説明

膜接電極接合体の製造方法

【課題】触媒層におけるクラックの発生を抑制した良好な膜電極接合体を製造する技術を提供する。
【解決手段】燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、水と有機溶媒とを混合した混合溶媒と、触媒担持導電性粒子と、アイオノマーとを混合した触媒インクを、電解質膜に付与して触媒層を形成する工程を備え、混合溶媒は、該混合溶媒のみを電解質膜に吸収させたときに、吸収前の電解質膜の重量に対して、30[%]以上60[%]以下の重量の混合溶媒が吸収されるように、混合溶媒の重量に対する混合する水の重量の割合である水比率が調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いる膜電極接合体の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は通常、電解質膜の両面に電極が配置された発電体である膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を備える。膜電極接合体の電極は、燃料電池反応を促進するための触媒が担持された触媒電極として形成される。膜電極接合体の製造方法においては、一般に、まず触媒を担持させた導電性粒子と、イオン伝導性を有するポリマーであるアイオノマーとを有機溶媒又は無機溶媒に分散させて触媒インクを生成する。そして、その触媒インクを電解質膜に塗布し乾燥させて触媒層を形成することによって膜電極接合体を製造する。膜電極接合体の製造方法としては、例えば下記特許文献1が知られている。
【0003】
ここで、膜電極接合体の製造工程において、触媒インクを電解質膜に直接塗工する場合、電解質膜が溶媒を吸収することによって、触媒層面直方向の乾燥収縮が不均一になり触媒層にクラック(ひび割れ)が生じることがある。クラックが発生すると、燃料電池として用いた際の耐久性が低く、また、発電時に触媒電極における発電分布が不均一となり、燃料電池の発電性能が低下してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−048557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、触媒層におけるクラックの発生を抑制した良好な膜電極接合体を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために、以下の形態または適用例を取ることが可能である。
[適用例1]
燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、
水と有機溶媒とを混合した混合溶媒と、触媒担持導電性粒子と、アイオノマーとを混合した触媒インクを、電解質膜に付与して触媒層を形成する工程を備え、
前記混合溶媒は、該混合溶媒のみを前記電解質膜に吸収させたときに、前記吸収前の電解質膜の重量に対して、30[%]以上60[%]以下の重量の前記混合溶媒が吸収されるように、前記混合溶媒の重量に対する前記混合する水の重量の割合である水比率が調整されている
膜電極接合体の製造方法。
【0007】
この膜電極接合体の製造方法によると、触媒インクに用いる混合溶媒は、電解質膜に吸収される量が比較的低くなるように、水比率が調整されている。具体的には、電解質膜の重量の30%〜60%の重量の混合溶媒が電解質膜に吸収されるように、混合溶媒の水比率が調整されている。このため、この混合溶媒を用いた触媒インクを電解質膜に付与した際に電解質膜が多量に混合溶媒を吸収することがない。よって、電解質膜が、溶媒の吸収による膨張と、その後の乾燥による収縮をする際に、不均一な膨張および収縮を抑制することができる。結果として、電解質膜上に形成された触媒層のクラックの発生を抑制することができる。
【0008】
[適用例2]
適用例1記載の膜電極接合体の製造方法であって、前記混合溶媒は、該混合溶媒のみを前記電解質膜に吸収させたときに、前記吸収前の電解質膜の重量に対して、30[%]以上40[%]以下の重量の前記混合溶媒が吸収されるように、前記混合溶媒の重量に対する前記混合する水の重量の割合である水比率が調整されている膜電極接合体の製造方法。
【0009】
この膜電極接合体の製造方法によると、電解質膜の重量の30[%]〜40[%]の重量の混合溶媒が電解質膜に吸収されるように、混合溶媒の水比率が調整されている。よって、電解質膜上に形成された触媒層のクラックの発生をさらに抑制することができる。
【0010】
[適用例3]
前記有機溶媒はエタノールである適用例1または適用例2記載の膜電極接合体の製造方法。
この膜電極接合体の製造方法によると、有機溶媒として、比較的低コストで入手が容易なエタノールを用いて製造することができる。
【0011】
[適用例4]
燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、水と有機溶媒とを混合した混合溶媒と、触媒担持導電性粒子と、アイオノマーとを混合した触媒インクを、電解質膜に付与して触媒層を形成する工程を備え、前記混合溶媒は、該混合溶媒の重量に対する前記混合する水の重量の割合である水比率が60[wt%]以上90[wt%]未満である膜電極接合体の製造方法。
【0012】
この膜電極接合体の製造方法によると、水比率が60[wt%]以上90[wt%]未満の混合溶媒を用いる。混合溶媒は、水比率が高いほど、電解質膜に吸収される量が少ないことが発明者らによって見出された。この結果、水比率が60[wt%]以上90[wt%]未満の混合溶媒は、電解質膜に吸収される量が比較的少ない。このため、この混合溶媒を用いた触媒インクを電解質膜に付与した際に電解質膜が多量に混合溶媒を吸収することがない。よって、電解質膜が、溶媒の吸収による膨張と、その後の乾燥による収縮をする際に、不均一な膨張および収縮を抑制することができる。結果として、電解質膜上に形成された触媒層のクラックの発生を抑制することができる。
【0013】
[適用例5]
前記水比率が60[wt%]以上80[wt%]以下である適用例5記載の膜電極接合体の製造方法。
水比率が90[wt%]以上の混合溶媒は、電解質膜に付与した際に、疎水性が強く、弾いてしまうことが、発明者らの実験により見出された。この膜電極接合体の製造方法によると、水比率が60[wt%]以上80[wt%]以下の混合溶媒を用いて膜電極接合体を製造する。従って、電解質膜が混合溶媒を弾かないように調整した触媒インクを用い、電解質膜上に形成された触媒層のクラックの発生を抑制することができる。
【0014】
[適用例6]
前記水比率が70[wt%]以上80[wt%]以下である適用例5記載の膜電極接合体の製造方法。
この膜電極接合体の製造方法によると、水比率が70[wt%]以上80[wt%]以下の混合溶媒を用いて膜電極接合体を製造する。従って、電解質膜上に形成された触媒層のクラックの発生をさらに抑制することができる。
【0015】
[適用例7]
燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、水と有機溶媒とを混合した混合溶媒と、触媒担持導電性粒子と、アイオノマーとを混合した触媒インクを、電解質膜に付与して触媒層を形成する工程を備え、前記混合溶媒の重量に対する前記混合する水の重量の割合である水比率を調整することによって、前記生成した膜電極接合体における前記触媒層のクラックの発生の程度を制御する膜電極接合体の製造方法。
【0016】
この膜電極接合体の製造方法によると、触媒インクに用いる混合溶媒の水比率を制御することによって、製造した膜電極接合体のクラックの発生の程度を制御することができる。
【0017】
[適用例8]
燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、水と有機溶媒とを混合した混合溶媒と、触媒担持導電性粒子と、アイオノマーとを混合した触媒インクを、電解質膜に付与して触媒層を形成する触媒層形成工程を備え、前記触媒層形成工程は、前記触媒インクを前記電解質膜に付与した際に、前記吸収前の電解質膜の重量に対して、30[%]以上60[%]以下の重量の前記触媒インク中の混合溶媒が前記電解質膜に吸収されるように、前記混合溶媒の重量に対する前記混合する水の重量の割合である水比率を調整する水比率調整工程を備える膜電極接合体の製造方法。
【0018】
この膜電極接合体の製造方法によると、触媒インク中の混合溶媒は、電解質膜に吸収される量が比較的低くなるように、水比率が調整されている。具体的には、電解質膜の重量の30%〜60%の重量の混合溶媒が電解質膜に吸収されるように、混合溶媒の水比率が調整されている。このため、この触媒インクを電解質膜に付与した際に電解質膜が多量に混合溶媒を吸収することがない。よって、電解質膜が、溶媒の吸収による膨張と、その後の乾燥による収縮をする際に、不均一な膨張および収縮を抑制することができる。結果として、電解質膜上に形成された触媒層のクラックの発生を抑制することができる。
【0019】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、燃料電池、燃料電池システム、燃料電池の製造方法、膜電極接合体、膜電極接合体におけるクラック制御方法、触媒インクの生成方法などの種々の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用して製造した燃料電池の概略構成を表す説明図である。
【図2】MEA12の製造方法を示す工程図である。
【図3】触媒インクの各材料の分量を説明する説明図である。
【図4】実験の工程を説明する説明図である。
【図5】水比率と溶媒吸収重量比Rとの相関関係を示すグラフである。
【図6】各サンプルに係るMEAの、SEMによる表面像である。
【図7】各サンプルの混合溶媒の組成と溶媒吸収重量比Rを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施態様に係る燃料電池について、図面を参照しつつ、実施例に基づいて説明する。
A.第1実施例:
(A1)燃料電池の構成:
図1は、本発明の一実施例としての膜電極接合体の製造方法を採用して作製した燃料電池における単セル10の概略構成を表す説明図である。図示は、単セル10の断面を模式的に表している。本実施例の燃料電池は、固体高分子型燃料電池であり、単セル10を複数積層したスタック構造を有している。図示するように、単セル10は、電解質を含む膜電極接合体(以下、MEAとも呼ぶ)12と、MEA12を両側から挟持してサンドイッチ構造を形成する一対のガス拡散層16,17と、このサンドイッチ構造をさらに両側から挟持する一対のセパレータ20,21とをから構成されている。
【0022】
MEA12は、電解質膜13と、電解質膜13を間に挟んでその表面に形成された電極であるアノード(燃料極)14およびカソード(酸素極)15を備えている。電解質膜13は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノード14およびカソード15は、電気化学反応を促進する触媒を含有する触媒インクを、電解質膜13上に塗布することによって形成される。この触媒インクについては、後で詳しく説明する。
【0023】
ガス拡散層16,17は、ガス透過性および導電性を有する部材によって構成されている。本実施例では、ガス拡散層16,17は、カーボンクロスやカーボンペーパなどのカーボン多孔質部材によって形成されている。ガス拡散層16,17を設けることによって、電極に対するガス供給効率を向上させると共に、セパレータ20,21と電極との間の集電性を高めることができ、さらに電解質膜13を保護することができる。なお、ガス拡散層16,17は、カーボン多孔質部材に換えて、チタンやステンレスなどの金属多孔質材等の他の導電性多孔質部材により形成する構成としてもよい。
【0024】
セパレータ20,21は、ガス不透過の導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、金属製部材などにより形成される。セパレータ20,21は、その表面に所定の形状のリブ部を形成しており、隣接するガス拡散層16,17との間に、水素ガス及び酸化ガスの単セル内流路20P、21Pを形成する。
【0025】
図1では、各セパレータ20,21の片面においてだけガス流路を成すリブが形成されているように表わされているが、実際は、両方の面に形成されている。したがって、セパレータ20,21は、ガス拡散層16,17との間でガスの流路を形成すると共に、隣接する単セル間で水素ガスと酸化ガスとの流れを分離する役割を果たしている。なお、各セパレータの表面に形成されたリブの形状は、ガス流路を形成してガス拡散層に対して燃料ガスまたは酸化ガスを供給可能であれば、いずれの形状とすることもできる。本実施例では、各セパレータの表面に形成されたリブは平行に形成された複数の溝状の構造とした。
【0026】
以上、燃料電池の基本構造である単セル10の構成について説明した。実際に燃料電池(燃料電池スタック)として組み立てるときには、単セル10を複数組積層し(例えば100組)、その両端にさらに集電板、絶縁板、エンドプレート(図示せず)を配置して、燃料電池スタックを完成する。なお、図示は省略しているが、スタック構造の内部温度を調節するために、各単セル間に、あるいは所定数の単セルを積層する毎に、冷媒の通過する冷媒流路を設けても良い。冷媒流路は、隣り合う単セル間において、一方の単セルが備えるセパレータ21と、これに隣接して設けられる他方の単セルのセパレータ20との間に設ければよい。
【0027】
(A2)膜電極接合体(MEA)の製造方法:
図2は、MEA12の製造方法を示す工程図である。MEA12を製造する場合、まず、電解質膜に塗工する触媒インクの生成に必要な各材料を、所定の分量で調合し混合する(工程S1)。図に示すように、混合する材料は、触媒担持カーボンと、アイオノマーと、混合溶媒である。混合溶媒とは、水と有機溶媒とを所定の混合比で混合した溶媒である。本実施例においては、有機溶媒としてエタノールを用いる。また触媒担持カーボンとして白金担持カーボンを用いる。調合する材料の分量については、後で詳しく説明する。
【0028】
上記材料を混合した後、分散機を用いて混合溶媒中に白金担持カーボンとアイオノマーとを均一に分散させる(工程S2)。本実施例においては、分散機として、超音波ホモジナイザーを用いる。このようにして生成されるのが触媒インクである。
【0029】
触媒インクを生成すると、ダイコーターを用いて、生成した触媒インクを電解質膜の上に、均一な膜厚で直接に塗工する(工程S3)。電解質膜上に触媒インクを塗工することにより、電解質膜上に触媒層が形成される。その後、触媒層を形成した電解質膜を温風乾燥機によって乾燥させることによりMEAを製造する(工程S4)。なお本実施例においては、電解質膜として、デュポン社製のNafion膜を用いた。なお、Nafionは登録商標である。
【0030】
(A3)触媒インク:
本実施例で用いる触媒インクについて説明する。図3は、図2の調合工程(工程S1)で調合した触媒インクの各材料の分量を説明する説明図である。図に示すように、本実施例において触媒インクを生成する際には、白金担持カーボンを10[g]用いる。この白金担持カーボンは、白金を30[wt%]、炭素粉末を70[wt%]の割合で混合した触媒である。アイオノマーは、デュポン社製のNafion(固形成分:21.6[wt%])を32.8[g]用いる。混合溶媒は、生成後の触媒インク中における固形分量の割合が10[wt%]となるように、その分量を定める。固形分量とは、アイオノマー中のNafionの固形成分と、白金と、炭素粉末との総重量を示す。このように図3に示した分量で各々の材料を混合して、図2で説明した調合工程(工程S1)および分散工程(工程S2)によって触媒インクを生成する。
【0031】
触媒インクに用いる混合溶媒について詳細を説明する。混合溶媒は、上述したように、水とエタノールを混合した溶媒である。以下の説明においては、混合溶媒における水とエタノールとを混合する割合を、混合溶媒全体の重量における水の重量の割合である水比率(単位:[wt%])で表現する。混合溶媒はその特性として、水比率によって、電解質膜への吸収の程度が異なることが発明者らの実験によって見出された。
【0032】
以下、発明者らが行った実験の工程、および実験結果について説明する。図4は、実験の工程を説明する説明図である。実験では、まず、MEA12の製造に用いるものと同じ電解質膜であって、直径が60mm(φ=60mm)の実験用の電解質膜を用意した(工程S11)。混合溶媒の吸収前と吸収後の電解質膜を区別するために、前者を吸収前電解質膜、後者を吸収後電解質膜と呼ぶ。次に、用意した吸収前電解質膜の重量(以下、吸収前電解質膜重量とも呼ぶ)を測定した(工程S12)。その後、所定の水比率の混合溶媒を生成した(工程S13)。そして、生成した混合溶媒に、用意した電解質膜全体を30秒浸した(工程14)。混合溶媒に30秒浸した後、電解質膜(吸収後電解質膜)から、余分な混合溶媒を取り除き、吸収後電解質膜の重量(以下、吸収後電解質膜重量とも呼ぶ)を測定した(工程15)。その後、吸収後電解質膜の重量と吸収前電解質膜の重量との差分(=吸収後電解質重量−吸収前電解質重量)を算出した(工程S16)。すなわち、電解質膜が吸収した混合溶媒の重量(以下、溶媒吸収重量とも呼ぶ)を算出した。最後に、溶媒吸収重量比R[%]を下記式(1)により算出した(工程S17)。
【0033】
溶媒吸収重量比R[%]=(溶媒吸収重量)/(吸収前電解質膜重量)×100…(1)
【0034】
この工程S11〜S17の実験工程を、水比率を異ならせた複数種類の混合溶媒において行った。その後、混合溶媒の水比率[wt%]を横軸、各水比率毎の溶媒吸収重量比R[%]を縦軸として、水比率と溶媒吸収重量比Rとの相関関係を示す相関グラフを生成した。図5は、上記実験工程によって発明者らが導出した相関グラフである。この相関グラフに示すように、混合溶媒の水比率が高いほど、電解質膜における溶媒吸収重量比Rが小さいことが分かる。
【0035】
本実施例では、この相関グラフに基づき、MEA12を製造する際に用いる混合溶媒の水比率を決定する。具体的には、電解質膜に触媒インクを塗工する際の、電解質膜が吸収する混合溶媒の量を抑えるように、混合溶媒の水比率を決定する。そこで実施サンプル1として、溶媒吸収重量比Rが約30[%]となる混合溶媒を用いて触媒インクを生成し、MEA12の製造に用いた。実際には、相関グラフに基づき、溶媒吸収重量比R=33.1[%]に対応する混合溶媒の水比率は80[wt%]を適用した。すなわち、図2で説明したMEA12の製造工程において、水比率が80[wt%]の混合溶媒を用いた。
【0036】
図6を用いて混合溶媒の水比率を調整して製造したMEA12の製造結果を説明する。実施サンプル1において製造したMEA12の触媒層の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)で観察した表面像を図6に示している。なお、図6には、後述する実施サンプル2,3、および比較サンプル1〜3におけるMEA12の製造結果も示した。
【0037】
図6に示すように、実施サンプル1の混合溶媒を適用して製造したMEA12の触媒層にはクラック(ひび割れ)が見られず、良好な触媒層が形成されていることがわかる。フッ素系電解質膜を用いたMEAで触媒層にクラックが生じずに良好な触媒層あるいはMEAを得ることができた。従って、このMEA12は、燃料電池(単セル10)に組み込んで適用した際に、高い耐久性を備える。また、燃料電池として発電した際に、触媒電極における発電分布を均一にして、高い発電性能を確保することができる。
【0038】
次に他の実施サンプルおよび比較サンプルとして、実施サンプル2,3および比較サンプル1〜3の混合溶媒を用いてMEA12を製造する。図7は、上記実施サンプル1も含めた実施サンプル1〜3、および比較サンプル1〜3の混合溶媒の組成と、それに対応する溶媒吸収重量比Rを示した説明図である。図7に示したインク溶媒組成における水の重量比([wt%])が上述している水比率[wt%]である。図7からわかるように、各サンプルは、混合溶媒の水比率を、40[wt%]〜90[wt%]の範囲で、10[wt%]毎に変化させたものである。このように混合溶媒の水比率を変化させて、各々の水比率において製造したMEA12の触媒層の表面像(SEM像)が上述した図6である。
【0039】
図6に示すように、実施サンプル1および実施サンプル2によるMEA12の触媒層にはクラックは発生していないことがわかる。また、実施例サンプル3によるMEA12の触媒層においては、少しのクラックが見られるものの、クラックの発生を抑制していることがわかる。
【0040】
一方、比較サンプル1および比較サンプル2によるMEA12の触媒層には、クラックが多く発生している。なお、比較サンプル3は水比率が90[wt%]であり、この混合溶媒を適用して生成した触媒インクを電解質膜に塗工すると、電解質膜が触媒インクを弾き、触媒層の形成が不可能であった。なお、比較サンプル3のように水比率が90[wt%]以上で、触媒インクが疎水性を示す場合であっても、界面活性剤を加えることによって疎水性を抑えた触媒インクを生成し、電解質膜に付与するとしてもよい。
【0041】
上記実験データより、水比率が約60[wt%]〜80[wt%]、すなわち溶媒吸収重量比Rが約60[%]〜30[%]の混合溶媒を用いてMEA12を製造すると、クラックの発生を抑制することができる。好ましくは、水比率が約70[wt%]〜80[wt%]、すなわち溶媒吸収重量比Rが約40[%]〜30[%]の混合溶媒を用いてMEA12を製造すると、クラックの発生を高い確率で抑制することができる。
【0042】
以上説明したように、溶媒吸収重量比Rが60[%]〜30[%]となるように水比率を調整した混合溶媒を用いて触媒インクを生成し、その触媒インクを用いてMEA12を製造すると、形成される触媒層において、クラックの発生を抑制することができる。さらに好ましくは、溶媒吸収重量比Rが40[%]〜30[%]となるように水比率を調整した混合溶媒を用いて触媒インクを生成し、その触媒インクを用いてMEA12を製造すると、形成される触媒層において、クラックの発生を高い確率で抑制し、クラックの無いMEA12も製造することができる。結果的に、溶媒吸収重量比Rが60[%]〜30[%]、好ましくは、溶媒吸収重量比Rが40[%]〜30[%]である混合溶媒を適用してMEA12を製造することで、MEA12に高い耐久性を付与することができる。また、燃料電池として発電した際に、触媒電極における発電分布を均一にして、高い発電性能を確保することができる。
【0043】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
(B1)変形例1:
上記実施例においては、混合溶液に用いて有機溶媒としてエタノールを適用したが、用いる有機溶媒は特に限定はない。例えば、各種アルコール、各種エーテル、またはそれらの混合物を適用することができる。好ましくは炭素数が1〜3のアルコールを適用するのがよく、具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、t−ブタノール等の有機溶媒を適用することができる。また、これら各種有機溶媒のそれぞれについて上記相関グラフを実験により導出し、各有機溶媒を触媒インクとして用いる際には、用いる有機溶媒に応じて相関グラフを選択して適用するとしてもよい。
【0044】
(B2)変形例2:
上記実施例においては、分散機として超音波ホモジナイザーを用いたが、使用する分散機に特に制限はない。例えば、ナノマイザー、ロールミル、ボールミル、ビーズミル、ジェットミルなどの分散機を用いることができる。
【0045】
(B3)変形例3:
上記実施例においては、触媒インクを電解質膜に塗工する塗工方法として、ダイコーターを用いて塗工を行ったが、塗工方法に特に制限はない。例えば、ダイコーター、ナイフコーター、バーコーター、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、カーテンコーター、ドクターブレード、スクリーン印刷等の塗工方法を適用することができる。また、触媒インクを電解質膜に付与する他の方法として、電解質膜に触媒インクを吹き付ける方法や、触媒インクを溜めた容器に電解質膜を浸す方法など、電解質膜に触媒インクを付与する種々の方法を採用することができる。
【0046】
(B4)変形例4:
上記実施例における説明では、MEA12の製造工程に用いる溶媒吸収重量比Rは、混合溶媒のみを電解質膜に吸収させた場合の、吸収前電解質膜重量に対する溶媒吸収重量(上記式1参照)の重量比として定義したが、以下のように定義付けて上記MEAの製造工程に用いることもできる。すなわち、下記式(2)に示すように、生成した触媒インクを電解質膜に付与した際に触媒インク中の混合溶媒が電解質膜に吸収される重量(触媒インク中混合溶媒吸収重量)の、吸収前電解質膜重量に対する重量比と定義してもよい。
【0047】
溶媒吸収重量比R[%]=(触媒インク中混合溶媒吸収重量)/(吸収前電解質膜重量)×100…(2)
【符号の説明】
【0048】
10…単セル
12…MEA
13…電解質膜
14…アノード
15…カソード
16,17…ガス拡散層
20,21…セパレータ
20P,21P…単セル内流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、
水と有機溶媒とを混合した混合溶媒と、触媒担持導電性粒子と、アイオノマーとを混合した触媒インクを、電解質膜に付与して触媒層を形成する工程を備え、
前記混合溶媒は、該混合溶媒のみを前記電解質膜に吸収させたときに、前記吸収前の電解質膜の重量に対して、30[%]以上60[%]以下の重量の前記混合溶媒が吸収されるように、前記混合溶媒の重量に対する前記混合する水の重量の割合である水比率が調整されている
膜電極接合体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の膜電極接合体の製造方法であって、
前記混合溶媒は、該混合溶媒のみを前記電解質膜に吸収させたときに、前記吸収前の電解質膜の重量に対して、30[%]以上40[%]以下の重量の前記混合溶媒が吸収されるように、前記混合溶媒の重量に対する前記混合する水の重量の割合である水比率が調整されている
膜電極接合体の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒はエタノールである請求項1または請求項2記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項4】
燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、
水と有機溶媒とを混合した混合溶媒と、触媒担持導電性粒子と、アイオノマーとを混合した触媒インクを、電解質膜に付与して触媒層を形成する工程を備え、
前記混合溶媒は、該混合溶媒の重量に対する前記混合する水の重量の割合である水比率が60[wt%]以上90[wt%]未満である
膜電極接合体の製造方法。
【請求項5】
前記水比率が60[wt%]以上80[wt%]以下である請求項4記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項6】
前記水比率が70[wt%]以上80[wt%]以下である請求項5記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項7】
燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、
水と有機溶媒とを混合した混合溶媒と、触媒担持導電性粒子と、アイオノマーとを混合した触媒インクを、電解質膜に付与して触媒層を形成する工程を備え、
前記混合溶媒の重量に対する前記混合する水の重量の割合である水比率を調整することによって、前記生成した膜電極接合体における前記触媒層のクラックの発生の程度を制御する
膜電極接合体の製造方法。
【請求項8】
燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、
水と有機溶媒とを混合した混合溶媒と、触媒担持導電性粒子と、アイオノマーとを混合した触媒インクを、電解質膜に付与して触媒層を形成する触媒層形成工程を備え、
前記触媒層形成工程は、前記触媒インクを前記電解質膜に付与した際に、前記吸収前の電解質膜の重量に対して、30[%]以上60[%]以下の重量の前記触媒インク中の混合溶媒が前記電解質膜に吸収されるように、前記混合溶媒の重量に対する前記混合する水の重量の割合である水比率を調整する水比率調整工程を備える
膜電極接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−89407(P2013−89407A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227848(P2011−227848)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】