説明

膜電極接合体及び有機ハイドライド製造装置

【課題】単一装置を用いて一段階で有機ハイドライドを製造する場合であっても、高いエネルギー効率の得られる膜電極接合体及び有機ハイドライド製造装置を提供する。
【解決手段】カソード触媒層22及びアノード触媒層23が固体高分子電解質膜21を挟んで配置された膜電極接合体において、カソード触媒層22が、被水素化物を水素化物とする触媒金属24とその担体25とを含み、担体25はその表面に被水素化物に対する濡れ性を弱める官能基27を備える。又、その膜電極接合体を用いた有機ハイドライド製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的に有機ハイドライドを製造するための膜電極接合体及び有機ハイドライド製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素などによる地球温暖化が深刻になる中で、化石燃料に代わって次世代を担うエネルギー源として水素が注目されている。水素燃料は、燃料消費時に排出される物質が水だけあり、二酸化炭素を排出しないため環境への負荷が小さい。一方、水素は常温常圧で気体であるため、輸送、貯蔵、供給システムが大きな課題となっている。
【0003】
近年、安全性、運搬性、および貯蔵能力に優れた水素貯蔵方法として、シクロヘキサンや、メチルシクロヘキサン、デカリンのような炭化水素を用いた有機ハイドライドシステムが注目されている。これらの炭化水素は、常温で液体であるため、運搬性に優れている。例えば、トルエンとメチルシクロヘキサンは同じ炭素数を有する環状炭化水素であるが、トルエンは炭化水素同士の結合が二重結合である不飽和炭化水素であるのに対して、メチルシクロヘキサンは二重結合を持たない飽和炭化水素である。トルエンの水素付加反応によりメチルシクロヘキサンが得られ、メチルシクロヘキサンの脱水素反応によりトルエンが得られる。すなわち、これらの炭化水素の水素付加反応と脱水素反応を利用することにより、水素の貯蔵とその供給が可能となる。
【0004】
メチルシクロヘキサンなどの有機ハイドライドを製造するためには、まず水素を製造し、その水素とトルエンを触媒上で反応させる必要がある。すなわち、現状のプロセスは、水素を水電解装置などにおいて発生させ、水素付加反応装置において水素とトルエンを反応させて有機ハイドライドを生成させるという二段階のプロセスである。
【0005】
よって、有機ハイドライドの製造まで複数の装置が必要となり、装置の複雑化という問題が生じる。また、水素を製造してから水素付加反応まではガス状の水素であるため、貯蔵・運搬に関して問題が生じる。水素製造装置と水素付加反応装置を隣接して建設すれば、上記問題は解決されるが、建設および運用コストの問題があり、総合的なエネルギー効率も低下する。また、装置の大型化が必要であるため、設置場所が限られるといった問題もある。
【0006】
二段階プロセスに対し、単一装置を用い一段階で有機ハイドライドを製造する技術が提案された(例えば特許文献1、非特許文献1)。これらは電気化学的に有機ハイドライドを製造するものである。例えば、特許文献1では、水素イオンを選択的に透過する水素イオン透過性電解質膜の両側に金属触媒をそれぞれ配置し、一方に水または水蒸気を供給し、もう一方に被水素化物を供給し、アノード側での水又は水蒸気の電気分解により生成された水素イオンを、カソード側で被水素化物と水素付加反応を起こし有機ハイドライドを製造している。被水素化物としてトルエンを用いた場合のアノード、カソードのそれぞれの反応式は、下記の通りである。

O → 2H + (1/2)O + 2e・・・(1)
+ 6H + 6e → C14・・・・(2)

【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−45449号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Catalysis Today,56,307(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらの有機ハイドライド製造方法では、高いエネルギー効率を得ることが困難であった。
【0010】
本発明の目的は、単一装置を用いて一段階で有機ハイドライドを製造する場合であっても、高いエネルギー効率の得られる膜電極接合体及び有機ハイドライド製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための一実施形態として、被水素化物である芳香族炭化水素を還元するカソード触媒層、および水を酸化するアノード触媒層がプロトン導電性の固体高分子電解質膜を挟むように配置された膜電極接合体において、前記カソード触媒層が、前記被水素化物を還元して水素化物に反応させる触媒金属と、前記触媒金属を担持した担体、およびプロトン導電性の固体高分子電解質から構成され、前記担体表面に前記被水素化物に対する濡れ性を弱める官能基が導入されていることを特徴とする膜電極接合体とする。
【0012】
また、前記膜電極接合体と、前記カソード触媒層に前記被水素化物を供給する部材、および前記アノード触媒層に水または水蒸気を供給する部材とを備えたことを特徴とする有機ハイドライド製造装置とする。
【0013】
また、カソード触媒層と、アノード触媒層と、前記カソード触媒層へ被水素化物である芳香族炭化水素を供給し有機ハイドライドを取り出し、前記アノード触媒層へHOを供給して酸素と水とを排出するセパレータとを有する有機ハイドライド製造装置において、前記カソート触媒層は固体高分子電解質膜の一方の面に、前記アノード触媒層は前記固体高分子電解質膜の他方の面に配置され、前記カソード触媒層は、前記被水素化物を還元して水素化物に反応させる触媒金属と、前記触媒金属を担持した担体とを含み、前記担体は、その表面に前記被水素化物に対する濡れ性を弱める官能基を有することを特徴とする有機ハイドライド製造装置とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、触媒金属を担持する担体の表面に被水素化物に対する濡れ性を弱める官能基を導入することにより、単一装置を用いて一段階で有機ハイドライドを製造する場合であっても、高いエネルギー効率の得られる膜電極接合体及び有機ハイドライド製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る有機ハイドライド製造装置の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る膜電極接合体を示す図であり、(a)は平面図、(b)は平面図のD−E断面図、(c)は断面図のF部拡大図である。
【図3】従来技術の膜電極接合体を示す図であり、(a)は平面図、(b)は平面図のD−E断面図、(c)は断面図のF部拡大図である。
【図4】本発明の第1の実施例に係る有機ハイドライド製造装置における、電流密度と印加電圧との関係の一例を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係る有機ハイドライド製造装置における、における、添加率と印加電圧との関係の一例を示す図である。
【図6】比較例1に係る有機ハイドライド製造装置における、電流密度と印加電圧との関係の一例を示す図である。
【図7】比較例1に係る有機ハイドライド製造装置における、添加率と印加電圧との関係の一例を示す図である。
【図8】本発明の第1〜第3の実施例、および比較例1に係る有機ハイドライド製造装置における、電流密度と添加率の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者等は、従来の単一装置を用いて一段階で有機ハイドライドを製造した場合に高いエネルギー効率が得られない理由について検討した。その結果、理由の一つとして、電極に対するトルエンなどの被水素化物の濡れ性に問題のあることを見出した。一段階で有機ハイドライドを製造する単一装置の電極は、プロトン伝導性電解質と触媒を混在させた層からなり、触媒層と呼ばれる。そのうち、触媒は、白金などの金属触媒を担体に担持させたものからなる。担体には、高い電子伝導性を持つ、白金などの金属触媒の凝集を防ぎ分散性を高めるために高い比表面積を持つ、といった条件が必要であり、通常はカーボン系の材料が用いられる。
【0017】
ところが、カーボン系の材料に対する、トルエンなどの被水素化物の濡れ性は非常に強く、濡れやすい。例えば、活性炭は比表面積が大きいカーボン系の材料であるが、トルエンは活性炭に対して吸着することが知られている。担体のカーボンに対するトルエンなどの被水素化物の濡れ性が強い場合、被水素化物が担体のカーボン表面を覆ってしまい、カーボン表面に吸着もしくは滞留することで、触媒への被水素化物の連続的な供給が阻害されることが推定された。その場合、被水素化物が供給されず反応に寄与しない触媒が発生し、エネルギー効率は低いものとなる。そこで、担体であるカーボンの表面改質をしてトルエンなどの被水素化物の濡れ性を弱めたところ、触媒層表面での被水素化物の滞留を防ぎ、被水素化物を触媒へ安定的に供給することが可能になることを見出した。
【0018】
本発明は、上記知見に基づいて生まれたものであり、電気化学的に有機ハイドライドを製造するための膜電極接合体や有機ハイドライド装置において、触媒担体として、表面改質をしてスルホン酸基や水酸基、カルボキシル基などの官能基を導入し、トルエン等の被水素化物に対する濡れ性を弱めたカーボンを用いることができる。また、前記カーボンに金属触媒を担持した触媒と、プロトン伝導性固体高分子電解質が適度に混ざり合った触媒層が、プロトン伝導性固体高分子電解質膜の表裏に形成された電極構造を有する。この電極において、アノード側に水もしくは水蒸気を供給し、カソード側に被水素化物を供給した状態で、アノード‐カソード間に電圧を印加することで、アノードにおいて水の電気分解反応、カソードにおいて被水素化物への水素付加反応を起こし有機ハイドライドを生成させることができる。
【0019】
本発明による実施形態について図面を用いて詳しく述べる。
【0020】
図1に本発明の実施の形態に係る有機ハイドライド製造装置の一例を示す。本実施形態の有機ハイドライド製造装置は、固体高分子電解質膜12の一方の面にアノード触媒層13を、他方の面にカソード触媒層14を接合し、一体化した膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)をガス拡散層15、ガス等の流路となる溝が形成されたセパレータ11で挟み込んで構成されている。また、一対のセパレータ11の間にはガスシールのためのガスケット16が挿入されている。
【0021】
セパレータ11は導電性を有し、その材質は、緻密黒鉛プレート、黒鉛やカーボンブラックなどの炭素材料を樹脂によって成形したカーボンプレート、ステンレス鋼やチタン等の耐蝕性の優れた金属材料が望ましい。また、セパレータ11の表面を貴金属メッキしたり、耐食性、耐熱性の優れた導電性塗料を塗布し表面処理することも望ましい。セパレータ11のアノード触媒層13及びカソード触媒層14に対向する面には反応ガスまたは液体の流路となる溝が形成されている。アノード側のセパレータ11の流路溝には水または水蒸気が供給される。流路溝を流れる水または水蒸気はガス拡散層15を介してアノード触媒層13に供給される。また、カソード側のセパレータ11には被水素化物が供給される。流路溝を流れる被水素化物はガス拡散層15を介してカソード触媒層14に供給される。被水素化物の供給方法としては、液体状の被水素化物をそのまま供給してもよいし、HeガスやNガスなどをキャリアとした蒸気状の被水素化物を供給してもよい。
【0022】
ガス拡散層15は、セパレータ11の流路に供給された反応物質(ガスまたは液体)を触媒層の面内に均一に供給するために設けられ、カーボンペーパーあるいはカーボンクロス等の通気性を有する基体を使用する。
【0023】
ガスケット16は絶縁性であり、特に水素あるいは被水素化物、有機ハイドライドに対して耐性があり、それらの透過が少なく機密性が保たれる材質であればよく、例えばブチルゴム、バイトンゴム、EPDMゴム(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)等が挙げられる。
【0024】
アノード側に水または水蒸気を供給し、カソード側に被水素化物としてトルエンを供給した状態で、アノード‐カソード間に電圧を印加すると、アノードにおいて(1)式の水の電気分解反応が起こる。(1)式の電気分解反応により生じたプロトンが固体高分子電解質膜12を介してカソード触媒層14へ移動し、カソード触媒層において(2)式の水素付加反応が起こり有機ハイドライドであるメチルシクロヘキサンが生成する。

O → 2H + (1/2)O + 2e・・・(1)
+ 6H + 6e → C14・・・・(2)

本実施形態の有機ハイドライド装置は上記反応により、電気化学的に被水素化物に対して水素付加反応させて有機ハイドライドを生成するものである。
【0025】
図2に本実施形態の有機ハイドライド製造装置の電極部分を示す。図2(a)(b)(c)はそれぞれ固体高分子電解質膜21の表裏にカソード触媒層22、アノード触媒層23が形成されたMEAをカソード側から見た平面図、平面図におけるD−E部分の断面図、断面図におけるF部の拡大図を示す。
【0026】
MEAは、D−E断面図に示すように、カソード及びアノードは緻密な触媒層として固体高分子電解質膜21の上下に形成されている。カソード触媒層22は拡大図に示したように、触媒担体であるカーボン25には触媒金属24が担持されている。カーボン25には表面処理が施してあり、官能基27が導入されている。これにより、触媒に対してトルエンなどの被水素化物が濡れにくくなり、触媒層表面が被水素化物に覆われて滞留することなく、触媒に被水素化物が安定的に供給される。また、水素付加反応により生成した有機ハイドライドの逸散性も高いものとなる。なお、符号28は被水素化物あるいは有機ハイドライドを示す。
【0027】
カーボン25同士は固体高分子電解質26により接着されている。触媒金属24はカーボン25を介して互いにつながったネットワーク構造を有しており、(2)式の反応に必要な電子の通り道を形成している。また、触媒層中の固体高分子電解質26も同様につながったネットワーク構造を有しており、(2)式の反応に必要なプロトンの通り道を形成している。
【0028】
電極反応は、カーボン25上の触媒金属24と固体高分子電解質および反応物質である被水素化物が接触する三相界面において行われる。本実施形態の電極では固体高分子電解質26によってプロトンの通り道を形成しているため、固体高分子電解質膜21と直接接していない触媒金属24にも三相界面が形成されているため、多くの金属触媒が電極反応に寄与できる構造となっている。但し、固体高分子電解質は固体高分子電解質膜21が備えており、必須ではないが、高エネルギー化のためにカソード触媒層が固体高分子電解質26を含むことが望ましい。
【0029】
図3に従来技術の有機ハイドライド製造装置の電極部分を示す。図3(a)(b)(c)はそれぞれ固体高分子電解質膜31の表裏にカソード触媒層32、アノード触媒層33が形成されたMEAをカソード側から見た平面図、平面図におけるD−E部分の断面図、断面図におけるF部の拡大図を示す。図3に示した電極では、被水素化物が担体のカーボン表面を覆ってしまい、カーボン表面に吸着もしくは滞留することで、触媒への被水素化物の連続的な供給が阻害されるという問題が生じる。そのため、被水素化物が供給されず反応に寄与しない触媒が発生し、エネルギー効率は低いものとなる。なお、符号34は触媒金属、符号35はカーボン担体、符号36は被水素化物あるいは有機ハイドライドを示す。
【0030】
本実施形態の触媒担体であるカーボン25は、表面改質により官能基27が導入されていることを特徴とする。これにより、被水素化物が濡れにくくなり、カソード触媒層22表面での被水素化物の滞留を防ぎ、カソード触媒層22へ被水素化物の供給が阻害されることがなくなる。
【0031】
カーボン表面に導入する官能基27は、トルエンなどの被水素化物との濡れ性を弱くし、撥油性を高めるものであれば、どのようなものでもよい。例えば、スルホン酸基、ホスホン酸基、水酸基、スルホメチル基、カルボキシル基、カルボニル基、カルボン酸基などが挙げられる。これらのうち、少なくとも一つが含まれればよいが、特にスルホン酸基が実用上好適である。
【0032】
担体25としては、電子伝導性のカーボンであればいずれのものでも良い。例えば、ファーネスブラックやチャンネルブラック、アセチレンブラック、アモルファスブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンブラック、活性炭、黒鉛等が挙げられる。これらのものを単独あるいは混合して使用することができる。
【0033】
カーボンの表面処理をして官能基を導入する方法としては、例えば、スルホン酸基を導入する場合には、硫酸ガスや発煙硫酸、硫酸等で処理してスルホン酸基を導入することができる。また、亜硫酸ナトリウムや重亜硫酸ナトリウム、ホルマリン水溶液、パラホルムアルデヒド等で処理してスルホメチル基を導入することができる。また、水酸基の導入には、カーボンに対して酸素プラズマ照射をすることが考えられる。
【0034】
一方、本実施形態で用いる触媒金属24には、水素付加作用を有する触媒材料を用い、例えば、Ni、Pd、Pt、Rh、Ir、Re、Ru、Mo、W、V、Os、Cr、Co、Feなどの金属及びこれらの合金触媒を用いることができ、特に、Pt(白金)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pa)、イリジウム(Ir)、モリブデン(Mo)、レニウム(Re)、タングステン(W)やこれらの合金が実用上好適である。水素付加触媒は、触媒金属の低減による低コスト化と反応表面積の増大化のため、微粒子化することが好ましい。
【0035】
また、担体のカーボン25に触媒金属24を担持する方法としては、共沈法、熱分解法、無電解めっき法など特に限定はない。
【0036】
本実施形態のMEAに関しては以下の方法で作製することができる。まず、表面改質したカーボン25に触媒金属24を担持させた触媒、固体高分子電解質、および固体高分子電解質を溶解する溶媒を加えて十分混合したカソード触媒ペーストと、白金ブラック、固体高分子電解質、および固体高分子電解質を溶解する溶媒を加えて十分混合したアノード触媒ペーストを作製する。それらのペーストを、それぞれポリフルオロエチレン(PTFE)フィルム等の剥離フィルム上に、スプレードライ法等により噴霧し、80℃で乾燥させて溶媒を蒸発させ、カソードおよびアノード触媒層を形成する。次にそれらのカソードおよびアノード触媒層を、固体高分子電解質膜21を真ん中にはさんでホットプレス法によって接合し、剥離フィルム(PTFE)を剥がすことにより、本実施形態のMEAを作製することができる。
【0037】
また、本実施形態のMEA作製の別の一例として、上記の表面改質したカーボン25に触媒金属24を担持させた触媒、固体高分子電解質、および固体高分子電解質を溶解する溶媒を加えて十分混合したカソード触媒ペーストと、白金ブラック、固体高分子電解質、および固体高分子電解質を溶解する溶媒を加えて十分混合したアノード触媒ペーストとを、スプレードライ法等により、直接固体高分子電解質膜21に噴霧することでも作製することができる。
【0038】
固体高分子電解質膜21を構成する有機高分子としては、パーフルオロカーボンスルホン酸、あるいは、ポリスチレンやポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、その他のエンジニアリングプラスチック材料に、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基等のプロトン供与体をドープあるいは化学的に結合、固定化したものを用いることができる。また、上記材料において、架橋構造にしたり、部分フッ素化することで材料安定性を高めることができる。
【0039】
触媒層に含有する固体高分子電解質には、プロトン導電性を示す高分子材料を用い、例えばパーフロロカーボン系スルホン酸樹脂やポリパーフロロスチレン系スルホン酸樹脂に代表されるスルホン酸化あるいはアルキレンスルホン酸化したフッ素系ポリマーやポリスチレン類が挙げられる。その他にポリスルホン類、ポリエーテルスルホン類、ポリエーテルエーテルスルホン類、ポリエーテルエーテルケトン類、炭化水素系ポリマーにスルホン酸基等のプロトン供与体を導入した材料が挙げられる。また、本実施形態の有機高分子と金属酸化物水和物の複合電解質を用いることもできる。
【0040】
被水素化物としては芳香族炭化水素を用いることができ、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、ビフェニル、フェナントロリン及びそれらのアルキル置換体のいずれか又は複数混合したものを用いることができる。これらの炭素同士の二重結合に水素が付加されることにより、水素を貯蔵することができる。
【0041】
以下、本発明について実施例を用いて詳細に説明する。尚、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
触媒として、カーボンブラックにPt微粒子を30wt%分散担持した触媒を用いた。まず、この触媒100gを105℃で1時間予備加熱した。その後、100℃に加熱した三酸化硫黄ガスを、乾燥空気に対して12vol.%の濃度で送り込み、反応させた。反応時間は2時間とした。その後、冷却し、触媒をイオン交換水中に投入し、攪拌・ろ過し、ろ液のpHが一定になるまでイオン交換水で水洗した。
【0043】
得られた触媒に対して、赤外線吸収スペクトルを測定したところ、620cm−1、1037cm−1、1225cm−1にピークが観測された。これは、スルホン酸基−SOHに基づくピークであると考えられ、担体のカーボンブラックの表面にスルホン酸基が導入されていることが確認された。導入されたスルホン酸基の当量は、1.8ミリ当量/g乾燥カーボン担体であった。
【0044】
以上のようにして得られた触媒を、カソード触媒として用いて図2に示す構成のMEAを作製した。電解質膜にはナフィオン(デュポン社製)を用いた。カソード触媒層22は、スプレーコーターを用いて、直接ナフィオンに触媒スラリーを塗布して形成した。以下の順序でカソード触媒層22をナフィオンに塗布した。
【0045】
まず、ナフィオンを基板のホットプレート上に置き、吸引することで固定した。ホットプレートの温度は50℃とした。次に、その上からマスクをして、スプレーコーター(ノードソン社製)でカソード触媒スラリーを塗布した。カソード触媒スラリーとして、本実施例で作製した触媒と水、5wt% ナフィオン溶液、221溶液(1−プロパノール:2−プロパノール:水=2:2:1の溶液)を2:1.2:5.4:10.6の重量比で混合したものを用いた。塗布条件は、液圧0.01MPa、スワール圧0.15MPa、霧化圧0.15MPa、ガン/基板距離60mm、基板温度50℃とした。カソード触媒量は0.4mgPt・cm−2とした。
【0046】
カソード触媒層22をナフィオン表面に形成したのち、その裏面にアノード触媒層23を形成させた。アノード触媒層23は転写法により形成した。まず、アノード触媒スラリーを作製した。アノード触媒スラリーとして、白金ブラックHiSPEC1000(ジョンソンマッセイ製)と5wt% ナフィオン溶液、221溶液を、1:1.11:2.22の重量比で混合したものを用いた。それをアプリケータにより、テフロン(登録商標)シート上に塗布した。テフロン(登録商標)シート上に塗布したアノード触媒層を、ホットプレス(テスター産業社製SA−401−M)による熱転写でナフィオン表面に形成した。ホットプレス圧力は37.2kgf・cm−2、ホットプレス温度は120℃、ホットプレス時間は2分間とした。アノード触媒量は4.8mgPt・cm−2とした。
【0047】
作製したMEAを図1の有機ハイドライド製造装置に組み込んだ。被水素化物にはトルエンを用いた。カソードにトルエンを10cc/minで供給し、アノードに純水を5cc/minで供給した状態で、アノード−カソード間に電圧を印加した。セル温度は80℃でおこなった。図4に印加電圧に対する電流値を示す。1.6V以上印加した場合、電流が流れ反応が進行した。2.2Vまで電圧を高くするほど、電流が大きくなり、反応が進行した。カソード排出ガスをガスクロマトグラフィで分析した所、トルエンおよびメチルシクロヘキサンが検出された。これにより、トルエンの水素付加反応によりメチルシクロヘキサンが生成されたことが確認された。図5は、ガスクロマトグラフィのピーク強度から算出した、トルエンからメチルシクロヘキサンへの転化率を示す。電圧が高くなるほど転化率が向上し、今回の条件での最高値は、2.2V印加した場合に55%であった。
【0048】
以上述べたように、本実施例によれば、触媒の担体表面に被水素化物に対する濡れ性を弱める官能基を導入することにより、単一装置を用いて一段階で有機ハイドライドを製造する場合であっても、高いエネルギー効率の得られる膜電極接合体及び有機ハイドライド製造装置を提供することができる。
(比較例1)
【0049】
触媒として、官能基を導入するための表面処理を施していないカーボンブラックに、Pt微粒子を30wt%分散担持した触媒を用いた。この触媒をカソード触媒として用いてMEAを作製した。作製方法・条件は、実施例1と同様でおこなった。
【0050】
作製したMEAを図1の有機ハイドライド製造装置に組み込み、実施例1と同様の条件でトルエンへの水素付加反応試験をおこなった。図6に印加電圧に対する電流値を示す。実施例1に比べて電流値は小さいものであった。これは、カーボンに対してトルエンの濡れ性は強く、カーボン表面にトルエンが滞留してしまい、触媒上へのトルエンの供給が妨げられたためであると考えられる。また、ガス流量計を用いて、発生したガス流量を測定したところ、実施例1に比べて比較例1では、ガス流量が増加した。これは、トルエンが供給されていない触媒において、トルエンの水素付加反応ではなく、次の(3)式の反応により水素発生が起こっているためであると考えられる。

2H + 2e → H・・・・・・(3)

図7は、トルエンからメチルシクロヘキサンへの転化率を示す。今回の条件での最高値は、2.2V印加した場合に30%であった。実施例1に比べて低い転化率であった。これは、比較例1では水素付加反応だけでなく、水素発生も同時に起こっているためであると考えられる。その分だけ有機ハイドライド生成のエネルギー効率は低いものになる。
【0051】
以上述べたように、官能基の導入以外は実施例と同様の構成であっても高いエネルギー効率の膜電極接合体や有機ハイドライド製造装置を得ることはできない。
【実施例2】
【0052】
触媒として、カーボンブラックにPt微粒子を30wt%分散担持した触媒を用いた。この触媒10gと無水塩化アルミニウム(AlCl)15gを混合し、塩化チオホスホリル(PSCl)を徐々に添加した。温度は35℃で一定とし、54mlをゆっくりと添加した。その後、45分間75℃に保持した。冷却後、50mlのクロロホルムを添加し、ろ過した。ジエチルエーテルで十分に洗浄した後、200mlのイオン交換水を加え、20時間還流した。得られた触媒の赤外線吸収スペクトルを測定したところ、1000〜1120cm−1、840〜910cm−1にピークが観測された。これは、ホスホン酸に基づくピークだと考えられ、担体のカーボンブラックの表面にホスホン酸基が導入されていることが確認された。導入されたホスホン酸基の当量は、1.8ミリ当量/g乾燥カーボン担体であった。
【0053】
作製した触媒を、カソード触媒に用いてMEAを作製した。作製方法・条件は、実施例1と同様でおこなった。
【0054】
作製したMEAを図1の有機ハイドライド製造装置に組み込み、実施例1と同様の条件でトルエンへの水素付加反応試験をおこなった。その結果を図8に示す。図8は、アノード−カソード間に2.2V印加した際の電流密度および転化率である。担体のカーボンの表面処理をおこなっていない比較例1に比べて、電流密度、転化率ともに増加する結果となり、カーボン表面にホスホン酸基を導入した効果が認められた。
【0055】
以上述べたように、本実施例によれば、触媒の担体表面に被水素化物に対する濡れ性を弱める官能基を導入することにより、単一装置を用いて一段階で有機ハイドライドを製造する場合であっても、高いエネルギー効率の得られる膜電極接合体及び有機ハイドライド製造装置を提供することができる。
【実施例3】
【0056】
触媒として、カーボンブラックにPt微粒子を30wt%分散担持した触媒を用いた。この触媒に対して、酸素プラズマ照射した。照射に用いた装置はヤマト硝子社製プラズマ装置型番PDC210であり、チャンバー内の酸素導入前の圧力は0.1Torr以下、酸素導入後の圧力は0.5Torrとした。装置の高周波電源の出力は100W、プラズマ照射時間は150秒間とした。得られた触媒の赤外線吸収スペクトルを測定したところ、3000から3600cm−1にブロードなピークが観測された。これは、水酸基−OHに基づくピークであると考えられ、Pt担持カーボンブラックの表面に水酸基が導入されていることが確認された。
【0057】
作製した触媒を、カソード触媒に用いてMEAを作製した。作製方法・条件は、実施例1と同様におこなった。
【0058】
作製したMEAを図1の有機ハイドライド製造装置に組み込み、実施例1と同様の条件でトルエンへの水素付加反応試験をおこなった。その結果を図8に示す。担体のカーボンの表面処理をおこなっていない比較例1に比べて、電流密度、転化率ともに増加する結果となり、カーボン表面に水酸基を導入した効果が認められた。
【0059】
以上述べたように、本実施例によれば、触媒の担体表面に被水素化物に対する濡れ性を弱める官能基を導入することにより、単一装置を用いて一段階で有機ハイドライドを製造する場合であっても、高いエネルギー効率の得られる膜電極接合体及び有機ハイドライド製造装置を提供することができる。
【0060】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
11-----セパレータ、12-----固体高分子電解質膜、13−----アノード触媒層、14-----カソード触媒層、15-----ガス拡散層、16-----ガスケット、21-----固体高分子電解質膜、22-----カソード触媒層、23-----アノード触媒層、24-----触媒金属、25-----カーボン担体、26-----固体高分子電解質、27-----官能基、28-----被水素化物あるいは有機ハイドライド、31-----固体高分子電解質膜、32-----カソード触媒層、33-----アノード触媒層、34-----触媒金属、35-----カーボン担体、36-----被水素化物あるいは有機ハイドライド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被水素化物である芳香族炭化水素を還元するカソード触媒層、および水を酸化するアノード触媒層がプロトン導電性の固体高分子電解質膜を挟むように配置された膜電極接合体において、
前記カソード触媒層が、前記被水素化物を還元して水素化物に反応させる触媒金属と、前記触媒金属を担持した担体、およびプロトン導電性の固体高分子電解質から構成され、
前記担体表面に前記被水素化物に対する濡れ性を弱める官能基が導入されていることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
請求項1記載の膜電極接合体と、前記カソード触媒層に前記被水素化物を供給する部材と、および前記アノード触媒層に水または水蒸気を供給する部材とを備えたことを特徴とする有機ハイドライド製造装置。
【請求項3】
請求項1記載の膜電極接合体において、
前記官能基が、スルホン酸基、ホスホン酸基、水酸基、スルホメチル基、カルボキシル基、カルボニル基、カルボン酸基の少なくとも一つを含むことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項4】
請求項1記載の膜電極接合体において、
前記触媒金属が、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、モリブデン、レニウム、タングステンおよびこれらの少なくとも一部を含む合金からなることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項5】
請求項1記載の膜電極接合体において、
前記被水素化物が、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、メチルナフタレン、または、アントラセンであることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項6】
請求項2記載の有機ハイドライド製造装置において、
前記被水素化物が、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、メチルナフタレン、または、アントラセンであることを特徴とする有機ハイドライド製造装置。
【請求項7】
カソード触媒層と、アノード触媒層と、前記カソード触媒層へ被水素化物である芳香族炭化水素を供給し有機ハイドライドを取り出し、前記アノード触媒層へHOを供給して酸素と水とを排出するセパレータとを有する有機ハイドライド製造装置において、
前記カソート触媒層は固体高分子電解質膜の一方の面に、前記アノード触媒層は前記固体高分子電解質膜の他方の面に配置され、
前記カソード触媒層は、前記被水素化物を還元して水素化物に反応させる触媒金属と、前記触媒金属を担持した担体とを含み、
前記担体は、その表面に前記被水素化物に対する濡れ性を弱める官能基を有することを特徴とする有機ハイドライド製造装置。
【請求項8】
請求項7記載の有機ハイドライド製造装置において、
前記アノード触媒層から前記カソード触媒層へ水素が供給されることを特徴とする有機ハイドライド製造装置。
【請求項9】
請求項7記載の有機ハイドライド製造装置において、
前記担体は、電子伝導性のカーボンであることを特徴とする有機ハイドライド製造装置。
【請求項10】
請求項7記載の有機ハイドライド製造装置において、
前記官能基は、スルホン酸基であることを特徴とする有機ハイドライド製造装置。
【請求項11】
請求項7記載の有機ハイドライド製造装置において、
前記セパレータは、導電性を有すると共に、被水素化物やHOが流れる流路溝を有することを特徴とする有機ハイドライド製造装置。
【請求項12】
請求項7記載の有機ハイドライド製造装置において、
前記カソード触媒層への被水素化物の供給及び前記アノード触媒層へのHOの供給は拡散層を介して行われることを特徴とする有機ハイドライド製造装置。
【請求項13】
請求項12記載の有機ハイドライド製造装置において、
前記拡散層は、カーボンペーパーあるいはカーボンクロスであることを特徴とする有機ハイドライド製造装置。
【請求項14】
請求項7記載の有機ハイドライド製造装置において、
前記カソード触媒層は、固体高分子電解質を含むことを特徴とする有機ハイドライド製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−84360(P2013−84360A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221674(P2011−221674)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】