説明

膨張性組成物およびその製造方法

【課題】生石灰生成源に安価な石灰石を使用し、膨張有効成分として生石灰を生成させた膨張性クリンカであって、脱硫装置等特別な処理装置を必要とすることなく、一段焼成によって、強度発現性等の他の特性に支障を及ぼさずに安定した膨張発現性を呈することができる膨張性組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】石灰石粉末含有原料の造粒焼成物であって、遊離生石灰を内包したエーライトを生成相として含み、セメント5〜25質量%、石灰石粉末60〜90質量%、およびセメントと石灰石粉末の粉体100質量部に対して水5〜25質量部を含有してなる混合物を造粒し、圧壊強度10N以上の造粒物を1250℃以上で焼成することを特徴とする膨張性組成物およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物、例えば、PCコンクリート製道路橋・鉄道橋床版・トンネル覆工・高欄等の土木構造物や倉庫床版、立体駐車場などの建築構造物について、コンクリートのび割れ抑制などのために混和して使用される膨張性組成物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリート構造物の耐久性を高めるために、コンクリートのひび割れを抑止するコンクリート用膨張材が注目され、需要が伸びてきている。
【0003】
コンクリート用の膨張材としては、カルシウムサルホアルミネート等のエトリンガイト生成物質を有効成分とするエトリンガイト系膨張材と遊離生石灰を有効成分とする生石灰系膨張材の二種類が代表的なものとして使用されているが、このうち一般に生石灰系膨張材は水和反応活性が高く、特にコンクリートの大規模な初期収縮を抑制する効果に優れることが知られている。
【0004】
生石灰系膨張材として遊離生石灰をエーライトが内包する形で生成させた膨張性組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。この膨張性組成物は、遊離生石灰を内包させずに生成させた生石灰系膨張材に比べて、膨張制御が容易であり、強度低下が少ないという特性がある。
【0005】
上記膨張性組成物は、従来、原料の石灰石を焼成して膨張有効成分である生石灰を生成させ、更にこれをロータリーキルン等で焼成する二段焼成によって製造されている。あるいは、石灰石を脱炭酸化処理した後に一段焼成によって上記膨張性組成物を製造する方法も知られているが、石灰石の脱炭酸化のためにはSPまたはNSP等の予熱装置を使用して多大な熱量による脱炭酸反応を起こさせる必要があった。従来の製造方法はこのような二段焼成や脱炭酸処理のために製造に手間がかかり、製造コストも増大すると云う問題があった。
【0006】
また、従来の製造方法において、焼成キルン内での焼成度を向上させるために、原料を圧密成型して焼成する方法も知られている。しかし、原料成型物の強度不足のために、原料輸送経路における衝撃や焼成キルン内の衝撃、あるいは熱間磨り減りによって原料成型物が粉状化し、ロータリーキルン内での焼成を妨害すると共に、製造における歩留まりを著しく低下すると云う問題点があった。
【特許文献1】特開昭50−24320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の上記課題を解決したものであり、膨張有効成分として生石灰を含む膨張性組成物について、生石灰原料として安価な石灰石を使用し、脱硫装置等の特別な処理装置を必要とせず、一段焼成によって上記膨張性組成物を製造することができ、粉状化するものが殆どなく、製造歩留まりの良い製造方法と、その膨張性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下に示す技術構成によって上記課題を解決した膨張性組成物およびその製造方法に関する。
(1)石灰石粉末含有原料の焼成物であって、遊離生石灰を内包したエーライトを生成相として含むことを特徴とする造粒膨張性組成物。
(2)セメント5〜25質量%、石灰石粉末60〜90質量%、およびセメントと石灰石粉末の粉体100質量部に対して水5〜25質量部を含有してなる混合物を造粒し、この造粒物を1250℃以上で焼成することを特徴とする膨張性組成物の製造方法。
(3)上記混合物を圧壊強度10N以上に造粒して焼成する上記(2)に記載する膨張性組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の膨張性組成物は、遊離生石灰がエーライトによって内包された生成相を含み、従来の石灰系膨張材と比較して十分な膨張性能を有している。また、本発明の膨張性組成物は粉状化し難く、十分に焼成しても製造歩留まりも良い。一方、被粉砕性が良いので粉砕しやすく、生産効率が向上する。しかも、製造工程において脱炭酸化処理などの特別な処理設備を必要とせず、一段焼成によって膨張性クリンカを得ることができるので、製造コストも大幅に低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施例と共に具体的に説明する。なお、%は特に示す場合および単位固有の場合を除き質量%である。
【0011】
〔膨張性組成物〕
本発明の膨張性組成物は、石灰石粉末含有原料を造粒して焼成した組成物(造粒クリンカ組成物)であって、遊離生石灰を内包したエーライト(3CaO・SiO2:C3Sと略記)を生成相として含む組成物である。生石灰粒がエーライトに内包されているので、クリンカ組成物を粉砕しても生石灰粒が大幅に露出せず、その水和反応を適切に制御される。また、エーライトは早期強度の発現性に優れるので、コンクリート等への混合量も少なくて済むなどの利点を有する。
【0012】
本発明の膨張性組成物は遊離生石灰を内包したエーライト相の他に、例えば、エーライトによって内包されていない遊離生石灰、カルシウムアルミネート相、フェライト相、無水石膏等の何れか1種または2種以上を生成相として含むものであっても良い。好ましくは、トリカルシウムアルミネート(CA)および無水石膏(CaSO4)を生成相として含むものが、強度発現性や耐風化性が向上するので良い。
【0013】
〔製造方法〕
本発明の膨張性組成物は、セメント粉末および石灰石粉末からなる混合粉末に水を加えて造粒し、焼成して製造される。使用する石灰石の粉末度は限定されない。石灰石粉末がBET比表面積4000cm2/g以下の微粉末であっても、セメントが水和して硬化するので、混合粉末の造粒性には大きな影響がない。
【0014】
使用するセメントは、鉱物組成中にビーライト(C2S)とエーライト(C3S)の含有率が合計50%以上であれば良く、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等が用いることができる。セメン中のビーライトとエーライトの合計含有率が50%より少ないと、遊離石灰および遊離石灰を内包したエーライトの生成および結晶成長が不十分になる。
【0015】
原料中のセメント量は5%〜25%が好ましく、10%〜20%がより好ましい。セメント量が5%より少ないと、セメント鉱物であるビーライトおよびエーライト量が混合原料中で少なくなるので、石灰石粉末の反応性が乏しくなり、焼成熱量を多く必要とするようになる。従って、石灰石を原料としながら生石灰原料を用いた場合と同等の熱量でクリンカを焼結させることができなくなる。一方、原料中のセメント量が25%を上回ると、セメント鉱物のSiO2成分が混合原料中で多くなり、相対的に焼成したクリンカの遊離石灰量が少なくなる。膨張性能は遊離石灰量に大きく起因するため、遊離石灰量が少ないと膨張性能が不足する。
【0016】
このように、石灰石と共にセメントを原料として用いることによって、セメントに含まれるビーライトおよびエーライトを利用することができ、遊離石灰および遊離石灰を内包したエーライトが結晶成長するうえで有利であり、石灰石粉末を原料としても多大な熱量を必要とせずに目的の膨張性クリンカ組成物を得ることができる。また、セメントが焼結時にフラックスのような作用を示し、遊離石灰の結晶成長や遊離石灰を内包したエーライトの結晶成長を促すことが期待される。
【0017】
本発明の膨張性組成物の原料としては、石灰石粉末およびセメント粉末と共に、石膏および鉄原料を5%〜10%配合した原料粉末を用いると良い。石膏および鉄原料を追加した原料を用いることによって焼成しやすくなる。石膏としては無水石膏、半水石膏、二水石膏を単独または混合して使用することができる。鉄原料としてはマグネタイト、ヘマタイト等が使用できる。なお、石膏および鉄原料の粉末度は5000〜8000cm2/gの範囲が好ましい。また、膨張物質の焼結性を阻害しない範囲で不純物(MgO、Na2O、K2SO4など)が含まれていても良い。
【0018】
上記材料を用い、酸化カルシウムとして80〜90%、二酸化ケイ素として5〜8%、二酸化硫黄として3〜7%になるように調合し、ヘンシェルミキサ等で混合して均斉化して混合原料とする。酸化カルシウムが80%より少ないとクリンカ鉱物組成中の遊離石灰量が少なく、膨張性能が不足する。また、酸化カルシウムが90%より多いと相対的に二酸化ケイ素等の他の成分が少なくなり、クリンカ鉱物組成中のエーライトが減少して強度低下を招く可能性がある。
【0019】
上記材料を均一に混合して調製した原料粉末に水を加えて、ロールプレス機やパン型造粒機等を用いて造粒成形する。造粒物は所定の強度が発現するまで養生する。すなわち圧壊強度が10N以上となるまで養生する。確実に強度発現するには3日以上の養生期間を設けることが好ましい。圧壊強度が10Nより小さいとロータリーキルン内で粉状化する可能性が高い。この造粒原料をロータリーキルンに送入し、焼点温度1250℃以上、好ましくは1350〜1500℃で焼成する。焼成温度が1250℃より低いとエーライトの結晶成長が十分ではなく、またビーライトの結晶も残存し、遊離石灰の結晶も十分に成長しないため、良好な膨張性能が得られない。なお、焼成時間(ロータリーキルン内の滞留時間)は焼成釜の諸条件にもよるが30分〜90分程度が好ましい。焼成時間の長いほうが遊離石灰の結晶が大きくなり、安定した高い膨張性能が得られる。
【0020】
造粒に使用する水分量は、混合原料粉末100質量部に対して5〜25質量部の水量が好ましく、10〜20質量部がより好ましい。添加水分量が5質量部より少ないと混合原料粉末が分散され難く、安定した造粒物が成型できず、また造粒物の水和が十分でないため、熱間磨り減り抵抗性に劣り粉状化する。一方、水分量が25%より多いと水分過多となり、均一な造粒物を得るのが難しい。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。
〔実施例1・比較例1〕
表1に示す使用材料を用い、表2に示す配合比に従って原料粉体を調製し、この混合原料に散水しながら表2の水分量に調整し、パン型造粒機を用いて粒径10mm程度の造粒物を形成し、3日または7日養生した。養生日数3日、7日の造粒物について、圧壊強度、落下強度、熱間磨減り度を測定した。測定方法を表3に示し、測定結果を表4に示した。
【0022】
表4に示すように、石灰石粉末とセメント粉末を混合した原料を用いた造粒物(A1〜A4)の圧壊強度は、セメント粉末を入れない造粒物(B1〜B3)に比較して、格段に大きい。この圧壊強度は養生材齢および石灰石粉末の粉末度に比例して大きくなることがわかる。圧壊強度が大きくなるにつれて、落下強度も強く、熱間磨り減り抵抗性も向上する。従って、セメントの水和反応によって原料造粒物の強度が上がり安定化され、ロータリーキルンに挿入されても落下や回転による粉状化が、顕著に抑制されることが確認された。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
【表4】

【0027】
〔実施例2・比較例2〕
表2の配合比に従って調合した混合原料を造粒した後、3日間養生したものを実験用ロータリーキルン(内径全長:8300mm、内径幅:450mm)に送入し、1200℃〜1500℃で60分間、焼成してクリンカ組成物を製造した。このクリンカ組成物について、焼結性の指標となるビーライト(C2S)の残存性、遊離石灰の状態と結晶径を測定した。さらに、1日材齢〜7日材齢の試料について膨張性を測定した。測定方法を表5に示し、測定結果を表6に示した。
【0028】
表6に示すように、本発明試料(C1〜C9)は、遊離石灰の結晶径が20μm以上であり、ビーライト(C2S)結晶も殆んど残存せず、一方、エーライト(C3S)の結晶成長は良好であり、生石灰を主原料とした二段焼成と同等の焼結性が得られた。一方、比較試料(D1〜D6)では、焼成温度が1200℃の試料(D1〜D2)は、遊離石灰系の結晶径は4〜6μmと著しく小さく、エーライトの結晶も小さく、ビーライトも多数残存しており、焼成度が低い。また、セメントを配合しない比較試料(D3〜D6)は、遊離石灰系の結晶径は10〜14μm程度であり、エーライトの結晶も小さく、残留するビーライト結晶も多く、焼成度が低い。また、本発明試料(C1〜C9)の膨張性能は比較試料(D1〜D6)に比べて概ね2〜3倍であり、高い膨張性を示有している。
【0029】
【表5】

【0030】
【表6】

【0031】
〔実施例3・比較例3〕
表2の配合比に従って調合した原料について、実施例1と同様に造粒して3日間養生した原料造粒物と、造粒をしない原料粉末とを実験用ロータリーキルン(内径全長:8300mm、内径幅:450mm)に送入して焼成し、歩留まりを測定した。焼成温度1400℃とし、歩留まりは表6に示す方法によって測定した。この結果を表7に示した。
【0032】
表7に示すように、本発明試料(E1〜E4)の歩留まりは80%以上と良品率が高く、良好な焼結性も確認された。一方、造粒しない比較試料(F1〜F7)では、焼成キルン内における粉状化の影響が大きく、焼結性も劣り歩留まりは50%以下であった。
【0033】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の膨張性組成物は、石灰石を原料として一段焼成によって製造することができ、従来の石灰系膨張材と比較して十分な膨張性能を有しており、しかも粉状化し難く、製造歩留まりが良いので生産効率が向上する。しかも、製造工程において脱炭酸化処理などの特別な処理設備を必要としないので産業上有利に実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石灰石粉末含有原料の焼成物であって、遊離生石灰を内包したエーライトを生成相として含むことを特徴とする造粒膨張性組成物。
【請求項2】
セメント5〜25質量%、石灰石粉末60〜90質量%、およびセメントと石灰石粉末の粉体100質量部に対して水5〜25質量部を含有してなる混合物を造粒し、この造粒物を1250℃以上で焼成することを特徴とする膨張性組成物の製造方法。
【請求項3】
上記混合物を圧壊強度10N以上に造粒して焼成する請求項2に記載する膨張性組成物の製造方法。