説明

膜材料

【課題】ポリ乳酸を用いて生分解性を有し廃棄に際して自然環境に及ぼす影響を軽減できるうえに、可塑剤を配合することにより優れた柔軟性・可撓性を付与する一方で、可塑剤を配合することによるポリ乳酸の結晶化が引き起こす白化・変形などの外観変化や可塑剤の浸出による表面汚れを抑制できる膜材料を提供することを課題とする。
【解決手段】布帛を熱可塑性樹脂で被覆してなる膜材料であって、該熱可塑性樹脂中に可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子を含有していることを特徴とする膜材料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来で生分解性を有する熱可塑性樹脂組成物で布帛を被覆している膜材料および該膜材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、多くのフィルムや容器などの生活用品と産業資材用品に利用されている石油系合成樹脂は、加熱廃棄処理に伴う熱および排気ガスによる地球温暖化、さらに燃焼ガスおよび燃焼後の残留物中の毒性物質による食物や健康ヘの悪影響、廃棄埋設処理地の碓保など、その廃棄処理過程についてだけでも様々な社会問題が懸念されている。
この種の石油系合成樹脂を利用している産業資材製品の中に、テント素材や建築や野外活動に利用される防水シート等の繊維性樹脂被覆膜材料がある。
前記防水シート等に用いる繊維性樹脂被覆膜材料は可撓性であって、シート状の熱可塑性軟質樹脂に縦横に走る繊維糸条を内包する構造となっているのが一般である。
前記テント素材や建築用等に用いる防水シートは、野外で多く用いられる性質上、自然環境内に散逸しやすい上に、自然では分解できないため長年において環境内に停留することになる。さらには、たとえゴミとして回収されても埋め立てでは分解できず、燃焼させれば地球温暖化ガスである二酸化炭素を大気中に排出され、廃棄処理上で問題がある。
【0003】
前記石油系合成樹脂の廃棄処理の問題点を解決する材料として、デンプンやポリ乳酸に代表される植物由来の生分解性樹脂が注目されてきている。生分解性樹脂は、一般の石油系非分解性合成樹脂に比べて、燃焼に伴う熱量が少なく、かつ自然環境での分解・再合成のサイクルが保たれる等、生態系を含む地球環境に悪影響を与えない。生分解性樹脂のなかでも、脂肪族ポリエステル系樹脂は強度や加工性の点で石油系合成高分子材料に匹敵する特性を有し、近年特に注目を浴びている素材である。脂肪族ポリエステル系樹脂のなかでも、特にポリ乳酸は植物から供給されるデンプンから作られ、近年の大量生産によるコス卜ダウンで他の生分解高分子材料に比べて非常に安価になりつつある点から、現在その応用について多くの検討がなされている。
【0004】
しかし、ポリ乳酸は、実質的に伸びが殆どなく、変形や衝撃に対しての吸収性に乏しく、脆く、ガラスのように割れやすい。このような脆さを改善し耐衝撃性を汎用のプラスチック並みに向上させるため、ポリ乳酸に特定の可塑剤を混練することが非特許文献1に記載されている。
【0005】
ところが、単にポリ乳酸に可塑剤を混合する方法では、非結晶状態のポリ乳酸分子間に可塑剤が入ってポリ乳酸分子間の結合力を弱めてガラス転移温度を下げるために、通常ではガラス転移温度以上でしか起こらない結晶化が非常に起こりやすくなる。
ポリ乳酸が結晶化すると、分子に隙間が無くなるので分子間に入っていた可塑剤は行き場を失い外に析出し、その結果、柔軟性は失われる。さらには非結晶状態で透明であったポリ乳酸は結晶によって白く濁るため、見た目の色まで経時変化を起こすことになる。
【0006】
結晶性を抑制し、目的や用途に応じた優れた耐衝撃性、柔軟性、生分解性、可撓性、透明性を有し、しかも可塑剤の浸出による表面汚れの少ない改良されたポリ乳酸組成物及びその成型品が特許文献1に記載されている。
これには脂肪族ジカルボン酸及び鎖状分子ジオールを主成分とする脂肪族ポリエステルの可塑剤を使用する方法であるが、これにおいても結晶化の進行を止めるものではなく、可塑剤の添加量は50%未満としなければブリードが特に著しい。
【0007】
また、可塑剤によって可塑化したポリ乳酸は金属ロールヘの粘着が著しく、カレンダー成形が困難である。カレンダー成形法によるシート成形に好適で、かつ柔軟性を有し、しかも耐ブロッキング性に優れた生分解性シートの提案が、ポリ乳酸とこれとは異なる脂肪旗ポリエステル樹脂と脂肪族−芳香族コポリエステル樹脂と可塑剤成分からなる生分解性軟質シー卜として特許文献2に記載されている。
しかしながら、これによれば植物由来成分が著しく減少することから、例え生分解しても多くの石油由来成分が自然環境内に散逸することとなる。
【0008】
以上のようにポリ乳酸は、柔軟性を著しく欠き、可塑剤による柔軟化も困難なために、繊維性樹脂被覆膜材料へ応用することはでき難かった。
【0009】
【非特許文献1】荒川化学工業(株)発行、「荒川NEWS」、2004年7月発行、No.326号 第2頁〜第7頁
【特許文献1】特開平8−245866号公報
【特許文献2】特開2007−186543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ポリ乳酸を用いて生分解性を有し、廃棄に際して自然環境に及ぼす影響を軽減できるうえに、可塑剤を配合することにより優れた柔軟性・可撓性を付与する一方で、可塑剤を配合することによるポリ乳酸の結晶化が引き起こす白化・変形などの外観変化や可塑剤の浸出による表面汚れを抑制できる膜材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、この課題について鋭意研究を重ねた結果、熱可塑樹脂中に繊維性布帛を内包する樹脂被覆膜材料において、該熱可塑性樹脂中に可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子を含有することで前述の課題を解決することを知見し、本発明に至った。
【0012】
前記知見に基づき、本発明は、布帛を熱可塑性樹脂で被覆してなる膜材料であって、該熱可塑性樹脂中に可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子を含有していることを特徴とする膜材料を提供している。
【0013】
前記熱可塑性樹脂は非結晶性ポリ乳酸であることが好ましい。
また、前記布帛はポリ乳酸製の繊維のみからなり、あるいはポリ乳酸や生分解性原料からなる繊維を主成分とすることが好ましい。
【0014】
本発明は、前記膜材料の第1の製造方法として、
前記可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子と熱可塑性樹脂とを混練し、該混練物を加熱成型して得られるフィルムまたはシートを、布帛の片面あるいは両面に積層して、加熱圧着することを特徴とする膜材料の製造方法を提供している。
【0015】
また、前記膜材料の第2の製造方法として、
前記可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子を熱可塑性樹脂の溶液あるいは分散液に混合した樹脂組成液を取得し、該樹脂組成液を布帛に含浸させ、又は布帛の片面あるいは両面に塗布した後加熱していることを特徴とする膜材料の製造方法を提供している。
なお、前記樹脂組成液の布帛への塗布方法としては公知の方法が用いられる。
【0016】
前記布帛はポリ乳酸製の繊維を全質量の50質量%以上含んでいることが好ましく、80質量%以上含んでいることがより好ましく、ポリ乳酸製の繊維のみからなることが更に好ましい。
なかでも、ポリ乳酸を繊維化して製造したスパンボンド、スパンレース、ニードルパンチ不織布およびフェル卜や、ポリ乳酸繊維を短繊維紡績糸または長繊維モノフィラメント糸やマルチフィラメント糸として製造した織布、編布は植物由来であり、生分解性を有する観点と非石油由来である観点から好適に用いられる。
【0017】
布帛の形態は織布、編布、不織布、フェルト等、特に制限されないが、引張強度付与の観点から平織の織布が好適に用いられる。
また、繊維はポリ乳酸製の繊維が好ましいが、繊維の種類は限定されず、天然繊維または合成繊維、再生繊維、半合成繊維、無機繊維およびそれらを混合した繊維でもよい。
更に詳しくは、綿、麻もしくはケナフなどの植物系繊維、絹もしくは獣毛等の動物系繊維、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、アクリル系、ポリオレフィンもしくはポリウレタン系などの合成繊維、ビスコースレーヨンやキュプラなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ガラス繊維、金属繊維もしくは炭素繊維などの無機繊維の単独か複合繊維であって、必要に応じて短繊維、長繊維、短繊維による紡績糸、長繊維モノフィラメント糸あるいはマルチフイラメン卜糸等を適宜選択して用いてもよい。
【0018】
前記第1の製造方法において、架橋ポリ乳酸粒子と熱可塑性樹脂との混練物からフィルムまたはシートの成形方法は、Tダイ、インフレーションダイ等を用いた単軸、2軸、多軸押出し法やカレンダーを用いた圧延法など適宜選択できるが、特にTダイ法によって押出しする方法が好適に用いられる。
前記熱可塑性樹脂からなるシート状物としては、熱可塑性樹脂を繊維化して製造したスパンボンド、スパンレース、ニードルパンチ不織布およびフェル卜や、前記熱可塑性樹脂を短繊維紡績糸または長繊維モノフィラメント糸やマルチフィラメント糸として製造した織布、編布等が挙げられる。なかでも熱可塑性樹脂を成形して得られるフィルムもしくはシートが好ましい。
布帛との積層の方法としては直接接合する熱ラミネートや、接着剤を介して積層させるウェッ卜ラミネート、ドライラミネート、セミドライラミネートなどの接着ラミネートを選択できるが、特に直接接合させる熱ラミネートはTダイ押出し法やカレンダー法と組合せてフィルムの成型と積層を同時に行える面から好適に用いられる。
【0019】
前記第2の製造方法では、前記可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子を含む熱可塑性樹脂の樹脂組成液を、布帛に含浸または塗布する方法としては、樹脂組成液槽に布帛を浸漬後これを引き上げて1対のロールで挿んで絞るディッピング法や、ナイフコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、オフセットコーティングなどの方法を用いるが、特にディッピング法とナイフコーティング法が好適に使用できる。
さらに、第1の製造方法の積層または第2の方法の含浸または塗布の工程は複数を組み合わせて行うこともできる。
【0020】
被覆後に更に表面に意匠付与のための印刷や、防汚性処理、撥水処理、親水処理、防曇処理、接着処理などの機能付与のための表面処理加工を施しても良い。
該膜材料を基材として、この上に更に既知の各種後加工を行うことができる。例えば、粘着剤を塗布して剥離紙を介挿して粘着シートとしたり、金属蒸着処理をして反射材としることができる。
本発明の膜材料を公知の方法によって熱縫製または熱成形して膜材料構造体を製造することができる。更に、この膜材料構造体を公知の方法によって後架橋させることによって耐熱性の膜材料構造体を製造することができる。
【0021】
前記布帛に積層または塗布する熱可塑性樹脂と架橋ポリ乳酸粒子とからなる組成物は、熱可塑性樹脂100質量部に対し前記架橋ポリ乳酸粒子を0.1〜100質量部混合することが好ましい。前記架橋ポリ乳酸粒子の配合量が0.1質量部以下であると当該架橋ポリ乳酸粒子を添加した効果が得られにくい。一方、前記架橋ポリ乳酸粒子の配合量が100質量部を超えると熱可塑性樹脂中に均一に分散することが困難に成り得るからである。
なかでも、熱可塑性樹脂100質量部に対し前記架橋ポリ乳酸粒子を20〜50質量部混合することがより好ましい。
【0022】
前記可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子は、ポリ乳酸と多官能性モノマーを含むポリ乳酸組成物に電離性放射線を照射して前記ポリ乳酸を架橋させ、得られたポリ乳酸架橋物を平均粒径が0.1〜500μmの粒子に粉砕し、得られた架橋ポリ乳酸粒子に含有率が5%以上60%以下となるように可塑剤を含浸させることにより得ることが好ましい。
【0023】
詳細には、前記可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子を下記の手法より取得している。
本発明で用いられるポリ乳酸としては、L−乳酸からなるポリ乳酸、D−乳酸からなるポリ乳酸、L−乳酸とD−乳酸の混合物を重合することにより得られるポリ乳酸、またはこれら2種類以上の混合物が挙げられる。なお、ポリ乳酸を構成するL−乳酸またはD−乳酸は化学修飾されていても良い。
ポリ乳酸は前記のようなホモポリマーが好ましいが、乳酸モノマーまたはラクチドとそれらと共重合可能な他の成分とが共重合されたポリ乳酸コポリマーを用いても良い。コポリマーを形成する前記「他の成分」としては、例えばグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、5−ヒドロキシ吉草酸もしくは6−ヒドロキシカプロン酸などに代表されるヒドロキシカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、デカンジカルボン酸、テレフタル酸もしくはイソフタル酸などに代表されるジカルボン酸;エチレングリコール、プロパンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、グリセリン、ソルビタンもしくはポリエチレングリコールなどに代表される多価アルコール;グリコリド、ε−カプロラクトンもしくはδ−ブチロラクトンに代表されるラクトン類等が挙げられる。
【0024】
前記ポリ乳酸を架橋するためには多官能性モノマーを配合している。
前記多官能性モノマーとしては、電離性放射線の照射などによりポリ乳酸を架橋できるモノマーであれば特に制限を受けないが、例えばアクリル系もしくはメタクリル系の多官能性モノマーまたはアリル系多官能性モノマーが挙げられる。
アクリル系もしくはメタクリル系の多官能性モノマーとしては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0025】
前記アリル系多官能性モノマーとしてはトリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルシアヌレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジアクリルクロレンテート、アリルアセテート、アリルベンゾエート、アリルジプロピルイソシアヌレート、アリルオクチルオキサレート、アリルプロピルフタレート、ジアリルマレート、ジアリルアジペート、ジアリルカーボネート、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルフマレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマロネート、ジアリルオキサレート、ジアリルフタレート、ジアリルプロピルイソシアヌレート、ジアリルセバセート、ジアリルサクシネート、ジアリルテレフタレート、ジアリルタトレート、ジメチルアリルフタレート、エチルアリルマレート、メチルアリルフマレート、メチルメタアリルマレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0026】
前記多官能性モノマーは、ポリ乳酸100質量部に対して0.5質量部以上15質量部以下の割合で配合されていることが好ましい。さらに好ましい多官能性モノマーの配合量は3質量部以上8質量部以下である。
これは、多官能性モノマーの配合量が0.5質量部未満であると、多官能性モノマーによるポリ乳酸の架橋効果が十分に発揮されず、可塑剤を含浸させる際に架橋ポリ乳酸粒子の強度が低下し、最悪の場合形状を維持できなくなる可能性があるからである。一方、多官能性モノマーの配合量が15質量部を超えると、ポリ乳酸に多官能性ポリマー全量を均一に混合するのが困難になり、実質的に架橋効果に顕著な差が出なくなると言う理由からである。
【0027】
ポリ乳酸と多官能性モノマーを混ぜて混合物とするには、加熱溶融した状態のポリ乳酸に多官能性モノマーを入れて混練すればよいが、後の工程で粉砕して粒子化することを考えれば、2軸押出機にて混練すると同時にチューブ状に押出し、ペレタイザーにてペレットとすることが好適である。
【0028】
得られたポリ乳酸組成物に電離性放射線を照射し、ポリ乳酸を架橋させることによりポリ乳酸架橋物を得ている。
電離性放射線としてはγ線、エックス線、β線またはα線などが使用できるが、工業的生産にはコバルト−60によるγ線照射や、電子線加速器による電子線照射が好ましい。
電離性放射線の照射は空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行うのが好ましい。電離性放射線の照射によって生成した活性種は空気中の酸素と結合して失活すると架橋効果が低下するためである。
【0029】
電離性放射線の照射量は50kGy以上200kGy以下であることが好ましい。
多官能性モノマー量によっては電離性放射線の照射量が1kGy以上10kGy以下であってもポリ乳酸の架橋は認められるが、ほぼ100%のポリ乳酸分子を架橋するには電離性放射線の照射量が50kGy以上であることが好ましい。さらに、後の工程で液体状の可塑剤に浸漬したときに形状の変化を抑えて均一に膨潤させるためには、電離性放射線の照射量が80kGy以上であることが好ましい。
一方、電離性放射線の照射量が200kGy以下であるのは、ポリ乳酸が樹脂単独では放射線で崩壊する性質を有するため、電離性放射線の照射量が200kGyを超えると架橋とは逆に分解を進行させることになるからである。電離性放射線の照射量の上限値は150kGyであることが好ましく、100kGyであることがより好ましい。
【0030】
ポリ乳酸架橋物は、ポリ乳酸に多官能性モノマーと化学開始剤を混合したのち、所望の形状に成形し、化学開始剤が熱分解する温度まであげることによっても、ポリ乳酸架橋物を作製することができる。
多官能性モノマーとしては、前記態様と同じ物質を用いることができる。
化学開始剤としては、熱分解により過酸化ラジカルを生成する過酸化ジクミル、過酸化プロピオニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化ジアシル、過酸化ペラルゴニル、過酸化ミリストイル、過安息香酸−t−ブチルもしくは2,2’−アゾビスイソブチロニトリルなどの過酸化物触媒をはじめとするモノマーの重合を開始する触媒であればいずれでもよい。
架橋させるための濃度条件は化学開始剤の種類により適宜選択することができる。架橋は、放射線照射の場合と同様、空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行うのが好ましい。
【0031】
本発明のポリ乳酸架橋物においてはポリ乳酸成分が実質的に100%架橋されていることが好ましい。そのために、可塑剤に浸漬する前のポリ乳酸架橋物は、ゲル分率が95%以上であり、好ましくは98%以上であり、より好ましくは実質的に100%である。
さらに、ゲル分率が実質的に100%を越えた範囲でも、架橋点の量、すなわち架橋密度が重要で、架橋密度を上げていくことで可塑剤の含浸量を制御することが可能である。これは、架橋ネットワーク構造が緻密になることで構造変化・体積変化しにくくなることを利用しており、架橋性モノマーの量、架橋させる電離性放射線の量などを増減させることで架橋密度を増減させて、可塑剤の含浸量を制御することが可能である。
【0032】
なお、ポリ乳酸架橋物のゲル分率は以下の方法で測定する。
ポリ乳酸架橋物の乾燥質量を正確に計ったのち、200メッシュのステンレス金網に包み、クロロホルム液の中で48時間煮沸したのちに、クロロホルムに溶解したゾル分を除いて残ったゲル分を得る。50℃で24時間乾燥して、ゲル中のクロロホルムを除去し、ゲル分の乾燥質量を測定する。得られた値をもとに下記式に基づきゲル分率を算出できる。
ゲル分率(%)=(ゲル分乾燥質量/ポリ乳酸架橋物の乾燥質量)×100
【0033】
前記した手法で得られたポリ乳酸架橋物を粉砕機にて粉末粒子状に粉砕している。
粉砕方法は特に限定されず、たとえば乳鉢や回転刃などですりつぶす形式のグラインドミル、衝撃で破砕する形式のハンマーミル、高速で材料同士を衝突させる形式のジェットミルが利用できる。常温で行ってもよいし、液体窒素などで冷却して行ってもよい。
粉末は平均粒径が0.1〜500μmであり、さらに望ましくは1〜500μmである。
【0034】
前記手法で取得した架橋ポリ乳酸粒子に可塑剤を担持させている。
具体的には、粉末状の架橋ポリ乳酸粒子を加熱した液体状の可塑剤に浸漬するか、または粉末の隙間に適量の可塑剤を含ませた状態で加熱するなどして、ポリ乳酸の粉末1粒1粒の中に可塑剤を含浸させて膨潤した状態とする。前記処理における至適温度は可塑剤の種類により異なるが、通常はポリ乳酸のガラス転移温度以上分解温度以下の温度である。具体的には、例えば65〜120℃である。
【0035】
本発明で使用する可塑剤は、常温で液体状のもの、または常温では固体であってもポリ乳酸のガラス転移温度以上分解温度以下の温度で融解し液体となるものであって、混練してポリ乳酸を柔軟にすることができれば種類は問わない。
なかでも、可塑剤としてはジカルボン酸誘導体を含む可塑剤を好適に用いることができる。ジカルボン酸誘導体としては、ジカルボン酸のエステル体、ジカルボン酸の金属塩またはジカルボン酸の無水物等が挙げられる。
前記ジカルボン酸としては、炭素数2〜50、特に炭素数2〜20の直鎖または分岐状の飽和又は不飽和脂肪族ジカルボン酸、炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸、及び数平均分子量2000以下、特に1000以下のポリエーテルジカルボン酸等が挙げられる。なかでも、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸もしくはデカンジカルボン酸などの炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸、及びフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸が好ましい。
ジカルボン酸誘導体としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸またはフタル酸などのジカルボン酸の、アセチル化体に代表されるエステル化体がより好ましい。なかでも本発明においてはアジピン酸エステルである大八化学工業(株)製「DAIFFATY−101」を用いることが特に好ましい。
【0036】
さらに、本発明の目的から、石油由来の可塑剤よりも天然由来材料からなる可塑剤が好適である。前記天然由来材料からなる可塑剤としてはグリセリン誘導体が好ましい。グリセリン誘導体としては、グリセリン脂肪酸モノエステル、グリセリン脂肪酸ジエステルまたはグリセリン脂肪酸トリエステルなどのグリセリンをエステル化した誘導体が挙げられる。
上記エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数2〜22の飽和または不飽和脂肪酸が挙げられ、具体的には酢酸、プロピオン酸、酪酸(ブタン酸)、イソ酪酸、吉草酸(ペンタン酸)、イソ吉草酸、カプロン酸(ヘキサン酸)、ヘプタン酸、カプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、イソカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、エルシン酸、12−ヒドロキシオレイン酸などが挙げられる。グリセリン脂肪酸ジエステルまたはグリセリン脂肪酸トリエステルを構成する2種または3種の脂肪酸は同一であっても異なっていても良い。
特にグリセリン誘導体としてはグリセリンをアセチル化した誘導体がより好ましく、なかでも卜リアセチルグリセリド(通称トリアセチン)やアセチル化モノグリセライドである理研ビタミン(株)製「リケマールPL(シリーズ)」などが好適である。
【0037】
本発明の架橋ポリ乳酸粒子においては、可塑剤の含有率が5%以上60%以下であることが好ましい。架橋ポリ乳酸粒子のガラス転移温度以下での柔軟性を碓保するために可塑剤の含有率を5%以上としている。より柔軟性向上効果を発揮させるためには可塑剤の含有率は10%以上が好ましく、特に20%以上が好ましい。
可塑剤の含有率を60%以下としているのは、可塑剤の含有率が60%を超えると可塑剤が析出するといういわゆるブリードが起こりえるためである。可塑剤の含有率は50%以下が好ましい。
なお、可塑剤の含有率は下記式により算出する。
可塑剤含有率(%)={(A−B)/A}×100
(式中、Aは可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子の質量を、Bは可塑剤を担持させる前の架橋ポリ乳酸粒子の質量を示す。)
【0038】
前記可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子と熱可塑性樹脂とを混合している。
この混合は、前記ポリ乳酸と多官能性モノマーの混合同様、加熱溶融した状態の熱可塑性樹脂に架橋ポリ乳酸粒子を入れて混練してもよいし、液状の熱可塑性樹脂組成物に架橋ポリ乳酸粒子を混合しても良い。前者の方法としては、熱可塑性樹脂の原料ペレッ卜と架橋ポリ乳酸粒子を予め所望の比率で混合しておき、Tダイ単軸押出機やTダイ2軸押出機、あるいはインフレーション押出機あるいはカレンダー成型機によってフィルムやシート等所望の形状に成型することが好適である。また、後者の場合は、熱可塑性樹脂が液状樹脂ペーストまたはエマルジョン、ディスバージョン、ラテックス、樹脂溶液などであってこれに適度の粘性を付与して前記の可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子を混合できる。
【0039】
前記可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子と熱可塑性樹脂の混合比は可塑剤の種類と含有率および熱可塑性樹脂の種類の組み合わせによって適宜調整する必要があるが、基本的には熱可塑性樹脂は結着剤として働き、膜材料自体の柔軟性は可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子が担うものである。配合量は、前記のように、熱可塑性樹脂100質量部に対し前記架橋ポリ乳酸粒子を0.1〜100質量部とすることが好ましい。
【0040】
本発明で用いる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレンなどの汎用樹脂、ポリエステル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、スチレン系樹脂、ABS、オレフィン系エラストマー、各種合成ゴムなどの樹脂被覆膜材料に一般に使用されている石油系合成樹脂を使用してよい。
しかし、本発明の目的を鑑みれば、その一部あるいは全部が生分解性樹脂であることが好ましい。より具体的には、熱可塑性樹脂のうち50質量%以上が生分解性樹脂であることが好ましく、80質量%以上が生分解性樹脂であることがより好ましく、実質的に100%が生分解性樹脂であることが特に好ましい。
【0041】
生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリエステルと芳香族ポリエステルのコポリマーの中から選ばれる1種類あるいは2種類以上の生分解性樹脂を用いることが好ましい。
脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ε−カプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートアジペー卜、前述したポリ乳酸などが挙げられる。
脂肪族ポリエステルと芳香族ポリエステルのコポリマーとしては、例えば上記脂肪族ポリエステルにテレフタル酸など芳香族を導入したポリブチレンアジペー卜テレフタレート等が挙げられる。
【0042】
生分解性樹脂としては、そのほか、例えば、セルロース、デンプン、キチン、キトサン、アルギン酸などの天然多糖類およびそれらをアセチル化、エステル化等した誘導体などの多糖類系生分解性樹脂;3−ヒドロキシ酪酸(3HB)、3−ヒドロキシ吉草酸(3HV)、3−ヒドロキシプロピオン酸(3HP)、4−ヒドロキシ酪酸(4HB)の炭素数3〜5のヒドロキシアルカン酸をモノマー単位とするポリ(ヒドロキシアルカナート)類、;ポリビニルアルコール系樹脂;ポリグリコール酸;グリコール酸とラクトン類との共重合体などが挙げられる。
【0043】
本発明で用いる熱可塑性樹脂として、ポリ乳酸は植物由来である点や架橋ポリ乳酸粒子との親和性の点からとくに好ましい。中でも光学異性体であるD体比率が高いために結晶化が阻害されている、非結晶性のポリ乳酸はシートにしたときに柔軟性や折り目がつきにくい等のメリットが得られるために好適に用いられる。
市販されているものとしては、三井化学(株)製のレイシアH280、ネイチャーワークス社のD7300などである。
【0044】
可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子と熱可塑性樹脂とを混合する際に、本発明の目的に反しない限り他の成分を配合しても良い。
前記他の成分としては、硬化性オリゴマー、酸化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤などの各種安定剤、難燃剤、帯電防止剤、防カビ剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、滑剤、発泡剤もしくは粘性付与剤等の添加剤、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉末、タルク、マイカもしくはシリカ等の金属酸化物、金属水酸化物等の無機・有機充填材、染料もしくは無機・有機顔料などの着色剤等が挙げられる。
前記他の成分は可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子を作製する際に予め添加されていても良い。
【発明の効果】
【0045】
本発明の膜材料はポリ乳酸を含み生分解性を有していることから、自然界において生態系に及ぼす影響が極めて少なく、従来の繊維性樹脂被覆膜材料が有していた廃棄処理に関わる諸問題を解決できる。また、該膜材料は可塑剤を担持したポリ乳酸が柔軟成分となるため優れた柔軟性・可撓性を有している。さらに、可塑剤が架橋ポリ乳酸に担持されているため可塑剤の浸出による表面汚れを抑制できる。
さらにまた、本発明の膜材料においては、前記ポリ乳酸が架橋されているため耐熱性が向上されており、例えば熱水に浸漬しても白化したり、変形したりすることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明の膜材料の実施形態を示す。
図1に第1実施形態の膜材料を示す。該膜材料は、可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子1を含有する熱可塑性樹脂2で布帛3を被覆している。該膜材料では、布帛3の全体に熱可塑性樹脂2を含浸して被覆している。
図2に第2実施形態の膜材料を示す。該膜材料は、布帛3の片面を、可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子1を含有する熱可塑性樹脂2で部分的に被覆すると共に、被覆していない部分では布帛3を露出させている。
図3に第3実施形態の膜材料を示す。該膜材料は、布帛3の両面に、可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子1を含有する熱可塑性樹脂2で部分的に被覆する共に、被覆していない部分では布帛3を露出させている。
このように、本発明の膜材料は、布帛の片面または両面を全面的に可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子1を含有する熱可塑性樹脂2で被覆してもよいし、部分的に被覆してもよい。
なお、図示していないが、本発明の膜材料は、布帛3が2層以上積層しているものでもよい。
【0047】
図1の膜材料の製造方法について、以下に説明する。
最初に架橋ポリ乳酸粒子を下記の手順で製造する。
まず、ポリ乳酸を加熱により軟化させるか、あるいはクロロホルムやクレゾール等のポリ乳酸が溶解しうる溶媒中にポリ乳酸を溶解または分散させる。
ついで、架橋性モノマーおよび所望により添加剤を添加する。架橋性モノマーとしてはTAICが特に好ましい。架橋性モノマーの添加量は、ポリ乳酸100質量部に対して3質量部以上10質量部以下が好ましい。
添加後、架橋性モノマーが均一になるように撹拌混合する。
ついで、冷却させると同時にペレット状態に固めて成形する。溶媒を用いた場合は溶媒を乾燥除去して粉末状あるいは塊状とする。
【0048】
得られたポリ乳酸成形物に電離性放射線を照射し、ポリ乳酸を架橋させ、ポリ乳酸架橋物を得る。電離性放射線は、電子線加速器による電子線照射が好ましい。放射線照射量は60kGy以上150kGy以下の範囲から架橋性モノマーの配合量等に応じて適宜選択する。特に電離性放射線照射後に得られるポリ乳酸架橋物のゲル分率が実質的に100%となることを目安に選択する。
ついで、得られたポリ乳酸架橋物を粉砕し架橋ポリ乳酸粒子を得る。架橋ポリ乳酸粒子の平均粒径は1〜300μmが好ましく、1〜100μmがより好ましく、5〜100μmが特に好ましい。
【0049】
次に、架橋ポリ乳酸粒子に可塑剤を担持させる。具体的には、得られた架橋ポリ乳酸粒子を可塑剤を混合して、熱かけてゲル膨潤させる。
可塑剤としては、グリセリン誘導体であるトリアセチルグリセリドもしくはアセチル化モノグリセリド(特にグリセリンジアセトモノラウレート)、またはジカルボン酸誘導体であるアジピン酸エステルを用いることが好ましく、アジピン酸エステルを用いることがより好ましい。
ゲル膨潤させる際の温度はポリ乳酸のガラス転移温度以上融点以下の温度であり、好ましくは80〜120℃で可塑剤が液体状態を保てる温度が好ましい。また、ゲル膨潤させる時間は5〜90分が好ましく、10〜60分がより好ましい。
【0050】
架橋ポリ乳酸粒子内に可塑剤が含浸され架橋ポリ乳酸粒子が膨潤した状態でポリ乳酸のガラス転移温度以下に冷却することで可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子が得られる。冷却は放冷により徐々に冷却しても良いし、水冷などにより急冷してもよい。
【0051】
次に、得られた可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子を熱可塑性樹脂と混合する。
熱可塑性樹脂としては、生分解性樹脂が好ましく、ポリ乳酸がより好ましく、非結晶性ポリ乳酸がより好ましい。
架橋ポリ乳酸粒子と熱可塑性樹脂の混合比は、熱可塑性樹脂100質量部に対し前記架橋ポリ乳酸粒子を1〜100質量部とすることが好ましく、10〜100質量部とすることがより好ましく、さらに20〜80質量部とすることが好ましく、40〜80質量部とすることが特に好ましい。
【0052】
この際に、酸化防止剤や滑剤などの他の成分を混合してよい。前記他の成分は可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子を含む熱可塑性樹脂全体の10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0053】
次に、得られた可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子を含む熱可塑性樹脂を用いてフィルム4を作製する。フィルム4の成形方法は特に限定されないが、Tダイ法による押出成形が好適である。フィルムの厚さも特に限定されず、1〜1000μmが好ましく、10〜500μmがより好ましい。
【0054】
最後に、図4に示すように、得られたフィルム4を布帛3の両面に積層して加熱圧着して、図1に示す膜材料を製造している。
なお、布帛3を2層以上積層させてもよく、その場合フィルム4と布帛3とを交互に積層して加熱圧着してもよいし、布帛3を2層以上積層させたのちその最外層にフィルム4を積層して加熱圧着してもよい。
【0055】
前記布帛3はポリ乳酸製の繊維を含むことが好ましく、実質的にポリ乳酸製の繊維のみからなることがより好ましい。前記布帛の形態としては平織の織布が好適である。
圧着時の加熱温度は熱可塑性樹脂の融点より高い温度にすることが好ましい。こうすることにより布帛とフィルムをより強固に一体化させることができる。例えば熱可塑性樹脂としてポリ乳酸を用いた場合は130〜230℃、好ましくは150〜200℃に加熱する。
【0056】
このようにして得られる本発明の膜材料は可撓性を有し、柔軟性に優れ、折り曲げてもシワにならない。さらに、耐熱性にも優れ、例えば90℃の熱水中に浸漬しても白化せず、変形もしない。加えて、用途によっては折り曲げたときに折り目も白化しないことが好ましい。
【0057】
以下、本発明について実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
ポリ乳酸生分解性樹脂として、三井化学(株)製ポリ乳酸「レイシアH440」を使用した。アリル系架橋性モノマーの1種であるTAICを用意し、2軸押出機(池貝鉄工(株)製PCM30型)を用いてシリンダ温度150℃で生分解性樹脂を溶融押出する際に押出機のペレット供給部にTAICをペリスタポンプにて定速滴下することで生分解性樹脂にTAICを添加した。その際、TAICの配合量が生分解性樹脂100質量部に対して5重量部数になるように添加量を調整した。棒状に押し出したものを水冷ののちにペレタイザーにてペレット化し、生分解性樹脂と架橋性モノマーのペレット状混練物を得た。
【0059】
このペレットに対し、空気を除いた不活性雰囲気で電子加速器(加速電圧10MeV、電流量12mA)により電子線を90kGy照射し、ポリ乳酸架橋物を得た。ついで、この架橋物を衝撃粉砕機アトマイザーミルにて粉砕し、425μmふるいにて95%パスで分級して平均約100μmの架橋ポリ乳酸粒子を得た。
【0060】
得られた架橋ポリ乳酸粒子に、同じ重量の含浸材を混合し密閉容器に入れて加熱した。含浸材としては、大八化学(株)製可塑剤「DAIFATTY−101」を用い、加熱は100℃の恒温槽内に30分放置した。そののち、室温で放冷した。架橋ポリ乳酸粒子100重量部に対する可塑剤の吸油量は100重量部であった。

【0061】
該可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子30重量部に対して三井化学(株)製「レイシアH280」50重量部を混合し軸径40mmの単軸押出し機を用いて樹脂温度180℃でT型ダイからフィルムを押出し成型した。以上のようにして実施例1の柔軟な厚み160μのフィルムを得た。
【0062】
該フィルムをポリ乳酸製250デニール糸使用目開きの平織布帛の両面に介挿して、150℃の平板熱プレスにて圧着積層して実施例1の柔軟な樹脂積層膜材料を得た。
膜材料の熱変化の指標として、膜材料を90℃の温水中に5分間浸漬して外観の変化を観察した。実施例1の樹脂積層膜材料を90℃の温水中に浸漬しても白化せず、変形もなかった。実施例1の柔軟な樹脂積層膜材料を折り曲げてもシワにはならず、折り目も白化しなかった。
【0063】
(実施例2)
該可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子30重量部に対して三井化学(株)製「レイシアH280」50重量部を混合するところまでは同様に準備した。該混合物に滑剤と酸化防止剤を適宜添加した組成物を150℃のオープンロールで混練し、圧延によって実施例2の柔軟な厚み160μのフィルムを得た。
【0064】
該フィルムを前記ポリ乳酸製250デニール糸使用目開きの平織布帛の両面に介挿して、150℃の平板熱プレスにて圧着積層して実施例2の柔軟な樹脂積層膜材料を得た。
実施例2の樹脂積層膜材料は90℃の温水中に浸漬しても白化せず、変形もなかった。実施例2の柔軟な樹脂積層膜材料を折り曲げてもシワにはならず、折り目も白化しなかった。
これは、可塑剤を担持したポリ乳酸が柔軟成分となり架橋により耐熱性が高く、かつ熱可塑性樹脂が非結晶性ポリ乳酸であるために屈曲白化しなかったと考えられる。
実施例2の柔軟な樹脂積層膜材料を2枚重ねて高周波ウェルダー溶着試験を行なうと溶着できた。このときの溶着部剥離強力は15kg/3cmであって、一般的なポリエステル製250デニール糸使用目開き平織布帛の両面に軟質塩化ビニル樹脂フィルムを積層した樹脂積層膜材料と比較して遜色ない結果であった。
【0065】
(実施例3)
可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子30重量部に対して三井化学(株)製「レイシアH400」50重量部を混合する以外は実施例2と同様に実施して圧延によって実施例3の柔軟な厚み160μのフィルムを得て、前記ポリ乳酸製250デニール糸使用目開きの平織布帛の両面に介挿して、150℃の平板熱プレスにて圧着積層して実施例3の柔軟な樹脂積層膜材料を得た。
実施例3の樹脂積層膜材料は90℃の温水中に浸漬すると白化したが、変形はなかった。実施例3の柔軟な樹脂積層膜材料を折り曲げるとシワになり、折り目が白化した。可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子が柔軟成分となり耐熱性が高くなったが、熱可塑性樹脂が結晶性ポリ乳酸であるために加熱再結晶化による白化と屈曲白化が生じたと考えられる。
【0066】
(比較例1)
三井化学(株)製ポリ乳酸「レイシアH400」65重量部に大八化学(株)製可塑剤「DAIFATTY−101」15重量部を混合し、(株)東洋精機製作所
ラボプラストミル 10M100を使用し160℃にて70rpmで5分間混練して架橋を伴わないポリ乳酸−可塑剤混合物を得た。これを実施例3と同じ方法にて比較例の柔軟な厚み160μのフィルムを得た上で、前記ポリ乳酸製250デニール糸使用目開きの平織布帛の両面に介挿して、150℃の平板熱プレスにて圧着積層して比較例の柔軟な樹脂積層膜材料を得た。
比較例1の樹脂積層膜材料は90℃の温水中に浸漬すると白化し、変形した。比較例の柔軟な樹脂積層膜材料を折り曲げるとシワになり、折り目が白化した。
可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子を使用せず、可塑剤が熱可塑性の結晶性ポリ乳酸自体に混合されており、熱可塑性樹脂が結晶性ポリ乳酸であるために温水中での再結晶化が生じてフィルム自体が白化するうえに、熱可塑性樹脂は結晶性のポリ乳酸であるために屈曲白化が生じたと考えられる。
【0067】
(比較例2)
三井化学(株)製ポリ乳酸「レイシアH400」80重量部に滑剤と酸化防止剤を適宜添加した組成物を150℃のオープンロールで混練し、圧延によって比較例2の柔軟な厚み160μのフィルムを得た上で、前記ポリ乳酸製250デニール糸使用目開きの平織布帛の両面に介挿して、150℃の平板熱プレスにて圧着積層して比較例2の積層膜材料を得た。得られた積層膜材料は、柔軟性に乏しく、折り曲げると、シワになり折り目が白化した。比較例2の樹脂積層膜材料は、比較例1と同様、90℃の温水中に浸漬すると白化し、変形した。
【0068】
(実施例4)
可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子50重量部に対して第一工業製薬(株)製ポリ乳酸エマルジョン「プラセマL110G」(固形分濃度50%)100重量部を混合攪拌した樹脂液をポリ乳酸製平織布(重量145g/m)の片面にナイフコーティングにて塗布した後に、熱風循環式オーブンで110℃にて1分間乾燥させて重量180g/mの片面樹脂被覆膜材料得た。得られた片面樹脂被覆膜材料は柔軟であったが、折り曲げるとシワになり折り目が白化した。
【0069】
(実施例5)
該可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子30重量部に対して大日本インキ工業(株)製アクリル系エマルジョン「ボンコートR3380E」(固形分濃度45%)100重量部と増粘剤、シリコーン系消泡剤およびアンモニア水適量混合攪拌した樹脂液をポリ乳酸製平織布(重量145g/m)の片面にナイフコーティングにて塗布した後に、熱風循環式オーブンで110℃にて1分間乾燥させて重量170g/mの片面樹脂被覆膜材料得た。得られた片面樹脂被覆膜材料は柔軟であったが、折り曲げるとシワになり折り目が白化した。
【0070】
(比較例3)
実施例4における該可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子を使用せず、第一工業製薬(株)製ポリ乳酸エマルジョン「プラセマL110G」(固形分濃度50%)のみの樹脂液をポリ乳酸製平織布(重量145g/m)の片面にナイフコーティングにて塗布した後に、熱風循環式オーブンで110℃にて1分間乾燥させて重量180g/mの片面樹脂被覆膜材料を得た。得られた片面樹脂被覆膜材料は実施例4に比べて柔軟性に乏しく、折り曲げると、シワになり折り目が白化した。
【0071】
(比較例4)
実施例5における該可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子を使用せず、大日本インキ工業(株)製アクリル系エマルジョン「ボンコートR3380E」(固形分濃度45%)のみに増粘剤、シリコーン系消泡剤およびアンモニア水を適量混合攪拌した樹脂液をポリ乳酸製平織布(重量145g/m)の片面にナイフコーティングにて塗布した後に、熱風循環式オーブンで110℃にて1分間乾燥させて重量170g/mの片面被覆膜材料を得た。得られた片面樹脂被覆膜材料は実施例5に比べて柔軟性に乏しく、折り曲げると、シワになり折り目が白化した。
【0072】
[評価]
得られた膜材料について以下の評価を行った。
実施例1〜3、比較例1〜2について、各種物性の評価結果を表1に示す。
実施例4〜5、比較例3〜4について、各種物性の評価結果を表2に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
[剛軟度の測定]
作製した膜材料を一般織物試験方法の剛軟度JIS L 1096 8.19.4D法(ハートループ法)に準じて測定した。剛軟度の数値は大きいほど風合いが軟らかく、小さいほど風合いが硬い。
【0076】
[折り曲げの評価]
作製した膜材料を180度に折り曲げた後、しわが目立たないものを良いと判断して○と表記し、しわになるものを悪いと判断して×と表記した。
【0077】
[温水浸漬後の白化の評価]
膜材料の熱白化の評価の指標は、作製した膜材料を90℃の温水に5分間浸漬した後、取り出して自然冷却したものについて、白化していないものを良いと判断して○と表記し、白化しているものを悪いと判断して×と表記した。
【0078】
[温水浸漬後の変形の評価]
膜材料の熱変形の評価の指標は、作製した膜材料を90℃の温水に5分間浸漬した後、取り出して自然冷却したものについて、変形していないものを良いと判断して○、変形しているものを悪いと判断して×と表記した。
【0079】
実施例1〜5は、比較例に比べて柔軟性が優れており、温水によって変形しない。得に実施例1〜2と実施例4〜5は折り曲げによるしわが発生せず、且つ温水浸漬による白化がない。すなわち膜材料として特に適したものであった。
これに対し、比較例1〜4は、柔軟性が乏しいか、折り曲げによるしわの発生があり、可撓性膜材料として十分ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のポリ乳酸膜材料は、優れた柔軟性と耐久性と低環境負荷性を共に備えた家庭用または業務用の膜材料として利用することができる。
詳しくは、膜材料からなるシート単独で、敷布や被覆布として、あるいは日除け、日覆い、雨覆い、テント、膜構造物、土木資材あるいは建築物の外装材もしくは内装材として用いられるものである。また、縫製、成形することにより袋状等の構造体となし、あるいは後加工することによりその他の機能を付加して、接着テープや、包装シート、容器などの包装材料、照明サインや照明広告などの広告材料、車両用内装材として使用されるものである。さらに、本発明の膜材料は種々の産業資材分野と建築土木分野において特に使用後の廃棄処理問題の解決を図るために有用な生分解性製品または部品として利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の膜材料の第1実施形態の断面図である。
【図2】本発明の膜材料の第2実施形態の断面図である。
【図3】本発明の膜材料の第3実施形態の断面図である。
【図4】本発明の製造方法の一態様を示す模式図である。
【符号の説明】
【0082】
1 可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子
2 熱可塑性樹脂
3 布帛

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛を熱可塑性樹脂で被覆してなる膜材料であって、該熱可塑性樹脂中に可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子を含有していることを特徴とする膜材料。
【請求項2】
前記該熱可塑性樹脂は非結晶性ポリ乳酸である請求項1に記載の膜材料。
【請求項3】
前記布帛はポリ乳酸製の繊維である請求項1または請求項2に記載の膜材料。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の膜材料の製造方法であって、
前記可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子と熱可塑性樹脂とを混練し、該混練物を加熱成型して得られるフィルムまたはシートを、布帛の片面あるいは両面に積層して、加熱圧着することを特徴とする膜材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の膜材料の製造方法であって、
前記可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子を熱可塑性樹脂の溶液あるいは分散液に混合した樹脂組成液を取得し、該樹脂液を布帛に含浸させ、又は布帛の片面あるいは両面に塗布した後加熱していることを特徴とする膜材料の製造方法。
【請求項6】
前記可塑剤を担持した架橋ポリ乳酸粒子は、ポリ乳酸と多官能性モノマーを含むポリ乳酸組成物に電離性放射線を照射して前記ポリ乳酸を架橋させ、得られたポリ乳酸架橋物を平均粒径が0.1〜500μmの粒子に粉砕し、得られた架橋ポリ乳酸粒子に含有率が5%以上60%以下となるように可塑剤を含浸させることにより得ている請求項4または請求項5に記載の膜材料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−190226(P2009−190226A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31852(P2008−31852)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【出願人】(000104412)カンボウプラス株式会社 (15)
【Fターム(参考)】