説明

膨潤抑制澱粉および膨潤抑制澱粉の製造方法

【課題】粘度安定性を失わずに、スラリーの加温、多量の架橋剤、長時間の反応を必要とせず、常温付近で微量の架橋剤により短い反応時間で製造できる膨潤が抑制された澱粉の提供。
【解決手段】タピオカ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、馬鈴薯澱粉などの澱粉の水懸濁液にプロピレンオキサイドなどのエーテル化剤を加えて澱粉エーテルを得た後、pH10〜11.5でトリメタリン酸ナトリウム、オキシ塩化リンなどのリン酸架橋剤を加えてリン酸架橋する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は化工澱粉の製造方法に関する技術分野に属し、さらに詳細には、膨潤が抑制された架橋澱粉を効率的且つ容易に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸架橋澱粉は、膨潤が抑制される、最高粘度が高温側に移行する、ブレークダウンが減少し、ついにはブレークダウンが消失する、などの特徴があり、レトルト食品、ソース、スープ、冷凍食品など過酷な条件で処理される食品に主に使用されている。
【0003】
澱粉エーテルは、エーテル結合による置換の為、澱粉エステルより安定で、特に食品用途においては、プロピレンオキサイドをエーテル化剤として澱粉と反応させることがFAO/WHO Joint Expert Committee on Food Additives (JECFA)において認められている。澱粉エーテルの物性は基本的にはアセチル化澱粉などの澱粉エステルと類似面が多いが、エーテル結合がエステル結合よりも酸、アルカリに対して安定であることから、非常に安定な粘性を有する。
【0004】
一方で、消費者の多様なニーズに沿う食品を提供するにあたり、そのニーズに沿った物性を有する新たな化工澱粉が求められている。新たな化工澱粉として複数の化工方法を組み合わせる技術がある。
【0005】
引用文献1は、アセチル処理とエーテル処理という複数の化工を行う技術であり、澱粉の水懸濁液にアセチル化剤を加えてアセチル化し、次いでpH10〜11でオキシ塩化リンを加えてリン酸架橋反応を行うと、より強く架橋した澱粉が得られる技術である。
【0006】
しかしながら、引用文献1の化工澱粉の製造は、リン酸架橋反応時のpH10〜11によってアセチル基が離脱してしまい、アセチル化の効果が全く得られないという問題があった。
【0007】
また、リン酸架橋処理とエーテル化処理による複数処理による澱粉は、リン酸架橋の処理した澱粉にプロピレンオキサイドを添加することによって製造され、従来のリン酸架橋澱粉と比して親水性の向上、糊化開始温度の低下などの新たな特徴を有している。
【0008】
しかしながら、リン酸架橋処理を施す工程では、澱粉スラリーを45℃程度にまで加温する必要である。そこで、環境に配慮し、生産コストの削減や生産効率の向上を図る為、常温付近での反応温度やリン酸架橋剤の削減、反応時間の短縮などが求められている。
【特許文献1】特開平8−143602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
タレ・ソース・缶詰などの用途において、高温高圧下でも崩壊せず、製品の物性を良好に、安定的に保持する澱粉が求められている。特に缶詰におけるレトルト条件は多様であることから、多様な膨潤度をもつ架橋澱粉の製造の製造方法が、この発明の課題である。
【0010】
しかも、その澱粉は置換基が離脱しておらず、粘度が安定なものでなければならない。さらに常温付近での架橋反応が可能であり、架橋剤は少なく、且つ長時間の反応を必要としないことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、澱粉にエーテル化反応を施し、次いで軽度のリン酸架橋反応を施すことによって本発明を完成した。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、膨潤が抑制された任意の架橋度の澱粉を、粘度安定性を失わずに、スラリーの加温、多量の架橋剤、長時間の反応を必要とせず、常温付近で微量の架橋剤により短い反応時間で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に使用される原料澱粉は、市販の澱粉であれば特に制限はないが、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、甘藷澱粉などが例示されるが、特にタピオカ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、馬鈴薯澱粉は製造および入手が簡易であり、最も好ましい。
【0014】
本発明に使用されるエーテル化剤は、アクロレイン、エピクロロヒドリン、プロピレンオキサイドなど例示されるが、プロピレンオキサイドが最も好ましい。
【0015】
本発明に使用されるリン酸化架橋剤は、オキシ塩化リン、無水リン酸、トリメタリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩などが例示されるが、オキシ塩化リンもしくはトリメタリン酸ナトリウムが最も好ましい。
【0016】
澱粉は40重量%程度の水懸濁液とし、温度は澱粉の糊化開始温度以下でなければならないが、エーテル化剤やリン酸架橋剤によって反応の至適温度はそれぞれ若干異なる。pHはエーテル化反応時には9〜11が好ましいが、反応中に澱粉がアルカリによって糊化しないように注意する必要がある。リン酸架橋反応時には10〜11.5が好ましいが、反応中に澱粉がアルカリによって糊化しないように注意する必要がある。
【0017】
水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリを加えてpHを調節する。
【0018】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の内容により技術的範囲が限定されるものではない。
【0019】
図1に、タピオカ澱粉の40重量%スラリーに、澱粉の5.0重量%のプロピレンオキサイドを加え、アルカリ性下、34℃で24時間反応させた後、澱粉の0.10重量%のトリメタリン酸ナトリウムを加え、pH11、45℃で90分反応させた後中和、水洗、脱水、乾燥した1aのRVAチャートと、タピオカ澱粉の40重量%スラリーに、澱粉の0.10重量%のトリメタリン酸ナトリウムを加え、pH11、45℃で90分反応させた後、澱粉の5.0重量%のプロピレンオキサイドを加え、アルカリ性下、34℃で24時間反応させた後中和、水洗、脱水、乾燥した1bのRVAチャートを示した。RVAチャートより、1bよりも1aのほうが、ブレークダウンがなく、低粘度であったことから、より膨潤が抑制されていることが分かった。
【0020】
架橋剤は、トリメタリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、オキシ塩化リン、エピクロロヒドリンなどが例示される。
【0021】
よって、先にリン酸架橋してからエーテル化するよりも、先にエーテル化してからリン酸架橋するほうが、架橋が強くなると言えた。
【0022】
図2に、タピオカ澱粉の40重量%スラリーに、澱粉の8.0重量%のプロピレンオキサイドを加え、アルカリ性下、34℃で24時間反応させた後、澱粉の0.10重量%のトリメタリン酸ナトリウムを加え、pH11、34℃で90分反応させた後中和、水洗、脱水、乾燥した2aのRVAチャートと、タピオカ澱粉の40重量%スラリーに、澱粉の0.10重量%のトリメタリン酸ナトリウムを加え、pH11、45℃で90分反応させた後、澱粉の8.0重量%のプロピレンオキサイドを加え、アルカリ性下、34℃で24時間反応させた後中和、水洗、脱水、乾燥した2bのRVAチャートを示した。RVAチャートより、2bよりも2aのほうが、ブレークダウンがなく、低粘度であったことから、より膨潤が抑制されていることが分かった。
【0023】
また、一般的にトリメタリン酸ナトリウムによるリン酸架橋反応は34℃よりも45℃のほうが効率よく反応することが知られているが、2aは反応温度が34℃にも関わらず、45℃反応の2bよりも膨潤が抑制されていた。よって、先にリン酸架橋してからエーテル化するよりも、先にエーテル化してからリン酸架橋するほうが、架橋が強くなると言えた。
【0024】
図3に、前述した1aおよび2aのRVAチャートと、タピオカ澱粉の40重量%スラリーに、澱粉の0.10重量%のトリメタリン酸ナトリウムを加え、pH11、45℃で90分反応させた後中和、水洗、脱水、乾燥した3aのRVAチャートを示した。
【0025】
モル置換率は1aが0.08、2aが0.13、3aが0.00であった。図3より、モル置換率が高いほど糊化開始温度が低くなったが、95℃保持後粘度や最終粘度(50℃)は、モル置換率が高いほど低下し、澱粉の膨潤がより抑制されていた。
【0026】
また、一般的にトリメタリン酸ナトリウムによるリン酸架橋反応は34℃よりも45℃のほうが効率よく反応することが知られているが、2aは反応温度が34℃にも関わらず、45℃反応の1aや3aよりも膨潤が抑制されていた。
【0027】
以上より、先にリン酸架橋してからエーテル化するよりも、先にエーテル化してからリン酸架橋するほうが架橋は強くなり、さらに驚くべきことに、モル置換率が高いほど架橋が強くなり、澱粉の膨潤がより抑制され、低い反応温度でも、強い架橋が得られることが明らかとなった。
【0028】
上記のように、始めにエーテル化してから架橋すると著しく架橋の効果が高くなる現象については機構が明らかではないが、最初のエーテル化によって、リン酸架橋反応時のpH11の水懸濁状態で澱粉がより膨潤し易くなった為に、澱粉粒子の内部にまで架橋剤が浸透して架橋反応が起こったことが原因ではないかと考えられる。
【実施例1】
【0029】
水750gに硫酸ナトリウム100g、ネイティブタピオカ澱粉500gを加えたスラリーを用意し、攪拌下3%水酸化ナトリウム水溶液にてpH9に調整した後、プロピレンオキサイド25.0gを加え、34℃で24時間反応した後、pH11に調整し、トリメタリン酸ナトリウム3.0gを加え、45℃で90分間反応した後、9%塩酸で中和し、水洗、脱水、乾燥して試料1aのエーテル化リン酸架橋澱粉を得た。
【実施例2】
【0030】
水750gに硫酸ナトリウム100g、ネイティブタピオカ澱粉500gを加えたスラリーを用意し、攪拌下3%水酸化ナトリウム水溶液にてpH11に調整し、トリメタリン酸ナトリウム3.0gを加え、45℃で90分間反応した後、9%塩酸でpH9に調整し、プロピレンオキサイド25.0gを加え、34℃で24時間反応した後、9%塩酸で中和し、水洗、脱水、乾燥して試料1bのエーテル化リン酸架橋澱粉を得た。
【実施例3】
【0031】
水750gに硫酸ナトリウム100g、ネイティブタピオカ澱粉500gを加えたスラリーを用意し、攪拌下3%水酸化ナトリウム水溶液にてpH9に調整した後、プロピレンオキサイド40.0gを加え、34℃で24時間反応した後、pH11に調整し、トリメタリン酸ナトリウム3.0gを加え、34℃で90分間反応した後、9%塩酸で中和し、水洗、脱水、乾燥して試料2aのエーテル化リン酸架橋澱粉を得た。
【実施例4】
【0032】
水750gに硫酸ナトリウム100g、ネイティブタピオカ澱粉500gを加えたスラリーを用意し、攪拌下3%水酸化ナトリウム水溶液にてpH11に調整し、トリメタリン酸ナトリウム3.0gを加え、45℃で90分間反応した後、9%塩酸でpH9に調整し、プロピレンオキサイド40.0gを加え、34℃で24時間反応した後、9%塩酸で中和し、水洗、脱水、乾燥して試料2bのエーテル化リン酸架橋澱粉を得た。
【実施例5】
【0033】
水750gに硫酸ナトリウム100g、ネイティブタピオカ澱粉500gを加えたスラリーを用意し、攪拌下pH11に調整し、トリメタリン酸ナトリウム3.0gを加え、45℃で90分間反応した後、9%塩酸で中和し、水洗、脱水、乾燥して試料3aのリン酸架橋澱粉を得た。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】先にエーテル化し、次いで45℃でリン酸架橋したモル置換率0.08のエーテル化リン酸架橋タピオカ澱粉と、先に45℃でリン酸架橋し、次いでエーテル化したモル置換率0.08のエーテル化リン酸架橋タピオカ澱粉のRVAチャートである。
【0035】
【図2】先にエーテル化し、次いで34℃でリン酸架橋したモル置換率0.12のエーテル化リン酸架橋タピオカ澱粉と、先に45℃でリン酸架橋し、次いでエーテル化したモル置換率0.12のエーテル化リン酸架橋タピオカ澱粉のRVAチャートである。
【0036】
【図3】先にエーテル化し、次いで45℃でリン酸架橋したモル置換率0.08のエーテル化リン酸架橋タピオカ澱粉と、先にエーテル化し、次いで34℃でリン酸架橋したモル置換率0.12のエーテル化リン酸架橋タピオカ澱粉と、45℃でリン酸架橋したタピオカ澱粉のRVAチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉の水懸濁液にエーテル化剤を加えて澱粉エーテルを得る工程と該澱粉エーテルをpH10.0〜11.5に調整した後にリン酸架橋剤を加える工程を有することを特徴とする膨潤抑制澱粉。
【請求項2】
エーテル化剤がプロピレンオキサイドであることを特徴とする請求項1記載の膨潤抑制澱粉。
【請求項3】
リン酸架橋剤がトリメタリン酸ナトリウムまたはオキシ塩化リンであることを特徴とする請求項1および2記載の膨潤抑制澱粉。
【請求項4】
請求項1〜3記載の膨潤抑制澱粉の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−282785(P2006−282785A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102725(P2005−102725)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000231453)日本食品化工株式会社 (68)
【Fターム(参考)】