説明

膜電極接合体の活性化方法及び膜電極接合体とそれを用いた固体高分子型燃料電池

【課題】従来の初動運転及び活性化処理(前処理)では、通常10数時間以上の処理時間を要し、また、特別な処理設備、複雑な処理工程を必要としていた。
【解決手段】アルコール水溶液を準備し、アルコール水溶液に固体高分子型燃料電池用膜電極接合体(10)を接触させてから、接合体(10)を水で洗浄する。次に、膜電極接合体(10)をバイポーラ板(30,31)で挟持し、単位電池を構成する。単位電池を集電板(50,51)で挟持し、集電板で挟持された単位電池を複数個スタックし、スタック体を、絶縁板(60,61)、及び、エンドプレート(70,71)で締め付け、保持して、固体高分子型燃料電池を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池に関し、特に、固体高分子型燃料電池用膜電極接合体の活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、膜電極接合体を用いた燃料電池は、作動開始初期において、瞬時に高性能の電池出力を得ることは困難で、作動開始前に、通常数時間以上の電池として初動運転もしくは、電池として活性化処理(前処理)を行っていた。ここで、活性化処理とは、膜電極接合体において高分子電解質膜に用いられているイオン伝導性ポリマー、及び、電極触媒層中に含まれているイオン伝導性ポリマーを、水分を含んだ状態(水和状態)にする処理のこと、更には触媒層が発電に適した構造に再構築される過程をいう。
【0003】
この初動運転及び活性化処理(前処理)は、使用開始時に撥水処理が施された膜電極接合体を構成する高分子電解質膜に用いられたイオン伝導性ポリマー、及び、電極触媒層中に含まれるイオン伝導性ポリマーが、水分を含んだ状態(水和状態)で、電解質として機能する為、燃料電池を高性能の電池出力で動作させる場合には、電池運転温度と同程度の露点まで加湿する必要があることに起因するものである。
【0004】
上記従来の電池において提案されている電池の初動運転もしくは、活性化処理(前処理)としては、例えば、特許文献1には、電池組立後、アノード極にメタノール等の燃料を供給し、カソード極に窒素等の不活性ガスを供給しながら、外部電源又は、補助電源を使用して、アノード極からカソード極にプロトンが移動する向きに電流を流す方法が記載されている。また、特許文献2には、電池組立体のガス供給路にアルコールを導入した後、脱イオン水で洗浄する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−40598号公報 段落〔0005〕等
【特許文献2】特開2000−3718号公報 段落〔0007〕等
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の初動運転及び活性化処理(前処理)では、通常10数時間以上の処理時間を要し、また、特別な処理設備、複雑な処理工程を必要としていた。そこで、固体高分子型燃料電池の活性化処理として、簡単な設備、単純な処理工程で、短時間で行えることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、アルコール水溶液を準備する工程と、アルコール水溶液に膜電極接合体を接触させる工程と、アルコール水溶液に接触させた該接合体を洗浄する工程とを含む、固体高分子型燃料電池用膜電極接合体の処理方法が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、上記方法で処理された膜電極接合体が提供される。
【0009】
さらに、本発明によれば、上記方法で処理された膜電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、従来のように、電池の初動運転もしくは、活性化処理に必要とされたガス供給設備、ガス加湿設備等の大型設備の導入の必要がない。また、処理時間も従来に比し、短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の五層構造の膜電極接合体の一実施例を示す断面図。
【図2】本発明の膜電極接合体を用いた燃料電池。
【図3】本発明の膜電極接合体の出力電流とサイクルの関係を示す図。
【図4】本発明の膜電極接合体のインピーダンス測定値とサイクルの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、固体高分子型燃料電池に使用される膜電極接合体を、単独で、アルコール水溶液に接触させることで、活性化処理を行うことを主な特徴とする。
【0013】
本発明の対象となる膜電極接合体には、1つのイオン伝導層とその両側に配された2つの電極触媒層からなる三層構造のものと、1つのイオン伝導層とその両側に配された2つの電極触媒層、さらに、電極触媒層の外周にそれぞれ配された2つのガス拡散層からなる五層構造のものとがある。ここでガス拡散層は電極触媒層との界面接合を補助する目的でマイクロポーラス層を含む場合もある。本発明にかかる活性化処理は、上記三層構造のもの、五層構造のもののいずれにも適応できる。
【0014】
図1は、五層構造の膜電極接合体の一実施例を示す断面図である。図1に示す膜電極接合体10は、高分子電解質膜であるイオン伝導層11と、その高分子電解質膜であるイオン伝導層の片側に隣接するカソード側電極触媒層12と、高分子電解質膜であるイオン伝導層11の反対側でそのカソード側電極触媒層12に隣接するカソードガス拡散層3とを有する。
【0015】
高分子電解質膜であるイオン伝導層11のもう一方の側に、高分子電解質膜であるイオン伝導層1に隣接するアノード側電極触媒層22と、高分子電解質膜であるイオン伝導層11の反対側でそのアノード側電極触媒層22に隣接するアノード側ガス拡散層23とを有する。これらの層を、例えば熱圧着を用いて互いに密着させることにより、膜電極接合体10が形成されている。さらに、該膜電極接合体10は、燃料ガスのリークを防止する為のガスケット4を有する。
【0016】
本発明の1つの態様において、ここで用いられる膜電極接合体のイオン伝導層11の高分子電解質膜におけるイオン伝導性ポリマー及び、電極触媒中におけるイオン伝導性ポリマーは、水やアルコールに対して膨潤し難い材料もしくは膨潤し難い構造からなることが好ましい。従来より、イオン伝導性ポリマーとしては、Dupont社製ナフィオン(登録商標)に代表されるPerfluorosulfonic acid/PTFE共重合体系材料が、用いられてきているが、これらよりさらに、水やアルコールに膨潤し難い材料を用いることで、該膜電極接合体をアルコール水に浸漬した際、該膜電極接合体に膨れ、はがれ等の外観欠陥が発生しにくくすることができるからである。水やアルコールに対して比較的膨潤し難い材料としては、炭化水素系材料が好適である。例えば、スルホン化されたポリイミド、ポリフェニレン、エーテルスルホン、エーテルエーテルケトン、ベンゾイミダゾール、チオフェニレン等の炭化水素系材料がある。また、他の例として、スルホン酸を有するイオン伝導性ポリマーを炭化水素系マトリクス内に化学的に保持したいわゆる細孔フィリング電解質膜材料であっても良い。これらの材料はDupont社製のナフィオン(登録商標)と比較して水やアルコールに対して膨潤が少なく、膜電極接合体としての積層構造が壊れ難い(層間剥離し難い)為である。
【0017】
一方、Dupont社製ナフィオン(登録商標)膜を用いた場合においても、アルコール濃度の調整やその温度の選択によって本発明における処理は好適に実施可能である。
【0018】
膜電極接合体の電極触媒層12,22における触媒としては、白金に代表される貴金属微粒子、もしくは、Ni、Fe、Co等の遷移金属微粒子が用いられ、該触媒は、カーボン粉末等の担体に、担持させて、触媒粉末として、用いられている。
【0019】
電極触媒層12,22は、この触媒粉末を、イオン伝導性ポリマーを含む溶液に混合してペースト状にし、高分子電解質膜表面に塗布した後、ホットプレス法などにより、定着されて、形成されている。
【0020】
本発明の1つの態様における膜電極接合体の活性化処理は、アルコール水溶液を準備する工程、アルコール水溶液に膜電極接合体を接触させる工程、及び、アルコール水溶液に接触させた膜電極接合体を洗浄する工程を含む。以下、各工程について説明する。
【0021】
本発明の1つの態様における活性化処理において、アルコール水溶液として、メタノール、エタノール、プロパノールなど炭素数の異なるいずれのアルコールを用いることができるが、メタノールを使用した場合は、1)触媒への被毒影響が最も少なく且つ可逆的であり、また2)分子が小さく、良好な浸透性を得ることができる。以下、本発明の実施の形態を、メタノール水溶液の例を用いて説明する。
【0022】
メタノール水溶液を、アルコール濃度が、水100質量部に対し、アルコール1質量部以上、または5質量部以上、100質量部以下、または50質量部以下となるように、調整する。これらの水溶液の濃度範囲で、イオン伝導性ポリマーの水和がアルコール成分の作用により、促進することができる。
【0023】
メタノール水溶液の温度は、10℃ないし沸騰温度の範囲、ある対応においては、30℃ないし90℃、さらに、ある対応においては、40℃ないし70℃に保温できる。これらの水温で、上記水溶液濃度でのイオン伝導性ポリマーの水和が促進できる。さらに、水温が高い条件では、処理時間の短縮化も可能となる。
【0024】
実際には、水溶液の温度は、膜電極接合体の構成部材に与える熱ダメッジ等の具体的事象をも考慮して適宜定める最適温度とする。
【0025】
ここで、アルコール水溶液に接触させる方法としては、主として、膜電極接合体をアルコール水溶液中に浸漬する方法によるが、膜電極接合体にアルコール水溶液の液滴を噴霧する方法、膜電極接合体をアルコール水溶液の蒸気中に保持する方法によることもできる。
【0026】
浸漬する方法による場合、イオン伝導性ポリマーが水和するに要する処理時間を、膜電極接合体の構成やアルコール水溶液の保持条件に対してあらかじめ予備調査を行って、求めておけば、少なくとも、その時間以上に設定できる。
【0027】
例えば、アルコールが、メタノールであって水100質量部に対し、アルコールを10質量部を含む水溶液を用いる場合、保持温度を65℃とすると、その保持時間は60分にできる。
【0028】
活性化処理をさらに、効率よく、おこなう為、膜電極接合体浸漬時、アルコール水溶液に、超音波振動を加えることができる。また、アルコール水溶液の入った容器内の気圧を減圧することもできる。
【0029】
アルコール水溶液内に保持後、膜電極接合体を、水(イオン交換水)等により洗浄する。これにより、アルコールが、膜電極接合体の部位、例えば、電極触媒層に残留していると、この触媒作用により、空気中の酸素とアルコールが燃焼反応を起こし、その燃焼熱により、膜電極接合体の各部位が劣化することになるがこれを防ぐことができる。
【0030】
例えば、次の方法によれば洗浄を好適におこなうことができる。
【0031】
すなわち、まず、膜電極接合体をアルコール水溶液に浸漬したまま、活性化処理が終了したと認められる時間経過後、アルコール水溶液に、水(イオン交換水)を加えて希釈し、そのアルコール濃度を、水100質量部に対し、アルコール0.1質量部以下とする。その後、希釈したアルコール水溶液内から膜電極接合体を取り出し、直後に、別に準備した、水(イオン交換水)中に膜電極接合体を浸漬する。
【0032】
この方法によれば、膜電極接合体に、高濃度のアルコール成分が残留したままでの大気暴露が回避でき、かつ、残留アルコールを膜電極接合体から、十分に除去することができる。
【0033】
本発明にかかる活性化処理した膜電極接合体は、アルコール水溶液に浸漬処理等することで、高分子電解質膜に用いられているイオン伝導性ポリマー、及び、電極触媒層中に含まれているイオン伝導性ポリマーに、水分を含ませたものである。
【0034】
さらに、膜電極接合体の内部抵抗が、浸漬等した後、定常状態に達したものとすることもできる。ここで、定常状態に達したものとは、具体的には、浸漬処理した膜電極接合体のインピーダンスを評価セルを用いて測定した場合に、その値が、セル温度に依存した指標値以下に達したもののことを言う。内部抵抗が、この指標値以下の場合、膜電極接合体のイオン伝導性ポリマーが、水分を含み、既に、十分に活性化状態にあることを意味する。
【0035】
また、評価セルを用いて測定するインピーダンスとは、1kHzもしくは10kHzの交流によって測定する抵抗値を意味する。本評価値は、例えば、フューエルセルテクノロジー社(5620 Venice Blvd., NE, Suite F Albuquerque, New Mexico 87113)製の25cm2用評価セルを、鶴賀電機社製(大阪市住吉区)のモデル356Eのインピーダンス測定装置を用いて得られる。測定方法は、膜電極接合体を評価測定セル中にセットしメタノール水溶液をアノード側に供給し且つカソード側はセル出口を閉じた状態でセルのアノードとカソードの両電極にインピーダンス測定装置の測定端子を挟んで測定することにより得られる。
【0036】
上記処理において、例えば、メタノール水溶液は水(イオン交換水)と工業用特級メタノールを用いた水溶液を用い、更に測定温度条件は40℃とする。指標値とは、単位面積当たりの抵抗換算値のことをいい、例えば(A)cm2の測定値が(B)Ωの場合に(A)x(B)として用いる。
【0037】
また、指標値の具体的数値に関しては膜電極接合体の構成、セルの形状や面積、用いるアルコール水溶液の濃度、更には測定温度など様々な影響因子があるが、全てを固定する事に拠って指標値が決定できる。
【0038】
また、イオン伝導層が、炭素水素系材料、例えば、炭化水素系イオン伝導性ポリマーを含む材料、もしくは、イオン伝導性ポリマーを炭化水素系マトリクス内に化学的に保持した材料から構成されている態様の活性化処理した膜電極接合体は、該接合体内のイオン伝導性ポリマーが水和状態にあるとともに、アルコール、水による、さしたる膨潤も認められず、イオン伝導層・電極触媒層・ガス拡散層のそれぞれの接合は、浸漬前後で変わりなく、良好に維持される。
【0039】
本発明に係る固体高分子型燃料電池は、活性化処理した膜電極接合体、バイポーラ板、集電板、さらに、絶縁板、エンドプレートから構成される。
【0040】
例えば、図2は、本発明の膜電極接合体を用いた燃料電池を示す、一般的な固体高分子型燃料電池100の断面図である。図2に示す固体高分子型燃料電池100は、水和状態にある膜電極接合体10を、ガス供給路を有するバイポーラ板30、31で挟持したものを、単位電池とし、この単位電池一個もしくは、複数個を、さらに、集電板50、51、絶縁板60、61、エンドプレート70、71により、この順に、挟持することにより、構成される。
【0041】
上記構成の固体高分子型燃料電池組立体は、次の手順により作製される。
1.まず、上記の方法で作製した固体高分子型燃料電池用膜電極接合体10を準備する。
2.次に、該膜電極接合体を、ガス供給路を有するバイポーラ板30,31で挟持し、単位電池を構成する。
3.上記単位電池を、集電板50,51で挟持し、さらに、該集電板で挟持された単位電池を複数個スタックした後、このスタック体を、絶縁板60,61、及び、エンドプレート70,71で所定の面圧(約20kg/cm2)になるように締め付け、挟持する。
【実施例】
【0042】
以下に本発明の実施例を詳述するが、本願の特許請求の範囲内で、以下の実施態様の変形及び変更が可能であることは当業者にとって明らかである。
【0043】
1.サンプル作製
次の手順で本発明の実施例の活性化処理に供する膜電極接合体を作製した。該接合体作製にあたっては、イオン伝導性ポリマーの活性化処理への適合性確認の為、イオン伝導性ポリマーとしてPerfluorosulfonic acid/PTFE共重合体系材料(具体的にはデュポン社製ナフィオン(登録商標))を用いたもの(サンプルA)と炭化水素系材料(ポリエチレンマトリックスの細孔フィリング膜)を用いたもの(サンプルB)作製した。
【0044】
(1)サンプルAの作製:
まず、貴金属触媒粒子としては、平均一次粒子径30nmを持つ導電性カーボン粒子に、白金を50重量%担持したものを空気極側の触媒担持粒子とし、カーボン粒子に、原子比1:1の白金−ルテニウム合金を50重量%担持したものを燃料極側の触媒担持粒子とした。次に、これらの触媒担持粒子を、イオン伝導性ポリマーとともに分散液である和光純薬試薬Wako325−46423の20%Nafion(登録商標) Dispersion Solution DE2020を使用して分散させてカソード触媒用インクペースト(空気極側)、もしくはアノード触媒用触媒インクペースト(燃料極側)として作製した。触媒インク中のイオン伝導性ポリマーの含有量は25質量%となるように調整した。
【0045】
これらの触媒インクペーストを厚み100μmのポリプロピレンシート上に、バーコーターを用いて塗布し、60℃1時間保持して乾燥した。次に、デュポン社製ナフィオン(登録商標)115からなる高分子電解質膜の両面にそれぞれアノード触媒付のポリプロピレンシートとカソード触媒付のポリプロピレンシートを配置し、ホットプレス機で熱転写させた後ポリプロピレンシートを剥離除去し、膜電極接合体とした。
【0046】
触媒層の面積は、25cm2であり、形状は一辺が5cmの正方形とした。
【0047】
次に、ガス拡散層の基材は、東レ社製カーボンペーパーTGP−H−090を使用し、ダイキン社製FEPディスパージョンND−1を所望の濃度に希釈した液に1分間浸漬して引き上げた後、120℃の熱風乾燥機中で乾燥し、300℃の電気炉中で2時間焼成処理を行った。このとき、撥水剤の含有量は5%とした。
【0048】
(2)サンプルBの作製:
上記サンプルAと同じ作製手順で、イオン伝導性ポリマーの部分を、ナフィオン(登録商標)ではなく、炭化水素系材料(ポリエチレンマトリックスの細孔フィリング膜)に替えて、サンプルBを作製した。
【0049】
2.サンプルの前処理(活性化処理)
実施例1
試薬特級のメタノールと水(イオン交換水)を用いて、水100質量部に対し、メタノール8質量部のメタノール水溶液を用意した。ジッパー付きのビニルバック容量30ccに作製した膜電極接合体(サンプルA)を入れ、このビニルバックに膜電極接合体が十分浸漬するだけのメタノール水溶液約6ccを入れ、かつ残留空気がなるべく残らないよう注意してジッパーのチャックを閉めた。これを65℃にコントロールしたオーブンに入れて20分加熱した。その後、ビニルバックを空けて膜電極接合体に空気が接触しないように、ビニルバックよりメタノール水溶液を搾り出すように排出した。その後、水(イオン交換水)約30ccをビニルバックに再度入れては出す上記の作業を5回繰り返した。上記操作により十分にリンスされた膜電極接合体を取り出し、水(イオン交換水)中で約5秒間振るようにして軽く洗浄した。
【0050】
実施例2
実施例1と比較して、加熱時間だけを60分に変更しそれ以外の条件は実施例1と同じ条件で活性化処理を行った。
【0051】
実施例3
実施例1と比較して、加熱条件を、加熱温度20℃、加熱時間だけを18時間に変更しそれ以外の条件は実施例1と同じ条件で活性化処理を行った。
【0052】
実施例4
試薬特級のメタノールとイオン水(交換水)を用いて、水100質量部に対し、メタノール4質量部のメタノール水溶液を用意した。ジッパー付きのビニルバック容量30ccに作製した膜電極接合体を入れ、このビニルバックに膜電極接合体(サンプルB)が十分浸漬するだけのメタノール水溶液約6ccを入れ、かつ残留空気がなるべく残らないよう注意してジッパーロックした。これを約20℃の室内に18時間放置した。その後、ビニルバックを空けて膜電極接合体に空気が接触しないように、ビニルバックよりメタノール水溶液を搾り出すように排出した。その後、水(イオン交換水)約30ccをビニルバックに再度入れては出す上記の作業を5回繰り返した。上記操作により十分にリンスされた膜電極接合体を取り出し、水(イオン交換水)中で約5秒間振るようにして軽く洗浄した。
【0053】
比較例1
作製した膜電極接合体(サンプルA)にいかなる前処理(活性化処理)もしなかった。
【0054】
比較例2
作製した膜電極接合体(サンプルA)を特性評価セルにセットし、上記インピーダンス測定と同じくアノード電極にはメタノール水溶液(濃度:水100質量部に対し、アルコール8質量部)を同じ温度で供給し、カソードは空気を遮断した。この状態で評価セルを65℃まで加温してこの状態でカソードに大気を100cm3/分流しながら定電圧試験を5サイクル繰り返した。ここで定電圧試験は、電圧走引0.7Vより0.1Vを2mV毎秒の速さで走引し0.1Vにて30秒ホールドする試験である。これを繰り返した。
【0055】
その後、当該膜電極接合体を評価用セル内に、セットし、上記と同様な方法で、インピーダンス測定を行った。
【0056】
比較例3
作製した膜電極接合体(サンプルB)にいかなる前処理(活性化処理)もしなっかた。
【0057】
3.サンプルのインピーダンスの測定方法
前処理した膜電極接合体のインピーダンスを、当該膜電極接合体をフューエルセルテクノロジー社(5620 Venice Blvd., NE, Suite F Albuquerque, New Mexico 87113)製の25cm2用評価セル内に、鶴賀電機社製(大阪市住吉区)のモデル356Eのインピーダンス測定装置を用いて測定した。その際、当該測定は、10kHzの交流条件下、メタノール水溶液(濃度:水100質量部に対し、アルコール8質量部)を、同じ温度で1.5cm3/分でアノード側に供給し且つカソード側はセル出口を閉じ、空気を遮断した状態でセルのアノードとカソードの両電極にインピーダンス測定装置の測定端子を挟むことで行った。
【0058】
4.インピーダンス、及び出力特性の測定結果
表1に、実施例1〜4、比較例1,2で得られた膜電極接合体を評価セル内に取り付け、その直後の室温25℃と40℃におけるインピーダンス測定値(測定周波数10kHzの単位面積換算値)を示した。この場合、アノード電極にはメタノール水溶液(濃度:水100質量部に対し、アルコール8質量部)を同じ温度で1.5cm3/分で供給し、カソードは空気を遮断して測定したものである。
【0059】
ここで、インピーダンスの管理値は、40℃においては、250mΩ/cm2以下を以って、25℃においては、400mΩ/cm2以下を以って、活性化処理の終了と判断した。
【0060】
【表1】

【0061】
表2に実施例1及び比較例2で得られた膜電極接合体を評価セル内に取り付け、7日間保管した場合の40℃におけるインピーダンス測定値を示した。約1週間保管後において、実施例1のものは、比較例2のものに比べ、インピーダンス測定値の変化は、小さいものであった。
【0062】
【表2】

【0063】
また、表3に、実施例1及び比較例2で得られた膜電極接合体を用いた燃料電池の40℃における出力特性を示した。本発明の活性化処理を施した実施例1のものは、比較例2のものに比べ、出力特性は、高いものであった。
【0064】
【表3】

【0065】
図3に、実施例4及び比較例3で得られた膜電極接合体を特性評価セルにセットし70℃の温度にて、アノードに水素、カソードに空気を70℃にコントロールしたバブラーを通して供給しながら、0.9V−0.4Vの電位走査と0.5V低電圧をそれぞれ15分、計30分を1サイクルとして10サイクルを繰り返したときのインピーダンスと0.75Vにおける出力電流を測定した結果を示した。
【0066】
また、図4に、図3の出力電流測定時に対応したインピーダンスの測定結果を示した。
【0067】
図3,4において、インピーダンス測定値の推移は、実施例4と比較例3の違いは非常に小さいが、1サイクル目の初期値においても、また10サイクルの値においても、活性化処理を施した実施例4における膜電極接合体のインピーダンス測定値が小さかった。出力特性の評価値は、初期において、また、通常の活性化後において、ともに、活性化処理したものの方が高かった。
【0068】
また、出力電流の推移において、実施例4の膜電極接合体は、初期出力電流で約1.5倍、また電流の飽和サイクルとして6サイクルで飽和しており、比較例3における未処理の膜電極接合体と比較して活性化処理を行った場合は早期に出力が飽和し、またその出力も未処理の物と比較して高かった。
【符号の説明】
【0069】
10 膜電極接合体
11 高分子電解質膜
12 カソード側電極触媒層
13 カソード側ガス拡散層
14,24 ガスケット
22 アノード側電極触媒層
23 アノード側ガス拡散層
100 固体高分子燃料電池
30、31 バイポーラ板
50、51 集電板
60、61 絶縁板
70、71 エンドプレート
【0070】
図3において、「活性化処理」と示されたデータは実施例4に関連し、「未処理」と示されたデータは比較例3に関連する。図4において、「活性化処理」と示されたデータは実施例4に関連し、「未処理」と示されたデータは比較例3に関連する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程を含む膜電極接合体の活性化処理方法
アルコール水溶液を準備する工程
前記アルコール水溶液に膜電極接合体を接触させる工程
前記アルコール水溶液に接触させた該接合体を洗浄する工程。
【請求項2】
前記アルコール水溶液に膜電極接合体を接触させる工程において、前記アルコール水溶液濃度が、水100質量部に対し、アルコール1ないし100質量部であり、該水溶液の温度が、10℃ないし沸騰温度の範囲にある請求項1記載の膜電極接合体の活性化処理方法。
【請求項3】
前記アルコール水溶液は、メタノール水溶液である請求項1又は2記載の膜電極接合体の活性化処理方法。
【請求項4】
前記膜電極接合体は、炭素水素系材料からなるイオン伝導層を有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の膜電極接合体の活性化処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の活性化処理方法により処理した膜電極接合体。
【請求項6】
請求項5に記載の膜電極接合体を用いた固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−520237(P2011−520237A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508538(P2011−508538)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【国際出願番号】PCT/US2009/040419
【国際公開番号】WO2009/137229
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】