説明

膨張コンクリートの強度管理方法

【課題】 JIS A 1132の方法では、強度管理ができなかった、C3Sの含有率が50%未満のセメントと、膨張材とを用いた本膨張コンクリートにおいても実構造物のコンクリート強度を正しく推定することが可能となる、ケイ酸三カルシウムの含有率が50%未満のセメントを使用した膨張コンクリートの強度管理方法を提供すること。
【解決手段】 強度試験用供試体の型枠の取り外しまでの期間を、打設日翌日から数えて4日以上とする、ケイ酸三カルシウムの含有率が50%未満のセメントと、膨張材を用いた膨張コンクリートの強度管理方法、型枠取り外しまでの環境温度が30℃未満であり、積算温度が120(℃×日)以上で強度試験用供試体の型枠の取り外しを行う該膨張コンクリートの強度管理方法を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度試験用供試体から得られる強度結果と実構造物の強度との整合性を高めることを目的とするもので、膨張コンクリートの強度管理方法、特に、ケイ酸三カルシウムの含有率が50%未満のセメントを使用した膨張コンクリートの強度管理方法、詳しくは、実構造物に打設した膨張コンクリートの強度を推定するために、強度試験用供試体を使用する強度管理方法である。
【背景技術】
【0002】
一般に、セメントは水と接することにより、アルミネート相(3CaO・Al2O3、C3A)やフェライト相(4CaO・Al2O3・Fe2O3、C4AF)が最初に水和し、次いで、ケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2、C3S)が反応し、最後にケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO2、C2S)が反応する。
コンクリートの強度は、セメントの反応に支配されているため、セメントの水和反応の進行に応じて、コンクリートの強度が発現される。
【0003】
膨張コンクリートに用いられる膨張材は、一般にセメントの水和反応に応じて膨張反応が生じるように調整されており、セメントのケイ酸三カルシウムが反応し、ある程度の強さのコンクリート強度が得られた段階で膨張反応が生じることになる。
【0004】
膨張材を用いたレディーミクストコンクリートなどの膨張コンクリートは、通常、生コンクリート会社における試験練りや現場打設時の品質を確認するために、強度試験用供試体を採取して強度測定をし、膨張コンクリートの強度を管理している。
この強度試験用供試体の大きさは特に限定されるものではないが、一般には、直径10cm×高さ20cmの円柱供試体が使用され、所定寸法の型枠にコンクリートを打設することにより作製し、所定の日数で型枠の取り外し(脱型)を行い、所定の養生方法で試験材齢まで保管している。
【0005】
JIS A 1132「コンクリートの強度試験用供試体の作り方」では、「型枠の取り外し時期は、詰め終わってから16時間以上3日間以内とする」と記載されているので、一般には、型枠の取り外しは3日以内に実施している。
そして、その後は、同JISに従って、20±2℃の水中養生、もしくは、相対湿度95%以上の湿潤養生を行っている。
また、材齢1〜3日で脱型を行っている事例もある(特許文献1、特許文献2、特許文献3、及び非特許文献1参照)。
【0006】
一般には、強度試験用供試体の打設や養生は、20℃で行うことになっている。したがって、建設工事現場においては、常温(外気温)で、強度試験用供試体の型枠にコンクリートを打設し、コンクリート硬化後直ちに20℃の雰囲気中に保管し、打設後16時間以上3日間以内で型枠を取り外し、20℃水中養生を開始し、試験材齢まで養生することが標準となっている。
【0007】
膨張コンクリートに使用するセメントとしては、通常、ポルトランドセメントが使用されている。
一般に、ポルトランドセメントとしては、JIS R 5210に示される種類が供給されているが、膨張材と組み合されるセメントは、通常、普通ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメントが使用されている。
これらの通常のセメントでは、JIS A 1132に従って強度試験用供試体を取り外しても、強度試験用供試体は、膨張材の反応に充分耐えられる強度発現が可能である。その結果として、強度試験用供試体から求められる強度は実構造物に打設されたコンクリート強度と良い整合性が得られている。
【0008】
しかしながら、低熱ポルトランドセメントは、JIS A 1132に従って型枠の取り外しを3日間以内に行った場合、強度試験用供試体から求められる強度は、実構造物に打設されたコンクリート強度よりかなり小さい値になる場合があった。
【0009】
【特許文献1】特開2004−217514号公報
【特許文献2】特開平11−302056号公報
【特許文献3】特開平07−215742号公報
【非特許文献1】低熱ポルトランドセメントと膨張材を用いた低収縮コンクリートに関する研究、コンクリート工学年次論文報告集、Vol.20、No.2、pp.997-1002、1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
セメント中のケイ酸三カルシウムの含有率が50%未満のポルトランドセメントと膨張材を組み合わせた膨張コンクリートでは、セメントの強度発現が小さいため、強度試験用供試体の型枠の取り外し時期をJIS A 1132に従って実施した場合、所定材齢で実行される強度試験で得られた試験結果が大幅に低下する場合がある。
【0011】
一方、実際の構造物に打設された該膨張コンクリートは、底盤や側壁などの既設コンクリートや鉄筋などにより拘束されているため、強度試験用供試体のように圧縮強度が低下するという現象は見られない。
【0012】
即ち、型枠の取り外し時期をJIS A 1132に従って実施した場合、強度試験用供試体から得られるコンクリート強度の値と実構造物のコンクリート強度の値が大幅に異なることとなり、該膨張コンクリートの強度管理方法としての整合性が得られないという課題があった。
【0013】
本発明者は、強度試験用供試体と実構造物のコンクリート強度の値が大幅に異なるという課題に関して、膨張材の反応に耐えられる強度確保の手法について鋭意検討し、ケイ酸三カルシウム含有率50%未満のセメントにおける強度不足分を型枠で補うことを発案し、種々実験を行った結果、特定の強度管理方法を採用することによって、強度試験用供試体と実構造物コンクリートの強度に整合性が得られるという知見を得て本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、本発明は、強度試験用供試体の型枠の取り外しまでの期間を、打設日翌日から数えて4日以上とする、ケイ酸三カルシウムの含有率が50%未満のセメントと、膨張材を用いた膨張コンクリートの強度管理方法であり、型枠取り外しまでの環境温度が30℃未満であり、積算温度が120(℃×日)以上で強度試験用供試体の型枠の取り外しを行う該膨張コンクリートの強度管理方法である。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ケイ酸三カルシウム(以下、C3Sという)の含有率が50%未満のセメントと、膨張材を用いた膨張コンクリート(以下、本膨張コンクリートという)の強度管理方法である。
【0016】
本発明に係るセメントとしては、一般には、JIS R 5210に示されるポルトランドセメントのうち、C3S含有率が50%未満のポルトランドセメントが使用可能である。具体的には、低熱ポルトランドセメントなどがあるが、これだけに限定されるものではなく、C3S含有率が50%未満のセメントは全て本発明のセメントである。
【0017】
本発明に係る膨張材としては、一般には、JIS A 6202「コンクリート用膨張材」が使用可能であるが、これらに限定されるものではない。
膨張材としては、エトリンガイト系膨張材、石灰系膨張材、及び石灰−エトリンガイト複合系膨張材などが挙げられ、各々、標準添加型や低添加型が市販されている。
また、各々の水和熱抑制型の膨張材も使用可能である。
なお、これら以外にも膨張コンクリートを得るための材料や素材であれば、本発明において、膨張材として使用することが可能である。
膨張材の使用量は、各々の膨張材で適正量が決まっており、特に限定されるものではないが、通常、セメント100部に対して、5〜15部程度である。
【0018】
本発明は、本膨張コンクリートの強度管理方法であり、所定の材齢で強度試験用供試体の強度を測定するものである。
【0019】
以下、本発明で、強度を測定する強度試験用供試体の作成方法について説明する。
【0020】
強度試験用供試体は特に限定されるものではないが、通常、直径10cm×高さ20cmの円柱状の型枠が用いられる。
強度試験用供試体の養生は特に限定されるものではないが、型枠の取り外し(以下、脱型という)まで、通常、環境温度20℃で乾燥させないように保管することが好ましい。
【0021】
C3Sの含有率が50%未満のセメントを使用する場合は、膨張材の反応時期を型枠で拘束することにより、強度試験用供試体から求められる強度と実構造物に打設されたコンクリート強度の整合性が得られる。
そのため、本発明において、本膨張コンクリートの強度を管理する方法として、脱型までの期間を打設日翌日から数えて4日以上とすることが必要であり、好ましくは5日以上である。
なお、ここで、「日」とは24時間を意味するもので、例えば、打設日翌日から数えて4日以上とは、打設日翌日から数えて4×24時間以上ということである。
【0022】
コンクリート強度の発現は、一般にはセメントの水和による水和物の析出によるものであり、水和物の総量は反応温度と反応継続時間に依存しており、その積である積算温度を規定し、規定された積算温度で養生することによって、強度試験用供試体の強度と実施工の強度の整合性が得られるものである。
【0023】
ここで、積算温度とは、一般にはマチュリティー(maturity)と呼ばれ、社団法人日本コンクリート工学協会発行の「コンクリート用語辞典」などでは、下記の式のように定義されている。
【0024】
【数1】

【0025】
本発明では、脱型までの環境温度が30℃未満で、積算温度が120(℃×日)以上で強度試験用供試体の脱型を行う。
【0026】
本発明において、脱型は、積算温度が120(℃×日)以上に達した時点、好ましくは130(℃×日)以上に達した時点、より好ましくは140(℃×日)以上に達した時点で行う。積算温度が120(℃×日)未満では、膨張材の反応により、強度試験用供試体の強度低下が大きくなり、実構造物強度を正しく推定することが困難となる場合がある。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、従来、JIS A 1132の方法では、強度管理ができなかった、C3Sの含有率が50%未満のセメントと、膨張材とを用いた本膨張コンクリートにおいても、強度試験用供試体を用いた強度試験で得られた試験結果と実構造物に打設された本膨張コンクリートの強度に整合性が得られるため、実構造物のコンクリート強度を正しく推定することが可能となる。
また、本発明では、強度試験用供試体の脱型時期を積算温度120(℃×日)以上で行うため、強度試験用供試体が養生されている周辺温度が低温条件下でも実施することができるという利点も有している。
【実施例】
【0028】
以下、実験例を用いて説明する。
【0029】
実験例1
セメントと膨張材を使用した膨張コンクリートの強度管理方法の実験を行った。
各材料の単位量を、セメントA310kg/m3、膨張材a20kg/m3、細骨材α824kg/m3、粗骨材i933kg/m3、及び水175kg/m3とし、スランプ12.0cm、水セメント比53.0%、細骨材率s/a47.0%、及び空気量4.5%のコンクリートの基本配合を用い、セメントと膨張材の合計100部に対して、1部の減水剤イを用いてコンクリートを調製した。
直径10cm×高さ20cmの鋳物製円柱型枠に、調製したコンクリートを打設して、強度試験用供試体を作製した
コンクリートの練混ぜ、打設、及び養生は、20℃の環境条件下で実施し、脱型後は試験材齢まで20℃水中養生とした。
また、実構造物に打設された膨張コンクリートの強度を求めるために、実構造物模擬体として雰囲気温度20℃の試験室内に図1で示すコンクリート底版に垂直に打設されたコンクリート壁を作製し、試験日の前日に直径10cm×高さ20cmの円柱体をコアリングにより採取し、強度試験用供試体と同じ材齢で圧縮強度試験を実施した。
なお、コンクリート壁の鉄筋は、かぶり30mmで、SD346呼び名D16の異形鉄筋を水平鉛直方向とも150mm間隔で2段配置した(鉄筋比約1%)。コンクリート底版の鉄筋はSD346呼び名D19の異形鉄筋を縦横100mm間隔で上下2段配置した(鉄筋比約1.9%)。
【0030】
強度試験用供試体は、打設翌日から数えて材齢1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、及び10日に鋳物製型枠を脱型し、20℃水中養生を行った。
その後、材齢91日にて圧縮強度試験を実施し、コンクリート強度を確認した。
また、雰囲気温度20℃の試験室内に打設されたコンクリート壁からコアリングにより採取した円柱体も材齢91日で圧縮強度試験を実施した。
コンクリート壁から採取した円柱体の圧縮強度に対する強度試験用供試体の圧縮強度の比率を図2に示す。
【0031】
<使用材料>
セメントA:低熱ポルトランドセメント、市販品、C2S 61.8%、C3S 22.0%、C3A 0.9%、及びC4AF 13.0%
膨張材a :石灰−エトリンガイト複合系膨張材、水和熱抑制型、市販品
細骨材α :新潟県姫川産川砂
粗骨材i :新潟県姫川産川砂利、Gmax25mm
減水剤イ :AE減水剤、主成分リグニンスルホン酸塩とオキシカルボン酸塩、市販品
【0032】
<測定方法>
圧縮強度 :JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じ測定
【0033】
図2から明らかなように、強度管理の基準日である材齢91日において、脱型材齢1〜3日の強度試験用供試体から得られる圧縮強度は、実構造物を模擬したコンクリート壁から得られる強度の70〜80%となり、実際の構造物の強度を推測するには誤差が大き過ぎるものである。
一方、本発明の実施例である脱型材齢が4日以上の場合、強度試験用供試体の圧縮強度はコンクリート壁強度の90%以上となり、構造物強度の推定において誤差は大幅に改善され、強度試験用供試体から実構造物のコンクリート強度を推測するという本来の目的を正しくなしとげることが可能となる。
【0034】
実験例2
各材料の単位量を、セメントB306kg/m3、膨張材b30kg/m3、細骨材β879kg/m3、粗骨材ii857kg/m3、及び水185kg/m3とし、スランプ21.0cm、水セメント比55.0%、細骨材率s/a51.1%、及び空気量4.5%のコンクリートの基本配合を用い、セメントと膨張材の合計100部に対して、0.8部の減水剤ロを用いてコンクリートを調製し、直径10cm×高さ20cmの金属製簡易円柱型枠に、調製したコンクリートを打設して、強度試験用供試体を作製した
コンクリートの練混ぜ、打設と脱型までの養生は30℃の環境条件下で、脱型後は試験材齢まで20℃水中養生としたこと以外は実験例1と同様に行った。
また、実構造物模擬体として実験例1と同様のコンクリート壁を雰囲気温度30℃の試験室内に作製し、実験例1と同様に圧縮強度試験を実施した。
【0035】
強度試験用供試体は、打設翌日から数えて材齢1日、2日、4日、及び7日に金属性簡易型枠を脱型し、30℃湿潤密封養生を行った。
その後、材齢91日にて圧縮強度試験を実施し、コンクリート強度を確認した。
また、雰囲気温度30℃の試験室内に打設されたコンクリート壁からコアリングにより採取した円柱体も材齢91日で圧縮強度試験を実施した。
コンクリート壁から採取した円柱体の圧縮強度に対する強度試験用供試体の圧縮強度の比率を図3に示す。
【0036】
<使用材料>
セメントB:低熱ポルトランドセメント、市販品、C2S 51.3%、C3S 31.8%、C3A 1.4%、及びC4AF 11.5%
膨張材b :石灰系膨張材、市販品
細骨材β :栃木県栃木市鍋山町産砕砂と千葉県香取郡大栄町産山砂の混合品、重量比で6:1
粗骨材ii :栃木県栃木市鍋山町産砕石、Gmax20mm
減水剤ロ :高性能AE減水剤、主成分ポリカルボン酸系化合物
【0037】
図3から明らかなように、強度管理の基準日である材齢91日において、脱型材齢1日と2日の強度試験用供試体から得られる圧縮強度は、実構造物を模擬したコンクリート壁から得られる強度の80%程度となり、実際の構造物の強度を推測するには誤差が大きいものである。
一方、本発明の実施例である脱型材齢が4日と7日の場合、強度試験用供試体の圧縮強度はコンクリート壁強度とほぼ等しくなり、構造物強度の推定を精度良く行うことが可能である。
【0038】
実験例3
各材料の単位量を、セメントC310kg/m3、膨張材a20kg/m3、細骨材α842kg/m3、粗骨材i915kg/m3、及び水175kg/m3とし、スランプ15.0cm、水セメント比53.0%、細骨材率s/a48.1%、及び空気量4.5%のコンクリートの基本配合を用い、セメントと膨張材の合計100部に対して、0.6部の減水剤ハを用いてコンクリートを調製した。
直径10cm×高さ20cmの金属製簡易円柱型枠に、調製したコンクリートを打設して、強度試験用供試体を作製した
コンクリートの練混ぜ、打設と脱型までの養生は15℃の環境条件下で、脱型後は試験材齢まで20℃水中養生とした。
また、実構造物模擬体として図4に示すコンクリート床版(SD346呼び名D16の異形鉄筋を左右150mm間隔で上下2段配置)を作製し、厚さ10cmの発泡スチロール板で周囲を覆って断熱養生とした。
なお、雰囲気温度は15℃であった。圧縮試験の前日に直径10cm高さ20cmの円柱体をコアリングにより採取し、強度試験用供試体と同じ材齢で圧縮強度試験を実施した。
【0039】
15℃の環境条件下で養生されている強度試験用供試体を、積算温度が20、40、60、80、100、110、120、130、140、160、及び180(℃×日)に達した時点で脱型し、20℃水中養生を行った。
その後、材齢91日にて圧縮強度試験を実施し、コンクリート強度を確認した。
また、雰囲気温度15℃の試験室内で発泡スチロール板にて断熱されているコンクリート床版からコアリングにより採取した円柱体も材齢91日で圧縮強度試験を実施した。
コンクリート床版から採取した円柱体の圧縮強度に対する強度試験用供試体の圧縮強度の比率を図5に示す。
【0040】
<使用材料>
セメントC:低熱ポルトランドセメント、市販品、C2S 51.3%、C3S 35.0%、C3A 1.5%、及びC4AF 9.6%
減水剤ハ :高性能AE減水剤、主成分ポリカルボン酸系化合物
【0041】
図5から明らかなように、強度管理の基準日である材齢91日において、脱型時の積算温度が20〜110(℃×日)の強度試験用供試体から得られる圧縮強度は、実構造物を模擬したコンクリート床版から得られる強度の50〜80%程度となり、実構造物のコンクリート強度を推測するには大きな誤差が生じている。
一方、本発明の実施例である脱型時積算温度が120(℃×日)以上の強度試験用供試体の圧縮強度はコンクリート床版強度の90%以上となり、構造物強度の推定において誤差は大幅に改善されている。したがって、実験例3においても、強度試験用供試体から実構造物のコンクリート強度を推測するという本来の目的を正しく成し遂げられることが証明できる。
【0042】
実験例4
セメントDと膨張材cを使用して実験例3と同じコンクリートの基本配合を用い、実験例3と同様に、コンクリートを調製した。
直径10cm×高さ20cmの鋳物製円柱型枠に、調製したコンクリートを打設して、強度試験用供試体を作製した
コンクリートの練混ぜ、打設と脱型までの養生は10℃の環境条件下で、脱型後は試験材齢まで20℃水中養生とした。
また、実構造物模擬体として図4に示すコンクリート床版(SD346呼び名D16の異形鉄筋を左右150mm間隔で上下2段配置)を作製し、厚さ10cmの発泡スチロール板で周囲を覆って断熱養生とした。
なお、雰囲気温度は10℃であった。圧縮試験の前日に直径10cm高さ20cmの円柱体をコアリングにより採取し、強度試験用供試体と同じ材齢で圧縮強度試験を実施した。
【0043】
10℃の環境条件下に養生されている強度試験用供試体を、積算温度が40、60、80、100、110、120、130、140、150、及び160(℃×日)に達した時点で型枠を取り外し、20℃水中養生を行った。
その後、材齢56日にて圧縮強度試験を実施し、コンクリート強度を確認した。
また、雰囲気温度10℃の試験室内で発泡スチロール板にて断熱されているコンクリート床版からコアリングにより採取した円柱体も材齢56日で圧縮強度試験を実施した。
コンクリート床版から採取した円柱体の圧縮強度に対する強度試験用供試体の圧縮強度の比率を図6に示す。
【0044】
<使用材料>
セメントD:低熱ポルトランドセメント、市販品、C2S 31.7%、C3S 45.5%、C3A 5.7%、及びC4AF 13.6%
膨張材c :石灰−エトリンガイト複合系膨張材、市販品
【0045】
図6からもわかるように、強度管理基準日である材齢56日において、脱型時の積算温度が40〜110(℃×日)の強度試験用供試体から得られる圧縮強度は、実構造物を模擬したコンクリート床版から得られる強度の50〜80%程度であり、実構造物のコンクリート強度を推測するには誤差が大き過ぎる。
一方、本願の実施例である脱型時積算温度が120(℃×日)以上の強度試験用供試体の圧縮強度はコンクリート床版強度の90%以上となり、構造物強度の推定において誤差は大幅に改善されている。
さらに、脱型時積算温度が130(℃×日)以上の強度試験用供試体の圧縮強度はコンクリート床版強度の93〜95%が安定して得られている。したがって、実験例4においても、本願発明では、強度試験用供試体から実構造物のコンクリート強度を推測するという本来の目的を正しく成し遂げられることが証明できる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、一般には、生コン会社、建設現場、建設会社、設計会社やコンサルタント、セメント会社、混和材や混和剤会社、建設機械の製造やレンタル会社、及び建材商社や建材店などが実施、説明、販売、及び教育するコンクリートの強度管理に広く応用することができる。
また、本発明はセメントとしてC3S含有率が50%未満のポルトランドセメントと規定しているが、今後開発されるセメントなどにおいて、強度発現が通常の普通ポルトランドセメントよりも遅くなる傾向のあるセメントにも本発明が適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実験例1と実験例2において、比較のために作製した実構造物模擬体の模式図
【図2】実験例1におけるコンクリート壁から採取した円柱体の圧縮強度に対する強度試験用供試体の圧縮強度の比率を示す図
【図3】実験例2におけるコンクリート壁から採取した円柱体の圧縮強度に対する強度試験用供試体の圧縮強度の比率を示す図
【図4】実験例3と実験例4において、比較のために作製した実構造物模擬体の模式図
【図5】実験例3におけるコンクリート床版から採取した円柱体の圧縮強度に対する強度試験用供試体の圧縮強度の比率を示す図
【図6】実験例4におけるコンクリート床版から採取した円柱体の圧縮強度に対する強度試験用供試体の圧縮強度の比率を示す図
【符号の説明】
【0048】
1.コンクリート壁
2.コンクリート底版
3.コンクリート
4.鉄筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強度試験用供試体の型枠の取り外しまでの期間を、打設日翌日から数えて4日以上とする、ケイ酸三カルシウムの含有率が50%未満のセメントと、膨張材とを用いた膨張コンクリートの強度管理方法。
【請求項2】
強度試験用供試体の型枠の取り外しまでの環境温度が30℃未満であり、積算温度が120(℃×日)以上で強度試験用供試体の型枠の取り外しを行う請求項1に記載の膨張コンクリートの強度管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−177808(P2006−177808A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372117(P2004−372117)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】