説明

膜状塗布ノズル、塗布装置および塗布方法

【課題】 吐出口に連通する全ての流路からの流入量を均一にすることができ、塗布ギャップの影響を最小限とし、従来よりも精度良く膜状塗布を行う技術の提供。
【解決手段】 分岐路構造を有する分岐ブロックと、長手方向に幅広に形成された吐出口を有する先端部材と、分岐路構造に連通する細管流入口および先端部材の吐出口に連通する細管流出口を有する細管を複数本設けてなる管部と、を備え、分岐ブロックは、流入口に連通する流路を分岐させる室からなる分岐部を複数段備え、同一段に設けられた分岐部で分岐された流路の流出口までの長さは等しく構成されており、先端部材は、吐出口を構成する溝部を有しており、吐出口の端面の短手方向の長さSが細管流出口の内径Dより長く構成されており、細管流出口が溝部の最奥面に略等間隔に配設されている膜状塗布ノズル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
被塗布物の表面に広範囲にわたって液体材料を膜状に均一な厚さで塗布するためのノズル、塗布装置および塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子製品製造におけるレジスト液などの塗布や、ディスプレイ装置製造における蛍光体ペーストなどの塗布など、被塗布物の表面に広範囲にわたって液体材料を膜状に均一な厚さで塗布する装置において、効率よく塗布を行うため、一般的に一つの細長い隙間が形成されたスリットノズルや、複数本の細い管が狭い間隔で一直線に並んだ櫛状ノズルが用いられている。これらのノズルは少ない回数の移動で塗布を終えられる反面、ノズルの流入口から流出口までの距離の違いや流出口での流動抵抗などにより、ノズル内で圧力が均一にならず、塗布量のバラツキが生じてしまう。この塗布量のバラツキを無くし、均一な厚さの塗布を実現すべく、これまで種々の技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、枚葉状及び連続して走行する帯状の被塗布物の表面に塗布液を塗布するために用いられるエクストルージョン型ノズルに関するもので、塗布液を幅方向に行き渡らせる2段のマニホールドと塗布液を整流する2段のスリットとを備えるエクストルージョン型ノズルであって、2段のスリットのうち塗布液流入側のスリットを交換可能な部材によって形成し、この部材を塗布液の粘度等に応じた最適なものと都度交換して均一な塗布を可能ならしめること、が開示されている。
【0004】
また、特許文献2は、自動車における車体外観の塗装面に保護膜を形成する装置に関するもので、多数の細孔が列設されたノズル装置から比較的低い圧力のもとに被塗装面に近距離から水溶性塗料を噴出しつつ被塗布面において塗料の有する平坦化性質を利用して平滑な保護膜を形成するに際し、細孔における先端開口部に連通部を設けてノズル装置から噴出する塗料を薄膜状に形成することで、平滑な保護膜を塗着するようにしたこと、が開示されている。
【0005】
ところで、特許文献2ように、多数のノズルを一列に配設した場合には、一の流入口からそれぞれの吐出口に至るまでの分岐流路の長さが異なることに加え、分岐流路の長いものほど大きな流動抵抗を受けて圧力損失が大きくなること等に起因して、ノズルからの液状物質の吐出量が、分岐流路の長さの短い中央部分で多く、端部に向けて次第に減少するという、吐出量のばらつきの問題が生じていた。
【0006】
そこで、出願人は、一の流入口から複数個の吐出口に至るまでの間に、流路を分岐させる複数段の分岐路を設ける流体の吐出路構造であって、上段の分岐部を形成している区画室の横幅を、下段側の分岐部入口間距離よりも広く構成し、上下の区画室を下段側の分岐路中心に配置した管路で連通させるとともに、その管路を上下分岐路よりも短く形成することにより、各分岐路のトータル長さをほぼ等しくし、どの分岐路を通る流体の圧力損失もほぼ等しくして、それぞれの吐出口から吐出される流体の吐出量を高い精度で均一化させる技術を提案した(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−370057号公報
【特許文献2】特開平8−224503号公報
【特許文献3】特許第4037861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、ディスプレイ分野等における機材の高機能化や薄層化の要求が高まり、塗布膜の膜厚の均一化の要望が高くなっている。しかしながら、特許文献1のようなスリットノズルでは、ノズル先端と被塗布物との間の距離である塗布ギャップが、被塗布物の平面度や移動手段の平行度などの影響により変動すると、それに影響されて塗布量が変動してしまい、塗布膜厚さが不均一となって所望とする塗膜形状が得られないことがあった。また、スリットノズルは細長い隙間が一つ形成されているのみであるので、液体材料を押し出すための圧力が均等に掛からずに弱い部分から変形、或いは酷いときには破壊を起こしてしまうことがあった。粘度が高い液体材料を塗布しようとする場合、比較的高い圧力を印加することとなり、特に顕著となっていた。上記のような変形が生じると、当然塗布量も変化していまい、均一な厚さの塗膜は得られなかった。
【0009】
スリットノズルの問題を解決すべく、特許文献2のような櫛状ノズルを利用することも考えられる。しかし、特許文献2では、塗料は凹凸のある薄膜状に噴出され、塗膜の平滑化は塗布後の塗料の流動性に因っているため、均一な厚さの塗膜を得る手段としては不十分である。また、特許文献2では、細孔を設けることにより生じる圧力損失の問題については何ら言及されていない。
なお、特許文献3は、基板表面の凹部内に蛍光体ペーストを塗布するなど、多数の平行線を形成するためのものであって、膜状塗布を行うためのノズルを有していない。
【0010】
そこで本発明は、吐出口に連通する全ての流路からの流入量を均一にすることができ、塗布ギャップの影響を最小限とし、従来よりも精度良く膜状塗布を行う技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、分岐路構造を有する分岐ブロックと、長手方向に幅広に形成された吐出口を有する先端部材と、前記分岐路構造に連通する細管流入口および前記先端部材の吐出口に連通する細管流出口を有する細管を複数本設けてなる管部と、を備える膜状塗布ノズルであって、前記分岐ブロックは、流入口に連通する流路を分岐させる室からなる分岐部を複数段備え、同一段に設けられた分岐部で分岐された流路の流出口までの長さは等しく構成されており、前記先端部材は、吐出口を構成する溝部を有しており、前記吐出口の端面の短手方向の長さSが前記細管流出口の内径Dより長く構成されており、前記細管流出口が前記溝部の最奥面に略等間隔に配設されていることを特徴とする膜状塗布ノズルである。
第2の発明は、第1の発明において、前記吐出口の端面の長手方向の長さWが、前記溝部の最奥面の両端に配設された細管流出口間の距離より長く構成されていることを特徴とする。
第3の発明は、第1または2の発明において、前記溝部の短手方向の長さが、最奥面から出口の端面にかけて段階的に拡張されていることを特徴とする。
第4の発明は、第3の発明において、前記溝部の短手方向の断面形状が台形状であり、前記細管流出口が断面形状の鉛直中心線上に位置することを特徴とする。
第5の発明は、第3の発明において、前記溝部の短手方向の断面形状が半円状ないし半楕円状であり、前記細管流出口が断面形状の鉛直中心線上に位置することを特徴とする。
第6の発明は、第1ないし5のいずれかの発明において、前記吐出口の端面の短手方向の長さSが、前記細管の流出口の内径Dの1.2〜2.5倍であることを特徴とする。
第7の発明は、第1ないし6のいずれかの発明において、前記分岐ブロックおよび/または前記先端部材が、組立および分解自在な複数のモジュールから構成されており、各モジュールの組み合わせを可変とすることができることを特徴とする。
【0012】
第8の発明は、第1ないし6のいずれかの発明に係る膜状塗布ノズルと、液体材料を貯留するタンクと、前記タンクから供給される液体材料を前記ノズルへ供給または停止を制御する吐出バルブと、被塗布物を載置するワークテーブルと、前記ノズルと前記ワークテーブルに載置された被塗布物とを相対移動させる移動機構とを備える塗布装置である。
第9の発明は、第8の発明において、前記ノズルを固定するベース部材と、前記ベース部材の中央部分に配設される回転軸と、前記回転軸を回転自在に支持する取付部材と、前記取付部材に配設される調整ネジと、を含んでなる調整機構を設けたことを特徴とする。
第10の発明は、第7の発明に係る膜状塗布ノズルと、液体材料を貯留するタンクと、前記タンクから供給される液体材料を前記ノズルへ供給または停止を制御する吐出バルブと、被塗布物を載置するワークテーブルと、前記ノズルと前記ワークテーブルに載置された被塗布物とを相対移動させる移動機構とを備える塗布装置であって、前記分岐ブロックおよび/または前記先端部材を連結した状態で固定するベース部材と、前記ベース部材の中央部分に配設される回転軸と、前記回転軸を回転自在に支持する取付部材と、前記取付部材に配設される調整ネジと、を含んでなる調整機構を設けたことを特徴とする塗布装置である。
第11の発明は、第8ないし10のいずれかの発明において、前記タンクを複数設け、使用する一のタンクとの連通を選択的に切り換える切換バルブを設けたことを特徴とする。
第12の発明は、第8ないし11のいずれかの発明において、前記吐出バルブと前記切換バルブとの間にポンプを設けたことを特徴とする。
第13の発明は、第12の発明において、前記ポンプが容積式ポンプであることを特徴とする。
【0013】
第14の発明は、第1ないし7のいずれかの発明に係る膜状塗布ノズルを用いて、被塗布物および/またはノズルを移動機構により移動させながら液体材料を膜状塗布する塗布方法である。
第15の発明は、第14の発明において、高粘性の液体材料を膜状塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、均一量分配可能な分岐路構造に加え、その分岐路から均一な量の液体材料の供給を受ける複数の細管および、圧力を回復させる溝部の構成により、塗布ギャップ変動の影響を最小限とすることにより、従来よりも均一な厚さの膜状塗布を行うことができる。
【0015】
また、複数の細管により、供給圧によりかかる力を分散することができるから、高い圧力を掛けることができるので、従来技術では難しかった高粘度の液体材料を用いた膜状塗布を実現することが可能である。
また、各部をモジュール化した場合には、被塗布物のサイズ変更などに対して、モジュールの変更を行うだけで容易にノズル構成の変更を行うことができ、洗浄も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るノズルの全体構造の断面図である。(a)は正面図、(b)はA−A矢視図を示す。
【図2】本発明に係るノズルの先端部の部分拡大断面図である。(a)は正面図、(b)はB−B矢視図を示す。
【図3】塗布時の状態を説明する説明図である。(a)は従来のスリットノズル、(b)は本発明を示す。
【図4】本発明に係るノズルの拡径部形状の変形例を説明する断面図である。(a)は直線的に拡がる場合、(b)は曲線的に拡がる場合を示す。
【図5】本発明に係るノズルのモジュール化の態様を説明する説明図である。
【図6】本発明に係るノズルのモジュール化の態様を説明する説明図である。
【図7】本発明に係るノズルに備えることのできる調整機構の部分断面図である。(a)は正面図、(b)は側面部分断面図を示す。
【図8】実施例1に係るノズルを用いる塗布装置の構成例を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明のノズルの実施形態を説明する。なお、以下では説明の都合上、ノズル流入側を「上」、排出側を「下」といい、分岐ブロック3〜5ないし先端部材12の長手方向を「幅方向」、短手方向を「奥行き方向」ということがある。
【0018】
[ノズル全体構造]
図1は、本発明に係るノズルの全体構造の断面図である。同図中、(a)は正面から見た図、(b)は(a)において示したA−A線に沿って切断して矢印の方向へ向かって見た場合の断面図を示す。
本発明のノズル1は、一段目の分岐ブロック3と、二段目の分岐ブロック4と、三段目の分岐ブロック5とから構成され、一つのノズル流入口2と、吐出口が設けられた細管14を12本有している。図1に開示する実施形態では、一つのノズル流入口2から流入した液体材料43は、三段の分岐部(分岐室)でそれぞれ分岐して、直線状に並んで配設されている合計12本の細管14から溝部15へと流れて吐出する構造となっている。分岐ブロックの段数は二段以上であればよく、例えば、四段や五段であってもよい。各分岐ブロックには、分岐部を構成する分岐室を設け、各分岐室には複数の細管14を連通させる。そのため、細管14の本数は、少なくとも4本以上、好ましくは6本以上、さらに好ましくは8本以上とする。
【0019】
ノズル1に流入した液体材料の流れについて説明する。まず、一つのノズル流入口2から流入した液体材料43は、一段目の分岐ブロック3に設けられた一つの分岐部(分岐室)6で二つの均等で実質的に等長な流れ9に分岐される。ついで、二段目の分岐ブロック4に設けられた二つの分岐部7のそれぞれで、一段目で分岐した液体材料43が更に二つずつの均等で実質的に等長な流れ10に分岐される。ついで、三段目の分岐ブロック5に設けられた四つの分岐部8のそれぞれで、二段目で分岐した液体材料43が三つずつの均等で実質的に等長な流れ11に分岐される。そして、三段目の分岐ブロック5に設けられた四つの分岐部8のそれぞれに連通する三本ずつの細管14に流入して溝部15へと流出し、吐出される。ここで、同一の分岐ブロック内に設けられた分岐部相互間での分岐流の長さはともに等しくする。
【0020】
このように構成することで、同一分岐ブロック内に設けられた分岐部内のいずれの分岐流も等しい管路摩擦等を受けることになり、圧力損失もまた等しくなるので、幅方向に直線状に配設されている各細管14からの吐出量、ひいては溝部15への流れ込む流体材料の量もほぼ等しくすることができる。このことは、均一な厚さの膜状塗布を行う上で重要である。
【0021】
[先端部]
図2は、本発明に係るノズルの先端部の部分拡大断面図である。同図中、(a)は正面から見た図、(b)は(a)において示したB−B線に沿って切断して矢印の方向へ向かって見た場合の断面図を示す。
本発明のノズル先端部材12は、複数の細管14からなる管部13と、管部13と連通して液体材料43を一つに合流させる細長い溝部15とから構成される。
【0022】
管部13を構成する細管14の各流入口16は、前述の分岐ブロック3〜5からなる分岐路構造体の三段目の分岐ブロック5に設けられた分岐部8と連通する。一方、細管14の各流出口17側の端部は、溝部15を有する先端部材12に嵌設され、ロウ、ハンダ、接着剤などにより固着される。これら固着のための接着剤等と接することを嫌う液体材料43を吐出する場合は、接着剤等を用いずに「はめあい」により固定してもよい。また、流出口17端面は、溝部15の最奥面19と同一面上に位置するようになっている。そして、この細管14が複数本長手方向に直線状に略等間隔に配設されて管部13を構成する。幅方向の拡径効果を得るべく、細管14は所定の間隔をもって配置することが好ましいが他方で離間しすぎると膜が形成できないため、例えば、隣り合う細管14の内径Dの中心線間の距離が、内径Dの4〜12倍程度となるように配置する。
本発明の細管14の内径(吐出口の内径)は、例えばφ0.3〜1.0mmであり、作製される膜厚は、例えば20〜500μmである。
【0023】
図1および図2に示すように、溝部15は、長手方向に細長い矩形状をしており、管部13が連通する最奥面19と内壁22,23に囲まれた直方体状の空間を形成している。この溝15が、細管14の流出口を拡径する拡径部を構成する。一方、先端部材12の長手方向の外側面は傾斜面21を有し、二つの面21,21により先細りに形成されている。傾斜面21と溝15との間には、水平面である先端面18が形成されている。また、先端部材12の短手方向の内面は、溝部15の幅方向長さWを規定する内壁23が厚みをもって形成されている。ただし、溝部15の幅方向長さWは、先端部材12の大部分を占める幅広形状であり、幅狭のスリットノズルを形成するための肉厚な壁とはしない。
溝部15の幅方向(長手方向)の長さWは、幅方向の両端に配列された細管14間の距離よりも長く構成することが好ましい。溝部15の幅方向の両端においても幅方向に拡径することで、圧力を回復できるようにするためである。なお、長手方向長さWを規定する内壁23は、傾斜面或いは階段状ないし曲面により構成することができる(後述する短手方向長さSを規定する内壁22についての説明参照)。
【0024】
また、本発明では、溝部15を幅方向のみならず奥行き方向にも拡径している。すなわち、溝部15の短手方向の長さSが細管の内径Dよりも大きく(D<S)なるように形成されている(図2(b)参照)。これにより、分岐部8から細管14を通って流れ出る液体材料43は、被塗布物29に向けて吐出される前に溝部15にて一旦拡がるため、細管14で損失した圧力を、一定程度回復する。かかる構成を備えることにより、ノズル1先端と被塗布物29との間の距離である塗布ギャップGからの影響が排除できる。溝部15内に液体材料が均等に行き渡るように、短手方向の断面形状を、細管の内径Dの中心線に対して線対称となる形状とすることが好ましい。
溝部15の短手方向の長さSおよび細管の内径Dは、使用する液体材料43の物性値や所望とする塗布形状などにより適宜変更するものであるが、例えば、溝部15の短手方向の長さSは細管の内径Dの約1.2倍から約2.5倍が好ましく、約1.5倍から約2.0倍がより好ましい。なお、細管14の流入口16と流出口17の内径が異なる場合には、流出口17の内径を基準とする。
【0025】
本発明における細管14は、分岐部(6、7、8)を含めても最も細くなっており、ここでの流動抵抗が最も大きくなっている。しかし、当該細管14は先端部材12の長手方向に複数本配設されているため、供給圧によりかかる力は分散することになる。つまり、一つのスリットで吐出を行う従来のスリットノズルでは変形等を起こしてしまうような高圧力をかける必要のある液体材料(例えば粘度の高い液体材料)でも、本発明のノズル1であれば変形等を起こさずに吐出することが可能となる。
本発明のノズルは、例えば、粘度300〜500000mPa・sの液体材料の塗布に利用できるが、特に高粘性の液体材料の塗布に好適である。ここで、高粘性とは、例えば、粘度50000mPa・s以上、好ましくは粘度100000mPa・sを超える粘性をいう。
【0026】
図3は、塗布時の状態を説明する説明図である。同図中の符号24は、ノズル1の移動方向を示している。
図3(a)は従来のスリットノズルの場合であり、吐出される液体材料43は、溜め部25からスリット(δ)を通り、そのまま被塗布物29へと吐出される。一方、図3(b)は本発明の場合であり、吐出される液体材料43は、分岐部から細管14(α)を通り、溝部15(γ)で拡がって被塗布物29へと吐出される。
いずれの場合にも塗布時には、ノズル1先端と被塗布物29との間には隙間G(以下「塗布ギャップG」と呼ぶ)がある。この塗布ギャップGは、被塗布物29の平面度や移動機構31の平行度などの影響により変動することがある。塗布ギャップGが大きくなったり、小さくなったりすると、ノズル1先端面と被塗布物29表面とに挟まれた液体材料43が引っ張られたり、押しつぶされたりして、その内部(β、ε)で圧力が低くなったり、高くなったりしてしまう。
【0027】
一般に、狭い流路を通過する流れでは速度は大きく、圧力は小さくなり、逆に、広い流路を通過する流れでは速度は小さく、圧力は大きくなる。従来のスリットノズルでは、狭いスリット内(δ)から急に外部(ε)に出るため、ノズルと被塗布物とで挟まれた液体材料内(ε)での圧力が高まる。すなわち、スリット内(δ)とノズルおよび被塗布物で挟まれた液体材料内(ε)とで圧力差が大きくなり、液体材料は出にくい状態にある。ここに塗布ギャップGの変動による液体材料内(ε)での圧力変動が加わると、スリット内(δ)での圧力が小さいために、少しの圧力変動でも影響を受けてしまい、塗布量が安定せずに膜厚が不均一になってしまう。
【0028】
一方、本発明のノズルでは、細管14(α)からノズル1の外部(β)に出る前に、溝部15(γ)で一旦少し拡がって圧力を回復し、それから外部(β)に出るため、ノズルおよび被塗布物で挟まれた液体材料内(β)での圧力は高まるが急ではない。すなわち、細管(α)とノズルおよび被塗布物で挟まれた液体材料内(β)とで圧力差は大きいが、溝部15(γ)と液体材料内(β)とでは圧力差が小さくなるので、液体材料は出やすい状態にある。ここに塗布ギャップGの変動による液体材料内(β)での圧力変動が加わると、溝部15(γ)での圧力は小さくはないから、少しの圧力変動でも影響は受け難く、塗布量が安定して膜厚が均一になる。
従って、本発明のノズルを用いれば、溝部15が拡径部を構成するので、被塗布物の平面度や移動機構の平行度などの影響により塗布ギャップが変動しても、塗布量が安定して均一な厚さの膜状塗布が行える。
【0029】
[溝部形状変形例]
図2の実施形態では、溝部15の短手方向の長さSを細管の内径Dよりも大きく(D<S)なるように形成しているが、最下流である吐出口端面20での短手方向長さSが最終的に拡径されるようにしてもよい。図4にその例を示す。
図4(a)は、短手方向の断面が台形状となる溝部15である。平面である内壁22a,22bがなす角度は溝部短手方向長さSや細管内径Dにより変わってくるものであるが、例えば、90度以下が好ましく、60度以下がより好ましい。
図4(b)は、短手方向の断面が半円状ないし半楕円状となる溝部15である。
内壁22a,22bは、段階的に短手方向の距離を拡張させる形状であればよいが、なめらかな面(平面または曲面)により構成することが好ましい。
また、図4の(a)、(b)いずれの場合でも、細管流出口17から溝部端面に至る途中に絞りがある形状としないことが好ましい。なぜなら、その方が加工もしやすく、溝部15内の流れも複雑にならないからである。
吐出口を以上に説明したような形状にすることで、図2で説明した直角状に拡がる形状に比べて緩やかに拡がることができ、圧力損失をより少なく抑えて圧力を回復させることができる。
【0030】
[モジュール化]
本発明のノズル1は、分岐部(6、7、8)の態様に応じてモジュール化することができる。図5および図6は、そのモジュール化の態様を説明する説明図である。
図5は、分岐流(9、10、11)の長さが等しい分岐部(6、7、8)同士を一つのまとまりとして分岐ブロック(3、4、5)とし、これをモジュール化したものである。分岐段ごとのモジュールとなっている。各モジュール(3、4、5)は図示しない締結部材により互いに連結されている。締結部材としてはネジ、ボルトなどが例示される。或いは、各モジュールを直接に連結するのではなく、ベースとなる板状体などに各モジュールを固定するようにしてもよい。ここでは、連結ないし固定する際に流路の接続にズレがないよう図示しない位置決めピンなどを設け、簡単に位置を決められるようにするとよい。また、各モジュールの流路接続部分には、液体材料の漏洩を防止するための図示しないシール部材を設けることはいうまでもない。
【0031】
図6は、分岐部(6、7、8)を一つのまとまりとして、これをモジュール化したものである。最小単位のモジュール化ともいえる。先端部材12は、最下段のモジュール5に合わせてモジュール化している。図5と同様に、図示しない締結部材により互いに連結或いは、ベースとなる板状体に各モジュールを固定する。位置決めピンやシール部材などを設けることも同様である。図6の場合、先端部材12の両端を構成するモジュールは他のモジュールとは溝部15の形状が異なっている。これは、溝部15の幅方向長さを規定する内壁23を設けなければならないためである。また、図6では、先端部材12以外のモジュール(特に三段目のモジュール8)でも両端のモジュールで他のモジュールと側壁の厚みが異なっているが、これは互いに直接に連結する際の幅をそろえる目的であって、ベースとなる板等の部材に固定する場合には、各モジュールを同一形状に形成することはもちろん可能である(例えば図7(a)参照)。
【0032】
上記のようにモジュール化することで、被塗布物のサイズ変更などに対して、モジュールの組み合わせを変更するだけで容易にノズル構成の変更を行うことができ、また洗浄も容易である。
【0033】
[調整機構]
上下方向の軸かつ幅方向の軸に垂直な軸周りのノズルの傾きは膜厚の均一性に大きな影響を及ぼすので、本発明のノズル1を塗布装置に設置する際は調整機構を設けることが好ましい。図7は、本発明に係るノズル1を取りつけることのできる調整機構の部分断面図である。同図中、(a)は正面図、(b)は側面部分断面図を示す。
本発明の調整機構35は、ベース板36に各モジュール(6、7、8)を固定したノズル構造体44のほぼ中央部に回転軸37を配設し、この回転軸37を取付板39に固定されたベアリング38に挿入する。ここで、ベース板36と取付板39とは固定されておらず、ベース板36とそれに固定されたノズル構造体44は自由に回転できるようになっている。これによりノズル構造体44は全体として上下方向の軸かつ幅方向の軸に垂直な軸(図7(a)でいえば紙面に垂直な軸)周りに回転することができる(符号41)。そして、取付板39には調整ネジ40が左右各一個ずつ設けられており、このネジをそれぞれ進退移動(符号42)させることにより、ベース板36の上面を押し込む量を調整して、ノズル構造体44を微少量回転させてノズル1の傾きを調整する。この調整ネジには、マイクロメータヘッドのような目盛りのついたものを用いると、調整量が確認および記録ができて作業が容易になる。
このような機構を設けることにより、ノズル1の傾きに起因する膜厚の不均一を解消することができ、さらに均一で精度のよい塗膜形状を形成することができる。
【0034】
以上に説明した本発明のノズルは、ノズルとワークを相対移動させるXYZ駆動機構を備える塗布装置、固定されたワークに対し、ノズルが設けられたフレームを移動させるガントリ型装置、連続的に搬送されるワークに対して位置固定されたノズルから塗布を行う塗布装置など、ワークに膜状塗布を行う種々の塗布装置に適用可能である。
【0035】
以下では、本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明は何ら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
[塗布装置]
実施例の塗布装置は、保護ガラスと液晶ディスプレイを直接貼り付けて視認性を高めるオプティカルボンディングを行うための接着剤・充填剤の塗布装置である。図8は、実施例に係る塗布装置の構成例を説明する説明図である。
本実施例の塗布装置26は、液体材料43を貯留するタンク27と、タンク27から供給される液体材料43を本発明のノズル1へ供給するか停止するかを制御する吐出バルブ28と、本発明のノズル1と、被塗布物29を載置するワークテーブル30と、本発明のノズル1とワークテーブル30に載置された被塗布物29とを相対移動させる移動機構31とを備える。
タンク27は、圧縮気体の供給により液体材料43の供給を行う圧力容器である。本実施例で貯留される液体材料43の粘度は、例えば1500〜100000mPa・sである。本実施例では、複数のタンクを用意して交互に使うようにすることで、液体材料43を補充する度に装置を停止することなく作業を続けられる。なお、本実施例では切換バルブ33を設け、使用するタンク27を選択できるようにしているが、一のタンク27を用いる構成としてもよい。
【0037】
また、本実施例では切換バルブ33と吐出バルブ28との間にポンプ34を設け、タンク27に圧縮気体の供給を行わずに、或いは行いながら、液体材料43の供給を行うようにしている。ポンプ34としては、例えば、シリンジポンプ、ダイアフラムポンプ、ベーンポンプ、ギアポンプなどの容積式ポンプを用いることが好ましい。容積式ポンプを用いることにより定量の液体材料43を供給することができ、吐出量を精度よく制御することができる。
【0038】
吐出バルブ28は、タンク27から供給される液体材料43を本発明のノズル1へ供給するか停止するかを制御するものであり、その開放時間を制御することによって吐出量を制御するものである。
ノズル1は、上記実施の形態で説明した図1および2に記載されるノズルである。被塗布物29の大きさや所望とする塗布形状に応じて、分岐の段数、分岐部の数、細管14の本数そして溝部15の幅方向長さなどを適宜変更することができる。細管14の内径は、例えば、φ0.6mmである。
【0039】
ワークテーブル30は、被塗布物29を載置、固定するものであり、例えば、真空引きによる吸着や位置決めピンによる突き当てなどによりしっかりと被塗布物29を固定し、相対移動によりずれないようにする。
移動機構31は、ノズル1とワークテーブル30に載置された被塗布物29とを符号32の方向に相対移動させるもので、その態様は、ノズル1のみ移動させるもの、ワークテーブル30のみ移動させるもの或いはノズル1とワークテーブル30とをそれぞれ移動させるものいずれを採用してもよい。本実施例で、XYZロボットを用いた。
【0040】
以上に説明した本実施例の塗布装置により、膜厚100μm以下の条件を設定して塗布試験を行ったところ、所望の膜厚に対して±5%の精度を得ることができた。本実施例の塗布装置26を用いることにより、均一な厚さの膜状塗布を行えることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、被塗布物の表面に広範囲にわたって液体材料を均一に塗布するための技術に利用でき、例えば、電気・電子製品製造におけるレジスト液などの塗布や、ディスプレイ装置製造における蛍光体ペーストなどの塗布のみならず、フラットパネルディスプレイで用いられる保護カバーなどを接着するための光学弾性樹脂(SVR)塗布、有機ELパネル全面を封止する際の封止材の塗布、放熱グリースの塗布、等に利用できる。
【符号の説明】
【0042】
1:ノズル 2:ノズル流入口 3:一段目の分岐ブロック(モジュール) 4:二段目の分岐ブロック(モジュール) 5:三段目の分岐ブロック(モジュール) 6:一段目の分岐部(モジュール) 7:二段目の分岐部(モジュール) 8:三段目の分岐部(モジュール) 9:一段目の分岐流 10:二段目の分岐流 11:三段目の分岐流 12:先端部材 13:管部 14:細管 15:溝部 16:細管流入口 17:細管流出口 18:先端面 19:最奥面(管部が連通する面) 20:吐出口端面 21:傾斜面 22:(短手方向の)内壁 23:(長手方向の)内壁 24:ノズル移動方向 25:溜め部 26:塗布装置 27:タンク 28:吐出バルブ 29:被塗布物 30:ワークテーブル 31:移動機構 32:移動方向 33:切換バルブ 34:ポンプ 35:調整機構 36:ベース板(ベース部材) 37:回転軸 38:ベアリング 39:取付板(取付部材) 40:調整ネジ 41:回転方向 42:進退移動方向 43:液体材料 44:ノズル構造体 S:溝部短手方向長さ D:細管内径 G:塗布ギャップ α:細管内 β:本発明のノズルおよび被塗布物とで挟まれた液体材料内 γ:溝部内 δ:スリット内 ε:従来のスリットノズルおよび被塗布物とで挟まれた液体材料内

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐路構造を有する分岐ブロックと、長手方向に幅広に形成された吐出口を有する先端部材と、前記分岐路構造に連通する細管流入口および前記先端部材の吐出口に連通する細管流出口を有する細管を複数本設けてなる管部と、を備える膜状塗布ノズルであって、
前記分岐ブロックは、流入口に連通する流路を分岐させる室からなる分岐部を複数段備え、同一段に設けられた分岐部で分岐された流路の流出口までの長さは等しく構成されており、
前記先端部材は、吐出口を構成する溝部を有しており、前記吐出口の端面の短手方向の長さSが前記細管流出口の内径Dより長く構成されており、前記細管流出口が前記溝部の最奥面に略等間隔に配設されていることを特徴とする膜状塗布ノズル。
【請求項2】
前記吐出口の端面の長手方向の長さWが、前記溝部の最奥面の両端に配設された細管流出口間の距離より長く構成されていることを特徴とする請求項1の膜状塗布ノズル。
【請求項3】
前記溝部の短手方向の長さが、最奥面から出口の端面にかけて段階的に拡張されていることを特徴とする請求項1または2の膜状塗布ノズル。
【請求項4】
前記溝部の短手方向の断面形状が台形状であり、前記細管流出口が断面形状の鉛直中心線上に位置することを特徴とする請求項3の膜状塗布ノズル。
【請求項5】
前記溝部の短手方向の断面形状が半円状ないし半楕円状であり、前記細管流出口が断面形状の鉛直中心線上に位置することを特徴とする請求項3の膜状塗布ノズル。
【請求項6】
前記吐出口の端面の短手方向の長さSが、前記細管の流出口の内径Dの1.2〜2.5倍であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかの膜状塗布ノズル。
【請求項7】
前記分岐ブロックおよび/または前記先端部材が、組立および分解自在な複数のモジュールから構成されており、各モジュールの組み合わせを可変とすることができることを特徴とする請求項1ないし6の膜状塗布ノズル。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載の膜状塗布ノズルと、
液体材料を貯留するタンクと、
前記タンクから供給される液体材料を前記ノズルへ供給または停止を制御する吐出バルブと、
被塗布物を載置するワークテーブルと、
前記ノズルと前記ワークテーブルに載置された被塗布物とを相対移動させる移動機構と
を備える塗布装置。
【請求項9】
前記ノズルを固定するベース部材と、
前記ベース部材の中央部分に配設される回転軸と、
前記回転軸を回転自在に支持する取付部材と、
前記取付部材に配設される調整ネジと、
を含んでなる調整機構を設けたことを特徴とする請求項8の塗布装置。
【請求項10】
請求項7記載の膜状塗布ノズルと、
液体材料を貯留するタンクと、
前記タンクから供給される液体材料を前記ノズルへ供給または停止を制御する吐出バルブと、
被塗布物を載置するワークテーブルと、
前記ノズルと前記ワークテーブルに載置された被塗布物とを相対移動させる移動機構と
を備える塗布装置であって、
前記分岐ブロックおよび/または前記先端部材を連結した状態で固定するベース部材と、
前記ベース部材の中央部分に配設される回転軸と、
前記回転軸を回転自在に支持する取付部材と、
前記取付部材に配設される調整ネジと、
を含んでなる調整機構を設けたことを特徴とする塗布装置。
【請求項11】
前記タンクを複数設け、
使用する一のタンクとの連通を選択的に切り換える切換バルブを設けたことを特徴とする請求項8ないし10のいずれかの塗布装置。
【請求項12】
前記吐出バルブと前記切換バルブとの間にポンプを設けたことを特徴とする請求項8ないし11のいずれかの塗布装置。
【請求項13】
前記ポンプが容積式ポンプであることを特徴とする請求項12の塗布装置。
【請求項14】
請求項1ないし7のいずれかに記載の膜状塗布ノズルを用いて、被塗布物および/またはノズルを移動機構により移動させながら液体材料を膜状塗布する塗布方法。
【請求項15】
高粘性の液体材料を膜状塗布する請求項14の塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−239930(P2012−239930A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109047(P2011−109047)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(390026387)武蔵エンジニアリング株式会社 (56)
【Fターム(参考)】