説明

膜電極接合体

【課題】高加湿環境下において吸湿性材料が膨潤しても、保水層の間隙(孔)が塞がれず、ガスの透過を阻害することがない優れた燃料電池の膜電極接合体を提供する。
【解決手段】電解質膜上に触媒電極層、保水層、ガス拡散層の順で積層された燃料電池の膜電極接合体において、保水層を、吸湿性材料からなる繊維のシートに導電性炭素材料を被覆したものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維シートを用いた燃料電池の膜電極接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池においては、固体高分子膜のプロトン伝導性を維持するために水が必要であり、加湿された反応ガスが供給される。ところが、近年の燃料電池では、触媒の利用率を向上させるために、造孔材を用いて触媒電極層内の孔(空隙)を大きくし、燃料ガスを効率よく触媒に到達させていることから、触媒電極層における水の排出性が高まっている。そのため、水分が豊富にある高加湿環境下においては、発電性能が向上するが、低加湿環境下においては、固体高分子膜のプロトン伝導性を保つのに必要な水まで排出されてしまい、発電性能が低下するという問題があった。
【0003】
上記のような課題を解決する手段としては、図3に示されたような、触媒電極層32とガス拡散層34との間に、水の保持性を高める保水層33が設けられた固体高分子型燃料電池用の電極が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。保水層33は保水作用を持つイオン伝導性ポリマーと造孔材である炭素繊維等を混合して形成されたものであり、この保水層33を設けることで、反応ガス中の相対湿度が低い場合であっても、プロトン伝導性を保持するのに十分な水分を固体高分子膜31に保持させるものである。
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1に記載された保水層33は、吸水性のあるイオン伝導性ポリマー21と、造孔材である炭素繊維22と、導電性のある炭素粒子23とを混ぜたぺーストを塗工、乾燥して形成する。その構造は、図2(a)に示されるように、イオン伝導性ポリマー21、炭素繊維22、炭素粒子23が混合された状態であり、イオン伝導性ポリマー21は炭素繊維22の間隙に存在する。そして、これら材料の間に孔(間隙)24が形成される。このような構造では、高加湿環境下においては、図2(b)に示されるように、イオン伝導性ポリマー21が水分を吸収して膨潤するため、前記孔24が膨潤したイオン伝導性ポリマー21で塞がれてしまい、ガスの透過を阻害して燃料電池の性能が低下するという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−158388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであって、高加湿環境下において吸湿性材料が膨潤しても、保水層の間隙(孔)が塞がれず、ガスの透過を阻害することがない優れた燃料電池の膜電極接合体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の膜電極接合体は、電解質膜上に触媒電極層、保水層、ガス拡散層の順で積層された燃料電池の膜電極接合体であって、上記保水層は、吸湿性材料からなる繊維のシートに導電性炭素材料を被覆したものであることを特徴としている。
【0008】
また、本発明の膜電極接合体においては、吸湿性材料が高分子電解質樹脂であることが好ましい。さらに、本発明においては、保水層とガス拡散層との間に、撥水層を設ける構成が好ましい態様である。
【0009】
本発明の膜電極接合体によれば、造孔材として炭素繊維を用いるのではなく、吸湿性材料そのものを繊維状として保水層に多孔性を持たせることにより、吸湿性材料が膨潤しても繊維間の孔が塞がれず、ガスの透過を阻害することがない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高加湿環境下において吸湿性材料が膨潤しても、保水層の間隙(孔)が塞がれず、ガスの透過を阻害することがない優れた燃料電池の膜電極接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の燃料電池の膜電極接合体における繊維シートからなる保水層の一例を示した概念図である。
【図2】従来の燃料電池の膜電極接合体における保水層の一例を示した概念図である。
【図3】燃料電池の膜電極接合体の一部を示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の燃料電池の膜電極接合体について具体的に説明する。図1は本発明の燃料電池の膜電極接合体における繊維シートからなる保水層の一例を示した概念図であり、図2は従来の燃料電池の膜電極接合体における保水層の一例を示した概念図であり、また、図3は燃料電池の膜電極接合体の一部を示した概念図である。図3に示されているように、本発明の燃料電池の膜電極接合体は、固体高分子膜31上に、触媒電極層32、保水層33、撥水層34、ガス拡散層35がこの順で設けられた構成である。
【0013】
本発明においては、上記の保水層に最大の特徴を有している。すなわち、図1に示されているように、保水層は、吸湿性材料からなる繊維11のシートに導電性炭素材料12を被覆した構成である。このような繊維11は、エレクトロスピニング法により作製されたものであることが好ましい。例えば、このエレクトロスピニング法を適用する装置には、先端部の中心に孔径が0.5mm程度のノズル孔を有した紡糸ノズルと、このノズルから150mm程度離間して配置されたコレクターとが備えられている。このような構成において、紡糸ノズルに高電圧を印加するとともに、コレクターをアースすることにより、紡糸ノズルとコレクターと間に大きな電圧差を生じさせる。
【0014】
次に、この紡糸ノズルの先端部に、適切な溶媒に溶解、または、熱溶融した吸湿性材料が誘導され、帯電されると、アースされたコレクターとの間で静電引力が働く。この静電引力により、紡糸ノズル先端の吸湿性材料溶液の表面が円錐状のテイラーコーンの形状に変形され、電荷の反発力が表面張力を超えたとき、そこから吸湿性材料溶液が連続的に放出される。そして、放出された吸湿性材料溶液がコレクターに到達するまでの間に溶媒が蒸発または固化することにより、コレクター上において吸湿性材料繊維が紡糸され、コレクター上において吸湿性材料繊維が積層されたシート状の保水層が形成される。
【0015】
このようにして製造された繊維状の吸湿性材料も水分を吸収して膨潤することには変わりないが、繊維間の孔径を制御することによって、吸湿性材料が膨潤しても繊維間の孔が塞がれず、ガスの透過を阻害することがない。本発明の燃料電池の膜電極接合体においては、保水層を形成する吸湿性材料繊維は、直径が5〜2000nmであることが好ましく、より好ましくは200nm程度である。また、繊維間の平均孔径を1μm以上とすることが好ましい。従来のように保水層をペーストで形成すると、孔の径は0.1〜0.3μm程度となり、吸湿性材料が膨潤すると塞がれてしまうが、1μm以上であると、上記の本発明の効果を確実に発揮することができる。
【0016】
また、本発明における保水層は、触媒電極層とガス拡散層との間に設けられていることから、触媒電極層とガス拡散層とを電気的に導通させるためには保水層も電気伝導性を備える必要がある。そのため、本発明における吸湿性材料の繊維は炭素粒子等の導電材により被覆されていることが必須である。
【0017】
さらに、本発明における吸湿性材料としては、固体高分子電解質膜で使用されるプロトン伝導性高分子を用いることができる。このような高分子としては、パーフルオロ系高分子、ベンズイミダゾール系高分子、ポリイミド系高分子、ポリエーテルイミド系高分子、ポリフェニレンスルフィド系高分子、ポリスルホン系高分子、ポリエーテルスルホン系高分子、ポリエーテルケトン系高分子、ポリエーテルエーテルケトン系高分子、ポリフェニルキノキサリン系高分子等が挙げられる。
【0018】
また、本発明の燃料電池の膜電極接合体における固体高分子膜は、上記構成の保水層により、十分に保水されており、プロトン伝導性が良好に維持されている。このような固体高分子膜としては、従来公知のイオン伝導性を有する電解質膜を用いることができ、例えば、パーフルオロ系高分子、ベンズイミダゾール系高分子、ポリイミド系高分子、ポリエーテルイミド系高分子、ポリフェニレンスルフィド系高分子、ポリスルホン系高分子、ポリエーテルスルホン系高分子、ポリエーテルケトン系高分子、ポリエーテルエーテルケトン系高分子、ポリフェニルキノキサリン系高分子等からなる膜が挙げられる。
【0019】
さらに、本発明における触媒電極層は、従来公知のカーボンブラックに白金を担持させた白金担持触媒をカソードとして、また、カーボンブラックに白金及びルテニウムを担持させた触媒をアノードとして用いることもでき、さらには、上記の保水層と同様に、繊維状に紡糸した原料樹脂を繊維シートを作製し、この繊維表面に触媒を付着させた構成の触媒電極層を用いてもよい。この触媒電極層の原料樹脂としては、上記の固体高分子膜に用いられる樹脂を使用することができる。
【0020】
また、本発明におけるガス拡散層としては、供給される反応ガスを触媒電極層に円滑に供給して触媒−電解質膜−気体の三相界面の形成を助けるものであれば、いずれのものでもよく、例えば気孔率80%程度の炭素紙(carbon paper)や炭素布(carbon cloth)を用いることができる。
【符号の説明】
【0021】
11…吸湿性材料繊維、12…炭素粒子、21…イオン伝導性ポリマー、
22…炭素繊維、23…炭素粒子、24…孔、31…固体高分子膜、
32…触媒電極層、33…保水層、34…撥水層、35…ガス拡散層、36…水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜上に触媒電極層、保水層、ガス拡散層の順で積層された燃料電池の膜電極接合体であって、
上記保水層は、吸湿性材料からなる繊維のシートに導電性炭素材料を被覆したものであることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
前記吸湿性材料は、高分子電解質樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記保水層と前記ガス拡散層との間に、撥水層を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の膜電極接合体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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