説明

膠原病改善薬

【課題】新たな植物由来の膠原病改善薬の提供を図る。
【解決手段】サフラン又はその抽出成分を配合した膠原病改善薬を提供する。この膠原病改善薬は漢方製剤に配合して用いることもでき、血小板からの血小板第4因子(PF4)とβ−トロンボグロブリン(β−TG)との少なくとも何れか一方の放出を抑制する。漢方製剤としては、例えば、附子理中湯、清心蓮子飲、疎経活血湯、牛車腎気丸、桂枝加朮附湯、桂芍知母湯、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、半夏厚朴湯、六君子湯、十全大補湯、大建中湯、温清飲、当帰飲子、真武湯、八味地黄丸、五苓散、九味檳榔湯、温経湯、半夏瀉心湯などを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、植物由来成分を含有する膠原病改善薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サフランはアヤメ科の多年草(学名:Crocus sativus L.)であり、カロテン類、クロシンなどを含有している。独特な香りを有し、着色や香りづけに用いられる高価な香辛料として知られている。薬用としては、鎮痛剤や鎮静剤等として、また月経不順などの治療に用いられてきた。
【0003】
近年ではその血流改善効果を利用したサフラン又はその抽出成分を含有する医薬品や食品等が提案されてきた(特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−287576号公報
【特許文献2】特開2007−197392号公報
【特許文献3】特開2006−335703号公報
【特許文献4】特開2006−111564号公報
【特許文献5】特許第2688603号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kowal-Bielecka O, et al., “β Thromboglobulin and platelet factor 4 in bronchoalveolar lavage fluid of patients with systemic sclerosis”, Annals of the Rheumatic Diseases, (UK), 2005, vol.64(3), p.484-486
【非特許文献2】木谷泰治、外3名,「サーモグラフィーによる四肢慢性動脈閉塞症に対するシロスタゾールの効果の検討」,Biomedical THERMOLOGY,日本サーモロジー学会,1989年,第9巻,第1号,p.49−51
【非特許文献3】瀬田健博、外4名,「慢性期ラクナ梗塞症例におけるcilostazolの脳血流,血小板分子マーカーに対する効果」,脳循環代謝,日本脳循環代謝学会,2004年,第16巻,第3号,p.159−166
【非特許文献4】庄司 優、保嶋 実,「血小板第4因子(PF4),β−トロンボグロブリン」,血栓と循環,株式会社メディカルレビュー社,2004年,第12巻,第4号,p.336−338
【0006】
特許文献1では、サフラン又はサフランの組織培養物の溶媒抽出エキスの末梢血流改善作用について報告されている。また、特許文献2では、血流改善効果を有するサフラン又はその抽出物を含有する更年期障害改善剤による更年期障害改善効果が報告されている。しかしながら、サフラン又はその抽出成分の血小板活性抑制効果並びに膠原病改善効果に関する報告はされていない。
【0007】
血小板は血液の一成分であり、止血し血管の損傷を修復する重要な役割を果たしている一方、その際の血小板凝固作用により血栓が生成し、血栓が生じた部位により多様な血栓症(DIC(播種性血管内凝固障害)、深部静脈血栓症、脳梗塞、心筋梗塞等)を誘発する原因となる。外傷等により出血すると血小板は血管内皮に粘着する。粘着した血小板から活性化信号が送られ、血小板は活性化され、血小板内顆粒に含まれる物質が細胞外へ放出される。これにより、血小板同士が凝集し血栓が形成される。通常、止血が完了し血管の損傷が修復されると血液の線溶作用により血栓は溶解されるが、線溶作用が正常に機能しない場合は血栓症の原因となる。放出される物質のうち、血小板第4因子(以下、PF4)並びにβ−トロンボグロブリン(以下、β−TG)は血小板特異的な蛋白であり、血漿中の両者の濃度は血小板活性化による放出反応のよい指標と考えられ、血栓症の推定、抗血小板剤による治療の評価等に有用である。
【0008】
上記により、血液中のPF4並びにβ−TG濃度の低減と血小板活性化の抑制とには密接な関係があると言える。
【0009】
上記血栓症のほかに、非特許文献1では、罹患期間が比較的短い間質性肺炎を伴う全身性強皮症の患者の気管支肺胞洗浄液中から血小板活性化の指標となるPF4並びにβ−TGが検出され、血小板活性化が間質性肺炎を伴う全身性強皮症の初期段階の患者の肺内で起こっていることが報告されている。
【0010】
また、一般には間質性肺炎は全身性強皮症のほかに関節リウマチ、皮膚筋炎、多発性筋炎等の膠原病の一症状として出現することが知られている。
【0011】
西洋医学における血小板凝集抑制剤としては多くの研究開発がなされており、シロスタゾール等が知られている。非特許文献2では、四肢慢性動脈閉塞症の被験者にシロスタゾールを経口投与し、投与前後におけるPF4とβ−TGの血中濃度の低下から血小板機能の抑制が報告されている。また、非特許文献3では、慢性期ラクナ梗塞症の被験者にシロスタゾールを投与し、投与前のPF4とβ−TGの血中濃度が高値であった症例については投与後におけるPF4とβ−TGの血中濃度の低下が観察され、その結果より血小板機能の抑制効果が報告されている。しかしながら、非特許文献2、3ともに膠原病改善効果に関する報告はされていない。
【0012】
また、特許文献3〜5に示すように、植物由来の血栓予防組成物や血小板凝集抑制剤、血栓溶解剤としては、アカシア、ハーブ、納豆を利用したものがあるが、血小板からのPF4とβ−TGの放出を抑制する知見並びに膠原病改善効果については報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の事情に鑑み、本願発明は新たな植物由来の膠原病改善薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願の請求項1に係る発明は、サフラン又はその抽出成分を配合してなる膠原病改善薬を提供する。
また、本願の請求項2に係る発明は、漢方製剤にサフラン柱頭又はその抽出成分を配合してなる膠原病改善薬を提供する。
また、本願の請求項3に係る発明は、血小板からの血小板第4因子(PF4)とβ−トロンボグロブリン(β−TG)との少なくとも何れか一方の放出を抑制することを特徴とする請求項1又は2記載の膠原病改善薬を提供する。
また、本願の請求項4に係る発明は、上記漢方製剤が、表1に示す漢方製剤からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2記載の膠原病改善薬を提供する。
【0015】
【表1】

【発明の効果】
【0016】
本願発明は、サフランまたはその抽出成分を配合してなる膠原病改善薬が優れた血小板活性抑制効果並びに膠原病改善効果を有するとの新たな知見に基づき完成されたものである。より詳しくは、膠原病患者で生体内での血小板活性化の指標となる血液中のPF4並びにβ−TGの濃度が高い患者に本願発明に係る膠原病改善薬を摂取させることにより、患者の血液中のPF4並びにβ−TGの濃度が低下し、かつ膠原病に伴う各種症状が改善されたとの新たな知見に基づき完成されたものである。よって、膠原病に伴う各種症状の改善又は緩和に有用な膠原病改善薬を提供できたものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1における本願発明に係る膠原病改善薬摂取前後の被験者それぞれのPF4並びにβ−TGの血中濃度の推移を示すグラフである。
【図2】実施例2における本願発明に係る膠原病改善薬摂取前後の被験者それぞれのPF4並びにβ−TGの血中濃度の推移を示すグラフである。
【図3】実施例3における本願発明に係る膠原病改善薬摂取前後の被験者それぞれのPF4並びにβ−TGの血中濃度の推移を示すグラフである。
【図4】実施例4における本願発明に係る膠原病改善薬増量摂取前後の被験者それぞれのPF4並びにβ−TGの血中濃度の推移を示すグラフである。
【図5】実施例1〜4を通して、本願発明に係る膠原病改善薬摂取前後(実施例4においては同薬増量摂取前後)の被験者それぞれのPF4並びにβ−TGの血中濃度の推移を示すグラフである。
【図6】実施例1〜4を通して、本願発明に係る膠原病改善薬摂取後(実施例4においては同薬増量摂取後)における膠原病の症状改善率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本願発明に係る膠原病改善薬について説明する。
【0019】
サフランは古くより香辛料や薬用に使用されてきた植物である。本願発明に用いられるサフランの部位としては、球茎、葉、花等を挙げることができ、特に柱頭を用いることが好ましい。サフランは加工せずにそのまま用いてもよいし、あらかじめ乾燥処理、粉末処理などを行って加工品として用いてもよい。また、加工の際、必要に応じて賦形剤を用いてもよい。
【0020】
本願発明においては、サフランの抽出成分を用いてもよい。本願発明におけるサフランの抽出成分とは、サフランを極性または非極性溶媒にて抽出して得られる抽出液、その希釈液、濃縮液またはそれらの乾燥物を意味する。
【0021】
サフランの抽出に用いる溶媒については、特に制限されない。例えば、水や、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル等のエーテル類が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、あるいは2以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0022】
サフランの抽出方法については、特に制限されない。例えば、熱を加え還流法により抽出する方法や静置による方法により、サフランの抽出成分を抽出する。
【0023】
本願発明においては、上記サフラン又はその抽出成分に加えて漢方製剤を少なくとも1種配合することができる。
【0024】
漢方製剤とは、多くは生薬を配合ののちエキス化して製剤としたもので、顆粒剤、細粒剤、錠剤、カプセル剤等のエキス剤がある。エキス剤ではないものには、生薬を調製して得られる煎剤、散剤、丸剤、軟膏剤等があり、これらも本願発明に言う漢方製剤に含まれるものとする。
【0025】
本願発明に用いる漢方製剤は、膠原病の治療に用いることができるものであり、本願発明においては、上記サフラン又はその抽出成分に加えて配合することができる。例えば、表1に示す漢方製剤を用いることができる。その他に公知の漢方製剤を用いてもよく、また、サフラン又はその抽出成分は単独で用いてもよい。
【0026】
本願発明に係る膠原病改善薬は、上記のように、サフラン又はその抽出成分からなるが、これらは乾燥物で用いることができる。サフランを乾燥物で用いた場合には、サフランの1日の摂取量が、0.1〜5.0gとなるよう設定することが好ましく、0.6〜0.9gとなるよう設定することがより好ましい。サフランの1日の摂取量が0.1gよりも下回るとサフランの薬効が発揮されないおそれがあり、5.0gを上回るとサフランによる血小板減少などの副作用が生ずるおそれがある。乾燥物以外の場合にも、乾燥質量換算で同等の摂取量とすればよい。
【0027】
本願発明に係る膠原病改善薬に漢方製剤が配合される場合、サフランまたはその抽出成分と漢方製剤との割合には特に制限はなく、漢方製剤はそれぞれの目的に従って適正な量を配合すればよい。
【0028】
本願発明に係る膠原病改善薬は、散剤、顆粒剤、錠剤、液剤、カプセル剤など種々の形態にすることができる。また、本願発明に係る膠原病改善薬は、医薬品、食品などとして利用される。また、加工の際には、必要に応じて賦形剤を用いてもよい。
【0029】
本願発明に係る膠原病改善薬は、優れた血小板活性抑制効果を有する。本願発明における血小板活性抑制効果とは、膠原病改善薬をヒトに経口摂取させた場合に生体内での血小板活性化の指標となる血液中のPF4並びにβ−TGの濃度が低減することを指す。
【0030】
本願発明に係る膠原病改善薬は、膠原病改善効果を有する。本願発明における膠原病改善効果とは、膠原病改善薬をヒトに経口摂取させた場合に膠原病に伴う冷感や関節痛、筋肉痛、不眠、しびれ、褐色斑、紅斑、月経痛等の各種症状を改善することを指す。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて本願発明を詳細に説明するが、本願発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0032】
20代〜80代の膠原病の被験者59名(男6名、女53名)に1日1〜3回食前または食後に日本薬局方サフランを漢方エキス剤1日量とともに一定期間経口摂取させた。サフランの摂取方法としては、日本薬局方サフランに熱湯100〜150mlを加え、5〜10分後に上澄みあるいは残渣ごと摂取する。血小板活性抑制効果については、摂取前、摂取終了後に採血し、PF4並びにβ−TG両者の血中濃度の変化から評価した。また、膠原病改善効果については、膠原病患者に現れる各種症状の変化を、摂取終了後の被験者への聞き取り調査及び/または医師である発見者による客観的な判断から、症状改善度を改善○、やや改善△、変化なし×とし、評価した。被験者のほとんどは、本願発明に係る膠原病改善薬を摂取する以前から、上記漢方エキス剤のほかに、プレドニゾロン、免疫抑制剤、抗アレルギー薬及び/または血小板改善薬を摂取している。以下、プレドニゾロン、免疫抑制剤、抗アレルギー薬、血小板改善薬を併用薬と称する。本実施例においても、本願発明に係る膠原病改善薬と併用して併用薬を摂取しているが、それらの摂取量は医師の判断により適正な量とした。
【0033】
また、上記被験者のうち、サフランの風味に対する不適応、摂取中の原病悪化や下痢、発疹発生又は自己都合により、本願発明に係る膠原病改善薬の摂取を中止した16名を除いた43名を評価対象者とした。表2に評価対象者の背景を示す。また、評価対象者43名のうち41名が、本願発明に係る膠原病改善薬を摂取する以前から、上記漢方エキス剤のほかに上記併用薬のいずれかもしくは複数を摂取していた。以下、評価対象者を被験者と称する。
【0034】
【表2】

【0035】
(実施例1)
40代〜70代の膠原病の被験者10名(男1名、女9名)に1日1回食前または食後に日本薬局方サフラン0.3gを漢方エキス剤1日量とともに2〜3ヶ月間経口摂取させた。実施例1における本願発明に係る膠原病改善薬摂取前後の被験者それぞれのPF4並びにβ−TGの血中濃度、PF4並びにβ−TGの血中濃度差、PF4並びにβ−TGの血中濃度の濃度低下率及び膠原病症状の変化を表3に、摂取前後の被験者それぞれのPF4並びにβ−TGの血中濃度の推移を図1に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
(実施例2)
20代〜70代の膠原病の被験者10名(男1名、女9名)に1日2回食前または食後に、日本薬局方サフラン0.6g(0.3g×2回)を漢方エキス剤1日量とともに1ヶ月間経口摂取させた。実施例2における本願発明に係る膠原病改善薬摂取前後の被験者それぞれのPF4並びにβ−TGの血中濃度、PF4並びにβ−TGの血中濃度差、PF4並びにβ−TGの血中濃度の濃度低下率及び膠原病症状の変化を表4に、摂取前後の被験者それぞれのPF4並びにβ−TGの血中濃度の推移を図2に示す。
【0038】
【表4】

【0039】
(実施例3)
20代〜80代の膠原病の被験者16名(男3名、女13名)に1日3回食前または食後に、日本薬局方サフラン0.9g(0.3g×3回)を漢方エキス剤1日量とともに1ヶ月間経口摂取させた。実施例3における本願発明に係る膠原病改善薬摂取前後の被験者それぞれのPF4並びにβ−TGの血中濃度、PF4並びにβ−TGの血中濃度差、PF4並びにβ−TGの血中濃度の濃度低下率及び膠原病症状の変化を表5に、摂取前後の被験者それぞれのPF4並びにβ−TGの血中濃度の推移を図3に示す。
【0040】
【表5】

【0041】
(実施例4)
次に、実施例4実施前より日本薬局方サフラン0.3gを摂取していた30代〜60代の膠原病の被験者7名(男1名、女6名)に対し、サフランの摂取量を増量摂取させた。より詳しくは、上記被験者7名に1日2回食前または食後に、日本薬局方サフラン0.6g(0.3g×2回)を漢方エキス剤1日量とともに1〜3ヶ月間経口摂取させた。実施例4における本願発明に係る膠原病改善薬増量摂取前後の被験者それぞれのPF4並びにβ−TGの血中濃度、PF4並びにβ−TGの血中濃度差、PF4並びにβ−TGの血中濃度の濃度低下率及び膠原病症状の変化を表6に、増量摂取前後の被験者それぞれのPF4並びにβ−TGの血中濃度の推移を図4に示す。
【0042】
【表6】

【0043】
次に、実施例1〜4における本願発明に係る膠原病改善薬摂取前後(実施例4においては同薬増量摂取前後)のPF4並びにβ−TGの血中濃度の平均値及び標準偏差、膠原病の症状改善率を表7に示す。
【0044】
【表7】

【0045】
次に、実施例1〜4の被験者全例における、本願発明に係る膠原病改善薬摂取前後(実施例4においては同薬増量摂取前後)のPF4並びにβ−TGの血中濃度の推移を図5に示す。図5に見られるように、摂取前後のPF4並びにβ−TGの血中濃度につき、後述のpaired-t testにより解析したところ、有意差が認められた(p<0.001)。また、実施例1〜4を通して、本願発明に係る膠原病改善薬摂取後(実施例4においては同薬増量摂取後)に改善した膠原病に伴う各種症状とその被験者数を表8に、膠原病の症状改善率を図6に示す。膠原病の症状改善率は、後述のように、摂取後の膠原病の症状改善度が「改善」および「やや改善」である被験者数合計の全被験者数に対する割合とし、79.1%となった。
【0046】
【表8】

【0047】
非特許文献4によると、血液中のPF4並びにβ−TGの濃度の基準値は、PF4濃度が20ng/ml以下、β−TG濃度が60ng/ml以下である。実施例1〜4を通して、血液中のPF4濃度が100ng/ml以上、β−TG濃度が200ng/ml以上の被験者を異常高値の被験者とした。
【0048】
また、実施例1〜4において、本願発明に係る膠原病改善薬摂取前後(実施例4においては同薬増量摂取前後)のPF4並びにβ−TGの血中濃度については、paired-t testにて解析し、p<0.05を以って有意とした。
【0049】
まず、実施例1〜3における本願発明に係る膠原病改善薬摂取前後の血小板活性抑制効果について評価した。表3〜表5に示すように、実施例1〜実施例3それぞれの被験者のうち、摂取前の血液中のPF4濃度もしくはβ−TG濃度が上記基準値を超えている被験者は、実施例1では全被験者の7割(7名)、実施例2では全被験者の8割(8名)、実施例3では全被験者の8割(13名)に当たり、膠原病の病名を問わず血小板が活性化された被験者が多いことがわかる。本願発明に係る膠原病改善薬摂取前後のPF4並びにβ−TG両者の血中濃度をそれぞれ比較すると、一部の被験者を除き摂取終了後のPF4並びにβ−TG両者の血中濃度は摂取前に比べて低下した。また、摂取前後のPF4並びにβ−TG両者の血中濃度差は、被験者の摂取前のPF4並びにβ−TGの血中濃度が高くなるにつれて大きくなる傾向を示した。なお、摂取前に比べてPF4並びにβ−TGの血中濃度が上昇した被験者は、実施例1では2割(2名)、実施例2では1割(1名)、実施例3では1割(2名)とわずかであり、これらの被験者(5名)は実施例1〜3を通して摂取前後の両者の血中濃度が上記基準値以下もしくは摂取前の両者の血中濃度が上記基準値以下にある被験者であった。さらに、表7に示すように、PF4並びにβ−TGの血中濃度の摂取前後の平均値及び標準偏差を求め比較すると、実施例1〜実施例3のそれぞれにおいて、摂取前後のPF4並びにβ−TGの血中濃度の減少傾向が見られた。また、図1〜3に見られるように、同じく実施例1〜3において、摂取前後のPF4並びにβ−TGの血中濃度につき、paired-t testにより解析したところ、いずれも有意差が認められた(実施例1ではp<0.01、実施例2ではp<0.01、実施例3ではp<0.001)。上記の結果より、生体内での血小板活性化の指標となるPF4並びにβ−TGの血中濃度が低減していることから、本願発明に係る膠原病改善薬の血小板活性抑制効果を確認することができた。また、摂取前のPF4並びにβ−TGの血中濃度が高い被験者ほど、血小板活性抑制効果が顕著に表れ、血小板活性抑制効果が摂取前のPF4並びにβ−TGの血中濃度が高い被験者に対し、より有効に作用することが確認できた。なお、PF4並びにβ−TGの血中濃度差は、式1にて算出し、摂取前のPF4並びにβ−TGの血中濃度が異常高値の被験者においては、摂取前の血液中のPF4濃度を100ng/ml、摂取前の血液中のβ−TG濃度を200ng/mlと仮定した。また、PF4並びにβ−TG両者の血中濃度の平均値及び標準偏差の算出における摂取前のPF4並びにβ−TGの血中濃度が異常高値の被験者の取り扱いについても、PF4並びにβ−TGの血中濃度差の算出と同様とした。摂取前のPF4並びにβ−TGの血中濃度が異常高値である一部の被験者においては、摂取終了後の両者の血中濃度差が小さいものがある。これは、本願発明に係る膠原病改善薬におけるサフランの摂取量や摂取期間の差異にもよると推測されるが、摂取前の実際のPF4並びにβ−TGの血中濃度が不明であり、仮定値(摂取前のPF4血中濃度を100ng/ml、摂取前のβ−TG血中濃度を200ng/ml)にて算出したことにもよると推測される。
【0050】
血中濃度差[ng/ml]=摂取前の血中濃度−摂取後の血中濃度 …(式1)
【0051】
また、PF4並びにβ−TGの血中濃度の濃度低下率を、式2にて算出した。なお、摂取前のPF4並びにβ−TGの血中濃度が異常高値の被験者においては、摂取前のPF4血中濃度を100ng/ml、摂取前のβ−TG血中濃度を200ng/mlと仮定した。被験者の摂取前のPF4並びにβ−TGの血中濃度が高くなるにつれて両者の濃度低下率が高くなる傾向を示し、前記傾向は血中濃度差と同様であった。
【0052】
濃度低下率[%]=(摂取前の血中濃度−摂取後の血中濃度)/摂取前の血中濃度×100 …(式2)
【0053】
次に、実施例1〜3における本願発明に係る膠原病改善薬摂取前後の膠原病改善効果について評価した。表3〜5に示すように摂取後の膠原病の症状改善度は、実施例1では改善○8名、やや改善△1名、変化なし×1名、実施例2では改善○3名、やや改善△3名、変化なし×4名、実施例3では改善○6名、やや改善△6名、変化なし4名と、実施例によりばらつきが見られた。また、表7に示すように、摂取後の膠原病の症状改善度が「改善」および「やや改善」である被験者を症状が改善した被験者と考え、摂取後に膠原病症状が改善した被験者数の全被験者数に対する割合を症状改善率とすると、実施例1では90%、実施例2では60%、実施例3では75%となり、実施例によりばらつきが見られた。しかしながら、実施例1〜3の全症例において、膠原病の症状が改善した被験者数の全実施例数に対する割合を算出すると、75%の高い割合となり、本願発明に係る膠原病改善薬の膠原病改善効果を確認することができたと言える。また、実施例1〜4においては、膠原病に伴う症状として冷感や関節痛、筋肉痛、不眠、しびれ、褐色斑、紅斑、月経痛を取り上げたが、症状の種類に係らず各種症状の改善を確認した。また、実施例3の摂取前のPF4並びにβ−TGの血中濃度が異常高値の被験者においては顕著な症状の改善が見られた。
【0054】
また、本願発明に係る膠原病改善薬摂取前後のPF4並びにβ−TGの血中濃度の変化と膠原病の症状の変化との関係については、特に実施例3の摂取前のPF4並びにβ−TGの血中濃度が異常高値の被験者において、摂取前後のPF4並びにβ−TGの血中濃度差及び血中濃度の濃度低下率が高いだけではなく、症状の顕著な改善が見られた。
【0055】
次に、実施例4における本願発明に係る膠原病改善薬増量摂取前後の血小板活性抑制効果について評価した。実施例4の全被験者は、本実施例実施前より日本薬局方サフラン0.3gを摂取していたが、本実施例においては、サフランの摂取量を0.3gから0.6gに増量摂取させた。表6に示すように、実施例4の全被験者のうち、サフラン増量摂取前の血液中のPF4濃度もしくはβ−TG濃度が上記基準値を超えている被験者は全被験者の8割以上(6名)に当たり、実施例1〜3と同様に膠原病の病名を問わず血小板が活性化された被験者が多いことがわかる。増量摂取前後の血液中のPF4並びにβ−TG濃度をそれぞれ比較すると、全被験者において増量摂取終了後の血液中のPF4並びにβ−TG濃度がともに増量摂取前に比べて低下した。さらに、表7に示すように、本願発明に係る膠原病改善薬増量摂取前後のPF4並びにβ−TGの血中濃度の平均値及び標準偏差を求め比較すると、増量摂取前後のPF4並びにβ−TGの血中濃度の減少傾向が見られた。また、図4に見られるように、同じく実施例4において、増量摂取前後のPF4並びにβ−TGの血中濃度につき、paired-t testにより解析したところ、有意差が認められた(p<0.05)。上記の結果より、生体内で血小板活性化の指標となるPF4並びにβ−TGの血中濃度が低減していることから、本願発明に係る膠原病改善薬の血小板活性抑制効果を確認することができた。なお、PF4並びにβ−TGの血中濃度差及び両者の血中濃度の濃度低下率は実施例1〜3と同様に算出し、増量摂取前のPF4並びにβ−TGの血中濃度が異常高値の被験者の取り扱いについても同様とした。また、PF4並びにβ−TG両者の血中濃度の平均値及び標準偏差の算出における増量摂取前のPF4並びにβ−TGの血中濃度が異常高値の被験者の取り扱いについても、PF4並びにβ−TGの血中濃度差の算出と同様とした。
【0056】
次に、実施例4における本願発明に係る膠原病改善薬増量摂取前後の膠原病改善効果について評価した。表6に示すように増量摂取後の膠原病の症状改善度は、改善○7人と全被験者に顕著な改善が見られ、また、実施例4の症状改善率を算出すると100%となり、本願発明に係る膠原病改善薬の膠原病改善効果を確認することができた。なお、膠原病の症状改善率は実施例1〜3と同様に算出した。
【0057】
また、実施例4の全被験者は、本実施例実施前より日本薬局方サフラン0.3gを摂取していたが、明らかな血小板活性抑制効果が見られなかったため、本実施例においては、サフランの摂取量を0.3gから0.6gに増量摂取させた。その結果、PF4並びにβ−TGの両者の血中濃度が低下した。よって、本願発明に係る膠原病改善薬におけるサフランの摂取量が0.3g〜0.6gの範囲において、サフランの用量依存性を確認することができた。
【0058】
上記実施例1〜4の結果より、本願発明に係る膠原病改善薬の血小板活性抑制効果並びに膠原病改善効果を確認することができた。また、実施例1〜4を通して、ほとんどの被験者は、上記漢方エキス剤及び上記併用薬を摂取している条件下において本願発明に係る膠原病改善薬を追加摂取することによるアドオン効果により、PF4並びにβ−TGの両者の血中濃度の低減並びに膠原病の各種症状の改善が見られたものである。さらに、本願発明に係る膠原病改善薬におけるサフランの摂取量が0.3g〜0.6gの範囲において、サフランの用量依存性についても確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本願発明に係る膠原病改善薬は、上記の血小板活性抑制効果並びに膠原病改善効果により、膠原病に伴う各種症状の改善又は緩和等の膠原病の治療等に有用である。また、血小板活性化に関連する血栓症、例えばDIC(播種性血管内凝固障害)、深部静脈血栓症、脳梗塞、心筋梗塞等の予防や治療等にも有用である。本願発明に係る膠原病改善薬は、医薬品、食品などとして利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サフラン又はその抽出成分を配合してなる膠原病改善薬。
【請求項2】
漢方製剤にサフラン柱頭又はその抽出成分を配合してなる膠原病改善薬。
【請求項3】
血小板からの血小板第4因子(PF4)とβ−トロンボグロブリン(β−TG)との少なくとも何れか一方の放出を抑制することを特徴とする請求項1又は2記載の膠原病改善薬。
【請求項4】
上記漢方製剤が、表1に示す漢方製剤からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2記載の膠原病改善薬。
【表1】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−190215(P2011−190215A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57652(P2010−57652)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(510071666)
【出願人】(507025353)
【出願人】(510071677)
【Fターム(参考)】