説明

膜形成用材料の製造方法

【課題】金属酸化物膜を低温で形成でき、かつ異物特性も良好な膜形成用材料の製造方法を提供する。
【解決手段】イソシアネート基を2個以上有する金属化合物(W)が溶剤(S)に溶解してなる膜形成用材料の製造方法であって、前記金属化合物(W)を前記溶剤(S)に溶解して得られる溶液(R1)中のイソシアン酸を除去する工程と、前記イソシアン酸を除去した後、前記溶液(R1)を不活性ガス雰囲気下でろ過する工程とを有することを特徴とする膜形成用材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ(SiO)膜等の金属酸化物膜を形成できる膜形成用材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、SiO膜等のシリカ系被膜の形成には、化学気相成長法(以下、CVD法ということがある)、SOG(spin−on−glass)法等が用いられている。SOG法とは、一般的に、ケイ素化合物を有機溶剤に溶解した溶液(以下SOG溶液ということもある)を塗布し、加熱処理することによって、SiOを主成分とする膜(以下SOG被膜ということがある)を形成する方法である(たとえば特許文献1〜3参照)。
上記シリカ系被膜のような金属酸化物膜は、強度が高く、種々の用途への応用が期待される。
しかしながら、このような金属酸化物膜を形成しようとした場合、上述のように、非常に高い温度で加熱処理を行う必要があり、たとえばCVD法やSOG法の場合、400℃以上の高温で焼成し、緻密な金属酸化物膜とする必要がある。このような高温プロセスは、時間やコストがかかり、製造効率が悪い。
【0003】
近年、比較的低い温度で金属酸化物膜を形成できる方法として、ゾルゲル法が提案されている。ゾルゲル法は、加水分解により水酸基を生じ得る官能基を有する金属化合物を用いる方法であり、当該金属化合物を有機溶剤に溶解した溶液を用いて塗膜を形成し、該塗膜と水とを接触させると、塗膜中で、加水分解により生成した水酸基同士が脱水縮合して金属酸化物膜を形成する。たとえば特許文献4には、金属アルコキシド等の金属化合物を用いて金属酸化物膜を形成する方法が記載されている。
【特許文献1】特公平8−3074号公報
【特許文献2】特許第2739902号公報
【特許文献3】特許第3228714号公報
【特許文献4】特開2005−205584号公報
【特許文献5】特開2002−62667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のような金属化合物を有機溶剤に溶解した溶液(膜形成用材料)は、当該膜形成用材料中に微粒子状物等の固形物(異物)が生じる場合がある。本明細書では、便宜上、この様に溶液中に異物が存在することを異物特性と定義する。
かかる異物は、当該膜形成用材料を用いて形成される膜表面の平滑性、膜厚の均一性等を損なうおそれがあり、その改善が求められている。
【0005】
ところで、特開2002−62667号公報(特許文献5)には、ホトレジスト組成物をフィルタを通過させることにより、ラインを循環させるホトレジスト組成物中の微粒子の量を低減したホトレジスト組成物の製造方法が提案されている。
この特許文献5に記載の様に、ホトレジスト組成物の製造において、ホトレジスト組成物をフィルタを通過させることは知られているが、かかる方法を膜形成用材料の製造に用いても、異物特性を充分に改善するには至らず、逆に悪化することもある。
【0006】
よって、本発明は、金属酸化物膜を低温で形成でき、かつ異物特性も良好な膜形成用材料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、金属化合物として、イソシアネート基を有する金属化合物を用いる場合において、当該金属化合物の分解によりイソシアン酸が生じること、および当該イソシアン酸から生成する、溶剤に溶解しない化合物が異物の主な原因となっていること、ならびにイソシアン酸の生成やイソシアン酸からの上記化合物の生成が水により誘発され、特にろ過時にその影響が大きいことを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の膜形成用材料の製造方法は、イソシアネート基を2個以上有する金属化合物(W)が溶剤(S)に溶解してなる膜形成用材料の製造方法であって、
前記金属化合物(W)を前記溶剤(S)に溶解して得られる溶液(R1)中のイソシアン酸を除去する工程と、
前記イソシアン酸を除去した後、前記溶液(R1)を不活性ガス雰囲気下でろ過する工程とを有することを特徴とする。
【0008】
本明細書および特許請求の範囲において、「アルキル基」は、特に断りがない限り、直鎖状、分岐鎖状および環状の1価の飽和炭化水素基を包含するものとする。
また、「アルキレン基」は、特に断りがない限り、直鎖状、分岐鎖状および環状の2価の飽和炭化水素基を包含するものとする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属酸化物膜を低温で形成でき、かつ異物特性も良好な膜形成用材料の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の膜形成用材料の製造方法は、イソシアネート基を2個以上有する金属化合物(W)を溶剤(S)に溶解して得られる溶液(R1)中のイソシアン酸を除去する工程(以下、イソシアン酸除去工程ということがある。)と、
前記イソシアン酸を除去した後、前記溶液(R1)を不活性ガス雰囲気下でろ過する工程(以下、ろ過工程ということがある。)とを有する。
【0011】
本発明においては、溶液(R1)中のイソシアン酸を除去し、さらに溶液(R1)のろ過を行うことにより、異物特性を改善できる。かかる効果が得られる理由としては、以下の理由が考えられる。
すなわち、従来、ゾルゲル法に用いられる膜形成用材料は、単に、加水分解により水酸基を生成しうる官能基を有する金属化合物(金属アルコキシド等)を溶剤に溶解し、それをそのままろ過して使用することが一般的である。
しかし、イソシアネート基を2個以上有する金属化合物(W)を用いる場合、系内に水が存在していると、極めて多くの異物が確認される。本発明者らの検討によれば、その主な原因は、イソシアン酸の生成である。
イソシアネート基を2個以上有する金属化合物(W)は、水との反応性が高く、系内に水が存在していると、水と反応し、分解してイソシアン酸(HN=C=O)を生成する。たとえばテトライソシアネートシラン(Si(NCO))は、水と反応してシラノール(Si(NCO)−OH)とイソシアン酸に分解し、また、シラノールは構造上不安定ですぐさまSi(NCO)と反応し、シリコン系の重合体とイソシアン酸とを生成し、イソシアン酸が連鎖的に増加することとなる。
さらに、金属化合物(W)を溶剤に溶解して溶液を調製した後、大気中でろ過が行われると、溶液中の金属化合物と大気中の水分とが接触し、反応してイソシアン酸が生成することとなる。
イソシアン酸は、常温で無色の気体(融点約−80℃)であり、エーテル等の有機溶剤に可溶である。イソシアン酸は、シアン酸の互変異性体であり、通常、容易にシアン酸(HO−C≡N)に変化して互変異性混合物として存在する。
イソシアン酸は、通常、複数の分子が自然に重合して、有機溶剤に溶解しないか、ほとんど溶解しないシアメリド、シアヌル酸、イソシアヌル酸等の環状化合物となり、これらの環状化合物が溶液中で析出し、異物特性を悪化させていたと推測される。
本発明においては、溶液(R1)中のイソシアン酸を除去することにより溶液(R1)中に存在する異物の原因が低減され、かつ当該溶液(R1)のろ過を不活性ガス雰囲気下で行うことにより、イソシアン酸の生成や、イソシアヌル酸等の環状化合物の生成を抑制でき、これによって異物特性を向上できると考えられる。
【0012】
以下、各工程についてより詳細に説明する。
<イソシアン酸除去工程>
本明細書および特許請求の範囲において、「イソシアン酸の除去」とは、溶液(R1)中のイソシアン酸の濃度を低減することを意味し、たとえば、イソシアン酸そのものを直接除去すること、イソシアン酸を溶剤(S)に不溶の化合物(たとえば上述したシアメリド、シアヌル酸、イソシアヌル酸等の環状化合物)に変化させ、間接的にイソシアン酸の濃度を低下させること等が含まれる。
本発明において好ましく用いられる除去方法としては、下記方法(1)、(2)等が挙げられる。
方法(1):溶液(R1)を、減圧下で脱気処理する方法。
方法(2):溶液(R1)を、常圧下で静置する方法。
【0013】
方法(1)は、溶液(R1)中のイソシアン酸を直接除去しようとする場合に好ましく用いられる。イソシアン酸および/またはシアン酸は、常温で気体であることから、減圧下で脱気処理することにより溶液(R1)中から除去できる。
脱気処理時の圧力は、常圧(大気圧(1atm))よりも低い圧力であり、かつ溶剤(S)が揮発しない程度の圧力に設定することが好ましい。、
脱気処理時の温度は、金属化合物(W)の安定性等を考慮すると、10℃以下が好ましく、0℃以下がより好ましい。下限値は、特に制限はないが、イソシアン酸の除去効率等を考慮すると、−5℃以上が好ましい。
処理時間は、使用する溶剤(S)の種類、脱気処理の圧力、温度等を考慮して適宜決定すればよい。通常、1〜10時間が好ましく、2〜8時間がより好ましい。
脱気処理は、たとえば、エバポレーター等の減圧機能を備えた装置等を用いて行うことができる。
【0014】
方法(2)は、溶液(R1)中のイソシアン酸を間接的に除去しようとする場合に好ましく用いられる。
すなわち、溶液(R1)を常圧下で静置することにより、溶液(R1)中のイソシアン酸を意図的にイソシアヌル酸等の環状化合物に変化させ、異物として析出させることにより、溶液(R1)中のイソシアン酸自体の量が低減される。
析出した異物は、この後のろ過工程で除去することができる。
また、ろ過工程を行う前に、別途、溶液(R1)のろ過を行って異物を除去してもよい。別途、溶液(R1)のろ過を行う場合、当該ろ過は、大気中で行っても、後述するろ過工程と同様、不活性ガス雰囲気下で行ってもよいが、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
静置時の温度は、イソシアヌル酸等の環状化合物の生成効率等を考慮すると、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。上限値は、特に制限はないが、金属化合物(W)の安定性等を考慮すると、35℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。最も好ましくは室温(約25℃)である。
静置は、大気下で行ってもよいが、本発明の効果に優れることから、溶液(R1)の静置は、後述するろ過工程と同様、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
静置時間は、使用する溶剤(S)の種類、上記脱気処理の有無、静置温度等を考慮して適宜決定すればよい。
たとえば、脱気処理を行う場合は、通常、10〜24時間が好ましい。脱気処理を行わない場合は、通常、2〜14日が好ましく、5〜14日がより好ましく、7〜14日が最も好ましい。
【0015】
方法(1)および(2)は、いずれか一方を単独で行ってもよく、両方を行ってもよい。本発明においては、少なくとも、方法(2)の静置を行うことが好ましく、方法(1)および(2)を両方行うことが最も好ましい。
【0016】
<ろ過工程>
次に、イソシアン酸を除去した後の前記溶液(R1)を不活性ガス雰囲気下でろ過するろ過工程を行う。
ここで、本明細書および特許請求の範囲において、「ろ過」という用語には、通常使用される化学的な「ろ過」(「多孔質性物質の膜や相を用いて流動体の相[気体もしくは液体]だけを透過させ、半固相もしくは固体を流動体の相から分離すること」化学大事典9昭和37年7月31日発行 共立出版株式会社)の意味に加えて、単に多孔質の膜を通過させる場合も含まれる。つまり、ろ過によって、流動体の相から、視覚的に確認できるもの(半固相もしくは固体)が分離される場合と、流動体の相から分離されるものが視覚的に確認できない場合とが含まれる。
【0017】
本発明においては、ろ過工程を、不活性ガス雰囲気下で行う。これにより、異物の発生を抑制でき、異物特性が良好となる。
上述したように、イソシアネート基が水と反応することによりイソシアン酸が生成し、これが異物の原因となる。そのため、ろ過を、水分を含まない不活性ガス雰囲気下で行うことにより、ろ過時におけるイソシアン酸の生成を抑制でき、結果、異物の析出を抑制できる。
不活性ガスとしては、たとえば、窒素ガス、アルゴンガス等、およびこれらの混合物などが使用できる。
【0018】
ろ過を行う際の温度(溶液(R1)の温度)は、35℃以下が好ましく、10〜30℃がより好ましく、15〜25℃がさらに好ましい。35℃以下であると、金属化合物(W)の安定性が良好で、異物特性がさらに向上する。
【0019】
溶液(R1)のろ過は、たとえば、当該溶液(R1)を、多孔質の膜を備えたフィルタを通過させることにより行うことができる。
ここで、本発明において、「フィルタ」とは、少なくとも多孔質の膜と、該膜を支持する支持部材とを備えたものである。かかるフィルタとしては、たとえば日本ポール株式会社、アドバンテック東洋社、マイクロリス社、キッツ社などのフィルタメーカーから、超純水、高純度薬液、ファインケミカル等をろ過するためのものとして種々の材質、孔径のものが製造または販売されている。本発明においては、フィルタの形態は、膜を備えていれば特に限定されず、一般的に用いられているもの、例えばいわゆるディスクタイプ、カートリッジタイプ等の、容器内に膜が収納されたもの等が使用できる。
【0020】
膜の材質は、特に制限はなく、一般に市販されているものが使用でき、具体的には、ナイロン製の膜、ポリエチレン製の膜、ポリプロピレン製の膜、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂製の膜等が挙げられる。これらの膜は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
ろ過工程においては、特に、ナイロン製の膜を備えたフィルタ(以下、フィルタ(f1)ということがある。)を用いることが好ましい。フィルタ(f1)を用いることにより、異物の低減効果が向上する。
フィルタ(f1)としては、特に制限はなく、一般に市販されているナイロン製の膜を備えたフィルタ、たとえばナイロン6製の膜を備えたフィルタ、ナイロン66製の膜を備えたフィルタ等が使用できる。
【0022】
フィルタ(f1)に用いるナイロン製の膜の孔径は、フィルタのメーカーの公称値にて好ましい範囲を規定することができる。該好ましい範囲は、ろ過部の組合せ(フィルタの形態、膜の種類、膜を通過させる回数等の組合せ)によって、生産性と本発明の効果の観点から適宜調整される。
効果の点では、フィルタ(f1)におけるナイロン製の膜は、膜の孔径が0.2μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以下、さらに好ましくは0.04μm以下である。ただし、あまり小さくなりすぎると生産性(膜形成用材料の製造や塗布のスループット)は低下する傾向があるため、下限値は0.01μm程度であることが好ましく、より好ましくは0.02μm以上である。
そして、異物の改善等の効果と生産性とを考慮すると、フィルタ(f1)に用いる膜の孔径は、0.01μm〜0.1μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.02〜0.1μm、さらに好ましくは0.02〜0.04μmである。効果と生産性の両立の点から0.04μm程度が最も好ましい。
【0023】
フィルタ(f1)の表面積(ろ過面積)、ろ過圧[耐差圧]、フィルタ(f1)を通過させる溶液(R1)の流速は、溶液(R1)の処理量等によって適宜調整することが好ましく、特に限定されるものではない。
【0024】
本発明おいては、さらに、フィルタ(f1)を通過させる前および/または後に、さらに、前記溶液(R1)を、ポリエチレンまたはポリプロピレン製の膜を備えたフィルタ(以下、フィルタ(f2)ということがある。)を通過させることが、本発明の効果がさらに向上するため好ましい。特に、フィルタ(f1)を通過させた後、フィルタ(f2)を通過させることが、本発明の効果がさらに良好となるため好ましい。
【0025】
フィルタ(f2)としては、ポリエチレンまたはポリプロピレン製の膜を備えたものであれば特に限定されず、従来、レジスト組成物等のろ過用途等に用いられているものが使用できる。ここで、ポリプロピレン製の膜には、通常のポリプロピレン製の膜に加えて、高密度ポリプロピレン(HDPE)製の膜や超高分子量ポリプロピレン(UPE)製の膜も含まれる。
具体的には、ポリエチレン製のフィルタとしては、「マクロガードUPEフィルタ」(製品名、マイクロリス社製)、「ユニポアポリフィックス」(製品名、キッツ社製)等が挙げられる。
ポリプロピレン製のフィルタとしては、「ポリフィックス」(製品名、キッツ社製)等が挙げられる。
【0026】
フィルタ(f2)に用いる膜の孔径は、フィルタのメーカーの公称値にて好ましい範囲を規定することができる。該好ましい範囲は、ろ過部の組合せ(フィルタの形態、膜の種類、膜を通過させる回数等の組合せ)によって、生産性と本発明の効果の観点から適宜調整される。
効果の点では、フィルタ(f2)としては、膜の孔径が0.2μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以下、さらに好ましくは0.04μm以下である。
ただし、あまり小さくなりすぎると生産性(膜形成用材料の製造や塗布のスループット)は低下する傾向があるため、下限値は0.01μm程度であることが好ましく、より好ましくは0.02μm以上である。そして、異物の改善等の効果と生産性とを考慮すると、フィルタ(f2)に用いる膜の孔径は、0.01μm〜0.1μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.04μmである。効果と生産性の両立の点から0.02μm程度が最も好ましい。
【0027】
フィルタ(f2)の表面積(ろ過面積)、ろ過圧[耐差圧]、フィルタ(f2)を通過させる溶液(R1)の流速は、溶液(R1)の処理量等によって適宜調整することが好ましく、特に限定されるものではない。
【0028】
本発明においては、さらに、フィルタ(f1)を通過させる前および/または後に、前記溶液(R1)を、フィルタ(f1)およびフィルタ(f2)以外のフィルタ(f3)を通過させてもよい。
フィルタ(f3)としては、一般的に用いられている、ナイロン、ポリエチレンおよびポリプロピレン以外の材料からなる膜を備えたフィルタが使用でき、特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂製の膜を備えたフィルタが好ましい。
フッ素樹脂製の膜を備えたフィルタとして、具体的には、PTFE製の「エンフロン」(製品名、日本ポール株式会社製、平膜タイプ、孔径0.05μm)、PTFE製の「フロロライン」(製品名、マイクロリス社製、平膜タイプ、孔径0.03μm)等を挙げることができる。
【0029】
フィルタ(f3)に用いる膜の孔径は、フィルタのメーカーの公称値にて好ましい範囲を規定することができる。該好ましい範囲は、ろ過部の組合せ(フィルタの形態、膜の種類、膜を通過させる回数等の組合せ)によって、生産性と本発明の効果の観点から適宜調整される。
効果の点では、フィルタ(f3)は、膜の孔径が0.2μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以下、さらに好ましくは0.05μm以下である。
ただし、あまり小さくなりすぎると生産性(膜形成用材料の製造や塗布のスループット)は低下する傾向があるため、下限値は0.01μm程度であることが好ましく、より好ましくは0.02μm以上である。そして、異物の改善等の効果と生産性とを考慮すると、フィルタ(f3)に用いる膜の孔径は、0.01μm〜0.1μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.02〜0.1μm、さらに好ましくは0.02〜0.06μmである。効果と生産性の両立の点から0.05μm程度が最も好ましい。
【0030】
フィルタ(f3)の表面積(ろ過面積)、ろ過圧[耐差圧]、フィルタ(f3)を通過させる溶液(R1)の流速は、溶液(R1)の処理量等によって適宜調整することが好ましく、特に限定されるものではない。
【0031】
以下、本発明の膜形成用材料の一実施形態を説明する。まず、図1に、本実施形態において好適に使用されるろ過装置の一例を示す。
このろ過装置11は、第一のフィルタを備えた第一のろ過部12と、第二のフィルタを備えた第二のろ過部13とを備える。
また、ろ過装置11は、溶液(R1)を貯留する母液貯留槽14と、第二のろ過部13を通過した溶液(R1)を貯留するろ液貯留槽15とを備えており、母液貯留槽14と第一のろ過部12との間、第一のろ過部12と第二のろ過部13との間、第二のろ過部13とろ液貯留槽15との間は、それぞれ、流路21、22、23により連絡されている。
【0032】
母液貯留槽14には、加圧用配管31が接続されており、当該加圧用配管31を通じて窒素ガス(N)等の不活性ガスを供給し、母液貯留槽14内の溶液(R1)を加圧することにより、当該溶液(R1)を、母液貯留槽14からろ液貯留槽15まで送液することができるようになっている。
また、ろ液貯留槽15には、ろ液貯留槽15に不活性ガスを導入するための配管32と、当該ろ液貯留槽15内の過剰な不活性ガスを装置外に排出するための配管33とが接続されている。
【0033】
かかるろ過装置11を用いる場合、ろ過工程は、たとえば以下のようにして行うことができる。
まず、加圧用配管31および配管32から不活性ガスを供給して母液貯留槽14内およびろ液貯留槽15内に不活性ガスを充填する。具体的には、たとえば、母液貯留槽14およびろ液貯留槽15の開口部を、それぞれ、図1に示す流路21,23、加圧用配管31および配管32,33が接続された加圧キャップ14aおよび15aで塞ぎ、加圧用配管31および配管32から不活性ガスを供給することにより、母液貯留槽14内およびろ液貯留槽15内の気相を不活性ガスで置換できる。
次に、母液貯留槽14内にイソシアン酸除去後の溶液(R1)を入れ、加圧用配管31から不活性ガスを供給し、加圧する。これにより、当該溶液(R1)が、第一のろ過部12に供給され、第一のろ過部12内に備えられた第一のフィルタを通過してろ過され、引き続き、第二のろ過部13に供給され、第二のろ過部13内に備えられた第二のフィルタを通過してろ過される。第二のフィルタを通過したろ液はろ液貯留槽15に回収される。
このとき、ろ液貯留槽15内の過剰の不活性ガスは、配管33から装置外に排出される。
【0034】
ろ液貯留槽15に回収されたろ液(膜形成用材料)は、そのまま、または他の容器に収容して製品としても良く、また、そのまま塗布装置に供給して膜形成に用いてもよい。
【0035】
上記ろ過を行う前に、予め、ろ過装置11内に洗浄用の溶剤を流し、第一のフィルタおよび第二のフィルタを洗浄しておくことが好ましい。
洗浄用の溶剤としては、溶液(R1)に用いる溶剤(S)として挙げたものと同様のものが好ましく、特に、ろ過処理する溶剤(R1)に用いられている溶剤(S)と同じ溶剤を用いることが好ましい。
【0036】
本発明において、溶液(R1)をろ過する回数(フィルタを通過させる回数)、フィルタの種類等は特に限定されず、目的に応じて適宜調整可能である。
上記実施形態においては、第一のフィルタおよび第二のフィルタの少なくとも一方が、ナイロン製の膜を備えたフィルタ(f1)であることが好ましい。
このとき、第一のフィルタとしてフィルタ(f1)を用い、その後、第二のフィルタとしてフィルタ(f2)を用いてろ過工程を行ってもよく、また、第二のフィルタとしてフィルタ(f1)を用い、その前に、第一のフィルタとして、フィルタ(f2)を用いてろ過工程を行ってもよい。
また、第一のフィルタおよび第二のフィルタの両方がフィルタ(f1)であってもよい。この場合、フィルタ(f1)を2回以上容易に通過させることができる。
【0037】
上記実施形態においては、ろ過を2回行う工程を示したが、本発明はこれに限定されず、たとえば母液貯留槽14から溶液(R1)を直接第二のろ過部13に供給することにより、ろ過を1回のみ行うことができる。また、いずれか一方のろ過部のみフィルタを配置し、他方のろ過部にはフィルタを配置しないことによっても、上記と同様に、ろ過を1回のみ行うことができる。
また、常法によって、被処理液(溶液(R1))を第一のろ過部12および/または第二のろ過部13に供給した後、得られたろ液を、再度同じろ過部に供給する循環ろ過の装置構成を採用すると、溶液(R1)を、同じフィルタを複数回通過させることが容易にできる。
【0038】
ろ過装置としては、図1に示す実施形態に限定されず、溶液(R1)用の流路上にフィルタを備えているものであれば、種々の形態のものを採用することができる。たとえば、図1に示すろ過装置11の第二のろ過部13の下流側に第三のろ過部が設けられているものを用いることができる。
【0039】
本発明の製造方法においては、例えば、スピンナーなどの塗布装置と、フィルタを備えたろ過装置とが搭載された多機能塗布装置も使用できる。この場合、同じ装置内で、膜形成用材料の製造に引き続いて、製造した膜形成用材料を塗布して膜を形成する工程を行うことができる。
多機能塗布装置において、ろ過手段とともに搭載される塗布装置としては、特に限定されず、スピンナー等の塗布のみの機能を備えた装置のみならず、塗布及び現像装置の様に、現像装置等の他の装置と一体化された塗布装置も使用できる。
この様な塗布装置は、通常、ノズル等を備える塗布部を有しており、当該塗布部において、ノズルからウェーハ(基板)上に膜形成用材料が供給され、ウェーハ上に塗布される仕組みとなっている。
よって、本発明に用いられる多機能塗布装置としては、このノズルからウェーハ上に供給される前に、膜形成用材料がろ過装置の膜を通過する様に、上記塗布装置の上流側にろ過装置が組み込まれたものが好ましい。これにより、膜形成用材料物がウェーハ上に供給される前に、この膜形成用材料中の異物の原因となる様なものが除去される。
なお、この様に塗布装置を構成する場合、フィルタは多機能塗布装置に着脱可能とされていることが好ましい。すなわち、ろ過装置を搭載した多機能塗布装置において、フィルタのみを取り外して取り替えることが可能な態様とされていることが好ましい。
【0040】
[上記膜形成用材料の製造方法に用いられる材料]
上記膜形成用材料の製造方法には、少なくとも、イソシアネート基を2個以上有する金属化合物(W)と、当該金属化合物(W)を溶解する溶剤(S)とを含有する溶液(R1)が用いられる。
【0041】
[金属化合物(W)]
金属化合物(W)は、イソシアネート基を2個以上有する。
イソシアネート基は、加水分解により水酸基を生成する。そのため、金属化合物(W)を含有する膜形成用材料をパターン表面に塗布すると、または塗布後さらに水、好ましくは脱イオン水を塗布すると、低温(たとえば室温程度)であっても、金属化合物(W)のイソシアネート基が大気中の水分や塗布した水と反応し、加水分解して水酸基を生成する。そして、生成した水酸基同士が脱水縮合し、複数の金属化合物(W)分子同士が結合して、膜密度の高い緻密な金属酸化物膜が形成される。
したがって、金属化合物(W)を含有する膜形成用材料により、高活性で、加熱処理を特に行わずとも簡便に、金属酸化物膜を形成することができる。
そのため、たとえば当該膜形成用材料を、後述するパターン形成方法において、基板上に形成されたパターン(レジストパターン等)を被覆するために用いた場合に、室温程度の低温条件であっても、表面が金属酸化物膜で被覆されたパターン(被覆パターン)が得られ、低温で被覆可能であることから、被覆されるパターンの形状を損うこともない。また、このようにして形成される金属酸化物膜は、耐エッチング性に優れているため、形成された被覆パターンは、基板や、基板と被覆パターンとの間に有機膜が設けられている場合は当該有機膜をエッチングするためのマスクとして有用であり、また、基板をエッチングするためのマスクとしても有用である。
さらに、当該膜形成用材料がパターン上に塗布されて金属酸化物膜が形成される場合に、パターン表面に、金属化合物(W)と反応する官能基(以下、単に反応基と記載することがある。)が存在すると、金属化合物(W)が当該反応基と反応(脱水縮合、吸着等)して、パターン表面に強固に密着した金属酸化物膜が形成される。
【0042】
ここで、「金属化合物(W)と反応する官能基」とは、イソシアネート基および/またはイソシアネート基の加水分解により生成する水酸基と反応して化学的な結合を形成する基を意味する。
金属化合物(W)と反応する官能基(反応基)としては、たとえばビニル基等の炭素−炭素二重結合を有する基や、水酸基、カルボキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0043】
金属化合物(W)において、イソシアネート基は、金属原子に直接結合していることが望ましい。
イソシアネート基の数は、金属原子1個あたり、2個以上であることが好ましく、2〜4個であることが好ましく、特には4個であることが望ましい。金属原子1個あたりのイソシアネート基の数が2個以上であると、イソシアネート基の加水分解によって生成した水酸基どうしが脱水縮合し、複数の金属化合物(W)分子同士が連続的に結合して強固な金属酸化物膜が形成される。
【0044】
本発明において、金属化合物(W)を構成する金属には、通常の金属の他に、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、アンチモン、セレン、テルル等も含まれるものとする。
金属化合物(W)を構成する金属として、好適なものとしては、例えばチタン、ジルコニウム、アルミニウム、ニオブ、ケイ素、ホウ素、ランタニド、イットリウム、バリウム、コバルト、鉄、ジルコニウム、タンタル等の金属原子が挙げられ、チタン、ケイ素が好ましく、特にケイ素が好ましい。
また、金属化合物(W)中の金属原子の数は、1であっても2以上であってもよく、好ましくは1である。
【0045】
金属化合物(W)は、イソシアネート基および金属原子以外の他の原子および/または基を有していてもよい。
金属化合物(W)が有していてもよい他の原子としては、たとえば水素原子が挙げられる。
金属化合物(W)が有していてもよい他の基としては、例えばアルキル基(好ましくは炭素数1〜5の低級アルキル基)等が挙げられ、エチル基、メチル基が好ましい。
【0046】
金属化合物(W)としては、特に、下記一般式(w−1)で表される化合物が好ましい。
M(NCO)・・・(w−1)
式(w−1)中、Mは金属原子であり、aは2〜4の整数である。
Mの金属原子としては、上記「金属化合物(W)を構成する金属」として例示したものと同様のものが挙げられる。
一般式(w−1)で表される化合物として、具体的には、テトライソシアネートシラン(Si(NCO))、チタンテトライソシアネート(Ti(NCO))、ジルコニウムテトライソシアネート(Zr(NCO))、アルミニウムトリイソシアネート(Al(NCO))等が挙げられる。
【0047】
金属化合物(W)としては、特に、高活性で、加熱処理を特に行わずとも簡便に、耐エッチング性の高い金属酸化物膜を形成することができることから、イソシアネート基を2個以上有するケイ素化合物が好ましく、特に、イソシアネート基を2〜4個有するケイ素化合物が好ましい。
該ケイ素化合物の1分子中のケイ素原子の数は、1であっても2以上であってもよく、好ましくは1である。中でも、下記一般式(w−2)で表される化合物が好ましい。
Si(NCO)・・・(w−2)
式(w−2)中、bは2〜4の整数であり、4であることが好ましい。
【0048】
金属化合物(W)は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0049】
[溶剤(S)]
溶剤(S)としては、前記金属化合物(W)を溶解するものが用いられる。
本発明において、溶剤(S)は、本発明の効果に優れることから、前記金属化合物(W)と反応する官能基を有さない溶剤(S1)を含有することが好ましい。溶剤(S1)がかかる官能基を有さないものであると、金属化合物(W)が溶剤(S)中において安定に存在するため、得られる膜形成用材料の膜形成能が向上する。
溶剤(S1)としては、金属化合物(W)と反応する官能基を有さず、かつ使用する金属化合物(W)を溶解できるものであればよく、従来公知の有機溶剤から選択して用いることができる。
金属化合物(W)と反応する官能基としては、上記金属化合物(W)の項で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0050】
本発明において、溶剤(S)は、前記金属素化合物(W)を溶解する前、すなわち溶液(R1)を調製する前に、予め脱水処理されたものであることが好ましい。かかる溶剤を用いることにより、本発明の効果がさらに向上する。すなわち、上述したように、イソシアン酸の生成には水が関与する。そのため、溶剤(S)中の水を予め除去しておくことにより、溶液(R1)調製時におけるイソシアン酸の発生を抑制でき、異物特性がさらに向上する。
脱水処理された溶剤は、溶液(R1)を調製する前に、使用する溶剤の脱水処理を行って調製してもよく、市販のものを用いてもよい。特に、溶液(R1)を調製する直前(たとえば12時間以内)に脱水処理を行ったものが好ましい。
溶剤の脱水処理は、公知の方法により行うことができ、たとえば、当該溶剤を、50〜100℃程度の温度でエバポレートする方法等が挙げられる。
脱水処理された溶剤中の含水率は、少ないほど好ましく、5ppm以下が好ましく、3ppm以下がより好ましく、最も好ましくは1ppm以下である。
溶剤中の含水率は、(株)ダイアインスツルメンツ社製の水分測定装置CA−100等の市販の水分測定装置等により測定できる。
【0051】
本発明において、溶剤(S1)は、沸点が155℃以上であることが好ましく、160℃以上がより好ましく、165℃以上がさらに好ましい。かかる溶剤を用いることにより、被覆選択性が良好となり、たとえば当該膜形成用材料を、後述するパターン形成方法において、基板と有機膜とを備えた積層体の前記有機膜上に形成されたパターン(レジストパターン等)を被覆するために用いる場合等において、パターン表面を選択的に被覆できる。また、パターン表面を選択的に被覆できるため、非パターン部分の下部の基板や該基板上に形成された有機BARCなどの有機膜(以下、これらをまとめて「非パターン部基板等」ということがある)に対するエッチング選択比も良好となる。
また、沸点の上限は、特に制限はないが、塗布性等を考慮すると、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。
【0052】
ここで、本明細書において、「エッチング選択比」とは、金属酸化物膜で被覆されたパターン(被覆パターン)をマスクとして非パターン部基板等のエッチングを行う際の、被覆パターンと非パターン部基板等との間の見かけ上のエッチング速度の差を意味する。
通常、パターン表面に膜形成用材料を塗布した場合、特に基板上に有機BARCなどの有機膜が設けられている場合、被覆選択性が低く、非パターン部基板等の表面も金属酸化物膜で被覆されてしまう。そのため、金属酸化物膜で被覆されたパターン(被覆パターン)をマスクとしてエッチングを行う際に、金属酸化物膜によって非パターン部基板等のエッチングが阻害され、見かけ上、被覆パターンと非パターン部基板等との間で充分なエッチング選択比が得られないという問題がある。
しかし、上記のような溶剤(S1)を用いることにより、被覆選択性が良好となり、非パターン部分に対するエッチング選択比が良好となる。これは、パターン上に当該溶剤(S1)を含む膜形成用材料を塗布した後、金属化合物(W)が加水分解して膜になるまでの間に溶剤(S1)がほとんど揮発することなく残っているためと推測される。すなわち、基板の上に形成されたパターンをマスクとしてエッチングをするプロセスにおいて、パターン上に膜形成用材料を塗布して塗膜を形成した後、該塗膜中の溶剤が、金属化合物(W)が加水分解して膜になる前に揮発してしまうと、金属化合物(W)が、パターン表面だけでなく、非パターン部基板等の表面にも物理的に吸着して金属酸化物膜が形成され、見かけ上のエッチング選択比を低下させるおそれがある。これに対し、沸点が155℃以上の溶剤を含有することにより、溶剤(S)の揮発が抑制され、これらの問題が改善されると推測される。
特に、後述するように、膜形成用材料の塗布後、表面の洗浄(リンス処理)を行うと、非パターン部基板等に対するエッチング選択比がさらに向上する。これは、洗浄を行うまでの間、溶剤(S)がほとんど揮発することなく残っているため、化学的吸着等により比較的強く付着しているパターン表面の金属化合物(W)は洗浄してもそのまま残るが、物理的吸着等により比較的弱く付着している非パターン部基板等表面の金属化合物(W)は洗浄により除去され、結果、非パターン部基板等の表面には金属酸化物膜がほとんど形成されないためと推測される。
【0053】
ここで、本明細書における「化学的吸着」とは、レジストパターン等のパターン表面に存在する、金属化合物(W)と反応する官能基(好ましくは水酸基またはカルボキシ基)と、金属化合物(W)との間に化学結合(共有結合、水素結合、配位結合等)または静電気による結合(イオン結合等)が形成されて、パターン表面に、金属化合物(W)やその金属イオンが結合している状態を意味する。
また、「物理的吸着」とは、ファン・デル・ワールス力などの弱い分子間力により、パターンや下層膜の表面に、金属化合物(W)やその金属イオンが結合している状態を意味する。
【0054】
溶剤(S1)は、本発明の効果に優れることから、脂肪族化合物であることが好ましい。
脂肪族化合物としては、その構造中に環を含まない鎖式化合物であってもよく、また、その構造中に環を有する環式化合物であってもよく、環式化合物が好ましい。また、環式化合物は、炭化水素であることが好ましく、特に飽和の炭化水素であることが好ましい。このような環式化合物としては、例えば、モノシクロアルカンや、ビシクロアルカン、トリシクロアルカン、テトラシクロアルカン等のポリシクロアルカン、これらの環にアルキル基等の置換基が結合した化合物などを例示できる。
鎖式化合物としては、たとえば、n−ヘキサン(沸点約69℃)、n−ヘプタン(沸点約98℃)等が挙げられる。
環式化合物としては、たとえば、後述する一般式(s−1)で表される化合物等が挙げられる。
【0055】
また、溶剤(S1)としては、環境に対する影響の小さい溶剤を選択することが好ましい。
このような溶剤としては、出発原料が天然物質である溶剤が挙げられる。
出発原料が天然物質である溶剤としては、たとえば植物の精油成分から得られるテルペン系溶剤(たとえば後述するp−メンタン、o−メンタン、m−メンタン等の単環式モノテルペンや、ピナン等の二環式モノテルペンなど)等が挙げられる。
【0056】
さらに、本発明においては、当該膜形成用材料を、後述するパターン形成方法において、基板上に形成されたパターン(レジストパターン等)を被覆するために用いる場合、溶剤(S1)として、当該パターンを溶解しないものを選択して用いることが好ましい。これにより、当該パターン表面に膜形成用材料を用いて金属酸化物膜(被覆膜)を形成する際にパターンの形状を損ないにくい。
【0057】
溶剤(S1)としては、特に、下記一般式(s−1)で表される化合物(以下、化合物(s−1)という)が、金属化合物(W)と反応せず、本発明の効果に優れること、環境に対する影響が少ないこと、後述するパターン形成方法において、当該膜形成用材料により被覆されるパターン(レジストパターン等)を溶解しないこと等の点で好ましい。
【0058】
【化1】

[式中、R21〜R23はそれぞれ独立に水素原子、または直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であって、R21〜R23のうち少なくとも2つはアルキル基であり、該アルキル基は、シクロヘキサン環における当該アルキル基が結合した炭素原子以外の炭素原子と結合して環を形成していてもよい。]
【0059】
式(s−1)中、R21〜R23のうち、少なくとも2つは直鎖状または分岐状のアルキル基である。すなわち、化合物(s−1)は、R21〜R23のうち2つが直鎖状または分岐状のアルキル基であり、且つ他の1つが水素原子であってもよく、R21〜R23がすべて直鎖状または分岐状のアルキル基であってもよい。本発明においては、R21〜R23のうち2つが直鎖状または分岐状のアルキル基であることが好ましい。
【0060】
21〜R23の直鎖状または分岐状のアルキル基としては、炭素数1〜5の低級アルキル基が好ましく、炭素数1〜3がさらに好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。中でも、メチル基またはイソプロピル基が好ましい。
21〜R23のうちの少なくとも2つのアルキル基は、それぞれ、同一でも異なっていてもよい。
本発明においては、R21〜R23の少なくとも1つが分岐状のアルキル基であることが好ましく、特に、少なくとも1つがイソプロピル基であることが好ましい。
化合物(s−1)は、特に、イソプロピル基およびメチル基の両方を有することが好ましい。
【0061】
21〜R23のアルキル基は、シクロヘキサン環における当該アルキル基が結合した炭素原子以外の炭素原子と結合して環を形成していてもよい。
ここで、アルキル基が、「シクロヘキサン環における当該アルキル基が結合した炭素原子以外の炭素原子と結合して環を形成している」とは、当該アルキル基から水素原子を1つ除いた基(アルキレン基)によって、シクロヘキサン環上の、当該アルキル基が結合した炭素原子と、それ以外の炭素原子との間が架橋されていることを意味する。
【0062】
21〜R23の結合位置は、特に限定されないが、少なくとも2つのアルキル基が、それぞれ、シクロヘキサン環の1位と4位(パラ位)、または1位と3位(メタ位)に結合していることが好ましい。
【0063】
化合物(s−1)として、具体的には、p−メンタン(沸点約170℃)、m−メンタン(沸点約170℃)、o−メンタン(沸点約170℃)、ピナン(沸点約169℃)等が挙げられる。これらの構造を下記に示す。
本発明においては、特に、本発明の効果に優れることから、溶剤(S1)がp−メンタンであることが好ましい。
【0064】
【化2】

【0065】
溶剤(S1)は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
溶剤(S)中、溶剤(S1)の割合は、50〜100質量%の範囲内であることが好ましく、80〜100質量%がより好ましく、最も好ましくは100質量%である。
【0066】
本発明においては、溶剤(S)は、本発明の効果を損なわない範囲で、溶剤(S1)以外の溶剤(S2)、すなわち金属化合物(W)と反応する官能基を有する溶剤を含有することもできる。
溶剤(S2)としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール;トルエン、ベンゼン、クメン等の芳香族化合物などを挙げることができ、緻密な膜が形成できる点から、クメン(沸点約152℃)が好ましい。
溶剤(S2)は1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0067】
溶剤(S)の使用量は、特に限定されないが、好ましくは、膜形成用材料中のモル濃度(金属化合物(W)と、必要に応じて用いられる後述の有機化合物との合計の濃度)が1〜200mM程度、好ましくは50〜150mM、さらに好ましくは50〜100mMとなる量で用いられる。モル濃度がこの範囲内であることにより、より均一な膜を形成することができ好ましい。
【0068】
[任意成分]
溶液(R1)には、金属化合物(W)および溶剤(S)の他に、任意成分を配合してもよい。
任意成分としては、たとえば有機化合物が挙げられる。これにより、金属酸化物と有機化合物との複合化膜が形成できる。
有機化合物は、上述した溶剤(S)に溶解するものであれば、特に制限はない。ここでいう溶解とは、有機化合物単独で溶解する場合に限らず、4−フェニルアゾ安息香酸のように、金属アルコキシド類との複合化によりクロロホルム等の溶媒に溶解する場合も含まれる。
有機化合物の分子量については特に制限はない。
【0069】
有機化合物としては、金属酸化物膜の強度や、当該金属酸化物膜で被覆されるレジストパターン等のパターンとの密着性をより強固にする観点から、複数の反応基(好ましくは水酸基またはカルボキシ基)を有し、また室温下(25℃)において固体の性状であるものを用いることが好ましい。
この様な有機化合物として、例えば、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリメタクリル酸、ポリグルタミン酸等の水酸基やカルボキシ基を有する高分子化合物;デンプン、グリコゲン、コロミン酸等の多糖類;グルコース、マンノース等の二糖類、単糖類;末端に水酸基やカルボキシ基を持つポルフィリン化合物やデンドリマー等が好ましく用いられる。
また、有機化合物として、カチオン性高分子化合物も好ましく用いることができる。金属アルコキシド類や金属酸化物は、カチオン性高分子化合物のカチオンに対してアニオン的に相互作用することができるため、強固な結合を実現することができる。
カチオン性高分子化合物の具体例として、PDDA(ポリジメチルジアリルアンモニウムクロライド)、ポリエチレンイミン、ポリリジン、キトサン、末端にアミノ基を持つデンドリマー等を挙げることができる。
【0070】
これらの有機化合物は、機械的強度の強い薄膜を形成させるための構造成分として機能する。また、得られる薄膜に機能を付与するための機能性部位として、あるいは製膜後に取り除いて、その分子形状に応じた空孔を薄膜中に形成させるための成分としての役割を果たすことも可能である。
有機化合物は1種または2種以上混合して用いることができる。
有機化合物を配合する場合、その配合量は、金属化合物(W)100質量部に対して0.1〜50質量部が好ましく、1〜20質量部が特に好ましい。
【0071】
[本発明の膜形成用材料の製造方法により得られる膜形成用材料]
上記のようにして得られる膜形成用材料は、溶液中の異物の量が少なく、異物特性に優れている。また、保存中の経時的な異物の発生も抑制されており、異物経時特性(保存安定性)も良好である。
【0072】
膜形成用材料中の異物特性および異物経時特性は、たとえば、パーティクルカウンターを用いて異物の数を測定することにより評価することができる。
たとえば異物特性は、例えば液中パーティクルカウンター(Rion社製、製品名:パーティクルセンサー KS−41やKL−20K)を用いて、膜形成用材料のろ過処理直後の値を測定することにより評価できる。
また、異物経時特性は、冷凍、冷蔵、又は室温(25℃)で保存した後に上記異物特性と同様にして評価できる。
パーティクルカウンターは、1cm当たりの粒径0.15μm〜0.3μm以上の粒子の数を数えるものである。測定限界は通常2万個/cm位以上である。具体的には、パーティクルセンサーKL−22は、粒径0.15μm以上の粒子の数を測定できる。
【0073】
異物特性等に優れることから、当該膜形成用材料を用いて形成される膜は、表面平滑性、膜厚の均一性等に優れたものである。
そして、このような膜形成用材料を用いることにより、パターン表面に、低温で、耐エッチング性が高く、均一な膜を形成できる。
【0074】
本発明の膜形成用材料の製造方法により製造される膜形成用材料(以下、単に本発明の膜形成用材料ということがある。)は、高い耐エッチング性を有し、低温で形成可能な膜を形成できることから、基板の上に形成されたパターンをマスクとしてエッチングをするプロセスに用いられるパターン被覆材料として有用である。
すなわち、従来、シリカ膜はSOG法等の高温処理を必要とする方法により形成されていたが、かかる方法を上記プロセスに適用しようとした場合、高温処理によって、被覆されるパターンが熱ダレを起こしてしまう。これに対し、本発明の膜形成用材料は、低温で金属酸化物膜を形成可能であることから、当該膜形成用材料により被覆されるパターンの形状を損なうことなく耐エッチング性の高い被覆層を形成することができる。
このとき、被覆されるパターンとしては、ナノインプリントによるパターン、レジスト組成物を用いたレジストパターン等が挙げられ、微細加工の点からレジストパターンが好ましい。
【0075】
特に、本発明の膜形成用材料は、前記パターンが、基板と有機膜とを備えた積層体の前記有機膜上に形成されたものである場合に好適に用いられる。すなわち、本発明の膜形成用材料は、特に、後述するようなパターン形成方法に好適に使用される。
これは、有機膜に対して優れたエッチング選択比を有する被覆パターンが得られるためであり、該被覆パターンをマスクとしてエッチングを行うと、パターンの形状を損なうことなく、有機膜をエッチングできる。そのため、高アスペクト比のパターンを形成することができ、好ましい。
なお、アスペクト比はパターンの下方(基板側)の幅に対するパターンの高さの比で表される。
また、前記有機膜のエッチングは、酸素プラズマエッチング、またはCFガスもしくはCHFガスを用いたエッチングを用いることが効率の点から好ましい。これらのエッチング方法に対しても、本発明の膜形成用材料は良好な耐エッチング性を示す。中でも酸素プラズマエッチングが好ましい。
【0076】
また、本発明の膜形成用材料によれば、均一な膜を形成できるため、該金属酸化物膜で被覆された被覆パターンをマスクとしてエッチングを行う際にパターン表面(金属酸化物膜)に生じるピンホールの発生や金属酸化物膜の剥がれが抑制される。そのため、その後に当該金属酸化物膜で被覆されたパターンおよび有機膜に形成されたパターンをマスクとして基板等のエッチングを行って該パターンを基板に転写した際に、基板に形成されるパターンの形状、解像性等が良好となる
また、低温処理(加熱処理して金属酸化物膜を形成しても良いし、加熱処理しなくても金属酸化物膜を形成することができる)でパターンの被覆が可能であり、その処理方法も簡便なので、生産効率の向上、コストダウンを図ることができ、種々の材料からなるパターンに適用可能である。
【0077】
以下、上記膜形成用材料を用いたパターン形成方法の一実施形態を示す。
本実施形態のパターン形成方法は、基板と有機膜とを備えた積層体の前記有機膜上に形成されたパターンを、前記膜形成用材料を用いて被覆する工程と、
前記膜形成用材料を用いて被覆されたパターンをマスクとして前記有機膜のエッチングを行う工程とを有する。
【0078】
各工程は、本発明の膜形成用材料を用いてパターンを被覆すること以外は従来公知の方法を用いて行うことができる。
膜形成用材料を用いて被覆されるパターンは、従来公知のパターン形成技術、たとえばインプリント法、リソグラフィ法等を用いて形成することができる。特に、リソグラフィ法は、微細パターンを高精度で形成するうえで好ましい。
パターンとしては、上述したように、ナノインプリントによるパターン、レジスト組成物を用いたレジストパターン等が挙げられ、レジストパターンが好ましい。
【0079】
以下、本発明のパターン形成方法の好ましい例について、図1を用い、手順を追って説明する。
図1は、本発明のパターン形成方法の手順の一例を示したものである。この例において、パターン形成方法は、図1(a)に示す様に、基板1の上に有機膜2Aを形成して積層体を得る工程(以下、積層体形成工程という)と、
得られた積層体の有機膜2Aの上に、レジスト膜3Aを形成し、該レジスト膜3Aを選択的に露光することにより、図1(b)に示す様に、レジストパターン3Bを形成する工程(以下、レジストパターン形成工程という)と、
レジストパターン3Bの上に、図1(c)に示す様に、本発明の膜形成用材料を用いて被覆層5を形成する工程(以下、被覆層形成工程という)と、
この被覆層5にて被覆されたレジストパターン3Bをマスクとして、その下の有機膜2Aをエッチングし、図1(d)に示す様に、有機膜パターン2Bを形成する工程(以下、エッチング工程という)とにより行われる。
以下、各工程について、より具体的に説明する。
【0080】
[積層体形成工程]
まず、図1(a)に示す様に、基板1の上に有機膜2Aを形成する。
基板1としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができ、例えば、電子部品用の基板や、これに所定の配線パターンが形成されたもの等を例示することができる。より具体的には、シリコンウェーハ、銅、クロム、鉄、アルミニウム等の金属製の基板や、ガラス基板等が挙げられる。配線パターンの材料としては、例えば銅、アルミニウム、ニッケル、金等が使用可能である。
【0081】
有機膜2Aは、たとえば、樹脂成分等を有機溶剤に溶解した有機膜材料を基板1上にスピンナー等で塗布し、好ましくは200〜300℃、30〜300秒間、好ましくは60〜180秒間の加熱条件でベーク処理することにより形成できる。
有機膜2Aの厚さは、好ましくは10〜500nm、より好ましくは50〜450nmである。この範囲内とすることにより、高アスペクト比のパターンが形成できる、基板エッチング時に十分な耐エッチング性が確保できる等の効果がある。
有機膜材料については後述する。
【0082】
[レジストパターン形成工程]
ついで、この様にして形成した基板1と有機膜2Aからなる積層体において、有機膜2Aの上にレジスト膜3Aを形成する。
レジスト膜3Aは、たとえばレジスト組成物を有機膜2Aの上にスピンナー等で塗布し、80〜150℃の温度条件下、プレベークを40〜120秒間、好ましくは60〜90秒間施すことにより形成できる。
レジスト膜3Aの厚さは、好ましくは50〜500nm、より好ましくは50〜450nmである。この範囲内とすることにより、レジストパターンを高解像度で形成できる、エッチングに対する十分な耐性が得られる等の効果がある。
レジスト組成物の材料については後述する。
【0083】
ついで、マスク4を介してレジスト膜3A側から露光し、80〜150℃の温度条件下、PEB(露光後加熱)を40〜120秒間、好ましくは60〜90秒間施して施し、例えば0.1〜10質量%濃度のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液でアルカリ現像すると、露光部が除去され、図1(b)に示す様に、有機膜2Aの上にレジストパターン3Bが形成される。
なお、この例において、レジスト組成物はポジ型である。
【0084】
[被覆層形成工程]
ついで、図1(c)に示す様に、このレジストパターン3Bの上に、本発明の膜形成用材料を用いて被覆層5を形成する。
具体的には、膜形成用材料をレジストパターン3Bの表面に塗布して塗膜を形成した後、該塗膜を有機溶媒で洗浄し、該塗膜を乾燥することによって被覆層5を形成する。すなわち、塗膜を形成した後、洗浄を行うことにより余分な金属化合物(W)(たとえば有機膜上に付着した金属化合物(W))が除去され、その後、乾燥が完了するまでの間に、空気中の水分により塗膜中の金属化合物(W)が徐々に加水分解して水酸基が生じ、この水酸基が脱水縮合することにより、レジストパターン3Bの表面に金属酸化物からなる薄膜(被覆層5)が形成される。膜形成用材料が有機物を含む場合には、有機物と金属酸化物との複合薄膜が形成される。かかる方法によれば、低温(たとえば室温)で膜が形成できる。
このとき、レジストパターン3Bが反応基(好ましくは水酸基またはカルボキシ基)を有すると、この反応基と、膜形成用材料に含まれる金属化合物(W)が有する官能基が反応または吸着し、レジストパターン3Bと被覆層5との結合が強固になるため好ましい。
なお、被覆層5を形成する操作は、反応性制御の点から、不活性ガス雰囲気下で処理することが望ましい。この場合は空気中の水分を利用せずに処理することになる。
【0085】
膜形成用材料の塗布方法は、公知の方法が使用でき、例えば、レジストパターン3Bが形成された積層体を、膜形成用材料中に浸漬する方法(ディップコート法)、膜形成用材料をスピンコート法によりレジストパターン3B上に塗布する方法が挙げられる。また、交互吸着法等の方法によっても形成することができる。
【0086】
レジストパターン3B上に膜形成用材料を塗布する際の温度(塗布温度)は、用いられる金属化合物(W)の活性によって異なり、一概に限定することはできないが、一般には、0〜100℃の範囲内で決定すればよい。
また、レジストパターン3B上に膜形成用材料を塗布してから乾燥するまで(塗布、洗浄、必要に応じて行われる吸着等の処理等を含む)の時間、すなわち加水分解前の塗膜とレジストパターン3Bとの接触時間と、その間の温度(接触温度)は、用いられる金属化合物(W)の活性によって異なり、一概に限定することはできないが、一般には、数秒から数時間で、上記塗布温度と同様の範囲内で決定すればよい。
【0087】
洗浄に用いる有機溶媒としては、膜形成用材料の溶剤(S)として挙げたものと同様の溶剤が好適に使用できる。
洗浄は、例えば有機溶媒をスプレー法等によって、膜形成用材料からなる塗膜の表面に供給した後、余分な有機溶媒を減圧下で吸引して行う方法や、有機溶媒に浸漬洗浄する方法、スプレー洗浄する方法、蒸気洗浄する方法等が好適に採用される。
洗浄時の温度条件は、前記膜形成用材料を塗布する操作の温度が好適に採用される。
【0088】
本発明においては、膜形成用材料をレジストパターン3Bの表面に塗布した後、洗浄を行い、レジストパターン3B及び有機膜2A上の余分な金属化合物(W)を除去することにより、膜厚の均一性に優れた膜が形成できる。すなわち、洗浄を行うと、例えば主に弱い物理的吸着によってのみ吸着されていた金属化合物(W)が除去され、化学吸着された金属化合物(W)はレジストパターン3Bの表面に均一に残るので、ナノメーターレベルの薄膜が均一な膜厚で、極めて精度良く、かつ高い再現性で形成される。したがって、かかる洗浄操作は、レジストパターン3Bと金属化合物(W)との間において化学的吸着が生じている場合に特に有効である。
さらに、洗浄を行うことにより、被覆層5が、有機膜2Aに対するエッチング選択比に優れたものとなる。すなわち、通常、有機BARC等として用いられている有機膜材料は、水酸基等の反応基をほとんど有していないため、金属化合物(W)との間において化学的吸着が生じにくい。一方、レジストパターンは、水酸基等の反応基を比較的多く含むため、化学的吸着が生じやすい。しかし、物理的吸着はいずれの層に対しても生じる可能性があり、洗浄を行わない場合、余分な金属化合物(W)により有機膜2A表面に被覆層が形成されてエッチング選択比が低下するおそれがある。しかし、洗浄操作を行うことで、有機膜2A表面に被覆層が形成されにくくなり、エッチング選択比が向上する。
【0089】
洗浄後、膜表面を乾燥させる。乾燥方法は、特に制限はなく、公知の方法が使用でき、たとえば窒素ガス等の乾燥用ガスを用いてもよく、また、スピンナーを用いて膜形成用材料の塗布を行った場合には、そのまま振り切り乾燥を行ってもよい。
【0090】
本工程においては、膜形成用材料の塗布後、乾燥を行うまでの間に、必要に応じて、レジストパターン3Bと塗膜中の金属化合物(W)との化学的吸着及び/又は物理的吸着を進行させるための放置等の処理を行ってもよい。
【0091】
本発明においては、塗膜を洗浄後、乾燥させるまでの間に、塗膜と水とを接触させて膜表面の金属化合物(W)を加水分解させ、膜表面に水酸基を生成させる加水処理を行ってもよい。これにより、複数の塗膜が積層された被覆層を形成しやすく、後述するように被覆層5の厚みを調整することができる。すなわち、塗膜表面に生成した水酸基と、その上に膜形成用材料が塗布されて形成された塗膜中の金属化合物(W)とが反応して強固に密着し、複数の塗膜が積層された被覆層が得られる。
加水処理の手段は、公知の方法が特に限定されずに使用できる。たとえば、塗膜を水と接触させるゾルゲル法が最も一般的である。より具体的には、塗膜表面に水を塗布する方法や、塗膜を形成した積層体を少量の水を含んだ有機溶媒に浸漬する方法が挙げられる。なお、金属化合物(W)として水との反応性が高いものを含む場合には、大気中に放置することにより、大気中の水蒸気と反応し、加水分解されるため、加水処理は行わなくてもよい。
水としては、不純物等の混入を防止し、高純度の金属酸化物を生成するために、脱イオン水を用いることが好ましい。
また、加水処理において、酸や塩基等の触媒を用いることにより、これらの工程に必要な時間を大幅に短縮することも可能である。
【0092】
被覆層5の厚さは、好ましくは0.1nm以上であり、より好ましくは0.5〜50nmであり、さらに好ましくは1〜30nmである。0.1nm以上50nm以下とすることにより、エッチング、好ましくはドライエッチングに対する十分な耐性が得られる等の効果がある。
【0093】
被覆層5の厚さは、たとえば、膜形成用材料の塗布、洗浄および加水処理を繰り返して行うことにより、調整できる。すなわち、膜形成用材料を塗布して塗膜を形成し、洗浄し、必要に応じて放置し、そして加水分解処理を行う一連の操作を繰り返して行うことにより、所望の厚さを有する均一な薄膜を形成することができる。
この様な操作によって、例えば数nmから数十nm、条件によっては数百nmの厚さの被覆層5を精度良く形成できる。
例えば金属化合物(W)として、シリコンテトライソシアネート、チタンブトキシド等の一種類の金属原子を含有する金属アルコキシドを含む膜形成用材料を用いた場合、接触条件により、数オングストロームの厚みの薄膜を逐次積層化することができる。
この場合、1サイクルあたりの膜厚の増加は膜形成用材料の積層回数に対応している。一方、金属化合物(W)として、アルコキシドゲルの微粒子等を用いると、1サイクルあたり、60nm程度の厚みの薄膜を積層化することもできる。また、スピンコート法により膜形成用材料による塗膜を形成する場合は、用いる溶媒や金属化合物(W)の濃度、スピン速度等を変えることにより、膜厚を数nmから200nm程度まで任意に制御することができる。
その際、1サイクル毎に使用する金属化合物(W)の種類を変えることにより、異なる種類の金属酸化物(W)からなる薄膜が積層された積層体を得ることもできる。
【0094】
なお、有機膜パターン2B、レジストパターン3B、及び被覆層5のトータルの厚さ(高さ)のサイズは、目的とするパターンのアスペクト比と有機膜2Aのエッチングに要する時間を考慮したスループットのバランスから、トータルとして、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.7μm以下、最も好ましいのは0.5μm以下である。トータルの下限値は特に限定されないが、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上である。
【0095】
[エッチング工程]
ついで、図1(c)に示す様に、この被覆層5にて被覆されたレジストパターン3Bをマスクとして、その下の有機膜2Aを、好ましくはドライエッチングによってエッチングする。これにより、有機膜2Aから有機膜パターン2Bが形成され、有機膜パターン2Bの上にレジストパターン3Bが積層された高アスペクト比のパターンが形成できる(図1(d))。
エッチングの方法は、被覆層5によるエッチングに対するレジストパターン3Bの保護効果が充分に得られる点、及び生産効率の点から、酸素プラズマエッチング、CFガス又はCHFガスを用いたエッチングが好ましく、酸素プラズマエッチングが好ましい。
中でも、後述する様に、有機膜2Aを、ノボラック樹脂等の酸素プラズマエッチングによりエッチングしやすく、かつハロゲンガス、具体的にはCFガス又はCHFガス等のフッ化炭素系ガスに対して耐性が比較的高い材料から構成すると好ましい。一般に基板1等のエッチングはフッ化炭素系ガス等のハロゲンガスを用いて行われるので、この様な材料から有機膜2Aを構成することにより、有機膜パターン2Bを形成する際に酸素プラズマエッチングを用いて加工性を向上させるとともに、基板1等をエッチングするフッ化炭素系ガス等のハロゲンガスを用いた後工程においては、耐エッチング性を向上させることができる。
【0096】
さらに、この様にして得られたパターンをマスクとし、その下の基板1をエッチングにて加工する処理を行うことにより、半導体デバイス等を製造することができる。
このときのエッチングは、ハロゲンガスを用いたエッチングが好ましく、フッ化炭素系ガスを用いたエッチングが好ましく、特にCFガス又はCHFガスを用いたエッチングが好ましい。
被覆層5は有機膜2Aのエッチング時にレジストパターン3Bを保護する機能を発揮するが、基板1をエッチングする際には、有機膜パターン2B及びレジストパターン3Bからなるパターンを保護する機能を発揮し、この積層パターンの耐エッチング性を向上させることができる。
【0097】
なお、ここでは、図1(c)に示す様に、レジストパターン3Bの上面及び側壁に被覆層5を設ける例について説明したが、被覆層5を上面のみに設け、側壁に設けない形態とすることもできる。なお、有機膜2Aのエッチングのマスクとしての機能を高めるためには、上面と側壁に被覆層5を設けることが好ましい。
また、この例においては、有機膜2A、レジスト膜3Aを積層したパターンを形成する方法について説明したが、例えば基板1の上に直接形成されたパターン上に膜形成用材料からなる被覆層を形成し、この被覆層を有するパターンをマスクとして、その下の基板をエッチングすることもできる。この場合もパターンは被覆層によって保護されているため耐エッチング性が高く、過酷なエッチング条件にも耐えることができる。
【0098】
[レジスト組成物(パターン形成材料)]
図1(b)に示したレジストパターン3Bの様なパターンを形成するために好適に用いられるレジスト組成物は、親水性基を有し分子量が500以上の有機化合物を含有するものである。このような構成とすることによって、該組成物から形成されるパターン上に膜形成用材料からなる被覆層を良好に形成することができ、その結果、良好な形状のパターンを得ることができる。
すなわち、パターン表面上に親水性基が存在すると、該親水性基を、パターン上に形成される被覆層の材料と相互作用する官能基(反応基)として用いることができる。これにより、パターンとの密着性が高い被覆層を形成することができる。またパターン上に高密度の被覆層を形成することができ、力学的強度が良好な形状のパターンを得ることができる。
また、該有機化合物の分子量が500以上であることにより、ナノレベルのパターンを形成しやすい。
【0099】
レジスト組成物に配合される分子量が500以上の有機化合物は、分子量が500以上2000以下の低分子化合物と、分子量が2000より大きい高分子化合物とに大別される。高分子化合物の場合は、「分子量」としてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算の質量平均分子量を用いるものとする。
【0100】
レジスト組成物に含まれる有機化合物における親水性基として、好ましくは水酸基、カルボキシ基、カルボニル基(−C(O)−)、エステル基(エステル結合;−C(O)−O−)、アミノ基、アミド基からなる群から選択される1種以上が用いられる。これらの内、水酸基、特にはアルコール性水酸基又はフェノール性水酸基、カルボキシ基、エステル基がより好ましい。
中でもカルボキシ基、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基がパターン表面上に被覆層を形成しやすいので特に好ましい。また、ナノレベルでラインエッジラフネス(パターン側壁の凹凸)の小さいパターンを形成でき好ましい。
【0101】
レジスト組成物に含まれる有機化合物における親水性基の含有割合は、パターン表面に存在する親水性基の単位面積当たりの量に影響する。したがってパターン上に形成される被覆層の密着性や密度に影響を与え得る。
有機化合物が前記高分子化合物の場合、親水性基を、0.2当量以上有することが好ましく、より好ましくは0.5〜0.8当量、さらに好ましくは0.6〜0.75当量の範囲である。これは、高分子化合物が親水性基を有する構成単位とそれ以外の構成単位からなるとすると、前者の構成単位が20モル%以上、より好ましくは50〜80モル%、さらに好ましくは60モル%〜75モル%であることを意味する。
なお、本明細書において「構成単位」および「単位」は、重合体を構成するモノマー単位を意味する。
【0102】
レジスト組成物は、ポジ型とネガ型がある。本発明において、好適にはポジ型である。
そして、レジスト組成物は、露光により酸を発生する酸発生剤成分(B)(以下、(B)成分という)を含有する化学増幅型であることが好ましい。なお、露光には電子線等の放射線の放射も含まれるものとする。
すなわち、レジスト組成物においては、例えば前記有機化合物として、アルカリ可溶性樹脂又はアルカリ可溶性となり得る樹脂(以下、(A)成分という)を使用することができる。前者の場合はいわゆるネガ型、後者の場合はいわゆるポジ型の感放射線性を有する。
ネガ型の場合、レジスト組成物には、(B)成分と共に架橋剤が配合される。そして、リソグラフィ法によりパターンのパターンを形成する際に、露光により(B)成分から酸が発生すると、この酸が作用して(A)成分と架橋剤間で架橋が起こり、アルカリ不溶性となる。前記架橋剤としては、例えば、通常は、メチロール基又はアルコキシメチル基を有するメラミン、尿素又はグリコールウリルなどのアミノ系架橋剤が用いられる。
ポジ型の場合は、(A)成分はいわゆる酸解離性溶解抑制基を有するアルカリ不溶性の樹脂であり、露光により(B)成分から酸が発生すると、かかる酸が前記酸解離性溶解抑制基を解離させることにより(A)成分がアルカリ可溶性となる。
【0103】
より好適には、有機化合物が、親水性基に加えて酸解離性溶解抑制基を有する化合物であることが望ましい。なお、親水性基は酸解離性溶解抑制基を兼ねていてもよい。
有機化合物が前記高分子化合物の場合、親水性基を有する単位と酸解離性溶解抑制基を有する単位を含んでなる、質量平均分子量が2000より大きく30000以下の樹脂であって、前者の単位が20モル%以上、好ましくは50モル%以上である。
該質量平均分子量は、より好ましくは3000以上30000以下、さらに好ましくは5000以上20000以下である。
前記親水性基を有する単位の割合は、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは75モル%以上である。上限は特に限定されないが好適には80モル%以下である。
好ましくは、前記親水性基を有する単位が、カルボキシ基、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基を有する単位であり、より好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、アルコール性水酸基を有する(α−低級アルキル)アクリル酸エステル、ヒドロキシスチレンから誘導される単位である。
【0104】
一方、有機化合物が前記低分子化合物の場合、親水性基を、該低分子化合物の1分子当たり1〜20当量有することが好ましく、より好ましくは2〜10当量の範囲である。
ここでの、例えば「1分子当たり1〜20当量の親水性基を有する」とは、1分子中に親水性基が1〜20個存在することを意味する。
【0105】
以下、レジスト組成物の好ましい実施形態について説明する。
(1)有機化合物として高分子化合物を含有する感放射線性のレジスト組成物の例として、(A−1)親水性基および酸解離性溶解抑制基を有する高分子化合物と(B)酸発生剤を含むレジスト組成物が挙げられる。
(2)有機化合物として低分子化合物を含有する感放射線性のレジスト組成物の例としては、(A−2)親水性基および酸解離性溶解抑制基を有する低分子化合物と(B)酸発生剤を含むレジスト組成物が挙げられる。
なお、前記(1)または(2)のレジスト組成物において、それぞれ(A−1)成分と(A−2)成分を併用することもできる。
【0106】
(A−1)成分および(A−2)成分としては、親水性基を有し分子量が500以上の有機化合物である限り、通常、化学増幅型レジスト用として用いられている有機化合物を1種又は2種以上混合して使用することができる。以下、具体的に説明する。
【0107】
<(A−1)成分>
(A−1)成分としては、親水性基および酸解離性溶解抑制基を有するノボラック樹脂、ヒドロキシスチレン系樹脂、(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂、ヒドロキシスチレンから誘導される構成単位と(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される構成単位を含有する共重合樹脂等が好適に用いられる。
なお、本明細書において、「(α−低級アルキル)アクリル酸」とは、α−低級アルキルアクリル酸とアクリル酸の一方あるいは両方を示す。α−低級アルキルアクリル酸は、アクリル酸のカルボニル基が結合している炭素原子に低級アルキル基が結合しているものを示す。「(α−低級アルキル)アクリル酸エステル」は「(α−低級アルキル)アクリル酸」のエステル誘導体を示す。
「(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される構成単位」とは、(α−低級アルキル)アクリル酸エステルのエチレン性2重結合が開裂して形成される構成単位であり、以下(α−低級アルキル)アクリレート構成単位ということがある。
「ヒドロキシスチレンから誘導される構成単位」とは、ヒドロキシスチレン又はα―低級アルキルヒドロキシスチレンのエチレン性2重結合が開裂して形成される構成単位であり、以下ヒドロキシスチレン単位ということがある。「α−低級アルキルヒドロキシスチレン」は、フェニル基が結合する炭素原子に低級アルキル基が結合していることを示す。
「α−低級アルキルアクリル酸エステルから誘導される構成単位」及び「α−低級アルキルヒドロキシスチレンから誘導される構成単位」において、α位に結合している低級アルキル基は、炭素数1〜5のアルキル基であり、直鎖または分岐鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基などが挙げられる。工業的にはメチル基が好ましい。
【0108】
(A−1)成分として好適な樹脂成分としては、特に限定するものではないが、例えば、下記構成単位(a1)のようなフェノール性水酸基を有する単位と、下記構成単位(a2)および下記構成単位(a3)からなる群より選ばれる少なくとも1つのような酸解離性溶解抑制基を有する構成単位、そして必要に応じて用いられる(a4)のようなアルカリ不溶性の単位を有するポジ型レジストの樹脂成分が挙げられる。
当該樹脂成分は、酸の作用によってアルカリ溶解性が増大するものである。すなわち、露光によって酸発生剤から発生する酸の作用によって、構成単位(a2)や構成単位(a3)において開裂が生じ、これによって、はじめはアルカリ現像液に対して不溶性であった樹脂において、そのアルカリ溶解性が増大する。その結果、露光・現像により、化学増幅型のポジ型のパターンを形成することができる。
【0109】
・・構成単位(a1)
構成単位(a1)は、フェノール性水酸基を有する単位であって、好ましくは下記一般式(I)で表されるヒドロキシスチレンから誘導される単位である。
【0110】
【化3】

(式中、Rは水素原子または低級アルキル基を示す。)
【0111】
Rは水素原子又は低級アルキル基である。低級アルキル基については上記の通りであり、特に水素原子またはメチル基が好ましい。Rの説明は以下同様である。
−OHのベンゼン環への結合位置は、特に限定されるものではないが、式中に記載の4の位置(パラ位)が好ましい。
構成単位(a1)は、パターンを形成する点からは、樹脂中に40〜80モル%、好ましくは50〜75モル%含まれることが好ましい。40モル%以上とすることにより、アルカリ現像液に対する溶解性を向上させることができ、パターン形状の改善効果も得られる。80モル%以下とすることにより、他の構成単位とのバランスをとることができる。
また、パターン上に被覆層を形成する点からは、構成単位(a1)は、樹脂中に、50モル%以上含まれることが好ましく、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは75モル%以上である。上限は特に限定されないが80モル%以下である。上記の範囲であると、フェノール性水酸基の存在により、パターン上に良好な被覆層が形成でき、良好な形状のパターンを得ることができる。またパターンと被覆層との密着性が良好となる。
【0112】
・・構成単位(a2)
構成単位(a2)は、酸解離性溶解抑制基を有する構成単位であって、下記一般式(II)で表される。
【0113】
【化4】

(式中、Rは上記と同じであり、Xは酸解離性溶解抑制基を示す。)
【0114】
酸解離性溶解抑制基Xは、第3級炭素原子を有するアルキル基であって、当該第3級アルキル基の第3級炭素原子がエステル基[−C(O)O−]に結合している酸離性溶解抑制基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基のような環状アセタール基などである。
この様な酸解離性溶解抑制基Xは、例えば化学増幅型のポジ型レジスト組成物において用いられているものの中から上記以外のものも任意に使用することができる。
【0115】
構成単位(a2)として、例えば下記一般式(III)で表されるもの等が好ましいものとして挙げられる。
【0116】
【化5】

【0117】
式中、Rは上記と同じであり、R11、R12、R13は、それぞれ独立に低級アルキル基(直鎖、分岐鎖のいずれでもよい。好ましくは炭素数は1〜5である。)である。または、R11、R12、R13のうち、R11が低級アルキル基であり、R12とR13が結合して、単環または多環の脂環式基(脂環式基の炭素数は好ましくは5〜12)を形成していてもよい。
脂環式基を有しない場合には、例えばR11、R12、R13がいずれもメチル基であるものが好ましい。
【0118】
脂環式基を有する場合において、単環の脂環式基を有する場合は、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基を有するもの等が好ましい。
また、多環の脂環式基を有するもののうち、好ましいものとして例えば下記一般式(IV)で表されるものを挙げることができる。
【0119】
【化6】

[式中、Rは上記と同じであり、R14は低級アルキル基(直鎖、分岐鎖のいずれでもよい。好ましくは炭素数は1〜5である。)]
【0120】
また、多環の脂環式基を含む酸解離性溶解抑制基を有するものとして、下記一般式(V)で表されるものも好ましい。
【0121】
【化7】

[式中、Rは上記と同じであり、R15、R16は、それぞれ独立に低級アルキル基(直鎖、分岐鎖のいずれでもよい。好ましくは炭素数は1〜5である。)である。]
【0122】
構成単位(a2)は、樹脂中に、5〜50モル%、好ましくは10〜40モル%、さらに好ましくは、10〜35モル%の範囲で存在することが好ましい。
【0123】
・・構成単位(a3)
構成単位(a3)は、酸解離性溶解抑制基を有する構成単位であって、下記一般式(VI)で表されるものである。
【0124】
【化8】

(式中、Rは上記と同じであり、X’は酸解離性溶解抑制基を示す。)
【0125】
酸解離性溶解抑制基X’は、tert−ブチルオキシカルボニル基、tert−アミルオキシカルボニル基のような第3級アルキルオキシカルボニル基;tert−ブチルオキシカルボニルメチル基、tert−ブチルオキシカルボニルエチル基のような第3級アルキルオキシカルボニルアルキル基;tert−ブチル基、tert−アミル基などの第3級アルキル基;テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基などの環状アセタール基;エトキシエチル基、メトキシプロピル基などのアルコキシアルキル基などである。
中でも、tert―ブチルオキシカルボニル基、tert―ブチルオキシカルボニルメチル基、tert−ブチル基、テトラヒドロピラニル基、エトキシエチル基が好ましい。
酸解離性溶解抑制基X’は、例えば化学増幅型のポジ型レジスト組成物において用いられているものの中から上記以外のものも任意に使用することができる。
一般式(VI)において、ベンゼン環に結合している基(−OX’)の結合位置は特に限定するものではないが式中に示した4の位置(パラ位)が好ましい。
【0126】
構成単位(a3)は、樹脂成分中、5〜50モル%、好ましくは10〜40モル%、さらに好ましくは、10〜35モル%の範囲とされる。
【0127】
・・構成単位(a4)
構成単位(a4)は、アルカリ不溶性の単位であって、下記一般式(VII)で表されるものである。
【0128】
【化9】

(式中、Rは上記と同じであり、R4’は低級アルキル基を示し、n’は0または1〜3の整数を示す。)
【0129】
なお、R4’の低級アルキル基は、直鎖または分岐鎖のいずれでもよく、炭素数は好ましくは1〜5とされる。
n’は0または1〜3の整数を示すが、0であることが好ましい。
【0130】
構成単位(a4)は、樹脂成分中、1〜40モル%、好ましくは5〜25モル%とされる。1モル%以上とすることにより、形状の改善(特に膜減りの改善)の効果が高くなり、40モル%以下とすることにより、他の構成単位とのバランスをとることができる。
【0131】
(A−1)成分においては、前記構成単位(a1)と、構成単位(a2)および構成単位(a3)からなる群より選ばれる少なくとも一つとを必須としつつ、任意に(a4)を含んでもよい。また、これらの各単位を全て有する共重合体を用いてもよいし、これらの単位を1つ以上有する重合体どうしの混合物としてもよい。又はこれらを組み合わせてもよい。
また、(A−1)成分は、前記構成単位(a1)、(a2)、(a3)、(a4)以外のものを任意に含むことができるが、これらの構成単位の割合が80モル%以上、好ましくは90モル%以上(100モル%が最も好ましい)であることが好ましい。
【0132】
特に、「前記構成単位(a1)と、前記(a3)とを有する共重合体(1)の1種或いは異なる共重合体の2種以上」、または、「構成単位(a1)と、前記(a2)と、前記(a4)とを有する共重合体(2)の1種或いは異なる共重合体の2種以上」を、それぞれ用いるか又は混合した態様が、簡便に効果が得られるため最も好ましい。また、耐熱性向上の点でも好ましい。
特には、第三級アルキルオキシカルボニル基で保護したポリヒドロキシスチレンと、1−アルコキシアルキル基で保護したポリヒドロキシスチレンとの混合物であることが好ましい。
混合するときの質量比(第三級アルキルオキシカルボニル基で保護したポリヒドロキシスチレン/1−アルコキシアルキル基で保護したポリヒドロキシスチレン)は、例えば1/9〜9/1、好ましくは2/8〜8/2とされ、さらに好ましくは2/8〜5/5である。
【0133】
(A−1)成分のGPCによるポリスチレン換算の質量平均分子量は2000より大きく、好ましくは2000より大きく30000以下であり、より好ましくは3000以上30000以下、さらに好ましくは5000以上20000以下とされる。
なお、(A−1)成分は、前記構成単位の材料モノマーを公知の方法で重合することにより得ることができる。
【0134】
(A−1)成分として好適な上記以外の樹脂成分(A−1’)として、特に、耐エッチング性がより低いパターンを形成できるという点では(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂を含む樹脂成分が好ましく、(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂からなる樹脂成分がより好ましい。
(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂においては、酸解離性溶解抑制基を含む(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される構成単位(a5)を有する樹脂が好ましい。α−低級アルキル基については上記と同様である。
構成単位(a5)の酸解離性溶解抑制基は、露光前の(A−1’)成分全体をアルカリ不溶とするアルカリ溶解抑制性を有すると同時に、露光後に(B)成分から発生した酸の作用により解離し、この(A−1’)成分全体をアルカリ可溶性へ変化させる基である。
【0135】
酸解離性溶解抑制基としては、例えばArFエキシマレーザーのレジスト組成物用の樹脂において、多数提案されているものの中から適宜選択して用いることができる。一般的には、(α−低級アルキル)アクリル酸のカルボキシ基と環状または鎖状の第3級アルキルエステルを形成する基、または環状または鎖状のアルコキシアルキル基などが広く知られている。
ここで、「第3級アルキルエステルを形成する基」とは、アクリル酸のカルボキシ基の水素原子と置換することによりエステルを形成する基である。すなわちアクリル酸エステルのカルボニルオキシ基[−C(O)−O−]の末端の酸素原子に、鎖状または環状の第3級アルキル基の第3級炭素原子が結合している構造を示す。この第3級アルキルエステルにおいては、酸が作用すると、酸素原子と第3級炭素原子との間で結合が切断される。
なお、第3級アルキル基とは、第3級炭素原子を有するアルキル基である。
鎖状の第3級アルキルエステルを形成する基としては、例えばtert−ブチル基、tert−アミル基等が挙げられる。
環状の第3級アルキルエステルを形成する基としては、後述する「脂環式基を含有する酸解離性溶解抑制基」で例示するものと同様のものが挙げられる。
【0136】
「環状または鎖状のアルコキシアルキル基」は、カルボキシ基の水素原子と置換してエステルを形成する。すなわち、アクリル酸エステルのカルボニルオキシ基[−C(O)−O―]の末端の酸素原子に前記アルコキシアルキル基が結合している構造を形成する。かかる構造においては、酸の作用により、酸素原子とアルコキシアルキル基との間で結合が切断される。
このような環状または鎖状のアルコキシアルキル基としては、1−メトキシメチル基、1−エトキシエチル基、1−イソプロポキシエチル、1−シクロヘキシルオキシエチル基、2−アダマントキシメチル基、1−メチルアダマントキシメチル基、4−オキソ−2−アダマントキシメチル基、1−アダマントキシエチル基、2−アダマントキシエチル基等が挙げられる。
【0137】
構成単位(a5)としては、環状、特に、脂肪族環式基を含有する酸解離性溶解抑制基を含む構成単位が好ましい。
ここで、「脂肪族」は、上記で定義した通りであり、「脂肪族環式基」は、芳香族性を持たない単環式基または多環式基であることを意味する。
脂肪族環式基としては、単環または多環のいずれでもよく、例えばArFレジスト等において、多数提案されているものの中から適宜選択して用いることができる。耐エッチング性の点からは多環の脂環式基が好ましい。また、脂環式基は炭化水素基であることが好ましく、特に飽和の炭化水素基(脂環式基)であることが好ましい。
単環の脂環式基としては、例えば、シクロアルカンから1個の水素原子を除いた基が挙げられる。多環の脂環式基としては、例えばビシクロアルカン、トリシクロアルカン、テトラシクロアルカンなどから1個の水素原子を除いた基などを例示できる。
具体的には、単環の脂環式基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。多環の脂環式基としては、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカンなどのポリシクロアルカンから1個の水素原子を除いた基などが挙げられる。
これらの中でもアダマンタンから1個の水素原子を除いたアダマンチル基、ノルボルナンから1個の水素原子を除いたノルボルニル基、トリシクロデカンからの1個の水素原子を除いたトリシクロデカニル基、テトラシクロドデカンから1個の水素原子を除いたテトラシクロドデカニル基が工業上好ましい。
【0138】
より具体的には、構成単位(a5)は、下記一般式(I’)〜(III’)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また、(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される単位であって、そのエステル部に上記した環状のアルコキシアルキル基を有する単位、具体的には2−アダマントキシメチル基、1−メチルアダマントキシメチル基、4−オキソ−2−アダマントキシメチル基、1−アダマントキシエチル基、2−アダマントキシエチル基等の置換基を有していても良い脂肪族多環式アルキルオキシ低級アルキル(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される単位から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0139】
【化10】

[式(I’)中、Rは上記と同じであり、Rは低級アルキル基である。]
【0140】
【化11】

[式(II’)中、Rは上記と同じであり、R及びRはそれぞれ独立に低級アルキル基である。]
【0141】
【化12】

[式(III’)中、Rは上記と同じであり、Rは第3級アルキル基である。]
【0142】
式(I’)〜(III’)中、Rの水素原子または低級アルキル基としては、上述したアクリル酸エステルのα位に結合している水素原子または低級アルキル基の説明と同様である。
の低級アルキル基としては、炭素数1〜5の直鎖又は分岐状のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。中でも、メチル基、エチル基であることが工業的に入手が容易であることから好ましい。
及びRの低級アルキル基は、それぞれ独立に、炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキル基であることが好ましい。中でも、RおよびRが共にメチル基である場合が工業的に好ましい。具体的には、2−(1−アダマンチル)−2−プロピルアクリレートから誘導される構成単位を挙げることができる。
【0143】
は鎖状の第3級アルキル基または環状の第3級アルキル基である。鎖状の第3級アルキル基としては、例えばtert−ブチル基やtert−アミル基が挙げられ、tert−ブチル基が工業的に好ましい。
環状の第3級アルキル基としては、前述の「脂肪族環式基を含有する酸解離性溶解抑制基」で例示したものと同じであり、2−メチル−2−アダマンチル基、2−エチル−2−アダマンチル基、2−(1−アダマンチル)−2−プロピル基、1−エチルシクロヘキシル基、1−エチルシクロペンチル基、1−メチルシクロヘキシル基、1−メチルシクロペンチル基等を挙げることができる。
また、基−COORは、式中に示したテトラシクロドデカニル基の3または4の位置に結合していてよいが、結合位置は特定できない。また、アクリレート構成単位のカルボキシ基残基も同様に式中に示した8または9の位置に結合していてよい。
【0144】
構成単位(a5)は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂成分中、構成単位(a5)の割合は、(A−1’)成分を構成する全構成単位の合計に対して、20〜60モル%であることが好ましく、30〜50モル%がより好ましく、35〜45モル%が最も好ましい。下限値以上とすることによってパターンを得ることができ、上限値以下とすることにより他の構成単位とのバランスをとることができる。
【0145】
(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂は、前記構成単位(a5)に加えてさらに、ラクトン環を有するアクリル酸エステルから誘導される構成単位(a6)を有することが好ましい。構成単位(a6)は、レジスト膜の基板への密着性を高めたり、現像液との親水性を高めたりするうえで有効なものである。また、パターンとの密着性が高い被覆層を形成することができる。
構成単位(a6)において、α位の炭素原子に結合しているのは、低級アルキル基または水素原子である。α位の炭素原子に結合している低級アルキル基は、構成単位(a5)の説明と同様であって、好ましくはメチル基である。
構成単位(a6)としては、アクリル酸エステルのエステル側鎖部にラクトン環からなる単環式基またはラクトン環を有する多環の環式基が結合した構成単位が挙げられる。なお、このときラクトン環とは、−O−C(O)−構造を含むひとつの環を示し、これをひとつの目の環として数える。したがって、ここではラクトン環のみの場合は単環式基、さらに他の環構造を有する場合は、その構造に関わらず多環式基と称する。
構成単位(a6)としては、例えば、γ−ブチロラクトンから水素原子1つを除いた単環式基や、ラクトン環含有ビシクロアルカンから水素原子を1つを除いた多環式基を有するもの等が挙げられる。
構成単位(a6)として、より具体的には、例えば以下の一般式(IV’)〜(VII’)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0146】
【化13】

[式(IV’)中、Rは上記と同じであり、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または低級アルキル基である。]
【0147】
【化14】

[式(V’)中、Rは上記と同じであり、mは0または1である。]
【0148】
【化15】

[式(VI’)中、Rは上記と同じである。]
【0149】
【化16】

[式(VII’)中、Rは上記と同じである。]
【0150】
式(IV’)中において、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子または低級アルキル基であり、好ましくは水素原子である。R、Rにおいて、低級アルキル基としては、好ましくは炭素数1〜5の直鎖又は分岐状アルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基などが挙げられる。工業的にはメチル基が好ましい。
【0151】
一般式(IV’)〜(VII’)で表される構成単位の中でも、(IV’)で表される構成単位が安価で工業的に好ましく、(IV’)で表される構成単位の中でもRがメチル基、RおよびRが水素原子であり、メタクリル酸エステルとγ−ブチロラクトンとのエステル結合の位置が、そのラクトン環状のα位であるα−メタクリロイルオキシ−γ−ブチロラクトンであることが最も好ましい。
構成単位(a6)は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂成分中、構成単位(a6)の割合は、(A−1’)成分を構成する全構成単位の合計に対して、20〜60モル%が好ましく、20〜50モル%がより好ましく、30〜45モル%が最も好ましい。下限値以上とすることによりリソグラフィー特性が向上し、上限値以下とすることにより他の構成単位とのバランスをとることができる。
【0152】
(A−1’)成分において、(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂成分が、前記構成単位(a5)に加えて、または前記構成単位(a5)および(a6)に加えてさらに、極性基含有多環式基を含むアクリル酸エステルから誘導される構成単位(a7)を有することが好ましい。
構成単位(a7)により、(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂成分全体の親水性が高まり、現像液との親和性が高まって、露光部でのアルカリ溶解性が向上し、解像性の向上に寄与する。また、パターンとの密着性が高い被覆層を形成することができる。
構成単位(a7)において、α位の炭素原子に結合しているのは、低級アルキル基または水素原子である。α位の炭素原子に結合している低級アルキル基は、構成単位(a5)の説明と同様であって、好ましくはメチル基である。
極性基としては、水酸基、シアノ基、カルボキシ基、アミノ基等が挙げられ、特に水酸基が好ましい。
多環式基としては、前述の(a5)単位である「脂肪族環式基を含有する酸解離性溶解抑制基」で例示した脂肪族環式基のうち、多環式のものから適宜選択して用いることができる。
構成単位(a7)としては、下記一般式(VIII’)〜(IX’)から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0153】
【化17】

[式(VIII’)中、Rは上記と同じであり、nは1〜3の整数である。]
【0154】
式(VIII’)中のRは上記式(I’)〜(III’)中のRと同様である。
これらの中でも、nが1であり、水酸基がアダマンチル基の3位に結合しているものが好ましい。
【0155】
【化18】

[式(IX’)中、Rは上記と同じであり、kは1〜3の整数である。]
【0156】
これらの中でも、kが1であるものが好ましい。また、シアノ基がノルボルナニル基の5位又は6位に結合していることが好ましい。
【0157】
構成単位(a7)は1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂成分中、構成単位(a7)の割合は、(A−1’)成分を構成する全構成単位の合計に対して、10〜50モル%が好ましく、15〜40モル%がより好ましく、20〜35モル%がさらに好ましい。下限値以上とすることによりリソグラフィー特性が向上し、上限値以下とすることにより他の構成単位とのバランスをとることができる。
【0158】
(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂成分は、前記構成単位(a5)〜(a7)以外の構成単位を含んでいてもよいが、好適にはこれらの構成単位(a5)〜(a7)の合計が、全構成単位の合計に対し、70〜100モル%であることが好ましく、80〜100モル%であることがより好ましい。
【0159】
(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂成分は、前記構成単位(a5)〜(a7)以外の構成単位(a8)を含んでいてもよい。
構成単位(a8)としては、上述の構成単位(a5)〜(a7)に分類されない他の構成単位であれば特に限定するものではない。
例えば多環の脂肪族炭化水素基を含み、かつ(α−低級アルキル)アクリル酸エステルから誘導される構成単位等が好ましい。該多環の脂肪族炭化水素基は、例えば、前述の「脂肪族環式基を含有する酸解離性溶解抑制基」で例示した脂肪族環式基のうち、多環式のものから適宜選択して用いることができる。特にトリシクロデカニル基、アダマンチル基、テトラシクロドデカニル基、ノルボルニル基、イソボルニル基から選ばれる少なくとも1種以上であると、工業上入手し易い等の点で好ましい。構成単位(a8)としては、酸非解離性基であることが最も好ましい。
構成単位(a8)として、具体的には、下記(X)〜(XII)の構造のものを例示することができる。
【0160】
【化19】

(式中、Rは上記と同じである。)
【0161】
【化20】

(式中、Rは上記と同じである。)
【0162】
【化21】

(式中、Rは上記と同じである。)
【0163】
構成単位(a8)を有する場合、(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂成分中、構成単位(a8)の割合は、(A−1’)成分を構成する全構成単位の合計に対して、1〜25モル%が好ましく、5〜20モル%がより好ましい。
(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂成分は、少なくとも構成単位(a5)、(a6)および(a7)を有する共重合体であることが好ましい。係る共重合体としては、たとえば、上記構成単位(a5)、(a6)および(a7)からなる共重合体、上記構成単位(a5)、(a6)、(a7)および(a8)からなる共重合体等が例示できる。
【0164】
(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂成分は、例えば各構成単位に係るモノマーを、例えばアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)のようなラジカル重合開始剤を用いた公知のラジカル重合等によって重合させることによって得ることができる。
(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂成分は、(a5)単位が(B)成分から発生した酸により、酸解離性溶解抑制基が解離し、カルボン酸が生成する。この生成したカルボン酸の存在によりパターンとの密着性が高い被覆層を形成することができる。
(α−低級アルキル)アクリル酸エステル樹脂成分の質量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィによるポリスチレン換算質量平均分子量、以下同様。)は、例えば30000以下であり、20000以下であることが好ましく、12000以下であることがさらに好ましく、最も好ましくは10000以下とされる。
下限値は特に限定するものではないが、パターン倒れの抑制、解像性向上等の点で、好ましくは4000以上、さらに好ましくは5000以上とされる。
【0165】
<(A−2)成分>
(A−2)成分としては、分子量が500以上2000以下であって、親水性基を有するとともに、上述の(A−1)の説明で例示したような酸解離性溶解抑制基XまたはX’を有するものであれば特に限定せずに用いることができる。
具体的には、複数のフェノール骨格を有する化合物の水酸基の水素原子の一部を上記酸解離性溶解抑制基XまたはX’で置換したものが挙げられる。
(A−2)成分は、例えば、非化学増幅型のg線やi線レジストにおける増感剤や耐熱性向上剤として知られている低分子量フェノール化合物の水酸基の水素原子の一部を上記酸解離性溶解抑制基で置換したものが好ましく、そのようなものから任意に用いることができる。
【0166】
かかる低分子量フェノール化合物としては、例えば、次のようなものが挙げられる。
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,3,4−トリヒドロキシフェニル)メタン、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−(2,3,4−トリヒドロキシフェニル)−2−(2’,3’,4’−トリヒドロキシフェニル)プロパン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−2−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)−2−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,4−ジヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)−3,4−ジヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3,4−ジヒドロキシフェニルメタン、ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシ−6−メチルフェニル)−4−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシ−6−メチルフェニル)−3,4−ジヒドロキシフェニルメタン、1−[1−(4−ヒドロキシフェニル)イソプロピル]−4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、フェノール、m−クレゾール、p−クレゾールまたはキシレノールなどのフェノール類のホルマリン縮合物の2、3、4核体などが挙げられる。勿論これらに限定されるものではない。
なお、酸解離性溶解抑制基も特に限定されず、上記したものが挙げられる。
【0167】
<酸発生剤(B)>
(B)成分としては、従来、化学増幅型レジストにおける酸発生剤として公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。
ジアゾメタン系酸発生剤の具体例としては、ビス(イソプロピルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(p−トルエンスルホニル)ジアゾメタン、ビス(1,1−ジメチルエチルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(2,4−ジメチルフェニルスルホニル)ジアゾメタン等が挙げられる。
【0168】
オニウム塩類の具体例としては、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、(4−メトキシフェニル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、(4−メトキシフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、(4−メチルフェニル)ジフェニルスルホニウムノナフルオロブタンスルホネート、(p−tert−ブチルフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムノナフルオロブタンスルホネート、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムノナフルオロブタンスルホネート、トリフェニルスルホニウムノナフルオロブタンスルホネートが挙げられる。これらのなかでもフッ素化アルキルスルホン酸イオンをアニオンとするオニウム塩が好ましい。
【0169】
オキシムスルホネート化合物の例としては、α‐(メチルスルホニルオキシイミノ)‐フェニルアセトニトリル、α‐(メチルスルホニルオキシイミノ)‐p‐メトキシフェニルアセトニトリル、α‐(トリフルオロメチルスルホニルオキシイミノ)‐フェニルアセトニトリル、α‐(トリフルオロメチルスルホニルオキシイミノ)‐p‐メトキシフェニルアセトニトリル、α‐(エチルスルホニルオキシイミノ)‐p‐メトキシフェニルアセトニトリル、α‐(プロピルスルホニルオキシイミノ)‐p‐メチルフェニルアセトニトリル、α‐(メチルスルホニルオキシイミノ)‐p‐ブロモフェニルアセトニトリルなどが挙げられる。これらの中で、α‐(メチルスルホニルオキシイミノ)‐p‐メトキシフェニルアセトニトリルが好ましい。
本発明においては、オニウム塩及び/又はジアゾメタン系酸発生剤が好ましく、その中でもフッ素化アルキルスルホン酸イオンをアニオンとするオニウム塩及び/又はビス(アルキルスルホニル)ジアゾメタンが好ましい。
【0170】
(B)成分として、1種の酸発生剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(B)成分の使用量は、(A−1)成分および/または(A−2)成分100質量部に対し、1〜20質量部、好ましくは2〜10質量部とされる。上記範囲の下限値以上とすることにより充分はパターン形成が行われ、上記範囲の上限値以下であれば溶液の均一性が得られやすく、良好な保存安定性が得られる。
【0171】
<任意成分>
レジスト組成物には、パターンパターン形状、引き置き経時安定性などを向上させるために、さらに任意の(D)成分として含窒素有機化合物を配合させることができる。
この(D)成分は、既に多種多様なものが提案されているので、公知のものから任意に用いれば良いが、アミン、特に第2級低級脂肪族アミンや第3級低級脂肪族アミンが好ましい。
ここで、低級脂肪族アミンとは炭素数5以下のアルキルまたはアルキルアルコールのアミンを言い、この第2級や第3級アミンの例としては、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリペンチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどが挙げられるが、特にトリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンのような第3級アルカノールアミンが好ましい。
これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(D)成分は、(A−1)成分および/または(A−2)成分100質量部に対して、通常0.01〜5.0質量部の範囲で用いられる。
【0172】
また、前記(D)成分との配合による感度劣化を防ぎ、またパターン形状、引き置き安定性等の向上の目的で、さらに任意の(E)成分として、有機カルボン酸又はリンのオキソ酸若しくはその誘導体を含有させることができる。なお、(D)成分と(E)成分は併用することもできるし、いずれか1種を用いることもできる。
有機カルボン酸としては、例えば、マロン酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、安息香酸、サリチル酸などが好適である。
リンのオキソ酸若しくはその誘導体としては、リン酸、リン酸ジ‐n‐ブチルエステル、リン酸ジフェニルエステルなどのリン酸又はそれらのエステルのような誘導体、ホスホン酸、ホスホン酸ジメチルエステル、ホスホン酸‐ジ‐n‐ブチルエステル、フェニルホスホン酸、ホスホン酸ジフェニルエステル、ホスホン酸ジベンジルエステルなどのホスホン酸及びそれらのエステルのような誘導体、ホスフィン酸、フェニルホスフィン酸などのホスフィン酸及びそれらのエステルのような誘導体が挙げられ、これらの中で特にホスホン酸が好ましい。
(E)成分は、(A−1)成分および/または(A−2)成分100質量部当り0.01〜5.0質量部の割合で用いられる。
【0173】
レジスト組成物には、さらに所望により混和性のある添加剤、例えば該レジスト組成物の塗布膜の性能を改良するための付加的樹脂、塗布性を向上させるための界面活性剤、溶解抑制剤、可塑剤、安定剤、着色剤、ハレーション防止剤などを適宜、添加含有させることができる。
【0174】
レジスト組成物は、材料を有機溶剤に溶解させて製造することができる。
該有機溶剤としては、使用する各成分を溶解し、均一な溶液とすることができるものであればよく、従来、レジスト組成物の溶剤として公知のものの中から任意のものを1種又は2種以上適宜選択して用いることができる。
具体例としては、γ−ブチロラクトン等のラクトン類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソアミルケトン、2−ヘプタノンなどのケトン類、エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、ジプロピレングリコール、又はジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル又はモノフェニルエーテルなどの多価アルコール類及びその誘導体や、ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類などを挙げることができる。これらの中でも、PGMEA、EL、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい。
これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。
有機溶剤の使用量は特に限定しないが、固体基材に塗布可能な濃度の液となる量が用いられる。
【0175】
なお、レジスト組成物は、上記実施形態で挙げたものの他にも、例えば、レジスト組成物として知られている感放射線性組成物であって、親水性基を有する有機化合物を含有する組成物を好適に用いることができる。
例えばノボラック樹脂、ヒドロキシスチレン樹脂等のアルカリ可溶性樹脂と、ナフトキノンジアジド基含有化合物などの感光性成分を含有する、化学増幅型以外の感放射線性組成物をレジスト組成物として用いることもできる。また必要に応じて増感剤を含有させることもでき、該増感剤として分子量500以上でフェノール性水酸基を有する低分子化合物用いる場合には、該化合物もレジスト組成物における必須成分の有機化合物として効果に寄与する。
【0176】
[有機膜材料]
有機膜は、従来のエッチング、好適にはドライエッチング法でエッチング可能な有機膜である。この有機膜は、露光後の現像の際に用いられるアルカリ現像液に対して不溶性であることが望ましい。
有機膜を形成するための有機膜材料は、レジスト膜のような、電子線や光に対する感受性を必ずしも必要とするものではない。半導体素子や液晶表示素子の製造において、一般的に用いられているレジストや樹脂を用いればよい。
【0177】
また、被覆層5にて被覆されたレジストパターン3Bを有機膜へ転写する必要があるので、有機膜材料は、エッチング、特にドライエッチング可能な有機膜を形成できる材料であることが好ましい。中でも上述の様に酸素プラズマエッチング等のエッチングが可能な有機膜を形成できる材料であることが好ましい。
このような有機膜材料としては、従来、有機BARCなどの有機膜を形成するために用いられている材料であってよい。例えば、ブリューワサイエンス社製のARCシリーズ、ロームアンドハース社製のARシリーズ、東京応化工業社製のSWKシリーズなどが挙げられる。中でも、上述した様に、エッチング工程において酸素プラズマエッチングを用いる場合、有機膜を酸素プラズマエッチングによりエッチングしやすく、かつハロゲンガス、具体的にはCFガス又はCHFガス等のフッ化炭素系ガスに対して耐性が比較的高い材料から構成すると好ましい。
また、上記有機BARCと基板との間に、ノボラック樹脂、アクリル樹脂及び可溶性ポリイミドからなる群から選択される少なくとも一種の樹脂成分を含む有機膜を形成しても良い。
これらの材料は、酸素プラズマエッチング等のエッチングを行いやすいと同時に、フッ化炭素系ガスに対する耐性が強く、好適である。
これらの中でも、ノボラック樹脂、及び側鎖に脂環式部位又は芳香族環を有するアクリル樹脂は、安価で汎用的に用いられ、フッ化炭素系ガスの耐ドライエッチング性に優れるので、好ましく用いられる。
【0178】
ノボラック樹脂としては、ポジ型レジスト組成物に一般的に用いられているものが使用可能であるし、ノボラック樹脂を主成分として含むi線やg線用のポジレジストも使用可能である。
【0179】
ノボラック樹脂は、例えば、フェノール性水酸基を持つ芳香族化合物(以下、単に「フェノール類」という。)とアルデヒド類とを酸触媒下で付加縮合させることにより得られる樹脂である。
フェノール類としては、例えばフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール、o−ブチルフェノール、m−ブチルフェノール、p−ブチルフェノール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、2,3,5−トリメチルフェノール、3,4,5−トリメチルフェノール、p−フェニルフェノール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ピロガロール、フロログリシノール、ヒドロキシジフェニル、ビスフェノールA、没食子酸、没食子酸エステル、α−ナフトール、β−ナフトール等が挙げられる。
アルデヒド類としては、例えばホルムアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、ニトロベンズアルデヒド、アセトアルデヒド等が挙げられる。
付加縮合反応時の触媒は、特に限定されるものではないが、例えば酸触媒では、塩酸、硝酸、硫酸、蟻酸、蓚酸、酢酸等が使用される。
ノボラック樹脂は、市販されているものを使用することもできる。
【0180】
ノボラック樹脂の質量平均分子量(Mw)の下限値としては、3000以上が好ましく、5000以上がより好ましく、6000以上がより好ましく、7000以上がさらに好ましい。上限値としては、50000以下が好ましく、30000以下がより好ましく、10000以下がさらに好ましく、9000以下が最も好ましい。
Mwが3000以上であると、高温でベークしたときに昇華しにくく、装置等が汚染されにくい。また、Mwを5000以上とすることにより、フッ化炭素系ガス等に対する耐エッチング性が優れるので好ましい。
また、Mwが50000以下であると、微細な凹凸を有する基板に対する良好な埋め込み特性が優れ、特に10000以下であると、ドライエッチングしやすい傾向があり、好ましい。
【0181】
ノボラック樹脂としては、特に、Mwが5000〜50000、好ましくは8000〜30000であり、かつ分子量500以下の低核体、好ましくは200以下の低核体の含有量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法において1質量%以下、好ましくは0.8質量%以下であるノボラック樹脂が好ましい。低核体の含有量は、少ないほど好ましく、望ましくは0質量%である。
上記範囲内のMwを有するノボラック樹脂において、分子量500以下の低核体の含有量が1質量%以下であることにより、微細な凹凸を有する基板に対する埋め込み特性が良好になる。低核体の含有量が低減されていることにより埋め込み特性が良好になる理由は明らかではないが、分散度が小さくなるためと推測される。
ここで、「分子量500以下の低核体」とは、ポリスチレンを標準としてGPC法により分析した際に分子量500以下の低分子フラクションとして検出されるものである。「分子量500以下の低核体」には、重合しなかったモノマーや、重合度の低いもの、例えば、分子量によっても異なるが、フェノール類2〜5分子がアルデヒド類と縮合したものなどが含まれる。
分子量500以下の低核体の含有量(質量%)は、このGPC法による分析結果を、横軸にフラクション番号、縦軸に濃度をとってグラフとし、全曲線下面積に対する、分子量500以下の低分子フラクションの曲線下面積の割合(%)を求めることにより測定される。
【0182】
アクリル樹脂としては、ポジ型レジスト組成物に一般的に用いられているものが使用可能であり、例えば、エーテル結合を有する重合性化合物から誘導された構成単位と、カルボキシ基を有する重合性化合物から誘導された構成単位を含有するアクリル樹脂を挙げることができる。
エーテル結合を有する重合性化合物としては、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等のエーテル結合及びエステル結合を有する(メタ)アクリル酸誘導体等を例示することができる。これらの化合物は単独もしくは2種以上組み合わせて使用できる。なお、本明細書において(メタ)アクリレートはアクリレートとメタクリレートの一方あるいは両方を示す。
カルボキシ基を有する重合性化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのジカルボン酸;2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸などのカルボキシ基及びエステル結合を有する化合物等を例示することができ、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸である。これらの化合物は単独もしくは2種以上組み合わせて使用できる。
【0183】
可溶性ポリイミドとは、有機溶剤により液状にできるポリイミドである。
【0184】
これらの樹脂成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0185】
有機膜は、例えば、上述した樹脂成分等を有機溶剤に溶解した溶液を、常法に従って基板上に塗布することによって形成できる。
有機溶剤としては、上述したレジスト組成物において有機溶剤として例示したものと同様のものを用いることができる。
【実施例】
【0186】
実施例1
あらかじめ、p−メンタンを、エバポレーターにて65℃で8時間エバポレートすることにより脱水した。
次に、調製容器内に脱水したp−メンタン(水分含有量1ppm)を入れ、これに、大気下で、テトライソシアネートシラン(Si(NCO))を100mMになるように添加し、溶解してテトライソシアネートシラン溶液(調製液)を調製した。
調製容器内の気相を窒素ガス(N)で充填した後、そのまま室温(25℃)にて一晩(約20時間)静置した。その後、調製液を、エバポレーターを用い、減圧下、0℃で4時間の脱気処理を行った。
次に、室温(25℃)で、脱気処理後の調製液を、図1に示したのと同等のろ過装置11の母液貯留槽14内に入れ、加圧用配管31からNを供給することにより母液貯留槽14内の調整液を加圧し、第一のろ過部12および第二のろ過部13を通過させ、ろ液(膜形成用材料)をろ液貯留槽15に回収した。
このとき、第一のろ過部12には、孔径0.04μmのナイロン製のフィルタ(製品名:poly Nylon、日本ポール社製)を用い、第二のろ過部13には、孔径0.02μmの高密度ポリエチレン製のフィルタ(製品名:ユニポアポリフィックス、キッツ社製)を用いた。
また、ろ過処理は、ろ過装置11内(ろ過系内)に大気が混入しないよう、気相をNで充填した状態で行った。具体的には、母液貯留槽14およびろ液貯留槽15を加圧キャップ14aおよび15aで塞ぎ、加圧キャップ14aおよび15aに各流路およびガス配管を接続し、母液貯留槽14内およびろ液貯留槽15内の気相を完全にN置換し、大気遮断した後、上記のようにして脱水したp−メンタンを流してフィルタ洗浄を行い、その後、上記ろ過処理を行った。
【0187】
実施例2
実施例1と同様にして調製液を調製し、調製容器内の気相を窒素ガス(N)で充填した後、そのままの状態で、室温にて一週間静置した。静置後の調製液を、脱気処理を行わずにそのままろ過処理して膜形成用材料を得た。ろ過処理は実施例1と同様にして行った。
【0188】
実施例3
脱水しなかったp−メンタン(水分含有量4ppm)を用いた以外は実施例1と同様にして調製液を調製した。調製容器内の気相を窒素ガス(N)で充填した後、そのまま室温(25℃)にて一日(約20時間)静置した。その後、静置後の調製液について、エバポレーターを用い、減圧下、0℃の温度で4時間の脱気処理を行い、脱気処理後の調製液をろ過処理して膜形成用材料を得た。ろ過処理は実施例1と同様にして行った。
【0189】
比較例1
実施例1と同様にして調製液を調製し、得られた調整液を、その日の内に、静置および脱気処理を行わずにろ過処理して膜形成用材料を得た。ろ過処理は実施例1と同様にして行った。
【0190】
比較例2
実施例1と同様にして調製液を調製し、得られた調整液を、静置および脱気処理を行わずに、孔径0.45μm、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のフィルタを単独で用い、大気中でろ過処理して膜形成用材料を得た。
【0191】
得られた膜形成用材料を用いて以下の評価を行った。
<異物特性の評価>
得られた膜形成用材料について、ろ過処理直後に、当該液中の異物(粒子径がそれぞれ0.2μm以上0.3μm未満、0.3μm以上0.5μm未満、および0.5μm以上のもの)の数を、液中パーティクルカウンター(Rion社製、製品名:KL−22)を用いて測定した。その結果を表1に示す。表1においては、粒子径が0.2μm以上0.3μm未満の異物を「0.2μm」、0.3μm以上0.5μm未満の異物を「0.2μm」、0.5μm以上の異物を「0.5μm」と記載した。
【0192】
<異物経時特性(保存安定性)の評価>
得られた膜形成用材料について、25℃で2週間の保存処理を行った後、当該液中の異物の数を上記異物特性の評価と同様にして測定した。その結果を表2に示す。
【0193】
【表1】

【0194】
【表2】

【0195】
上記表中、「Cell NG」は、使用したパーティクルカウンターの測定限界を越える数の異物が存在しており、測定不能であったことを意味する。上記パーティクルカウンターの測定限界は10000個/mLである。
【0196】
上記結果から明らかなように、脱気処理および/または静置処理によりHCNOを除去し、ろ過を行って得られる膜形成用材料は、製造直後、保存後ともに液中の異物が少なく、異物特性および異物経時特性が良好なものであった。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】本発明において使用されるろ過装置の一例を示した概略構成図である。
【図2】膜形成用材料を用いたパターン形成方法の手順の一例を示した説明図である。
【符号の説明】
【0198】
1…基板、2A…有機膜、2B…有機膜パターン、3A…レジスト膜、3B…レジストパターン、4…マスク、5…被覆層、11…ろ過装置、12…第一のろ過部、13…第二のろ過部、14…母液貯留槽、15…ろ液貯留槽、21〜23…流路、31…加圧用配管、32〜33…配管。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート基を2個以上有する金属化合物(W)が溶剤(S)に溶解してなる膜形成用材料の製造方法であって、
前記金属化合物(W)を前記溶剤(S)に溶解して得られる溶液(R1)中のイソシアン酸を除去する工程と、
前記イソシアン酸を除去した後、前記溶液(R1)を不活性ガス雰囲気下でろ過する工程とを有することを特徴とする膜形成用材料の製造方法。
【請求項2】
前記イソシアン酸の除去が、前記溶液(R1)を、減圧下で脱気処理することにより行われる請求項1記載の膜形成用材料の製造方法。
【請求項3】
前記イソシアン酸の除去が、前記溶液(R1)を、常圧下で静置することにより行われる請求項1または2記載の膜形成用材料の製造方法。
【請求項4】
前記溶剤(S)が、前記金属化合物(W)を溶解する前に予め脱水処理されたものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の膜形成用材料の製造方法。
【請求項5】
前記溶剤(S)が、前記金属化合物(W)と反応する官能基を有さない溶剤(S1)を含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の膜形成用材料の製造方法。
【請求項6】
前記溶剤(S1)の沸点が155℃以上である請求項5記載の膜形成用材料の製造方法。
【請求項7】
前記溶剤(S1)が、下記一般式(s−1)で表される化合物である請求項5または6記載の膜形成用材料の製造方法。
【化1】

[式中、R21〜R23はそれぞれ独立に水素原子、または直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であって、R21〜R23のうち少なくとも2つはアルキル基であり、該アルキル基は、シクロヘキサン環における当該アルキル基が結合した炭素原子以外の炭素原子と結合して環を形成していてもよい。]
【請求項8】
前記溶剤(S1)がp−メンタンである請求項7記載の膜形成用材料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−211160(P2007−211160A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33571(P2006−33571)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】