説明

膜形成用組成物及び膜の形成方法

【課題】 シリコンウェハー、ディスプレイ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ或いはレンズなどの基体上に、透明であって、しかも、低反射率で且つ低誘電率であるとともに、械的強度や基板に対する密着性に優れた薄膜を形成するための膜形成用組成物及び膜の形成方法に関する。
【解決手段】 粒子表面に存在するシラノール基が、疎水性基を有する表面改質剤で処理されたシリカ粒子と、ポリシラン化合物とを含有することを特徴とする膜形成用組成物とする。また、この膜形成用組成物を、基体上に塗布した後に、熱処理及び/又は光処理することを特徴とする膜形成方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜形成用組成物及び膜の形成方法に関する。より詳しくは、シリコンウェハー、ディスプレイ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ或いはレンズなどの基体上に、透明であって、しかも、低誘電率であるとともに、械的強度や基板に対する密着性に優れた薄膜を形成するための膜形成用組成物及び膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、或いはシリコン基板などの基体表面の物理・化学的特性を変化させるために、これら基体表面に膜を形成することが行われている。
例えば、ガラスや合成樹脂の表面には、ガラスや合成樹脂の表面に傷が付くことを防止することを目的に、ハードコート膜を積層することが行われている。
【0003】
ガラスや合成樹脂などの基体表面に形成されるハードコート膜や、基体表面にハードコート膜を形成する方法に関する発明としては、例えば、特許文献1〜3に記載されている発明が知られている。
特許文献1には、酸化セリウムと酸化チタンとの複合酸化物微粒子と有機ケイ素化合物とからなるハードコート膜が開示されている。
特許文献2には、酸化チタン系微粒子をシリカ及び/又は有機ケイ素化合物で処理して得られた微粒子と有機ケイ素化合物とからなるハードコート膜が開示されている。
特許文献3には、酸化チタンと酸化鉄との複合酸化物微粒子、または酸化チタン、酸化鉄とシリカの複合酸化物微粒子を含むハードコート膜について記載されている。
【0004】
さらに、液晶ディスプレイ等の画像表示装置の画像表示面においては、その視認性を高めるために、外部光源から照射された光線の反射が少ないことが求められている。
これを受け、透明な物体の表面を屈折率の小さい透明皮膜で被覆することにより反射率が小さくなる現象が知られているが、このような現象を利用した反射防止膜を画像表示装置の表示面に設けることにより、視認性を向上させることが行われている。
【0005】
液晶ディスプレイ等の画像表示面に形成される反射防止膜を形成する方法としては、例えば、特許文献4〜7に記載されている発明が知られている。
特許文献4には、加水分解性シリル基を有するフッ素含有重合体と、シラン化合物と、金属アルコキシドのキレート錯体とを含有することを特徴とする被膜形成用組成物から反射防止膜を形成できることが開示されている。
特許文献5には、エポキシ基とフルオロアルキル基を有する化合物と、エポキシ基と加水分解性シリル基を有する化合物からなる混合物を重合して得られる共重合体を含む反射防止膜が開示されている。
特許文献6には、防眩性ハードコート層と、平均粒径0.001〜0.2μmの無機微粒子、光硬化性のオルガノシランの加水分解物、並びに含フッ素ポリマーを含有する組成物から形成された屈折率が1.35〜1.49の範囲にある低屈折率層とが設けられており、450nmから650nmの平均反射率が1.8%以下である防眩性反射防止フィルムが開示されている。
非特許文献1には、官能性含有フッ素モノマー/架橋基含有フッ素モノマー/密着性基含有モノマーを組み合わせて分子設計された新規な非晶性フッ素樹脂を主成分とした非晶性フッ素樹脂塗膜を形成する反射防止用光学コーティング剤が開示されている。
【0006】
屈折率を低下させる他の方法として、屈折率が1である空気を、可視光線の波長以下の大きさにして、塗膜内部に含有させることによって、塗膜全体の屈折率を低下させる方法がある。
即ち、特許文献7には、基材と、該基材表面に設けられた透明導電層と、該透明導電層表面に設けられた透明被膜とからなり、該透明被膜が、マトリックスと無機化合物粒子とを含み、無機化合物粒子が、(i)多孔質粒子と該多孔質粒子表面に設けられた被覆層とからなる複合粒子、または(ii)内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、気体または多孔質物質で充填された空洞粒子であることを特徴とする透明被膜付基材が開示されている。
特許文献8には、内部に空洞を有する中空シリカ等の中空微粒子を、アルコキシシランの加水分解重縮合物から得られる無機成分を含むバインダー中に分散させた低屈折率層が開示されている。
【0007】
一方、LSIやULSIには、シリコン基板上に層間絶縁膜を介して金属配線層を数層形成した多層配線が形成されている。
従来、層間絶縁膜としては、気相成膜(CVD)法によって形成されたシリカ(SiO)膜が多用されている。
【0008】
近年、LSIやULSIの配線密度は微細化の一途を辿っており、これに伴い基板上に隣接する配線間の距離が縮小している。
集積回路の高速化には、トランジスタ間を接続する配線抵抗と、配線間に蓄積される伝容量を低減させることが必要であり、低誘電率の層間絶縁膜の導入が求められている。
さらに、層間絶縁膜には、化学研磨(CMP)工程に充分耐えうる機械的強度が求められている。
【0009】
層間絶縁膜の誘電率を低下させるために、膜の多孔質化が採用されている。多孔質の絶縁膜としては、例えば、特許文献9には、テトラアルコキシシランなどのシラン化合物と、金属キレート化合物とを、有機溶媒の存在下で加水分解、重合させて得られる層間絶縁膜形成用組成物が開示されている。
特許文献10には、チタン、ジルコニウム、ニオブ及びタンタルから選択される一種の元素を含む有機金属化合物と、分子内にアルコキシル基を少なくとも一個有する有機ケイ素化合物とを縮重合させてなる、数平均分子量500以上のオリゴマーを主成分とする層間絶縁膜形成用組成物が開示されている。
特許文献11には、アルコキシシラン及び/又はその部分加水分解物、フッ素を含有するアルコキシシラン、Si以外の金属のアルコキシド及び/又はその誘導体、有機溶媒から得られることを特徴とする層間絶縁膜形成用組成物が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開平02−264902号公報
【特許文献2】特開平03−68901号公報
【特許文献3】特開平05−2102号公報
【特許文献4】特開平10−147740号公報
【特許文献5】特開平08−313704号公報
【特許文献6】特開2001−264508号公報
【特許文献7】特開2001−167637号公報
【特許文献8】特開2002−225866号公報
【特許文献9】特開平03−20377号公報
【特許文献10】特開平06−181201号公報
【特許文献11】国際公開第96/758号パンフレット
【非特許文献1】The Chemical Times 2003 No.4 反射防止用光学コーティング剤
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1〜3に記載されるハードコート膜には、以下のような問題が存在した。特許文献1及び2に記載されるハードコート膜は、耐擦傷性や耐磨耗性などの機械的強度に劣るものであった。特許文献3に記載されるハードコード膜は、特許文献1や2に記載されるハードコート膜に比べて機械的強度はある程度改善されたものであったが、酸化鉄自体が黄色味を持つため、ハードコート膜も多少黄色味を帯びたものになり、透明性の面で問題があった。
【0012】
特許文献4〜8に記載される反射防止膜には、以下のような問題が存在した。
特許文献4に記載される被膜形成用組成物により形成される反射防止膜は、外部光源から照射された光線に対し、十分に低い反射率を有していないという問題があった。
特許文献5記載の反射防止膜、特許文献6記載の防眩性反射防止フィルム及び非特許文献1記載の反射防止膜は、十分に低い反射率を有していないと同時に、フッ素系材料を使用している為に皮膜状に膜が形成できないという問題があった。その為、低屈折率層上に高屈折率層を設ける必要がある転写型の反射防止膜として用いるのには適さなかった。
特許文献7及び8に記載される中空シリカを利用する方法は、屈折率を低くでき、反射率を下げることができるものの、加熱処理が必要とされ、基材が限定されること、硬化時間が長いこと、機械的強度が弱いこと等の問題があった。
【0013】
一方、特許文献9〜11に記載の技術では、低誘電率化を図るために、膜の多孔質化が採用されている。しかしながら、膜が多孔質化したことにより、膜の誘電率を低下させることはできたが、膜の機械的強度が低下したり、膜と基板との密着性が低下したりした。その結果、特許文献9〜11に記載の技術によって形成される層間絶縁膜は、化学研磨(CMP)工程に充分耐え得る機械的強度を有していなかった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記した課題を解決するためになされた発明であって、請求項1に係る発明は、粒子表面に存在するシラノール基が疎水性基を有する表面改質剤で疎水化処理されたシリカ粒子と、ポリシラン化合物とを含有することを特徴とする膜形成用組成物に関する。
請求項2に係る発明は、前記シリカ粒子が、加水分解可能なケイ素化合物を、水の存在下、加水分解して得られるシリカ粒子表面に存在するシラノール基を、疎水性基を有する表面改質剤で疎水化処理して得られるシリカ粒子であることを特徴とする請求項1に記載の膜形成用組成物に関する。
請求項3に係る発明は、有機溶媒を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の膜形成用組成物に関する。
請求項4に係る発明は、粒子表面に存在するシラノール基が疎水性基を有する表面改質剤で疎水化処理されたシリカ粒子を有機溶媒中に分散した疎水性シリカゾルと、ポリシラン化合物とを含有することを特徴とする膜形成用組成物に関する。
請求項5に係る発明は、含フッ素アクリルモノマーを含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の膜形成用組成物に関する。
請求項6に係る発明は、前記含フッ素アクリルモノマーがポリシラン化合物とブロック共重合体を形成していることを特徴とする請求項5に記載の膜形成用組成物に関する。
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の膜形成用組成物を、基体上に塗布した後に、熱処理及び/又は光処理することを特徴とする膜形成方法に関する。
請求項8に係る発明は、粒子表面に存在するシラノール基が疎水性基を有する表面改質剤で処理されたシリカ粒子と、ポリシラン化合物とを含む組成物の硬化物からなることを特徴とするハードコート膜に関する。
請求項9に係る発明は、前記組成物が、含フッ素アクリルモノマーを含有することを特徴とする請求項8に記載のハードコート膜に関する。
請求項10に係る発明は、前記含フッ素アクリルモノマーがポリシラン化合物とブロック共重合体を形成していることを特徴とする請求項9に記載のハードコート膜に関する。
請求項11に係る発明は、粒子表面に存在するシラノール基が疎水性基を有する表面改質剤で処理されたシリカ粒子と、ポリシラン化合物とを含む組成物の硬化物からなることを特徴とする反射防止膜に関する。
請求項12に係る発明は、含フッ素アクリルモノマーを含有することを特徴とする請求項11に記載の反射防止膜に関する。
請求項13に係る発明は、前記含フッ素アクリルモノマーがポリシラン化合物とブロック共重合体を形成していることを特徴とする請求項12に記載の反射防止膜に関する。
請求項14に係る発明は、粒子表面に存在するシラノール基が疎水性基を有する表面改質剤で処理されたシリカ粒子と、ポリシラン化合物とを含む組成物の硬化物からなることを特徴とする層間絶縁膜に関する。
請求項15に係る発明は、前記組成物が、含フッ素アクリルモノマーを含有することを特徴とする請求項14に記載の層間絶縁膜に関する。
請求項16に係る発明は、前記含フッ素アクリルモノマーがポリシラン化合物とブロック共重合体を形成していることを特徴とする請求項15に記載の層間絶縁膜に関する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1及び4に係る発明によれば、基体表面に、透明であって、低誘電率であるとともに、機械的強度や基板に対する密着性に優れた膜を形成することができる膜形成用組成物を得ることができる。
請求項2に係る発明によれば、金属不純物の混入量の少ない膜形成用組成物を得ることができる。
請求項3に係る発明によれば、表面改質シリカ粒子と、ポリシラン化合物との分散性に優れた膜形成用組成物を得ることができる。
請求項5及び6に係る発明によれば、撥水性を有する膜を形成することができる膜形成用組成物を得ることができる。
請求項7に係る発明によれば、基体表面に、透明であって、低誘電率であるとともに、機械的強度や基板に対する密着性に優れた膜を形成することができる。
請求項8に係る発明によれば、透明であって、基体に対する密着性や機械的強度に優れたハードコート膜を提供することができる。
請求項9及び10に係る発明によれば、優れた撥水性を有するハードコート膜を提供することができる。
請求項11に係る発明によれば、機械的強度が強く、低反射率であり、視認性に優れた反射防止膜を提供することができる。
請求項12及び13に係る発明によれば、優れた撥水性を有する反射防止膜を提供することができる。
請求項14に係る発明によれば、透明であって、低誘電率であり、しかも基体に対する密着性や機械的強度に優れた層間絶縁膜を提供することができる。
請求項15及び16に係る発明によれば、優れた撥水性を有する層間絶縁膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る膜形成用組成物について詳述する。
本発明に係る膜形成用組成物は、粒子表面に存在するシラノール基の一部又は全部が、疎水性基を有する表面改質剤で疎水化処理されたシリカ粒子と、ポリシラン化合物とを含有する。
本発明に係る膜形成用組成物は、粒子表面に存在するシラノール基の一部又は全部が、疎水性基を有する表面改質剤で疎水化処理されたシリカ粒子と、ポリシラン化合物とを含有することにより、機械的強度に優れるとともに、基体に対する密着性に優れた膜を形成することができる。しかも、本発明に係る膜形成用組成物によって基板上に形成される膜は低誘電率であり、シリコンウェハーなどの層間絶縁膜としても好適に用いることができる。また本発明に係る膜形成用組成物によって基板上に形成される膜は、透明であって、膜に対する密着性や機械的強度に優れるので、ハードコート膜として好適に利用することも可能である。
さらに、本発明に係る膜形成用組成物は低反射率であるので、外部光源から照射された光線の反射が少ないことが求められる液晶ディスプレイ等の画像表示面等における反射防止膜として好適に用いることができる。
【0017】
本発明に係る膜形成用組成物は、粒子表面に存在するシラノール基の一部又は全部が、疎水性基を有する表面改質剤で疎水化処理されたシリカ粒子(以下、単にA成分という場合がある。)を含有する。
A成分は、シリカ粒子表面のシラノール基の一部又は全部が疎水性基を有する表面改質剤で処理されているので、このシリカ粒子は疎水性である。
【0018】
A成分のシリカ粒子の粒径(比表面積換算法)は特に限定されず、1〜500nm、好ましくは5〜100nm、より好ましくは10〜50nmとされる。シリカ粒子の粒径が1nm未満の場合、シリカ粒子同士が凝集してしまい、膜を多孔質化することができずに、低誘電率の膜を形成することができない場合がある。シリカ粒子の粒径が500nmを超える場合、膜の機械的強度や基体に対する密着性が低下する場合がある。
【0019】
A成分を調製する方法としては、加水分解可能なケイ素化合物を加水分解、縮合してシリカ粒子を調製した後に、シリカ粒子表面に存在するシラノール基を、疎水性基を有する表面改質剤で疎水化処理することにより調製する方法を例示することができる。
より、具体的には、まず、加水分解可能なケイ素化合物を、水の存在下、有機溶媒中において、加水分解、縮合する(ゾル−ゲル法)。これにより、親水性のシリカ微粒子を形成することができる。
加水分解可能なケイ素化合物としては、一般式1(化1)に示すケイ素化合物を例示することができる。
【0020】
[化1]
Si(R4−a
(式中、Rは水素原子、水酸基、アルキル基又はアリール基であり、Rはアルコキシ基又はハロゲン原子であり、aは0〜3の整数である。)
【0021】
加水分解可能なケイ素化合物の具体例を例示すると、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジエトキシ−3−グリシドキシプロピルメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシジメチルフェニルシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン等のアルコキシシラン化合物や、テトラクロロシラン等のクロロシラン類を例示することができる。
本発明では、アルコキシシラン化合物を使用することが好ましく、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが特に好ましい。
また本発明では、上記のケイ素化合物を部分的に加水分解して得られる低縮合物を使用することもできる。
【0022】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、イソオクタン、シクロヘキサン等のパラフィン類、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族化合物などを例示することができる。
【0023】
水を含む有機溶媒中で、加水分解可能なケイ素化合物を加水分解,縮合するには、加水分解可能なケイ素化合物を有機溶媒に添加して、0〜100℃、好ましくは0〜70℃の条件で撹拌すればよい。このように、水を含む有機溶媒中で加水分解可能なケイ素化合物を撹拌して加水分解,縮合することにより、球状でしかも粒径のそろったシリカ粒子を得ることができる。
【0024】
次いで、シリカ粒子表面のシラノール基を、疎水性基を有する表面改質剤で表面改質することにより、疎水性のシリカ粒子の分散液を得ることができる。
疎水性基を有する表面改質剤としては、シリカ粒子表面上のシラノール基に対して反応可能な官能基と、疎水基とを併せ持つシランカップリング剤を例示することができる。シラノール基に対して反応可能な官能基としては、ハロゲン、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、アルコキシル基等を例示することができる。また疎水基としては、アルキル基、フェニル基、これらのフッ化物などを例示することができる。
【0025】
疎水性基を有する表面改質剤の具体例としては、一般式2(化2)で示されるものを例示することができ、より具体的には、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ジエトキシメチルフェニルシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン等の分子中に一種又は二種以上の置換アルキル基、フェニル基、ビニル基、フルオロ基等を有するアルコキシシラン類;トリメチルクロロシラン、ジエチルジクロロシラン等のクロロシラン類などが挙げられる。
特に本発明では、表面改質剤としてフェニルトリメトキシシランなどの疎水性基としてフェニル基を有するアルコキシシラン類が好ましく用いられる。疎水性基としてフェニル基を有するアルコキシシラン類を表面改質剤として使用することにより、後述するB成分との相互作用によって、相分離が無く、機械的強度に優れた膜を形成することができるからである。
【0026】
[化2]
SiX
(但し、Rはアルキル基、フルオロ基等の疎水基であり、Xはハロゲン、アルコキシル基等の官能基であり、bは1〜3の整数であり、cは3〜1の整数である。)
【0027】
親水性シリカ粒子表面のシラノール基を、疎水性基を有する表面改質剤で表面改質するには、親水性シリカ粒子の分散液に酸又は塩基を添加した後、疎水性基を有する表面改質剤を加え加熱等の処理を行うことにより、表面改質を行うことができる。
【0028】
前述した方法によって製造された疎水性シリカ粒子において、シリカ粒子表面に存在するシラノール基が表面改質剤で表面改質されていることは、Si−NMRによって確認することができる。即ち、Si−NMRのQ2(約−92ppm)ピーク強度(Siのシラノール基数が2つ、シロキサン結合数が2つに相当する。)、Q3(約−101ppm)ピーク強度(Siのシラノール基数が1つ、シロキサン結合数が3つに相当する。)及びQ4(約−111ppm)ピーク強度(Siのシラノール基数が4つに相当する。)によって確認することができる。シリカ粒子表面に存在するシラノール基が表面改質剤で表面改質されている疎水性シリカ粒子は、表面改質されていない親水性シリカ粒子に比べて、Q2ピーク強度比及びQ3ピーク強度比が減少し、Q4ピーク強度比が増大している。
【0029】
より具体的に述べると、表面が改質されていない親水性シリカ粒子では、Q3ピーク強度に対するQ4ピーク強度の比が0.6〜0.85である。
これに対して、親水性シリカ粒子表面のシラノール基を、疎水性基を有する表面改質剤で表面改質した疎水性シリカ粒子では、Q3ピーク強度に対するQ4ピーク強度の比が0.9以上、好ましくは0.9〜1.8となる。
【0030】
本発明では、A成分は、前述した方法によって得られた疎水性シリカ粒子の分散液(疎水性シリカゾル)のまま使用してもよく、また疎水性シリカゾルの分散媒を除去して得られたシリカ粒子を使用することもできる。
【0031】
本発明に係る膜形成用組成物では、ポリシラン化合物(以下、単にB成分という場合がある。)を含有する。
ポリシラン化合物としては、主となる骨格が一般式3(化3)で示される直鎖状ポリシラン及び環状ポリシラン、主となる骨格が一般式4(化4)で示されるシリコンネットワークポリマー、主となる骨格が一般式5(化5)で示されるシリコンネットワークポリマー、及びポリシラン化合物とビニル系モノマーとのブロック共重合体からなる群から選択される少なくとも一種のポリマーを例示することができる。
【0032】
[化3]
(RSi)
(式中、Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリールアルキル基又はアリール基であり、同一又は異なっていても構わない。mは2〜10000の整数である。)
【0033】
[化4]
(RSi)
(式中、Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリールアルキル基又はアリール基であり、同一又は異なっていても構わない。nは4〜10000の整数である。)
【0034】
[化5]
(RSi)(RSi)Si
(式中、Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリールアルキル基又はアリール基であり、同一又は異なっていても構わない。x、y及びzはいずれも1以上の整数であり、x、y及びzの和は5〜10000の整数である。)
【0035】
上記一般式(化3)〜一般式(化5)中のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基などの直鎖又は分岐のアルキル基を例示することができる。
アルケニル基としては、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基などを例示することができる。
【0036】
アリール基としては、フェニル基、トシル基、ベンジル基、フェネチル基、トリチル基などを例示することができる。
【0037】
ポリシラン化合物とビニル系モノマーとのブロック共重合体としては、ポリシラン化合物と撥水性を付与することができる含フッ素アクリル系モノマーとのブロック共重合体が好ましい。
この共重合体は、ポリシラン化合物を高分子ラジカル重合開始剤として用いる光ラジカル重合法で好適に合成することができる。この方法は、ポリシラン化合物が紫外光で分解して発生するシリルラジカルを重合に利用する方法である。ポリシラン化合物とビニル系モノマーの濃度、光照射強度、光照射時間などを適宜選択することで、ブロック共重合体の組成を調節することができる。
ポリシラン化合物としては、上記したポリシラン化合物を使用することができる。
また、含フッ素アクリルモノマーとしては、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチルメタクリレート、3−(パーフルオロブチル)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エチルメタクリレート、3−(パーフルオロ−3−メチルブチル)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)エチルメタクリレート、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エチルメタクリレート、3−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、1H,1H,3H−テトラフルオロプロピルメタクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルメタクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート、1H−1−(トリフルオロメチル)トリフルオロエチルメタクリレート、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチルメタクリレートなどのメタクリレートや、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルアクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エチルアクリレート、3−(パーフルオロ−3−メチルブチル)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)エチルアクリレート、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エチルアクリレート、3−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、1H,1H,3H−テトラフルオロプロピルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルアクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチルアクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニルアクリレート、1H−1−(トリフルオロメチル)トリフルオロエチルアクリレート、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチルアクリレートなどのアクリレートを例示することができる。
【0038】
本発明に係る膜形成用組成物に含フッ素アクリルモノマーを配合、或いはポリシラン化合物とブロック共重合体を形成することにより、優れた撥水性を有する膜を形成することが可能となる。含フッ素アクリルモノマーの配合量は特に限定されないが、含フッ素アクリルモノマーの配合量が少なすぎると撥水性を付与することができない場合があり、また含フッ素アクリルモノマーの配合量が多くなりすぎると、シリカ粒子とポリシラン化合物との相乗作用に悪影響を与えて膜の強度が低下する場合があるので、付与される撥水性と膜の強度に鑑みて、適切な量を配合する。
【0039】
特に本発明では、ポリアルキルフェニルシランやポリジフェニルシランなどのアリール基を有するポリシラン化合物が好ましい。ポリシラン化合物として、アリール基を有するポリシラン化合物を使用することにより、前述したA成分との相互作用によって、相分離が無く、しかも、機械的強度に優れた膜を形成することが可能となる。
【0040】
本発明に係る膜形成用組成物は、通常、上記A成分とB成分は、有機溶媒に溶解又は分散している。
A成分及びB成分を溶解又は分散させる有機溶媒としては、A成分やB成分と反応しないものであればよく、特にA成分やB成分の分散性や溶解性に優れる有機溶媒がより好ましい。
有機溶媒としては、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリンなどの脂環式炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ドデシルベンゼン、メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、クロロホルム、エチレンクロライド、クロロベンゼンなどのハロゲン化物、THF、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、ヘキサメチレンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類などを例示することができる。
特に本発明では、これらの有機溶媒のうち、THF、トルエン、キシレンを用いることが好ましい。
【0041】
膜形成用組成物中のA成分とB成分の含有量は特に限定されないが、A成分とB成分の含有量の重量比が、1:1〜20:1、好ましくは3:1〜10:1となるように含有することが好ましい。
A成分の含有量がB成分の含有量の1重量倍未満の場合、基体上に形成される膜の誘電率が上昇し、絶縁膜として利用することができない場合がある。また基体上に機械的強度に優れた膜を形成することができない場合がある。A成分の含有量がB成分の含有量の20重量倍を超える場合、膜の密着性が低下し、はがれが問題となる場合がある。
また、液晶ディスプレイ等の表示画面における反射防止被膜として利用する場合には、A成分とB成分の含有量の重量比を、1:1〜20:1とするのが好ましく、3:1〜7:1となるように含有することがより望ましい。
【0042】
Fe、Na、K、Ti、Cr、Co、Ni、Cu、Al、Ca、Mg、Pb及びAgなどの元素を含む金属化合物が膜形成用組成物中に含まれると、基板上に形成される膜は、これら金属が電気導電体として機能するため、リーク電流が大きくなって膜が導電性を有するようになり、絶縁膜として機能しなくなる。
従って、本発明に係る膜形成用組成物中に含まれる金属化合物の含有量は、極力少ないことが好ましい。
【0043】
本発明に係る膜形成用組成物は、A成分とB成分とを必須成分として含有する。A成分であるシリカ粒子は、その表面に存在するシラノール基が疎水性基を有する表面改質剤で処理されているので、シリカ粒子の表面には疎水性基が存在している。従って、シリカ粒子表面の疎水性基と、ポリシラン化合物との相互作用によって、A成分とB成分を混合した場合、2層に分離することなく、均一に分散する。これにより、基体上に透明な膜を形成することが可能となる。
シリカ粒子表面のシラノール基が疎水性基によって表面改質されていない親水性のシリカ粒子の場合では、ポリシラン化合物と分散することができず、これにより形成される膜は層分離を起してしまうので、低誘電率かつ機械的強度に優れた膜を形成することができない。
【0044】
次に、上記説明した膜形成用組成物を基体に塗布して、基体表面に膜を形成する方法について説明する。
膜を基体に塗布する方法は特に限定されず、スピンコート法、スプレーコート法、印刷法、キャスト法、カーテンコート法、ロールコート法などを例示することができる。特に本発明ではスピンコート法が好ましい。
【0045】
基体上に形成される膜の厚さは、膜形成用組成物の粘度やスピンコートの回転速度などにより、適宜調整することができる。具体的には、0.1μm〜10μmまでの任意の厚さに調節することができる。
半導体素子の層間絶縁膜を形成する場合であれば、0.1μm〜5μmの範囲が好ましい。
【0046】
基体としては、樹脂、ガラス、セラミックなどの絶縁性基板、シリコン、ゲルマニウムなどの半導体基板、ガリウム−ヒ素、インジウム−アンチモンなどの化合物半導体基板、或いはこれらの基板上に導体層を形成した基板、或いはアルミニウム、銅、金、銀、白金、クロム、ニッケル、タングステン、インジウム、スズ若しくはこれらの合金、酸化スズなどの金属酸化物などの導体基板などを例示することができる。また、プリント配線板などの配線構造体も基体として使用することができる。
この他、ガラスレンズ、プラスチックレンズ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどを基体とすることも可能である。
【0047】
次いで、必要に応じて基体に塗布した膜形成用組成物の乾燥処理を行う。乾燥処理は常圧下、加圧下、或いは減圧下において、常温又は加温して行われる。
【0048】
次いで、加熱処理及び/又は光照射処理が行われる。
加熱処理の際の加熱温度は特に限定されないが、50〜500℃、好ましくは80〜450℃、より好ましくは100〜400℃である。
加熱時間も特に限定されないが、1分〜48時間、好ましくは3分〜24時間、より好ましくは5分〜18時間程度である。
【0049】
加熱処理は、昇温工程、温度保持工程、降温工程を、任意に組み合わせることによって行うこともできる。
【0050】
光照射処理の際に用いられる光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ヘリウム−カドミウムレーザー、エキシマレーザー、メタルハライドランプなどを例示することができる。
照射される光の波長は特に限定されないが、200〜400nmである。
光の照射時間は特に限定されないが、5秒〜120分、好ましくは20秒〜30分程度とされる。
【0051】
本発明では、加熱処理又は光照射処理のいずれかの処理を行えば良いが、光照射処理と加熱処理を組み合わせることにより、比較的低温でもB成分のSi−Si結合が開裂して、A成分と架橋構造を形成することができ、機械的特性に優れた膜を形成することが可能となる。
【0052】
上述したような方法によって基体上に形成された膜の比誘電率は、通常の場合で、1.3〜3.0、好ましくは1.5〜2.5である。
膜の屈折率は、通常の場合で、1.1〜1.7、好ましくは1.2〜1.5である。
【0053】
上記したような方法によって基体表面に形成された膜は、A成分である粒子表面に存在するシラノール基が疎水性基を有する表面改質剤で処理されたシリカ粒子と、B成分であるポリシラン化合物とを含む組成物の硬化物からなる。
この膜は、透明であり、基体の表面に対する密着性や機械的強度に優れるために、レンズ、ガラス、液晶ディスプレイ或いはプラズマディスプレイなどのハードコート膜として好適に利用することが可能である。
さらに、機械的強度が強く、低反射率であり、視認性に優れるので、液晶ディスプレイ等の表示画面における反射防止膜として好適に利用することが可能である。
またこの膜は、前述のような特性に加えて、低誘電率であるので、半導体ウェハーなどの表面に形成される層間絶縁膜として好適に利用することも可能である。
【0054】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
[実施例1]
褐色サンプル瓶に、直鎖のポリメチルフェニルシラン(大阪ガスケミカル社製、商品名「オグソールSI−1010 TYPE−1」)80mg及び蒸留キシレン3.2gを加え、これにトルエン分散シリカゾル(扶桑化学工業社製、商品名「PL−1 Tol」、シリカ濃度40重量%)をシリカ粒子とポリメチルフェニルシランの重量比が7:1になるように1400mg加えて混合液を調製した。
この混合液をシリコンウェハーに1000回転/分×30秒でスピンコートし、紫外線照射装置(高圧水銀灯)で、このシリコンウェハー上に、紫外線を照射した(6000mJ/cm)。
次いで、昇温制御可能なオーブンによって、このシリコンウェハーを40℃から300℃まで1分間に10℃ずつ昇温させた後、300℃で30分間焼成した。
その後、さらに400℃にセットした電気炉に200℃のときに焼成後のシリコンウェハーを入れ400℃に達温後20分間焼成し、その後加熱を止めて200℃以下になるまで待って取出した。
【0056】
[比較例a]
褐色サンプル瓶に、直鎖のポリメチルフェニルシラン(大阪ガスケミカル社製、商品名「オグソールSI−1010 TYPE−1」)20mg及び蒸留トルエン0.2mLを加えた。
1000〜1500回転/分×20秒で、この混合液をシリコンウェハー上にスピンコートした後、120〜130℃で1時間加熱した。
紫外線照射装置(高圧水銀灯)で、このシリコンウェハー上に、紫外線を照射した(6000mJ/cm)。
次いで、昇温制御が可能なオーブンによって、このシリコンウェハーを40℃から250℃まで1分間に10℃ずつ昇温させた後、250℃で30分間焼成した。
これを比較例aとした。
【0057】
[比較例b]
トルエン分散シリカゾル(扶桑化学工業社製、商品名「PL−1 Tol」、シリカ濃度40重量%)5gに、蒸留トルエン15gを加えて、10重量%濃度のトルエン分散シリカゾルを調製した。
褐色サンプル瓶に、蒸留トルエン0.2mLを加えた。10重量%濃度のコロイダルシリカを、2000mg加えた。
1000〜1500回転/分×20秒で、この混合液をシリコンウェハー上にスピンコートした後、120〜130℃で1時間加熱した。
紫外線照射装置(高圧水銀灯)で、このシリコンウェハー上に、紫外線を照射した(6000mJ/cm)。
次いで、昇温制御が可能なオーブンによって、このシリコンウェハーを40℃から250℃まで1分間に10℃ずつ昇温させた後、250℃から30分間焼成した。
これを比較例bとした。
【0058】
上記試料の調製に使用したトルエン分散シリカゾル(PL−1 Tol)の電子顕微鏡写真を図1に示す。トルエン分散シリカゾル(PL−1 Tol)中のシリカ粒子の平均粒子径は12.7nmであり、いくつかのシリカ粒子が凝集した状態で分散媒中に分散している。シリカ粒子表面のシラノール基は、疎水性基としてフェニル基を有する表面改質剤で処理されている。分散媒としては、トルエンが用いられている。トルエン分散シリカゾル(PL−1 Tol)中のシリカ粒子の含有量は39.5重量%である。
【0059】
[試験例1:屈折率の測定]
上記調製した試料における膜の屈折率を測定した。屈折率は、エリプリメータ(商品名「EMS−1」、アルバック社製、He−Neレーザー632.8nm)で、条件を「MODE=50、予想膜厚Do=10、予想屈折率No=140」に設定して、測定した。
【0060】
[試験例2:膜厚の測定]
上記調製した試料における膜厚を測定した。膜厚は、シリコンウェハーに傷をつけないように、シリコンウェハー上に形成された薄膜に傷をつけ、仕上面粗さ計(Kosaka社製)によって測定した。
【0061】
[試験例3:誘電率の測定]
上記調製した試料における膜の誘電率を測定した。誘電率は、水銀プローパ(FOUR DIMENSION社製)によって、測定周波数1MHz、測定領域2.98×10−3cmの条件でC−V測定を行った後に、C−V曲線から算出した。
【0062】
[試験例4:密着性の評価]
上記調製した試料における膜とシリコンウェハーとの密着性を、4点曲げ法によって評価した。
具体的には、6cm×6cmの大きさのシリコンウェハーにスピンコートで膜を形成した後に、コーティング面の裏側に同じ大きさに切断したシリコンウェハーをEpoTek375(エポキシテクノロジー社製)で接着して乾燥した。
ダイシングマシンにより、膜を形成した側のシリコンウェハーを5mm×50mmの大きさに切断した。ダイシングマシンにより、膜を形成した側のシリコンウェハーにノッチを形成して、4点曲げ法によって膜の密着性(界面破断エネルギー)を、密着性評価装置DTS Delaminator(Dauskardt Technical Service社製)を用いて評価した。界面破断エネルギーは、次式1(数1)により算出した。
【0063】
【数1】

(但し、数1中、vはSiのポアソン値、Lは内側と外側のピン間の距離(11mm)であり、EはSiの弾性係数であり、bは測定試料の幅であり、hは測定試料の厚さであり、Pcはグラフ上におけるプラトー値である。)
【0064】
[試験例5:弾性率及び硬度測定]
上記調製した試料における膜の弾性率と硬度を、Nano Indenter XP(MTSシステムズ社製)を使用して、ナノインデンテーション法によって測定した。ナノインデンテーション法では、試料に圧子を侵入させた際の試料の応答を解析することにより、力学的特性である弾性率や硬さを算出することができる。
弾性率(E)は、次式2(数2)により、硬度(H)は次式3(数3)により算出することができる。
【0065】
【数2】

【0066】
【数3】

(但し、数2及び3中、Pは荷重、hは押し込み深さであり、k及びβは定数である。)
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
実施例1は基体に対する密着性に優れた膜であった。一方、比較例bは基体に対する密着性を有する膜にはならなかった。
【0070】
[実施例2]
シリカ濃度40%のトルエン分散シリカゾル(PL-1-TOL フェニル修飾)5gを精秤し、トルエンを15g足して希釈し、10%のゾルを調製した。
ポリメチルフェニルシラン0.2gを精秤し、トルエン19.8gを足して希釈し、1%のポリメチルフェニルシラン溶液20gを調製した。
上記シリカゾルを800mg採り、これに上記ポリシラン溶液を1200mg加え、さらにトルエンを800mg加えて反射防止用液とした。
この液をスピンコータ(3000rpm/20sec)でPETフィルム、およびシリコン基板に製膜し、溶媒除去のため150℃で5分乾燥し、UV照射し(16000mJ/cm2)、150℃で60分焼結した。
PETに製膜したものを紫外可視分光光度計で反射率及び透過率を測定した。最小反射率は0.2%であった。600nmにおける透過率は6.0%の向上が見られた。
シリコン基板に製膜したものをエリプソメータにより、屈折率および膜厚の測定を行った。屈折率は1.25、膜厚は124nmであった。
【0071】
[実施例3]
シリカ濃度20%のトルエン分散シリカゾル(PL-3-TOL フェニル修飾)10gを精秤し、トルエンを10g足して希釈し、10%のゾルを調製した。
ポリメチルフェニルシラン0.2gを精秤し、トルエン19.8gを足して希釈し、1%のポリメチルフェニルシラン溶液20gを調製した。
上記シリカゾルを800mg採り、これに上記ポリシラン溶液を800mg加え、さらにトルエンを1200mg加えて反射防止用液とした。
この液をスピンコータ(3000rpm/20sec)でPETフィルム、およびシリコン基板に製膜し、溶媒除去のため150℃で5分乾燥し、UV照射し(16000mJ/cm2)、150℃で60分焼結した。
PETに製膜したものを紫外可視分光光度計で反射率及び透過率を測定した。最小反射率は0.2%であった。600nmにおける透過率は5.9%の向上が見られた。
シリコン基板に製膜したものをエリプソメータにより、屈折率および膜厚の測定を行った。屈折率は1.23、膜厚は120nmであった。
【0072】
[実施例4]
シリカ濃度20%のトルエン分散シリカゾル(PL-1-TOL アクリル修飾+フェニル修飾)10gを精秤し、トルエンを10g足して希釈し、10%のゾルを調製した。
ポリメチルフェニルシラン0.2gを精秤し、トルエン19.8gを足して希釈し、1%のポリメチルフェニルシラン溶液20gを調製した。
DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサ又はペンタアクリレート)を1g精秤し、トルエンを9g足して希釈し、10%のDPHA溶液を調製した。
上記シリカゾルを800mg採り、これに上記ポリシラン溶液を800mg加え、上記DPHA溶液を80mg加え、さらにトルエンを1120mg加えて反射防止用液とした。
この液をスピンコータ(2500rpm/20sec)でPETフィルム、およびシリコン基板に製膜し、溶媒除去のため150℃で5分乾燥し、UV照射し(16000mJ/cm2)、150℃で60分焼結した。
PETに製膜したものを紫外可視分光光度計で反射率及び透過率を測定した。最小反射率は0.9%であった。600nmにおける透過率は5.0%の向上が見られた。
シリコン基板に製膜したものをエリプソメータにより、屈折率および膜厚の測定を行った。屈折率は1.29、膜厚は107nmであった。
【0073】
[実施例5]
ポリメチルフェニルシラン0.2gを精秤し、トルエン19.8gを足して希釈し、1%のポリメチルフェニルシラン溶液20gを調製した。
シリカ濃度10%のトルエン分散シリカゾル(PL-1-TOL アクリル修飾)を800mg採り、これに上記ポリシラン溶液を800mg加え、さらにトルエンを1200mg加えて反射防止用液とした。
この液をスピンコータ(2000rpm/20sec)でPETフィルム、およびシリコン基板に製膜し、溶媒除去のため150℃で5分乾燥し、UV照射し(16000mJ/cm2)、150℃で60分焼結した。
PETに製膜したものを紫外可視分光光度計で反射率及び透過率を測定した。最小反射率は0.5%であった。600nmにおける透過率は5.0%の向上が見られた。
シリコン基板に製膜したものをエリプソメータにより、屈折率および膜厚の測定を行った。屈折率は1.27、膜厚は106nmであった。
【0074】
[実施例6]
シリカ濃度20%のトルエン分散シリカゾル(PL-3-TOL フェニル修飾)10gを精秤し、トルエンを10g足して希釈し、10%のゾルを調製した。
ポリメチルフェニルシラン0.2gを精秤し、トルエン19.8gを足して希釈し、1%のポリメチルフェニルシラン溶液20gを調製した。
上記シリカゾルを800mg採り、これに上記ポリシラン溶液を2400mg加えて反射防止用液とした。
この液をスピンコータ(3000rpm/20sec)でPETフィルム、およびシリコン基板に製膜し、溶媒除去のため150℃で5分乾燥し、UV照射し(16000mJ/cm2)、150℃で60分焼結した。
PETに製膜したものを紫外可視分光光度計で反射率及び透過率を測定した。最小反射率は0.3%であった。600nmにおける透過率は5.4%の向上が見られた。
シリコン基板に製膜したものをエリプソメータにより、屈折率および膜厚の測定を行った。屈折率は1.25、膜厚は117nmであった。
【0075】
実施例2乃至6それぞれの組成について表したものを表3に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
表4より、実施例2乃至6による反射防止膜は、最小反射率が低いことから、低反射率であることが判明した。また、擦り試験においてもキズが見られなかったことから、機械的強度が強いことが判明した。
以上より、本発明に係る膜形成用組成物は、低反射率で、且つ機械的強度も強いので、外部光源から照射された光線の反射が少ないことが求められる液晶ディスプレイ等の画像表示面等において、視認性に優れる反射防止膜として好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る膜形成用組成物は、低誘電率であって、しかも、基体上に機械的強度に優れた膜を形成することができるので、絶縁膜、特に半導体素子の層間絶縁膜を形成する際に用いられる膜形成用組成物として好適に利用することができる。また本発明に係る膜形成用組成物は、透明であって、基体に対する密着性や機械的強度に優れるので、ハードコート膜として好適に利用することができる。さらに本発明に係る膜形成用組成物は、低反射率であるので、反射防止膜として好適に利用することができる。
本発明に係る膜の形成方法は、絶縁膜、特に半導体素子の層間絶縁膜を形成する方法として好適に利用することができる。また本発明に係る膜の形成方法は、ハードコート膜を形成する方法としても好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】トルエン分散シリカゾル(PL−1 Tol)の電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例の電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子表面に存在するシラノール基が疎水性基を有する表面改質剤で疎水化処理されたシリカ粒子と、ポリシラン化合物とを含有することを特徴とする膜形成用組成物。
【請求項2】
前記シリカ粒子が、加水分解可能なケイ素化合物を、水の存在下、加水分解して得られるシリカ粒子表面に存在するシラノール基を、疎水性基を有する表面改質剤で疎水化処理して得られるシリカ粒子であることを特徴とする請求項1に記載の膜形成用組成物。
【請求項3】
有機溶媒を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の膜形成用組成物。
【請求項4】
粒子表面に存在するシラノール基が疎水性基を有する表面改質剤で疎水化処理されたシリカ粒子を有機溶媒中に分散した疎水性シリカゾルと、ポリシラン化合物とを含有することを特徴とする膜形成用組成物。
【請求項5】
含フッ素アクリルモノマーを含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の膜形成用組成物。
【請求項6】
前記含フッ素アクリルモノマーがポリシラン化合物とブロック共重合体を形成していることを特徴とする請求項5に記載の膜形成用組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の膜形成用組成物を、基体上に塗布した後に、熱処理及び/又は光処理することを特徴とする膜形成方法。
【請求項8】
粒子表面に存在するシラノール基が疎水性基を有する表面改質剤で処理されたシリカ粒子と、ポリシラン化合物とを含む組成物の硬化物からなることを特徴とするハードコート膜。
【請求項9】
前記組成物が、含フッ素アクリルモノマーを含有することを特徴とする請求項8に記載のハードコート膜。
【請求項10】
前記含フッ素アクリルモノマーがポリシラン化合物とブロック共重合体を形成していることを特徴とする請求項9に記載のハードコート膜。
【請求項11】
粒子表面に存在するシラノール基が疎水性基を有する表面改質剤で処理されたシリカ粒子と、ポリシラン化合物とを含む組成物の硬化物からなることを特徴とする反射防止膜。
【請求項12】
含フッ素アクリルモノマーを含有することを特徴とする請求項11に記載の反射防止膜。
【請求項13】
前記含フッ素アクリルモノマーがポリシラン化合物とブロック共重合体を形成していることを特徴とする請求項12に記載の反射防止膜。
【請求項14】
粒子表面に存在するシラノール基が疎水性基を有する表面改質剤で処理されたシリカ粒子と、ポリシラン化合物とを含む組成物の硬化物からなることを特徴とする層間絶縁膜。
【請求項15】
前記組成物が、含フッ素アクリルモノマーを含有することを特徴とする請求項14に記載の層間絶縁膜。
【請求項16】
前記含フッ素アクリルモノマーがポリシラン化合物とブロック共重合体を形成していることを特徴とする請求項15に記載の層間絶縁膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−22314(P2006−22314A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165604(P2005−165604)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000238164)扶桑化学工業株式会社 (15)
【出願人】(590002471)
【出願人】(501001083)
【Fターム(参考)】