説明

膜電極接合体、燃料電池および燃料電池システム

【課題】改質ガスに含まれるCOの許容濃度が増大した膜電極接合体を提供する。
【解決手段】膜電極接合体50は、固体高分子電解質膜20、アノード22、およびカソード24を有する。CO除去層27は、触媒層26とガス拡散層28との間に層状に配設されている。カソード24は、触媒層30およびガス拡散層32からなる積層体を有する。CO除去層27は、CO除去触媒で形成されている。CO除去触媒は、金属酸化物または金属炭化物と、これに担持された金粒子とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と酸素の電気化学反応により発電する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー変換効率が高く、かつ、発電反応により有害物質を発生しない燃料電池が注目を浴びている。こうした燃料電池の一つとして、100℃以下の低温で作動する固体高分子形燃料電池が知られている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜である固体高分子膜を燃料極と空気極との間に配した基本構造を有し、燃料極に水素を含む燃料ガス、空気極に酸素を含む酸化剤ガスを供給し、以下の電気化学反応により発電する装置である。
【0004】
燃料極:H→2H+2e ・・・(1)
空気極:1/2O+2H+2e→HO ・・・(2)
アノードおよびカソードは、それぞれ触媒層とガス拡散層が積層した構造からなる。各電極の触媒層が固体高分子膜を挟んで対向配置され、燃料電池を構成する。触媒層は、触媒を担持した炭素粒子がイオン交換樹脂により結着されてなる層である。ガス拡散層は酸化剤ガスや燃料ガスの通過経路となる。
【0005】
アノードにおいては、供給された燃料中に含まれる水素が上記式(1)に示されるように水素イオンと電子に分解される。このうち水素イオンは固体高分子電解質膜の内部を空気極に向かって移動し、電子は外部回路を通って空気極に移動する。一方、カソードにおいては、カソードに供給された酸化剤ガスに含まれる酸素が燃料極から移動してきた水素イオンおよび電子と反応し、上記式(2)に示されるように水が生成する。このように、外部回路では燃料極から空気極に向かって電子が移動するため、電力が取り出される(特許文献1参照)。
【0006】
アノードに供給される燃料として、天然ガスやLPGなどの炭化水素系ガスを改質器を用いて水蒸気改質することによって得られる改質ガスが用いられている。改質器で生成された改質ガスには、電極に用いられる触媒性能を劣化させるCO(濃度:10数%)が含まれている。このため、改質器で生成された改質ガスは、CO変成器およびCO除去器で段階的に順次処理されることによりCO濃度が低減される。CO変成器では、シフト反応により一酸化炭素が水素に変成される。これにより、水素濃度が高められるとともに、CO濃度が0.5%以下に低減される。さらに、CO除去器では、CO選択除去触媒を用いたCO酸化反応によりCO濃度が10ppm程度にまで低減される。
【特許文献1】特開2002−203569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の燃料電池システムでは、天然ガスやLPGなどの炭化水素系ガスを原燃料とする場合に、改質器に加えて、CO濃度を低減するための構成としてCO変成器およびCO除去器が必要とされていた。このため、燃料電池システムが複雑化、大型化するとともに、燃料電池システムのコストの増加を招いていた。
【0008】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、改質ガスに含まれるCOの許容濃度が増大した膜電極接合体および燃料電池の提供にある。また、本発明の他の目的は、改質ガスを燃料として用いる燃料電池システムの簡便化およびコストの低減を図ることができる技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、膜電極接合体である。当該膜電極接合体は、電解質膜と、電解質膜の一方の面に設けられたアノードと、電解質膜の他方の面に設けられたカソードと、を備え、アノードは、金粒子が金属酸化物または金属炭化物に担持されたCO除去触媒を含むことを特徴とする。
【0010】
これによれば、燃料電池に供給される燃料ガス(改質ガス)として許容されるCO濃度の上限を高めることができ、改質ガスに含まれるCOを低減するための装置類を簡略化することができる。
【0011】
上記態様において、金属酸化物は、チタン、タングステン、シリコン、ニッケル、亜鉛、鉄、ガリウム、ジルコニウム、イットリビウム、ランタン、セリウム、モリブデン、コバルト、バナジウムの金属のうち、少なくとも1つ以上の元素を含んでもよい。
【0012】
また、金属酸化物は、酸化チタンと、タングステン、シリコン、ニッケル、亜鉛、鉄、ガリウム、ジルコニウム、イットリビウム、ランタン、セリウム、モリブデン、コバルト、バナジウムの金属のうち、少なくとも1つ以上の元素を含む金属酸化物との組み合わせであってもよい。酸化チタンは、電子導電性を有するマグネリ相酸化物を含んでもよい。
【0013】
また、金属炭化物は、チタン、タングステン、シリコン、ニッケル、亜鉛、鉄、ガリウム、ジルコニウム、イットリビウム、ランタン、セリウム、モリブデン、コバルト、バナジウムの金属のうち、少なくとも1つ以上の元素を含んでもよい。
【0014】
また、金粒子の平均粒径が5nm以下であってもよい。
【0015】
CO除去触媒は、発電中の燃料電池の温度以下においてCOをCOに変換させてもよい。
【0016】
アノードは、触媒層とガス拡散層とを有し、CO除去触媒は、触媒層とガス拡散層との間に層状に配設されていてもよい。この他、アノードは、触媒層とガス拡散層とを有し、CO除去触媒は、ガス拡散層に含有されていてもよい。
【0017】
本発明の他の態様は、燃料電池である。当該燃料電池は、上述したいずれかの態様の膜電極接合体を有する。
【0018】
本発明のさらに他の態様は、燃料電池システムである。当該燃料電池システムは、上述した燃料電池と、燃料電池スタックに供給される改質ガスを生成する改質器と、改質器で生成された改質ガスに含まれるCOを水素に変成するCO変成器と、を備え、燃料電池のアノードを構成するCO除去層は、CO変成器で水素濃度が高められた改質ガスのCO濃度を0.5%以内に低減しCO変成器で水素濃度が高められた改質ガスが、燃料電池スタックに直に供給されることを特徴とする。
【0019】
これによれば、改質ガスを用いる燃料電池システムにおいて、CO除去層において、改質ガスのCO濃度の低減を図ることにより、CO除去器が必要とされないため、燃料電池システムの構成を簡便化し、コストの低減を図ることができる。
【0020】
本発明のさらに他の態様は、燃料電池システムである。当該燃料電池システムは、上述した燃料電池と、燃料電池に供給される改質ガスを生成する改質器と、を備え、燃料電池のアノードを構成するCO除去層は、改質器で生成された改質ガスのCO濃度を10%以下から10ppm以下に低減し、改質ガスが、燃料電池に直に供給されることを特徴とする。
【0021】
これによれば、改質ガスを用いる燃料電池システムにおいて、CO除去層において、改質ガスのCO濃度の低減を図ることにより、CO変成器およびCO除去器が必要とされないため、燃料電池システムの構成を簡便化し、コストの低減を図ることができる。
【0022】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、改質ガスに含まれるCOの許容濃度が増大した膜電極接合体および燃料電池が提供される。また、本発明によれば、改質ガスを燃料として用いる燃料電池システムの簡便化およびコストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る燃料電池10の構造を模式的に示す斜視図である。図2は、図1のA−A線上の断面図である。燃料電池10は、平板状の膜電極接合体50を備え、この膜電極接合体50の両側にはセパレータ34およびセパレータ36が設けられている。この例では一つの膜電極接合体50のみを示すが、セパレータ34やセパレータ36を介して複数の膜電極接合体50を積層して燃料電池スタックが構成されてもよい。膜電極接合体50は、固体高分子電解質膜20、アノード22、およびカソード24を有する。
【0026】
アノード22は、触媒層26、CO除去層27、およびガス拡散層28からなる積層体を有する。すなわち、本実施の形態では、CO除去層27は、触媒層26とガス拡散層28との間に層状に配設されている。一方、カソード24は、触媒層30およびガス拡散層32からなる積層体を有する。アノード22の触媒層26とカソード24の触媒層30は、固体高分子電解質膜20を挟んで対向するように設けられている。
【0027】
アノード22側に設けられるセパレータ34にはガス流路38が設けられている。燃料供給用のマニホールド(図示せず)から燃料ガスがガス流路38に分配され、ガス流路38を通じて膜電極接合体50に燃料ガスが供給される。同様に、カソード24側に設けられるセパレータ36にはガス流路40が設けられている。
【0028】
酸化剤供給用のマニホールド(図示せず)から酸化剤ガスがガス流路40に分配され、ガス流路40を通じて膜電極接合体50に酸化剤ガスが供給される。具体的には、燃料電池10の運転時、燃料ガス、たとえば水素ガスを含有する改質ガスがガス流路38内をガス拡散層28の表面に沿って上方から下方へ流通することにより、アノード22に燃料ガスが供給される。
【0029】
一方、燃料電池10の運転時、酸化剤ガス、たとえば、空気がガス流路40内をガス拡散層32の表面に沿って上方から下方へ流通することにより、カソード24に酸化剤ガスが供給される。これにより、膜電極接合体50内で反応が生じる。ガス拡散層28を介して触媒層26に水素ガスが供給されると、ガス中の水素がプロトンとなり、このプロトンが固体高分子電解質膜20中をカソード24側へ移動する。このとき放出される電子は外部回路に移動し、外部回路からカソード24に流れ込む。一方、ガス拡散層32を介して触媒層30に空気が供給されると、酸素がプロトンと結合して水となる。この結果、外部回路においてはアノード22からカソード24に向かって電子が流れることとなり、電力を取り出すことができる。
【0030】
固体高分子電解質膜20は、湿潤状態において良好なイオン伝導性を示し、アノード22およびカソード24の間でプロトンを移動させるイオン交換膜として機能する。固体高分子電解質膜20は、含フッ素重合体や非フッ素重合体等の固体高分子材料によって形成され、たとえば、スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体、ポリサルホン樹脂、ホスホン酸基又はカルボン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体等を用いることができる。スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体の例として、ナフィオン(デュポン社製:登録商標)112などがあげられる。また、非フッ素重合体の例として、スルホン化された、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホンなどが挙げられる。
【0031】
アノード22を構成する触媒層26は、イオン交換樹脂と、触媒を担持した炭素粒子すなわち触媒担持炭素粒子とから構成される。イオン交換樹脂は、触媒を担持した炭素粒子と固体高分子電解質膜20を接続し、両者間においてプロトンを伝達する役割を持つ。イオン交換樹脂は、固体高分子電解質膜20と同様の高分子材料から形成されてよい。担持される触媒には、たとえば、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウムなどの1種または2種を合金化したものなどがある。また触媒を担持する炭素粒子には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノオニオンなどがある。
【0032】
アノード22を構成するCO除去層27は、CO除去触媒で形成されている。CO除去触媒は、空気の存在下でCOをCOに酸化させる反応を促進させる気相系のCO酸化触媒である。具体的には、CO除去触媒は、金属酸化物または金属炭化物と、これに担持された金粒子とを有する。
【0033】
金属酸化物は、チタン、タングステン、シリコン、ニッケル、亜鉛、鉄、ガリウム、ジルコニウム、イットリビウム、ランタン、セリウム、モリブデン、コバルト、バナジウムの金属のうち、少なくとも1つ以上の元素を含むことが好ましい。
【0034】
特に、金属酸化物は、酸化チタンと、タングステン、シリコン、ニッケル、亜鉛、鉄、ガリウム、ジルコニウム、イットリビウム、ランタン、セリウム、モリブデン、コバルト、バナジウムの金属のうち、少なくとも1つ以上の元素を含む金属酸化物との組み合わせであることが好ましい。
【0035】
金属酸化物に酸化チタンが含まれる場合には、酸化チタンは電子導電性を有するマグネリ相酸化物(Ti4O7)であることが好ましい。これによれば、CO除去触媒の電子導電性が高まるため、CO除去触媒がCO除去だけでなく、電子導電体としても機能するため、アノード22の抵抗を低減することができる。
【0036】
金粒子の平均粒径は、5nm以下が好ましく、3nm以下がより好ましい。金粒子を金属酸化物または金属炭化物に担持される方法として、たとえば、表面ゾルゲル法が挙げられる。
【0037】
以上説明したCO除去触媒は、発電中の燃料電池10の温度以下においてCOをCOに変換させることができることが望ましい。CO除去触媒がCOをCOに変換可能な温度範囲は、120℃以下、望ましくは70℃以下である。これによれば、燃料電池10に別途構成を設けることなく、通常の使用状態において、燃料ガスに含まれるCO濃度を低減することができる。また、CO除去触媒は、CO濃度を0.5%以下から10ppm以下まで低減させるCO除去能力を持つことが望ましい。この場合には、燃料電池10に供給される燃料ガスとして許容されるCO濃度の上限を0.5%にまで高めることができる。CO濃度を10%以下から10ppm以下まで低減させるCO除去能力を持つことがより望ましい。この場合には、燃料電池10に供給される燃料ガスとして許容されるCO濃度の上限を10%にまで高めることができる。
【0038】
アノード22を構成するガス拡散層28は、アノードガス拡散基材、およびアノードガス拡散基材に塗布された微細孔層を有する。アノードガス拡散基材は、電子伝導性を有する多孔体で構成されることが好ましく、たとえばカーボンペーパー、カーボンの織布または不織布などを用いることができる。
【0039】
アノードガス拡散基材に塗布された微細孔層は、導電性粉末と撥水剤とを混練して得られるペースト状の混練物である。導電性粉末としては、たとえば、カーボンブラックを用いることができる。また、撥水剤としては、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)などのフッ素系樹脂を用いることができる。なお、撥水剤は結着性を有することがこのましい。ここで、結着性とは、粘りの少ないものやくずれやすいものをつなぎ合わせ、粘りのあるもの(状態)にすることができる性質をいう。撥水剤が結着性を有することにより、導電性粉末と撥水剤とを混練することにより、ペーストを得ることができる。
【0040】
カソード24を構成するガス拡散層32は、カソードガス拡散基材、およびカソードガス拡散基材に塗布された微細孔層を有する。カソードガス拡散基材は、電子伝導性を有する多孔体で構成されることが好ましく、たとえばカーボンペーパー、カーボンの織布または不織布などを用いることができる。
【0041】
カソードガス拡散基材に塗布された微細孔層は、導電性粉末と撥水剤とを混練して得られるペースト状の混練物である。導電性粉末としては、たとえば、カーボンブラックを用いることができる。また、撥水剤としては、四フッ化エチレン樹脂などのフッ素系樹脂を用いることができる。なお、撥水剤は結着性を有することがこのましい。撥水剤が結着性を有することにより、導電性粉末と撥水剤とを混練することにより、ペーストを得ることができる。
【0042】
以上説明した燃料電池10によれば、アノード22を構成する触媒層26に供給される燃料ガスがCO除去層27を通過することによりCO濃度が低減されるため、燃料電池10に供給される燃料ガスとして許容されるCO濃度の上限を上げることができる。
【0043】
図3は、実施の形態1に係る燃料電池10を用いた燃料電池システム100の構成例1を示す。構成例1は、燃料電池10のアノード22を構成するCO除去層により、燃料電池10に供給される燃料ガスとして許容されるCO濃度の上限が0.5%に高められている場合の構成を例示する。
【0044】
燃料電池システム100は、改質装置110および燃料電池10を有する。改質装置110は、改質器112およびCO変成器114を備える。改質器112には、水処理が施された上水が改質用水として供給される。改質用水は、改質器112における水蒸気改質に用いられる。また、改質器112には、天然ガス、LPGなどの炭化水素系ガスが改質用の原燃料として供給される。原燃料の一部は、改質器112のバーナ用として用いられ、改質器112で燃焼される。また、改質器112には、燃料電池10で消費されなかった改質ガスがオフガスとして供給され、バーナで燃焼される。これにより、原燃料の利用効率が高められている。また、改質器112には、外部から空気が供給される。改質器112は、原燃料と改質用水を用いて原燃料の水蒸気改質を行い、水素ガスリッチな改質ガスを生成する。
【0045】
改質器112で生成された改質ガスは、CO変成器114に供給され、シフト反応によりCOが水素に変成され、CO濃度が0.5%以下に低減される。CO変成器114によりCO濃度が低減された改質ガスは、CO除去器を経ることなく、直にアノード22に供給され、燃料電池10での発電に使用される。
【0046】
上述したように、本構成例では、燃料電池10に供給される燃料ガスとして許容されるCO濃度の上限が0.5%に高められているため、CO変成器114によりCO濃度が低減された改質ガスをアノード22に供給しても、アノード22の触媒層26の劣化が抑制され、発電を長期的に安定的に行うことができる。また、改質装置110にCO除去器を設ける必要がないため、改質装置110の構造を簡便化することができる。この結果、燃料電池システム100の構造を簡便化するとともに、燃料電池システム100のコストを低減することができる。
【0047】
図4は、実施の形態1に係る燃料電池10を用いた燃料電池システム100の構成例2を示す。構成例2は、燃料電池10のアノード22を構成するCO除去層により、燃料電池10に供給される燃料ガスとして許容されるCO濃度の上限が10%に高められている場合の構成を例示する。
【0048】
構成例2では、燃料電池10に供給される燃料ガスとして許容されるCO濃度の上限が10%に高められているため、CO変成器を経ることなく、改質器112で生成された改質ガスを直接的に燃料電池10のアノード22に供給することができる。これによれば、また、改質ガスのCO濃度低減手段として、CO変成器およびCO除去器を設ける必要がないため、改質装置110は実質的に改質器112のみとなり、改質装置110の構造をさらに簡便化することができる。この結果、燃料電池システム100の構造をさらに簡便化するとともに、燃料電池システム100のコストをより一層低減することができる。
【0049】
(実施の形態2)
図5は、実施の形態2に係る燃料電池10の構造を示す断面図である。本実施の形態の燃料電池10では、CO除去層27はガス拡散層28の層内に埋め込まれる形で、ガス拡散層28に含有されている。言い換えると、本実施の形態では、ガス拡散層28が2層となり、触媒層26側のガス拡散層28aとセパレータ34側のガス拡散層28bとの間にCO除去層27が狭持されている。典型的には、ガス拡散層28aは、アノードガス拡散基材とこれに塗布された微細孔層であり、ガス拡散層28bはアノードガス拡散基材である。CO除去層27は、アノードガス拡散基材に上述したCO除去触媒を塗布することにより形成されている。
【0050】
本実施の形態によっても、実施の形態1の燃料電池と同様な効果を得ることができる。
【0051】
後述する標準的な製造方法に従って実施例1、実施例2および比較例の膜電極接合体を作製し、I−V特性評価を行った。
【0052】
(実施例1)
<カソード触媒スラリー作製>
カソード触媒として、白金担持カーボン(TEC10E50E,田中貴金属工業株式会社)を用い、イオン交換樹脂として、ナフィオン(登録商標)DE2020CS溶液(20%,Ew=1050,デュポン社製)を用いた。白金担持カーボン5gに対し、10mLの超純水を添加し撹拌した後に、15mLエタノールを添加した。この触媒分散溶液について、超音波スターラーを用いて1時間超音波撹拌分散を行った。所定のナフィオン溶液を、等量の超純水で希釈を行いガラス棒で3分間撹拌した後、超音波洗浄器を用いて1時間超音波分散を行い、ナフィオン水溶液を得た。その後、ナフィオン水溶液をゆっくりと触媒分散液中に滴下した。滴下中は、超音波スターラーを用いて連続的に撹拌を行った。ナフィオン溶液滴下終了後、1-プロパノールと1-ブタノールの混合溶液10g(重量比1:1)の滴下を行い、得られた溶液を触媒スラリーとした。混合中は、すべて水温が約60℃になるように調整し、エタノールを蒸発、除去した。
【0053】
<カソード作製>
上記の方法で作製した触媒スラリーをスクリーン印刷(150メッシュ)によって、バルカンXC72によって作製した微細孔層付きのガス拡散層に塗布し、80℃、3時間の乾燥および180℃、45分の熱処理を行った。
【0054】
<アノード触媒スラリー作製>
アノード触媒スラリーの作製方法は、触媒として白金ルテニウム担持カーボン(TEC61E54、田中貴金属工業株式会社)を使用する点を除き、カソード触媒スラリーの作製方法と同様である。
【0055】
<アノードCO除去層を有するガス拡散層の作製>
平均粒径3nmの金ナノ粒子を平均粒径約100nmのZrO/TiO2(Zr:Ti=1:20)上に担持したAu/ZrO/TiO2をゾルゲル法によって作製した。得られたAu/ZrO/TiO2をバルカンXC-72R(Cabot製)と重量比が3:1になるように自動乳鉢で30分間混合した。
【0056】
ハイブリッドミキサ用容器に、Au/ZrO/TiO2、カーボン混合物とフッ素樹脂(ダイキン社製:ルブロンLDW40E)とを、重量比が混合物:フッ素樹脂(分散液中に含まれるフッ素樹脂成分)=26:3となるように投入し、ハイブリッドミキサの混合モードにて15分間混合した。混合した後、ハイブリッドミキサを混合モードから脱泡モードへ切換え、4分間脱泡を行う。脱泡を終えたペーストの上部に上澄み液が溜まった場合はこの上澄み液を廃棄し、ペーストを自然冷却してアノード用のCO除去触媒を含む微細孔層ペーストとした。常温まで冷却した微細孔層ペーストを、FEPによって撥水処理したカーボンペーパー(東レ社製:TGPH060H)の表面に、カーボンペーパー面内の塗布状態が均一になるように塗布し、熱風乾燥機(サーマル社製)にて60℃60分間乾燥した。最後に、360℃2時間熱処理を行い、ガス拡散層を完成させた。
【0057】
<アノード作製>
上記の方法で、作製した触媒スラリーをスクリーン印刷(150メッシュ)によって、上述したガス拡散層に塗布し、80℃、3hrsの乾燥および130℃、45minの熱処理を行った。
【0058】
<膜電極接合体の作製>
上記の方法で作製したアノードとカソードとの間に固体高分子電解質膜を狭持した状態でホットプレスを行う。固体高分子電解質膜としてAciplex(登録商標)(SF7201x、旭化成ケミカルズ製)を用いた。170℃、200秒の接合条件でアノード、固体高分子電解質膜、およびカソードをホットプレスすることによって膜電極接合体を作製した。
【0059】
(実施例2)
実施例2の膜電極接合体は、下記アノードCO除去層作製を除き、実施例1と同様な製法により作製される。すなわち、実施例1の膜電極接合体は、微細孔層にCO除去触媒を含むのに対して、実施例2の膜電極接合体は、ガス拡散層の基材部分にCO除去触媒を含有している。
【0060】
<アノードCO除去層を有するガス拡散層の作製>
平均粒径が3nmの金ナノ粒子を平均粒径が約100nmのZrO/TiO2(Zr:Ti=1:20)上に担持したAu/ZrO/TiO2をゾルゲル法によって作製した。
【0061】
ガス拡散層の基材となるカーボンペーパー(東レ社製:TGPH060H)は、重量比でカーボンペーパー:FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体):Au/ZrO/TiO2粉末=55:40:5となるように、Au/ZrO/TiO2を分散させたFEP分散液に浸漬した後、60℃1時間の乾燥後、380℃15分間の熱処理(FEP撥水処理)を行った。
【0062】
その後、上記拡散層の基材上にバルカンXC-72R:フッ素樹脂(分散液中に含まれるフッ素樹脂成分)=26:3となるようにハイブリッドミキサーで混合したカーボンペーストを塗布状態が均一になるように塗布し、熱風乾燥機(サーマル社製)にて60℃60分間乾燥した。最後に、360℃2時間熱処理を行い、アノード用のガス拡散層を完成させた。
【0063】
(比較例)
比較例の膜電極接合体は、上述したアノードCO除去層を用いずにガス拡散層を作製する点を除き、実施例1と同様な製法により作製される。
【0064】
ハイブリッドミキサ用容器にカーボン(ValcunXC-72R,Cabot製)とフッ素樹脂(ダイキン社製:ルブロンLDW40E)とを、重量比が混合物:フッ素樹脂(分散液中に含まれるフッ素樹脂成分)=26:3となるように投入し、ハイブリッドミキサの混合モードにて15分間混合した。混合した後、ハイブリッドミキサを混合モードから脱泡モードへ切換え、4分間脱泡を行う。脱泡を終えたペーストの上部に上澄み液が溜まった場合はこの上澄み液を廃棄し、ペーストを自然冷却してアノード用拡散層ペーストとした。常温まで冷却した拡散層ペーストを、FEPによって撥水処理したカーボンペーパー(東レ社製:TGPH060H)の表面に、カーボンペーパー面内の塗布状態が均一になるように塗布し、熱風乾燥機(サーマル社製)にて60℃60分間乾燥した。最後に、360℃2時間熱処理を行い、ガス拡散層を完成させた。
【0065】
ガス拡散層の基材となるFEPによって撥水処理を施したカーボンペーパー(東レ社製:TGPH060H)は、重量比でカーボンペーパー:FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)=60:40となるように、FEP分散液に浸漬した後、60℃1時間の乾燥後、380℃15分間の熱処理(FEP撥水処理)を行った。
【0066】
(I−V特性評価)
図6は、実施例1,2および比較例の膜電極接合体について、それぞれI−V特性を評価した結果を示すグラフである。I−V特性評価の条件を下記に示す。
セル温度:80℃
アノード加湿温度:75℃
カソード加湿温度:75℃
アノードガス:0.5%COを含む水素ガス
カソードガス:空気
【0067】
図6に示すように、比較例では電流密度を上げると電圧が急激に低下し、電流密度0.1A/cmで電圧が約0.3Vにまで落ち込む。これに対して、実施例1および2では、電流密度の増加に伴う電圧低下が緩やかであり、電流密度0.4A/cmで電圧が約0.5〜0.6V程度に維持されている。実施例1、2の膜電極接合体では、アノードにCO除去触媒を含むことにより、COによるアノード触媒の被毒が抑制された結果、内部抵抗が改善されたことが確認された。
【0068】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施の形態1に係る燃料電池の構造を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線上の断面図である。
【図3】実施の形態1に係る燃料電池を用いた燃料電池システムの構成例1を示す。
【図4】実施の形態1に係る燃料電池を用いた燃料電池システムの構成例2を示す。
【図5】実施の形態2に係る燃料電池の構造を示す断面図である。
【図6】実施例1,2および比較例の膜電極接合体について、それぞれI−V特性を評価した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0070】
10 燃料電池、20 固体高分子電解質膜、22 アノード、24 カソード、26,30 触媒層、27 CO除去層、28,32 ガス拡散層、50 膜電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に設けられたアノードと、
前記電解質膜の他方の面に設けられたカソードと、
を備え、
前記アノードは、金粒子が金属酸化物または金属炭化物に担持されたCO除去触媒を含むことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
前記金属酸化物は、チタン、タングステン、シリコン、ニッケル、亜鉛、鉄、ガリウム、ジルコニウム、イットリビウム、ランタン、セリウム、モリブデン、コバルト、バナジウムの金属のうち、少なくとも1つ以上の元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記金属酸化物は、酸化チタンと、タングステン、シリコン、ニッケル、亜鉛、鉄、ガリウム、ジルコニウム、イットリビウム、ランタン、セリウム、モリブデン、コバルト、バナジウムの金属のうち、少なくとも1つ以上の元素を含む金属酸化物との組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記酸化チタンは、電子導電性を有するマグネリ相酸化物を含むことを特徴とする請求項3に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記金属炭化物は、チタン、タングステン、シリコン、ニッケル、亜鉛、鉄、ガリウム、ジルコニウム、イットリビウム、ランタン、セリウム、モリブデン、コバルト、バナジウムの金属のうち、少なくとも1つ以上の元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
前記金粒子の平均粒径が5nm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項7】
前記CO除去触媒は、発電中の燃料電池の温度以下においてCOをCOに変換させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項8】
前記アノードは、触媒層とガス拡散層とを有し、
前記CO除去触媒は、前記触媒層と前記ガス拡散層との間に層状に配設されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項9】
前記アノードは、触媒層とガス拡散層とを有し、
前記CO除去触媒は、前記ガス拡散層に含有されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の膜電極接合体を有する燃料電池。
【請求項11】
請求項10に記載の燃料電池と、
前記燃料電池に供給される改質ガスを生成する改質器と、
前記改質器で生成された前記改質ガスに含まれるCOを水素に変成するCO変成器と、
を備え、
前記燃料電池のアノードを構成するCO除去層は、前記CO変成器で水素濃度が高められた改質ガスのCO濃度を0.5%以下から10ppm以下に低減し、
前記CO変成器で水素濃度が高められた改質ガスが、前記燃料電池に直に供給されることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項12】
請求項10に記載の燃料電池と、
前記燃料電池に供給される改質ガスを生成する改質器と、
を備え、
前記燃料電池のアノードを構成するCO除去層は、前記改質器で生成された前記改質ガスのCO濃度を10%以下から10ppm以下に低減し、
前記改質ガスが、前記燃料電池に直に供給されることを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−87567(P2009−87567A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252004(P2007−252004)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】