説明

膜材

【課題】着炎しにくく、かつ自己消火性を有する膜材を提供する。
【解決手段】繊維基材の少なくとも片方の面に樹脂層を有する膜材において、該樹脂層を構成する樹脂に、該樹脂100重量部に対して30重量部以上200重量部以下の発泡剤を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着炎しにくく、自己消火性を有する膜材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル等の合成繊維から成る布帛に樹脂を積層した膜材は中型、大型の構造物の屋根部やテント倉庫、軒出しテント、トラック幌等、野外用途において広く扱われている。これらの膜材は、消防法に定められている防炎規格(消防法施工規則第4条:JIS規格L−1091)に適合することが要求されており、充分な難燃性を付与するために、例えば金属水酸化物または金属酸化物などのような非ハロゲン系難燃剤を多量に添加する必要があり、その結果、樹脂の加工性低下や加工品の物性および風合いの低下などの問題に加え、難燃剤のブリードアウトなどが起こる場合がある。そこで、非ハロゲン系難燃剤の添加量を削減するために、赤りん粒子や加熱膨張性黒鉛を難燃助剤として上記の非ハロゲン系難燃剤と併用することが提案されている(特許文献1、2)。これらの方法では確かに非ハロゲン系難燃剤の添加量をある程度減らして難燃性の組成物を得ることが可能であるが、それでもまだ非ハロゲン難燃剤の添加量は、先に示した問題を完全に回避できるものではない。さらに非ハロゲン難燃剤の添加量を減らす方法として、赤りんや化学発泡剤と非ハロゲン難燃剤を併用する方法が示されている(特許文献3)。この方法において、非ハロゲン難燃剤を極力減らし、かつ十分な難燃性を付与することができる。しかし、難燃性が十分であったとしても、ポリエステル等の合成繊維から成る布帛の溶融によるドリップを完全に防ぐことは難しい。したがって、合成繊維から成る布帛に樹脂を積層した膜材おいて、着炎しにくく、かつ着炎した場合でも、自己消火性により燃え広がることを防ぐことのできる膜材は未だ開発されていない。
【0003】
【特許文献1】特開平6−25476号公報
【特許文献2】特開平8−302202号公報
【特許文献3】特開2001−322208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記背景技術に鑑みなされたもので、その目的は、着炎しにくく、自己消火性を有する膜材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、難燃剤を使用せず発泡剤を用い、これをコーティングやディッピングなど容易な方法で繊維基材に塗布したところ、従来の難燃性膜材とは全く異なる、自己消火性を有する膜材が得られることがわかり、本発明に至った。
【0006】
かくして、本発明によれば、繊維基材の少なくとも片方の面に樹脂層を有する膜材であって、該樹脂層を構成する樹脂に、該樹脂100重量部に対して30重量部以上200重量部以下の発泡剤が含まれていることを特徴とする膜材が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来の難燃剤を用いた膜材に比べ、着炎しにくく、さらに自己消火性を有する膜材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の膜材は、繊維基材の少なくとも片方の面に樹脂層を有する膜材である。本発明において使用する繊維基材としては、繊維からなる織編物の基布、あるいはそれら基布に樹脂を被覆加工した基布のいずれかを用いることもできるが、経済的な面からは前者が好ましい。また、本発明の膜材においては、後述するように繊維基材の表面に発泡剤を含む樹脂層を有しているが、その際、他の樹脂等で被覆されていない基布からなる繊維基材に直接、発泡剤を有する樹脂層が形成されている方が自己消火性の点で効果的である。
【0009】
本発明の繊維基材に好ましく用いられる繊維は、ポリエステル、ポリアミド、ビニロン等の合成繊維や木綿、麻等の天然繊維を単独で、あるいは混合して製編織した織編物であり、これらの繊維は長繊維であっても短繊維であってもよい。
【0010】
一方、膜材を繊維基材とし、膜材表面に発泡剤を含んだ樹脂層をさらに固着させる場合、被覆加工に好ましく用いられる熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等を挙げることができ、これらの樹脂は一般的に可塑剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0011】
本発明においては、上記の樹脂層を構成する樹脂に、該樹脂100重量部に対して30重量部以上200重量部以下の発泡剤が含まれていることが肝要である。これにより着炎しにくく、自己消火性に有する膜材とすることができる。
【0012】
本発明で用いる発泡剤は、有機系発泡剤であっても無機系発泡剤であってもよい。しかしながら、無機系発泡剤は分解において吸熱反応を示すため分解が穏やかであるのに対し、有機系発泡剤は分解において発熱反応を示すため急激な分解が起こり、一度に多量の分解ガスが放出される。このため、有機系発泡剤の方が自己消火性を付与しやすいく好ましい。かかる有機系発泡剤としては、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、アゾジカルボンアミド(ADCA)、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、ヒドラゾジカルボンアミド(HDCA)等が好ましく挙げられる。
【0013】
また本発明においては、膜材の加工工程における温度では発泡剤は分解せず、着炎時に初めて分解が起こり大量の分解ガスを放出することが望ましい。よって、発泡剤の分解温度は200℃以上であることが好ましい。一方、発泡剤の分解温度があまり高すぎても分解が起こり難く、本発明の目的とする自己消火性を発現しにくくなるため、300℃以下であることが好ましい。なお、本発明においては、発泡剤の分解により発生するガスにより自己消火機能を発現させるため、発生するガスは不燃性ガスであることが好ましい。
【0014】
本発明においては、上記の分解温度を満足し、分解により二酸化炭素ガスや二酸化窒素ガスを発生し、かつ放出するガス量が多いことから、発泡剤としてアゾジカルボンアミド(ADCA)を用いることが好ましい。
【0015】
前述したように、本発明においては、上記発泡剤の含有量を、樹脂100重量部に対して30重量部以上200重量部以下とする必要がある。発泡剤の含有量が、樹脂100重量部に対して30重量未満では、着炎した場合の放出分解ガス量が不足し、十分な自己消火性が得られないことがある。また、発泡剤の含有量が、樹脂100重量部に対して200重量部を超えて含有させても自己消火性は著しく向上せず、樹脂の屈曲性が著しく低下して膜材として十分な性能を満たさなくなることがあり好ましくない。発泡材の含有量は、樹脂100重量部に対して好ましくは40重量部以上180重量部以下、より好ましくは40重量部以上160重量部以下である。
【0016】
樹脂層を構成する樹脂には、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等を用いることが望ましい。特には、比較的安価であり、樹脂自体に難燃性を有し、高周波ウェルダーなどを使用した融着が可能である熱可塑性樹脂が好ましく、特に塩化ビニル系樹脂が好ましい。
【0017】
樹脂層の厚さは、0.1mm以上0.4mm以下であることが望ましい。樹脂層の厚さが0.1mm未満では十分な自己消火性を付与することができない場合があり、一方、厚さが0.4mmを超えると外観を損なうことがある。さらには膜材の重量を考えた場合、発泡剤を含む樹脂層の厚さは、0.1mm以上0.2mm以下であることがより好ましい。
【0018】
本発明においては、繊維基材の片面にのみに発泡剤を含む樹脂層が形成されていてもよいが、より高い自己消火性を付与するには、該繊維基材の両面に発泡剤を含む樹脂層が形成されていることが望ましい。また、繊維基材の片面にのみに発泡剤を含む樹脂層が形成されている場合、他方の面には樹脂層がなくても、また、発泡剤を含まない樹脂層が形成されていてもよい。
【0019】
以上に説明した本発明の膜材は、公知の方法により製織または製編された繊維基材に、発泡剤を含む樹脂を塗布することによって製造することができる。発泡剤を含む樹脂の塗布方法としては、一般的な方法で加工され、発泡剤を含む樹脂を直接コーティングする方法やディッピングする方法等、簡単な方法で塗布することができる。繊維基材の片面にのみに発泡剤を含む樹脂層を形成する場合は、コーティングによって塗布する方法が好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の防炎性能は燃焼試験(JIS L 1091A法)により測定した。
【0021】
[実施例1]
繊維基材には、280dtex/48フィラメントのポリエステルマルチフィラメント(帝人ファイバー(株)製)をそれぞれ経糸および緯糸に使用した、織密度が経31本/インチ、緯32本/インチの織物を用いた。
さらに、水分散性のアクリルシリコン樹脂(共栄社化学(株)製 ライトエポックS−60NFE)を水に分散させた水分散体(アクリルシリコン樹脂24重量%)に、有機系発泡剤であるアゾジカルボンアミド(ADCA)(三協化成(株)製 セルマイクCE)を該樹脂100重量部に対して50重量部となるように添加し、固形分(アクリルシリコン樹脂+アゾジカルボンアミド(ADCA))濃度が32重量%になるように調製した。
これを上記繊維基材の片面に樹脂層の厚さが0.2mmとなるようにコーティングし、膜材を成形した。結果を表1に示す。
【0022】
[実施例2]
塩化ビニル樹脂(日信化学工業(株)製 ビニブラン683)を水に分散させた水分散体(塩化ビニル樹脂24重量%)にアゾジカルボンアミド(ADCA)(三協化成(株)製 セルマイクCE)を該樹脂100重量部に対して50重量部となるように添加し、固形分(塩化ビニル樹脂+アゾジカルボンアミド(ADCA))濃度が32重量%になるように調製した。
これを実施例1で用いたものと同じ繊維基材の片面に樹脂層の厚さが0.2mmとなるようにコーティングし、膜材を成形した。結果を表1に示す。
【0023】
[実施例3〜5、比較例2〜3]
アゾジカルボンアミド(ADCA)(三協化成(株)製 セルマイクCE)の樹脂100重量部に対する添加量(すなわち、樹脂100重量部に対する含有量)、樹脂層の厚さを表1及び2のように変更した以外は、実施例2と同様にして膜材を成形した。結果を表1及び表2に示す。
【0024】
[実施例6]
水分散性の塩化ビニル樹脂(日信化学工業(株)製 ビニブラン683)を水に分散させた水分散体(塩化ビニル樹脂24重量%)にアゾジカルボンアミド(ADCA)(三協化成(株)製 セルマイクCE)を該樹脂100重量部に対して100重量部となるように添加し、固形分(塩化ビニル樹脂+アゾジカルボンアミド(ADCA))濃度が38重量%になるように調製した。
これを実施例1で用いたものと同じ繊維基材の両面に、それぞれ樹脂層の厚さがいずれも0.2mmとなるようにコーティングし、膜材を成形した。結果を表1に示す。
【0025】
[実施例7、比較例4]
発泡剤アゾジカルボンアミド(ADCA)(三協化成(株)製 セルマイクCE)の樹脂重量に対して100重量部に対する添加量(すなわち、樹脂重量に対して100重量部に対する含有量)、両面におけるそれぞれの樹脂層の厚さ(なお、両面におけるそれぞれの樹脂層の厚さは同じとした)を表1及び2のように変更した以外は、実施例6と同様にして膜材を成形した。結果を表1及び表2に示す。
【0026】
[比較例1]
水分散性の塩化ビニル樹脂(日信化学工業(株)製 ビニブラン683)を水に分散させた水分散体(塩化ビニル樹脂35重量%)を繊維基材の両面におけるそれぞれの樹脂層の厚さをいずれも0.2mmとなるようにコーティングし、膜材を成形した。結果を表2に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の膜材は、難燃剤を用いた従来のものに比べ、着炎しにくく、さらに自己消火性をも有している。このため、この膜材を、例えばテントやシートなどに用いた場合、火事などの延焼を防ぐことができる。また、火元が小さい場合は、この膜材で覆うなどして初期消火活動にも用いることができる。さらに、この膜材は簡易的な火器使用の際の仕切り膜としても使用することができ、産業的利用価値が極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材の少なくとも片方の面に樹脂層を有する膜材であって、該樹脂層を構成する樹脂に、該樹脂100重量部に対して30重量部以上200重量部以下の発泡剤が含まれていることを特徴とする膜材。
【請求項2】
発泡剤が有機系発泡剤であり、該発泡剤の分解温度が200℃以上300℃以下であり、発泡剤の分解により発生するガスが不燃性ガスである請求項1記載の膜材。
【請求項3】
樹脂が熱可塑性樹脂であり、樹脂層の厚さが0.1mm以上0.4mm以下である請求項1記載の膜材。
【請求項4】
樹脂が、コーティングまたはディッピングにより塗布されて、繊維基材の少なくとも片方の面に樹脂層を形成している請求項1記載の膜材。

【公開番号】特開2008−173916(P2008−173916A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11250(P2007−11250)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】