膜構造物の変形シミュレーション方法


【課題】コストを抑制しつつ膜構造物の変形挙動を正確に再現する上で有利な膜構造物の変形シミュレーション方法を提供する。
【解決手段】膜構造物30の形状を示す形状データD1を解析手段10Bに与え、解析手段10Bは形状データD1に基づいて膜構造物30を要素分割して構造データを生成する。次いで膜32の材料特性を示す材料特性データD2を解析手段10Bに設定する。材料特性設定ステップは、膜32を構成する材料によって特定される密度に、膜32に接する流体の単位面積当たりの質量を付加質量として加算し、加算された値を膜32の密度として設定する付加質量加算ステップを含む。次いで拘束条件データD3、圧力データD4を解析手段10Bに設定する。解析手段10Bは設定された各データに基づいて有限要素法による計算を行い、膜構造物30の変形挙動を示すデータD10を出力する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜構造物の変形シミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波を用いて海底の地形を計測するソナーを備えた船舶がある。このような船舶においては、船体が海中に臨む箇所にソナーを収容する収容凹部を設けるとともに、この収容凹部を覆うように超音波が通過可能な膜から構成された膜構造物を取り付けてソナーの保護を図っている。
そして、膜構造物と収容凹部との間に所定の圧力で海水を満たすことにより膜構造物の形状を保っている。
この場合、船体が大きく上下に揺動すると、膜構造物がいったん海面の上に現れたのち、海中に没することになり、膜構造物が空中から海面に没する際に海水から圧力を受けて変形する。
もし、膜構造物が大きく変形してソナーに接触するとソナーの損傷が懸念されるため、膜構造物は、それが変形してもソナーに接触しない程度の強度または遊間、形状保持のための内圧を確保することが必要となる。
そのため、膜構造物の設計においては、膜構造物が周囲の流体からの圧力変動を受けた場合にどのように変形するかを、シミュレーションによって解析しておくことが必要となる。
従来から構造物の構造解析に際しては有限要素法が用いられている(特許文献1参照)。
ところが、上述したように膜構造物が周囲の海水などの流体からの圧力を受けて大きく変形する現象を解析する場合には、有限要素法による膜構造物の構造解析と、流体の挙動を再現する流体解析とを連動して行うことが、膜構造物の変形挙動を正確に再現する上で必要となる。
【特許文献1】特開2006−175994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した構造解析と流体解析とを連動させて行う場合には、膨大な計算を行うことが必要となるため、解析に要するコストが多大なものとなり、現実的には不可能であった。
仮に、膜構造物の周囲の流体の挙動を考慮せず、流体から加わる圧力のみを考慮して有限要素法による膜構造物の構造解析を行った場合には、現実には起こりえない過剰な変形結果となり、膜構造物の変形挙動を正確に得ることができないものであった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コストを抑制しつつ膜構造物の変形挙動を正確に再現する上で有利な膜構造物の変形シミュレーション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明は、流体中において膜で構成された膜構造物に圧力が作用した際に発生する前記膜構造物の変形挙動を有限要素法によりコンピュータを用いて解析する膜構造物の変形シミュレーション方法であって、前記コンピュータは、操作者による操作入力を受け付ける入力手段と、有限要素法による解析処理を行う解析手段と、データの出力を行う出力手段とを備え、操作者が前記入力手段に対して操作入力を行うことにより前記膜構造物の形状を示す形状データを前記解析手段に与える形状データ入力ステップと、前記解析手段が前記形状データに基づいて前記膜構造物を要素分割し複数の要素と複数の節点を設定することで構造データを生成する構造データ生成ステップと、操作者が前記入力手段に対して操作入力を行うことにより前記膜の材料特性を示す材料特性データを前記解析手段に設定する材料特性設定ステップと、操作者が前記入力手段に対して操作入力を行うことにより前記膜構造物の拘束条件を示す拘束条件データを前記解析手段に設定する拘束条件設定ステップと、操作者が前記入力手段に対して操作入力を行うことにより前記膜構造物に作用する圧力を示す圧力データを前記解析手段に設定する圧力設定ステップと、前記解析手段が、前記構造データ生成ステップで生成された構造データと前記材料特性設定ステップで設定された材料特性データと前記拘束条件設定ステップで設定された拘束条件データと前記圧力設定ステップで設定された圧力データとに基づいて有限要素法による計算を行い前記膜構造物の変形挙動を示すデータを前記出力手段を介して出力する出力ステップとを含み、前記材料特性設定ステップによって設定される前記材料特性データは前記膜の密度を含み、前記材料特性設定ステップは、前記膜を構成する材料によって特定される密度に、前記膜に接する流体の単位面積当たりの質量を付加質量として加算した値を前記膜の密度として設定する付加質量加算ステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、膜構造物の膜の密度に膜に接する流体の単位面積当たりの質量を付加質量として加算して膜構造物の変形挙動を解析するようにしたので、流体中における膜構造物の変形挙動を正確に再現する上で有利となり、流体解析を必要としないのでコストの抑制を図る上でも有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施の形態による膜構造物の変形シミュレーション方法について図面を参照して説明する。
図1は本発明方法を実行するために使用されるコンピュータ10の構成を示すブロック図、図2はコンピュータ10の機能ブロック図である。
まず、本発明方法を実行するコンピュータコンピュータ10について説明する。
図1に示すように、コンピュータ10は、CPU12と、不図示のインターフェース回路およびバスラインを介して接続されたROM14、RAM16、ハードディスク装置18、ディスク装置20、キーボード22、マウス24、ディスプレイ26、プリンタ28などを有している。
ROM14は制御プログラムなどを格納し、RAM16はワーキングエリアを提供するものである。
ハードディスク装置18は本発明に係る膜構造物の変形シミュレーション方法を実現するための解析プログラムを格納している。
ディスク装置20はCDやDVDなどの記録媒体に対してデータの記録および/または再生を行うものである。
キーボード22およびマウス24は、操作者による操作入力を受け付けるものであり、入力手段10A(図2)を構成するものである。
ディスプレイ26はデータを表示出力するものであり、プリンタ28はデータを印刷出力するものであり、ディスプレイ26およびプリンタ28によってデータを出力する出力手段10C(図2)が構成されている。
【0007】
図2に示すように、コンピュータ10は、機能的には、入力手段10A、解析手段10B、出力手段10Cを含んで構成されている。
入力手段10Aは、操作者による操作入力を受け付けることにより、膜構造物を有限要素法によって解析するにあたって必要なデータを入力するものであり、それらデータについては後述する。
解析手段10Bは、入力手段10Aによって入力されたデータに基づいて有限要素法による解析処理を行うものであり、図1に示すハードディスク装置18に格納されている解析プログラムがRAM16にロードされ、CPU12が解析プログラムに基づいて動作することで実現される。
出力手段10Cは、解析手段10Bによる計算結果から構成されるデータを出力するものである。
【0008】
次に、膜構造物の変形シミュレーション方法の手順について説明する。
図3は本実施の形態の膜構造物30の変形シミュレーション方法を示すフローチャートチャート、図4(A)は膜構造物30の外面が海面上に臨んだ状態を模式的に示す断面説明図、(B)は膜構造物30の外面が海面下に水没した状態を模式的に示す断面説明図である。なお、図4(A)、(B)は、膜構造物体30が設けられた船体2をその前後方向に対して直交する平面で破断した状態で示している。
本実施の形態では、図4(A)に示すように、膜構造物30が、船舶に設けられた不図示のソナーを保護するためのカバーを構成するものである場合について説明する。
すなわち、超音波を用いて海底の地形を計測するソナーを備えた船舶において、船舶の船体2が海中に臨む箇所にソナーを収容する収容凹部4が設けられている。
膜構造物30は、膜32と、膜32の周囲に形成された取り付け部(不図示)とを備えている。
膜32は、超音波が通過可能で可撓性を有する材料、例えば、ゴムと、ゴムを補強する補強材料とによって構成されており、このような補強材料として繊維材料が採用可能である。
膜構造物30は、収容凹部4を覆うように前記取り付け部が収容凹部4の開口を形成する船体2部分に例えばねじなどにより取着され、これにより、膜構造物30と収容凹部4との間に閉鎖された内側空間が形成される。
【0009】
そして、膜構造物30は、内面32Aと収容凹部4との間に所定の圧力で海水を満たすことにより膜32が円筒面上を延在するように形状を保持している。
具体的には、図4(A)に示すように、膜32は、船体2の前後方向と並行する軸心Oを中心とした半径Rの円筒面上を延在しており、膜32の2つの面のうち一方の面が前記内側空間(収容凹部4)に臨む内面32Aを構成し、他方の面が膜32を挟んで前記内側空間の反対側に位置する外側空間に臨む外面32Bを構成している。
また、本実施の形態では、膜32の輪郭(膜32を平面視したときの形状)は矩形であり、図5に示すように、膜32は軸心Oに沿った長さLと、軸心Oと直交する幅Wとを有し、長さLは幅Wよりも大きな寸法であり、例えば、L>10Wである。
【0010】
次に膜構造物の変形シミュレーション方法について図2および図3のフローチャートを参照しつつ詳しく説明する。
まず、操作者が入力手段10Aに対して操作入力を行うことにより、膜構造物30の形状を示す形状データD1(図2)を解析手段10Bに与える(ステップS10:形状データ入力ステップ)。
次に、解析手段10Bは形状データD1に基づいて膜構造物30を要素分割し複数の要素と複数の節点を設定することで構造データを生成する(ステップS12:構造データ生成ステップ)。
ここで、操作者は、膜構造物30を解析するにあたって最適な構造モデルを決定し、その構造モデルに対応した要素分割がなされるように入力手段10Aに対して操作入力を行うことで解析手段10Bに設定を行う。最適な構造モデルをどのように決定するかは任意であるが、例えば、最終的に得られたシミュレーション結果(解析結果)と、膜構造物30の変形量の実測データとを比較して決定するなど、従来公知の有限要素法の手法に基づいて行えばよい。
なお、本実施の形態では、膜32として、ゴムと補強材料とを用いているので形状データとしてそれらゴムおよび補強材料の双方の形状データを設定する必要がある。具体的には、補強材料が繊維材料であれば、補強材料を構成する繊維材料の方向や層数などを反映した形状データを設定する必要がある。
また、構造データもゴムおよび補強材料の双方の構造データを含むものとなる。
【0011】
次に、操作者は、入力手段10Aに対して操作入力を行うことにより膜32の材料特性を示す材料特性データD2(図2)を解析手段10Bに設定する(ステップS14:材料特性設定ステップ)。
材料特性としては、例えば、ヤング率、ポアソン比、密度(質量密度)などが挙げられる。
本実施の形態では、膜32として、ゴムと補強材料とを用いているので材料特性としてそれらゴムおよび補強材料の双方のデータを設定する。
【0012】
本実施の形態では、材料特性設定ステップは、ステップS16に示す付加質量加算ステップを含んでいる。
付加質量加算ステップは、膜32を構成する材料によって特定される密度に、膜32に接する流体(本実施の形態では海水)の単位面積当たりの質量を付加質量として加算し、加算された値を膜32の密度として設定する(ステップS16)。
【0013】
以下、付加質量の加算方法について詳細に説明する。
すなわち、加算質量設定ステップおける膜32に接する流体は、その質量を容易に計算することができるように、膜32を囲む簡略化された3次元形状にモデル化されている。
本実施の形態では、モデル化された流体の形状が、円柱体(図4(A))、あるいは、円柱体をその軸心を含む平面で2分割した円柱分割体(図4(B))である場合について説明する。
まず、図4(A)の場合について説明すると、前述したように、膜32は軸心Oを中心とする円筒面上を延在し、したがって、断面で見ると、膜32は軸心Oを中心とした半径Rを有する円弧状に延在している。
したがって、膜32によって構成される円弧に対応する中心角をθとし、円弧の両端を結ぶ直線(弦)の長さを2aとすると、aは次の式(1)で示される。
a=Rsin(θ/2)……(1)
モデル化された流体は、長さ2aを直径とし(aを半径とし)、軸心Oと平行に延在する軸心を有する円柱体C0を呈している。
この際、この円柱体C0を軸心O方向から見た状態で円柱体C0の内部に膜32が円弧状に延在している。
この場合、膜32に接する流体の単位面積当たりの質量(円柱体C0の単位長さ当たりの質量)である付加質量m0は(1)式に基づいて(2)式で示されることになる。なお、(2)式は、例えば、機械工学便覧などに記載されている柱状物体が振動する際の付加質量の算出式に基づいている。
m0=ρπa=ρπRsin(θ/2)……(2)
ただしρは流体の密度。
すなわち、図4(A)に図示した状態は、膜32が全て流体中に没した状態であり、したがって、膜32の内面32Aおよび外面32Bの双方の全面に流体が接しており、流体の圧力が内面32Aおよび外面32Bの双方の全面にわたって均一に加わった状態を表していることになる。
そして、後述する有限要素法による膜32の変形挙動の解析計算に際して、膜32の全面にわたって均一に円柱体C0の付加質量m0が付加されたものとして扱う。
すなわち、ステップS16(付加質量加算ステップ)では、膜32の実際の密度に付加質量m0を加えたものを膜32の密度として設定することになる。
【0014】
次に、図4(B)の場合について説明すると、モデル化された流体は、円柱体C0をその軸心を含む平面で2分割した円柱分割体C1を呈している。
この際、分割円柱体C1を円柱体C0の軸心O方向から見た状態で分割円柱体C1の内部に膜32が円弧状に延在するように形成されている。
この場合、膜32に接する流体の単位面積当たりの質量(円柱分割体C1の単位長さ当たりの質量)である付加質量m1は(3)式で示され、(2)式で示されたものの1/2となる。
m1=(1/2)ρπa=(1/2)ρπRsin(θ/2)……(3)
すなわち、図4(B)に図示した状態は、膜32が全て流体の表面から空中に臨んだ状態であり、したがって、膜32の外面32Bは空中に面し膜32の内面32Aの全面のみに流体が接しており、流体の圧力が内面32Aの全面にわたって均一に加わった状態を表していることになる。
そして、この場合は、後述する有限要素法による膜32の変形挙動の解析計算に際して、膜32の全面にわたって均一に円柱分割体C1の付加質量m1が付加されたものとして扱う。
すなわち、ステップS16(付加質量加算ステップ)では、膜32の実際の密度に付加質量m1を加えたものを膜32の密度として設定することになる。
【0015】
次に、操作者は、入力手段10Aに対して操作入力を行うことにより膜構造物30の構造データの各節点を拘束する拘束条件を示す拘束条件データD3(図2)を解析手段10Bに設定する(ステップS18:拘束条件設定ステップ)。
拘束条件は、各節点に対して該節点の持つ各自由度(6自由度)の固定あるいは自由を設定するものであり、従来公知の有限要素法の手法に基づいて設定される。
【0016】
次に、操作者が入力手段10Aに対して操作入力を行うことにより膜構造物30に作用する圧力を示す圧力データD4(図2)を解析手段10Bに設定する(ステップS20:圧力設定ステップ)。
圧力設定ステップによる圧力データD4の設定は、圧力が加わる膜32の位置と、該位置に加わる圧力の時間的変化とが設定されることでなされ、言い換えると、動的な圧力データが設定される。
圧力データD4をどのように設定するかは、膜構造物30と流体とがどのように動いているかに応じて決定されるものであり、膜32の内面32Aに加わる圧力を内圧、外面32Bに加わる圧力を外圧とした場合、外圧のみを変化させ、内圧を一定としてもよいし、外圧および内圧の双方を変化させてもよい。
【0017】
次に、解析手段10Bは、前記構造データ生成ステップで生成された構造データと前記材料特性設定ステップで設定された材料特性データD2と前記拘束条件設定ステップで設定された拘束条件データD3と前記圧力設定ステップで設定された圧力データD4とに基づいて有限要素法による計算を行い、膜構造物30の変形挙動を示すデータD10(図2)を出力手段10Cを介して出力する(ステップS22:出力ステップ)。
本実施の形態では、出力手段10Cから出力されるデータD10は節点の変位量を示す変位量データD10として得られる。
この変位量データD10は、例えば、膜構造物30を3次元的に示した画像などによって表現されるが、変位量データD10をどのような形態で出力し、表現するかは任意である。
なお、本実施の形態では、前記付加質量加算ステップによって付加質量m0が加算され膜32の外面32B全面が流体中に没している状態での解析結果と、付加質量m1が加算され膜32の外面32B全面が空中に臨んでいる状態での解析結果との双方が得られることになる。
したがって、膜32の変形挙動は、その全部が空中に臨む状態と、その全部が流体中に没する状態との2つの状態でのみ解析されることになるが、膜32の外面32Bの一部が空中に臨み、残りが流体中に没している状態は、前記2つの状態の中間の状態として扱うことが可能である。
【0018】
そして、得られた解析結果(膜構造物30の変形挙動を示すデータ)に基づいて、流体から圧力を受けて膜32が変形した場合における膜32とソナーとの距離の接近度合い、干渉の有無などを確認することにより、膜構造物32の設計評価を行い(ステップS24:評価ステップ)、一連の処理を終了する。
【0019】
以上説明したように、本実施の形態によれば、膜構造物30の膜32を構成する材料によって特定される密度に、膜32に接する流体の単位面積当たりの質量を付加質量として加算し、加算された値を膜32の密度として設定するようにしたので、有限要素法により膜構造物30の変形挙動を解析するに際して、膜32に接する流体の圧力の影響が反映されるため、流体中における膜構造物30の変形挙動を正確に再現する上で有利となり、流体解析を必要としないのでコストの抑制を図る上でも有利となる。
また、有限要素法により膜構造物30の変形挙動を解析するに際して、膜32に接する流体の単位面積当たりの質量を付加質量として加算するだけでよいため、膜構造物30の形状や大きさを変化させながら繰り返して解析を行ったとしても解析に要する手間や時間がかからないため、設計の効率化を図る上で極めて有利となる。
【0020】
なお、本実施の形態では、膜構造物30が船体に設けられたソナーを保護するカバーを構成するものである場合について説明したが、本発明方法によって解析される膜構造物の形態や構成は任意である。
また、本実施の形態では、流体が海水や水である場合について説明したが、流体は水に限定されるものではなく、さまざまな液体あるいは気体であってもよい。
したがって、膜構造物としては、袋状を呈し内部に流体を蓄える膜構造物、例えば、空気を蓄えて港の岸壁と船舶の船体との衝突を防止する防舷材、あるいは、真水や液体燃料などの流体を蓄え船舶によって海中を曳航される袋体、あるいは、水が満たされたクッション、あるいは、気体(ガス)によって膨張するエアバッグなどが挙げられる。
また、膜構造物は袋状に構成されている必要は無く、例えば、衝立のように板状を呈していてもよい。
【0021】
また、本実施の形態では、膜構造物の膜を構成する材料としてゴムおよび補強材料を用いた場合について説明したが、材料は任意である。
例えば、船舶の船底部分を構成する鋼板などで形成された壁部を膜構造物として扱い、本発明方法によって船底部分の変形挙動を解析することも可能である。
【0022】
また、本実施の形態では、膜構造物30の膜32の外面32Bが流体中に没した状態と、空気中に臨んだ状態との2つの状態に対応してそれぞれ付加質量を求めて膜32の密度に加算するようにしたが、これら2つの状態の中間の状態、すなわち、膜32の外面32Bの一部が流体中に没し、残りが空気中に臨んだ状態、言い換えると、流体が膜32の外面32Bの全体ではなく一部に接した状態に対応して付加重量を求めて膜32の密度に加算して解析を行うようにしてもよい。
さらには、この中間の状態を時間経過に応じて、すなわち、膜32が空中から流体中に移動する過程、あるいは、膜32が流体中から空中へ移動する過程を複数段階に分けて付加重量を求め、求められた複数段階の付加重量を膜32の密度にそれぞれ加算して解析を行うようにしてもよい。
このようにすると、膜32に接する流体が膜32に与える影響の時間的な変化を解析結果に正確に反映する上で有利となり、膜構造物30の変形挙動の再現をより正確に行う上で有利となる。
【0023】
なお、本実施の形態では、膜32が円筒面上を延在し、膜32に接する流体が膜32を囲む3次元形状にモデル化され、モデル化された流体の3次元形状が、前記円筒面の軸心Oと平行に延在する軸心Oを有する円柱体C0を呈し、かつ、円柱体C0の軸心方向から見た状態で円柱体C0の内部に膜32が延在するように形成されている場合について説明した。
また、モデル化された流体の3次元形状は前記円筒面の軸心と平行に延在する軸心を有する円柱体をその軸心を含む平面で2分割した円柱分割体C1を呈し、かつ、分割円柱体C1を前記軸心方向から見た状態で円柱分割体C1の内部に膜32が延在するように形成されている場合について説明した。
すなわち、円柱体C0および円柱分割体C1の軸心の両端は、前記軸心と直交する平面で構成されている。
【0024】
図5(A)は膜32および円柱分割体C1の一例を示す平面図、(B)は(A)のB矢視図、(C)は(B)のC矢視図である。なお、図面の簡略化を図るために、膜32は平面として描かれている。
図5に示すように、モデル化された円柱分割体C1によって膜32に加わる長さL方向における荷重の分布は長さL方向において均一となる。
しかしながら、実際には、膜32に加わる荷重のうち、膜32の長さL方向の両端近傍箇所に加わる荷重は、両端近傍を除く箇所に加わる荷重に比較して軽減することが想定され、言い換えると、流体の長さL方向における荷重の分布は長さL方向の両端に近づくにつれて次第に低下する分布となる。
例えば、膜32の長さLと幅Wが、例えば、L>10Wである場合には、膜32の長さ方向の両端近傍を除く箇所が占める面積が大半となるため、荷重分布が長さL方向において一様であるとして扱ってもよい。
しかしながら、幅Wに対して長さLがあまり小さくない場合、例えば、L>2Wといった場合には、膜32の長さ方向の両端近傍を除く箇所が占める面積に対して膜32の長さ方向の両端近傍の面積が占める割合が大きくなることから、荷重分布が長さL方向の両端に近づくにつれて次第に低下することを考慮する必要がある。
このような場合には、円柱分割体C1の軸心の両端を平面として扱うのではなく、流体の形状を、荷重分布が長さL方向の両端に近づくにつれて次第に低下する分布となるようにモデル化することが流体によって膜32に加わる荷重の分布を正確に反映して解析結果(膜構造物30の変形挙動を示すデータ)を得る上で好ましい。例えば、図5に示すように、円柱分割体C1の軸心の両端を平面ではなく球面としてモデル化することが好ましい。
以上、流体の形状を円柱分割体C1としてモデル化した場合について説明したが、流体の形状を円柱体C0としてモデル化した場合についても同様である。
【0025】
また、流体の3次元形状は円柱体C0あるいは円柱分割体C1に限定されるものではなく、膜32の形状に対応したさまざまな形状を用いることができる。
図6(A)は膜32および半球体C10の他の例を示す平面図、(B)は(A)のB矢視図、(C)は(B)のC矢視図である。
例えば、図6に示すように、膜32の長さLと高さWが等しい場合には、流体の荷重分布が長さL方向および高さW方向の両端に近づくにつれて低下することを考慮して、流体を球体、あるいは、半球体C10としてモデル化することが流体によって膜32に加わる荷重の分布を正確に反映して解析結果(膜構造物30の変形挙動を示すデータ)を得る上で好ましい。
また、膜32の形状は任意であり、膜32の輪郭(膜32を平面視したときの形状)は矩形に限定されるものではなく、三角形、多角形、円形、楕円形などさまざまな形状が採用可能であることは無論である。また、膜32は、円筒面上を延在する形状に限定されるものではなく、例えば、平面状を延在しても、あるいは、球面上を延在してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明方法を実行するために使用されるコンピュータ10の構成を示すブロック図である。
【図2】コンピュータ10の機能ブロック図である。
【図3】本実施の形態の膜構造物30の変形シミュレーション方法を示すフローチャートチャートである。
【図4】(A)は膜構造物30の外面が海面上に臨んだ状態を模式的に示す断面説明図、(B)は膜構造物30の外面が海面下に水没した状態を模式的に示す断面説明図である。
【図5】(A)は膜32および円柱分割体C1の一例を示す平面図、(B)は(A)のB矢視図、(C)は(B)のC矢視図である。
【図6】(A)は膜32および半球体C10の一例を示す平面図、(B)は(A)のB矢視図、(C)は(B)のC矢視図である。
【符号の説明】
【0027】
10……コンピュータ、10A……入力手段、10B……解析手段、10C……出力手段、30……膜構造物、32……膜、D1……形状データ、D2……材料特性データ、D3……拘束条件データ、D4……圧力データ、m0、m1……付加質量。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体中において膜で構成された膜構造物に圧力が作用した際に発生する前記膜構造物の変形挙動を有限要素法によりコンピュータを用いて解析する膜構造物の変形シミュレーション方法であって、
前記コンピュータは、操作者による操作入力を受け付ける入力手段と、有限要素法による解析処理を行う解析手段と、データの出力を行う出力手段とを備え、
操作者が前記入力手段に対して操作入力を行うことにより前記膜構造物の形状を示す形状データを前記解析手段に与える形状データ入力ステップと、
前記解析手段が前記形状データに基づいて前記膜構造物を要素分割し複数の要素と複数の節点を設定することで構造データを生成する構造データ生成ステップと、
操作者が前記入力手段に対して操作入力を行うことにより前記膜の材料特性を示す材料特性データを前記解析手段に設定する材料特性設定ステップと、
操作者が前記入力手段に対して操作入力を行うことにより前記膜構造物の拘束条件を示す拘束条件データを前記解析手段に設定する拘束条件設定ステップと、
操作者が前記入力手段に対して操作入力を行うことにより前記膜構造物に作用する圧力を示す圧力データを前記解析手段に設定する圧力設定ステップと、
前記解析手段が、前記構造データ生成ステップで生成された構造データと前記材料特性設定ステップで設定された材料特性データと前記拘束条件設定ステップで設定された拘束条件データと前記圧力設定ステップで設定された圧力データとに基づいて有限要素法による計算を行い前記膜構造物の変形挙動を示すデータを前記出力手段を介して出力する出力ステップとを含み、
前記材料特性設定ステップによって設定される前記材料特性データは前記膜の密度を含み、
前記材料特性設定ステップは、前記膜を構成する材料によって特定される密度に、前記膜に接する流体の単位面積当たりの質量を付加質量として加算した値を前記膜の密度として設定する付加質量加算ステップを含む、
ことを特徴とする膜構造物の変形シミュレーション方法。
【請求項2】
前記材料特性設定ステップによる前記膜を構成する材料によって特定される密度に対する前記付加質量の加算は、前記付加質量が前記流体に接する前記膜の全面にわたって均一となるように加算される、
ことを特徴とする請求項1記載の膜構造物の変形シミュレーション方法。
【請求項3】
前記加算質量設定ステップおける前記膜に接する流体は前記膜を囲む3次元形状にモデル化されている、
ことを特徴とする請求項1記載の膜構造物の変形シミュレーション方法。
【請求項4】
前記膜は円筒面上を延在し、
前記3次元形状は、前記円筒面の軸心と平行に延在する軸心を有する円柱体を呈し、かつ、前記円柱体の軸心方向から見た状態で前記円柱体の内部に前記膜が延在するように形成されている、
ことを特徴とする請求項3記載の膜構造物の変形シミュレーション方法。
【請求項5】
前記膜は円筒面上を延在し、
前記3次元形状は前記円筒面の軸心と平行に延在する軸心を有する円柱体をその軸心を含む平面で2分割した円柱分割体を呈し、かつ、前記分割円柱体を前記軸心方向から見た状態で前記円柱分割体の内部に前記膜が延在するように形成されている、
ことを特徴とする請求項3記載の膜構造物の変形シミュレーション方法。
【請求項6】
前記出力ステップによって出力される前記膜構造物の変形挙動を示すデータは、前記複数の節点の変位量で示される、
ことを特徴とする請求項1記載の膜構造物の変形シミュレーション方法。
【請求項7】
前記圧力設定ステップによる圧力データの設定は、圧力が加わる前記膜の位置と、該位置に加わる圧力の時間的変化とが設定されることでなされる、
ことを特徴とする請求項1記載の膜構造物の変形シミュレーション方法。
【請求項8】
前記膜構造物を構成する膜の2つの面のうち一方の面が閉塞された内側空間に臨む内面を構成し、他方の面が前記膜を挟んで前記内側空間の反対側に位置する外側空間に臨む外面を構成し、
前記内側空間に流体が満たされることで前記膜構造物の形状が保たれている、
ことを特徴とする請求項1記載の膜構造物の変形シミュレーション方法。
【請求項9】
前記膜を構成する材料はゴムを含む、
ことを特徴とする請求項1記載の膜構造物の変形シミュレーション方法。
【請求項10】
前記膜を構成する材料はゴムと補強材料とを含む、
ことを特徴とする請求項1記載の膜構造物の変形シミュレーション方法。


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【公開番号】特開2009−87025(P2009−87025A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
物理学 | 計算;計数 | 電気的デジタルデータ処理 | 特定の機能に特に適合したデジタル計算またはデータ処理の装置または方法 | 計算機利用設計
物理学 | 測定;試験 | 材料の化学的または物理的性質の決定による材料の調査または分析 | 機械的応力の負荷による固体材料の強さの調査 | 定張力または定圧縮力によるもの | 気圧または水圧によるもの
【出願番号】特願2007−255902(P2007−255902)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社
【Fターム(参考)】
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査方法;試験の仕方 | 圧縮、耐圧試験
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 力を掛ける方法(時間的、空間的) | 静的負荷による試験
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査対象項目 | 弾性率 | 伸び弾性率(縦弾性係数)
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験片、材料 | 金属材料
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験片、形状、構造及び部分、部品 | シート状
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験装置;構成、部分構成(治具を含む) | シュミレーション装置を有するもの
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 測定対象 | 変位
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 測定対象 | 圧力
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 測定された変化量の取扱い | データの電気的処理 | 演算処理
CAD | 用途
CAD | 検証、解析 | 解析