発揮する程度の厚みであれば特に限定されないが、例えば、0.1nm以上100nm以下であることが好ましい。撥水層30の厚みが0.1nm未満であると、十分な撥水機能を発揮することができない。一方、撥水層30の厚みを100nmを超えて形成したとしても、撥水機能の向上は見られない。
【0019】
撥水層30を構成する材料としては、レンズ層40に使用される成膜材料41に対して撥水効果を発揮するものであれば特に限定されない。例えば、シラン系有機化合物、メタキシレンヘキサフォロライドを主成分としたフッ素系化合物溶液、アルキルポリシロキサン等のシリコーン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂等、ヘキサメチルジシラザン([(CHSi]NH)等のシリル化剤等が挙げられ、また、フッ素系ガスによる表面処理を行ってもよい。これらの中でも、シラン系有機化合物を用いることが好ましく、シラン系有機化合物として例えば、FDTS(perfluorodecyltrichlorosilane、CF(CFCHCHSiCl)が挙げられる。
撥水層30は、このFDTSを気相処理し、水(HO)を触媒としたCVD(Chemical Vapor Deposition、化学気相成長)方式により形成することができる。なお、撥水層30の形成は気相方式に限られず、ウェット方式を用いてもよい。
【0020】
レンズ層40は、プライマー層20が形成されたマルチレンズアレイ10の表面の膜形成領域に成膜される樹脂膜である。本実施形態における膜形成領域は、前述の撥水層30が形成されていない領域である。すなわち、図1(A)に示すように、マルチレンズアレイ10の中心と同一中心を有する同心円状に成膜される。レンズ層40の径は198mmである。このようにして、レンズ層40を構成する成膜材料が前述の凹部11に密着して成膜されることにより、レンズを形成する。なお、レンズ層40の厚みは、30μmである。
レンズ層40を構成する成膜材料としては有機系の溶媒を用いた有機−無機のハイブリッド樹脂を用いることができる。このうち、マルチレンズアレイ10の光学特性(可視光400nm以上800nm以下における透過率、および屈折率)に応じた樹脂を選定することが好ましい。例えば、マルチレンズアレイ10とレンズ層40との屈折率差があるほど、マイクロレンズの界面での光の動きが大きくなり、レンズの設計の自由度が上がる。したがって、マルチレンズアレイ10として石英ガラス(屈折率1.46)を使用する場合は、屈折率差が0.01以上となる樹脂を選定する。これにより、マイクロレンズ基板1として優れた光学特性を発揮することができる。
【0021】
このような樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン樹脂等の紫外線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66)、熱可塑性ポリイミド、芳香族ポリエステル等の液晶ポリマー、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマーや、これらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられる。これらの中でも、高温処理の必要がなく容易に硬化させることができるという点から紫外線硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0022】
溶媒は、特に限定されないが、例えば、酢酸イソブチル(CHCOOCHCH(CH、含有量98%以上)や、有機溶媒として広く用いられているアセトン等を使用することができる。
これらの樹脂および溶媒の配合比は特に限定されず、樹脂の粘度に応じて適宜調整すればよい。なお、樹脂の粘度は、レンズ層40の厚みに対して適正な粘度を選択すればよく、例えば、30μmの厚みのレンズ層40を形成するには、1Pa・s以上5Pa・s以下の範囲内の粘度であることが好ましい。
【0023】
(2.マルチレンズ基板1の製造方法)
次に、マルチレンズ基板1の製造方法を図2、図3および図4に基づいて説明する。
まず、マルチレンズアレイ10を製造する方法について説明する。
(2−1.マルチレンズアレイ10の製造)
厚さが均一である円板状の石英ガラスからなるガラス基板の表面にマスク形成用膜を形成する。マスク形成用膜は、後述の初期孔を形成することができるとともに、エッチングに対する耐性を有するものが好ましく、例えば、Cr、Au、Ni、Ti、Pt等の金属やこれらから選択される2種以上を含む合金、前記金属の酸化物(金属酸化物)、シリコン、樹脂等が挙げられる。また、マスク形成用膜を、Cr/Auや酸化Cr/Crのように異なる材料からなる複数の層の積層構造としてもよい。
マスク形成用膜の形成方法は特に限定されないが、例えば、蒸着法やスパッタリング法、CVD法等により、好適に形成することができる。
【0024】
次に、レーザー光の照射により、マスク形成用膜にエッチングするための初期孔を形成する。これにより、所定の開口パターンを有するマスクが得られる。レーザー光の照射により初期孔を形成すると、形成される初期孔の大きさや、隣接する初期孔同士の間隔等を容易かつ精確に制御することができる。これにより、マスクの全面に偏りなく初期孔が形成される。
【0025】
次に、このマスクを用いてガラス基板にエッチングを施し、ガラス基板上に多数の凹型のレンズを形成する。エッチングの方法は、特に限定されず、例えば、ウェットエッチング、ドライエッチング等が挙げられる。
そして、マスクを除去するために、例えば、エッチングを行う。
以上により、多数の凹型レンズからなる凹部11を有するマルチレンズアレイ10が得られる(図2(A)参照)。
【0026】
(2−2.プライマー層20の積層)
次に、マルチレンズアレイ10の凹部11が形成された側の面全体に、プライマー層20を形成する(図2(B)参照、プライマー層形成工程)。プライマー層20を形成するには、前述の材料を用いてウェット方式(スピンコート法、フローコート法等)でマルチレンズアレイ10の表面に前述の材料を塗布して乾燥させる。なお、ウェット方式に限られず、気相方式(化学蒸着法、スパッタリング法等)を用いて表面処理を行ってもよい。
【0027】
(2−3.撥水層30の積層)
次に、プライマー層20が形成されたマルチレンズアレイ10に撥水層30を積層する方法について説明する。
図2(C)に示すように、径198mmの円板状のガラス製のマスク5を、マルチレンズアレイ10と同一中心となる位置に配置する。ここで、マルチレンズアレイ10のマスク5で覆われていない領域、すなわちマルチレンズアレイ10の外周端縁から2mm内側までの領域が非膜形成領域となる。そして、この非膜形成領域に対して、FDTSを用いたCVD方式により表面処理を行う。
マスク5を取り外すと、図3(A)に示すように、非膜形成領域に撥水層30が形成される(撥水処理工程)。
【0028】
(2−4.レンズ層40の積層)
次に、マルチレンズアレイ10の表面にレンズ層40を成膜する方法について説明する。
図3(B)に示すように、マルチレンズアレイ10の凹部11が形成された側の面に、流動性を有する、レンズ層40形成用の成膜材料41をディスペンサーを用いて供給する(塗布工程)。成膜材料41は紫外線硬化性樹脂と溶媒を含み、室温(20℃)での粘度は、1Pa・s以上5Pa・s以下である。なお、粘度はこれに限られない。成膜材料41の粘度が前記範囲内の値であると、マルチレンズアレイ10とレンズ層40との間に、気泡等が侵入することを効果的に防止することができるとともに、密着性を特に優れたものとすることができる。
また、成膜材料41の塗布量は、レンズ層40の厚みと使用する樹脂の比重に応じて計算された樹脂量に、この樹脂量の5%分を上乗せした量である。具体的に、本実施形態では、径198mm、厚み30μmのレンズ層を形成するために、0.7g以上0.9g以下の成膜材料41を塗布する。
【0029】
次に、図3(B)および(C)に示すように、マルチレンズアレイ10上の成膜材料41を押圧部材であるプレスガラス6で押圧する。
プレスガラス6は、平板状の石英基材61と、この石英基材61の成膜材料41を押圧する側の面に形成された押圧撥水層62と、を有している。押圧撥水層62は、前述の撥水層30で例示した材料を用いて形成される。これによれば、押圧終了後にプレスガラス6を効率よくレンズ層40の表面から取り除くことができる。
【0030】
そして、プレスガラス6を用いて成膜材料41を適正な圧力で押圧した状態で紫外線照射を行い、成膜材料41を硬化させる(押圧工程)。紫外線照射の強さおよび時間は、樹脂の種類やレンズ層40の厚みに応じて適宜調整すればよい。
このようにして、マルチレンズアレイ10の表面で成膜材料41が押し広げられ、撥水層30の表面およびマルチレンズアレイ10の側面を覆うようにはみ出したはみ出し部42が形成される。
【0031】
次に、はみ出し部42を除去する。図4(A)に示すように、成膜材料41に含まれる溶媒からなる除去溶液71を貯めた浴槽7に、マルチレンズアレイ10の非膜形成領域、すなわち撥水層30が形成された領域が浸漬するように、プレスガラス6で成膜材料41を押圧した状態のマルチレンズアレイ10を立てた状態で回転させる。これにより、撥水層30の表面に形成されたはみ出し部42の成膜材料が容易に離脱する(除去工程)。
そして、浴槽7からマルチレンズアレイ10を取り出し、プレスガラス6を取り除くと、図4(B)に示すように、マルチレンズアレイ10の外周に沿って形成された撥水層30の表面には樹脂膜が形成されない。すなわち、マルチレンズアレイ10の径よりも小さい径を有するレンズ層40が形成される。
【0032】
(3.本実施形態の作用効果)
以上、説明した本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
上記実施形態では、マルチレンズアレイ10の外周部にのみ撥水層30を形成し、その後、マルチレンズアレイ10の表面全体に成膜材料41を塗布して押圧する。これにより、撥水層30の表面は成膜材料41で覆われ、はみ出し部42が形成される。そして、はみ出し部42を、成膜材料41に混合されている溶媒からなる溶液に浸漬させる。はみ出し部42を形成する成膜材料41はこの溶液と親和性があるため、このはみ出し部42は撥水層30から容易に剥離される。すなわち、マルチレンズアレイ10の外周に沿って樹脂膜が形成されない非膜形成領域を簡単に作ることができる。
このようにして形成されたレンズ層40は、その外周縁に突起が形成されることもないため、後工程においてマルチレンズ基板1の外周部分に装置が接触したとしてもパーティクルが発生する等の問題を生じない。そのため、作業効率よく構成を進めることができる。
【0033】
また、上記実施形態では、レンズ層40を形成するのに適量と思われる量より5%増量した成膜材料41を塗布することとした。これにより、樹脂膜が必要な領域からはみ出して樹脂膜が形成される(はみ出し部42の形成)。樹脂膜が必要な領域には完全に樹脂を塗布する必要があるため、適量より多めの樹脂を供給することが一般的である。
本実施形態では、はみ出し部42を後で除去するので、成膜材料41の塗布量を細かく制御する必要がない。すなわち、ディスペンサー等で樹脂を供給する際、樹脂材料の粘度変化に応じて吐出圧力および吐出時間を変更するといった煩雑な作業を省略することができる。
【0034】
さらに、上記実施形態では、レンズ層40を形成する樹脂として紫外線硬化樹脂を用いた。紫外線硬化樹脂は、紫外線を照射することで樹脂を硬化させるため、高温での熱処理を必要としない。そのため、マルチレンズアレイ10を劣化させることなく、高品質な製品を提供することができる。
【0035】
また、上記実施形態では、マルチレンズアレイ10とレンズ層40との間にプライマー層20を形成したので、マルチレンズアレイ10とレンズ層40との密着性を向上させることができる。したがって、マルチレンズアレイ10に成膜材料41を塗布して押圧した後、撥水層30の表面に形成されたはみ出し部42を剥離する際、はみ出し部42とレンズ層40との境界で成膜材料41を容易に分離させることができる。すなわち、はみ出し部42を容易に剥離することができる。
【0036】
(4.変形例)
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、プライマー層20を形成してマルチレンズアレイ10とレンズ層40との密着性を向上させたが、プライマー層20を形成しない構成としてもよい。この場合でも、マルチレンズアレイ10の凹部11内に成膜材料41を充填するため、アンカー効果により、マルチレンズアレイ10とレンズ層40との密着性は、比較的高いものとなる。
【0037】
また、上記実施形態では、除去溶液が貯められた浴槽にマルチレンズアレイ10を立てた状態で浸漬させたが、撥水層30に除去溶液を接触させることができる構成であればこれに限られない。例えば、スピン方式により、マルチレンズアレイ10を回転させながら、撥水層30の領域にのみ除去溶液を供給する。これにより、撥水層30の表面に形成されたはみ出し部を剥離することができる。
【0038】
さらに、上記実施形態では、撥水層30の表面に形成されたはみ出し部42を除去する際に、溶媒に浸漬させることによりはみ出し部42の樹脂を溶解させて除去したが、これに限られない。
成膜材料41の粘度が低い場合(例えば、100mPa・s以下)は、撥水層30が成膜材料41をはじくため、成膜材料41をプレスガラス6で押圧しても、プレスガラス6を取り除くと撥水層30の表面の樹脂膜は簡単に剥離される。これによれば、浴槽などの設備も必要なく、外周部に樹脂膜が形成されないレンズ層40をより簡単に形成することができる。
また、レンズ層40が十分に薄い場合(例えば、10μm以上20μm以下)は、撥水層30の表面に形成されたはみ出し部42に対して高圧のエアーまたは水を吹きかけることにより、はみ出し部42の樹脂材料を容易に剥離することができる。これは、はみ出し部42が薄膜であるため、プライマー層20の表面に隣接して形成された樹脂材料と撥水層30の表面に形成された樹脂材料とが容易に分離するため、レンズ層40の領域には特に影響はない。これによれば、浴槽などの設備も必要なく、外周部に膜が形成されないレンズ層40をより簡単に形成することができる。
【0039】
そして、上記実施形態ではワークとしてマルチレンズアレイを用いたが、表面の所定領域以外に膜を形成するものであれば、特に限定されない。例えば、半導体装置に用いられるウェハのほか、各種装置に用いられる光学物品等が挙げられる。
また、膜として使用される材料は、上記実施形態で例示したものに限られず、ワークの用途に応じた材料を用いて形成してもよい。例えば、半導体装置に用いられるウェハをワークとした場合、絶縁性のSOG(Spin on Glass)膜が形成される。
【0040】
なお、上記実施形態ではワークとしてマルチレンズアレイを例示したので、外周部に樹脂膜が形成されない構成としたが、ワークの用途に応じて、所定のパターンの膜をワークの表面に形成してもよい。この場合は、膜を形成しない領域に撥水処理を行って撥水層を形成し、その後膜を形成する。そして、上述したように、高圧のエアーまたは水により撥水層の上に形成された成膜材料を剥離させることで、所望のパターンの膜を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、各種ワークに樹脂膜を形成する領域と樹脂膜を形成しない領域からなるパターンを有する樹脂膜を形成する方法として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1…マルチレンズ基板、10…マルチレンズアレイ、11…凹部、20…プライマー層、30…撥水層、40…レンズ層、41…成膜材料、42…はみ出し部、5…マスク、6…プレスガラス、61…石英基材、62…押圧撥水層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの表面の所定のパターンの膜を形成する膜形成方法であって、
前記ワークの表面に前記膜を形成しない非膜形成領域に撥水処理を施して撥水層を形成する撥水処理工程と、
前記撥水層が形成されたワークの表面に成膜材料を塗布する塗布工程と、
押圧部材を用いて前記成膜材料を押圧する押圧工程と、
前記撥水層の表面に形成された前記成膜材料を除去する除去工程と、を備えた
ことを特徴とする膜形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の膜形成方法において、
前記非膜形成領域は、前記ワークの外周端縁から所定距離内側までの領域である
ことを特徴とする膜形成方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の膜形成方法において、
前記撥水層は、シラン系有機化合物を含む
ことを特徴とする膜形成方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の膜形成方法において、
前記成膜材料は、樹脂と溶媒とを含み、
前記樹脂は、紫外線硬化性樹脂である
ことを特徴とする膜形成方法。
【請求項5】
請求項4に記載の膜形成方法において、
前記除去工程は、前記撥水層の表面に形成された成膜材料を、前記成膜材料に含有される溶媒からなる除去溶液に浸漬する
ことを特徴とする膜形成方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の膜形成方法において、
前記撥水処理工程の前に、
前記ワークの表面にプライマー層を形成するプライマー層形成工程を有する
ことを特徴とする膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−240591(P2010−240591A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92795(P2009−92795)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】