説明

膜形成顔料およびこれを含む被覆システム

【課題】被覆顔料および当該被覆顔料を含む被覆システム、特に、ポリマー被覆顔料の設計および当該被覆顔料の製造方法、ならびに当該被覆顔料を含む被覆システムの設計を提供する。
【解決手段】顔料分散剤および膜形成剤として作用するポリマー封止を含む被覆顔料を使用する。被覆顔料のポリマー封止化によれば、他の分散剤および/または樹脂の添加に関わらず、被覆システムに含まれる被覆顔料を分散させることができる。このように、被覆顔料は、被覆システムの製造工程を単純化する。被覆顔料はまた、被覆システムの貯蔵寿命を延長し、顔料配向および美麗性が向上した最終被膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、被覆顔料および当該被覆顔料を含む被覆システム、特に、ポリマー被覆顔料の設計および当該被覆顔料の製造方法、ならびに当該被覆顔料を含む被覆システムの設計に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料、樹脂、および溶剤は、着色塗料および着色インクの主成分である。樹脂は、主に、膜形成および被膜と基材との密着を担う一方で、顔料は、被覆された基材に美的効果や保護作用を与えることを目的として塗料/インク業界において幅広く用いられている。着色塗料/インクの特性および最終被膜(final coating)の性能は、顔料の分散、ならびに顔料と樹脂、溶剤、および塗料/インクの他成分との相互作用に大きく影響される。しかしながら、これらの成分間の相互作用は複雑であるため、媒体における適切な顔料分散および最適な塗料/インク特性が望まれる。
【0003】
顔料のインクおよび被膜への取り込みは、通常、液状樹脂システムに乾燥顔料を分散させることによって達成される。最適な隠ぺい力や色強度を実現するためには、混合工程中に高剪断を加え、顔料の塊や凝集体を砕いて一次粒子の状態にしなければならない。顔料粒子の再凝集または塗料/インクシステム全体からの顔料の分離は塗料/インクシステムの性能を低下させるため、顔料粒子は、保管の間、塗料/インクシステムにおいて安定している必要もある。
【0004】
塗料/インクシステムへの顔料の添加は、多くの場合、塗料/インクシステムの性能と複雑なかかわり合いをもつ。例えば、顔料表面と樹脂ポリマー鎖との相互作用は、インク/塗料システムの粘度分布を変え得る。塗料またはインクは、適用条件により、それぞれの特徴的で好ましいレオロジー特性を有する。塗料/インク製品の粘度は、顔料粒子の大きさ、形、濃度および分散に依存するだけでなく、顔料粒子と樹脂システムの他成分との相互作用にも大きく依存している。一方、樹脂と顔料との非相溶性は、多くの場合、樹脂システムからの顔料の沈殿凝集や分離を招き、隠ぺい力および最終被膜の美麗性を低下させる。
【0005】
顔料と他の塗料/インクの成分との相互作用は複雑であり、これらの相互作用、およびこれらの相互作用が最終製品の特性および性能にいかに影響を与えるかを理解するためには広範囲な試みが必要となる。これらの目的から、顔料分散を促進し、得られる塗料/インクの貯蔵寿命を延長するために、分散剤が被膜配合物において幅広く用いられてきた。樹脂システムにおける顔料相溶性の増進のため、ならびに顔料分散の向上、システム粘度の制御、および塗料/インクシステムの安定性維持のために、多数の顔料前処理方法が利用されてきた。顔料の表面は、顔料表面上に物理的に吸着(absorb)され得るかまたは顔料表面に化学的に結合され得る表面活性試薬で処理することができる。そのような表面活性試薬としては、例えば、脂肪酸、有機リン化合物、およびシランカップリング試薬が挙げられる。表面活性基を含むポリマーの材料もまた、顔料分散剤として広範囲に検討されてきた。塗料/インクシステムにおける分散性を高めるために、顔料をポリマーまたは無機マトリクス内に封止する研究も行なわれてきた。
【0006】
顔料は、塗料/インクの他成分と反応および/または相互作用し得る。これらの場合において、保管安定性を高めるためや、塗料/インクの最終性能を向上させるために、これらの成分を個々に分け、塗料/インクを適用する直前に初めてそれらを混ぜ合わせることが望ましい。しかしながら、これらの被膜材料の複雑な性質のため、市販の塗料/インクは、一般に、製造業者によって全ての成分を含む完成品として最終的な適用の形にまで加工されて供給されている。したがって、異なる成分間の望ましくない反応や相互作用を軽減するための広範囲な試みにも関わらず、市販の塗料/インクの貯蔵寿命は、一般的に限られている。例えば、金属効果を生むために塗料/インク業界で幅広く用いられているアルミニウム顔料は、水と容易に反応し、水素ガスを発生し得る。アルミニウムの腐食は、最終被膜の金属光沢を減少させるだけでなく、容器内部に蓄積された過剰な水素は、保管、輸送、および取り扱いにおいて重大な危険を引き起こす。現市場の揮発性有機含量(VOC)を最小化するための溶剤性から水溶性への焦点の移行に伴い、広範囲な市場努力は、アルミニウム顔料と水との反応を軽減することや、最終製品の貯蔵安定性を延ばすことへと方向転換している。
【0007】
顔料と他の被膜成分との相互作用は、密着性、耐候性、耐薬品性、および美麗性などの最終的な被膜特性にも影響を与える。例えば、顔料は、樹脂マトリクスに対して非相溶性である場合、被膜の表面に移動する傾向がある。これらの場合、顔料の膜に対する密着性は減少し、顔料は外部環境に曝される。その結果、最終被膜の耐傷性は制限され、退色が生じやすくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、顔料と塗料/インクシステムの残部との相互作用が複雑であるため、塗料/インクの配合工程を通して広範囲な検討を行なう必要がある。例えば、顔料と塗料/インクシステムの残部との相溶性に応じて、塗料/インクの望ましい特性を得ることを目的として、適切な添加剤を特定し、適切な工程を見い出すための広範囲な研究が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[発明の概要]
顔料分散剤および膜形成剤として作用するポリマー封止を含み得る被覆顔料、当該被覆顔料を含み得る被覆システム、ならびに当該被覆顔料および当該被覆システムの製造方法を記載する。被覆顔料のポリマー封止化によれば、他の分散剤および/または樹脂を添加しても添加しなくても、被覆システムに含まれる被覆顔料を分散させることができる。このように、開示の被覆顔料は、被覆システムの製造工程を単純化することができる。開示の被覆顔料はまた、被覆システムの貯蔵寿命を延長し、顔料配向および美麗性が向上した最終被膜を提供することができる。
【0010】
開示の被覆顔料は、顔料の表面に結合したポリマー鎖またはポリマー網目構造(polymer networks)を含み得る。開示の被覆システムの1つの実施形態では、被覆システムは、開示の被覆顔料および溶剤を含み得る。1つの例では、適切な溶剤が被覆顔料に添加されると、結合したポリマー鎖またはポリマー網目構造は膨張し、被覆顔料は溶剤中に分散しやすくなる。膨張したポリマー鎖またはポリマー網目構造は、立体障害および/または静電反発力をもたらし、最終的な塗料/インクシステムにおいて被覆顔料を安定化させる分散剤として作用し得る。溶液環境によって顔料表面への親和性が大きく左右される従来の分散剤とは異なり、開示の被覆顔料に結合したポリマー鎖は、分散のための堅牢な安定性をもたらすことができ、塗料およびインクシステムにおける配合範囲(formulation window)の拡大を可能にし得る。
【0011】
被覆顔料の別の実施形態では、ポリマーまたはポリマー網目構造は、膜形成能力を提供するのに十分な量で含まれ得る。従来の塗料は、膜を形成するための外部樹脂またはバインダーに依存する。これらの従来のシステムでは、顔料を湿らせるためには十分な量のバインダーが必要であり、顔料の体積濃度(PVC)を臨界PVC未満に保つためには顔料の使用量を十分に少なくする必要がある。開示のシステムの1つの例では、ポリマー封止顔料を溶剤中に分散させることによって、外部樹脂を添加することなく塗料またはインクを直接形成することができる。顔料表面に結合したポリマーは、溶剤および他の揮発性成分が蒸発すると、顔料を互いに直接付着させることができる。これにより膜が形成され、被膜と被覆対象基材との密着が促進される。
【0012】
開示の被覆システムの1つの実施形態では、開示の被覆システムは、塗料の配合において外部バインダー、粉砕添加物、および分散剤の使用を必要としないため、塗料/インクの調製工程を単純化することができる。この場合、開示の被覆顔料に溶剤を添加し、剪断および撹拌を最低限行なうことによって塗料/インクを簡単に製造することができる。塗料/インクの組成を単純化し、処理要件を減らすことによって、望ましくない相互作用の可能性を減少させ、得られる塗料/インクの貯蔵寿命を延長させることができる。更に、ポリマーは顔料に化学的に結合され、それにより良好な膜形成能力の達成に必要とされるグラフトポリマーの量を少なくすることができるため、最終被膜において高い顔料添加量(pigment loading)を実現することができる。既存の被膜と比較すると、開示のシステムは、顔料であるアルミニウム、ガラス、雲母フレークを有する開示の被覆顔料を含み得るため、顔料配向が改善され美麗性が向上した被膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、開示の被覆顔料の1つの実施形態を示す。
【図2】図2は、a)ポリ(メタクリル酸メチル)、b)アクリロニトリルブタジエンスチレン、およびc)ポリスチレンのプラスチック上に適用された開示の被覆システムを示す。
【図3】図3は、ポリスチレン被覆Silberline Sparkle Silver(登録商標)Premium695の無樹脂被膜のクロスハッチ接着試験の結果を示す。
【図4】図4は、ポリ(メタクリル酸メチル)パネル上のポリ(メタクリル酸メチル)被覆Silberline Sparkle Silver(登録商標)Premium695の無樹脂被膜表面の走査電子顕微鏡図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
分散剤であり、膜形成試薬であり、かつ顔料に結合するポリマーを含み得る被覆顔料、当該被覆顔料を含み得る被覆システム、および当該被覆システムの製造方法を記載する。塗料またはインクシステムに関して、本明細書に記載の被覆システムの概念を記載する。しかしながら、適切な状況下では、当該概念は、他の種類のシステムにも適用可能であることが分かるだろう。
【0015】
樹脂および顔料は、通常、塗料/インクシステムなどの被覆システムにおいて重要な成分となり得る。本明細書において「樹脂」なる用語は、当技術分野において、分散剤、膜形成剤、および/または接着剤として、インクおよび塗料などの被覆配合物に一般的に加えられるポリマーを意味する。樹脂は、例えば、アルキド、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、シリコーン、フェノール、尿素、メラミン、エポキシ、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリビニル、およびポリアクリル酸樹脂であり得る。本明細書において「顔料」なる用語は、液状媒質に不溶性であり、インク組成物および塗料組成物での使用に適した、任意の形態の、透明、メタリック、白色、もしくは有色の鉱物粒子または有機粒子を意味し得る。膜形成試薬としての樹脂は、被覆システムの機械的特性、および被覆システムによって形成された膜の基材への密着を担い得る。顔料は、隠ぺい力をもたらし、被膜に美麗性を与え得る。発明者らは、分散剤であり膜形成試薬であるポリマーを顔料に結合させることによって、このような被覆顔料を含む被覆システムが、溶剤以外にさらなる成分を必要とせずに顔料を分散させ、基材に対して良好な密着性を有する膜を形成することを見い出した。
【0016】
1つの実施形態では、開示の被覆システムは無樹脂システムであり得る。「無樹脂(resin-less)」なる用語は、顔料の表面上にグラフトされたポリマーまたはポリマー網目構造を除き、最終的な塗料/インク配合物にさらなる分散剤および/または樹脂を必要とすることなく被覆膜を形成することを意味し得る。本明細書において「さらなる分散剤および/または樹脂」なる用語は、顔料の表面上に結合したポリマー鎖とは別のポリマーであって、当技術分野において、分散剤、膜形成剤、および/または接着剤として、インクおよび塗料などの被覆配合物に一般的に加えられるポリマーを意味し得る。上記さらなる樹脂は、例えば、アルキド、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、シリコーン、フェノール、尿素、メラミン、エポキシ、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリビニル、およびポリアクリル酸樹脂であり得る。上記さらなる分散剤の例は、「有機塗料:科学と技術(Organic coatings: science and technology)」、第3版(ニューヨーク:ジョンワイリー&サンズ,2007年)440および446ページに見出すことができ、この文献は参照により本書に援用される。
【0017】
1つの例では、開示の被覆システムは、開示の被覆顔料および溶剤または溶剤混合物を含み得る。本明細書において「溶剤または溶剤混合物」なる用語は、最終被膜の成分を保持しているので基材に当該成分を適用することができ、そしてその後に蒸発、処理(treating)などにより除去される液体を意味し得る。1つの例では、開示の被覆システムは、被覆顔料および溶剤または溶剤混合物のみを含み得る。1つの実施様式では、ポリマーは、被覆システムが基材上に適用される場合、膜を形成して当該膜を基材上へ付着させるのに十分な量で加えられ得る。被覆システムが適用される基材は、プラスチックや金属など、塗料またはインクが適用される任意の基材であり得るが、これらに限定されるものではない。
【0018】
別の実施形態では、開示の被覆システムは、制御された厚みを有する滑らかで堅牢なポリマー被膜によって封止された被覆顔料を含み得る。被覆顔料の分散を安定化させるために、ポリマー鎖またはポリマー網目構造は、作業条件下で顔料の表面に付着し得る。ポリマー封止は、ポリマー鎖/ポリマー網目構造と顔料との化学結合を通じて安定化し得る。1つの実施様式では、ポリマー封止は、顔料表面に共有結合されるかまたは強力に吸着される1つの末端を有するポリマー鎖から構成することができる。
【0019】
開示の被覆顔料の1つの例を説明する。図1を参照すると、被覆顔料10は、表面12aを有する顔料12を含み得る。表面12aは、複数の層14aおよび14bを有する被膜14で被覆され得る。図1に示す例示の実施形態では、被膜14は、2つの層14aおよび14bを含むが、適切な状況下では、被膜14は、1つの層または2つを超える層を有し得る。層14aおよび14bは、それぞれ、ポリマー鎖16を含んでもよい。各層のポリマー鎖16の組成は、同一であっても異なっていてもよい。ポリマー鎖16は、顔料12の表面12aに強力に結合し得る。「結合する」なる用語は、ポリマー鎖16が、顔料12の表面12aに化学的または物理的に付着することを意味し得る。被膜14はまた、ポリマー鎖16を繋ぐ鎖間架橋18を含み得る。
【0020】
顔料は、金属酸化物、金属酸化物封止物質、シリカ、ホウケイ酸塩(borosilica)、シリカ被覆物質、雲母、ガラス、鉄、またはアルミニウムであり得るが、これらに限定されるものではない。1つの例では、利用する被覆顔料10は、0.5nm〜500μmの範囲の厚さを有する顔料を含み得る。別の例では、顔料の厚さは、20nm〜100μmの範囲であり得る。さらに別の例では、顔料の厚さは、50nm〜1μmの範囲であり得る。さらに別の例では、顔料の大きさは、100nm〜5000μmの範囲であり得る。さらに別の例では、顔料の大きさは、500nm〜100μmの範囲であり得る。さらに別の例では、顔料の大きさは、1μm〜50μmの範囲であり得る。
【0021】
ポリマー鎖16と顔料12の表面12aとの強い相互作用により、被膜の堅牢性および安定性がもたらされ得る。本明細書において「被膜の堅牢性および安定性」なる用語は、循環試験、耐薬品性、および他の作業条件下での被覆顔料の残存力を意味し得る。
【0022】
更に、顔料表面上の不均一な被膜は顔料配向を妨げ、美的性能を減少させ得る。一方、開示の被覆顔料10の表面は滑らかとなり得ることから、複数の被覆顔料10は最大限に接触し、良好な膜を形成することができる。
【0023】
一般に、開示の被覆システムは複数の被覆顔料10を含み、開示の被覆システムの製造に関連したステップがいくつか存在し得る。先ず、顔料はポリマーによって封止化され得る。1つの例では、ポリマー封止顔料を、溶剤中に容易に分散することができる。ポリマー封止顔料は、湿った形で保たれ、例えば、濃縮ペーストまたはスラリーとして保管される。さらなる溶剤は、被覆システムの適用前に、所望の被覆顔料濃度を達成するためにいずれのときにも添加され得る。基材上に被覆システムが適用されると、溶剤が蒸発し、膜が形成され得る。1つの例では、基材上に形成された膜の厚さは、1〜10μmであり得る。別の例では、基材上に形成された膜の厚さは、2.5〜3μmであり得る。さらに別の例では、基材上に形成された膜の厚さは、2.5μmであり得る。膜と基材との良好な密着は、被覆顔料に含まれたポリマーと基材との物理的または化学的な相互作用によって達成され得る。異なる被覆顔料からグラフトされたポリマー鎖間のからみ合いによって良好な膜の機械的特性が得られうる一方で、ポリマー鎖が官能基によってさらに変性されることにより、顔料上に架橋網目構造(cross-linked networks)を形成することができる。
【0024】
1つの実施形態では、表面開始重合を用いて顔料上に厚みのあるポリマー被膜を形成することができる。この工程では、先ず、開始剤部分(重合性モノマーの重合を開始できる官能基として定義されている)が顔料表面に固定化される。続く重合により、厚いポリマー鎖が顔料の表面から成長し得る。
【0025】
被膜の厚さ(膜厚)は、単に反応時間を変更することによって容易に制御することができる。さらに、モノマー濃度、重合時間、溶剤、および触媒(これらに限定されるものではないが)を含む他の要素を使用して、膜厚を制御することができる。透過電子顕微鏡を介した直接観察によって測定することができるポリマーの平均膜厚は、数ナノメートルから100nmを超える範囲である。
【0026】
グラフト密度およびポリマー鎖の平均分子量という2つの要素もまた、膜厚を決定し得る。ポリマー鎖の分子量は、重合時間、モノマー濃度、溶剤、反応温度、および触媒などの重合条件を調節することにより調整することができる。グラフト密度を変更することは、板状物の表面の開始剤面密度を制御することにより達成することができる。原子移動ラジカル重合(米国特許第5,763,548号)、ニトロキシド媒介重合(米国特許第6,353,107号)、および可逆的付加開裂連鎖移動重合(米国特許第7,205,362号)などの制御/リビングラジカル重合を使用すると、ポリマー鎖が表面から同じような速度で成長することができ、基材の表面上に均一の構造を有する被膜をもたらすことができる。
【0027】
さらに、溶液中の未結合の開始剤を除去することにより、形成された大部分のポリマー鎖は、板状物表面に固定される。この結果、溶液中の未結合のポリマー鎖の量を最少にできる。重合混合物は、溶剤を添加しても添加しなくても、反応工程全体にわたって低い粘性を保持し得る。簡単な精製手順によって、反応溶液中の他成分からポリマー封止板状物を容易に分離することができる。
【0028】
1つの実施形態では、開始剤部分で顔料表面を官能化するために、開始剤を含むカップリング試薬を使用することができる。開始剤は、X−R−Yという化学構造を有し、ここで、Xは表面活性基を表し、Yは開始剤部分を表し、Rはスペーサーを表す。開始剤部分は、表面活性基と顔料の表面に存在する官能基との反応に際して顔料に固定され得る。
【0029】
別の例では、開始剤を、複数の工程を有する方法を通じて顔料表面に固定することができる。1つの具体例では、複数の工程を有する方法は、二工程法であり得る。この場合では、表面活性分子であるX−R1−Aが、まず顔料の表面に適用される。官能基Xが、表面に分子を固定化する一方で、官能基Aによって顔料表面でさらなる化学反応が可能になり、開始剤部分Yが顔料の表面に存在することになる。
【0030】
表面活性基Xは、モノ−、ジ−、およびトリ−アルコキシシラン(alkoxylsilane)、モノ−、ジ−、およびトリ−ハロシラン、カルボン酸、ホスホン酸、ならびに金属表面、金属酸化物表面、またはシリカ表面に強い親和性を有する他の化学基であり得るが、これらに限定されるものではない。トリアルコキシシランおよびトリハロシランの場合には、オルガノシラン分子間での分子間縮合によって、このような分子の高密度で堅牢な被膜の形成が可能となる。場合によっては、Xの選択は、利用する顔料の種類に依存し得る。例えば、シランはシリカ、アルミナ、およびガラスの表面を変性するために使用することができる一方で、カルボン酸を有する分子は酸化鉄の表面を官能化するために使用することができる。
【0031】
開始剤部分Yは、制御ラジカル重合を開始する任意の官能基であり得る。開始剤部分Yは、活性ハロゲン原子、アルコキシアミン、ジチオエステル、ジチオカルバメート、トリチオカルボネート、キサンテート、有機過酸化物、およびアゾ化合物であり得るが、これらに限定されるものではない。
【0032】
ラジカル重合、制御ラジカル重合、アニオン重合、およびカチオン重合などの各種の重合方法は、表面からポリマー封止を成長させるために用いられてきた。1つの実施様式では、制御ラジカル重合は、制御された構造を有するポリマー鎖を表面から成長させるために用いられ得る。被覆顔料の1つの例では、ポリマーの鎖は、ホモポリマー、ランダムコポリマー、グラジエントコポリマー、ブロックポリマー、グラフトコポリマー、スターコポリマーまたはこれらの任意の組み合わせを含み得る。1つの実施様式では、ポリマー鎖は、顔料にポリマー網目構造被膜を形成するための架橋を含み得る。
【0033】
1つの例では、開始剤が板状物の表面に固定化された後、板状物をろ過により精製して未結合のカップリング試薬をすべて除去してから、重合反応に進む。溶液中の遊離カップリング試薬の存在が溶液粘度を著しく高めないか、または続いて行われる重合における他の作業条件に悪影響を及ぼさない別の例では、反応溶液は、さらなる精製をしないで直接使用され得る。
【0034】
開始剤が固定化された板状物は、次に、モノマー溶液に分散され得る。モノマー溶液は、1種類のモノマーまたは異なる種類のモノマーの混合物を含み得る。使用することができるモノマーの例としては、スチレン、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、アクリロニトリル、ビニルピリジン、マレイミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、およびイソプレンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。モノマー溶液中へ開始剤で固定化された板状物を分散させた後、表面からの重合により、板状物に結合したポリマー鎖の形成が生じ得る。開始剤分子は、寸法が小さいので、高い面密度で板状物の表面に固定化され得る。したがって、この手法によれば、高いグラフト密度を有するポリマー被膜の合成が可能になる。
【0035】
板状物の表面からの重合は、溶液重合と同じメカニズムに従うので、溶液重合において重合することができるモノマーを、開示の方法に直接適用することができる。
【0036】
原子移動ラジカル重合、ニトロキシド媒介重合、および可逆的付加開裂連鎖移動重合などのリビングラジカル重合または制御ラジカル重合によれば、制御された分子量、多分散性、および様々な種類のモノマーからの構造を有するポリマーの合成が可能になる。リビング重合を使用することによって、開示の方法によれば、膜厚を数ナノメートルから数百ナノメートルまで制御することが可能になり、さらに、板状物上のポリマー被膜の構造を制御することが可能になる。粒子または板状物表面上の膜厚および均一性を直接観察するために、透過電子顕微鏡法を用いることができる。1つの例では、被覆板状物のそれぞれの膜厚は、実質的に均一になり得る。この場合、膜厚の平均および標準偏差は、10個を超える異なる被覆板状物からの、20,000倍〜100,000倍の倍率の透過電子顕微鏡画像から計算することができる。図4に示すように、目盛が100nmである場合、板状物上の膜厚の標準偏差は、平均膜厚の15%未満であり得る。
【0037】
開示の方法において使用し得る制御ラジカル重合のリビング的な性質は、板状物上の多層被膜の合成も可能にする。1つの例では、第2のモノマーまたは第2のモノマー群を、所定の反応時間後に反応フラスコに加えることができる。別の例では、1回目の重合が終わった後に、板状物を反応混合物から分離し、精製し、その後、第2のモノマーまたは第2のモノマー群と共に2回目の重合に供することができる。いずれの場合も、第1の層の組成とは異なる組成を有する第2の被膜層を形成することができる。後者の手法では、本方法により、完全に異なる組成を有する第2の層の合成が可能になる。多層被膜を提供するために、上記のステップを、任意の回数、任意の異なる組み合わせで繰り返すことができる。
【0038】
封止は、各種モノマーのポリマーまたはコポリマーの鎖または網目構造により構成することができる。開示の方法で使用することができるモノマーの例としては、アクリロニトリル、スチレン、ジビニルベンゼン、4−メチルスチレン、3−メチルスチレン、2−メチルスチレン、4−ビニルアニソール、4−フルオロスチレン、2−フルオロスチレン、3−フルオロスチレン、4−クロロメチルスチレン、4−(tert−ブチル)スチレン、3−クロロスチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸tert−アミル、アクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−デシル、アクリル酸イソデシル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸ウンデシル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸1−ヘキサデシル、アクリル酸ステアリル、メタクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸3,3,5−トリメチルシクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸ペンタブロモフェニル、メタクリル酸ペンタブロモフェニル、アクリル酸ペンタフルオロフェニル、メタクリル酸ペンタフルオロフェニル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル、アクリル酸1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシル、メタクリル酸1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシル、アクリル酸1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチル、メタクリル酸1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチル、メタクリル酸1H,1H,3H−テトラフルオロプロピル、アクリル酸1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル、メタクリル酸1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル、メタクリル酸1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチル、アクリル酸1H,1H−ヘプタフルオロブチル、アクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチル、メタクリル酸ヘキサフルオロ−イソプロピル、アクリル酸ペンタフルオロフェニル、メタクリル酸ペンタフルオロフェニル、メタクリルアミド、アクリルアミド、4−ビニルピリジン、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルおよびメタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、4−ビニルアニリン、3−ビニルアニリン、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、メタクリル酸ポリ(エチレングリコール)、アクリル酸ポリ(エチレングリコール)、メタクリル酸ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル、メタクリル酸ポリ(エチレングリコール)エチルエーテル、アクリル酸ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル、ジメタクリル酸1,10−デカンジオール、ジメタクリル酸1,3−ブタンジオール、ジアクリル酸1,4−ブタンジオール、ジメタクリル酸1,4−ブタンジオール、1,4−ジアクリロイルピペラジン、ジアクリル酸1,4−フェニレン、ジメタクリル酸1,5−ペンタンジオール、ジアクリル酸1,6−ヘキサンジオール、ジメタクリル酸1,6−ヘキサンジオール、ジメタクリル酸1,9−ノナンジオール、2,2−ビス(4−メタクリルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−アクリルオキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ジメタクリル酸2,2−ジメチルプロパンジオール、ジアクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸ジプロピレングリコール、ジアクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸エチレングリコール、N,N’エチレンビスアクリルアミド、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−ヘキサメチレンビスアクリルアミド、N,N−ジアリルアクリルアミド、ジメタクリル酸テトラエチレングリコール、ジメタクリル酸トランス−1,4−シクロヘキサンジオール、ジアクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、トリアクリル酸1,1,1−トリメチロールプロパン、トリメタクリル酸1,1,1−トリメチロールプロパン、ペンタアクリル酸ジペンタエリトリトール、テトラアクリル酸ペンタエリトリトール、トリアクリル酸ペンタエリトリトール、ジアクリル酸ポリ(エチレングリコール)、およびジメタクリル酸ポリ(エチレングリコール)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
1つの具体例では、ポリマー封止の厚さは、顔料上のポリマーの添加量(polymer loading)を定め得るものであり、最終被膜の顔料/バインダー(P/B)比に影響を与え得るものでもある。1つの例では、開示の被覆システムは、高いP/B比を有し得る。顔料はポリマー内に均一に封止されるため、従来の塗料/インクシステムと比べて大幅に高いP/B比を有する開示の被覆システムを調製することができる。この場合、通常P/B比が1未満である従来の塗料/インクと比較すると、10までのP/B比を有する当該被覆システムを調製することができる。例えば、平均粒径が12μmのアルミニウム顔料を含み得るSilberline Sparkle Silver Premium(登録商標)695から製造される塗料に対して、従来の塗料/インクは通常1未満のP/B比を有し得る一方で、開示の被覆システムは5以上のP/B比で調製され得る。
【0040】
さらに、封止におけるポリマー鎖は、適切な膜形成および良好な被膜の密着性を確実にするために、ポリマー鎖の再編成(rearrange)によって十分な物理的からみ合いが提供されかつ/または十分な量の化学反応部位が他の被覆顔料封止からの顔料またはポリマー鎖に曝されるように、適度な長さを有し、一定の可撓性を有することができる。本明細書において「可撓性」なる用語は、ポリマー被膜のポリマー鎖が他の被覆顔料の表面に追従することができ、それによって被膜表面間の接触面積が増加するように、ポリマー鎖が自身の構成を容易に再編成できることを意味する。
【0041】
別の具体例では、ポリマー鎖は、基材の表面に結合することが可能であり、それによって被膜に堅牢性および安定性をもたらすことができる。本明細書において「堅牢性と安定性」なる用語は、循環試験、繰り返しの溶剤洗浄および一般の反応条件下での被覆基材の残存力を意味し得る。これらの場合、ポリマー鎖は、可撓性を有することが可能であり、カラー顔料との接触を最大化させて当該カラー顔料と被覆基材の表面との密着を大幅に向上させることができる。
【0042】
開示の被覆システムの1つの実施形態では、被覆システムは、複数の被覆顔料10および溶剤または溶剤混合物のみを含み得る。本実施形態の被覆システムは、複数の被覆顔料10を溶剤または溶剤混合物に分散させることによって簡単に調製され得る。被覆システムにおける被覆顔料の量は、10%〜70%であり得る。任意で被覆システムにおける溶剤の量は、25%〜85%の範囲であり得る。
【0043】
1つの例では、利用する溶剤または溶剤混合物は、封止の表面上のポリマーセグメントの良好な溶剤となり得るため、ポリマー鎖の崩壊や顔料粒子の集塊を防ぐことができる。開示のカラーシステムにおいて使用される溶剤または溶剤混合物は、水、低級アルコール、炭化水素、エーテル、エステル、ケトン、グリコールエーテル、ピロリドン、スルホキシドおよびこれらの混合物であり得る。使用可能な溶剤としては、例えば、ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、キシレン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、N−メチルピロリドン、およびメチルエチルケトンが挙げられる。
【0044】
さらに別の実施形態では、最適な密着性を実現するためおよび/または配合において必要な外部樹脂量を削減するために、塗料分野およびインク分野で従来用いられてきたシステムに、複数の被覆顔料10を分散することができる。この実施形態では、顔料分散性を向上するため、顔料と残りの被膜との密着性を促進するためおよび/または顔料保護のバリア機能を提供するために、ポリマー封止の組成を調整することができる。
【0045】
理論に束縛されることなく、被覆膜の機械的特性は、異なる被覆顔料10のポリマー鎖の物理的なからみ合いによって生じ得る。1つの実例では、反応性部位を封止14上に導入することや、被覆システムの基材への適用後に架橋網目構造が形成されることにより、膜の結着性をさらに強めることができる。同様に、被覆膜と被覆顔料との密着は、化学的または物理的に生じ得る。
【0046】
最終被膜におけるバインダーの削減もまた、最終的な被膜製品の美麗性に影響を与え得る。別の実例では、被覆システムにおける被覆顔料添加量の増加により、最終被膜の彩度(chroma)または不透明度(opacity)は向上し得る。効果顔料に関して、塗料/インク内の過剰な樹脂が顔料配向の妨げになることは公知である。1つの例では、被覆システムは高いP/B比で形成され、被覆顔料はポリマー封止において均一に埋め込まれ得ることから、従来の方法と比較すると、被覆顔料の最終的な配向、すなわち被膜の美麗性を大幅に改善することができる。
【0047】
ポリマー封止はまた、被覆システムおよび基材上に形成された膜において優れた安定性を有する被覆顔料を提供するように設計され得る。例えば、Al顔料は水の攻撃に影響されやすいため、Alの品質は低下し、輸送や保管時に危険を引き起こし得る水素ガスが発生する可能性がある。1つの例では、アルミニウム顔料上に疎水性被膜を取り込むことにより、Alフレークの表面への水の浸透を効果的に遅らせ、それによって開示の被覆システムの安定性を向上することができる。同様の理由から、最終的な被覆システムは、ポリマー封止が施されていない顔料から作られた従来の被覆システムと比較すると、より優れた耐水性を有することができる。
【0048】
さらに、従来の塗料/インクは、通常、適用前に満たされるべき特定の粘度基準を要求し得る。例えば、インクの適用では、顔料添加量はインク混合物の粘度によって制限され得る。過剰な顔料の添加は、多くの場合、粘度の上昇や印刷適性(printability)の低下を引き起こし得る。無樹脂インクでは、高い顔料/バインダー比により、インク粘度を著しく上昇させることなく相当量の顔料を溶剤内に分散させることができる。1つの例では、開示の被覆システムは、任意で粘度基準を必要としない。1つの具体例では、被覆システムは、低粘度で適用され得る。この場合、被覆システムは、従来の塗料/インクと比べて低い割合で樹脂を含むため、開示の被覆システムは、基材上に適用された場合、従来の塗料/インクのシステムと比べて大幅に短い期間で固まり得る。
【0049】
別の利点として、無樹脂塗料/インクは従来の被覆システムと比べて比較的少量の樹脂を含むため、無樹脂被膜は従来の被覆システムと比べて大幅に短期間で乾燥し得る。
【0050】
さらに別の利点として、開示の被覆システムでは、外部樹脂または分散剤は任意で必要とされないため、開示のシステムを配合工程の際に大幅に簡易化することができる。例えば、被覆顔料10をスラリー状に保管することができる。被覆システム適用前に、溶剤全体を即座に添加することができる。
【0051】
無樹脂システムは、標準的な被覆/印刷方法を使って適用され得る。無樹脂塗料の適用方法としては、噴霧および浸漬被覆が挙げられるが、これらに限定されるものではない。無樹脂インクの適用方法としては、グラビア印刷、フレキソ印刷、およびオフセット印刷が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
物品の1つの実施形態では、物品は、開示の被覆システムを含み得る被膜を含む。
【実施例1】
【0053】
ポリスチレン被覆Al顔料の調製
機械撹拌機および冷却器を装着した2Lの反応フラスコに、480gのアルミニウムペースト(Silberline Sparkle Silver(登録商標)Premium695、不揮発性分75.28%)、1200mLのトルエン、および3mLの3−(トリメトキシシリルプロピル)−2−ブロモ−2−メチルプロピオナートを加えた。反応混合物を加熱し、還流状態を24時間保った。反応時間が終了すると、混合物を室温まで冷却した。フレークを真空ろ過した。トルエンで2回洗浄した。
【0054】
機械撹拌機および加熱マントルを装着した500mLの反応フラスコに、開始剤によって変性された32.3gのAlペースト(不揮発性分を20g含む)、0.423gのCuBr、200mLのスチレン、および190mLのPMアセテートを加えた:溶液は窒素で脱気をし、絶えず撹拌した状態で80℃まで加熱した。別のフラスコ中で、ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)を30分間窒素で脱気した。次に、窒素パージした注射器を用いて、脱気したPMDETAを上記反応フラスコに0.83mL移した。4時間重合した後、反応を停止させた。顔料を遠心分離によって精製した。熱重量分析により、15.86%の乾燥顔料から構成されるポリマーを確認した。顔料は、PMアセテート中に湿性ペーストとして保管された。
【実施例2】
【0055】
実施例1のポリスチレン被覆Alの無樹脂塗料
湿性ペーストをPMアセテートで希釈して実施例1で作られた顔料の無樹脂塗料を調製した。最終的な塗料の顔料重量濃度は10.1%である。ポリスチレン、ポリ(メタクリル酸メチル)およびアクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)のプラスチックパネル上に、塗料をサイホン噴霧した。噴霧されたパネルをオーブン内でさらに乾燥させた。
【実施例3】
【0056】
ポリ(メタクリル酸メチル)被覆Al顔料の調製
機械撹拌機および冷却器を装着した20Lの反応フラスコに、4.8kgのアルミニウムペースト(Silberline Sparkle Silver(登録商標)Premium695、不揮発性分75.68%)、12LのPMアセテート、および16mLの3−(トリメトキシシリルプロピル)−2−ブロモ−2−メチルプロピオナートを加えた。反応混合物を加熱し、還流状態を6時間保った。反応時間が終了すると、混合物を室温まで冷却した。フレークを真空ろ過した。PMアセテートで2回洗浄した。
【0057】
機械撹拌機および加熱マントルを装着した500mLの反応フラスコに、開始剤によって変性された61.6gのAlペースト(不揮発性分を40g含む)、0.106gのCuBr、200mLのメタクリル酸メチル、および180mLのPMアセテートを加えた:溶液はアルゴンで脱気をし、絶えず撹拌した状態で80℃まで加熱した。別のフラスコ中で、ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)を30分間アルゴンで脱気した。次に、アルゴンパージした注射器を用いて、脱気したPMDETAを上記反応フラスコに0.16mL移した。4時間重合した後、反応を停止させた。顔料を遠心分離によって精製した。熱重量分析により、20.19%の乾燥顔料からなるポリマーを確認した。顔料は、PMアセテート中に湿性ペーストとして保管された。
【実施例4】
【0058】
実施例3のポリ(メタクリル酸メチル)被覆Alの無樹脂塗料
湿性ペーストをPMアセテートで希釈して実施例3で作られた顔料の無樹脂塗料を調製した。最終的な塗料の顔料重量濃度は5.8%である。ポリ(メタクリル酸メチル)およびABSのプラスチックパネル上に、塗料をサイホン噴霧した。噴霧されたパネルをオーブン内でさらに乾燥させた。
【実施例5】
【0059】
無樹脂システムを含む物品
実施例4に沿って調製された無樹脂塗料をa)ポリ(メタクリル酸メチル)、b)アクリロニトリルブタジエンスチレン、およびc)ポリスチレンのパネルに適用した。無樹脂塗料のサイホン噴霧を介して被膜を形成した。結果を図2に示す。
【実施例6】
【0060】
クロスハッチ接着試験
ASTM D3359規格に沿って、実施例4の被膜のクロスハッチ接着試験を実施した。結果を図3に示す。図3に示すように、開示の方法で調製された被膜は、標準的なクロスハッチ接着試験において良好な性能を提供し得る。
【実施例7】
【0061】
無樹脂被膜の走査電子顕微鏡検査
走査電子顕微鏡を用いて実施例5の無樹脂塗料が被覆されたポリ(メタクリル酸メチル)パネルを分析した。結果を図4に示す。図4は、被膜の優れた美麗性を可能にする優れた顔料の配向性を示している。
【0062】
態様
態様1
複数の被覆顔料と、
溶剤または溶剤混合物とを含む被覆システムであって、
前記被覆顔料のそれぞれは、表面を有する顔料と前記顔料を取り囲む被膜とを含み、前記被膜はポリマー鎖を含み、前記顔料の表面を取り囲む前記ポリマー鎖は前記顔料の表面に結合し、
前記複数の被覆顔料の前記ポリマー鎖は、前記被覆システムが基材上に適用される場合、膜を形成して前記膜を前記基材に付着させるのに十分な量で存在する、被覆システム。
態様2
前記顔料の表面に結合した分散剤および/または樹脂以外にさらなる分散剤および/または樹脂を含まない、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様3
前記被膜は少なくとも1層を有し、前記少なくとも1層はポリマー鎖を含み、前記ポリマー鎖は構造が実質的に均一である、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様4
前記被膜は複数の層を有し、それぞれの層はポリマー鎖を含み、前記それぞれの層におけるポリマー鎖は構造が実質的に均一である、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様5
前記顔料は、金属酸化物、金属酸化物封止物質、シリカ、ホウケイ酸塩(borosilica)、シリカ被覆物質、雲母、ガラス、鉄、およびアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様6
前記被膜は、内側の不動態化層および外側の分散層を含む、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様7
前記被膜は、無機着色剤および有機着色剤を含む、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様8
前記被膜は、鎖間の架橋を含む、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様9
前記溶剤は、水、低級アルコール、および/またはこれらの混合物からなる群から選ばれる、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様10
インクまたは塗料のシステムである、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様11
顔料/バインダー比が、1〜10である、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様12
前記基材は、プラスチックまたは金属である、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様13
前記複数の被覆顔料と、前記溶剤または前記溶剤混合物とを混ぜることからなる、いずれかの態様に記載の被覆システムの製造方法。
態様14
いずれかの態様に記載の被覆システムを含む被膜を含む、物品。
態様15
いずれかの態様に記載の被覆システムを基材に適用することを含む、被覆組成物の適用方法。
態様16
前記カラーシステムが、アルキド、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、シリコーン、フェノール、尿素、メラミン、エポキシ、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリビニル、およびポリアクリル酸樹脂を含まない、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様17
前記被覆顔料のそれぞれは、0.5nm〜500ミクロンの範囲の厚さを有する顔料を含む、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様18
前記被覆顔料のそれぞれは、20nm〜100ミクロンの範囲の厚さを有する顔料を含む、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様19
前記被覆顔料のそれぞれは、50nm〜1ミクロンの範囲の厚さを有する顔料を含む、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様20
前記被覆顔料のそれぞれは、100nm〜5000ミクロンの範囲の厚さを有する顔料を含む、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様21
前記被覆顔料のそれぞれは、500nm〜100ミクロンの範囲の厚さを有する顔料を含む、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様22
前記被覆顔料のそれぞれは、1ミクロン〜50ミクロンの範囲の厚さを有する顔料を含む、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様23
前記被覆顔料のポリマーは、膜の堅牢性および安定性をもたらす、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様24
前記被覆顔料のそれぞれの表面は、滑らかである、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様25
前記被覆システムが前記基材上に適用される場合、形成される前記膜が1〜10ミクロンの厚さを有するように構成される、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様26
前記被覆システムが前記基材上に適用される場合、形成される前記膜が2.5〜3ミクロンの厚さを有するように構成される、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様27
前記被覆システムが前記基材上に適用される場合、形成される前記膜が2.5ミクロンの厚さを有するように構成される、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様28
前記被膜は、1〜10ミクロンの厚さを有する、態様14に記載の物品。
態様29
前記被膜は、2.5〜3ミクロンの厚さを有する、態様14に記載の物品。
態様30
前記被膜は、2.5ミクロンの厚さを有する、態様14に記載の物品。
態様31
前記被覆顔料のそれぞれの膜厚は、数ナノメータ〜100nmを超える範囲にある、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様32
前記被覆顔料のそれぞれは、前記基材のそれぞれの表面に開始剤が固定化されるように前記基材のそれぞれの表面を変性することによって得られる、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様33
前記固定化された開始剤は、表面活性基、スペーサー、および開始剤部分を含む、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様34
前記表面活性基は、モノ−、ジ−、およびトリ−アルコキシシラン、モノ−、ジ−、およびトリ−クロロシラン、カルボン酸、有機リン化合物、ならびに金属表面、金属酸化物表面、またはシリカ表面に強い親和性を有する他の化学基から選ばれる、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様35
前記開始剤部分は、ハロゲン原子、アルコキシアミン、ジチオエステル、ジチオカルバメート、トリチオカルボネート、キサンテート、有機過酸化物、およびアゾ化合物から選ばれる、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様36
前記顔料のそれぞれは、シリカまたは金属酸化物の封止を介して官能化される、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様37
前記被覆顔料のそれぞれの膜厚は、10個を超える異なる被覆顔料からの20,000倍〜100,000倍の倍率の透過電子顕微鏡画像から膜厚の平均および標準偏差が計算され、目盛が100nmの場合に、前記基材上の前記膜厚の標準偏差が前記平均膜厚の15%未満となるような実質的に均一な膜厚である、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様38
前記被覆システムの顔料/バインダー比は5以上である、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様39
前記被覆システムの顔料/バインダー比は5〜10である、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様40
前記ポリマー鎖が前記被膜表面間の接触面積を増加させるために自身の構成を容易に再編成できるように、前記ポリマーは可撓性を有する、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様41
10〜70重量%の量で前記被覆顔料を含む、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様42
25〜85重量%の量で前記被覆顔料を含む、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様43
前記溶剤は、水、低級アルコール、エーテル、エステル、ケトン、グリコールエーテル、ピロリドン、スルホキシドおよび/またはこれらの混合物からなる群から選ばれる、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様44
前記溶剤は、ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、キシレン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、N−メチルピロリドン、およびメチルエチルケトンからなる群から選ばれる、いずれかの態様に記載の被覆システム。
態様45
粘度基準を必要としない、いずれかの態様に記載の被覆システム。
【0063】
開示の被覆顔料および方法を好ましい実施形態と共に記載したが、開示の視野および範囲内において開示の被覆顔料および方法の他の目的や改良が行われてもよいことは当業者には明らかである。
【0064】
本開示は、その種々の態様および開示の形態において、言及した以外の目的および利点を達成するために適宜変更される。開示の詳細は、請求項に対する限定と見なされるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被覆顔料と、
溶剤または溶剤混合物とを含む被覆システムであって、
前記被覆顔料のそれぞれは、表面を有する顔料と前記顔料を取り囲む被膜とを含み、前記被膜はポリマー鎖を含み、前記顔料の表面を取り囲む前記ポリマー鎖は前記顔料の表面に結合し、
前記複数の被覆顔料の前記ポリマー鎖は、前記被覆システムが基材上に適用される場合、膜を形成して前記膜を前記基材に付着させるのに十分な量で存在する、被覆システム。
【請求項2】
前記顔料の表面に結合した分散剤および/または樹脂以外にさらなる分散剤および/または樹脂を含まない、請求項1に記載の被覆システム。
【請求項3】
前記被膜は少なくとも1層を有し、前記少なくとも1層はポリマー鎖を含み、前記ポリマー鎖は構造が実質的に均一である、請求項1または2に記載の被覆システム。
【請求項4】
前記被膜は複数の層を有し、それぞれの層はポリマー鎖を含み、前記それぞれの層におけるポリマー鎖は構造が実質的に均一である、請求項1〜3のいずれかに記載の被覆システム。
【請求項5】
前記顔料は、金属酸化物、金属酸化物封止物質、シリカ、ホウケイ酸塩(borosilica)、シリカ被覆物質、雲母、ガラス、鉄、およびアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の被覆システム。
【請求項6】
前記被膜は、内側の不動態化層および外側の分散層を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の被覆システム。
【請求項7】
前記被膜は、無機着色剤および有機着色剤を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の被覆システム。
【請求項8】
前記被膜は、鎖間の架橋を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の被覆システム。
【請求項9】
前記溶剤は、水、低級アルコール、および/またはこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1〜8のいずれかに記載の被覆システム。
【請求項10】
インクまたは塗料のシステムである、請求項1〜9のいずれかに記載の被覆システム。
【請求項11】
顔料/バインダー比が、1〜10である、請求項1〜10のいずれかに記載の被覆システム。
【請求項12】
前記基材は、プラスチックまたは金属である、請求項1〜11のいずれかに記載の被覆システム。
【請求項13】
前記複数の被覆顔料と、前記溶剤または前記溶剤混合物とを混ぜることを含む、請求項1〜12のいずれかに記載の被覆システムの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載の被覆システムを含む被膜を含む、物品。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに記載の被覆システムを基材に適用することを含む、被覆組成物の適用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−31407(P2012−31407A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−157426(P2011−157426)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(511034594)シルバーライン マニュファクチュアリング カンパニー,インク. (7)
【Fターム(参考)】