説明

膜蛋白質発現系及び薬剤スクリーニングにおけるその利用

【課題】薬剤排出ポンプ蛋白質の阻害物質や異なる種由来の薬剤耐性に関連する他の細胞膜蛋白質を試験するための細胞を用いた簡便なin vitro膜蛋白質発現系を提供する。
【解決手段】薬剤スクリーニングに適用するための宿主細胞膜の薬剤耐性に関わる排出ポンプ作用を有する異種蛋白質を過剰発現させるためのインビトロ細胞ベースの発現系、すなわち、以下を含む蛋白質発現系:i)宿主酵母細胞;及びii)標的異種膜タンパク質のコーディング配列を含むベクターであって、当該配列が、前記宿主細胞の形質転換及び染色体組込みの際に、前記宿主細胞の膜に前記標的機能タンパク質の過剰発現を生じさせるプロモーターの制御下にある、前記ベクター、を含むタンパク質発現系。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、特に細胞膜蛋白質発現系(ただしこれに限らない)に関連した蛋白質発現システムであり、細胞膜に存在する蛋白質の基礎生物学的理解および新薬の発見に本システムを応用するものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
標的細胞の中でも細胞膜または膜表面に存在する蛋白質は最も目立ち、医薬品または農薬を用途とした分子標的薬剤が到達しやすい、魅力的な部位である。たとえば、ouabain等の薬剤や強心配糖体は心疾患治療として有効な薬剤であるが、その機序は哺乳類細胞の細胞膜蛋白質Na+、K+-ATPaseのアイソフォームを阻害することである。(Schwartz A, et al, 1982)。
【0003】
細胞表面に存在する標的細胞膜蛋白質には、それぞれ宿主または病原体の細胞の構成成分として構成的に発現する蛋白質がある。あるいは、突然変異や細胞間または有機体間の相互作用により発現する蛋白質もある。このような細胞膜蛋白質にはトランスポーター、チャネル、受容体、酵素および構造蛋白質、制御蛋白質または役割が未知の蛋白質がある。このように様々な種類の蛋白質が宿主生物、組織または細胞の増殖力、生存力および機能性に影響を与えることが明らかとなっている。特に、いくつかの種類の細胞膜蛋白質は薬剤耐性に関与していることが分かっている。これらの蛋白質には、抗生物質など特定の薬剤や異物を細胞外へ排出する機能を持つ薬剤排出ポンプ蛋白質などがある。この排出機能があるために細胞内の標的部位における薬剤濃度が低下し、薬効が失われてしまう。薬剤排出ポンプ蛋白質の阻害剤を試験するツールとしては酵母細胞発現系が有名である。1998年、Decottignies et alは多剤耐性ポンプ蛋白質(ABCトランスポーター蛋白質)を欠損させた多数のSaccharomyces cerevisiea株の細胞膜に内因性膜蛋白質が過剰発現したことを報告した。この系には、このような過剰発現を助長する調節因子も組み込まれている。Carjaval et al(1997年)も調節因子を利用した実験例を述べている。ただし、この系の適用には制限があり、種族特異的である。つまり酵母Saccharomyces cerevisieaの薬剤耐性を阻害するのに有用な薬剤しか同定できない。
【0004】
薬剤耐性の問題はあらゆる動物相や植物相にみられ、酵母菌のみに限られている訳ではない。従って、ポンプ蛋白質に対する阻害物質となり得るものや薬剤耐性に関連するその他の細胞膜蛋白質を試験するための細胞を用いた簡便なin vitro膜蛋白質発現系が必要である。
【0005】
試験化合物として使用できる化合物は主として化合物ライブラリーにあり、その種類および複雑性は増大傾向にある。そのため広範囲の種から、推定の膜蛋白質標的のアンゴニストまたはアンタゴニストをスクリーニングし、ハイスループット形式で作動できる簡便なin vitro細胞での膜蛋白質発現系が必要である。
【0006】
本発明は、これらの必要性に応じる、あるいは社会に有用なオプションを提供することを目的としている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要旨
本発明は、以下を含む蛋白質発現系を提供する:
i) 宿主酵母細胞;及び
ii) 標的異種膜タンパク質のコーディング配列を含むベクターであって、当該配列が、前記宿主細胞の形質転換及び染色体組込みの際に、前記宿主細胞の膜に前記標的機能タンパク質の過剰発現を生じさせるプロモーターの制御下にある、前記ベクター、
を含むタンパク質発現系。
【0008】
宿主酵母細胞は、Saccharomyces属酵母株を含んでもよい。
【0009】
宿主酵母細胞は、薬剤排出ポンプなどの天然膜蛋白質が1個以上欠損した変異株を含んでいてもよく、宿主細胞膜で発現する標的蛋白質は、宿主細胞膜内で比較的に主に発現し、薬剤スクリーニングに適するものである。酵母株はSaccharomyces cerevisiea AD1-8u-株が好ましい。
【0010】
いくつかの用途において、宿主細胞は、細胞膜と通常融合する能力が温度感受性である分泌小胞を形成させる変異を含んでいてもよい。突然変異株はAD1-8u-のsec6-4変異株が望ましい。
【0011】
標的異種蛋白質のコード配列は、内因性プロモーターの下流などゲノム上の定位置に組み込まれてもよい。
【0012】
標的異種蛋白質のコード配列は、標的蛋白質の完全な天然コード配列か、形質転換および発現の際、検出可能な表現型を有する機能性膜蛋白質を生成する機能フラグメントまたはその変異体のコード配列を含んでもよい。
【0013】
標的異種蛋白質のコード配列には、真菌の多剤耐性などに関与する薬剤排出ポンプ蛋白質だけでなく、その他P糖蛋白、嚢胞性繊維症膜貫通調節因子(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)ならびに外来異物に対する耐性または感受性の獲得、病原性、生理的調節、増殖および発生などの役割を有するヒト、動物、植物および微生物の細胞膜蛋白質などを含んでもよい。
【0014】
薬剤排出ポンプ蛋白質を標的膜蛋白質とし、排出ポンプ阻害剤を候補化合物とするのが好ましい。
【0015】
目的異種蛋白質の標的コード配列を導入するために使用するベクターは、大腸菌の中で複製可能な構成要素を含有するプラスミドベクターが適している。
【0016】
該ベクターは宿主細胞内で機能する転写終結因子も備えることができる。さらに、形質転換後の細胞で選択可能な表現型を現す選択マーカーを持つベクターもある。プロモーターは構成的な酵母S. cerevisiae PDR5およびPMA1プロモーター、銅制御性CTR3プロモーター、glucose 誘導性ADH1およびPGKプロモーター、ガラクトース誘導性のGALプロモーター、ドキシサイクリン制御性の細菌内tet0プロモーターおよびtet0::ScHOP1制御性カセットから選択する。好ましいプロモーターはPDR5で、ベクターはpABC3である。
【0017】
宿主酵母菌はさらに標的コード配列を過剰発現し、それにより宿主の細胞膜に標的蛋白質を大量に発現させる、変異した転写調節因子のコード配列を有している。変異型転写因子にはPdrl-3pを使用することができる。
【0018】
本発明は、以下の工程を含む、医薬品または農薬として有用な薬剤をスクリーニングする方法をさらに提供する:
i) 標的異種蛋白質のコーディング配列を含むDNAで酵母宿主細胞の染色体DNAを形質転換する、ここで、前記配列は、宿主細胞膜で標的機能蛋白質の過剰発現を生じさせる宿主のプロモーターの制御下にある;
ii) 少なくとも1個の候補化合物を前記宿主細胞環境または形質転換した宿主由来の細胞膜分画環境に導入する;および
iii) 候補化合物が標的膜蛋白質を介して宿主細胞の増殖および/または生存および/または特異的な生化学的もしくは生理学的機能に及ぼす影響があれば、それを測定すること、および/または前記候補化合物と標的膜蛋白質との結合を測定する。
【0019】
本発明の標的異種蛋白質には、真菌の多剤耐性に関与している蛋白質など薬剤排出ポンプ蛋白質以外にもP糖蛋白、嚢胞性繊維症膜貫通調節因子ならびに異物に対する耐性または感受性獲得、病原性、または生理的調節、増殖および発生などの役割を有するヒト、動物、植物および微生物の細胞膜蛋白質などがある。
【0020】
薬剤排出ポンプ蛋白質を標的膜蛋白質とし、排出ポンプ阻害剤を医薬品候補化合物とするのが望ましい。
【0021】
酵母宿主細胞にはSaccharomyces属酵母を使用するのが望ましく、最適な宿主細胞は天然の膜蛋白質を遺伝子操作で1個以上欠損させたSaccharomycesである。宿主細胞としては、酵母Saccharomyces cerevisiae AD1-8u-株が適している。別の具体例として酵母AD1-8u- sec6-4 変異株を使用できる。さらに別の具体例として原栄養性、栄養要求性または薬物感受性など新しい表現型を選択して変異させた酵母AD1-8u-派生株も使用できる。
【0022】
プラスミドベクター由来の形質転換カセットを使用して宿主細胞の染色体DNAの形質転換を行う。ベクターは大腸菌の中で自己複製が可能なエレメントおよびSacharomyces cerevisiae由来のプロモーター(できればPDR5プロモーター)などのプロモーターを有している。Saccharomycesプロモーターの働きは、変異型転写調節因子の制御下で標的コード配列の過剰発現を引き起こし、それにより宿主細胞膜に標的蛋白質を異常発現させる。変異型転写調節因子にはPdr1-3pが使われることが多く、宿主細胞のゲノムに存在する。酵母内で機能している転写終結因子をベクターの中に取り込む場合もある。膜蛋白質をコードする遺伝子にもともと備わっている終結因子または酵母のPGK1終結因子が好適である。その他の実施例として、免疫反応性タグ、親和性タグ、または蛍光タグをベクターに挿入する場合もある。さらに、酵母S. cerevisiae URA3マーカーなどの選択マーカーをベクターに挿入することもある。その他、ベクターに酵母S. cerevisiaeのセントロメアまたは自律複製配列(ARS)を挿入することもある。ベクターにはpABC3が適している。
【0023】
化合物に生理活性物質、医薬品または農薬への有用性があるかを調べるために本発明の手法とシステムを利用することも本発明の一部である。下記に定義されるように、NK20等化合物ライブラリーから化合物を得る場合もこれに該当する。
【0024】
本発明の手法およびシステムは、前記標的膜蛋白質の生理学研究、生化学分析、酵素精製および構造分析を目的に酵母および異種膜蛋白質を過剰発現させることができる。本発明の手法およびシステムで作製し、精製された膜蛋白質もまた本発明の一部である。
【0025】
別の実施形態として、本発明は医薬品または農薬として有用な薬剤スクリーニング用に本発明の蛋白質発現系および適切な説明書から成るキットを提供する。
【0026】
本発明の別の形態として、病原体の生存性もしくは毒性、または病気の進行の原因となる標的膜蛋白質が必要な場合が想定される。たとえば付着または摂取したウイルスその他の病原体の標的蛋白質である。この場合、標的膜蛋白質の機能に何らかの影響を与える化合物があれば、それを測定する。
【0027】
本発明は広義では上記に記載される通りであるが、それに限定されるものではない。以下、上記に限定されない具体的な実施例を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明は、これから以下の図面を参照して詳細に説明する:
【図1】(A) 図はpSK-PDR5PPUSプラスミドの構造を示し、(B) 図はプラスミドの誘導体pABC3の構造を示す。
【図2】(A) 図はプラスミドpKEN1002の構築およびC. albicans CDR1遺伝子の酵母S. cerevisiae AD1-8u-株の染色体遺伝子PDR5座への導入を示す。
【図3】本図はC. albicans CDR1単一コピー遺伝子の酵母S. cerevisiae AD1002株のPDR5座への導入を示す。制限酵素処理前または処理後のAD1002株のゲノムDNAを寒天ゲル内で電気泳動し、ナイロン膜上でバキュームブロットした。その後ストリンジェンシーを上げた状態で[α-32P]dCTPで標識したC. albicans CDR1プローブとハイブリダイズした。
【図4】本図は酵母S. cerevisiae AD1002株におけるC. albicans CDR1 mRNAおよびCdr1pの発現を示す。(A)親株のAD1-8u-株、線状プラスミドpSK-PDR5PPUSを用いて形質転換したAD1-8u-株またはAD1002株から得たRNAと[α-32P]dCTPで標識したC. albicans CDR1プローブおよび酵母S. cerevisiae PMA1(制御)プローブの混合をハイブリダイズした。下のパネルは、バキュームブロットを行う前にethidium bromideで染色した寒天ゲルの一部を示す。(B) 8%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で単離し、Coomassie blueで染色した細胞膜蛋白質。(C) 8%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で単離した細胞膜蛋白質をニトロセルロース膜上にブロットし、抗C. albicans Cdr1p抗体とインキュベートした。抗体はhorseradish peroxidase-IgG複合体を使って検出した。
【図5】本図は、Cdr1pを発現する酵母S. cerevisiae AD1002株の様々な薬剤や化学物質に対する感受性を示す。酵母S. cerevisiae AD1-8u-(CDR1 -)株細胞またはAD1002 (CDR1 +)株細胞 (5 x 105) をCSM寒天プレート(AD1-8u-株にはuracilを添加)の寒天上に播種したものを、フィルターディスクに塗布した薬剤または化学物質に曝し、30℃で48時間インキュベートした。AD1002株の薬剤または化学物質に対する感受性は培地にuridine(0.02% w/v)を添加しても変化はなかった。それぞれディスクに添加した薬剤の分量は下記に記載する実施例2の材料および方法を参照されたい。
【図6】本図はoligomycin感受性を示すC. albicansの細胞膜画分におけるCdr1p-ATPase活性を示す。酵母S. cerevisiae AD1002株(黒四角)またはAD1-8u-親株(黒丸)から膜分画を単離した。実施例2の材料および方法で記載した通り30℃で30分間ATPaseアッセイを行った。Oligomycin(20μM)の存在下および非存在下でのATPase活性の差異からoligomycin感受性を測定した。ATPase活性はvanadate(100μM)には完全な感受性を示したが、aurovertin B(20μM)には非感受性を示した。結果はすべて2種類の膜調製物に対し実施した4回の測定値の平均値(±SD)で表した。
【図7】本図は対照株としてのAD1-8u-株およびAD-pABC株、派生株としてのAD-PDR5株、AD-CDR1株、AD-BENR株およびAD-ERG11株から得た細胞膜蛋白質のプロファイルを示す。SDS-可溶性蛋白質サンプル30μgを8% ポリアクリルアミドゲル中で分離し、Coomassie blueで染色した。レーン1は分子量マーカーの相対移動距離を示す。AD-pABC株(レーン2)、AD-PDR5株(レーン3)、AD-CDR1株(レーン4)、AD-ERG11株(レーン5)、AD-BENR株(レーン 6)およびAD1-8u-株(レーン7)から細胞膜を得た。
【図8】本図では、対照株S. cerevisiae(AD-pABC株、カラム1)と、以下の蛋白質を過剰発現させる株Pdr5p(AD-PDR5株、カラム2)、Cdr1p(AD-CDR1株、カラム3)、BenRp(AD-BENR株、カラム4)およびErg11p(AD-ERG11株、カラム5)を使って様々な抗真菌薬や化学物質に対する感受性を示す。細胞はCSM-寒天プレート上に播種し、フィルターディスクに塗布した薬剤または化学物質に細胞を暴露してから、30℃で48時間インキュベートした。それぞれの薬剤添加量は実施例3の材料および方法の章を参照されたい。Rhodamine 6GおよびRhodamine 123はethanol に溶解し、その他の抗真菌薬はDMSOに溶解した。
【図9】本図はPDR5開始コドンとの相対位置でSfiI部位をヌクレオチド-30から-18に配置し、PacI部位をヌクレオチド-11から-4に配置した場合にAD1-8u-の背景を有する菌体がPdr5p発現に及ぼす影響を示す。8% ポリアクリルアミドゲルで単離した細胞膜蛋白質(30μg)をCoomassie blueで染色した。レーン1は分子量マーカーの相対移動度を示す。AD1-8u-株(レーン2)、AD-PDR5株(レーン3)、AD-PDR5-SfiI/PacI(レーン4)、AD-PDR5-SfiI(レーン5)、AD-PDR5-PacI(レーン6)およびAD1234567株(レーン7)から細胞膜を採取した。
【図10A】本図はPdr5p阻害因子KN20のin vitroにおける性状を示す。(A) 精製されたペプチドD-NH2-asparagine-tryptophan-tryptophan-lysine-valine-arginine-arginine-arginine-CONH2 (KN0)とその1個の置換基を有するMtr-誘導体 KN20によるoligomycin感受性Pdr5pのATPase活性阻害プロファイル。
【図10B】(B) AD1002由来細胞膜のoligomycin感受性 Cdr1p ATPase活性から同系AD1-8u- 株由来細胞膜のoligomycin感受性 ATPase活性を差し引いたKN20添加による阻害プロファイル。
【図11A】本図はAD124567 細胞のfluconazoleに対する感受性にリード化合物KN20が及ぼす相乗効果を測定するアッセイを示す。(A) 指示濃度のfluconazole およびKN20存在下におけるAD124567株を使ったCheckerboard法薬剤感受性検査。
【図11B】(B) AD124567株を使ったディスク法薬剤感受性検査。本アッセイは実施例4の材料および方法に記載の通り、fluconazole(120μg/ml)の存在下または非存在下および (1) KN0(47 nmol)、(2) ディスクに塗布したKN20(47 nmol)または対照量のDMSO(0)で実施した。
【図12A】本図はAD1002株およびATCC 10261細胞のfluconazoleに対する感受性にリード化合物 KN20が及ぼす相乗効果を測定するアッセイを示す。(A) AD1002株を使ったCheckerboard法薬剤感受性検査。本アッセイは材料および方法で記載の通り、指示濃度のfluconazoleおよびKN20存在下で実施した。
【図12B】(B) AD1002株を使ったディスク法薬剤感受検査性。本アッセイは実施例4の材料および方法に記載の通り、 fluconazole(5μg/ml)の存在下または非存在下および (1) KN0(12 nmol)、(2) ディスクに塗布したKN20(12 nmol)または対照量のDMSO(0)で実施した。
【図12C】(C) ATCC 10261株を使ったCheckerboard法薬剤感受性検査。本アッセイは実施例4の材料および方法で記載の通り、指示濃度のfluconazoleおよびKN20存在下で実施した。Dはマイクロタイター・プレート・ウェルからサンプルを固形YPD培地に移して培養した際にコロニー形成単位が増えないことで測定される細胞死を意味する。
【図13A】本図は(a)AD-BENR株 (B)AD-ERG11株を使ったcheckerboard法薬剤感受性検査を示す。本アッセイは実施例4の材料および方法で記載の通り、指示濃度のfluconazoleおよびKN20存在下で実施した。Dはマイクロタイター・プレート・ウェルからサンプルを固形YPD培地に移して培養した際にコロニー形成単位が増えないことで測定される細胞死を意味する。
【図13B】本図は(a)AD-BENR株 (B)AD-ERG11株を使ったcheckerboard法薬剤感受性検査を示す。本アッセイは実施例4の材料および方法で記載の通り、指示濃度のfluconazoleおよびKN20存在下で実施した。Dはマイクロタイター・プレート・ウェルからサンプルを固形YPD培地に移して培養した際にコロニー形成単位が増えないことで測定される細胞死を意味する。
【図14】AD1002株を使ったazide依存性fluconazole蓄積を示す。[3H] fluconazole蓄積はsodium azide(20 mM)の存在下(標識)または非存在下(未標識)で測定した。AD1-8u-株(黒四角,白四角)、AD1-8u-/pSK-PDR5PPUS株(黒菱形,白星形)、AD1002株(黒丸,白丸)。2バッチの細胞から得られたそれぞれ6つの測定値はすべて平均値± SDで示す。
【図15A】本図はAD124567株、AD1-8u-株およびAD1002株によるエネルギー依存性Rhodamine 6G排出を示す。実施例4の材料および方法で記載の通り、エネルギー源を断たれた細胞にRhodamine 6Gを前処理した。Rhodamine 6G排出は30℃で、細胞懸濁液にglucose(2 mM)を添加後、細胞の上清に含まれるfluorescenceの量で測定した。 (A) AD1002株(黒四角)およびAD1-8u-株(黒丸)を使ったエネルギー依存性Rhodamine 6G 排出の動態。glucose非添加のAD1002細胞の上清に含まれるfluorescenceも示した(白丸)。
【図15B】(B)AD124567細胞を使ったエネルギー依存性Rhodamine 6G排出に及ぼすKN20添加の影響。Rhodamine 6Gで前処理したAD124567細胞に指示濃度のKN20を添加し、30℃で5分間インキュベートした後glucoseを添加し、Rhodamine 排出を開始した。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の好ましい形態の詳細な説明
本発明は主として、異種蛋白質を過剰発現できる遺伝子を含む、宿主形質転換用プラスミドベクターの構築や、細胞表面に存在し機能している標的膜蛋白質の分析と応用を含む本システムを用いて、動物、ヒトおよび植物に応用できる有用な薬剤をスクリーニングする手法に関連するものである。多剤排出機能を持つ蛋白質を標的膜蛋白質として、人工酵母株、特に似通った機能を有する内因性膜トランスポーターを数種類欠損させた酵母株を宿主細胞として使用するのが好ましい。ただし本手法は薬剤スクリーニングにも有用であり、その場合の標的は、感受性がゼロまたは適度である遺伝子背景を有する菌株に標的蛋白質が過剰発現すると薬剤耐性など検出可能な表現型を引き起こす細胞機能をもつ蛋白質または酵素である。この場合の標的は細胞膜蛋白質のこともあるが、その他オルガネラや細胞内の成分に存在する膜蛋白質または可溶性蛋白質もこれに含まれる。
【0030】
本システムは主として機能的に、安定した高レベルで標的膜蛋白質発現を提供するために考案された。標的膜蛋白質をコードする遺伝子の適切なエレメントを転写終結因子や下流の選択マーカーと一緒に操作し、やはり転写調節因子の制御下にある酵母の非必須遺伝子の染色体複製の中に組み入れるのが望ましい。このタイプの構築物により対照となるnull突然変異体と共に潜在的または事実上存在する細胞表面の標的蛋白質を選択的かつ機能的に過剰発現させ、前記標的蛋白質の生理学的、生化学的特徴づけ、あるいは創薬開発への応用を可能にするシステムが提供できる。また本システムはその他のオルガネラまたは細胞内成分に存在する膜蛋白質や可溶性蛋白質を機能的に過剰発現させる可能性も秘めている。
【0031】
宿主細胞にはS. cerevisiae属酵母が好適である。特にS. cerevisiae属の酵母は創薬分野で非常に有用である。なぜなら、S. cerevisiaeのゲノムは完全に解読され、注釈づけもされているため、その遺伝的特徴が十分に理解されており、扱いやすいからである。また培養も簡便で、マイクロタイタープレートを用いた細胞アッセイが可能であり、従来から手作業やハイスループットスクリーニングで行われている。
【0032】
本発明は異種蛋白質を細胞膜蛋白質の10〜20%を占める程度まで過剰発現させ、試薬の効果が十分測定できる環境にするシステムを提供する。S. cerevisiaeを用いて細胞膜に高率(細胞膜蛋白質の>10%)に異種蛋白質を発現させることに初めて成功した。過去に様々なシステムで細胞膜に異種蛋白質を発現させる試みがなされてきたが、すべて不成功に終わっている(Mahanty et al 1994; Luo et al, 1999; Mao & Scarborough, 1997 and Huang et al 1996)。不成功の理由のひとつに、おそらく生育培地や生育期が影響した細胞内の不適切な移行が考えられる(de Kerchove d'Exaerde A, et al, 1995)。別の理由として、新しく合成された蛋白質産物を正しく折り畳む内在系との不和合性が考えられる。さらに、先行技術はエピソームベクターを用いるシステムであるため選択肢が多く、同じ種でも個々の生物が多様な負荷ベクターを持つことができるため、一定の結果が得られない。本発明の方法は、発現させる生物のゲノムに異種遺伝子の単一コピーを組み込むため、一定の遺伝的負荷を与えることができる。このように本システムは、不適切な移動や不適切な折り畳みが生じる恐れがなく、細胞膜で異種蛋白質機能を安定した高レベルで発現させることに成功した、先行技術システムよりも相当に優れたシステムである。
【0033】
本発明ではS. cerevisiae属酵母のうち、とりわけ遺伝子操作で特定の膜蛋白質を欠損させたS. cerevisiae変異株を使用するため、宿主細胞が標的膜蛋白質を過剰発現させるのに最適なnull表現型となる。たとえば、標的膜蛋白質の異種蛋白質を過剰発現させるには7個の主要なABCトランスポーター蛋白質を欠損したAD1-8u-株を宿主細胞とするのが有用であることが示されている。AD1-8u-株をDecottignes et al, 1998年(この文献ではAD1-8u-株をAD12345678と述べている)の指示に従って調製する。この宿主細胞の場合、通常ABCトランスポーター系の多剤排出ポンプが標的とするazole系、triazole系薬剤や広範囲の異物に感受性の表現型を呈する。また、その他の薬剤に対する感受性や栄養要求性といった表現型は、本発明システムで酵母にもともと存在する標的トランスポーターや酵素、あるいはその他のタイプの細胞を選択的に欠損させことで発現させることができると考えられる。この作業は熟練した研究者が行うべきである。
【0034】
本発明はAD1-8u-宿主株にsec6-4変異を挿入する遺伝子改変を提供する。Sec6-4は酵母S. cerevisiaeの温度感受性変異であり、30℃以下の温度で分泌小胞と細胞膜の融合を許容する。非許容温度の37℃では、細胞膜融合プロセスが阻害され、数時間後に死に至る。予側した通り、AD1-8u- sec6-4株細胞はfluconazoleに感受性で、通常30℃で増殖したが、37℃では増殖しなかった。この宿主形質転換株はPDR5座に挿入された細胞膜蛋白質をコードする遺伝子を30℃および37℃で過剰発現すると予想される。そして、細胞膜になる膜蛋白質の合成がPdr1-3p転写因子とPDR5プロモーターとの相互作用により誘導されるが、30℃では通常どおり細胞膜に取り込まれる一方、37℃では分泌小胞に保管される。分泌小胞は電子化学的に活性となり、その構成に不可欠な膜蛋白質が分泌小胞膜内をベクトル的に移動したことが予測される。たとえば、ABC型多剤排出蛋白質の細胞質内触媒ドメインおよびヌクレオチド結合ドメインは、小胞の外表面に露出しているはずである。逆に、細胞膜蛋白質の細胞外の成分は分泌小胞腔内で突出しているはずである。後者の領域は、分泌小胞の脂質二重層が分裂しなければ、膜不透過性の試薬が到達できない。したがって本発明は、細胞膜だけでなく分泌小胞膜も含めて細胞全体の中で膜不透過性の化合物と結合する分子表面を特定し、標的膜蛋白質の電子化学特性を評価するといった応用性も秘めている。分泌小胞の膜蛋白質(特にトランスポーター)および/または電子化学的機能を有する蛋白質を機能的に過剰発現させるシステムは、それらの分子特性を明らかにするための新しい手法である。
【0035】
本発明のシステムに使用されるプラスミドベクターは、プラスミドpSK-PDR5PPUS(図1)に由来したベクターで、標的膜蛋白質のコード配列を保有している。前記コード配列がプロモーターおよび/または転写調節因子の制御を受け、標的蛋白質の過剰発現が誘導される。酵母S. cerevisiaeのPdr1p転写調節因子のpdr1-3変異がPDR5遺伝子プロモーターを過剰に誘導すると、酵母細胞膜にPdr5p蛋白質が機能的かつ高レベルに過剰発現する(Balzi E, et al, 1994; Carvajal E, et al, 1997; Decottignies A, et al, 1994)。本発明のシステムはPdr5pのコード配列を効率よく標的異種蛋白質のコード配列+転写終結因子に置き換える。
【0036】
pSK-PDR5PPUSプラスミドは改良されてコード領域のクローニング能力やpdr1-3変異を含むPdr1p転写因子(Pdr1-3p)の制御下でこれらの構築物を過剰発現するように酵母菌株を形質転換する能力が向上した。図1BはpSK-PDR5PPUS(図1A)を原型とした新しいpABC3ベクターを示す。どちらのベクターも大腸菌内では自己複製できるが、酵母S. cerevisiae内では複製できない。pABC3の場合、pSK-PDR5PPUSの改変により、元々はマルチクローニング部位の切断部位であるHindIIIとBamHIの間に存在する制限酵素部位を欠失させ、そこに酵母S. cerevisiaeのPGK1転写終結領域が挿入されている。またpABC3ベクターも8塩基対の制限酵素認識部位を数個保有している(PDR5プロモーターのすぐ上流にSbfIおよびAscI、PRD5プロモーターおよびPGK1終結因子間の連結部近傍にPacIおよびNotI、PDR5 ORF領域下流にFseI、URA3マーカー下流にEcoR1)。これらの改変が全体としてひとつに統一された酵母の転写終結因子となり、遺伝マーカーを含むベクターの生産およびコード領域を含むPCR産物のディレクショナルクローニングを可能にした。また、染色体PDR5座を形質転換カセットに置き換えるために行う、PDR5内蔵URA3マーカーを含む形質転換カセットのベクターからの切除が容易になった。また本発明の手法に従い、たとえばプラスミドベクターpSK-PDR5PPUSまたはその誘導体を酵母のセントロメア領域または多コピーベクターにクローニングすることで、高いレベルで膜蛋白質発現を誘導できるのではないかと考えられている。
【0037】
本発明のシステムにはpdr1-3変異が用いられ、それが遺伝子改変された酵母S. cerevisiaeゲノムのPDR5座に挿入された異種蛋白質の遺伝子を安定的に過剰発現させる。その結果、完全に機能する異種蛋白質が大量に翻訳され、S. cerevisiaeの細胞膜に輸送されて、そこで取り込まれる。しかし、標的異種蛋白質の発現をアップレギュレートするには様々な転写調節因子を用いるため、熟練した研究者の技が必要である。たとえば、zinc cluster型蛋白質のRdrlpはPDR5遺伝子の転写抑制因子であるが、それを欠失させるとPDR5座でアップレギュレーションが生じる。一方、PDR1遺伝子の変異体もPDR5座での発現をアップレギュレートすることが分かっている(Carvajal E, et al, 1997)。さらに、その他構成性、誘導性、または制御性プロモーターをPDR5プロモーターの代わりに用いてPDR5座からの発現を制御することもある。このようなプロモーターには構成的なS. cerevisiae PDR5および PMA1プロモーター、銅制御性のCTR3、glucose 誘導性のADH1 およびPGKプロモーター、galactose誘導性のGALプロモーター、doxycycline制御性の細菌tet0プロモーター(Belli, G. et al, 1998)およびtet0::ScHOP1制御性カセットがある(Nakayam H., et al, H. et al, 1998)。
【0038】
変異型転写調節因子pdr1-3は、PDRE(多面的な薬効エレメント:pleiotropic drug responsive element)配列など数多くの遺伝子の発現に影響を与えていると考えられる。また、膜蛋白質の細胞内輸送に関与する数種類の酵母遺伝子の発現にも良くも悪くも影響を与えていると考えられている。上流に1個以上のPDREを持つ遺伝子の中で、PDR5座での発現は最も顕著にアップレギュレートされると考えられる。ただし、PDR5座から異種遺伝子を機能的に発現させるには、Pdr1-3pの影響を受ける複数の遺伝子が調和した状態で発現されなければならない。
【0039】
本発明の適用は下記の実施例に示した通りだが、S. cerevisiae内に機能性膜蛋白質、すなわち病原菌Candida albicans由来のCdr1p、Cdr2p、BenRpおよびErg11p、Candida galbrata由来Cdr1pおよびPdh1pを安定した高レベルで過剰発現させるためにpdr1-3変異を用いている。Cdr1p、Cdr2pおよびPdh1pはABCトランスポーター型の膜蛋白質でS. cerevisiaeの多剤排出ポンプPdr5pと関連性がある(Prasad R, et al, 1995)。Cdr1pは、免疫不全または消耗性疾患の患者由来のC. albicans臨床分離株が有するfluconazole耐性に最も関係する遺伝子にコードされる(Sanglard D, et al 1995; Sanglard D, et al 1997; White TC, 1997)。BenRp(別名Mdr1p)はfluconazoleなどの生体異物の輸送に細胞膜の電子化学的な勾配を利用する膜トランスポーターのなかでもMFS(major facilitator superfamily)トランスポーターファミリーに属している(Fling ME, et al, 1991)。BenRpは菌細胞からfluconazoleを排出する薬剤耐性を発現するが、azole系薬剤に対する基質特異性はCdr1pよりも狭い(Sanglard D, et al, 1995, Sanglard D, et al, 1996)。Erg11pは真菌類のエルゴステロールの生合成に関与しているlanosterol α-14 demethylaseで、fluconazoleの標的である(White TC, et al, 1998参照)。実際に有効な薬剤耐性の表現型を発現させるほどの蛋白質過剰発現は、PDR5 ORF(読み取り枠)の染色体コピーを、pdr1-3変異により内因性膜トランスポーターを欠損させたC. albicansの CDR1、BENRまたはERG11のORFと置き換えることで可能となる。また、本発明ではさらにsec6-4変異も含むS. cerevisiae変異株の特性も解明されている。排出ポンプの特異性の解明や排出ポンプ拮抗剤のスクリーニング研究における本異種蛋白質発現システムの利用価値は実証されている。ただし、本システムおよびその派生システムを別の用途で使用することもできる。その場合は熟練した研究者の技が必要となる。その他の応用例としては、P糖蛋白、嚢胞性繊維症膜貫通調節因子およびそれ以外の疾病治療に使用できるヒト、動物、微生物、植物、真菌の細胞膜蛋白質などの異種蛋白質の過剰発現ならびに生理的調節、増殖または発生に関連する利用が含まれる。また本発明を異種蛋白質過剰発現に使用する目的としては、発現された膜蛋白質細胞膜の生化学的または構造的分析、酵素精製および創薬開発を想定している。.他に本システムの応用として考えられるのは、感受性対照株およびそれぞれの耐性決定因子を付与する分子を個別に機能的に過剰発現させる一連の構築物で構成される同系酵母菌パネルを利用することである。たとえば、Cdr1pその他のABCポンプ、BenRpその他のMFSポンプおよびErg11pを個別に過剰発現させるAD1-8u-変異株やその派生株を含む変異株パネルを利用して、これらの分子による耐性機能に感受性でない抗真菌薬を選択する。変異株パネルは、細胞内の標的としてErg11pを含む、あるいは含まない薬剤の選択や、多剤排出ポンプの発現により薬効が阻害されない化合物の特定に利用できる。また、新規クラスの薬剤の特定や既存薬剤系の改良にも利用できる。
【0040】
本発明のさらなる実施形態として、本発明は、以下を含む医薬品または農薬として有用な薬剤スクリーニングに用いるキットを提供する:
i) 宿主細胞;
ii) 標的異種膜タンパク質のコーディング配列を含むベクターであって、当該配列が、前記宿主細胞の形質転換及び染色体組込みの際に、前記宿主細胞の膜に前記標的機能タンパク質の過剰発現を生じさせるプロモーターの制御下にある、前記ベクター;及び
(iii) 形質転換および薬剤スクリーニング手順の説明書。
【0041】
宿主細胞にはSaccharomyces属酵母を使用する。遺伝子改変により内因性膜蛋白質を1個以上欠失させたSaccharomyces細胞を使用するのが尚望ましい。宿主細胞に最適なのはSaccharomyces cerevisiae AD1-8u-株である。別の実施例では、宿主細胞にAD1-8u- sec6-4変異株を使用するのが最適な場合もある。さらに別の実施例では宿主細胞に、AD1-8u-株が原栄養性、栄養要求性または薬物感受性などを改変後の表現型に加えた派生株を使用している。
【0042】
ベクターには大腸菌内で自己増殖できる因子に加えてプロモーター(Sacharomyces cerevisiaeのプロモーター、特にPDR5座のプロモーターが好ましい)を挿入する。Saccharomycesプロモーターの働きは、変異型転写調節因子の制御下で、標的コード配列の過剰発現を引き起こすことで、それにより宿主細胞膜に標的蛋白質が異常発現する。変異型転写調節因子には宿主細胞のゲノムに存在するPdr1-3pを使うのが好ましい。酵母内で機能している転写終結因子をベクターに挿入する場合もある。膜蛋白質をコードする遺伝子の天然終結因子あるいは酵母のPGK1終結因子が好んで使用されている。免疫反応性タグ、親和性タグ、または蛍光タグをベクターに挿入する場合もある。S. cerevisiaeのURA3マーカーなど選択マーカーをベクターに挿入する場合もある。その他、ベクターにS. cerevisiaeのセントロメアまたは自律複製配列を挿入する場合もある。ベクターにはpABC3がよく使用されている。
【0043】
本発明技術の応用には制限がないが、細胞学、生化学分野での多剤排出に関する理解および主要な菌類病原体に作用する阻害薬の特徴づけに焦点を絞って下記に記載する。
【実施例】
【0044】
実施例
実施例 1: 細胞膜発現システムの産物−酵母S. cerevisiaeにおけるC. albicans由来Cdr1p発現による検証
材料および方法
細菌および酵母株、増殖培地
プラスミドを大腸菌DH5αに導入した。CDR1遺伝子をC. albicans ATCC10261株から採取した。S. cerevisiaeの菌株は、AD1-8u-株(別名AD12345678株:MATα, pdr1-3, his1, ura3, Δyor1::hisG, Δsnq2::hisG, Δpdr5::hisG, Δpdr10::hisG, Δpdr11::hisG, Δycf1::hisG, Δpdr3::hisG, Δpdr15::hisG [Decottignies, A. et al, 1998])およびAD124567株(MATα, pdr1-3, his1, Δyor1::hisG, Δsnq2::hisG, Δpdr10::hisG, Δpdr11::hisG, Δycf1::hisG, Δpdr3::hisG [Decottignies A, et al, 1998])を使用した。大腸菌はLB培地で培養した(Sambrook J, et al, 1996)。C. albicansはYEPD培地(酵母エキス [10g/L]、bacto peptone [20g/L]、glucose [20g/L])で培養し、S. cerevisiaeは必要に応じてYEPD培地、完全合成培地(CSM、Bio 101社、米国カリフォルニア州ビスタ市)またはuracil を含まない完全合成培地(CSM-URA、Bio 101社、米国カリフォルニア州ビスタ市)で維持した。
【0045】
プラスミド構築および酵母形質転換
C. albicans ATCC10261株より抽出したゲノムDNAから得たCDR1のORFと転写終結領域(4.8 kb)をExpand DNA ポリメラーゼ(Roche Diagnostics N.Z. Ltd製、ニュージーランド、オークランド州)を用いてPCRで増幅した。そのとき制限酵素部位SpeI(5'-CTTTAAAAGGTCAACTAGTAAAAAATTATG-3'および5'-CAATAATACACTAGTTTGCAACGGAAG-3')を含むプライマーを用いた。PCR産物はSpeIにより制限酵素処理し、予めSpeIで切断し、アルカリホスファターゼ(New England Biolabs社、米国マサチューセッツ州ビバリー市)による脱リン酸化処理済みのプラスミドpSK-PDR5PPUS(図1A)にクローニングした。CDR1の読み取り枠(ORF)の向きはPDR5と同じ配列になるように確認し、プラスミドはpKEN1002と命名した。プラスミドpKEN1002(図2A)を制限酵素XbaIで切断してから、それを用いてS. cerevisiaeをAD1-8u-からUra+に酢酸リチウム法(Alkali-Cation 酵母 kit、Bio-101社、米国カリフォルニア州ビスタ市)により形質転換した。pKEN1002に含まれるCDR1 ORF領域のDNA全長がシークエンスされた。C. albicans ATCC10261株およびS. cerevisiae AD1-8u-/pKEN1002形質転換AD1002株のORF領域をPfx DNAポリメラーゼ(Gibco BRL、Life Technologies社、米国メリーランド州ロックビル市)を用いてゲノムDNAからPCR増幅し、シークエンスを行った。
【0046】
S. cerevisiae から抽出されたRNA のノーザン解析
既報(Albertson GD, et al, 1996)に従い、全長RNAの抽出を行った。RNA(20μg)をアガロースゲル電気泳動後、Hybond+ナイロン膜(Amersham Pharmacia Biotech New Zealand社、ニュージーランド、オークランド)の上に置き、バキュームブロットをしてからUV照射により固定化した。既報(Cannon RD, et al., 1994)に従い、ナイロン膜はストリンジェンシーを上げた状態で[α-32P]dCTP-標識プローブとハイブリダイゼーションさせた。A C. albicans CDR1プローブ(ORF nt 1-497)をPCR増幅により生成させ、S. cerevisiae PMA1プローブ(ORF nt -835-1598)をプラスミドpDP100から2.4 kbのBamHI断片にして分離採取した(Seto-Young, D. et al, 1994)。
【0047】
C. albicans Cdr1pの免疫測定
指数増殖期中期までYEPD培地で増殖させたS. cerevisiae細胞から粗蛋白質を抽出して調製した。これらの細胞膜画分を既報のショ糖密度勾配遠心法(Monk, BC. et al., 1991)に従って調製した。蛋白質サンプル(40μg)は8%のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、Coomassie blueで染色あるいはニトロセルロース膜(Highbond-C、Amersham社、英国アイレスバリー)にブロットした(100 V、1時間、4℃)。1:200で希釈した抗Cdr1p抗体(スイス、ローザンヌ大学病院D. Sanglard医師より提供)を用いてブロッティングした膜を抗体と共にインキュベートした。1:500に希釈したhorseradish peroxidase標識ブタ抗ウサギIgG抗体を用いて免疫反応を調べた。
【0048】
ゲノムDNA抽出およびS. cerevisiaeゲノムに導入されたC. albicans CDR1遺伝子のサザン分析
既報の方法(Scherer, S. and Stevens, DA. 1987)に従い、S. cerevisiae細胞からゲノムDNAを調製した。ゲノムDNA(5μg)は制限酵素EcoRV、SpeI、BamHI、PstIまたはEcoRI(NEB)を用いて切断し、0.75%アガロースゲル電気泳動法で分離した後、Hybond+ナイロン膜(Amersham社)の上に移した。膜はストリンジェンシーを上げた状態で[α-32P]dCTP標識C. albicans CDR1プローブとハイブリダイズした(Cannon, RD. et al, 1994)。
【0049】
結果
S. cerevisiae AD1-8u- PDR5座におけるC. albicans CDR1遺伝子導入
内因性ABCトランスポーターの干渉を受けないように7個の主要なABCトランスポーターを欠損させたS. cerevisiae pdr1-3変異型AD1-8u-株にCDR1を発現させてC. albicans Cdr1pの機能を検証した。検証にあたり、多剤耐性を調節する変異pdr1-3を使ってPDR5プロモーターをアップレギュレートし、その結果細胞膜上にPdr5p蛋白質を過剰発現させる(Balzi E, et al, 1994; Decottignies A, et al, 1994)、pleiotropic drug resistance(PDR:多面的薬剤耐性)経路の膜蛋白質過剰発現システム(Decottignies A, et al, 1998)を採用した。CDR1 ORF領域をPDR5プロモーターの下流に位置するS. cerevisiae AD1-8u- PDR5座に組み込み、Cdr1pを過剰発現させた。まず、C. albicans ATCC 10261株のゲノムDNAからCDR1 ORF領域とその転写終結領域を正確性の高いポリメラーゼでPCR増幅し、プラスミドpSK-PDR5PPUSのSpeI部位(PDR5プロモーターとPDR5終止コドンの間)(図. 1)に挿入してクローニングした。その結果得られたプラスミドpKEN1002(図2)を制限酵素XbaIで切断し、そこからUra+の形質転換体を選択して、S. cerevisiae AD1-8u-(ΔPDR5: nt 360-1163欠損)の形質転換を行った。この選択プロトコルはpKEN1002のPDR5終止コドンにS. cerevisiae URA3マーカー遺伝子が存在する場合にのみ適用可能である。
【0050】
Ura+ S. cerevisiae形質転換株は親株よりもazole感受性が低いことが示されたが、さらに分析用に1株(AD1002)を選択した。YEPD培地、CSM培地のどちらでもAD1002株と親株の倍増時間は等しかった。uncut total DNA and restricted genomic DNAs were hybridized with a C. albicans CDR1 probe (Fig. 3).CDR1がAD1002株のPDR5座に組み込まれていることを確認するために、DNA全長およびゲノムDNA断片をC. albicans CDR1プローブとハイブリダイズした(図 3)。プローブをゲノムDNA全長にハイブリダイゼーションさせたところ、エピソームプラスミドの形跡はみられなかった。5個の制限酵素で各々処理して予定サイズに作製された1本鎖のゲノムDNAバンド(EcoRV 5467 bp、SpeI 4776 bp、BamHI 4272 bp、PstI 2236 bpおよび EcoRI 1042 bp)をプローブとハイブリダイゼーションさせたところ、PDR5座への導入痕跡を1つ認めた。ドナー株C. albicans ATCC 10261株から検出したCDR1遺伝子をC. albicans 1001株の配列と照らし合わせたところ(Prasad R, et al, 1995, Genbank accession number X77589)、2つのDNA配列で異なる塩基配列は45個(4503 nt ORF領域上)だったが、アミノ酸の変異は2個だけだった。ATCC 10261株:F427YおよびV916Iの置換(下記の表1参照)。このようにアミノ酸の置換数が少なく、よく保存された性状からみて、CDR1遺伝子が菌株同士で機能的に高い保存性を有していることが分かった。大腸菌を介してプラスミドpKEN1002に組み込まれたCDR1遺伝子とそのテンプレートであるATCC 10261株の配列とで異なる塩基配列は21個だったが、アミノ酸の変異は5個だけだった。pKEN1002株:E214Q、S842T、S1021L、E1177KおよびA1416Eの置換。これと対照的に、S. cerevisiae AD1002形質転換株から増幅されたCDR1と形質転換で用いたプラスミドpKEN1002由来CDR1との間に異なる塩基配列はなかった。この結果は増幅に使用されたDNAポリメラーゼの高い正確性と一致していること、pKEN1002とC. albicans ATCC 10261株のCDR1配列の違いは対立遺伝子の違いであること(実施例3参照)、PCRは誤差が少なく、大腸菌内では選択変異がみられることが示唆された。すべてのCDR1配列(C. albicans 1002株、C. albicans ATCC 10261株、pKEN1002、S. cerevisiae AD1002株)がCTGコドンを有しており、それぞれS. cerevisiaeはロイシンを、C. albicansはセリンをコードしていた。S. cerevisiae AD1002株に発現したCdr1pでセリンがロイシンに置き換わったのは、蛋白質機能に対する必然的な結果であるため、問題ではない。
【0051】
【表1】

【0052】
S. cerevisiae AD1002株におけるC. albicans CDR1発現
細胞膜蛋白質を用いてノーザン分析および免疫学的検定を行って、AD1002株におけるC. albicans CDR1発現を調べた。S. cerevisiae AD1-8u株とpSK-PDR5PPUSまたはpKEN1002を用いて構築した形質転換株(AD1002株)を使ってPMA1およびCDR1のmRNA発現を測定した。構成的に発現される細胞膜H+-ATPaseをコードするPMA1 mRNAはすべての菌株に発現した(図4A)。CDR1 mRNAはpKEN1002を用いた形質転換株にのみ発現した。これらの菌株およびPdr5pを過剰発現するS. cerevisiae AD124567株由来の細胞膜蛋白質を使ってSDS-PAGE分析でCdr1p(図4B)の発現を調べた(Decottignies A, et al, 1994)。Coomassie blueで染色した親株AD1-8u-由来のサンプルからはABCトランスポーターと予想される大きさ(170 kDa [Decottignies AおよびA. Goffeau, 1997; Krishnamurthy ,. et al, 1998; Prasad R, et al, 1995])の細胞膜蛋白質バンドは検出されなかった。そのため、この増殖能が欠損した株は内因性排出ポンプが欠失していることが確認された。これと対照的に、AD1002およびAD124567株由来のサンプルには170 kDaに主要な蛋白質バンドが存在し、Coomassie blueで染色された細胞膜蛋白質の10〜20%を占めていた。AD1002株由来の170 kDaサイズの蛋白質だけが抗Cdr1p抗体に反応を示した(図. 4C)。
【0053】
実施例 2: 実施例1に記載のシステムを利用した過剰発現蛋白質の特徴づけ
材料および方法
AD1-8u- sec6-4 変異株の構築
AD1-8u- sec6-4 変異株の構築にはURA3マーカーを帯びたsec6-4変異遺伝子を用いたAD1-8u-株(野生型SEC6遺伝子を含む)の形質転換およびそれに続くURA3マーカーの選択的除去が含まれる。第一段階として、プラスミドpDDB57のURA3-dp1200 カセット(Wilson et al., Yeast 16:65-70, 2000)を用いて、一時的にS. cerevisiae SY1株に存在するSEC6-4変異遺伝子をマークする(Potenza et al., Yeast 8:549-548, 1992)。URA3-dp1200 カセットにはC. albicans URA3マーカーおよびURA3マーカー両側の直接反復配列(201 bp)が含まれている。これにより相同組換えにより染色体に組み込まれたURA3遺伝子領域の認識が可能となる。カセットにはそれぞれ上流側に77 bp、下流側に144 bpの2つの反復配列が含まれている。URA3-dp1200カセットを以下のDNA oligonucleotideプライマーを用いてPCR増幅し、長さ1296 bpの断片を作製した。プラス鎖プライマー:5’-TCCCGTCTAGTTAATCACTCGGAAGGAAACAACGAGTGAGGTTTCGTGTCATTCTCTAGATTTTCCCAGTCACGACGTT-3’。マイナス鎖プライマー:5’TGCTACCAAGCTAACAAAAGGATCAGGCTGCCCAAACGGACGTAGACTCACTGGGCTCCGTGTGGAATTGTGAGCGGATA-3’。pDDB57のカセットと相同なoligonucleotide配列には下線が記してある。各プライマーの残り60個のヌクレオチドについては、S. cerevisiaeのSEC6 またはSEC6-4変異のTAA終止コドン下流の293 bpから352 bpに位置するプラス鎖プライマーと412 bpから353 bpに位置する3'側マイナス鎖プライマーをURA3-dp1200 カセットと結合させる。SY1 sec6-4下流でURA3-dp1200 PCR断片を相同組み換えにより組み込ませた後、SY1株をuracil 栄養要求性で選択した。SY1::URA3と命名されたこの株を、組込み部位両側にプラーマーを用いたPCR法で確認した(プラス鎖プライマーfp5:TCCAGAGAGTATAACTCCTGおよびマイナス鎖プライマーSUB2:TGTTGGAAATTTCTCCCGTG)。SY1::URA3株に存在するSEC6-4-URA3産物をゲノムDNAからPCR増幅した(プラス鎖プライマーSUB1 AATGCAGGAGTTTTACAGTGGCおよび上記のマイナス鎖プライマーSUB2)。SUB1配列はORFのすぐ上流(3'側)に位置し、SUB2配列はSEC6遺伝子に隣接するORFのすぐ下流(5'側)に位置する。得られた5317 bpのPCR断片(SEC6-4全長+URA-dp1200 カセットを含む)を精製後、それを用いて染色体のコピーをSEC6と置換することでAD1-8u-株をuracil 栄養要求株に形質転換した。すべてのuracil 栄養要求性形質転換体をPCR分析した(SY1::URA3株の産物を確認したときに用いたプライマーを使用)ところ、SEC6座で二重交叉を経て、PCR断片が正しい方向に組み込まれることが確認された。AD1-8u-株のSEC6とSY1株のSECc6-4対立遺伝子との置換が行われたかを確認するために、これらのura+形質転換体が温度感受性増殖の表現型を有しているかを検査した。AD1-8u--sec6-4::URA3と命名された代表的な形質転換株を5’-fluoro-orotic acid(5’-FOA)を含むCSM 寒天上に播種し、URA3マーカーの選択的除去を調べた。(Boeke et al., Mol Gen Genet 197:345-346, 1984)。長さ201 bpの直接反復領域間で単純交叉によりURA3カセットにループアウトした株が寒天プレートから回収された。PCRプライマー対(fp5/SUB2)でUra-コロニー形成を確認し、SY1::URA3株、AD1-8u-SEC6::URA3株およびAD1-8u-sec6-4::URA3株で比較した。すべてのura- コロニーは予想通り422 bpのPCR 断片で、内訳はURA3-dp1200 カセットの直接反復配列201 bp、5'方向上流の反復配列77 bp、3'方向下流の反復配列144 bpだった。代表的な株をAD1-8u- sec6-4::200と命名した。
【0054】
最小発育阻止濃度(MIC)測定
S. cerevisiae細胞に対する抗真菌薬のMIC値をNCCLS (National Committee of Clinical laboratory Standard) のマクロ液体希釈法を参照法としながら微量液体希釈法で測定した。マイクロタイタープレートウェルにおいて緩衝剤2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid (MES) 10 mMとN-2-hydroxyethylpiperazine-N'-2-ethanesulfonic acid (HEPES)18 mMpでH 7.0に調整し、0.67% (w/v) yeast nitrogen base(YNB)を添加したCSM-URA 90μlに細胞(10μl細胞懸濁液, 2 x 105 細胞/ml)を接種した。uracil 栄養要求性AD1-8u-株には、0.02% (w/v)のuridineを添加した。ウェルには二倍希釈された200μlの抗真菌薬(最終濃度:fluconazole [40-0.078μg/ml]、itraconazoleとketoconazole [8-0.016 μg/ml])を注入した。マイクロタイタープレートは振盪しながら30℃で48時間インキュベートし、それぞれのウェル(OD590)における細胞増殖をマイクロプレートリーダー(EL 340, Bio-Tek製、米国バーモント州ウィヌースキー市)を使って測定した。MIC80は、薬剤を使用しない場合と比べて最低80%の増殖を阻止する薬剤濃度のことである。
【0055】
Nucleotide triphosphataseアッセイ
酵母はpH 5.5、30℃のYEPDで指数関数的増殖の晩期に達するまで(OD600nm = 7)増殖させた後、冷却した蒸留水で二度洗浄し、glucose刺激によるPma1pを阻止するため氷の上で30分間インキュベートした。細胞をホモジナイズ用培地(Tris pH 7.5 [50 mM]、EDTA [2 mM]、phenylmethylsulfonyl fluoride [1 mM])で再懸濁し、Braun製Homogeniserを用いて破砕した。遠心分離(2,000 x g、4℃、10分間)を行い、細胞残屑および破砕されていない細胞を除去した。遠心分離(30,000 x g、4℃、45分間)で細胞を含まない上清から粗膜画分を分離した。細胞膜は既報の方法に従い (Goffeau, A. and Dufour, J.P., 1988)、ミトコンドリアをpH 5.2で選択的に沈殿させた後、得られた上清を遠心分離して調製した。細胞膜をTris pH 7.0(10 mM)、EDTA(0.5 mM)、20% [v/v] glycerolで再懸濁し、-80℃で保存した。Micro-Bradfordアッセイ(Bio-Rad Laboratories製、米国カリフォルニア州ハーキュリーズ市 [Bradford, M.M., 1976])を使用してγグロブリン値から蛋白質を標準法に従い測定した。MES-Tris buffer(pH 6.0〜8.0、59 mM)の中にNTP(6 mM)、MgSO4(7 mM)を加え、最終的に120μlとなった溶液の中で細胞膜画分(10μg)を30℃でインキュベートして、Nucleotide triphosphatase活性を測定した。非特異的phosphatase、液胞またはミトコンドリアATPasesの影響をできるだけ阻止するために、ammonium molybdate(0.2 mM)、KNO3(50 mM)およびNaN3(10 mM)をそれぞれアッセイに添加した(Monk BC, et al, 1991)。その他のATPase阻害薬(oligomycin [20μM]、aurovertin B [20μM]またはvanadate [100μM])を適宜添加した。30分後にSDS 1% (w/v)、H2SO4(0.6 M)、ammonium molybdate1.2%(w/v)およびascorbic acid 1.6%(w/v)を含む130μlの溶液を加えることにより反応を停止させた。NTPsから得られた無機リン酸塩を室温で10分間インキュベートしてから750nmで測定した。
【0056】
ディスク拡散法 による薬剤感受性アッセイ
ディスク法ではCSM-URAプレート(1.5% w/vの寒天を含む)を使用し、薬剤感受性を測定した。プレート上の寒天に細胞懸濁液を注入した(5 ml, 105細胞/ml)。uracil 依存性の親株には、寒天に0.02 %のuridineを添加した。5μlの対照薬液または溶剤を滅菌済みWhatman製ペーパーディスクの寒天上に滴下した。ディスクにはそれぞれ以下の量の薬剤を添加した(単位:nmol)。Fluconazole(6.5)(Pfizer Ltd.製、米国ケント州サンドウィッチ市)、ketoconazole(0.094) (Janssen Research Foundation社製 ベルギー、ベルセ市)、itraconazole(0.35)(Janssen社製)、miconazole(0.084)(Janssen社製)、amphotericin B(54)(E. R. Squibb & Sons社製、米国ニュージャージー州プリンストン市)、Rhodamine 6G(10)(Sigma社製、ニュージーランド、オークランド州ペンローズ市)、Rhodamine 123(50)(Sigma社製)、trifluoperazine(100)(Sigma社製)、 benomyl(10)(日本ロッシュ社製)、cycloheximide(5)(Sigma社製)、carbonyl cyanide p-chlorophenylhydrazone(490)(CCCP:Sigma社製)、oligomycin(10)(Sigma社製)、nigericin(100)(Sigma社製)、tamoxifen(25)(Sigma社製)、 naftifine(50)(Novartis社製)、quinidine(500)(Sigma社製)、 valinomycin(20)(Sigma社製)、verapamil(1000)(Sigma社製)。寒天プレートは30℃で48時間または菌発育阻止円が現れるまでインキュベートした。
【0057】
結果
C. albicans Cdr1pを発現するS. cerevisiae細胞の抗真菌薬感受性
ABCトランスポーター欠損のバックグラウンドを有するS. cerevisiae 株によるCdr1p 発現が抗真菌薬感受性といった表現型に及ぼす影響を評価した。親株であるAD1-8u株はfluconazole、ketoconazoleおよびitraconazoleに対して極めて感受性が高かった(下記の表2参照)。AD1002形質転換株は有意にfluconazole、ketoconazoleおよびitraconazoleに感受性が低く、それぞれ>45倍、>31倍および>250倍MIC値が上昇した(表2)。その他のS. cerevisiae菌株やC. albicans菌株と同様に、この形質転換株もCdr1p発現により様々な種類のazole 抗真菌薬に対する交差耐性が発現したことが分かった(Albertson GD, et al, 1996; Prasad R, et al, 1995)。これらの結果をSDS-PAGE、ウェスタンおよびノーザン分析結果と総合すると、C. albicansの薬剤耐性遺伝子CDR1がS. cerevisiae AD1002株で機能的に過剰発現していることが分かった。
【0058】
【表2】

【0059】
a 親株. b Cdr1p発現株(uridine [0.02% w/v]を添加してもMIC値は変わらなかった)。 ND:測定値なし。すべての実験は30℃で行われた。
【0060】
次に行った一連の実験により、AD1-8 sec6-4株ではC. albicans CDR1が過剰発現し、AD1-8u-株ではC. albicans CDR2が過剰発現することがわかった(下記参照)。同系の非発現(完全欠失)株と過剰発現株とを比較したところ、AD1-8の背景を有するC. albicans CDR2またはAD1-8u- sec6-4の背景を有する CDR1の過剰発現によりazole薬耐性が増加することがわかった(表2)。これらの結果は、AD1-8の背景を有するCdr2pの機能的発現を示しており、Cdr1pが許容温度下(30℃)で発現された場合、AD1-8 sec6-4 派生株内で機能性を有することが示された。このsec6-4 変異株は37℃では生育せず、最終的には死に至るため、細胞膜と融合できない分泌小胞が蓄積される。
【0061】
C. albicans Cdr1pによる多剤耐性
Cdr1pの機能を評価するために、親株であるS. cerevisiae AD1-8u株の多種類の薬剤に対する感受性を、形質転換したAD1002派生株の感受性と比較した(図5)。これら2つの株の感受性の違いは、Cdr1pによる薬物排出機能によるものと思われる。AD1002株は試験で使用したすべてのazole、ステロイド生合成を阻害するnaftifineに交差耐性を示したが、amphotericin B抗真菌薬には示さなかった。
amphotericin Bはergosterolとの相互作用により酵母細胞膜を直接透過できる。予測した通り、酵母内における毒性は多剤排出ポンプの過剰発現により変化しなかった。
【0062】
AD1002形質転換株は蛍光色素Rhodamine 6GおよびRhodamine 123に明白な耐性を示した。Rhodamine 6GはS. cerevisiae親株に強い細胞毒性を示した。これらの蛍光色素は哺乳類のP糖蛋白および酵母S. cerevisiaeのPdr5pとYor1pにより輸送されることが報告されているが(Kolaczkowski M, et al, 1996, Decottingnies A, et al, 1998)、AD1-8u-株 とAD1002株の両方ともPDR5およびYOR1を欠損している。したがってRhodamine 6GおよびRhodamine 123はCdr1p基質であると考えられる(Clark FS, et al, 1996; Maesaki S, et al, 1999)。
【0063】
さらに、以下の薬剤によりCdr1pが増殖阻止作用に対する耐性を獲得することがわかった。MDR修飾剤のtrifluoperazine、蛋白質合成阻害剤のcycloheximideおよびionophoric ペプチド nigericin、抗がん剤のtamoxifen、カルシウムチャネル拮抗薬のverapamil。これらの薬剤の構造や標的は一様ではないため、我々が得た結果はCdr1pの排出ポンプ作用は特異性が広いことを示している。Cdr1pが獲得した薬剤耐性の表現型はPdr5pの過剰発現にみられる表現型と似通っていた(Kolaczkowski M, et al, 1996)。親株であるAD1-8u-株は残りの以下の薬剤に耐性を示した。チューブリン合成を阻害するbenomyl、ミトコンドリアATPaseおよび Pdr5pを阻害するoligomycin、カリウムチャネル拮抗薬のquinidineおよびK+-selective ionophoric cyclodepsiペプチドのvalinomycin(本試験において使用した濃度)。したがって、これらの薬剤はCdr1p基質でないことが示唆される。
【0064】
AD1002のNucleotide triphosphatase活性
S. cerevisiae AD1002由来の細胞膜画分はpH 6.0〜8.0において親株のAD1-8u-株より10倍以上高いoligomycin感受性ATPase活性を有している(図 6)。この活性の至適pHはおよそ7.5であるため、至適pHがおよそ6.0の S. cerevisiaeのPma1p ATPaseとは簡単に区別できる(Decottignies A, et al, 1994)。そのうえPma1pはoligomycinに非感受性であり、(Monk BC, et al, 1991)、ATPに特異的である(Decottignies A, et al, 1994)。S. cerevisiae AD1002株内に発現したC. albicans Cdr1pはATPase活性以外にoligomycin感受性UTPase、CTPaseおよびGTPase活性も示し、これらすべてのNTPase活性がわずかにアルカリ側に至適pHを有していた(下記の表3参照)。AD1002株の各NTPase活性はvanadate(100μM)に感受性を示したが、aurovertin B(20μM)には示さなかった。したがって、ミトコンドリアのATPase活性はこれらの細胞膜画分のATPase活性にほとんど寄与していなかった。
【0065】
【表3】

【0066】
a NTPase活性の測定は図.4 のデータを得たときと同様のアッセイで行われた。各値は20 μM oligomycinの存在下および非存在下におけるATPase活性の差を示している。測定結果は違いが10%未満の2つの測定値の平均値で表した。
【0067】
このように、Pdr5p相同体に予想されるNucleotide triphosphatase活性の特徴と一致した結果が異種蛋白質発現でも得られた。今回初めてin vitroにおけるCdr1pの活性の信頼性の高い測定が成功した。アッセイで使用したC. albicansの細胞膜のCrd1pの量が十分でなかったため、細胞膜プロトンポンプや内因性のABCトランスポーターファミリーのメンバーなどの酵素を使うその他のATP活性と区別ができなかった。AD1002株由来細胞膜のNucleotide triphosphatase活性は、酵素の生化学特徴を幾つか明らかにし、候補となるアンゴニストまたはアンタゴニストの開発目的でスクリーニングまたはアッセイに応用するのに十分な量だった。
【0068】
平行して実施した試験より、本発明が広汎に利用できることがわかった。C. albicans CDR2遺伝子はCDR1遺伝子と相同である。C. albicans CDR2のORF領域をクローニングしてpSK-PDR5PPUSベクターに導入し、そのベクターを用いてAD1-8u-株の形質転換を行った。その結果得られたUra+形質転換株にはCDR2のORF領域がPDR5座に組み込まれており、fluconazole(MIC値= 64μg/ml、表2)に耐性を、ketoconazole(2μg/ml)とitraconazole(1μg/ml)に交差耐性を示した(表2)。形質転換株のゲノムDNAから得たPCR産物のDNA配列を分析したところ、形質転換を受けたPDR5座のコード領域は、ドナー株であるATCC 10261株のゲノムにあるCDR2のコード領域と同一であることが示された。ノーザン分析では、CDR2 mRNAが形質転換株に過剰発現したことが示された。形質転換株由来の精製された細胞膜をゲル電気泳動したところ、170 kDaの主要なバンドが、100 kDaの内因性Pma1pバンドの量と同程度に大量に検出された。さらに研究した結果、S. cerevisiae PDR5に関連するCandida glabrata CDR1およびPDH1のORF領域がAD1-8u-株のPDR5に形質転換されたことがわかった。これらの形質転換体は、C. glabrataに存在するCDR1およびPDH1のコード配列と同一のゲノムDNA配列をそれぞれPDR5座に組み込んだ。組み込まれた両配列は目的異種蛋白質mRNAを発現し、目的蛋白質を細胞膜画分に過剰発現し(蛋白質分解酵素により消化されたゲル内バンドの内部配列決定により確認)、azole系およびtriazole系薬剤に対する耐性を発現した。polyene系抗生物質耐性は発現されなかった。これらの株はglucose飢餓下でABCトランスポーター基質を有するRhodamine 6Gを急速に排出したのに対し、null 変異株はRhodamine 6Gを排出しなかった。過剰発現されたいずれの蛋白質もin vivoでリン酸化が行われていると考えられた。これらの結果より、本発明を利用して高い忠実性でクローニングができ、S. cerevisiaeに機能的に異種細胞膜蛋白質、特にABC型トランスポーターを過剰発現できることが確認された。
【0069】
実施例 3: 異種膜蛋白質の過剰発現と創薬開発への応用
材料および方法
pABC3における形質転換カセットの作製
Pfx DNA ポリメラーゼ(Gibco BRL、Life Technologies社、米国メリーランド州ロックビル市)を用いてC. albicans ATCC 10261ゲノムDNA由来のCDR1、BENRおよびERG11、ならびにS. cerevisiae AD124567株由来のPDR5を制限酵素部位PacIまたはNotIを含むプライマーを使ってPCR増幅した。使用したプライマー対は以下の通りである(下線は制限酵素部位に相当する)。
1. CDR1,
5’-GTCAAAATTAATTAAAAAATGTCAGATTCTAAGATGTCGTCGCAAG-3’ および
5’-CACGCGGCCGCTTAGTGATGGTGATGGTGATGTTTCTTATTTTTTTTCTCTC
TGTTACCC-3’
【0070】
2. BENR,
5’-CATCTACTTACATTAATTAACACAATGCATTACAG-3’ および
5’-GGAAAACAATGCGGCCGCCTAATTAGCATA-3’
【0071】
3. ERG11,
5’-TTCAAGAAGATTAATTAACAATATGGCTATTGTTGAAACTG-3’ および
5’-GAATCGAAAGAAAGCGGCCGCTTTATTAAAACATACAAGTTT-3’
【0072】
4. PDR5,
5’-GTTTTCGTGGCCGCTCGGGCCAAAGACTTAATTAAAAAATGCCCGAGGC-3’ および 5’-ACCCACATATAGCGGCCGCATATGAGAAGACG-3’
【0073】
各PCR産物をPacIおよびNotIにより制限酵素処理し、クローニングし、あらかじめPacIおよびNotIで制限酵素処理してあったプラスミドに挿入してpABC3を構築した。各読み取り枠(ORF)の向きは、PDR5と同じ配列になるように確認した。各プラスミドはAscIで制限酵素処理し、それを用いて酢酸リチウム形質転換プロトコルで(Alkali-Cation 酵母 kit、Bio-101社)酵母S. cerevisiaeをAD1-8u-からUra+へ形質転換した。
【0074】
ディスク法による薬剤感受性アッセイ
薬剤感受性はディスク法で、CSM-URA プレート上で(1.5% w/v 寒天を含む)測定した。酵母細胞(200μl ml、5 x 106 細胞/ml)をプレート上に播いた。薬剤溶液またはコントロール溶液を、あらかじめ酵母が播いてあるプレート上の滅菌済みWhatman社製ペーパーディスクに10μl滴下する。以下の薬剤量(nmol)をそれぞれのディスクに使用した。 fluconazole 633(Pfizer Ltd.製、英国ケント州サンドウィッチ市)、itraconazole 0.23 (Janssen製)、miconazole 0.42 (Janssen製)、cycloheximide 0.71 (Sigma社製)、Rhodamine 6G, 100(Sigma社製、ニュージーランド、オークランド州ペンローゼ市)、Rhodamine 123, 125 (Sigma社製)、cerulenin 4.5 (Sigma社製)、5-flucytosine 100(Sigma社製)、amphotericin B, 97(E. R. Squibb & Sons製、米国ニュージャージー州プリンストン市)、nystatin 65(Sigma社製)。寒天プレートを30℃の温度で48時間または菌発育阻止円が現れるまでインキュベートした。
【0075】
結果
酵母S. cerevisiaeの細胞膜に存在する様々な系の膜蛋白質を機能的に過剰発現させるシステムの発見は、それらの分子を遺伝学、生理学、生化学および構造学的に研究するうえで重要な意味を持っている。新薬開発やバイオセンシングなどの分野においても重要な道を開く。たとえば、細胞内蛋白質中では膜蛋白質が高い割合を占めており、現存する薬剤標的の大部分にも関与している。一方、多くのバイオセンサーが膜蛋白質を、シグナル伝達における受容体または受容体関連成分として用いている。本書では上記の2つの章で、C. albicansにおけるCdr1p ABCトランスポーターの機能的な異種蛋白質過剰発現について示し、C. albicans(Cdr2p)およびC. glabrata (Cdr1p、Pdh1p)に関連するトランスポーターについて記載した。Pdr1p転写調節因子にあるpdr1-3機能獲得型変異の制御により酵母S. cerevisiae AD1-8u-株のPDR5座に取り込んだ外来性のABCトランスポーター遺伝子を発現させることに成功することができた。本章では、本システムがさらに別のクラスの膜蛋白質にも汎用できる例を示す。図で例示する通り、C. albicans由来の膜蛋白質で、抗真菌薬fluconazoleに対してそれぞれ異なる耐性機構を備える代表的な3種類の異種蛋白質を機能的に過剰発現させた。特に、AD1-8u-株を宿主としてBenRp、Erg11pおよびCdr1pのそれぞれ対立遺伝子の機能的な過剰発現を示し、比較した。この試験に用いる形質転換カセットを作製するのに使用したベクターはpABC3だった(図1B)。これらの試験では、AD1-8u-株およびAD-pABC3株(修飾を加えていないpABC3の形質転換カセットを用いてAD1-8u-株から形質転換した株)を、ポンプ蛋白質発現の陰性対照として使用した(図7、それぞれレーン7および2)。形質転換カセットを使って作製したAD-PDR5株は酵母S. cerevisiae PDR5 ORF領域を完全に有しており(図7、レーン3)、ポンプ蛋白質発現の陽性対照として使用した。図7は、これら制御を行う株や遺伝的処理を受けた株(AD-CDR1株[レーン4]、AD-ERG11株[レーン5]およびAD-BENR株[レーン6])から得た細胞膜上のCoomassie blue(R250)で染色された蛋白質プロファイルを示している。最後の3株は形質転換カセット(C. albicansのCDR1、BENRおよびERG11それぞれのORF領域を含む)を用いる相同組換えにより得た。形質転換カセットの構築方法は材料および方法を参照されたい。AD-BENRおよびAD-ERG11がAD1-8u株から構築されたのに対し、AD-CDR1は温度感受性株であるAD1-8u-sec6-4株から構築された。予測した通り、AD-CDR1株は37℃で培養したときに温度感受性を示した。許容温度下の30℃で培養したときのAD-CDR1株由来の細胞膜には170kDaの主要な蛋白質バンドが存在したが、陰性対照の2株のいずれにも存在しなかった。このバンドは、100 kDaの内因性Pma1pバンドと比べて少なくともその量の2倍以上の量で検出され、AD-PDR5株の膜に存在するPdr5pの数に匹敵するものだった。AD-PDR5株の細胞膜にはATPaseおよびPdr5pバンドが同数存在していた(図7 レーン3 と4の比較)。
【0076】
我々は、幾つかの例の中でABCトランスポーターの過剰発現により、細胞膜分画にみられるPma1pの量が制御性AD1-8u-株と比較して50%減少していることに気づいた。この減少は細胞膜分画に発現した異種蛋白質のバンドの増加に対して寄与したという訳ではない。以上のことから、Cdr1pバンドがAD-CDR1株の細胞膜蛋白質の少なくとも10〜20%に寄与している。AD-ERG11産物(図7 レーン5)由来の細胞膜をSDS-PAGE分析したところ、約61 kDaの蛋白質バンドがPma1pのおよそ半分の検出感度で染色された。対照株では何も検出されなかった。単位質量あたりの蛋白質に染色されるCoomassie blueの量から推測すると、この結果から、AD-ERG11派生株由来の細胞膜にはほぼ同数のPma1pおよびErg11p分子が検出されたことがわかった。ただし、AD-ERG11株由来の細胞膜から680個のアミノ酸からなるPrd1pやErg11pの酵素を機能させるのに必要なNADPH-cytochrome P-450 reductaseに相当する新たな蛋白質バンドはみられなかった。ERG11でコードされる酵素lanosterol 14α-demethylaseはcytochrome P-450酵素ファミリーに属している。この酵素は通常小胞体に存在している。AD-pABC株およびAD-ERG11株の細胞分画を比較して研究したところ、分画遠心法で得たミクロゾーム分画にAD-ERG11株に特異的な61 kDaのバンドが検出されたのに対し、細胞膜分画(100 kDaのPma1pバンド)には61 kDaのバンドの何倍かのレベルのバンドが検出された(データ省略)。この結果は、細胞膜にlanosterol 14α-demethylaseが過剰発現したことを示し、おそらくdefault pathwayに因るものと考えられる。最後に、AD-BENR 株由来の細胞膜分画(図7 レーン6)には微かにぼやけた60 kDa蛋白質バンドがみられ、その分子の大きさからBenRpと予測された。そのバンドはPma1pバンドとほぼ同程度みられ、組換え型BenRp抗原に対する抗体を用いて免疫化学法で検出した。対照株ではみられなかった(レーン2および7を比較)。これらの結果はAD-BENR 株では細胞膜にPma1p分子よりもBenRpが多く挿入されていることを示している。
【0077】
AD-pABC産物を陰性対照としたディスク拡散法を行ったところ、蛋白質を過剰発現させる形質転換株の抗真菌剤および様々なクラスの分子に対する反応が示された(図. 8)。各組み換え型膜蛋白質の機能的な過剰発現および既知の特異性を反映する、様々な抵抗/感受性プロファイルが得られた。AD-PDR5株、AD-CDR1株、AD-BENR株およびAD-ERG11株はfluconazole感受性に差異があり、liquid microdilution assaysによるMIC測定値で確認された。AD-PDR5株、AD-CDR1株、AD-BENR株およびAD-ERG11株でのfluconazoleに対するMIC値はそれぞれ400、400、80、2 ug/mlだったのに対し、AD-pABC3株でのfluconazoleに対するMIC値は0.5 ug/mlだった。AD-PDR5株およびAD-CDR1株はtriazole 系(fluconazoleとitraconazole)およびazole系(miconazole)の薬剤に同じ耐性を示し、ABCトランスポーター(Pdr5pおよびCdr1p)の広い特異性から予測した通り、cycloheximide、Rhodamine 6GおよびRhodamine 123にも耐性を示した。予測されたAD-PDR5株およびAD-CDR1株のflucytosine (5-FC)およびpolyene系抗生物質(amphotericin Bおよびnystatin)に対する感受性をディスク拡散法で確認した。5-FCは酵素thymidylate synthaseを標的とし、polyene系抗生物質は細胞膜のergosterolを標的にしているが、それらの酵素はABCトランスポーター基質とは考えられていない。同じ方法でAD-BENR株を分析したところ、過剰発現したBenRpトランスポーターは基質特異性が狭いことがわかった。したがって、AD-BENR株はBenRp基質であるfluconazole、cycloheximideおよびceruleninに耐性を示し、miconazoleに対しても耐性が検出されたが、BenRp基質ではないと考えられているABCトランスポーター基質のRhodamine 6G、Rhodamine 123およびitraconazoleには完全に感受性を示した。予測通り、AD-BENRは5-FCおよびpolyene系抗生物質に感受性を示した。AD-ERG11株はfluconazoleに対する中程度の耐性を発現させると同時に、itraconazoleとmiconazoleにもいくらかの耐性を示した。これは2剤が共通して標的とするlanosterol 14α-demethylaseの過剰発現から予測されていた。AD-ERG11株は薬剤排出の基質となるcycloheximide、cerulenin、Rhodamine 6GおよびRhodamine 123、抗真菌薬の5-FCおよび試験で使用されたpolyene系抗生物質2剤に対しても感受性を示した。
【0078】
fluconazole感受性AD1-8u-の背景を有する株にCdr1p、BenRpおよびErg11pが過剰発現したことで、間違いなく、機能および特異性が異なる3種の膜蛋白質が別個の機序でfluconazole耐性を発現させていることが分かった。
【0079】
多くの病原菌(C. albicans、C. tropicalis、C. krusei等、ただしC. glabrataは除く)は二倍体である。膜蛋白質過剰発現システムは対立遺伝子同士の機能の差異を調べる試験法を提供している。それにより個々の対立遺伝子を選択的に増幅し、交絡因子を欠損させて宿主に導入することで表現型を比較することができるためである。PCR増幅によるゲノムDNAのシークエンス解析によりC. albicans AD10261株のCDR1遺伝子に数個の一塩基多型(SNP)が確認されており、それらの遺伝子産物間にアミノ酸の差異があることが予想された(データ省略)。そこで我々は、試しに酵母S. cerevisiae AD1-8u-株の各対立遺伝子を個別に過剰発現させてみた。SDS-PAGEで分析した結果、各細胞膜分画には2種類の170 kDaのCdr1pが等しい量で検出されたが、fluconazole耐性には違いがみられた。ATCC10261株由来の第1対立遺伝子(CDR1-1)は文献に記されるCDR1クローンの配列(JG436株でクローニング, Prasad R, et al, 1995)およびC. albicansゲノム解析プロジェクトから入手した配列(SC5314株)と同一であると考えられた。CDR1-1の過剰発現によりfluconazoleに対するMIC値は400μg/mlとなった。第2対立遺伝子(CDR1-2)の過剰発現ではfluconazoleに対するMIC値は80 ug/mlとなった。
【0080】
個々の対立遺伝子が真菌症に与える影響はほとんど分かっていない。バックグラウンド値を最小にし、最大の発現を得ることでSNPによる異なる対立遺伝子間の機能の差異を明確に示すことができると、SNPが有糸分裂組換え等の機序を通じて薬剤耐性化に影響を与えているか否かを調べる手掛かりとなる。たとえば、突然変異その他の遺伝子事象で高い薬剤耐性を持つ対立遺伝子が大量に発現すると、fluconazoleのような現存する薬剤を無効にする可能性がある。一般的な応用では、本発明における酵母を用いる膜蛋白質過剰発現システムは標的蛋白質、薬剤分解酵素または毒性の作用機序に影響される分子(例:病原体、真菌、植物、動物またはヒトにコードされる密接に関連する遺伝子あるいはSNP配列を持った遺伝子)を発現させる有価値なシステムである。本発明システムは病原菌に有効な薬剤の選択または一般的な個人間差や患者間差を考慮したテーラーメイド治療薬の開発に有用である。
【0081】
酵母S. cerevisiaeで色々な膜蛋白質を機能的に発現させることができると、薬剤耐性などの表現型の選択が向上する。これはAD1-8u-株のPDR5座から種類の異なる多剤排出ポンプを発現させた結果、fluconazole耐性の表現型が選択できたことで実証される。fluconazole耐性表現型における感受性度は10μg/ml未満〜数百μg/mlと幅が広く、その背景として様々な理由がある。たとえば、遺伝子操作の構築物のなかにPDR5座からの発現を制限するもの、コード領域の突然変異のため一部または全部の機能が損なわれたもの、pSK-PDR5PPUSなどのプラスミドやその誘導体を用いて大腸菌の膜蛋白質に特異的な遺伝子をクローニングする場合などに毒性を回避する一時的措置として外来遺伝子による部分的な改変がPDR5座に組み込まれたものなどがある。
【0082】
以下に線状DNAの配列を用いて高いレベルの薬剤耐性を選択するといった表現型の修正により上記の欠点を補う例を示す。図9はpABC3内の形質転換カセットのPacI部位のすぐ上流にSfiI部位を有する配列はPdr5pの機能的発現を劇的に低減させることを示している。本システムにおける発現は、PacIでなくSfiI部位の存在により直接の制限を受ける。なぜなら、PacI部位は単独ではPDR5座からのPdr5pの機能的発現に何の影響も与えないからである(図9、レーン2〜6)。SfiIを有する配列から発現される組換え蛋白質については、SDS-PAGEによる膜分画からの分離でわずかに検出できる程度だった。fluconazole耐性は低かった(MIC値<40μg/ml)。Cdr1pを発現させるように操作されたAD1-8u-株が有する同様の欠点は、350ヌクレオチドのプロモーター領域を含む線状DNA PCR 断片とプラスミドpKEN1002由来の360ヌクレオチドのCDR1コード領域を用いた形質転換により是正されることがある。PCR産物はプライマー5’-ATCACGATTCAGCACCTTT-3’と5’-CCCAAAATTTGGCATTGAAA-3’を用いて増幅する。得られた形質転換株をfluconazole40μg/mlおよびエネルギー源としてglycerol 2%+glucose 0.1%を含んだ固形CSM培地に培養して、選択を行った。エネルギー源を混合したのは、fluconazole耐性を増強させることが示されている、酵母の呼吸欠損を起こすプチット変異株を特定し、選択するためである。最初のAD1-8u-形質転換株にはCdr1pの発現がほとんどみられなかった。Fluconazole耐性もMIC値は20μg/mlだった。呼吸能のある株を選択すると、fluconazoleに対するMIC値400μg/mlの分離株が得られ、AD1002株と同程度に大量のCdr1pが細胞膜に発現された。別の例では、C. glabrataのPDH1遺伝子をクローニングしてpSK-PDR5PPUS プラスミドのマルチクローニング部位に導入しようという試みを行ったが、おそらく大腸菌の致死性が原因で成功しなかった。別の戦略として、1〜530ヌクレオチドおよび4532〜5486ヌクレオチドのPDH1をクローニングし、pSK-PDR5PPUS ベクターのHindIII/EcoRIおよびXmaI/SpeI部位にそれぞれ組み入れた。得られたKpnI-NotI 形質転換カセットを使ってAD1-8u-株 PDR5座を相同組換えにより形質転換し、uracil栄養要求性を発現させたがfluconazoleの高い感受性は変化しなかった。ゲノムDNA増幅で1から5342のヌクレオチドのPDH1からなるPCR 断片 [参照?] を得た後、それを使ってAD1-8u-派生の宿主株を隣接するPDH1断片を有するfluconazole耐性株(MIC値= 200μg/ml)に形質転換した。その結果得られた形質転換株はゲノムPDH1と同一で、170 kDaの機能蛋白質がS. cerevisiae 宿主株の細胞膜に過剰発現した(データ省略)。
【0083】
一般的に、耐性の表現型を選択する能力は多くの方面に応用できる。たとえばPDR5座から発現される機能性蛋白質のレベルを調節する能力、大腸菌ではクローニングが難しい遺伝子を用いて酵母S. cerevisiae PDR5座を形質転換させる、キメラ分子の作製および薬剤感受性表現型の相補などであり、点突然変異の誘発その他の遺伝子操作により行う。PDR5座から異なるクラスの蛋白質を過剰発現する能力を使って、fluconazole耐性獲得以外の選択形態についての構想も早速練られている。
【0084】
実施例 4. 機能的な異種膜蛋白質過剰発現の新薬開発への応用
材料および方法
酵母株
上記材料および方法の章で記載した酵母株以外に酵母S. cerevisiae AD1234567株(MATα, pdr1-3, his1, Δyor1::hisG, Δsnq2::hisG, Δpdr5::hisG Δpdr10::hisG, Δpdr11::hisG, Δycf1::hisG, Δpdr3::hisG [Decottignies, A. et al, 1998])を使用した。
【0085】
Checkerboard 法による薬剤感受性アッセイ
Checkerboard薬剤感受性アッセイで細胞のfluconazoleに対する感受性増強作用をPdr5p阻害剤などの試験化合物と比較して分析した。一次元目はCSM-URA培地に様々な濃度のfluconazoleを使用し(0〜80μg/ml)、二次元目は様々な濃度の試験化合物(0〜40μM)を使用した。細胞接種材料、発育条件および至適発育決定は標準的な微量液体希釈によるMIC測定法に準じた。すべてのアッセイは96 ウェル・マイクロタイター プレートの中央に6 ウェル毎に並べて行い、pH 7.0緩衝剤を添加したURA培地を用いて指示された濃度のfluconazole および/またはペプチドを各ウェルに分注した。30℃にインキュベートしてから48時間後に酵母の発育を測定後、すべてのデータをMicrosoft EXCEL softwareを使って集計、解析および表示した。
【0086】
S. cerevisiae細胞によるfluconazole蓄積
既報の方法(Albertson, G. et al, 1996)に従い、指数関数的増殖初期のS. cerevisiae細胞による正味fluconazole蓄積率を測定した。エネルギー依存性fluconazole 蓄積であるかを調べるために、sodium azide(20 mM)の添加もアッセイに含めた。
【0087】
ディスク拡散法
これらのアッセイは実施例2に記載どおりに行った。指示に従い、agarに替えてagaroseを使ってディスク拡散法分析を行った。Pdr5pペプチド阻害薬はagarの構成成分を吸収する恐れがあるため、Pdr5pペプチド阻害薬の作用を観察するにはこの交替が必要である。
【0088】
Rhodamine 6G 排出およびCdr1p機能阻害の特定
既報の方法(Kolaczkowski, M et al. 1996)を用いて、すべての細胞から排出されたRhodamine 6G(Sigma社製)を測定した。YEPD培地(OD600nm = 0.5) で指数関数的に増殖した培養物から酵母細胞を遠心分離で採取し(3,000 x g、 5分、20℃)水で3回洗浄した。洗浄した細胞を1mLあたり0.5 x 106〜1.0 x 107 細胞になるように2-deoxyglucose 5 mM およびRhodamine 6G10μMを含むHEPES-NaOH(50 mM, pH 7.0)に再懸濁した。一部の実験でfluconazole(10μM)を添加した。細胞懸濁液は90分間振盪しながら30℃でインキュベートし、glucose 飢餓下でRhodamine蓄積させた。飢餓状態の細胞をHEPES-NaOH 50 mM pH 7.0の中で2度洗浄し、一部(400μl)を30℃で5分間インキュベートしてからglucose (最終濃度2 mM)を添加してRhodamine排出を開始した。glucose 添加後、一定の間隔で細胞を遠心分離により除去し、細胞の上清液100μl をn=3で96ウェル平底マイクロタイタープレート(Nunc社製、デンマーク、ロスキレ市)の各ウェルに移した。サンプルのRhodamine 6Gの蛍光をCary社製Eclipse蛍光分光光度計(Varian Inc製、オーストラリア、ビクトリア市)を用いて測定した。励起波長は529 nm (スリット 5)で、発光波長は553 nm (スリット10)とした。fluconazole10μg/mlをアッセイのすべての段階で添加した実験と、glucose 添加前30℃で5分間のインキュベーションを開始時にペプチドを指示濃度で添加した実験とで分けた。
【0089】
結果
Cdr1pを過剰発現するAD1002株その他の膜蛋白質過剰発現株を創薬開発に利用した実験を図に示した。
【0090】
図10Aは、2種類の精製されたペプチドがoligomycin感受性Pdr5pのoligomycin感受性ATPase活性に与える影響を示している。KN20と呼ばれる化合物はPdr5p阻害剤であり、その主な構造はD-NH2-asparagine-tryptophan-tryptophan-lysine-valine-arginine-arginine-arginine-CONH2である。KN20はその他にも重要なエレメントとして4-methoxy-2,3,6-trimethylbenzenesulphonyl置換基を1個トリプトファン側鎖の片方に結合した形態で有しており、おそらく窒素またはインドール環に隣接する炭素{C2}で結合しているが、別の形態のペプチド結合の可能性もある。KN20はPdr5pを過剰発現する酵母のAD124567株由来細胞膜のoligomycin感受性 ATPase活性をI50値約3μM (pH 7.5)で阻害した(図10A)のに対して、精製した非誘導化ペプチドは効果を示さなかった。KN20はAD1002株由来細胞膜のoligomycin感受性 ATPase活性もI50値約8μMで阻害した(図10B)。Cdr1p ATPaseをPdr5p ATPaseよりもわずか2.7倍高い濃度で阻害したということはKN20が真菌のABCトランスポーターにより生じる多剤耐性に対して広いスペクトラムを有する阻害剤になる可能性を示している。Checkerboard法薬剤感受性検査をpH 7.0下で行ったところ、KN20(30μM)がPdr5pを過剰発現させる酵母株の感受性を高め、fluconazoleのsub-MIC濃度が80μMとなった(図11A)。ディスク拡散法薬剤感受性検査(図11B)ではPdr5pを過剰発現するAD124567 株に、それ自体は酵母の発育全体にほとんど影響しない大量のペプチドを添加することでfluconazole120μg/mlに対する感受性が増強する様子を可視化した。それと対照的に、KN0(KN20と同じだがメチル置換基がない)は上記の濃度では感受性増強作用は示さなかった。
【0091】
AD1002 細胞をpH 7.0に合わせたfluconazole含有CSM-URA培地で生育したところ、fluconazoleに対するMIC値は30μg/mlだった(表2)。fluconazoleを除いた同じ培地上で測定したところ、10μMのKN20に対して細胞は完全な耐性を示し、同ペプチド単独20μMも48時間後の全体的な発育に何の影響も示さなかった(図12A)。ただし、fluconazole10μg/ml +KN20 10μMに暴露させると菌株の発育は完全に停止した。この結果は、KN20が相乗的にfluconazoleのAD1002株の発育阻害作用を高めることを示している。我々はKN20がCdr1pによる排出作用を阻止することでfluconazole耐性を無効化したのではないかと推測する。この排出作用の阻止によりergosterol生合成が阻害されるまで細胞内のfluconazole濃度が上昇するため、増殖がその影響を受けたのだと思われる。ディスク拡散法による薬剤感受性アッセイでは、全体的な増殖に影響しない濃度のKN20を使用してKN20がAD1002株のfluconazoleに対する感受性を高めることを確証した(図12 B)。それと対照的に、同じ濃度で使用したKN0では感受性増強作用が示されなかった。
【0092】
【表4】

【0093】
KN20がAD1002株のfluconazoleに対する感受性を高めることが示されたので、この菌株を使ってCdr1p-依存性多剤排出の阻害剤を選択および/または特定することができることが分かった。図12Cおよび表4を見ると、KN20は野生型C. albicans群のように裾引き型の低い耐性に対しても感受性を増強していることが分かる。ATCC 10261株の薬剤感受性アッセイがその良い例である。このように耐性の低いタイプはC. albicansに多くみられ、長期間fluconazoleを予防投与した後に採取した臨床分離株に見られる中程度の耐性へ進化するため重要である。KN20は病原体Candidia tropicalis臨床分離株およびCandida dubliniensisと同様に内因的にfluconazole耐性を有するCandida glabrata CBS 138株およびCandida krusei B2399株の感受性も増強させている(表4)。ただし、C. parapsilosis 425株には感受性増強効果が表われなかった。以上の結果から、KN20などの阻害剤によるPdr5pやCdr1p関連のポンプによる多剤排出作用の阻害に関する広範囲な利用可能性が示唆される。
【0094】
本発明はKN20などの阻害剤の活性範囲を、標的物質をコードするDNAを提供する生物の遺伝的背景による制限を受けずに測定するシステムを提供する。たとえば、Cdr2pその他AD1-8u-株の背景を有する生物由来の各ABCトランスポーター等の標的物質の過剰発現により、KN20がこれらの標的物質の機能に及ぼす影響を評価する分析法を提供する。表4は、産物である各ABCトランスポーターを被試験体としてfluconazoleに対する感受性がMIC濃度以下のKN20の感受性増強作用により高まったことを示している。
【0095】
本発明はKN20等の阻害剤の特異性に関するその他の側面を検査するシステムも提供する。たとえばKN20はCdr1pを特異的に過剰発現するfluconazole耐性のC. albicans臨床分離株に感受性増強効果をもたらすことが予測されるが、MFS(major facilitator superfamily)トランスポーターファミリーのメンバーであるBenRpの過剰発現に依存する株にはその効果をもたらさないと考えられる。ただし、C. albicans臨床分離株は遺伝的に多様な背景を持ち、分子レベルのfluconazole耐性は多くの要因によって引き起こされていることが多い(Albertson et al, 1996)。C. albicansにみられる薬剤耐性はErg11p、Cdr1pおよびBenRpが様々に組み合わさり、その他関連性のない分子も関与して発現するため、耐性の原因となる特異的な分子の役割を理解する上でも、特異的な阻害剤の効果を測定する上でも煩雑となる。以上の問題点から、臨床分離株は一般的に薬剤の作用機構を調べるための実験モデルとしては不適切であるといえる。たとえばfluconazole耐性のC. albicans FR2株は、BENRを過剰発現することが示されているが、KN20により感受性が増強された(表4)。このことから、KN20がABCトランスポーター以外の標的物質に影響している可能性が証明はされていないが示唆される。この問題はAD1-8u-株におけるBenRpの機能的過剰発現により解決された。得られた同系のAD-BENR株を使って、KN20が直接Cdr1pの阻害に関与して感受性を増強させているという仮説を確証する試験を行うことができた。とくに、fluconazole耐性AD-BENR 株は、KN20その他Cdr1pに特異的な感受性増強剤により感受性が増さないはずである。反対に、BenRpに直接的かつ特異的に感受性増強効果を及ぼす物質は、AD1-8株の背景を有するCdr1pやCdr2pを機能的に過剰発現するAD1002株その他の感受性に増強作用を及ぼさないはずである。図13Aに示され、表4にもまとめられている通り、AD1-8u-株に過剰発現されるC. albicans由来のBenRpはKN20により感受性が増強された。これはKN20が細胞全体の中にCdr1p以外の標的を有していることを示している。KN20はAD-ERG11株のfluconazoleに対する感受性も高めている(図13Bおよび表4)。これら細胞アッセイデータから、Cdr1p以外の標的物質がKN20にとって主要な活性部位であることがわかった。真菌の細胞膜H+-ATPaseは、細胞膜の電子化学的成分を産生するポンプで、BenRpポンプを作用させたり、ABCトランスポーターやlanosterol 14α-demethylaseが必要とする細胞のエネルギー貨幣(ATPおよびNADPH)の産生に必要な栄養分を取り込んだりする主要なポンプである。酵素S. cerevisiaeの細胞膜H+-ATPaseはKN20に阻害される(I50 = 10μM)。S. cerevisiae 細胞によるPdr5p、Cdr1pおよびBenRpの過剰発現に対する感受性増強効果を発揮するためには10μM以上の濃度のKN20が必要である(表4)。これらのデータおよびPma1p阻害剤を使った試験により、KN20がPma1pを阻害することで多剤排出ポンプの感受性を高めている有力な状況証拠が得られている。
【0096】
熟練した研究者が多種多様の生物から得た特定の標的細胞膜蛋白質を過剰発現する酵母S. cerevisiaeの菌株に対しMIC測定、checkerboard法およびディスク法を様々に駆使して薬剤感受性測定を行い、そのうえ、大抵は標的過剰発現を産出する酵素の研究も行うのが一般的である。これらの分析法は菌株の遺伝的背景に関係なく標的分子のアンゴニストやアンタゴニストとしての有効性および特異性をスクリーニングし、評価するのにも有用である。また、阻害剤を研究したい作用機構、たとえば特定の薬剤ポンプによる排出性質に限定して使用することもできる。
【0097】
AD1002株のfluconazole 蓄積
酵素S. cerevisiae AD1-8u-株およびその形質転換株であるAD1002株およびAD/pSK-PDR5PPUS株による[3H]fluconazole蓄積を測定した(図14)。活性化させたAD1-8u-またはAD/pSK-PDR5PPUS株細胞は15分間にわたりfluconazoleを蓄積したのに対し、AD1002株細胞は蓄積しなかった。呼吸鎖阻害剤のsodium azideを添加して分析を行ったところAD1-8u-またはAD/pSK-PDR5PPUS株細胞のfluconazole蓄積には影響しなかったが、AD1002株細胞による蓄積は著しく増加した。これらの結果は、AD1002株細胞の多剤耐性がエネルギー依存性の薬剤排出機構であることと一致し、過剰発現されたABC型トランスポーターのCdr1pが予測通りの機能を示した。熟練した研究者はこの手法をさらに発展させて多剤排出のアンゴニストや阻害薬のスクリーニング、この処理過程における生理学的特徴の評価を行うことができる。
【0098】
酵母C. albicans Cdr1pによるRhodamine排出への関与
AD1002株のCdr1p過剰発現により蛍光基質Rhodamine 6Gを細胞から培地に排出する能力が備わる。以前からRhodamine 6GはPdr5pおよびYor1pの基質であり、細胞のエネルギー産生(ブドウ糖発酵過程で細胞内ATPが供給)に依存していることがわかっている。Yor1p欠損AD1002 株を使ってRhodamine 6Gおよびその他Pdr5p基質の薬剤(fluconazole等)による競合作用を明らかにした。
【0099】
AD1234567株およびAD124567株(データ省略)と同様に、glucose 依存性のRhodamine 6G排出は酵母S. cerevisiae AD1-8u-株の場合も検出されなかったが、AD1002株からは直ちに検出された(図15A)。細胞のエネルギー源を断つ前処理(前処理:Rhodamine 6G+2-deoxyglucoseでインキュベーション)をしたAD1-8u-株からのRhodamine 6G排出量は、glucose 存在下(図15A)、非存在下(データ省略)に関係なく、バックグラウンド値と比べて著しい増加は示されなかった。前処理されたAD1002株細胞がRhodamine 6Gを排出するには、glucose の添加が必要だった(図15A)。AD1002株のRhodamine 6Gの細胞外濃度はバックグラウンド値が蛍光値30単位(任意)だったのが、glucose 添加後10分間で約7倍上昇し、増殖率は2-deoxyglucose存在下の少なくとも30倍以上だった(図15A)。AD1-8u-およびAD1002株間のRhodamine前投与後の生存率はほぼ等しく、前投与した2-deoxyglucoseの存在下におけるRhodamine 6Gの蓄積量(細胞融解後に分泌される蛍光値)も等しかった。Pdr5p基質のfluconazoleはAD1002株細胞からのRhodamine排出を阻害した。AD1002株細胞を2-deoxyglucose存在下でRhodamineとインキュベートをした前処理段階、および以降すべての段階でfluconazole (10μM)を添加したところ、glucose 添加後10分間のRhodamine 6G排出濃度が32%低下した(データ省略)。この結果から、fluconazoleはPdr5pポンプによるRhodamine 6G排出と直接競合していると考えられる。これはfluconazoleがin vitroにおけるPdr5pまたはCdr1pのoligomycin活性化に影響を与えないという観察結果と一致している。図15BはKN20がAD124567株によるglucose 依存性のRhodamine 6G排出作用を用量依存的に阻害したことを示している。あらかじめKN20(40μM)と5分間インキュベートした結果、Rhodamine 6G 排出が50%阻害された。これらの所見から、Pdr5pに対する影響が直接または間接かは不明だが、原則的にKN20は多剤排出に関して直接計測可能な影響を及ぼすことがわかった。このように本発明をRhodamine 6G 排出アッセイへ使用することで、阻害剤がPdr5pおよび関連ABCトランスポーターに及ぼす影響を測定することができる。
【0100】
考察
標的機能性蛋白質を過剰発現する酵母を用いて、標的物質の特異性を調べ、阻害作用を持つ化合物をスクリーニングする戦略は、様々な特異性が複数に入り混じった内因性分子の存在により煩雑になるのが通常である。この問題は特に多剤排出に関与した排出ポンプ機序を研究する際に重要である。余計な背景を除去あるいは最小化するシステムで機能的に標的蛋白質を過剰発現させることでこの問題を避けることが構造と機能の研究や創薬開発において最大のメリットとなる。主要な薬剤排出ポンプであるPdr5p、Yor1p、Snq2p、Ycf1p、Pdr10p、Pdr11pおよびPdr15pを欠損した酵母S. cerevisiae内に標的異種膜蛋白質を安定的、機能的に過剰発現させるシステムを提示している。これらの内因性ポンプはどれも本質的な成分ではないが、生体異物に対して細胞にいくつか重なった耐性を発現させるため(Decottingnies A, et al 1998, Kolaczkowski M, et al, 1996)生理学研究や生化学分析、創薬開発プロセスが煩雑になる。
【0101】
具体的な例としては、CDR1 ORF領域をゲノムDNAに組み込むケースが挙げられる。これによりCDR1の単一コピー遺伝子をそれと相同性の高い酵母S. cerevisiae のPDR5遺伝子の位置に安定的に導入できる。CDR1のORFが変異した pdr1-3 転写調節因子を発現株に存在するPDR5プロモーターと融合することでCdr1pの過剰発現が起こる。CDR1 mRNA発現が増加し、細胞膜蛋白質全体の10〜20%を占める170 kDaの蛋白質バンドが新しく検出され、それが抗C. albicans Cdr1p抗体に特異的に反応したことでCdr1pの過剰発現であることがわかった。発現された異種蛋白質は機能していた。異種蛋白質の発現により酵母S. cerevisiaeに多剤耐性が付与され、細胞膜NTPase活性が増大し、エネルギー依存的に細胞内のfluconazole蓄積が低減し、Rhodamine 6Gのエネルギー依存性排出が促進された。薬剤耐性の表現型はCdr1pの過剰発現によるものである。上記記載のように7種類の内因性トランスポーターを欠損させた親株AD1-8u-がpdr1-3変異を有していながら高い感受性を示したことから、pdr1-3変異単独によるものではないことがわかっている。AD1-8を背景に有するC. albicans Cdr2pポンプ、C. glabrata Cdr1pおよびPdh1pポンプ、ならびにAD1-8 sec6-4 派生株由来のC. albicans Cdr1pポンプの過剰発現が生じた結果、それに関連していくつかの特徴が観察された。これらの観察所見により、上記以外のABC型トランスポーター多剤排出ポンプにも本発明を利用できる選択肢が示されている(下記参照)。
【0102】
高いレベルのCdr1p過剰発現により構造的に無関係で、おそらくポンプを基質とする多種類の化合物に対するAD1-8u-株の感受性が阻害された。Cdr1pによる化合物耐性発現のスペクトルはPdr5pのスペクトルと似通っていた(Kolaczkowski M, et al, 1996)。今回の結果は、7種類の主要なトランスポーターの非存在下でCdr1p発現が薬剤感受性に及ぼす影響を示している。もし耐性の表現型が別のトランスポーターの二次的な影響に因るものだとしたら、その耐性にはABC ポンプが関わっていないはずである。そこで、非存在下におけるRhodamine 6G耐性および排出にCdr1pが関与している証拠を明示した。
【0103】
Cdr1pを過剰発現するAD1002株由来の細胞膜はpH 活性プロファイルなどPdr5p(C. albicans Cdr1pに関連したS. cerevisiaeの多剤排出ポンプ)と類似した生化学的特性を有するoligomycin感受性NTPase活性を示した(Decottignies A, et al, 1994)。Cdr1p UTPase活性に至適なpH値(pH 7.0〜8.0)はプラスミドによる発現システムを使用する既報のpH値6.5よりも有意に高値だった(Krishnamurthy S, et al. 1998)。興味深いことに、Cdr1p-ATPaseの特異的な活性は同じ条件下(データ未発表)で測定したPdr5pを過剰発現するAD124567株のPdr5p-ATPase活性と比べて4〜5倍低かった。引き続きCDR1の両対立遺伝子クローニングを行ったところ、AD1002株にCDR1-2 対立遺伝子を最初にクローニングした際に、酵素の機能に影響を及ぼす、変異による変化が発生したことが確認された。どちらの新しい分離株もin vitroでPdr5p過剰発現と同程度のNTPase活性を示し、両方とも有意に高いfluconazole耐性を発現させることを示している(MIC値80および400 ug/ml AD1002株の30μg/mlと比較)。異種蛋白質が過剰発現されたCDR1対立遺伝子に関するこれらの観察所見はポンプ拮抗薬が C. albicansの多くの野生型株の裾引き型の低いfluconazole耐性、fluconazole耐性臨床分離株にみられる中程度の耐性(<64μg/ml)を回避するだけでなく、将来発生し得るさらに高いレベルの耐性に打ち勝つような薬を探索するのに有効である。
【0104】
C. albicans由来のCdr1pおよびCdr2p、C. glabrata由来のCdr1pおよびPdh1pの両方にS. cerevisiae株での機能性膜蛋白質の異種過剰発現(細胞膜蛋白質の>10%)が示されている。これは、本発明がさらに広範囲のABCトランスポーターの異種蛋白質発現に応用できる可能性を示唆している。このように細胞膜蛋白質の異種蛋白質を本発明に記載するタイプのレシピエント株内に安定した手法で過剰発現させることで、標的蛋白質の分析や遺伝的背景が同系の蛋白質に利用することができる。これは、それぞれの排出ポンプの構造や機能の研究や特異性を有する同系の分子標的薬剤の開発などの創薬分野に貢献できる。S. cerevisiae株で過剰発現される異種機能性膜蛋白質の中にはC. albicans由来のBenRpやErg11pも含まれる。これらの分子は少なくとも細胞膜H+-ATPaseに必要な量が細胞膜に回収される。これもまた広範囲にわたる構造や機能研究に寄与し、この分子を標的とする薬剤開発に有用であると議論されている。その他多くの異種膜蛋白質が、膜蛋白質の生理学、生化学および構造遺伝学的研究などに有用なツールを提供する本発明システムによって機能的に過剰発現することを示唆する先例として我々のデータがある。酵母細胞内では細胞膜への輸送が阻害されていると考えられので、過剰発現した多種多様な膜蛋白質はオルガネラに回収されている可能性がある。ただし、標的シグナル構造により過剰発現した膜蛋白質も通常のオルガネラにきちんと収まる可能性も排除できない。
【0105】
本発明は、細胞膜トランスポーターなど標的蛋白質に影響に与えることで細胞の感受性を高める物質を発見し、特徴づけを行うのに有用である。たとえば免疫抑制薬であるcyclosporineは、多剤排出トランスポーターに直接作用するため、in vitroおよびin vivoでのfluconazoleの効果を増強する(Marchetti O, et al, 2000; Marchetti O, et al, 2000a)。同様に、本発明では、Cdr1p基質であるfluconazoleの競合により、Cdr1pを過剰発現するS. cerevisiae株によるエネルギー依存性のRhodamine 6G排出作用が有意に抑制された。さらに、リード化合物KN20は界面活性型Pdr5p阻害剤として入手したが、checkerboard法およびディスク法による薬剤感受性アッセイの結果、KN20はCdr1pを過剰発現するAD1002株のfluconazoleに対する感受性を高めること、用量依存的にAD1002株由来細胞膜のoligomycin感受性ATPase活性を阻害し、かつ、Pdr5p過剰発現株のRhodamine 6G 排出を阻害することがわかった。これらの結果から、KN20が病原性のある酵母内のABC型トランスポーターによる多剤排出に対して広いスペクトラムを有する阻害剤リード化合物であることが示唆される。この阻害剤はfluconazole耐性株であるCandida glabrata CBS 138株およびCandida krusei B2399 株の感受性も高める(表4)。 Although the molecule(s) mediating このC. krusei 株にみられるfluconazole耐性に関わっている分子は未だ解明されていないが、CBS 138株のfluconazole耐性には主としてS. cerevisiaeのPdr5pやC. albicansのCdr1pに相同性のあるCgCdr1pが関与していると考えられる。さらに、KN20は野生型C. albicansの裾引き型の僅かなfluconazole耐性を失わせることができる。
【0106】
KN20とその同族体は、従来の多剤排出ポンプ阻害剤と構造的、機能的に異なっている。代わりにD-octapeptideを用いた場合、前処理としてATP存在下でインキュベートしてもこの阻害剤に対する酵素反応は変化しないため、Pdr5pのnucleoside triphosphatase 活性を競合的に阻害しない(データ省略)。したがって、この阻害剤は多剤排出ポンプの酵素部位と相互作用しないと考えられる。KN20に含まれる3つのアルギニンのため生理的pHにおいて高い正の電荷を持ち、関連するモデルペプチドおよびDペプチドを有するその他の物質の作用を研究した試験によると(Mitchell DJ et al., 2000)、酵母の細胞膜を貫通しないと考えられる。排除作用によりKN20はおそらく細胞表面に存在するこれらの酵素の性質と相互作用することでPdr5pまたはCdr1pの活性に直接干渉すると考えられる。上記の議論はin vitroにおけるKN20の活性にもいえることで、KN20がその他の細胞表面に露出する膜分子(特にPma1p)と相互作用して間接的にPdr5pやCdr1pなどの多剤排出ポンプ機能に影響を与えている。これはPma1p活性に影響する濃度のKN20を用いてAD1-8u-の背景を有する株細胞に過剰発現したBenRpトランスポーターの感受性の増強が示されたことで証明された。どんなメカニズムが関与しているにせよ、KN20は新しいクラスの阻害剤リード化合物で、抗真菌剤の感受性増強剤として医薬品または農薬に有用である可能性がある。また我々の結果は、病原性酵母の多剤排出に関わるABCトランスポーターの感受性を高める界面活性剤としての試薬が、多剤排出ポンプ基質となる抗真菌薬の効能を増強する新しいクラスの薬剤またはリード化合物となり得ることも示唆している。このアプローチは病原菌の野生株および耐性を持つ臨床分離株の両方を標的とする抗真菌治療または酵母モデル系の研究に応用できると思われる。これらの感受性増強剤は耐性の発現を回避することができる(感受性試験で示される野生型酵母の裾引き型の僅かな耐性の感受性をを増強させる等)。細胞内の抗真菌剤濃度を著しく増加することで、これらの阻害薬はABCトランスポーターだけでなく、別の機序により発現する抗真菌耐性にも効くようになる。したがって、このような阻害薬の感受性増強剤はさらに効果の高い処方で耐性作用を破壊することにより、fluconazoleなど多剤排出ポンプ基質を有する現存抗真菌剤の商品寿命を長引かせることができる。さらに、この基質特異性をより高くすると、宿主にとって好ましくない副作用や悪い相互作用を抑制することができる。
【0107】
内因性ポンプ欠損S. cerevisiae株に特異的な膜トランスポーターが過剰発現したため、in vivoおよびin vitroにおいて、それぞれ特定なポンプ機序を発現する分子ごとに研究し、その知識を創薬開発に生かすことができることがわかった。一般的に、関連する内因性分子欠損の背景を持ち、特殊な機能を有する膜蛋白質を多量に発現させることで、不可能と思われた構造、機能研究が可能となる。異種蛋白質発現システムは、精製した細胞膜を使ってoligomycin感受性NTPase活性アッセイ、細胞全体の感受性増強作用試験(checkerboard法およびディスク法による薬剤感受性アッセイ)、fluconazole摂取およびRhodamine 6G 排出アッセイを行うことで、ポンプ基質、アンゴニストおよびアンタゴニストをスクリーニングするのに有用である。熟練した研究者は本発明を、たとえば候補薬剤の特徴づけおよび最適化に重要な、細胞内およびin vitroでの感受性増強活性の定量的測定などに利用できる。さらに一般的な、本発明の形態で発現可能なその他の薬剤標的は早くも構想の段階に入っている。1つの具体案としては、薬物動態関連遺伝子およびSNPを有する遺伝子の分析および創薬探索が挙げられる。また別の具体案としては、azole系やtriazole系などの抗真菌剤を多剤排出ポンプによる薬剤耐性に左右されない薬剤に改良するために利用することが考えられる。さらに、Pdr1-3p転写調節因子の制御を受ける遺伝子ネットワークは、通常Pdr5pの過剰発現を補助する役割のアクセサリー蛋白質を提供することで、細胞膜に対するABCトランスポーターおよび異種蛋白質の機能的な導入を補助することができる。この点において本発明は、大量の細胞内輸送および機能的な異種膜蛋白質の細胞膜導入を成功させるのに必要な分子の相補的ネットワークを提供せずに過剰発現させる他のシステムと比べると相当に優れている。AD1-8u-の背景を有する宿主株にsec6-4変異を導入すると、分泌小胞の指向および電子化学的特徴を生かしたさらに高次元のシステムが加わり、新しい分析法が可能となる。生物学、薬学および農業化学に関連した広範囲の細胞膜蛋白質の過剰発現が可能となり、さらに熟練した研究者により細胞全体およびin vitroにおけるアッセイが開発される可能性もある。また、本発明の一部としてのpABC3 ベクターの構築がこの側面を補完する。pABC3 ベクターはABC型トランスポーターなど大きい膜蛋白質のディレクショナルクローニングを簡便に行うために、下流の終結配列を考慮する手間が要らず、形質転換カセットを簡単に切除できるように考案されている。その他本発明ベクターの改良点としては、ベクター領域をカセット形態で提供して領域を置き換えやすくしたこと、タグその他のマーカーなどの特徴を挿入して蛋白質精製や細胞内位置の研究を行い易くしたこと、プラスミド発現ベクターの開発、PDR5プロモーター領域の改変または置換により遺伝子発現を誘導可能にしたことが挙げられる。AD1-8u-株などの宿主株も遺伝子欠損などの改変により背景的な干渉を最小限にして、その他遺伝的相同性の高い宿主の遺伝子をPDR5その他の遺伝子座から発現させることができる。また、PDR5座から発現を誘導するため活性状態がよいPdr1-3pを有するように改変された宿主株が好ましい。
【0108】
本発明が前記の実施例だけに留まらず、熟練した研究者がその他特許請求の項目に定めた本発明の範囲を逸脱せずに多方面において簡単に利用できることは評価されるだろう。
【0109】
産業上の利用
本発明は、多剤耐性に関連する膜蛋白質のアンゴニストまたはアンタゴニストとなる可能性を有する化合物をハイスループットにスクリーニングするのに有用なin vitro細胞での発現システムを提供する。
【0110】
【表5】

【表6】

【表7】

【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の:
i) 宿主酵母細胞;及び
ii) 標的異種膜タンパク質のコーディング配列を含むベクターであって、当該配列が、前記宿主細胞の形質転換及び染色体組込みの際に、前記宿主細胞膜で前記標的機能タンパク質の過剰発現を生じさせるプロモーターの制御下にある、前記ベクター、
を含むタンパク質発現系。
【請求項2】
前記宿主細胞がSaccharomyces属の酵母細胞である、請求項1に記載のタンパク質発現系。
【請求項3】
前記宿主細胞が1以上の天然膜タンパク質が欠損した突然変異株を含み、それにより、標的タンパク質を前記宿主細胞の膜で主に発現させ、そして薬剤スクリーニングに適用しうるものにする、請求項1又は2に記載のタンパク質発現系。
【請求項4】
前記宿主細胞が薬剤排出ポンプ・タンパク質である、請求項3に記載のタンパク質発現系。
【請求項5】
前記宿主細胞がSaccharomyces cerevisiae AD1-8u-株である、請求項2〜4のいずれか1項に記載のタンパク質発現系。
【請求項6】
前記宿主細胞が、細胞膜と通常融合する能力が温度感受性であるところの分泌小胞の形成を引き起こす変異体を含む、前記いずれかの請求項に記載のタンパク質発現系。
【請求項7】
前記宿主細胞がAD1-8u-のsec6-4 変異株である、請求項6に記載のタンパク質発現系。
【請求項8】
前記標的タンパク質の前記コーディング配列が、ゲノム上の定位置で宿主細胞に組み込まれる、請求項1に記載のタンパク質発現系。
【請求項9】
前記コーディング配列が、異種標的タンパク質又はその機能的断片若しくはその変異体の天然コーディング配列全体を含む、請求項1に記載のタンパク質発現系。
【請求項10】
前記標的異種膜タンパク質が、真菌において多剤耐性に関わるポンプ・タンパク質、P糖タンパク、嚢胞性繊維症膜貫通調節因子その他薬剤耐性付与の役割を担うヒト、動物、植物又は微生物由来の細胞膜タンパク質から成る群から選ばれる薬剤排出ポンプ・タンパク質である、請求項8又は9に記載のタンパク質発現系。
【請求項11】
前記標的異種膜タンパク質が、薬剤排出ポンプ・タンパク質である、請求項3〜10のいずれか1項に記載のタンパク質発現系。
【請求項12】
前記標的異種膜タンパク質が、Candida albicans Cdr1p及びCdr2p由来並びにCandida galbrata Cdr1p 及び Pdh1pから選ばれる、請求項11に記載のタンパク質発現系。
【請求項13】
前記標的異種膜タンパク質が、前記宿主細胞から欠損されている膜タンパク質のクラスとは異なるクラスのタンパク質である、請求項3〜10のいずれか1項に記載のタンパク質発現系。
【請求項14】
前記標的異種膜産物が、Candida albicans BenRP及びErg11pから選ばれる、請求項13に記載のタンパク質発現系。
【請求項15】
前記ベクターがプラスミドベクターである、請求項1に記載のタンパク質発現系。
【請求項16】
前記プラスミドベクターが大腸菌内で複製できる要素を含む、請求項15に記載のタンパク質発現系。
【請求項17】
前記プラスミドベクターがpABC3である、請求項15に記載のタンパク質発現系。
【請求項18】
前記プロモーターがSaccharomyces cerevisiae のプロモーターである、請求項1に記載のタンパク質発現系。
【請求項19】
前記プロモーターがS. cerevisiae のPDR5、PMA1、CTR3、ADH1、PGK及びGAL 並びに細菌 tet0 プロモーター及びtet0::ScHOP1制御性カセットから成る群から選ばれる、請求項18に記載のタンパク質発現系。
【請求項20】
前記プロモーターがPDR5 プロモーターである、請求項19に記載のタンパク質発現系。
【請求項21】
前記Saccharomyces プロモーターが、前記宿主細胞膜内の前記標的タンパク質コーディング配列の過剰発現を誘導するように転写調節因子の制御下にある、請求項18〜20のいずれか1項に記載のタンパク質発現系。
【請求項22】
前記転写調節因子がPdr1-3p 転写調節因子である、請求項21に記載のタンパク質発現系。
【請求項23】
以下の工程:
i) 酵母宿主細胞の染色体DNAを、標的異種膜タンパク質コーディング配列を含むDNAで形質転換し、ここで前記コーディング配列は、宿主細胞膜での標的機能タンパク質の過剰発現をもたらす宿主プロモーターの制御下にあり;
ii) 前記宿主細胞環境又は前記形質転換した宿主株由来の細胞膜分画環境に、少なくとも1の候補化合物を導入し;そして
iii) 前記候補化合物の、前記宿主細胞の増殖及び/又は生存及び/又は前記標的膜タンパク質が関与する特異的な生化学若しくは生理学機能に対する影響があれば、それを測定し;そして又は前記候補化合物と前記標的膜タンパク質との結合を測定する、
を含む医薬又は農薬として有用な薬剤のスクリーニング方法。
【請求項24】
前記宿主細胞がSaccharomyces属の酵母である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記宿主細胞が、1以上の天然膜タンパク質が欠損するように遺伝子が変更されているSaccharomyces細胞である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記宿主細胞がSaccharomyces cerevisiae AD1-8u-株である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記宿主細胞がAD1-8u-株のsec6-4 変異株である、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項28】
前記標的異種膜タンパク質が薬剤排出ポンプ・タンパク質である、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記標的異種膜タンパク質が、真菌における多剤耐性に関わるポンプ・タンパク質、P糖タンパク、嚢胞性繊維症膜貫通調節因子その他薬剤耐性付与の役割を担うヒト、動物、植物または微生物由来の細胞膜タンパク質から成る群から選ばれる薬剤排出ポンプ・タンパク質である、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記標的膜タンパク質が薬剤排出ポンプ・タンパク質であり、かつ、前記候補化合物が排出ポンプ阻害剤である、請求項23〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記コーディング配列及びプロモーターが、プラスミドベクターを介して前記宿主細胞に導入される、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
前記プラスミドベクターが大腸菌内での複製を可能にする要素を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記プラスミドベクターがpABC3である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記プロモーターがSaccharomyces cerevisiae のプロモーターである請求項31〜33のいずれか 1項に記載の方法。
【請求項35】
前記プロモーターがS. cerevisiae のPDR5、PMA1、CTR3、ADH1、PGK及びGAL 並びに細菌 tet0 プロモーター及びtet0::ScHOP1制御性カセットから成る群から選ばれる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記プロモーターがPDR5 プロモーターである、請求項34又は35に記載の方法。
【請求項37】
前記Saccharomyces のプロモーターが、前記宿主細胞膜への前記標的タンパク質コーディング配列の過剰発現を誘導するように転写調節因子の制御下にある、請求項34〜36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記転写調節因子がPdr1-3p 転写調節因子である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
pABC3 を含む酵母宿主細胞内に標的異種膜タンパク質の過剰発現における使用に好適なベクター。
【請求項40】
請求項23〜38のいずれか1項に記載の方法、及び請求項1〜22のいずれか1項に記載のタンパク質発現系を使用して同定された生理活性な、医薬又は農薬化合物。
【請求項41】
前記化合物が化合物ライブラリーから得られた、請求項40に記載の化合物。
【請求項42】
本書に定義されるKN20を含む、請求項40又は41に記載の化合物。
【請求項43】
抗真菌剤として適した、本書に定義されるKN20を含む化合物。
【請求項44】
好適な担体又は賦形剤とともに本書に定義される化合物KN20を含む抗真菌剤組成。
【請求項45】
多剤排出機構により輸送されるfluconazoleその他の異物から成る群から選ばれる既知の抗真菌成分と混合された、本書に定義される化合物KN20を含む抗真菌剤組成。
【請求項46】
請求項23〜38のいずれか1項に記載の方法及び請求項1〜22のいずれか1項に記載のタンパク質発現系により製造された精製膜タンパク質。
【請求項47】
以下の:
(i) 宿主細胞;
(ii) 標的異種膜タンパク質のコーディング配列を含むベクターであって、前記配列が、前記宿主細胞の形質転換及び染色体組込みにより宿主細胞膜で標的機能性タンパク質の過剰発現を生じさせるプロモーターの制御下にあり、;そして
(iii) 前記形質転換及び薬剤スクリーニング手順を実行するための説明書、
を含む、医薬又は農薬として有用な薬剤のスクリーニング用キット。
【請求項48】
前記宿主細胞がS. crevisiae のAD1-8u-株を含み、前記ベクターがpABC3であり、かつPDR5 プロモーター及び異種の薬剤排出ポンプ・タンパク質コーディング配列を含む、請求項47に記載のキット。
【請求項49】
前記ポンプ・タンパク質がC. albicans のCdr1p、Cdr2p、BenRp、Erg11p並びにC. galbrata のCdr1p及び Pdh1pから成る群から選ばれる、請求項47又は48に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【公開番号】特開2010−11851(P2010−11851A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−176778(P2009−176778)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【分割の表示】特願2003−523664(P2003−523664)の分割
【原出願日】平成14年8月23日(2002.8.23)
【出願人】(500240379)ユニバーシティ オブ オタゴ (5)
【出願人】(504070848)ユニベルシテ カトリック ドゥ ルーベン (1)
【出願人】(592072539)マッセイ ユニバーシティー (2)
【氏名又は名称原語表記】MASSEY UNIVERSITY
【Fターム(参考)】