説明

膜性腎症の診断法

本発明は、特発性膜性腎症(MN)の診断および予後評価のためのイムノアッセイ、試薬、治療、および方法に関する。イムノアッセイは、ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)に対して反応性である血清自己抗体に関する酵素結合免疫吸着測定法および比濁分析イムノアッセイを含む。治療法には、自己抗体を隔離するための、吸着による自己抗体の除去または可溶性PLA2Rもしくは断片の投与が含まれる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35 U.S.C. §119(e)の下で、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、2008年7月18日に提出された米国特許仮出願第61/081,786号の恩典を主張する。
【0002】
政府の支援
本発明は、米国国立衛生研究所によって与えられた契約書番号DK067658およびDK30932の下で政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
浮腫および大量の尿中タンパク質を特徴とするネフローゼ症候群は、膜性腎症(MN)、巣状分節状糸球体硬化症、微小変化型疾患、糖尿病性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎のみならず、他の原因が含まれる多数の起こりうる原因を有する腎臓の比較的一般的な障害である。ネフローゼ状態の徴候および症状のいくつかを改善する非特異的処置があるが、最終的な処置を導くためには、通常、基礎となる疾患を明確に知ることが必要である。ネフローゼ症候群を有する患者を最初に、外来患者としてまたは病院内で評価する場合、通常、血清学によって検出可能な起こりうる原因(たとえば、尿沈降物における典型的な所見の状況において抗核抗体(ANA)および/または抗二本鎖DNA抗体が存在すれば、ループス腎炎を示唆するであろう)を調べるために、医師によって一連の血液検査が指示される。現在、MNを同定するための血清学検査はなく、診断は腎生検のみに頼っているが、これは多くの施設において一晩の入院を必要とする侵襲的技法であり、重大な内出血の合併症を伴いうる技法である。MNは、全身性紅斑性狼瘡、B型肝炎、または梅毒などの多数の二次的な要因によって引き起こされうることから、これらの原因(それぞれ、ANA、抗B型肝炎抗原、迅速血漿レアギン試験(RPR))を調べるために、血液検査がルーチンとして行われる。しかし、米国において、MNはよりしばしばその起源が原発性または特発性であり、先に述べたように、この型に関する血液検査は現在のところ存在しない。ゆえに、MNの基礎となる原因を同定すること、ならびにMNを診断するためのおよび処置に対する応答を追跡するための単純で非侵襲性の試験を開発することが必要である。
【発明の概要】
【0004】
本発明の態様は、特発性膜性腎症(MN)の基礎となる原因が、腎糸球体において発現されるM型ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)に対する自己抗体の存在であるという発見に基づいている。自己抗体は主にIgG4サブクラスの抗体である。加えて、サブクラスIgG1、IgG2、およびIgG3の抗PLA2R自己抗体も同様に存在した。特発性MNを有する個体の血清は、そのような自己抗体の検出可能な量を有する。自己抗体の存在がMNに関連すること、およびPLA2Rがこれらの自己抗体の標的であることがわかれば、特発性MNを診断するための単純な血清学的イムノアッセイを開発することが可能となる。抗PLA2R自己抗体のこの検出は、現在の腎組織生検法と比較して、特発性MNを診断するための迅速、正確、費用効果が高い、安全、および非侵襲性の方法を提供する。
【0005】
よって、1つの態様において、本明細書において、抗体が被験体からの試料において見いだされる、PLA2Rに対して反応性である抗体の存在を検出する段階を含む、被験体におけるMNを診断する方法が提供される。抗体は、抗体-タンパク質複合体が形成されるイムノアッセイによって検出されうる。抗体は、被験体の試料、たとえば血清中に見いだされる。被験体はヒトであり、MNは特発性である。診断法の前に、腎生検は行われない。健康な個体は、従来のELISA、またはウェスタンブロットによって、最少のまたは検出不可能な抗PLA2R自己抗体を有する。特発性MNを有する個体は、相当量の検出可能な抗PLA2R自己抗体、すなわち本明細書において記述される従来のELISAまたはウェスタンブロットによって、健康な非MN個体から得られるレベル、または健康な非MN個体集団に関して得られるレベルより、少なくとも10%多く検出される抗PLA2R自己抗体を有する。その上、自己抗体レベルは、疾患状態の臨床特色、たとえばタンパク尿およびネフローゼ症候群に対応する。有効な処置後の寛解期の患者は、従来のELISAまたはウェスタンブロットによって最少のまたは検出不可能な抗PLA2R自己抗体を有する。例として、抗PLA2R自己抗体の検出不可能な量とは、ヒト血清が1:100に希釈されて、本明細書において記述されるブロットアッセイにおいて用いられる、実施例1において記述されるように行われたウェスタンブロット分析において、目に見えるバンドが観察されないことを意味する。1つの態様において、実施例1において記載される従来のELISAまたはウェスタンブロットによって決定した場合の健康な非MN個体における抗PLA2R自己抗体の量、または健康な非MN個体集団における平均量を、バックグラウンド、参照または対照レベルとして見なすことができる。健康な非MN個体から収集された血清試料を1:100に希釈して、ウェスタンブロットアッセイにおいて用いる。目に見えるバンドの強度を濃度計によって定量する。濃度計の強度を、固定量の抗原PLA2Rに反応する公知の力価の一定範囲の抗PLA2R抗体に対して較正することができる。たとえば、公知の抗体力価の範囲は、 0μg/ml、0.5μg/ml、1.0μg/ml、1.5μg/ml、2.0μg/ml、2.5μg/ml、3.0μg/ml、5μg/ml、7.5μg/ml、10μg/ml、および15μg/mlでありえて、PLA2Rの固定量はブロット上で0.5μgでありうる。ヒト試料の濃度計の強度を検量線と比較することによって、試料中の抗PLA2Rの力価を推定することが可能である。個体集団に関して収集されたデータに関して、平均値および1オーダーの標準偏差を計算する。理想的には、集団は健康な非MN個体約25人、好ましくはそれより多くを有する。統計値、平均値、および1オーダーの標準偏差をコンピュータシステムおよびデータ保存媒体にアップロードすることができる。この平均量より少なくとも10%多い抗PLA2R自己抗体を有する患者は、特に患者が疾患の臨床的に有意な特色、たとえばタンパク尿およびネフローゼ症候群も同様に呈している場合には、MNを有する可能性がある。
【0006】
1つの態様において、試料中の自己抗体は、哺乳動物組織または組み換え型哺乳動物PLA2R、たとえばヒトまたはブタPLA2Rから抽出されているPLA2Rに対して反応性である。被験体からの試料は血液試料でありうる。他の態様において、試料は血清または血漿試料である。
【0007】
1つの態様において、自己抗体は、酵素結合免疫吸着測定法などの血清学的イムノアッセイまたは比濁分析イムノアッセイによって検出される。
【0008】
1つの態様において、本明細書において、以下の段階を含む、膜性腎症のために処置される被験体において予後を評価する方法が提供される:(a)抗体が被験体からの試料において見いだされる、PLA2Rに対して反応性である抗体レベルを第一の時点で決定する段階;(b)第二の時点が第一の時点の後である、PLA2Rに対して反応性である抗体レベルを第二の時点で決定する段階;および(c)第一の時点と比較して第二の時点での抗体レベルが減少すれば、処置が有効であることを示している、2つの時点の抗体レベルを比較する段階。減少は少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、100%および10〜100%の間の全てのパーセンテージである。抗体レベルは、抗体-タンパク質複合体が形成されて、複合体が検出されるイムノアッセイによって検出されうる。抗体は、被験体の試料、たとえば血清中に見いだされる。1つの態様において、処置は免疫抑制処置である。1つの態様において、後の時点、たとえば第二の時点での抗体レベルは、第一の時点と比較して95〜100%であるか、またはそれより低く、これはイムノアッセイの検出限界より下であると見なされ、被験体はMNに関して寛解している。1つの態様において、ウェスタンブロットの検出限界より下とは、実施例1において記載される方法に従ってアッセイを行う場合に、目に見えるバンドが存在しない場合である。
【0009】
1つの態様において、本明細書において、第二の時点における抗体レベルが検出限界より下まで減少すれば、自発的寛解が起こっていることを示している、以下の段階を含む、被験体における膜性腎症に関する予後を評価する方法が提供される:(a)抗体が被験体からの試料において見いだされる、PLA2Rに対して反応性である抗体レベルを第一の時点で決定する段階;および(b)第二の時点が第一の時点の後である、PLA2Rに対して反応性である抗体レベルを少なくとも第二の時点で決定する段階。減少は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、100%および10〜100%の間の全てのパーセンテージである。本明細書において考察されるように、そのような減少は、患者が前回の検査値と比較してよくなっていることを示している。検出限界より下とは、抗体レベルが、第一の時点と比較して95〜100%の間およびそれを超えて低減される場合である。1つの態様において、ウェスタンブロットの検出限界より下は、実施例1に記載される方法に従ってアッセイを行う場合に、目に見えるバンドが観察されない場合である。
【0010】
1つの態様において、被験体をMNに関して処置して、第二の時点での抗体レベルがイムノアッセイの検出限界より下である場合、被験体はMNに関して寛解していると見なされる。
【0011】
1つの態様において、本明細書において、以下の段階を含む、被験体における膜性腎症に関する予後を評価する方法が提供される:(a)抗体が被験体からの試料において見いだされる、PLA2Rに対して反応性である抗体レベルを第一の時点において決定する段階;(b)第二の時点が第一の時点の後である、PLA2Rに対して反応性である抗体レベルを少なくとも第二の時点で決定する段階;および(c)第一の時点と比較して後の時点で抗体レベルが増加すれば、膜性腎症の再発が起こっていることを示している、第一の時点と第二の時点の抗体レベルを比較する段階。増加は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも300%、少なくとも500%、少なくとも1000%であるか、またはそれより多く、10〜1000%の間の全てのパーセンテージが含まれる。
【0012】
1つの態様において、本明細書において、被験体における試料からPLA2Rに対して反応性である抗体を除去する段階を含む、被験体における膜性腎症を処置する方法が提供される。抗体は、免疫吸着によって血液から除去される。試料は、抗体の除去後に被験体に戻される。
【0013】
1つの態様において、本明細書において、PLA2Rもしくはその断片、またはPLA2Rもしくはその断片を発現するベクターの有効量を投与する段階を含む、被験体における膜性腎症を処置する方法が提供される。
【0014】
1つの態様において、本明細書において、PLA2Rまたはその断片を投与する段階を含む、特発性膜性腎症を処置するための組成物が提供される。
【0015】
1つの態様において、本明細書において、被験体における膜性腎症を処置するために、PLA2Rもしくはその断片、またはPLA2Rもしくはその断片を発現するベクターなどの、PLA2Rを発現することができる核酸の有効量を用いることが提供される。
【0016】
もう1つの態様において、本明細書において、被験体における膜性腎症を処置する薬剤を製造するために、PLA2Rもしくはその断片、またはPLA2Rもしくはその断片を発現するベクターの有効量を用いることが提供される。
【0017】
1つの態様において、処置または吸着にとって適した断片は、PLA2RのCTLDまたはCRD 4、5、6を含む断片である。
【0018】
1つの態様において、本明細書において、以下の段階を含むイムノアッセイが提供される:PLA2RまたはPLA2R断片を被験体からの試料に接触させる段階;試料中に存在する抗体とPLA2RまたはそのPLA2R断片との間に抗体-タンパク質複合体を形成させる段階;非結合抗体を除去するために洗浄する段階;標識されて、試料からの抗体に対して反応性である検出抗体を加える段階;任意の非結合の標識検出抗体を除去するために洗浄する段階;および検出可能なシグナルが存在すれば、被験体におけるMNの可能性を示している、標識を検出可能なシグナルに変換する段階。
【0019】
1つの態様において、本明細書において、以下の段階を含むイムノアッセイが提供される:PLA2RまたはそのPLA2R断片を被験体からの試料に接触させる段階;試料中に存在する抗体とPLA2RまたはそのPLA2R断片との間に抗体-タンパク質複合体を形成させる段階;光の散乱強度が、対照の光散乱強度より少なくとも10%上であれば、被験体におけるMNの可能性またはMNの再発を示している、抗体-タンパク質複合体の形成に起因する光の散乱強度を測定する段階。1つの態様において、対照の光散乱強度は、被験体からの試料の非存在下でのPLA2RまたはPLA2Rタンパク質断片の強度である。もう1つの態様において、対照の光散乱強度は、健康な非MN被験体からの試料の存在下でのPLA2RまたはPLA2Rタンパク質断片の強度である。もう1つの態様において、対照の光散乱強度は、健康な非MN被験体集団に関して得られた光散乱強度の平均値である。そのような被験体は、本明細書において記述される疾患のいかなる臨床特色も有しない。増加は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、100%、および10〜100%の間の全てのパーセンテージである。1つの態様において、光散乱強度は比濁計において測定される。
【0020】
1つの態様において、MNは特発性である。他の態様において、被験体はヒトであり、試料は血液試料である。もう1つの態様において、腎生検は被験体において行われない。
【0021】
1つの態様において、PLA2Rは哺乳動物PLA2R、ヒトまたはブタPLA2Rタンパク質である。1つの態様において、PLA2RまたはそのPLA2Rタンパク質断片は、固相支持体上に沈積するかまたは固定される。もう1つの態様において、既知量のPLA2RまたはそのPLA2Rタンパク質断片が固相支持体に沈積するかまたはカップリングされる。他の態様において、支持体は、ディップスティック、試験片、ラテックスビーズ、ミクロスフェア、またはマルチウェルプレートのフォーマットでありうる。
【0022】
1つの態様において、抗PLA2R自己抗体はIgGサブクラス:IgG1〜4の抗体である。1つの態様において、検出抗体は、酵素に共有結合的に連結させることによって、蛍光化合物もしくは金属による標識によって、または化学発光化合物による標識によって標識される。もう1つの態様において、検出抗体は、被験体に対して特異的に反応性であり、たとえば被験体がヒトである場合、検出抗体はヒトに対して特異的である。
【0023】
1つの態様において、検出可能なシグナルは、増加量の既知量のPLA2Rまたは断片のイムノアッセイに由来する滴定曲線からの検出可能なシグナルの組と比較される。
【0024】
1つの態様において、イムノアッセイは、ある期間にわたって得られる被験体からの複数の試料について行われる。複数の試料は少なくとも2年にわたり2ヶ月毎または3ヶ月毎に得られる。各々のイムノアッセイの検出可能なシグナルまたは光散乱強度を、前回の時点から得られた試料の検出可能なシグナルまたは光散乱強度と比較して、検出シグナルまたは光散乱強度が少なくとも5%低減されれば、被験体におけるMNの処置が有効であることを示している。減少は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、100%、および10〜100%の間の全てのパーセンテージである。
【0025】
1つの態様において、本明細書において、少なくともPLA2Rタンパク質またはその断片;およびPLA2Rタンパク質またはその断片が支持体上に沈積する、少なくとも1つの固相支持体、を含む、被験体からの試料においてPLA2Rに対して反応性である抗体の存在またはレベルを同定するためのデバイスが提供される。PLA2Rタンパク質またはその断片は、固相支持体上に沈積するかまたは固相支持体に固定されて、固相支持体は、ディップスティック、試験片、ラテックスビーズ、ミクロスフェア、またはマルチウェルプレートのフォーマットである。
【0026】
1つの態様において、デバイスはさらに、検出可能なシグナルを産生する第二の標識されたPLA2Rタンパク質またはその断片を含む。もう1つの態様において、デバイスはさらに、被験体の試料中のPLA2Rに対して反応性である抗体に対して特異的であり、検出可能なシグナルを産生する、検出抗体を含む。
【0027】
1つの態様において、本明細書において記述されるデバイスは、抗体-タンパク質複合体が形成されるイムノアッセイを行う。1つの態様において、イムノアッセイは血清学的イムノアッセイである。もう1つの態様において、イムノアッセイは比濁分析イムノアッセイである。
【0028】
1つの態様において、本明細書において、PLA2Rに対して反応性である抗体の量が検出可能であれば、被験体における膜性腎症の可能性を示している、被験体におけるMNの診断を容易にするために本明細書において記述されるデバイスの使用が提供される。
【0029】
1つの態様において、本明細書において、本明細書において記述されるデバイスを含むキットが提供される。他の態様において、キットはさらに、被験体の試料中のPLA2Rに対して反応性である抗体に対して特異的であり、検出可能なシグナルを産生する検出抗体;検出可能なシグナルを産生する第二の標識されたPLA2Rタンパク質またはその断片;および/または比濁計キュベットを含む。
【0030】
1つの態様において、本明細書において、被験体から得られた試料からPLA2Rに対して反応性である抗体の存在またはレベルを示すイムノアッセイからの検出可能なシグナルを含む自己抗体情報を測定する測定モジュール;測定モジュールからのデータ出力を保存するように設定された保存モジュール;保存モジュール上に保存されたデータを参照および/または対照データと比較して、取得した内容を提供するように適合させた比較モジュール;ならびに取得した内容において、PLA2Rに対して反応性の抗体の検出可能な量が存在すれば、被験体がMNを有するまたはMNの再発を有することを示している、取得した内容をユーザーのために表示するための出力モジュール、を含むシステムが提供される。
【0031】
1つの態様において、本明細書において、自己抗体情報がPLA2Rに対して反応性である自己抗体レベルを測定する、被験体から得られた試料からのPLA2Rに対する自己抗体情報を受信して出力するように設定された決定モジュール;決定モジュールからの出力情報を保存するように設定された保存モジュール;保存モジュール上に保存されたデータを参照データおよび/または対照データと比較して、比較内容を提供するように適合させた比較モジュール;およびPLA2Rに対して反応性である自己抗体の検出可能な量が存在しなければ、被験体は寛解しているか、または前回の検査値に対して少なくとも10%低減していれば、MNに関する処置が被験体において有効である、ユーザーのために比較内容を表示するための出力モジュール、を含む、被験体における膜性腎症(MN)の予後の評価を容易にするためのシステムが提供される。低減は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、100%および10〜100%の間の全てのパーセンテージである。1つの態様において、参照または対照データは、本明細書において記述されるおよび当技術分野において公知である任意の従来のELISAまたは比濁分析イムノアッセイによって検出可能な自己抗体の検出可能な量を示した同じ被験体からの前回のデータを含む。1つの態様において、参照または対照データは、特発性MN患者集団から得られた抗PLA2R自己抗体の平均値と1オーダーの標準偏差とを含む。これらの特発性MN個体から収集された血清を1:100に希釈して、ウェスタンブロットアッセイにおいて用いる。目に見えるバンドの強度を濃度計によって定量して、平均値および1オーダーの標準偏差を計算する。理想的には、集団は特発性MN個体約25人を有し、好ましくはそれより多くを有する。統計値、平均値、および1オーダーの標準偏差をコンピュータシステムおよびデータ保存媒体にアップロードすることができる。
【0032】
1つの態様において、本明細書において、PLA2Rに対して反応性である抗体に関するイムノアッセイからのシグナルレベルを表す、被験体から得られた試料からのデータを含有する保存データモジュール;保存データモジュール上で保存されたデータを参照データおよび/または対照データと比較して、比較内容を提供する比較モジュール;ならびにPLA2Rに対して反応である抗体の検出可能な量が、参照データおよび/または対照データと比較して少なくとも10%存在すれば、被験体がMNを有する、またはMNの再発を有することを示している、ユーザーのために比較内容を表示する出力モジュール、を含むコンピュータ読み取り可能な保存媒体が提供される。検出可能な量は、10〜1000%の間の全てのパーセンテージが含まれる、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、100%、200%、300%、または1000%である。
【0033】
1つの態様において、対照データは、健康な非MN個体集団からのデータを含み、これはネイティブなPLA2R 0.5μgと免疫反応するように1×PBSによる1:100倍希釈のヒト血清を用いて得られた検出シグナルであり、西洋ワサビペルオキシダーゼ抗ヒトIgG抗体は標識された偽抗体であり、検出シグナルは化学発光である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1A】特発性膜性腎症(MN)患者からの血清が、ウェスタンブロットによって200 kDa糸球体抗原を特異的に認識することを示す。パネル(上部)は、特発性MN(レーンMN 1〜5)を有する患者からの異なる5つの血清、または他のタンパク尿状態(DN、糖尿病性腎症;FS、巣状結節状糸球体硬化症)を有する患者からの5つの血清によってブロットしたヒト糸球体タンパク質を示す。
【図1B】様々な血清と200 kDa抗原との反応性の特異性に関するグラフ表示を示す。特発性MN患者からの血清の57%が糸球体抗原と反応するが、二次性MNを有する患者8人、疾患対照(他のネフローゼ状態または自己免疫疾患)19人、または健常対照23人からは反応性の血清を認めない。
【図1C】様々な血清と200 kDa(185 kDa)抗原との反応性の特異性に関するグラフ表示を示す。異なる領域からの特発性MN患者からの血清の72〜82%が糸球体抗原に反応したのに対し、二次性MN患者12人、疾患対照25人(他のネフローゼ状態または自己免疫疾患)、または健常対照32人からは反応性の血清を認めない。
【図2】図2Aは、ヒト糸球体における200 kDa抗原がM型ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)であることを示す。PNGアーゼFの存在下または非存在下で処置して、反応性MN血清またはPLA2Rに対するポリクローナル抗体のいずれかによってウェスタンブロットしたヒト糸球体タンパク質および組み換え型PLA2Rを示す。図2Bは、ヒトMN血清がPLA2Rを免疫沈降(IP)させることができることを証明する。MN患者からの3つの反応性および3つの非反応性血清のみならず、3つの対照血清を用いて、ヒト糸球体タンパク質の混合物から標的抗原を免疫沈降させた。免疫沈降物を、PLA2Rに対する抗体(上)のみならず、総ヒトIgG(下のパネル)によってウェスタンブロットした。図2Cは、反応性MN血清によって同定された糸球体糖タンパク質がヒトPLA2Rであることを示す。ヒト全血清を用いて糸球体タンパク質を免疫沈降(IP)させて、免疫沈降物を電気泳動して、M型PLA2Rに対して特異的な抗体によってウェスタンブロットした。最初の5つのレーンはWBによって陽性であることが知られている血清による免疫沈降を示す(図1の場合と同様に)。6番目のレーンは、陰性であることが知られているMN患者からの血清による免疫沈降物を表す。レーン7および8は、健常ボランティアからの血清による免疫沈降物を示し、最後のレーンでは、アガロースビーズに対する糸球体タンパク質の非特異的結合を除外するために免疫沈降物からヒト血清を省略した。
【図3A】PLA2R上のエピトープが還元感受性であり、IgG4優勢反応を誘発することを示す。
【図3B】PLA2Rに対して反応性である自己抗体のIgGサブクラス特異性を示す。
【図3C】PLA2Rに対して反応性である自己抗体のIgGサブクラス特異性を示す。
【図4】図4Aは、MN試料から溶出したIgGのみがネイティブなおよび組み換え型PLA2Rを同定したことを示す。図4Bは、MN3生検試料から溶出したIgGがPLA2Rに対応するバンドのみを認識したことを示す。
【図5】図5Aは、患者の血清中の抗PLA2R抗体の存在が、疾患の活性と相関することを示す。寛解に入ったMN患者1人から連続血清を収集した。上のグラフは、尿中タンパク質レベルの低下を示し(菱形)、血清アルブミンの増加を示す(丸)。図5Bは、上のパネルにおけるWBは、200および150 kDaのネイティブなおよび脱グリコシル化PLA2Rに対する反応性が、図5Aの同じ患者からの最初の試料に限って存在することを示す。負荷が等量であることは、98 kDaバンドが非特異的に検出されたことによって示される。血清試料中の総IgGを、下のパネルに示し、患者がMNから寛解に入るとIgGがわずかに増加することを証明している。
【図6A】PLA2Rに対する血清の反応性が、特発性MNを有する患者Aにおける疾患活性に対応することを示す。グラフは、処置時に尿中のタンパク質が低下して、処置開始後にウェスタンブロットにおいて抗PLA2抗体が同時に消失することを示している。
【図6B】PLA2Rに対する血清の反応性が、特発性MNを有する患者Bにおける疾患活性に対応することを示す。グラフは、尿中のタンパク質の低下と、ウェスタンブロットにおける処置開始の前後での抗PLA2抗体の消失との相関を示す。
【図7】逆サンドイッチELISA(RS-ELISA)および間接的ELISAを示す概略図を示す。
【図8】図8A(上面図)および図8B(側面図)は、液体試料中のPLA2Rに対して反応性である自己抗体の存在および/またはレベルを決定するための試験片の概略図を示す。
【図9】図8において示される試験片を用いて得られた結果の解釈を示す概略図を示す。
【図10】標準的なPLA2R曲線を含むELISAプレートアッセイの概略図を示す。
【図11】標準的なPLA2Rタンパク質の固定量を利用する改変ELISAプレートアッセイの概略図を示す。
【図12】MN診断の例示的なシステムを示すブロックダイアグラムである。
【図13】本明細書において記述されるシステムと共に用いるためのコンピュータ読み取り可能な保存媒体に関する例示的な命令の組である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
発明の詳細な説明
特に説明していない限り、本明細書において用いられる全ての科学技術用語は、本開示が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。腎疾患、腎臓病学および分子生物学における一般的な用語の定義は、The Merck Manual of Diagnosis and Therapy, 18th Edition, published by Merck Research Laboratories, 2006 (ISBN 0-911910-18-2);Robert S. Porter et al. (eds.), The Encyclopedia of Molecular Biology, published by Blackwell Science Ltd., 1994 (ISBN 0-632-02182-9);およびRobert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference, published by VCH Publishers, Inc., 1995 (ISBN 1-56081-569-8);The ELISA guidebook (Methods in molecular biology 149) by Crowther J. R. (2000);Fundamentals of RIA and Other Ligand Assays by Jeffrey Travis, 1979, Scientific Newsletters; Immunology by Werner Luttmann, published by Elsevier, 2006において見いだされうる。分子生物学における一般的な用語の定義は、Benjamin Lewin, Genes IX, published by Jones & Bartlett Publishing, 2007(ISBN-13: 9780763740634);Kendrew et al. (eds.), The Encyclopedia of Molecular Biology, published by Blackwell Science Ltd., 1994(ISBN 0-632-02182-9);およびRobert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference, published by VCH Publishers, Inc., 1995(ISBN 1-56081-569-8)において見いだされる。
【0036】
特に述べていなければ、本発明は、その全内容が全て参照により本明細書に組み入れられる、たとえばManiatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., USA (1982);Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2 ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., USA (1989);Davis et al., Basic Methods in Molecular Biology, Elsevier Science Publishing, Inc., New York, USA (1986);またはMethods in Enzymology: Guide to Molecular Cloning Techniques Vol.152, S. L. Berger and A. R. Kimmerl Eds., Academic Press Inc., San Diego, USA (1987), Current Protocols in Molecular Biology (CPMB) (Fred M. Ausubel, et al. ed., John Wiley and Sons, Inc.), Current Protocols in Protein Science (CPPS) (John E. Coligan, et. al., ed., John Wiley and Sons, Inc.), Current Protocols in Cell Biology (CPCB) (Juan S. Bonifacino et. al. ed., John Wiley and Sons, Inc.), Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique by R. Ian Freshney, Publisher: Wiley-Liss, 5th edition (2005), Animal Cell Culture Methods (Methods in Cell Biology, Vol 57, Jennie P. Mather and David Barnes editors, Academic Press, 1st edition, 1998)において記述されるように、標準的な技法を用いて行われた。
【0037】
本発明は、本明細書において記述される特定の方法論、プロトコール、および試薬等は変化する可能性があることから、これらに限定されないと理解されるべきである。本明細書において用いられる用語は、特定の態様を記述する目的のためのみであり、特許請求の範囲のみによって定義される本発明の範囲を制限すると意図されない。
【0038】
操作例以外で、またはそれ以外であることが示されている場合を除き、本明細書において用いられる成分または反応条件の量を表す全ての数字は、全ての場合において、「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。パーセンテージに関連して用いる場合の「約」という用語は±1%を意味する可能性がある。
【0039】
単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その」には、本文が明らかにそれ以外であることを示している場合を除き、複数形が含まれる。同様に、「または」という言葉には、本文が明らかにそれ以外であることを示している場合を除き、「および」が含まれると意図される。さらに、核酸またはポリペプチドに与えられた全ての塩基サイズまたはアミノ酸サイズ、および全ての分子重量または分子量の値は、概算であり、説明のために提供されると理解される。本明細書に記述の方法および材料と類似または同等の方法および材料を本開示の実践または試験において用いることができるが、適した方法および材料を以下に記述する。省略語、「たとえば(e.g.)」は、ラテン語のたとえば(exempli gratia)に由来し、本明細書において非制限的な例を示すために用いられる。このように、省略語「たとえば」は、用語「たとえば」と同義である。
【0040】
同定された全ての特許および他の刊行物は、たとえば、本発明に関連して用いられる可能性があるそのような刊行物に記述される方法論を記述および開示する目的のために、明白に参照により本明細書に組み入れられる。これらの刊行物は、本出願の提出日以前にそれらの開示が単になされたために提供される。この点において、本発明者らは、先行発明に関して、または他のいかなる理由に関しても、そのような開示の日付を早める権利がないと自認したと解釈されるべきではない。今日までの全ての声明またはこれらの文書の内容に関する表現は、出願人に入手可能な情報に基づいており、これらの文書の日付または内容の正確性に関するいかなる承認も構成しない。
【0041】
用語の定義
「断片」という用語は、そのアミノ酸残基配列が本明細書において記述されるポリペプチドの配列より短いアミノ酸残基配列を有する任意の本発明のポリペプチドを指す。PLA2Rの断片は、短縮されたまたは切断されたPLA2Rタンパク質である。ポリペプチドは、N末端またはC末端切断および/または同様に内部欠失を有しうる。断片の例は、PLA2RのCTLDまたはCRD 4、5、6を含む断片である。1つの態様において、断片には、PLA2Rの外部ドメインが含まれ、これはヒトPLA2R(SEQ. ID. NO. 2)のアミノ酸残基1〜1392位である。1〜1392位のより短い部分は断片と見なされる。
【0042】
本明細書において用いられるように、「薬学的組成物」という用語は、薬学産業において一般的に用いられる化学物質および化合物の薬学的に許容される担体と併用された活性物質を指す。「薬学的に許容される担体」という用語は、組織培養培地を除外する。
【0043】
本明細書において用いられるように、「治療的有効量」は、PLA2Rに対する結合のために利用できる可溶性の自己抗体の量を低減させることができる活性物質の量を指す。
【0044】
本明細書において用いられるように、「処置する」または「処置」という用語は、膜性腎症に関連する医学的状態に関連する少なくとも1つの有害効果または症状を低減または軽減することを指す。これらには、PLA2Rタンパク質に対する自己抗体の量を低減させること、PLA2Rに対する自己抗体の産生を低減、阻害、または停止させること、免疫系の抑制、および腎糸球体に結合した場合に自己抗体の活性に関連する炎症および/または分解/損傷を低減させることが含まれる。
【0045】
本明細書において用いられるように、「被験体」という用語には、ヒト、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、サル、チンパンジー、ヒヒ、またはアカゲザルが含まれるがこれらに限定されるわけではない。1つの態様において、被験体は哺乳動物である。もう1つの態様において、被験体はヒトである。
【0046】
本明細書において用いられるように、「含む」という用語は、提示される既定の要素に加えて他の要素が存在しうることを意味する。「含む」の使用は、制限的よりむしろ包括的であることを示している。
【0047】
本明細書において用いられるように、「特発性MN」という用語は現在、本発明の発見の前に、B型肝炎または狼瘡などの任意の公知の二次的な病因によって引き起こされていないMNを記述するために用いられる。本発明の発見に基づいて、「特発性MN」は、PLA2R関連MN、または現在特発性MNと呼ばれており、抗PLA2R抗体に関連するものの任意の他の将来的な名称を指す。
【0048】
PLA2Rにおけるドメインに関して、C型レクチン(「CTLD」)または炭水化物認識ドメイン(「CRD」)は、互換的に用いられる。
【0049】
本発明の態様は、MN患者の血清が、糸球体において見いだされるM型PLA2Rに対して反応性である抗体を含有するという発見に基づいている。特発性膜性腎症(MN)は、糸球体を標的とする自己免疫疾患であると見なされるが、主要な標的抗原はまだわかっていないままである。本発明者らは、ウェスタンブロット(WB)によってヒト糸球体タンパク質に対する反応性に関してMN患者からの血清をスクリーニングしたところ、よく検出される200 kDaの糖タンパク質を見いだした。次に、本発明者らは部分精製および質量分析を通して進めて、この200 kDa糖タンパク質を同定した。これはM型PLA2Rである。PLA2R1の可溶性および膜結合イソ型(180 kDa)が見いだされている。インビボにおいて、PLA2Rは腎臓において発現される。糸球体抽出物からのこのネイティブなPLA2Rは、さらに特徴付けされており、タンパク質ゲル上でおよそ185 kDaであると決定されている。本明細書において記述される方法において脱グリコシル化されると、これはおよそ145 kDaである。
【0050】
本発明者らは、WBによってMN患者の約70〜82%が組み換え型PLA2R(rPLA2R)に対して反応性である抗体を有すること、およびヒト血清が正常なヒト糸球体の抽出物からネイティブなタンパク質を免疫沈降(IP)できることを見いだした。健常なボランティアおよびネフローゼ対照からの対照血清のみならず、WBによってこれまで非反応性であったMN患者からの血清は、rPLA2Rを同定しないか、またはネイティブなタンパク質を免疫沈降しない。患者の血清における反応性の免疫グロブリンの大部分はIgG4であり、特発性MNにおける糸球体沈積物において優勢なサブクラスである。本発明者らは、ヒト腎臓の凍結切片での免疫蛍光によって検出した場合に、PLA2Rが有足突起に存在することを示している。その上、PLA2RおよびIgG4はいずれも、MN患者からの生検標本上で、疾患の特徴である上皮下沈積物の典型である細かい顆粒状パターンで同時局在する。理論に拘束されることを望まないが、患者の血清中のPLA2Rに対する自己抗体は、腎糸球体中のPLA2Rに結合して、腎臓に構造的損傷を引き起こして、腎機能を障害する。理論に拘束されることを望まないが、PLA2Rに対する自己抗体の結合は、有足突起に対して致死に近い損傷を与えて、大量のタンパク尿を誘発する。特発性MN抗体の主要な標的は今やPLA2Rとして同定されたが、これによって、循環中の自己抗体を測定するように設計されたイムノアッセイによって、疾患のより早期のおよびより侵襲性でない検出が可能となり、同様に、処置に対する応答をモニターする手段が得られるであろう。加えて、IgG1、IgG2、およびIgG3サブクラスのPLA2R自己抗体も同様に検出された。本発明者らはまた、自己抗体が、ヒト、ウサギ、およびブタPLA2Rなどの哺乳動物PLA2Rに対して反応性であることを見いだした。
【0051】
浮腫および大量の尿中タンパク質を特徴とするネフローゼ症候群は、膜性腎症(MN)、巣状分節状糸球体硬化症、微小変化型疾患、糖尿病性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎のみならず、他の原因が含まれる多くの潜在的原因を有する腎臓の比較的一般的な障害である。ネフローゼ状態の徴候および症状のいくつかを改善する非特異的処置が存在するが、最終的な処置を誘導するためには、通常、基礎となる疾患に関する特異的知識が必要である。ネフローゼ症候群の患者を最初に外来または病院内で評価する場合、通常、血清学によって検出可能な潜在的原因(たとえば、尿中沈降物における典型的な所見の状況において、抗核抗体(ANA)および/または抗二本鎖DNA抗体が存在すれば、ループス腎炎を示唆するであろう)を調べるために、医師によって一連の血液検査が指示される。現在、MNを同定するための血清学検査はなく、診断は腎生検のみを頼りにしているが、腎生検は多くの施設において一晩の入院を必要とする侵襲性の技法であり、重大な内出血を合併しうる技法である。MNは、全身性紅斑性狼瘡、B型肝炎、または梅毒などの多数の二次的要因によって引き起こされうることから、これらの原因(それぞれ、ANA、抗B型肝炎抗原、迅速血漿レアギン(RPR))を調べるために、血液検査がルーチンとして行われる。しかし、米国において、MNは、その起源がよりしばしば原発性または特発性であり、先に言及したように、この自己免疫疾患において標的とされる抗原は現時点まで同定されていないことから、この型に関する血液検査は現在のところ存在しない。
【0052】
成人ネフローゼ症候群の頻繁な原因である膜性腎症は、長く追求されている標的抗原がわかっていないにもかかわらず、自己免疫疾患であると広く思われている。MNの自己免疫的基礎に関するサポートの多くは、ヒトの疾患と病理的レベルで事実上同一であるラットのヘイマン腎炎(HN)モデルに関する何十年もの研究に由来する。HNにおいて、標的抗原は、腎臓におけるタンパク質の半選択的取り込みの原因であるLDL受容体ファミリー分子であるメガリンである。これはラットの有足突起に存在するがヒトには存在せず、循環中の抗体は、インサイチューでタンパク質に結合することが示されており、これによって糸球体基底膜への抗体-抗原複合体の脱落が起こり、HNおよびMNの双方の特徴である上皮下沈積が起こる。
【0053】
対照の健康な個体および非MN腎症患者からの血清は、MN患者の血清とは異なり、PLA2Rに反応する自己抗体を含有しないか、非常に非常に少量もしくは検出不可能な量を含有することから、PLA2R抗体の存在の検出は、MNに関する診断ツールとして用いられうる。単純な血液試料を用いて、PLA2Rに対して反応性である抗体に関して試験してこれを検出することができる。そのような方法は、侵襲性の技法である現在の診断法の腎組織生検に対して非常に好ましいであろう。よって、1つの態様において、本明細書において、抗体が被験体からの試料において見いだされる、ホスホリパーゼA2受容体に対して反応性である抗体の存在を検出する段階を含む、被験体における膜性腎症を診断する方法が提供される。抗体は、抗体-タンパク質複合体が形成されるイムノアッセイによって検出されうる。イムノアッセイは、血清学的イムノアッセイまたは比濁分析イムノアッセイでありうる。被験体は、イヌ、ネコ、またはヒトなどの哺乳動物である。MNを有しない、またはMNに関連するいかなる症状も、たとえば尿中タンパク質を有しない健康な被験体は、ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)に対する自己抗体が検出不可能である。PLA2Rに対して反応性である抗体が、MNを有することが疑われる、たとえば尿中タンパク質を有する被験体において検出される場合、抗PLA2R抗体の存在は、被験体がMNを有する可能性を示している。例として、抗PLA2R自己抗体の検出不可能な量とは、ヒト血清が1:100に希釈されて、本明細書において記述されるブロットアッセイにおいて用いられる、実施例1において記述されるように行ったウェスタンブロット分析において、目に見えるバンドが観察されないことを意味する。抗PLA2R自己抗体の非常に非常に少量とは、少量が、健康な非MN被験体集団において見いだされる平均量である。「被験体」、「個体」、または「患者」という用語は互換的に用いられる。実施例1において記載される従来のELISAまたはウェスタンブロットによって決定された健康な非MN個体または健康な非MN個体集団における抗PLA2R自己抗体の量は、バックグラウンド、参照、または対照レベルとして見なされうる。健康な非MN個体から収集された血清を1:100に希釈して、ウェスタンブロットアッセイにおいて用いる。目に見えるバンドの強度を、濃度計によって定量して、平均値および1オーダーの標準偏差を計算する。理想的には、集団は健康な非MN個体約25人を有し、好ましくはそれより多くを有する。統計値、平均値、および1オーダーの標準偏差を、コンピュータシステムおよびデータ保存媒体にアップロードすることができる。抗PLA2R自己抗体のこの平均量より少なくとも10%多い量を有する患者は、特に患者が同様に疾患の臨床特色、たとえばタンパク尿およびネフローゼ症候群も呈する場合には、MNを有する可能性がある。
【0054】
1つの態様において、本明細書において、以下の段階を含むイムノアッセイが提供される:PLA2RまたはそのPLA2R断片を被験体からの試料に接触させる段階;試料中に存在する抗体と、PLA2RまたはそのPLA2R断片との間に抗体-タンパク質複合体を形成させる段階;任意の非結合抗体を除去するために洗浄する段階;標識されて、試料からの抗体に対して反応性である検出抗体を加える段階;任意の非結合の標識検出抗体を除去するために洗浄する段階;および検出可能なシグナルが存在すれば、被験体におけるMNの可能性を示している、標識を検出可能なシグナルに変換する段階。
【0055】
いくつかの態様において、検出抗体は、酵素に共有結合的に連結させることによって、蛍光化合物または金属による標識によって、化学発光化合物による標識によって標識される。たとえば、検出抗体をカタラーゼによって標識することができ、変換は、ヨウ化カリウム、過酸化水素、およびチオ硫酸ナトリウムを含む比色基質組成物を用いる;酵素はアルコールデヒドロゲナーゼでありえて、変換は、アルコール、pH指示薬およびpH緩衝液を含む比色基質組成物を用い、pH指示薬はニュートラルレッドであり、pH緩衝液はグリシン-水酸化ナトリウムである;酵素はまたヒポキサンチンオキシダーゼでありえて、この場合、変換は、キサンチン、テトラゾリウム塩、および4,5-ジヒドロキシ-1,3-ベンゼンジスルホン酸を含む比色基質組成物を用いる。
【0056】
1つの態様において、検出抗体は、被験体の種に限って特異的に反応性である。たとえば、ヒトの場合、検出抗体は抗ヒト抗体である。被験体がウマである場合、検出抗体は抗ウマ抗体である。被験体がイヌである場合、検出抗体は抗イヌ抗体である。
【0057】
1つの態様において、検出可能なシグナルは、PLA2Rまたは断片の増加量の既知量のイムノアッセイに由来する滴定曲線からの検出可能なシグナルの組と比較される。
【0058】
もう1つの態様において、本明細書において、以下の段階を含むイムノアッセイが提供される:被験体からの試料にPLA2RまたはそのPLA2R断片を接触させる段階;試料中に存在する抗体とPLA2RまたはそのPLA2R断片との間に抗体-タンパク質複合体を形成させる段階;光散乱強度が対照の光散乱強度より少なくとも10%上であれば、被験体におけるMNの可能性またはMNの再発を示している、抗体-タンパク質複合体の形成に起因する光散乱強度を測定する段階。対照の光散乱強度は、試料の非存在下でのPLA2RまたはPLA2Rタンパク質断片の強度である。もう1つの態様において、対照の光散乱強度は、健康な非MN被験体からの試料の存在下でのPLA2RまたはPLA2Rタンパク質断片の強度である。もう1つの態様において、対照の光散乱強度は健康な非MN被験体集団について得られた平均の光散乱強度である。1つの態様において、光散乱強度は、比濁計において測定される。増加は、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも300%、少なくとも500%、少なくとも1000%またはそれより多くであり、10〜1000%の間の全てのパーセンテージが含まれる。
【0059】
1つの態様において、被験体におけるMNは特発性であり、腎生検は被験体において行われない。1つの態様において、被験体はヒトであり、被験体からの試料は、血液試料、たとえば血清または血漿である。
【0060】
1つの態様において、PLA2Rは、ヒトまたはブタPLA2Rなどの哺乳動物PLA2Rである。
【0061】
1つの態様において、抗PLA2R抗体は、IgGサブクラス:IgG1〜4の抗体である。
【0062】
1つの態様において、イムノアッセイは血清学的イムノアッセイである。
【0063】
いくつかの態様において、PLA2RまたはそのPLA2Rタンパク質断片は、固相支持体上に沈積するか、または支持体上にタンパク質を固定させるためにカップリングされうる。支持体は、ディップスティック、試験片、ラテックスビーズ、ミクロスフェア、またはマルチウェルプレートのフォーマットでありうる。1つの態様において、既知量のPLA2RまたはPLA2Rタンパク質断片が固相支持体に沈積するかまたはカップリングされる。タンパク質の範囲は0.1 ng〜1 mgである。
【0064】
1つの態様において、本明細書において記述されるイムノアッセイは、一定期間に得られた被験体からの複数の試料について行われる。1つの態様において、複数の試料が、少なくとも2年にわたって2ヶ月または3ヶ月毎に得られる。たとえば、血液試料は、状態の進行および免疫抑制処置の有効性をモニターするために、MNと診断された患者から3ヶ月毎に収集される。各血液試料のイムノアッセイの結果を記録して試料の日付を記入する。各血液試料のイムノアッセイの結果を、3ヶ月前に採取した前回の血液試料に関して得られた結果と比較する。同様に、免疫抑制処置の開始前の初回診断の際に得られた結果とも比較することができる。
【0065】
1つの態様において、各イムノアッセイの検出可能なシグナルまたは光散乱強度を、前回の時点で得られた試料の検出可能なシグナルまたは光散乱強度と比較して、検出可能なシグナルまたは光散乱強度が、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、100%、および10〜100%の間の全てのパーセンテージの低減が含まれる、少なくとも5%、少なくとも10%、またはそれより多く低減すれば、被験体におけるMNの処置が有効であることを示している。前回の時点は、直前の前回の時点またはそれより前の時点、たとえば6ヶ月前または免疫抑制処置の開始前の初回診断時に得られた時点でありうる。
【0066】
1つの態様において、本明細書において、以下の段階を含む、膜性腎症に関して処置される被験体における予後の評価を行う方法が提供される:(a)被験体からの試料においてPLA2Rに対して反応性である抗体レベルを第一の時点で決定する段階;(b)第二の時点が第一の時点の後である、同じ被験体の試料において第二の時点でPLA2Rに対して反応性である抗体レベルを決定する段階;および(c)第一の時点と比較して第二の時点での抗体レベルが減少すれば、処置が有効であることを示している、2回の時点に関して得られた抗体レベルを比較する段階。抗体レベルは、抗体-タンパク質複合体が形成されるイムノアッセイによって決定されうる。被験体は最初にMNと診断されており、PLA2Rに対する自己抗体の検出可能な量を有する。たとえば免疫抑制治療によって処置すると、経時的に、PLA2Rに対する検出可能な自己抗体の量は減少する。理想的な例において、自己抗体の量は、本明細書において記述される検出法の検出可能なレベルより下に下降するはずであり、被験体は障害に関して寛解したと思われる。第一の時点と比較して第二の時点での抗体レベルの減少は、第一の時点と比較した第二の時点の血清中のPLA2Rに対する自己抗体力価の力価の少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、100%、および10〜100%の間の全てのパーセンテージの下落である。検出限界より下とは、被験体が最初にMNと診断されて、処置を開始していない第一の時点と比較して、抗体レベルが95〜100%の間にまたはそれより多く低減される場合である。用いられるアッセイは、被験体からの異なる時点で収集した全ての試料について同一である。自己抗体の力価の減少は、処置が被験体において有効であることを示している。
【0067】
他の態様において、第一の時点と比較して第二の時点で抗体レベルは減少しない。かわりに、抗体レベルの増加または安定なレベルが存在しうる。
【0068】
1つの態様において、第一の時点と比較して第二の時点における抗体レベルの増加が認められ、第一の時点は検出可能な自己抗体を有しない。このことは患者がぶり返してMNが再発したことを示している。
【0069】
1つの態様において、第一の時点と比較して第二の時点で抗体レベルが増加して、第一の時点は検出可能な自己抗体を有する。このことは、疾患の悪化および/または有効な処置の欠如を示している。増加は、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも300%、少なくとも500%、少なくとも1000%、またはそれより上であり、10〜1000%の間の全てのパーセンテージが含まれる。
【0070】
1つの態様において、安定な抗体レベルは、第二および第一の時点で検出可能な自己抗体が、第一の時点からの自己抗体レベルの偏差が約1%、2%、3%、4%、5%および1%〜5%の間の全てのパーセンテージである統計分析の分散の範囲内で同等に類似である。安定な抗体レベルは、処置が不十分な期間であるか(すなわち、臨床的に必要な場合に継続すべきである)または無効である、安定な疾患を示している。
【0071】
本明細書において用いられるように、PLA2Rに対する「自己抗体」および「抗体」という用語は互換的に用いられる。
【0072】
他の態様において、イムノアッセイは、Binder SR., Lupus. 2006, 15:412-21において記述されるように、ネイティブなまたは組み換え型PLA2Rタンパク質によってコーティングされたビーズを含む。一般的に用いられるのは独自の同一性を確立するために染色されるポリスチレンビーズである。検出は、フローサイトメトリーによって行われる。自己抗体の検出は多重技術を用いて行われる。他のタイプのビーズに基づくイムノアッセイ、たとえばレーザービーズイムノアッセイおよび関連する磁気ビーズアッセイが当技術分野において周知である(Fritzler, Marvin J; Fritzler, Mark L, Expert Opinion on Medical Diagnostics, 2009, pp. 3: 81-89)。
【0073】
もう1つの態様において、本明細書において、第一の時点と比較して第二の時点でPLA2Rに対する検出可能な自己抗体が存在しなければ、被験体がMNに関して寛解していることを示している、以下の段階を含む、被験体における膜性腎症に関する予後の評価を行う方法が提供される:(a)PLA2Rに対して反応性である抗体レベルを被験体からの試料において第一の時点で決定する段階;および(b)第二の時点が第一の時点の後である、同じ被験体からの試料においてその後の時点で、すなわち第二の時点でPLA2Rに対して反応性である抗体レベルを決定する段階。抗体レベルは、抗体-タンパク質複合体が形成されるイムノアッセイによって検出されうる。検出限界は、抗体レベルが、第一の時点のレベルと比較して、95〜100%の間およびそれより多く低減される場合である。
【0074】
さらなる態様において、本明細書において、以下の段階を含む、被験体における膜性腎症に関する予後の評価を行う方法が提供される:(a)PLA2Rに対して反応性である抗体レベルを被験体からの試料において第一の時点で決定する段階;(b)第二の時点が第一の時点の後である、同じ被験体からの試料においてその後の時点、すなわち第二の時点でPLA2Rに対して反応性である抗体レベルを決定する段階;および(c)第一の時点と比較して第二の時点で抗体レベルが少なくとも5%増加すれば、MNが再発していることを示している、2つの時点での抗体レベルを比較する段階。抗体レベルは、抗体-タンパク質複合体が形成されるイムノアッセイによって検出されうる。増加は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも300%、少なくとも500%、少なくとも1000%、またはそれより上であり、10〜1000%の間の全てのパーセンテージが含まれる。
【0075】
1つの態様において、被験体は、MNに関する処置が成功している、血液循環中にPLA2Rに対する検出可能な自己抗体を有しない、および現在、MNに関するいかなる処置も受けていない。この被験体において、第一の時点は検出可能な自己抗体を有しない。被験体は既にMNであると診断されており、PLA2Rに対する自己抗体の検出可能な量を有する。たとえば、免疫抑制治療によって処置すると、経時的に、PLA2Rに対する自己抗体の量は、本明細書において記述される検出法の検出可能なレベルより下まで下落して、被験体はMNに関して寛解している。PLA2Rに対する自己抗体の検出可能な量の再出現および経時的な自己抗体の徐々の増加は、MNが被験体において再発したことを示している。
【0076】
もう1つの態様において、被験体は現在、MNに関して処置されており、血液循環中にPLA2Rに対して検出可能な自己抗体を有する。第一の時点と比較して第二の時点での抗体レベルが増加すれば、疾患状態が悪化していて、現在のレジメンでの処置が、疾患を遅らせる/停止させるために有効ではないことを示している。
【0077】
もう1つの態様において、被験体は現在、MNに関して処置されており、血液循環中でPLA2Rに対して検出可能な自己抗体を有し、第一および第二の時点での自己抗体レベルは統計分析の分散の範囲内で同等に類似である。このことは、被験体が処置の間安定な自己抗体レベルを有することを示しており、処置が不十分な期間の処置であったか(すなわち、臨床的に適応される場合には継続すべきである)または無効であることを示している。
【0078】
1つの態様において、MNは特発性である。MNを有することが疑われる被験体は、MNの通常の原因、たとえば全身性紅斑性狼瘡、B型肝炎、および梅毒に関して検査陰性である。当業者は、消去プロセスによって、MNに関する全ての起こりうる原因を除外するであろう。残されているのは、おそらくPLA2Rに対するおそらく自己免疫性自己抗体などの、曖昧なまたは不明の原因によるMNの仮診断である。次に、本明細書において記述される非侵襲性の診断法を、確認のためにそのような被験体に適用することができる。
【0079】
1つの態様において、本明細書において記述されるMNを診断する方法は、MNに関する全ての可能性がある原因を除外するためにルーチンのスクリーニングを受けたことがないMNの症状を呈する患者に適用される。本明細書において記述される方法は、診断目的のためのタンパク尿などのMNの症状を呈する患者について行われるルーチンの検査の組の一部でありうる。検査は、抗体-タンパク質複合体が形成されるイムノアッセイ、たとえば血清学的免疫アッセイでありうる。そのような患者はMNの確定診断のための生検が行われていない。同様に、本明細書において記述される方法は、生検によって、または血清学的検査によってMNを有することが既に知られている、MNに関して処置されている患者に関して行われる血清学的免疫学的検査のルーチンの組の一部でありうる。方法は、患者における免疫抑制治療の有効性のモニタリングおよび予後の評価にとって有用である。
【0080】
1つの態様において、被験体は哺乳動物である。もう1つの態様において、被験体はヒトである。本明細書において記述される方法は腎臓を有する、PLA2Rを発現する、および抗体を含む免疫系を有する任意の哺乳動物に応用可能であると想像される。
【0081】
1つの態様において、MNを有することが疑われる被験体は、MNの確定診断のために腎生検を受けていない。
【0082】
本発明者らは、MN患者の血清中の抗体がヒト、ウサギ、およびPLA2Rなどの哺乳動物PLA2Rに対して免疫学的に反応性であることを見いだした。ゆえに、本明細書において包含され、本明細書において記述される方法は、ヒトホスホリパーゼA2受容体またはブタPLA2Rに対して反応性である抗体を検出する段階を含む。本明細書において用いられるように、「に対して反応性である」、「に対して反応する」、または「と反応性である」という用語は、ヒトまたはブタPLA2Rを認識して、PLA2Rに結合する抗体を指す。認識および結合は、生化学および免疫学によって良好に特徴付けされる標準的な抗体-抗原相互作用である。
【0083】
1つの態様において、被験体からの試料は血液試料である。他の態様において試料は全血、血清、または血漿である。
【0084】
1つの態様において、抗体はIgG4サブクラスの抗体である。他の態様において、PLA2R自己抗体はサブクラスIgG3およびIgG1の抗体である。なお他の態様において、PLA2R自己抗体はIgGサブクラスIgG1〜4の抗体である。
【0085】
1つの態様において、MNに関する処置は免疫抑制治療、たとえば、シクロスポリン、タクロリムス、アザチオプリン、インフリキシマブ、オマリズマブ、ダクリズマブ、アダリムマブ、エクリズマブ、エファリズマブ、ナタリズマブ、オマリズマブおよびラパマイシンである。さらなる態様において、MNに関する免疫抑制処置には、さらにシクロホスファミド、クロラムブシル、およびリツキシマブが含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0086】
いくつかの態様において、本明細書において記述される方法に関して、PLA2Rに対する自己抗体の検出は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)などの血清学的イムノアッセイによって行われる。ELISAおよび当技術分野において公知の他のイムノアッセイは、一般的に標準的なプロトコールを用いて作製され、主な変動は標的、または捕捉、抗原である。本明細書において記述される方法に関して、抗原はヒトPLA2R、ブタPLA2R、またはその断片である。哺乳動物または昆虫細胞株において発現させた組み換え型の完全長PLA2Rを精製して、捕捉抗原として用いることができる。他の細胞株由来タンパク質からの精製を容易にするために、タンパク質をNまたはC末端FLAGタグと共に発現させることができる。ELISAプレートを、一定濃度のPLA2Rまたは断片によってコーティングする。試料の非特異的結合を防止するために、プレートを、ウシカゼインもしくは血清アルブミンまたは他のブロッキング剤によってブロックすることができる。試験されるヒト血清を標準的な希釈(1:40、1:80、1:160等)でウェルに加えた後、ルーチンの洗浄を行うことができる。結合したIgGを、西洋ワサビペルオキシダーゼに連結させた二次抗ヒトIgG抗体によって検出することができる。一連の洗浄後、比色基質を全てのウェルに加えて、発色させることができる。ELISAプレートをマイクロタイタープレートリーダー上で読み取ることができる。陽性または陰性であることが知られているMN血清試料のみならず、健常なヒトボランティアからの血清を用いて、陽性試験結果を構成する力価を定義するために適当なカットオフ力価を確立することが可能である。MNを有しないまたはMNに関連するいかなる症状も有しない、たとえば尿中タンパク質を有しない健康な被験体は、PLA2Rに対する自己抗体が検出不可能である。PLA2Rに対して反応性である抗体が、MNを有することが疑われる被験体、たとえば尿中タンパク質を有する被験体において検出される場合、抗PLA2R抗体の存在は、被験体がMNを有する可能性を示している。
【0087】
1つの態様において、ELISAは、免疫学的に活性なMN、すなわちPLA2Rに対する自己抗体を有する活性なMNに関する単純な血清学的アッセイを提供することができる。単純な血清学的アッセイは、抗核抗体、抗B型肝炎およびC型肝炎抗体、ならびに補体C3およびC4レベルなどの、重度のタンパク尿症を有する患者において他の広く用いられる診断的またはそうでなければ情報に富む血液検査と共に指示されうる。このアッセイにおいて試験陽性である患者の場合、生検を正当化する他の非定型特色が存在する場合を除き、処置を誘導するために腎生検は必要でない可能性がある。しかし、試験陰性であるが、なおも説明されないタンパク尿を有する患者の場合、腎生検がなおも指示される。記述のイムノアッセイは、一晩の入院を必要とする腎生検よりかなり安価でありうる。同様に、患者および医師の双方にとってかなりより簡便である。
【0088】
免疫疾患が終了した後であっても、糸球体の構造変化によりタンパク尿症がMN患者において持続しうる(一過性または永続性)ことは公知の事実である。タンパク質排泄レベルのみを頼りとすると、患者を必要以上にかなり長く毒性の免疫抑制剤によって処置することになりうる。このように、記述のELISAによって自己抗体消失をモニタリングすると、免疫抑制治療を停止すべきであるが、抗タンパク尿症処置(たとえば、アンジオテンシン変換酵素阻害剤)を継続すべきである、膜性腎症の処置の移行期を定義するために役立つであろう。
【0089】
1つの態様において、本明細書において、PLA2Rもしくはその断片、またはPLA2Rもしくはその断片を発現するベクターの有効量を投与する段階を含む、被験体における膜性腎症を処置する方法が提供される。可溶性のPLA2Rまたはその断片を提供することによって、可溶性タンパク質は、偽抗原として機能して、腎糸球体において自己抗体をPLA2Rから隔離して、それによって腎臓に対する起こりうる損傷を低減させることができる。PLA2RはヒトまたはブタPLA2Rでありうる。1つの態様において、血清からのPLA2Rに対する自己抗体の処置または吸着にとって適した断片は、PLA2RのCTLDまたはCRD 4、5、6を含む断片である。もう1つの態様において、断片はヒトまたはブタPLA2Rの細胞外ドメインを含む。1つの態様において、断片はSEQ. ID. NO. 5、または10〜95%の間の全てのパーセンテージが含まれる、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%などの、SEQ. ID. NO. 5のより小さい部分である。同様に、MNの処置において用いることができるSEQ. ID. NO. 5の配列に由来するアミノ酸残基10〜50個のペプチドも包含される。1つの態様において、いくつかのペプチドのカクテルが処置のために用いられる。想像されるペプチドを、より長い血清半減期のために、他のタンパク質、すなわち縦列に連結したペプチドまたは環状ペプチドと融合させることができる。
【0090】
1つの態様において、膜性腎症は特発性である。被験体は、PLA2Rに対して反応性である抗体に関して試験陽性である。1つの態様において、自己抗体は、ヒトPLA2RまたはブタPLA2Rに対して反応性である。
【0091】
もう1つの態様において、本明細書において、被験体における試料からPLA2Rに対して反応性である抗体を除去する段階を含む、被験体における膜性腎症を処置する方法が提供される。抗体は、抗原としてのPLA2Rまたはその断片による免疫吸着によって血液から除去され、試料は抗体の除去後に被験体に戻される。吸着にとって適した断片は、PLA2RのCTLDまたはCRD 4、5、6を含む断片である。ヒトPLA2R受容体1イソ型1前駆体(GENBANK(商標)アクセッション番号NP_031392.3, SEQ. ID. NO. 2)に関して、適した断片は、PLA2RのCDR4、5、6からなるアミノ酸残基650〜1100個でありうる。
【0092】
1つの態様において、本明細書において、被験体における膜性腎症を処置するために、PLA2Rもしくはその断片またはPLA2Rもしくはその断片を発現するベクターの有効量を用いることが提供される。
【0093】
1つの態様において、本明細書において、被験体における膜性腎症を処置するための薬剤を製造するために、PLA2Rもしくはその断片、またはPLA2Rもしくはその断片を発現するベクターの有効量を用いることが提供される。
【0094】
1つの態様において、試料は血液である。他の態様において、試料は血清または血漿である。1つの態様において、被験体はヒトであり、膜性腎症は特発性である。自己抗体は、ヒトPLA2RまたはブタPLA2R受容体に対して反応性である。1つの態様において、抗体は、IgG4サブクラスの抗体である。他の態様において、PLA2R自己抗体は、サブクラスIgG3、IgG2、およびIgG1の抗体である。なお他の態様において、PLA2R自己抗体は、IgGサブクラス:IgG1〜4の抗体である。PLA2Rに対する自己抗体の免疫吸着は、循環中の自己抗体量を低減させて、それによって腎臓に対する起こりうる損傷を低減させるために役立つ。この処置は、PLA2Rに対して反応性である自己抗体の存在が免疫学的に確認された後で、任意の免疫抑制治療の開始前に最初に適用されうる。これは、免疫抑制治療が、被験体における免疫系および自己抗体の産生に対して効果を有しうる前の、この初期の間では特に有用である。
【0095】
1つの態様において、PLA2Rに対する自己抗体の免疫吸着は、固定されたPLA2R上に血液、血清、または血漿を通過させることによって起こりうる。組み換え型ヒトまたはブタPLA2Rまたは断片を、セファロースなどの当技術分野において公知の不活性で無菌的なマトリクス上に固定することができる。PLA2Rに対する自己抗体は、固定されたPLA2Rまたは断片に結合して、間接的にマトリクスに結合したままであろう。次に、血液、血清、または血漿を収集する。この得られた血液、血清、または血漿は、PLA2Rに対して検出可能な自己抗体を有しないかまたは低減された自己抗体を有するはずである。免疫吸着技法は、無菌的条件下で行われるべきである。PLA2Rに対する自己抗体が今や枯渇された収集された血液、血清、または血漿を、次に患者に輸血して戻すことができる。
【0096】
デバイス、キット、コンピュータシステムおよびコンピュータデータ保存
1つの態様において、本明細書において、少なくともPLA2Rタンパク質またはその断片;およびPLA2Rタンパク質またはその断片が支持体上に沈積する、少なくとも1つの固相支持体を含む、被験体からの試料中のPLA2Rに対して反応性である抗体の存在またはレベルを同定するためのデバイスが提供される。1つの態様において、固相支持体上に沈積するPLA2Rタンパク質またはその断片は支持体上に固定される。1つの態様において、PLA2Rタンパク質は、ヒトまたはブタPLA2Rタンパク質である。1つの態様において、固相支持体は、ディップスティック、試験片、ラテックスビーズ、ミクロスフェア、またはマルチウェルプレートのフォーマットである。
【0097】
1つの態様において、被験体はヒトであり、腎生検は被験体において行われない。1つの態様において、被験体からの試料は血液試料である。
【0098】
他の態様において、本明細書において記述されるデバイスまたはキットは、検出可能なシグナルを産生する第二の標識PLA2Rタンパク質またはその断片;被験体の試料中のPLA2Rに対して反応性である抗体に対して特異的であり、検出可能なシグナルを産生する検出抗体;または比濁計キュベットをさらに含みうる。
【0099】
1つの態様において、デバイスは、血清学的イムノアッセイまたは比濁分析イムノアッセイなどの、抗体-タンパク質複合体が形成されるイムノアッセイを行う。
【0100】
いくつかの局面において、本明細書において記述されるデバイスは、PLA2Rに対して反応性である抗体の量が検出可能であれば、被験体における膜性腎症の可能性を示している、被験体における膜性腎症の診断を容易にする。
【0101】
1つの態様において、本明細書において、本明細書において記述されるデバイスと、被験体の試料中のPLA2Rに対して反応性である抗体に対して特異的であり、検出可能なシグナルを産生する検出抗体とを含むキットが提供される。1つの態様において、キットには、検出可能なシグナルを産生する第二の標識PLA2Rタンパク質またはその断片が含まれうる。さらなる態様において、キットには、比濁計キュベットが含まれる。
【0102】
米国特許第5,550,375号において記述される支持体などの、ニトロセルロースメンブレン、ナイロンメンブレン、ポリスチレンなどの固相有機ポリマー、または層状のディップスティックが含まれるがこれらに限定されるわけではない任意の固相支持体を用いることができる。「ディップスティック」または試験片、および他の固相支持体を用いることは、多数の抗原に関するイムノアッセイの状況において当技術分野において記述されている。3つの米国特許(H. Tomに公布された米国特許第4,444,880号;R. N. Piasioに公布された米国特許第4,305,924号;J. T. Shenに公布された米国特許第4,135,884号)が、免疫化学アッセイによって可溶性抗原を検出するために「ディップスティック」技術を用いることを記述している。これらの3つの特許の装置および方法は、スティック上で成分-抗原複合体を検出する前に、「ディップスティック」の際に固定された成分に結合する可溶性抗原を含有する溶液に曝露される、「ディップスティック」上の固相表面に固定される第一の成分を広く記述している。「ディップスティック」技術は、当業者によって本発明に関して容易に適合されうる。本明細書において記述される本発明において、抗原PLA2Rは支持体上に沈積して、自己抗体が検出される。
【0103】
キットの例には、ELISAアッセイキット、ならびに試験片およびディップスティックを含むキットが含まれるがこれらに限定されるわけではない。ELISAキットにおいて、PLA2R抗原の過剰量が固相支持体上に固定される。PLA2Rに対する自己抗体の未知量を含有する試料を、固定されたPLA2Rに加えて、それによって、タンパク質および抗体からなる複合体が形成される。複合体は、自己抗体に対して同様に特異的である標識二次抗体によって検出される。検出される標識の量は、試料中に存在する自己抗体の量の測定である(実施例3を参照されたい)。
【0104】
本明細書において記述されるキットのいくつかの態様において、キットは試験片またはディップスティックを含む。
【0105】
本明細書において記述されるキットのいくつかの態様において、標識抗体は、酵素標識、蛍光標識、ビオチン標識、または放射性同位元素標識によって検出可能に標識される。他の標識には、金コロイドおよびラテックスビーズが含まれるがこれらに限定されるわけではない。ラテックスビーズはまた、着色することができる。抗体を標識する方法は、たとえばその全ての全内容が参照により本明細書に組み入れられる、"Colloidal Gold. Principles. Methods and Applications", Hayat MA (ed.) (1989-91). Vols 1-3, Academic press, London; in "Techniques in Immunocytochemistry", Bullock GR and Petrusz P (eds) (1982-90) Vols 1, 2, 3, and 4, Academic Press, London; in "Principles of Biological Microtechnique", Baker JR (1970), Methuen, London; Lillie RD (1965), Histopathologic Technique and practical Histochemistry, 3rd ed, McGraw Hill, New York; Berryman MA, et al (1992), J. Histochem Cytochem 40, 6, 845-857において記述されるように、当技術分野において公知である。
【0106】
典型的な金コロイド標識技術において、固定された抗体によって抗原が捕捉されるメンブレンに沿って側方または横切る流れによって観察した場合の、または溶液中の赤色強度を観察することによる、蓄積された金標識の独自の赤色は、溶液中のタンパク質のナノグラム下の量を検出するための極めて感度のよい方法を提供する。金コロイドコンジュゲートは、選択されたタンパク質または高分子(抗体または抗体に基づく部分などの)によってコーティングされた金粒子の浮遊液からなる。金粒子は、1〜250 nmの選ばれた任意の大きさに製造されてもよい。この金プローブ検出システムは、組織切片などにおける特異的標的と共にインキュベートした場合、金粒子自身の可視性を通して標的を明らかにするであろう。肉眼による検出に関して、金粒子はまた、金ゾルの蓄積された赤色を通して、ブロッティングメンブレンなどの固相上に固定された抗原を明らかにするであろう。この金沈殿物の銀による増強はまた、さらなる検出感度を与える。標識するための金コロイド試薬の供給元は、SPI-MARK(商標)から入手可能である。ポリスチレンラテックスビーズサイズ200 nmの着色ラテックスビーズは、抗体SIGMA ALDRICH(登録商標)、Molecular Probes, Bangs Laboratory Inc., およびAGILENT(登録商標)Technologiesによってコーティングされる。
【0107】
本明細書において記述されるキットの他の態様において、標識抗体の少なくとも1つは酵素標識抗体を含む。固相支持体(たとえば、マイクロタイタープレートウェル)上で固定されたPLA2Rによって結合されて捕捉される抗PLA2Rは、抗-抗体、たとえば抗ヒトIgGにコンジュゲートされた酵素の色素形成基質を加えて、ELISAプレートリーダーなどの光学デバイスによって検出される色の産生によって同定される。
【0108】
他の検出システム、たとえばビオチン-ストレプトアビジン系も同様に用いることができる。定量は、ストレプトアビジン-ペルオキシダーゼコンジュゲートおよび色素形成基質を用いて決定される。そのようなストレプトアビジンペルオキシダーゼ検出キットは、たとえば、DAKO; Carpinteria, CAから市販されている。
【0109】
または、検出抗体およびPLA2Rを、イムノアッセイにおいて用いるために、フルオレセインイソチオシアネート、ユーロピウム、ルシファーイエロー、ローダミンBイソチオシアネート(Wood, P. In: Principles and Practice of Immunoassay, Stockton Press, New York, pages 365-392 (1991))などの多数の任意の蛍光化合物によって標識することができる。抗体-抗原複合体を分離するための公知の技術に関連して、これらの蛍光体を、自己抗体レベルを定量するために用いることができる。同じことが、化学発光イムノアッセイにも当てはまり、この場合、抗体またはPLA2Rは、イソルミノールまたはアクリジニウムエステルによって標識されうる(Krodel, E. et al., In: Bioluminescence and Chemiluminescence: Current Status, John Wiley and Sons Inc. New York, pp 107-110 (1991);Weeks, I. et al., Clin. Chem., 29:1480-1483 (1983))。ラジオイムノアッセイ(Kashyap, M. L. et al., J. Clin. Invest., 60:171-180 (1977))は、125Iなどの放射活性同位元素による標識後に検出抗体を用いることができる別の技術である。これらのイムノアッセイのいくつかは、蛍光イムノアッセイに関してIMX(商標)(Abbott, Irving, Tex.)および化学発光イムノアッセイに関してCiba Coming ACS 180(商標)(Ciba Corning, Medfield, Mass.)などの適当な機器を用いることによって容易に自動化されうる。
【0110】
いくつかの態様において、本明細書において記述されるキットはさらに、既知量のPLA2Rまたはその断片の標準物質を含む。
【0111】
いくつかの態様において、本明細書において記述されるキットは、抗PLA2R抗体レベルの参照値をさらに含む。参照値は、健康な非MNヒト集団からの試料中の抗PLA2R抗体レベルの平均値である。参照値は、数値として、またはpg/ml〜μg/mlで表される抗PLA2R抗体の既知量または力価の標準物質として提供されうる。
【0112】
いくつかの態様において、本明細書において記述されるキットはさらに、試料を収集するための少なくとも1つの試料収集容器を含む。収集デバイスおよび容器には、シリンジ、ランセット、BD VACUTAINER(登録商標)採血管が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0113】
いくつかの態様において、本明細書において記述されるキットはさらに、キットを用いるためのおよび結果の解釈のための説明書を含む。たとえば、図9に示されるチャートは結果の解釈である。
【0114】
例として、典型的なELISAに基づくキットアッセイであれば、マイクロプレートウェルに、好ましくは2つ組でまたは3つ組で血清を含有する試料を分配する段階を伴うであろう(図11のように)。ウェルを固定されたPLA2Rによってコーティングする。加えて、キットと共に提供される固定量の標準物質抗IgGを同様に、キットの説明書に従って、同様に好ましくは2つ組でまたは3つ組でマイクロタイタープレートの参照ウェルに分配する。標準物質抗IgGのその固定量は、健康な被験体に通常存在する抗PLA2R自己抗体の参照値の少なくとも2倍に対応する。抗PLA2R自己抗体の参照値より2倍低い量に対応する標準物質抗IgGの第二の固定量を、もう1つの組の参照ウェルに加えることができる。次に、抗PLA2R自己抗体に対して特異的な標識検出抗体を試料および参照ウェル、たとえば抗IgG抗体の双方に加える。これは、抗PLA2R自己抗体が、PLA2Rと抗IgG抗体の間に挟まれる「サンドイッチ」ELISAアッセイである。検出される標識量は、ウェルに存在する抗PLA2R自己抗体の量の測定であり、様々なウェルにおいて検出される標識の量は、試料中の抗PLA2R自己抗体のレベルを、健康な被験体に通常存在する抗PLA2R自己抗体の参照値と比較するための手段を提供する。たとえば、標識が着色ラテックスビーズである場合、参照ウェルと比較して試料ウェルにおける色の強度がより大きければ、試料中の抗PLA2R自己抗体レベルが、健康な被験体に通常存在する抗PLA2R自己抗体の参照値の2倍より高いことを示している。一方、試料ウェルにおける色の強度が参照ウェルと比較して低い場合、このことは、試料中の抗PLA2R自己抗体レベルが、健康な被験体に通常存在する抗PLA2R抗体の参照値より少なくとも2倍低いことを示している。
【0115】
本発明の態様はまた、被験体におけるMNを診断する、MNを発症する被験体のリスクを査定する、またはMNを有する被験体の処置の効能をモニターするための方法を行うためのシステム(およびコンピュータシステムの原因となるコンピュータ読み取り可能な媒体)を提供する。
【0116】
1つの態様において、本明細書において、被験体から得られた試料からのPLA2Rに対して反応性である抗体の存在またはレベルを示すイムノアッセイからの検出可能なシグナルを含む自己抗体情報を測定する測定モジュール;測定モジュールからのデータ出力を保存するように設定された保存モジュール;保存モジュールに保存されたデータを参照および/または対照データと比較して、取得した内容を提供するように適合させた比較モジュール;ならびに取得した内容においてPLA2Rに対して反応性である抗体の検出可能な量が存在すれば、被験体がMNを有するまたはMNの再発を有することを示している、ユーザーに取得した内容を表示するための出力モジュール、を含むシステムが提供される。
【0117】
1つの態様において、本明細書において、自己抗体情報がPLA2Rに対して反応性である自己抗体レベルを測定する、被験体から得られた試料からのPLA2Rに対する自己抗体情報を受信して出力するように設定された決定モジュール;決定モジュールからの出力情報を保存するように設定された保存モジュール;保存モジュールに保存されたデータを参照および/または対照データと比較して、比較内容を提供するように適合させた比較モジュール;およびPLA2Rに対して反応性の自己抗体の検出可能な量が存在しなければ、被験体は寛解している、または前回の検査値に対して少なくとも10%低減していれば、MNに対する処置が被験体において有効である、ユーザーに比較内容を表示するための出力モジュール、を含む、被験体における膜性腎症(MN)の予後の評価を容易にするためのシステムが提供される。
【0118】
いくつかの態様において、対照データは、前回のデータが自己抗体の検出可能な量を示した同じ被験体からの前回のデータを含む。
【0119】
1つの態様において、本明細書において、PLA2Rに対して反応性である抗体に関するイムノアッセイからのシグナルレベルを表す、被験体から得られた試料からのデータを含有する保存データモジュール;保存データモジュール上に保存されたデータを参照データおよび/または対照データと比較して、比較内容を提供する比較モジュール;およびPLA2Rに対して反応性の抗体の検出可能な量が、参照データおよび/または対照データと比較して少なくとも10%存在すれば、被験体がMNを有するまたはMNの再発を有することを示している、ユーザーに比較内容を表示する出力モジュール、を含むコンピュータ読み取り可能な保存媒体が提供される。
【0120】
1つの態様において、対照データは、西洋ワサビペルオキシダーゼ抗ヒトIgG抗体が標識された検出抗体であり、検出シグナルが化学発光である、ネイティブなPLA2R 0.5μgと免疫反応するように1×PBSによる1:100希釈で健康な非MN個体からのヒト血清を用いて得られた検出シグナルである、健康な非MN個体集団からのデータを含む。
【0121】
本発明の態様は、コンピュータ読み取り可能な媒体に記録されるコンピュータ実行可能な指示によって定義され、実行された場合にコンピュータに方法の段階を行わせる機能的モジュールを通して記述されうる。モジュールは明快にするために機能によって分けられる。しかし、モジュール/システムは個別のコードのブロックに対応する必要はなく、記述の機能は、様々な媒体上に保存されて様々な時期に実行される様々なコード部分の実行によって行われうると理解されるべきである。さらに、モジュールは他の機能を行ってもよく、このようにモジュールは任意の特定の機能または機能の組を有することに限定されないと認識されるべきである。
【0122】
コンピュータ読み取り可能な媒体#30は、コンピュータによってアクセスされうる任意の利用可能な有形の媒体でありうる。コンピュータ読み取り可能な保存媒体には、コンピュータ読み取り可能な命令、データ構造、プログラムモジュール、または他のデータなどの、情報を保存するための任意の方法または技術において実行される、揮発性および非揮発性の、取り外し可能なおよび取り外し不可能な有形の媒体が含まれる。コンピュータ読み取り可能な保存媒体には、RAM(random access memory)、ROM(read only memory)、EPROM(eraseable programmable read only memory)、EEPROM(electrically eraseable programmable read only memory)、フラッシュメモリ、または他のメモリ技術、CD-ROM(compact disc read only memory)、DVD(digital versatile disk)、または他の光学保存媒体、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク保存または他の磁気保存媒体、他のタイプの揮発性および非揮発性メモリ、ならびに望ましい情報を保存するために用いることができ、前述の任意の適した組み合わせが含まれるコンピュータによってアクセスされうる他の任意の有形の媒体が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0123】
1つまたは複数のコンピュータ読み取り可能な媒体において具体化されるコンピュータ読み取り可能なデータは、たとえばコンピュータによって実行された結果として、本明細書において記述される機能、および/またはその様々な態様、その変化形および組み合わせの1つまたは複数を行うようにコンピュータに命令する1つまたは複数のプログラムの一部として命令を定義してもよい。そのような命令は、複数の任意のプログラム言語、たとえばJava、J#、Visual Basic、C、C#、C++、Fortran、Pascal、Eiffel、Basic、COBOLアセンブリ言語等、またはその任意の多様な組み合わせのいずれで書かれてもよい。そのような命令が具体化されるコンピュータ読み取り可能な媒体は、システムのいずれかの成分の1つもしくは複数の上に存在してもよく、または本明細書において記述されるコンピュータ読み取り可能な保存媒体は、そのような成分の1つもしくは複数にわたって分布してもよい。
【0124】
コンピュータ読み取り可能な媒体は、その上に保存される命令が本明細書において考察される本発明の局面を実行するために任意のコンピュータリソースにロードされうるように、移動可能であってもよい。加えて、先に記述したように、コンピュータ読み取り可能な媒体上に保存される命令は、ホストコンピュータ上で行われるアプリケーションプログラムの一部として具体化される命令に限定されないと認識されるべきである。むしろ、命令は、本発明の局面を実行するようにコンピュータをプログラムするために使用することができる任意のタイプのコンピュータコード(たとえば、ソフトウェアまたはマイクロコード)として具体化されてもよい。コンピュータ実行可能な命令は、適したコンピュータ言語またはいくつかの言語の組み合わせで書かれてもよい。基本的なコンピュータ生物学的方法は当業者に公知であり、たとえばSetubal and Meidanis et al., Introduction to Computational Biology Methods (PWS Publishing Company, Boston, 1997);Salzberg, Searles, Kasif, (Ed.), Computational Methods in Molecular Biology, (Elsevier, Amsterdam, 1998);Rashidi and Buehler, Bioinformatics Basics: Application in Biological Science and Medicine (CRC Press, London, 2000);およびOuelette and Bzevanis Bioinformatics: A Practical Guide for Analysis of Gene and Proteins (Wiley & Sons, Inc., 2nd ed., 2001)において記述される。
【0125】
本発明のある態様の機能的モジュールには、少なくとも測定モジュール#40、保存モジュール#30、比較モジュール#80、および出力モジュール#110が含まれる。機能的モジュールは、1つもしくは多数のコンピュータ上で、または1つもしくは多数のコンピュータネットワークを用いることによって実行されうる。測定モジュールは、たとえばコンピュータ読み取り可能な型で発現情報を提供するためにコンピュータ実行可能な命令を有する。
【0126】
測定モジュール#40は、抗PLA2R自己抗体の発現レベルを表すシグナルを検出するための任意のシステムを含みうる。そのようなシステムには、DNAマイクロアレイ、RNA発現アレイ、任意のELISA検出システム、および/または任意のウェスタンブロッティング検出システムが含まれうる。
【0127】
決定システムにおいて決定される情報は、保存モジュール#30によって読み取られうる。本明細書において用いられるように「保存モジュール」には、データまたは情報を保存するように設定されたまたは適合させた任意の適した計算または処理装置または他のデバイスが含まれると意図される。本発明と共に用いるために適した電子装置の例には、独立型計算装置、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、インターネット、イントラネット、およびエクストラネットが含まれるデータ通信ネットワーク、ならびにローカルおよび分散コンピュータ処理システムが含まれる。保存モジュールにはまた、フロッピーディスク、ハードディスク保存媒体、磁気テープなどの磁気保存媒体、CD-ROM、DVDなどの光学保存媒体、RAM、ROM、EPROM、EEPROM等などの電子保存媒体、汎用ハードディスク、および磁気/光学保存媒体などのこれらのカテゴリーの混成物が含まれるがこれらに限定されるわけではない。保存モジュールは、その上に発現レベルまたはタンパク質レベル情報が記録されるように適合または設定される。そのような情報は、たとえばインターネットによって、ディスケット上で、USB(universal serial bus)によって、または任意の他の適した通信様式によって、電子的に伝達および読み取られうるデジタル型で提供されてもよい。
【0128】
本明細書において用いられるように、「保存された」とは保存モジュール上に情報をコードするためのプロセスを指す。当業者は、発現レベル情報を含む製造物を生成するために公知の媒体上で情報を記録するために現在公知の任意の方法を容易に採用することができる。
【0129】
1つの態様において、比較モジュールによって読み取られる保存モジュールにおいて保存された参照データは、たとえば非MN被験体集団、MN被験体集団から得られた発現データ、または測定モジュール#40を用いて前回の時点で同じ被験体から得られた発現データである。
【0130】
「比較モジュール#80」は、参照試料および/または保存された参照データに対して、測定モジュールにおいて決定された発現データを比較するために機能的な、比較のための多様な利用可能なソフトウェアプログラムおよびフォーマットを用いることができる。1つの態様において、比較モジュールは、1つまたは複数の入力からの情報を1つまたは複数の参照データパターンと比較するためにパターン認識技術を用いるように設定される。比較モジュールは、パターンを比較するために既存の市販のまたは無料で入手可能なソフトウェアを用いて設定されてもよく、および実行される特定のデータ比較に関して最適化されてもよい。比較モジュールは、自己抗体の標準化された発現レベル、個体におけるMNの有無、個体における処置の効能、および/または個体を処置する方法に関連するコンピュータ読み取り可能な情報を提供する。
【0131】
比較モジュール、または本発明の任意の他のモジュールには、その上でリレーショナルデータベース管理システム、ワールドワイドウェブアプリケーション、およびワールドワイドウェブサーバーを運営するオペレーティングシステム(たとえば、UNIX)が含まれてもよい。ワールドワイドウェブアプリケーションには、データベース言語文の作製にとって必要な実行可能なコードが含まれる(たとえば、構造化照会言語(SQL)文)。一般的に、実行可能なものには、埋め込みSQL文が含まれるであろう。加えて、ワールドワイドウェブアプリケーションには、サーバーのみならず、ユーザーの要請にサービスを提供するためにアクセスされなければならない様々な外部および内部データベースを含む様々なソフトウェア実体に対するポインタおよびアドレスを含有する設定ファイルが含まれてもよい。設定ファイルはまた、必要であれば、サーバーが2つまたはそれより多くの異なるコンピュータ上に分布する場合には、サーバーリソースの要請を適当なハードウェアに向ける。1つの態様において、ワールドワイドウェブサーバーは、TCP/IPプロトコルをサポートする。このようなローカルネットワークは、時に「イントラネット」と呼ばれる。そのようなイントラネットの長所は、それらがワールドワイドウェブ(たとえば、GenBankまたはSwiss Proのワールドワイドウェブサイト)に存在する公共ドメインデータベースと容易に通信できる点である。このように、特に本発明の好ましい態様において、ユーザーは、ウェブブラウザおよびウェブサーバーによって提供されるHTMLインターフェースを用いて、インターネットデータベース上に存在するデータに直接アクセスすることができる(たとえば、ハイパーテキストリンクによって)。
【0132】
比較モジュールは、保存される可能性がある比較結果に部分的に基づく内容を提供して、ユーザーによる要請に応じて出力モジュール#110を用いて出力するために、既定の基準によって、またはユーザーによって定義される基準によって、コンピュータ読み取り可能な形で処理されうるコンピュータ読み取り可能な比較結果を提供する。
【0133】
比較結果に基づく内容は、個体におけるMNの有無または被験体がMNを発症する査定されたリスクを示す、参照と比較された発現値であってもよい。
【0134】
本発明の1つの態様において、比較結果に基づく内容は、コンピュータモニター#120上に表示される。本発明の1つの態様において、比較結果に基づく内容は、印刷可能な媒体#130、#140を通して表示される。ディスプレイモジュールは、コンピュータから受信して、ユーザーにコンピュータ読み取り可能な情報を表示するように設定された任意の適したデバイスでありうる。非制限的な例には、たとえば、Intel PENTIUM-タイププロセッサ、Motorola PowerPC、Sun UltraSPARC、Hewlett-Packard PA-RISCプロセッサ、Advanced Micro Devices (AMD)of Sunnyvale, Californiaから入手可能な任意の多様なプロセッサ、または他の任意のタイプのプロセッサに基づくコンピュータなどの汎用コンピュータ、フラットパネルディスプレイなどのビジュアルディスプレイデバイス、ブラウン管等のみならず、様々なタイプのコンピュータプリンタが含まれる。
【0135】
1つの態様において、ワールドワイドウェブブラウザは、比較結果に基づく内容を表示するためのユーザーインターフェースを提供するために用いられる。本発明の他のモジュールは、ウェブブラウザインターフェースを有するように適合させることができると理解されるべきである。ウェブブラウザを通して、ユーザーは、比較モジュールからデータを取得するための要請を行ってもよい。このように、ユーザーは典型的に、グラフィックユーザーインターフェースにおいて従来使用されるボタン、プルダウンメニュー、スクロールバー等などのユーザーインターフェース要素にポインターを合わせてクリックするであろう。
【0136】
ゆえに、本発明は、個体におけるMNを診断するための、またはMNの処置の予後を査定するための方法を行うためのシステム(およびコンピュータシステムの原因となるコンピュータ読み取り可能な媒体)を提供する。
【0137】
本明細書において記述されるシステムおよびコンピュータ読み取り可能な媒体は、個体における抗PLA2R自己抗体を検出するための本発明の単なる例示的な態様に過ぎず、本発明の範囲を制限しないと意図される。本明細書において記述されるシステムおよびコンピュータ読み取り可能な媒体の変化形が可能であり、本発明の範囲内に入ると意図される。
【0138】
機器のモジュールまたはコンピュータ読み取り可能な媒体において用いられるモジュールは、多数の設定をとってもよい。たとえば、機能は、1つの機器で提供されてもよく、または多数の機器に分布してもよい。
【0139】
試料の収集および調製
試料の収集は、当業者に周知の方法によって行われうる。
【0140】
たとえば、患者の血液は、訓練された医療従事者によってクエン酸塩およびEDTAなどの抗凝固剤の中に直接採取されうる。全血を、3500×Gで2分間冷蔵遠心分離することによって血漿部分、細胞、および血小板部分に分離することができる。遠心分離後の上清は血漿である。
【0141】
または、全血から血清を収集することができる。血液を硬質プラスチックまたはガラス管に収集する;血液は柔らかいプラスチックでは凝固しないであろう。血清6 mLを得るために全血15 mLを採取する。全血を、凝血が形成されるまで室温で30分から2時間放置する。ガラス棒または木製のアプリケータスティックを用いて容器の側面から注意深く凝血を分離して、4℃で終夜放置する。その後、血清をデカントして遠心分離する、および/またはパスツールピペットを用いて血清をきれいな試験管に移す。2000〜3000 rpmで10分間遠心分離することによって血清を透明にする。PLA2Rに対する自己抗体に関する分析を行うまで、血清を-20℃または-80℃で保存する。採血管を用いて血清を得るための詳細な記述は、米国特許第3,837,376号において見いだされ、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる。採血管はまた、BD Diagnostic Systems、Greiner Bio-One、およびKendall Companyからも購入することができる。
【0142】
PLA2R抗体の検出
血液、血清、または血漿中のヒトまたはブタPLA2Rに対する自己抗体の検出は、当技術分野において公知の任意の方法によって検出されうる。好ましくは、検出法が、PLA2Rタンパク質またはその断片と自己抗体との結合を伴う免疫化学法であるELISAによって行う。次に、抗体-タンパク質複合体の形成を、当技術分野において公知の多様な方法によって検出する。
【0143】
ELISAとも呼ばれる酵素結合免疫吸着測定法、酵素イムノアッセイまたはEIAは、試料中の抗体または抗原の存在を検出するために主に免疫学において用いられる生化学技術である。ELISAは、医学および植物病理学において診断ツールとして用いられているのみならず、様々な産業において品質管理チェックとして用いられている。本明細書において記述される方法に関して、ELISAにおいて、既知量の抗原(PLA2Rまたはその断片)を、表面に固定して、次に試料、たとえばPLA2Rに対する自己抗体を含有することが疑われる血液、血清、または血漿を、固定された抗原に自己抗体が結合することができるように表面上に流す。あらゆる非結合タンパク質を除去するために表面を洗浄して、検出抗体を表面に適用する。検出抗体は、被験体からの抗体に対して特異的である。たとえば、被験体がヒトである場合、検出抗体は、抗ヒトIgG抗体であるべきである。被験体がイヌである場合、検出抗体は、抗イヌIgG抗体であるべきである。この検出抗体を酵素に連結させて、最終段階において、酵素が何らかの検出可能なシグナルを変換することができる物質を加える。たとえば、蛍光ELISAの場合、光を試料にあてると、任意の抗原/抗体複合体が蛍光を発して、試料中の抗体量を測定することができるであろう。これは、間接的酵素結合免疫吸着測定法である。間接的ELISAの概略図を図7に示す。
【0144】
以下は、間接的酵素結合免疫吸着測定法を設定および行うための一般的な標準的プロトコールである。96ウェルマイクロタイタープレート(Falcon Pro-Bindassay plate 3915; Becton Dickinson, Paramus, N.J.)を用いて、試験ウェルを、ウェルあたり精製PLA2R(PBSにおいて3μg/ml)100μlと共に室温で終夜インキュベートすることによって抗原(PLA2Rまたはその断片)によってコーティングして、対照ウェルでは抗原の代わりにPBSを用いる。プレートをPBS-Tweenによって3回洗浄した後、2%BSAのPBS溶液250μlを各ウェルに加えて、プレートを室温で1時間インキュベートする。プレートをPBS-Tweenによって3回洗浄した後、PBS-Tween-BSAによって1:100に希釈した試験血清および対照血清(1つは高陽性血清標本、2つは陰性血清標本、および1つは弱陽性血清標本)と共に室温で1時間インキュベートする;各血清標本を、抗原コーティングウェルのみならず抗原対照ウェルにおいて3つ組で試験する。次に、プレートを、ウェルあたりPBS-Tween-BSAにおいて1:2,000に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(Bio-Rad, Richmond, Calif.)をコンジュゲートしたヤギ抗ヒトIgG 100μlと共に室温で1時間インキュベートすることによって、PLA2Rに対するヒト自己抗体IgGの存在に関してアッセイする(適当な対照と共に)。PBS-Tweenにおいて3回洗浄後、基質溶液(o-フェニレンジアミン二塩酸塩;Sigma)を各ウェルに加える。次に、プレートを室温の暗所で30分間インキュベートして、2 N硫酸を加えることによって反応を終了させる。490 nmでの吸光度(OD490)をマイクロプレートELISAリーダーにおいて測定する。各血清標本に関して、OD490の読みの平均値を試験ウェルおよび抗原対照ウェルに関して計算し、真のELISA値を得るために、前者から後者を差し引く。
【0145】
ELISAを行うためには特定の抗原に対して特異性を有する少なくとも1つの抗体を必要とする。既知量の抗原(PLA2R)を固相支持体(通常、ポリスチレンマイクロタイタープレート)上に非特異的に(表面に対する吸着によって)または特異的に(「サンドイッチ」ELISAにおいて、同じ抗原に対して特異的なもう1つの抗体による捕捉によって)固定する。抗原を固定した後、検出抗体を加えて、抗原との複合体を形成する。検出抗体を酵素に共有結合させることができ、またはバイオコンジュゲーションを通して酵素に連結する第二の抗体によってそれ自身を検出することができる。各段階の間で、プレートは典型的に、特異的に結合しない任意のタンパク質または抗体を除去するために、弱力洗浄剤溶液によって洗浄される。最後の洗浄段階の後、試料中の抗原の量を示す目に見えるシグナルを産生するために酵素基質を加えることによってプレートを発色させる。昔のELISAは色素形成基質を利用するが、より新しいアッセイはかなり感度が高い蛍光形成基質を使用する。
【0146】
もう1つの態様において、競合的ELISAが用いられる。被験体に由来しない精製抗PLA2R抗体をマルチウェルの固相上でコーティングする。血清試料組み換え型PLA2R(抗原)、またはその断片および抗PLA2R抗体によって標識した(コンジュゲート)西洋ワサビペルオキシダーゼを、コーティングしたウェルに加えて、競合的組み合わせを形成する。インキュベーション後、PLA2R含有量に対する自己抗体レベルが試料中で高ければ、HRPによって標識されるPLA2R自己抗体-抗PLA2Rの複合体が形成するであろう。ウェルを洗浄すると複合体を除去して、ウェルにおける西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗体の局在を調べるために、TMB(3,3',5,5'-テトラメチルベンジデン)発色基質と共にインキュベートする。その後、色の変化はないかまたは色の変化はほとんどない。血清試料中にPLA2Rに対する自己抗体が存在しない場合、大きい色の変化が認められるであろう。そのような競合的ELSA試験は特異的で、感度がよく、再現性があり、操作が容易である。
【0147】
1つの態様において、本明細書において記述される方法において関心対象抗体であるPLA2Rに対する自己抗体が、抗原(PLA2R)によって挟まれ、1つの抗体が表面に固定されて、第二の抗原が可溶性であるかまたはタグ付けされる、リバース-サンドイッチ(RS)ELISAが用いられる(Miyazawa H,. et. al, J Allergy Clin Immunol. 1988; 82:407-413)。この方法はまた、二重抗原サンドイッチ法としても知られている。RS ELISAの概略図を図7に示す。
【0148】
以下は、RS-ELISAを設定および行うための一般的な標準的プロトコールである。0.5 M NaCl-0.1%NaN3-0.05 M炭酸ナトリウム(pH 9.6)においてPLA2R(0.3μg/ml)またはPLA2R(0.9μg/ml)にウシ血清アルブミン(BSA;25μg/ml)を加えたもの0.1 ml量を Maxisorpマイクロプレート(Nalge Nunc, Copenhagen, Denmark)のウェルに加える。抗原を固定するために、プレートを4℃で終夜インキュベートする。ウェルを洗浄した後、FBS-PBST(10%[vol/vol]ウシ胎児血清[FBS]、0.1%NaN3-リン酸緩衝生理食塩液[PBS]-0.05%Tween 20[PBST])によって1:4、1:40、および1:400に希釈した試験血清を加えて、プレートを室温で60分間インキュベートする。参照血清の7つの3倍連続希釈を用いる。もう一度洗浄した後、ビオチニル化PLA2RまたはPLA2R(0.05μg/ml)のFBS-PBST溶液をウェルに加えて、室温で60分間反応させる。ウェルを再度洗浄して、ストレプトアビジンコンジュゲートβ-d-ガラクトシダーゼ(GIBCO BRL, Life Technologies Inc., Rockville, Md.;1%BSAを含有するPBSTにおいて1:50,000に希釈)を加えて、プレートを室温で60分間インキュベートする。さらに洗浄した後、0.2 mM 4-メチルウンベリフェリル-β-d-ガラクトシド(Sigma Chemical Co., St. Louis, Mo.)の0.1 M NaCl-1 mM MgCl2-0.1%BSA-0.1%NaN3-0.01 Mリン酸ナトリウム(pH 7.0)溶液を加える。ウェルをテープで密封して、プレートを37℃の水浴に60分間浸す。最後に、0.1 Mグリシン-NaOH(pH 10.2)0.1 mlを各ウェルに加えて、酵素反応を停止させる。各ウェルにおける蛍光単位(FU)を、Fluoroskan II装置(Flow Laboratories, Rockville, Md.)によって測定する。試験血清の抗体濃度を、公知の抗体単位/mlで参照血清の滴定曲線から計算する。
【0149】
1つの好ましい態様において、検出抗体は、抗体を酵素に連結させることによって検出可能に標識される。次に、その基質に曝露された酵素は、たとえば分光光度法、蛍光光度法、または視覚的手段によって検出することができる化学部分を産生するように基質と反応するであろう。本発明の抗体を検出可能に標識するために用いることができる酵素には、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、δ-V-ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、α-グリセロリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース-VI-リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、およびアセチルコリンエステラーゼが含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0150】
他の態様において、検出抗体は、蛍光化合物による標識である。蛍光標識抗体が適当な波長の光に曝露されると、その存在を蛍光により検出することができる。最も一般的に用いられる蛍光標識化合物は、CY色素、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリセリン(phycoerytherin)、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルアルデヒド、およびフルオレスカミンである。
【0151】
検出抗体はまた、152Eu、またはランタニドシリーズの他の金属などの蛍光発光金属を用いて検出可能に標識されうる。これらの金属は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のような金属キレート基を用いて抗体に付着させることができる、
【0152】
検出抗体はまた、化学発光化合物にそれをカップリングさせることによって検出可能に標識されうる。次に、化学反応の過程において生じる発光の存在を検出することによって、化学発光抗体の存在を決定する。特に有用な化学発光標識化合物の例は、ルミノール、ルシフェリン、イソルミノール、セロマティックアクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩、およびシュウ酸エステルである。
【0153】
他の異なる型のELISAが存在し、これは当業者に周知である。ELISAに関して当技術分野において公知の標準的な技術は、"Methods in Immunodiagnosis", 2nd Edition, Rose and Bigazzi, eds. John Wiley & Sons, 1980;Campbell et al., "Methods and Immunology", W. A. Benjamin, Inc., 1964;およびOellerich, M. 1984, J. Clin. Chem. Clin. Biochem. 22:895-904において記述される。
【0154】
他の技術を用いて試料中のPLA2R自己抗体を検出することができる。そのような1つの技術はウェスタンブロッティングであり(Towbin et at., Proc. Nat. Acad. Sci. 76:4350 (1979))、もう1つは、ウェスタンブロットの適合版、ドットブロットである。ウェスタンブロットにおいて、PLA2Rタンパク質またはその断片を洗浄剤および熱によって解離させて、SDS-PAGEゲルにおいて泳動させた後、ニトロセルロースメンブレンフィルターなどの固相支持体に転写することができる。フィルターを、PLA2Rに対する自己抗体を含有することが疑われる試料によって洗浄する。次に、非結合タンパク質および非特異的に結合したタンパク質を除去するためにフィルターを洗浄する。次に、検出可能に標識された酵素結合二次抗体を用いて、試験される試料中の自己抗体の量を検出および査定することができる。検出可能な標識からのシグナルの強度は、存在する酵素量に対応し、ゆえにPLA2Rに対する自己抗体の量に対応する。レベルは、たとえば濃度計によって定量されうる。
【0155】
もう1つの免疫学的アッセイは比濁分析イムノアッセイである。比濁分析イムノアッセイは当業者に公知であり、その全てのその全内容が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4730922号、第4268171号、第4401387号、第4408880号、第4889815号、第4690906号、第4784947号、および第516223号において記述される方法によって行われる。
【0156】
PLA2Rに対する抗体の陽性対照として、既知量の抗PLA2R抗体を用いることができる。抗PLA2R抗体は、例を挙げれば、INVITROGEN Inc.、MILLIPORE、SIGMA-ALDRICH、R&D Systems、ABCAM and the World's Antibody Gateway(150を超える抗体企業の無料検索エンジン)、およびGeneTextoなどの販売元から得ることができる。抗体はポリクローナルまたはモノクローナル抗体でありうる。または、抗体は、当業者によってヒトPLA2Rタンパク質(GENBANK(商標)アクセッション番号NP_001007268;SEQ. ID. NO. 1およびNP_031392.3、SEQ. ID. NO. 2)またはその断片に対して作成されうる。抗体を産生する方法は、参照により本明細書に組み入れられる、PCT公開WO 97/40072または米国特許出願公開第2002/0182702号において開示される。哺乳動物において抗体産生を誘発するための免疫プロセス、モノクローナル抗体を産生するためのハイブリドーマの生成、および抗体の精製は、その双方の全内容が参照により本明細書に組み入れられる、"Current Protocols in Immunology"(CPI)(John Wiley and Sons, Inc.)およびAntibodies: A Laboratory Manual(Ed Harlow and David Lane editors, Cold Spring Harbor Laboratory Press 1988)において記述されるように行われてもよい。
【0157】
PLA2Rに対する自己抗体の検出は、イムノアッセイシグナルがPLA2Rもしくはその断片に対する抗体の非存在下で、または無関係な非PLA2R結合抗体の存在下で対照イムノアッセイシグナルより少なくとも10%上である場合に、陽性であると見なされる。もう1つの態様において、対照イムノアッセイシグナルは、疾患の臨床特色を有しない健康な非MN被験体の血清について得られたシグナルである。もう1つの態様において、対照イムノアッセイシグナルは、健康な非MN被験体集団について得られた平均値である。集団は、健康な非MN被験体少なくとも25人、好ましくはそれより多い。増加は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも300%、少なくとも500%、少なくとも1000%、またはそれより多く、および10〜1000%の間の全てのパーセンテージが含まれる。
【0158】
1つの態様において、自己抗体の検出は、抗体をコードするmRNAの上昇量を同定および検出する段階を含む。当技術分野において周知であるmRNAを検出、同定、および決定する多くの方法、たとえばノザンブロットおよびRT-PCRが存在する。1つの態様において、mRNAは定量的リアルタイムPCRによって決定されうる。リアルタイムPCRは、mRNA発現レベルを決定するために用いられうる増幅技術である(たとえば、Gibson et al., Genome Research 6:995-1001, 1996;Heid et al., Genome Research 6:986-994, 1996を参照されたい)。リアルタイムPCRは、増幅の際のPCR産物の蓄積レベルを評価する。この技術は多数の試料中のmRNAレベルの定量的評価を可能にする。mRNAレベルに関して、mRNAは生物試料、たとえば血液試料から抽出されて、cDNAは標準的な技術を用いて調製される。リアルタイムPCRは、たとえば Perkin Elmer/ Applied Biosystems(Foster City, Calif.)7700 Prism機器を用いて行われうる。マッチするプライマーおよび蛍光プローブを、たとえばPerkin Elmer/ Applied Biosystems(Foster City, Calif.)によって提供されるプライマー発現プログラムを用いて関心対象遺伝子に関して設計することができる。プライマーおよびプローブの最適な濃度は、当業者によって最初に決定されることができ、対照(たとえば、β-アクチン)プライマーおよびプローブはたとえば、Perkin Elmer/ Applied Biosystems(Foster City, Calif.)からの購入によって得られうる。試料中の関心対象の特異的核酸の量を定量するために、対照を用いて検量線を作成する。検量線は、リアルタイムPCRにおいて決定されたCt値を用いて生成されうるが、この値はアッセイにおいて用いられる関心対象核酸の初回濃度に関連する。関心対象遺伝子10〜106コピーの範囲の標準的な希釈が一般的に十分である。加えて、対照配列に関して検量線が作成される。このことによって、組織試料中の関心対象核酸の初回含有量を比較目的で対照量に対して標準化することができる。
【0159】
TaqManプローブを用いるリアルタイム定量的PCRの方法は、当技術分野において周知である。リアルタイム定量的PCRに関する詳細なプロトコールは、たとえば、RNAに関してGibson et al., 1996, Genome Res., 10:995-1001において、およびDNAに関してHeid et al., 1996, Genome Res., 10:986-994において提供される。
【0160】
TaqManに基づくアッセイは、5'蛍光色素および3'消光剤を含有する蛍光形成オリゴヌクレオチドプローブを用いる。プローブはPCR産物とハイブリダイズするが、3'末端でのブロッキング剤によりそれ自身伸長することができない。PCR産物がその後のサイクルにおいて増幅されると、ポリメラーゼ、たとえばAmpliTaqの5'ヌクレアーゼ活性によって、TaqManプローブの切断が起こる。この切断によって、5'蛍光色素と3'消光剤とが分離して、それによって増幅の関数としての蛍光の増加が起こる(たとえば、Perkin Elmerのワールドワイドウェブを参照されたい)。
【0161】
もう1つの態様において、RNA転写物の検出は、RNAの調製が変性アガロースゲルにおいて行われ、活性化セルロース、ニトロセルロース、またはガラスもしくはナイロンメンブレンなどの適した支持体に転写されるノザンブロッティングによって達成されうる。次に、標識(たとえば、放射標識)cDNAまたはRNAを調製物にハイブリダイズさせて、洗浄して、オートラジオグラフィーなどの方法によって分析する。
【0162】
もう1つの態様において、RNA転写物の検出はさらに、公知の増幅法を用いて成就されうる。たとえば、mRNAをcDNAに逆転写させた後にポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を行うこと、または米国特許第5,322,770号において記述されるように双方の段階に関して1つの酵素を用いること、もしくはR. L. Marshall, et al., PCR Methods and Applications 4: 80-84 (1994)において記述されるように、mRNAをcDNAに逆転写した後、対称ギャップリガーゼ連鎖反応(RT-AGLCR)を行うことは、本発明の範囲内である。酵素mRNA転写物を検出するための1つの適した方法は、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、参考文献Pabic et. al. Hepatology, 37(5): 1056-1066, 2003において記述される。
【0163】
他の態様において、RNA転写物の検出は、PNAS USA 87: 1874-1878 (1990)において記述される、および同様にNature 350: 91-92 (1991)において記述される、いわゆる「NASBA」または「3SR」技術;公開された欧州特許出願(EPA)第4544610号において記述されるQ-β増幅;鎖置換増幅(G. T. Walker et al., Clin. Chem. 42: 9-13 (1996)および欧州特許出願第684315号において記述されるように)、ならびにPCT公開WO 9322461によって記述される標的媒介増幅が含まれるがこれらに限定されるわけではない他の公知の増幅法によって達成されうる。
【0164】
本明細書において記述される方法において、血液試料中のPLA2R RNA転写物に対する自己抗体を検出するためにインサイチューハイブリダイゼーションを使用することが包含される。インサイチューハイブリダイゼーションにおいて、放射活性標識アンチセンスRNAプローブを血小板の薄膜塗抹標本とハイブリダイズさせて、その後、血小板の塗抹標本を洗浄して、RNアーゼによって切断し、オートラジオグラフィーのために感度のよいエマルションに曝露する。試料の組織学組成物を証明するために、試料をヘマトキシリンによって染色して、適した光フィルターによって暗視野を撮像すると、現像されたエマルションを示す。ジゴキシゲニンなどの非放射活性標識も同様に、用いることができる。
【0165】
または、mRNA発現をDNAアレイ、チップ、またはマイクロアレイにおいて検出することができる。PLA2R RNA転写物に対する自己抗体に対応するオリゴヌクレオチドをチップ上に固定して、これを患者から得た血小板試料の標識核酸にハイブリダイズさせる。PLA2R RNA転写物に対する自己抗体を含有する試料について、陽性ハイブリダイゼーションシグナルが得られる。DNAアレイを調製する方法およびその使用は、当技術分野において周知である(たとえば、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第6,618,6796号;第6,379,897号;第6,664,377号;第6,451,536号;第548,257号;米国特許出願公開第20030157485号;ならびにSchena et al. 1995 Science 20:467-470;Gerhold et al. 1999 Trends in Biochem. Sci. 24, 168-173;およびLennon et al. 2000 Drug discovery Today 5: 59-65を参照されたい)。連続遺伝子発現分析(SAGE)も同様に行われうる(たとえば、米国特許出願公開第20030215858号を参照されたい)。
【0166】
mRNAレベルをモニターするために、たとえばmRNAを、試験される血液試料から抽出して、逆転写して、蛍光標識cDNAプローブを生成する。cDNAとハイブリダイズすることができるマイクロアレイを、標識cDNAプローブによってプローブして、スライドガラスをスキャンして、蛍光強度を測定する。この強度はハイブリダイゼーション強度および発現レベルと相関する。cDNAは、特に抗体の変数領域においてPLA2R RNA転写物に対する自己抗体に対応する。
【0167】
「定量的」増幅法は当業者に周知である。たとえば、定量的PCRは、同じプライマーを用いて既知量の対照配列を同時増幅する段階を伴う。これは、PCR反応を較正するために用いることができる内部標準を提供する。定量的PCRに関する詳細なプロトコールは、たとえばInnis et al. (1990) PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications, Academic Press, Inc. N.Y.において提供される。
【0168】
組み換え型PLA2Rタンパク質およびPlA2R発現ベクター
組み換え型PLA2Rタンパク質およびその断片はまた、当技術分野において技術分野において周知である分子的方法によって合成および精製されうる。たとえば、組み換え型タンパク質を、細菌、哺乳動物、昆虫、酵母、または植物細胞において発現させることができる。
【0169】
従来のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)クローニング技術を用いて、PCRクローニングのための鋳型としてPLA2RのmRNAを用いて、PLA2Rをコードする核酸をクローニングすることができる。いくつかの態様において、ヒトPLA2RのmRNA鋳型は、Genbankアクセッション番号NM_001007267、SEQ. ID. NO. 3、およびNM_007366.3、SEQ. ID. NO. 4である。理想的には、増幅された核酸のクローニングベクターまたは他のベクターへのライゲーションを容易にするために、制限酵素消化認識部位を、PCRプライマーのセンスおよびアンチセンス鎖の末端で設計するべきである。または、当技術分野において周知であるTA-クローニングの目的のために、3'-Aオーバーハングを含めることができる。3' Aオーバーハングを有するそのようなコード核酸は、pCR(登録商標)-TOPO、pCR(登録商標)-Blunt II-TOPO、pENTR/D-TOPO(登録商標)、およびpENTR/SD/D-TOPO(登録商標)などのInvitrogenトポイソメラーゼ補助TAベクターに容易にライゲーションされうる。コード核酸は、pUC19、pBR322、pBLUESCRIPTベクター(STRATAGENE Inc.)、またはInvitrogen Inc.のpCR TOPO(登録商標)などの汎用クローニングベクターにクローニングされうる。次に、PLA2Rをコードする核酸を有する得られた組み換え型ベクターを、哺乳動物細胞株、昆虫細胞株、酵母、細菌、および植物細胞からなる群より選択される宿主細胞を用いる多様なタンパク質発現系においてPLA2R融合タンパク質を合成するために、タンパク質発現ベクターまたはウイルスベクターにサブクローニングすることができる。より大きい融合タンパク質、たとえばHis-PLA2Rまたはチオレドキシン-PLA2RからのPLA2Rの遊離を促進するために、プロテアーゼ切断部位もまた設計して、核酸の中に含めることができる。プロテアーゼ切断部位の例には、エンテロキナーゼ、キモトリプシン、およびトロンビンの切断部位が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0170】
PCR増幅コード核酸を、 pCR(登録商標)-TOPO、pCR(登録商標)- Blunt II-TOPO、pENTR/D-TOPO(登録商標)、およびpENTR/SD/D-TOPO(登録商標)などのInvitrogenトポイソメラーゼ補助TAベクターにおいて、TOPO(登録商標)クローニング法を用いてベクターにクローニングすることができる。pENTR/D-TOPO(登録商標)およびpENTR/SD/D-TOPO(登録商標)はいずれも、GATEWAY(登録商標)発現ベクターに5'→3'方向のDNA配列のクローニングを行うことができる方向性のTOPOエントリーベクターである。5'→3'方向の方向性のクローニングは、プロモーターが核酸の5' ATG開始コドンの上流に存在するように、タンパク質発現ベクターへのDNA配列の一方向性の挿入を容易にして、このようにプロモーターによって駆動されるタンパク質発現を可能にする。PLA2Rコード核酸を有する組み換え型ベクターを、XL1Blue、SURE(STRATAGENE)、およびTOP-10細胞(INVITROGEN)などの一般的なクローニング大腸菌(E. coli)細胞にトランスフェクトして繁殖させることができる。
【0171】
異なる発現ベクターが異種タンパク質発現系から産生された組み換え型タンパク質の発現および精製のために利用可能であり、作成されうる。たとえば、哺乳動物、昆虫、酵母、細菌、または植物細胞から選択される宿主細胞を用いる異種タンパク質発現系が、当業者に周知である。発現ベクターは、プロモーター配列、リボソーム認識および結合TATAボックス、ならびにその各々の宿主細胞における効率的な遺伝子転写および翻訳のための3' UTR AAUAAA(SEQ. DI. NO. 5)転写終止配列などの必要な5'上流および3'下流調節エレメントを有するべきである。発現ベクターは、6×ヒスチジン、V5、チオレドキシン、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、c-Myc、VSV-G、HSV、FLAG、マルトース結合ペプチド、金属結合ペプチド、HA、および発現された組み換え型タンパク質に組み入れられる「分泌」シグナル(ミツバチのメリチン、α-因子、PHO、Bip)などの追加の配列を有してもよい。加えて、それらが必要でなくなった後に追加の配列の酵素的除去を容易にするために、これらの配列の後に組み入れられる酵素消化部位が存在しうる。これらの追加の配列は、組み換え型タンパク質発現を検出するために、アフィニティクロマトグラフィーによるタンパク質精製のために、宿主細胞質における組み換え型タンパク質の溶解度を増加させるために、特に低分子タンパク質断片に関するよりよいタンパク質発現のために、および/または発現された組み換え型タンパク質を、培養培地、原核細菌のペリプラズムに、または酵母細胞のスフェロプラストに分泌するために、有用である。組み換え型タンパク質の発現は、宿主細胞において構成的でありうるか、またはこれは、硫酸銅、ガラクトースなどの糖、メタノール、メチルアミン、チアミン、テトラサイクリン、バキュロウイルスによる感染、および乳糖の安定な合成類似体である(イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド)IPTGによって誘導されうる。
【0172】
いくつかの態様において、組み換え型PLA2Rは、多様な発現宿主細胞、たとえば大腸菌などの細菌、酵母、哺乳動物、昆虫、およびクラミドモナス(Chlamydomonas)などの植物細胞において、または無細胞発現系からさえも発現されうる。クローニングベクターから、核酸を、哺乳動物、昆虫、酵母、細菌、もしくは植物細胞においてタンパク質を発現させるために適当である組み換え型発現ベクターに、またはウサギ網状赤血球発現系などの無細胞発現系にサブクローニングすることができる。サブクローニングは、PCRクローニング、制限消化後のライゲーション、またはGateway(登録商標)LRおよびBP CLONASE(商標)酵素混合物を用いるλ-ファージに基づく部位特異的組み換えの反応などの組み換え反応によって達成されうる。サブクローニングは、核酸の5' ATG開始コドンが発現ベクターにおいてプロモーターの下流に存在するように、非方向性であるべきである。または、コード核酸が、pENTR/D-TOPO(登録商標)、pENTR/SD/D-TOPO(登録商標)(方向性のエントリーベクター)、または任意のInvitrogen's Gateway(登録商標)技術pENTR(エントリー)ベクターにクローニングされる場合、哺乳動物細胞、大腸菌、昆虫、および酵母においてそれぞれ、1回の組み換え反応でタンパク質を発現させるために、コード核酸を様々なGATEWAY(登録商標)発現ベクター(デスティネーション)に移入することができる。GATEWAY(登録商標)デスティネーション発現ベクターのいくつかは、その各々の宿主細胞に感染すると、宿主細胞において組み換え型タンパク質の異種発現を許容する、バキュロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、およびレンチウイルスを構築するために設計される。遺伝子をデスティネーションベクターに移入することは、製造元の説明書に従ってちょうど2段階で成就される。大腸菌、昆虫細胞、哺乳動物細胞、および酵母においてタンパク質を発現させるためのGATEWAY(登録商標)発現ベクターが存在する。大腸菌における形質転換および選択後、発現ベクターは、適当な宿主における発現のために用いられる準備ができている。
【0173】
他の発現ベクターおよび宿主細胞の例は、BL21、BL21(DE3)、およびAD494(DE3)pLysS、Rosetta(DE3)、およびOrigami(DE3)(NOVAGEN)などの大腸菌宿主細胞においてタンパク質を発現させるためのpETベクター(NOVAGEN)、pGEXベクター(Amersham Pharmacia)、およびpMALベクター(New England labs. Inc.);CHO、COS、HEK-293、Jurkat、およびMCF-7などの哺乳動物細胞株における発現のための強いCMVプロモーターに基づくpcDNA3.1(INVITROGEN)およびpCIneoベクター(Promega);哺乳動物細胞におけるアデノウイルス媒介遺伝子移入および発現のための複製コンピテントアデノウイルスベクターベクターpADENO X、pAd5F35、pLP-ADENO-X-CMV(CLONTECH)、pAd/CMV/V5-DEST、pAd-DESTベクター(INVITROGEN);哺乳動物細胞におけるレトロウイルス媒介遺伝子移入および発現のための、ClontechからのRETRO-X(商標)系と共に用いられるpLNCX2、pLXSN、およびpLAPSNレトロウイルスベクター;哺乳動物細胞におけるレンチウイルス媒介遺伝子移入および発現のためのpLenti4/V5-DEST(商標)、pLenti6/V5-DEST(商標)、およびpLenti6.2/V5-GW/lacZ(INVITROGEN);哺乳動物細胞におけるアデノ随伴ウイルス媒介遺伝子移入および発現のためのpAAV-MCS、pAAV-IRES-hrGFP、およびpAAV-RCベクター(Stratagene)などのアデノウイルス随伴ウイルス発現ベクター;スポドプテラ・フルギペルダ(Spodopera frugiperda)9(Sf9)およびSf11昆虫細胞株における発現のためのBACpak6バキュロウイルス(CLONTECH)およびpFASTBAC(商標)HT(INVITROGEN);ドロソフィラ・シュナイダー(Drosophila Schneider)S2細胞における発現のためのpMT/BiP/V5-His(INVITROGEN);ピキア・パストリス(Pichia pastoris)における発現のためのピキア(Pichia)発現ベクターpPICZα、pPICZ、pFLDα、およびpFLD (Invitrogen)、ならびにメチロトローフ酵母(P. methanolica)における発現のためのベクターpMETαおよびpMET;出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)における発現のためのpYES2/GSおよびpYD1(INVITROGEN)ベクターである。コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)における異種タンパク質の大規模発現における最近の進歩は、Griesbeck C. et. al. 2006 Mol. Biotechnol. 34:213-33およびFuhrmann M. 2004, Methods Mol Med. 94:191-5によって記述される。外来の異種コード配列は、相同組み換えによって核、葉緑体、およびミトコンドリアのゲノムに挿入される。スペクチノマイシンまたはストレプトマイシンに対する抵抗性を付与する、用途の広い葉緑体選択可能マーカーであるアミノグリコシドアデニルトランスフェラーゼ(aadA)を有する葉緑体発現ベクターp64を用いて、葉緑体において外来タンパク質を発現させることができる。バイオリスティック遺伝子銃法を用いて、藻類においてベクターを導入することができる。葉緑体の中に入ると、外来DNAは遺伝子銃粒子から放出されて、相同組み換えを通して葉緑体ゲノムに組み入れられる。
【0174】
異なる宿主細胞における組み換え型タンパク質発現は、構成的であるか、または硫酸銅、ガラクトースなどの糖、メタノール、メチルアミン、チアミン、テトラサイクリン、もしくはIPTGなどの誘導物質によって誘導型でありうる。タンパク質が宿主細胞において発現されると、精製のために、宿主細胞を溶解して発現されたタンパク質を放出させる。様々な宿主細胞を溶解する方法は、"Sample Preparation-Tools for Protein Research" EMD Bioscienceおよびthe Current Protocols in Protein Sciences(CPPS)において特集されている。好ましい精製法は、ヒスチジンタグ組み換え型タンパク質に対してニッケル、コバルト、または亜鉛アフィニティ樹脂を用いるイオン-金属アフィニティクロマトグラフなどのアフィニティクロマトグラフィーである。ヒスチジンタグ組み換え型タンパク質を精製する方法は、CLONTECHのTALON(登録商標)コバルト樹脂を用いてCLONTECHによって、またはNOVAGENのpETシステムマニュアル、第10版においてNOVAGENによって記述される。もう1つの好ましい精製戦略は、イムノアフィニティクロマトグラフィーであり、たとえば抗-myc抗体コンジュゲート樹脂を用いてmycタグ組み換え型ペプチドをアフィニティ精製することができる。トロンビンおよびエンテロキナーゼなどのセリンプロテアーゼによる酵素消化は、ヒスチジンまたはmycタグから組み換え型タンパク質を切断して放出し、アフィニティ樹脂から組み換え型タンパク質を放出するが、ヒスチジンタグおよびmycタグは、アフィニティ樹脂に付着したままである。
【0175】
無細胞発現系も同様に企図される。無細胞発現系は、タンパク質のフォールディングにとって都合がよいように反応条件を容易に改変できること、産物毒性に対する感度の減少、ならびに反応容積および処理時間の低減のために迅速な発現スクリーニングまたは大量のタンパク質産生などのハイスループット戦略とって適していることが含まれる、従来の無細胞発現法に対していくつかの長所を提供する。無細胞発現系は、プラスミドまたは直線状DNAを用いることができる。その上、翻訳効率の改善によって、反応ミクス1ミリリットルあたりタンパク質1ミリグラムを超える収率が得られている。高い収率でタンパク質を産生することができる無細胞翻訳系の例は、Spirin AS. et. al., Science 242:1162 (1988)によって記述される。方法は、反応混合物全体にアミノ酸、アデノシン三リン酸(ATP)、およびグアノシン三リン酸(GTP)を含有する供給緩衝液の連続流の設計および翻訳されたポリペプチド産物の連続的な除去を用いる。系は、無細胞の連続的な供給緩衝液を提供するために、大腸菌溶解物を用いる。この連続流の系は、原核細胞および真核細胞発現ベクターの双方と適合性である。例として、膜貫通タンパク質EmrE多剤輸送体の大規模無細胞産生は、Chang G. el. al., Science 310:1950-3 (2005)によって記述されている。
【0176】
他の市販の無細胞発現系には、試験管反応フォーマットにおいて活性な組み換え型タンパク質のミリグラム量までを産生するために効率的な転写翻訳をカップリングさせた反応のために大腸菌に基づくインビトロ系を利用するEXPRESSWAY(商標)無細胞発現系(Invitrogen);同様に大腸菌に基づくインビトロ系を用いるRapid Translation System(RTS)(Roche Applied Science);およびウサギ網状赤血球に基づくインビトロ系を用いるTNT Coupled Reticulocyte Lysate Systems(Promega)が含まれる。
【0177】
本明細書において記述される方法には、哺乳動物、たとえばブタまたはウサギから精製される哺乳動物PLA2Rが包含される。1つの態様において、ネイティブな(非組み換え型)哺乳動物PLA2Rは、エクスビボで腎臓から精製される。ネイティブなタンパク質を精製する方法は、当業者に周知である。
【0178】
治療/予防組成物および投与
1つの態様において、本発明は、PLA2Rまたはその断片、および薬学的に許容されるビヒクルを含む薬学的組成物を提供する。薬学的組成物は、完全長のPLA2Rおよび様々な大きさの断片、ならびに薬学的に許容されるビヒクルの組み合わせでありうる。断片の例は、PLA2RのCTLDもしくはCRD 4、5、6を含む断片、またはPLA2Rの細胞外ドメインの他の断片でありうる。薬学的組成物は、PLA2Rに対する自己抗体の存在を特徴とするMNの処置のために用いられる。
【0179】
1つの態様において、「薬学的に許容される」という用語は、動物およびより詳しくはヒトにおいて用いるために、連邦政府もしくは州政府の規制当局によって承認されている、または米国薬局方もしくは他の一般的に認識される薬局方に記載されていることを意味する。「担体」という用語は、それと共に治療物質が投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような薬学的担体は、水、および落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油等などの石油、動物、植物または合成起源の油が含まれる油などの滅菌の液体でありうる。水は、薬学的組成物が静脈内投与される場合に好ましい担体である。生理食塩液およびデキストロース水溶液およびグリセロール溶液も同様に、特に注射用溶液のための液体担体として使用することができる。滅菌の薬学的賦形剤には、デンプン、グルコース、乳糖、蔗糖、ゼラチン、麦芽、コメ、コムギ、白亜、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等が含まれる。望ましければ、組成物はまた、微量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤を含有しうる。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、エマルション、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉剤、徐放性製剤等の剤形をとりうる。組成物はまた、トリグリセリドなどの従来の結合剤および担体と共に坐剤として製剤化されうる。経口製剤には、薬学等級のマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等などの標準的な担体が含まれうる。適した薬学的担体の例は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed., Gennaro, ed. (Mack Publishing Co., 1990)において記述される。1つの態様において、抗酸化剤、たとえば、アスコルビン酸;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、たとえばポリアルギニンまたはトリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、またはアルギニンなどのアミノ酸;セルロースもしくはその誘導体、グルコース、マンノース、またはデキストリンが含まれる単糖、二糖、および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;ならびにマンニトールまたはソルビトールなどの糖アルコールが含まれる他の成分を、薬学的製剤に加えることができる。
【0180】
1つの態様において、組成物は、ヒトに静脈内投与するために適合させた薬学的組成物としてルーチンの技法に従って製剤化される。典型的に、静脈内投与のための組成物は、滅菌等張水性緩衝液における溶液である。必要であれば、組成物にはまた、溶解剤、および注射部位の疼痛を和らげるためのリグノカムネなどの局所麻酔剤が含まれうる。一般的に、成分は、たとえば活性物質の量を示すアンプルまたはサシェなどの気密性密封容器における乾燥凍結乾燥粉末もしくは無水濃縮物として単位投与剤形で、個別にまたは共に混合して供給される。組成物が注入によって投与される場合、組成物を、滅菌の薬学的等級の水または生理食塩液を含有する注入ボトルに分配することができる。組成物が注射によって投与される場合、成分を投与前に混合することができるように、注射用滅菌水または生理食塩液のアンプルを提供することができる。
【0181】
本発明の組成物は、中性または塩型として製剤化されうる。薬学的に許容される塩には、例を挙げれば、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等に由来する塩などの陰イオンと共に形成される塩、およびナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインに由来する塩などの陽イオンと共に形成される塩が含まれる。
【0182】
様々な送達系が当技術分野において公知であり、たとえばリポソーム、微粒子、およびマイクロカプセルに封入してPLA2Rタンパク質またはその断片を投与するために用いることができる(たとえば、Wu and Wu, J. Biol. Chem., 262:4429-4432 (1987)を参照されたい)。組成物は、ビヒクルにおいて、特にリポソームにおいて送達されうる(たとえば、Langer, Science, 249:1527-1533 (1990);Treat et al., in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer, Lopez-Berestein and Fidler, eds. (Liss, New York 1989), pp. 353-365;Lopez-Berestein, ibid, pp. 317- 327を参照されたい;一般的に、同書を参照されたい)。導入法には、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、および経口経路が含まれるがこれらに限定されるわけではない。組成物は、従来の任意の経路によって、たとえば注入またはボーラス注射、上皮または粘膜皮膚内層を通しての吸収(たとえば、口腔粘膜、直腸粘膜、および腸管粘膜等)によって投与されることができ、他の生物活性物質と共に投与されうる。投与は全身または局所でありうる。加えて、脳室内および髄腔内注射が含まれる任意の適した経路によって、中枢神経系に本発明の薬学的組成物を導入することが望ましくなりうる:脳室内注射は、たとえばOmcanaリザーバーなどのリザーバーに付着させた脳室内カテーテルによって容易にすることができる。肺内投与もまた、たとえばインヘラーまたはネブライザー、およびエアロゾル化剤との製剤を用いることによって使用されうる。
【0183】
1つの態様において、治療的投与のために用いられる薬学的製剤は無菌的でなければならない。無菌性は、濾過滅菌メンブレン(たとえば、0.2ミクロンメンブレン)を通して濾過することによって容易に成就される。薬学的製剤のpHは典型的に、約6〜8であるべきである。
【0184】
1つの態様において、組成物は、制御された放出系で送達されうる。1つの態様において、ポンプを用いることができる(Langer、前記;Sefton, CRC Crit. Ref. Biomed. Eng., 14:201 (1987);Buchwald et al., Surgery, 88:507 (1980);Saudek et al., N. Engl. J. Med., 321:574 (1989)を参照されたい)。もう1つの態様において、ポリマー材料を用いることができる(Medical Applications of Controlled Release, Langer and Wise, eds. (CRC Press, Boca Raton, FIa. 1974);Controlled Drug Bioavailability, Drug Product Design and Performance, Smolen and Ball, eds. (Wiley, New York 1984);Ranger and Peppas, Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem., 23:61 (1983)を参照されたい;同様にLevy et al., Science, 228:190 (1985);During et al., Ann. Neurol., 25:35 1 (1989);Howard et al., J. Neurosurg., 7 1:105 (1989)も参照されたい)。他の制御された放出系は、Langerによる論評(Science, 249:1527-1533 (1990))において考察されている。徐放性組成物の例に関しては、米国特許第3,773,919号、EP 58,481A、米国特許第3,887,699号、EP 158,277A、カナダ国特許第1176565号、U. Sidman et al., Biopolymers 22:547 (1983)およびR. Langer et al., Chem. Tech. 12:98 (1982)を参照されたい。
【0185】
製剤において用いられる正確な用量はまた、投与経路、MNの重症度、および血清中のPLA2Rに対する自己抗体の力価に依存して、医師の判断および各患者の状況に応じて決定されるべきである。有効量は、インビトロまたは動物モデル試験系に由来する用量反応曲線から外挿されうる。
【0186】
患者に投与される用量は典型的に、患者の体重の0.1 mg/kgから100 mg/kgである。好ましくは患者に投与される用量は、患者の体重の0.1 mg/kg〜20 mg/kgの間、より好ましくは患者の体重の1 mg/kg〜10 mg/kgである。遺伝子治療の場合、ウイルスベクターは、患者1人あたりの適用に関して、ウイルスベクター粒子1×106〜1014個の範囲であるべきである。
【0187】
加えて、インビトロまたはインビボアッセイを任意で、最適な用量範囲を同定するために役立つように使用することができる。使用される正確な用量はまた、投与経路、および処置される状態の重篤性に依存して、たとえば公表された臨床試験を考慮して医師の判断および各患者の状況に応じて決定されるべきである。しかし、適した有効量は、約4時間毎に約10μg〜約5 gの範囲であるが、それらは典型的に4時間毎に約500 mgまたはそれ未満である。1つの態様において、有効量は、4時間毎に約0.01 mg、0.5 mg、約1 mg、約50 mg、約100 mg、約200 mg、約300 mg、約400 mg、約500 mg、約600 mg、約700 mg、約800 mg、約900 mg、約1 g、約1.2 g、約1.4 g、約1.6 g、約1.8 g、約2.0 g、約2.2 g、約2.4 g、約2.6 g、約2.8 g、約3.0 g、約3.2 g、約3.4 g、約3.6 g、約3.8 g、約4.0 g、約4.2 g、約4.4 g、約4.6 g、約4.8 g、または約5.0 gである。同等量を、約2時間毎、約6時間毎、約8時間毎、約12時間毎、約24時間毎、約36時間毎、約48時間毎、約72時間毎、約1週間毎、約2週間毎、約3週間毎、約1ヶ月毎、および約2ヶ月毎が含まれるがこれらに限定されるわけではない様々な期間で投与してもよい。本明細書において記述される有効量は、投与される全量を指す。PLA2Rタンパク質、その断片、または発現ベクターおよび/またはウイルスベクターを含む組成物はふさわしくは一度にまたは一連の処置で患者に投与される。本明細書における目的に関して、PLA2Rタンパク質、その断片、または発現ベクターおよび/またはウイルスベクターを含む組成物の「治療的有効量」は、被験体からの試料においてPLA2Rに対する自己抗体の量を低減させるために有効である量である。量の低減は、処置の開始前に血清に存在する自己抗体の量と比較して自己抗体の少なくとも10%低減である。
【0188】
1つの態様において、PLA2Rまたはその断片を含む組成物は、アザチオプリン、インフリキシマブ、オマリズマブ、ダクリズマブ、アダリムマブ、エクリズマブ、エファリズマブ、ナタリズマブおよびオマリズマブが含まれるがこれらに限定されるわけではない免疫抑制治療と併用して投与される。もう1つの態様において、PLA2Rまたはその断片を含む組成物は、免疫抑制治療およびシクロホスファミド、クロラムブシル、および/またはリツキシマブと併用して投与される。
【0189】
遺伝子治療
1つの態様において、PLA2Rタンパク質またはその断片は、当業者に公知のいくつかの遺伝子治療技術の任意の1つによって個体に投与される。一般的に、遺伝子治療は、哺乳動物被験体内の標的細胞の直接形質転換(インビボ遺伝子治療)またはインビトロでの細胞の形質転換の後に形質転換細胞の哺乳動物被験体への埋め込み(エクスビボ遺伝子治療)のいずれかによって成就されうる。組織特異的調節エレメントの下でPLA2Rタンパク質またはその断片をコードする核酸を有するウイルスベクターが、個体に投与される。組織特異的調節エレメントは、標的細胞、たとえば筋肉においてPLA2Rタンパク質またはその断片を発現させる。
【0190】
遺伝子治療の原理は、Oldham, R. K.(In: Principles of Biotherapy, Raven Press, N.Y., 1987)および類似のテキストによって開示される。遺伝子治療の方法および使用に関する開示は、その全てが参照により本明細書に組み入れられる、Boggs, S. S.(Int. J. Cell Clon. 8:80-96 (1990));Karson, E. M. (Biol. Reprod. 42:39-49 (1990);Ledley, F. D., In: Biotechnology, A Comprehensive Treatise, volume 7B, Gene Technology, VCH Publishers, Inc. NY, pp 399-458 (1989)によって提供される。
【0191】
PLA2Rタンパク質またはその断片をコードする核酸を、遺伝子治療において動物(特にヒトが含まれる哺乳動物)の体細胞に導入することができる。最も好ましくは、ウイルスまたはレトロウイルスベクターが、この目的のための移入ビヒクルとして使用される。遺伝子治療ウイルスは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、またはレンチウイルスの形でありうる。
【0192】
レトロウイルスベクターは、一般的な送達様式であり、本発明の状況において、ウイルスタンパク質がベクターに感染した細胞において作成されないように、全てのウイルス遺伝子が除去または改変されているレトロウイルスである。ウイルスの複製機能は、ウイルスタンパク質の全てを産生するが、感染ウイルスを産生しないレトロウイルス「パッケージング」細胞を用いることによって提供される。
【0193】
レトロウイルスベクターDNAのパッケージング細胞への導入によって、ベクターRNAを有するビリオンが産生され、これは感染後にさらなるウイルスの散布が起こらないように標的細胞に感染することができる。このプロセスを、ウイルスが複製および散布し続ける天然のウイルス感染と区別するために、感染ではなくてむしろ形質導入という用語がしばしば用いられる。
【0194】
1つの態様において、本明細書において記述されるMNを処置する方法は、分裂するおよび非分裂哺乳動物細胞のいずれかにおいてPLA2Rタンパク質またはその断片を送達および発現させるために組み換え型レンチウイルスを提供する。HIV-1に基づくレンチウイルスは、モロニー白血病ウイルス(MoMLV)に基づくレトロウイルス系より広い宿主範囲に有効に形質導入することができる。組み換え型レンチウイルスの調製は、Invitrogen社のViraPower(商標)レンチウイルス発現系と共にpLenti4/V5-DEST(商標)、pLenti6/V5-DEST(商標)、またはpLentiベクターを用いることによって達成されうる。
【0195】
遺伝的障害および様々なタイプの癌に関する遺伝子治療のためのレンチウイルスベクターの使用例およびこれらの参考文献は、参照により本明細書に組み入れられる(Klein, C. and Baum, C. (2004). Hematol. J., 5, 103-111;Zufferey, R et. al. (1997). Nat. Biotechnol., 15, 871-875;Morizono, K. et. al. (2005). Nat.Med., 11, 346-352;Di Domenico, C. et. al. (2005), Hum.Gene Ther., 16, 81-90;Kim, E. Y., et. al., (2004). Biochem. Biophys. Res. Comm., 318, 381-390)。
【0196】
非レトロウイルスベクターもまた、遺伝子治療において用いられている。そのような1つの代用物は、アデノウイルス(Rosenfeld, M. A., et al., Cell 68:143155 (1992);Jaffe, H. A. et al., Nature Genetics 1:372-378 (1992);Lemarchand, P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:6482-6486 (1992))である。アデノウイルスベクターの主要な長所は、それらがDNAの大きいセグメント(36 Kbのゲノム)を有することができること、非常に高い力価(1011 /ml)、非複製細胞に感染できること、およびインサイチューで組織、特に肺の組織の感染に適していることである。これまで、このベクターの最も顕著な使用は、コトンラットにおける気道上皮への気管内点滴注入によるヒト嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)遺伝子の送達である(Rosenfeld, M. A., et al., Cell 63:143-155 (1992))。同様に、ヘルペスウイルスも同様に、ヒト遺伝子治療にとって貴重である可能性がある(Wolfe, J. H. et al., Nature Genetics 1:379-384 (1992))。当然、いかなる適した他のウイルスベクターも、本発明による遺伝子治療のために用いてもよい。
【0197】
米国特許第6,531,456号は、組み換え型AAVビリオンを用いて固形腫瘍細胞への成功した遺伝子移入法を提供する。一般的に、米国特許第6,531,456号に記述される方法は、腫瘍細胞塊への組み換え型AAVビリオンの直接のインビボ注射、たとえば腫瘍内注射を可能にする。本発明はまた、組み換え型AAVビリオンを用いて、形質導入細胞内で発現させた場合に補助的な治療効果を提供することができる第二の遺伝子の同時送達を提供する。米国特許第6,531,456号は、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0198】
遺伝子治療のために用いられるヴィロン(viron)は、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、およびレンチウイルスに由来するヴィロンが含まれるがこれらに限定されるわけではない当技術分野において公知の任意のヴィロンでありうる。組み換え型ウイルスは、遺伝子発現試験および治療応用のための用途の広い系を提供する。
【0199】
関心対象DNAが含まれる先に記述した組み換え型AAVビリオンを、当業者に公知の標準的な方法論を用いて産生することができる。方法は一般的に、(1)AAVベクターを宿主細胞に導入する段階;(2)AAVベクターから欠失されているAAVヘルパー機能を補うために宿主細胞において発現されうるAAVコード領域が含まれるAAVヘルパー構築物を、宿主細胞に導入する段階;(3)宿主細胞において効率的な組み換え型AAV(「rAAV」)ビリオン産生を支持することができるアクセサリ機能を提供する、1つまたは複数のヘルパーウイルスおよび/またはアクセサリ機能ベクターを、宿主細胞に導入する段階;ならびに(4)rAAVビリオンを産生するために宿主細胞を培養する段階を伴う。AAVベクター、AAVヘルパー構築物、およびヘルパーウイルスまたはアクセサリ機能ベクターは、標準的なトランスフェクション技術を用いて同時または連続的に宿主細胞に導入されうる。rAAVベクターを用いて、遺伝子を、多くの異なるヒトおよび非ヒト細胞株または組織が含まれる広範囲の宿主細胞に送達することができる。AAVは、非病原性であり、免疫応答を誘発しないことから、多数の前臨床試験が優れた安全性プロフィールを報告している。rAAVは、広範囲の細胞タイプに形質導入することができ、形質導入は、活性な宿主細胞分裂に依存しない。ウイルス粒子>108個/mlという高い力価が上清において容易に得られ、さらに濃縮すると、ウイルス粒子1011〜1012個/mlが得られる。トランスジーンは宿主ゲノムに組み入れられ、そのため発現は長期で安定である。
【0200】
組み換え型アデノウイルスを生成するための単純な系が、He TC. et. al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:2509-2514, 1998によって紹介されている。関心対象遺伝子は最初に、シャトルベクター、たとえばpAdTrack-CMVにクローニングされる。得られたプラスミドを制限エンドヌクレアーゼPme Iによって消化することによって直線状にして、その後アデノウイルス骨格プラスミド、たとえばStratagene's AdEasy(商標)アデノウイルスベクター系のpAdEasy-1と共に大腸菌BJ5183細胞に同時形質転換する。組み換え型アデノウイルスベクターを、カナマイシン抵抗性に関して選択して、組み換えを制限エンドヌクレアーゼ分析によって確認する。最後に、直線状にした組み換え型プラスミドをアデノウイルスパッケージング細胞株、たとえばHEK 293細胞(E1-形質転換ヒト胎児腎細胞)または911(E1形質転換ヒト胎児網膜細胞)(Human Gene Therapy 7:215-222, 1996)にトランスフェクトする。組み換え型アデノウイルスは、HEK 293細胞内で生成される。
【0201】
AAV-2以外の代わりのAAV血清型を用いること(Davidson et al (2000), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97(7)3428-32;Passini et al (2003), J. Virol. 77(12):7034-40)によって、異なる細胞の向性および増加した形質導入能が証明されている。脳癌に関して、脳内への新規注射技術、具体的に対流増加送達(CED;Bobo et al (1994), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91(6):2076-80;Nguyen et al (2001), Neuroreport 12(9): 1961-4)の開発により、AAVベクターによる脳の大きい領域の形質導入能が有意に増強された。
【0202】
AAVベクターの大規模調製は、パッケージング細胞株の3つのプラスミド:hnRNPLLに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNA hnRNPLL核酸分子に関するDNAコード配列を有するAAVベクター、AAV repおよびcap遺伝子を含有するAAV RCベクター、ならびにアデノウイルスヘルパープラスミドpDF6の、サブコンフルエント293細胞の50×150 mmプレートへの同時トランスフェクションによって行われる。細胞をトランスフェクションの3日後に回収して、3回の凍結融解サイクルまたは超音波処理によってウイルスを放出させる。
【0203】
次にAAVベクターを、ベクターの血清型に応じて異なる2つの方法によって精製する。AAV2ベクターは、ヘパリンに対するその親和性に基づいて一段階重力流カラム精製法によって精製される(Auricchio, A., et. al., 2001, Human Gene therapy 12;71-6;Summerford, C. and R. Samulski, 1998, J. Virol. 72:1438-45;Summerford, C. and R. Samulski, 1999, Nat. Med. 5: 587-88)。AAV2/1およびAAV2/5ベクターは、現在、三連続CsCl勾配によって精製されている。
【0204】
本明細書において記述される方法において用いられる薬学的組成物は、インビボ遺伝子治療によって全身的に送達されうる。インビボ形質転換を成就するために、機械的手段(たとえば、標的細胞への核酸の直接注射または粒子衝突)、組み換え型ウイルス、リポソーム、および受容体媒介エンドサイトーシス(RME)が含まれる多様な方法が開発されている(論評に関しては、Chang et al. 1994 Gastroenterol. 106:1076-84;Morsy et al. 1993 JAMA 270:2338-45;およびLedley 1992 J. Pediatr. Gastroenterol. Nutr. 14:328-37を参照されたい)。
【0205】
ヒトにおいて用いるためのもう1つの遺伝子移入法は、インサイチューでリポソーム中のプラスミドDNAをヒト細胞に直接移入することである(Nabel, E. G., et al., Science 249:1285-1288 (1990))。プラスミドDNAは、レトロウイルスベクターとは異なり、均一になるまで精製することができることから、ヒト遺伝子治療における使用に関して容易に保証されるはずである。リポソーム媒介DNA移入に加えて、プラスミドDNAをタンパク質にコンジュゲートすることによる細胞上の受容体へのDNAの標的化などのいくつかの他の物理的DNA移入法は、ヒト遺伝子治療において有望であることが示されている(Wu, G. Y., et al., J. Biol. Chem. 266:14338-14342 (1991);Curiel, D. T., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:8850-8854 (1991))。
【0206】
遺伝子治療ウイルスに関して、用量は、適用あたり粒子106〜1014個の範囲である。または、バイオリスティック遺伝子銃による送達法を用いてもよい。遺伝子銃は、当初、植物形質転換のために設計された、細胞に遺伝情報を注射するためのデバイスである。弾頭は、プラスミドDNAによってコーティングされた重金属の元素粒子である。この技術はしばしば単純にバイオリスティックと呼ばれる。バイオリスティック技術を用いるもう1つの機器は、PDS-1000/He粒子送達系である。タンパク質、発現ベクター、および/または遺伝子治療ウイルスを微細な金粒子上にコーティングすることができ、これらのコーティング粒子を、血管腫および黒色腫などの生物組織に高圧下で「打ち込む」。遺伝子銃に基づく方法の例は、Loehr B. I. et. al. J. Virol. 2000, 74:6077-86によってウシのDNAに基づくワクチン接種に関して記述されている。
【0207】
本発明は、以下のアルファベット順の段落のいずれかによって定義されるであろう:
[A] ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)に対して反応性である抗体の存在を検出する段階であって、該抗体が被験体からの試料において見いだされる、段階を含む、被験体における膜性腎症(MN)を診断する方法。
[B] MNが特発性である、段落[A]記載の方法。
[C] 被験体がヒトである、段落[A]記載の方法。
[D] 腎生検が行われない、段落[A]〜[C]のいずれか記載の方法。
[E] PLA2Rが哺乳動物PLA2Rである、段落[A]記載の方法。
[F] 試料が血液試料である、段落[A]記載の方法。
[G] 抗体がIgGサブクラス:IgG1〜4の抗体である、段落[A]記載の方法。
[H] 検出する段階が、血清学的イムノアッセイによって行われる、段落[A]〜[G]のいずれか記載の方法。
[I] 以下の段階を含む、MNに関して処置される被験体における予後を評価する方法:
a.PLA2Rに対して反応性である抗体のレベルを第一の時点で決定する段階であって、該抗体が被験体からの試料において見いだされる、段階;
b.PLA2Rに対して反応性である抗体のレベルを第二の時点で決定する段階であって、第二の時点が第一の時点の後である、段階;および
c.第一の時点と比較して第二の時点において抗体レベルが減少することが、処置が有効であることを示す、2つの時点の抗体レベルを比較する段階。
[J] 以下の段階を含む、被験体におけるMNに関する予後を評価する方法であって、第二の時点での抗体レベルが検出限界より下まで減少することが、寛解が起こっていることを示す、方法:
a.PLA2Rに対して反応性である抗体レベルを第一の時点で決定する段階であって、該抗体が被験体からの試料において見いだされる、段階;および
b.PLA2Rに対して反応性である抗体レベルを第二の時点で決定する段階であって、第二の時点が第一の時点の後である、段階。
[K] 以下の段階を含む、被験体におけるMNに関する予後を評価する方法:
a.PLA2Rに対して反応性である抗体レベルを第一の時点で決定する段階であって、該抗体が被験体からの試料において見いだされる、段階;
b.PLA2Rに対して反応性である抗体レベルを第二の時点で決定する段階であって、第二の時点が第一の時点の後である、段階;
c.第一の時点と比較して第二の時点における抗体レベルが増加することが、膜性腎症の再発があることを示す、2つの時点の抗体レベルを比較する段階。
[L] MNが特発性である、段落[I]、[J]、または[K]記載の方法。
[M] 被験体がヒトである、段落[I]、[J]、または[K]記載の方法。
[N] 腎生検が行われない、段落[I]、[J]、または[K]記載の方法。
[O] PLA2Rが哺乳動物PLA2Rである、段落[I]、[J]、または[K]記載の方法。
[P] 試料が血液試料である、段落[I]、[J]、または[K]記載の方法。
[Q] 抗体がIgGサブクラス:IgG1〜4の抗体である、段落[I]、[J]、または[K]のいずれか記載の方法。
[R] 検出する段階が、血清学的イムノアッセイによって行われる、段落[L]〜[Q]のいずれかに記載の方法。
[S] 処置が免疫抑制処置である、段落[I]記載の方法。
[T] PLA2Rに対して反応性である抗体を被験体の試料からエクスビボで除去する段階を含む、被験体におけるMNを処置する方法。
[U] 被験体がヒトである、段落[T]記載の方法。
[V] MNが特発性である、段落[T]記載の方法。
[W] ホスホリパーゼA2受容体が哺乳動物PLA2Rである、段落[T]記載の方法。
[X] 試料が血液試料である、段落[T]記載の方法。
[Y] 抗体がIgGサブクラス:IgG1〜4の抗体である、段落[T]記載の方法。
[Z] 抗体が免疫吸着によって血液から除去される、段落[T]記載の方法。
[AA] 試料が、抗体の除去後に被験体に戻される、段落[T]記載の方法。
[BB] PLA2Rもしくはその断片、またはPLA2Rもしくはその断片を発現するベクターの有効量を投与する段階を含む、被験体におけるMNを処置する方法。
[CC] MNが特発性である、段落[BB]記載の方法。
[DD] 被験体がPLA2Rに対して反応性である抗体に関する試験で陽性である、段落[BB]記載の方法。
[EE] ホスホリパーゼA2受容体が哺乳動物PLA2Rである、段落[BB]記載の方法。
[FF] PLA2Rまたはその断片を含む、特発性MNを処置するための組成物。
[GG] 被験体におけるMNを処置するための、PLA2Rもしくはその断片、またはPLA2Rもしくはその断片を発現するベクターの有効量の使用。
[HH] 被験体におけるMNを処置するための薬剤の製造における、PLA2Rもしくはその断片、またはPLA2Rもしくはその断片を発現するベクターの有効量の使用。
[II] MNが特発性である、段落[GG]または[HH]記載の使用。
[JJ] 被験体がPLA2Rに対して反応性である抗体に関する試験で陽性である、段落[GG]または[HH]記載の使用。
[KK] ホスホリパーゼA2受容体が哺乳動物PLA2Rである、段落[GG]または[HH]記載の使用。
[LL] 以下の段階を含む、イムノアッセイ:
a.被験体からの試料にPLA2RまたはそのPLA2R断片を接触させる段階;
b.試料中に存在する抗体とPLA2RまたはそのPLA2R断片との間に抗体-タンパク質複合体を形成させる段階;
c.任意の非結合抗体を除去するために洗浄する段階;
d.標識されて、かつ試料からの抗体に対して反応性である検出抗体を加える段階;
e.任意の非結合標識検出抗体を除去するために洗浄する段階;および
f.標識を検出可能なシグナルに変換する段階であって、検出可能なシグナルの存在が、被験体におけるMNの可能性を示す、段階。
[MM] MNが特発性である、段落[LL]記載のイムノアッセイ。
[NN] 被験体がヒトである、段落[LL]または[MM]記載のイムノアッセイ。
[OO] 試料が血液試料である、段落[LL]、[MM]、または[NN]記載のイムノアッセイ。
[PP] 腎生検が被験体において行われない、段落[LL]〜[OO]のいずれか記載のイムノアッセイ。
[QQ] PLA2Rが哺乳動物PLA2Rである、段落[LL]〜[PP]のいずれか記載のイムノアッセイ。
[RR] 抗体がIgGサブクラス:IgG1-4の抗体である、段落[LL]〜[QQ]のいずれか記載のイムノアッセイ。
[SS] PLA2RまたはそのPLA2Rタンパク質断片が、固相支持体上に沈積するかまたは固定される、段落[LL]〜[RR]のいずれか記載のイムノアッセイ。
[TT] 既知量のPLA2RまたはPLA2Rタンパク質断片が、固相支持体上に沈積するまたはカップリングされる、段落[LL]〜[SS]のいずれか記載のイムノアッセイ。
[UU] 支持体が、ディップスティック、試験片、ラテックスビーズ、ミクロスフェア、またはマルチウェルプレートのフォーマットである、段落[SS]または[TT]記載のイムノアッセイ。
[VV] 検出抗体が、酵素に共有結合的に連結させることによって、蛍光化合物もしくは金属による標識によって、または化学発光化合物による標識によって標識される、段落[LL]〜[UU]のいずれか記載のイムノアッセイ。
[WW] 検出抗体が被験体に対して特異的に反応性である、段落[LL]〜[VV]のいずれか記載のイムノアッセイ。
[XX] 前記検出可能なシグナルが、増加量の既知量のPLA2Rまたは断片のイムノアッセイに由来する滴定曲線からの検出可能なシグナルの組と比較される、段落[LL]〜[WW]のいずれか記載のイムノアッセイ。
[YY] ある期間にわたって得られる被験体からの複数の試料について行われる、段落[LL]〜[XX]のいずれか記載のイムノアッセイ。
[ZZ] 少なくとも2年にわたり、2ヶ月毎または3ヶ月毎に複数の試料が得られる、段落[YY]記載のイムノアッセイ。
[AAA] 各イムノアッセイの検出可能なシグナルを、連続する前回の時点から得られた試料の検出可能なシグナルと比較して、検出可能なシグナルの10%の低減が、被験体におけるMNの処置が有効であることを示す、段落[ZZ]記載のイムノアッセイ。
[BBB] 以下の段階を含む、イムノアッセイ:
a.被験体からの試料に、PLA2RまたはそのPLA2R断片を接触させる段階;
b.試料中に存在する抗体とPLA2RまたはそのPLA2R断片との間で抗体-タンパク質複合体を形成させる段階;
c.抗体-タンパク質複合体の形成に起因する光散乱強を測定する段階であって、光散乱強度が対照の光散乱強度より少なくとも10%上であることが、被験体におけるMNの可能性またはMNの再発を示す、段階。
[CCC] PLA2RまたはそのPLA2Rタンパク質断片が固相支持体上に固定される、段落[BBB]記載のイムノアッセイ。
[DDD] 固相支持体がラテックスビーズまたはミクロスフェアである、段落[CCC]記載のイムノアッセイ。
[EEE] 対照の光散乱強度が、試料の非存在下でのPLA2RまたはPLA2Rタンパク質断片の光散乱強度である、段落[BBB]〜[DDD]のいずれか記載のイムノアッセイ。
[FFF] 光散乱強度が比濁計において測定される、段落[BBB]〜[EEE]のいずれか記載のイムノアッセイ。
[GGG] ある期間にわたって得られた被験体からの複数の試料について行われる、段落[BBB]〜[FFF]のいずれか記載のイムノアッセイ。
[HHH] 少なくとも2年にわたり2ヶ月毎または3ヶ月毎に複数の試料が得られる、段落[GGG]記載のイムノアッセイ。
[III] 各イムノアッセイの光散乱強度を、連続する前回の時点から得られた試料の光散乱強度と比較して、光散乱強度の10%の低減が、被験体におけるMNの処置が有効であることを示す、段落[HHH]記載のイムノアッセイ。
[JJJ] a.少なくとも1つのPLA2Rタンパク質またはその断片と;
b.PLA2Rタンパク質またはその断片が支持体上に沈積する、少なくとも1つの固相支持体と
を含む、被験体からの試料中のPLA2Rに対して反応性である抗体の存在またはレベルを同定するためのデバイス。
[KKK] 固相支持体上に沈積する少なくともPLA2Rタンパク質またはその断片が、支持体上で固定される、段落[JJJ]記載のデバイス。
[LLL] 固相支持体が、ディップスティック、試験片、ラテックスビーズ、ミクロスフェア、またはマルチウェルプレートのフォーマットである、段落[JJJ]記載のデバイス。
[MMM] 被験体がヒトである、段落[JJJ]記載のデバイス。
[NNN] 腎生検が被験体において行われない、段落[JJJ]記載のデバイス。
[OOO] 被験体からの試料が血液試料である、段落[JJJ]記載のデバイス。
[PPP] PLA2Rタンパク質がヒトまたはブタPLA2Rタンパク質である、段落[JJJ]記載のデバイス。
[QQQ] 検出可能なシグナルを産生する第二の標識PLA2Rタンパク質またはその断片をさらに含む、段落[JJJ]記載のデバイス。
[RRR] 被験体の試料中のPLA2Rに対して反応性である抗体に対して特異的であり、検出可能なシグナルを産生する検出抗体をさらに含む、段落[JJJ]記載のデバイス。
[SSS] 抗体-タンパク質複合体が形成されるイムノアッセイを行う、段落[JJJ]記載のデバイス。
[TTT] イムノアッセイが血清学的イムノアッセイである、段落[SSS]記載のデバイス。
[UUU] イムノアッセイが比濁分析イムノアッセイである、段落[SSS]記載のデバイス。
[VVV] PLA2Rに対して反応性である抗体の検出可能の量の存在が、被験体における膜性腎症の可能性を示す、被験体における膜性腎症の診断を容易にするための段落[JJJ]〜[SSS]記載のいずれかのデバイスの使用。
[WWW] 検出抗体が、被験体の試料中のPLA2Rに対して反応性である抗体に対して特異的であり、かつ検出可能なシグナルを産生する、段落[JJJ]のデバイスと、検出抗体とを含むキット。
[XXX] 段落[JJJ]記載のデバイスと、検出可能なシグナルを産生する第二の標識PLA2Rタンパク質またはその断片とを含むキット。
[YYY] 段落[JJJ]記載のデバイスと、比濁計キュベットとを含むキット。
[ZZZ] a.被験体から得られた試料からのPLA2Rに対して反応性である抗体の存在またはレベルを示すイムノアッセイからの検出可能なシグナルを含む自己抗体情報を測定する測定モジュールと;
b.測定モジュールからのデータ出力を保存するように設定された保存モジュールと;
c.保存モジュールに保存されたデータを参照および/または対照データと比較して、取得した内容を提供するように適合させた比較モジュールと;
d.取得した内容におけるPLA2Rに対して反応性の抗体の検出可能な量の存在が、被験体がMNを有するかまたはMNの再発を有することを示す、取得した内容をユーザーに表示するための出力モジュールと
を含むシステム。
[AAAA] 対照データが健康な非MN個体集団からのデータを含む、段落[ZZZ]記載のシステム。
[BBBB] a.被験体から得られた試料からのPLA2Rに対する自己抗体情報を受信して出力するように設定された決定モジュールであって、該自己抗体情報が、PLA2Rに対して反応性である自己抗体レベルを示す、決定モジュールと;
b.決定モジュールからの出力情報を保存するように設定された保存モジュールと;
c.保存モジュール上に保存されたデータを参照および/または対照データと比較して、比較内容を提供するように適合させた比較モジュールと;
d.PLA2Rに対して反応性の自己抗体の検出可能な量が存在しなければ、被験体が寛解しているか、または前回の測定値に対して少なくとも10%低減していれば、MNに関する処置が被験体において有効である、ユーザーに比較内容を表示するための出力モジュールと
を含む、被験体におけるMNの予後の評価を容易にするためのシステム。
[CCCC] 対照データが、同じ被験体からの前回のデータを含み、該前回のデータが検出可能な量の自己抗体を示した、段落[BBBB]記載のコンピュータシステム。
[DDDD] a.PLA2Rに対して反応性である抗体に関するイムノアッセイからのシグナルレベルを表す、被験体から得られた試料からのデータを含有する保存データモジュールと;
b.保存データモジュール上に保存されたデータを参照データおよび/または対照データと比較して、比較内容を提供する比較モジュールと;
c.参照データおよび/または対照データと比較して少なくとも10%の、PLA2Rに対して反応性の抗体の検出可能な量の存在が、被験体がMNを有するかまたはMNの再発を有することを示している、比較内容をユーザーに表示するための出力モジュールと
を含む、コンピュータ読み取り可能な保存媒体。
[EEEE] 対照データが健康な非MN個体集団からのデータを含む、段落[DDDD]記載のシステム。
【0208】
本発明は、制限的であると解釈されてはならない以下の実施例によってさらに説明される。本明細書を通して引用された全ての参考文献の内容は、図面および表と共に、参照により本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0209】
実施例
材料および方法
ヒト血清
ボストン大学倫理委員会の承認を得て、本発明者らは、膜性腎症、他の糸球体または自己免疫障害を有する患者、および健康なボランティアからの暗号処理された血清試料を収集して保存した。特発性MNを有すると分類された被験体は、抗核抗体(ANA)陽性、抗二本鎖DNA抗体陽性、またはB型肝炎血清学陽性などの従来の二次特色の存在せずに生検により証明されたMNを有している。これらの群へのさらなる分類は、補足情報において考察される。
【0210】
ヒト腎組織
本発明者らは、New England Organ Bankから移植に不適で、研究用に寄贈されたヒト腎臓を得た。細切した腎皮質から、金属篩い(ref)を通して濾過することによって、糸球体を収集して、洗浄剤含有RIPA緩衝液(Boston BioProducts, Boston, MA)に浮遊させて抽出した。Immobilized Protein G Plus(Thermo Fisher)と共にインキュベートすることによって、混入IgGをこの調製物から除去した。本発明者らは、還元剤の非存在下でペプチドN-連結グリコシダーゼF(PNGase F; New England Biolabs)を用いて、指示される場合、糸球体タンパク質からN-連結糖残基を除去した。糸球体糖タンパク質を部分的に精製するために、本発明者らは、コムギ胚芽アグルチニン(WGA)アガロースビーズカラム(Vector Laboratories)上にヒト糸球体抽出物を通過させて、結合した糖タンパク質を500 mM N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)によって溶出した。ネイティブなおよび200 kDa PNGアーゼF脱グリコシル化抗原の双方がカラムに結合することが見いだされた。
【0211】
ウェスタンブロットプロトコール
ヒト糸球体抽出物または細胞発現ヒトPLA2Rを非還元条件下で電気泳動して、標準的なプロトコールに従ってニトロセルロースメンブレンに転写した。本発明者らは、一次抗体として、典型的に1:100〜1:250のヒト血清および1:40,000の西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲートロバ抗ヒトIgG二次抗体(Jackson ImmunoResearch)によってイムノブロットした。これらの実験に用いたPLA2R抗体は、完全長の精製ウサギPLA2R受容体に対して作成されたポリクローナルモルモット抗体である。これは、還元および非還元ゲル電気泳動条件下の双方でヒトタンパク質を認識する(Granata, F., et al. 1995, J. Immunol. 174: 464-74;G. Lambeau、私信)。本発明者らは、The Binding Siteから4つのIgGサブクラスに対するヒツジ抗体を購入して、それらを製造元によって推奨される希釈で使用した。
【0212】
質量分析およびデータの解釈
本発明者らは、関心対象のゲル領域を切り出して、Powell, 2003 Mol Cell Biol 23:5376-5387において既に記述されているように、ゲル内でのトリプシン消化を行った。本発明者らは、液体クロマトグラフィー(LC)をタンデム質量分析(MS/MS)にカップリングさせる既に記述された方法の改変版によって、得られたペプチドを分析した(Powell, 2004, Mol Cell Biol 24:7249-7259)。本発明者らは、獲得したMSデータを用いて、SEQUESTアルゴリズムを用いてNCBI RefSeqヒトデータベースを検索して、データをSequestSorcerer(商標)(Sage-N Research, San Jose, CA)によって分析した。各々の同定されたタンパク質の濃縮または相対量を、その予想分子量によってタンパク質にマッチするスペクトル数を標準化することによって決定した。この値は、タンパク量因子(Protein Abundance Factor)(PAF)(Powell, 2004, Mol Cell Biol 24:7249-7259)と命名されている。
【0213】
免疫組織学
本発明者らは、Optimal Cutting Temperature溶液(TissueTek)中でヒト腎臓の新鮮な切片を凍結して、クリオトームによって4ミクロンの切片を切断した。本発明者らは、Dr. Helmut Rennke(Boston, MA)から5つのMN腎生検の連続凍結切片を得た。本発明者らは、切片をメタノール:アセトンによって固定および透明化して、10%ウシ血清アルブミンのTBS溶液によってブロックした。PLA2Rを検出するために、本発明者らは、1:400希釈のモルモット抗ウサギPLA2Rおよび1:500希釈のCy3-コンジュゲートロバ抗モルモットIgG(Jackson ImmunoResearch)を用いた。染色の特異性を証明するために、本発明者らは、第4から第6レクチン結合ドメインを含有するウサギPLA2Rの断片によってポリクローナル抗体を予めきれいにした。これによって、PLA2Rに対する免疫蛍光シグナルは特異的に枯渇した。
【0214】
膜性腎症の診断は、全ての症例において腎生検によって確立された。特発性MNとして分類される患者は、抗核抗体または抗二本鎖DNA陽性、B型肝炎抗原血症、または腎生検において上皮下以外の位置での電子密度の濃い沈積物が含まれる二次特色の証拠を示さなかった。本発明者らは、二次性MNの起こりうる原因として不顕性の悪性疾患を除外する試みを行わなかった。他の糸球体障害は、生検によって(FSGS 2例;DN 1例;ヘノッホ・シェーンライン紫斑病1例)、または臨床特色によって診断された。これらには、徐々に進行するタンパク尿症、分割尿収集によって証明される起立性タンパク尿を有する積年のMNが含まれた。追加の自己免疫またはリウマチ状態を有する患者には、有意なタンパク尿を有しない全身性紅斑性狼瘡、皮膚筋炎、強皮症/混合性結合組織オーバーラップ疾患、および水疱性天疱瘡が含まれた。
【0215】
IgGに対する大きさの類似性を考慮して、本発明者らは、最初、膜性血漿におけるリウマチ因子様活性でありうるものの標的としてIgGを除外した。糸球体抽出物をプロテインG連結アガロースビーズによって処置して、糸球体抽出物に必ず存在する混入IgGを除去した。逆に、IgGに対して反応性であるいかなる血清因子も予め吸着させるために、MN血清を、Affi-Gel 10ビーズに共有的に連結させた熱凝集IgGと共にインキュベートした。このようにして処置した血清試料は、開始血清と同様に200 kDa抗原に対して同一の反応性を証明した(データは示していない)。加えて、本発明者らは、低いパーセンテージ(6%)のアガロースゲル上で長時間泳動させるとIgGとMN-Agの間の移動度にわずかな差を示すことができ、PNGアーゼFによって処置した場合にIgGの大きさの主要なシフトを認めなかった。標的抗原が免疫グロブリンではないという本発明者らの確信にもかかわらず、ヒトIgGに対する大きさの類似性および抗原を検出するために非還元条件下でゲルを泳動する必要性によって、様々なアプローチにもかかわらず、MN-Agの免疫沈降はほぼ不可能となった。ゆえに、本発明者らは、生化学的精製技術を用いて膜性腎症(MN-Ag)におけるこの推定の標的抗原を同定する作業にアプローチした。
【0216】
結果
MN血清は200 kDa糸球体タンパク質と反応する
ヒト膜性腎症における標的抗原の同定に対する本発明者らのアプローチは、MN患者の血清中の自己抗体が、ヒト糸球体タンパク質の標準的なウェスタンブロッティングによって候補バンドを同定するであろうという推定に基づいた。本発明者らが非還元条件下でタンパク質を幸運にも電気泳動するまで、一貫して同定されるバンドは検出されなかったが、より標準的な還元条件を用いた場合にこれまで陰性であった血清のいくつかによって、非還元条件では顕著なおよそ200 kDaのバンドが検出された。特発性MN患者からの他のバンク貯蔵血清および新しく収集された血清を試験すると、そのような患者の50%より多くにおいて類似の反応性を示した。図1Aにおいて、MN血清5個は全て、およそ200 kDaのバンドを認識するが、ネフローゼ対照患者からの血清は認識しない。図1Aの下のパネルでは、これらの5つの反応性のMN血清を用いてネイティブなおよび脱グリコシル化(PNGアーゼF+)糸球体タンパク質の交互のレーンをウェスタンブロットする。MN血清は5個全てが、200 kDaのネイティブな抗原およびおよそ150 kDaの脱グリコシル化タンパク質と同一に反応する。特に、健常なボランティア(n=23)、糖尿病性腎症FSGSなどの他のネフローゼ状態の患者(n=13)、または他の自己免疫リウマチ障害の患者(n=6)からの血清は全て、同一条件下でアッセイした場合にこの抗原に対して非反応性であった。MN患者のさらなる分析により、二次性MNの8例(狼瘡関連6例、およびB型肝炎関連2例)はいずれも、200 kDa抗原に関して反応性ではないことが判明した。ペプチドN-グリコシダーゼ(PNGアーゼ)FによるN-連結炭水化物鎖を除去すると、この抗原の移動度はおよそ150 kDaへと有意にシフトして、これが重度にグリコシル化されていることを示している。ネイティブな200 kDaバンドに対して当初反応性である血清は全て、小さいほうの脱グリコシル化型のバンドもまた同定した(図1A)。
【0217】
特発性膜性腎症に対して反応陽性の抗PLA2R自己抗体の特異性を確認するために、本発明者らは、ウェスタンブロッティングによりPLA2Rに対する抗体に関して試験する被験体からの試料数を増加させた。本発明者らはまた、対照をn=32に増加させて、糖尿病性腎症FSGSなどの他のネフローゼ状態の患者数を増加させた(n=25)。ボストン(MA、USA)での特発性MNを有する被験体数の増加に加えて、ロチェスターのMayoクリニック(MN, USA)、スウェーデンのルンド大学、およびオランダの大学から試料を受領して試験した。本発明者らはまた、疾患対照および健常被験体として、二次性MN、他の自己免疫および腎疾患を有する患者からの対照試料数を増加させた。特発性MN患者のおよそ72〜82%が抗PLA2R抗体に関して試験陽性であったが、健常または疾患対照、または二次性型のMN患者はいずれも陽性ではなかった(図1C)。
【0218】
有意なグリコシル化の証拠を考慮して、本発明者らは、様々なレクチンカラムに対する抗原の結合能を試験して、それがその本来型およびN-グリコシル化型の双方のコムギ胚芽アグルチニン(WGA)に結合することを見いだした。双方の型に結合することは、抗原性を維持するために必要である非還元条件下ではPNGアーゼFに対して近づくことができない残留N-連結炭水化物を反映する可能性がある。ネイティブなおよび脱グリコシル化ヒト糸球体タンパク質をWGAから溶出させて、電気泳動した:WB上で200および150 kDa抗原バンドに対応する2つのゲル領域を切除して、ゲル内でのトリプシン消化に供して、質量分析によって分析した。推定の標的抗原に対応するペプチド配列が双方の試料において同定されるであろうという仮定に基づいて、本発明者らは、推定のMN抗原に関する候補体の一覧を作成した(表1を参照されたい)。利用可能な抗体および/または組み換え型タンパク質を用いて、本発明者らがこれらの候補抗原を査定したところ、M型ホスホリパーゼA2受容体に対する抗体がヒト糸球体における類似の大きさのタンパク質を同定した場合に、幸運にも可能性があるマッチに遭遇した(図2A)。
【0219】
MNにおける標的抗原におけるホスホリパーゼA2受容体
MN血清および抗PLA2Rはいずれも、糸球体抽出物のWB(ウェスタンブロット)において同一のバンドを認識する(図2A)。組み換え型タンパク質は、ネイティブな糸球体タンパク質よりわずかに低い位置に移動するが、PNGアーゼFによる脱グリコシル化によって、いずれも同じ位置へと移動する。MN血清によってブロットした細胞発現組み換え型ヒトPLA2R(rPLA2R)は、WB上で別個のバンドを生じ、これはヒト糸球体からの対応するシグナルよりわずかに小さかった。しかし、双方の試料を脱グリコシル化すると、それらは同じ位置に移動した(図2A)。このことは、ネイティブなタンパク質と組み換え型の間の全体的なグリコシル化の差が小さいことを示唆している。重要なことに、これらの同じ試料をPLA2Rに対するモノ特異的ポリクローナル抗体によってウェスタンブロットすると、同一のパターンが明らかとなった。本発明者らは、ヒト糸球体からの200 kDa糖タンパク質と反応性である全てのMN試料が同様にrPLA2Rを認識することを確認したことから、本発明者らが調べているヒト糸球体からの200 kDaバンドは実際にPLA2Rであることを確認した。
【0220】
WBによって200 kDa MN-Agと反応性であるヒト血清は、ヒト糸球体抽出物からPLA2Rを免疫沈降(IP)させることができる(図2B)。3つの反応性のMN血清は全て、ヒトおよびブタ糸球体タンパク質抽出物の双方からのPLA2Rを免疫沈降させることができるが、対照は、免疫沈降させない。開始IgGの認識可能な量が全ての場合に存在した;レーン2では、この患者が特にネフローゼ性であったことから、量はより低い。3つの非反応性血清の2つおよびネフローゼ対照血清の3つ全てが同一の条件下でPLA2Rを免疫沈降させなかった。興味深いことに、WBによって非反応性であると当初見いだされた血清の1つによって、免疫沈降によってかすかなバンドが検出された(再現実験では目に見えなかった)。血清を1:25倍希釈で再度アッセイすると、WBによってrPLA2Rを同定することが見いだされた(データは示していない)。これは、当初抗PLA2R自己抗体を有しないと考えられた他のMN患者が、そうではなくて、本発明者らの当初のWBアッセイでは容易に検出可能でない低レベル力価を有する可能性があることを示唆している(スクリーニングは典型的に血清の1:100倍希釈で行われる)。
【0221】
加えて、図2Cは、反応性のMN血清によって同定された糸球体糖タンパク質がヒトホスホリパーゼA2受容体であることを示している。ヒト全血清を用いて糸球体タンパク質を免疫沈降(IP)させて、免疫沈降物を電気泳動して、M型ホスホリパーゼA2受容体に対して特異的な抗体によってウェスタンブロットした。最初の5つのレーンは、WBによって陽性であることが知られている血清との免疫沈降物を示す(図1と同様に)。6番目のレーンは、陰性であることが知られているMN患者からの血清との免疫沈降物を表す。レーン7および8は、健常なボランティアからの血清との免疫沈降物を示し、最後のレーンでは、アガロースビーズに対する糸球体タンパク質の非特異的結合を除外するために、免疫沈降物からヒト血清を省略した。
【0222】
組み換え型PLA2Rは、ネイティブな糸球体タンパク質と同様に還元感受性のエピトープを共有する(図3A)。等量のヒト糸球体抽出物(HGE)を還元および非還元条件下で電気泳動したWBにおいて、組み換え型PLA2Rを同様に処置した。WBを反応性MN血清またはポリクローナル抗PLA2R抗体によって行って、適当な二次抗体によって検出した。ネイティブなまたは組み換え型PLA2Rに対する反応性は、非還元状態において、MN血清およびポリクローナル抗PLA2Rの双方に関して認められた。しかし、抗PLA2Rは還元型の抗原を認識するが、MN血清は還元されたネイティブなまたは組み換え型タンパク質を検出することができない。モノ特異的抗PLA2R抗血清およびMN血清はいずれも、非還元条件下でのWBによって組み換え型およびネイティブな糸球体PLA2Rを強く検出する。還元条件下で行った場合、ポリクローナル抗体はなおも双方の型を検出するが(あまり強くはないが)、MN血清はいずれの型にも反応することができない。
【0223】
PLA2R、ヒト糸球体タンパク質、組み換え型PLA2R、および大腸菌からの抗原に対して反応性である自己抗体のIgGクラスを、1つの反応性のMN血清によってブロットした後、IgGサブクラスに対して特異的な抗体によってブロットした。ネイティブなまたはPLA2Rに対して反応する主なサブクラスはIgG4であるが、対照として含められる70 kDa大腸菌タンパク質に関してはIgG2である。この特定の血清中のIgGサブクラスの相対量を、サブクラス特異的抗体による希釈した総血清のWBによって査定した。IgG2型はその変性型で十分に検出されないが、70 kDa大腸菌タンパク質に対するその結合によって検出すると、明らかに存在する。特発性MN患者の糸球体における免疫蛍光顕微鏡によって検出されたIgG抗体がIgG4サブクラスの抗体であることは、十分に確立されている。本明細書において、本発明者らは、PLA2Rに対して反応する特発性MN患者の血清中のIgG抗体が同様にIgG4サブクラスの抗体であることを見いだした。本発明者らはさらに、特発性MNと診断された患者6人からの追加の血清においてもこの知見を確認した。ヒト糸球体抽出物(HE)を特発性MN患者6人(MN1からMN6)からの血清試料によって最初にブロットした後、各ヒトIgGサブクラス(1から4)に対して特異的なヒツジ抗体によってブロットして、ペルオキシダーゼコンジュゲート抗ヒツジIgG抗体によって検出した。ネイティブな抗原に反応する優勢なIgGサブクラスは、IgG4であり、IgG1、IgG2、およびIgG3に関しては様々な量の反応性が認められた。HGEの代わりに組み換え型PLA2Rを用いても同一の結果が得られた(データは示していない)。膜性腎症における免疫グロブリン応答は典型的に、Th2応答であり、IgG4サブクラスが優勢である(Kuroki, 2005, Kidney Int 68:302-310)。ヒト糸球体タンパク質またはrPLA2Rのいずれかを適切に反応性のMN患者血清とイムノブロットさせると、WBによって検出される優勢なサブクラスはIgG4であるが(図3B)、無関係な細菌抗原に関してはIgG2である。
【0224】
ホスホリパーゼA2受容体の糸球体での位置
ヒトMNに関して提唱される病理機序は、自己抗体がインサイチューで有足突起に存在する抗原に結合することである。PLA2Rは可溶性型で記述されていることから、本発明者らは最初に、循環中の抗体-PLA2R複合体がGBMに捕らえられている可能性を度外視した。MN血清または対照血清はいずれも、レクチン結合による濃縮後であっても、いかなる検出可能なPLA2Rを有しなかった(データは示していない)。本発明者らはまた、いずれの群の血清試料においても、IgGのポリエチレングリコール6000による沈降またはプロテインG免疫沈降のいずれによっても、循環中のPLA2R-IgG免疫複合体を検出することができなかった。逆に、本発明者らは、モノ特異的抗PLA2R抗体による免疫蛍光によって有足突起上のPLA2Rの存在を検出することができた。正常なヒト腎皮質の凍結切片を、糸球体基底膜(GBM)を標識するために抗アグリンの後にFITCコンジュゲート抗ウサギ二次抗体によって、および抗PLA2Rの後にCY3コンジュゲート抗モルモット二次抗体によって同時染色した(データは示していない)。本発明者らは、PLA2Rシグナルが、GBMの外側に明らかに存在して、有足突起の細胞体および突起の双方に局在することを見いだした。この染色は、CRDドメイン4〜6を含有するPLA2Rの組み換え型断片によって抗体を予めきれいにすると、顕著に低減される(データは示していない)。染色パターンは顆粒状であり、細胞体から基底部の有足突起まで伸長する。凍結切片を、PLA2Rおよび糸球体基底膜(GBM)の成分であるアグリンに対する抗体による二重免疫蛍光によって染色すると、有足突起シグナルは、GBMの直ちに隣接する外側で明らかに認められる。糸球体および有足突起PLA2R染色の大部分は、CTLD 4、5および6を含有する組み換え型PLA2R断片と共に抗体をプレインキュベートすることによって遮断されうる。
【0225】
次に、本発明者らは、糸球体における抗PLA2R IgG4の局在を調べた。PLA2Rは膜性腎症生検標本において顆粒状パターンで存在して、IgG4と同時局在する。MNと診断された患者からの生検標本の凍結切片から、PLA2RとIgG4とが末梢の毛細管壁およびGBMにおいて良好に同時局在することが明らかとなる(データは示していない)。同じ患者の連続切片を同じように染色するが、抗ヒツジ二次抗体がモルモットまたはロバIgGを検出している可能性を除外するために、またはCy3チャンネルを通しての出血がこれまでに認められたシグナルを引き起こしている可能性を除外するために、抗IgG4抗体を省略した。有足突起とは対照的に、正常なヒト腎組織におけるメサンギウム細胞はPLA2Rに関する染色を示さなかった(データは示していない)。
【0226】
ラットヘイマン腎炎モデルでの研究から、受容体-抗体複合体の「キャッピングおよび脱落」がGBMの上皮下に沈積することが示唆され、本発明者らはヒトMNにおけるPLA2Rの場合にも同じことが当てはまると予想した。PLA2Rは、MN患者から得られた腎生検標本から凍結切片の免疫蛍光により、GBMの細かい顆粒状のパターンの内層に存在する。これは、組み換え型PLA2Rのブロッキング断片によって遮断されうる。染色強度は、本発明者らが調べた4つの患者試料の間で異なったが、全てがPLA2Rに関して同じ顆粒状のパターンを明らかにした(データは示していない)。特に、有足突起細胞体のPLA2R染色は、正常な糸球体切片では強かったが、MN生検試料では大きく減弱された。その上、GBM染色パターンは、二重免疫蛍光上でIgG4のパターンと厳密にマッチした。
【0227】
免疫蛍光顕微鏡は、抗PLA2RとIgG4とが特発性MN患者の糸球体において同時局在するが、狼瘡関連MNでは同時局在しないことを示した。膜性腎症患者からの糸球体におけるIgGがPLA2Rに対して反応性であることを確認するために、本発明者らは生検標本からIgGを溶出させて、ネイティブなおよび組み換え型PLA2Rによるウェスタンブロッティングにおいてこれを用いた。IgGは、特発性膜性腎症患者からの4つの生検試料、狼瘡性膜性腎症患者からの1つの試料、およびIgA腎症患者からの2つの試料から溶出に成功した。特発性膜性腎症患者の試料から溶出したIgGは適切な大きさで特異的に検出された。
【0228】
ヒト糸球体抽出物および細胞溶解物におけるPLA2Rバンドは組み換え型PLA2Rに関して陽性であったが(図4Aおよび4B)、免疫複合体糸球体疾患患者の他の3つの試料から溶出したIgGは陽性ではなかった。IgGは特発性MN(MN)、狼瘡性MN(LMN)、またはIgA腎症(IgAN)患者の生検中心部から溶出した。この溶出したIgGを用いてヒト糸球体抽出物(HGE)または組み換え型PLA2R(rPLA2R)をイムノブロットした。
【0229】
疾患活性との関連
本発明者らは、可能であれば連続血清試料を得て、処置もしくは自発的寛解、またはそうでなければ再発を達成した数人の個体における反応性の変化を調べた。PLA2Rに対する自己抗体の存在は、一般的に尿中タンパク質および血清アルブミンによって測定した場合に臨床的に有意な疾患活性と平行である(図5および6)。重要なことに、抗PLA2R抗体の低下または消失は、タンパク尿の消失より前に認められうる。これは、免疫沈積物のクリアランスならびに有足突起構築および機能的なスリット膜の回復にとって必要な時間を考慮すれば理解可能である。
【0230】
本発明者らは、処置誘導寛解の前後で追加の患者を調べた。本発明者らは、処置前に抗PLA2Rに関して陽性であった患者が、免疫抑制処置によって寛解が誘導された後に陰性となったことを見いだした(図6AおよびB)。グラフにおける黒四角は、尿中タンパク質排泄を表す。シクロホスファミドおよびプレドニゾンによる処置を開始した後、尿中タンパク質排泄は低下して、PLA2Rに対する反応性は、ウェスタンブロットにおいて示されるように消失した。類似の結果は、リツキシマブおよび合成ACTHによって処置した患者においても見いだされている。
【0231】
これらの所見は、MNの診断のためのみならず、処置の間または自発的寛解を待つ間に疾患活性をモニターするために、PLA2Rに対するイムノアッセイを用いる有用性を支持する。
【0232】
結論すると、本発明者らは、自己免疫性糸球体疾患である特発性膜性腎症における主要な標的抗原としてM型ホスホリパーゼA2受容体を同定した。タンパク質は、正常なヒト有足突起上に存在して、MN患者の50%より多くがこのタンパク質に対して反応性の抗体を有する。さらに、タンパク質は、患者の生検標本の免疫沈積物内に存在する。PLA2Rに対する抗体レベルは、疾患活性と相関するように思われ、MNの初回診断のために、および処置または自発的寛解を待つ間に疾患活性を追跡するために有用な方法であることが証明される可能性がある。
【0233】
本明細書において引用された任意の特許または特許出願が含まれる全ての参考文献は、図面および表と共に参照により本明細書に組み入れられる。いかなる参考文献も先行技術を構成すると認めているわけではない。参考文献に関する考察は、その著者が主張する内容を述べており、本出願人は、引用された文書の正確性および適切性を吟味する権利を保有する。多数の先行技術の刊行物が本明細書において参照されるが、このような参照は、これらの文書のいかなるものも当技術分野において、米国において、または任意の他の国において共通の一般的な知識の一部を形成すると認めたわけではないことは、明らかに理解されるであろう。
【0234】
実施例2
本明細書において記述される抗PLA2R自己抗体レベルはまた、図8〜9において例証されるように試験片を用いて決定されうる。試験片において、メンブレンを異なる3つの領域に分ける:メンブレンの一端での試料(S)位置、メンブレンの中央部に位置する試験(T)位置、およびメンブレンの反対側の端部に見いだされる対照(C)位置(図8A)。Sに位置するのは脱水されたPLA2Rの過剰量である。PLA2Rを、可視化目的のために金コロイドビーズまたはラテックスビーズにコンジュゲートすることができる。Tでは、メンブレン上に固定された抗IgGの過剰量が存在する。Cでは、もう1つの固定された抗PLA2R抗体が存在する(図8A)。
【0235】
S位置での脱水PLA2Rの過剰量は、試料(たとえば、血清)をSに適用すると、抗PLA2R抗体とPLA2Rの複合体が形成されるが、C位置で固定された抗PLA2Rに結合するために遊離のPLA2Rがなおも利用可能であるような量である。
【0236】
S位置は、血清試料が適用される位置である。矢印の先は、血清をメンブレンに適用した場合にメンブレン上で血清試料が超えてはならない境界を描写する。血清中の水はPLA2Rを再水和する。PLA2Rに対して反応性の自己抗体が再水和されたPLA2Rと複合体を形成すると、抗体-タンパク質複合体が産生される。抗体-タンパク質複合体および非複合体形成PLA2Rの混合物は、毛細管作用によってS位置からT位置およびC位置に向かって移動する。
【0237】
T位置に達すると、抗体-タンパク質複合体は、固定された抗IgG抗体に結合して、T位置で固定されるであろう。金コロイドまたはラテックスビーズ標識された抗体-タンパク質複合体の局所濃度は、T位置での着色された線として目に見えるようになるであろう(図9、中央)。試料中の自己抗体の量が多くなれば、Tでの目に見えるバンドはより広くなる。領域がT位置において明確であるままである場合、このことは、抗PLA2R自己抗体が存在することを意味する(図9、左)。C位置では、遊離および標識PLA2Rが結合して、固定された抗PLA2R抗体によって捕捉されるであろう。これによって次に、C位置での金コロイドまたはラテックスビーズ標識PLA2Rの濃度が得られ、C位置で着色された線として目に見えるようになるであろう。C位置の結果は、試験材料に機能的PLA2Rが存在して、常に存在すべきである試験対照として作用する(図9、右)。
【0238】
試験片は、ディップスティック試験片の形で設計されうる(図8B)。ディップスティック試験片として、試料レベルが境界限界を超えないように、試験片をS位置の端部で血清試料に浸す。次に、試験片を平らな表面を向くようにメンブレン表面に対して水平に寝かせる。抗体の再水和、毛細管作用、および抗体結合反応が起こるように固定量の時間を与える。固定時間の終了時に、C位置で目に見えるバンドがあるはずであり、抗PLA2R自己抗体レベルに応じて、T位置での目に見えるバンドは存在しても存在しなくてもよい(図9)。
【0239】
実施例3
本明細書において記述される抗PLA2R自己抗体レベルを、図10において例証されるようにELISAアッセイを用いて決定することができる。ELISAアッセイは、被験体から得られた試料中の抗PLA2R自己抗体の量を決定するために標準的な滴定アッセイおよび試料アッセイを行う段階を含む。示されるように、ELISAアッセイマイクロタイタープレートは、IgGタンパク質の増加量の2つの複製参照列からなる。ヒトIgGに関する検量線を作成するために、0〜50 ng/mlまたはpg/mlの範囲のIgGタンパク質の標準的な量を参照列に入れる。過剰量のPLA2Rをプレートの試料ウェルに固定する。血清試料を試料ウェルに入れる。その後、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体をウェルに加える。ウェル中の混合物を室温で90分間インキュベートさせて、液体をデカントする。ウェルを脱イオン水によって5回洗浄する。次に、3,3',5,5'テトラメチルベンジジン(TMB)試薬のアリコートを各ウェルに加える。混合物を10秒間軽く混合して、室温(18〜25℃)で20分間インキュベートする。1 N HClを加えることによって、酵素反応を停止させる。青色が全て完全に黄色に変化するまで軽い撹拌を行う。着色副産物の量を、マイクロタイタープレートウェルリーダーにおいて450 nmでのその吸光度を読み取ることによって決定する。A450はウェルにおけるヒトIgG抗体の量に対応する。試験試料中の抗PLA2R自己抗体の量を、試料ウェルから得られたA450および参照ウェルから得られた検量線から推定することができる。
【0240】
代わりの態様において、図11において示される改変ELISAアッセイを用いることができる。図10の場合のように、参照列および試料ウェルを標識する(図11)。過剰量のPLA2Rをプレートのウェルに固定する。固定量のIgGを2つ組で参照ウェルに入れる。この固定量は、健康な非MN被験体の血清において見いだされる抗PLA2R自己抗体の量の平均値に対応する。試料、血清も同様に2つ組で試料ウェルに入れる。アッセイプレートを本明細書において記述されるように処理する。血清試料中の抗PLA2R自己抗体の量の増加または減少が存在するか否かを決定するために、試料ウェルから得られたA450を対応する参照列に関して得られたA450と比較する。
【0241】
【表1】

ゲルのおよそ200 kDaおよび150 kDa領域に共通するペプチドからのスペクトルに基づく質量分析によって同定されたヒト糸球体タンパク質の一覧。タンパク質を、アミノ酸(aa)で与えられるその予想される大きさに従って整列する。タンパク質は、有足突起タンパク質(ネフリン、α3インテグリン、中性エンドペプチダーゼ)および内皮タンパク質(エンドグリン)の双方を表す。
【0242】
ヒトPLA2Rイソ型イソ型2前駆体、NP_001007268(SEQ. ID. NO. 1)

【0243】
NP_031392.3ヒトホスホリパーゼA2受容体1イソ型1前駆体(SEQ. ID. NO. 2)

【0244】
NM_007366.3ヒトホスホリパーゼA2受容体1イソ型1前駆体のmRNA(SEQ. ID. NO. 4)



【0245】
NM_001007267ヒトホスホリパーゼA2受容体1イソ型2前駆体のmRNA(SEQ. ID. NO. 3)




【0246】
ヒトPLA2Rの細胞外ドメインのアミノ酸配列(SEQ. ID. NO. 5)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、被験体における膜性腎症(MN)を診断する方法:
ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)に対して反応性である抗体の存在を検出する段階であって、該抗体が被験体からの試料において見いだされる、段階。
【請求項2】
MNが特発性である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
被験体がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
腎生検が行われない、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
PLA2Rが哺乳動物PLA2Rである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
試料が血液試料である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
抗体がIgGサブクラス:IgG1〜4の抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
検出する段階が、血清学的イムノアッセイによって行われる、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
以下の段階を含む、MNに関して処置される被験体において予後の評価を行う方法:
a.PLA2Rに対して反応性である抗体のレベルを第一の時点で決定する段階であって、該抗体が被験体からの試料において見いだされる、段階;
b.PLA2Rに対して反応性である抗体のレベルを第二の時点で決定する段階であって、第二の時点が第一の時点の後である、段階;および
c.第一の時点と比較して第二の時点において抗体レベルが減少することが、処置が有効であることを示す、2つの時点の抗体レベルを比較する段階。
【請求項10】
以下の段階を含む、被験体におけるMNに関する予後を評価する方法であって、第二の時点での抗体レベルが検出限界より下まで減少することが、寛解が起こっていることを示す、方法:
a.PLA2Rに対して反応性である抗体レベルを第一の時点で決定する段階であって、該抗体が被験体からの試料において見いだされる、段階;および
b.PLA2Rに対して反応性である抗体レベルを第二の時点で決定する段階であって、第二の時点が第一の時点の後である、段階。
【請求項11】
以下の段階を含む、被験体におけるMNに関する予後を評価する方法:
a.PLA2Rに対して反応性である抗体レベルを第一の時点で決定する段階であって、該抗体が被験体からの試料において見いだされる、段階;
b.PLA2Rに対して反応性である抗体レベルを第二の時点で決定する段階であって、第二の時点が第一の時点の後である、段階;
c.第一の時点と比較して第二の時点における抗体レベルが増加することが、膜性腎症の再発があることを示す、2つの時点の抗体レベルを比較する段階。
【請求項12】
MNが特発性である、請求項9、10、または11記載の方法。
【請求項13】
被験体がヒトである、請求項9、10、または11記載の方法。
【請求項14】
腎生検が行われない、請求項9、10、または11記載の方法。
【請求項15】
PLA2Rが哺乳動物PLA2Rである、請求項9、10、または11記載の方法。
【請求項16】
試料が血液試料である、請求項9、10、または11記載の方法。
【請求項17】
抗体がIgGサブクラス:IgG1〜4の抗体である、請求項9、10、または11記載の方法。
【請求項18】
検出する段階が、血清学的イムノアッセイによって行われる、請求項12〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
処置が免疫抑制処置である、請求項9記載の方法。
【請求項20】
PLA2Rに対して反応性である抗体を被験体の試料からエクスビボで除去する段階を含む、被験体におけるMNを処置する方法。
【請求項21】
被験体がヒトである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
MNが特発性である、請求項20記載の方法。
【請求項23】
ホスホリパーゼA2受容体が哺乳動物PLA2Rである、請求項20記載の方法。
【請求項24】
試料が血液試料である、請求項20記載の方法。
【請求項25】
抗体がIgGサブクラス:IgG1〜4の抗体である、請求項20記載の方法。
【請求項26】
抗体が免疫吸着によって血液から除去される、請求項20記載の方法。
【請求項27】
試料が、抗体の除去後に被験体に戻される、請求項20記載の方法。
【請求項28】
PLA2Rもしくはその断片、またはPLA2Rもしくはその断片を発現するベクターの有効量を投与する段階を含む、被験体におけるMNを処置する方法。
【請求項29】
MNが特発性である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
被験体がPLA2Rに対して反応性である抗体に関する試験で陽性である、請求項28記載の方法。
【請求項31】
ホスホリパーゼA2受容体が哺乳動物PLA2Rである、請求項28記載の方法。
【請求項32】
PLA2Rまたはその断片を含む、特発性MNを処置するための組成物。
【請求項33】
被験体におけるMNを処置するための、PLA2Rもしくはその断片、またはPLA2Rもしくはその断片を発現するベクターの有効量の使用。
【請求項34】
被験体におけるMNを処置するための薬剤の製造における、PLA2Rもしくはその断片、またはPLA2Rもしくはその断片を発現するベクターの有効量の使用。
【請求項35】
MNが特発性である、請求項33または34記載の使用。
【請求項36】
被験体がPLA2Rに対して反応性である抗体に関する試験で陽性である、請求項33または34記載の使用。
【請求項37】
ホスホリパーゼA2受容体が哺乳動物PLA2Rである、請求項33または34記載の使用。
【請求項38】
以下の段階を含む、イムノアッセイ:
a.被験体からの試料にPLA2RまたはそのPLA2R断片を接触させる段階;
b.試料中に存在する抗体とPLA2RまたはそのPLA2R断片との間に抗体-タンパク質複合体を形成させる段階;
c.任意の非結合抗体を除去するために洗浄する段階;
d.標識されて、かつ試料からの抗体に対して反応性である検出抗体を加える段階;
e.任意の非結合標識検出抗体を除去するために洗浄する段階;および
f.標識を検出可能なシグナルに変換する段階であって、検出可能なシグナルの存在が、被験体におけるMNの可能性を示す、段階。
【請求項39】
MNが特発性である、請求項38記載のイムノアッセイ。
【請求項40】
被験体がヒトである、請求項38または39記載のイムノアッセイ。
【請求項41】
試料が血液試料である、請求項38、39、または40記載のイムノアッセイ。
【請求項42】
腎生検が被験体において行われない、請求項38〜41のいずれか一項記載のイムノアッセイ。
【請求項43】
PLA2Rが哺乳動物PLA2Rである、請求項38〜42のいずれか一項記載のイムノアッセイ。
【請求項44】
抗体がIgGサブクラス:IgG1〜4の抗体である、請求項38〜43のいずれか一項記載のイムノアッセイ。
【請求項45】
PLA2RまたはそのPLA2Rタンパク質断片が固相支持体に沈積するかまたは固定される、請求項38〜44のいずれか一項記載のイムノアッセイ。
【請求項46】
既知量のPLA2RまたはPLA2Rタンパク質断片が、固相支持体上に沈積するかまたはカップリングされる、請求項38〜45のいずれか一項記載のイムノアッセイ。
【請求項47】
支持体が、ディップスティック、試験片、ラテックスビーズ、ミクロスフェア、またはマルチウェルプレートのフォーマットである、請求項45または46記載のイムノアッセイ。
【請求項48】
検出抗体が、酵素に共有結合的に連結させることによって、蛍光化合物もしくは金属による標識によって、または化学発光化合物による標識によって標識される、請求項38〜47のいずれか一項記載のイムノアッセイ。
【請求項49】
検出抗体が被験体に対して特異的に反応性である、請求項38〜48のいずれか一項記載のイムノアッセイ。
【請求項50】
前記検出可能なシグナルが、増加量の既知量のPLA2Rまたは断片のイムノアッセイに由来する滴定曲線からの検出可能なシグナルの組と比較される、請求項38〜49のいずれか一項記載のイムノアッセイ。
【請求項51】
ある期間にわたって得られる被験体からの複数の試料について行われる、請求項38〜50のいずれか一項記載のイムノアッセイ。
【請求項52】
少なくとも2年にわたり、2ヶ月毎または3ヶ月毎に複数の試料が得られる、請求項51記載のイムノアッセイ。
【請求項53】
各イムノアッセイの検出可能なシグナルを、連続する前回の時点から得られた試料の検出可能なシグナルと比較して、検出可能なシグナルの10%の低減が、被験体におけるMNの処置が有効であることを示す、請求項52記載のイムノアッセイ。
【請求項54】
以下の段階を含むイムノアッセイ:
a.被験体からの試料にPLA2RまたはそのPLA2R断片を接触させる段階;
b.試料中に存在する抗体とPLA2RまたはそのPLA2R断片との間に抗体-タンパク質複合体を形成させる段階;
c.抗体-タンパク質複合体の形成に起因する光散乱強を測定する段階であって、光散乱強度が対照の光散乱強度より少なくとも10%上であることが、被験体におけるMNの可能性またはMNの再発を示す、段階。
【請求項55】
PLA2RまたはそのPLA2Rタンパク質断片が固相支持体上に固定される、請求項54記載のイムノアッセイ。
【請求項56】
固相支持体がラテックスビーズまたはミクロスフェアである、請求項55記載のイムノアッセイ。
【請求項57】
対照の光散乱強度が、試料の非存在下でのPLA2RまたはPLA2Rタンパク質断片の光散乱強度である、請求項54〜56のいずれか一項記載のイムノアッセイ。
【請求項58】
光散乱強度が比濁計において測定される、請求項54〜57のいずれか一項記載のイムノアッセイ。
【請求項59】
ある期間にわたって得られた被験体からの複数の試料について行われる、請求項54〜58のいずれか一項記載のイムノアッセイ。
【請求項60】
少なくとも2年にわたり2ヶ月毎または3ヶ月毎に複数の試料が得られる、請求項59記載のイムノアッセイ。
【請求項61】
各イムノアッセイの光散乱強度を、連続する前回の時点から得られた試料の光散乱強度と比較して、光散乱強度の10%の低減が、被験体におけるMNの処置が有効であることを示す、請求項60記載のイムノアッセイ。
【請求項62】
a.少なくともPLA2Rタンパク質またはその断片と;
b.少なくとも1つの固相支持体であって、PLA2Rタンパク質またはその断片が該支持体上に沈積する、支持体と
を含む、被験体からの試料中のPLA2Rに対して反応性である抗体の存在またはレベルを同定するためのデバイス。
【請求項63】
固相支持体上に沈積する少なくともPLA2Rタンパク質またはその断片が支持体上に固定される、請求項62記載のデバイス。
【請求項64】
固相支持体が、ディップスティック、試験片、ラテックスビーズ、ミクロスフェア、またはマルチウェルプレートのフォーマットである、請求項62記載のデバイス。
【請求項65】
被験体がヒトである、請求項62記載のデバイス。
【請求項66】
腎生検が被験体において行われない、請求項62記載のデバイス。
【請求項67】
被験体からの試料が血液試料である、請求項62記載のデバイス。
【請求項68】
PLA2Rタンパク質がヒトまたはブタPLA2Rタンパク質である、請求項62記載のデバイス。
【請求項69】
検出可能なシグナルを産生する第二の標識PLA2Rタンパク質またはその断片をさらに含む、請求項62記載のデバイス。
【請求項70】
被験体の試料中のPLA2Rに対して反応性である抗体に対して特異的であり、検出可能なシグナルを産生する検出抗体をさらに含む、請求項62記載のデバイス。
【請求項71】
抗体-タンパク質複合体が形成されるイムノアッセイを行う、請求項62記載のデバイス。
【請求項72】
イムノアッセイが血清学的イムノアッセイである、請求項71記載のデバイス。
【請求項73】
イムノアッセイが比濁分析イムノアッセイである、請求項71記載のデバイス。
【請求項74】
PLA2Rに対して反応性である抗体の検出可能の量の存在が、被験体における膜性腎症の可能性を示す、被験体における膜性腎症の診断を容易にするための請求項62〜71記載のいずれか一項記載のデバイスの使用。
【請求項75】
検出抗体が、被験体の試料中のPLA2Rに対して反応性である抗体に対して特異的であり、かつ検出可能なシグナルを産生する、請求項62記載のデバイスと検出抗体とを含むキット。
【請求項76】
請求項62記載のデバイスと、検出可能なシグナルを産生する第二の標識PLA2Rタンパク質またはその断片とを含むキット。
【請求項77】
請求項62記載のデバイスと、比濁計キュベットとを含むキット。
【請求項78】
a.被験体から得られた試料からのPLA2Rに対して反応性である抗体の存在またはレベルを示すイムノアッセイからの検出可能なシグナルを含む自己抗体情報を測定する測定モジュールと;
b.測定モジュールからのデータ出力を保存するように設定された保存モジュールと;
c.保存モジュールに保存されたデータを参照および/または対照データと比較して、取得した内容を提供するように適合させた比較モジュールと;
d.取得した内容におけるPLA2Rに対して反応性の抗体の検出可能な量の存在が、被験体がMNを有するかまたはMNの再発を有することを示す、取得した内容をユーザーに表示するための出力モジュールと
を含むシステム。
【請求項79】
対照データが健康な非MN個体集団からのデータを含む、請求項78記載のシステム。
【請求項80】
a.被験体から得られた試料からのPLA2Rに対する自己抗体情報を受信して出力するように設定された決定モジュールであって、該自己抗体情報が、PLA2Rに対して反応性である自己抗体レベルを示す、決定モジュールと;
b.決定モジュールからの出力情報を保存するように設定された保存モジュールと;
c.保存モジュール上に保存されたデータを参照および/または対照データと比較して、比較内容を提供するように適合させた比較モジュールと;
d.PLA2Rに対して反応性の自己抗体の検出可能な量が存在しなければ、被験体が寛解しているか、または前回の測定値に対して少なくとも10%低減していれば、MNに関する処置が被験体において有効である、ユーザーに比較内容を表示するための出力モジュールと
を含む、被験体におけるMNの予後の評価を容易にするためのシステム。
【請求項81】
対照データが、同じ被験体からの前回のデータを含み、該前回のデータが検出可能な量の自己抗体を示した、請求項80記載のコンピュータシステム。
【請求項82】
a.PLA2Rに対して反応性である抗体に関するイムノアッセイからのシグナルレベルを表す、被験体から得られた試料からのデータを含有する保存データモジュールと;
b.保存データモジュール上に保存されたデータを参照データおよび/または対照データと比較して、比較内容を提供する比較モジュールと;
c.参照データおよび/または対照データと比較して少なくとも10%の、PLA2Rに対して反応性の抗体の検出可能な量の存在が、被験体がMNを有するかまたはMNの再発を有することを示している、比較内容をユーザーに表示するための出力モジュールと
を含む、コンピュータ読み取り可能な保存媒体。
【請求項83】
対照データが健康な非MN個体集団からのデータを含む、請求項82記載のシステム。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2011−528789(P2011−528789A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518955(P2011−518955)
【出願日】平成21年7月20日(2009.7.20)
【国際出願番号】PCT/US2009/051110
【国際公開番号】WO2010/009457
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVA
2.フロッピー
3.UNIX
4.PENTIUM
【出願人】(309020703)ボストン メディカル センター コーポレーション (4)
【出願人】(507329402)セントル ナショナル デ ラ ルシュルシュ サイエンティフィーク(シーエヌアールエス) (4)
【Fターム(参考)】