説明

膜形成用組成物、絶縁膜および半導体装置

【課題】低誘電率で、安定した絶縁性を示し、かつ、強度に優れ、膜厚や特性の不本意なばらつきが抑制された絶縁膜の形成に好適に用いることができる膜形成用組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の膜形成用組成物は、分子内に、アダマンタン型のかご型構造を含む部分構造a1と、重合性の官能基とを有する重合性化合物および/または当該重合性化合物が部分的に重合した重合体を含むものであって、アセチレン結合を含むアセチレン系反応基を、分子内に複数個備えたオリゴアセチレン体を前記重合性化合物として含むとともに、前記オリゴアセチレン体が有する前記アセチレン系反応基の少なくとも一部が水素原子で置換された構造を有する水素化体を含み、前記重合性化合物が重合していない状態とした場合における、前記オリゴアセチレン体と前記水素化体の総モル数に対する、前記水素化体のモル分率が0.01〜10モル%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜形成用組成物、絶縁膜および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子材料分野においては、半導体デバイスの高集積化、高速化、高性能化が進むにしたがって、半導体集積回路の配線間抵抗の増大や電気容量の増大による遅延時間が大きな問題となってきている。この遅延時間を減少させ、半導体デバイスをより高速化させるためには、低誘電率の絶縁膜を回路に用いることが必要である。
【0003】
従来、絶縁膜の低誘電率化を図るために、熱分解性成分(空孔形成材)を含む組成物を用い、絶縁膜形成の際の加熱焼成工程において、前記熱分解性成分を分解させ、空孔を形成する方法が用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このような方法を用いた場合、形成される絶縁膜は、強度が低いものとなる。また、形成される絶縁膜に不本意な膜厚のばらつきを生じやすく、各部位での特性差が大きくなるという問題もあった。
【0004】
また、従来においては、形成される絶縁膜の絶縁性が安定せず、抵抗値が比較的低い絶縁膜が形成されてしまうことがあるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−243903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低誘電率で、安定した絶縁性を示し、かつ、強度に優れ、膜厚や特性の不本意なばらつきが抑制された絶縁膜を提供すること、前記絶縁膜の形成に好適に用いることができる膜形成用組成物を提供すること、また、前記絶縁膜を備えた半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記(1)〜(15)に記載の本発明により達成される。
(1) 分子内に、アダマンタン型のかご型構造を含む部分構造a1と、重合性の官能基とを有する重合性化合物および/または当該重合性化合物が部分的に重合した重合体を含む膜形成用組成物であって、
アセチレン結合を含むアセチレン系反応基を、分子内に複数個備えたオリゴアセチレン体を前記重合性化合物として含むとともに、
前記オリゴアセチレン体が有する前記アセチレン系反応基の少なくとも一部が水素原子で置換された構造を有する水素化体を含み、
前記重合性化合物が重合していない状態とした場合における、前記オリゴアセチレン体と前記水素化体の総モル数に対する、前記水素化体のモル分率が0.01〜10モル%であることを特徴とする膜形成用組成物。
【0008】
(2) 前記オリゴアセチレン体は、分子内に、ハロゲン原子を有していないものである上記(1)に記載の膜形成用組成物。
【0009】
(3) 前記オリゴアセチレン体は、前記アセチレン系反応基が芳香環に直接結合した構造を有するものである上記(1)または(2)に記載の膜形成用組成物。
【0010】
(4) 前記芳香環は、前記かご型構造に直接結合したものである上記(3)に記載の膜形成用組成物。
【0011】
(5) 前記オリゴアセチレン体は、1つの前記芳香環に2つの前記アセチレン系反応基が直接結合した構造を有するものである上記(3)または(4)に記載の膜形成用組成物。
【0012】
(6) 前記オリゴアセチレン体において、一方の前記アセチレン系反応基は、他方の前記アセチレン系反応基のメタ位に存在するものである上記(5)に記載の膜形成用組成物。
【0013】
(7) 2つの前記アセチレン系反応基は、いずれも、前記芳香環が前記かご型構造に結合する部位のメタ位に存在するものである上記(5)または(6)に記載の膜形成用組成物。
【0014】
(8) 前記部分構造a1は、ビアダマンタン構造を有するものである上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の膜形成用組成物。
【0015】
(9) 前記ビアダマンタン構造は、置換基としてメチル基を有するものである上記(8)に記載の膜形成用組成物。
【0016】
(10) 前記部分構造a1は、ジアマンタン構造を有するものである上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の膜形成用組成物。
【0017】
(11) 前記オリゴアセチレン体は、分子内に4個のアセチレン系反応基を備えたテトラアセチレン体である上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の膜形成用組成物。
【0018】
(12) 膜形成に際して熱分解することにより、膜中に空孔を形成する機能を有する空孔形成材を含まない上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の膜形成用組成物。
【0019】
(13) 上記(1)ないし(12)のいずれかに記載の膜形成用組成物を用いて形成されたことを特徴とする絶縁膜。
【0020】
(14) 絶縁膜は、SiOC、SiCNまたはSiOで構成された部材に接触するものである上記(13)に記載の絶縁膜。
【0021】
(15) 上記(13)または(14)に記載の絶縁膜を備えたことを特徴とする半導体装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低誘電率で、安定した絶縁性を示し、かつ、強度に優れ、膜厚や特性の不本意なばらつきが抑制された絶縁膜を提供することができる。また、前記絶縁膜の形成に好適に用いることができる膜形成用組成物を提供することができる。また、前記絶縁膜を備えた半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】所定形状にパターニングされた層間絶縁膜を形成する方法の一例を示す縦断面図である。
【図2】本発明の半導体装置の一例を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
<膜形成用組成物>
まず、本発明の膜形成用組成物について説明する。
【0025】
分子内に、アダマンタン型のかご型構造を含む部分構造a1と、重合性の官能基とを有する重合性化合物および/または当該重合性化合物が部分的に重合した重合体(プレポリマー)を含む膜形成用組成物である。そして、アセチレン結合(炭素−炭素間の三重結合)を含むアセチレン系反応基を、分子内に複数個備えたオリゴアセチレン体を重合性化合物として含むとともに、オリゴアセチレン体が有するアセチレン系反応基の少なくとも一部が水素原子で置換された構造を有する水素化体を含むものである。膜形成用組成物が、このような構成を有することにより、低誘電率で、安定した絶縁性を示し、かつ、強度に優れ、膜厚や特性の不本意なばらつきが抑制された膜を好適に形成することができる。なお、アセチレン系反応基としては、エチニル基や、エチニル基の水素原子がアルキル基、環状アルキル基または芳香族基で置換された置換エチニル基が挙げられるが、エチニル基が好ましい。
【0026】
[1]オリゴアセチレン体
オリゴアセチレン体は、分子内に、アダマンタン型のかご型構造を含む部分構造a1と、複数個のアセチレン系反応基(重合性反応基)とを備えている。
【0027】
オリゴアセチレン体が有する部分構造a1は、アダマンタン型のかご型構造を含むものである。これにより、本発明の膜形成用組成物を用いて形成される膜を、低密度のものとすることができ、形成される膜の誘電率を低いものとすることができる。
【0028】
オリゴアセチレン体が有する部分構造a1としては、例えば、アダマンタン、ポリアダマンタン(例えば、ビアダマンタン、トリアダマンタン、テトラアダマンタン、ヘプタアダマンタン、ヘキサアダマンタン等)、ポリアマンタン(例えば、ジアマンタン、トリアマンタン、テトラマンタン、ペンタマンタン、ヘキサマンタン、ヘプタマンタン等)、これらの化合物を構成する水素原子の少なくとも一部をアルキル基で置換した化合物等の二価基(上記化合物を構成する2つの水素原子を除いた部分の構造)や、これらの二価基を2つ以上備えたもの(例えば、ビ(ジアマンタン)骨格、トリ(ジアマンタン)骨格、テトラ(ジアマンタン)骨格等の複数のジアマンタン骨格が連なったもの(ポリ(ジアマンタン)骨格を有するもの);ビ(トリアマンタン)骨格、トリ(トリアマンタン)骨格、テトラ(トリアマンタン)骨格等の複数のトリアマンタン骨格が連なったもの(ポリ(トリアマンタン)骨格を有するもの);アダマンタン骨格(またはポリアダマンタン骨格)とポリアマンタン骨格とが連なったもの等)等が挙げられる。以下に、部分構造a1の例の一部を、化学構造式で示すが、部分構造a1はこれらに限定されるものではない。ただし、下記式(C−1)〜式(C−7)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基を示し、l、m、nは、それぞれ独立に、1以上の整数を表す。
【0029】
【化1】

【0030】
また、部分構造a1は、それ自体が対称性を有する構造のものであるのが好ましい。これにより、膜形成用組成物中に含まれる重合性化合物および/または当該重合性化合物が部分的に重合した重合体(プレポリマー)の反応性をより適切なものとすることができ、膜を形成すべき部材(例えば、半導体基板)上に膜形成用組成物を付与するのに際し、当該膜形成用組成物の粘度をより確実に好適なものとし、形成される膜の各部位での厚さや特性の不本意なばらつきをより効果的に抑制することができるとともに、最終的に形成される膜の強度を特に優れたものとすることができる。
【0031】
また、部分構造a1は、ビアダマンタン構造を有するものであるのが好ましい。これにより、本発明の膜形成用組成物を用いて形成される膜の誘電率を特に低いものとすることができる。また、膜形成用組成物中に含まれる重合性化合物および/または当該重合性化合物が部分的に重合した重合体(プレポリマー)の反応性をより好適なものとすることができ、膜を形成すべき部材(例えば、半導体基板)上に膜形成用組成物を付与するのに際し、当該膜形成用組成物の粘度をより確実に好適なものとし、形成される膜の各部位での厚さや特性の不本意なばらつきをより効果的に抑制することができるとともに、最終的に形成される膜の強度を特に優れたものとすることができる。
【0032】
また、ビアダマンタン構造は、置換基としてメチル基を有するものであるのが好ましい。これにより、本発明の膜形成用組成物を用いて形成される膜の誘電率を特に低いものとすることができる。また、膜形成用組成物中に含まれる重合性化合物および/または当該重合性化合物が部分的に重合した重合体(プレポリマー)の反応性をより好適なものとすることができ、膜を形成すべき部材(例えば、半導体基板)上に膜形成用組成物を付与するのに際し、当該膜形成用組成物の粘度をより確実に好適なものとし、形成される膜の各部位での厚さや特性の不本意なばらつきをより効果的に抑制することができるとともに、最終的に形成される膜の強度を特に優れたものとすることができる。
【0033】
部分構造a1としては、特に、下記式(2)で示される構造を有するものであるのが好ましい。
【0034】
【化2】

【0035】
これにより、本発明の膜形成用組成物を用いて形成される膜の誘電率を特に低いものとすることができる。また、膜形成用組成物中に含まれる重合性化合物および/または当該重合性化合物が部分的に重合した重合体(プレポリマー)の反応性をより好適なものとすることができ、膜を形成すべき部材(例えば、半導体基板)上に膜形成用組成物を付与するのに際し、当該膜形成用組成物の粘度をより確実に好適なものとし、形成される膜の各部位での厚さや特性の不本意なばらつきをより効果的に抑制することができるとともに、最終的に形成される膜の強度を特に優れたものとすることができる。
【0036】
また、部分構造a1は、ジアマンタン構造を有するものであってもよい。これにより、本発明の膜形成用組成物を用いて形成される膜の誘電率を特に低いものとすることができる。また、膜形成用組成物中に含まれる重合性化合物および/または当該重合性化合物が部分的に重合した重合体(プレポリマー)の反応性をより好適なものとすることができ、膜を形成すべき部材(例えば、半導体基板)上に膜形成用組成物を付与するのに際し、当該膜形成用組成物の粘度をより確実に好適なものとし、形成される膜の各部位での厚さや特性の不本意なばらつきをより効果的に抑制することができるとともに、最終的に形成される膜の強度を特に優れたものとすることができる。
【0037】
オリゴアセチレン体は、上記のように、分子内に、アダマンタン型のかご型構造を含む部分構造a1と、複数個のアセチレン系反応基とを備えたものであればよいが、アセチレン系反応基が芳香環に直接結合した構造を有するものであるのが好ましい。これにより、膜形成用組成物中に含まれる重合性化合物および/または当該重合性化合物が部分的に重合した重合体(プレポリマー)の反応性をより好適なものとすることができ、膜を形成すべき部材(例えば、半導体基板)上に膜形成用組成物を付与するのに際し、当該膜形成用組成物の粘度をより確実に好適なものとし、形成される膜の各部位での厚さや特性の不本意なばらつきをより効果的に抑制することができるとともに、最終的に形成される膜の強度をより優れたものとすることができる。
【0038】
また、オリゴアセチレン体において、アセチレン系反応基が芳香環に直接結合した構造を有するものであるである場合、芳香環は、かご型構造に直接結合したものであるのが好ましい。これにより、膜形成用組成物中に含まれる重合性化合物および/または当該重合性化合物が部分的に重合した重合体(プレポリマー)の反応性をより好適なものとすることができ、膜を形成すべき部材(例えば、半導体基板)上に膜形成用組成物を付与するのに際し、当該膜形成用組成物の粘度をより確実に好適なものとし、形成される膜の各部位での厚さや特性の不本意なばらつきをより効果的に抑制することができるとともに、最終的に形成される膜の強度をより優れたものとすることができる。
【0039】
また、オリゴアセチレン体は、1つの芳香環に2つのアセチレン系反応基が直接結合した構造を有するものであるのが好ましい。これにより、膜形成用組成物中に含まれる重合性化合物および/または当該重合性化合物が部分的に重合した重合体(プレポリマー)の反応性をより好適なものとすることができ、膜を形成すべき部材(例えば、半導体基板)上に膜形成用組成物を付与するのに際し、当該膜形成用組成物の粘度をより確実に好適なものとし、形成される膜の各部位での厚さや特性の不本意なばらつきをより効果的に抑制することができるとともに、最終的に形成される膜の強度をより優れたものとすることができる。
【0040】
オリゴアセチレン体において、1つの芳香環に2つのアセチレン系反応基が直接結合した構造を有するものである場合、一方のアセチレン系反応基は、他方のアセチレン系反応基のメタ位に存在するものであるのが好ましい。これにより、オリゴアセチレン体が有する芳香環に結合した2つのアセチレン系反応基のうち一方のアセチレン系反応基が反応(重合反応)した状態において、芳香環等の電子的な効果がより顕著に発揮され、他方のアセチレン系反応基の反応性をより効果的に低下させることができるとともに、当該反応した部位が適度な立体的な障害となり、他方のアセチレン系反応基(未反応のアセチレン系反応基)の反応性をより好適に制御することができる。その結果、芳香環に結合した2つのアセチレン系反応基についての反応性(第1段目の反応についての反応性と第2段目の反応についての反応性)の選択性をより高いものとすることができるとともに、後に詳述するような焼成工程を、より好適な条件(半導体基板へのダメージを防止しつつ、優れた生産性で膜を形成することができる条件)で行うことができる。
【0041】
1つの芳香環に2つのアセチレン系反応基が直接結合した構造を有するものである場合、2つのアセチレン系反応基は、いずれも、芳香環がかご型構造に結合する部位のメタ位に存在するものであるのが好ましい。これにより、オリゴアセチレン体が有する芳香環に結合した2つのアセチレン系反応基のうち一方のアセチレン系反応基が反応(重合反応)した状態において、芳香環等の電子的な効果がより顕著に発揮され、他方のアセチレン系反応基の反応性をより効果的に低下させることができるとともに、当該反応した部位、および、前述した部分構造a1が適度な立体的な障害となり、他方のアセチレン系反応基(未反応のアセチレン系反応基)の反応性をより好適に制御することができる。その結果、芳香環に結合した2つのアセチレン系反応基についての反応性(第1段目の反応についての反応性と第2段目の反応についての反応性)の選択性をより高いものとすることができるとともに、後に詳述するような焼成工程を、より好適な条件(半導体基板へのダメージを防止しつつ、優れた生産性で膜を形成することができる条件)で行うことができる。
【0042】
オリゴアセチレン体は、分子内に、少なくとも2個のアセチレン系反応基を有するものであればよいが、アセチレン系反応基を3個以上有するものであるのが好ましく、アセチレン系反応基を4個以上6個以下有するものであるのがより好ましく、アセチレン系反応基を4つ有するもの(テトラアセチレン体)であるのがさらに好ましい。これにより、本発明の膜形成用組成物を用いて形成される膜の強度等を特に優れたものとすることができる。
【0043】
また、オリゴアセチレン体(後述する水素化体も同様)は、分子内にハロゲン原子を有していないものであるのが好ましい。ハロゲン原子(重合反応に寄与しないハロゲン原子)は、一般に、立体障害が比較的大きいものであるため、オリゴアセチレン体(後述する水素化体も同様)中に、ハロゲン原子が存在すると、膜形成時において重合反応を好適に進行させるのが困難となる。これに対し、オリゴアセチレン体(後述する水素化体も同様)が分子内に、ハロゲン原子を有していないものであると、膜形成時において重合反応を好適に進行させることができ、三次元的に架橋反応したネットワークを形成することができ、形成される膜の強度を優れたものとすることができる。また、膜形成用組成物中に、ハロゲン原子を有する化合物を含むと、形成される膜の絶縁性が低下する等の問題が発生しやすくなり、形成される膜の信頼性が低いものとなるが、オリゴアセチレン体(後述する水素化体も同様)が、分子内にハロゲン原子を有していないものであると、このような問題の発生も効果的に防止することができる。また、オリゴアセチレン体(後述する水素化体も同様)は、分子内にハロゲン原子を有していないものであると、本発明の膜形成用組成物を用いて形成される膜の絶縁性の安定性を特に優れたものとすることができる。
【0044】
上記のような条件を満足するオリゴアセチレン体としては、例えば、下記式(1’)で示される構造を有するものが挙げられ、中でも、下記式(1)で示される構造を有するものが好ましい。
【0045】
【化3】

【0046】
【化4】

【0047】
ただし、式(1’)、式(1)中、Adは、アダマンタン型のかご型構造を含む部分構造を示し、R、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を示す。後述する式(3)〜式(7)についても同様である。また、式(1’)中、R’は、水素原子、アルキル基、環状アルキル基または芳香族基を表す。
【0048】
オリゴアセチレン体がこのような構造を有するものであることにより、本発明の膜形成用組成物を用いて形成される膜の誘電率を特に低いものとすることができる。また、膜の生産性を特に優れたものとすることができるとともに、形成される膜の各部位での厚さや特性の不本意なばらつきをより効果的に抑制することができる、最終的に形成される膜の強度を特に優れたものとすることができる。また、本発明の膜形成用組成物を用いて形成される膜の絶縁性の安定性を特に優れたものとすることができる。
【0049】
なお、本発明の膜形成用組成物は、複数種のオリゴアセチレン体を含むものであってもよい。
【0050】
以下の説明では、オリゴアセチレン体が上記式(1)で示される構造を有する場合について、中心的に説明する。
【0051】
[2]水素化体
水素化体は、オリゴアセチレン体が有するアセチレン系反応基の少なくとも一部が水素原子で置換された構造を有している。
【0052】
上述したオリゴアセチレン体とともに、このような水素化体を、所定の割合で含むことにより、重合反応を進行させて膜を形成する際に、重合反応を十分に進行させつつも、重合反応が過度に進行し、形成される膜が柔軟性等に劣ったものとなるのを確実に防止することできる。また、水素化体は、アセチレン系反応基の少なくとも一部が水素原子で置換された構造を有する以外は、オリゴアセチレン体と同様の構造を有しているため、両者の親和性は高く、膜形成用組成物を用いて形成される膜中において、主としてオリゴアセチレン体に由来する材料で構成された領域と、主として水素化体または水素化体に由来する材料で構成された領域とが相分離する等の問題の発生も確実に防止することができる。このようなことから、優れた膜強度と、被着体(膜を形成すべき部材)に対する優れた密着性とを両立することができる。また、水素化体を含むことにより、膜形成用組成物を構成するアダマンタン型のかご型構造を有する化合物中に占めるアセチレン系反応基(比較的嵩高いアセチレン系反応基)の比率を低減させることができるため、膜形成用組成物の塗工性が向上し、形成される膜について、膜厚の不本意なばらつきを効果的に抑制することができる。なお、水素化体は、重合性化合物が重合していない状態において上述したような構造を有するものとして含まれるものであればよく、膜形成用組成物中において、独立した化合物(重合性化合物としてのオリゴアセチレン体が有するアセチレン系反応基の少なくとも一部が水素原子で置換された構造を有する化合物)として含まれるものであってもよいし、重合によりプレポリマー内に取り込まれているものであってもよい。
【0053】
水素化体は、独立した化合物またはプレポリマーの構成成分として、膜形成用組成部中に所定の割合で含まれている。すなわち、重合性化合物が重合していない状態とした場合における、オリゴアセチレン体と水素化体の総モル数に対する、水素化体のモル分率(水素化体の相対含有率)が0.01〜10モル%である。このような範囲で、水素化体を含むことにより、上述したような効果が得られる。これに対し、水素化体の含有率が前記下限値未満であると、重合反応を進行させて膜を形成する際に、重合反応が過度に進行し、形成される膜が柔軟性等に劣ったものとなり、クラック等の欠陥を生じやすくなり、被着体(膜を形成すべき部材)に対する優れた密着性、形成される膜の信頼性を十分に優れたものとすることができない。また、膜形成用組成物の塗工性が向上し、形成される膜について、膜厚の不本意なばらつきが生じやすくなる。他方、水素化体の含有率が前記上限値を超えると、膜成形用組成物を用いて形成される膜の強度が顕著に低下する。また、形成される膜の誘電率が高くなる傾向が顕著となる。
【0054】
上記のように、重合性化合物が重合していない状態とした場合における、オリゴアセチレン体と水素化体の総モル数に対する、水素化体のモル分率(水素化体の相対含有率)は、0.01〜10モル%であるが、0.05〜5モル%であるのが好ましく、0.1〜4モル%であるのがより好ましい。これにより、上述したような効果はより顕著に発揮される。
【0055】
なお、水素化体の含有率(相対含有率)は、いかなる方法により求めるものであってもよいが、水素化体の含有率(相対含有率)を直接的に求めることができない場合には、例えば、原料、中間生成物についての未反応の成分の量等から間接的に求めてもよい。また、このような場合において、理論上求められる値(計算値)が所定の幅を有するものである場合には、その計算値の最小値および最大値が上記範囲内に含まれる値であるのが好ましい。これにより、上述したような効果が確実に発揮される。
【0056】
オリゴアセチレン体が上記式(1)で示される構造を有するもの(テトラアセチレン体)である場合、水素化体としては、例えば、下記式(3)〜式(7)に示されるようなものが挙げられる。
【0057】
【化5】

【0058】
【化6】

【0059】
【化7】

【0060】
【化8】

【0061】
【化9】

【0062】
膜形成用組成物中の固形分に対するハロゲンの含有率(ハロゲン原子の質量換算)は、30ppm以下であるのが好ましく、10ppm以下であるのがより好ましい。これにより、膜形成用組成物を用いて形成される膜の絶縁性が低下する等の問題を確実に防止することでき、形成される膜の信頼性を特に高いものとすることができる。
【0063】
膜形成用組成物中における、重合性化合物としてのオリゴアセチレン体の含有率と、水素化体の含有率と、重合性化合物が部分的に重合した重合体(プレポリマー)の含有率との和は、0.5〜30wt%であるのが好ましく、1.0〜18wt%であるのがより好ましい。
【0064】
[3]溶媒
膜形成用組成物は、重合性化合物としてのオリゴアセチレン体および水素化体を、独立した化合物として、および/または、重合体(プレポリマー)の構成成分として含むものであればよいが、通常、これらを溶解する溶媒を含むものである。
【0065】
溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、メチル−1,3−ブチレングリコールアセテート、1,3−ブチレングリコール−3−モノメチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メチル−3−メトキシプロピオネート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アニソール、メシチレン等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、溶媒としては、シクロペンタノンおよびシクロヘキサノンが好ましい。膜形成用組成物を構成する溶媒としては、例えば、オリゴアセチレン体・水素化体の合成や上述した重合体(プレポリマー)の合成に用いた溶媒(反応溶媒)等を含むものであってもよい。
【0066】
膜形成用組成物における溶媒の含有率は、特に限定されないが、70〜98wt%であるのが好ましい。
【0067】
[4]その他の成分
膜形成用組成物は、上記以外の成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、界面活性剤;シランカップリンク剤等のカップリング剤;ラジカル開始剤、ジスルフィド類等の触媒等が挙げられる。
【0068】
また、膜形成用組成物は、感光剤としてのナフトキノンジアジド化合物等を含むものであってもよい。これにより、膜形成用組成物を、感光性を有する表面保護膜の形成に好適に用いることができる。
【0069】
なお、本発明において、膜形成用組成物は、熱分解性により発泡し、形成される膜中に空孔を形成する空孔形成材を含まないものであるのが好ましい。従来、膜の誘電率を低下させる目的で空孔形成材が用いられていたが、このような空孔形成材を用いた場合、形成される膜の強度が低下したり、膜の各部位での不本意な厚さのばらつき、特性のばらつきを招く等の問題があったが、本発明においては、空孔形成材を用いなくても、形成される膜の誘電率を十分に低いものとすることができる。そして、空孔形成材を含まないことにより、上記のような問題の発生を確実に防止することができる。
【0070】
上記のような膜形成用組成物は、そのまま、膜の形成に用いるものであってもよいが、膜を形成すべき部材(例えば、半導体基板)上に付与するのに先立ち、加熱処理に供されるものであってもよい。これにより、膜形成用組成物を、重合性化合物が部分的に重合した重合体(プレポリマー)を含むものとすることができ、膜形成用組成物の粘度をより確実に好適なものとし、形成される膜の各部位での厚さや特性の不本意なばらつきをより効果的に抑制することができるとともに、最終的に形成される膜の強度を特に優れたものとすることができる。また、膜を形成すべき部材(例えば、半導体基板)上への膜形成用組成物を付与するのに先立って膜形成用組成物に加熱処理を施すことにより、形成すべき膜が比較的厚いものであっても好適に形成することができる。また、膜を形成すべき部材(例えば、半導体基板)上への膜形成用組成物を付与するのに先立って膜形成用組成物に加熱処理を施すことにより、当該部材上において加える熱量を少なくすることができるため、当該部材への加熱によるダメージをより確実に防止することができる。このような熱処理を施す場合、熱処理の条件としては、加熱温度:120〜190℃、加熱時間:3〜11時間であるのが好ましく、加熱温度:140〜180℃、加熱時間:3〜9時間であるのがより好ましい。また、上記のような加熱処理は、異なる条件を組み合わせて行ってもよい。例えば、加熱温度:150〜190℃、加熱時間:1〜6時間という条件で行う第1の熱処理と、加熱温度:120〜160℃、加熱時間:2〜9時間という条件で行う第2の熱処理とを施してもよい。
【0071】
<膜形成用組成物の製造方法>
次に、上述したような本発明の膜形成用組成物の製造方法の好適な実施形態について説明する。
【0072】
本実施形態の膜形成用組成物の製造方法は、分子内に、アダマンタン型のかご型構造を含む部分構造a1と、炭素原子に結合したハロゲン原子とを有する化合物Aを用意する化合物A用意工程と、化合物Aをアセチレン誘導体と反応させ、ハロゲン原子をアセチレン誘導体で置換するアセチレン誘導体導入工程と、MgまたはLiを作用させ、さらに、水素源を作用させることにより、アセチレン誘導体導入工程で未反応であった炭素−ハロゲン結合を炭素−水素結合に置換する水素化工程(脱ハロゲン化工程)と、重合性化合物を部分的に重合させる部分重合工程とを有する。アセチレン誘導体がトリ置換シリルアセチレン基の場合、水素化工程(脱ハロゲン化工程)と部分重合工程との間など適切な工程に、加水分解により、トリ置換シリル基を脱離する脱トリ置換シリル化工程を有していても良い。
【0073】
このような方法を用いることにより、低誘電率で、安定した絶縁性を示し、かつ、強度に優れ、被着体との密着性に優れ、膜厚の不本意なばらつきが抑制された絶縁膜の形成に好適に用いることができる膜形成用組成物を好適に製造することができる。
【0074】
[化合物A用意工程]
まず、分子内に、アダマンタン型のかご型構造を含む部分構造a1と、炭素原子に結合したハロゲン原子とを有する化合物Aを用意する。化合物Aは、アセチレン系反応基がハロゲン原子で置き換わった以外は、前述したオリゴアセチレン体と同様の構造を有する。すなわち、例えば、製造すべき膜形成用組成物がオリゴアセチレン体として上記式(1)で示される構造を有するものを含むものである場合、化合物Aとしては、下記式(8)で示される構造を有するものを用いる。
【0075】
【化10】

【0076】
ただし、式(8)中、Adは、アダマンタン型のかご型構造を含む部分構造を示し、X、X、X、Xは、それぞれ独立に、ハロゲン原子を示し、R、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を示す。後述する式(9)〜式(17)、式(9’)〜式(17’)についても同様である。
【0077】
化合物Aが有するハロゲン原子は、臭素原子であるのが好ましい。これにより、後に詳述するアセチレン誘導体導入工程および水素化工程(脱ハロゲン化工程)における反応性をより高いものとすることができ、未反応のハロゲン原子を含む化合物が膜形成用組成物中に含まれることをより効果的に防止することができる。その結果、膜形成用組成物を用いて形成される膜の信頼性をより高いものとすることができる。
【0078】
化合物Aが上記のような構造を有するものであることにより、後に詳述する水素化工程(脱ハロゲン化工程)における反応性をより高いものとすることができ、未反応のハロゲン原子を含む化合物が膜形成用組成物中に含まれることをより効果的に防止することができる。その結果、膜形成用組成物を用いて形成される膜の信頼性をより高いものとすることができる。
【0079】
[アセチレン誘導体導入工程]
次に、化合物Aをアセチレン誘導体と反応させ、ハロゲン原子をアセチレン誘導体で置換したアセチレン誘導体導入体(エチニル体)を得る。
【0080】
特に、化合物Aが上記式(8)で示される構造を有する場合には、本工程により、下記式(9’)に示すような化合物が主生成物として得られる。なお、式(9’)中、R’’は、アルキル基、環状アルキル基、芳香族基またはトリ置換シリル基を表す。後述する式(10’)〜式(17’)についても同様である。本工程において、式(9’)中のR’’がアルキル基であるアセチレン誘導体導入体を得る場合、アセチレン誘導体としては、例えば、1−プロピン、1−ブチン、1−ペンチン、1−ヘキシン、1−ヘプチン等を用いることができ、また、本工程において、式(9’)中のR’’が環状アルキル基であるアセチレン誘導体導入体を得る場合、アセチレン誘導体としては、例えば、シクロヘキシルアセチレン、アダマンチルアセチレン等を用いることができ、また、本工程において、式(9’)中のR’’が芳香族基であるアセチレン誘導体導入体を得る場合、アセチレン誘導体としては、例えば、フェニルアセチレン、ナフチルアセチレン、フルオレニルアセチレン等を用いることができ、また、本工程において、式(9’)中のR’’がトリ置換シリル基であるアセチレン誘導体導入体を得る場合、アセチレン誘導体としては、例えば、トリメチルシリルアセチレン、トリエチルシリルアセチレン、トリイソプロピルシリルアセチレンなどのトリアルキル置換シリルアセチレン、トリフェニルシリルアセチレンなどのトリアリール置換アセチレン等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
【化11】

【0082】
また、本発明においては、アセチレン誘導体として、トリ置換シリルアセチレンを用いるのが好ましく、トリメチルシリルアセチレンを用いるのがより好ましい。これにより、上記のような反応の反応速度を特に高いものとし、アセチレン誘導体導入体(トリ置換シリルエチニル体)の収率をより高いものとすることができる。また、脱トリ置換シリル化工程においても、反応速度を特に高いものとし、脱トリ置換シリル体の収率をより高いものとすることができる。
【0083】
アセチレン誘導体として、トリ置換シリルアセチレンを用いた場合には、本工程により、下記式(9)に示すような化合物が得られる。なお、式(9)中、R、R、Rは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基等の炭化水素基を示す。後述する式(10)〜式(17)についても同様である。
【0084】
【化12】

【0085】
また、本工程においては、トリフェニルホスフィン((Ph)P)を用いるのが好ましい。これにより、上記のような反応の反応速度を特に高いものとし、膜形成用組成物の生産性をより優れたものとすることができる。また、水素化工程(脱ハロゲン化工程)に供される組成物(アセチレン誘導体導入体(エチニル体)を含む組成物)中に、好ましくない不純物が残存し、水素化工程(脱ハロゲン化工程)に悪影響を及ぼすことを確実に防止することができる。また、最終的に得られる膜形成用組成物中に不純物が残存するのを効果的に防止することができる。
【0086】
また、本工程においては、ヨウ化銅(I)を用いるのが好ましい。これにより、上記のような反応の反応速度を特に高いものとし、膜形成用組成物の生産性をより優れたものとすることができる。また、水素化工程(脱ハロゲン化工程)に供される組成物(アセチレン誘導体導入体(エチニル体)を含む組成物)中に、好ましくない不純物が残存し、水素化工程(脱ハロゲン化工程)に悪影響を及ぼすことを確実に防止することができる。また、最終的に得られる膜形成用組成物中に不純物が残存するのを効果的に防止することができる。
【0087】
また、本工程においては、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム(Pd((Ph)P)Cl)を用いるのが好ましい。これにより、上記のような反応の反応速度を特に高いものとし、膜形成用組成物の生産性をより優れたものとすることができる。また、水素化工程(脱ハロゲン化工程)に供される組成物(アセチレン誘導体導入体(エチニル体)を含む組成物)中に、好ましくない不純物が残存し、水素化工程(脱ハロゲン化工程)に悪影響を及ぼすことを確実に防止することができる。また、最終的に得られる膜形成用組成物中に不純物が残存するのを効果的に防止することができる。
【0088】
また、本工程においては、アミンとしてトリエチルアミンを用いるのが好ましい。これにより、上記のような反応の反応速度を特に高いものとし、膜形成用組成物の生産性をより優れたものとすることができる。また、水素化工程(脱ハロゲン化工程)に供される組成物(アセチレン誘導体導入体(エチニル体)を含む組成物)中に、好ましくない不純物が残存し、水素化工程(脱ハロゲン化工程)に悪影響を及ぼすことを確実に防止することができる。また、最終的に得られる膜形成用組成物中に不純物が残存するのを効果的に防止することができる。
【0089】
[水素化工程(脱ハロゲン化工程)]
上述したように、アセチレン誘導体導入工程では、化合物Aが有するハロゲン原子がアセチレン誘導体で置換されたアセチレン誘導体導入体(エチニル体)が形成される。
【0090】
しかしながら、このようなアセチレン誘導体導入工程の反応は、反応率を100%にすることが困難であり、通常、アセチレン誘導体で置換されていないハロゲン原子が残存する化合物が、反応生成物中に含まれることとなる。そして、このような未反応のハロゲン原子が残存する化合物(特に、分子内に複数個のハロゲン原子を有する化合物Aを原料として用いてアセチレン誘導体導入工程を行った場合の反応生成物中に含まれる、未反応のハロゲン原子が残存する化合物)は、各種精製法によっても完全に除去することが困難であり、これにより、最終的に得られる膜形成用組成物の絶縁性等に大きな悪影響が及ぼされることが、本発明者の鋭意研究の結果、明らかになった。そこで、本実施形態の製造方法では、アセチレン誘導体導入工程において、アセチレン誘導体で置換されなかったハロゲン原子を、水素で置換することにより、水素化体の前駆物質(脱トリメチルシリル化工程を行う場合)または水素化体(脱トリメチルシリル化工程が不要な場合)を得ることとした。これにより、上記のような未反応のハロゲン原子が残存する化合物を含むことによる悪影響を排除することができるだけでなく、水素化体を製造するための原料を別途用意することなく、水素化体をオリゴアセチレン体と同一の系内で合成することができ、上述したような膜形成用組成物の生産性を特に優れたものとすることができ、さらには、原料の無駄を排除することができ、省資源の観点からも好ましい。
【0091】
特に、本実施形態では、アセチレン誘導体導入工程で得られた反応生成物に対し、MgまたはLiを作用させ、さらに、水素源を作用させることにより、アセチレン誘導体導入工程で未反応であった炭素−ハロゲン結合を炭素−水素結合に置換する反応(残存する未反応のハロゲン原子を水素で置換する反応)を行う。このような反応は、一般に、きわめて高い反応率で進行するため、未反応のハロゲン原子を有する化合物が、実質的に組成物中に含まれないようにすることができる。
【0092】
化合物A用意工程で用意する化合物Aが上記式(8)で示されるものである場合、本工程に供される組成物中に含まれる可能性のある、未反応のハロゲン原子が残存する化合物としては、未反応の化合物Aに加え、例えば、下記式(10’)〜式(13’)に示されるようなものが挙げられる。
【0093】
【化13】

【0094】
【化14】

【0095】
【化15】

【0096】
【化16】

【0097】
上記式(10’)〜式(13’)で示される化合物は、本工程により、それぞれ、下記式(14’)〜式(17’)に示されるような化合物となる。
【0098】
【化17】

【0099】
【化18】

【0100】
【化19】

【0101】
【化20】

【0102】
特に、前記工程で、アセチレン誘導体としてトリ置換シリルアセチレンを用いた場合、上記式(10’)〜式(13’)に対応する化合物は、下記式(10)〜式(13)で示され、これらの化合物は、本工程により、それぞれ、下記式(14)〜式(17)に示されるような化合物となる。
【0103】
【化21】

【0104】
【化22】

【0105】
【化23】

【0106】
【化24】

【0107】
【化25】

【0108】
【化26】

【0109】
【化27】

【0110】
【化28】

【0111】
また、未反応の化合物Aは、本工程により、上記式(7)に示されるような化合物(水素化体)となる。
【0112】
[脱トリメチルシリル化工程]
アセチレン誘導体導入工程において、アセチレン誘導体としてトリ置換シリルアセチレンを用いた場合、次に、加水分解により、トリ置換シリルエチニル基が導入された化合物から、トリ置換シリル基を脱離し、重合性化合物としてのエチニル体(脱トリ置換シリル体)を得る。
【0113】
本工程は、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒と、メタノール等のアルコール系溶媒との混合溶媒中において、炭酸カリウムを作用させることにより進行させることができる。
【0114】
本工程に供される組成物が上記式(9)に示すような化合物を含む場合には、当該化合物は、上記式(1)に示されるようなオリゴアセチレン体(テトラアセチレン体)となる。
【0115】
また、本工程に供される組成物が上記式(14)〜式(17)で示される化合物を含む場合には、これらの化合物は、それぞれ、上記式(3)〜式(6)に示されるような化合物(水素化体)となる。
【0116】
[部分重合工程]
膜形成用組成物は、上述したような重合性化合物(オリゴアセチレン体および/または水素化体)を含むものであってもよいが、前記重合性化合物を部分的に重合させた重合体(プレポリマー)を含むものであってもよい。膜形成用組成物が前記重合性化合物を部分的に重合させた重合体(プレポリマー)を含むものであると、膜形成用組成物の粘度をより確実に好適なものとし、形成される膜の各部位での厚さや特性の不本意なばらつきをより効果的に抑制することができるとともに、最終的に形成される膜の強度を特に優れたものとすることができる。また、膜を形成すべき部材(例えば、半導体基板)上に膜形成用組成物を付与するのに先立って膜形成用組成物に加熱処理を施すことにより、形成すべき膜が比較的厚いものであっても好適に形成することができる。また、膜形成用組成物が前記重合性化合物のプレポリマーを含むものであると、部材(例えば、半導体基板)上に膜を形成する際に、当該部材上において加える熱量を少なくすることができるため、当該部材への加熱によるダメージをより確実に防止することができる。このような前記重合性化合物のプレポリマーを含む膜形成用組成物は、絶縁膜用ワニスとして好適に用いることができる。
【0117】
そこで、本実施形態では、前記工程の後に、前記重合性化合物を部分的に重合させる部分重合工程を有するものとした。
【0118】
本工程は、例えば、触媒を用いないで加熱して反応させる熱重合による方法、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーオキシド、アゾビスイソブチロニトリル等のラジカル開始剤を用いたラジカル重合による方法、光照射等を用いた光ラジカル重合による方法、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)ジクロリド及びテトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム(0)などのパラジウム触媒を用いた重合による方法、酢酸銅(II)などの遷移金属触媒を用いた重合による方法、塩化モリブデン(V)、塩化タングステン(VI)及び塩化タンタル(V)などの遷移金属塩化物を用いた重合による方法などを挙げることができる。これらの中でも、反応を制御しやすく所望の重合体が得られ、また、金属触媒等の残存による不純物除去が不要なことから、熱重合やラジカル開始剤を用いたラジカル重合による方法が望ましい。
【0119】
前記熱重合の方法で調製する場合、熱処理の条件としては、加熱温度:120〜190℃、加熱時間:3〜11時間であるのが好ましく、加熱温度:140〜180℃、加熱時間:3〜9時間であるのがより好ましい。ラジカル開始剤を使用する場合は、熱処理の条件としては、加熱温度:40〜190℃、加熱時間:0.5〜11時間であるのが好ましく、加熱温度:60〜180℃、加熱時間:0.5〜9時間がより好ましい。また、前記工程で得られた組成物(重合性化合物を含む組成物)に対する加熱処理は、異なる条件を組み合わせて行ってもよい。例えば、熱重合においては、前記工程で得られた組成物(重合性化合物を含む組成物)に対しては、加熱温度:150〜190℃、加熱時間:1〜6時間という条件で行う第1の熱処理と、加熱温度:120〜160℃、加熱時間:2〜9時間という条件で行う第2の熱処理、あるいは、さらに多段階の熱処理を施すことも適宜選択できる。ラジカル開始剤を使用する場合においても、例えば、加熱温度:60〜190℃、加熱時間:0.5〜6時間という条件で行う第1の熱処理と、加熱温度:40〜160℃、加熱時間:0.5〜9時間という条件で行う第2の熱処理、あるいは、さらに多段階の熱処理を施すことも適宜選択できる。なお、上記のような加熱処理は、前記工程で得られた組成物(重合性化合物を含む組成物)を溶媒に溶解した状態で行うのが好ましい。また、上記のような加熱処理によるプレポリマーの合成は、調製すべき膜形成用組成物の構成成分としての溶媒中で行うものであってもよいし、膜形成用組成物の構成成分とは異なる組成の溶媒中で行うものであってもよい。すなわち、所定の溶媒を用いて重合性化合物を重合させプレポリマーを得た後、当該溶媒を、目的とする膜形成用組成物の構成成分としての溶媒に置換してもよい。重合性化合物が部分的に重合した重合体(プレポリマー)の合成に用いることのできる溶媒(反応溶媒)としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール系溶剤;アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ペンタノン、2−ヘプタノン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、1,4−ジメトキシベンゼン等のエーテル系溶剤;ベンゼン、トルエン、メシチレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、プロピルベンゼン、ヘプタン、ヘキサン、n−オクタン等の芳香族および脂肪族炭化水素系溶剤;クロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化物系溶剤;N−メチルピロリドン等のアミド系溶剤等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0120】
また、調製すべき膜形成用組成物が重合性化合物のプレポリマーを含むものである場合、未重合の重合性化合物は精製により除去される(未重合の重合性化合物が実質的に含まれていない)のが好ましい。これにより、膜形成用組成物を用いて形成される膜の強度等の諸特性を、より確実に優れたものとすることができる。
【0121】
<絶縁膜>
本発明の絶縁膜は、上述したような膜形成用組成物を用いて形成されるものである。
【0122】
図1は、所定形状にパターニングされた層間絶縁膜を形成する方法の一例を示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0123】
本発明の絶縁膜は、例えば、上述したような膜形成用組成物を、半導体基板等の部材上に付与し、これに対し、加熱や活性エネルギー線の照射等の処理(焼成処理)を施すことにより形成される。
【0124】
上記部材上に付与されるのに際し、膜形成用組成物は、重合性化合物が部分的に重合した重合体(プレポリマー)を含むものであるのが好ましい。これにより、部材上に付与される膜形成用組成物の粘度をより確実に好適なものとし、形成される膜の各部位での厚さや特性の不本意なばらつきをより効果的に抑制することができるとともに、最終的に形成される膜の強度を特に優れたものとすることができる。また、形成すべき膜が比較的厚いものであっても好適に形成することができる。
【0125】
上記のような焼成処理を行うことにより、重合性化合物や重合性化合物が部分的に重合したプレポリマーが有する重合性反応基が反応し、三次元的に架橋反応した構造を有する重合体(硬化物)で構成された膜(絶縁膜)が得られる。このような化学構造を有する重合体(硬化物)で構成された膜(絶縁膜)は、強度、耐熱性等に優れている。また、上記のようにして得られる膜は、誘電率が低いものである。また、上記のようにして得られる膜は、各部位での膜厚や特性についての不本意なばらつきが抑制されたものである。このようなことから、上記のような膜は、半導体装置を構成する絶縁膜として好適に用いることができる。
【0126】
膜形成用組成物を部材上に付与する方法としては、例えば、スピンナーを用いた回転塗布、スプレーコーターを用いた噴霧塗布、浸漬、印刷、ロールコーティング等による方法が挙げられる。
【0127】
焼成処理に先立ち、例えば、部材上に付与された膜形成用組成物から溶媒を除去する処理(脱溶媒処理)を施してもよい。このような脱溶媒処理は、例えば、加熱処理、減圧処理などにより行うことができる。
【0128】
焼成処理は、例えば、処理温度:200〜450度、処理時間:1〜60分間という条件で行うのが好ましく、処理温度:250〜400度、処理時間:5〜30分間という条件で行うのがより好ましい。また、焼成工程では、異なる条件の加熱処理を組み合わせて行ってもよい。
【0129】
また、かかる絶縁膜を、例えば、半導体基板に形成された配線層間を絶縁する層間絶縁膜に適用する場合、この半導体基板が備える配線層間を電気的に接続するビア(導体ポスト)が、前記層間絶縁膜の厚さ方向に貫通するように形成される。そのため、層間絶縁膜は、ビア(導体ポスト)の形状に対応してパターニングされた所定形状をなしている必要がある。
【0130】
このように所定形状をなす層間絶縁膜は、例えば、次のようにして形成することができる。
【0131】
まず、SiN膜2が形成された半導体基板1を用意し、このSiN膜2上に、層間絶縁膜3、ハードマスク層4およびフォトレジスト層8をこの順で形成する(図1(a)参照。)。
【0132】
なお、層間絶縁膜3は、本発明の膜形成用組成物を用いて上述した方法により形成される。
【0133】
次に、フォトマスクを用いてフォトレジスト層8を露光・現像することにより、ビア(導体ポスト)、配線溝等を形成する位置に開口部を有する形状にパターニングされたフォトレジスト層8を得る(図1(b)参照。)。
【0134】
次に、処理ガスとしてCFのようなフッ素系ガス等のハードマスク材質のパターニングに一般的に用いられるガスによるリアクティブイオンエッチング法により、フォトレジスト層8をマスクとして用いてハードマスク層4をエッチングすることにより、所定形状をなすハードマスク層4を形成する(図1(c)参照。)。
【0135】
次に、処理ガスとして有機膜等のエッチングに一般的に用いられる窒素と水素の混合ガス、またはアンモニアガス等を用いたリアクティブイオンエッチング法により、パターニングされたフォトレジスト層8およびハードマスク層4をマスクとして用いて層間絶縁膜3をエッチングすることにより、所定形状をなす層間絶縁膜3を形成する(図1(d)参照。)。
【0136】
以上のようにして所定形状をなす層間絶縁膜3が得られるが、本発明では、層間絶縁膜3が上記のように本発明の膜形成用組成物を用いて形成されているので、層間絶縁膜3が高誘電率化してしまうのをより的確に抑制または防止することができ、この膜の特性を確実に維持させることができる。
【0137】
絶縁膜は、SiOC、SiCNまたはSiOで構成された部材(例えば、半導体基板、中間膜等)に接触するものであるのが好ましい。これにより、当該部材に対する絶縁膜の密着性等を特に優れたものとすることができる。
【0138】
絶縁膜の厚さは、特に限定されないが、当該絶縁膜を半導体用層間絶縁膜として用いる場合においては、0.01〜20μmであるのが好ましく、0.02〜10μmであるのがより好ましく、0.05〜0.7μmであるのがさらに好ましい。
【0139】
また、絶縁膜を半導体用の保護膜として用いる場合においては、当該絶縁膜の厚さは、0.01〜70μmであるのが好ましく、0.05〜50μmであるのがより好ましい。
【0140】
<半導体装置>
次に、本発明の半導体装置について好適な実施の形態に基づいて説明する。
【0141】
図2は、本発明の半導体装置の一例を模式的に示す縦断面図である。
図2に示すように、半導体装置100は、素子が形成された半導体基板1と、半導体基板1の上側(図2上側)に設けられたSiN膜2と、SiN膜2の上に設けられた層間絶縁膜3およびバリア層6で覆われた銅配線層7を有している。本実施形態の半導体装置100は、本発明の絶縁膜として、層間絶縁膜3を備えている。
【0142】
層間絶縁膜3には、配線すべきパターンに対応した凹部が形成されており、その凹部内には銅配線層7が設けられている。
【0143】
また、層間絶縁膜3と、銅配線層7との間には、改質処理層5が設けられている。
また、層間絶縁膜3の上側(SiN膜2と反対側面)には、ハードマスク層4が形成されている。
【0144】
上記のような半導体装置100は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、上記絶縁膜で説明した方法を用いて、層間絶縁膜3とハードマスク層4とで構成される絶縁膜の所定の位置に、貫通した配線溝が形成された所定形状をなす絶縁膜を形成する。
【0145】
次に、前記配線溝の内面に、プラズマ処理等により、改質処理層5を形成し、さらにPVD法やCVD法等の方法により、Ta、Ti、TaN、TiN、WN等で構成されるバリア層6を形成する。
【0146】
さらに、電解めっき法等により、配線層となる銅配線層7を形成し、その後、CMP法により配線部以外の銅配線層およびバリアメタル層を研磨除去、平坦化することで、半導体装置100を得ることができる。
【0147】
なお、層間絶縁膜3は、上記の本発明の絶縁膜についての説明で述べたような方法により形成することができるが、予め、樹脂膜のドライフィルムを用意し、これを半導体基板1のSiN膜2の上に積層するように形成することもできる。より具体的には、予め、膜形成用組成物を用いて、部材上に樹脂膜を形成して乾燥し、ドライフィルムを得、このドライフィルムを前記部材から剥離し、これを、上記半導体基板1のSiN膜2の上に、積層して、加熱および/または放射線を照射することにより、層間絶縁膜3を形成してもよい。
【0148】
上述した本発明の半導体装置は、上記のような層間絶縁膜(本発明の絶縁膜)を用いているので寸法精度に優れ、絶縁性を十分に発揮できるので、それにより接続信頼性が優れている。
【0149】
また、上述したような層間絶縁膜(本発明の絶縁膜)は、配線層との密着性に優れるので、半導体装置の接続信頼性をさらに向上できる。
【0150】
また、上述したような層間絶縁膜(本発明の絶縁膜)は、弾性率に優れているので、半導体装置の配線を形成するプロセス(例えば、焼成工程)に好適に適合することができる。
【0151】
また、上述したように層間絶縁膜(本発明の絶縁膜)は、半導体装置作製時の絶縁膜の特性変化を抑制・防止することができる。
【0152】
また、上述したような層間絶縁膜(本発明の絶縁膜)は、誘電特性に優れているので、半導体装置の信号損失を低下することができる。
【0153】
また、上述したような層間絶縁膜(本発明の絶縁膜)は、誘電特性に優れているので、配線遅延を低下することができる。
【0154】
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0155】
例えば、上記の説明においては、本発明の絶縁膜としての層間絶縁膜3をSiN膜2の上に形成する例について代表的に説明したが、絶縁膜を形成する位置はこれに限定されない。
【0156】
また、上述した実施形態では、本発明の絶縁膜として層間絶縁膜を備えたものについて代表的に説明したが、本発明の絶縁膜は、層間絶縁膜以外に適用されるものであってもよい。
【0157】
また、上述した実施形態では、化合物A用意工程、アセチレン誘導体導入工程、水素化工程、脱トリ置換シリル化工程に加え、部分重合工程を有するものとして説明したが、部分重合工程、脱トリ置換シリル化工程は行わなくてもよい。
【0158】
また、本発明の膜形成用組成物は、分子内に、アダマンタン型のかご型構造を含む部分構造a1と、重合性の官能基とを有する重合性化合物および/または当該重合性化合物が部分的に重合した重合体を含む膜形成用組成物であって、分子内に複数個のアセチレン系反応基を備えたオリゴアセチレン体を前記重合性化合物として含むとともに、前記オリゴアセチレン体が有する前記アセチレン系反応基の少なくとも一部が水素原子で置換された構造を有する水素化体を所定の割合で含むものであればよく、上述したような方法以外の方法により製造されたものであってもよい。本発明の膜形成用組成物は、例えば、それぞれ、別個に合成されたオリゴアセチレン体と水素化体とを混合することにより調製されたものであってもよい。
【実施例】
【0159】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0160】
[1]膜形成用組成物の製造
(実施例1)
まず、以下のようにして、第1サンプルとしての膜形成用組成物を製造した。
【0161】
[1.1]化合物A用意工程
まず、1,3−ジメチルアダマンタンを用意し、温度計、撹拌機および還流管を備えた4つ口の2000mLフラスコに、四塩化炭素:700mL、臭素:35g(0.22mol)を入れ、撹拌しながら、用意した1,3−ジメチルアダマンタン:32.9g(0.2mol)を、少量ずつ添加した。添加中、内温は20〜30℃に保った。
添加終了後、温度が上昇しなくなってから、さらに1時間反応させた。
【0162】
その後、冷水:約2000mLに注いで、粗生成物を濾別し、純水で洗い、乾燥した。
さらに粗生成物を、熱エタノールにより再結晶した。得られた再結晶物を、減圧乾燥することにより、生成物:37.4gを得た。IR分析によりブロモ基の吸収が690〜515cm−1に見られること、質量分析による分子量が322である結果より、生成物が3,5−ジメチル−1,7−ジブロモアダマンタンであることが示された。
【0163】
次に、フラスコ内で、上記で得た3,5−ジメチル−1,7−ジブロモアダマンタン:33.2g(103.2mmol)および1,3−ジブロモベンゼン:1217g(5161.6mmol)を攪拌し、乾燥窒素下25℃において、臭化アルミニウム(III):24.8g(93.0mmol)を少量ずつ添加した。これを60℃に昇温して8時間攪拌した後、室温に戻し、反応液を得た。5%塩酸水溶液:700mlに、反応液を投入し、攪拌した。水層を除去し、有機層をアセトン:2000mlに投入した。析出物をろ過し、アセトン:1000mlで3回洗浄することにより、3,5−ジメチル−1,7−ビス(3,5−ジブロモフェニル)アダマンタン:57gを得た。質量分析による分子量が632である結果より、生成物が化合物Aとしての3,5−ジメチル−1,7−ビス(3,5−ジブロモフェニル)アダマンタンであることが示された。
【0164】
[1.2]アセチレン誘導体導入工程(トリメチルシリルエチニル化工程)
次に、上記で得られた化合物Aとしての3,5,−ジメチル−1,7−ビス(3,5−ジブロモフェニル)アダマンタン:39.8g(62.9mmol)、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム:3.53g(5.0mmol)、トリフェニルホスフィン:6.60g(25.2mmol)、ヨウ化銅(I):4.79g(25.2mmol)、トリエチルアミン:750mlをフラスコに添加し、攪拌した。これを75℃に昇温した後、トリメチルシリルアセチレン:37.1g(377.7mmol)をゆっくり添加した。これを75℃において7時間攪拌した後、120℃に昇温してトリエチルアミンを留去した。その後、室温に戻し、ジクロロメタン:1000mlを反応液に添加し、20分攪拌した。析出物をろ過により除去し、ろ液に5%塩酸水溶液:1000mlを加えて分液した。有機層を水:1000mlで3回洗浄した後、有機層の溶媒を減圧除去した。得られた化合物をヘキサン:1500mlに溶解させた。不溶物をろ過により除去し、ろ液部のヘキサンを減圧除去した。これにアセトン:1000mlを投入し、析出物をアセトンで3回洗浄することにより、生成物を得た。質量分析の結果等から、生成物が、主として、3,5−ジメチル−1,7−ビス(3,5−ジトリメチルシリルエチニルフェニル)アダマンタンで構成されるものであることが示された。
【0165】
また、この第1サンプルにかかる本工程での生成物についてフラスコ燃焼法およびイオンクロマト法による臭素(Br)の定量分析を行った結果、生成物中の臭素(Br)は3100ppmであった。なお、フラスコ燃焼法およびイオンクロマト法による臭素(Br)の定量分析は、以下の手順に従って行った。すなわち、まず、フラスコ内に吸収液、白金バスケットに試料50mgおよび導火線用濾紙を入れ、フラスコ内には酸素を充填した。その後、濾紙に火をつけ、フラスコを封入した後、サンプルを完全燃焼させた。次に、燃焼により生じたガス成分を吸収液(H:100μL、2NのKOH水溶液:100μL、HO:5mLの混合液)に吸収させ、放冷・定容後、イオンクロマトに導入して測定を行い、測定結果から、臭素量を求めた。
【0166】
また、生成物についての13C−NMRの結果、120〜124ppmの範囲にシグナルが確認されたことから、生成物中に、化合物Aが有していた臭素原子の一部が前記生成物を構成する化合物中に残存しているものと思われる。
【0167】
[1.3]水素化工程(脱ハロゲン化工程)
次に、マグネシウムリボン:1.5gと脱水テトラヒドロフラン:300mLを温度計、撹拌機および還流管を備えた4つ口の2000mLフラスコに入れた。これを乾燥窒素下25℃で8時間攪拌した。続いて、前記トリメチルシリルエチニル化工程で得られた3,5−ジメチル−1,7−ビス(3,5−ジトリメチルシリルエチニルフェニル)アダマンタンを主成分とする生成物:36.0gを脱水テトラヒドロフラン:700mLに溶かした溶液を少量づつ添加した。添加終了後、60℃に昇温し3時間攪拌した。フラスコを室温に冷却し、乾燥窒素を水素に変更した。再び60℃に昇温し、水素気流下で3時間攪拌した。その後、室温に戻し、メタノール:100mLを添加後30分攪拌した。攪拌終了後、マグネシウムリボンをろ過により除去し、ろ液部のテトラヒドロフラン、メタノールを減圧除去した。これに純水:600mL、アセトン:100mLを投入し、30分攪拌後、固体をろ別した。固体をアセトン:700mLで3回洗浄することにより、生成物を得た。この第1サンプルにかかる本工程での生成物について前記と同様のハロゲンの定量分析を行った結果、生成物中の臭素(Br)は8ppmであった。また、13C−NMRの結果、前記トリメチルシリルエチニル化工程での生成物について確認された120〜124ppmの範囲のシグナルが、本工程後には消失していることが確認された。
【0168】
[1.4]脱トリ置換シリル化工程(脱トリメチルシリル化工程)
上記水素化工程(脱ハロゲン化工程)により得られた生成物:32.3gと炭酸カリウム:1.46g(10.6mmol)とを、テトラヒドロフラン:600mlとメタノール:300mlとの混合溶媒中において、窒素雰囲気下、室温で4時間攪拌させた。これを10%塩酸水溶液:1000mlに投入して、析出物をろ過し、得られた析出物を水:1000mlで洗浄、さらにアセトン:1000mlで洗浄したのち乾燥させた。これにより、生成物:15.0gを得た。質量分析の結果、元素分析等から、生成物が、主として、3,5−ジメチル−1,7−ビス(3,5−ジエチニルフェニル)アダマンタンで構成されるものであることが示された。
【0169】
[1.5]部分重合工程
次に、上記工程で得られた生成物:5gを1,3−ジメトキシベンゼン:45gに溶解させ、乾燥窒素下170℃で3時間反応させ、反応液を一旦室温まで冷却した。GPCにより分子量測定を行ったところ、数平均分子量が41,000であった。再び反応液を加熱し、150℃で6時間反応させ、反応液を、10倍の体積のメタノール/テトラヒドロフラン=3/1の混合溶媒に滴下して沈殿物を集めて乾燥し、2.7gのプレポリマーを得た(収率:54%)。得られたプレポリマー:2gを、シクロペンタノン:18gに溶解させ、フィルターでろ過することにより、有機絶縁膜用ワニスとしての膜形成用組成物(第1サンプル)とした。
【0170】
さらに、上記と同様の方法を用いて、合計10サンプル(第1サンプル〜第10サンプル)の膜形成用組成物を得た。
【0171】
(実施例2〜5)
化合物Aの合成に用いる原料を表1に示すようなものに変更した以外は、前記実施例1と同様にして、それぞれ、合計10サンプル(第1サンプル〜第10サンプル)の有機絶縁膜用ワニスとしての膜形成用組成物を得た。
【0172】
(実施例6)
水素化工程(脱ハロゲン化工程)を、以下のようにして行った以外は、前記実施例1と同様にして、合計10サンプル(第1サンプル〜第10サンプル)の有機絶縁膜用ワニスとしての膜形成用組成物を得た。
【0173】
まず、前記実施例1の化合物A用意工程およびトリメチルシリルエチニル化工程と同様の工程を行うことにより、トリメチルシリルエチニル体を含む生成物を得た。
【0174】
次に、リチウムワイヤー(関東化学製):1.5gと、水素化カルシウムで乾燥蒸留したジエチルエーテル:300mLを温度計、撹拌機および還流管を備えた4つ口の2000mLフラスコに入れた。これを乾燥窒素下−10℃で8時間攪拌した。続いて、前記トリメチルシリルエチニル化工程で得られた生成物(トリメチルシリルエチニル体を含む生成物):36.0gを水素化カルシウムで乾燥蒸留したジエチルエーテル:700mLに溶かした溶液を少量づつ添加した。その後、メタノール:100mLを添加後30分攪拌した。攪拌終了後、リチウムワイヤーをろ過により除去し、ろ液部のジエチルエーテル、メタノールを減圧除去した。これに純水:600mL、アセトン:100mLを投入し、30分攪拌後、固体をろ別した。固体をアセトン:700mLで3回洗浄することにより、生成物を得た。第1サンプルにかかる本工程での生成物について前記と同様のハロゲンの定量分析を行った結果、生成物中の臭素(Br)は9ppmであった。また、13C−NMRの結果、前記トリメチルシリルエチニル体を含む生成物について確認された120〜124ppmの範囲のシグナルが、本工程後には消失していることが確認された。
【0175】
(実施例7〜10)
水素化工程(脱ハロゲン化工程)を前記実施例6で示したのと同様の方法により行った以外は、それぞれ、前記実施例2〜5と同様にして、それぞれ、合計10サンプル(第1サンプル〜第10サンプル)の有機絶縁膜用ワニスとしての膜形成用組成物を得た。
【0176】
(比較例1〜5)
水素化工程(脱ハロゲン化工程)を省略した以外は、それぞれ、前記実施例1〜5と同様にして、それぞれ、合計10サンプル(第1サンプル〜第10サンプル)の有機絶縁膜用ワニスとしての膜形成用組成物を得た。
【0177】
前記各実施例および各比較例の製造条件を表1にまとめて示す。なお、表1中、3,5−ジメチル−1,7−ビス(3,5−ジブロモフェニル)アダマンタンを「A1」、3,3’,5,5’−テトラメチル−7,7’−ビス(3,5−ジブロモフェニル)−1,1’−ビアダマンタンを「A2」、3,3’,5,5’−テトラメチル−7,7’−ジブロモ−1,1’−ビアダマンタンを「A3」、4,9−ビス(3,5−ジブロモフェニル)ジアマンタンを「A4」、4,9−ジブロモジアマンタンを「A5」で示した。
【0178】
また、表1には、各実施例および各比較例についての、アセチレン誘導体導入工程により得られた生成物中の臭素(Br)含有率、水素化工程により得られた生成物中の臭素(Br)含有率の定量結果(それそれ、10サンプルの平均値)をあわせて示した。さらに、表1には、各実施例および各比較例の膜形成用組成物について、重合性化合物が重合していない状態とした場合における、オリゴアセチレン体と水素化体の総モル数に対する、水素化体のモル分率(水素化体の相対含有率)をあわせて示した。なお、水素化体の含有率(相対含有率)としては、アセチレン誘導体導入工程により得られた生成物中の臭素(Br)含有率、水素化工程により得られた生成物中の臭素(Br)含有率の定量結果から理論上求められる最大値(水素化工程で除去された臭素が、すべて分子内に臭素が1原子のみ残っている化合物由来であったものと仮定して求められる計算値)と最小値(水素化工程で除去された臭素が、すべて未反応の化合物A由来であったものと仮定して求められる計算値)を求めた。
【0179】
【表1】

【0180】
[2]絶縁膜の形成(膜付き基板の作製)
前記各実施例および各比較例について、それぞれ、10サンプルの膜形成用組成物を用い、以下のようにして絶縁膜を形成した。
【0181】
まず、有機絶縁膜用ワニスとしての膜形成用組成物を、スピンコーターにより、シリコンウエハ上に塗布した。この際、熱処理後の絶縁膜の厚さが、100nmとなるように、スピンコーターの回転数と時間を設定した。
【0182】
次に、上記のようにして塗膜が設けられたシリコンウエハを、200℃のホットプレート上に1分間置き、塗膜中に含まれる溶媒(シクロペンタノン)を除去した。
【0183】
その後、乾燥した塗膜が設けられたシリコンウエハについて、400℃のオーブン中で窒素雰囲気下30分間の熱処理(焼成処理)を施すことにより、塗膜を構成するプレポリマーを硬化させ、絶縁膜を形成し、膜付き基板(絶縁膜付き基板)を得た。
【0184】
[3]絶縁膜(膜付き基板)についての評価
前記各実施例および各比較例について、それぞれ10サンプルの膜形成用組成物を用いて製造した絶縁膜(膜付き基板)の誘電率、破壊電圧、リーク電流、ガラス転移温度、弾性率、耐熱性および密着性のそれぞれの特性を、下記の評価方法により、評価を行った。
【0185】
[3.1]誘電率
誘電率は、日本エス・エス・エム(株)製、自動水銀プローブCV測定装置SSM495を用いて評価した。
【0186】
[3.2]破壊電圧、リーク電流
破壊電圧、リーク電流は、誘電率と同様に、日本エス・エス・エム(株)製、自動水銀プローブCV測定装置SSM495を用いて評価した。
【0187】
破壊電圧は、1×10−2Aの電流が流れた時に印加した電圧を破壊電圧とし、電界強度(1×10−2Aの電流が流れた時に印加した電圧(MV)を膜厚(cm)で除した値。単位:MV/cm)で示した。
【0188】
リーク電流は、1MV/cmの電界強度の時に流れる電流値をリーク電流とし、電流密度(1MV/cmの電界強度の時に流れる電流値(A)を、自動水銀プローブCV測定装置の水銀電極面積(cm)で除した値。単位:A/cm)で示した。
【0189】
[3.3]ガラス転移温度(Tg)
ガラス転移温度は、上記で得たシリコンウエハ上の絶縁膜を削り取り、これを測定試料として、ティー・エイ・インスツルメント社製の示差走査熱量計DSC−Q1000装置で評価した。測定温度範囲を、250〜450℃とし、昇温速度を2℃/分とした。ガラス転移温度の評価は、250〜450℃の温度範囲においてリバースヒートフローでの変極点から解析して求めた。
【0190】
[3.4]弾性率
弾性率は、MTS社製薄膜機械的特性測定装置ナノインデンターで薄膜測定用プログラムを用いて、押し込み深さが膜厚の10分の1までの信号が安定した領域で評価した。
【0191】
[3.5]耐熱性
耐熱性は、熱分解温度で評価した。得られた絶縁膜をTG/DTA測定装置(セイコーインスツルメンツ(株)製、TG/DTA220)を用いて、窒素ガス200mL/min.フロー下、昇温速度10℃/min.の条件により測定し、重量の減少が5%に到達した温度を、熱分解温度とした。
【0192】
[3.6]密着性
上記[2]で作製した各実施例および各比較例にかかる膜付き基板(シリコンウエハ/有機絶縁膜の積層体)について、JIS K 5600−5−6 付着性(クロスカット法)に従い、テープテストにより密着性を評価した。すなわち、カッターナイフで、絶縁膜に1mm角の正方形の升目を100個作り、その上にセロテープ(登録商標)を張った。1分後、基板を抑えてセロテープを剥がし、基板から樹脂膜がいくつ剥がれるかを数えた。
【0193】
また、上記と同様にして、前記各実施例および各比較例について、それぞれ、10サンプルの膜形成用組成物を用い、シリコンウエハ上に、SiOC膜、有機絶縁膜(前記各実施例および各比較例の膜形成用組成物を用いて形成された絶縁膜)をこの順で積層した膜付き基板、シリコンウエハ上に、SiCN膜、有機絶縁膜(前記各実施例および各比較例の膜形成用組成物を用いて形成された絶縁膜)をこの順で積層した膜付き基板、および、シリコンウエハ上に、SiCN膜、有機絶縁膜(前記各実施例および各比較例の膜形成用組成物を用いて形成された絶縁膜)、SiO膜をこの順で積層した膜付き基板を、それぞれ作製し、これらの膜付き基板についても上記と同様の方法(テープテスト)により密着性を評価した。なお、これらの膜付き基板の作製において、SiOC膜は、厚さが100nmとなるようにプラズマCVD法により形成し、SiCN膜は、厚さが60nmとなるようにプラズマCVD法により形成し、SiO膜は、厚さが30nmとなるようにプラズマCVD法により形成した。また、各膜の形成条件は、各実施例および各比較例で同一とした。剥がれたサンプルについては、10サンプルの剥がれた個数の平均値を表に記載した。
【0194】
[3.7]面内均一性
上記[2]に記載した絶縁膜の形成に従って、直径300mmのシリコンウエハ上に絶縁膜を形成し、n&k Technology,Inc.製、n&k Analyzer 1500を用いて膜厚を測定した。測定ポイントは、中心座標を(0,0)、ノッチ部座標を(0,−150)とし、座標(−150,0)から座標(150,0)の直線座標を等間隔で25ポイントとした。25ポイントの標準偏差(σ)を3倍し、平均値で除した数値を面内均一性の尺度とした。
【0195】
これらの結果を、表2、表3、表4に示した。また、誘電率、破壊電圧、リーク電流、弾性率、耐熱性、面内均一性については、上記の各評価項目についての10サンプル間でのばらつき量(最大値と最小値の差)も示した。ガラス転移温度については最小値を示した。また、各実施例および各比較例の有機絶縁膜用ワニス(膜形成用組成物)を構成するプレポリマーの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分散比(Mw/Mn)を表5に示した。なお、プレポリマーの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分散比(Mw/Mn)については、ゲルパーミュエーションクロマトグラフ(GPC)装置(東ソー株式会社製、HLC−8220GPC)を用い、また、カラムとして、TSKgel GMHXL(ポリスチレン換算排除限界4×10(推定))×2本およびTSKgel G2000HXL(ポリスチレン換算排除限界1×10)×2本を直列接続して、検出器として、屈折率計(RI)または紫外・可視検出器(UV(254nm))を用いて測定を行い、RIまたはUVで得られた結果を解析することにより求めた。また、測定条件としては、移動相:テトラヒドロフラン、温度:40℃、流量:1.00mL/min、試料濃度:0.1wt%テトラヒドロフラン溶液とした。プレポリマーの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分散比(Mw/Mn)は各10サンプル間での、((最大値−最小値)/平均値)×100)の値が小さかったため、平均値を記載した。また、表中、シリコンウエハを「Si」で示し、有機絶縁膜(前記各実施例および各比較例の膜形成用組成物を用いて形成された絶縁膜)を「Org」で示し、SiOC膜を「SiOC」で示し、SiCN膜を「SiCN」で示し、SiO膜を「SiO」で示した。
【0196】
【表2】

【0197】
【表3】

【0198】
【表4】

【0199】
【表5】

【0200】
表2、表3、表4から明らかなように、本発明では、誘電率が低く、破壊電圧が高く、リーク電流も少ないことから絶縁膜として優れた電気特性を示す絶縁膜を安定して形成することができた。また、ガラス転移温度が高く、耐熱性に優れ、かつ弾性率が高く機械強度に優れていた。また、本発明では、絶縁膜の半導体基板等への密着性に優れていた。サンプル間のばらつきも少ないことから、半導体装置の製造プロセスでの適合性に優れていることが分かる。また、本発明では、形成された膜の各部位での不本意な厚みのばらつきが十分に防止されていた(サンプル間の膜厚の均一性に優れていた)。このことから、本発明では、膜の各部位での不本意な特性のばらつきとサンプル間での不本意な特性のばらつきが防止されているといえる。
これに対し、各比較例では満足のいく結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0201】
1 半導体基板
2 SiN膜
3 層間絶縁膜
4 ハードマスク層
5 改質処理層
6 バリア層
7 銅配線層
8 フォトレジスト層
100 半導体装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に、アダマンタン型のかご型構造を含む部分構造a1と、重合性の官能基とを有する重合性化合物および/または当該重合性化合物が部分的に重合した重合体を含む膜形成用組成物であって、
アセチレン結合を含むアセチレン系反応基を、分子内に複数個備えたオリゴアセチレン体を前記重合性化合物として含むとともに、
前記オリゴアセチレン体が有する前記アセチレン系反応基の少なくとも一部が水素原子で置換された構造を有する水素化体を含み、
前記重合性化合物が重合していない状態とした場合における、前記オリゴアセチレン体と前記水素化体の総モル数に対する、前記水素化体のモル分率が0.01〜10モル%であることを特徴とする膜形成用組成物。
【請求項2】
前記オリゴアセチレン体は、分子内に、ハロゲン原子を有していないものである請求項1に記載の膜形成用組成物。
【請求項3】
前記オリゴアセチレン体は、前記アセチレン系反応基が芳香環に直接結合した構造を有するものである請求項1または2に記載の膜形成用組成物。
【請求項4】
前記芳香環は、前記かご型構造に直接結合したものである請求項3に記載の膜形成用組成物。
【請求項5】
前記オリゴアセチレン体は、1つの前記芳香環に2つの前記アセチレン系反応基が直接結合した構造を有するものである請求項3または4に記載の膜形成用組成物。
【請求項6】
前記オリゴアセチレン体において、一方の前記アセチレン系反応基は、他方の前記アセチレン系反応基のメタ位に存在するものである請求項5に記載の膜形成用組成物。
【請求項7】
2つの前記アセチレン系反応基は、いずれも、前記芳香環が前記かご型構造に結合する部位のメタ位に存在するものである請求項5または6に記載の膜形成用組成物。
【請求項8】
前記部分構造a1は、ビアダマンタン構造を有するものである請求項1ないし7のいずれかに記載の膜形成用組成物。
【請求項9】
前記ビアダマンタン構造は、置換基としてメチル基を有するものである請求項8に記載の膜形成用組成物。
【請求項10】
前記部分構造a1は、ジアマンタン構造を有するものである請求項1ないし9のいずれかに記載の膜形成用組成物。
【請求項11】
前記オリゴアセチレン体は、分子内に4個のアセチレン系反応基を備えたテトラアセチレン体である請求項1ないし10のいずれかに記載の膜形成用組成物。
【請求項12】
膜形成に際して熱分解することにより、膜中に空孔を形成する機能を有する空孔形成材を含まない請求項1ないし11のいずれかに記載の膜形成用組成物。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載の膜形成用組成物を用いて形成されたことを特徴とする絶縁膜。
【請求項14】
絶縁膜は、SiOC、SiCNまたはSiOで構成された部材に接触するものである請求項13に記載の絶縁膜。
【請求項15】
請求項13または14に記載の絶縁膜を備えたことを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−129789(P2011−129789A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288482(P2009−288482)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】