説明

膨張型鋼管ロックボルト及びその製造方法、地山補強工法

【課題】軟質岩盤、亀裂性岩盤、未固結地山など鋼管の膨張で摩擦抵抗を確保することが難しい地山でも、充分な摩擦抵抗を容易に確保することができ、確実に地山を補強することができる膨張型鋼管ロックボルトを提供する。
【解決手段】穿孔した孔31内に挿入される中空鋼管2に流体が加圧注入され、中空鋼管2を膨張させて孔壁32との周面摩擦により、地山30に定着される膨張型鋼管ロックボルト1において、中空鋼管2の表面に複数の突起5が規則的に設けられている膨張型鋼管ロックボルト1であり、好適には引張強さ400〜510N/mm、伸びが20%以上である鋼板を素材とし、表面に縞目模様を形成するとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトンネル掘削時に坑内から地山を補強する支保工、先受け工、鏡補強工の地山補強に用いられる膨張型鋼管ロックボルト及びその製造方法、地山補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネルを掘削する際に地山を補強して変形や崩壊を抑制するために、地山の支保工部材としてロックボルトを打設する方法がおこなわれてきた。軟岩地山〜亀裂性岩盤等で早期に定着の確保が必要な場合および湧水による定着の確保に影響を受けるなどの場合に、例えば特許文献1、2に記載されている膨張型鋼管ロックボルトが使用されている。
【0003】
この膨張型鋼管ロックボルトは、グラウト材なしで、流体を加圧注入し、鋼管の膨張圧で孔壁周面の地山を圧縮するものであり、鋼管表面の摩擦力と地山の応力とを組合わせて補強する。膨張型鋼管ロックボルトでは、その耐荷力が早期に発揮される。
【0004】
また、膨張型鋼管ロックボルトは、亀裂性岩盤等のトンネル掘削時に天端部の剥落を防止するため、孔壁周囲への膨張圧による拘束力の増加と摩擦力により耐荷能力を高めるべく、前方地山を拘束する先受け工、切羽前方の押し出し挙動を抑制する目的で長尺鏡補強工での地山補強にも用いられている。
【0005】
地山に穿孔された孔内へ挿入された膨張型鋼管ロックボルト100の断面形状は、図8(a)に示すように、外周面が平滑な縮径された鋼管で、例えば中央上端から内側に折り曲げられた凹部101を有する形状になっている。膨張型鋼管ロックボルト100を使用する際には、図8(a)に示すように、軸方向に沿って折り曲げられた凹部101を有する膨張型鋼管ロックボルト100を、地山200の削孔された孔201内に挿入する。
【0006】
そして、図8(b)に示すように、膨張型鋼管ロックボルト100の両端部を閉塞し、且つ、口元側の一端部に設けた注入口より内部に高圧の注入水Wを注入して、注入水の圧力で折り曲げられている膨張型鋼管ロックボルト100を膨張する。この結果、凹部101の大きさが小さくなると共に、膨張型鋼管ロックボルト100の表面は孔壁202に密着され、摩擦抵抗で地山200に定着される。
【0007】
この地山100が例えば硬質岩であれば、高圧の注入水Wによる膨張圧の除去後に、硬質岩による接触応力fが拘束圧として変換されることから、図8(c)に示されるように、大きな摩擦抵抗を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平2−520号公報
【特許文献2】特公平2−5238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述の膨張型鋼管ロックボルト100は、図9に示されるように、表面が平滑な鋼管で造管されているため、地山200が硬質岩である場合には、膨張圧から接触応力が拘束圧として変換され、定着を充分に確保できる摩擦抵抗を得ることができるが、地山200が軟質若しくは未固結地山の場合、鋼管の膨張圧によって地山200に与える圧力が孔壁202に均一とならない、若しくは膨張圧により孔壁202の地山200が変形する等、削孔された孔壁202の接触応力が拘束圧として変換されず、充分な摩擦抵抗を確保することができない。地山200の変状から膨張型鋼管ロックボルト100に軸方向応力が生じる場合には、引抜き耐力の信頼性も損なわれる。
【0010】
また、亀裂性岩盤および未固結地山におけるトンネル掘削時に、天端部の前方地山を拘束して剥落等を防止する先受け工においても、硬質岩に設置した場合には膨張圧から接触応力が拘束力として発揮され、充分な前方地山の先受け効果を確保できるが、地山200が軟質若しくは未固結地山の場合、鋼管の膨張圧によって孔壁の地山が変形して均一な接触応力が拘束圧として変換されず、前方地山の充分な拘束力を確保することができずに、天端部の剥落を抑制する効果が損なわれる。同様に、単一の管若しくは複数本の管を接続して長尺鏡補強工への地山補強においても、同様に拘束力を確保することができずに効果が損なわれることとなる。
【0011】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであって、軟質岩盤、亀裂性岩盤、未固結地山など鋼管の膨張で摩擦抵抗を確保することが難しい地山でも、充分な摩擦抵抗を容易に確保することができ、確実に地山を補強することができる膨張型鋼管ロックボルト及びその製造方法、地山補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の膨張型鋼管ロックボルトは、穿孔した孔内に挿入される中空鋼管に流体が加圧注入され、前記中空鋼管を膨張させて孔壁との周面摩擦により、地山に定着される膨張型鋼管ロックボルトにおいて、前記中空鋼管の表面に複数の突起が規則的に設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、中空鋼管の表面に規則的に設けられる複数の突起により、軟質岩盤、亀裂性岩盤、未固結地山など鋼管の膨張で摩擦抵抗を確保することが難しい地山でも、充分な摩擦抵抗を容易に確保することができ、確実に地山を補強することができる。
【0013】
本発明の膨張型鋼管ロックボルトは、前記中空鋼管が、板厚2.1〜2.3mmで形成され、引張強さ400〜510N/mm、伸びが20%以上である鋼板を素材とし、表面に縞目模様が形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、中空鋼管の良好な膨張と縞目模様により、一層充分な摩擦抵抗を確保し、地山の補強を強化することができる。
【0014】
本発明の膨張型鋼管ロックボルトの製造方法は、穿孔した孔内に挿入される中空鋼管に流体が加圧注入され、前記中空鋼管を膨張させて孔壁との周面摩擦により、地山に定着される膨張型鋼管ロックボルトの製造方法において、引張強さ400〜510N/mm、伸びが20%以上である鋼板を素材とし、圧延によって表面側に複数の突起を規則的に形成する工程と、前記圧延鋼板を曲げて外径寸法57〜76.3mmの電縫鋼管を形成する工程と、前記電縫鋼管をロール成形して外形寸法40〜55mmに縮径して中空鋼管を形成する工程とを備えることを特徴とする。
この構成によれば、充分な摩擦抵抗を容易に確保することができ、確実に地山を補強することができる膨張型鋼管ロックボルトを容易に且つ正確に製造することができる。
【0015】
本発明の地山補強工法は、本発明の膨張型鋼管ロックボルトを用いる地山補強工法であって、地山に穿孔した孔内にモルタルを充填すると共に前記規則的な複数の突起を有する中空鋼管を挿入し、該孔内の中空鋼管に流体を加圧注入して膨張させることを特徴とする。
この構成によれば、軟質岩盤、亀裂性岩盤、未固結地山など鋼管の膨張で摩擦抵抗を確保することが難しい地山でも、充分な摩擦抵抗を容易に確保することができ、確実に地山を補強することができると共に、モルタルの併用で地山補強効果を一層高めることができる。
【0016】
本発明の地山補強工法は、前記膨張型鋼管ロックボルトの前記中空鋼管の長さを3m〜8mとし、前記中空鋼管を接続して長さ6m〜20mの補強管を形成して前記孔内に挿入し、前記補強管に流体を加圧注入して膨張させることを特徴とする。
この構成によれば、複数本の中空鋼管を接続する長尺鏡補強工等の地山補強でも、充分な摩擦抵抗を容易に確保し、確実に地山補強を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、軟質岩盤、亀裂性岩盤、未固結地山など鋼管の膨張で摩擦抵抗を確保することが難しい地山でも、充分な摩擦抵抗を容易に確保することができ、確実に地山を補強することができる。即ち、中空鋼管の表面に突起状の粗面形状を設けることにより、軟質な地山においても粗面形状が孔壁に食込む形態で、孔壁と鋼管表面の摩擦抵抗と密着性が高まり、粗面形状が引抜き耐力として機能する。
【0018】
そして、軟岩〜未固結地山の軟質な地山状況においても支保工部材として、中空鋼管の表面と膨張圧による孔壁面とに所要の摩擦抵抗を得ることができ、充分な引抜き耐力が確保することができる。また、トンネル掘削時に天端部の前方地山を拘束して、剥落等を防止する先受け工として使用する場合においても、前方地山の拘束に必要な孔壁周面の密着性を充分に確保することができ、好適には接触する粗面状の中空鋼管表面と孔壁の間にモルタル充填を併用して、孔壁との摩擦抵抗と中空鋼管表面との密着性の一層の向上により、切羽前方地山の拘束力を高めることができる。また、複数本の中空鋼管を接続する長尺鏡補強工等の地山補強でも、充分な摩擦抵抗を容易に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は本発明による実施形態の膨張型鋼管ロックボルトを穿孔した孔内に挿入した状態を示す膨張前の側面図、(b)は孔内に挿入した膨張型鋼管ロックボルトの膨張前の部分拡大図。
【図2】(a)は本発明による実施形態の膨張型鋼管ロックボルトが穿孔した孔内で膨張した状態を示す側面図、(b)はその膨張型鋼管ロックボルトが孔内で膨張した状態を示す部分拡大図。
【図3】(a)は本発明による実施形態の膨張型鋼管ロックボルトに使用する中空鋼管表面の縞目模様を示す拡大図、(b)は膨張型鋼管ロックボルトに使用する中空鋼管表面の縞目模様と縞高を示す説明図。
【図4】実施形態の膨張型鋼管ロックボルトを支保部材として使用した加圧膨張後の地山の応力状態を示す説明図。
【図5】(a)は実施形態の膨張型鋼管ロックボルトを地山補強工の支保部材として使用した状態の横断面図、(b)は支保部材として使用した加圧膨張後の地山の応力状態を示す説明図。
【図6】(a)は実施形態の膨張型鋼管ロックボルトを先受け工として使用した状態を示す横断面図、(b)は先受け工として使用した加圧膨張後の地山の応力状態を示す縦断面図。
【図7】(a)は実施形態の膨張型鋼管ロックボルトを鏡補強工として使用した状態を示す横断面図、(b)は鏡補強工として使用した加圧膨張後の地山の応力状態を示す縦断面図。
【図8】(a)は従来の膨張型鋼管ロックボルトを穿孔した孔内に挿入した状態を示す膨張前の断面図、(b)は従来の膨張型鋼管ロックボルトが孔内で膨張した状態を示す断面図、(c)は従来の膨張型鋼管ロックボルトが孔内で膨張した後の接触応力を受けた状態を示す断面図。
【図9】(a)は従来の支保部材として使用した加圧膨張後の地山の応力状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態について図1〜図7に従って説明する。
【0021】
本実施形態の膨張型鋼管ロックボルト1は、図1〜図4に示すように、地山30に穿孔した孔31内に挿入される中空鋼管2に流体が加圧注入され、中空鋼管2を膨張させて孔壁32との周面摩擦により、地山30に定着されるものであり、中空鋼管2は図示例の中央上端など周方向の一箇所から内側に折り曲げられた凹部21を有する形状になっている。中空鋼管2の先端部には封止側スリーブ3、中空鋼管3の口元端部には注水側スリーブ4が設けられて、その両端部が閉塞されており、その表面には複数の突起5が規則的に設けられている。
【0022】
中空鋼管2は、引張強さ400〜510N/mm、伸びが20%以上である鋼板を素材とし、板厚2.1〜2.3mmで形成されている。表面の突起5は、前記鋼板の素材に圧延加工を施す際に、同時に形成すると好適である。
【0023】
突起5の配置形状は、図3に示すように、平面視略楕円形の突起5を長径方向が交互になるような配置で縞目模様に形成すると好適である。図3(b)の例では、突起5の高さ(縞高)1.0〜2.0mm、突起5・5間のピッチ(縞ピッチ)20mm、突起5の部分以外の板厚(地厚)2.1〜2.3mmで形成されている。突起5の縞高は、縞高が高いと大きな摩擦抵抗が確保されるが、縮径における加工を考慮して1〜2mmが好ましい。また、中空鋼管2は、圧延鋼板を曲げて外径寸法57〜76.3mmの電縫鋼管を形成し、電縫鋼管をロール成形して外形寸法40〜55mmに縮径して中空鋼管を形成すると好適である。
【0024】
膨張型鋼管ロックボルト1は、図1(a)に示すように、地山30に穿孔された孔31内に挿入されている。膨張型鋼管ロックボルト1は、図1(b)に示すように、縮径されて外周は円形に形成され、且つ中央上端から内側に管の内径に沿うように折り曲げられ、凹部21が深く内側に突出する断面形状で形成されている。孔31は、例えば孔壁32の外径が55mmで穿孔長4mとされ、膨張型鋼管ロックボルト1は、例えば外径寸法45mm、長さ4mとされる。
【0025】
口元端部の注水側スリーブ4には、高圧の注入水Wの注入口が形成されており、この注入口から注入水Wを注入して膨張型鋼管ロックボルト1を加圧膨張させ、凹部21の大きさが縮小するように膨張型鋼管ロックボルト1が拡大し、図2に示すように、地山30の岩盤の孔壁32に定着させる。図2(a)及び(b)は、膨張型鋼管ロックボルト1が加圧膨張後の孔壁32に定着した状態で、中空鋼管2の断面形状が拡大し、膨張して接触する孔壁32に突起5の形状が食い込んで密着した状態を示しており、軟質な地山においても中空鋼管2表面の突起5の孔壁面への食い込み力は大きく確保される。
【0026】
ここで、膨張型鋼管ロックボルト1を砂質土地山を想定した引き抜き試験の結果を表1に示す。従来の表面が平滑な膨張型鋼管ロックボルト100と本実施形態の表面が縞模様形状の膨張型鋼管ロックボルト1に対する、砂質土を想定した地山状況による引き抜き試験は、未固結な砂質土地山の孔壁に膨張型鋼管ロックボルト1、100が密着した状態を再現するために、注入材による付着力の影響を最小限とした水ガラス系溶液タイプの浸透によるサンドゲルの状態によって行った。
【0027】
結果は表1の数値に示されるように、膨張型鋼管ロックボルト1では、従来の膨張型鋼管ロックボルト100の約5倍の付着力が示されている。引き抜き試験の結果においては、従来の表面が平滑な膨張型鋼管ロックボルト100が72kN(18×4m)で、所要の引抜き耐力(190kN)に不足する状態であるが、本実施形態の膨張型鋼管ボルト1では所要の190kN以上(97.8×4m)を充分に確保できる結果が得られている。
【0028】
【表1】

【0029】
次に、膨張型鋼管ロックボルト1を支保部材として用いる場合について説明する。図4には、トンネル掘削後のトンネル空間Tに吹付けコンクリート6、鋼製支保工7が設置され、パターンボルトとして膨張型鋼管ロックボルト1を設置後の地山30の応力状態が示されている。地山30が軟質な地山の場合には、通常のロックボルトでは早期の引抜き耐力を確保することができないことから、トンネル掘削時の支保部材として膨張型鋼管ロックボルト1が設置されている。膨張型鋼管ロックボルト1には、注水側スリーブ4の注入口より高圧の注入水Wが封入され、膨張型鋼管ロックボルト1を加圧膨張した孔壁32に定着した状態とし、中空鋼管2の断面形状が拡大して接触する膨張時の孔壁32に縞模様形状の突起5が食い込み密着している。
【0030】
軟質な地山状況においては、軟質な地山状況においては、膨張圧cから接触応力fが拘束圧として変換されにくく、所要の引抜き耐力としての摩擦抵抗gが得られないため、中空鋼管2の断面形状を拡大して接触する膨張時の孔壁32に縞模様形状の突起5を食い込み密着させて、膨張型鋼管ロックボルト1による大きな摩擦抵抗gが得られ、早期の引抜き耐力が確保される。図中のkは地山の応力である。
【0031】
図5(a)に実施形態の膨張型鋼管ロックボルト1を地山補強工の支保部材(パターンボルト)として使用した状態の横断面図、図5(b)に膨張型鋼管ロックボルト1を天端部の支保部材として使用した加圧膨張後の地山の応力状態を示す。トンネル掘削に伴うゆるみ領域8の影響から地山の応力kはトンネル内空側に働くが、膨張型鋼管ロックボルト1の大きな摩擦抵抗gによりロックボルトの補強効果が発揮される。
【0032】
次に、亀裂性岩盤及び未固結地山において、トンネル掘削時に天端部の前方地山を拘束して剥落等を防止する先受け工9として、従来の表面が平滑な膨張型鋼管ロックボルト100と本実施形態による表面が縞模様形状の膨張型鋼管ロックボルト1とを用いる場合について説明する。本例では、密着性を高めるためのモルタル充填を併用しており、先受け工9を設置後の掘削サイクルは早期となり、弱令時におけるモルタルの付着耐力が影響することとなる。
【0033】
その試験結果について表2に示す。モルタルの硬化状況は12h後の材令とし、その際の付着力を試験結果としている。表2に示されるように、弱令時の引抜き試験結果において従来の表面が平滑な膨張型鋼管ボルト100では、0.19N/mmの付着力であり、膨張型鋼管ロックボルト1では、0.50N/mmと2倍以上の付着力が確保でき、充分な付着力向上の効果が得られている。
【0034】
【表2】

【0035】
図6(a)はトンネル空間Tにおける先受け工9の横断面図で、天端部の120°範囲に60cm間隔で、長さ3mの膨張型鋼管ロックボルト1で先受け工9として設置されている。図中、6は吹付けコンクリート、7は鋼製支保工、8はゆるみ領域である。図6(b)の縦断図は先受け工9のトンネル掘削時における地山30の応力状態を示し、膨張型鋼管ロックボルト1には曲げ応力と軸方向応力が作用しているため、軟質地山においては拘束力としての付着耐力が劣り、先受け工部材と孔壁周面との摩擦抵抗gと付着耐力を確保する必要性がある。従って、好ましくは、膨張型鋼管ロックボルト1の打設に先立ち予め孔31内にモルタルを充填しておく等の手段により、接触する粗面状の中空鋼管2の表面と孔壁32との間にモルタル充填を併用して、膨張型鋼管ロックボルト1の摩擦抵抗gと密着性の向上により切羽前方地山の拘束力を高める。
【0036】
また、本実施形態の膨張型鋼製ロックボルト1は、例えば図7に示すように、鏡補強工10の補強管として用いても従来の周面が平滑な鋼管による周面付着力の不足を補うことができ、縞模様形状の突起5を孔壁32に食い込み密着させ、膨張型鋼管ロックボルト1による大きな摩擦抵抗gを得ることができ、早期の引抜き耐力が確保される。図7(a)の鏡補強工10の横断面図において、吹付けコンクリート6を施した鏡部には、範囲に1.5m間隔で、長さ6mの膨張型鋼管ロックボルト1が設置されている。図7(b)の縦断図は、鏡補強工10のトンネル掘削時における切羽鏡部11の地山の応力状態を示しており、膨張型鋼管ロックボルト1には卓越した軸方向応力が作用している。軟質地山のゆるみ領域8においては拘束力としての付着耐力が劣るため、鏡補強部材と孔壁周面との摩擦抵抗gを確保する必要性があり、膨張型鋼管ロックボルト1の摩擦抵抗gの向上により切羽前方地山の拘束力を高めることができる。
【0037】
尚、鏡補強工10の補強管等として膨張型鋼製ロックボルト1を接続する場合には、例えば膨張型鋼管ロックボルト1の中空鋼管2の長さを3m〜8mとし、中空鋼管2を接続管を介して接続して長さ6m〜20mの補強管を形成して孔31内に挿入し、その補強管に流体を加圧注入して膨張させる構成等とすると良好である。
【0038】
〔実施形態の変形例等〕
本明細書開示の発明には、各発明や実施形態等の構成の他に、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものも含まれ、例えば下記変形例も包含する。
【0039】
例えば上記実施形態における突起5の形状は平面視略楕円形としたが、これに限定されず、例えば平面視略多角形、平面視略円形等とすることが可能である。また、突起5の配列も縞目模様に限定されず、規則的な配列であれば適宜である。
【符号の説明】
【0040】
1、100…膨張型鋼管ロックボルト
2…中空鋼管 21、101…凹部
3…封止側スリーブ
4…注水側スリーブ
5…突起
6…吹付けコンクリート
7…鋼製支保工
8…ゆるみ領域
9…先受け工
10…鏡補強工
11…切羽鏡部
30、200…地山
31、201…孔 32、202…孔壁
c…膨張圧
f…接触応力
g…摩擦抵抗
k…地山応力
W…注入水
T…トンネル空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿孔した孔内に挿入される中空鋼管に流体が加圧注入され、前記中空鋼管を膨張させて孔壁との周面摩擦により、地山に定着される膨張型鋼管ロックボルトにおいて、
前記中空鋼管の表面に複数の突起が規則的に設けられていることを特徴とする膨張型鋼管ロックボルト。
【請求項2】
前記中空鋼管が、板厚2.1〜2.3mmで形成され、
引張強さ400〜510N/mm、伸びが20%以上である鋼板を素材とし、表面に縞目模様が形成されていることを特徴とする請求項1記載の膨張型鋼管ロックボルト。
【請求項3】
穿孔した孔内に挿入される中空鋼管に流体が加圧注入され、前記中空鋼管を膨張させて孔壁との周面摩擦により、地山に定着される膨張型鋼管ロックボルトの製造方法において、
引張強さ400〜510N/mm、伸びが20%以上である鋼板を素材とし、圧延によって表面側に複数の突起を規則的に形成する工程と、
前記圧延鋼板を曲げて外径寸法57〜76.3mmの電縫鋼管を形成する工程と、
前記電縫鋼管をロール成形して外形寸法40〜55mmに縮径して中空鋼管を形成する工程と、
を備えることを特徴とする膨張型鋼管ロックボルトの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の膨張型鋼管ロックボルトを用いる地山補強工法であって、
地山に穿孔した孔内にモルタルを充填すると共に前記規則的な複数の突起を有する中空鋼管を挿入し、該孔内の中空鋼管に流体を加圧注入して膨張させることを特徴とする地山補強工法。
【請求項5】
前記膨張型鋼管ロックボルトの前記中空鋼管の長さを3m〜8mとし、
前記中空鋼管を接続して長さ6m〜20mの補強管を形成して前記孔内に挿入し、
前記補強管に流体を加圧注入して膨張させることを特徴とする請求項4記載の地山補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−77509(P2012−77509A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223515(P2010−223515)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)