説明

膜形成用材料およびその製造方法ならびにシート

【課題】耐水性に優れた膜を形成でき、製造時の増粘も少ない膜形成用材料およびその製造方法、ならびに該膜形成用材料を用いて得られるシートの提供。
【解決手段】セルロースナノファイバーが水性媒体中に分散した水性分散液からなる膜形成用材料であって、酸化セルロースを含有するpH2〜6の水性液を物理的処理することにより得られる膜形成用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーが水性媒体中に分散した水性分散液からなる膜形成用材料およびその製造方法、ならびに該膜形成用材料を用いて得られるシートに関する。
【背景技術】
【0002】
環境意識の高まりから、環境負荷の少ない天然物由来材料が期待されている。特にセルロースは、天然物由来材料であり、生産量も多いことから、包装材料をはじめ各種機能性材料への利用が期待されている。
そのようななか、木材パルプ等の植物繊維を、酸化触媒として2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)等のN−オキシル化合物を用いて酸化処理(TEMPO酸化処理)した材料をフィルム等に用いることが提案されている。該TEMPO酸化処理では、セルロース分子中の1級水酸基(グルコピラノース環の6位の炭素原子に結合した水酸基)の部分が高い選択性で酸化され、−CHOHがホルミル基を経てカルボキシ基に変換される。たとえば特許文献1には、このような材料を用いたガスバリア材が提案されている。
また、近年、セルロースナノファイバーが注目されている。天然のセルロース繊維は、セルロース分子数十本〜数百本からなる幅約数nm〜数十nmのミクロフィブリルの集合体であり、各ミクロフィブリルが水素結合により強固に結合している。セルロースナノファイバーは、このようなセルロース繊維をナノオーダーにまで解繊したものであり、結晶性が高く、強度、耐熱性等に優れることから各種機能性材料への応用が期待されている。
セルロースナノファイバーとしては、たとえばバクテリアセルロースや、木材パルプなどのセルロース成分を機械的な処理を施すことにより解繊してナノファイバー化したものがある。しかしこれらのセルロースナノファイバーは、繊維幅が大きく、均一性にも劣るため、得られる膜の透明性やガスバリア性に劣る問題がある。
最近、セルロースナノファイバーの調製方法として、TEMPO酸化処理を利用した方法が見出され、研究されている。TEMPO酸化処理したセルロース繊維は、水性媒体中で簡単な機械的処理を行うことで容易に解繊させ、水性媒体中にナノファイバーとして分散(ナノ分散)することができる。これは、ナノファイバー表面に導入されているカルボキシ基の静電反発によるものと考えられる。また、このようにして得られるセルロースナノファイバーは、従来のものに比べて、繊維幅が小さく、水性分散液や膜とした際の透明性が高い。たとえば特許文献2には、上記のようにして調製された、平均繊維径200nm以下のセルロース繊維を含むガスバリア用材料からなる層を有するガスバリア性複合成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−334600号公報
【特許文献2】特開2009−057552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、TEMPO酸化処理等の酸化処理によりカルボキシ基を導入したセルロース(酸化セルロース)を、従来法に従って水性媒体中にナノ分散させた分散液は、該分散液を用いて形成した膜が水により膨潤しやすく、耐水性が低い問題がある。耐水性が低いと、たとえば該膜をガスバリア材として用いる場合に、高湿度条件下でのガスバリア性が低くなる原因ともなるため、その改善が求められる。
また、上記のようにして得られる分散液は、ナノ分散する過程で大きく増粘してしまうため、固形分濃度を高くすることが難しい問題がある。分散液の粘度が高いと、ハンドリング性が悪い、該分散液の透明性が低くなる、該分散液を用いてコーティング法やキャスト法により膜を形成する際に、均一な膜を形成できない等の問題が生じる。そのため、たとえば従来、提案されているセルロースナノファイバー分散液の固形分濃度は、高くても3質量%程度である。しかし固形分濃度が低いと、厚い膜を形成するのにエネルギーや時間を要する、大量保管にスペースを要する等の点で問題となるため、その改善が求められる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、耐水性に優れた膜を形成でき、製造時の増粘も少ない膜形成用材料およびその製造方法、ならびに該膜形成用材料を用いて得られるシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、機械的処理を行う際の水性媒体のpHが高いことが、膜の耐水性を低下させる一因であることを見出した。すなわち、従来、セルロースナノファイバーの水性分散液の調製に用いられている酸化セルロースは、ナノ分散にカルボキシ基の静電的な反発力を利用するため、1.0〜2.0mmol/g程度のカルボキシ基を導入するとともに、水性媒体をpH8〜11程度のアルカリ性に調整している。このようなアルカリ性にしないと、静電的な反発が起きずに、ナノ分散させることが不可能であると考えられていた。実際、これまでセルロースナノファイバーの水性分散液の調製に用いられている高速ミキサーや通常の高圧ホモジナイザーでは、ナノ分散させることが不可能であった。しかしpHがアルカリ性の場合、得られる分散液は、セルロースナノファイバーのカルボキシ基が塩型で存在する。そのため、該分散液を用い、コーティングやキャスト等で膜を成形した場合、該膜中には主に塩型が存在している。これが、膨潤の原因となり、耐水性を低下させていたと考えられる。
かかる知見に基づきさらに検討を重ねた結果、pH2〜6の範囲内であれば、酸性領域でも物理的処理により酸化セルロースをナノ分散させることが可能であり、特にナノ分散処理に対向衝突型高圧ホモジナイザーを用いると、良好にナノ分散することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち上記課題を解決する本発明は以下の構成を有する。
[1]セルロースナノファイバーが水性媒体中に分散した水性分散液からなる膜形成用材料であって、酸化セルロースを含有するpH2〜6の水性液を物理的処理により得られる膜形成用材料。
[2]前記物理的処理が、対向衝突型高圧ホモジナイザーを用いた処理である、[1]に記載の膜形成用材料。
[3]前記酸化セルロースが、触媒としてN−オキシル化合物を用いた酸化処理により得られたものである、[1]または[2]に記載の膜形成用材料。
[4][1]〜[3]のいずれか一項に記載の膜形成用材料を製造する方法であって、
酸化セルロースを含有するpH2〜6の水性液を、対向衝突型高圧ホモジナイザーを用いて処理する工程を有することを特徴とする製造方法。
[5][1]〜[3]のいずれか一項に記載の膜形成用材料を用いて形成された膜を備えるシート。
[6]前記膜に基材が積層されている、[5]に記載のシート。
[7]ガスバリア材である[5]または[6]に記載のシート。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耐水性に優れた膜を形成でき、製造時の増粘も少ない膜形成用材料およびその製造方法、ならびに該膜形成用材料を用いて得られるシートを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<膜形成用材料およびその製造方法>
本発明の膜形成用材料は、セルロースナノファイバーが水性媒体中に分散した水性分散液からなる膜形成用材料であって、酸化セルロースを含有するpH2〜6の水性液を物理的処理することにより得られるものである。
物理的処理としては、対向衝突型高圧ホモジナイザーを用いた処理が好ましい。対向衝突型高圧ホモジナイザーを用いることで、pH2〜6の酸性領域であっても、酸化セルロースの良好なナノ分散が可能である。
そしてこのような酸性領域で酸化セルロースをナノ分散させていることで、得られる分散液を用いて形成される膜の耐水性が向上し、また、ナノ分散時の粘度上昇が抑制される。粘度上昇が抑制されるため、酸化セルロースの固形分濃度を高めても、充分に低粘度な分散液が得られるため、セルロースナノファイバーの固形分濃度の高い分散液を得ることができる。
膜の耐水性の向上やナノ分散時の粘度上昇の抑制効果は、pH2〜6であることで、水性液中の酸化セルロース中のカルボキシ基が、塩型(−COO)よりも酸型(−COOH)の方がリッチになることによると考えられる。つまり、酸型がリッチになることでチキソ性が抑制されて粘度上昇が抑制され、また、塩型よりも酸型がリッチな膜が成形できるようになったため、膜内でのセルロースナノファイバー間の水素結合が強化され、膜の膨潤を抑制し、耐水性を向上させていると考えられる。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、pHは、20℃におけるpHである。
【0008】
本発明の膜形成用材料は、たとえば以下の工程(1)〜(2)を行うことにより製造できる。
工程(1):酸化セルロースを含有するpHが2〜6の水性液(以下、酸化セルロース含有液ということがある。)を調製する工程。
工程(2):該酸化セルロース含有液を、対向衝突型高圧ホモジナイザーを用いて処理する工程。
以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0009】
[工程(1)]
酸化セルロースは、酸化処理により、セルロース分子中のグルコピラノース環の少なくとも一部にカルボキシ基が導入されたものである。酸化セルロースは、他のセルロース誘導体を用いる場合に比べて環境負荷が小さく、また、ナノファイバー化しやすい。すなわち、天然のセルロース原料(パルプ等)に含まれるセルロースは、ミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)により多束化しているが、カルボキシ基の導入によって該凝集力が弱くなり、ナノファイバー化しやすくなっている。
酸化セルロースのカルボキシ基量(酸化セルロース1g中に含まれるカルボキシキ基のモル量)は、0.1〜3.5mmol/gが好ましく、0.5〜2.5mmol/gがより好ましく、1.0〜2.0mmol/gがさらに好ましい。該カルボキシ基量が上記範囲の下限値以上であると、得られる水性分散液の粘性が低く、透明性も高い。また、該水性分散液を用いて形成される膜の透明性やガスバリア性も向上する。該カルボキシ基量が上記範囲の上限値以下であると、酸化セルロースの調整時の酸化処理工程を短縮できる。また、得られる水性分散液の粘性が低い。また、該水性分散液を用いて形成される膜の耐水性や耐熱性も向上する。
酸化セルロース含有液の調製に用いる酸化セルロースは、カルボキシ基が酸であるものであってもよく、塩型であるものであってもよい。いずれを用いても、塩型のものを用いても、酸化セルロース含有液とした際には、酸型リッチとなる。
【0010】
酸化セルロースとしては、特に、触媒として2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)等のN−オキシル化合物を用いた酸化処理(TEMPO酸化処理)により得られたものが好ましい。該TEMPO酸化処理を行うと、セルロース分子中の1級水酸基(グルコピラノース環の6位の炭素原子に結合した水酸基)の部分が高い選択性で酸化され、−CHOHがホルミル基を経てカルボキシ基に変換される。TEMPO酸化処理によれば、カルボキシ基を、酸化処理の程度に応じて均一かつ効率よく導入できる。また、TEMPO酸化処理は、他の酸化処理に比べて、セルロースの結晶性を損ないにくい。そのため、TEMPO酸化処理により得られる酸化セルロースのミクロフィブリルは、天然のセルロースが有する高い結晶構造(I型結晶構造)を保持しており、この高い結晶構造により高いガスバリア性が得られる。
【0011】
TEMPO酸化処理による酸化セルロースの製造は、たとえば、パルプ等のセルロース原料を、水中にて、N−オキシル化合物の存在下で酸化処理することにより実施できる。
このとき、N−オキシル化合物とともに、酸化剤を併用することが好ましい。酸化剤を併用する場合、反応系内においては、順次、N−オキシル化合物が酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩を生成し、該オキソアンモニウム塩により、セルロースが酸化される。かかる酸化処理によれば、温和な条件下でも酸化反応を円滑に進行し、カルボキシ基の導入効率が向上する。
また、N−オキシル化合物および酸化剤とともに、さらに、N−オキシル化合物以外の他の触媒として、臭化物およびヨウ化物から選ばれる少なくとも1種を併用してもよい。
【0012】
前記セルロース原料としては、セルロースを含むものであれば特に限定されず、たとえば各種木材パルプ、非木材パルプ、バクテリアセルロース、古紙パルプ、コットン、バロニアセルロース、ホヤセルロース等が挙げられる。また、市販されている各種セルロース粉末や微結晶セルロース粉末を使用できる。
【0013】
N−オキシル化合物としては、TEMPOのほか、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−フェノキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンジルピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アクリロイルオキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンゾイルオキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−シンナモイルオキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アセチルアミノピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アクリロイルアミノピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルアミノピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンゾイルアミノピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−シンナモイルアミノピペリジン−1−オキシル、4−プロピオニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、2,2,4,4−テトラメチルアゼチジン−1−オキシル、2,2−ジメチル−4,4−ジプロピルアゼチジン−1−オキシル、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−N−オキシル、2,2,5,5−テトラメチル−3−オキソピロリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アセトキシピペリジン−1−オキシル、ジtert−ブチルアミン−N−オキシル、ポリ[(6−[1,1,3,3−テトラメチルブチル]アミノ)−s−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ等が挙げられる。
N−オキシル化合物の使用量は、触媒としての量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理するセルロース原料の固形分に対して、0.1〜10質量%の範囲内であり、0.5〜5質量%が好ましい。
【0014】
酸化剤としては、臭素、塩素、ヨウ素等のハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できる。
酸化剤の使用量は、酸化処理するセルロース原料の固形分に対して、1〜100質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。
臭化物としては、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属塩が挙げられる。
ヨウ化物としては、ヨウ化ナトリウム等のヨウ化アルカリ金属塩が挙げられる。
臭化物およびヨウ化物から選ばれる触媒の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択することができ、特に限定されない。通常、酸化処理するセルロース原料の固形分に対して、0〜100質量%の範囲内であり、5〜50質量%が好ましい。
【0015】
TEMPO酸化の反応条件(温度、時間、pH等)は、特に限定されず、得ようとする酸化セルロースの所望のカルボキシ基量、平均繊維幅、平均繊維長、透過率、粘度等を考慮して適宜設定できる。
反応温度は、1級水酸基への酸化の選択性の向上、副反応の抑制等の点から、50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下がさらに好ましい。反応温度の下限は、特に限定されないが、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましい。
反応時間は、処理温度によっても異なるが、通常、0.5〜6時間の範囲内である。
反応中、反応系内のpHを、9〜11の範囲内に保つことが好ましい。該pHは、9.5〜10.5がより好ましい。該pHが11以上であるとセルロースが分解してしまい低分子化する恐れがあり、酸性領域であると次亜塩素酸が分解し、塩素が発生する恐れがある。
pHは、必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水、有機アルカリ等のアルカリを添加することにより調節できる。
反応は、反応系内にエタノール等のアルコールを添加することにより停止させることができる。
【0016】
酸化処理後、必要に応じて、得られた反応液に酸を添加して中和処理を行ってもよい。上記酸化処理後の反応液中に含まれる酸化セルロースはカルボキシ基が塩型となっているが、中和処理を行うことにより酸型とすることができる。
中和に用いる酸としては、酸化セルロース中の塩型のカルボキシキ基を酸型とし得るものであればよく、たとえば塩酸、硫酸等が挙げられるが安全性や入手のしやすさから塩酸が好ましい。
酸化処理後、または中和処理後、反応液は、そのまま酸化セルロース含有液の調製に用いてもよいが、該反応液中の触媒、不純物等を除去するために精製処理を行うことが好ましい。精製処理は、たとえば、ろ過等により酸化セルロースを回収し、水等の洗浄液で洗浄することにより実施できる。洗浄液としては、水系のものが好ましく用いられ、たとえば水、塩酸等が挙げられる。
また、該反応液、または精製処理した酸化セルロースに対し、乾燥処理を施してもよい。
【0017】
酸化セルロース含有液は、酸化セルロースを水性媒体で希釈し、必要に応じてpH調節を行うことにより調製できる。
水性媒体としては、水、または水と有機溶剤との混合溶剤が挙げられる。有機溶剤としては、水と均一に混和可能なものであればよく、たとえばエタノール等のアルコール、エーテル類、ケトン類等が挙げられ、これらのいずれか1種単独でも、2種以上の混合溶媒でもよい。水性媒体としては水が好ましい。
酸化セルロース含有液のpHは2〜6である。該pHが6を超えると、対向衝突型高圧ホモジナイザーを用いた物理的処理を行っても、得られる水性分散液の粘度が大幅に増大する。また、得られる膜形成用材料を用いて形成される膜の耐水性やガスバリア性も悪くなる。一方、該pHが2未満であると、加水分解するおそれがある。
該pHは、必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ;または塩酸、硫酸等の酸を添加することにより調節できる。
酸化セルロース含有液中、酸化セルロースの固形分濃度は、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。該固形分濃度が0.01質量%未満であると、例えば塗液として用いた際に固形分が少なすぎて充分な膜厚が得られにくい。10質量%超であると、分散液の粘度が非常に増加してしまうおそれがある。
酸化セルロース含有液は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化セルロースおよびpH調整に用いた成分以外の他の成分を含有してもよい。該他の成分としては、たとえば、界面活性剤、防腐剤、分散剤、消泡剤、サイズ剤、抗菌剤、可塑剤、カップリング剤、レベリング剤、潤滑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0018】
[工程(2)]
工程(2)では、上記のようにして調製された酸化セルロース含有液を、対向衝突型高圧ホモジナイザーを用いて処理(対向衝突処理)する。これにより、酸化セルロース含有液中の酸化セルロースをナノファイバー化するとともに水性媒体中に分散させて水性分散液とすることができる。
対向衝突型高圧ホモジナイザーは、高圧(たとえば50〜300MPa)で処理液を噴射可能な一対のノズルを備え、各ノズルから高圧で処理液を噴射させ、それらを互いに衝突させることができるようになっているものであり、従来、パルプの湿式粉砕等に用いられている。
対向衝突処理における処理圧力(各ノズルから噴射する際の圧力)は、50〜300MPaが好ましく、100〜250MPaがより好ましい。処理圧力が50MPa以下であると、圧力が足りず、分散しないおそれがある。
対向衝突処理における処理回数(酸化セルロース含有液を衝突させる回数。以下、「パス」ということがある。)は、1〜100パスが好ましく、3〜50パスがより好ましい。3パス未満であると、ナノファイバーが不均一な大きさになっている恐れがある。
これらの処理条件(処理圧力、処理回数、その他ノズル径、処理温度等)を調節することにより、得られるセルロースナノファイバーの平均繊維幅、平均繊維長さ、透過率、粘度等を調節できる。
【0019】
上記のようにして得られた水性分散液中には、前記酸化セルロースからなるセルロースナノファイバーが分散している。
本発明において、該セルロースナノファイバーの平均繊維幅は1〜100nmであることが好ましく、1〜50nmであることがより好ましい。
また、該セルロースナノファイバーの平均繊維長は 0.01〜10μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることがより好ましい。
該水性分散液中のセルロースナノファイバーの固形分濃度は、前記酸化セルロース含有液中の固形分濃度と同様である。
また、該水性分散液pHは、酸化セルロース含有液と同じかそれよりも若干低い値であり、6を超えることはない。
【0020】
該水性分散液は、そのまま、膜形成用材料として用いることができる。また、必要に応じて、酸化セルロース含有液に由来する成分以外の他の成分を配合してもよい。
該水性分散液に配合してよい他の成分としては、特に限定されず、当該膜形成用材料により形成する膜の用途等に応じて、公知の添加剤のなかから適宜選択できる。具体的には、アルコキシシラン等の有機金属化合物またはその加水分解物、カルボジイミド化合物、無機層状化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、シラノール化合物、オキソザリン化合物、アミン化合物等が挙げられる。
これらのうち、有機金属化合物またはその加水分解物を配合すると、セルロースナノファイバー表面のカルボキシ基と反応して複合化し、耐水性、耐湿性、ガスバリア性等が向上するため好ましい。また、カルボジイミド化合物を配合すると、カルボジイミド基がセルロースナノファイバー表面のカルボキシ基と反応することで、セルロースナノファイバー間を架橋し、より緻密な構造を構成することができ好ましい。これらの反応は、それぞれ、低pH条件下、たとえばpH4付近で良好に進行するため本発明の有用性が高い。
また、無機層状化合物を配合すると、耐水性、耐湿性、ガスバリア性等が向上し、好ましい。
【0021】
有機金属化合物としては、たとえば、一般式AM(OR)m−n[式中、Rはアルキル基であり、Aは水素原子または非加水分解性の有機基であり、Mは金属元素であり、mは該Mの金属元素の酸化数であり、nは0以上の整数であり、n<mである。]で表される化合物が挙げられる。かかる化合物は、水の存在下でM−ORの部分が加水分解し、M−OHを生じる。この−OHがセルロースナノファイバー表面のカルボキシ基と反応する。
式中、Rのアルキル基は、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましく、エチル基が特に好ましい。
m−nが2以上の整数である場合、式中の複数のRはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
Aにおける非加水分解性の有機基としては、特に限定されず、たとえばアルキル基、アリール基、該アルキル基またはアリール基に反応性官能基が結合したもの等が挙げられる。反応性官能基としては、一般的にシランカップリング剤にて、Si原子に結合する有機基が有する官能基として用いられているものと同様であってよい。具体例として、たとえばビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、塩素原子、イソシアネート基等が挙げられる。
Aとしては、反応性官能基が結合していてもよいアルキル基または水素原子が好ましい。該アルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
nが2以上の整数である場合、式中の複数のAはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
Mの金属元素としては、たとえばケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)等が挙げられる。これらの中でもSiが好ましい。
mはMの金属元素の酸化数であり、たとえばSiの場合は4である。
nは0または1が好ましい。
m−nは1以上の整数であり、2以上が好ましい。m−nの値の上限はmである。
有機金属化合物は、水性分散液に直接配合してもよく、予め加水分解してから配合してもよい。
【0022】
カルボジイミド化合物は、カルボジイミド基を有する化合物であり、たとえばN,N’−ジ−o−トルイルカルボジイミド、N,N’−ジフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ジオクチルデシルカルボジイミド、N−トリイル−N’−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,2−ジ−t−ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N’−フェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−トルイルカルボジイミド等が挙げられる。
【0023】
無機層状化合物とは、層状構造を有する結晶性の無機化合物をいい、無機層状化合物である限り、その種類、粒径、アスペクト比等は特に限定されず、使用目的等に応じて適宜選択することができる。
無機層状化合物として具体的には、たとえば、カオリナイト族、スメクタイト族、マイカ族等に代表される粘土鉱物が挙げられる。これらのうち、スメクタイト族の無機層状化合物として、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト等が挙げられる。これらの中でも、組成物中での分散安定性、組成物の塗工性等の点から、モンモリロナイトが好ましい。
無機層状化合物は、水性分散液に直接配合してもよく、予め水等の水性媒体に分散させてから配合してもよい。
【0024】
<シート>
本発明のシートは、上記膜形成用材料を用いて形成された膜を備えるものであり、セルロースナノファイバーを含有する。以下、該膜形成用材料を用いて形成された膜をナノファイバー膜ということがある。
該ナノファイバー膜は、支持体上に、上記膜形成用材料からなる塗膜を形成し、乾燥させることにより形成できる。
塗膜の形成方法は特に限定されず、コーティング法、キャスト法等の公知の方法が利用できる。コーティング法としては、グラビアコート法、グラビアリバースコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、マイクログラビアコート法、コンマコート法、エアナイフコート法、バーコート法、メイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、スプレーコート法等が挙げられ、いずれの方法を用いてもよい。
塗膜の乾燥条件は、塗膜中の水性媒体を除去できればよく、特に限定されないが、乾燥温度が高いほど、または乾燥時間が長いほど、高湿度下でのガスバリア性が良好となる傾向がある。かかる観点から、乾燥温度は、80℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。また、乾燥時間は、3分間以上が好ましく、10分間以上がより好ましい。
乾燥温度および乾燥時間の上限は、膜形成用材料中の固形分濃度や用いる水性媒体の種類、乾燥時間等を考慮して適宜設定すればよい。
ナノファイバー膜の厚さ(乾燥後の厚さ)は、0.1〜5μmが好ましく、0.1〜1μmがより好ましい。該厚さが5μm超であると屈曲性が劣り、0.1μm未満であると支持体(表面の凹凸)の影響を受け、ガスバリア性が低下するおそれがある。
【0025】
本発明のシートは、前記ナノファイバー膜のみから構成される単層シートであってもよく、さらに、該ナノファイバー膜以外の他の層(たとえば後述する基材)を有する多層シートであってもよい。
本発明のシートが前記ナノファイバー膜のみから構成される単層シートである場合、該シートは、上記のようにして支持体上に形成したナノファイバー膜を該支持体から剥離することにより得られる。
本発明のシートが、該ナノファイバー膜以外の他の層を有する多層シートである場合、該多層シートは、前記支持体として該他の層を用いて該他の層上に直接前記ナノファイバー膜を形成してもよく、また、上記のようにして作成した単層シートと、他のシートとを積層することにより作成してもよい。後者の場合、単層シートと他のシートとは、接着剤を用いて積層してもよく、直接積層してもよい。
【0026】
本発明のシートは、前記ナノファイバー膜に基材が積層されていることが好ましい。これにより、シート強度、ガスバリア性、成形性等が向上し、好ましい。
基材としては、特に限定されず、一般的に使用されている種々のシート状の基材(フィルム状のものを含む)のなかから、当該シートの用途に応じて適宜選択して使用することができる。このような基材の材質として、たとえば、紙、板紙、ポリ乳酸等の生分解性プラスチック、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド系樹脂(ナイロン−6、ナイロン−66等)、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、これらの高分子を構成するモノマーのいずれか2種以上の共重合体等が挙げられる。
該基材は、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤等の公知の添加剤を含有してもよい。
該基材は、表面に、コロナ処理、アンカーコート処理、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理等の表面処理が施されていてもよい。表面処理を施すことで、該表面に積層される層(たとえば前記ナノファイバー膜、後述する蒸着層等)との密着性が向上する。これらの表面処理は公知の方法により実施できる。
基材の厚さは、当該シートの用途等に応じて適宜設定できる。たとえば包装材料として用いられる場合、通常、10〜200μmの範囲内であり、10〜100μmが好ましい。
【0027】
前記基材の表面には、無機化合物からなる蒸着層が形成されていてもよい。これにより、ガスバリア性が向上する。
無機化合物としては、特に限定されず、従来、ガスバリア材等において蒸着膜を形成するために用いられているものが利用できる。具体例として、たとえば酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化スズ等の無機酸化物が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
無機化合物としては、特に、酸素ガスや水蒸気に対するバリア性に優れることから、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素から選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらの中でも、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素が好ましい。
蒸着層の厚さは、用いられる無機化合物の種類・構成により最適条件が異なるが、一般的には数nm〜500nmの範囲内、好ましくは5〜300nmの範囲内で、所望のガスバリア性等を考慮して適宜選択される。この蒸着層の厚さが薄すぎると蒸着膜の連続性が維持されず、反対に厚すぎると可撓性が低下し、クラックが発生しやすくなって、該蒸着層のガスバリア性が充分に発揮されないおそれがある。
蒸着層は、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ気相成長法(CVD法)等の公知の方法により形成できる。
基材上に蒸着層を形成する場合、該基材の蒸着層を形成する面に、前述したような表面処理を施すことが好ましい。この場合、該表面処理としては、アンカーコート処理が好ましい。
基材として、蒸着層が形成された市販のフィルムまたはシートを用いることもできる。
基材として、蒸着層が片面に形成されているものを用いる場合、前記ナノファイバー膜は、基材の蒸着層側に積層されてもよく、その反対側に積層されてもよい。印刷適性、屈曲性等の点から、蒸着層側が好ましい。
【0028】
本発明のシートは、さらに、熱溶着可能な熱可塑性樹脂層を有することが好ましい。かかるシートは、ヒートシールによる加工、密封等が可能であることから、包装材料として有用である。
熱溶着可能な熱可塑性樹脂層としては、たとえば、未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)等のポリプロピレンフィルム;低密度ポリエチレンフィルム(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(LLDPE)等のポリエチレンフィルム;等が挙げられる。
該熱可塑性樹脂層は、通常、接着剤層を介してナノファイバー膜上に積層される。
本発明のシートは、上記のほか、必要に応じて、印刷層、中間フィルム層等を設けてもよい。たとえば中間フィルム層を設けたシートの構成例として、基材/ナノファイバー膜/接着層/中間フィルム層/接着層/ヒートシール層との構成が挙げられる。
【0029】
本発明の製造方法においては、対向衝突型高圧ホモジナイザーを用いることで、pH2〜6の酸性領域でも酸化セルロースを良好にナノ分散させることができ、また、ナノ分散時の粘度上昇も抑制される。ナノ分散時の粘度上昇が抑制されるため、酸化セルロースの固形分濃度を高めても、充分に低粘度な分散液が得られる。たとえばコーティング法により膜を形成する場合、膜形成用材料には、B型粘度計を用い、20℃、60rpmで測定される粘度として、10〜3000mPa・sの範囲内の粘度を有することが求められる。たとえば高速ミキサーや通常の高圧ホモジナイザー、あるいはその組合せの場合、該粘度をこのような範囲内とするためには、固形分濃度は最大で3質量%程度であるが、本発明によれば、たとえば3質量%であってもこのような範囲内の粘度の水性分散液とすることができる。セルロースナノファイバーの固形分濃度の高い分散液が得られることは、厚い膜を形成する際に有用である。
また、従来、セルロースナノファイバーの水性分散液の調製に用いられている酸化セルロースは、静電的な反発力を高めてナノ分散させやすくするため、1.0〜2.0mmol/g程度のカルボキシ基が導入されているが、本発明によれば、カルボキシ基量が極めて少ない酸化セルロース、たとえばカルボキシ基量が0.5〜1.0 mmol/gのものを用いた場合でも、ナノ分散させることができる。
【0030】
また、酸化セルロースは、酸化処理工程後、ナノ分散処理工程を行う前に一旦乾燥状態にしてしまうと、角質化が進み、ナノ分散させて得られる分散液の透明性が低くなる問題がある。そのため、透明性の高い分散液を得るためには、酸化処理後、ナノ分散処理を行うまで湿潤状態のパルプを用いる必要があった。もしくは、水をアルコールなど溶媒で置換した後、乾燥させなければその後のナノ化で透明なものは得られなかった。しかし湿潤状態の酸化セルロースは経時劣化が著しく、冷蔵庫などの低温状態でも数ヶ月しか持たない、多量の水とともに保管することになって保管スペースのロス、運搬時のエネルギーロス等のデメリットがある。
これに対し、本発明の製造方法によれば、酸化処理後の乾燥処理の有無にかかわらず、透明性の高い分散液(たとえば波長600nmにおける透過率が80%以上の分散液)が得られ、また、該水性分散液を用いることで、同様の透明性を有する膜を形成できる。
また、酸化処理により酸化セルロースを調製した後、該酸化セルロース乾燥させて保存でき、長期保存も可能であるなど、製造プロセス上のメリットも大きい。
【0031】
そして上記のようにして得られる、セルロースナノファイバーが水性媒体中に分散したpH6以下の水性分散液からなる膜形成用材料によれば、水によって膨潤しにくい耐水性の高い膜を形成できる。そのため、該膜を備えたシートは、水や湿度による密着性やガスバリア性の低下が生じにくく、たとえば高湿度条件下においても優れたガスバリア性を発揮する。そのため、本発明のシートは、ガスバリア材として有用である。
これら粘度上昇抑制、耐水性向上等の効果は、上述したとおり、当該分散液中のセルロースナノファイバー表面のカルボキシ基が、塩型(−COO)よりも酸型(−COOH)がリッチになっていることによるものと考えられる。
また、本発明の膜形成用材料は、酸型リッチであることから、塩型リッチである場合に比べて、膜内でのセルロースナノファイバー間の水素結合が強く、耐熱性が高い。また、低pH下での反応性が高い他の材料(たとえばアルコキシシラン等の有機金属化合物やカルボジイミド化合物)を配合した場合、セルロースナノファイバーのカルボキシ基と良好に反応し、それらを配合したことによる効果が充分に発揮される。また、pHがアルカリ性である場合に比べて、材料中のNa等の金属イオンを低減できることから、金属イオンが望まれない用途(たとえば電子部材、セパレータ等)においても有用である。
また、該膜形成用材料を用いて形成される膜は、上述したように耐水性や透明性、耐熱性が高く、また、セルロースナノファイバーを主体として構成されるため環境負荷が小さい、強度(耐衝撃性、柔軟性等)や結晶性が高い、熱膨張しにくい等の利点を有する。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
なお、以下の各例において、pHは、自動滴定装置(平沼産業社製「自動滴定装置COM−1700」)を用い、20℃におけるpHを測定した。
【0033】
<製造例1:TEMPO酸化による酸化パルプの調製>
針葉樹クラフトパルプ30gを水600gに浸漬し、ミキサーにて分散させた。分散後のパルプスラリーにあらかじめ水200gに溶解させたTEMPOを0.3g、NaBrを3g添加し、更に水で希釈し全体を1400mLとした。系内を20℃に保ち、セルロース1gに対し10mmolになるよう次亜塩素酸ナトリウム水溶液を計りとり、pH10に調製した後、系内に添加した。滴下開始からpHは低下を始めたが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液で自動滴定装置を用いてpHを10に保った。滴下開始から2時間後、0.5N水酸化ナトリウムが2.5mmol/gになったところでエタノールを30g添加し、反応を停止させた。反応系に0.5N塩酸を添加し、pH2まで低下させた。酸化パルプをろ過し、0.01N塩酸または水で繰返し洗浄して酸化パルプを得た。
該酸化パルプのカルボキシ基量を以下の手順で測定したところ、1.6mmol/gであった。
[酸化パルプのカルボキシ基量の測定]
酸化パルプを固形分重量で0.1g量りとり、1質量%濃度で水に分散させ、塩酸を加えてpHを3とした。その後0.5N水酸化ナトリウム水溶液を用いて電導度滴定法によりカルボキシ基量(mmol/g)を求めた。
【0034】
<実施例1>
上記製造例1で得た酸化パルプ10gに990gの蒸留水を加えて分散させることにより、固形分濃度1質量%の分散液(以下、パルプ分散液という。)を調製した。該パルプ分散液のpHを測定したところ、4.95であった。
このパルプ分散液を、対向衝突型高圧ホモジナイザーを用い、処理圧力200MPaで20パス処理することにより、固形分濃度1質量%のセルロースナノファイバーの水性分散液(以下、ナノファイバー分散液という。)を得た。
得られたナノファイバー分散液を用いて以下の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0035】
[透過率の測定]
石英製のサンプルセルに気泡が混入しないようにナノファイバー分散液を入れ、光路長1cmにおける波長600nmの透過率(%)を分光光度計(日本分光社製「NRS−1000」)にて測定した。
【0036】
[粘度の測定]
ナノファイバー分散液の粘度(mPa・s)を、B型粘度計(リオン社製「ビスコテスターVT04S型」)を用い、20℃、60rpmで測定した。
【0037】
[酸素透過度の測定]
ナノファイバー分散液を、厚さ12μmの片面コロナ処理PETフィルム上に#20のワイヤーバーでコートし、120℃オーブンで充分乾燥させることにより、厚さ12.5μmの多層フィルムを作製した。
作製した多層フィルムの25℃−5%RH、25℃−70%RHそれぞれの雰囲気下における酸素透過度(cm/m・atm・day)を、モダンコントロール社製 MOCON OX−TRAN 2/21を用いて測定した。
【0038】
[膨潤性試験]
ナノファイバー分散液をポリスチレンプレート上にキャストし、120℃オーブンで充分乾燥させ、剥離することにより、厚さ1μmのフィルムを作製した。
作製したフィルムの質量M0(g)を測定し、その後、該フィルムを純水に1分間浸漬した。該フィルムを取り出し、その表面に付着した余分な水を吸い取った後、その質量M1(g)を測定した。
浸漬前の質量M0および浸漬後の質量M1から、以下の式により質量変化率X(%)を算出した。
質量変化率X(%)=(M1/M0)×100
【0039】
<実施例2>
上記実施例1において、パルプ分散液を調製する際に、0.5N塩酸を用いてpH調整を行い、パルプ分散液のpHを3とした以外は実施例1と同様にして、固形分濃度1質量%のナノファイバー分散液を得た。
得られたナノファイバー分散液を用いて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0040】
<実施例3>
上記実施例1において、パルプ分散液を調製する際に、0.5N水酸化ナトリウムを用いてpH調整を行い、パルプ分散液のpHを6とした以外は実施例1と同様にして、固形分濃度1質量%のナノファイバー分散液を得た。
得られたナノファイバー分散液を用いて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0041】
<実施例4>
上記実施例1において、パルプ分散液の固形分濃度を3質量%とした以外は実施例1と同様にして、固形分濃度3質量%のナノファイバー分散液を得た。
得られたナノファイバー分散液を用いて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0042】
<実施例5>
上記実施例1において、パルプを一度乾燥させ、その後再分散させた以外は実施例1と同様にして、固形分濃度1質量%のナノファイバー分散液を得た。
得られたナノファイバー分散液を用いて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0043】
<実施例6>
上記製造例1で得た酸化パルプ5gに995gの蒸留水を加えて分散させることにより、固形分濃度0.5質量%のパルプ分散液を調製した。該パルプ分散液のpHを測定したところ、5.03であった。
このパルプ分散液を、高圧ホモジナイザーを用い、処理圧力150MPaで20パス処理することにより、固形分濃度0.5質量%のナノファイバー分散液を得た。
得られたナノファイバー分散液を用いて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
<比較例1>
上記実施例3において、パルプ分散液のpHを10とした以外は実施例3と同様にして、固形分濃度1質量%のナノファイバー分散液を得た。
得られたナノファイバー分散液を用いて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
<比較例2>
上記実施例3において、パルプ分散液のpHを8とした以外は実施例3と同様にして、固形分濃度1質量%のナノファイバー分散液を得た。
得られたナノファイバー分散液を用いて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
上記結果に示すように、実施例1〜3および5で得たナノファイバー分散液は、比較例1〜2で得たナノファイバー分散液に比べて、固形分濃度が同じであるにもかかわらず、粘度が大幅に小さかった。また、これらのナノファイバー分散液を用いて形成したフィルムは質量変化率が小さく、水に膨潤しにくいものであった。また、酸素透過率が小さく、ガスバリア性に優れていた。特に、70%RH雰囲気下での酸素透過率は、比較例1〜2との差が顕著であり、これらの結果から、高湿度条件下における酸素ガスバリア性の高さが確認できた。
実施例4では、固形分濃度が3%と高いにもかかわらずナノファイバー分散液が調製できた。また、該ナノファイバー分散液は、固形分濃度が1%である比較例3〜4のナノファイバー分散液よりも高い透明性を有していた。また、該ナノファイバー分散液を用いて形成したフィルムの評価結果が良好で、特に酸素透過率は全実施例および比較例中で最も小さかった。
実施例5では、固形分濃度が0.5%ではあるが、対向衝突型高圧ホモジナイザー以外の高圧ホモジナイザーを用いて、比較例1〜4よりも低粘度のナノファイバー分散液を調整でき、そのフィルムは水に膨潤しにくいものであった。
一方、パルプ分散液のpHが10または8の比較例1〜2は、透明性は良好であったものの、他の評価結果は、同じ固形分濃度の実施例1〜3および5に比べて悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーが水性媒体中に分散した水性分散液からなる膜形成用材料であって、酸化セルロースを含有するpH2〜6の水性液を物理的処理することにより得られる膜形成用材料。
【請求項2】
前記物理的処理が、対向衝突型高圧ホモジナイザーを用いた処理である、請求項1に記載の膜形成用材料。
【請求項3】
前記酸化セルロースが、触媒としてN−オキシル化合物を用いた酸化処理により得られたものである、請求項1または2に記載の膜形成用材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の膜形成用材料を製造する方法であって、
酸化セルロースを含有するpH2〜6の水性液を、対向衝突型高圧ホモジナイザーを用いて処理する工程を有することを特徴とする製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の膜形成用材料を用いて形成された膜を備えるシート。
【請求項6】
前記膜に基材が積層されている、請求項5に記載のシート。
【請求項7】
ガスバリア材である、請求項5または6に記載のシート。

【公開番号】特開2011−202010(P2011−202010A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70193(P2010−70193)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】