説明

膜損傷検知装置及び膜損傷検知方法

【課題】損傷幅が0.2mm以下の微細な膜損傷でも高精度で検知することができる膜損傷検知装置及び膜損傷検知方法を提供する。
【解決手段】原水タンク2に設けられた凝集剤投入機8により、原水10における鉄イオン濃度が10〜30mg/リットルとなるように、原水10に鉄系凝集剤を添加する。その後、ナノバブル発生機11により、原水10中に直径が0.01〜1μmのナノバブルを発生させる。次に、このナノバブルが存在する原水10を膜モジュール4に導入し、ろ過膜7により原水10に含まれる分離対象物質をろ過分離する。そして、ナノバブル検出器12により、ろ過膜7を透過した透過水へのナノバブルの漏出の有無を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地表水、地下水、海水及び排水等を原水とし、これらの中に含まれる成分を分離する膜ろ過装置に設けられたろ過膜における膜破断等の損傷を検知する膜損傷検知装置及びこの膜損傷検知装置を使用した膜損傷検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜ろ過装置は、ろ過膜により原水中の対象物質と液体とを分離するものであり、上下水道分野、食品分野及び排水処理分野等で広く利用されている。通常、膜ろ過装置においては、分離対象物質を含む原水は、ポンプ又は水位差を駆動圧としてろ過膜に送られる。このとき、原水中の分離対象物質は、ろ過膜により通過を阻止されるため、透過室には分離対象物質を含まないろ過水のみが送られる。
【0003】
しかしながら、従来の膜ろ過装置は、ろ過膜に膜破断等の損傷が生じると、透過室に分離対象物質が混入し、ろ過水の水質が損なわれるという問題点がある。特に、上水道分野及び食品分野においては、ろ過水の水質が損なわれることは、病原性微生物の漏出につながるため、ろ過膜の損傷を検知することは重要である。
【0004】
一般に、膜ろ過処置における膜損傷を検知する方法としては、濁度計又は微粒子カウンタ等により透過水の濁度又は微粒子数を測定し、その変化からろ過膜の破断を検知する方法が採られている。また、一旦膜ろ過処置の運転を停止し、ろ過膜に空気を通して検査する方法もある。しかしながら、透過水の濁度又は微粒子数を測定する方法は、原水濁度が清廉な場合には、透過室側に漏出する分離対象物質の量が少なく、透過水の濁度及び微粒子数の変化は微小であるため、ろ過膜の破断を検知することは困難であるという問題点がある。また、ろ過膜に空気を通す方法は、装置の運転を停止しなければならないため、作業効率が悪いという問題点がある。
【0005】
そこで、従来、原水が清廉な場合でもろ過膜の損傷を検知できる方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。特許文献1に記載の膜損傷検知方法では、ろ過膜に堆積した分離対象物質を除去する逆洗浄処理によって生じた分離対象物質を原水よりも多く含む膜逆洗浄水、又はこの逆洗浄水の上澄みを除いた膜逆洗浄濃縮水を、間欠的に原水に注入している。この方法は、膜損傷が起きた場合、膜逆洗浄水又は膜逆洗浄濃縮水の注入に伴い透過水の濁度及び微粒子数が上昇するため、濁度計又は微粒子カウンタにより濁度及び微粒子数の変化を検出することが可能となる。
【0006】
また、特許文献2には、原水中に気泡を添加するか又は気泡を発生させ、ろ過膜を通過して透過室へ流出した気泡の有無を検出することにより、ろ過膜の損傷を検知する方法が開示されている。図5は特許文献2に記載の従来の膜ろ過装置を模式的に示す断面図である。図5に示すように、特許文献2に記載の膜ろ過装置101は、原水が導入される原水室102と、原水を透過水と濃縮水とに分離する中空糸膜104が配置された被処理室103と、透過水が貯溜される透過水室105とがこの順に設けられている。また、被処理室103と原水導入室102及び透過水室105との間は、夫々封止材106及び107で封止されており、中空糸膜104はこれら封止材106,107に固定されている。更に、封止材106には、複数の通水孔106aが形成されており、この通水孔106aを通って被処理室103に導入される。
【0007】
そして、中空糸膜104の損傷の有無を検査するときは、エゼクタ108により原水に気泡を混入させると共に、透過水室105の上方に取り付けられた光源109を点灯し、CCDカメラ110により透過水室105内に流入した透過水を撮像する。このとき、中空糸膜104に損傷がない場合は、透過水に気泡は混入せず全て濃縮水と共に流出するが、中空糸膜104に損傷がある場合は、損傷箇所から気泡が通過して透過水に混入する。特許文献2に記載の技術では、この様子をCCDカメラ110で撮像し、その画像をオペレーターが視認するか又はコンピュータで画像処理し、損傷の検出及び損傷箇所の特定を行う。
【0008】
【特許文献1】特開2005−87948号公報
【特許文献2】特開2005−13947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述の従来の技術には以下に示す問題点がある。即ち、特許文献1に記載の技術は、膜逆洗浄水を原水に注入することにより原水の濁度及び微粒子数を増加させているが、膜逆洗浄水は、濁度及び含有する微粒子の数が原水の10倍程度にとどまるため、原水が極めて清廉である場合には、膜逆洗浄水を注入しても原水の濁度及び微粒子数の増加量は少なく、ろ過膜の破断を検知することは困難であるという問題点がある。この問題点は、膜逆性浄水を濃縮して、濁度及び微粒子数の検出精度を上げることにより解決することができるが、その場合、新たにろ過装置及び沈降濃縮装置等を設ける必要がある。また、この特許文献1に記載の方法は、ナノろ過膜(Nano Filtration Membrane:NF膜)及び逆浸透膜(Reverse Osmosis Membrane:RO膜)等のように、定期的な膜洗浄を必要としないろ過膜を使用する場合には、適用できないという問題点もある。
【0010】
図6(a)〜(c)はろ過膜の損傷形態を示す図であり、図6(a)は切断による損傷を示し、図6(b)は開口による損傷を示し、図6(c)は膜の長手方向に伸びる亀裂による損傷を示す。中空糸膜104等のろ過膜の損傷形態には、図6(a)に示す膜の切断による損傷、図6(b)に示す膜の開口による損傷、及び図6(c)に示す膜の長手方向に伸びる亀裂による損傷等がある。これらの損傷形態のうち、図6(a)に示す切断による損傷の場合、損傷部の大きさは直径0.2〜0.5mm程度であるが、図6(b)に示す開口による損傷では、開口部の大きさが0.2mm以下であり、図6(c)に示す膜の長手方向に伸びる亀裂による損傷における亀裂の幅は0.1mm未満である。
【0011】
これに対して、図5に示す特許文献2に記載の技術は、エゼクタ108により発生させた気泡により、ろ過膜(中空糸膜104)の損傷を検知する方法であるが、エゼクタ108により発生されることができる気泡の直径は最小でも2mm程度であり、図6(a)〜(c)に示す損傷は検出することはできない。また、仮に気泡発生装置をエゼクタ108からディフューザー又は曝気装置に代えたとしても、気泡の直径は最小でも0.2mm程度にとどまるため、図6(b)及び(c)に示す損傷幅が0.2mm以下の微細な膜損傷は検知することはできない。一方、一般に使用されている精密ろ過膜の分離孔径は0.1μm程度であり、損傷幅が0.2mm以下の微細な損傷であっても、孔径に比べると明らかに大きく、特に上水道分野及び食品分野においては、このような微細な損傷も検知可能な高精度の膜損傷検知方法が求められている。
【0012】
また、特許文献2に記載の膜ろ過装置110のようなデッドエンド型の膜分離装置においては、気泡を利用した検出方法を適用すると、被処理室103内に気泡がたまりやすく、その気泡がろ過膜(中空糸膜104)の表面に付着し、有効膜面積が減少するという問題点もある。
【0013】
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、損傷幅が0.2mm以下の微細な膜損傷でも高精度で検知することができる膜損傷検知装置及び膜損傷検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る膜損傷検知装置は、限外ろ過膜(Ultra Filtration Membrane:UF膜)、精密ろ過膜(Micro Filtration Membrane:MF膜)又は逆浸透膜(Reverse Osmosis Membrane:RO膜)からなるろ過膜を備え、原水に含まれる分離対象物質をろ過分離する膜ろ過部を有する膜ろ過装置に設けられ、前記ろ過膜の損傷を検知する膜損傷検知装置において、前記膜ろ過部に導入される原水に鉄系凝集剤を添加する凝集剤添加部と、前記原水中に直径が0.01〜1μmのナノバブルを発生させるナノバブル発生部と、前記ろ過膜を透過した透過水への前記ナノバブルの漏出の有無を検出する検出部とを有することを特徴とする。
【0015】
本発明においては、ナノバブル発生部により原水に直径が0.01〜1μmのナノバブルを発生させると共に、凝集剤添加部により鉄系凝集剤を添加してナノバブルを安定化し、更に検出部によりろ過膜を透過して透過水中に漏出したナノバブルの有無を検出しているため、損傷幅が0.2mm以下の微細な膜損傷でも高精度で検知することができる。
【0016】
この膜損傷検知装置では、原水に対する前記鉄系凝集剤の添加量を、鉄イオン濃度で10〜30mg/リットルとすることが好ましい。これにより、鉄系凝集剤によるろ過膜の膜面閉塞及び透過水の着色を抑制できると共に、原水中にナノバブルを長時間安定して存在させることができる。
【0017】
また、この膜損傷検知装置は、例えばクロスフロー方式でろ過分離を行う膜ろ過装置に設けることができる。
【0018】
本発明に係る膜損傷検知方法は、原水に鉄系凝集剤を添加する工程と、原水中に直径が0.01〜1μmのナノバブルを発生させる工程と、前記ナノバブルが存在する原水を、UF膜、MF膜又はRO膜からなるろ過膜を備えた膜ろ過部に導入し、前記原水に含まれる分離対象物質をろ過分離する工程と、前記ろ過膜を透過した透過水への前記ナノバブルの漏出の有無を検出する工程とを有することを特徴とする。
【0019】
本発明においては、原水に直径が0.01〜1μmのナノバブルを発生させると共に、このナノバブルを安定化するため、原水中に鉄系凝集剤を添加しているため、ろ過膜を透過して透過水中に漏出したナノバブルの有無を検出することにより、損傷幅が0.2mm以下の微細な膜損傷でも高精度で検知することができる。
【0020】
この膜損傷検知方法では、原水に前記鉄系凝集剤を添加した後で、前記ナノバブルを発生させてもよく、又は、前記鉄系凝集剤添加工程と前記ナノバブル発生工程とを同時に行ってもよい。また、前記鉄系凝集剤添加工程において、原水中の鉄イオン濃度が10〜30mg/リットルとなるように、前記鉄系凝集剤を添加することが好ましい。更に、前記ろ過分離工程において、クロスフロー方式でろ過分離を行ってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、原水に直径がナノバブルを発生させると共に、ナノバブル安定化剤として作用する鉄系凝集剤を添加し、このナノバブルの漏出の有無によりろ過膜の損傷を検出しているため、損傷幅が0.2mm以下の微細な膜損傷でも高精度で検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して詳細に説明する。先ず、本発明の第1の実施形態に係る膜ろ過装置について説明する。図1は本実施形態の膜ろ過装置の構成を示すブロック図であり、図2は図1に示す膜モジュールの内部を模式的に示す図である。図1に示すように、本実施形態の膜ろ過装置1は、原水10が貯溜される原水タンク2と、原水から対象物質を分離する膜モジュール4とが、原水配管13を介して連通されている。この膜ろ過装置1の原水タンク2には、鉄系凝集剤を投入するための凝集剤注入装置8、及び原水10を攪拌する攪拌機9が取り付けられている。また、原水配管13には、原水タンク2側から順に、原水10を膜モジュール4に導入するための原水ポンプ3、及び原水10中に直径が0.01〜1μmのナノバブルを発生させるためのナノバブル発生装置11が接続されている。
【0023】
更に、膜モジュール4は、原水配管13から原水10が導入される原水室5、原水10に含まれる対象物質をろ過分離するろ過膜7、ろ過膜7を透過した透過水が流入する透過水室6が設けられており、デッドエンド方式となっている。この膜モジュール4におけるろ過膜7としては、例えばUF膜、MF膜又はRO膜を使用することができる。また、膜モジュール4としては、例えば、図2に示すように、筐体15内に中空糸型に成形された複数のろ過膜7が配置されたケーシング収納型内圧式中空糸膜モジュールを使用することができる。なお、図2においては、ろ過膜7の数を省略して記載しているが、通常、ケーシング収納型内圧式中空糸膜モジュールでは、筐体15内に数千本〜数万本のろ過膜が保持されている。一方、膜モジュール4の透過水室6には、透過水を装置外に取り出すための透過水配管14が連通されており、この透過水配管14に濁度計及び微粒子カウンタ等のナノバブル検出装置12が取り付けられている。
【0024】
このように、本実施形態の膜ろ過装置1には、凝集剤注入装置8、ナノバブル発生装置11及びナノバブル検出装置12で構成され、膜モジュール4のろ過膜7の損傷を検知する膜損傷検知装置が設けられている。
【0025】
次に、本実施形態の膜ろ過装置1の動作、特に、前述の膜損傷検知装置を使用してろ過膜7の損傷を検出する方法について説明する。本実施形態の膜ろ過装置1においては、先ず、ナノバブルを安定して存在させるため、原水タンク2において、攪拌機9で攪拌しながら、原水10にポリ硫酸第二鉄及び塩酸第二鉄等の鉄系凝集剤を添加する。次に、この鉄系凝集剤が添加された原水10を、原水ポンプ3により加圧し、膜モジュール4の原水室5に導入する。
【0026】
その際、ナノバブル発生装置11により、原水室5に導入される前の原水10に、直径が0.01〜1μmのナノバブルを発生させる。ナノバブル発生装置11により発生させるナノバブルの直径が0.01μm(10nm)未満の場合、鉄系凝集剤を添加しても発生直後に水に溶解してしまう。また、仮にろ過膜7まで到達できたとしても、直径がろ過膜7の孔径よりも小さく、ろ過膜7を透過してしまうため、膜損傷の有無を検知することができない。一方、ナノバブルの直径が1μmを超えると、気泡が成長しやすくなるため、鉄系凝集剤を添加してもろ過膜7に到達するまでにその直径が0.2mmを超えてしまい、微細な膜損傷を検知できなくなる。
【0027】
そして、鉄系凝集剤により状態が安定化されたナノバブルを含む原水10は、膜モジュール4内において、ろ過膜7により対象物質が分離され、分離対象物質を含まない透過水のみが透過水室に透過し、分離対象物質は例えば濃縮水として装置外に排出される。このとき、ろ過膜7に損傷がない場合は、ナノバブルは透過水室6に漏出せず、原水室5において気泡径が縮小し、消滅する。一方、ろ過膜7に損傷がある場合は、ナノバブルが透過水室6に漏出し、透過水配管14に取り付けられたナノバブル検出装置12で検出される。これにより、ろ過膜7の損傷の有無を検知することができる。
【0028】
前述の如く、本実施形態の膜ろ過装置1においては、ナノバブルを安定して存在させるために、原水10に鉄系凝集剤を添加しているが、一般に、鉄系凝集剤は、原水中の対象物質を凝集・沈殿させ、分離しやすくするために添加される。従来のように、分離対象物質を凝集・沈殿させる目的で鉄系凝集剤を添加する場合は、分離対象物質の種類及び含有量に応じてその添加量が設定されるため、通常、原水が清廉な場合には鉄系凝集剤は添加しない。これに対して、本実施形態の膜ろ過装置1においては、鉄系凝集剤をナノバブル安定化剤として使用しているため、その添加量は分離対象物質の種類及び含有量とは関係なく設定される。即ち、本実施形態の膜ろ過装置1においては、従来の使用方法とは鉄系凝集剤の添加目的及び添加量が異なっており、例え原水が清廉な場合でも鉄系凝集剤は添加する。
【0029】
図3は横軸にポリ硫酸第二鉄を添加したときの原水中の鉄イオン濃度をとり、縦軸にナノバブル存在時間及び薬品洗浄1サイクルあたりの総ろ過水量をとって、ポリ硫酸第二鉄の添加効果を示すグラフ図である。なお、図3に示す1サイクルあたりの総ろ過水量とは、ろ過膜を薬品で洗浄した後、再度薬品洗浄が必要になるまでのろ過量であり、最大能力を1として規格化した値である。一般に、ろ過膜面に通常の洗浄工程で除去されない閉塞が発生した場合、酸、アルカリ又は次亜塩素酸ナトリウム等の薬品でろ過膜を洗浄するが、この薬品洗浄には多大な労力を必要とする。即ち、薬品1サイクルあたりの総ろ過量が少ないと、ろ過量に対する薬品洗浄回数が増加して、頻繁な薬品洗浄が必要となり、維持管理性が低下することを意味する。原水10の温度が常温の場合、ナノバブルは経時的に気泡径が縮小し、最終的に水に溶解するが、原水10中の鉄イオン濃度が10mg/リットル以上となるように鉄系凝集剤を添加すると、水に対する溶解速度が抑制され、原水10中にナノバブルを長時間安定して存在させることができる。一方、図3に示すように、原水10中の鉄イオン濃度が10mg/リットル未満の場合は、ナノバブルの存在時間が30秒未満と極めて短くなり、透過水中での検出が困難になることもある。また、原水10中の鉄イオン濃度が30mgを超えると、鉄系凝集剤によるろ過膜の膜面閉塞が顕著となり、薬品洗浄1サイクルあたりの総ろ過水量が低下するため、作業効率が低下する場合がある。また、鉄系凝集剤を過剰に添加すると、透過水が着色する。よって、鉄系凝集剤の添加量は、原水10中の鉄イオン濃度で10〜30mg/リットルとすることが望ましい。
【0030】
本実施形態の膜ろ過装置1においては、原水中に直径が0.01〜1μmのナノバブルを発生させ、このナノバブルの漏出の有無によりろ過膜の損傷を検出しているため、図6(b)に示す開口による損傷及び図6(c)に示す長手方向に伸びる亀裂による損傷のように、損傷幅が0.2mm以下の微細な膜損傷でも高精度で検出することができる。また、ナノバブルは直径が0.01〜1μmと小さく、消滅しやすい気泡であるが、本実施形態の膜ろ過装置1においては、原水10の鉄イオン濃度で10〜30mg/リットルになるように鉄系凝集剤を添加しているため、原水10中のナノバブルを安定化することができる。
【0031】
次に、本発明の第2の実施形態に係る膜ろ過装置について説明する。図4は本実施形態の膜ろ過装置の構成を示すブロック図である。なお、図4においては、図1に示す第1の実施形態の膜ろ過装置1の構成要素と同じものには同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。図4に示すように、本実施形態の膜ろ過装置21は、原水10をろ過膜27の膜面に沿って流し、ろ過膜27を透過する透過水が原水とは90°異なる方向に流れるクロスフロー方式でろ過する膜モジュール24を使用し、循環配管22を介してこの膜モジュール24の原水室25と原水タンク2とが連通されている。なお、本実施形態の膜ろ過装置21における上記以外の構成は、前述の第1の実施形態の膜ろ過装置1と同様である。
【0032】
次に、本実施形態の膜ろ過装置21の動作について説明する。本実施形態の膜ろ過装置21においては、前述の第1の実施形態の膜ろ過装置1と同様に、先ず、原水タンク2において、攪拌機9で攪拌しながら、原水10に鉄系凝集剤を添加する。次に、この鉄系凝集剤が添加された原水10を、原水ポンプ3により加圧し、膜モジュール24の原水室25に導入する。このとき、ナノバブル発生装置11により、原水室25に導入される前の原水10に、直径が0.01〜1μmのナノバブルを発生させる。
【0033】
そして、鉄系凝集剤により状態が安定化されたナノバブルを含む原水10は、膜モジュール24内において、ろ過膜27により対象物質が分離され、分離対象物質を含まない透過水のみが透過水室に透過すると共に、原水室25の原水10の一部は循環配管22を経由して原水タンク2に戻される。本実施形態の膜ろ過装置21においても、ろ過膜27に損傷がある場合は、ナノバブルが透過水室26に漏出し、透過水配管14に取り付けられたナノバブル検出装置12で検出される。一方、ろ過膜27に損傷がない場合は、ナノバブルは透過水室26に漏出せず、原水室25の原水10と共に循環配管22を経由して原水タンク2に戻される。
【0034】
本実施形態の膜ろ過装置1においては、原水10中に直径が0.01〜1μmのナノバブルを発生させると共に、原水10にナノバブル安定化剤として鉄イオン濃度で10〜30mg/リットルの鉄系凝集剤を添加し、このナノバブルの漏出の有無によりろ過膜27の損傷を検出しているため、損傷幅が0.2mm以下の微細な膜損傷でも高精度で検出することができる。また、原水室25の原水10の一部を原水タンク2に戻し循環利用しているため、ナノバブルの発生量を抑制することができる。
【0035】
なお、前述の第1及び第2の実施形態の膜ろ過装置においては、原水を原水ポンプにより加圧して膜モジュールの原水室に導入しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の駆動圧による方式も適用可能である。また、前述の第1及び第2の実施形態の膜ろ過装置においては、原水ポンプよりも膜モジュール側にナノバブル発生装置を取り付けているが、原水を原水室に導入するための装置が、ナノバブルにさほど影響しない方式である場合は、ナノバブル発生装置を原水タンクに取り付け、鉄系凝集剤の添加とナノバブルの発生を同時に行ってもよい。
【0036】
更に、図3においては、鉄系凝集剤の添加効果について、ポリ硫酸第二鉄を例に説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、塩化第二鉄等他の鉄系凝集剤を使用しても同様の効果が得られる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の本発明の効果について、実施例及び比較例を挙げて具体的に説明する。本実施例においては、鉄イオン濃度が10mg/リットルになるようにポリ硫酸第2鉄が添加されたH県H川伏流水に、気泡径を変えてナノバブルを発生させ、その耐久時間を測定した。その結果を下記表1に示す。なお、下記表1においては、直径が0.1mm以下の気泡が30秒以上存在していた場合を○、30秒未満で消滅した場合又は直径が0.1mm以上になってしまった場合を×とした。また、原水であるH川伏流水の濁度は、0.02度であった。
【0038】
【表1】

【0039】
上記表1に示すように、直径が0.01〜1μm(10〜10000nm)の場合、鉄系凝集剤を添加することにより、原水中で30秒間以上存在させることができた。一方、気泡径が0.01μm(10nm)未満のナノバブルは、鉄系凝集剤の添加の有無にかかわらず、発生直後に消滅した。また、直径が0.01〜1μmであっても、鉄系凝集剤を添加しない場合は、ナノバブルは30秒未満で消滅した。更に、直径が1μmを超えると、鉄系凝集剤の添加の有無にかかわらず気泡が成長し、気泡径が微細損傷の検知には適さない0.1mm以上になった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1の実施形態の膜ろ過装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す膜モジュール内部を模式的に示す図である。
【図3】横軸にポリ硫酸第二鉄を添加したときの原水中の鉄イオン濃度をとり、縦軸にナノバブル存在時間及び薬品洗浄1サイクルあたりの総ろ過水量をとって、ポリ硫酸第二鉄の添加効果を示すグラフ図である。
【図4】本発明の第2の実施形態の膜ろ過装置の構成を示すブロック図である。
【図5】特許文献2に記載の従来の膜ろ過装置を模式的に示す断面図である。
【図6】(a)〜(c)はろ過膜の損傷形態を示す図であり、(a)は切断による損傷を示し、(b)は開口による損傷を示し、(c)は膜の長手方向に伸びる亀裂による損傷を示す。
【符号の説明】
【0041】
1,21,101 膜ろ過装置
2 原水タンク
3 原水ポンプ
4,24 膜モジュール
5,25,102 原水室
6,26,105 透過水室
7,27 ろ過膜
8 凝集剤投入機
9 攪拌機
10 原水
11 ナノバブル発生機
12 ナノバブル検出器
13 原水配管
14 透過水配管
15 筐体
22 循環配管
103 被処理室
104 中空糸膜
106,107 封止材
106a 通水孔
108 エゼクタ
109 光源
110 CCDカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
限外ろ過膜、精密ろ過膜又は逆浸透膜からなるろ過膜を備え、原水に含まれる分離対象物質をろ過分離する膜ろ過部を有する膜ろ過装置に設けられ、前記ろ過膜の損傷を検知する膜損傷検知装置において、
前記膜ろ過部に導入される原水に鉄系凝集剤を添加する凝集剤添加部と、
前記原水中に直径が0.01〜1μmのナノバブルを発生させるナノバブル発生部と、
前記ろ過膜を透過した透過水への前記ナノバブルの漏出の有無を検出する検出部とを有することを特徴とする膜損傷検知装置。
【請求項2】
原水に対する前記鉄系凝集剤の添加量が、鉄イオン濃度で10〜30mg/リットルであることを特徴とする請求項1に記載の膜損傷検知装置。
【請求項3】
クロスフロー方式でろ過分離を行う膜ろ過装置に設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の膜損傷検知装置。
【請求項4】
原水に鉄系凝集剤を添加する工程と、
原水中に直径が0.01〜1μmのナノバブルを発生させる工程と、
前記ナノバブルが存在する原水を、限外ろ過膜、精密ろ過膜又は逆浸透膜からなるろ過膜を備えた膜ろ過部に導入し、前記原水に含まれる分離対象物質をろ過分離する工程と、
前記ろ過膜を透過した透過水への前記ナノバブルの漏出の有無を検出する工程とを有することを特徴とする膜損傷検知方法。
【請求項5】
原水に前記鉄系凝集剤を添加した後、前記ナノバブルを発生させることを特徴とする請求項4に記載の膜損傷検知方法。
【請求項6】
前記鉄系凝集剤添加工程と前記ナノバブル発生工程とを同時に行うことを特徴とする請求項4に記載の膜損傷検知方法。
【請求項7】
原水中の鉄イオン濃度が10〜30mg/リットルとなるように前記鉄系凝集剤を添加することを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の膜損傷検知方法。
【請求項8】
前記ろ過分離工程は、クロスフロー方式でろ過分離を行うことを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載の膜損傷検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−260497(P2007−260497A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−85898(P2006−85898)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(506102053)株式会社総合環境開発 (1)
【Fターム(参考)】