説明

膨張注入ボルト及びそれを用いた注入工法

後端部から内圧を加えることができる管状をなし、内圧を加えることで径方向に膨張する膨張部(3)と、内圧を加えることで注入口(7)を開口させる注入口形成部(9A)とを有する膨張注入ボルト(1A)とすることによって、内圧によって膨張部(3)を膨張させて地盤に密着させた後、注入孔形成部(9A)に注入口(7)を開口させ、該注入口(7)を介して地盤に硬化性注入材を注入して地盤強化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトンネル工事における地山の補強工事などにおいて、ロックボルトと注入材の注入管を兼ねて用いられる膨張注入ボルト及びそれを用いた注入工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地山の法面に削孔機で削孔し、この削孔内に注入管を挿入してセメントミルクなどの硬化性注入材を注入した後、削孔内に鋼製ボルト型のロックボルトを挿入し、硬化性注入材の硬化によってロックボルトを定着させると共に、削孔から外部に突出したロックボルトのボルト部に支持プレートを通してナットで締め付けることで補強を行うことが知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−303480号公報 また、硬化性注入材を用いることなく定着させることができるロックボルトとして、先端部が閉鎖され、後端部に供給口を有する管状をなし、中間部に、内圧を加えることで径方向に膨張する膨張部を備えた膨張ボルトが知られている。
【0004】
【特許文献2】特公平2−520号公報 この膨張ボルトは、削孔に挿入した後、内圧を加えることで、塑性変形可能な円管の一部を内側に押し込んだ断面形状をなす膨張部が、径方向に膨張して削孔に密着するものとなっている。
【0005】
しかしながら、硬化性注入材によって定着される鋼製ボルト型のロックボルトの場合、次のような問題がある。
【0006】
削孔周囲の地盤中に硬化性注入材を注入して強化するためには、注入管と削孔開口部間を十分シールして高圧で硬化性注入材を供給し、硬化性注入材を周囲の地盤に十分浸透させる必要があるが、このシールが行いにくいだけでなく、注入管挿入時にシールを施し、注入管引き抜き時にシールを解除しなければならず、作業性が悪い。特に湧水がある場合、せっかく硬化性注入材を注入しても、硬化するまでの間に硬化性注入材が流されてしまい、ロックボルトを定着させにくくなる。また、硬化性注入材が硬化するまでの間に地山の変形を生じやすく、地山の緩み範囲が大きくなりやすい。
【0007】
一方、膨張ボルトの場合、硬化性注入材を用いることなく定着させることができるので、上記のような問題を生じることがない利点がある。
【0008】
しかしながら、この膨張ボルトの場合、周囲の地盤が脆弱である場合、膨張部を膨張させても定着力が不十分で、補強効果が不十分となりやすい問題がある。これは、鋼製ボルト型のロックボルトと同様に、削孔に注入管を用いて硬化性注入材を注入し、周囲の地盤に硬化性注入材を浸透させて強化させることで解決することができるが、このようにすると、上記鋼製ボルト型ロックボルトと同様の問題を生じることになる。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、膨張ボルトの利点をそのままに、硬化性注入材の注入による周囲の地盤強化を容易に図れるようにすることを目的とする。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的のために、本発明は、後端部から内圧を加えることができる管状をなし、内圧を加えることで径方向に膨張する膨張部と、内圧を加えることで注入口を開口させる注入口形成部とを有する膨張注入ボルトを提供するものである。
【0011】
本発明に係る膨張注入ボルトは、内圧を加えることで、膨張部を膨張させて地盤に密着させることができると共に、注入口形成部に注入口を開口させることができる。そして、この地盤への密着と注入口の開口後、本膨張注入ボルトの後端部から硬化性注入材を注入することにより、上記開口部を介して周囲の地盤に硬化性注入材を注入することができる。
【0012】
上記のように、本発明に係る注入膨張ボルトは、膨張部が膨張して地盤に密着し、膨張注入ボルトと地盤間をシールすることができるので、湧水がある場合でも、硬化性注入材料の注入硬化を待たずに止水することが可能である。しかも、上記シールにより、硬化性注入材の漏れを防止することができ、硬化性注入材の注入作業性がよいと同時に、硬化性注入材の注入により周囲の地盤を強化することができるので、脆弱な地盤に対しても良好な定着状態が得られる。
【0013】
また、本発明に係る膨張注入ボルトは、硬化性注入材の注入後、ロックボルトとしてそのまま残されるので、硬化性注入材の注入後も上記シールが維持され、湧水箇所においても、硬化性注入材の流出を防止することができる。更に、本発明に係る膨張注入ボルトは、周囲の地盤が脆弱な場合でも、膨張部を膨張させて地盤に密着させると、硬化性注入材の注入硬化を待たずに、不十分ながらもある程度の補強効果を得ることができるので、硬化性注入材が硬化するまでの間の地山の緩みを抑制することができる。
【0014】
本発明に係る膨張注入ボルトは、注入口形成部として、内圧によって破断する押えスリーブを用いたものと、内圧によって分離するキャップとキャップ用スリーブを用いたものと、その他の構造を用いたものとに大別される。これらの詳細と利点については後述する。
【0015】
また、本発明は、上記本発明に係る膨張注入ボルトを地盤中に挿入し、膨張注入ボルトに内圧を加えて、膨張部の膨張と、注入口の開口とを行った後、膨張注入ボルトに硬化性注入材を供給し、開口した注入口を介して周囲に硬化性注入材を注入する注入工法を提供するものでもある。
【0016】
本発明に係る注入工法は、上記本発明の膨張注入ボルトの特徴を活用した工法であり、上述したように、湧水の早期止水、硬化性注入材の漏れ及び流出の防止、硬化性注入材が硬化するまでの間の地山の緩み抑制などを図りながら、硬化性注入材の注入による地盤強化工事を行うことができるものである。
【0017】
また、本発明に係る注入工法の態様とその他の利点については後述する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明を説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る膨張注入ボルトの第1の例を示す中間部を省略した斜視図、図2は、図1に示される膨張注入ボルトの平面図、図3は、図1に示される膨張注入ボルトの断面図、図4A及び4Bは、図1に示される膨張注入ボルトの先端部の拡大断面図及び拡大正面図である。
【0020】
図1〜図3に示されるように、本例の膨張注入ボルト1Aは、後端部に設けられた口元スリーブ2と、この口元スリーブ2の前方に一体に連なる膨張部3とを備えた管状をなし、口元スリーブ2を介して内圧を加えることができるようになっている。
【0021】
口元スリーブ2は、内圧によっても実質的に拡径しない円管状をなし、膨張部3内の空間に連通して軸方向に開口している。また、口元スリーブ2は、内周面にはねじ部5が形成されており、肉盛り熔接4を介して、膨張部3と一体化されている。このねじ部5は、後述する内圧供給、硬化性注入材の供給、穴あけ具6(図10参照)による注入口7(図8A及び8C参照)の形成作業などに使用する器具が接続されるものとなっている。図示される例におけるねじ部5は口元スリーブ2の内周面に形成されているが、外周面に形成することもできる。
【0022】
膨張部3は、図1の断面部分から分かるように、円管の一部を軸方向に沿って内側に押し込み、湾曲して押し込まれた押し込み部8を有する断面が略C字形をなす構造を有している。この膨張部3は、内圧を加えて押し込み部8を外方に押し出すことで径方向に膨張可能なものとなっている。
【0023】
膨張注入ボルト1Aの膨張部3は、上記膨張を可能にすると共に、内圧を解除した後もこの膨張形状を維持できる塑性変形可能な材料で構成されている。具体的には、鉄、銅、アルミニウム又はこれらの合金などの金属を用いることができるが、一般的には強度に優れることから、鋼管で構成することが好ましい。また、用途によっては、ゴムや合成樹脂などの可撓性材料又はこれらを基材に用いた材料で構成することもできる。
【0024】
本例における膨張部3は、前記口元スリーブ2付近から先端まで連続しており、膨張部3の先端部分は注入口形成部9Aとなっている。注入口形成部9Aは、後述する硬化性注入材を地盤に注入するための注入口7(図8A及び8C参照)を内圧によって形成する箇所で、本例の注入口形成部9Aは、膨張部3の先端部にかしめ付けられた破断可能な押えスリーブ10と、この押えスリーブ10がかしめ付けられた領域の膨張部3に形成された脆化部(図面上は他の部分と区別されていない)と、膨張部3の先端開口部を閉塞している熔接部11(図3及び図4A、4B参照)を備えたものとなっている。
【0025】
膨張部3の先端部にかしめ付けられた押えスリーブ10の両端縁には、膨張部3に形成された押し込み部8の押し込み口(略C字形形状の不連続部)上に対応する位置にスリット12が形成されている。このスリット12は必須のものではないが、後述する押えスリーブ10の破断圧力を調整しやすくするために設けることが好ましい。押えスリーブ10は、膨張部3を構成する材料と同じ材料で構成することができるが、後述する破断圧力を調整するために、異なる材料で構成することもできる。
【0026】
膨張部3の先端開口部は、特に図4A及び図4Bに示されるように、押し込み部8が押し出されることによる拡径を抑制可能な熔接部11で閉塞されている。この熔接部11は、膨張部3の先端の略C字形形状に沿って、押し込み部8の押し込み口を連結することなく、膨張部3の先端と押えスリーブ10間に跨って、膨張部3の先端開口を覆って形成されている。従って、膨張部3に内圧が加わると、図4Bに矢印で示されるように、膨張部3の先端は、拡径はしないが、押し込み口から左右に開く力が加わり、前記スリット12を介して押えスリーブ10を破断することができるようになっている。
【0027】
上記押えスリーブ10がかしめ付けられている膨張部3の先端部分の一部又は全部は、物理的又は化学的に脆弱化された脆化部(図面上は他の部分と区別されていない)となっている。この脆化部は、上記押えスリーブ10の破断に伴って破裂して注入口7(図8A及び8C参照)を開口させることができるよう、裂けや割れを生じやすくした部分をいう。
【0028】
上記脆化部は、例えば絞り加工などで加工硬化させて脆弱化させること、加熱又は冷却処理して脆弱化させること、水素ガスやアセチレンガスで脆弱化すること、浸炭処理や酸又はアルカリ処理で脆弱化させること、これらの組み合わせなどで形成することができる。例えば、押えスリーブ10をかしめ付け、当該部分の膨張部3を縮径させることで、加工硬化による脆化部を形成することができる。また、熔接部11を形成する時の熱によって脆化部を形成することもできる。
【0029】
本例においては、その形成時の加工硬化によって脆弱化している押し込み部8の底部付近を、押えスリーブ10を膨張部3が縮径されるまでかしめ付けると共に熔接部11を設けることにより更に加工硬化させ、脆化部としたものとなっている。また、押し込み部8の底部付近は、後述するように、押えスリーブ10の破断によって大きな力がかかりやすいことから、脆化部とする位置として好ましい。
【0030】
本例の膨張注入ボルト1Aは、膨張部3の後端部寄りと先端部寄りの外周面にシール材13が巻き付けられたものとなっている。このシール材13としては、ゴム、エラストマーなどの弾性材料の他に、織布、不織布などの布帛を用いることもできる。シール材13が膨張部3の膨張に追従できる弾性材料である場合には、シール材13を膨張部3の外周面に密着させておくこともできるが、布帛などを用いる場合には、膨張部3の膨張を許容できる程度に緩く巻き付けておくことが好ましい。また、押し込み部8の窪みも埋めることができるようにしておくことが好ましい。
【0031】
上記シール材13を設けておくと、膨張部3がその膨張に伴ってシール材13を介して地盤に密着することになるので、シール性を向上させることができ、硬化性注入材の漏れ防止や湧水の止水が一層確実となる。本例においては、後端部寄りと前端部寄りの2箇所にシール材13が設けられているが、後端部寄りのシール材13のみとしたり、3箇所以上にシール材13を設けることもできる。
【0032】
なお、本例の膨張注入ボルト1Aは、口元スリーブ2より前方が一連の膨張部3となっているが、図示される膨張部3の後端部や先端部を適宜の長さに亘って単なる管材とし、膨張部3を先端部側や後端部側に片寄せて設けたり、複数の膨張部3を軸方向に相互に連通状態で管材で連結することで、複数の膨張部3を有する膨張注入ボルト1Aとすることもできる。
【0033】
次に、上記図1〜図4A、4Bで説明した膨張注入ボルト1Aを用いた本発明の注入工法の一例について説明する。
【0034】
図5〜図9は、本発明の注入工法の手順の第1の例を示す図で、図5は、削孔の形成工程を示す図、図6A及び図6Bは、削孔への膨張注入ボルトの挿入工程を示す図で、図6Aは、削孔へ挿入された膨張注入ボルトを示す図、図6Bは、図6Aにおける膨張部の拡大断面図、図7A及び図7Bは、膨張注入ボルトの膨張工程を示す図で、図7Aは、削孔中で膨張部が膨張した膨張注入ボルトを示す図、図7Bは、図7Aにおける膨張部の拡大断面図、図8A〜図8Cは、注入口形成工程を示す図で、図8Aは、削孔中で注入口が開口された膨張注入ボルトを示す図、図8Bは、注入口の開口直前の注入口形成部付近の拡大斜視図、図8Cは、注入口が開口した注入口形成部付近の拡大斜視図、図9は、硬化性注入材の注入工程を示す図である。これらの図において前記図1〜図4A、4Bと同じ符号は同じ部材又は部位を示すものである。
【0035】
まず、図5に示されるように、削孔ドリル14で所要深さの削孔15を形成する。
【0036】
削孔15の形成後、図6Aに示されるように、上記削孔15に膨張注入ボルト1Aを先端側(注入口形成部9A側)から差し込んで地盤に挿入する。この状態において膨張注入ボルト1Aは、図6A及び図6Bに示されるように、膨張部3が膨張しておらず、膨張部3及びシール材13の周囲に余裕のある状態で削孔15内に挿入されている。
【0037】
なお、膨張注入ボルト1Aの地盤への挿入に際しては、削孔15の形成は必須のものではなく、例えば粘土質などの軟弱な地盤に対しては、削孔15を形成することなく、油圧機械などで直接押し込むことで、膨張注入ボルト1Aを地盤に挿入することもできる。
【0038】
図6Aに示される16は、後述する圧送ホース17(図7A参照)を連結するためのアタッチメントで、膨張注入ボルト1A内に圧力を供給するための供給孔18を有しており、この供給孔18に連通した状態で圧送ホース17を接続できるものとなっている。アタッチメント16は、膨張注入ボルト1Aの口元スリーブ2に設けられたねじ部5にねじ込み部44がねじ込まれて取り付けられるものとなっている。このアタッチメント16の取り付けは、膨張注入ボルト1Aを削孔15に挿入する前に行っても、挿入後に行ってもよい。
【0039】
次に、図7Aに示されるように、上記アタッチメント16に圧送ホース17を連結し、圧送ホース17からアタッチメント16を介して膨張注入ボルト1Aに内圧を加える。この内圧は流体圧として加えられる。例えば圧縮空気などの加圧気体によって行うこともできるが、一般的には、大きな圧力をかけやすい加圧液体、特に加圧水が好ましい。
【0040】
膨張注入ボルト1Aは、図7Bに示されるように、上記内圧によりその膨張部3が径方向に膨張し、削孔15の内周面に密着することから、削孔15からの湧水がある場合でも、これを止水することが可能となる。特にシール材13が設けられた箇所では、このシール材13が密着状態を高めるので、止水効果を一層高めることができる。また、この膨張部3の膨張により、周囲の地盤が脆弱な場合でも、ある程度の膨張注入ボルト1Aの定着力が得られる。
【0041】
上記膨張部3の膨張は、注入口形成部9Aに注入口7(図8A及び8C参照)が開口する圧力より低い圧力で行うことが好ましい。具体的には、所望の膨張を得るのに必要な最低圧力より高く、注入口形成部9Aに、図8A及び図8Cに示される注入口7を開口させる圧力より低い圧力で行うことが好ましい。膨張部3が膨張し終わらないうちに注入口7が開口してしまうと、内圧漏れを生じ、この漏れ以上の内圧を供給(加圧水を供給)することが必要となり、膨張作業が行いにくくなる。
【0042】
膨張注入ボルト1Aの膨張部3を必要量膨張させた後、更に高い圧力を供給することで、注入口形成部9Aに、図8A及び図8Cに示される注入口7を開口させる。
【0043】
上記注入口形成部9Aにおける注入口7の開口メカニズムについて説明する。
【0044】
まず、図4A、4Bで説明したように、本例における膨張部3の先端部は、拡径はしないが、押し込み部8の押し込み口から左右に開く力が加わり、これによって、前記スリット12を介して押えスリーブ10を破断できるようになっている。このため、膨張を得るのに必要な圧力より更に高い圧力を供給すると、図8Bに示されるように、膨張部3の先端は、前記スリット12を介して押えスリーブ10を破断して左右に開き、熔接部11が押えスリーブ10の変形に追従変形しながら押し込み部8(図1参照)の底部が露出する。そして、内圧によって、押し込み部8の底部付近であった箇所に、図中矢印で示す方向の力が作用する。従って、この力が作用することになる、押し込み部8の底部付近に形成された前記脆化部が破裂し、図8Cに示される注入口7が開口することになる。前述のように、特に、押し込み部8の底部付近は、形成時の加工硬化によって脆弱化していると共に、押えスリーブ10が破断すると大きな力がかかりやすいことから、脆化部として適している。
【0045】
上記注入口7の開口後、必要に応じて内圧を解除してから(加圧用の水を排出してから)、圧送ホース17を介して、アタッチメント16を付けたまま、又はアタッチメント16を外して口元スリーブ2から、硬化性注入材を供給する。この硬化性注入材としては、例えばセメント水懸濁液、ベントナイト−水ガラス懸濁液、水ガラス水溶液、クロムニグリン水溶液、尿素樹脂水溶液、アクリルアミド水溶液、アクリル酸塩系水溶液、ウレタン樹脂液などを用いることができ、地盤の性状などに応じて選択することができる。
【0046】
この硬化性注入材の注入に際しては、前記のように、地盤と膨張注入ボルト1A間の隙間がシールされているので、硬化性注入材が漏れ出てしまうのを抑制でき、図9に示されるように、所望の硬化性注入材注入領域19を確実に得ることができる。また、注入完了後も膨張注入ボルト1Aはロックボルトとしてそのまま残されるので、湧水があっても、前記膨張部3の膨張によるシールによって硬化性注入材の流出を防止することができ、確実に必要な領域の地盤改良を図ることができる。
【0047】
硬化性注入材の注入は、単一種類の硬化性注入材を注入することで行ってもよいが、途中で硬化性注入材の種類を切り換えて複数種類の硬化性注入材を注入することもできる。複数種類の硬化性注入材の組み合わせ例としては、最初に浸透性のよい硬化性注入材を注入して広い範囲への注入を促進した後、浸透性は劣るが硬化後の強度の高い硬化性注入材を注入して周囲の強度を向上させることや、湧水のある場所において、最初に硬化時間(ゲルタイム)の短い硬化性注入材を注入して湧水を抑制した後、硬化時間の長い硬化性注入材を注入して周囲への浸透を図ることなどを挙げることができる。
【0048】
上記の例では、注入口形成部9Aが押えスリーブ10を備えたものとなっているが、押えスリーブ10を設けない構成とすることもできる。つまり、押えスリーブ10を設けない以外、前記と同様の構成のとすることもできる。しかし、注入口7(図8A及び図8C参照)の形成圧力を調整しやすくするために、押えスリーブ10を設け、所定圧力以上となったときに押えスリーブ10が破断して脆化部に大きな力が作用する構成としておくことが好ましい。
【0049】
図10は、注入口形成工程の他の例を示す図で、符号は要部のみを示す。
【0050】
本例においては、図5〜図7A、7Bで説明した削孔工程、挿入工程及び膨張工程の後、圧送ホース17及びアタッチメント16を膨張注入ボルト1Aの口元スリーブ2から外し、これらに代えて、棒状の穴あけ具6を口元スリーブ2から膨張注入ボルト1A内に挿入し、穴あけ具6を作動する作動装置20を口元スリーブ2に取り付け、穴あけ具6で膨張注入ボルト1Aの先端部を突いて、注入口7を開口させるものとなっている。このようにすると、万一圧力を高めても注入口形成部9Aに注入口7が形成できなかった場合でも、確実に注入口7を形成することができる。また、このような注入口形成工程とすると、予め注入口形成部9Aを設けておかなくても、膨張工程後、穴あけ具6で強制的に注入口7を形成することで、図9に示されるその後の注入工程を行うことができる。
【0051】
上記穴あけ具6としては、単なる棒状体の他、先端の鋭利な棒状体や、ドリル状の棒状体などを用いることができ、作動装置としては、油圧装置などを用いることができる。穴あけ具6を用いる場合、膨張注入ボルト1A内に挿入しやすいよう、後端部の開口が軸方向に大きくあいていることが好ましいが、後端部の開口が小さな膨張注入ボルト1Aの場合、膨張工程後、後端部を切断して開口部を広げて穴あけ具6を挿入することもできる。特に口元スリーブ2にねじ部5を形成しておくと、油圧ジャッキなどの作動装置20をねじ接続して反力を取り、穴あけ具6に押し込み力を的確に作用させることができる。
【0052】
図11は、注入口形成部の第2の例を示す断面図である。
【0053】
本例の注入口形成部9Bは、膨張部3に予め形成した注入口7を栓体21で閉塞したものとなっている。
【0054】
上記注入口形成部9Bの場合、例えば、この栓体21を、膨張部3を構成する材料より延性の小さい材料で構成し、栓体21と膨張部3を熔接などで一体化しておくと、膨張部3の膨張時に栓体21部分に応力が集中し、更に圧力を高めたときに破裂し、注入口7を開口させることができる。また、栓体21を、所要の内圧で外れるねじ込み式としたり、内圧の供給に加圧水を使用する場合、栓体21を水溶性の接着剤で膨張部3に一体化しておき、供給される加圧水で接着力を弱めて破裂させることもできる。この栓体21による注入口形成部9Bは、膨張部3の先端部だけでなく、膨張部3の後端寄りや中間部にも容易に設けることができる。
【0055】
図12は、注入口形成部の第3の例を示す断面図である。
【0056】
本例の注入口形成部9Cは、膨張部3の先端に連なって、内圧によって実質的に拡径しない管状の蓋材保持部22を設け、蓋材保持部22の先端開口を注入口7とし、この注入口7を、蓋材保持部22の先端に環状キャップ23で取り付けた蓋材24で閉塞したものとなっている。
【0057】
上記注入口形成部9Cの場合、蓋材24を所要の内圧で割れる強度としておき、膨張部3の膨張後、内圧を高めてこの蓋材24を割って注入口7を開口させることができる。また、この蓋材24は、図10で説明した穴あけ具6で突き破りやすいことから、本注入口形成部9Cは、特に、図10で説明した注入口形成工程の他の例に適している。
【0058】
図13は、注入口形成部の第4の例を示す断面図である。
【0059】
本例の注入口形成部9Dは、図1〜図4A、4Bで説明したものと同様の押えスリーブ10を用いたもので、膨張部3に予め形成した注入口7に対応する位置に押えスリーブ10をかしめ付け、この押えスリーブ10で注入口7を閉鎖したものとなっている。また、押えスリーブ10は、両端にスリット12が形成されている。
【0060】
上記注入口形成部9Dの場合、膨張部3の膨張時に、押えスリーブ10をかしめ付けた部分の膨張を抑制し、この部分を大きく膨張させることなく他の膨張部3を膨張させた後、更に内圧を高め、押えスリーブ10を破断することで注入口7を開口させることができる。また、押えスリーブ10が破断するまでの注入口7の閉鎖状態を確実にするために、押えスリーブ10と膨張部3との間に、注入口7をシールするパッキン(図示されていない)を介在させることもできる。本例の注入口形成部9Dは、膨張部3の先端部だけでなく、膨張部3の後端寄りや中間部にも容易に設けることができる。
【0061】
図14は、本発明に係る膨張注入ボルトの第2の例を示す中間部を省略した斜視図、図15は、図14に示される注入口形成部を開口させるための内圧をパッカーを用いて局部的に加える場合の説明図で、符号は要部のみを示す。
【0062】
本例の膨張注入ボルト1Bは、先端が閉鎖キャップ25で閉鎖されていると共に、膨張部3の中間部に、予め形成した注入口7に栓体21を嵌め込んだ注入口形成部9B(図15参照)が、軸方向に適宜の間隔をあけて複数設けられている。この注入孔形成部9Bは、膨張部3が膨張した後に内圧を高めることで、栓体21がはじけ飛んで注入口7を開口させるもで、図11で説明したものと同様である。
【0063】
ところで、図14に示されるような複数の注入口形成部9Bを有する膨張注入ボルト1Bの場合、内圧によって総ての注入口形成部9Bの注入口7(図15参照)が同時に開口せずに、それぞれ開口時期がずれ、開口した注入口7からの内圧の逃げによって、総ての注入口7を開口させられなくなることが生じ得る。注入口7を開口させるときの内圧の逃げを防止すると共に、一部の注入口7のみを選択的に開口させることができるようにするために、図15に示されるように、パッカー26を用いて局部的に内圧を加えることが好ましい。
【0064】
更に説明すると、まず、膨張部3を膨張させるに必要な内圧を加え、膨張部3を図7Bに示されるように膨張させる。これによって押し込み部8が延び、膨張部3の内部空間が広がって円形に近づく。この状態で、図14に示される口元スリーブ2より、図15に示される、前後にパッカー26が付いた注入管27(ダブルパッカー付注入管)を膨張注入ボルト1B内に挿入する。
【0065】
パッカー26は、例えば加圧水などの加圧流体によって膨張させることができる袋体で、両パッカー26間に注入口形成部9Bを挟む位置で、両パッカー26に流体圧を加えて膨張させ、注入口形成部9Bを挟んで膨張注入ボルト1Bの軸方向前後をシールする。この状態で両パッカー26に挟まれた領域に注入管27から加圧流体を供給し、膨張注入ボルト内1Bを局部的に加圧すると、両パッカー26で挟まれた位置の注入口形成部9Bの注入口7を確実かつ選択的に開口させることができる。また、パッカー26付の注入管27は、パッカー26の圧力を解除することで、膨張注入ボルト1Bの軸方向に容易に移動することができる。
【0066】
上記のようにして複数の注入口形成部9Bから選択的に注入口7を開口させると、複数の注入口7を確実に総て開口させることができるだけでなく、一部の注入口7のみを選択的に開口させたり、異種の硬化性注入材を異なる注入口7を介して注入することもできる。例えば、先端部寄りの注入口7のみを開口させて硬化性注入材を注入した後、膨張注入ボルト1B内の硬化性注入材を、未硬化のうちに洗い流すか、硬化した後に削孔して取り除き、次いで後端部寄りの注入口7を開口させ、必要に応じて先端部側に詰め物を施してから、異種の硬化性注入材を注入することで、膨張注入ボルト1Bの軸方向に異なる種類の硬化性注入材を注入することができる。また、前記パッカー26を用いた局部加圧により、膨張が不十分な膨張部3を再膨張させることもできる。
【0067】
図16は、本発明に係る膨張注入ボルトの第3の例を示す中間部を省略した斜視図で、符号は要部のみを示す。
【0068】
本例の膨張注入ボルト1Cは、先端に削孔ビット28を有するものとなっている。
【0069】
上記削孔ビット28を設けておくと、この削孔ビット28を用いて削孔15(図5参照)を形成しながら同時に膨張注入ボルト1Cを当該削孔15へ挿入することができ、作業時間の短縮を図ることができる。
【0070】
次に、本発明に係る膨張注入ボルトの第4の例について説明する。
【0071】
図17は、本発明に係る膨張注入ボルトの第4の例を示す図、図18A及び図18Bは、図17に示される膨張注入ボルトの後端部(硬化性注入材の供給側)及び先端部(削孔の最深部側)の断面図、図19A〜図19Cは、図18A及び図18Bに示されるA−A′,B−B′,C−C′の各断面図である。
【0072】
図17及び図18A、18Bに示されるように、本例の膨張注入ボルト1Dは、膨張部3と、キャップ用スリーブ29及びキャップ用スリーブ29の先端を塞ぐキャップ30からなる注入口形成部9Eとを有している。
【0073】
また、膨張部3の先端部と後端部には、それぞれ先端スリーブ31と後端スリーブ32がかしめ付けられている。先端スリーブ31には、注入口形成部9Eのキャップ用スリーブ29の後端部が熔接部33により一体化され、後端スリーブ32には、熔接部34により口元スリーブ2が一体化されている。口元スリーブ2は、内側にねじ部5が形成されたもので、図1〜図4A、4Bで説明した例と同様である。なお、35は膨張注入ボルト1Dを地盤に固定する際のプレート36(図28A参照)を取り付けるための凸部である。
【0074】
本例の膨張注入ボルト1Dの膨張部3は、図19Bに示す断面図から明らかなように、円管の一部を軸方向に沿って内側に押し込み、円管内に一部が押し込まれた押し込み部8を有する略C字形をなしている。よって、膨張部3は、内部空間に内圧を加えることで、押し込み部8を外方に押し出し、径方向に膨張可能なものとなっている。
【0075】
図19Aに示すように、膨張部3の後端部は、膨張注入ボルト1Dに内圧を加える際に該内圧が外部へ漏れないようにすると共に拡径を抑えるために、溶接部37により、押し込み部8と後端スリーブ32との間の外部空間が埋められている。また、図19Cに示すように、膨張部3の先端部は、拡径を抑えるために、溶接部38により、押し込み部8と先端スリーブ31との間の外部空間が埋められている。
【0076】
本例の膨張注入ボルト1Dの膨張部3の構成材料は、図1〜図4A、4Bで説明した膨張注入ボルト1Aと同様である。
【0077】
本例の膨張注入ボルト1Dの先端部に取り付けられた、キャップ用スリーブ29とキャップ30からなる注入口形成部9Eは、一体成形体であり、キャップ用スリーブ29とキャップ30間の肉厚が薄く形成されており、内圧によって、該薄肉部が破断し、キャップ30がキャップ用スリーブ29と分離して、膨張注入ボルト1Dの先端部に注入口7を開口させることができるものとなっている。
【0078】
キャップ用スリーブ29及びキャップ30としては、前記膨張部3と同様の素材を用いることができ、所定の内圧、具体的には、膨張部3の膨張時よりも高い内圧によってキャップ用スリーブ29からキャップ30が分離するように構成されていればよい。また、膨張部3との接続形態も、溶接に限定されるものではない。
【0079】
図20〜図22に、本発明で用いることができる、キャップ用スリーブとキャップからなる注入口形成部の異なる構成例の断面図を示す。
【0080】
図20の注入口形成部9Eは、内側にねじ切りを施した金属製のキャップ用スリーブ29内に、外側にねじ切りを施した合成樹脂製のキャップ30を螺合したものとなっている。図21の注入口形成部9Eは、外側にねじ切りを施した合成樹脂製のキャップ30を、キャップ用スリーブ29内に埋め込まれるように螺合される形状とし、運搬や作業途中の衝突等によるキャップ30の損傷を防止しやすくしたものとなっている。図20及び図21の注入口形成部9Eは、いずれも、キャップ30を構成する合成樹脂の可撓性、弾性を利用してキャップ30がキャップ用スリーブ29から分離されるようにした形態である。また、図22は、外側にねじ切りを施した合成樹脂製のキャップ29の先端部の肉厚を薄く形成し、内部にボール39を配置しておいて、内圧によって該ボール39が外部に飛び出して注入口7を開口させる形態である。上記図20〜図22に示されるようなキャップ30を構成する合成樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネートなどを用いることができる。
【0081】
キャップ用スリーブ29とキャップ30とからなる注入口形成部9Eを用いた膨張注入ボルト1Dは、2本又は3本以上接続して延長できるように改良することが容易であることも特徴の一つである。これを図23〜図25A、25Bを用いて説明する。
【0082】
図23は、接続延長後に後端側となる膨張注入ボルトの先端部の断面図、図24は、接続延長後に先端側となる膨張注入ボルトの後端部の断面図、図25A及び図25Bは、延長可能な膨張注入ボルトの接続部の説明図で、図25Aは、2本の膨張注入ボルト部の接続部の断面図、図25Bは、2本の膨張注入ボルト部の接続部の外観図である。
【0083】
図23に示すように、図17の膨張注入ボルト1Dの先端スリーブ31に、キャップ用スリーブ29及びキャップ30の代わりに、ねじ切りを施した延長用先端スリーブ40を熔接部33で取り付け、接続延長後に後端側となる後端側膨張注入ボルト部1D′とする。一方、図24に示すように、もう1本の膨張注入ボルト1Dの後端スリーブ32に、口元スリーブ2の代わりに、上記延長用先端スリーブ40のねじ切りに対応したねじ切りを施した延長用後端スリーブ41を熔接部34で取り付け、接続延長後に先端側となる先端側膨張注入ボルト部1D″とする。
【0084】
図25Aに示すように、延長用先端スリーブ40と延長用後端スリーブ41とを螺合することにより、後端側膨張注入ボルト部1D′と先端側膨張注入ボルト部1D″は、流路42,43により内部空間を連続した状態で接続され、一連の膨張注入ボルト(図示されていない)を構成する。
【0085】
キャップ用スリーブ29とキャップ30とで構成された注入孔形成部9Eを用いた膨張注入ボルト1Dは、2本の接続による延長だけでなく、3本以上を接続して延長できるように改良することも容易である。
【0086】
即ち、図17の膨張注入ボルト1Dの先端部に、キャップ用スリーブ29及びキャップ30の代わりに、延長用先端スリーブ40を取り付け、同じ膨張注入ボルト1Dの後端部に、口元スリーブ2の代わりに延長用後端スリーブ41を取り付けたものを、延長用中間部の中間膨張注入ボルト部として用意し、この中間膨張注入ボルト部を1本以上、図23及び図24に示した後端側膨張注入ボルト部1D′と先端側膨張注入ボルト部1D″の間に配置することにより、所望の本数分延長することができる。本発明においては、延長用の部材としては延長用先端スリーブ40と延長用後端スリーブ41の2種類を別途用意するだけで良く、また、延長作業は、延長用先端スリーブ40と延長用後端スリーブ41を螺合するだけであるから、現場で行うことができ、現場までは延長前の長さで搬送することができる。
【0087】
次に、図17で説明した膨張注入ボルト1Dを用いた本発明の注入工法について、図26A、26B〜図30を用いて説明する。
【0088】
図26A及び図26Bは、それぞれ、膨張注入ボルトに取り付けて用いるアタッチメントの構成例を示す断面図、図27は、削孔の形成工程を示す図、図28A及び図28Bは、削孔への膨張注入ボルトの挿入工程を示す図で、図28Aは、削孔へ挿入された膨張注入ボルトを示す図、図28Bは、図28AにおけるA−A′断面図、図29A及び図29Bは、膨張注入ボルトの膨張工程を示す図で、図29Aは、削孔中で膨張部が膨張した膨張注入ボルトを示す図、図29Bは、図29AのA−A′断面図、図30は、注入口形成工程を示す図で、更に高い内圧を加えてキャップを分離させた状態を示す図である。
まず、図27に示すように、地盤に削孔15を形成する。削孔15の形成には、一般に用いられているドリルジャンボの削孔オーガー等を用いればよい。
【0089】
削孔15の形成後、図28Aに示すように、上記削孔15に、プレート36を凸部35の位置まで差し込んだ膨張注入ボルト1Dを、先端側(キャップ30側)から差し込んで地盤に挿入する。この状態において、図28A及び図28Bに示すように、膨張注入ボルト1Dの膨張部3は膨張しておらず、膨張部3と削孔15の内壁との間に余裕のある状態で削孔15内に挿入されている。
【0090】
次いで、図29Aに示すように口元スリーブ2にアタッチメント16を取り付け、該アタッチメント16に圧送ホース(不図示)を連結して膨張注入ボルト1D内に内圧を加える。この内圧は流体圧として加えられる。例えば圧縮空気などの加圧気体によって行うこともできるが、一般的には、大きな圧力をかけやすい加圧液体、特に加圧水が好ましい。
【0091】
図26Aに示されるように、本アタッチメント16は、ねじ込み部44を有するもので、このねじ込み部44を図17の口元スリーブ2に螺合することで膨張注入ボルト1Dに取り付けることができるものとなっている。アタッチメント16は、膨張注入ボルト1D内に圧力を供給するための供給孔18を備えており、この供給孔18に連通した状態で圧送ホース(不図示)を接続できるものとなっている。アタッチメント16の取り付けは、膨張注入ボルト1Dを削孔15に挿入する前に行っても、挿入後に行っても良い。また、図26Bに示されるように、口元スリーブ2を用いず、後端スリーブ32に、ねじ込み部44を有さないアタッチメント16′を直接熔接しておくこともできる。
【0092】
膨張注入ボルト1Dは、図29Bに示されるように、上記内圧により、その膨張部3が径方向に膨張し、削孔15の内壁に密着することから、削孔15からの湧水がある場合でも、これを止水することが可能である。また、この膨張部3の膨張により、周囲の地盤が脆弱な場合でも、ある程度の膨張注入ボルト1の定着力が得られる。
【0093】
上記膨張部3の膨張は、キャップ30がキャップ用スリー29から分離する圧力よりも低い圧力で行うことが好ましい。膨張部3が十分に膨張し終わらないうちにキャップ30がキャップ用スリーブ29から分離してしまうと、その開口部から内圧漏れを生じ、この漏れ以上の内圧を供給(加圧水を供給)することが必要となり、膨張作業が行いにくくなる。
【0094】
膨張注入ボルト1Dの膨張部3を必要量膨張させた後、さらに高い圧力を供給することで、図30に示すように、キャップ30をキャップ用スリーブ29から分離し、膨張注入ボルト1Dの先端に注入口7を開口させる。
【0095】
その後、必要に応じて内圧を解除してから(加圧水を排出してから)、圧送ホース(不図示)を介してアタッチメント16を付けたまま、又はアタッチメント16を外して口元スリーブ2から、硬化性注入材を供給する。この硬化性注入材は、第1の例に係る膨張注入ボルトを用いた注入工法の例において説明したとおりである。
【0096】
この硬化性注入材の注入に際しては、前記のように、地盤と膨張注入ボルト1D間の隙間がシールされているので、硬化性注入材が外部へ漏れ出てしまうのを抑制でき、削孔15の最深部に向けて硬化性注入材を注入することができる。また、注入完了後も、膨張注入ボルト1Dはロックボルトとしてそのまま残されるので、湧水があっても、前記膨張部3の膨張によるシールによって硬化性注入材の流出を防止することができ、確実に必要な領域の地盤改良を図ることができる。
【0097】
本例においても、硬化性注入材の注入は、単一種類の硬化性注入材を注入することで行っても良いが、途中で硬化性注入材の種類を切り替えて複数種類の硬化性注入材を注入することもできる。複数種類の硬化性注入材の組み合わせ例も、第1の例に係る膨張注入ボルトを用いた注入工法の例において説明したとおりである。
【0098】
図31は、本発明の注入工法を用いたトンネル工事における切羽付近の断面図、図32は、切羽の正面図で、101は本発明の膨張注入ボルト、102は硬化性注入材注入領域、103は切羽面である。
【0099】
図示されるように、本発明の膨張注入ボルト101を用いた注入工法は、トンネル工事における切羽面103の地盤安定化、切羽面103付近の天井部の補強及びトンネル内壁を構成するアーチ状コンクリートの脚部補強などに用いることができる。トンネル工事においては、掘った直後の地盤面に膨張注入ボルト101を挿入して硬化性注入材を注入し、既に掘られたトンネルの地盤安定化や、これから掘削する地盤の安定化が図られる。
【0100】
ところで、掘って露出したばかりの地盤面は緩みを生じやすい。従って、硬化性注入材の注入時に膨張注入ボルト101を差し込んだ削孔の口元付近に緩みを生じ、硬化性注入材の漏れを生じやすい。
【0101】
しかし、本発明によれば、前述したように、膨張部を膨張させることでこれを削孔の内面に密着させてシールすることができる。また、同時に湧水をシールすることもできるので、掘削と地盤補強を繰り返しながら行われるトンネル工事における作業を大きく効率化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明に係る膨張注入ボルトの第1の例を示す中間部を省略した斜視図
【図2】図1に示される膨張注入ボルトの平面図
【図3】図1に示される膨張注入ボルトの断面図、
【図4A】図1に示される膨張注入ボルトの先端部の拡大断面図
【図4B】図1に示される膨張注入ボルトの先端部の拡大正面図
【図5】削孔の形成工程を示す図
【図6A】削孔へ挿入された膨張注入ボルトを示す図
【図6B】図6Aにおける膨張部の拡大断面図
【図7A】削孔中で膨張部が膨張した膨張注入ボルトを示す図
【図7B】図7Aにおける膨張部の拡大断面図
【図8A】削孔中で注入口が開口された膨張注入ボルトを示す図
【図8B】注入口の開口直前の注入口形成部付近の拡大斜視図
【図8C】注入口が開口した注入口形成部付近の拡大斜視図
【図9】硬化性注入材の注入工程を示す図
【図10】注入口形成工程の他の例を示す図
【図11】注入口形成部の第2の例を示す断面図
【図12】注入口形成部の第3の例を示す断面図
【図13】注入口形成部の第4の例を示す断面図
【図14】本発明に係る膨張注入ボルトの第2の例を示す中間部を省略した斜視図
【図15】図14に示される注入口形成部を開口させるための内圧をパッカーを用いて局部的に加える場合の説明図
【図16】本発明に係る膨張注入ボルトの第3の例を示す中間部を省略した斜視図
【図17】本発明に係る膨張注入ボルトの第4の例を示す外観図
【図18A】図17に示される膨張注入ボルトの後端部(硬化性注入材の供給側)の断面図
【図18B】図17に示される膨張注入ボルトの先端部(削孔の最深部側)の断面図
【図19A】図18A及び図18Bに示されるA−A′の断面図
【図19B】図18A及び図18Bに示されるB−B′の断面図
【図19C】図18A及び図18Bに示されるC−C′の断面図
【図20】本発明で用いることができる、キャップ用スリーブとキャップからなる注入口形成部の異なる構成例の断面図
【図21】本発明で用いることができる、キャップ用スリーブとキャップからなる注入口形成部の異なる構成例の断面図
【図22】本発明で用いることができる、キャップ用スリーブとキャップからなる注入口形成部の異なる構成例の断面図
【図23】接続延長後に後端側となる膨張注入ボルトの先端部の断面図
【図24】接続延長後に先端側となる膨張注入ボルトの後端部の断面図
【図25A】2本の膨張注入ボルト部の接続部の断面図
【図25B】2本の膨張注入ボルト部の接続部の外観図
【図26A】膨張注入ボルトに取り付けて用いるアタッチメントの構成例を示す断面図
【図26B】膨張注入ボルトに取り付けて用いるアタッチメントの構成例を示す断面図
【図27】削孔の形成工程を示す図
【図28A】削孔へ挿入された膨張注入ボルトを示す図
【図28B】図28AにおけるA−A′断面図
【図29A】削孔中で膨張部が膨張した膨張注入ボルトを示す図
【図29B】図29AのA−A′断面図
【図30】注入口形成工程を示す図で、更に高い内圧を加えてキャップを分離させた状態を示す図
【図31】本発明の注入工法を用いたトンネル工事における切羽付近の断面図
【図32】切羽の正面図
【符号の説明】
【0103】
101 膨張注入ボルト
102 硬化性注入材注入領域
103 切羽面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端部から内圧を加えることができる管状をなし、内圧を加えることで径方向に膨張する膨張部と、内圧を加えることで注入口を開口させる注入口形成部とを有することを特徴とする膨張注入ボルト。
【請求項2】
膨張部が、塑性変形可能な円管の一部を軸方向に沿って内側に押し込んで押し込み部を形成した構造を有することを特徴とする請求項1に記載の膨張注入ボルト。
【請求項3】
先端部が膨張部となっており、注入口形成部が、該膨張部の先端を、押し込み部の押し込み口から左右に開くことを許容すると共に、拡径を抑制可能に閉塞する熔接部と、該熔接部付近の押し込み部に設けられ、内圧によって破裂して注入口を開口させる脆化部とを有することを特徴とする請求項2に記載の膨張注入ボルト。
【請求項4】
注入口形成部が、脆化部に対応する位置の膨張部外周にかしめ付けられ、内圧によって破断して脆化部を破裂させることで注入口を開口させる押えスリーブを有することを特徴とする請求項3に記載の膨張注入ボルト。
【請求項5】
注入口形成部が、膨張部に予め形成された注入口と、該注入口を閉塞し、内圧によって該注入口を開口させる栓体とを有することを特徴とする請求項2に記載の膨張注入ボルト。
【請求項6】
注入口形成部が、膨張部に予め形成された注入口と、該注入口に密着して膨張部外周にかしめ付けられ、内圧によって破断して注入口を開口させる押えスリーブとを有することを特徴とする請求項2に記載の膨張注入ボルト。
【請求項7】
膨張部の外周面にシール材が巻き付けられていることを特徴とする請求項1に記載の膨張注入ボルト。
【請求項8】
後端部が、軸方向に向かって開口する口元スリーブとなっていることを特徴とする請求項1に記載の膨張注入ボルト。
【請求項9】
先端に削孔ビットを有することを特徴とする請求項1に記載の膨張注入ボルト。
【請求項10】
注入口形成部が、後端部が膨張部の先端部に取り付けられたキャップ用スリーブと、該キャップ用スリーブの先端を閉鎖し、内圧を加えることで該キャップ用スリーブから分離するキャップとを有していることを特徴とする請求項2に記載の膨張注入ボルト。
【請求項11】
膨張部の先端部に取り付けられた先端スリーブを有し、該先端スリーブにキャップ用スリーブの後端部が取り付けられていることを特徴とする請求項10に記載の膨張注入ボルト。
【請求項12】
キャップ用スリーブとキャップが一体に成形されており、両者の接続部の肉厚が他の部位より薄く形成されており、内圧を加えることで該接続部が破断してキャップがキャップ用スリーブより分離することを特徴とする請求項10に記載の膨張注入ボルト。
【請求項13】
キャップが合成樹脂製であり、キャップ用スリーブ内に埋没するように取り付けられている請求項10に記載の膨張注入ボルト。
【請求項14】
膨張部の後端部に取り付けられた後端スリーブを有し、該後端スリーブに、後端部が軸方向に向かって開口する口元スリーブが取り付けられていることを特徴とする請求項11に記載の膨張注入ボルト。
【請求項15】
膨張部の先端に延長用先端スリーブが取り付けられた後端側膨張注入ボルト部と、膨張部の後端に延長用後端スリーブが取り付けられた先端側膨張注入ボルト部とに分かれており、後端側膨張注入ボルト部と先端側膨張注入ボルト部が、延長用先端スリーブと延長用後端スリーブを介して、内部空間が連続して接続されていることを特徴とする請求項2に記載の膨張注入ボルト。
【請求項16】
後端側膨張注入ボルト部と先端側膨張注入ボルト部との間に、膨張部の先端と後端に延長用先端スリーブと延長用後端スリーブがそれぞれ設けられた中間膨張注入ボルト部が1本以上接続されていることを特徴とする請求項15に記載の膨張注入ボルト。
【請求項17】
注入口形成部が、膨張部を膨張させるのに必要な最低圧力より高い圧力で注入口を開口させるものであることを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の膨張注入ボルト。
【請求項18】
後端部から内圧を加えることができる管状をなし、内圧を加えることで径方向に膨張する膨張部と、内圧を加えることで注入口を開口させる注入口形成部とを有する膨張注入ボルトを用い、該膨張注入ボルトを地盤中に挿入し、膨張注入ボルトに内圧を加えて、膨張部の膨張と、注入口の開口とを行った後、膨張注入ボルトに硬化性注入材を供給し、開口した注入口を介して周囲に硬化性注入材を注入することを特徴とする注入工法。
【請求項19】
膨張注入ボルトの注入口形成部が、膨張部外周にかしめ付けられ、内圧によって破断して注入口を開口させるスリーブを有しており、膨張部を膨張させた後、更に高い内圧を加えることでスリーブを破断して注入口を開口させることを特徴とする請求項18に記載の注入工法。
【請求項20】
膨張注入ボルトの注入口形成部が、後端部が膨張部の先端部に取り付けられたキャップ用スリーブと、該キャップ用スリーブの先端を閉鎖し、内圧を加えることで該キャップ用スリーブから分離するキャップとを有しており、膨張部を膨張させた後、更に高い内圧を加えることでキャップをキャップ用スリーブから分離して注入口を開口させることを特徴とする請求項18に記載の注入工法。
【請求項21】
後端部に設けられた、軸方向に向かって開口する口元スリーブを介して内圧を加えることができる管状をなし、内圧を加えることで径方向に膨張する膨張部を備えた膨張注入ボルトを用い、該膨張注入ボルトを地盤中に挿入し、膨張注入ボルトに内圧を加えて膨張部を膨張させた後、膨張注入ボルトの口元スリーブから穴あけ具を差し込んで膨張注入ボルトに注入口を形成し、膨張注入ボルトに硬化性注入材を供給し、注入口を介して周囲に硬化性注入材を注入することを特徴とする注入工法。
【請求項22】
先端に削孔ビットを有する膨張注入ボルトを用い、削孔すると同時に当該膨張注入ボルトを削孔に挿入することを特徴とする請求項18に記載の注入工法。
【請求項23】
後端部から内圧を加えることができる管状をなし、内圧を加えることで径方向に膨張する本体と、内圧を加えることでキャップとスリーブとが分離するスリーブ付キャップとを有し、該スリーブ付キャップのスリーブが上記本体の先端部に取り付けられている膨張注入ボルトを用い、該膨張注入ボルトを地盤に形成した削孔に挿入し、膨張注入ボルトに内圧を加えて本体を膨張させた後に、さらに高い内圧を加えて先端部のキャップを分離し、膨張注入ボルト内に硬化性注入材を供給して先端部より削孔内に硬化性注入材を注入することを特徴とする注入工法。
【請求項24】
膨張注入ボルトに供給する硬化性注入材の種類を途中で切り換えることを特徴とする請求項18〜23のいずれかに記載の注入工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図27】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公表番号】特表2007−528456(P2007−528456A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519329(P2006−519329)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001305
【国際公開番号】WO2005/073510
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)